周産期母子医療センター(出産の前後を通し、産科と新生児科で連携した医療体制のとれる病院)を舞台に、医師や妊婦の喜びと悲しみ、生命の誕生の素晴らしさや難しさを描く医療ヒューマンドラマ『コウノドリ』(TBS系)。
白川が転機を迎える第8話は視聴率12.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と着実にアップ。前回の終盤、BABYのライブ会場に突如現れた四宮(星野源)の真意とは……?
■BABYの正体を知っていた!
「やっぱり四宮にはバレてたか、僕がBABYだってこと」
ライブ後に訪れてきた四宮に、鴻鳥(綾野剛)がそう語る、いきなりの展開。
しかし前シーズンでは重要なポイントであった「鴻鳥が人気ピアニストBABYである」という設定は、今回あまり意味を持たなくなってきており、特に影響もなく話は進む。
今回、四宮が訪ねて来たのは、大学から早期胎盤剥離防止の研究に誘われており、それに専念すべきか? という相談のため。
実はすでに研究を手伝っているのだが、鴻鳥はそれを知っていたようで、そのことに今度は四宮が驚く。しかしよくお互いを知っている2人だ。
四宮は以前早期胎盤剥離の手術中に妊婦を亡くし、さらにその子どもも脳性まひになってしまった、つらい過去がある。もはや家族も面会に来ない、眠り続ける子どもに、毎夜本を読んであげるなど、責任を感じていた四宮だったが、結局その子も息を引き取ってしまった(前シリーズ・9話)。
そんな四宮が早期胎盤剥離防止の研究に参加していることは、間近で苦悩する姿(治してあげたかったと自分を責めるように号泣)を見ていた鴻鳥にとって、なんの不思議もないのだろう。
人手不足のペルソナ産科を離れることを躊躇する四宮に、鴻鳥は「関係ない。自分で選択するべきだ。自分の行くべき道を」と背中を押す。四宮も鴻鳥にそう言われたくて、わざわざ来たのかもしれない。
そんな中、四宮の父親が倒れたとの連絡が。
■四宮の里帰り
急遽、故郷の石川・能登へ飛んだ四宮だったが、そこで目にしたのは病を押して妊婦の診察をする父・晃志郎(塩見三省)の姿。四宮の父も産科医だ。
しかもステージ4の肺がんなのに「仕事を続けながら治療をすればいい」と言い張り、すぐ治療に専念させたい四宮を突っぱねる。
「俺はこの街を、子どもが産めない街にはさせない」と産科医不足の街のために踏ん張りたい晃志郎に、「だったら、生きろよ!」と複雑な思いをぶつける四宮。食卓には輪島塗が並んでいる。
結局「この街のお産を守ることが使命だと思っている。だから最後までやらせてくれ」という晃志郎の強い意志の前に「……勝手にすればいいよ」としか四宮が言えなかったのは、彼が息子であるのと同時に、現場に生きる同じ産科医だからなのだろう。能登の曇った空が、静かに葛藤する四宮の心情とよくマッチしていた。
ちなみに「だったら生きろよ!」という台詞は、台本では「だったら治療しろよ」だったのが、星野の案で強い言葉したいと変更されたらしく(公式HPのインタビュー)、より血の通ったシーンとなっている。
■今週の鴻鳥と四宮
ライブハウスで、なぜか結婚の話題となり、
「僕たちもいつかそんな日が来るかもしれないね(笑)」
「言っておくがスピーチだけはごめんだからな」
「安心して? 四宮には絶対頼まないから(笑)。その代わり余興でお嫁サンバを…」
「絶対やらないぞ!」
という謎の乳繰り合いがあり、先週に引き続き、対立もなく異様な仲の良さを見せつけてくれた。
また、四宮が「ピアノって魔法みたいだな」と呟き、慣れなさそうに鍵盤を一つだけ叩くその姿に「もっと弾いてえええ」と思ったファンの方も多いだろう。
今放送中のドラマ『民衆の敵』(フジテレビ系)の中で、篠原涼子演じる市議がカラオケで「恋しさと切なさと心強さと」を選曲してるのに、邪魔が入って結局一言も歌えない(歌わない)というシーンのヤキモキさを思い出す。
■天狗と化した白川
前回から、医師として力をつけるにつれ自信過剰になっている新生児科医・白川(坂口健太郎)問題。「上を目指す」ことに取り憑かれたような姿は、救命科に移った同期の下屋(松岡茉優)が「患者が助かれば十分」と患者本位であるのに対し、白川のそれは評価されることに酔った自分本位と言える。
そんなある日、白川は産後間もない子どもを新生児遷延性肺高血圧症(肺に血液が流れにくくなり血流中の酸素が不足する病気)と診断、肺に一酸化窒素を流す治療を開始する。
だが、親である風間夫妻(高橋努・芦名星)への説明に、自分の力を誇示する様子が。過剰な自信により自分の考えに固執するその姿に、同じような時期に天狗になりかけた経験のある鴻鳥や今橋(大森南朋)も不安を感じており、危なっかしい。
その後、数日しても一向に治療の効果が見えないので、研修医の赤西(宮沢氷魚)が「本当に肺高血圧なんですかね?」と違和感を口にしたり、看護師の麻生(古畑星夏)も「今橋先生に相談した方が……」と持ちかけるも、白川は「その必要はない!」と聞く耳をもたない。
しかしあくる日、レントゲンに写る子どもの肺が白くなる事態が発生。麻生が独断で呼んだ今橋の診断により、総肺静脈還流異常症という先天性の心臓病(肺静脈が本来行くべき左心室以外に流れてしまう)であることが発覚する。
■懐かしいあの人が!
