女性向け性サービスの需要はさらに高まりそう! 松坂桃李が『娼年』でセックスセラピストを熱演

 ハリウッドの実力派女優ジェシカ・チャスティンが主演した政治サスペンス『女神の見えざる手』(17)で、凄腕の政治ロビイストを演じたジェシカが密かに愛用していたのがエスコートサービスだった。政界や財界の大物たちを相手に神経をすり減らす業務に追われる彼女は、恋人をつくる時間と心の余裕がない。そんな彼女にとっての唯一の息抜きが、エスコートサービスと過ごすホテルでの一夜だった。松坂桃李が主演した『娼年』は東京が舞台だが、高級娼夫に扮した松坂を指名する女性客たちも、ジェシカと同じようにストレスの多い日々を過ごしているに違いない。

 直木賞作家・石田衣良が2001年に発表した同名小説を映画化したのは、乱交パーティーに集まる男女の本音を赤裸々に描き出した『愛の渦』(14=記事参照)が大反響を呼んだ三浦大輔監督。今回の『娼年』は女性専用の高級コールクラブを題材にした“裏風俗”もの第2弾だ。2016年に上演された舞台版に続いて、松坂桃李が主人公リョウ役を演じている。有名大学に在学するリョウだが、講義を聴講するのに飽き、就職活動にも興味が持てず、毎晩下北沢にあるバーでバーテンとして働いていた。バーに客として現われたゴージャスな大人の女性・御堂静香(真飛聖)に誘われ、リョウは退屈しのぎと好奇心から男娼の仕事を始めることに。年上の女性たちとベッドを共にし、リョウの世界観は大きく変わり始める。

 時給1万円の娼夫として仕事をスタートしたリョウだが、意外な才能を発揮することになる。ベッドイン前から、リョウの前戯はすでに始まっている。リョウを指名した顧客と、まずはレストランで食事と会話を楽しみ、相手をリラックスさせる。爽やかな笑顔と学生らしい何気ないおしゃべりで相手の緊張をほぐせば、女性はすんなりと心のドアを開いてくれる。ホテルに着いたリョウは、さらに優しいキスと全身への愛撫を重ね、顧客の体を丁寧に問診する。男と同等に、もしくは男以上にハードに働く女性たちの溜め込んでいる性欲とストレスを、SEXしながらゆっくりと吐き出させていく。リョウは働く女性たちにとって、優れたセックスセラピストのような存在だった。

 リョウもまた女性の内面を覗くことで、それまでの女性観を改める。御堂静香と出会うまでは、SEXは単調なピストン運動、女性との付き合いも面倒くさいものと決め込んでいたが、根が几帳面なリョウは娼夫という仕事に正面から向き合い、女性たちが実に様々な欲望を抱えていることを身を持って体感する。多くの女性たちの欲望は、本人の業から発せられるものだろう。その欲望、業の深さにビビって逃げ出す新人男娼は少なくなかったが、リョウは逆だった。他人には言えない恥ずかしい願望やトラウマを抱える女性のことがかわいらしく思えて仕方ない。年上の女性の笑いじわや肉体の柔らかさも、リョウにはとても愛おしく感じられる。

 リョウ役を演じた松坂桃李は、本作の中で様々なプレイに挑戦する。優しいSEXだけでなく、おしゃれなお姉さんっぽいヒロミ(大谷麻衣)は後背位で激しく責める。夫以外の男に抱かれると興奮するという若妻・紀子(佐々木心音)はいやらしい言葉責めでいたぶってみせる。和服が似合う老女(江波杏子)のスイートスポットも隈無く探索する。顧客の想像を上回る熱いサービスが、リョウのモットーだった。御堂静香にスカウトされて間もないリョウだったが、顧客満足度No.1の売れっ子娼夫となっていく。

 松坂桃李は不倫サスペンス『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)でも蒼井優を相手にベッドテクニシャンぶりを見せていたが、舞台版『娼年』の公演直後の撮影だったことも多分に影響していたそうだ。9人の女優たち+αを相手に映画版『娼年』でも再び過激な濡れ場を演じながら、松坂本人に清潔感があり、何よりも芝居に対するマジメさが伝わってくるため、どんなにエロい濡れ場を演じていても“汚れ”のイメージが感じられない。行定勲監督の『リバーズ・エッジ』(18)では二階堂ふみがまん丸なおっぱいをぺろんと見せてくれたが、現代人の繊細な内面や関係性を描く上で、ヌードシーンやSEX描写は避けては通れないもの。作品や役に応じて、ヌードOKなプロフェッショナルな俳優たちが増えつつあることを歓迎したい。

 本作を観ていて思い出すのは、若き日のリチャード・ギアが主演したポール・シュレイダー監督作『アメリカン・ジゴロ』(80)だ。リチャード・ギアはLAの人気男娼役だが、彼は多くの女性たちとベッドを共にしながら、自分にとっての理想の女性を追い求め続けていた。人類の祖アダムの抜き取られた肋骨からイヴが生まれたように、自分の欠けた魂をそっくり補ってくれる運命の女性を探し、女体を渡り歩いていた。松坂桃李が演じるリョウも、それに近い。リョウの場合は幼い頃に死別した母親の面影を求めて、男娼の仕事に励んでいる。リョウにとってのSEXは、母親の温もりを求めることであり、亡き母との対話でもあり、母親と近親相姦するような倒錯性もそこには含まれている。

 リョウが所属する秘密クラブでは、痛みによってのみ快感が得られる真性マゾヒストのアズマ(猪塚健太)や耳の不自由な少女・咲良(冨手麻妙)といったマイノリティー側の人々が働いている。クラブを経営する御堂静香もまた、誰にも言えない秘密を抱えている。石田衣良が2008年に書き上げた続編『逝年』では、性同一性障害を抱えるアユムがリョウたちの新しい仲間として加わることになる。男と女を分ける大きな大きな性の谷間には、様々な人々が棲息し、谷の合間を行き来している。そんな谷間の住人となったリョウはSEXを通して人間の言語化できない本音や素顔に触れ、退屈を持て余していた少年から相手の心の傷を思い遣る青年へと成長を遂げていく。様々な性を肯定することは、すべての生を祝福することでもある。やはりリョウは優れたセックスセラピストだといえるだろう。
(文=長野辰次)

『娼年』
原作/石田衣良 監督・脚本/三浦大輔
撮影/Jam Eh I(田中創)
出演/松坂桃李、真飛聖、冨手麻妙、猪塚健太、桜井ユキ、小柳友、馬渕英里何、荻野友里、佐々木心音、大谷麻衣、階戸瑠李、西岡徳馬、江波杏子
配給/ファントム・フィルム R18+ 4月6日(金)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー
(c)石田衣良/集英社 2017映画「娼年」製作委員会
http://shonen-movie.com

 

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レイプ被害者を描いた衝撃の映画『私は絶対許さない』主演、女優・平塚千瑛の素顔に迫る――

 昨年10月、ハリウッドの映画プロデューサー・ハーヴェイ・ワインスタイン氏の性的スキャンダルが明らかになったことで、「#MeToo」という言葉をキーワードにSNS上でセクハラやパワハラ被害を告発する動きが、世界的な広がりをみせている。

 そんな中、残虐な性犯罪が多発しているインドで開催された「ノイダ国際映画祭」で、審査員特別賞を受賞した話題の日本映画『私は絶対許さない』が4月7日に公開される。

“15歳でレイプ被害に遭い、男性への復讐を誓う”という、実在の女性の手記を原作に、精神科医でもある和田秀樹監督がメガホンを取ったこの作品。主演に選ばれた女優は、この役とどのように出会い、向き合い、そして闘ったのか。公開を前に、彼女の魅力に迫った。

* * *

――本作に主演することになった経緯を教えてください。

平塚千瑛(以下、平塚) 2016年の9月に初めての写真集『Birth』(双葉社)を出させていただいて、その写真集を新聞や週刊誌に載せていただく機会が増えました。その記事を見た映画のスタッフの方から、「オーディションを受けてみないか?」とお誘いを受けたのがきっかけです。

――最初に原作(『私は絶対許さない。15歳で集団レイプされた少女が風俗嬢になり、さらに看護師になった理由』著:雪村葉子/ブックマン社)を読んだ時は、どのように感じましたか?

