捕鯨船エセックス号を巨大な“怪物”が襲う! 名作小説の元になった実話を映画化『白鯨との闘い』

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(C)2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC ALL RIGHTS RESERVED.
 今週取り上げる最新映画は、故・森田芳光監督ゆかりのキャスト・スタッフが豪華に集う人情コメディーと、小説『白鯨』のモデルになった19世紀の実話を最新の視覚効果と3D映像で蘇らせた海洋活劇。新人監督による心温まる娯楽作と、ハリウッドの名匠がタブーに挑む衝撃作という点でも、好対照の2作品だ(いずれも1月16日公開)。 『の・ようなもの のようなもの』は、森田芳光監督のデビュー作『の・ようなもの』(1981)の35年後を描くオリジナル作品。落語家一門の出船亭で修行中の志ん田(しんでん)は、師匠から以前在籍していた志ん魚(しんとと)を探すよう命じられる。あちこち訪ね歩いてようやく見つけた志ん魚は、落語とは無縁の中年男になっていた。なんとか復帰させたい師匠の指示により、志ん田は志ん魚と共同生活を始めることになる。  森田作品の多くで助監督や監督補を務めた杉山泰一が、本作で監督デビューを果たした。森田監督の遺作「僕達急行 A列車で行こう」でも主演した松山ケンイチが志ん田に扮し、徐々に上達する落語とユーモラスな顔芸で楽しませる。『の・ようなもの』に出演した伊藤克信、尾藤イサオ、でんでんらが同じ役柄で登場するほか、森田作品ゆかりの北川景子、鈴木京香、ピエール瀧、塚地武雅ら豪華キャストが集結し、同窓会のような懐かしさも。スクリーンに映らないスタッフも含め、森田監督への変わらぬ愛情が心地よく伝わる好作で、きっと鑑賞後に過去の森田作品を改めて見たくなるはずだ。 『白鯨との闘い』(2D/3D上映)は、『アポロ13』(95)、『ビューティフル・マインド』(2002)のロン・ハワード監督が、名作小説『白鯨』の基になった史実を映画化したサバイバル巨編。1819年、捕鯨船エセックス号に乗り込んだ一等航海士オーウェンと21人の仲間たちは、米東岸沖から南下してホーン岬をまわり、はるか太平洋を目指す。クジラの群れを見つけた歓喜もつかの間、白い巨大マッコウクジラに体当たりされた船は沈没してしまう。わずかな食料と水を3艘のボートに移して脱出した乗組員らは、さらに過酷な漂流生活を余儀なくされる。  主人公のオーウェン役は、『ラッシュ プライドと友情』(13)からハワード監督と再タッグとなるクリス・ヘムズワース。自然の猛威を象徴する白鯨がCGでリアルに描写され、オーウェンと白鯨のスリリングな死闘が中盤のハイライトとなるが、そこからさらに壮絶なサバイバル劇が展開する。3D映像では、嵐との遭遇や捕鯨の場面などが臨場感たっぷりに描かれるほか、小物のクローズアップや超ローアングルからの撮影などで変化をつける工夫が効いている。欧米では過去の蛮行とされる捕鯨や、小説で描かれなかったタブーに真正面から取り組む、ハワード監督の変わらぬ挑戦と冒険に脱帽だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『の・ようなもの のようなもの』作品情報 <http://eiga.com/movie/81041/> 『白鯨との闘い』作品情報 <http://eiga.com/movie/79815/>

