ダメ人間の肥大化した承認欲求が巨大怪獣に変身!? アンハサ主演作『シンクロナイズドモンスター』

 アン・ハサウェイ主演の『ゴジラ』が企画されているという噂が流れてきたのが2~3年前。スペイン出身の新鋭ナチョ・ビガロンド監督のオリジナルストーリーによるぶっ飛んだ内容になるらしいと聞いて、「う~ん、大丈夫か?」と思っていたところ、当然ながら東宝からクレームが入った。その結果、怪獣や物語の設定は大幅に変更された模様。そんなこんなで、いろいろあった末に完成したのが、カナダ映画『シンクロナイズドモンスター』(原題『COLOSSAL』)。SF映画の古典的名作『禁断の惑星』(56)と不条理ドラマ『マルコヴィッチの穴』(99)を掛け合わせたような、懐かしさと奇妙さが漂う超ユニークな怪獣映画として、日本公開される運びとなった。

 物語はこんな感じ。主人公のグロリア(アン・ハサウェイ)はNYでそこそこ活躍しているウェブ系のライター。ところが、グロリアの書いた記事が大炎上を起こしたことから、グロリアは会社をクビになってしまう。30歳を過ぎて無職となり、毎晩のように呑み歩くグロリア。同棲中の恋人ティム(ダン・スティーヴンス)から三行半を突き付けられ、アパートから追い出されるはめに。生まれ故郷に帰ってきたグロリアは、幼なじみのオスカー(ジェイソン・サダイキス)が営むバーでウエイトレスとして働き始めるも、やっぱり朝まで呑んだくれる生活。そんなある日、韓国のソウルに巨大怪獣が現われ、街で暴れ回っている映像をテレビのニュースが伝えた。その怪獣を見て、グロリアはびっくり。頭をよく掻く彼女の癖を、怪獣はまったく同じように真似ていたからだ。

 

 理屈は分からないが、小さい頃から遊んでいた近所の児童公園の砂場にグロリアが足を踏み入れると、巨大怪獣がソウルに出現するらしい。砂場でグロリアが踊れば、怪獣もソウルで地響きを立てて踊る。酔ったグロリアが砂場でコケれば、怪獣もコケてビルを崩壊させてしまう。自分だけの秘密にできず、オスカーを公園に呼び出して打ち明けたところ、今度は何と巨大ロボットも出現! オスカーの動きに合わせて、この巨大ロボットは動き始める。グロリアもオスカーも首をひねるが、それ以上にソウル市街は蜂の巣を突いたような大騒ぎとなってしまう。

 こんなヘンテコな怪獣映画を生み出したナチョ・ビガロンド監督は、1977年のスペイン生まれ。パソコンの画面上で物語が進んでいく前作『ブラック・ハッカー』(14)も、かなり風変わりなテクノサスペンスだった。オムニバスホラー『ABC・オブ・デス』(12)では、日本の誇る奇才・井口昇監督らと競作。低予算を逆手にとった奇抜なアイデアで勝負する作風は、『片腕マシンガール』(08)が世界的なヒットとなった井口監督にも共通するもの。ひどく乱暴に言えば、“スペインの井口昇”がハリウッドのトップ女優と撮った低予算怪獣映画が『シンクロナイズドモンスター』ということになる。『ダークナイト ライジング』(12)でのキャットウーマン役、『ラブ&ドラッグ』(10)での脱ぎっぷりも良かったアン・ハサウェイの守備範囲はこちらの想像以上に広かった。ぜひとも、井口監督の新作にも出演してほしい。

  初代『ゴジラ』(54)は原水爆がもたらす恐怖のメタファーだったように、庵野秀明総監督の『シン・ゴジラ』(16)は制御不能状態に陥った原発事故のメタファーとして東京に襲い掛かった。ポン・ジュノ監督の『グエムル 漢江の怪物』(06)は韓国に駐留し、化学薬品を垂れ流す米軍基地に対する怒りのメタファーだった。映画の中の怪獣たちは、その時代を生きる人々の心の中に潜む浄化されない衝動としてスクリーン上で暴れ回る。では、ナチョ監督が本作に登場させた巨大怪獣や巨大ロボットはいったい何のメタファーなんだろうか?

 ナチョ監督が本作で描く巨大怪獣は、放射能や軍事基地よりもっと身近なものの成れの果てだ。NYで夢破れて田舎に帰ってきたグロリアの過剰な自意識、故郷からずっと出ることができなかった幼なじみのオスカーの溜め込んできた承認欲求といったものがモンスター化して、ソウル市街に出現することになる。米国から見れば、地球の裏側にある遠い韓国はネット上のSNS世界と大して変わらない。グロリアやオスカーは日常生活で抱いているストレスを、巨大怪獣・巨大ロボットを操ることで解消しようとする。一度でも巨大化する快感を覚えてしまった自意識&承認欲求はどんどん膨張する一方で、コントロールすることが難しい。やがてこの巨大怪獣と巨大ロボットは、グロリアとオスカーの潜在意識に感応して、ソウル市民を悶絶させる大バトルをおっ始める。

 東宝からゴジラキャラクター使用のNGを出されたことからデザイン変更された巨大怪獣だが、顔の造形は『ウルトラマン』(66~67)の第1話「ウルトラ作戦第一号」に登場した宇宙怪獣ベムラーにちょっと似ている。ちなみに、大人になれずにいる主人公たちの潜在意識が大怪獣を生み出すという内容は、二次元怪獣ガヴァドンが登場した『ウルトラマン』の第15話「恐怖の宇宙線」(実相寺昭雄監督!)を彷彿させる。その一方、破壊される街は『ゴジラ』シリーズで何度も破壊された東京ではなく、お隣の韓国ソウルに変更。そのため、ますますシュール度が増したかっこうだ。

 肥大化して暴れ回る自意識や承認欲求にはどう対処すればいいのか。この巨大怪獣、うまく飼い馴らすのはけっこー面倒である。いちばんの安全策は、SNSと同様に酔っぱらった勢いで公園には立ち入らないで、ということだろう。
(文=長野辰次)

『シンクロナイズドモンスター』

製作総指揮/ナチョ・ビカロンド、アン・ハサウェイ
監督・脚本/ナチョ・ビカロンド
出演/アン・ハサウェイ、ジェイソン・サダイキス、ダン・スティーヴンス、オースティン・ストウェル、ティム・ブレイク・ネルソン
配給/アルバトロス・フィルム 11月3日(金)より新宿バルト9、ヒューマントラスト渋谷ほか全国順次ロードショー
(c)2016 COLOSSAL MOVIE PRODUCTIONS,LLC ALL RIGHTS RESERVED.
http://synchronized-monster.com

 

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ジャニーズ事務所“危機管理”の甘さが露呈!? 生田斗真の「冗談NG」も後手に……

 生田斗真が24日、広瀬すずと共演する映画『先生!、、、好きになってもいいですか?』ヒット祈願イベントを開催。しかし現場ではジャニーズ事務所側の“危機管理”の甘さが垣間見えるものになっていたようだ。

「この日、生田は広瀬とともにサプライズで原宿の竹下通りを練り歩くというイベントを開催。ただ、ジャニタレが竹下通りを歩くとなると、2010年3月に『Hey! Say! JUMPがゲリラライブする』というデマ情報が拡散され、それを信じた若者が竹下通りに集まりすぎ、スシ詰め状態になった結果、少女4人が打撲や過呼吸で病院に運ばれるという騒ぎが思い出されます。しかも、その事件は別の騒ぎも生まれ、フジサンケイグループの産経新聞によるネットニュース『MSN産経ニュース』がこの騒ぎを報じた際、第2報でタイトルに『Hey! Say! JUMP』と入れ込まれていたのが、わずか20分後にはその記事が削除されたうえ、最終的には『「AKBがいる」飛び交うデマに原宿騒然』と、ジャニーズグループの名前がなくなり、なぜかAKB48が濡れ衣を着せられるという黒歴史も。今回のイベント自体は騒動になることなく無事に終わりましたが、過去にそんなことがあった場所だけに、生田をよく歩かせたなという感じでしたよ。すでにジャニーズでは事件のことが忘れ去られているようで、危機管理的に大丈夫かなと不安になる一幕でした」(ワイドショー関係者)

 その後、マスコミ向けに会見が開かれたというのだが、ここでは生田の発言に問題が生じていたとも。

「生田が広瀬をエスコートするときに階段で手を貸していたということで、記者から『ああいうことは普通にする?』という質問が上がったんですが、生田が冗談っぽく『かわいい子限定です』と言い出していて、もちろんその直後に『ウソウソウソ(笑)。(衣装が)着物で動きづらそうだったので』と、誰もが冗談とわかる雰囲気で話をしていたんです。とはいえ、この『かわいい子限定』が独り歩きしそうなこともあってか、この一連のコメントがNGになっていました。このNGの通達も、普段のジャニーズなら現場で差し止めていたものでしたが、終了後30分くらい、しばらく時間が経ってから各社に連絡が来るという段取りの悪さ。現場にはジャニーズ事務所のスタッフも姿を見せていただけに、こちらも対応が後手に回っているという印象でした」(同)