平塚 この本を読んでいて、心が痛くなり、「これは本当に起こったことなのだろうか?」と初めは信じられませんでした。でも、同じ女性という立場から「女性がこういった性犯罪に遭っているということを、もっと世の中に知ってもらわなければいけない」と感じ、ぜひとも主演をやらせていただきたいと思いましたね。

■「運命を感じた主人公との出会い」

 

――オーディションで平塚さんが選ばれたのは、どのような点を評価されたのだと思いますか?

平塚 原作者の雪村葉子さんにお会いしたんですが、雰囲気や話している感じ、顔まで私によく似ていたんです。雪村さんご自身も「平塚さんて私に似てますよね」と言ってくださいました。

 それと、不思議なことなんですが、作中で主人公「ようこ」が源氏名を次々変えていくんですね。最初に「かおり」と名乗り、次が「ちあき」なんです。実は私の母が「ようこ」で、姉が「かおり」、それで私は「ちあき」じゃないですか。もう運命しか感じなかったです。

――まさに、“出会うべくして出会った役”という感じですね。

平塚 はい。雪村さんにもそのお話をして、打ち解けることができました。

――映画は「主観撮影」(主人公の目線で映像が撮られている)を用いられていますが、具体的にはどのように撮影していたのでしょう?

平塚 撮影監督の高間(賢治)さんが私のすぐ横にいて、相手の俳優さんがカメラ目線で演技をするという手法です。カメラを固定する棒のようなものを高間さんが私の隣で持ち、カメラ本体は私の顔の前に来るようにして撮影しました。全ての動きを高間さんと二人三脚で行うので大変な撮影でした。そして主観撮影のためカメラに私は映っておらず、声だけの演技も多くて、大変難しかったですが本当に勉強させていただきました。

――「特にこんなシーンを注目して欲しい」というところはありますか?

平塚 女性と男性で別々にあるんです。女性の方には、初めは彼の葉子に対する思いが愛情だと信じて受け入れるのですが徐々にその思いが歪んだ愛情だという事に気づき、この人といたら駄目だと気付く瞬間。男性には、エンディングのシーンを見て、“女性の強さ”、“怖さ”を感じて欲しいです。

 このエンディングは、見る人によって、ハッピーエンドなのかバッドエンドなのか分かれると思うんです。ただ、実際に演じた私は「葉子は幸せな道を歩んでいる」と感じました。

 雪村さんとお会いしてみると、あのような痛ましい被害に遭っているとは思えないほど、周囲を和やかにしてくれる女性なんです。もう、「ここまで自分の心を殺して頑張って強く生きてきた葉子さんが幸せにならないんだったら、誰が幸せになるんだ」って思いました。

 実は、映画出演にあたり、同じように性被害に遭ってトラウマを抱えている方から、「映画を見に行こうと思います」という話を聞いたりしました。もしかしたら、映画を見ることで過去の傷をえぐってしまうかもしれないという思いもあるんです。でも、最後まで見てもらいたいです。どんな境遇にも負けず、常に世の中の理不尽や非常識と闘いながら生きてきた雪村さんから勇気をもらえると信じています。

 それは「性被害」ということだけにとどまらず、すべての人に「生きていく強さ」を教えてくれていると思うんです。

――体を張ったハードなシーンが多かったと思います。やはり、辛いこともありました?

平塚 最初に風俗でのシーンを撮影したんですが、なかなかメンタルが追いついていかなくて……カットがかかった瞬間は涙が止まらなくなりました。緊張なのか不安なのか恐怖なのかわからない、そんな感情でした。でも、その分得るものは大きくて、今回の演技を通して、自分の中で一皮も二皮もむけたと思っています。

――佐野史郎さんと一緒のシーンが多いですが、どのような方でしたか?

平塚 私があまりに緊張しっぱなしだったので、「そんなに緊張しなくていいんだよ」と言っていただいて。もうすべて身を任せる感じで演じていました。佐野さんの役柄もとにかくドラマ『ずっとあなたが好きだった』(TBS系)の冬彦さんと重なり、現場にいてもゾクゾクするような演技を目の当たりにして、とてもいい経験をさせていただきました。

――他の共演者の方はいかがでした?

平塚 隆大介さんと東てる美さんのサービスエリアでの喧嘩のシーンを撮影している時に、一般のお客さんが止めに入るぐらいの迫真の演技をされていたんです。その演技力に圧倒されて、「これが演じるっていうことか」と硬直するくらい感動しました。

 他にもとにかく個性の強い役者さんばかりでしたので、みなさんと一緒にこの作品に携われたことはこれから女優業を歩んでいく私にとって財産になりました。

――作品では前半の舞台が東北ですよね。平塚さんご自身も山形の出身ということで、何か通じるものはありましたか?

平塚 現場の和室のシーン、親戚が集まっている様子などは実家を思い出しましたね。噂がすぐに広まってしまうところとかも「分かるなぁ」と思って(苦笑)。

――映画で、葉子は過去を捨てて上京するわけですが、平塚さんが上京した時は、どのような気持ちでしたか?

平塚 私は24歳の時に地元でスカウトされて上京したので、「人生一回だし、東京に行ってみよう」というような感じでした。その時はそんなに強い思いや意気込みのようなものはありませんでした(笑)。

――主人公・葉子にとって「男性」とはどういう存在だと思われますか?

平塚 自分を傷つけた男性のことは、今でも殺したいと思っていると思います。ただ、その思いを前に進むパワーとエネルギーに変えるのもまた、男性相手の性風俗の仕事だったりするんですよね。生きていくための手段として必要な存在だったと思います。

――インドの「ノイダ国際映画祭」では、審査員特別賞を受賞しましたね。

平塚 インドは性犯罪がとても多いと聞いています。特に幼児の強姦とか輪姦が日常茶飯事に行われていると聞きました。その国で賞をとれたのは大変意味のあることだと思います。インドの性犯罪を減らすことに役立てればなと思います。また、日本でも、子どもたちを守っていく立場の家族や公的な機関、NPO団体の方などに見ていただきたいです。

――今回の役柄もそうですが、平塚さんは、外見でクールに見られがちですよね。

平塚 そうなんです。もう、それで損しかしていない(笑)。怒ってるわけでもないのに、「怖そう」とか「近寄りがたい」と思われて。「話してみたら全然違う」ってなるんですけどね。

 一時はだいぶ試行錯誤していて。ボケてみたり、最初からヘラヘラしてたりもしたんです。でも、「逆に怖い」「変!」って言われてしまって(笑)。最近はインタビューなどでお話をする機会が増えたので、以前ほどは冷たく見られなくなりました。

■「ファンの方がお父さんよりも好き」

 

――グラビアや舞台でも活躍されていますが、それぞれ意識することに違いはありますか?