“それ”はジワジワと近づいてくる……ファン必見の新感覚ホラー『イット・フォローズ』

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(c)2014 It Will Follow. Inc./配給: ポニーキャニオン
 今週取り上げる最新映画は、青春映画の名手・行定勲監督が大胆な仕掛けで観客を驚かせる衝撃作と、斬新な設定で恐怖がジワジワ募る米国製ホラー。いずれもジャンルをクロスオーバーさせて味わいを深めた、創意工夫が光る2作品だ。 『ピンクとグレー』(1月9日公開)は、アイドルグループNEWSの加藤シゲアキが発表した小説を、『GO』(2001年)、『世界の中心で、愛をさけぶ』(04年)の行定勲監督が映画化した青春サスペンスドラマ。人気俳優の蓮吾が、自宅で首を吊った姿で見つかる。第一発見者は、幼い頃からの親友で無名俳優の大貴。遺書に導かれ、蓮吾の伝記を発表して一躍時の人となるが、親友の死で得た名声に苦しむ大貴は、次第に自分を見失っていく。  脚本を担当した若手劇作家・蓬莱竜太と行定監督が、原作を大胆に改変。幕開けから62分後に「世界が一変する仕掛け」を組み込んだ。Hey!Say!JUMPの中島裕翔が映画初出演・初主演。菅田将暉、夏帆、マキタスポーツ、柳楽優弥らが脇を固める。前半の明示的な伏線や「ある種の違和感」から、仕掛けの予想がつく観客も多いだろうが、構造が明らかになる後半もストーリーの重層的な展開で飽きさせない。真相を知ったあとで二度観したくなる人が続出しそうな、巧みに構成された意欲作だ。 『イット・フォローズ』(公開中、R15+指定)は、長編デビュー作がカンヌ映画祭批評家週間で上映された新鋭、デビッド・ロバート・ミッチェル監督の第2作となる新感覚ホラー。19歳の女子大生ジェイは、ある男とセックスをしたことで、「それ(it)」をうつされてしまう。「それ」はうつされた者だけに見える存在で、ゆっくり歩いて近づき、時折姿を変える。捕まると必ず殺されるため、その前に誰かにうつさなければならないが、うつした相手が死ぬとまた自分に戻ってくる。ジェイは妹やその友達の助けを借りながら、追いかけてくる「それ」から逃げようとするが……。  ミッチェル監督が子ども時代の悪夢から着想を得たという、「それ」の設定が抜群にユニーク。スピードは遅く、普通の人の姿をしていて、夜に限らず白昼でもおかまいなしに現れる。設定だけ並べても大して怖くなさそうだが、10代後半の性交渉(および性感染症)に対する恐れ、他者との関係をめぐる漠然とした不安を重ね合わせて、青春の切なさややるせなさも加味した極上のサイコホラーに仕上がっているのだ。監督の出身地でもあるデトロイト市の、打ち捨てられ、時の流れから取り残されたような郊外の町並みや、無機質なシンセサイザーのBGMも、独特の世界観に貢献。J・カーペンター、Q・タランティーノ、E・ロスら名だたる個性派監督からも絶賛された本作は、ホラー好きなら必見、ほかにも一風変わった作品に出合いたい映画ファンにオススメの1本だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ピンクとグレー』作品情報 <http://eiga.com/movie/81653/> 『イット・フォローズ』作品情報 <http://eiga.com/movie/82021/>

2016年のスタートを飾る名作がめじろ押し! トム・ハンクス『ブリッジ・オブ・スパイ』ほか

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(C)2015 DREAMWORKS II DISTRIBUTION CO., LLC and TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION.
 今週の当コーナーは特別編として、「オススメの2016年年明け公開映画」を取り上げたい。映画館に居ながらにして、時間と空間を超える旅や冒険を体験できる必見の3作品だ。 『ブリッジ・オブ・スパイ』(1月8日公開)は、スティーブン・スピルバーグ監督3年ぶりの新作で、米ソ冷戦時代の実話に基づくサスペンスドラマ。ニューヨークで保険法を専門とする弁護士ジェームズ(トム・ハンクス)は、FBIに逮捕されたソ連スパイ・ルドルフの弁護を引き受ける。正義の原則を貫き、死刑確実だったルドルフに懲役30年の判決をもたらす。これがきっかけとなり、ジェームズは5年後、米ソがそれぞれ捕らえたスパイの交換を実現するための交渉役として、東ベルリンへ派遣される。 『ファーゴ』(1996)、『ノーカントリー』(2007)でアカデミー賞計4冠のジョエル&イーサン・コーエンが脚本を担当し、米ソそれぞれで進行するドラマをこまめに切り替えるなど巧みな構成で緊張感を高める。「アメリカの良心」を演じさせたら当代随一のハンクスに、スピルバーグ監督による円熟の演出が相まって、ジェームズの葛藤と勇気、ルドルフとの心の交流が感動的に再現された。音楽の録音も素晴らしく、要所を的確に盛り上げている。
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(C) Universal Pictures.
『クリムゾン・ピーク』(1月8日公開、R15+指定)は、『パンズ・ラビリンス』(06)の鬼才ギレルモ・デル・トロ監督によるゴシックホラー。20世紀初頭のニューヨーク州で、10歳の時に死んだはずの母親を目撃して以来、幽霊を見るようになったイーディス(ミア・ワシコウスカ)。父親の不審死の後、英国から来た青年トーマス(トム・ヒドルストン)と結婚したイーディスは、トーマスとその姉ルシール(ジェシカ・チャステイン)と一緒に英国の「深紅の山頂=クリムゾン・ピーク」に建つ古い屋敷で暮らし始める。  往年の怪奇映画の舞台を思わせるゴシック建築の荘厳な屋敷が、デル・トロ監督ならではの映像美で鮮明に、ムード満点で蘇る。実際、幽霊をはじめさまざまな怪奇現象が起きるが、本当に恐ろしいのは人間のほう。ワシコウスカ、ヒドルストン、チャステインの古風な美貌もゴシック様式の背景によく似合う。三者三様の愛憎が哀しくも恐ろしい、妖しい魅力に満ちた衝撃作だ。
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(C) 2015 Galatee Films - Pathe Production - France 2 Cinema - Pandora Film - Invest Image 3 - Rhone-Alpes Cinema - Winds - Pierre et Vacances
『シーズンズ 2万年の地球旅行』(1月15日公開)は、『オーシャンズ』(10)のジャック・ペラン監督が、地球上の動物の進化や人間との共生を映像で語るドキュメンタリー。2万年前の氷河期から姿を変えずに極寒地で生きるジャコウウシ。1万年前に気温が急上昇し、緑が広がった地上に誕生する多種多様な生命。四季が始まり、森が動物たちの楽園だった時代を経て、人間が集落を形成。一部の動物たちは家畜となり、姿を変えながらたくましく生き続ける。  今の時代に撮影した映像で、2万年の動物進化の歴史を表現するというアイデアがいい。『WATARIDORI』(01)で開発した軽量飛行機の改良版をはじめ、無音電動バギー、スタジアム等に導入されているケーブル移動式カメラの応用など、動物撮影に最適な機材を投入し、求めるシーンを得るまでスタッフが根気強く待ち続けた。「よくこんな映像が撮れたな」と驚かされるシーンが満載。森の自然音がサラウンド音響でリアルに再現され、森林浴を疑似体験できるオマケつきだ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ブリッジ・オブ・スパイ』作品情報 <http://eiga.com/movie/82155/> 『クリムゾン・ピーク』作品情報 <http://eiga.com/movie/83321/> 『シーズンズ 2万年の地球旅行』作品情報 <http://eiga.com/movie/81861/>

