世界的ファンタジーが装いも新たに登場!『PAN ネバーランド、夢のはじまり』

PAN-17394
(C)2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC.
 今週取り上げる最新映画は、永遠の少年が活躍する有名なファンタジーの新たな実写作品と、登山家たちのエベレスト登頂を描く迫真のドラマ。いずれもハリウッド製の3D大作で、空間の広がりや高さを強調したスペクタクルとアクションを体感できる。 『PAN ネバーランド、夢のはじまり』(10月31日公開、2D/3D上映)は、アニメやミュージカルで広く知られる『ピーターパン』を題材に、新たなストーリーで描く実写ファンタジー。ロンドンの孤児院で暮らす少年ピーターは、ある日地下室で母からの手紙を見つける。母との再会を夢見るピーターだが、海賊・黒ひげの手下たちに拉致され、美しく不思議な国ネバーランドへ連れてこられる。若き日のフック船長や、勇壮な部族の王女タイガー・リリーと出会い、自らの出生の秘密を知ったピーターは、ネバーランドの危機に立ち向かうことを決意する。 『プライドと偏見』(2006)、『つぐない』(08)など、歴史ドラマを得意とするジョー・ライト監督が、3Dファンタジーに初挑戦。第2次大戦期のロンドンで空飛ぶ海賊船を英戦闘機が追う奇天烈なチェイスから、宇宙空間を超え天空に浮かぶネバーランドに至る旅、不思議の国で繰り広げられる冒険と戦いまで、空間の広がりを生かし、ダイナミックなアクションが展開するスペクタクルを活写した。ピーター役は、初のメジャー映画出演となるリーバイ・ミラー。悪役の黒ひげを嬉々として熱演するヒュー・ジャックマン、剣で闘う姿が凛々しくツンデレ要素もあるリリー役のルーニー・マーラら、ぜいたくなキャストも見どころだ。 『エベレスト 3D』(11月6日公開、2D/3D上映)は、世界最高峰エベレストの登頂に挑んだ登山隊の実話を基に3Dで描くサバイバルドラマ。1996年、登山ガイド会社を運営するロブが募ったエベレスト登頂ツアーに、ベテラン登山家やジャーナリストら8人が集まる。ベースキャンプで高地に体を順応させた後、いよいよ山頂へのアタックを開始。だが、道具の不備やメンバーの体調不良などが重なり、下山が大幅に遅れ、天候も急変する。  監督は『ハード・ラッシュ』(12)、『2ガンズ』(13)のバルタザール・コルマウクル。雪山でのリアルな撮影にこだわり、ロブ役のジェイソン・クラークほか、ジョシュ・ブローリン、ジェイク・ギレンホールなどハリウッドの主役級スターたちとスタッフを引き連れ、4,800メートル超のカトマンズをはじめ極限の環境でロケを敢行した。そのかいあって、世界最高峰の山頂を目指す過酷な登山の体験を、3D映像で見事に再現。一般人にはできない冒険を疑似体験させてくれる点で、女性宇宙飛行士の孤独なサバイバルを描く『ゼロ・グラビティ』(13)と並ぶ、屈指の体感型3D映画となった。雄大な景観とド迫力のサバイバルを堪能するためにも、可能であればIMAXスクリーンでの観賞がオススメだ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『PAN ネバーランド、夢のはじまり』作品情報 <http://eiga.com/movie/81622/> 『エベレスト 3D』作品情報 <http://eiga.com/movie/81189/>

世界的ホラーの旗手による原点回帰的作品が公開!『ヴィジット』

thevisit02
(c) Universal Pictures
 今週取り上げる最新映画は、どんでん返しの傑作スリラーを連発して名を馳せたシャマラン監督の原点回帰作と、中村ゆりのやさぐれた色気が印象的なコメディードラマ。シリアスなのに随所で笑えたり、救いがなさそうでポジティブな感動があったりと、ギャップを生かした演出も見どころの2作品だ。 『ヴィジット』(10月23日公開)は、『シックス・センス』(1999)のM・ナイト・シャマラン監督が自身の原点である、謎と恐怖で観客を引き込むスリラーのジャンルに回帰した作品。15歳の姉ベッカと13歳の弟タイラーは、ペンシルバニア州の人里離れた祖父母の家を訪れ、一週間滞在することになる。優しい祖父、手製の菓子をふるまう祖母から、夜9時半以降は部屋から絶対に出ないよう約束させられた2人だが、深夜に家中に響きわたる異様な音が気になり、部屋のドアを開けてしまう。  シャマラン監督は、『パラノーマル・アクティビティ』(07)などの人気ホラー作品を手がけるプロデューサーのジェイソン・ブラムと初タッグを組み、一人称主観(POV)形式を応用して姉弟が持つ2台のカメラによる映像で全シーンを構成。2人の眼前で起きる出来事を、観客にリアルな体験として伝える手法が奏功している。しっかり者の姉を演じるオリビア・デヨングもいいが、エド・オクセンボールド扮するおませな弟のキャラが最高。自作のラップや、ののしり言葉の代わりに女性歌手の名前を叫ぶギャグで笑いを誘い、重苦しさや緊張感をほどよく緩和してくれる。グリム童話『ヘンゼルとグレーテル』を思わせる設定も、シャマラン流の仕掛けのひとつ。果たして結末はどうなるのか、周囲やネットからネタバレされる前にぜひ劇場で驚嘆していただきたい。 『ディアーディアー』(10月24日公開)は、黒沢清、石井裕也ら名監督のもとで助監督を務めてきた菊地健雄の初監督作となるコメディードラマ。山あいの町で育った3兄妹は、幼い頃に伝説の鹿を目撃して一躍時の人となるが、やがて虚言だとみなされ、信用を失う。それから25年後、家業を継ぎ借金苦の兄・冨士夫(桐生コウジ)、精神を病み虚言癖の義夫(斉藤陽一郎)、駆け落ちの果てに酒浸りの妹・顕子(中村ゆり)は、父の危篤をきっかけに再会する。  少しずつ壊れているのにどこか憎めない3兄妹を、菊地監督と過去の現場で縁のあった3人の俳優がそれぞれ絶妙に演じた。特に中村が醸し出す色気が哀しくも美しく、彼女の新たな代表作といえる出来。松本若菜、柳憂怜らが脇を固め、染谷将太、菊地凛子も友情出演している。菊地監督の故郷、栃木県足利市でロケを敢行。地方の閉塞(へいそく)感と屈託を示唆するスタンダードサイズ(4対3)の画面からはみ出すほどに、抑圧された思いが爆発して熱量を放つ終盤の長回しの葬儀シーンが圧巻だ。“今年最高の掘り出し物”として自信を持ってオススメできる1本で、今のところ限られている上映館も、今後増えていくことを期待したい。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ヴィジット』作品情報 <http://eiga.com/movie/82414/> 『ディアーディアー』作品情報 <http://eiga.com/movie/81650/>