平塚 全然違いますね。グラビアは、カメラマンさんと一対一で作り上げるものですが、映像のように、そこに演技が入ってくると全くの別物になります。

 舞台は、お客さんの反応も含めて一番演技の勉強になります。舞台で得たことがギュッと詰まったものがドラマとか映画に反映されるのかなと思っています。

 今、肩書としては「グラビア女優」としているんですが、需要がある限りグラビア活動も続けていきたいです。あとは、「これ」と決めてしまわずに、いろんなことに挑戦したいですね。

――今後、女優として演じてみたい役はありますか?

平塚 今まで演じてきたのが、激しい女性の役が多かったので、今回のようにトラウマを抱えている女性など、これまで経験したことがない役を演じてみたいです。コメディも大好きなので、そんな演技もしてみたい。韓国のアイドルグループ・2PMのチャンソンさんの映画『忘れ雪』(2015)では掃除のおばさんの役をやりました(笑)。とにかくたくさんの役を演じて、一人前の女優になっていきたいです。

――撮影会などでファンの方と触れ合うことも多いと思いますが、平塚さんにとってファンはどのような存在ですか?

平塚 私のファンは、どんなお仕事をしても「やったね!よかったね!」と肉親のように喜んでくれるんです。ずっと昔からファンでいてくれる方もいて「まだファンでいてくれるんだ」と感動するほどです。私、ファザコンなんですけど、お父さんよりも大好きです(笑)。

 今回の映画を見てファンになってくれる方がいらっしゃれば嬉しいです。全国いろいろなところに舞台挨拶で伺いたいですね。

――平塚さんの意外な一面として、アイドルユニット「A応P」のファンだと伺ったのですが。

平塚 はい。アニメの『おそ松さん』(テレビ東京系)を見ていたら、彼女たちのPVが流れて、それを見て一目惚れしました。残念ながら推しの子は卒業してしまったのですが、今は研究生で新たな推しを見つけたので、そちらを応援しています。もう親心みたいな感じです(笑)。前回のツアーが舞台と重なって行けなかったので、次のツアーは東名阪を追いかけようかと思っています。本当にミーハーなんですよ、私……(爆笑)。

――最後に、これから映画を見る方にメッセージがあればお願いします。

平塚 この映画が実話であるということ、そして性犯罪に遭われて苦しんでいる方がたくさんいるということを知っていただきたいです。そして、被害者の方々が声を上げられる世の中になって欲しい。もし、同じように辛い思いをしている人がこの作品を見て、「自分も強く生きよう」と思い、そして幸せな人生を生きてくだされば本望です。

 男性の方には、これから伴侶になる方が同じような苦しみを抱えていたら、守ってあげてほしい。女性に優しく接してあげてほしいなと思います。

* * *

 170cmの身長と、抜群のスタイル、そしてクールなルックス。ハードな役柄を演じきった彼女の素顔は、驚くほどしなやかで正義感にあふれるものだった。

 自分に壁を作らず、どんなジャンルにでも挑戦していく強さ。映画主演というハードルを越え、新たな世界に踏み出した彼女のこれからの活躍が期待される。
(取材・文=プレヤード)

●平塚千瑛(ひらつか・ちあき)
1986年生まれ。山形県米沢市出身。24歳の時に地元でスカウトされ上京。2011年ミス・アース・ジャパン ファイナリスト、2012年ミス・ユニバース・ジャパン セミファイナリストなどを経て、グラビア、女優、バラエティとマルチに活動する。『私は絶対許さない』では、映画初主演となる。 写真集『Birth』(双葉社)発売中。

オフィシャルブログ『今日もありがとう』
https://ameblo.jp/chiaki-143x

Twitter:@chiaki_Hira2ka

 

 

 ■映画『私は絶対許さない』(監督:和田秀樹)
 4月7日から、テアトル新宿ほか全国公開

レイプ被害者を描いた衝撃の映画『私は絶対許さない』主演、女優・平塚千瑛の素顔に迫る――

 昨年10月、ハリウッドの映画プロデューサー・ハーヴェイ・ワインスタイン氏の性的スキャンダルが明らかになったことで、「#MeToo」という言葉をキーワードにSNS上でセクハラやパワハラ被害を告発する動きが、世界的な広がりをみせている。

 そんな中、残虐な性犯罪が多発しているインドで開催された「ノイダ国際映画祭」で、審査員特別賞を受賞した話題の日本映画『私は絶対許さない』が4月7日に公開される。

“15歳でレイプ被害に遭い、男性への復讐を誓う”という、実在の女性の手記を原作に、精神科医でもある和田秀樹監督がメガホンを取ったこの作品。主演に選ばれた女優は、この役とどのように出会い、向き合い、そして闘ったのか。公開を前に、彼女の魅力に迫った。

* * *

――本作に主演することになった経緯を教えてください。

平塚千瑛(以下、平塚) 2016年の9月に初めての写真集『Birth』(双葉社)を出させていただいて、その写真集を新聞や週刊誌に載せていただく機会が増えました。その記事を見た映画のスタッフの方から、「オーディションを受けてみないか?」とお誘いを受けたのがきっかけです。

――最初に原作(『私は絶対許さない。15歳で集団レイプされた少女が風俗嬢になり、さらに看護師になった理由』著:雪村葉子/ブックマン社)を読んだ時は、どのように感じましたか?

平塚 この本を読んでいて、心が痛くなり、「これは本当に起こったことなのだろうか?」と初めは信じられませんでした。でも、同じ女性という立場から「女性がこういった性犯罪に遭っているということを、もっと世の中に知ってもらわなければいけない」と感じ、ぜひとも主演をやらせていただきたいと思いましたね。

■「運命を感じた主人公との出会い」

 

――オーディションで平塚さんが選ばれたのは、どのような点を評価されたのだと思いますか?

平塚 原作者の雪村葉子さんにお会いしたんですが、雰囲気や話している感じ、顔まで私によく似ていたんです。雪村さんご自身も「平塚さんて私に似てますよね」と言ってくださいました。

 それと、不思議なことなんですが、作中で主人公「ようこ」が源氏名を次々変えていくんですね。最初に「かおり」と名乗り、次が「ちあき」なんです。実は私の母が「ようこ」で、姉が「かおり」、それで私は「ちあき」じゃないですか。もう運命しか感じなかったです。

――まさに、“出会うべくして出会った役”という感じですね。

平塚 はい。雪村さんにもそのお話をして、打ち解けることができました。

――映画は「主観撮影」(主人公の目線で映像が撮られている)を用いられていますが、具体的にはどのように撮影していたのでしょう?

平塚 撮影監督の高間(賢治)さんが私のすぐ横にいて、相手の俳優さんがカメラ目線で演技をするという手法です。カメラを固定する棒のようなものを高間さんが私の隣で持ち、カメラ本体は私の顔の前に来るようにして撮影しました。全ての動きを高間さんと二人三脚で行うので大変な撮影でした。そして主観撮影のためカメラに私は映っておらず、声だけの演技も多くて、大変難しかったですが本当に勉強させていただきました。

――「特にこんなシーンを注目して欲しい」というところはありますか?

