男たち女たちはなぜ競うのか? カンパニー松尾がキャノンボール、アイドル、テレクラ、AVを語る【前編】

 AV作品ながら映画館で上映された『劇場版テレクラキャノンボール2013』(14)は記録的な大ヒット、続く人気アイドルグループ・BiSの解散ライブに密着取材した『劇場版BiSキャノンボール2014』(15)はテアトル新宿で上映され、スマッシュヒットとなった。“ハメ撮り”AVの巨匠として知られていたカンパニー松尾は、今や映画シーンでも注目を浴びる存在となっている。そんなカンパニー松尾の最新劇場公開作となるのが、2月3日より公開が始まった『劇場版アイドルキャノンボール2017』。BiS、BiSH、GANG PAREDEというアイドルグループの新メンバーを選抜するオーディション合宿に、カンパニー松尾ら超個性派の映像監督たちが同行。それぞれのアプローチ方法で、独自の映像表現を競い合うというエンターテイメント型ドキュメンタリーとなっている。日刊サイゾー初登場となるカンパニー松尾が、映像監督の“業”が炸裂する『キャノンボール』スタイルについて、プー・ルイをはじめとするアイドルについて、消えつつあるテレクラ文化について、そしてAV業界の現状について語った。

──『テレクラキャノンボール』『BiSキャノンボール』が劇場公開され、大反響を呼びました。カンパニー松尾監督は、どのように受け止めているんでしょうか?

カンパニー松尾(以下、松尾) うれしいですよ。うれしいから、続けているんです。それまでAVでそれなりにやってきたつもりではいましたが、下水道をひたすら走っているような感覚というか、狭くぬるい場所にずっと留まっていた感じだったのが、映画館で大きな反響をもらえて、すごく新鮮だったんです。それまでのAVって“抜く”ためのものだったわけですが、そうじゃないAVを僕は撮り続けて、そのAVのまま劇場公開され、僕がAVの可能性を広げたいと思ってやってきた部分に対して、ちゃんと反応してもらえた。これは、うれしかったですね。映画監督が3~5年がかりで映画を撮る気持ちが分かった気がしました。AVってモニター越しに1人で観てもらうものだったのが、劇場では観客の数だけ笑いが倍増し、驚きの声も大きくなる。『テレクラキャノンボール』を初めて劇場公開したときの興奮が忘れられず、続けているんだと思いますね。

──満席札止めになるほどヒットした『BiSキャノンボール』ですが、人気アイドルの解散ライブ前夜のホテルをAV監督たちが密着取材するという内容は、ファンの間で賛否両論が起きたわけですが……。

松尾 普通に考えれば、大事な解散ライブの前夜にホテルに押し入って、何やってくれたんだってことですよね。しかも、ビーバップみのるはメンバーの1人を朝まで寝かせなかった。でも、BiSってアイドルらしくない破天荒さが売りで人気を得たグループだったわけです。公開当時、濃いファンは「なんでハメ撮り監督と一緒にいるのにSEXしないんだ」と怒った。自分が推しているアイドルが壊れていく様を応援しているコアなファンもいたんです。アイドルにハメ撮りを迫るなんてと怒るファンもいれば、なぜハメなかった怒るファンもいた。両方から怒られてしまった(笑)。

──それでもまた、BiSのマネージャー・渡辺淳之介&スペースシャワーTVの高根順次プロデューサーから、新メンバーオーディション合宿の撮影取材のオファーが届いた。松尾さん以上に面白いドキュメンタリーを撮れる人がいないということですよね?

松尾 いや、そんなことはないと思います。僕より面白いものを撮れる人はいっぱいいるでしょう。でも、どうしてでしょうね? 渡辺さんも、高根さんも、そしてBiSたちも、他の人たちがやらないような面白いことをやりたい人たちなんです、きっと。今はいろいろとコンプライアンスとかがうるさい時代だけど、僕個人はコンプライアンスとかには囚われない人間なんです。もちろん、人間としてのコンプライアンスはありますよ。でも、映像を撮る、ドキュメンタリーをつくるという前提のある限りでは、モラルに縛られていてはつまんないと思うんです。多分、そこを期待されているんでしょうね。

──いわば、撮る側も撮らせる側も“共犯関係”にあるわけですね。

松尾 そういうことだと思います。特に渡辺さんとの関係はそうでしょうね。彼は自分のプロダクションに所属するアイドルたちは決して脱がないと信じているわけです。信じているから、ハメ撮り監督である僕らにアイドルを差し出すことができる。言ってみれば、渡辺さんは最高のM嬢たちを僕らに差し出してくれているんです。やれるものなら、やってみろと(笑)。

──劇場に足を運ぶ観客たちもまた共犯関係となる。

松尾 そうですね。1人で観るより、大勢で観たほうが『キャノンボール』は断然面白いですしね。

■非AV監督が『キャノンボール』に新しい波を起こす!?

 

──今回の『アイドルキャノンボール』に参加した監督たちですが、『テレクラキャノンボール2013』からずいぶん顔ぶれが変わってきました。

松尾 変わりました。『テレクラキャノンボール2013』は僕やバクシーシ山下ら50代の監督、そして40代の中堅監督、30代の若手監督たちの世代間抗争も見どころになっていました。40代のビーバップみのる、タートル今田は『BiSキャノンボール』でも活躍しましたが、今回は2人とも人生いろいろありまして出場していません。その代わりに参戦したのが『遭難フリーター』(09)という社会派ドキュメンタリーで監督デビューした岩淵弘樹、普段はアーティストのプロモーションビデオを撮っているエリザベス宮地という若手の非AV監督たちなんです。今回は『テレクラキャノンボール』ではなく『アイドルキャノンボール』ということもあり、監督の幅も広げています。パンツを脱ぐ脱がないに関係なく闘うことができる新ルールになっています。

──『遭難フリーター』は秋葉原殺傷事件後に派遣社員の苛酷さが社会問題になっていたこともあって、日刊サイゾーでも取り上げました。岩淵監督はその後、松尾さんのいる「ハマジム」の社員になっていたんですね?

松尾 岩淵は派遣社員、介護関係の仕事を経て、2014年ごろかな、「ハマジム」に社員として入ってもらい、ネット配信の業務を担当してもらいました。ネット配信の数字が残念ながら目標値に達しなかったので1年間の契約で終わりましたが、岩淵は非常に仕事ができ、酒癖は悪いけれどとても熱いものを持っている男です。もう1人のエリザベス宮地は社員経験することなく、ずっとフリーの映像監督としてやってきた男。『BiSキャノンボール』ではサポートカメラマンとして入ってもらいました。宮地は中2病より、もっとすごい小6病をこじらせ続けているような男です。会社経験がないこともあって、小中学生の感覚をそのまま持っているわけです。『キャノンボール』は人選が重要ですが、この2人は『キャノンボール』のことをよく理解しているし、心根の部分ではとても健全な人間なんです。それに『キャノンボール』って、例えばSEX自慢のAV男優を参加させても面白くないんです。男優ってカメラをスタートさせ、カットの声を掛けるまでは積極的に動きますが、『キャノンボール』は「スタート」の声を掛ける前から、そしてカットを掛けた後も撮り続けないとダメなんです。AV監督を経験していない岩淵と宮地ですが、彼らにはそれができる。彼らがパンツを脱ぐのか脱がないのかも含めて、今回の『アイドルキャノンボール』の見どころになっていると思います。

──『テレクラキャノンボール2013』で活躍した若手AV監督の嵐山みちるは『BiSキャノンボール』に続いての参戦ですが、わずか数年見ないうちに、頬が痩け、眼光をギラつかせた別人のような外見になっていることにも驚きました。AV業界のハードさを感じさせます。

松尾 今、AV業界は薄利多売の時代になっていて、嵐山みちるは月8本ペースでAVを撮っているんです。月8本ペースは異常です。人間が壊れるペースですよ。普通は半年か1年しか保たないはずですが、彼はもう2年間もそのペースで撮り続けています。アイドルのようなルックスだったのに、忙しすぎて愛嬌がなくなってしまっている。そういった時間の流れも感じてもらえると面白いかなと(笑)。

■アイドル病棟と化した6日間の合宿生活

 

──もはや人間ならざるAV監督や社会派ドキュメンタリーから流れてきた監督たちがカメラで追うのは、彼らとは真逆な清純さを売りにしたアイドルやアイドル候補生たち!

