今週取り上げる最新映画は、岡田准一と阿部寛がエベレストでの撮影に挑んだ山岳スペクタクルと、日本の魔法少女アニメが大好きな少女と男女3人の運命を描くスペイン発のドラマ。雄麗な最高峰と気迫みなぎる演技をとらえた映像や、独創的なストーリーと魔術のような展開で、いずれも同ジャンルのハリウッド映画と肩を並べる傑作たちだ(いずれも3月12日公開)。 『エヴェレスト 神々の山嶺(いただき)』は、夢枕獏の小説『神々の山嶺』を、『愛を乞うひと』(1998)、『必死剣 鳥刺し』(2010)の平山秀幸監督が映画化したスペクタクル大作。ヒマラヤ山脈を望むネパールの首都カトマンズで、山岳カメラマンの深町(岡田准一)は、1924年にエベレスト初登頂挑戦で行方不明になった英登山家の所有物らしきカメラを見つける。深町はカメラを調べる過程で、孤高の天才クライマー羽生(阿部寛)と出会う。羽生がエベレストの超難所に挑むと確信した深町は、羽生の元恋人・涼子(尾野真千子)を伴い、再びカトマンズへ。羽生の前人未踏の挑戦を、深町はカメラで追うことを決意する。 邦画初となるエベレストの5,200m級でのロケ撮影を敢行。キャスト・スタッフが1カ月以上に及ぶ過酷な撮影に命懸けで挑んだ映像に、神々しいほど気高く美しい世界最高峰と、それに対峙する男たちの覚悟が圧倒的なリアリティーで刻まれた。岡田はやさぐれた面も持つ野心家の役で新境地。阿部も求道者のようにストイックな登山家を男くさく演じきった。昨年はハリウッド製の『エベレスト3D』も公開されたが、人間の実存に迫る骨太なドラマという点では、本作のほうがより一層の高みに到達した印象だ。 『マジカル・ガール』は、新鋭カルロス・ベルムト監督の長編映画デビュー作にして、スペインのサン・セバスチャン国際映画祭でグランプリと監督賞を受賞した新感覚ドラマ。白血病で余命わずかな少女アリシアの夢は、大好きな日本のアニメ「魔法少女ユキコ」のコスチュームを着て踊ること。失業中の父ルイスは、高額なコスチュームを手に入れるため、思い切った行動に出る。それは、心に闇を抱えた女性バルバラや、刑務所を出所した元教師ダミアンを巻き込み、予想外の事態へと転じていく。 大の日本オタクというベルムト監督は、架空の魔法少女アニメのほかにも、長山洋子のデビュー曲「春はSA・RA・SA・RA」でアリシアが踊ったり、エンドロールで「黒蜥蜴の唄」(美輪明宏作詞・作曲)のカバー曲が流れるなど、日本のテイストを随所にちりばめた。大胆な省略でキャラクターや状況の謎を効果的に配し、先の読めないストーリーに引き込む手腕が鮮やかだ。善意が悲劇を招く連鎖で笑わせるシニカルなユーモアも絶品。スペインの巨匠ペドロ・アルモドバルが絶賛した本作は、昨年日本公開されたアルモドバル製作のアルゼンチン映画『人生スイッチ』(14)に並ぶ、注目すべきスペイン語映画のニューウェイブだ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『エヴェレスト 神々の山嶺(いただき)』作品情報 <http://eiga.com/movie/80572/> 『マジカル・ガール』作品情報 <http://eiga.com/movie/83438/>Una produccion de Aqui y Alli Films, Espana. Todos los derechos reservados (C)
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名作『セーラー服と機関銃』の後日譚を、“天使すぎるアイドル”橋本環奈が熱演!『セーラー服と機関銃 卒業』
今週取り上げる最新映画は、“天使すぎるアイドル”橋本環奈の初主演作と、リーマンショックを予見した型破りな金融マンたちの大逆転を描く骨太ドラマ。フィクションと実話ベースの違いはあれど、痛快なストーリーの裏に込めた社会風刺という共通項もある2作品だ。 『セーラー服と機関銃 卒業』(3月5日公開)は、薬師丸ひろ子主演で1982年邦画配収1位を記録した大ヒット映画『セーラー服と機関銃』の後日譚にあたる赤川次郎の小説を、橋本環奈主演で実写化した異色の青春エンターテインメント。かつて弱小組織・目高組の組長を務めた女子高生・泉(橋本)は、組を解散した後、元組員たちと地元商店街でカフェを開いていた。ある日、モデル志望の女性たちを狙った詐欺の話を聞き、泉たちは独自に調査を開始。ある暴力団がフロント企業を使い、市長候補や警察も抱き込んで街を乗っ取ろうとしていることを知った泉は、組を再結成し、街を守るために立ち上がる。 