平塚 女性と男性で別々にあるんです。女性の方には、初めは彼の葉子に対する思いが愛情だと信じて受け入れるのですが徐々にその思いが歪んだ愛情だという事に気づき、この人といたら駄目だと気付く瞬間。男性には、エンディングのシーンを見て、“女性の強さ”、“怖さ”を感じて欲しいです。

 このエンディングは、見る人によって、ハッピーエンドなのかバッドエンドなのか分かれると思うんです。ただ、実際に演じた私は「葉子は幸せな道を歩んでいる」と感じました。

 雪村さんとお会いしてみると、あのような痛ましい被害に遭っているとは思えないほど、周囲を和やかにしてくれる女性なんです。もう、「ここまで自分の心を殺して頑張って強く生きてきた葉子さんが幸せにならないんだったら、誰が幸せになるんだ」って思いました。

 実は、映画出演にあたり、同じように性被害に遭ってトラウマを抱えている方から、「映画を見に行こうと思います」という話を聞いたりしました。もしかしたら、映画を見ることで過去の傷をえぐってしまうかもしれないという思いもあるんです。でも、最後まで見てもらいたいです。どんな境遇にも負けず、常に世の中の理不尽や非常識と闘いながら生きてきた雪村さんから勇気をもらえると信じています。

 それは「性被害」ということだけにとどまらず、すべての人に「生きていく強さ」を教えてくれていると思うんです。

――体を張ったハードなシーンが多かったと思います。やはり、辛いこともありました?

平塚 最初に風俗でのシーンを撮影したんですが、なかなかメンタルが追いついていかなくて……カットがかかった瞬間は涙が止まらなくなりました。緊張なのか不安なのか恐怖なのかわからない、そんな感情でした。でも、その分得るものは大きくて、今回の演技を通して、自分の中で一皮も二皮もむけたと思っています。

――佐野史郎さんと一緒のシーンが多いですが、どのような方でしたか?

平塚 私があまりに緊張しっぱなしだったので、「そんなに緊張しなくていいんだよ」と言っていただいて。もうすべて身を任せる感じで演じていました。佐野さんの役柄もとにかくドラマ『ずっとあなたが好きだった』(TBS系)の冬彦さんと重なり、現場にいてもゾクゾクするような演技を目の当たりにして、とてもいい経験をさせていただきました。

――他の共演者の方はいかがでした?

平塚 隆大介さんと東てる美さんのサービスエリアでの喧嘩のシーンを撮影している時に、一般のお客さんが止めに入るぐらいの迫真の演技をされていたんです。その演技力に圧倒されて、「これが演じるっていうことか」と硬直するくらい感動しました。

 他にもとにかく個性の強い役者さんばかりでしたので、みなさんと一緒にこの作品に携われたことはこれから女優業を歩んでいく私にとって財産になりました。

――作品では前半の舞台が東北ですよね。平塚さんご自身も山形の出身ということで、何か通じるものはありましたか?

平塚 現場の和室のシーン、親戚が集まっている様子などは実家を思い出しましたね。噂がすぐに広まってしまうところとかも「分かるなぁ」と思って(苦笑)。

――映画で、葉子は過去を捨てて上京するわけですが、平塚さんが上京した時は、どのような気持ちでしたか?

平塚 私は24歳の時に地元でスカウトされて上京したので、「人生一回だし、東京に行ってみよう」というような感じでした。その時はそんなに強い思いや意気込みのようなものはありませんでした(笑)。

――主人公・葉子にとって「男性」とはどういう存在だと思われますか?

平塚 自分を傷つけた男性のことは、今でも殺したいと思っていると思います。ただ、その思いを前に進むパワーとエネルギーに変えるのもまた、男性相手の性風俗の仕事だったりするんですよね。生きていくための手段として必要な存在だったと思います。

――インドの「ノイダ国際映画祭」では、審査員特別賞を受賞しましたね。

平塚 インドは性犯罪がとても多いと聞いています。特に幼児の強姦とか輪姦が日常茶飯事に行われていると聞きました。その国で賞をとれたのは大変意味のあることだと思います。インドの性犯罪を減らすことに役立てればなと思います。また、日本でも、子どもたちを守っていく立場の家族や公的な機関、NPO団体の方などに見ていただきたいです。

――今回の役柄もそうですが、平塚さんは、外見でクールに見られがちですよね。

平塚 そうなんです。もう、それで損しかしていない(笑)。怒ってるわけでもないのに、「怖そう」とか「近寄りがたい」と思われて。「話してみたら全然違う」ってなるんですけどね。

 一時はだいぶ試行錯誤していて。ボケてみたり、最初からヘラヘラしてたりもしたんです。でも、「逆に怖い」「変!」って言われてしまって(笑)。最近はインタビューなどでお話をする機会が増えたので、以前ほどは冷たく見られなくなりました。

■「ファンの方がお父さんよりも好き」

 

――グラビアや舞台でも活躍されていますが、それぞれ意識することに違いはありますか?

平塚 全然違いますね。グラビアは、カメラマンさんと一対一で作り上げるものですが、映像のように、そこに演技が入ってくると全くの別物になります。

 舞台は、お客さんの反応も含めて一番演技の勉強になります。舞台で得たことがギュッと詰まったものがドラマとか映画に反映されるのかなと思っています。

 今、肩書としては「グラビア女優」としているんですが、需要がある限りグラビア活動も続けていきたいです。あとは、「これ」と決めてしまわずに、いろんなことに挑戦したいですね。

――今後、女優として演じてみたい役はありますか?

平塚 今まで演じてきたのが、激しい女性の役が多かったので、今回のようにトラウマを抱えている女性など、これまで経験したことがない役を演じてみたいです。コメディも大好きなので、そんな演技もしてみたい。韓国のアイドルグループ・2PMのチャンソンさんの映画『忘れ雪』(2015)では掃除のおばさんの役をやりました(笑)。とにかくたくさんの役を演じて、一人前の女優になっていきたいです。

――撮影会などでファンの方と触れ合うことも多いと思いますが、平塚さんにとってファンはどのような存在ですか?

平塚 私のファンは、どんなお仕事をしても「やったね!よかったね!」と肉親のように喜んでくれるんです。ずっと昔からファンでいてくれる方もいて「まだファンでいてくれるんだ」と感動するほどです。私、ファザコンなんですけど、お父さんよりも大好きです(笑)。

 今回の映画を見てファンになってくれる方がいらっしゃれば嬉しいです。全国いろいろなところに舞台挨拶で伺いたいですね。

――平塚さんの意外な一面として、アイドルユニット「A応P」のファンだと伺ったのですが。

平塚 はい。アニメの『おそ松さん』(テレビ東京系)を見ていたら、彼女たちのPVが流れて、それを見て一目惚れしました。残念ながら推しの子は卒業してしまったのですが、今は研究生で新たな推しを見つけたので、そちらを応援しています。もう親心みたいな感じです(笑)。前回のツアーが舞台と重なって行けなかったので、次のツアーは東名阪を追いかけようかと思っています。本当にミーハーなんですよ、私……(爆笑)。

――最後に、これから映画を見る方にメッセージがあればお願いします。

平塚 この映画が実話であるということ、そして性犯罪に遭われて苦しんでいる方がたくさんいるということを知っていただきたいです。そして、被害者の方々が声を上げられる世の中になって欲しい。もし、同じように辛い思いをしている人がこの作品を見て、「自分も強く生きよう」と思い、そして幸せな人生を生きてくだされば本望です。

 男性の方には、これから伴侶になる方が同じような苦しみを抱えていたら、守ってあげてほしい。女性に優しく接してあげてほしいなと思います。

* * *

 170cmの身長と、抜群のスタイル、そしてクールなルックス。ハードな役柄を演じきった彼女の素顔は、驚くほどしなやかで正義感にあふれるものだった。

 自分に壁を作らず、どんなジャンルにでも挑戦していく強さ。映画主演というハードルを越え、新たな世界に踏み出した彼女のこれからの活躍が期待される。
(取材・文=プレヤード)