松尾 水と油の関係です。相容れない素材でドレッシングを作ろうっていうんだから、まぁ分裂しますよね(笑)。

──一見、清純で健気そうに見えるアイドルたちですが、彼女たちもまた競い合う。勝利者チームは敗者チームの持ち曲を奪うことができるというルールによって、グループ間で激しい抗争が勃発し、思いがけず大きな問題に発展していく。一度自分が手に入れたものは絶対に他人に渡したくないという、女の“業”を感じさせました。

松尾 アイドルたちの競争意識を煽るために導入された新ルールでしたが、合宿所内が曲奪い合い合戦に向かってしまい、そのことに僕は戸惑ってしまった。でも、そんな予想外の展開のお陰で、もう一本映画が公開されることになったので、結果的には良かったかなと。

──6日間のオーディション合宿はどうでしたか?

松尾 つらかった(苦笑)。近くにコンビニがないような一般の合宿所だったんですが、食事がね。箸が進まない上に、量がハンパなく多い。それを毎朝8時、昼12時、夕方6時と毎日決まった時間に同じメニューを、みんなで食べるという……。刑務所とは言わないけど、軍隊のような生活でした。人間ね、食生活が満たされていないと脳の働きも低下して、闘う気力も湧いてこないんですよ。

──アイドルのオーディション合宿というよりは、隔離病棟のように見えました。

松尾 ほんとそう。合宿所を抜け出して、コンビニまで行って帰ってきた人は、すごく生き生きして戻ってくるんですよ。一度でも外の空気を吸うと、「合宿所には戻りたくない」とみんな思ってしまう。僕も1~2度、コンビニへ行きましたが、セブンイレブンで呑んだコーヒーがすごく美味しかった。合宿所に戻るのがイヤになりましたね。食事のシーンを盛り上げるために激辛のデスソースを用意したんですが、あれもつらかった。カレー好きな僕が食べても、死ぬかと思いましたよ。アイドルたちはがんがんデスソースの入った食事を平らげていましたけど、真似しないほうがいい。彼女たち、最初は嫌っていたのに、途中から進んでデスソースを手にするようになりましたからね。プー・ルイも「あの合宿はおかしかった」と話しています。

(インタビュー後編へ続く/取材・文=長野辰次/撮影=尾藤能暢)

『劇場版アイドルキャノンボール2017』
監督/カンパニー松尾
出演/BiS、BiSH、GANG PARADE、WACKオーディション参加者、渡辺淳之介、高根順次、平澤大輔、今田哲史、カンパニー松尾、バグシーシ山下、アキヒト、梁井一、嵐山みちる、岩淵弘樹、エリザベス宮地
配給/日活 2月3日より渋谷HUMAXシネマほか全国順次公開中
C)2017 WACK INC. / SPACE SHOWER NETWORKS INC.
http://idol-cannon.jp

●カンパニー松尾
1965年愛知県春日井市出身。テレビ番組の製作会社勤務を経て、AV制作会社で働くようになり、87年に安達かおる率いるV&Rプランンングに入社。88年に『あぶない放課後2』で監督デビュー。全国のテレクラを回った『私を女優にして下さい』や『燃えよテレクラ』は人気シリーズとなる。95年にV&Rプランニングを退社し、フリーのAV監督に。2003年にAVメーカー「HMJM(ハマジム)」を立ち上げ、現在に至る。レース形式でAV監督たちが目的地までのスピードとナンパした女性とのエッチ体験を競い合う『テレクラキャノンボール』は97年からスタート。『テレクラキャノンボール2009 賞品はまり子Gカップ』はその年の「AVグランプリ」にてプレス賞を受賞。『テレクラキャノンボール2013 賞品は神谷まゆと新山かえで』は2014年に劇場公開され、大反響を呼んだ。その他、劇場公開された監督作に『劇場版BiSキャノンボール』(15)、『劇場版BiS誕生の詩』(17)がある。
http://www.hamajim.com/home.php

男たち女たちはなぜ競うのか? カンパニー松尾がキャノンボール、アイドル、テレクラ、AVを語る【前編】

 AV作品ながら映画館で上映された『劇場版テレクラキャノンボール2013』(14)は記録的な大ヒット、続く人気アイドルグループ・BiSの解散ライブに密着取材した『劇場版BiSキャノンボール2014』(15)はテアトル新宿で上映され、スマッシュヒットとなった。“ハメ撮り”AVの巨匠として知られていたカンパニー松尾は、今や映画シーンでも注目を浴びる存在となっている。そんなカンパニー松尾の最新劇場公開作となるのが、2月3日より公開が始まった『劇場版アイドルキャノンボール2017』。BiS、BiSH、GANG PAREDEというアイドルグループの新メンバーを選抜するオーディション合宿に、カンパニー松尾ら超個性派の映像監督たちが同行。それぞれのアプローチ方法で、独自の映像表現を競い合うというエンターテイメント型ドキュメンタリーとなっている。日刊サイゾー初登場となるカンパニー松尾が、映像監督の“業”が炸裂する『キャノンボール』スタイルについて、プー・ルイをはじめとするアイドルについて、消えつつあるテレクラ文化について、そしてAV業界の現状について語った。

──『テレクラキャノンボール』『BiSキャノンボール』が劇場公開され、大反響を呼びました。カンパニー松尾監督は、どのように受け止めているんでしょうか?

カンパニー松尾(以下、松尾) うれしいですよ。うれしいから、続けているんです。それまでAVでそれなりにやってきたつもりではいましたが、下水道をひたすら走っているような感覚というか、狭くぬるい場所にずっと留まっていた感じだったのが、映画館で大きな反響をもらえて、すごく新鮮だったんです。それまでのAVって“抜く”ためのものだったわけですが、そうじゃないAVを僕は撮り続けて、そのAVのまま劇場公開され、僕がAVの可能性を広げたいと思ってやってきた部分に対して、ちゃんと反応してもらえた。これは、うれしかったですね。映画監督が3~5年がかりで映画を撮る気持ちが分かった気がしました。AVってモニター越しに1人で観てもらうものだったのが、劇場では観客の数だけ笑いが倍増し、驚きの声も大きくなる。『テレクラキャノンボール』を初めて劇場公開したときの興奮が忘れられず、続けているんだと思いますね。

──満席札止めになるほどヒットした『BiSキャノンボール』ですが、人気アイドルの解散ライブ前夜のホテルをAV監督たちが密着取材するという内容は、ファンの間で賛否両論が起きたわけですが……。

松尾 普通に考えれば、大事な解散ライブの前夜にホテルに押し入って、何やってくれたんだってことですよね。しかも、ビーバップみのるはメンバーの1人を朝まで寝かせなかった。でも、BiSってアイドルらしくない破天荒さが売りで人気を得たグループだったわけです。公開当時、濃いファンは「なんでハメ撮り監督と一緒にいるのにSEXしないんだ」と怒った。自分が推しているアイドルが壊れていく様を応援しているコアなファンもいたんです。アイドルにハメ撮りを迫るなんてと怒るファンもいれば、なぜハメなかった怒るファンもいた。両方から怒られてしまった(笑)。

──それでもまた、BiSのマネージャー・渡辺淳之介&スペースシャワーTVの高根順次プロデューサーから、新メンバーオーディション合宿の撮影取材のオファーが届いた。松尾さん以上に面白いドキュメンタリーを撮れる人がいないということですよね?