角川映画40周年記念作品となる本作。『婚前特急』(2011年)の前田弘二監督がメガホンを取り、長谷川博己、安藤政信、鶴見辰吾、武田鉄矢ら実力派が脇を固めた。アイドルやテレビタレントとして既に知名度抜群の橋本が、女優として飛躍的に成長していく様子が見てとれる。張り上げる際の発声が課題だが、同級生たちとのやり取りでは自然な演技が好ましく、今後も映画出演が続くことを大いに期待したい。 『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(公開中)は、クリスチャン・ベール、ライアン・ゴズリング、スティーブ・カレル、ブラッド・ピットの豪華共演で、リーマンショックと呼ばれる世界金融危機を予見してウォール街を出し抜いた男たちの実話を描く社会派ドラマ。2005年のニューヨークで、金融トレーダーのマイケル(ベール)は、住宅ローンを含む金融商品「サブプライム・ローン」が債務不履行に陥る危険性に気づくが、その予測はウォール街や投資家から相手にされない。そこで、サブプライムが暴落したら巨額の保険金を得られる金融取引「CDS」に目をつけ、大金を投資する。同じ頃、若き銀行家ジャレド(ゴズリング)、ヘッジファンドマネージャーのマーク(カレル)、リタイアした銀行家ベン(ピット)も、それぞれサブプライム暴落の予測に賭けた大勝負を打つ。 原作は、『マネーボール』(11年)の原作も手がけたマイケル・ルイスによるノンフィクション。監督は、コメディー『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』(10年)でも現代の資本主義を風刺したアダム・マッケイ。共同で脚本を担当したチャールズ・ランドルフとともに、今年のアカデミー賞脚色賞を受賞した。ヘビメタ好きの変人トレーダーに扮(ふん)したクリスチャン・ベールもいいが、『フォックスキャッチャー』(14年)に続いてコミカルな演技を封印したスティーブ・カレルの熱演が格別。鮮やかな逆転劇を描く一方で、でたらめな住宅バブルに踊らされた庶民を思いやるスタンスが、ほろ苦い後味を残す力作だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『セーラー服と機関銃 卒業』作品情報 <http://eiga.com/movie/82366/> 『マネー・ショート 華麗なる大逆転』作品情報 <http://eiga.com/movie/83256/>(C)2016『セーラー服と機関銃 卒業』製作委員会
鬼才タランティーノが“密室ミステリー”に挑戦! 大人のエンタテインメント『ヘイトフル・エイト』
今週取り上げる最新映画は、鬼才タランティーノ監督による仕掛けに満ちたアクション娯楽作と、美しい沖縄の島でロケを行ったリリー・フランキー主演の映像詩的作品。1世紀半前の米国の雪山と、現代日本の離島、それぞれの舞台も物語の魅力を高めている2作品だ(いずれも、2月27日公開)。 『ヘイトフル・エイト』(R18+指定)は、クエンティン・タランティーノ監督が『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)に続き19世紀後半の米国を舞台に描くサスペンス活劇。雪山で立ち往生していた賞金稼ぎのウォーレン(サミュエル・L・ジャクソン)は、通りかかった駅馬車に乗せてもらう。先客は同業者のルース(カート・ラッセル)と、連行中の女頭領デイジー(ジェニファー・ジェイソン・リー)。さらに新任保安官を名乗る男も加わり、4人は猛吹雪から避難するため中継地のロッジで休憩をとる。そこには、絞首刑執行人(ティム・ロス)ら3人の先客と、見知らぬメキシコ人の店番がいた。ルースはデイジー奪還を狙う仲間が正体を隠していると疑い、ウォーレンも因縁のある男に気づく。8人の嘘と憎悪が交錯し、やがて惨劇に発展する。 「密室ミステリー」と宣伝され、確かに大雪で閉じこめられた山小屋で犯人不明の殺人が起きるが、犯人捜しの謎解きがメインではない。むしろ、ダラダラした会話、時間軸の交差、不意をつくバイオレンス描写など、いつもの“タラちゃん印”を楽しむ大人のエンタテインメントだ。ジャクソン、ラッセル、ロスらによるクセ者感たっぷりの安定した演技もさることながら、顔にアザや傷の特殊メイクで熱演した紅一点リーの不敵なやさぐれ感が絶品。往年の70ミリフィルム機材による撮影で、美しい景観などを風格ある超ワイドショットで収めつつ、B級テイスト漂うゴア表現を共存させてしまうあたりも、タラ映画ならではの魅力だ。 