 やはりジャニーズ事務所にとって、原宿は鬼門なのかもしれない。

犯罪史に残る殺人ピエロがモデルの大ヒット作! トラウマが具象化して襲い掛かる『IT/イット』

 そいつ(IT)は27年周期で街に現われ、 トラウマを抱えている人間に襲い掛かる。“ホラー小説の帝王” スティーヴン・キングの代表作『IT』(文春文庫)は、 1990年に米国でテレビドラマ化され、 当時のホラーファンを魅了した。日本でも『IT/イット』 の邦題でビデオリリースされ、カルト的人気を博している。 それから27年の歳月を経て、今度は映画版『IT/イット“ それ”が見えたら、終わり。』として、そいつは甦った。 R指定作品ながら全米ではホラー映画の金字塔『エクソシスト』( 73)を上回る興収成績を収めるメガヒット作となっている。

 なぜゆえ、スティーヴン・キングが生み出した『IT』は、 時代を経ても人々の心を揺さぶり続けるのだろうか。 鬼ごっこのことを英語では「Tag」と言い、鬼は「It」 と呼ばれる。ITとは不定形な怪物であって、 いつ誰がITになるのか分からない。 幼い子どもたちは鬼ごっこが大好きだが、 劇中のITは逃げ回る子どもたちがそれぞれ抱えるトラウマに姿を 変えて執拗に追い掛けてくる。 ITは子どもたちの心の傷を塞いでいるカサブタをむしり取り、 笑いながらその生傷を舐め回す。子どもたちが怯え、苦しむほど、 ITはその子どもを美味しくいただくことができるからだ。 こんな怪物、一度遭ったら二度と忘れられない。

 

 そんな不定形な恐怖であるITに、スティーヴン・ キングが与えたビジュアルはサーカスにいるピエロだった。『 IT/イット』を観た後では、 マクドナルドに置いてある人形が視界に入ってきただけで恐ろしく 感じてしまう。実は子どもたちを脅かすピエロのペニーワイズは、 実在の人物がモデルとなっている。 1970年代の米国を震撼させた“殺人ピエロ”ことジョン・ ゲイシーというシリアルキラーだ。 資産家で街の名士でもあったジョン・ ゲイシーは福祉活動にも積極的で、 ピエロの扮装をしてはパーティーに集まった子どもたちを喜ばせて いた。だが、 その陰ではお気に入りの少年を自宅の地下室に誘い込み、 性的虐待を加えた挙げ句に殺害し、 床下に隠すという凶行を繰り返した。ジョン・ ゲイシーによる犠牲者は33名にも及ぶと言われている。『IT/ イット』 の子どもたちが暗い地下室や下水道を怖がる恐怖の水脈は、 沼地に建てられたジョン・ ゲイシーの自宅の死臭が漂う床下と結びついているのだ。

 映画版『IT/イット』の舞台は、 1980年代の米国の田舎町デリー。スティーヴン・ キング作品でお馴染みキャッスルロックと同じく架空の街だ。 繊細な心を持つ少年ビル(ジェイデン・リーバハー)は、 弟を亡くしたことで吃音症がひどくなってしまった。大雨の日、 弟のジョージーはひとりで遊びに出掛け、 そのまま二度と帰ってこなかった。 ビルは弟の失踪を自分の責任だと思い詰めている。転校生のベン( ジェレミー・レイ・テイラー)は図書館に通う温厚な性格だが、 不良たちから体型のことで虐められる。 父親と2人暮らしの少女ベヴァリー(ソフィア・リリス)は、 父親が自分のことを女として見るようになったことが怖い。 ベヴァリーがバスルームに入ると、 排水溝から赤い血が溢れ出してくる。 ベヴァリーが見る大量の血は、初潮の隠喩だろう。 陽気なピエロの姿をしたペニーワイズ(ビル・スカルスガルド) は、子どもたちの潜在意識の中に潜り込み、 それぞれが抱えているトラウマに変身して、子どもたちが苦しみ、 顔を歪める様子を眺めて大喜びする。

 

『IT/イット』は単なるホラーではなく、 思春期を迎えた少年少女たちの成長ドラマとなっているところがス ティーヴン・キングならでは。 ペニーワイズの幻影に悩まされているビルたち7人は学校ではルー ザークラブ(負け犬クラブ)と呼ばれているが、 7人で夏休みを過ごしていくうちに無二の親友となっていく。 吃音症で悩んでいたビルも、 仲間と一緒だとあまり気にしないで済む。 パンツ一丁になって川へ飛び込み、 血まみれ状態のままだったベヴァリー家のバスルームをみんなで清 掃する。不良チームを率いるヘンリー(ニコラス・ハミルトン) にも7人で立ち向かった。 クラブの紅一点であるベヴァリーをめぐるロマンスも生まれる。 仲間と出逢い、初恋を経験し、 夏休みの間にビルたちはぐんぐんと大きくなっていく。 7人一緒なら、怖いものはない。ルーザークラブの一行は、 ペニーワイズが27年ごとにこの街に現われては多くの子どもたち をさらっていることに気づき、 下水道に潜むペニーワイズとの対決を決意する。 ひと夏の美しい記憶とおぞましい恐怖体験との対比が鮮やかに描か れる。

 ペニーワイズのモデルとなった連続殺人鬼ジョン・ゲイシーだが、 もちろん彼にも少年時代はあった。 厳格で癇癪持ちの父親のもとで育ったジョン・ ゲイシーは父親の暴力や暴言に苦しみながら、 それでも父親に愛されたいと願っていた。 大人になったゲイシーは勤勉な実業家として成功を収め、 ボランティア活動にも励んだ。 父親から一人前の男として認められたいという想いからだった。 結局、ゲイシーは父親の愛情を得ることができず、 自分自身が街の子どもたちを苦しめるという倒錯した欲望に溺れて いくことになる。『IT/イット』 に登場する不良少年ヘンリーも父親に虐待されており、 家庭内で溜め込んだ負の感情をルーザークラブのメンバーを虐める ことで吐き出そうとする。 本作のヒロインである美少女ベヴァリーもまた、 父親の支配に悩まされ続けている。 彼女もビルやベンたちと出逢っていなかったら、 もしかしたらITの仲間になっていたかもしれない。 ITは姿を変え、我々が忘れた頃にふいに現われる。

 映画版『IT/イット』はビルたちルーザークラブの7人が“ 大人への通過儀礼” としてペニーワイズと直接対決するシーンがクライマックスとなっ ている。ジュブナイルものとして秀逸な出来映えだが、原作& テレビドラマ版では40代になったビルたちの前に再びペニーワイ ズが出現することになる。 生きることに不安を感じていた10代の頃と違い、 40代になると仕事のこと、家庭のこと、残された人生のこと…… と違った悩みを背負うようになる。 人生に疲れた身体にムチ打って、 またペニーワイズと戦うのは少年時代とは違ったしんどさがある。 ギレルモ・デル・トロ製作総指揮『MAMA』(13) でデビューしたアンディ・ ムスキエティ監督は本作が記録的大ヒットになったことから、 続編製作にヤル気まんまんとのこと。 完結編の公開は27年後ではないことを願おう。
(文=長野辰次)

 

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』
原作/スティーヴン・キング 脚本/チェイス・パーマー、キャリー・フクナガ、ゲイリー・ ドーベルマン 監督/アンディ・ムスキエティ
出演/ジェイデン・リーバハー、ビル・スカルスガルド、フィン・ ウォルフハード、ジャック・ディラン・グレイザー、ソフィア・ リリス、ジェレミー・レイ・テイラー、ワイアット・オレフ、 チョーズン・ジェイコブズ、ニコラス・ハミルトン、ジャクソン・ ロバート・スコット
配給/ワーナー・ブラザース映画 R15+ 11月3日(金)より丸の内ピカデリー、 新宿ピカデリーほか全国公開
C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
http://wwws.warnerbros.co.jp/itthemovie/

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北野監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(後編)