松尾 いや、そんなことはないと思います。僕より面白いものを撮れる人はいっぱいいるでしょう。でも、どうしてでしょうね? 渡辺さんも、高根さんも、そしてBiSたちも、他の人たちがやらないような面白いことをやりたい人たちなんです、きっと。今はいろいろとコンプライアンスとかがうるさい時代だけど、僕個人はコンプライアンスとかには囚われない人間なんです。もちろん、人間としてのコンプライアンスはありますよ。でも、映像を撮る、ドキュメンタリーをつくるという前提のある限りでは、モラルに縛られていてはつまんないと思うんです。多分、そこを期待されているんでしょうね。

──いわば、撮る側も撮らせる側も“共犯関係”にあるわけですね。

松尾 そういうことだと思います。特に渡辺さんとの関係はそうでしょうね。彼は自分のプロダクションに所属するアイドルたちは決して脱がないと信じているわけです。信じているから、ハメ撮り監督である僕らにアイドルを差し出すことができる。言ってみれば、渡辺さんは最高のM嬢たちを僕らに差し出してくれているんです。やれるものなら、やってみろと(笑)。

──劇場に足を運ぶ観客たちもまた共犯関係となる。

松尾 そうですね。1人で観るより、大勢で観たほうが『キャノンボール』は断然面白いですしね。

■非AV監督が『キャノンボール』に新しい波を起こす!?

 

──今回の『アイドルキャノンボール』に参加した監督たちですが、『テレクラキャノンボール2013』からずいぶん顔ぶれが変わってきました。

松尾 変わりました。『テレクラキャノンボール2013』は僕やバクシーシ山下ら50代の監督、そして40代の中堅監督、30代の若手監督たちの世代間抗争も見どころになっていました。40代のビーバップみのる、タートル今田は『BiSキャノンボール』でも活躍しましたが、今回は2人とも人生いろいろありまして出場していません。その代わりに参戦したのが『遭難フリーター』(09)という社会派ドキュメンタリーで監督デビューした岩淵弘樹、普段はアーティストのプロモーションビデオを撮っているエリザベス宮地という若手の非AV監督たちなんです。今回は『テレクラキャノンボール』ではなく『アイドルキャノンボール』ということもあり、監督の幅も広げています。パンツを脱ぐ脱がないに関係なく闘うことができる新ルールになっています。

──『遭難フリーター』は秋葉原殺傷事件後に派遣社員の苛酷さが社会問題になっていたこともあって、日刊サイゾーでも取り上げました。岩淵監督はその後、松尾さんのいる「ハマジム」の社員になっていたんですね?

松尾 岩淵は派遣社員、介護関係の仕事を経て、2014年ごろかな、「ハマジム」に社員として入ってもらい、ネット配信の業務を担当してもらいました。ネット配信の数字が残念ながら目標値に達しなかったので1年間の契約で終わりましたが、岩淵は非常に仕事ができ、酒癖は悪いけれどとても熱いものを持っている男です。もう1人のエリザベス宮地は社員経験することなく、ずっとフリーの映像監督としてやってきた男。『BiSキャノンボール』ではサポートカメラマンとして入ってもらいました。宮地は中2病より、もっとすごい小6病をこじらせ続けているような男です。会社経験がないこともあって、小中学生の感覚をそのまま持っているわけです。『キャノンボール』は人選が重要ですが、この2人は『キャノンボール』のことをよく理解しているし、心根の部分ではとても健全な人間なんです。それに『キャノンボール』って、例えばSEX自慢のAV男優を参加させても面白くないんです。男優ってカメラをスタートさせ、カットの声を掛けるまでは積極的に動きますが、『キャノンボール』は「スタート」の声を掛ける前から、そしてカットを掛けた後も撮り続けないとダメなんです。AV監督を経験していない岩淵と宮地ですが、彼らにはそれができる。彼らがパンツを脱ぐのか脱がないのかも含めて、今回の『アイドルキャノンボール』の見どころになっていると思います。

──『テレクラキャノンボール2013』で活躍した若手AV監督の嵐山みちるは『BiSキャノンボール』に続いての参戦ですが、わずか数年見ないうちに、頬が痩け、眼光をギラつかせた別人のような外見になっていることにも驚きました。AV業界のハードさを感じさせます。

松尾 今、AV業界は薄利多売の時代になっていて、嵐山みちるは月8本ペースでAVを撮っているんです。月8本ペースは異常です。人間が壊れるペースですよ。普通は半年か1年しか保たないはずですが、彼はもう2年間もそのペースで撮り続けています。アイドルのようなルックスだったのに、忙しすぎて愛嬌がなくなってしまっている。そういった時間の流れも感じてもらえると面白いかなと(笑)。

■アイドル病棟と化した6日間の合宿生活

 

──もはや人間ならざるAV監督や社会派ドキュメンタリーから流れてきた監督たちがカメラで追うのは、彼らとは真逆な清純さを売りにしたアイドルやアイドル候補生たち!

松尾 水と油の関係です。相容れない素材でドレッシングを作ろうっていうんだから、まぁ分裂しますよね(笑)。

──一見、清純で健気そうに見えるアイドルたちですが、彼女たちもまた競い合う。勝利者チームは敗者チームの持ち曲を奪うことができるというルールによって、グループ間で激しい抗争が勃発し、思いがけず大きな問題に発展していく。一度自分が手に入れたものは絶対に他人に渡したくないという、女の“業”を感じさせました。

松尾 アイドルたちの競争意識を煽るために導入された新ルールでしたが、合宿所内が曲奪い合い合戦に向かってしまい、そのことに僕は戸惑ってしまった。でも、そんな予想外の展開のお陰で、もう一本映画が公開されることになったので、結果的には良かったかなと。

──6日間のオーディション合宿はどうでしたか?

松尾 つらかった(苦笑)。近くにコンビニがないような一般の合宿所だったんですが、食事がね。箸が進まない上に、量がハンパなく多い。それを毎朝8時、昼12時、夕方6時と毎日決まった時間に同じメニューを、みんなで食べるという……。刑務所とは言わないけど、軍隊のような生活でした。人間ね、食生活が満たされていないと脳の働きも低下して、闘う気力も湧いてこないんですよ。

──アイドルのオーディション合宿というよりは、隔離病棟のように見えました。

松尾 ほんとそう。合宿所を抜け出して、コンビニまで行って帰ってきた人は、すごく生き生きして戻ってくるんですよ。一度でも外の空気を吸うと、「合宿所には戻りたくない」とみんな思ってしまう。僕も1~2度、コンビニへ行きましたが、セブンイレブンで呑んだコーヒーがすごく美味しかった。合宿所に戻るのがイヤになりましたね。食事のシーンを盛り上げるために激辛のデスソースを用意したんですが、あれもつらかった。カレー好きな僕が食べても、死ぬかと思いましたよ。アイドルたちはがんがんデスソースの入った食事を平らげていましたけど、真似しないほうがいい。彼女たち、最初は嫌っていたのに、途中から進んでデスソースを手にするようになりましたからね。プー・ルイも「あの合宿はおかしかった」と話しています。

(インタビュー後編へ続く/取材・文=長野辰次/撮影=尾藤能暢)