キアヌ・リーブス演じる元殺し屋の壮絶なる復讐劇!『ジョン・ウィック』

eiga1016
Motion Picture Artwork (C)2015 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. (C) David Lee
 今週取り上げる最新映画は、キアヌ・リーブスの巧みなガンさばきが冴えるダークなアクションと、シャイリーン・ウッドリーが人類を解放すべく奮闘するSFシリーズの第2作。前者が現代の暗黒街を、後者が近未来の管理社会をそれぞれ丁寧に描き込み、主人公の戦いに説得力を持たせている(いずれも公開中)。 『ジョン・ウィック』(R15+)は、キアヌ・リーブス主演で元殺し屋の壮絶な復讐劇を描く本格アクション。引退したスゴ腕の殺し屋ジョン・ウィックは、死別した妻から贈られた小型犬と穏やかに暮らし、喪失感を徐々に癒やしていた。しかし、ロシアンマフィアのボスの息子が、ジョンの愛車を狙って自宅に押し入り、犬を殺してしまう。元殺し屋は封印していた闘争本能を解き放ち、マフィア相手に復讐を繰り広げていく。  監督は、『マトリックス』(1999)でキアヌのスタントダブルを務め、これが初メガホンとなるチャド・スタエルスキ。銃撃と格闘技を組み合わせた新銃術「ガンフー」を開発して、ジョンが流れるような動きで次々に敵を撃ち、接近戦で殴り倒すアクションをスタイリッシュに演出した。殺し屋たちが集う中立地帯のホテルなど、雰囲気たっぷりに描写される裏稼業のコミュニティーも見どころ。全米1位の大ヒットを受けて続編の製作も決定しており、“キアヌ完全復活”を印象づける快作だ。 『ダイバージェントNEO』は、全米ベストセラーのヤングアダルト小説シリーズを、『きっと、星のせいじゃない。』(14)のシャイリーン・ウッドリー主演で映画化したSFアクションの続編。全人類が性格別に5つの共同体(勇敢、無欲、平和、高潔、博学)に分かれて暮らす近未来の世界で、独立した思考を持つ「異端者=ダイバージェント」のトリス(ウッドリー)は、「博学」の指導者ジェニーン(ケイト・ウィンスレット)の策略により逃亡の日々を送っていた。仲間たちと「平和」の村に身を潜めるが、追っ手が迫ったため都市部に移動し、反乱を目指す無派閥の集団と合流する。 『きっと、星のせいじゃない。』でウッドリーの恋人役を演じたアンセル・エルゴート、『ファンタスティック・フォー』(公開中)のマイルズ・テラーら続投組のほか、無派閥のリーダー役でナオミ・ワッツが新たに参加。仲間が敵に寝返ったり、敵と思われた人物が味方だったりと、先の読めない展開に興味をそそられる。後半でトリスが挑む仮想空間でのシミュレーションテストは、視覚効果を駆使した超現実的な世界のビジュアルが圧巻だ。米ヤングアダルト小説原作のSF映画シリーズとしては、やはり2作目の『メイズ・ランナー2 砂漠の迷宮』(10月23日公開)、4作目にして完結編の『ハンガー・ゲーム FINAL:レボリューション』(11月20日公開)が相次いで封切られるこの秋、それぞれの世界観とキャラの魅力、アクションの創意工夫を見比べるのも一興だろう。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ジョン・ウィック』作品情報 <http://eiga.com/movie/79911/> 『ダイバージェントNEO』作品情報 <http://eiga.com/movie/81930/>

