ある放送作家から、こんな言葉を聞いたことがある。
「ネタが面白いのは当たり前。それはあくまで名刺代わりで、そこから芸人は自分自身の面白さを示していかなければならない」
『M-1グランプリ』や『キングオブコント』といった大きな賞レースで結果を残しても、決して安心できない。むしろ、そこからがスタートライン。優勝したものの、儚くも消えていった芸人たちが何人いるだろうか。
2017年の『M-1グランプリ』は、とろサーモンが優勝した。元から芸人間の評価は高かったコンビだ。昨年末からオファー殺到のバラエティ番組では、次々に結果と爪跡を残している。
キレのあるツッコミと整った容姿で評価の高い村田秀亮がいて、クズで天才肌の久保田かずのぶがいる。「面白い芸人はいつか売れる」のジンクスを地で行く、苦労人の2人だ。
■相方・村田が久保田のペースにこぼす。「俺は常人なんで……」
3月28日に放送された『脳内解析ドキュメンタリー異脳の人』(フジテレビ系)が、久保田を特集した。
ルミネtheよしもとの出番前、楽屋で睡眠をむさぼる久保田。寝る暇もない彼の現在の体調を表している。村田とネタ合わせする素振りは全くない。それどころか、劇場入りしてから一度も村田と会話を交わしていなかった。
スタッフ 今日、やることは決まってるんですか?
久保田 舞台で決める、基本。
事実、彼らは出番直前の舞台袖でネタを決めている。漫才終了後、出来を聞かれた久保田は、こう返答する。
「出来とか、もうないです(笑)。想定内の笑いなので、それ以外の刺激を得るために変なことを言う。前半は全部アドリブです」(久保田)
決まっているのは、話の大筋のみ。細かい部分は久保田の即興次第となり、舞台上で村田は「今、ネタ作んなよ。やめろ、ドキドキすんねん」とツッコミを入れている。舞台を降りた後、番組スタッフは村田に心境を尋ねた。
「同業者が言ってきますね、『大変でしょう』って。稽古もほとんどしないですね。僕はネタ合わせしたいんですけど、一回やったらアイツ飽きるんで」
「『こういう風にボケるから、こうやって言ってくれたらええから』って、出番10秒前で新ネタ言ってきたりするんですよ。アイツの中ではできてるんです。で、『もちろん、お前もできるやろ?』って考え方で僕にも言ってくるんで。俺はもう、常人ですから……」(村田)
■久保田の脳を分析した脳科学者が「頭のいい人」と断言
村田は自分のことを「常人」と評したが、番組は久保田の天才性に注目している。
まずは、舞台でアドリブを多用し、刺激を得ようとする彼の志向について。これは、久保田の脳の構造が影響しているらしい。解説するのは、脳科学者の中野信子だ。
「ドーパミンという“脳のガソリン”みたいな物質がいっぱい出てそうな感じです。ドーパミンが必要な脳で、『もっと来いよ、刺激!』みたいに思っちゃって。新しいと思うことがないと満たされにくいだろうと思います」(中野)
要するに、久保田はルーティンがガマンできない。作り込み、きっちり仕上げる漫才が彼の中では有り得ないのだ。
「アドリブも言わずに、ずーっと何十年も漫才やってる奴は、基本、バカが多いですね」(久保田)
ちなみに、とろサーモンの漫才を作っているのは完全に久保田の方。彼のネタ作りは独特で、決して書き起こさない。台本には「はいどうも 石やきいも→ぶつかる→変な声→すいません」と、断片的な7~8のタイトルが羅列するのみであった。
「セリフはその場その場で変えていくから。書いていく意味がないと僕は思ってるから」(久保田)
これも、久保田の脳が大きく影響している。脳には情報を一時的に記憶・処理する「ワーキングメモリ」という能力があり、その容量は7つ前後とされている。
「ワーキングメモリっていうのは、脳の中にあるまな板みたいな場所です。その作業場にいっぱい物を置いておける人だと感じます。いわゆる、“頭のいい人”ということになるんですよ」(中野)
■「教祖の資質がある」と科学的に裏打ちされた久保田の脳
番組は久保田の唾液を採取してDNAを検査、彼の脳の傾向を分析した。結果、IQのみは人並みであった。だが、それ以外の「記憶力」「論理的思考力」「注意力」「音楽能力」は極めて高い結果になっている。
続いて久保田の感性だが、「協調性」と「社会性」が極めて低い。人と人との絆をつなぐホルモン「オキシトシン」を感じにくい傾向にあるのが彼の感性だ。良く言えば究極の“我が道を行くタイプ”だが、サイコパスになる危険性も孕んでいる。
「もちろん、犯罪を起こさない人たちもいます。その人たちは、カリスマ的な指導者になるんですよ。企業のCEOにその傾向があって、スティーブ・ジョブズはそうですよね」(中野)
最終的に、中野は久保田の脳を「アドリブ教祖脳」と名付けた。
「他の人ができないスピードで言葉を紡いでいく。その言葉によって、なぜか聞いている人が洗脳されてちゃうっていう“教祖脳”です」(中野)
確かに、とろサーモンは極端に好き嫌いが分かれるコンビだ。好きな人は熱狂的に好きだけれど、受け入れられない人は徹底的に彼らを毛嫌っている。
科学者の見立てによると、久保田には教祖の資質があるという。個人的にはオキシトシンを感じぬまま、我が道を行ってほしいと願うばかり。これは科学的根拠に裏付けされた、とろサーモンへのエールだ。
(文=寺西ジャジューカ)