『シェル・コレクター』は、『美代子阿佐ヶ谷気分』(09)の坪田義史監督、リリー・フランキー主演で描くファンタジックなドラマ。沖縄の孤島で、貝を収集しながら静かに暮らしていた貝類学者(フランキー)は、島に流れ着いた画家いづみ(寺島しのぶ)と出会う。いづみは世界中に蔓延する奇病を患っていたが、イモガイの毒針に刺されたことで奇跡的に回復。奇病を治したとの噂を聞いた患者らが島に押し寄せ、貝類学者の日常が狂い始める。 アメリカ人作家アンソニー・ドーアによる同名短編小説の原作から、舞台を沖縄に置き換えた。美しい島と海をとらえた映像に、生と死、再生の物語が詩的に融合し、官能に訴える独特の世界が展開する。共演は池松壮亮、橋本愛ほか。リリー・フランキーは、世捨て人のような盲目の学者を的確に表現。はかなげな男たちと好対照な、寺島と橋本の輝く生命力が強く印象に残る。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ヘイトフル・エイト』作品情報 <http://eiga.com/movie/83735/> 『シェル・コレクター』作品情報 <http://eiga.com/movie/81676/>(C)Copyright MMXV Visiona Romantica, Inc. All rights reserved.
CGじゃない! キアヌ・リーブス主演の名作が、超絶スタントてんこ盛りで新登場!『X-ミッション』
今週取り上げる最新映画は、エクストリームスポーツのリアルな過激スタントをストーリーに組み込んだクライムアクションと、米沿岸警備隊史上最も勇敢な救出ミッションを描くスペクタクル活劇。いずれも最先端の3D映像により、アクションシーンの体感度を高めているのがポイントだ。 『X-ミッション』(2月20日公開、2D/3D上映)は、キアヌ・リーブスが主演した1991年の名作『ハートブルー』をリメイクしたサスペンスアクション。元アスリートのFBI捜査官ユタは、謎のエクストリームスポーツ集団による連続強盗事件を追い、カリスマ的アスリートのボーディが率いるグループに潜入する。信念を持ち命懸けのトライアルに挑むメンバーたちと行動を共にするうち、ユタとボーディとの間に友情と信頼が芽生えてゆく。 20メートルを超す大波でのサーフィン、ウイングスーツによる超高速滑空、急峻な雪山でのスノーボード、超難所を攻めるモトクロスやロッククライミングなど、本物のトップアスリートたちが敢行したスタントを、CGを使わずに撮影した点が本作最大の売り。『ワイルド・スピード』(2001)で撮影監督を務め、長編監督作としては2作目となるエリクソン・コアは、アスリートたちの高速パフォーマンスに併走するカメラワークと3D映像で、雄厳な自然に対峙するエクストリームスポーツを疑似体験させてくれる。キアヌ主演のオリジナルに比べるとドラマ要素が弱いものの、超絶スタントの興奮と爽快感を味わいたいならオススメだ。 『ザ・ブリザード』(2月27日公開、2D/3D上映)は、真冬の米東海岸沖で実際に起きた海難事故を題材に、『スター・トレック』シリーズのクリス・パイン主演で映画化したディザスターアクション。1952年2月、マサチューセッツ州沖を史上最大級の暴風雪が襲い、大型タンカーのペンドルトン号が真っ二つに裂けてしまう。機関士のシーバート(ケイシー・アフレック)ら32人が沈没を防ごうと懸命に作業している頃、沿岸警備隊も事故を察知。若き救助隊員バーニー(パイン)ら4人は、定員12名の小型救助艇で荒海へ乗り出し、決死の救出に挑む。 救助に向かう側のパインと遭難タンカーで指揮するアフレックが、極限状況下で冷静な判断力と勇気を保ち続けるプロフェッショナルをそれぞれ熱演。『ミリオンダラー・アーム』(14年)のクレイグ・ギレスピー監督は、造船所跡に作られた巨大タンクに水を張っての実写撮影と、CG映像を巧みに融合させ、荒れ狂う洋上での救出劇をダイナミックに描き上げた。3D上映で観賞すると、荒波が迫り来る様子や巨大タンカー内での奮闘ぶりをリアルに体感でき、奇跡の救出劇が一層感動的に映るはずだ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『X-ミッション』作品情報 <http://eiga.com/movie/81637/> 『ザ・ブリザード』作品情報 <http://eiga.com/movie/83445/>(C)2015WARNER BROS .ENTERTAINMENT INC.
