アン・ハサウェイ主演の『ゴジラ』が企画されているという噂が流れてきたのが2~3年前。スペイン出身の新鋭ナチョ・ビガロンド監督のオリジナルストーリーによるぶっ飛んだ内容になるらしいと聞いて、「う~ん、大丈夫か?」と思っていたところ、当然ながら東宝からクレームが入った。その結果、怪獣や物語の設定は大幅に変更された模様。そんなこんなで、いろいろあった末に完成したのが、カナダ映画『シンクロナイズドモンスター』(原題『COLOSSAL』)。SF映画の古典的名作『禁断の惑星』(56)と不条理ドラマ『マルコヴィッチの穴』(99)を掛け合わせたような、懐かしさと奇妙さが漂う超ユニークな怪獣映画として、日本公開される運びとなった。
物語はこんな感じ。主人公のグロリア(アン・ハサウェイ)はNYでそこそこ活躍しているウェブ系のライター。ところが、グロリアの書いた記事が大炎上を起こしたことから、グロリアは会社をクビになってしまう。30歳を過ぎて無職となり、毎晩のように呑み歩くグロリア。同棲中の恋人ティム(ダン・スティーヴンス)から三行半を突き付けられ、アパートから追い出されるはめに。生まれ故郷に帰ってきたグロリアは、幼なじみのオスカー(ジェイソン・サダイキス)が営むバーでウエイトレスとして働き始めるも、やっぱり朝まで呑んだくれる生活。そんなある日、韓国のソウルに巨大怪獣が現われ、街で暴れ回っている映像をテレビのニュースが伝えた。その怪獣を見て、グロリアはびっくり。頭をよく掻く彼女の癖を、怪獣はまったく同じように真似ていたからだ。
理屈は分からないが、小さい頃から遊んでいた近所の児童公園の砂場にグロリアが足を踏み入れると、巨大怪獣がソウルに出現するらしい。砂場でグロリアが踊れば、怪獣もソウルで地響きを立てて踊る。酔ったグロリアが砂場でコケれば、怪獣もコケてビルを崩壊させてしまう。自分だけの秘密にできず、オスカーを公園に呼び出して打ち明けたところ、今度は何と巨大ロボットも出現! オスカーの動きに合わせて、この巨大ロボットは動き始める。グロリアもオスカーも首をひねるが、それ以上にソウル市街は蜂の巣を突いたような大騒ぎとなってしまう。
こんなヘンテコな怪獣映画を生み出したナチョ・ビガロンド監督は、1977年のスペイン生まれ。パソコンの画面上で物語が進んでいく前作『ブラック・ハッカー』(14)も、かなり風変わりなテクノサスペンスだった。オムニバスホラー『ABC・オブ・デス』(12)では、日本の誇る奇才・井口昇監督らと競作。低予算を逆手にとった奇抜なアイデアで勝負する作風は、『片腕マシンガール』(08)が世界的なヒットとなった井口監督にも共通するもの。ひどく乱暴に言えば、“スペインの井口昇”がハリウッドのトップ女優と撮った低予算怪獣映画が『シンクロナイズドモンスター』ということになる。『ダークナイト ライジング』(12)でのキャットウーマン役、『ラブ&ドラッグ』(10)での脱ぎっぷりも良かったアン・ハサウェイの守備範囲はこちらの想像以上に広かった。ぜひとも、井口監督の新作にも出演してほしい。
初代『ゴジラ』(54)は原水爆がもたらす恐怖のメタファーだったように、庵野秀明総監督の『シン・ゴジラ』(16)は制御不能状態に陥った原発事故のメタファーとして東京に襲い掛かった。ポン・ジュノ監督の『グエムル 漢江の怪物』(06)は韓国に駐留し、化学薬品を垂れ流す米軍基地に対する怒りのメタファーだった。映画の中の怪獣たちは、その時代を生きる人々の心の中に潜む浄化されない衝動としてスクリーン上で暴れ回る。では、ナチョ監督が本作に登場させた巨大怪獣や巨大ロボットはいったい何のメタファーなんだろうか?
ナチョ監督が本作で描く巨大怪獣は、放射能や軍事基地よりもっと身近なものの成れの果てだ。NYで夢破れて田舎に帰ってきたグロリアの過剰な自意識、故郷からずっと出ることができなかった幼なじみのオスカーの溜め込んできた承認欲求といったものがモンスター化して、ソウル市街に出現することになる。米国から見れば、地球の裏側にある遠い韓国はネット上のSNS世界と大して変わらない。グロリアやオスカーは日常生活で抱いているストレスを、巨大怪獣・巨大ロボットを操ることで解消しようとする。一度でも巨大化する快感を覚えてしまった自意識&承認欲求はどんどん膨張する一方で、コントロールすることが難しい。やがてこの巨大怪獣と巨大ロボットは、グロリアとオスカーの潜在意識に感応して、ソウル市民を悶絶させる大バトルをおっ始める。
東宝からゴジラキャラクター使用のNGを出されたことからデザイン変更された巨大怪獣だが、顔の造形は『ウルトラマン』(66~67)の第1話「ウルトラ作戦第一号」に登場した宇宙怪獣ベムラーにちょっと似ている。ちなみに、大人になれずにいる主人公たちの潜在意識が大怪獣を生み出すという内容は、二次元怪獣ガヴァドンが登場した『ウルトラマン』の第15話「恐怖の宇宙線」(実相寺昭雄監督!)を彷彿させる。その一方、破壊される街は『ゴジラ』シリーズで何度も破壊された東京ではなく、お隣の韓国ソウルに変更。そのため、ますますシュール度が増したかっこうだ。
肥大化して暴れ回る自意識や承認欲求にはどう対処すればいいのか。この巨大怪獣、うまく飼い馴らすのはけっこー面倒である。いちばんの安全策は、SNSと同様に酔っぱらった勢いで公園には立ち入らないで、ということだろう。
(文=長野辰次)

『シンクロナイズドモンスター』
製作総指揮/ナチョ・ビカロンド、アン・ハサウェイ
監督・脚本/ナチョ・ビカロンド
出演/アン・ハサウェイ、ジェイソン・サダイキス、ダン・スティーヴンス、オースティン・ストウェル、ティム・ブレイク・ネルソン
配給/アルバトロス・フィルム 11月3日(金)より新宿バルト9、ヒューマントラスト渋谷ほか全国順次ロードショー
(c)2016 COLOSSAL MOVIE PRODUCTIONS,LLC ALL RIGHTS RESERVED.
http://synchronized-monster.com

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