北野監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(後編)の画像1
テレビ番組のADを振り出しに映画プロデューサーとなった森昌行氏。北野武監督、そしてビートたけしの最大の理解者でもある。
 オフィス北野の社長であり、北野監督作品のプロデューサーでもある森昌行氏へのロングインタビュー後編。『アウトレイジ』シリーズの個性的なキャスティングと『アウトレイジ 最終章』後の展望について尋ねた。 (前編はこちらから) ──“全員、悪人”というキャッチフレーズで始まった『アウトレイジ』シリーズが話題になったことで、それまでの芸能界の「好感度」がもてはやされる風潮にクサビを打ったんじゃないでしょうか。 森昌行 実録犯罪ドラマで大久保清を演じたこともありますし、たけしさん自身が悪役を好んでやりますよね。そのきっかけになったのは、たけしさんが俳優として注目を集めた大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』(83)です。たけしさんは坊主頭にして原軍曹という日本兵を演じたのですが、ラストシーンの「メリークリスマス、ミスター・ローレンス」という台詞で劇場に笑いが起きたんです。あんなシリアスな映画なのに自分のシーンで笑いが起きたことが、かなりショックだったようです。それもあって、あえてお笑いをやりながら悪役を演じるという難しいことにたけしさんは取り組み始めた。違和感なく役者をやれるようになるまで10年を要したと言っています。今では悪役が定着して、いいおじいちゃん役は映画では難しいでしょうね(笑)。極悪非道な役をやればやるほど、クールだと喜ばれる。そういう意味でも、お笑いと暴力は紙一重なのかもしれません。 ──ビートたけしの悪役ぶりに触発されるように、『アウトレイジ』シリーズでは西田敏行ら大物俳優たちも、それぞれ思い切った極道ぶりを披露していますね。  実は、西田さんが新人時代にバラエティー番組に出演していた頃、僕はそのバラエティー番組のADをやっていたんです。『アウトレイジ』が公開中のとき、フジテレビの廊下で西田さんとすれ違い、「森さん、俺にも悪いのやらせてよ」と頼まれたんです(笑)。西田さんみたいな大物俳優はそう簡単に出演してくれないだろうと思っていたんですが、「いい人の役ばかりで、ずっとイライラしていた。だから『アウトレイジ』には出たかった」と後から言われました。そういう経緯もあって、西田さんは撮影現場ではアドリブ連発でノリノリでした(笑)。 ■コワモテ俳優が集う『アウトレイジ』シリーズの現場 ──『ビヨンド』に続く『アウトレイジ 最終章』も実力派男優たちの顔面バトルの連続。撮影現場はかなりピリピリしていたのでは?  いえ、ピリピリした現場ではありませんでした。かといって、俳優たちがワーワーと騒いでいる現場でもなく、とても静かな現場でした。そんな中で、西田さんはカメラが回り出すとメリハリのついた演技を次々と見せる。北野監督は「プロの俳優はやっぱり違うな」と感心していたぐらいです(笑)。 ──花菱会の若頭・西野(西田敏行)が「迷惑もハローワークもあるかいっ」と捲し立てる場面がありますが、あれはアドリブ?  西田さんがアドリブで考えた台詞です(笑)。西田さんは他にもアドリブを連発していました。元証券マンの新会長(大杉漣)に向かって「ジェニ(銭)ジェニ♪って、リトル・リチャードじゃあるまいし」なんて台詞も飛ばしていたんですが、ほとんど編集でカットされています。西田さんは昨年入院されていたので心配していたんですが、自分の出番になると大変な集中力を見せてくれました。やっぱり、すごい俳優だなと思いましたね。 ──『最終章』からの出演となる花菱会直参幹部・花田役のピエール瀧も面白い存在です。凄んでみせるけど、どこかおかしみがある。  本物のヤクザではない、お金の力で幹部に取り立ててもらった半グレ上がりという設定ですね。まだヤクザの世界のことがよく分かっておらず、自分の指を詰めるのを怖がっている。ヤクザ然としていないところが、ぴったりだったんじゃないでしょうか。彼がいたことで、逆に塩見三省さんの凄みが際立ったように思います。 ──第1作には短い出番でしたがマキタスポーツが出ていましたし、ミュージシャンはドラマに出ると独特の面白さを発揮しますね。  ピエールさんが電気グルーヴで活躍していることはもちろん知っていましたが、ミュージシャンであることを意識してキャスティングしたわけではありません。でも、やっぱりミュージシャンの方は台詞の間を外すことがないし、話し方もリズミカルですね。たけしさんも「ミュージシャンはコントをやらせてもうまい」と言っています。
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金の力で花菱会の幹部に成り上がった花田(ピエール瀧)。花菱会と張会長グループとの抗争の火種となる。
■本職の俳優顔負けの存在感を放った男 ──『アウトレイジ』シリーズの意外なキャスティングで外せないのは、『ビヨンド』からフィクサー役で出演している金田時男さん。俳優ではなく、まったくの素人だと聞いています。  たけしさんは金田時男さんの息子さんと知り合い、個人的な付き合いがあったそうです。それで食事を一緒にするうちに、父親である金田時男さんを紹介され、戦後の日本をどう生きてきたかといった話をされ、その話がとても面白かったそうです。また、金田時男さんは松田優作さんの自伝なども読まれ、「お金はいくら稼いでも、いつかは消えてしまう。その点、俳優は映画にその姿を残すことができて羨ましい。とんでもないと思うかもしれないが、北野作品に自分の姿を刻みつける機会があればお願いできないか」とたけしさんにお願いしたそうです。金田さんは顔つきがいいし、あの存在感は本職の俳優たちにも負けていない。それで『ビヨンド』では台詞がほとんどなかったんですが、張会長として出演してもらい、『最終章』ではストーリーの展開上、出番も台詞もかなり増えることになったんです。 ──2014年に亡くなった高倉健さんですが、北野映画に出演かという噂が何度も上がりました。実際にオファーはされていたんでしょうか?  高倉健さんがご存命中に「こういうのをやりませんか」と企画を提案させていただいたことはありました。ただ提案書だけではなく、ある程度のホン(脚本)を用意しないとダメだと健さんの出演作をプロデュースされた方からは聞いていたので、北野組は脚本が変更することは多々ありますが、シノプスよりは詳しいものを準備しました。健さんもずいぶん考えてくれたみたいですが、自分がやる役ではないんじゃないかと丁寧に断られたというのが事実です。 ──『アウトレイジ』シリーズや先ほど出た「ヤクザ名球会」ではなかったんですね?  違います。映画化された企画へのオファーではなく、まったく別の企画でした。健さんの出演が決まっていなかったので、他のキャストへのオファーもしていない状態だったので、その企画は実現はしていないんです。
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『アウトレイジ ビヨンド』に続き、日韓の裏社会を牛耳るフィクサー・張会長(金田時男)は独特の存在感を見せる。
■恋愛小説『アナログ』の映画化の可能性は? ──『アウトレイジ』シリーズの完結後は、どのように考えていられるんでしょうか? ビートたけし初の恋愛小説ということで9月に発売されたばかりの『アナログ』(新潮社)も話題となっていますが……。  北野監督の頭の中には、次回作はどうするのか、バイオレンス映画をまた撮るのかどうかといった考えはあるようですが、それはそのときの気分によって変わるものなので、これからのことは『アウトレイジ 最終章』が興行的に成功して、そこから初めて「じゃあ、次回はどうするか」という話になります。もちろん、『アナログ』は出版されたばかりで話題性もあるので次回作の候補にはなり得ますが、最終的にはビジネスサイド、お金を出してくれる人たちが納得してくれないと次へは進めません。また、原作小説があっても、それを映画としてどう広がりのあるものにしていくかというアイデアも必要になってきます。『アウトレイジ』の前や『龍三と七人の子分たち』の前も、北野監督は別の企画を提案していたんですが、どの企画が優れている優れていないではなく、どの企画が実現可能かどうかということなんです。我々は大ヒットメーカーではありませんが、ヒットメーカーとしての立場は守っていかなくてはいけない。興行的に成功を見込める作品を作っていくことが責務でもあるんです。それと北野組には大きなハードルがあるんです。たけしさんはテレビの仕事もしているのでテレビの収録をする“テレビ週”と映画の撮影をする“映画週”とが隔週ごとに分かれていて、他の映画よりも機材費や人件費が2倍必要になってくるため、リクープラインが高くなっているんです。いろんな企画のアイデアを持っている北野監督は歯がゆいかもしれませんが、プロデューサーとしては企画選びは慎重にならざるを得ないんです。 ──北野監督の初期を代表するバイオレンス映画の傑作『ソナチネ』の後に『キッズ・リターン』(96)のような名作が生まれているだけに、ファンは次回作も大いに期待してしまいます。  いやいや、『キッズ・リターン』の前には『みんな~やってるか!』(95)がありましたし、94年にはバイク事故も起こしています(苦笑)。バランスが大きく崩れることもあるわけです。それで『座頭市』が大ヒットして喜んでいたら、また『TAKESHIS’』で沈んで……ということになっています。今の興行システムでは、それは許されないんです。単館でもロングラン上映してくれる映画館が全国に20~30館もあればビジネス的に可能なんですが、今はそんな劇場は国内には1~2館しかないというのが現状です。観客動員100万人という数字は、東京ドームを20日連続で満員にしなくちゃいけないということ。ローリングストーンズでもできるかどうか。シネコンのシステムの中でヒットさせるということは、そういうことなんです。 ──森プロデューサーはそんな重責を担っていながら、毎年11月に開催される映画祭「東京フィルメックス」のエクゼクティブプロデューサーも務めている。めちゃめちゃ大変じゃないですか。  「東京フィルメックス」は“アジアの若手監督を紹介する映画祭”という建前は非常に美しいのですが、内情はとても厳しいです(苦笑)。カンヌやベネチアといった映画祭でも近年はだんだん地味になってきているぐらいですからね。 ──最近のフィルメックス上映作品だと、中国のジャ・ジャンクー監督の『罪の手ざわり』(13)や奥田庸介監督の『クズとブスとゲス』(15)などは、とても面白い作品でした。  いい映画でしたねぇ。アジアにはまだまだ優れた才能がいることは我々も分かってはいるんですが、彼らの作品を定期的に公開できる環境が整っていない状況なんです。大量消費の時代にあって、いくら良作を作ってもビジネス的には難しい。多様化の時代と言われていますが、現実は全然多様化していません。みんな、マスのほうへ向かっているのが現状です。マスでなければ、いわゆるオタクと呼ばれる趣味趣向の世界になり、メジャーにはなり得ない。シネコンとは異なる、新しい受け皿づくりは今後の大きな課題かもしれません。 (取材・文=長野辰次)
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●森昌行(もり・まさゆき) 1953年鳥取県生まれ。テレビ番組製作会社でADとして過ごし、最初にチーフディレクターを務めたバラエティー番組『アイドルパンチ』(テレビ朝日)をきっかけに、司会のビートたけしと親交を深める。88年の「オフィス北野」の設立に参加し、92年から代表取締役社長に就任。89年の北野監督の監督デビュー作『その男、凶暴につき』から全ての北野作品をプロデュースしている。また、例年11月下旬に開催されるアジアを中心にしたインディペンデント系の映画祭「東京フィルメックス」の運営も手掛け、若手映像作家の育成にも取り組んでいる。
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『アウトレイジ 最終章』 監督・脚本・編集/北野武 音楽/鈴木慶一 撮影/柳島克己 照明/高屋齋 出演/ビートたけし、西田敏行、大森南朋、ピエール瀧、松重豊、大杉漣、塩見三省、白竜、名高達男、光石研、原田泰造、池内博之、津田寛治、金田時男、中村育二、岸部一徳 配給/ワーナー・ブラザース映画、オフィス北野 R15+ 10月7日(土)より全国ロードショー (c)2017『アウトレイジ最終章』製作委員会 http://outrage-movie.jp