『劇場版アイドルキャノンボール2017』
監督/カンパニー松尾
出演/BiS、BiSH、GANG PARADE、WACKオーディション参加者、渡辺淳之介、高根順次、平澤大輔、今田哲史、カンパニー松尾、バグシーシ山下、アキヒト、梁井一、嵐山みちる、岩淵弘樹、エリザベス宮地
配給/日活 2月3日より渋谷HUMAXシネマほか全国順次公開中
C)2017 WACK INC. / SPACE SHOWER NETWORKS INC.
http://idol-cannon.jp

●カンパニー松尾
1965年愛知県春日井市出身。テレビ番組の製作会社勤務を経て、AV制作会社で働くようになり、87年に安達かおる率いるV&Rプランンングに入社。88年に『あぶない放課後2』で監督デビュー。全国のテレクラを回った『私を女優にして下さい』や『燃えよテレクラ』は人気シリーズとなる。95年にV&Rプランニングを退社し、フリーのAV監督に。2003年にAVメーカー「HMJM(ハマジム)」を立ち上げ、現在に至る。レース形式でAV監督たちが目的地までのスピードとナンパした女性とのエッチ体験を競い合う『テレクラキャノンボール』は97年からスタート。『テレクラキャノンボール2009 賞品はまり子Gカップ』はその年の「AVグランプリ」にてプレス賞を受賞。『テレクラキャノンボール2013 賞品は神谷まゆと新山かえで』は2014年に劇場公開され、大反響を呼んだ。その他、劇場公開された監督作に『劇場版BiSキャノンボール』(15)、『劇場版BiS誕生の詩』(17)がある。
http://www.hamajim.com/home.php

これは映画館で体感する超リアルな降霊実験だ!! 現世と異界とを結ぶ試み『霊的ボリシェヴィキ』

 現代科学ではまだ証明されていないオカルトパワーによって社会革命を遂行し、新しい世界を創ろう。“霊的ボリシェヴィキ”という耳慣れない言葉を分かりやすく翻訳すれば、こんな感じだろうか。霊的ボリシェヴィキとは、人気オカルト雑誌「ムー」(学研プラス)に多大な影響を与えた神道霊学研究家・武田崇元が提唱した言葉であり、オウム真理教の麻原彰晃も感化されたのではないかと噂されている。古来より日本では言葉には霊力が宿るとされてきたが、そんな言霊感たっぷりな霊的ボリシェヴィキという言葉に魅了された映画人が、『女優霊』(95)や『リング』(98)の脚本家として著名な高橋洋だった。彼がメガホンをとった映画『霊的ボリシェヴィキ』は、ホラー映画界に革命をもたらしかねないほどの恐ろしさに満ちあふれている。

 推理小説『シャーロック・ホームズ』シリーズやSF小説『失われた世界』で知られる作家アーサー・コナン・ドイルだが、晩年はオカルト研究に没頭した。発明王トーマス・エジソンは、霊界との通信機を開発することに熱中している。ナチスドイツを率いたアドルフ・ヒトラーも、オカルト研究に並々ならぬ興味を示した。知識人ほどオカルトにハマりやすく、人間の死後の世界、異界について調べたくなってしまう。高橋洋監督による『霊的ボリシェヴィキ』もまた、映画製作という手法を使って、あの世の存在について探ろうとする。劇場の照明が消え、暗闇が客席を覆い、やがてリアルな恐怖が我々の足元に向かってひたひたと迫り寄ってくる。

 町はずれの廃工場らしい奇妙な施設に、7人の男女が集まってきた。この集まりを主宰した霊能者・宮路(長宗我部陽子)によって、招かれた“ゲスト”たちが身に付けていたお守りなどの宗教アイテムは回収される。会場にはICレコーダーではなく、アナログのカセットレコーダーが用意されていた。霊障があると、デジタル機器はすぐに使えなくなってしまうためだ。おごそかな空気の中、ひとりひとりがかつて遭遇した自身のオカルト体験を語り始める。ここに集まった男女は、みんな何らかの形で“あの世”に触れた過去があった。選ばれし者たちによって、濃度の高い「百物語」、こっくりさんを思わせる降霊実験が行なわれようとしていた。

 最初の語り部となったのは、屈強そうな体格の男性・三田(伊藤洋三郎)。彼は元刑務官であり、何人もの死刑囚が死刑執行される様子を見送ってきた。その中でも忘れられない死刑囚がいるという。その死刑囚は自分の処刑日が来たことを察知するや、独房の中で頑なに抵抗を続けた。あまりにも暴れ回るので、催涙弾を独房の中に撃ち込み、警棒で殴りつけ、ようやく死刑台へと連れ出すことができたが、どうしてあの死刑囚はあそこまで死を恐れたのか分からないと三田はいう。三田がそう話し終わった瞬間、どこからか怪しい男の笑い声が廃工場内に響き渡る。ゲストが恐ろしい話をする度に、廃工場内の霊気が高まり、確実にあの世がこちらへと近づいていた。薄暗い劇場で観ている我々の足元、いや首筋にまで黒い影が忍び寄っているのではないか。そんな恐怖に駆られ、思わずぞっとしてしまう。

 この集いの目的をよく知らずに由紀子(韓英恵)は恋人の安藤(巴山祐樹)に連れられて参加していたが、彼女は幼い頃に“神隠し”に遭ったという特殊な体験をしていた。無事に発見された由紀子だが、神隠し中のことはまるで覚えておらず、それ以来ずっと奇妙な違和感を感じながら生きてきた。鏡を覗くと、何か不思議なものが映っているような気がしてならないのだ。やがて由紀子が自分の体験を話す順番が訪れるが、それまで明るかった窓の外が急に暗くなってしまう。高まった霊気によって、廃工場内の時間の流れまで狂ったらしく、あっという間に日が沈んでしまった。由紀子たちは廃工場に隣接する宿泊所に泊まり、不気味な夜が過ぎていく。翌日、由紀子はいよいよこの集いの本当の目的、霊的ボリシェヴィキを体験することになる。

 Jホラーブームを巻き起こした『女優霊』や『リング』シリーズの脚本を手掛けた後、高橋洋は自身で監督も務め、より先鋭化されたホラー映画を撮るようになった。藤井美咲、中村ゆりが出演した『恐怖』(09)では、人間の脳の側頭葉にあるシルビウス裂に刺激を与えることで人為的に遊体離脱を起こすという実験に取り憑かれた脳科学者(片平なぎさ)の狂気が描かれた。本作もまた、常規を逸した心霊実験をシミュレーションしたものとなっている。刑務官だった三田や神隠しに遭った由紀子たちがそれぞれ語るエピソードは、実際にあった出来事や高橋監督自身の記憶をベースにしたものばかりだ。キャストが集まっての初めてのホン読み(脚本の読み合わせ)は、「まるでそれ自体が降霊実験のようだった」とスタッフが語るほどの緊張感に満ちていたという。

 本作は映画ではない。あの世とは何か、生きた人間が異界を知覚することができるものなのかを証明しようとする、観客参加型の心霊実験となっている。上映時間は72分と短いが、身の毛のよだつ一夜を過ごしたかのような濃厚な恐怖体験を味わうことになる。人間が感じる恐怖とはどこから生まれてくるものなのか? その恐怖の源泉を、高橋監督は映画を通して探ろうとする。本作が製作された2017年は、奇しくもロシア革命から100年というメモリアルイヤーだった。多大な血が流れた社会革命から101年、高橋監督は映画館の暗闇の中で、新しい革命を試みている。
(文=長野辰次)