実在した“神の一手”天才チェスプレイヤーを、トビー・マグワイアが好演!『完全なるチェックメイト』

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(C)2014 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. Photo Credit: Tony Rivetti Jr.
 今週取り上げる最新映画は、米ソ冷戦下で代理戦争として世界が注目したチェス対決と、1世紀前のアルメニア人大虐殺をそれぞれ描くドラマ2作品。主人公の生き様を通じて知られざる歴史の裏側を照らし出す、名監督たちの手腕を堪能できる力作だ。  『完全なるチェックメイト』(公開中)は、トビー・マグワイア主演で天才チェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーの半生を描く伝記ドラマ。ニューヨークで幼少時代からチェスの才能を開花させたボビーは、15歳で史上最年少のグランドマスターに。何度も引退と復帰を繰り返したり、突飛な言動で周囲を振り回すボビーだったが、20代後半に国際大会で勝利を重ね、ソ連が誇る世界王者ボリス・スパスキーへの挑戦権を獲得。時は米ソ冷戦期の1972年、全24局の「世紀の対決」は、両国の威信をかけた代理戦争の様相を帯び、世界中にテレビ中継される。だがボビーは、極限のプレッシャー下で始まった第1局を凡ミスで落とし、第2局をボイコットして、2連敗と追い込まれる。  監督は『ラスト サムライ』(2003)、『ブラッド・ダイヤモンド』(06)の名匠エドワード・ズウィック。フィッシャー対スパスキーの頭脳戦を、表情や目の動き、立ち居振る舞いの繊細な描写でスリリングに再現した。今なお「神の一手」と語り継がれる勝負がハイライトだが、チェス自体の魅力や指し手の独創性が伝わってこないのが少々もどかしい。とはいえ、不世出の天才が挑んだ大勝負が、米ソ両首脳の思惑を含む舞台裏も交えて展開し、思わず手に汗握る観賞になること請け合いだ。 『消えた声が、その名を呼ぶ』(12月26日公開)は、トルコ系ドイツ人の若き巨匠ファティ・アキンが、トルコ最大のタブーといわれる100年前のアルメニア人大虐殺を背景に、生き別れた家族を探す男の過酷で壮大な旅路を描いたドラマ。第1次大戦下の1915年、オスマン帝国辺境の町マルディンで、鍛冶業を営むアルメニア人ナザレット(タハール・ラヒム)は、妻や双子の娘たちと幸せに暮らしていた。だがある日突然、憲兵によって家族と引き離され、砂漠に強制連行される。奴隷同然の労働、無慈悲な処刑をかろうじて生き延びるが、ナイフの傷で声を失ったナザレットは、家族との再会を願い、レバノン、キューバ、アメリカを旅してゆく。  声を奪われた主人公ナザレットは、歴史に埋もれたアルメニア人被害者たちを象徴すると同時に、チャップリンの『キッド』の上映シーンで示唆されるように無声映画へのオマージュでもある。身ぶり手ぶりと筆談で家族の居場所を尋ね、灼熱の砂漠をさまよい、大海を渡り、雪の荒れ地を歩く旅は重苦しく悲痛だが、雄大な景観と美しい音楽による浄化作用も見逃せない。アキン監督が“愛、死、悪に関する3部作”として、『愛より強く』(06年公開、ベルリン国際映画祭金熊賞)、『そして、私たちは愛に帰る』(08年公開、カンヌ国際映画祭脚本賞)に続く最終章と位置づける本作。善と悪の間で揺らぐ人々を見つめる視点は、民族対立や移民の問題、テロ攻撃などの理不尽な暴力に揺れる現在の世界でさらに価値を増している。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『完全なるチェックメイト』作品情報 <http://eiga.com/movie/80083/> 『消えた声が、その名を呼ぶ』作品情報 <http://eiga.com/movie/82696/>