●平塚千瑛(ひらつか・ちあき)
1986年生まれ。山形県米沢市出身。24歳の時に地元でスカウトされ上京。2011年ミス・アース・ジャパン ファイナリスト、2012年ミス・ユニバース・ジャパン セミファイナリストなどを経て、グラビア、女優、バラエティとマルチに活動する。『私は絶対許さない』では、映画初主演となる。 写真集『Birth』(双葉社)発売中。

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 ■映画『私は絶対許さない』(監督:和田秀樹)
 4月7日から、テアトル新宿ほか全国公開

葉巻と酒が手放せず、躁鬱に悩んだ宰相の決断! アカデミー賞W受賞『ウィンストン・チャーチル』

 大英帝国がその栄華を極めたヴィクトリア朝時代の1874年に生まれ、冷戦時代の1965年にこの世を去ったウィンストン・チャーチル。90歳の生涯、半世紀以上にわたる政治活動の中で最も濃密かつ激動の日々となったのが、英国首相に就任した1940年から第二次世界大戦が終わった1945年までの5年間だった。つまり、アドルフ・ヒトラー率いるナチスドイツと戦うことによって、チャーチルはその名を歴史に刻んだと言える。ゲイリー・オールドマン主演作『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(原題『DARKEST HOUR』)は、チャーチルが“伝説のリーダー”となった1940年5月10日の首相就任からナチスドイツとの徹底抗戦を宣言した同年6月4日に至るまでの27日間の足取りを、妻クレメンティーンや秘書の視点を交えて再現している。

 葉巻を愛用し、ブルドッグのような風貌をしたチャーチル(ゲイリー・オールドマン)。英国貴族の家柄に生まれ、学生時代は落ちこぼれだったが、従軍記者として名を馳せ、26歳の若さで国会議員に初当選を果たした。朝食にはスコッチウイスキー、昼食にシャンパン1本、夕食にもう一本、さらに夜はブランデーとワインを嗜むという酒豪だったことがよく知られている。長年議員を務めてきたチャーチルにようやく首相の座を回ってきたのは66歳のとき。ヒトラー自慢のドイツ装甲師団が欧州大陸を席巻し、フランスも陥落寸前だった。英国首相チェンバレンはドイツとの宥和政策に失敗して退陣。他に引き受ける議員がいないため、チャーチルが戦時宰相というリスクの高い役回りを受けざるを得なかった。

 45歳で亡くなった父親が財務大臣を務めていたことから、父親以上の地位に就くことはチャーチルの長年の夢だった。夢は願い続ければ、必ず叶う。ただし、本人が思い描いていたようなベストタイミングで訪れることはまずない。欧州全体を手中に収めつつあるヒトラーと全面対決するか、それともナチスドイツの拡張した領土を認めて、英国の保全を最優先するべきか。チャーチルは厳しい選択を迫られる。折しもフランス北部の港町ダンケルクには英国兵30万人が取り残され、ドイツ軍の進撃の前に逃げ場を失っていた。ヒトラーへ抗戦宣言することは、ダンケルクの英国兵たちを見殺しにすることになる。最悪の状況での首相就任だった。

 チャーチルの敵はヒトラーだけではない。英国の議会内でもチャーチルの酒癖をよく思わない者、第一次世界大戦時に海軍大臣だったチャーチルがガリポリの戦いで失敗したことを蒸し返す者もいる。『英国王のスピーチ』(10)で有名な英国王ジョージ6世(ベン・メンデルソーン)との関係も、チャーチルがジョージの兄エドワードに肩入れした過去もあって良好とは言いがたかった。八方塞がりのチャーチルにとって唯一の信頼できる味方が、妻のクレメンティーン(クリスティン・スコット・トーマス)だった。チャーチルは頑固者だが、実は情に篤い人間であることを知る賢妻が、誰にも弱音を吐けない夫を叱咤し、支え続ける。実際のチャーチル夫妻も夫婦仲が非常によかった。邦題が『ヒトラーから世界を救った男』となっているが、『世界を救った夫婦』にしてもよかったように思う。

 トップに立つ人間として、チャーチルはつらい決断の責任を負うことになる。ダンケルクに残された英国兵を救うため、チャーチルはダンケルクに近いカレーに陣営を張る小部隊にオトリになるよう命じる。カレーにドイツ軍を引きつけ、ダンケルク全滅を少しでも遅らせようという苦渋の作戦だった。クリストファー・ノーラン監督の『ダンケルクの戦い』(17)で描かれたように民間の船を総動員することでダンケルクの英国兵たちは帰還することに成功するが、その陰にはカレー部隊の犠牲があった。チャーチルが毎日呑む酒は決して美味しいものではなかった。葉巻や酒の力を借りて、クールダウンせざるを得ない日々だったのだ。また、チャーチルは躁鬱に苦しんだことでも知られている。英国にとって幸いだったのは、この時期のチャーチルが躁状態にあったことだろう。

 ヒトラーはプロパガンダの天才だったが、チャーチルも後に回想録『第二次世界大戦』でノーベル文学賞を受賞するなど文才に優れ、演説にも自信を持っていた。イタリアを介してドイツと和平工作を進めるかどうかのギリギリの瀬戸際、チャーチルは議事堂で英国の命運を分けるスピーチを始める。

「ナチスに屈すると、どうなる? 中には得をする者もいるだろう。だが、鉤十字がバッキンガム宮殿やウインザー城にもはためくのだぞ。この国会議事堂にも!」

 英国が降伏することは絶対にありえないと断言したチャーチルは、それまでバラバラだった議員たちの心をようやくひとつにまとめ上げ、国民の士気を鼓舞することに成功する。この後、ダンケルクから帰還した兵士たちを交え、英国本土を戦場にした“バトル・オブ・ブリテン”へと戦局は転じ、ドイツとの総力戦を行なうことになる。

 チャーチル役のゲイリー・オールドマンは、『シド・アンド・ナンシー』(86)で演じた“伝説のパンクロッカー”シド・ビシャスがハマり役だったスリム体型の俳優だ。そんな彼が、日本人アーティスト・辻一弘の特殊メイクによって見事に恰幅のよい英国宰相へと変身してみせた。全身の特殊メイクに費やした時間は1日4時間。連日4時間を要したメイク中に、オールドマンは外見だけでなく内面からもチャーチルへと近づいていった。オールドマンのアカデミー賞主演男優賞受賞、彼が1940年のチャーチルへと精神波長をチューニングすることに貢献した辻一弘のアカデミー賞メーキャップ・ヘア&メイクデザイン賞受賞は、誰もが納得するものだろう。

 英国のみならず、世界をファシズムの嵐から守ったチャーチルだが、第二次世界大戦が終わった1945年には首相の座を追われることになる。ナチスドイツとの戦いに総力を使い果たした英国は疲弊し、代わって米国とソ連が世界盟主となっていく。77歳になってチャーチルは再び首相となるも、かつての大英帝国の栄華を取り戻すことは不可能だった。ウィンストン・チャーチルは英国人のプライドを守ると同時に、大英帝国時代の幕引き役を務めた男として、その名を歴史に刻んでいる。
(文=長野辰次)