北野武監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(前編)

北野武監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(前編)の画像1
北野映画にこの人あり。森昌行プロデューサーがいたから、『ソナチネ』や『キッズ・リターン』などの傑作が誕生した。
“世界のキタノ”こと北野武監督が衝撃デビューを果たした『その男、凶暴につき』(89)から、常に北野映画を支えてきたのが森昌行プロデューサーだ。またオフィス北野の社長として、テレビの第一線で活躍を続ける人気タレント・ビートたけしのマネジメントも手掛けている。多彩なキャストを配し、経済至上主義となった現代社会の風刺にもとれるバイオレンスエンターテイメント『アウトレイジ』シリーズは、どのようにして生まれたのか。そして、トリロジー完結編『アウトレイジ 最終章』を完成させ、北野映画はこれからどこへと向かうのか。北野監督の才能を誰よりも愛するがゆえに、時にシビアな判断も迫られる森プロデューサーが北野映画の裏側を語った。 ──2010年に公開された第1作『アウトレイジ』は独創的なバイオレンスシーンが話題となり、スマッシュヒットを記録しました。もともとは前作『アキレスと亀』(08)の主人公・真知寿がいろんな自殺方法を試すシーンで危なすぎて使えなかったネタから生まれたそうですね。 森昌行 我々はデスノートと呼んでいるんですが、死に方帳みたいなものをたけしさんは持っているんです(笑)。お笑いのネタ帳と同じように、面白い死に方や殺し方を思いついたら、たけしさんは『アキレスと亀』以前からメモしていました。子どもが自由に落書きするみたいな感覚なんですが、その手帳を持ち歩いているときに警察に尋問されたら、きっとテロリストとして逮捕されるでしょうね(笑)。 ■笑いほど残酷なものはない ──北野監督にとっては、笑いも死も同価値のものなんですね。  北野さんは昔から言っているんですが、「笑いとは残酷なものだ」と。また、「笑いは悪魔のように忍び寄る」とも言っています。お笑いって、シリアスな状況であればあるほど、そこで起きる笑いも大きくなるわけです。お葬式みたいに絶対笑ってはいけない場で、誰かがおならをするとおかしくて仕方ない。それがたけしさんの言う「笑いが悪魔のように忍び寄る」ということなんです。これは突発的に起きる暴力と同じようなもの。だから、笑いってすごく暴力的なものなんだ、というのがたけしさんの持論です。チャップリンが言っていたそうですが、「ホームレスがバナナの皮で転ぶより、大統領がバナナの皮で転んだほうが面白い」と。権力を持っている人間が転んだほうがおかしいわけです。だから、たけしさんも「お笑いをやっているからには俺は文化勲章をもらうんだ」と言っています。文化勲章をもらった翌日、立ちションで逮捕されたら、そのギャップが笑いを生むわけです。たけしさんはいつも笑いをベースに考えていて、その延長線に暴力も並んでいるようですね。 ──北野映画は“死生観”“破滅衝動”がテーマだとも言われています。  確かに「北野監督の作品は死がテーマになっている」と言われていたことが初期の頃はありました。でも、たけしさんに言わせれば「いや、そうじゃないんだ。今の時代は生に光を当て過ぎているんだ」ということなんです。たけし流に言えば、なぜ死を忌み嫌うのか、生きることにしか光を当てないほうがおかしいよ、ということ。人間の死を描くことは生を描くということでもあるんです。北野監督にとっては、死に方=生き方なんです。
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『アウトレイジ ビヨンド』でマル暴刑事・片岡(小日向文世)を射殺した大友(ビートたけし)は韓国の済州島に身を潜めていたが……。
■内面三部作は監督にとって必要な作品だった ──北野作品は、笑いと暴力、生と死が隣り合わせになっているわけですね。『アウトレイジ ビヨンド』(12)は北野監督にとっては初の続編。第1作のラスト、刑務所で刺殺されたはずの大友組の組長・大友(ビートたけし)が実は生きていたという『ビヨンド』のアイデアは、森プロデューサーの発案だったと聞いています。  ハハハ、それは事実です(笑)。確かに北野監督はそれまでシリーズものを作ることはせず、『アウトレイジ』も1作で完結させたつもりだったはずです。北野監督と揉めたわけではないんですが、これはプロデューサー個人の話として聞いてください。プロデューサーという仕事は、クリエイティブサイドとビジネスサイドとのブリッジ役だと認識しています。クリエイティブサイドに関しては、北野監督の意思を最大限に尊重したい。でも一方のビジネスサイドに立てば、プロデューサーは出資者たちへの責任があるわけです。作品を完成させるだけでなく、興行的にも成功を収めなくてはいけません。『アウトレイジ』の前に撮った、『TAKESHIS’』(05)、『監督・ばんざい!』(07)、『アキレスと亀』の3作品は正直なところ、ビジネス面で成功したとは言えませんでした。 ──北野監督の内面を描いた三部作、どれも興味深い作品でした。  もちろん、3作品とも内容は評価はされており、それぞれ海外の映画祭にも呼ばれています。北野監督の作家性には悪影響は何らもたらしていません。また、『座頭市』(03)の後、自分が撮りたいのはこれだという明確なものが見つからない混迷期に入り、北野監督にとっては新しい出口を探り出すために必要な3作だったと思います。決して開き直って、弁明しているわけではありません(笑)。そこで3作を撮り終えた北野監督に提案したのが、「十八番中の十八番であるバイオレンスエンターテイメントをやりましょう」ということでした。実験的な作品は避けて、北野監督が最も得意とするバイオレンスアクションに戻ろうと。でも、それは『その男、凶暴につき』や『3-4x 10月』(90)や『ソナチネ』(93)をもう一度撮るということではないし、そうならないと確信していました。北野監督はそれまでにいろんな作品を撮ってきたので、バイオレンスアクションを撮っても初期作品とは同じものにはならないはずだという期待もありました。
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老舗暴力団・花菱会の若頭・西野(西田敏行)と若頭補佐の中田(塩見三省)。実力派俳優たちの老練なやりとりは大きな見どころ。
■『アウトレイジ』に科せられた高いハードル ──北野映画初出演組を中心にした多彩なキャスティングも、『アウトレイジ』シリーズならでは。  それまでの北野監督は、色のついた俳優を起用することをあまり好みませんでした。自分の言うとおりに役者は動いてほしいと考えていたようです。それもあって、寺島進や大杉漣さんといった北野組と呼ばれる常連俳優たちをいつも起用していたんです。ですが、いろんな作品を撮ってきたことで北野監督はどんな俳優が来ても充分にやれるはずだという読みがこちらにはあり、『アウトレイジ』は北野組ではない俳優を使いましょうと提案しました。ビジネス的に前3作が成功しなかったということも、プロデューサーとして大きくありました。『アウトレイジ』がもし失敗したら、監督生命が危ぶまれる……くらいの危機感がありました。4作連続でリクープできなければ、メディアが“世界のキタノ”と持ち上げても、ビジネスパートナーたちはパートナーシップを解消してしまう。そうなれば、北野監督は好きなように映画を撮ることもできなくなる。『アウトレイジ』に関しては、私は観客動員100万人をボーダーラインとして考えていました。そのくらいの大ヒットじゃないと、過去3作のマイナスイメージを払拭できないと、スタッフ全員にハッパを掛けていたんです。いざ、劇場公開してみると観客動員は80万人程度でした。ヒットはヒットなんですが、私の設定していた目標値には達していなかった。そこで、たけしさんには「大友は生きているというアイデアはどうですか? 大友の死体は映していませんし」と私から持ち掛けて、『アウトレイジ』のDVDがリリースされるタイミングで、続編製作を正式発表することでヒット感を打ち出しました。その甲斐あって、『アウトレイジ』のDVDセールスは伸び、その勢いが第2作『アウトレイジ ビヨンド』へと続いたんです。 ──北野監督と森プロデューサーには長年の信頼関係があるわけですが、それでも「大友は生きている」というアイデアを切り出すタイミングは気を使ったんじゃないですか?  もちろん、そうです。下手なタイミングで切り出せば、一蹴されてしまう可能性もありました。でも、たけしさんにも思うところがあったんだと思います。「大友が生きているなら、こういうストーリーになるな」とアイデアを膨らせてくれました。その結果、『ビヨンド』は第1作を越える興収結果を残し、『ビヨンド』で終わってもよかったんですが、今度は北野監督が乗って、「次は大友が韓国へ逃げて……」と3作目まで作ることになったんです。まぁ、すぐに『アウトレイジ 最終章』を作るのではなく、一度違うベクトルに振ったほうがいいだろうと思い、たけしさんがネットで発表した短編小説『ヤクザ名球会』を『龍三と七人の子分たち』(15)として映画化することにしました。幸い、こちらもうまくヒットすることができました。 ──北野監督ほどの才能と実績とネームバリューがあっても、常に数字を残さなくてはいけない時代ですね。  やはり、シネコンというシステムの中では、興行成績というものが中心になっています。『HANA-BI』(98)の頃はアートハウス系でロングラン公開され、口コミで動員することができました。『HANA-BI』を1年間にわたって上映し続けた映画館もあったほどです。海外の映画祭で受賞したことで宣伝費も使わずに済みました。でも、そういったアートハウス系の映画館はほとんど消えてしまい、今はシネコンで上映するしかありません。ある意味、シネコンは残酷な世界です。公開初週の土日にどれだけ観客動員できたかで、公開期間も決められてしまう。宣伝費も『HANA-BI』の頃に比べて、10倍必要になっています。そんな中で、ただ作家性を重視した作品を撮っても、自己満足で終わってしまうことになってしまう。シネコンに作品を掛けるということは、メジャー指向で大量動員することが前提となっています。『HANA-BI』や『座頭市』くらいまでは海外マーケットもそれなりの市場だったんですが、今はアジア映画が海外で占める市場はとても縮小されています。嫌だと思っていても、日本の大量動員システムの中で勝負し、勝ち残っていくしかないんです。エンターテイメントに徹しないと、この国では映画を撮ることはできません。海外でインタビューを受けると「なぜ、北野監督は今もテレビ出演を続けているのか?」と質問されることがありますが、今の日本では映画を撮っているだけでは食べてはいけないからなんです。よっぽど慎ましい生活にすれば別でしょうけど。そういったことも含め、マネジメントも考えざるをえない。当然、たけしさんも年齢を重ね、テレビの世界では新しい人間も出てくる。今後、映画監督としてタレントとして、どう続けていくかは大きなテーマですね。 (取材・文=長野辰次/後編につづく) ●森昌行(もり・まさゆき) 1953年鳥取県生まれ。テレビ番組製作会社でADとして過ごし、最初にチーフディレクターを務めたバラエティー番組『アイドルパンチ』(テレビ朝日)をきっかけに、司会のビートたけしと親交を深める。88年の「オフィス北野」の設立に参加し、92年から代表取締役社長に就任。89年の北野監督の監督デビュー作『その男、凶暴につき』から全ての北野作品をプロデュースしている。また、例年11月下旬に開催されるアジアを中心にしたインディペンデント系の映画祭「東京フィルメックス」の運営も手掛け、若手映像作家の育成にも取り組んでいる。
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『アウトレイジ最終章』 監督・脚本・編集/北野武 音楽/鈴木慶一 撮影/柳島克己 照明/高屋齋 出演/ビートたけし、西田敏行、大森南朋、ピエール瀧、松重豊、大杉漣、塩見三省、白竜、名高達男、光石研、原田泰造、池内博之、津田寛治、金田時男、中村育二、岸部一徳 配給/ワーナー・ブラザース映画、オフィス北野 R15+ 10月7日(土)より全国ロードショー (c)2017『アウトレイジ最終章』製作委員会 http://outrage-movie.jp

