快進撃を続ける園子温最新作『新宿スワン』 綾野剛が“へタレ三枚目”に初挑戦!

swan0529.jpg
(C)2015「新宿スワン」製作委員会
 今週取り上げる最新映画は、歌舞伎町の裏社会に生きる男たちのサバイバルを描く邦画と、米大学のアカペラ部で全国大会を目指す女子大生らのハーモニーが響くハリウッド作品。舞台は異なるが、いずれも本気の勝負と熱い絆で成長する主人公の成長ぶりが見どころの痛快作だ。  『新宿スワン』(5月30日公開)は、「ヤングマガジン」(集英社)で8年間連載された和久井健の同名人気漫画を、『地獄でなぜ悪い』(2013年)の鬼才・園子温監督が実写映画化した作品。一文無しで歌舞伎町にやって来た白鳥龍彦(綾野剛)は、窮地をスカウト会社バースト幹部の真虎(伊勢谷友介)に助けられた縁で、新人スカウトマンとして働き始める。借金を背負った風俗嬢アゲハ(沢尻エリカ)との出会いや、過去の因縁から敵対するスカウトマン秀吉(山田孝之)の思惑が、龍彦を過酷な試練へと導いてゆく。  バイオレンスとエロスの表現を追求し快進撃を続け、2015年は実に5作品の公開を予定している園監督。今年第1弾となる本作では、原作漫画の世界観を尊重しながらも、歌舞伎町の華やかさと猥雑さ、裏社会の男たちの熾烈な戦いを持ち前のエネルギッシュな演出で鮮やかに描く。クールな二枚目役が多い綾野だが、今回はヘタレな三枚目から経験を積んで「男を上げる」設定のため、前半では珍しくヘン顔にも挑戦。スリリングな駆け引きと激しい死闘を繰り広げる男優陣に、沢尻のほか山田優、真野恵里菜ら女優陣もそれぞれの持ち味で魅せる。  『ピッチ・パーフェクト』(公開中)は、『マイレージ、マイライフ』(09年)、『イントゥ・ザ・ウッズ』(14年)のアナ・ケンドリックが主演したコミカルな音楽青春ムービー。音楽プロデューサーを夢見るベッカは、父親に説得され仕方なく入学した大学で、歌唱力を買われて女性アカペラ部に入部する。仕切りたがり屋の部長のもと、個性豊かだが協調性のない部員たちと全国大会を目指すことになったベッカは、周囲と衝突したり騒動を起こしたりする中で友情を知り、成長していく。  日本でも大人気のドラマ『glee』シリーズと同様、学校の落ちこぼれ軍団が音楽を通して団結し、迫力のボーカルと美しいコーラス、華麗なステージパフォーマンスで輝くという大筋。ブロードウェイミュージカルの演出家としてキャリアを築いたジェイソン・ムーアが本作で監督デビューし、主演のケンドリックも12歳のときミュージカルでデビューした筋金入りの歌姫といった具合に、音楽とパフォーマンスへのこだわりは別格だ。一方で、『バチェロレッテ あの子が結婚するなんて!』(12年)のレベル・ウィルソン扮する「ふとっちょエイミー」の自虐ギャグや、ゲロ、エロなどの下ネタで笑いも満載。続編『ピッチ・パーフェクト2』が早くも今月全米公開され、同日公開の超大作『マッドマックス 怒りのデスロード』に大差をつけて週末興収1位となったことも話題だ。gleeファンをはじめ、音楽映画好きに強くオススメしたい傑作だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『新宿スワン』作品情報 http://eiga.com/movie/80344/ 『ピッチ・パーフェクト』作品情報 http://eiga.com/movie/77562/