『霊的ボリシェヴィキ』
監督・脚本/高橋洋
出演/韓英恵、巴山祐樹、長宗我部陽子、高木公佑、近藤笑菜、河野知美、本間菜穂、南谷朝子、伊藤洋三郎
配給/『霊的ボリシェヴィキ』宣伝部 2月10日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
C)2017 The Film School of Tokyo
https://spiritualbolshevik.wixsite.com/bolsheviki

 

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真木よう子“最大の汚点”となったアノ映画って?「始まってすぐ殺され……」

 女優の真木よう子が、所属事務所である「フライングボックス」を退社していたことが1月30日、同社の公式サイトで発表された。

 この日発売の「女性自身」(光文社)では、金銭トラブルがあったことが報じられていたが、事務所サイドはこれを否定。契約更新しなかった理由を「方向性の相違」と説明している。

 昨年は、主演ドラマ『セシルのもくろみ』(フジテレビ系)が大爆死、コミケ参加をめぐるTwitter炎上騒ぎや育児放棄報道、映画降板など、異変が続いていた真木。彼女の「方向性」に事務所が困惑していたのは想像に難くない。

 そんな真木が、事務所に不信感を抱いたであろう作品があるという。映画関係者が明かす。

「映画『パッチギ!』でブレイクした2005年に、真木は全米で興行収入1位に輝いた『呪怨』のハリウッド版に出演しているんです。本来ならば栄誉なことなのですが、ここでの彼女は『始まってすぐに殺されてしまう』という端役。天井裏に引きずり込まれて、あっという間に出番が終わる。もう一度登場した際には、幽霊になっていました。英語ができないので仕方がないとはいえ、せっかくのハリウッドデビューも自身の感性を生かすには至らなかったようです」

 また、映画ライターは女優・真木の意外な原点をこう語る。

「彼女が女優を目指したのは、子どもの頃に、トンデモ映画の代表とされる『REX 恐竜物語』を観たことがきっかけだったそうです。よりによって、あんな映画が出発点じゃなくてもいいだろうと思ったのを覚えていますよ(笑)。芸能界入りを反対する父親に『だったら援助交際してやる』とタンカを切ったエピソードも秀逸ですね」

 もしかしたら真木の「方向性」は、正統派女優として売ろうとしていた事務所とは、最初からズレていたのかも?

真木よう子“最大の汚点”となったアノ映画って?「始まってすぐ殺され……」

 女優の真木よう子が、所属事務所である「フライングボックス」を退社していたことが1月30日、同社の公式サイトで発表された。

 この日発売の「女性自身」(光文社)では、金銭トラブルがあったことが報じられていたが、事務所サイドはこれを否定。契約更新しなかった理由を「方向性の相違」と説明している。

 昨年は、主演ドラマ『セシルのもくろみ』(フジテレビ系)が大爆死、コミケ参加をめぐるTwitter炎上騒ぎや育児放棄報道、映画降板など、異変が続いていた真木。彼女の「方向性」に事務所が困惑していたのは想像に難くない。

 そんな真木が、事務所に不信感を抱いたであろう作品があるという。映画関係者が明かす。

「映画『パッチギ!』でブレイクした2005年に、真木は全米で興行収入1位に輝いた『呪怨』のハリウッド版に出演しているんです。本来ならば栄誉なことなのですが、ここでの彼女は『始まってすぐに殺されてしまう』という端役。天井裏に引きずり込まれて、あっという間に出番が終わる。もう一度登場した際には、幽霊になっていました。英語ができないので仕方がないとはいえ、せっかくのハリウッドデビューも自身の感性を生かすには至らなかったようです」

 また、映画ライターは女優・真木の意外な原点をこう語る。

「彼女が女優を目指したのは、子どもの頃に、トンデモ映画の代表とされる『REX 恐竜物語』を観たことがきっかけだったそうです。よりによって、あんな映画が出発点じゃなくてもいいだろうと思ったのを覚えていますよ(笑)。芸能界入りを反対する父親に『だったら援助交際してやる』とタンカを切ったエピソードも秀逸ですね」

 もしかしたら真木の「方向性」は、正統派女優として売ろうとしていた事務所とは、最初からズレていたのかも?

人類はなぜ“大量殺戮”を繰り返してしまうのか? T・ジョージ監督に聞く「虐殺の社会的メカニズム」

 100万人もの市民が殺されたと言われるルワンダ虐殺を描いた映画『ホテル・ルワンダ』(04)は日本を含め、世界各国で予想外の大ヒットを記録した。『ホテル・ルワンダ』の成功によって、アフリカ各国で起きている内紛の実態を世界に知らしめたのが、北アイルランド出身のテリー・ジョージ監督だ。脚本家時代に手掛けたダニエル・デイ=ルイス主演作『父の祈りを』(93)は、テロ容疑で逮捕されたアイルランド青年の冤罪を訴えた実録もので、こちらも高い評価を得ている。数々の社会派ドラマを撮り上げてきたテリー監督の最新作が『THE PROMISE 君への誓い』。第一次世界大戦中にオスマン帝国(現在のトルコ)で起きた、アルメニア人虐殺を題材にした歴史大作だ。150万人ものアルメニア人が犠牲となった20世紀初のジェノサイドはなぜ起きたのか? なぜ人類はその後も大量殺戮を繰り返すのか? 大量殺戮が起きるメカニズムを、テリー監督が解き明かした。

──テリー監督が手掛けた『父の祈りを』や『ホテル・ルワンダ』は感動作として胸に刻まれています。『THE PROMISE』も史実に基づいた大変な力作ですね。

テリー ありがとう。日本に来て、多くの若い記者たちから「あなたの作品に感動しました、刺激を受けました」と言ってもらえる。こんなにうれしいことはありません。きっと、マイケル・ベイ監督には味わえない喜びでしょう。もちろんハリウッドで成功を収めている彼のほうが、私よりずっとお金持ちですがね(笑)。

──確かに『トランスフォーマー』(07)で「感動した!」という人はあまりいないでしょうね。『ホテル・ルワンダ』は渋谷の小さな映画館から火が点き、口コミによって日本でも大ヒットしました。あの映画でルワンダの内情を多くの人が知ることになった。ルワンダの人々、そしてテリー監督にとっても特別な作品だったのではないでしょうか?

テリー 映画は人を動かすパワーを持っていることを改めて証明できた作品でした。『ホテル・ルワンダ』が公開されたことによって、かつて植民地支配していたアフリカで起きた内乱を静観していた欧米諸国も、ダルフール紛争を見逃すことができなくなったわけです。アフリカの惨状を描こうと考えた企画当初は、製作費が集まらず苦労しました。でもルワンダのホテルマンだったポール・ルセサバギナの体験談を知り、「彼こそ、我らが模範とするべきブルーカラー・ヒーローだ!」と感銘し、ベルギーでタクシー運転手をしていた彼に会い、映画化をOKしてもらったんです。主演のドン・チードルたちと「製作予算も少なく、公開規模も小さいかもしれないけど、ぜひやろう」と話し合って完成させました。公開すると、思いのほかの反響でした。ジョージ・ブッシュ大統領(当時)は『ホテル・ルワンダ』を2度も観ており、ポール・ルセサバギナに勲章を贈っています。問題の多かったブッシュ政権ですが、アフリカ外交だけは評価できたと思っています。

──ルワンダ虐殺についてのリサーチ中に、100年前に起きたアルメニア人虐殺について知り、『THE PROMISE』の企画を思い立ったそうですね。大量虐殺を題材にした作品を2本も撮るのは、精神的にも大変じゃないですか?