北野武監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(前編)

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北野映画にこの人あり。森昌行プロデューサーがいたから、『ソナチネ』や『キッズ・リターン』などの傑作が誕生した。
“世界のキタノ”こと北野武監督が衝撃デビューを果たした『その男、凶暴につき』(89)から、常に北野映画を支えてきたのが森昌行プロデューサーだ。またオフィス北野の社長として、テレビの第一線で活躍を続ける人気タレント・ビートたけしのマネジメントも手掛けている。多彩なキャストを配し、経済至上主義となった現代社会の風刺にもとれるバイオレンスエンターテイメント『アウトレイジ』シリーズは、どのようにして生まれたのか。そして、トリロジー完結編『アウトレイジ 最終章』を完成させ、北野映画はこれからどこへと向かうのか。北野監督の才能を誰よりも愛するがゆえに、時にシビアな判断も迫られる森プロデューサーが北野映画の裏側を語った。 ──2010年に公開された第1作『アウトレイジ』は独創的なバイオレンスシーンが話題となり、スマッシュヒットを記録しました。もともとは前作『アキレスと亀』(08)の主人公・真知寿がいろんな自殺方法を試すシーンで危なすぎて使えなかったネタから生まれたそうですね。 森昌行 我々はデスノートと呼んでいるんですが、死に方帳みたいなものをたけしさんは持っているんです(笑)。お笑いのネタ帳と同じように、面白い死に方や殺し方を思いついたら、たけしさんは『アキレスと亀』以前からメモしていました。子どもが自由に落書きするみたいな感覚なんですが、その手帳を持ち歩いているときに警察に尋問されたら、きっとテロリストとして逮捕されるでしょうね(笑)。 ■笑いほど残酷なものはない ──北野監督にとっては、笑いも死も同価値のものなんですね。  北野さんは昔から言っているんですが、「笑いとは残酷なものだ」と。また、「笑いは悪魔のように忍び寄る」とも言っています。お笑いって、シリアスな状況であればあるほど、そこで起きる笑いも大きくなるわけです。お葬式みたいに絶対笑ってはいけない場で、誰かがおならをするとおかしくて仕方ない。それがたけしさんの言う「笑いが悪魔のように忍び寄る」ということなんです。これは突発的に起きる暴力と同じようなもの。だから、笑いってすごく暴力的なものなんだ、というのがたけしさんの持論です。チャップリンが言っていたそうですが、「ホームレスがバナナの皮で転ぶより、大統領がバナナの皮で転んだほうが面白い」と。権力を持っている人間が転んだほうがおかしいわけです。だから、たけしさんも「お笑いをやっているからには俺は文化勲章をもらうんだ」と言っています。文化勲章をもらった翌日、立ちションで逮捕されたら、そのギャップが笑いを生むわけです。たけしさんはいつも笑いをベースに考えていて、その延長線に暴力も並んでいるようですね。 ──北野映画は“死生観”“破滅衝動”がテーマだとも言われています。  確かに「北野監督の作品は死がテーマになっている」と言われていたことが初期の頃はありました。でも、たけしさんに言わせれば「いや、そうじゃないんだ。今の時代は生に光を当て過ぎているんだ」ということなんです。たけし流に言えば、なぜ死を忌み嫌うのか、生きることにしか光を当てないほうがおかしいよ、ということ。人間の死を描くことは生を描くということでもあるんです。北野監督にとっては、死に方=生き方なんです。
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『アウトレイジ ビヨンド』でマル暴刑事・片岡(小日向文世)を射殺した大友(ビートたけし)は韓国の済州島に身を潜めていたが……。
■内面三部作は監督にとって必要な作品だった ──北野作品は、笑いと暴力、生と死が隣り合わせになっているわけですね。『アウトレイジ ビヨンド』(12)は北野監督にとっては初の続編。第1作のラスト、刑務所で刺殺されたはずの大友組の組長・大友(ビートたけし)が実は生きていたという『ビヨンド』のアイデアは、森プロデューサーの発案だったと聞いています。  ハハハ、それは事実です(笑)。確かに北野監督はそれまでシリーズものを作ることはせず、『アウトレイジ』も1作で完結させたつもりだったはずです。北野監督と揉めたわけではないんですが、これはプロデューサー個人の話として聞いてください。プロデューサーという仕事は、クリエイティブサイドとビジネスサイドとのブリッジ役だと認識しています。クリエイティブサイドに関しては、北野監督の意思を最大限に尊重したい。でも一方のビジネスサイドに立てば、プロデューサーは出資者たちへの責任があるわけです。作品を完成させるだけでなく、興行的にも成功を収めなくてはいけません。『アウトレイジ』の前に撮った、『TAKESHIS’』(05)、『監督・ばんざい!』(07)、『アキレスと亀』の3作品は正直なところ、ビジネス面で成功したとは言えませんでした。 ──北野監督の内面を描いた三部作、どれも興味深い作品でした。  もちろん、3作品とも内容は評価はされており、それぞれ海外の映画祭にも呼ばれています。北野監督の作家性には悪影響は何らもたらしていません。また、『座頭市』(03)の後、自分が撮りたいのはこれだという明確なものが見つからない混迷期に入り、北野監督にとっては新しい出口を探り出すために必要な3作だったと思います。決して開き直って、弁明しているわけではありません(笑)。そこで3作を撮り終えた北野監督に提案したのが、「十八番中の十八番であるバイオレンスエンターテイメントをやりましょう」ということでした。実験的な作品は避けて、北野監督が最も得意とするバイオレンスアクションに戻ろうと。でも、それは『その男、凶暴につき』や『3-4x 10月』(90)や『ソナチネ』(93)をもう一度撮るということではないし、そうならないと確信していました。北野監督はそれまでにいろんな作品を撮ってきたので、バイオレンスアクションを撮っても初期作品とは同じものにはならないはずだという期待もありました。
北野武監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(前編)の画像3
老舗暴力団・花菱会の若頭・西野(西田敏行)と若頭補佐の中田(塩見三省)。実力派俳優たちの老練なやりとりは大きな見どころ。
■『アウトレイジ』に科せられた高いハードル ──北野映画初出演組を中心にした多彩なキャスティングも、『アウトレイジ』シリーズならでは。  それまでの北野監督は、色のついた俳優を起用することをあまり好みませんでした。自分の言うとおりに役者は動いてほしいと考えていたようです。それもあって、寺島進や大杉漣さんといった北野組と呼ばれる常連俳優たちをいつも起用していたんです。ですが、いろんな作品を撮ってきたことで北野監督はどんな俳優が来ても充分にやれるはずだという読みがこちらにはあり、『アウトレイジ』は北野組ではない俳優を使いましょうと提案しました。ビジネス的に前3作が成功しなかったということも、プロデューサーとして大きくありました。『アウトレイジ』がもし失敗したら、監督生命が危ぶまれる……くらいの危機感がありました。4作連続でリクープできなければ、メディアが“世界のキタノ”と持ち上げても、ビジネスパートナーたちはパートナーシップを解消してしまう。そうなれば、北野監督は好きなように映画を撮ることもできなくなる。『アウトレイジ』に関しては、私は観客動員100万人をボーダーラインとして考えていました。そのくらいの大ヒットじゃないと、過去3作のマイナスイメージを払拭できないと、スタッフ全員にハッパを掛けていたんです。いざ、劇場公開してみると観客動員は80万人程度でした。ヒットはヒットなんですが、私の設定していた目標値には達していなかった。そこで、たけしさんには「大友は生きているというアイデアはどうですか? 大友の死体は映していませんし」と私から持ち掛けて、『アウトレイジ』のDVDがリリースされるタイミングで、続編製作を正式発表することでヒット感を打ち出しました。その甲斐あって、『アウトレイジ』のDVDセールスは伸び、その勢いが第2作『アウトレイジ ビヨンド』へと続いたんです。 ──北野監督と森プロデューサーには長年の信頼関係があるわけですが、それでも「大友は生きている」というアイデアを切り出すタイミングは気を使ったんじゃないですか?  もちろん、そうです。下手なタイミングで切り出せば、一蹴されてしまう可能性もありました。でも、たけしさんにも思うところがあったんだと思います。「大友が生きているなら、こういうストーリーになるな」とアイデアを膨らせてくれました。その結果、『ビヨンド』は第1作を越える興収結果を残し、『ビヨンド』で終わってもよかったんですが、今度は北野監督が乗って、「次は大友が韓国へ逃げて……」と3作目まで作ることになったんです。まぁ、すぐに『アウトレイジ 最終章』を作るのではなく、一度違うベクトルに振ったほうがいいだろうと思い、たけしさんがネットで発表した短編小説『ヤクザ名球会』を『龍三と七人の子分たち』(15)として映画化することにしました。幸い、こちらもうまくヒットすることができました。 ──北野監督ほどの才能と実績とネームバリューがあっても、常に数字を残さなくてはいけない時代ですね。  やはり、シネコンというシステムの中では、興行成績というものが中心になっています。『HANA-BI』(98)の頃はアートハウス系でロングラン公開され、口コミで動員することができました。『HANA-BI』を1年間にわたって上映し続けた映画館もあったほどです。海外の映画祭で受賞したことで宣伝費も使わずに済みました。でも、そういったアートハウス系の映画館はほとんど消えてしまい、今はシネコンで上映するしかありません。ある意味、シネコンは残酷な世界です。公開初週の土日にどれだけ観客動員できたかで、公開期間も決められてしまう。宣伝費も『HANA-BI』の頃に比べて、10倍必要になっています。そんな中で、ただ作家性を重視した作品を撮っても、自己満足で終わってしまうことになってしまう。シネコンに作品を掛けるということは、メジャー指向で大量動員することが前提となっています。『HANA-BI』や『座頭市』くらいまでは海外マーケットもそれなりの市場だったんですが、今はアジア映画が海外で占める市場はとても縮小されています。嫌だと思っていても、日本の大量動員システムの中で勝負し、勝ち残っていくしかないんです。エンターテイメントに徹しないと、この国では映画を撮ることはできません。海外でインタビューを受けると「なぜ、北野監督は今もテレビ出演を続けているのか?」と質問されることがありますが、今の日本では映画を撮っているだけでは食べてはいけないからなんです。よっぽど慎ましい生活にすれば別でしょうけど。そういったことも含め、マネジメントも考えざるをえない。当然、たけしさんも年齢を重ね、テレビの世界では新しい人間も出てくる。今後、映画監督としてタレントとして、どう続けていくかは大きなテーマですね。 (取材・文=長野辰次/後編につづく) ●森昌行(もり・まさゆき) 1953年鳥取県生まれ。テレビ番組製作会社でADとして過ごし、最初にチーフディレクターを務めたバラエティー番組『アイドルパンチ』(テレビ朝日)をきっかけに、司会のビートたけしと親交を深める。88年の「オフィス北野」の設立に参加し、92年から代表取締役社長に就任。89年の北野監督の監督デビュー作『その男、凶暴につき』から全ての北野作品をプロデュースしている。また、例年11月下旬に開催されるアジアを中心にしたインディペンデント系の映画祭「東京フィルメックス」の運営も手掛け、若手映像作家の育成にも取り組んでいる。
北野武監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(前編)の画像4
『アウトレイジ最終章』 監督・脚本・編集/北野武 音楽/鈴木慶一 撮影/柳島克己 照明/高屋齋 出演/ビートたけし、西田敏行、大森南朋、ピエール瀧、松重豊、大杉漣、塩見三省、白竜、名高達男、光石研、原田泰造、池内博之、津田寛治、金田時男、中村育二、岸部一徳 配給/ワーナー・ブラザース映画、オフィス北野 R15+ 10月7日(土)より全国ロードショー (c)2017『アウトレイジ最終章』製作委員会 http://outrage-movie.jp