ロボット兵器と美少女が織りなすダークファンタジー『ライチ☆光クラブ』
今週取り上げる最新映画は、女性同士の美しい恋愛を描いたアカデミー賞候補作と、退廃的な世界観にボーイズラブ要素も添えた異色の和製エンターテインメント。社会通念や価値観の変化に伴い、メジャー配給映画でも多様な愛の形を描く作品が増えてきたのは喜ばしい傾向だ。 『キャロル』(公開中)は、ケイト・ブランシェットとルーニー・マーラの共演で女性同士の恋を描く恋愛ドラマ。同性愛への偏見が強かった1950年代のニューヨークで、デパート店員のアルバイトをしながら写真家を夢見るテレーズ(マーラ)は、来店したエレガントな女性キャロル(ブランシェット)を一目見て魅了されてしまう。キャロルが店に忘れた手袋をテレーズが郵送したことがきっかけで、2人は会食し、お互いを知るように。キャロルは別居中の夫ハージと離婚協議を進めていたが、ハージは娘の親権を盾に離婚を阻止しようとする。娘との面会を禁止されたキャロルは、テレーズを訪ね、車での小旅行に誘う。 米女性作家パトリシア・ハイスミスが52年に別名義で発表しベストセラーになった原作小説を、『アイム・ノット・ゼア』(2008年)で“6人のボブ・ディラン”の1人としてブランシェットを起用していたトッド・ヘインズ監督が映画化。ブランシェットが優雅な生活を送りつつも真実の愛を渇望する年上の主人公を、マーラが初めて同性との恋に落ち揺れながら成長していく女性を、それぞれ繊細な表情や視線の表現で熱演した。今月末発表のアカデミー賞ではブランシェットが主演女優賞、マーラが助演女優賞にそれぞれノミネートされ、さらにマーラは本作で『カンヌ国際映画祭』主演女優賞を受賞。美人女優2人の渾身の演技に加え、当時を再現したファッションや美術、フィルムの粒状感を生かした映像もひたすら美しく、熱く切ない恋の陶酔を一層引き立たせている。 『ライチ☆光クラブ』(2月13日公開、R15+指定)は、『先生を流産させる会』(11年)の内藤瑛亮監督、『日々ロック』(14年)の野村周平主演で描くダークファンタジー。黒い煙と油で汚れた蛍光町の廃工場に、夜な夜な集う9人の男子中学生がいた。この秘密基地「光クラブ」を最初に作ったのはタミヤ(野村)ら3人だったが、今ではゼラ(古川雄輝)が突出したカリスマ性と頭脳で他の8人を支配。少年たちは醜い大人を否定し、永遠に美しい世界を実現するため、ロボット兵器「ライチ」を完成させる。だが、ライチを使い美少女カノン(中条あやみ)を拉致したことで、光クラブ内に渦巻く愛憎が暴走し始める。 原作は、劇団「東京グランギニョル」が1985年に上演した舞台をベースに、古屋兎丸が2005年に漫画化した同名作品。センセーショナルかつ過激な作風で知られる内藤監督は、フェティシズムと狂気の際どい狭間に、スチームパンク風の美術、バイオレンスとスプラッターの要素も加味して、独特の世界観を創り上げた。難役のゼラを説得力十分に演じた古川雄輝の存在感、映画初出演・主演『劇場版 零 ゼロ』に続き2作目の映画出演となる中条あやみの清冽な美貌が印象に残る。ボーイズラブの描写やユーモラスな要素もあって、万人向けではないがコアなファンから熱烈な支持を集めそうな怪作だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『キャロル』作品情報 <http://eiga.com/movie/81816/> 『ライチ☆光クラブ』作品情報 <http://eiga.com/movie/82615/>(C)2016「ライチ☆光クラブ」
ロボット兵器と美少女が織りなすダークファンタジー『ライチ☆光クラブ』