“ハリウッド的”ハッピーエンドへのアンチテーゼか 『第9地区』監督の最新作『チャッピー』

chappy0522-1.jpg
(C) Chappie -Photos By STEPHANIE BLOMKAMP
 今週取り上げる最新映画は、クオリティの高い視覚効果を駆使して近未来を描くハリウッド製のSF超大作2本。愛着を覚えてしまうほどリアルな存在感が魅力のAIロボットか、圧倒的な迫力で動く巨大迷路か。映画館の大スクリーンで最先端の映像表現とスリリングなストーリーを堪能したい2作品だ。  『チャッピー』(5月23日公開)は、『第9地区』(2009年)、『エリジウム』(13年)のニール・ブロムカンプ監督がオリジナル脚本で臨むSFアクションドラマ。南アフリカのヨハネスブルグで2016年、テトラバール社が開発した警察ロボットが配備され、治安維持に貢献していた。同社の天才科学者ディオン(デーブ・パテル)は、独自に開発した人工知能(AI)を廃棄予定のロボットにインストールしようとする。だがロボットを車で運び出した直後、2人組のストリートギャングに誘拐されてしまう。AIを搭載し起動したロボットは、2人からチャッピーと名付けられ、ギャングとしての生き方を学び、成長していく。やがて、ディオンの同僚でAIを危険視するヴィンセント(ヒュー・ジャックマン)からチャッピーのことを知られ、チャッピーとディオンは追い詰められていく。  南ア出身のブロムカンプ監督が、『第9地区』と同様にアパルトヘイト政策の記憶が残るヨハネスブルグを舞台に設定し、「人類とAIロボットの共存は可能か?」という問いを投げかける。警察ロボットや遠隔操作の大型ロボットがまさに実在するかのような、リアルな視覚効果とアクション演出が抜群だ。『第9地区』で主演したシャルト・コプリーが、モーションキャプチャーでチャッピーを好演。日本のアニメや漫画に影響を受けたことを公言する監督が自ら手がけたチャッピーのデザインが、『機動警察パトレイバー』のイングラムにそっくりなのも話題だ。ブロムカンプ作品に共通する、ハリウッド的ハッピーエンドへのアンチテーゼとも言える衝撃のラストを、ぜひ劇場で確かめていただきたい。  『メイズ・ランナー』(5月22日公開)は、謎の巨大迷路に閉じ込められた若者たちのサバイバルを描く3部作の第1章。記憶を失った少年トーマスがリフトで運ばれてきたのは、高い壁で囲まれた「グレード」と呼ばれる区域。そこには月に1度、同じような若者が生活物資と共に送り込まれ、共同生活を送っていた。グレードの周囲は巨大な迷路になっていて、その構造は夜のうちに変化してしまう。トーマスと若者たちは、迷路の秘密を解いて脱出しようと試みる。  原作は、全米で160万部を売り上げたジェイムズ・ダシュナーのヤングアダルト小説。先行するYA小説原作の『ハンガー・ゲーム』(12年~)、『ダイバージェント』(14年~)両シリーズと同様、近未来のディストピアで奮闘する若者たちを描くが、本作は世界そのものが謎に包まれている点が大きな特徴。観客も登場人物たちに同化し、迷路とその外側の秘密を少しずつ解き明かしていくという趣向だ。孤島などでサバイバルする出演者たちの悪戦苦闘ぶりを楽しむリアリティー番組を思わせ、傑作ホラーの『キューブ』(98年)、『キャビン』(12年)のような仕掛けも。若い頃のケビン・ベーコンに似た主演ディラン・オブライエンをはじめ、日本では知名度の低い主要キャストだが、今後彼らの人気が上昇したら第2部、第3部と盛り上がりそうだ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『チャッピー』作品情報 http://eiga.com/movie/81798/ 『メイズ・ランナー』作品情報 http://eiga.com/movie/80980/