すべてのアメコミヒーローはこの4人から始まった! 今週末公開『ファンタスティック・フォー』

FF_main_a
(C)2015 MARVEL & Subs. (C) 2015 Twentieth Century Fox
 今週取り上げる最新映画は、チームで戦うアメコミヒーロー物の原点とも言うべき作品のリブート作と、女子大生アカペラチームの騒動と活躍を描くミュージカルコメディの続編。ジャンルは違えど、仲間がそれぞれの個性を活かし、協力して事を成し遂げる姿に元気をもらえる快作たちだ(いずれも公開中)。 『ファンタスティック・フォー』は、スーパーヒーロー・チームの設定を最初に導入した伝説的アメリカンコミックの再映画化作品。発明オタクの学生リードは、物質転送装置を科学コンテストに出展したところ、ある財団の研究員としてスカウトされる。リードは研究所で本格的な装置を完成させ、4人の仲間とともに異次元惑星プラネット・ゼロへの転送旅行を成功させるが、未知のパワーの影響で特殊能力を身につけてしまう。体がゴムのように伸び縮みするリード、体を透明化するスー、炎に包まれ飛行能力も持つジョニー、岩石の体と怪力を備えたベンが、自分の変化に戸惑いながらも能力と向き合い始めた頃、プラネット・ゼロに1人残され強大なパワーを獲得したビクターが、地球全体を滅亡の危機に陥れる。  リード役に『セッション』(2014)のマイルズ・テラー、スー役にケイト・マーラ(妹はルーニー・マーラ)など、主要キャストに新進の若手俳優を揃えたが、05年と07年に公開された前シリーズのジェシカ・アルバやクリス・エバンスらと比べるとやや地味な顔ぶれ。主人公の能力が伸び縮みする体という点がそもそも微妙だとはいえ、メンバー4人が各自の持ち味を活かし、協力して敵と戦うスリリングなアクション場面が本作の魅力だ。2017年に続編の公開が決まっており、アメコミ界屈指の人気キャラ、シルバーサーファーの登場が望まれる。 『ピッチ・パーフェクト2』は、日本では今年5月に公開された青春アカペラミュージカル『ピッチ・パーフェクト』の続編。全米アカペラ大会での優勝から3年後、女性アカペラチーム「バーデン・ベラーズ」は、大統領一家の前で歌うステージで大失態を犯し、すべての国内大会で出場禁止処分を受けてしまう。世界大会で優勝すれば処分取り消しの条件を取り付けるが、欧州チャンピオンのドイツチーム「ダス・サウンド・マシーン」の圧倒的なパフォーマンスを目の当たりにして、ベラーズは方向性を見失ってしまう。仲間に内緒でインターンを始めたベッカ(アナ・ケンドリック)、恋愛に悩む“ファット”エイミー(レベル・ウィルソン)、オリジナル曲を歌いたい新入生エミリー(ヘイリー・スタインフェルド)ら、メンバーの心もバラバラでチーム内に不協和音が漂い始めた頃、ピンチを打開すべく合宿を実施する。  米国でオープニング興収1位、ミュージカル映画としては『レ・ミゼラブル』(12)、『マンマ・ミーア!』(08)を超え、さらに世界各国でメガヒット中の本作。ストーリー上の都合から同じ曲が繰り返し歌われた前作に比べ、楽曲とパフォーマンスのバラエティーが格段に増し、往年の名曲から最近のヒットナンバーまでアカペラアレンジとマッシュアップで楽しく聴かせてくれる。『トゥルー・グリット』(10)で14歳にしてアカデミー助演女優賞にノミネートされたヘイリー・スタインフェルドが、大人びた姿で続投組のキャストとハーモニーを響かせる場面も見どころだ。字幕で訳詞がつかない曲が多いのが難点で、欲を言えば曲名とオリジナルの歌手名も添えてほしいところ。「ジョン・メイヤーと寝た女性歌手の曲」というネタなどは、付加情報があれば一層笑えるはずだ。こちらも17年に第3作の公開が決まっているので、次作の字幕では改善されることを期待したい。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ファンタスティック・フォー』作品情報 <http://eiga.com/movie/81624/> 『ピッチ・パーフェクト2』作品情報 <http://eiga.com/movie/81900/>