実在した“神の一手”天才チェスプレイヤーを、トビー・マグワイアが好演!『完全なるチェックメイト』

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(C)2014 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. Photo Credit: Tony Rivetti Jr.
 今週取り上げる最新映画は、米ソ冷戦下で代理戦争として世界が注目したチェス対決と、1世紀前のアルメニア人大虐殺をそれぞれ描くドラマ2作品。主人公の生き様を通じて知られざる歴史の裏側を照らし出す、名監督たちの手腕を堪能できる力作だ。  『完全なるチェックメイト』(公開中)は、トビー・マグワイア主演で天才チェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーの半生を描く伝記ドラマ。ニューヨークで幼少時代からチェスの才能を開花させたボビーは、15歳で史上最年少のグランドマスターに。何度も引退と復帰を繰り返したり、突飛な言動で周囲を振り回すボビーだったが、20代後半に国際大会で勝利を重ね、ソ連が誇る世界王者ボリス・スパスキーへの挑戦権を獲得。時は米ソ冷戦期の1972年、全24局の「世紀の対決」は、両国の威信をかけた代理戦争の様相を帯び、世界中にテレビ中継される。だがボビーは、極限のプレッシャー下で始まった第1局を凡ミスで落とし、第2局をボイコットして、2連敗と追い込まれる。  監督は『ラスト サムライ』(2003)、『ブラッド・ダイヤモンド』(06)の名匠エドワード・ズウィック。フィッシャー対スパスキーの頭脳戦を、表情や目の動き、立ち居振る舞いの繊細な描写でスリリングに再現した。今なお「神の一手」と語り継がれる勝負がハイライトだが、チェス自体の魅力や指し手の独創性が伝わってこないのが少々もどかしい。とはいえ、不世出の天才が挑んだ大勝負が、米ソ両首脳の思惑を含む舞台裏も交えて展開し、思わず手に汗握る観賞になること請け合いだ。 『消えた声が、その名を呼ぶ』(12月26日公開)は、トルコ系ドイツ人の若き巨匠ファティ・アキンが、トルコ最大のタブーといわれる100年前のアルメニア人大虐殺を背景に、生き別れた家族を探す男の過酷で壮大な旅路を描いたドラマ。第1次大戦下の1915年、オスマン帝国辺境の町マルディンで、鍛冶業を営むアルメニア人ナザレット(タハール・ラヒム)は、妻や双子の娘たちと幸せに暮らしていた。だがある日突然、憲兵によって家族と引き離され、砂漠に強制連行される。奴隷同然の労働、無慈悲な処刑をかろうじて生き延びるが、ナイフの傷で声を失ったナザレットは、家族との再会を願い、レバノン、キューバ、アメリカを旅してゆく。  声を奪われた主人公ナザレットは、歴史に埋もれたアルメニア人被害者たちを象徴すると同時に、チャップリンの『キッド』の上映シーンで示唆されるように無声映画へのオマージュでもある。身ぶり手ぶりと筆談で家族の居場所を尋ね、灼熱の砂漠をさまよい、大海を渡り、雪の荒れ地を歩く旅は重苦しく悲痛だが、雄大な景観と美しい音楽による浄化作用も見逃せない。アキン監督が“愛、死、悪に関する3部作”として、『愛より強く』(06年公開、ベルリン国際映画祭金熊賞)、『そして、私たちは愛に帰る』(08年公開、カンヌ国際映画祭脚本賞)に続く最終章と位置づける本作。善と悪の間で揺らぐ人々を見つめる視点は、民族対立や移民の問題、テロ攻撃などの理不尽な暴力に揺れる現在の世界でさらに価値を増している。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『完全なるチェックメイト』作品情報 <http://eiga.com/movie/80083/> 『消えた声が、その名を呼ぶ』作品情報 <http://eiga.com/movie/82696/>