カメオ出演にも注目! 鬼才テリー・ギリアムが描く、近未来SF『ゼロの未来』

zeromirai.jpg
(C) 2013 ASIA & EUROPE PRODUCTIONS S.A. ALL RIGHTS RESERVED.
 今週取り上げる最新映画は、鬼才テリー・ギリアム監督による待望の近未来SFドラマと、リーアム・ニーソン主演のサスペンスアクション。魅力あふれる世界観やスピーディーな活劇はもちろん、名優たちが演じるキャラクターの生き様も味わい深い2作品だ(いずれも5月16日公開)。  『ゼロの未来』は、『未来世紀ブラジル』(1986年)のテリー・ギリアム監督が、『イングロリアス・バスターズ』(09年)のクリストフ・ワルツ主演で描いた近未来SF。世界をコンピューターで支配する大企業に勤める天才プログラマーのコーエンは、人生の意味を教えてくれる電話がかかってくるのを待つため、経営者に在宅勤務を願い出る。住居兼用の荒廃した教会で、謎めいた「ゼロの定理」の解読を任されたコーエンだったが、待ち望む電話は鳴らず、仕事にも行き詰まってコンピューターを壊してしまう。そんなとき、パーティーで出会った魅力的な女性ベインズリーと、経営者の息子ボブが相次いで教会に現れ、コーエンの孤独な生活に変化が訪れる。  伝説的なコメディ集団モンティ・パイソンのメンバーとして開花させたギリアムのシニカルなユーモアは、長編監督作としては『Dr.パルナサスの鏡』(10年)以来4年ぶりとなる本作でも健在。初来日時にカルチャーショックを受けたという秋葉原の騒音と映像のカオスぶりを未来都市の風景に反映させたほか、歩く主人公をしつこく追いかける動画広告、ネット経由のバーチャルデートなどもコミカルに描き、ハイテク依存を強める現代社会の行く末にブラックな笑いで警鐘を鳴らす。アカデミー助演男優賞を2度受賞したワルツが、悩める天才の葛藤と精神的成長を味わい深い演技で体現。ベインズリー役のフランス人女優メラニー・ティエリーも、聖俗併せ持つピュアでセクシーな魅力が混沌とした舞台に映える。カメオ出演ながらマット・デイモン、ティルダ・スウィントンも印象的なキャラクターで世界観の構築に貢献した。  『ラン・オールナイト』(R15+指定)は、『アンノウン』(11年)、『フライト・ゲーム』(14年)に続き、主演のリーアム・ニーソンとジャウム・コレット=セラ監督が3度目のタッグを組んだクライムアクション。ニューヨークを牛耳るマフィアの殺し屋ジミーは、家族をかえりみず、息子マイクとも疎遠になっていた。だがある夜、命を狙われたマイクを救うため、マフィアのボスで30年来の親友でもあるショーンの息子を射殺してしまう。ジミーとマイクは、復讐に燃えるショーンの組織と汚職警官らから追われる身となり、逃走劇を繰り広げる。  元CIA工作員に扮した『96時間』シリーズの大ヒット以来、すっかり「無敵の中年オヤジ」キャラが定着したニーソン。セラ監督とのコラボでも、前2作と同様、絶体絶命のピンチを巧みに切り抜け、迫り来る敵をバッタバッタと倒すノンストップアクションに体を張った。カーチェイスと銃撃戦の派手さだけでなく、ジミーとマイク、エド・ハリス扮するショーンとその息子、2組の親子の愛憎も効果的に描かれ、裏社会に生きる男たちの悲哀がしみる。ニーソンとハリスの名優同士による、西部劇の決闘のようなラストの対決まで、刺激的な場面の連続に目が離せない。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ゼロの未来』作品情報 <http://eiga.com/movie/81428/> 『ラン・オールナイト』作品情報 <http://eiga.com/movie/79809/>

江戸時代の風俗と人情を描いた2作『駆込み女と駆出し男』『百日紅 Miss HOKUSAI』

1_sarusuberi_main.jpg
(C)2014-2015 杉浦日向子・MS.HS/「百日紅」製作委員会
 今週取り上げる最新映画は、江戸時代の風俗と人情を、豊かな季節感とともに描き出す2作品。実写とアニメという表現手法の違いこそあれど、時代を超える普遍的な価値と「思い」を現代に伝えようという気概が伝わる意欲作たちだ。  『駆込み女と駆出し男』(5月16日公開)は、井上ひさしの時代小説『東慶寺花だより』を原案に、『わが母の記』(2012年)の原田眞人監督が初めて手がけた時代劇。鎌倉の東慶寺は江戸時代、幕府公認の駆け込み寺として、離縁を求める多くの女たちを受け入れた。駆け込みの前に聞き取り調査を行う御用宿・柏屋で、主の源兵衛とともに、駆出しの医者で戯作者にも憧れる信次郎(大泉洋)は、鉄練りのじょご(戸田恵梨香)や豪商の愛人お吟(満島ひかり)の再出発を助けることになる。  芯の強さと向上心を秘めたじょご、繊細で愛情深いお吟、2人の対照的なヒロインを戸田と満島が熱演。大泉の軽妙なセリフ回しも作品世界にぴったりはまった。脇を固める樹木希林、堤真一、武田真治、山崎努らの演技も味わい深い。ロケ地となった姫路市の書写山円教寺は、原田監督が12年前に『ラスト サムライ』(03年)のロケで出会い、「いつかここで時代劇を」と誓った場所。歴史が刻まれた境内の建築や周囲の景観が映像に風格を添え、見応えある人情絵巻に仕上がった。  『百日紅 Miss HOKUSAI』(5月9日公開)は、漫画家で江戸風俗研究家でもあった杉浦日向子が昭和後期に発表した代表作『百日紅』を、『カラフル』(10)の原恵一監督がアニメ映画化した作品。江戸の町に暮らす葛飾北斎の三女・お栄は、父親と同じ浮世絵師として、美人画などで才能を発揮していた。そんなお栄の視点から、北斎の創作をめぐる逸話や、オンボロ長屋での風変わりな共同生活、自身の絵師としての試練と不器用な恋が語られる。  アニメーション制作は、原監督作では初となるProduction I.Gが担当。原作漫画と浮世絵の豊穣な世界を2Dアニメで再現しつつ、街並みや建物などにはパースペクティブを強調した3D描画を織り込んだ。穏やかな川面がにわかに荒れて、有名な北斎画『神奈川沖浪裏』の逆巻く波になるなど、アニメならではのダイナミックな表現が楽しい。主な登場人物の声は、杏、松重豊、濱田岳、高良健吾ら豪華俳優陣が担当している。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『駆込み女と駆出し男』作品情報 http://eiga.com/movie/80976/ 『百日紅 Miss HOKUSAI』作品情報 http://eiga.com/movie/80339/