今年の邦画ナンバー1は確定!? 実写版『銀魂』ヒットで「続編決定」か

今年の邦画ナンバー1は確定!? 実写版『銀魂』ヒットで「続編決定」かの画像1
映画『銀魂』公式サイトより
「興収が35億円を超えたことで、今年の邦画の実写ナンバーワンは決まりでしょうね。福田雄一監督はたくさんのヒット作を生み出してますが、いわゆる1位を取ったことはなかったので、相当喜んでいるみたいです。すでに続編も決まり、今はキャストのスケジュールの確保に動いてるようです」(映画関係者)  小栗旬が主演を務めた映画『銀魂』が興収35億円を突破し、今年の邦画の実写映画ナンバーワンを、ほぼ確定させた。 「とにかく出演者が豪華で、作品の内容は相変わらずの“福田ワールド”でしたからね。おそらく賞レースには縁がないとは思いますが、興収1位を確定させたことで、盟友の佐藤二朗さん、ムロツヨシさんは泣いて喜んだとか。特に佐藤さんは、福田さんが監督する作品には相当安いギャラでも出るくらいの関係ですからね」(芸能事務所関係者) “福田組”の常連である佐藤とムロを筆頭に、キャストとスタッフのチームワークの良さも作品の評判につながっているのだろう。ちなみに、主演を務めた小栗旬は、先日まで上演されていたミュージカル『ヤングフランケンシュタイン』でも福田監督とタッグを組んでいた。 「『銀魂』の続編の話はすでに動いているのですが、いかんせん、キャストのスケジュール確保が急務になっています。福田さん自身、映画やミュージカルだけでなくドラマやCMもやってたりするので、相当忙しいんです。このあとも実写映画『斉木楠雄のΨ難』の公開が控えてますし、しばらくは漫画原作の映画が続くようです。『銀魂』は海外でかなり評価の高い作品だけに、配給のワーナー・ブラザースとしても、続編は会社命令でしょう」(出版社関係者)  まずは、監督自身のスケジュールの確保が求められそうだ。

来年で10周年……赤字続きの吉本『沖縄国際映画祭』が「引くに引けない」ワケとは?

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『-島ぜんぶでおーきな祭-第9回沖縄国際映画祭-』公式サイトより
 2009年に始まって、毎年開催されている吉本興業の『沖縄国際映画祭』。すでに来年の開催も決定しているが、お笑い関係者は「正直、赤字続きで、いつやめてもおかしくない状態です」と、声を潜める。そもそも同映画祭が始まったのは、大崎洋社長の“鶴の一声”だったという。 「もともとはパチンコメーカーの京楽と組んで、将来的に沖縄に造られるかもしれないカジノを含む統合型リゾートの利権に食い込むのが狙いだったとされています」(前出関係者)  しかし現時点では、その目的が大きく転換しているとのことだ。 「現状では沖縄に統合型リゾートができるという確約もないし、京楽がその担い手になるとも限らない。吉本としても、今の体制でカジノ利権を手にできる可能性は、決して高くないわけです。にもかかわらず沖縄にこだわり続けるのは、“大崎社長が沖縄の地元の人々と仲良くなりすぎたから”だそうです」(同)  頻繁に沖縄へ足を運んでいるという大崎社長。地元の企業や実力者たちとのコネクションも、相当強固なものとなっているようだ。 「大崎社長は沖縄をエンタメの拠点にしたいとの構想を掲げています。それは本当なんでしょうが、それと同時に、沖縄の関係者に“お金を落としたい”という側面もあるようですね。例えば、映画祭の時は東京や大阪から吉本の若手芸人が多数沖縄に駆り出されるわけですが、芸人たちが泊まるホテルは大崎社長とつながっている業者だとか。それが高級なら別にいいんでしょうが、ちょっと狭めの部屋に何人もの芸人が入れられてしまうそうで、不満も出ているようですよ」(同)  当初の目的とはだいぶ異なる方向へ進んでいるといえそうな吉本の沖縄戦略だが、そこで浮上したのがスクール事業。吉本は、この7月から8月にかけて「ラフ&ピース ツアー 2017」として、エンタメ業界を体験するワークショップを、沖縄を中心に開催。芸人・パフォーマーだけでなく、エンタメ業界の裏方や、マンガやアニメを制作するクリエーターの育成に取り組んでいる。さらに来年4月には、エンタメ関連人材育成のための専門学校を沖縄に開校することも決定している。 「大崎社長としても、沖縄とのつながりが強すぎて、もはや引くに引けない状況。でも、ただ映画祭を開くだけだと、赤字が増えていってしまう。それならば、いっそのこと沖縄にエンターテインメントの拠点を作って、ビジネスが成立するようにすればいいのでは? という発想のようですね。エンタメのスクールを作るのはその足がかりなんだと思います」(同)  映画祭は来年で10周年を迎える。この10年で吉本が沖縄にもたらしたものはなんなのか、そして今後、何をもたらしていくのか。しっかり見届ける必要があるだろう。

戦国史上最大の決戦に見る日本社会の原風景とは? “三成”加藤剛vs“家康”森繁の超豪華版『関ヶ原』

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8月23日(水)よりDVD&ブルーレイが発売されるTBS版『関ヶ原』。加藤剛、森繁久彌ほか超豪華キャストが出演。