『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』
監督/ジョー・ライト 脚本/アンソニー・マクカーテン 
特殊メイク・ヘア&メイクデザイン/辻一弘
出演/ゲイリー・オールドマン、クリスティン・スコット・トーマス、リリー・ジェームズ、スティーヴン・ディレイン、ロナルド・ピックアップ、ベン・メンデルソーン
配給/ビターズ・エンド、パルコ 3月30日(金)より全国ロードショー
(c)2017 Focus Features LLC.All Rights Reserved.
http://www.churchill-movie.jp

 

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すべてのセックスが“ハニートラップ”に思える!? 元CIA工作員が描く官能作『レッド・スパロー』

 セックスは性欲だけで成立する行為ではなく、ましてや愛情がすべてを占めるものでもない。そこにはパートナーに対する征服欲・支配欲も多分に含まれている。それゆえ謎めいたパートナーのほうが、より支配欲を掻き立てられ、セクシーに感じられる。人気若手女優ジェニファー・ローレンス主演映画『レッド・スパロー』を観ていると、そんなことを考えてしまう。本作は元CIA工作員という経歴を持つジェイソン・マシューズの処女小説が原作。ジェニファー・ローレンス演じる元花形バレエダンサーがその美貌と若い肉体を武器に、男たちを次々とハニートラップに仕留めていく官能サスペンスとなっている。

 ジェニファー・ローレンスは『世界にひとつのプレイブック』(12)でアカデミー賞主演女優賞、『アメリカン・ハッスル』(13)で同助演女優賞を受賞している実力派女優。ディストピア化した近未来社会の救世主を演じた『ハンガー・ゲーム』(12)はシリーズ化されて、大ヒットを記録した。そんなハリウッドを代表する若手女優No.1の座にあった彼女を悩ませたのが、2014年に起きたiCloudからのヌード画像ハッキング事件だった。ジェニファーは被害者でありながら、女優としてのキャリアにまで影響を及ぼしかねない騒ぎとなったが、そんな中でオファーされたのが『レッド・スパロー』だった。スパローとは男たちにハニートラップを仕掛けて、情報を入手する女性スパイのこと。大胆なヌードシーンに初挑戦したジェニファーは「この作品に出演したことで、吹っ切ることができた」と語っている。

 本作の主人公は、ロシアの国立バレエ団の看板ダンサーだったドミニカ・エゴロワ(ジェニファー・ローレンス)。公演中に大ケガを負ってしまい、再起不能となってしまう。病気療養中の母親と2人暮らしだったドミニカは宿舎の部屋代を払うこともできなくなり、途方に暮れる。そんなとき、ロシア対外情報庁の高官である叔父ワーニャ(マティアス・スーナールツ)が、ドミニカの美貌と知名度を活かせる新しい仕事を斡旋する。ハニートラップ専門の女スパイとして国家に仕えよというものだった。スパイ養成学校で過酷な訓練を受けたドミニカは、ハンガリーへと派遣される。米国の商務参事官、実はCIAに属するネイト・ナッシュ(ジョエル・エドガートン)に近づき、ロシア内部の密通者をあぶり出せというミッションだった。

 鬼教官(シャーロット・ランプリング)が指導するスパイ養成学校の授業内容が強烈だ。原作者ジェイソン・マシューズいわく「ソ連時代に実在した」というスパロー・スクールは“娼婦の学校”とも呼ばれ、自身の肉体を使って男たちを手玉にするノウハウを徹底的に若い生徒たちに実習させる。鳴りもの入りで入学したドミニカは、まず生徒全員が見ている前で全裸になるよう指示される。国家に仕える道具なのだから、邪魔な羞恥心は棄てろと鬼教官は冷たく命じる。

 ナチ収容所における倒錯愛を描いた『愛の嵐』(74)で知られるベテラン女優シャーロット・ランプリングとジェニファー・ローレンスとの、火花を散らす新旧女優対決は中盤の大きな見どころ。鬼教官の台詞「人間の欲望はパズル。欠けたピースを埋めることができれば、相手をコントロールすることができる」は本作のキーワードだ。頭のいいドミニカは、この言葉をいち早く自分のものにしてしまう。花形ダンサーだったというプライドの高いドミニカを、男たちは力づくで支配し、陵辱しようとする。だが、ドミニカは欲望まみれの男たちの二手三手先を読み、格闘技で言うところのマウントポジションを常にキープし続ける。

 スパロー・スクールのシーンで、ジェニファー・ローレンスはフルヌードを披露しているが、扇情的な目線で彼女を追っていた男性客たちはガツンとカウンターパンチを喰らうことになる。丸裸になったジェニファーが無敵の存在に映る。一糸まとわぬ姿になった若き大女優に、男たちはひれ伏すしかない。女にとってのヌードは必ずしも服従を意味するものではなく、最大の武器にもなることをジェニファーはスクリーン上で証明してみせる。

 後半はハンガリーの首都ブダペストへとドミニカは飛び、CIA捜査官ネイトと虚々実々の駆け引きが繰り広げられる。ネイトはドミニカの正体が女スパイであることを承知の上で、ベッドを共にする。ロシアからの亡命を訴えるドミニカ、その亡命を受け入れることを約束するネイト。どこまでが本音なのか、それとも罠なのか。身体を張って生きるドミニカとネイトの間に信頼と情愛が培われていく一方で、CIAとロシア対外情報庁のそれぞれの思惑が絡み、まるで超難解なあやとりのような展開となっていく。どんなラストが待っているのか、最後の最後まで予断を許さない。

 どこまでが本気で、どこからが芝居なのか。ベッドの上ですべての女は、女優へと変身する。そしてミステリアスな女優ほど、男心を魅了して止まない。すべてのセックスはハニートラップであり、どんな罠が待っているかは掛かってみなければ分からない。最強の女スパイを演じるジェニファー・ローレンスを見ていると、そんな言葉が思い浮かぶ。
(文=長野辰次)

『レッド・スパロー』
原作/ジェイソン・マシューズ 監督/フランシス・ローレンス
出演/ジェニファー・ローレンス、ジョエル・エドガートン、マティアス・スーナールツ、シャーロット・ランプリング、メアリー=ルイーズ・パーカー、ジェレミー・アイアンズ
配給/20世紀フォックス R15+ 3月29日(木)よりTOHOシネマズ日比谷にて特別先行上映、30日(金)より全国ロードショー
(c)2017 Twentieth Century Fox
http://www.foxmovies-jp.com/redsparrow

 

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エロ雑誌が青春を謳歌した時代の寓話。カリスマ編集長の自伝『素敵なダイナマイトスキャンダル』

 池袋のピンサロの看板を描いているうちにエロ本出版社に出入りするようになり、やがて「NEW SELF」「ウイークエンド・スーパー」「写真時代」といった伝説のエロ雑誌を創刊することになる編集者・末井昭氏。彼がまだ幼い頃に体験した母親との別れは壮絶なものだった。夫と2人の子どもを残して、母親は年下の愛人とダイナマイトを抱いて爆発心中した。木っ端みじんに散ってしまった母の思い出。故郷・岡山を後にした末井氏は、アラーキーこと写真家の荒木経惟と組んで、エロ雑誌を次々とヒットさせる。そんな末井氏の青春時代を、柄本佑主演で映画化したのが富永昌敬監督の『素敵なダイナマイトスキャンダル』だ。