今週取り上げる最新映画は、女性同士の美しい恋愛を描いたアカデミー賞候補作と、退廃的な世界観にボーイズラブ要素も添えた異色の和製エンターテインメント。社会通念や価値観の変化に伴い、メジャー配給映画でも多様な愛の形を描く作品が増えてきたのは喜ばしい傾向だ。 『キャロル』(公開中)は、ケイト・ブランシェットとルーニー・マーラの共演で女性同士の恋を描く恋愛ドラマ。同性愛への偏見が強かった1950年代のニューヨークで、デパート店員のアルバイトをしながら写真家を夢見るテレーズ(マーラ)は、来店したエレガントな女性キャロル(ブランシェット)を一目見て魅了されてしまう。キャロルが店に忘れた手袋をテレーズが郵送したことがきっかけで、2人は会食し、お互いを知るように。キャロルは別居中の夫ハージと離婚協議を進めていたが、ハージは娘の親権を盾に離婚を阻止しようとする。娘との面会を禁止されたキャロルは、テレーズを訪ね、車での小旅行に誘う。 米女性作家パトリシア・ハイスミスが52年に別名義で発表しベストセラーになった原作小説を、『アイム・ノット・ゼア』(2008年)で“6人のボブ・ディラン”の1人としてブランシェットを起用していたトッド・ヘインズ監督が映画化。ブランシェットが優雅な生活を送りつつも真実の愛を渇望する年上の主人公を、マーラが初めて同性との恋に落ち揺れながら成長していく女性を、それぞれ繊細な表情や視線の表現で熱演した。今月末発表のアカデミー賞ではブランシェットが主演女優賞、マーラが助演女優賞にそれぞれノミネートされ、さらにマーラは本作で『カンヌ国際映画祭』主演女優賞を受賞。美人女優2人の渾身の演技に加え、当時を再現したファッションや美術、フィルムの粒状感を生かした映像もひたすら美しく、熱く切ない恋の陶酔を一層引き立たせている。 『ライチ☆光クラブ』(2月13日公開、R15+指定)は、『先生を流産させる会』(11年)の内藤瑛亮監督、『日々ロック』(14年)の野村周平主演で描くダークファンタジー。黒い煙と油で汚れた蛍光町の廃工場に、夜な夜な集う9人の男子中学生がいた。この秘密基地「光クラブ」を最初に作ったのはタミヤ(野村)ら3人だったが、今ではゼラ(古川雄輝)が突出したカリスマ性と頭脳で他の8人を支配。少年たちは醜い大人を否定し、永遠に美しい世界を実現するため、ロボット兵器「ライチ」を完成させる。だが、ライチを使い美少女カノン(中条あやみ)を拉致したことで、光クラブ内に渦巻く愛憎が暴走し始める。 原作は、劇団「東京グランギニョル」が1985年に上演した舞台をベースに、古屋兎丸が2005年に漫画化した同名作品。センセーショナルかつ過激な作風で知られる内藤監督は、フェティシズムと狂気の際どい狭間に、スチームパンク風の美術、バイオレンスとスプラッターの要素も加味して、独特の世界観を創り上げた。難役のゼラを説得力十分に演じた古川雄輝の存在感、映画初出演・主演『劇場版 零 ゼロ』に続き2作目の映画出演となる中条あやみの清冽な美貌が印象に残る。ボーイズラブの描写やユーモラスな要素もあって、万人向けではないがコアなファンから熱烈な支持を集めそうな怪作だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『キャロル』作品情報 <http://eiga.com/movie/81816/> 『ライチ☆光クラブ』作品情報 <http://eiga.com/movie/82615/>(C)2016「ライチ☆光クラブ」
火星にたった1人──前人未到のサバイバルをマット・デイモンが熱演! アカデミー賞ノミネート作『オデッセイ』
今週取り上げる最新映画は、火星に取り残された探査隊員のサバイバルを描くSF作品と、2011年に他界したアップル創業者の実像に迫る伝記ドラマ。いずれも今年の第88回アカデミー賞(2月28日発表)に複数部門でノミネートされている傑作だ。 『オデッセイ』(2月5日公開、2D/3D上映)は、リドリー・スコット監督、マット・デイモン主演のSF超大作。火星での有人探査中、探査船を倒しかねない大嵐に見舞われNASAの宇宙飛行士ワトニーが吹き飛ばされてしまう。死亡したと推測されるワトニーを残し、仲間たちは探査船を緊急発進させ、火星を去る。だが、負傷しながらも生きていたワトニーは、酸素も水も食料も乏しく、通信手段もない絶望的な状況で、4年後の次回探査まで生き延びようと決意。あらゆる手段を講じてゆく。 原作は、プログラマー出身のアンディ・ウィアーがネット上で連載し、電子書籍化されてベストセラーになった『火星の人』。脚本は、監督デビュー作『キャビン』(2013)でホラーの約束事を脱構築してマニアをうならせたドリュー・ゴダードが担当した。『エイリアン』(1979)、『プロメテウス』(2012)でも宇宙SFを手がけてきたスコット監督は、火星地表の雄大な景観、探査基地でのサバイバル生活、手に汗握る火星脱出の試みなどを、3D映像で臨場感たっぷりに描き出す。