タブーを突破する男たちの覚悟──映画『木屋町DARUMA』

daruma1006001
 裏社会でもがく男たちの生き様を、熱く深く描き出した問題作『木屋町DARUMA』。原作は四肢を失いながらも借金の取り立て稼業で生計を立てる男を描いた丸野裕行の同名小説(Kindle版電子書籍にて購読可)。メガホンをとったのは、映画監督で俳優の榊英雄。『誘拐ラプソディー』で日本映画批評家大賞新人監督賞を受賞、また『捨てがたき人々』ではKINOTAYO現代日本映画祭批評家賞を受賞している。  物語の主人公は、かつて京都木屋町を牛耳る組織を束ねていた勝浦茂雄(遠藤憲一)。彼は、5年前のある事件で四肢を失った。今では、ハンデのある身体で債務者の家に乗り込み、嫌がらせをして回収する捨て身の取立て稼業で生計を立てていた。仲間の古澤(木村祐一)から世話を命じられた坂本(三浦誠己)の助けを借り、次々仕事をこなしてゆく毎日。  そこへ、真崎という一家に対する追い込みの仕事が入る。その家族は、かつて勝浦を裏切り、金と麻薬を持ち逃げした元部下・サトシの身内だった。勝浦は責任を取って今の身体になったのだが、事件に疑問を感じた坂本が過去を嗅ぎ回り始める。人生が壊れてゆく債務者を見つめながら、薄汚い闇社会でもがく勝浦と坂本は、5年前の、ある真実を知ってしまう……。  去る9月30日、筆者がロフトプラスワンで企画した『コミックばかり読まないで』(イースト・プレス)の出版記念トークライブに足を運んで頂いた千田浩司氏から急遽、千田氏が宣伝に携わる映画『木屋町DARUMA』の初日舞台挨拶取材を依頼された。  そして公開日の10月3日、満席の渋谷シネパレスにて『木屋町DARUMA』は封切られ、万雷の拍手をもって念願の初回上映を果たした。  これに先立つ初日舞台挨拶では、遠藤憲一、三浦誠己、武田梨奈、木下ほうか、そして榊英雄監督の各氏が登壇。撮影から実に2年半という年月を経ての劇場公開を前にして、榊監督からは安堵の表情が見てとれた。  舞台挨拶では、監督が俳優ということもあってか、出演俳優陣が実にリラックスしたトークを心がけていたのが印象的だった。  その中でも、主演の遠藤憲一さんからは「こんなエグイ、ヤバイ映画を誰が観るんだと思っていたら、こんなにお客さんが来てくれた。ありがとうございます」という思わぬ本音が語られ、狂気のヒロインを好演した武田梨奈さんからは、男臭い撮影現場で遠藤憲一さんに父性を感じ、木下ほうかさんからは思わぬ母性を感じとったというエピソードが披露され、問題作の上映を控えて緊張感の漂う客席からも笑い声が漏れ伝わってきた。
daruma1006002
 榊英雄さんの映画監督としての活動を知ったのは、もう15年も前のことだった。  出会いは当時、企画プロデューサーとして働いていたロフトプラスワン。若松孝二監督や北村龍平監督を招いた映像作品の上映イベントで榊監督の短編作品が紹介され、その映像センスと俳優陣の演技力に目をみはった記憶が今も残っている。  いずれ、この若手俳優は監督業に進出するのではないかと予感させたが、映画『あずみ』の長戸役を観て魅力的な俳優が出てきたと感心した。  以降、榊さんの俳優としての活躍は周知の通りだが、同時に時間的な拘束が長期にわたる監督業への進出は厳しいのではないかと思いもした。  それから数年後、日本テレビ開局55周年記念番組『ヒットメーカー阿久悠物語』にて出演シーンは別なれど、榊さんと共演する機会に恵まれた。  演出は映画監督の金子修介さんで、榊さんは振付師の土居甫役を熱心に演じられ、筆者は作曲家の中村泰士役を演じた。その後も、桜庭一樹さんの原作小説を映画化した角川文庫創刊65周年記念作品『赤×ピンク』にて再び共演を果たしたのだが、これまた前回と同様に出演シーンがかぶらずクランクアップ。  打ち上げの席で近況報告をする程度の間柄ながら、細やかな気遣いのできる叩き上げの人物であると実感している。  アクション物から人間ドラマまで様々な役柄を数多く演じてこられた榊さんだが、近年では映画監督としての評価が著しい。  舞台挨拶前、楽屋へと榊さんを訪ねて挨拶を交わした際、敢えて俳優と監督業の両立は難しいのではないかという疑問を投げかけてみたわけだが、 「そんなことはないですね」と即答され、どちらか一方に偏ることなく仕事を続けて行きたいという明確な意思を語ってくれた。  そして最後に一言、「呼んでいただければ、もっともっと俳優としてがんばりますよ」と力強く訴えたのだが、筆者には榊さんのそんな気持ちが痛いほど理解できた。  かつて、松田優作は自ら監督した映画『ア・ホーマンス』の完成後、取材記者から「今後、優作さんの肩書は俳優? それとも監督? どちらです?」と質問され、「自分は映画人ですから」と答えて質問者を黙らせてしまったというエピソードを映画誌で読んだ記憶がある。  ハリウッド映画史を紐解けば、チャールズ・チャップリン、オーソン・ウェルズ、そしてクリント・イーストウッドに至るまで、そのキャリアは俳優としての名声を凌ぐほど、映画監督としての揺るぎない地位を築きあげたのだ。さらにマーロン・ブランド、ロバート・デ・ニーロといった稀代の名優たちも、そのフィルモグラフィーに監督作品を残してきたことを、どうか記憶に留めて頂きたい。
daruma1006003
左から木下ほうか、武田梨奈、遠藤憲一、三浦誠己、そして榊英雄監督
 映画『木屋町DARUMA』の誕生に関して重要なことは、原作者である丸野氏と榊監督の共犯関係とでも呼ぶべき相互扶助の精神ではないのか? 発禁本扱いされ、版元との出版契約がままならない衝撃的な内容の丸野氏の原作小説を、榊監督はさまざまな経験と知恵を巡らせて映像化へと導いたのだろう。  スタッフ、出演者、様々な協力者の熱意がこの映画に心血を注ぎ込み、劇場公開という難関を突破させたのだと思う。しかしながら、そう現実は甘くない。  2年半という歳月が、榊監督と丸野氏に目に見えぬプレッシャーを与え続けたのは容易に想像できてしまう。  余談となるが、かくいう筆者も、この「日刊サイゾー」でお馴染みのルポライター・昼間たかしとの仕事で、たった一冊の書籍企画に2年半もの歳月を費やしてしまったのだ。  その昼間の筆による、『コミックばかり読まないで』と題されたルポルタージュ書籍が9月17日に上梓された直後だけに、『木屋町DARUMA』の初日舞台挨拶で榊監督が発した「2年半の歳月」という言葉の重みは、ひたすらメモを走らせる筆者と、一眼レフカメラのファインダーを覗く昼間の脳裏に鋭い爪あとを残した。  名のある出版社からは評論集としての脆弱性をひたすら突かれ、長編ノンフィクション作品としての事件性やスキャンダリズムの希薄さを指摘され続け、時間ばかりが過ぎ去ってゆく日々。追加取材や脱稿を繰り返して消耗していく昼間を見かねた筆者は、評論やノンフィクションという手法のすべてを捨て去り、敢えて時代錯誤とも取られかねないルポルタージュという表現手法で行くことを提案、これを昼間が快諾した直後から出版への道筋が見えてきた。  筆者の古巣でもあるロフトプラスワンの協力を得て、その20周年記念と歩調を合わせたルポライター・昼間たかしの自分史と、表現のタブーに挑戦し続けた奥崎謙三、若松孝二、塚原晃という規格外な人間たちの残像を求め、様々な取材対象を昼間とともに追い続けた怒涛の2年半が走馬灯のように甦ったのだった。 『木屋町DARUMA』の映画化にあたって、榊監督が丸野氏に訴えた一言が忘れられない。 ――「丸野さん、本が無理なら映画でやりましょう」――  榊英雄監督、丸野裕行氏は言うに及ばず、ついでに仕事仲間の昼間たかしからも少しだけ、表現者としての凄まじい覚悟を学ばせていただいた。 (文=増田俊樹) ●『木屋町DARUMA』 監督/榊英雄 キャスト/遠藤憲一 三浦誠己 武田梨奈 木下ほうか 寺島進 木村祐一 2015年10月3日(土)より渋谷シネパレスほか全国順次ロードショー中 (c)2014「木屋町DARUMA」製作委員会