テリー 映画監督として自分がいつも意識していることは、「みんなを楽しませる映画を作ろう」ということなんです。映画を楽しむことで、観客のみなさんにもさまざまな映画体験をしてほしい。私はこれまで多くの映画にインスパイアされてきました。『アラビアのロレンス』(62)、『ライアンの娘』(70)、『シンドラーのリスト』(93)、『レッズ』(81)、『キリング・フィールド』(84)……。そういった映画を観ることで私自身も主人公と同じような感情を抱き、その歴史を共に生きたわけです。そんな映画体験を、今の観客にもしてほしいという意識で『THE PROMISE』を撮りました。田舎からコンスタンチノープルに上京してきたアルメニア人の医大生ミカエル(オスカー・アイザック)、フランス育ちの美しい女性アナ(シャルロット・ルボン)、そして米国人記者クリス(クリスチャン・ベイル)という3人の恋愛ドラマを観客には楽しんでもらい、やがて彼らが遭遇する大虐殺も主人公たちと一緒に体感してほしい。彼らが抱いた憎悪、怒り、痛み、生きる喜びをみんなにも感じてほしい。そんな想いで撮り上げたんです。

■ヒトラーは言った、「虐殺なんて、誰も覚えてはいない」と。

──ルワンダ虐殺は、植民地時代に宗主国(ベルギー)が統治しやすいようにフツ族とツチ族を争わせたことが歴史的要因としてあったわけですが、アルメニア人虐殺のいちばんの要因は何だったとテリー監督は考えますか?

テリー アルメニア人虐殺のトリガーとなったのは、当時のオスマントルコの与党にいた政治家タラート・パシャや過激な思想を持った哲学者たちが生み出した“空気”でした。オスマントルコはすでに衰退化しており、第一次世界大戦をきっかけに帝国を立て直そうと考えていたんです。その際にスケープゴートにされたのが、オスマントルコ内での少数民族だったアルメニア人でした。非ムスリムである彼らは、国家に対する忠誠心がないと叩かれました。アルメニア人は砂漠地帯へ強制移住させられた上に虐殺され、ギリシア人やシリア人も国外追放されていったんです。ヘイトスピーチによって「あいつらは国家に対する裏切り者だ」と扇動され、排除されていったんです。

──ナチスドイツによるホロコースト以前に起きた、国家による初めての組織的な大量殺戮がアルメニア人大虐殺だったということですね。

テリー そうです。ユダヤ人が虐殺されたホロコーストにも言えることですが、アルメニア人虐殺にも経済的な側面もありました。アルメニア人は商才に優れ、コンスタンチノープルなどの都市部で経済的な成功を収めた裕福な中流階級が多かったんです。アルメニア人を裏切り者扱いすることで、彼らが持っていた土地や財産を奪ったわけです。特定の少数民族に対して、「裏切り者のあいつらは同じ人間じゃない。ドブネズミ、ゴキブリだ」といったヘイトスピーチが広まり、そんなレトリックが非知識層であるマジョリティーを抱き込んで、大量殺戮という大きなうねりが起きる。アルメニア、ホロコースト、ルワンダ、ダルフール……、すべてのジェノサイドに共通する構造です。

──自分が生まれ育った故郷や民族性を大切に思うことは素晴しいけれど、行き過ぎた愛国心、ナショナリズムは恐ろしい事態を招きかねない。

テリー 20世紀初頭、ナショナリズムという考え方がどのようにして生まれ、広まったかというと、過激派によるレトリックのためのツールとして利用されてきたものだったんです。また、私が生まれ育ったアイルランドでもそうでしたが、少数民族は宗教や教育などの自由や平等な市民権を求めるものです。それは自分たち民族の文化を守りたいという自然な気持ちなのですが、国家はそれを危険なナショナリズムだと決めつけ、迫害しようとするわけです。政治的なツールとして利用されるナショナリズムという言葉は、充分注意するべきです。

──100年前に起きたアルメニア人虐殺ですが、過去の悲劇ではなく、現代社会につながる問題でもある?

テリー アルメニア人虐殺の際、オスマントルコ政府は国勢調査の結果を使い、メディアも使い、電話も使い、近代的な軍備も使い、あらゆる最先端のツールを駆使して、大量殺戮を行なったわけです。そういう意味でも、現代的なジェノサイドの始まりが、アルメニア人虐殺でした。それから20年後、ヒトラーも同じことを行ないます。ヒトラーはポーランド侵攻の際にドイツ軍に対し、「アルメニア人殺戮のことを誰が覚えていようか」という言葉を発しています。誰も覚えていないんだから、思いっきりやってしまえとドイツ軍の兵士たちをけしかけたんです。同じようなレトリックで、ボスニアでも、中央アフリカでも、カンボジアのクメール・ルージュでも、ジェノサイドが起きています。そして現在のミャンマーではロヒンギャが迫害され、中央アフリカでの内紛も続いています。ヘイトスピーチによる憎悪の政治が展開されていけば、それがジェノサイドの種となる。そのことには気をつけなくてはいけません。

──『THE PROMISE』はハリウッド資本ではなく、アルメニア人のひとりの実業家の出資によって完成した映画。出資した実業家は映画製作中に亡くなったそうですが、映画が無事に公開されることで、映画監督としての約束を果たすことができたと言えそうですね。

テリー 亡くなった実業家カーク・カーコリアンが、そう思ってくれたらいいなと思います。きっと多くのアルメニア人も、世界中の人々がアルメニア人虐殺について語り始めることを喜んでくれるでしょう。いちばん恐ろしいのは「虐殺があった過去なんて知らない」ということなんです。日本での公開も決まり、プロモーションのために訪ねた日本でいろんな取材を受け、私も多くの刺激を受けることができました。映画をつくり続けてきて、こんなにうれしいことはありませんよ(笑)。
(取材・文=長野辰次)

『THE PROMISE 君への誓い』
監督/テリー・ジョージ 脚本/テリー・ジョージ、ロビン・スウィコード 
出演/オスカー・アイザック、シャルロット・ルボン、クリスチャン・ベイル、ジェームズ・クロムウェル、ジャン・レノ
配給/ショウゲート 2月3日(土)より全国ロードショー
C)2016 THE PROMISE PRODUCCIONES AIE-SURVIVAL PICTURES,LLC. ALL Right Reserved.
http://www.promise-movie.jp

●テリー・ジョージ
1952年北アイルランドのベルファスト生まれ。英国内でアイルランド人が不当な扱いを受けている実情を描いた『父の祈りを』(93)や『ボクサー』(97)の脚本を担当。『Some Mother’s Son』(96)で監督デビュー。続く『ホテル・ルワンダ』(04)は世界各国で大ヒットを記録し、米国アカデミー賞で主演男優賞、助演女優賞、脚本賞にノミネートされた。その後も、轢き逃げ事故で息子を失った被害者側と事故を起こした加害側との葛藤を描いた『帰らない日々』(07)などの社会派ドラマを生み出している。

綾瀬はるか、主演ドラマ『精霊の守り人』は爆死続きで幕! 映画『今夜、ロマンス劇場で』は崖っぷち!?