 夜、幼い頃の末井がふと目を覚ますと、母・富子(尾野真千子)が黙って枕元に立っていた。末井が母の姿を見たのは、それが最期だった。山奥でドーンッという爆発音が響き、翌朝になって富子、富子と不倫関係にあった隣家の息子(若葉竜也)のバラバラ死体が発見された。末井が前の晩に逢った母は幽霊だったのか、それとも息子の寝顔を見納めする最期の姿だったのか。いずれにしろ、ここまで母親に派手に死なれると、狭い山村では暮らしにくい。工業高校を卒業した末井(柄本佑)は職を求め、大阪、そして東京へと向かう。工場での仕事は性に合わなかったが、デザインの勉強を積んだ末井は、キャバレーのポスターを作るデザイン事務所勤務を経て、ピンサロの手描き看板に情熱を注ぐようになる。

 時代は1970年代。学歴の有無は問われなかった。むしろ学生運動の名残で、権威的なものは否定される時代だった。ピンサロのエロ看板づくりに面白さを見出した末井は、仲間に誘われてエロ本のイラストも描くようになる。家計が厳しいときは、下宿先で知り合った妻・牧子(前田敦子)も働いて支えてくれた。生活は不安定で、夫婦が食べていくだけのビンボー暮らしだった。でも、エロとアングラと出版業界とがまだ未分化だったカオティックな世界で働くことが、末井は無性に楽しかった。

 イラストレーターとしての仕事だけでなく、いつの間にかエロ本の編集も手掛けるようになった末井は、一流雑誌の編集者のように常識に縛られることがない。新しい読者サービス「電話DEデイト」と称して、編集部でテレフォンセックスを始める。読者からの電話を取った女性スタッフは「私、もうこんなに濡れちゃったぁ」と人差し指と親指にセロテープを付けて、ピチャピチャと音を立てる。エロ雑誌を広げれば、男たちの願望を叶えてくれるヤリマン女たちが股を開いて待っている。そんな幻想が生きていた時代だった。『アトムの足音が聞こえる』(11)や『マンガからはみだした男 赤塚不二夫』(16)など、60~70年代カルチャーを題材にしたドキュメンタリー映画も撮っている冨永監督らしく、ここらへんの細かいディテールの再現ぶりが実にいい感じだ。

 グラビアを飾るヌードモデルを調達するのも、編集者である末井の仕事だった。うまくモデルが見つからない場合は、斡旋業者の真鍋のオッちゃん(島本慶)に頼めば、怪しいポラロイド写真を広げて見せてくれる。ポラロイド写真の中に気に入った女性がいれば、すぐに呼び出してくれるわけだが、どれもピンボケで心霊写真のよう。それでも締め切りが迫っているので、速攻で撮影に取り掛からなくてはいけない。エロ雑誌黎明期の女性モデルは、恐ろしく玉石混淆だった。

 おかしな人間が多いエロ雑誌業界の中でも、ひときわ大きな出会いとなったのが写真家のアラーキーだった。81年に創刊された人気雑誌「写真時代」は、アラーキーのために用意された自由な表現の場だった。当初は「アラーキズム」という雑誌タイトルが考えられていたらしい。そんなアラーキーをモデルにした写真家・荒木さんを演じているのは、ジャズ奏者の菊地成孔。「芸術、芸術、はい脱いで」と素人の女の子をその気にさせて、瞬く間にヌードにしてしまう。冨永監督に頼み込まれて俳優業に初挑戦した菊地だが、プロの俳優とはひと味違う表現者としての異能ぶりを醸し出している。

 警視庁の諸橋係長(松重豊)から猥褻文書販売の疑いで度々呼び出しを喰らい、その度にペコペコと頭を下げる末井だったが、エロ雑誌業界のヒットメーカーとして活躍するようになる。妻・牧子の待つ自宅には戻ることが少なくなり、代わりに新人編集者の笛子(三浦透子)とホテルで過ごす日が多くなる。過激さが売りだった末井が生み出したエロ雑誌は、警察によって発禁処分に追い込まれ、また新しい雑誌名になって生まれ変わった。一方、末井の愛人となった笛子は次第に情緒不安定となり、やがて自殺騒ぎを起こすことになる。母・富子の衝撃死から始まった本作は、エロスとタナトスが交互に点滅を繰り返すネオンライトのような物語として紡がれていく。

 発行部数30万部を記録するなど、一世を風靡した「写真時代」が廃刊となり、末井が新雑誌「パチンコ必勝ガイド」を創刊し、みずから女装姿で宣伝に努めるところで映画はエンディングを迎える。30歳で亡くなった母・富子の年齢は、もうずいぶんと過ぎていた。当然だが、映画が終わっても末井氏の人生はその後も続く。ギャンブル癖に加え、バブル期には3億円という莫大な個人借金を抱えるはめに陥る。文芸評論家と結婚していた写真家・神蔵美子さんとはダブル不倫関係となり、福岡の中洲にあったクラブ「シオンの娘」を経営する千石イエスこと千石剛賢のもとに通うようになる。煩悩の数だけ、新しい雑誌や本が次々と誕生した。末井氏の半生は、そのまま雑誌カルチャーの青春時代とぴたりと重なり合う。
(文=長野辰次)

『素敵なダイナマイトスキャンダル』
原作/末井昭 監督・脚本/冨永昌敬
音楽/菊地成孔、小田朋美 主題歌/尾野真千子と末井昭「山の音」
出演/柄本佑、前田敦子、三浦透子、峯田和伸、松重豊、村上淳、尾野真千子、中島歩、落合モトキ、木嶋のりこ、瑞乃サリー、政岡泰志、菊地成孔、島本慶、若葉竜也、嶋田久作
配給/東京テアトル R15+ 3月17日(土)よりテアトル新宿、池袋シネマ・ロサほか全国公開
(c)2018「素敵なダイナマイトスキャンダル」製作委員会
http://dynamitemovie.jp

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“ポスト奥崎謙三”を探し続けた原一男監督の24年ぶりのドキュメンタリー『ニッポン国VS泉南石綿村』

 奥崎謙三が主演した『ゆきゆきて、神軍』(87)を観ていない人は、映画の面白さをまだ半分しか知らないと言っても過言ではないだろう。そのくらい『ゆきゆきて、神軍』は爆裂的に面白い映画だった。世間の法に背いても、自分なりの正義を貫こうとする奥崎謙三の強烈すぎるキャラクター、そんな奥崎を煽るように追い掛ける原一男監督のカメラ、そして予期せぬ展開、暴かれる第二次世界大戦時の深い闇……。その後の多くの映像作家たちに多大な影響を与えたドキュメンタリー映画『ゆきゆきて、神軍』だが、この映画が大ヒットしたことで、原監督自身の人生も大きな影響を受けることになる。奥崎謙三より面白い人間はいないかと探し回り、新作が発表できない日々が続いた。『神軍』の後に撮影した『全身小説家』(94)では、被写体となった作家・井上光晴から「私は奥崎謙三じゃない」とダメ出しを喰らっている。そんな原監督が“ポスト神軍”“ポスト奥崎謙三”として撮り上げた24年ぶりの新作ドキュメンタリー映画が『ニッポン国VS泉南石綿村』だ。