一瞬で人生が変わる!? 往年の名作のオマージュが光る、大人のおとぎ話『マイ・ファニー・レディ』

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(C)STTN Captial,LLC 2015
 今週取り上げる最新映画は、一風変わった愛が巻き起こす騒動を描く「大人のおとぎ話」ともいうべき2作品。片や往年のハリウッド恋愛喜劇を想起させるウェルメイドの娯楽作、片や幸福と不幸のはざまを独特のユーモアで描く新感覚の邦画と、対照的な2本でもある(いずれも、12月19日公開)。 『マイ・ファニー・レディ』は、『ペーパームーン』(1974年)の名匠ピーター・ボグダノビッチ監督による群像コメディ。演出家のアーノルド(オーウェン・ウィルソン)は舞台公演を控えたある夜、初対面のコールガール・イジー(イモージェン・プーツ)をデートに連れ出し、今の仕事を辞めることを条件に3万ドルをプレゼントする。女優になる夢を取り戻したイジーが新作舞台のオーディションに行くと、そこにはアーノルドと、彼の妻で主演女優のデルタ(キャスリン・ハーン)がいた。アーノルドの困惑に反し、イジーが役を得たことで、思わぬ騒動が繰り広げられる。  有名ブランドのモデルに抜擢される抜群のスタイル、派手な目鼻立ちの美女なのに天然のファニーな愛らしさも備えるプーツに、イジーは、まさにハマり役。ウィルソンとハーン、セラピスト役のジェニファー・アニストンも、少しずつズレたキャラクターを熱演して笑わせる。往年の名作やスターたちへのオマージュがちりばめられ、カメオ出演の顔ぶれも豪華。私生活では婚約者と死別したボグダノビッチ監督、自殺未遂歴のあるウィルソン、ブラッド・ピットと離婚したアニストンら、どん底からの再起を果たした面々が贈る、愛に満ちた人生賛歌としても味わい深い。 『友だちのパパが好き』(R15+指定)は、CM、演劇など多方面で活躍する山内ケンジ監督の長編第2作となる風変わりなラブコメディー。女子大生の箱崎妙子(岸井ゆきの)は、自分の父親・恭介(吹越満)に対する恋心を親友のマヤ(安藤輪子)から突然告白される。その話を聞き、母のミドリ(石橋けい)は笑い飛ばすが、恭介はうれしさを隠しきれない。しかし、恭介には長年の愛人がいて、そのため夫婦は離婚を決めていた。マヤが恭介へ猛アタックを開始したことで、箱崎家の3人と周囲の人間関係が大きく揺らぎ、崩れ始める。  不倫していながら第3の女性に心ときめかせるダメ男、父親の不実を許せない娘、常識外れのアプローチを仕掛ける人物といった具合に、山内監督のデビュー作『ミツコ感覚』(2011年)と多くの要素が共通する。それでいて、まったく異なるストーリーに仕立て、予想外の展開で観客を驚かせる手腕が見事。女たちの薄幸そうな表情を淡々と描き、そこに生まれる微妙な空気を笑いへ転化するセンスが抜群だ。数々の恋愛エピソードもカリカチュアライズされつつ、どこかしら普遍性を残していて共感を呼ぶ。愛人役の平岩紙、ミドリに言い寄る同僚役の宮崎吐夢という2人の大人計画所属俳優も、いいアクセントになっている。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『マイ・ファニー・レディ』作品情報 <http://eiga.com/movie/81148/> 『友だちのパパが好き』作品情報 <http://eiga.com/movie/83128/>