 放送90年を記念し、綾瀬はるかが主演したNHKの大河ファンタジードラマ『精霊の守り人』最終章(シーズン3)の最終回(第9話)が1月27日に放送され、視聴率は6.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)だった。

 2016年3月から3部作でスタートした同ドラマだが、その平均視聴率はシーズン1(全4話)が9.1%、シーズン2(17年1月~3月/全9話)が7.0%、シーズン3(同11月~)が5.6%で、爆死続き。章を追うごとに視聴率は下がっていき、足かけ3年にわたりオンエアされた“大作”は、さびしく幕を閉じた。

 近年、綾瀬が主演した連ドラは、16年1月期『わたしを離さないで』(TBS系)が平均6.8%と惨敗。それでも、昨年10月期の『奥様は、取り扱い注意』(日本テレビ系)は12.7%とヒットし、面目躍如を果たした。しかし、『精霊の守り人』が爆死したことで、『奥様は、取り扱い注意』の“いい流れ”も、かき消されてしまった感もある。

 その意味では、2月10日に公開される、坂口健太郎とのW主演映画『今夜、ロマンス劇場で』は、巻き返しを図る上で絶好のチャンスといえる。だが、逆をいえば、“崖っぷち”に立たされているともいえそうだ。

「ここ最近の綾瀬の主演映画は、『高台家の人々』(16年6月公開)、『本能寺ホテル』(17年1月公開)と2作連続で爆死が続いています。ですから、『今夜、ロマンス劇場で』もコケるようなことがあれば、かなり厳しい状況に追い込まれてしまいます。絶対にヒットさせなければならない状況です」(映画ライター)

 キャストも豪華だった『精霊の守り人』は、たぶんに“企画倒れ”といえる作品になってしまい、綾瀬に同情の余地はある。だが、低視聴率だったのは事実で、業界評を下げないためにも、イメージダウンを阻止する上でも、『今夜、ロマンス劇場で』こそはヒットを飛ばしたいものだが……。
(文=田中七男)

韓国で再上映された『君の名は。』現地の“ホントの評価”と意外な意見「これはポルノか?」

 今月4日から、韓国で映画『君の名は。』の再上映がスタートし、話題を呼んでいる。

 そもそも同作は、昨年1月4日から韓国で上映され、367万4,362人を動員。韓国国内で公開された日本映画の最多観客動員数を塗り替える大ヒットを記録した。もともと韓国では、スタジオジブリ作品をはじめ日本アニメの人気が高いが、その中でも『君の名は。』の人気は飛び抜けているのである。

 そして今回、韓国での初上映からちょうど1年後にアンコール上映が始まったわけだが、爆発的な人気を集めた作品だけに、韓国メディアも今回の再上映に注目している。「劇場で再び鑑賞する『君の名は。』、見逃せない5つのポイント」(「マックスムービー」)、「『君の名は。』はどんな映画?“体が入れ替わる少年・少女の愛の物語」(「金剛日報」)、「映画『君の名は。』1月4日から再上映…“視線集中”」(「トップスターニュース」)といった具合だ。

 気になるのは『君の名は。』の韓国での評判だが、大ヒットを記録しただけに、内容に対する評価も軒並み高い。

 例えば、韓国最大手ポータルサイトNAVERの「映画」コーナーにある観客のレビュー欄では、1月29日現在、『君の名は。』が10点満点中9.02の評価を獲得している。昨年の国内興行収入ランキング1位の『タクシー運転手 約束は海を越えて』が9.28、2位の『神と共に~罪と罰』が8.74であることと比較すると、『君の名は。』の評価、満足度の高さがわかる。

 ネット上には、「人生最高の日本映画だ」「再上映してくれてうれしい。久しぶりに良い映画を観た」「OST(オリジナルサウンドトラック)だけ聴いても胸が熱くなる。3回観たけどまた観たい」といったコメントが並んでいる。中には、「瀧が三葉に会うために御神体のある山を登るシーンから彗星が落ちるまでの場面は、他のどの映画も勝てない没入感がある」「演出に声優の声、背景、音楽……最高だ」「彗星が落ちるシーンと瀧と三葉が再開する場面の曲が好き。涙が出る」など、具体的な感想もあった。

 もっとも、一部では酷評も上がっている。

「幼稚すぎる」「退屈で眠くなった。内容がわかりづらい」「ストーリーがありきたり。チケット代を返してほしい」「唯一良かったのは瀧の声優」「日本の国粋主義が作品の底を流れていると感じた」「日本の感性は私には合わない。主人公の二人が“君の名は!?”と声をそろえるところで吹き出してしまったよ」といったレビューも見受けられる。

 また、“韓国版2ちゃんねる”といわれるネット掲示板「日刊ベストストア」(イルベ)には、「『君の名は。』を観たが…これはエロすぎる」というスレッドが立てられている。

 スレッドには、「男子高生が女子高生の身体を見て…女子高生は男子高生のアソコを触り…これは映画かポルノか。なぜ19禁にならないんだ」「三葉は恥ずかしくて(瀧の)顔も見られないよ。死んでしまった方がハッピーエンドだった気がする」といったコメントが寄せられている。もともと韓国は、「表現の自由を侵害している」との論争が勃発するほど「児童ポルノ法」の処罰が厳しいだけに、『君の名は。』にも敏感に反応したのかもしれない。

 いずれにしても、韓国で再び関心を集めている『君の名は。』。再上映によって、その評価がどのように変わるか、注目したい。
(文=S-KOREA)

●参考記事
・アンコールの熱望に応えて…韓国で再上映される『君の名は。』の“異例さ”
http://s-korea.jp/archives/25767?zo=1
・『君の名は。』に続き、あの恋愛作品が“異例の再々上映”…韓国の日本映画2017総決算
http://s-korea.jp/archives/25386?zo=1

韓国で再上映された『君の名は。』現地の“ホントの評価”と意外な意見「これはポルノか?」

 今月4日から、韓国で映画『君の名は。』の再上映がスタートし、話題を呼んでいる。

 そもそも同作は、昨年1月4日から韓国で上映され、367万4,362人を動員。韓国国内で公開された日本映画の最多観客動員数を塗り替える大ヒットを記録した。もともと韓国では、スタジオジブリ作品をはじめ日本アニメの人気が高いが、その中でも『君の名は。』の人気は飛び抜けているのである。

 そして今回、韓国での初上映からちょうど1年後にアンコール上映が始まったわけだが、爆発的な人気を集めた作品だけに、韓国メディアも今回の再上映に注目している。「劇場で再び鑑賞する『君の名は。』、見逃せない5つのポイント」(「マックスムービー」)、「『君の名は。』はどんな映画?“体が入れ替わる少年・少女の愛の物語」(「金剛日報」)、「映画『君の名は。』1月4日から再上映…“視線集中”」(「トップスターニュース」)といった具合だ。

 気になるのは『君の名は。』の韓国での評判だが、大ヒットを記録しただけに、内容に対する評価も軒並み高い。

 例えば、韓国最大手ポータルサイトNAVERの「映画」コーナーにある観客のレビュー欄では、1月29日現在、『君の名は。』が10点満点中9.02の評価を獲得している。昨年の国内興行収入ランキング1位の『タクシー運転手 約束は海を越えて』が9.28、2位の『神と共に~罪と罰』が8.74であることと比較すると、『君の名は。』の評価、満足度の高さがわかる。

 ネット上には、「人生最高の日本映画だ」「再上映してくれてうれしい。久しぶりに良い映画を観た」「OST(オリジナルサウンドトラック)だけ聴いても胸が熱くなる。3回観たけどまた観たい」といったコメントが並んでいる。中には、「瀧が三葉に会うために御神体のある山を登るシーンから彗星が落ちるまでの場面は、他のどの映画も勝てない没入感がある」「演出に声優の声、背景、音楽……最高だ」「彗星が落ちるシーンと瀧と三葉が再開する場面の曲が好き。涙が出る」など、具体的な感想もあった。

 もっとも、一部では酷評も上がっている。

「幼稚すぎる」「退屈で眠くなった。内容がわかりづらい」「ストーリーがありきたり。チケット代を返してほしい」「唯一良かったのは瀧の声優」「日本の国粋主義が作品の底を流れていると感じた」「日本の感性は私には合わない。主人公の二人が“君の名は!?”と声をそろえるところで吹き出してしまったよ」といったレビューも見受けられる。