平均年齢72歳のベテラン俳優陣が大暴れ!『龍三と七人の子分たち』

JP-photomain1-RYU.jpg
(C)2015「龍三と七人の子分たち」製作委員会
 今週取り上げる最新映画は、日本のみならず世界から高く評価される2人の天才監督、北野武と押井守が放つ話題作2本。コメディと近未来SFアクション、作風は大きく異なるが、虚構の物語を通じて現代の日本のあり方を問いかける姿勢は共通している。  『龍三と七人の子分たち』(4月25日公開)は、北野武監督が脚本も手がけ、元ヤクザの高齢者たちが巻き起こす騒動をコミカルに描いた作品。70歳の龍三(藤竜也)はかつてヤクザの組長だったが、引退した現在は息子夫婦の家に身を寄せ、肩身の狭い思いで暮らしていた。ある日、オレオレ詐欺に引っかかった龍三は、詐欺や悪徳訪問販売で稼ぐ組織を成敗しようと、昔の仲間を呼び寄せて決起する。  北野組初参加の藤をはじめ、近藤正臣、中尾彬、小野寺昭ら主要キャスト8人のベテラン俳優陣は平均年齢72歳。任侠心こそ昔のままだが体は老い、世間ズレした「やんちゃジジイ」たちをユーモラスに演じた。露店の並ぶ狭い商店街を路線バスが暴走する迫力満点のシーンでも、実際にバスに乗り込み、楽しみながらロケに臨んだ様子が伝わってくる。オレオレ詐欺や食品偽装といった現代社会の問題も取り込みつつ、監督が描き続けてきたヤクザの義理人情と抗争を、喜劇のスタイルで再構築。バイオレンスを笑いで包む、今までにない北野映画となった。  『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』(5月1日公開)は、人気アニメ『機動警察パトレイバー』を実写化したドラマ『THE NEXT GENERATION パトレイバー』の長編劇場版。レイバーと呼ばれる人間型ロボットが普及した「もう一つの日本」で、お台場のレインボーブリッジが爆破される。この事件は、数日前に陸上自衛隊の演習場から強奪された戦闘ヘリコプター「グレイゴースト」を利用したテロと判明。最新鋭のステルス機能と強力な火器を搭載するグレイゴーストは、警察と公安の部隊、さらには自衛隊の戦闘ヘリをも圧倒する。いまや最後の砦となった警察用レイバーを擁する特車二課の隊員たちは、テロから首都を守るべく、グレイゴーストとの決戦に臨む。  監督・脚本は、同シリーズと四半世紀以上の付き合いになる押井守。漫画・アニメから派生した実写プロジェクトの目玉はなんと言っても、全高8メートルのリアル「パトレイバー」を制作し、実景の中に屹立させたことだろう。アクションシーンではCGモデルが描画されるが、実機とCGモデルの質感を統一し、重厚な存在感とスピーディーな躍動感を見事に両立させた。真野恵里菜、福士誠治ら若手キャストの中では、太田莉菜が軽快な身のこなしと目力で特に印象的。押井監督がこだわる世界観は、シリーズの過去作を未見の人には十分に理解できない部分もあるが、本作を入口に歴代の傑作をたどる楽しみ方もアリだろう。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『龍三と七人の子分たち』作品情報 <http://eiga.com/movie/81333/> 『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』作品情報 <http://eiga.com/movie/79683/>