 司馬遼太郎原作、原田眞人監督の映画『関ヶ原』が8月26日(土)から劇場公開される。1600年に石田三成を中心にした西軍と徳川家康率いる東軍とが激突した戦国史上最大の野戦として知られる関ヶ原の戦いは、両軍合わせて20万人近くが動員されたスケールの大きさから映像化は困難とされてきた。NHK大河ドラマ『真田丸』では、関ヶ原での決戦シーンはわずか1分足らずで済まされてしまったほど。真っ正面から描くことが難しいこの題材を、『クライマーズ・ハイ』(08)や『日本のいちばん長い日』(15)など群像劇を得意とする原田監督は、三成=岡田准一、家康=役所広司というキャスティングで映画化に漕ぎ着けている。だが、司馬遼太郎の『関ヶ原』の映像化はこれが初めてではない。1981年にTBSが三夜連続でドラマ化しており、TBS版『関ヶ原』は“奇跡のキャスティング”と謳われるほどの超オールスターキャストだった。  天下人・豊臣秀吉の没後、豊臣政権を守るために立ち上がる石田三成に、当時42歳で三成とほぼ同年齢だった加藤剛。そして三成の片腕となる侍大将・島左近に三船敏郎。TBS時代劇『大岡越前』でおなじみだった加藤剛と黒澤映画で大活躍した国際派スター・三船敏郎がタッグを組むという贅沢な顔合わせだった。豊臣方の大名たちを籠絡してしまう古狸の徳川家康には、日本芸能界のドン・森繁久彌。そして、家康の腹心の部下・本多正信には演技派・三國連太郎(佐藤浩市のパパ)。この2人が耳打ちしているだけで、物凄く腹黒い陰謀が張り巡らされているような気がしてならない。加藤剛&三船敏郎vs森繁&三國連太郎という、原作小説のイメージにとても忠実な配役。映画版では有村架純が演じた三成の愛妾・初芽には、当時28歳だった松坂慶子が起用され、加藤剛とのベッドシーンを演じている。
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徳川家康役の森繁久彌と軍師・本多正信役の三國連太郎。この2人がコソコソ話していると、悪企みとしか思えない。
 他にも“文治派”の三成を嫌う“武断派”の福島正則に丹波哲郎、加藤清正に藤岡弘。親友の三成に命を預ける大谷吉継に高橋幸治、西軍の主力となる宇喜多秀家に三浦友和。そして合戦のキーパーソンとなる小早川秀秋に、『岸辺のアルバム』(77年)で注目を集めた国広富之。さらには北政所に杉村春子、淀殿に三田佳子……、という当時の人気俳優&実力俳優が目白押し。TBS30周年記念ドラマとはいえ、よくこれだけのキャスティングができたものだと感心してしまう。1600年の関ヶ原の戦いと同様に、TBS版『関ヶ原』もその時代のめぼしい俳優たちを総動員したかのようだ。“山内一豊”千秋実に手柄を横取りされる“堀尾忠氏”角野卓造など、細かい配役にまで目が行き届いている。  映画版『関ヶ原』が上映時間2時間29分でタイトにまとめているのに対し、TBS版は第1話『夢のまた夢』1時間50分、第2話『さらば友よ』1時間50分、第3話『男たちの祭り』2時間50分、トータル6時間30分という大長尺。映画版では見送られた名エピソードの数々が、TBS版には収められている。中でも有名なのは、家康が三成たち西軍と激突する前に、東軍側の大名たちを一堂に集めた「小山評定」。家康が率いた東軍は、実は豊臣家に恩顧のある大名たちを主力にした連合軍だった。福島正則らは三成を嫌ってはいたが、東軍としての結束力には疑問が残る。そこで家康は「小山評定」の前夜、福島正則と仲のよい黒田長政を使って入念な根回しを行なっていた。
 戦国史上最大の決戦に見る日本社会の原風景とは? 三成加藤剛vs家康森繁の超豪華版『関ヶ原』の画像3
三成(加藤剛)を慕う初芽役の松坂慶子は、1979年に主演したTBSドラマ『水中花』のバニーガール役で大人気を博した。
 事前の打ち合わせによって、福島正則は「小山評定」が始まるやいなや、家康側に就くことを大声で表明し、迷っていた他の大名たちもいっきに家康陣営に流れ込むことになる。「小山評定」のシーンを見ていると、大事な会議ほど声のデカい奴がその場をまとめてしまうというこの世の真理を実演してみせた福島正則役の丹波哲郎、家康の政治家としてのしたたかさを貫禄演技で示した森繁という、昭和の名優たちの存在感が印象に残る。  そして、いよいよ関ヶ原の決戦シーン。「義のために戦う」という加藤剛演じる颯爽とした三成、その横に三船敏郎演じる頼もしい島左近が仕えていると、西軍こそが正規軍で、ひょっとして西軍が勝つんじゃないのと思えてくるほど。ただし西軍のウィークポイントは、三成の「自分は正義のために戦う。そんな自分を裏切る人間がこの世にいるはずがない」という猛烈な思い込み。頭がよく、理に適ったことしか口にしない三成だったが、人間の心がいかに弱いかを知り尽くしていた家康のような徹底した現実主義者ではなかった。合戦の序盤は、宇喜多軍や大谷軍の奮闘もあり西軍優位だったものの、西軍側であるはずの毛利軍、吉川軍、島津軍は、それぞれの陣営から一歩も出ずに両軍の激突をじっと静観しているだけだった。日本をまっぷたつに分けた関ヶ原の戦いだが、実際に戦場で血を流しているのは秀吉子飼いの大名たち同士だった。  自分こそが正義であり、正義は必ず勝つと信じ込んでいた三成。事前の根回しによって、東軍の勝利を揺るぎないものにしていた家康。関ヶ原の戦いに出陣したにもかかわらず、最後まで態度をはっきりさせなかった毛利軍、吉川軍、島津軍……。戦国史上最大の野戦となった関ヶ原の戦いは、戦国時代の幕引きの場となったが、そこには現代の日本社会へと繋がる原風景が広がって見える。根回しや談合を得意とした家康に敗れた三成だが、最期の最期に小さな“義”に触れることになる。戦国武将とは思えない三成の真っ正直な人柄を描いたこのエピローグは、実に感動的だ。『高原にいらっしゃい』(76年)の高橋一郎、『ふぞろいの林檎たち』(83年)の鴨下信一というTBSを代表する名ディレクター2人が演出した36年前の『関ヶ原』も見応え充分の歴史ドラマである。 (文=長野辰次)
 戦国史上最大の決戦に見る日本社会の原風景とは? 三成加藤剛vs家康森繁の超豪華版『関ヶ原』の画像4
『関ヶ原』 原作/司馬遼太郎 制作/大山勝美 脚本/早坂暁 音楽/山本直純 演出/高橋一郎、鴨下信一 ナレーション/石坂浩二 出演/加藤剛、森繁久彌、三國連太郎、三船敏郎、松坂慶子、栗原小巻、杉村春子、三田佳子、竹脇無我、藤岡弘、丹波哲郎、三浦友和、国広富之、大友柳太朗、辰巳柳太郎、宇野重吉 収録時間/本編354分 特典映像/司馬遼太郎、森繁久彌、加藤剛が語る『関ヶ原の背景』(1980年収録) (c)TBS ※ 8月23日(水)、キングレコードよりブルーレイ(3枚組 税抜き14400円)とDVD(3枚組 税抜き9300円)発売