「それって医療ミスですよね!?」
間違った治療をされていたことに激昂する風間(夫)。
動揺する白川に代わり、今橋がよその病院に搬送して緊急手術をする必要がある旨を伝える。
だが、気まずさゆえ搬送車内の付き添いを他の医師に頼もうとする白川に、今度は今橋が声を荒らげる。
「責任を持って最後まで見届けなさい!」
「君は過ちを犯した。自分の実力を過信して赤ちゃんの命を危険にさらしたんだ。自分の過ちから逃げるんじゃない」
重苦しい空気の搬送車で向った講談医大でも、引き継ぎの医師にそっけなく言われた言葉が白川に刺さる。
「あとはこちらでなんとかしますから、もう帰っていいですよ」
帰り際、ベンチで手術終了を待つ不安げな風間夫妻の姿が目に入るが、白川は逃げるように迂回してしまう。
そんなズタボロの白川に声をかけてきたのは、以前同じ新生児科で「鉄の女」と呼ばれていた先輩医師・新井(山口紗弥加)だった。
新井もかつて、気負いすぎ視野が狭くなったあげく、つまずき打ちのめされ、燃え尽きてペルソナから消えてしまった過去がある(前シーズン・9話)。
今は講談医大の小児科で働きつつ、NICU(新生児集中治療室)を卒業した子どもらを外来で診ているという新井は、現場から離れていた半年間「ペルソナにほっぽり出してきた赤ちゃんのこと」が頭から離れなかったとの苦い体験を語り、「そろそろ帰んなよ? 赤ちゃんたちがあんたのこと待ってるよ」と、かつての後輩の尻を叩く。
おそらく今の白川に声をかけるのに、彼女ほどの適任はいないだろう。
前シリーズ・9話でこんなことがあった。
一人で抱え込み過ぎている新井に「休んでください」と声をかけた当時研修医の白川。だが、バーンアウト寸前の新井は「いいってば! 白川先生に任せられない!」と突っぱね、白川をむっとさせてしまう。
2人は、2年前のあの日のことを思い出していたのだろうか。そして白川は、後輩に強く当たりちらす今の自分をどう思っただろうか。
■強化された「救い」
少し驚いたのは、原作コミックでは新井との出会いが全くの偶然として描かれているのだが、ドラマでは鴻鳥がこっそり新井に連絡をしていて、白川に声をかけて欲しいと段取りをしていたという点だ。これはドラマ、原作、それぞれによさがあると思う。
ドラマの「段取り」パターンでは、まず、あんな消え方をした新井と鴻鳥が今も連絡を取っていたんだ、という「救い」があるし、「みんな新井先生に会いたがってますよ」「私もみんなに会いたいな」という通話の内容から、双方が気にしており今後また会うかもしれないんだな、という「救い」も見て取れる(鴻鳥の言葉は気遣いの可能性もあるが)。
そして、原作では確認できなかった結婚指輪らしきものが新井の左手に光っていたのも「救い」だ。もちろん段取りを仕掛けた鴻鳥は主人公として株が上がるし、出会いの整合性や辻褄的にも、こっちの方が説得力があるだろう。
それに対し原作の「偶然」パターンは、ドライだ。
その後の新井と誰も連絡を取っている様子はなかったし、新井が婚約者とどうなったのかもわからないままだ。今後もペルソナ一派と関わることはないのかもしれない。それがシビアな現実なのかもしれない。
しかし、だからこそ、失意の白川と、かつて同じ失意の底にいた新井が、何の手筈もなく偶然出会い、会話する中で共に救われるという奇跡はこちらの方が強烈に輝く。
頼まれて探し出し励ますのと、無視することもできたであろう、たまたま見かけた後輩に声をかけ、過去の自分と似た境遇なのを知って自発的に励ますのとでは、励ます側の振りかぶり方が違うはずだ。
後日ペルソナで、白川が再度、風間夫妻に遭遇するシーン。
ここも原作ではお互い気まずそうな会釈程度で厳しい現実を見せるのに対し、ドラマでは白川に「力及ばず申し訳ありませんでした」としっかり頭を下げさせ、風間妻も「白川先生、お世話になりました」とぎこちないながらも向き合って挨拶させるなどの「救い」をいれている(旦那は仏頂顔)。
どちらがいいというわけではないが、原作は実際あるのであろう厳しさをしっかりと描き、ドラマは視聴者の後味が悪くならないよう強めに配慮をいれているのだろう。
ちなみに新井が仕事から離れていた間によく行っていたと白川に語った温泉や魚釣りというのは、山口自身の本当の趣味だ。
■どんどんレギュラーがいなくなる?
屋上にて、いつものように下屋に軽口をたたく白川だが、唐突にペルソナをやめる決意を告げる。
患者に寄り添う気持ちをなくしていたと反省を口にし、「どんな小さな命にももっといい未来を届ける」ため、よその小児循環器科(おそらくペルソナにはない)で研修を受けたいと語る。
「上を目指す」のではなく「先を目指す」と語るその気持ちは、下屋が救命科に転科するのを志願した気持ちと同じだろう。
研修先が決まるまではいるようだが、しかし今後白川が出ていき、下屋も転科していて、これで四宮までいなくなったら、ドラマ的にはだいぶ寂しくなってしまいそうなのだが、これはシーズン3でまた結集するための布石なのだろうか?
ここまでメンバーが散り散りになると、何年か経ってそれぞれ新たな能力を手にいれた手練の医師たちが一堂に会す、再開後の『ONE PIECE』(集英社)のような展開を期待してしまう。
今回のラスト、ペルソナに戻った四宮のもとに、晃志郎から「一日一生」という書が届けられる。四宮はどんな決断をするのか。再度、晃志郎が倒れる次週も見逃せない。
(文=柿田太郎)