デイモンが演じるワトニーは、豊富な知見と創意工夫で難題を乗り切るポジティブさや、記録用ビデオにジョークを交えて自分語りするユーモアで、観客も一緒にサバイバルを体験している気分にさせてくれる。アカデミー賞には作品賞をはじめ7部門でノミネートされた。 『スティーブ・ジョブズ』(2月12日公開)は、アップル創業者スティーブ・ジョブズの生き様を、3回の製品発表会の舞台裏を通じて描くドラマ。現在のパソコンの原型となった1984年のMacintosh。アップルを追放された後に再起を賭けた88年のNeXT Cube。復活を印象づけた98年のiMac。注目を集める発表会本番の直前、ジョブズ(マイケル・ファスベンダー)は控え室や通路、舞台を忙しく移動しながら、問題を急いで解決しろと部下を脅し、同僚や元恋人と言い争い、側近のジョアンナ(ケイト・ウィンスレット)に不満をぶちまける。元恋人との間に生まれた娘リサも舞台裏に現れるが、ジョブズは父親としてうまく接することができない。 作家ウォルター・アイザックソンがジョブズ本人のほか、多くの関係者に取材した公式伝記が原作。『ソーシャル・ネットワーク』(11)でアカデミー賞脚色賞を受賞したアーロン・ソーキンは、転機となった3度の発表会に、独自取材の情報も盛り込んだ会話劇として脚本化した。『スラムドッグ$ミリオネア』(09)のオスカー監督ダニー・ボイルは、実録風カメラワークに映像的ギミックも添え、言葉の応酬で緊迫感を増す舞台裏の人間模様を描き出す。革新的な製品の開発過程もプレゼンの本番も大胆に省略し、“人間ジョブズ”に迫ろうとするスタンスが印象的だ。膨大なせりふの難役を熱演したファスベンダーとウィンスレットは、アカデミー賞主演男優賞と同助演女優賞にそれぞれノミネートされている。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『オデッセイ』作品情報 <http://eiga.com/movie/82409/> 『スティーブ・ジョブズ』作品情報 <http://eiga.com/movie/83404/>(C) 2015 Twentieth Century Fox Film
安田顕に魅了されること間違いなし!? 緩い笑いが心地いい『俳優 亀岡拓次』
今週取り上げる最新映画は、売れっ子監督の中村義洋が久しぶりに手がけたホラーと、脇役専門の俳優が映画に舞台に恋に奮闘する姿を温かく描くコメディー。虚構と現実のあいまいな境界が独特の余韻を残す、印象的な邦画2作品だ(いずれも1月30日公開)。 『残穢(ざんえ) 住んではいけない部屋』は、小説家・小野不由美の山本周五郎賞受賞作を、『アヒルと鴨のコインロッカー』(2006)、『予告犯』(15)の中村義洋監督が映画化した“実話風”ホラー。小説家の「私」(竹内結子)のもとに、女子大生の久保さん(橋本愛)から「住んでいる部屋で奇妙な音がする」と書かれた手紙が届く。2人が好奇心から調べると、そのマンションの過去の住人たちが転居先で自殺や殺人などを起こしていた。調査を進めるうち、土地に残る「穢(けが)れ」の存在が浮かび上がる。 コメディーからサスペンスまで幅広いジャンルの話題作を精力的に発表している中村監督だが、疑似ノンフィクションのホラーもビデオシリーズ『ほんとにあった! 呪いのビデオ』で初代の構成・演出として手がけていた。同シリーズのほか、『アヒルと鴨~』『ゴールデンスランバー』(09)など多くの中村作品で共同脚本を務めてきた鈴木謙一が、本作にも参加。原作のエッセンスを的確に再構成しつつ、「音」の演出を中心にじわじわと不安を高めるオーソドックスな手法で、観客の心に怖さを染み込ませる。竹内結子と橋本愛が、好奇心と恐怖をバランス良く表現しつつ物語をリードし、佐々木蔵之介、坂口健太郎らも個性的なキャラで好サポート。エンドクレジット後に最後の「ホラー」が待っているので、決して最後まで席を立たないように。 『俳優 亀岡拓次』は、『ウルトラミラクルラブストーリー』(09)の横浜聡子監督、人気演劇ユニット「TEAM NACS」の安田顕主演で描くハートフルな娯楽作。