オスカー獲り損ねたマイケル・キートンの名演が光る!『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』

main_02_BM_04337_04342_R2.jpg
(C)2014 Twentieth Century Fox
 今週取り上げる最新映画は、ブロードウェイ舞台で再起を図る落ち目の映画俳優の苦闘を虚実織り交ぜた映像で描くアカデミー賞4部門受賞作と、中学生が前代未聞の学校内裁判を敢行する話題作の後編。どちらも興味深いテーマに、見応え十分の演技、緻密な演出が相まって、別格の観賞体験をもたらしてくれる充実作だ。  『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(公開中)は、『バベル』のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督がマイケル・キートン主演で描くシニカルなコメディドラマ。かつてスーパーヒーロー映画『バードマン』の主役で人気を博しながらも、いまやすっかり落ち目の俳優リーガン(キートン)は、自ら資金を投じたブロードウェイの舞台で再起を図る。レイモンド・カーバーの短編小説『愛について語るときに我々の語ること』を脚色し演出も主演も兼ねて、稽古も大詰めというとき、共演者が大ケガをして降板。代役に迎えたマイク(エドワード・ノートン)の卓越した才能におびやかされ、リーガンは精神的に追い詰められていく。  フィクションではあれど、演劇界と映画界の実情を皮肉たっぷりに描く内幕物。『バットマン』(1989年)で主演し、近年ぱっとしなかったキートンが本作の主役を演じることが、虚構と現実の境界をあいまいにする最初の「装置」として機能している。凝った編集により全編が長回しに見えるリーガンの主観的映像で、現実世界に妄想がシームレスに描き込まれ、主人公の内面の混迷と高揚を観客にリアルタイムで体験させる仕掛けだ。ザック・ガリフィアナキス、エマ・ストーンらを交えたアンサンブルも見応えあり。今年の第87回アカデミー賞では作品賞、監督賞を含む4部門を受賞。映画ファンなら必見の傑作で、今後の映像作品に大きな影響を与えるであろう刺激と創造性に満ちた1本だ。  『ソロモンの偽証 後篇・裁判』(4月11日公開)は、宮部みゆきの長編ミステリー『ソロモンの偽証』を、『八日目の蝉』の成島出監督が映画化した2部作の後編。男子生徒・卓也の死から続く事件と騒動に揺れる城東第三中学校で、生徒たちの手で真相を解明することを目指す学校内裁判が始まる。校内裁判を提案した涼子は検事として、告発状で卓也殺害の嫌疑をかけられた被告・俊次の有罪を立証しようとする。一方、卓也の友人という他校生・和彦は俊次の弁護人となり、涼子と対峙。参考人たちの証言から、それまで警察やマスコミの調べでは分からなかった真相が徐々に浮かび上がる。  『前篇・事件』では、校内裁判がスタートする前に「おあずけ」状態で終わってしまったが、ようやく“メインイベント”が開始。いざふたを開けてみると、期待を超えるスリリングな応酬と衝撃の展開に引き込まれる。役名と同じ芸名で女優デビューを飾った藤野涼子が、前編に続き新人とは思えない安定した演技で論戦を主導。ハマリすぎなほどぴったりな「涼子」役のイメージを、今後の出演作で払拭し成長できるかも含め、将来の活躍が楽しみな逸材だ。生徒たちの裁判が現実の法廷を模しているように、学校内のいじめもまた大人社会の人間関係を写す鏡であることを、あらためて突きつける意図も見逃せない。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』作品情報 <http://eiga.com/movie/81227/> 『ソロモンの偽証 後篇・裁判』作品情報 <http://eiga.com/movie/79922/>