 また、“韓国版2ちゃんねる”といわれるネット掲示板「日刊ベストストア」(イルベ)には、「『君の名は。』を観たが…これはエロすぎる」というスレッドが立てられている。

 スレッドには、「男子高生が女子高生の身体を見て…女子高生は男子高生のアソコを触り…これは映画かポルノか。なぜ19禁にならないんだ」「三葉は恥ずかしくて(瀧の)顔も見られないよ。死んでしまった方がハッピーエンドだった気がする」といったコメントが寄せられている。もともと韓国は、「表現の自由を侵害している」との論争が勃発するほど「児童ポルノ法」の処罰が厳しいだけに、『君の名は。』にも敏感に反応したのかもしれない。

 いずれにしても、韓国で再び関心を集めている『君の名は。』。再上映によって、その評価がどのように変わるか、注目したい。
(文=S-KOREA)

●参考記事
・アンコールの熱望に応えて…韓国で再上映される『君の名は。』の“異例さ”
http://s-korea.jp/archives/25767?zo=1
・『君の名は。』に続き、あの恋愛作品が“異例の再々上映”…韓国の日本映画2017総決算
http://s-korea.jp/archives/25386?zo=1

野生動物を狩る“トロフィーハンティング”の実態! キリンが解体される現代のモンド映画『サファリ』

 これは現代の首狩り族の物語だ。現代の首狩り族は肌がとても白く、高性能ライフルを持ち歩き、シマウマやヌーといった野生動物を見つけては安全な距離から仕留めてみせる。野生動物の死体を前にした記念写真を誇らしげに撮った後は、束の間の休暇を終えて遠い母国へと帰っていく。戦利品となる野生動物の首や剥ぎ取られた毛皮は、現地人によってきれいに加工され、後ほど輸送されるか、現地にて保管されることになる。ハンティングを主宰する白人オーナー宅は、野生動物たちの剥製ですでにいっぱいだ。ドキュメンタリー映画『サファリ』は、裕福な欧米人たちの高貴な趣味である“トロフィーハンティング”の実態を明らかにしていく。

 アフリカの草原に棲息するライオンやキリンなどの野生動物は狩猟が禁じられていると思いきや、それはかつて狩りを行なうことで生活の糧としていた地元住民に対してのみ。バカンスに来た欧米人たちが数百万円もの料金(動物の希少度によって料金は変動)を支払えば、狩猟は合法的に許可される。狩猟地帯では白人ガイドが付きっきりで獲物となる野生動物を探し、撃つ場所や引き金を引くタイミングまで教えてくれる。しかも、客が仕留めた瞬間、「やった! 大物だ! あんたは誇りだ!」とヨイショまでしてくれる。生きた標的を倒した客は恍惚感に酔いしれ、その間にも白人ガイドの助手をしている地元スタッフが雑草を刈り、死体を動かし、記念写真が撮りやすいように整える。ヌー、ウォーターバック、シマウマたちが次々とトロフィーハンティングの餌食となる。カメラはその様子を淡々と映し出していく。

 本作を撮ったのは、ケニアを舞台にした『パラダイス:愛』(12)などで知られるオーストリア在住の国際派監督ウルリヒ・ザイドル。野生動物たちが狩られるトロフィーハンティングに対し、ザイドル監督が否定的なことはスクリーン越しに伝わってくる。でもなぜ、欧米人は中世の貴族的な狩猟行為を好むのか。その謎を、ザイドル監督のカメラはあぶり出そうとする。白人ハンターは主張する。「我々がお金を払うことで、発展途上国の人々は経済的に潤うことになる。両者にとって有益ではないか」と。まだ幼い面影を残す若いハンターは言う。「年老いた動物や病気の動物がいなくなることで、彼らの繁殖の役にも立っているんだ。ハンティングは動物たちにとっての救済みたいなものだよ」。

 アフリカ諸国へトロフィーハンティングを目的に訪ねるハンターたちの数は年間1万8,500人。アフリカ諸国の収益は年間217億円にもなる。そのため、どの国も積極的にハンティングの許可を出している。収益金は野生動物の保護費に回すというのが建前だが、実際は関係者たちが私服を肥やしているというのが実情らしい。

 アフリカを舞台にした本作を観て思い出すのは、クリント・イーストウッド監督&主演作『ホワイトハンター ブラックハート』(90)だ。『ホワイトハンター』でのイーストウッドは、ハリウッド黄金期の大監督ジョン・ヒューストンに扮している。ヒューストンは冒険活劇『アフリカの女王』(51)の撮影のためにアフリカ南部を訪れるが、巨大なアフリカゾウを狩ることに夢中になっていく。黒人差別やユダヤ人叩きをとことん嫌うリベラリストのヒューストンながら、地上でもっとも高貴な生き物であるゾウを自分の手で仕留めたいという願望から逃れられなくなってしまう。野生動物を狩ることはこの世の罪であることを認めながら、「許可書さえ買えば、誰でも犯せる罪だ。だからこそ、その罪を犯してみたくなる」と心の中に渦巻くドス黒い衝動を抑えることができない。

 ジョン・ヒューストン、そしてクリント・イーストウッドの心の中でとぐろを巻く黒い欲望の正体に、本作のカメラは迫っていく。アフリカゾウは姿を見せないものの、大草原きっての優雅さを誇る大きなキリンが倒されるシーンが後半には待っている。かつては神獣扱いされていたキリンが絶命する瞬間、スクリーンの中の空気は巨大な神木が切り倒れたかのように、おごそかなものになる。だが、空気が凝縮したのは一瞬であり、仕留めた白人ハンターと彼が同伴した美しい妻が満足げな表情で記念撮影を始め、空気はどんよりと弛緩していく。彼ら白人ハンターの普段の職業は本作では明かされないが、トロフィーハンティングに関する資料を読むと、裕福な欧米人、特に医者が多いとある。医者たちは多くの人々の命を救った手で、ライフルを握り、大草原で生きる高貴な野生動物たちを狩っているわけだ。

 カメラはさらにトロフィーハンティングの暗部へと進んでいく。すでに冷たくなった野生動物はトラックに乗せられ、プレハブ風の小屋へと運び込まれる。解体作業に従事するのは地元の人々だ。シマウマの縞模様の毛皮は剥ぎ取られ、大地を駆った頑強な脚は斬り落とされる。そしてキリンはお腹を割かれ、大きな大きな内臓が取り出される。狩りを終えた白人ハンターたちが必要なのは勝利者トロフィーとしての猛獣たちの首、角、毛皮だけであり、残された肉塊は解体作業で汗を流した地元スタッフへの報酬として与えられる。余計なナレーションによる解説はなく、黒い肌をした地元民が黙々と肉をほおばる姿が流れるのみである。白人ハンターたちが雄弁なのに対し、彼らは冷たい視線でカメラをただじっと見つめ返す。

 これは現代の首狩り族の物語だ。多くの欧米人は、心の中に首狩り族を飼っている。そして年に一度か二度のバケーションの際に、心の中の首狩り族を異境の大草原で解き放ってみせる。文明社会から解放された喜びに溢れ、首狩り族は実弾を込めた祝砲を次々と撃ち続ける。心の中に首狩り族を飼っているのは、欧米人だけではない。きっと日本人の心の中にも、黒い衝動は隠されているはずだ。
(文=長野辰次)

『サファリ』
監督/ウルリヒ・ザイドル 脚本/ウルリヒ・ザイドル、ヴェロニカ・フランツ
配給/サニーフィルム 1月27日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラム、2月3日(土)よりシネ・リーブル梅田ほか全国ロードショー
WDR Copyrights(c)Vinenna2016
https://www.movie-safari.com

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