映画俳優の亀岡拓次は、ホームレス、泥棒、チンピラなど脇役を演じ続け、監督たちに重宝されていた。酒好きの亀岡は、ある日ロケ先で撮影後に立ち寄った居酒屋で、女将・あづみ(麻生久美子)に恋をしてしまう。さらに、初めての舞台の仕事や、世界的巨匠の新作のオーディションなど、亀岡に人生の転機が訪れようとしていた。 原作は、俳優や劇作家としても活躍する戌井昭人による同名小説。撮影現場のエピソードがバラエティー豊かに描かれ、いずれも味があって楽しい。実際に脇役として多数の作品に出演し、大の酒好きという安田顕がはまり役を得て、自然体に見せつつペーソスをにじませる演技力をいかんなく発揮。山崎努、新井浩文、染谷将太がそれぞれ個性的な監督に扮し、亀岡とのユーモラスなやり取りで大いに笑わせる。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』を思わせる、演技の世界と現実との継ぎ目ない往来も刺激的。映画を作ること、演じること、そして生きることの楽しさ、面白さが詰まった快作だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『残穢(ざんえ) 住んではいけない部屋』作品情報 <http://eiga.com/movie/82365/> 『俳優 亀岡拓次』作品情報 <http://eiga.com/movie/82489/>(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会
安田顕に魅了されること間違いなし!? 緩い笑いが心地いい『俳優 亀岡拓次』
今週取り上げる最新映画は、売れっ子監督の中村義洋が久しぶりに手がけたホラーと、脇役専門の俳優が映画に舞台に恋に奮闘する姿を温かく描くコメディー。虚構と現実のあいまいな境界が独特の余韻を残す、印象的な邦画2作品だ(いずれも1月30日公開)。 『残穢(ざんえ) 住んではいけない部屋』は、小説家・小野不由美の山本周五郎賞受賞作を、『アヒルと鴨のコインロッカー』(2006)、『予告犯』(15)の中村義洋監督が映画化した“実話風”ホラー。小説家の「私」(竹内結子)のもとに、女子大生の久保さん(橋本愛)から「住んでいる部屋で奇妙な音がする」と書かれた手紙が届く。2人が好奇心から調べると、そのマンションの過去の住人たちが転居先で自殺や殺人などを起こしていた。調査を進めるうち、土地に残る「穢(けが)れ」の存在が浮かび上がる。 コメディーからサスペンスまで幅広いジャンルの話題作を精力的に発表している中村監督だが、疑似ノンフィクションのホラーもビデオシリーズ『ほんとにあった! 呪いのビデオ』で初代の構成・演出として手がけていた。同シリーズのほか、『アヒルと鴨~』『ゴールデンスランバー』(09)など多くの中村作品で共同脚本を務めてきた鈴木謙一が、本作にも参加。原作のエッセンスを的確に再構成しつつ、「音」の演出を中心にじわじわと不安を高めるオーソドックスな手法で、観客の心に怖さを染み込ませる。竹内結子と橋本愛が、好奇心と恐怖をバランス良く表現しつつ物語をリードし、佐々木蔵之介、坂口健太郎らも個性的なキャラで好サポート。エンドクレジット後に最後の「ホラー」が待っているので、決して最後まで席を立たないように。 『俳優 亀岡拓次』は、『ウルトラミラクルラブストーリー』(09)の横浜聡子監督、人気演劇ユニット「TEAM NACS」の安田顕主演で描くハートフルな娯楽作。映画俳優の亀岡拓次は、ホームレス、泥棒、チンピラなど脇役を演じ続け、監督たちに重宝されていた。酒好きの亀岡は、ある日ロケ先で撮影後に立ち寄った居酒屋で、女将・あづみ(麻生久美子)に恋をしてしまう。さらに、初めての舞台の仕事や、世界的巨匠の新作のオーディションなど、亀岡に人生の転機が訪れようとしていた。 原作は、俳優や劇作家としても活躍する戌井昭人による同名小説。撮影現場のエピソードがバラエティー豊かに描かれ、いずれも味があって楽しい。実際に脇役として多数の作品に出演し、大の酒好きという安田顕がはまり役を得て、自然体に見せつつペーソスをにじませる演技力をいかんなく発揮。山崎努、新井浩文、染谷将太がそれぞれ個性的な監督に扮し、亀岡とのユーモラスなやり取りで大いに笑わせる。