「Iターンドラマ」ブーム来たる!? 松尾スズキ×松田龍平『ジヌよさらば かむろば村へ』

jinu.jpg
(C)2015 いがらしみきお・小学館/『ジヌよさらば~かむろば村へ~』製作委員会
 今週取り上げる最新映画は、演劇・映画・テレビとマルチに活躍する松尾スズキの監督作品と、10代の新進女優2人が映画初主演を飾るフレッシュな感動作(いずれも4月4日公開)。東京で挫折を経験した主人公が地方の村で再起を図るのが共通点で、くしくも今週始まったNHK朝ドラ『まれ』も、東京で自己破産した主人公一家が能登で生活を立て直す話。この春、ちょっとした「Iターンドラマ」のブームが来ているのかも!?  『ジヌよさらば かむろば村へ』は、いがらしみきおの人気コミック『かむろば村へ』(小学館刊)を原作に、松尾スズキ監督、松田龍平主演で実写化したコメディ。銀行員時代の過酷な体験が原因で「お金恐怖症」になり、東京から東北の寒村・かむろば村に移住した武晴(松田)は、お金を1円も使わない自給自足の生活を始める。無謀で頼りない武晴だが、異常に世話好きな村長(阿部サダヲ)とその美人妻(松たか子)、自他ともに認める村の「神様」(西田敏行)ら濃すぎる村人たちに助けられ、少しずつ村の暮らしに慣れてゆく。しかし、ヤクザの青木(荒川良々)が、女子高生・青葉(二階堂ふみ)に武晴を誘惑させて金を脅し取ろうと画策したことがきっかけとなり、村全体を揺るがす大騒動に発展する。  松尾監督と松田のタッグは2004年の『恋の門』以来。松尾が主宰する劇団・大人計画の俳優陣(阿部、荒川のほかにも村杉蝉之介、伊勢志摩、皆川猿時など)が醸し出す独特の「松尾ワールド」に、松田のボケ味が相性抜群だ。のどかな山間の村を背景に、役人や政治家やヤクザも入り乱れるやたら人間くさいドタバタと、神がかりでファンタジックなエピソードが絶妙に混じり合う。タイトルの「ジヌ」は、東北の方言で「銭」の意味。高齢化、過疎化が進む地方の農村を舞台に、Iターン、断捨離、ダウンサイジングといった現代的な要素を盛り込み、たたみかける笑いの先に「人間らしい生き方って、なんだろう」と考えさせる深みも備えた快作だ。  『案山子とラケット 亜季と珠子の夏休み』は、夏の佐渡島を舞台に、ソフトテニスを通じて2人の女子中学生と周囲の人々に起こる変化を描くハートフルなドラマ。中学3年生の亜季は、東京の学校で所属していたソフトテニス部で心に傷を負い、日本海の島で離れて暮らす父の元へやってきた。転校先の同級生・珠子から、ソフトテニスを教えてほしいと熱心に頼まれ、再びラケットを握る亜季。だが、村にはテニスコートがないことから、2人は廃校の校庭にコートを作ろうと奮闘する。  亜季役の平祐奈と珠子役の大友花恋、いずれも映画初主演となる女優2人のピュアな魅力が見どころだ。石原さとみに似た美少女の平(実際、『貞子3D』では石原が演じるヒロインの少女時代を平が演じた)と、天真爛漫な表情が綾瀬はるかを思わせる大友が、海の青と山の緑が美しい島の景観を背景に、ライトでさわやかなスポ根ドラマを繰り広げる。BGMの詩情あふれるピアノも印象的で、岩井俊二監督の『花とアリス』(04年)にも通じる仲良し少女2人の成長物語。限界集落化する前に地域を活性化しようとする、村民の取り組みも現代的だ。課題はいくつかあるが、全体としてとても気持ちのいい作品に仕上がっている。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ジヌよさらば かむろば村へ』作品情報 <http://eiga.com/movie/80317/> 『案山子とラケット 亜季と珠子の夏休み』作品情報 <http://eiga.com/movie/81842/>

『ナイト ミュージアム』ついに完結! 故ロビン・ウィリアムズらに加え、あの俳優がカメオ出演!?