フィリピン映画『ローサは密告された』を伝説の映画作家・原一男が絶賛「日本は軟弱な映画ばかり!」

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 当局の腐敗と貧困にあえぐ現代フィリピンの庶民を描き、主役のローサを演じた女優ジャクリン・ホセにフィリピン初のカンヌ国際映画祭主演女優賞をもたらした映画『ローサは密告された』が先週公開され、早くも話題を呼んでいる。  先月30日には、『ゆきゆきて、神軍』(1987年)、『全身小説家』(94年)などで知られるドキュメンタリー作家・原一男が公開記念トークイベントに出演。同作に「フィリピン社会の持つ矛盾と腐敗、絶対的貧困。そして警察権力の賄賂の横行。そんな唾棄すべき世界の中で、そこでしか生きられない民衆に注ぐ映画人の優しい眼差し。この作品の最大の見所は、庶民を見つめる作り手の優しい眼差し、そのものである。」とコメントを寄せていた原は、壇上に用意されたイスに座ろうともせず、30分間にわたって熱弁を振るった。その様子をお伝えしたい。
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■日本映画は「余命が間もなく……」という軟弱な映画ばかり!  昔、私が助監督していた浦山桐郎さんは「映画は人民のものである」と言いました。人民=市井の人々、つまり映画は貧困層を描くものでした。しかし、世の中が豊かになるにつれて、誰も社会派映画を欲しなくなりました。今の日本は「余命がもうすぐ……」という難病でお涙頂戴な映画ばかり。 『ローサは密告された』を見て強く感じたのは「日本は変わってしまった!」ということでした。フィリピンに比べて日本は豊かになりました。でも「幸せか?」と言われると「ウーン……」となる世の中です。弱者への共感、人間に対する思いやりがある作品があると「生きているのだなぁ」と感じます。 ■映画作りには必須!? ワイロを使った過去の体験を告白!  映画の中で警察が当たり前のようにワイロを要求していましたが、私も、1回だけ撮影でワイロを使ったことがあるんです。『ゆきゆきて、神軍』で奥崎謙三さんに付いてパプアニューギニアで撮影することになったんですが、カメラを持ち込むことができないと事前に言われていました。でもワイロを渡したらいいんだよ、って教えてもらって。案の定、税関で止められて。「これで……」とお金を渡したら、簡単に通してくれました。  本当にワイロは当たり前のことなんです。警察たちは、決して私達に憎しみがあるわけじゃありません。給料だけでは生きていけない、だから小銭稼ぎする。そんなシステムが成り立ってしまっているだけなんです。 ■クソみたいな社会を生き抜いてやる! ラストシーンに涙した!  今村昌平監督は「映画は人間を描くもの」といいました。私は、一言加えて「映画は人間の感情を描くもの」と理解しています。人間は社会に組み込まれて生きていきます。その社会の中には、必ず縛りや矛盾がある。その仕組みを強いられるのは貧困層の人たちです。  この映画では主人公の感情を通して「政治体制の矛盾、闇、社会のもつ歪み」を描き出しています。「クソみたいな社会を生き抜いてやる」という決意を感じられたラストシーンには、思わず共感して、もらい泣きをしてしまいました。  どれだけ大変なことがあっても腹は減る。昔、女性が“食べる”というシーンで絶賛されたものがありました。今村昌平監督の『赤い殺意』(64年)という作品です。ヒロインの春川ますみが強姦されて、死のうとするけど、失敗して……。でも、彼女、そこからご飯を食べるんですよ。食欲というのは人間のエネルギーの根源です。  この作品は、マーティン・スコセッシ監督が絶賛し「今村監督と対談をしたい!」と申し出た作品でもありました。それを思い出すほどに、素晴らしかった。
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■今の映画技術+昔ながらの視線が合わさった=最先端の映画!  3台のカメラで撮っているそうですが、私が観てもわからないくらいに、自然に撮られていました。脚本も渡さない、まさしくドキュメンタリーの撮り方。その結果、貧困層の人たちの息遣いが、リアリティをもって描かれていますよね。デジタルカメラで撮られる意義も感じられます。デジタルカメラは肉眼で感じられるより明るく映るんです。だから本作も「ノーライト」(照明なし)で撮られています。場所が持っている光で表現できるのです。本作は今の映画技術と昔ながらの視線が合わさった映画。まさしく“最先端”の映画だと思います。 ■昔の日本は、犯罪を“やってはいけないもの”と思っていない!?  大島渚監督は長年、犯罪者を主人公にした映画を撮られています。社会に収奪された貧乏人が生きていくうえで「どうして犯罪を犯しちゃいけないのか」という思いがあるんです。そんな映画を観て育ってきた70年代の私たちは、やっちゃいけないことだと思っていません。その結果が、奥崎さんですよね。彼は犯罪を勲章だと思っています。『ローサは密告された』のラストの名シーンは、ローサの「こういう社会でも生きていく」っていう決意が感じられて、私も共鳴しました。倫理や世の中の教えなんて眉唾ですよね。本当に修正すべきところはどこなのか? と考え直さなきゃいけませんよね。  * * *  最後に自身の新作の話になると「長年、『ゆきゆきて、神軍』の奥崎謙三さんみたいな政府にケンカを売るような人を探していましたが、どこを探しても見つかりませんでした。今の時代の人々は非常にヌルく生きている! と思いました。最新作には、そんな欲求不満が映像に現れているかと」と原監督らしい喝が! 「でも今、奥崎さんみたいな人が現代にいたら、ネットで炎上して、潰されてしまうのだろうな……」と生きづらい今の世の中を嘆く場面もあった。
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『ローサは密告された』 監督:ブリランテ・メンドーサ 出演:ジャクリン・ホセ、フリオ・ディアス 配給:ビターズ・エンド http://www.bitters.co.jp/rosa (c)Sari-Sari Store 2016 シアター・イメージフォーラムほか大ヒット上映中!