「国民的美少女コンテスト」グランプリ女優の怪演が光る! 今週公開『罪の余白』『ロバート・アルトマン』

movie1001
(c)2014 sphinxproductions/10月3日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国順次公開
 今週取り上げる最新映画は、“国民的美少女”吉本美憂が他人の心を操る悪魔的な女子高生を演じる衝撃作と、70年代から今なお色あせない傑作群を数多く生み出した名監督の、刺激的なドキュメンタリー。秋の観賞にふさわしい、作品の個性が深い余韻を残す2本だ(いずれも10月3日公開)。 『罪の余白』は、芦沢央の同名デビュー小説を、『スープ 生まれ変わりの物語』(2012年)の大塚祐吉監督が映画化した心理サスペンス。名門女子校の教室で、スクールカーストの頂点に君臨する美少女・咲の言葉に促されるように、同級生の香奈がベランダの手すりに立ち、転落死する。娘の死を受け止められない行動心理学者の安藤は、真相を知るため香奈の級友たちに接触。他人の心を狡猾に操る咲こそが娘を死に追いやった張本人だと知った安藤は、復讐心から次第に暴走してゆく。  スクールカースト、生徒の死、娘を失った父の真相探求と暴走といった要素は、中島哲也監督・役所広司主演の『渇き。』(14年)と多く共通する。だが、『渇き。』では父や刑事ら主要キャラが戯画的で、いかにも虚構の世界の物語として描かれたのに対し、本作は内野聖陽扮する理知的な教職者の父親が、自責の念と咲の策略から復讐へと突っ走る過程がリアルで生々しい。「国民的美少女コンテスト」でグランプリ受賞、CMやドラマでも活躍する吉本美憂が、一見穏やかな仮面の下に底知れぬ悪意と狡猾さを秘めた“モンスター”咲を恐るべき説得力で体現。内野と吉本が迫真の演技で繰り広げる心理戦と、思わず声を上げてしまう衝撃のラストが強く印象に残る問題作だ。 『ロバート・アルトマン ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男』は、ハリウッドの映画製作システムと戦いながら、『M★A★S★H マッシュ』(70年)、『ザ・プレイヤー』(92年)、『ショート・カッツ』(93年)など多彩な傑作を生み出し、世界中の映画人と観客に愛された故ロバート・アルトマン監督の実像に迫るドキュメンタリー。アルトマンの経歴と作品群を、自身の肉声と、ポール・トーマス・アンダーソン監督、ジュリアン・ムーア、ブルース・ウィリスら映画人の証言を交えて解き明かしていく。  “アメリカ・インディペンデント映画の父”と称され、カンヌ、ベルリン、ベネチアの三大映画祭の最高賞をすべて制覇したことでも知られるアルトマン監督。嘘八百を並べて映画業界に入ったという序盤の話から笑わされ、型破りで波瀾万丈なその映画人生と、独立独歩の精神=インディペンデント魂がユーモアたっぷりに描かれる。時折挿入される、アルトマンが家族を撮影したホームムービーにもなごまされる。監督のファンだけでなく、よく知らない人でもきっとアルトマン作品を見たくなる、監督の個性と魅力を的確に伝えるオススメの良作だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『罪の余白』 http://eiga.com/movie/81367/ 『ロバート・アルトマン ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男』 http://eiga.com/movie/82154/

“うまいもん”的な愛されるパチモノ映画を発見!? 80年代へのオマージュに溢れた『ターボキッド』

turbokid01
80年代テイスト溢れるB級アクション映画『ターボキッド』。鉄仮面の下は南野陽子ではありません、念のため。
 6月に公開された『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のコーフンが忘れられず、3D、IMAX、爆音上映……と劇場に何度も足を運んでいる熱狂的ファンは少なくない。「あの狂った世界観にもっと浸かっていたい」と願う“ポストアポカリプス”フリークにとって、見逃せないのが10月3日(土)より1週間限定で劇場公開される『ターボキッド』だ。カナダ=ニュージーランド合作映画となる本作は、『マッドマックス』(79)と同じくディストピア化した文明崩壊後の世界が舞台なのだが、『マッドマックス』シリーズがド派手な改造車やチューンアップされたバイクが壮絶な暴走バトルを繰り広げるのに対し、こちらの登場キャラクターたちの愛用車はちんまりしたBMX(競技用自転車)。いわばチャリンコ版『マッドマックス』なのだ。設定を聞いただけで脱力してしまいそうだが、本編を観てみると『マッドマックス2』(81)をはじめとする80年代洋画へのオマージュがたっぷり込められた、掘り出し物のB級アクション快作であることに気づかされる。見るからに低予算なのだが、逆に手づくり感が涙ぐましい。地味な地下アイドルを応援したくなるような、妙な使命感に駆り立てられてしまう作 品なのだ。  どこぞでお蔵入りしていた映画を引っぱり出してきたのかと思えば、米国でも8月末に公開されたばかりのピカピカの新作。この珍作を見つけ、強引にも劇場公開にねじ込んだキングレコードの映像制作部・長谷川英行さんに内情を聞いてみた。 長谷川 「すごく個人的な嗜好なんですが、『E.T.』(82)とかBMXが出てくる映画が好きなんです。日本ではほとんど知られていませんが、若き日のニコール・キッドマンが主演した『BMXアドベンチャー』(83)や世界中のBMX愛好家たちから熱い支持を集める幻の映画『Rad(BMXサイクル・キッド)』(86)も大好き。それでたまたま、BMX、映画をキーワードにネット検索して見つけたのが『ターボキッド』だったんです。サンダンス映画祭で上映されたり、海外ではそこそこ注目された作品みたいですが、問い合わせたところ日本の映画会社はどこもスルーしてたみたいで、即座にサンプルが送られてきました。“BMXに乗った『マッドマックス』”と謳っていますが、『マッドマックス』は改造車やバイクのエンジン音の迫力があって盛り上がるわけで、正直なところ『ターボキッド』の限りなく無音に近いBMXでのチェイスシーンは手に汗握るほどのハラハラ感はまったくありません(苦笑)。主人公たちも悪党たちも、みんな懸命にBMXのペダルを漕いでいる様子は、どこかのんびりしていて、むしろ哀愁を誘う。でも、そうやって肩すかし感を味わっていると、ドラマ部分やBMX以外のアクションシーンが意外としっかりしていて、カウンターパンチをくらうことになるんです(笑)」
turbokid02
終末世界を生きる少年キッドと不思議少女アップル。米国映画『チェリー2000』(86)を思わせるラブロマンスものなのだ。
 一応、『ターボキッド』のストーリーを紹介しておくと、舞台は核戦争後の荒野。生き残った大人たちは貴重な資源である水を奪い合っている。両親を亡くしたコドクな少年キッド(マンロー・チェンバーズ)は両親の形見であるBMXに股がって廃品回収にいそしむ。キッドの心の支えは幼い頃に愛読したコミックヒーロー“ターボライダー”だけだった。そんなある日、キッドは不思議少女アップル(ロランス・ルブーフ)と出会う。トンチンカンな会話しかできないアップルだったが、キッドはコドクから解放されたことが何よりもうれしい。BMXに2人乗りして廃品回収に向かうようになる。だが、悪の首領ゼウス(マイケル・アイアンサイド)の手下によって、アップルは拉致されてしまう。キッドは憧れの“ターボライダー”スーツに着替え、ゼウスのアジトにある地下格闘場へと乗り込む──。  内容はいかにもB級アクションものだが、敵役ゼウスを演じるマイケル・アイアンサイドは、人気SF映画『スキャナーズ』(81)の白目剥いたお兄ちゃん、『スターシップ・トゥルーパーズ』(97)の鬼教官などで知られるカナダの名優。本作でも堂々たる外道ぶりを発揮している。また、ゼウスの腹心のドクロ仮面の腕に装着されたチェンソーはロケットランチャーにもなり、香港のカルト映画『片腕カンフー対空とぶギロチン』(75)ばりのアクションで盛り上げる。ヒロイン・アップルの不思議ちゃんぶりが最初はうざく感じられるが、彼女の秘密を知ってからは俄然応援したくなってしまう。あらら、まんまと作品世界に引き込まれてしまっているじゃないか。
turbokid03
カルト映画には欠かせないカナダの名優マイケル・アイアンサイド。プロットの面白さから出演を決めたそうだ。
長谷川 「最近、YouTube上で80年代テイスト溢れる『カン・フューリー』が話題を集めましたが、『ターボキッド』も『カン・フューリー』と並ぶ80年代リスペクト映画の双璧と海外では呼ばれているみたいです。監督は3人いるんですが、兄妹とそのご主人という身内で映画を作っていて、『ネバーエンディング・ストーリー』(84)や『グーニーズ』(85)といった80年代のキッズムービーの要素を意識したそうです。イタリアで大量生産されたパチモノ系『マッドマックス』の影響もかなり受けているみたいですね(笑)。内容は全然違いますが、僕の個人的な印象としては『スプラッシュ』(84)や『フットルース』(84)、それに『ストリート・オブ・ファイヤー』(84)といった80年代青春映画を昔観ていたことを思い出しました。当時はかっこいいなと思って観ていたけど、冷静に考えるとかなり恥ずかしくなる大げさな描写が多かったんですが、でも見終わった後は何だか爽快感が味わえたんですよね(笑)。『ターボキッド』も『マッドマックス』級の迫力を期待すると肩すかしをくらいますが、バトルシーンは『ブレインデッド』(92)ばりのゴア描写が盛り込まれ、B級映画ファンなら気持ちいいカウンターパンチを浴びることができます。で、見終わった後は、80年代映画を見直したような懐かしい後味のよさが楽しめる。80年代の洋画で育った世代は、ぜひ劇場に足を運んでほしいですね。まぁ、若い世代がどんな感想を抱くのか予想できませんが(笑)」  パチモノ感が濃厚に漂うB級映画『ターボキッド』だが、駄菓子界の銘菓「うまい棒」の人気キャラクター・うまいもん的な憎めなさがクセになりそう。思いっきり舐めきって、劇場に向かいたい。 (取材・文=長野辰次)
turbokid04.jpg
『ターボキッド』 監督・脚本/フランソワ・シマール、アヌーク・ウィッセル、ヨアン・カール・ウィッセル 出演/マンロー・チェンバーズ、ロランス・ルブーフ、マイケル・アイアンサイド、エドウィン・ライト、アーロン・ジェフリー、ロマーノ・オルザリ、タイラー・ホール 提供/キングレコード 配給/日本出版販売 10月3日(土)~9日(金)シネマート新宿、シネマート心斎橋、10月24日(土)~30日(金)名古屋シネマスコーレにてレイトショー公開、11月京都・立誠シネマにて上映。※2016年1月13日(水)にブルーレイ&DVDがリリース (c)2015 RKSS,ALL RIGHTS RESERVED.