一瞬で人生が変わる!? 往年の名作のオマージュが光る、大人のおとぎ話『マイ・ファニー・レディ』

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 今週取り上げる最新映画は、一風変わった愛が巻き起こす騒動を描く「大人のおとぎ話」ともいうべき2作品。片や往年のハリウッド恋愛喜劇を想起させるウェルメイドの娯楽作、片や幸福と不幸のはざまを独特のユーモアで描く新感覚の邦画と、対照的な2本でもある(いずれも、12月19日公開)。 『マイ・ファニー・レディ』は、『ペーパームーン』(1974年)の名匠ピーター・ボグダノビッチ監督による群像コメディ。演出家のアーノルド(オーウェン・ウィルソン)は舞台公演を控えたある夜、初対面のコールガール・イジー(イモージェン・プーツ)をデートに連れ出し、今の仕事を辞めることを条件に3万ドルをプレゼントする。女優になる夢を取り戻したイジーが新作舞台のオーディションに行くと、そこにはアーノルドと、彼の妻で主演女優のデルタ(キャスリン・ハーン)がいた。アーノルドの困惑に反し、イジーが役を得たことで、思わぬ騒動が繰り広げられる。  有名ブランドのモデルに抜擢される抜群のスタイル、派手な目鼻立ちの美女なのに天然のファニーな愛らしさも備えるプーツに、イジーは、まさにハマり役。ウィルソンとハーン、セラピスト役のジェニファー・アニストンも、少しずつズレたキャラクターを熱演して笑わせる。往年の名作やスターたちへのオマージュがちりばめられ、カメオ出演の顔ぶれも豪華。私生活では婚約者と死別したボグダノビッチ監督、自殺未遂歴のあるウィルソン、ブラッド・ピットと離婚したアニストンら、どん底からの再起を果たした面々が贈る、愛に満ちた人生賛歌としても味わい深い。 『友だちのパパが好き』(R15+指定)は、CM、演劇など多方面で活躍する山内ケンジ監督の長編第2作となる風変わりなラブコメディー。女子大生の箱崎妙子(岸井ゆきの)は、自分の父親・恭介(吹越満)に対する恋心を親友のマヤ(安藤輪子)から突然告白される。その話を聞き、母のミドリ(石橋けい)は笑い飛ばすが、恭介はうれしさを隠しきれない。しかし、恭介には長年の愛人がいて、そのため夫婦は離婚を決めていた。マヤが恭介へ猛アタックを開始したことで、箱崎家の3人と周囲の人間関係が大きく揺らぎ、崩れ始める。  不倫していながら第3の女性に心ときめかせるダメ男、父親の不実を許せない娘、常識外れのアプローチを仕掛ける人物といった具合に、山内監督のデビュー作『ミツコ感覚』(2011年)と多くの要素が共通する。それでいて、まったく異なるストーリーに仕立て、予想外の展開で観客を驚かせる手腕が見事。女たちの薄幸そうな表情を淡々と描き、そこに生まれる微妙な空気を笑いへ転化するセンスが抜群だ。数々の恋愛エピソードもカリカチュアライズされつつ、どこかしら普遍性を残していて共感を呼ぶ。愛人役の平岩紙、ミドリに言い寄る同僚役の宮崎吐夢という2人の大人計画所属俳優も、いいアクセントになっている。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『マイ・ファニー・レディ』作品情報 <http://eiga.com/movie/81148/> 『友だちのパパが好き』作品情報 <http://eiga.com/movie/83128/>