DF-09369R.jpg
(c) 2014 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
 今週取り上げる最新映画は、夜の博物館でろう人形や骨だけの恐竜が動き出すハリウッド製アドベンチャーコメディー連作の完結編と、70代後半の喜劇俳優が老マラソンランナーを熱演するドイツ映画。いずれも単純な笑いだけでなく、主人公の精神的成長や不屈の挑戦に元気をもらえる快作たちだ。  『ナイト ミュージアム エジプト王の秘密』(公開中)は、真夜中になると展示物が動き出す不思議な博物館を舞台にした、ベン・スティラー主演のコメディー『ナイト ミュージアム』シリーズの第3弾。アメリカ自然史博物館の夜警ラリーは、展示物たちに毎夜命を吹き込むエジプト王の石版が、魔力を失いつつあることを知る。いまや仲間となった展示物が2度と動けなくなるのを防ごうと、石版の謎を解く鍵を求めて、仲間たちや息子ニッキーとロンドンの大英博物館へ向かう。  監督は前2作に続きショーン・レビ。14年に他界したロビン・ウィリアムズ(コミカルな演技さえ感傷を誘う)、オーウェン・ウィルソンら続投組に、ベン・キングズレーらも加わり一層豪華なキャストに。映画ファンを喜ばせるパロディーが満載で、カメオ出演のヒュー・ジャックマンによる『ウルヴァリン』ネタなどは爆笑必至だ。ろう人形やミニチュアフィギュア、さらには恐竜の骨格標本までもが動き出すというアイデアは当初、リアルなCG映像と相まって新鮮な驚きだったが、さすがに3作目ともなると若干マンネリの印象も。とはいえ、数々の騒動と冒険で楽しませてくれたシリーズの完結編にふさわしく、フィナーレは華やかで感動的だ。  『陽だまりハウスでマラソンを』(3月21日公開)は、ドイツの国民的喜劇俳優ディーター・ハラーフォルデンが主演した人間ドラマ。半世紀前のメルボルン五輪マラソンで金メダルを獲得し、今は隠居暮らしのパウルは、妻マーゴの病気をきっかけに夫婦で老人ホームに入居する。退屈で窮屈なホームでの生活にうんざりしたパウルは、何十年ぶりかのランニングをホームの庭で再開。周囲の猛反対にも耳を貸さず、ベルリンマラソンへの挑戦を宣言する。  主演のハラーフォルデンは、今作でドイツ映画祭最優秀主演男優賞を史上最高齢の78歳で受賞した。撮影に備え半年近い走り込みで9キロ減量したというスポ根ぶりは、まさに主人公のキャラクターそのもの。あからさまに笑いを取る演技は封印しながらも、黙々と走る姿や入居者たちとのやり取りに穏やかなおかしみをにじませる。高齢者を支える娘や施設職員ら中堅世代の視点も丁寧に描かれ、幅広い年齢層の観客に現実の問題と照らして考える機会を提供してくれる作品でもある。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ナイト ミュージアム エジプト王の秘密』作品情報 <http://eiga.com/movie/79772/> 『陽だまりハウスでマラソンを』作品情報 <http://eiga.com/movie/81397/>

人気監督が4役で臨む、ハートフルコメディー『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』

chef_main.jpg
 今週取り上げる最新映画は、中学生たちが級友の死をめぐって学校内裁判を行うサスペンスミステリーと、元一流店シェフがフードトラックの移動販売で再起を図るハートフルコメディー。ジャンルも雰囲気も大きく異なるが、親と子の関係を考えさせる共通の要素もあり、共に見応えのある力作だ。  『ソロモンの偽証 前篇・事件』(3月7日公開)は、宮部みゆきの長編ミステリー『ソロモンの偽証』を、『八日目の蝉』(2011年)の成島出監督が映画化した2部作の前編。中学2年生の藤野涼子は、冬の雪の朝に登校した校庭で、同級生の卓也の遺体を発見する。警察は校舎屋上からの飛び降り自殺と断定するが、不良生徒の俊次らが卓也を突き落とす現場を目撃したとする告発状が届き、事態は混迷。涼子は、卓也の友人という他校生・和彦らの協力を得て、生徒たちで真相を解明しようと学校内裁判を開くことを決意する。  中学生キャストに応募した1万人から、2カ月にわたるワークショップを含む4次の選考で1クラス33人を絞り込むという、邦画史上最大級のオーディションを敢行。ヒロイン役を勝ち取ったのは、役名と同じ芸名で女優デビューを飾る藤野涼子。利発そうな張り出した額、強い意志を感じさせる眼差しが、真実と正義を求めるキャラクターと見事に重なる。彼女をはじめ中学生キャストの演技水準は高く、脇を固める永作博美、黒木華、市川美和子らのエキセントリックな怪演も強烈だ。前篇は裁判が始まる前で終わるため、尻切れ感は否めないが、『ソロモンの偽証 後篇・裁判』(4月11日公開)で真実が明かされるのを期して待ちたい。  『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』(公開中/配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテイメント)は、『アイアンマン』シリーズのジョン・ファブローが監督・製作・脚本・主演の4役で臨んだハートフルコメディー。ロサンゼルスの高級レストランで総料理長を務めるカールは、高圧的なオーナーや辛口の料理評論家とケンカして店を辞めてしまう。息子のパーシーを連れて故郷マイアミを訪れたカールは、そこで食べたキューバサンドイッチのおいしさに驚嘆。サンドイッチの移動販売を思いつき、フードトラックを入手して、パーシーや仲間たちに助けられながら米大陸を西へと旅していく。  食材から調理過程、完成した料理まで、シズル感あふれる映像とテンポの良い編集で構成されたシーンが、観る者の食欲を大いに刺激するはず。よそよそしい関係だった父と息子が、旅を通じて接近し、共に成長するという王道ロードムービーとしても上出来。小規模予算ながら、『アイアンマン』人脈のスカーレット・ヨハンソンとロバート・ダウニー・Jr.、ダスティン・ホフマンらハリウッドスターも華を添える。心温まるエピソードにスパイスの効いた笑い、後味すっきりの小粋な逸品をぜひご賞味あれ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ソロモンの偽証 前篇・事件』作品情報 <http://eiga.com/movie/79712/> 『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』作品情報 <http://eiga.com/movie/80440/>