伝説的バイオレンスアクションの続編がついに公開!『GONIN サーガ』『岸辺の旅』

gonin0924
(C)2015『GONIN サーガ』製作委員会
 今週取り上げる最新映画は、東出昌大主演のスタイリッシュなバイオレンス娯楽作と、黒沢清監督が第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を獲得した話題作。テイストは異なるが、「死」を通じて「生」を見つめ直す機会を与えてくれる、ポジティブなパワーを秘めた2作品だ。 『GONIN サーガ』(9月26日公開)は、石井隆監督が手がけた伝説的バイオレンスアクション『GONIN』(95年)の続編で、前作の登場人物の息子たちを中心に描く新たな物語。社会や組織に適応できない5人組が暴力団・五誠会系大越組を襲撃した事件から19年。五誠会は若き3代目・誠司(安藤政信)が勢力を拡大し、襲撃で殺された大越組若頭の久松の息子・勇人(東出)は、母の安恵(井上春美)を支えながら真っ当に働いていた。だが、19年前の事件で殉職した警官の息子・慶一(柄本佑)がルポライターを装い安恵に接近したことがきっかけとなり、新たな襲撃と凄惨な殺し合いの幕が開く。  ゾクゾクするような男たちの色気と破滅の美学を、石井監督が鮮烈に描く。東出のほかに、桐谷健太、土屋アンナ、『ウルヴァリン:SAMURAI』(13年)の福島リラら人気若手俳優も出演。前作の出演陣からは、殺し屋役の怪演で存在感を放つ竹中直人、俳優を引退したが今作限りの復帰を果たし、執念の演技で圧倒する根津甚八のほか、鶴見辰吾、佐藤浩市も、少ない出番ながら世界観の再構築に貢献した。人物の相関関係がかなり複雑なため、前作を未見の場合はDVDやネット配信などで観賞しておくと、熱い絆とダイナミックな激突を一層楽しめるだろう。 『岸辺の旅』(10月1日公開)は、湯本香樹実による同名小説を黒沢清監督が映画化した究極のラブストーリー。夫の優介(浅野忠信)が失踪してから3年がたち、妻の瑞希(深津絵里)は喪失感を抱えながらもピアノを教える仕事を再開した。だがある夜、突然帰ってきた優介は「俺、死んだよ」と告げる。かつて旅したきれいな場所を再訪したいという優介に誘われ、瑞希は2人で旅に出る。失踪からの3年間に優介が世話になった人々を訪ねる旅を通じて、互いの深い愛を再確認する2人だったが、旅の終わりが近づきつつあることにも気づいていた。  実体化した亡夫に連れられ妻が訪れる3つの旅先で、いずれも「死」にとらわれた人々との関わりが描かれる。つまり、彼岸との近さを意識させられる此岸(しがん)の旅を通じて、「死者とともに生きる」ことの意味を問いかける作品。夫婦や家族をつなぐ愛、死者を大切に思う感情、ささやかなユーモアを前面に出した作りだが、ホラーを多く演出してきた黒沢監督らしく、映像や効果音の控え目な仕掛けを伏線として張り巡らせており、細部まで見逃せない。浅野の超然とした存在感、深津の感情を抑えた演技が素晴らしく、小松政夫、蒼井優、柄本明らとのミニマルなアンサンブルも味わい深い。しみじみと深い余韻を残す、大人向けのファンタジーだ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『GONIN サーガ』作品情報 <http://eiga.com/movie/80548/> 『岸辺の旅』作品情報 <http://eiga.com/movie/80556/>