世界を変えるか!? 史上最年少ノーベル賞授賞者マララの半生に迫った『わたしはマララ』

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(C) Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.
 今週取り上げる最新映画は、山田洋次監督が吉永小百合と二宮和也を主演に迎えて描くファンタジックなドラマと、ノーベル平和賞を最年少で受賞したパキスタンの少女を追ったドキュメンタリー。静かな語り口に込めた反戦の願いや、言葉の力で暴力に立ち向かう少女の勇気が、師走の心に温かな感動をもたらす力作たちだ。  『母と暮せば』(12月12日公開)は、劇作家の井上ひさしが広島を舞台にした戯曲『父と暮せば』と対になる物語として温めていたアイデアを、山田洋次監督が自ら脚本も手がけて映画化。1948年8月9日、長崎で助産婦をして暮らす伸子(吉永小百合)の前に、3年前に原爆で死んだはずの息子・浩二(二宮和也)が現れる。2人は思い出話に花を咲かせながらも、一番の関心は浩二の恋人だった町子(黒木華)のこと。町子の幸せを願いながらも、諦めきれない浩二と、そんな息子を優しくなだめる伸子。2人が心を通わせる大切な時間は永遠に続くようにみえたが……。  山田監督初のファンタジー作品で、幽霊である浩二が透けて消える視覚効果などを違和感なく取り入れた。吉永と二宮の濃密な対話劇の部分と自然につながり、戦争に命を奪われた者と遺された者それぞれの感情に、観客も思わず引き込まれる。山田監督・吉永小百合主演作『母べえ』(2008)にも起用された浅野忠信のほか、小林稔侍、橋爪功ら山田組の常連も、短い出番ながら印象的な演技で脇を固めた。原爆で大切な人を大勢失った市民の日常と秘めた思いを描くことで、反戦の願いを語り継ぐスタッフ・キャストの意志が確かに伝わってくる。  『わたしはマララ』(公開中)は、ノーベル平和賞を史上最年少で受賞した17歳の少女マララを、『不都合な真実』(07)のデイビス・グッゲンハイム監督が追ったドキュメンタリー。パキスタンのスワート渓谷で小さな学校を運営する父と文字の読めない母の長女として生まれたマララは、幼い頃から遊び場代わりに父の学校へ通い、教育の重要性と意見を主張することの大切さを学んでいた。タリバンがスワートを支配し、暴力と破壊、女子教育禁止などで住民を苦しめるようになると、マララはブログやドキュメンタリー番組で窮状を訴える。これによりタリバンに命を狙われる身となったマララは、15歳の時に銃撃され、頭に大怪我を負う。奇跡的に一命を取りとめた彼女は、以前にもまして活発な活動を再開する。  かつてイギリスに攻め込まれたアフガニスタンの兵士たちを鼓舞し、前線に立って銃弾に倒れた少女マラライにちなんで父が名付けたという。そうした冒頭のエピソードや、両親の出会い、マララの少女時代などがアニメーションで描かれ、実写映像のパートを効果的に補っている。父親の影響も大きいとはいえ、教育普及に献身するマララ自身の強い意志と、暴力に屈しない勇気に感嘆させられる。現在放映中の大河ドラマ『花燃ゆ』と朝ドラ『あさが来た』(共にNHK)も、女性の教育と地位向上に取り組んだヒロインが描かれており、タイムリーなテーマでもある。女性が勇気づけられる内容だが、男性にとっても大いに見るべき価値がある傑作ドキュメンタリーだ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『母と暮せば』作品情報 <http://eiga.com/movie/81537/> 『わたしはマララ』作品情報 <http://eiga.com/movie/82689/>

世界を変えるか!? 史上最年少ノーベル賞授賞者マララの半生に迫った『わたしはマララ』

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 今週取り上げる最新映画は、山田洋次監督が吉永小百合と二宮和也を主演に迎えて描くファンタジックなドラマと、ノーベル平和賞を最年少で受賞したパキスタンの少女を追ったドキュメンタリー。静かな語り口に込めた反戦の願いや、言葉の力で暴力に立ち向かう少女の勇気が、師走の心に温かな感動をもたらす力作たちだ。  『母と暮せば』(12月12日公開)は、劇作家の井上ひさしが広島を舞台にした戯曲『父と暮せば』と対になる物語として温めていたアイデアを、山田洋次監督が自ら脚本も手がけて映画化。1948年8月9日、長崎で助産婦をして暮らす伸子(吉永小百合)の前に、3年前に原爆で死んだはずの息子・浩二(二宮和也)が現れる。2人は思い出話に花を咲かせながらも、一番の関心は浩二の恋人だった町子(黒木華)のこと。町子の幸せを願いながらも、諦めきれない浩二と、そんな息子を優しくなだめる伸子。2人が心を通わせる大切な時間は永遠に続くようにみえたが……。  山田監督初のファンタジー作品で、幽霊である浩二が透けて消える視覚効果などを違和感なく取り入れた。吉永と二宮の濃密な対話劇の部分と自然につながり、戦争に命を奪われた者と遺された者それぞれの感情に、観客も思わず引き込まれる。山田監督・吉永小百合主演作『母べえ』(2008)にも起用された浅野忠信のほか、小林稔侍、橋爪功ら山田組の常連も、短い出番ながら印象的な演技で脇を固めた。原爆で大切な人を大勢失った市民の日常と秘めた思いを描くことで、反戦の願いを語り継ぐスタッフ・キャストの意志が確かに伝わってくる。  『わたしはマララ』(公開中)は、ノーベル平和賞を史上最年少で受賞した17歳の少女マララを、『不都合な真実』(07)のデイビス・グッゲンハイム監督が追ったドキュメンタリー。パキスタンのスワート渓谷で小さな学校を運営する父と文字の読めない母の長女として生まれたマララは、幼い頃から遊び場代わりに父の学校へ通い、教育の重要性と意見を主張することの大切さを学んでいた。タリバンがスワートを支配し、暴力と破壊、女子教育禁止などで住民を苦しめるようになると、マララはブログやドキュメンタリー番組で窮状を訴える。これによりタリバンに命を狙われる身となったマララは、15歳の時に銃撃され、頭に大怪我を負う。奇跡的に一命を取りとめた彼女は、以前にもまして活発な活動を再開する。  かつてイギリスに攻め込まれたアフガニスタンの兵士たちを鼓舞し、前線に立って銃弾に倒れた少女マラライにちなんで父が名付けたという。そうした冒頭のエピソードや、両親の出会い、マララの少女時代などがアニメーションで描かれ、実写映像のパートを効果的に補っている。父親の影響も大きいとはいえ、教育普及に献身するマララ自身の強い意志と、暴力に屈しない勇気に感嘆させられる。現在放映中の大河ドラマ『花燃ゆ』と朝ドラ『あさが来た』(共にNHK)も、女性の教育と地位向上に取り組んだヒロインが描かれており、タイムリーなテーマでもある。女性が勇気づけられる内容だが、男性にとっても大いに見るべき価値がある傑作ドキュメンタリーだ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『母と暮せば』作品情報 <http://eiga.com/movie/81537/> 『わたしはマララ』作品情報 <http://eiga.com/movie/82689/>