まじめな女子大生が踏み込む、禁断の世界『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』

eiga0220.jpg
(C)2015 UNIVERSAL STUDIOS.
 今週取り上げる最新映画は、女性視点で愛を描いた英米ベストセラー小説をフレッシュなキャストで映像化した話題作2本。まじめな女子大生が踏み込む禁断の世界に、難病を抱えた女子高生が経験するさわやかな恋愛と、好対照なストーリーの2作品でもある。  『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(公開中、R15+指定)は、ロンドン在住の一般女性がネットに投稿し、書籍化されて世界50カ国で累計1億部を突破した官能恋愛小説の実写化作品。文学部の女学生アナは、学生新聞の取材で若くして成功した起業家のグレイにインタビューする。これをきっかけに、恋愛経験のないアナと、少し傲慢だが魅力的なグレイは急接近。だがグレイから、交際する女性が厳守するルールを記した秘密保持契約書を提示されたアナは、彼が抱える闇と特殊な性的嗜好を知ることになる。  俳優ドン・ジョンソンと女優メラニー・グリフィスを両親に持つダコタ・ジョンソンが、本作で映画初主演。奥手の女子が、愛する男性の手ほどきを受け官能に目覚める過程を、やや細めの裸身をさらして大胆に演じた。グレイに扮するモデル出身のジェレミー・ドーナンは当然イケメンで、彼を取り巻くオフィスと自宅のリッチな環境も美麗に映し出され、女性でなくとも嘆息してしまう。日本公開では観客層を広げる狙いから、セクシャルなシーンで思い切ったボカシを入れてレイティングを下げたが、これが果たして吉と出るか凶と出るか。  『きっと、星のせいじゃない。』(公開中)は、米作家ジョン・グリーンの小説『さよならを待つふたりのために』(岩波書店刊)を原作に、若手人気女優のシャイリーン・ウッドリー主演で映画化した青春ラブストーリー。甲状腺ガンが肺に転移して酸素ボンベを手放せない16歳の少女ヘイゼルは、骨肉腫で片脚を切断した青年ガス(アンセル・エルゴート)と出会い、互いにひかれあう。まっすぐに気持ちを伝えるガスに対し、自分の病状に悲観的で深い関係になることを恐れるヘイゼル。慈善団体の援助により、お気に入りの小説家(ウィレム・デフォー)に会いにオランダへ旅立った2人を、思いがけない展開が待ち受けていた。  『(500)日のサマー』(09年)を手がけた脚本コンビ、スコット・ノイスタッター&マイケル・H・ウェバーが原作を効果的に脚色。本作が長編映画2作目となる新鋭ジョシュ・ブーン監督が、感情に寄り添う自然な演出で見事に映像化した。ウッドリーは目や表情の繊細な演技で、出会いに高揚し、相手を想い、周りを傷つけることに苦悩するといった、誰もが経験する感情を説得力十分に表現。重いテーマを扱いながらもシリアスになりすぎず、軽妙なユーモアとポップな音楽も効いている。難病の若いカップルのストーリーを通じて、普遍的な人生の問いかけと温かいメッセージを語りかけてくる快作だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』作品情報 <http://eiga.com/movie/80687/> 『きっと、星のせいじゃない。』作品情報 <http://eiga.com/movie/80470/>