マーベルから世界最小のヒーローが登場! 今週末公開の映画『アントマン』『恋人まで1%』

main
(C)2013 AWOD Productions, LLC. All Rights Reserved
 今週取り上げる最新映画は、主人公が蟻サイズに小型化して悪と戦うヒーローアクションと、恋人同士になりきれないアラサー男女が織りなす恋愛模様を描くラブコメ。どちらも魅力的なキャストと、ふんだんに盛り込まれた笑いで気軽に観賞できる娯楽作だ(いずれも9月19日公開)。  『アントマン』は、『アベンジャーズ』シリーズなどでスーパーヒーローを輩出するマーベルスタジオ作品の中でも、体長1.5センチという極小のヒーローが活躍する異色のアクション大作。前科者のスコット(ポール・ラッド)は、仕事が長続きせず前妻から非難され、養育費が払えないため最愛の娘にも会わせてもらえない。かつての刑務所仲間にそそのかされ、豪邸に盗みに入るも、手にしたのは奇妙なスーツとヘルメットだけ。だがそのスーツを着込むと、体がわずか1.5センチに縮んでしまう。さらにスコットは、豪邸の主で特殊スーツを開発した天才科学者ピム(マイケル・ダグラス)から、スーツを着て特殊な能力を駆使する「アントマン」になり世界を救うミッションを託される。  当初は『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(2014年)のエドガー・ライトによる監督・脚本で進んでいたプロジェクトだが、マーベルとの見解の相違により残念ながら監督は降板。後任を『イエスマン “YES”は人生のパスワード』(09年)のペイトン・リードが務めた。見慣れた家具やオモチャがアントマン視点で巨大に見えたり、小さな空間でのダイナミックなアクションが人間視点だとショボかったりと、サイズ違いのギャップを巧みにスペクタクルや笑いに転換。ヘタレ感漂うバツイチ男が請われてアントマンになる過程も、従来のマーベルヒーローとは一味違って親近感がわく。ピムの娘ホープに扮するエバンジェリン・リリーは、リブ・タイラー似の美貌とハードなアクションで魅せる。マーベル映画のお約束、エンディング後に次回作の展開をほのめかすシーンまで、どうぞお見逃しなく。 『恋人まで1%』は、のザック・エフロンと『ニード・フォー・スピード』(14年)のイモージェン・プーツ共演でアラサー男女のリアルな恋愛を描くラブコメディ。ニューヨークでデザイナーとして働く青年ジェイソン(エフロン)は、真剣な恋人を作らず、親友らとクラブでナンパしたり、セフレを呼び出したりして気楽に暮らしていた。仲間と「恋人を作らず独身でいよう」と誓い合った矢先、ジェイソンはバーで出会ったエリー(プーツ)と意気投合し、本気で彼女に惹かれてしまう。  監督・脚本は本作でデビューを飾ったトム・ゴーミカン。脚本に惚れ込んだエフロンが初のプロデュースも務め、全裸で便器の上に横たわるなどノリノリで主人公を演じた。過去の出演作ではシリアスな役が多かったプーツは、キュートでファニーな魅力が全開。都合のいい関係を望む男性陣の恋愛観、結婚観が少々幼稚な感じもするが、そこから失敗や挫折を経て成長する姿は共感を呼びそう。原題『That Awkward Moment』が意味する「気まずい瞬間」を含め、男女の関わりの中で思い当たることの多いさまざまな場面が、高揚感、切なさ、後悔、希望といった感情を喚起し、笑いと涙の先に人生の教訓をさりげなく伝えてくれる。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『アントマン』作品情報 <http://eiga.com/movie/82138/> 『恋人まで1%』作品情報 <http://eiga.com/movie/79887/>