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』を思わせる、演技の世界と現実との継ぎ目ない往来も刺激的。映画を作ること、演じること、そして生きることの楽しさ、面白さが詰まった快作だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『残穢(ざんえ) 住んではいけない部屋』作品情報 <http://eiga.com/movie/82365/> 『俳優 亀岡拓次』作品情報 <http://eiga.com/movie/82489/>(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会
地上411メートルのスリルを3Dで再現! 名監督が描く“伝説の男”の素顔とは『ザ・ウォーク』
今週取り上げる最新映画は、超高層ビル間の綱渡りを体感する3D超大作と、ヘタレな若者が凄腕エージェントに覚醒するコミカルな快作。2作品のタイプは異なるが、映画らしい刺激と驚きに満ちた充実作だ(いずれも1月23日公開)。 『ザ・ウォーク』(2D/3D上映)は、『フォレスト・ガンプ 一期一会』(1994)の巨匠ロバート・ゼメキス監督が、米国の超高層ツインタワーの間を綱渡りしたフランス人大道芸人の実話をスリリングに描くドラマ。幼いころ綱渡りに魅了され、独学で技術を体得したあとサーカスで修業したプティ(ジョセフ・ゴードン=レビット)は、パリの大通りで芸を披露して日銭を稼いでいた。ある日、世界一の高さとなる米ニューヨークのワールドトレードセンターが完成間際だと知り、ツインタワーの間にワイヤーを張って歩くことを決意。協力する仲間たちを集め、現地入りして準備を整え、1974年8月7日を決行の日に定める。 出世作『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)から一貫して視覚効果の可能性を切り開いてきたゼメキス監督が、本作では9・11テロで失われたWTCのツインタワーをCGで存在感たっぷりに再現。さらに『ポーラー・エクスプレス』(04)以降挑戦を重ねてきた3D映像で、地上から411メートルのビル間に張られたワイヤー上から見下ろす光景などを疑似体験させてくれる。準備段階のクライムサスペンス的な緊迫感と、仲間たちによるチームプレイの妙味も、丁寧に描かれていて楽しめる。 『エージェント・ウルトラ』(R15+指定)は、『ソーシャル・ネットワーク』(10)のジェシー・アイゼンバーグと『トワイライト』(08)のクリステン・スチュワートが共演したアクションラブコメディー。コンビニ店員のマイクは、恋人フィービーとハワイ旅行を計画するが、パニック障害で空港から引き返し、マリファナを吸って気を取り直すようなダメ男。だがある晩、バイト先で女性客が口にした言葉により封印されていた能力が覚醒し、駐車場にいた暴漢2人をスプーン1本で倒してしまう。動揺するマイクは、実はCIAの極秘計画で訓練され生き残った凄腕エージェントだった。マイクはフィービーを連れて、CIAが計画を闇に葬るため派遣した暗殺部隊から必死に逃げようとするが……。 マリファナ常習のヘタレ男と最強のエージェント、ギャップが際立つ主人公をアイゼンバーグが巧みに演じ分けた。スチュワートも、秘密を抱えた恋人役を好演。監督は、PVとCMでキャリアを築いた新鋭のニマ・ヌリザデ。CIAが極秘裏にマインドコントロールを実験していたとされる「MKウルトラ計画」に着想を得た点では、マット・デイモン主演の『ボーン』シリーズと共通するが、本作は青春コメディーの側面も持つところがユニーク。デンゼル・ワシントン主演『イコライザー』(14)の日用品で敵を殺傷するアイデア、英国発スパイアクション『キングスマン』(14)の過激なバイオレンス描写など、近年の同ジャンルの傑作を彷彿とさせる要素も盛り沢山の痛快娯楽作だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ザ・ウォーク』作品情報 <http://eiga.com/movie/80755/> 『エージェント・ウルトラ』作品情報 <http://eiga.com/movie/80332/>