ダニエル・クレイグ版ボンド、最後となるか!? シリーズ最高傑作『007 スペクター』

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 今週取り上げる新作映画は、イギリスが誇るスパイアクションの先駆けで世界最長の映画シリーズでもある『007』の最新作と、日本・トルコ合作で両国友好のいしずえとなった2つの史実をドラマチックに描く感動作。年末年始の観賞にふさわしい、見応え十分の2作品だ。  『007 スペクター』(公開中)は、英諜報機関MI6のエリートスパイ、ジェームズ・ボンドが活躍する『007』シリーズの第24作。ボンド(ダニエル・クレイグ)は生家スカイフォールでの攻防で絶命した前任の上司Mの遺言に従い、単身でメキシコ、ローマに渡って危険なミッションを遂行する。MI6の廃止と主要9カ国の情報統合をもくろむ陰謀が進むなか、ボンドは余命わずかの旧敵ホワイトに託された娘マドレーヌ(レア・セドゥー)を伴い、強大な犯罪組織スペクターとその首領オーベルハウザー(クリストフ・ワルツ)を突き止める。  1,500人ものエキストラを動員してメキシコの奇祭「死者の日」を再現したオープニングの流麗な長回しから、「映画史上最大の爆破シーン」としてギネス世界記録に認定されたというモロッコの巨大施設の爆破まで、観客の目を釘付けにするスペクタクルが満載。前作『007 スカイフォール』(2012)からの続投のサム・メンデス監督は、『アメリカン・ビューティー』(1999)、『ロード・トゥ・パーディション』(2002)など人間ドラマに定評があり、ボンドと周辺人物のキャラクターを的確に描写することで、アクション場面とのエモーショナルな相乗効果に成功している。ダニエル・クレイグ版ボンドが本作で最後になる可能性もあり、シリーズのファンならずとも見逃せない屈指の話題作だ。  『海難1890』(12月5日公開)は、日本とトルコの友好の基礎となった海難事故と、95年後のイランでの邦人救出劇を描くヒューマンドラマ。1890年9月、オスマン帝国の親善使節団を乗せたエルトゥールル号が和歌山県樫野崎沖で台風に遭遇し、座礁して蒸気機関が爆発。500人以上の犠牲者が出るなか、医師・田村(内野聖陽)ら住民たちの懸命な救助活動で69人が生き残り、手厚い介護を受けたのち帰国する。時は流れて1985年、イラン・イラク戦争で緊張が高まるテヘランに、邦人300人以上が取り残される。日本大使館から救出を依頼されたトルコの首相は、救援機の追加派遣を決断。知らせを聞いて空港に集まった邦人215人は、ロビーを埋めつくすトルコ人たちが搭乗券を求めカウンターに詰め寄る姿を見て、希望を失いかける。  今から125年前に、海難事故に遭ったトルコ人たちを貧しい漁村の村人たちが献身的に助けた史実と、イランでの邦人の窮状を救ったトルコ人による「世紀を越えた恩返し」は、もっと広く知られるべき両国友好のハイライトだ。監督は『火天の城』(2009)、『利休にたずねよ』(2013)の田中光敏。『マイ・バック・ページ』(2011)の忽那汐里と、トルコ人俳優のケナン・エジェが、それぞれ二役で海難救助編とテヘラン救出編の主要な男女を演じ、2国間の運命的な絆を象徴している。テロや紛争、宗教や難民の問題で世界が揺れる今だからこそ、人種や国境を超えた真心の交流を描く本作から学ぶことは多い。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 「007 スペクター」作品情報 <http://eiga.com/movie/78967/> 「海難1890」作品情報 <http://eiga.com/movie/79893/>