色眼鏡を取り除く“反原発抗議行動”ドキュメンタリー『首相官邸の前で』

main_s
 9月2日、東日本大震災に端を発して始まった首相官邸前での一連の抗議行動がテーマのドキュメンタリー『首相官邸の前で』が、渋谷区にあるアップリンクで先行上映された。  本作は、慶應義塾大学教授で歴史社会学者の小熊英二が初監督したドキュメンタリー作品。2012年の首相官邸前の脱原発抗議行動を中心に、当事者たちのインタビューと、市民が撮影したさまざまな映像で構成された作品だ。  これまで筆者は、幾度も首相官邸前や国会前を取材で訪れてきた。しかし、大勢の人々が参加する一連のデモは、自分の周囲であった体験でしか語ることができない。  ところが、この作品は、さまざまな人物のインタビューに市民が撮影した映像(ネット上に公開されていたものを許諾を得て使用)を加えることによって、首相官邸前で何が起こってきたのかを1時間50分あまりの中で体験することができるのだ。
sub_01_s
 これは、歴史社会学者の監督だからこそ作り得た映像であり、20年後、あるいは50年後といった後世に残す歴史資料になっているのである。  今回の先行上映に駆けつけた大きな理由は、筆者の仕事仲間である石崎俊一が本作の撮影と編集を担当しているからにほかならない。『渋谷ブランニューデイズ』(監督/遠藤大輔)、『こどもこそミライ まだ見ぬ保育の世界』(監督/筒井勝彦)と、これまでもアップリンクで劇場公開され、話題を呼んだ異色のドキュメンタリー作品の撮影班に参加してきた石崎は、新人監督である小熊英二と2人で、この作品を完成させた。石崎は本作のほかにも、子どもの保育をテーマにした今秋公開の長編ドキュメンタリー映画『子どもは風をえがく』(監督/筒井勝彦)の撮影も担当している。  小熊英二といえば、上下巻あわせて2,000ページ以上もある、角川財団学芸賞を受賞した主著『1968』(新曜社)をはじめ、多くの著書が名だたる賞を受賞してきただけに、それらの著書から受ける重厚なイメージや、近年の脱原発デモなどでのスピーチから感じた近寄りがたい印象もあり、少なからず距離感を感じていたのだが、それらはすべて杞憂に終わった。  上映の1時間ほど前、アップリンクのカフェで石崎と合流した。小熊監督の所在を聞けば、この日は先行上映ということもあって分刻みの取材スケジュールをこなしているという。首相官邸前という話題のキーワードをタイトルに冠した作品の注目度に感嘆しつつ、まずは昨年の6月以来、1年以上にわたって小熊監督の下で共同作業をやってきた石崎に話を聞くことにした。
sub_02_s
 石崎は、自身もドキュメンタリー作品の撮影や編集を担当してきた、駆け出しの映像制作者である。小熊監督は社会学においては大家であっても、映像制作となると未知の分野。そんな人物との共同作業は大変だったのではないかと感じたのだが、「正直いって、普段の仕事とは勝手が違ったのは確かですね」とは話しつつも、石崎からは何ひとつ苦労話を聞くことはなかった。 「小熊さんの本を読んでいたこともあって、歴史社会学者の小熊さんが映画という限られた時間の中で、どのようにあそこで起きたことをまとめるのかに興味があった」と小熊監督との仕事を振り返った。  昨年10月に出来上がった粗編は7時間あまり。当然、約1時間49分の作品として仕上げるのは容易な作業ではない。小熊監督とは頻繁に連絡を取り、構成や編集の試行錯誤を重ねた。その後、最終仕上げの段階では小熊監督の自宅で編集を行い、作業の合間には小熊監督の手料理も振る舞われたという。  そんな話をしていると、大手メディアの取材を終えた小熊監督が姿を現した。挨拶の後、そこで筆者は「作業中の食事は出前とかお弁当ではなく、小熊監督の手料理だったのですか?」と話を切り出した。すると、小熊監督は丁寧な口調で、「何も特別なことではありませんよ。いつも自宅にいるときは、自分でつくっているので……」と、物静かに語ってくれた。  その発言には、脱原発デモの演説で感じた敷居の高さは、みじんも感じられなかった。それどころか、石崎との共同作業が大した問題もなく進んだことへの感謝を述べつつ、作品についても謙虚な姿勢で説明をするばかり。 「政治的な映画というわけではなく、アート映画として観てもいいと思います」
sub_03_s
 その真摯な態度は、上映後のトークイベントでもなんら変わることがなかった。そう、この丁寧で控えめな態度こそが、小熊英二の素顔だったのである。  トークイベントのゲストとして登壇したのは、昨今の安保法案の問題で注目を集めているSEALDsの奥田愛基・梅田美奈の2人。首相官邸前の脱原発デモに参加した当初は、デモの知識などまったくなかったという奥田は「社会の根幹が壊れかかっている。こういう時には、何が起こるかわからない」と、自らの体験から得た社会情勢についての見解を述べた。  一方、震災前からいわゆる“高円寺系”の運動に興味を持っていたという梅田は、自らも学業とアルバイトという生活に追われる中でさまざまなプラカードをデザインするなど、とにかく自分にできることをやっていると発言。さらに奥田は「交通費がなく、会議を休むメンバーもいる」と、学生が行動することそのものが困難な社会構造が生まれているとも語った。  こうしたゲストの発言を踏まえて、小熊監督が丁寧に補足する姿は実に印象的であった。  トーク中、梅田が高円寺の「素人の乱」に触れていたため、イベント終了後の奥田に声をかけて少しばかり立ち話をした。筆者は自己紹介を兼ねて、“高円寺系”の中心的人物でもあるリサイクルショップ「素人の乱」店主の松本哉とは、彼が貧乏人大反乱集団を立ち上げた頃からの付き合いであることを告げたのだった。かつて筆者は松本をモデルとした劇場公開作『おやすみアンモナイト』(監督/増田俊樹)の脚本を執筆し、今月中旬に上梓される単著『コミックばかり読まないで』(イースト・プレス)の本文でも、松本と活動を共にした時代の経緯を鮮明に伝えている。そんな、中年に差しかかろうとしている筆者の思い出話に対しても「すごいですね」と奥田は笑ってくれ、爽やかな表情を見せてくれたのだった。
sub_04_s
 そんな彼らの行動に思いを巡らせているうちに、六本木ヒルズ粉砕を掲げてクリスマスの六本木ヒルズを混乱に陥れたり、新宿の駅前で鍋を囲むことを「闘争」だと称して日々活動していた頃の、懐かしい記憶が走馬灯のように甦ってきた。  そうしてあらためて考えた。筆者の生業はルポライターである。野良犬のごとき直感と若々しい感性で行動して思考する生き物である。しかし、筆者は彼らのネガティブな側面、すなわち「護憲」や「民主主義」を旗印に掲げる主張の甘さや、警察権力との対峙よりも「場の維持」を重視しているといったことばかりに耳を傾け、彼らの生の声を聞く機会を逸していた……。  この『首相官邸の前で』は、上映後にゲストや観客同士が映画の内容などについて話し合う、トークシェアという時間を設けている。本編とトークシェアの体験を経て、私を取り巻く偏見という色眼鏡を確かに取り外してくれたのであった。 (取材・文=昼間たかし『首相官邸の前で』公式サイト http://www.uplink.co.jp/kanteimae/ 渋谷アップリンクにて、9月19日(土)より連日10:30トークシェア上映 隔週水曜20:00の回はゲストを交えたトークシェア上映 『子どもは風をえがく』公式サイト http://www.kazeoegaku.com ラピュタ阿佐ヶ谷他にて、10月4日(日)より連日上映