 原監督が取材に8年、編集に2年を費やして完成させた『ニッポン国VS泉南石綿村』は上映時間215分という大長編ドキュメンタリー。2006年に始まった「泉南アスベスト国賠訴訟」の行方を追ったもの。石綿=アスベストは耐火性・耐熱性にすぐれていることから、戦時中は軍事目的、戦後は化学工場などの設備に活用されてきた。だが、アスベストは“静かなる時限爆弾”とも呼ばれ、大量に吸い込むと長い潜伏時間を経て、中皮腫や肺ガンなどを発症する。石綿工場が密集していた大阪府泉南地区はアスベストによって健康を害された元労働者とその家族、周辺住民が非常に多い。危険を伴う仕事であるため、離島出身者や在日朝鮮人の労働者が多く従事していたことも特徴だった。アスベストの害悪を知りながら、経済成長を優先して放置してきた国を相手に訴訟を起こした原告団をカメラは追うと共に、彼ら一人ひとりの生活を丹念に掘り下げていく。

 大阪の下町というロケーションもあって、大阪弁で語られる原告団のそれぞれの人生が実に味わい深い。酸素ボンベを傍らに置き、青春時代の思い出、家族と過ごした記憶、やんちゃだった過去が語られていく。一方の裁判は遅々として進まず、その間にも原告団のメンバーは1人、また1人と他界していく。“静かなる時限爆弾”のタイムリミットが次々と迫っていた。不謹慎なのだが、『泉南石綿村』の前半パートにはスラップスティックコメディを観ているかのようなおかしみがある。戦後、そして高度成長期の日本を支えるために懸命に働き、家族を養い、そして遊びもした泉南地区の人々の生活はそれぞれが愛おしいものだった。石綿工場で働くことで彼らは生き、そして死へと追い詰められていった。『ALWAYS 三丁目の夕日』(05)では描かれなかったリアルな戦後・高度成長期の日本社会の縮図がそこにはある。おもろうて、やがて哀しき世界をカメラは映し出していく。

 休憩をはさんだ後半は、原監督が動く。国側ののらりくらりした対応に対し、呑気に構える人の善い原告団に業を煮やした原監督は映画の中の登場キャラクターの一員と化して、「このままでいいんですか?」と煽り始める。原監督自身は「決して映画を盛り上げるために煽ったわけではありません。泉南地区にずっと通い続けるうちに原告団に対して連帯意識を感じるようになり、自然と口を挟むようになっただけなんです」と語っているが、原監督の向けたカメラに触発されたかのように原告団の1人である柚岡一禎さんは弁護団の指示とは異なる独断行動をとるようになる。裁判の非情さを訴えた建白書を手に、柚岡さんは警備が厳重な総理官邸へと突入する。

 このシーンを観て、『ゆきゆきて、神軍』の奥崎謙三と原監督の関係を思い出す人も多いはずだ。カメラがあることを意識して、奥崎はよりエキセントリックに暴走した。撮る側と撮られる側との共犯関係が『神軍』にはあった。だが、今回の『泉南石綿村』はそこから先が違う。奥崎がどこまでも常規を逸した行動をとったのに対し、柚岡さんは国家の冷徹さに怒りを爆発させるも、振り切った狂気には至らない。弁護団に諭され、原告団の仲間のもとへと戻っていく姿をカメラは収めることになる。

 国家と名もなき人々との闘いを描いた『泉南石綿村』だが、メインテーマとは異なる裏テーマがここに浮かびあがる。奥崎謙三がいた昭和という時代はすでに終わり、今はもう平成の世の中だということを今さらながら知らされる。奥崎のような奇人変人は、現代社会には存在できないのだという事実が、スクリーンの向こう側に透けて見えてくるのだ。

 公開を直前に控えた原監督に会う機会があった。ドキュメンタリー監督として、奥崎謙三という存在は最高の被写体であったことを原監督は認め、奥崎からは『ゆきゆきて、神軍』の続編を撮ってほしいと懇願されていたことを話してくれた。

原一男「奥崎さんのような人物は他にはいないか、ずいぶん探しました。一時期は金嬉老はどうだろうと考え、金嬉老のお母さんに会いに行ったりもしました。でも、金嬉老でドキュメンタリー映画を撮ろうという高揚感にまでは至らなかったんです。奥崎さんからは死ぬ間際まで、『神軍』の続きを撮ってほしいと頼まれましたが、僕はそれを断りました。もし、『神軍2』を撮っていたら、奥崎さんは殺人未遂だけでは済まず、さらに2人3人と襲っていたでしょう。ドキュメンタリーは世間の倫理から外れた世界を描くこともありますが、あまりにも外れすぎると観る側が引いてしまい、表現力を失速させてしまう。それで、『神軍2』は断ったんです。奥崎さんは僕への恨みつらみを持ってあの世へ逝きました。奥崎さんのようなキャラクターはもうどこにも存在しない。そのことに気づくのに、ずいぶん時間を要しました。そんなときに出会ったのが、国を相手に訴訟を起こした泉南の人たちだったんです。奥崎さんとは180度違い、節度を守る善良な人たちでした。これまでの方法論を一度棄て、ドキュメンタリーの基本に立ち返ったのが『泉南石綿村』なんです」

 原監督にとって、ドキュメンタリーの基本=取材対象への愛を持って、時間を惜しむことなく関係を築き、向き合っていくこと(by大島渚)だった。原監督は1945年山口県宇部市生まれだ。炭坑&セメント業で栄えた労働者の町で生まれ育った原監督の、石綿工場で長年働いてきた人々へのシンパシーが『泉南石綿村』からは伝わってくる。さらに言えば、終戦の年に生まれた原監督が、戦後の日本史をドキュメンタリーという形で総括しようとしているようにも感じられる。

原一男「僕もそこに含まれるわけですが、庶民という日本の最下層の人たちにとって、戦後の民主主義がどのように結実化、結肉化しているのかに向き合ってみたかったんです。どんな作品に仕上がるのか見当もつかずに撮影を始めたのですが、この作品をこのタイミングで撮れたことは自分にとっても非常によかった。ドキュメンタリー監督としてぐるりと1周して、2周目のスタートをこの作品で切ることができたように思えるんです。さて2周目はどうすると考えているところです」

 最後にもうひとつ。原監督の『ゆきゆきて、神軍』『全身小説家』は原監督にとって父親世代にあたる奥崎謙三、井上光晴を取材対象にしていた。私生児として生まれた原監督は、戦争で出征したまま消息の途絶えた父親の記憶をいっさい持っていない。これまでの原監督のカメラは、父性的な存在を追い求めているような印象を受けたが……。

原一男「確かに僕は父性コンプレックスというものをずっと持っていました。父親の名前も、素性も知らないまま、この年齢になりました。2本だけですが、今村昌平監督の現場に付いたこともあります。父親世代の人を見ると、擦り寄ってしまいたくなる衝動があるんです(笑)。父性的な人に教え導いてほしいという想いがあるんでしょうね。あの奥崎さんに対してさえ、父性的な親近感を瞬間的に感じることがありましたから。この映画を完成させたことで、父性コンプレックスから解き放たれたか? それはどうでしょう。本当に解き放たれたのかどうかは、長い時間を経ないと分からないでしょうね。でも、『泉南石綿村』を撮り終えたことで、新しいスタート地点に立てたという実感はあります。『神軍』が公開されて昭和が終わり、『泉南石綿村』が完成して平成が終わろうとしている。因縁めいたものを感じますね」

 最高の被写体だった奥崎謙三がこの世を去り、父性を感じさせる映画監督も稀になった。時代は変わった。それでも、まだ昭和時代から残された問題は少なくない。原監督が『泉南石綿村』の撮影よりも前から取材を始めていた水俣病問題もそのひとつだ。カメラを手にした原監督の闘いは、これから2周目に突入しようとしている
(文=長野辰次)

『ニッポン国VS泉南石綿村』
監督・撮影/原一男 製作・構成/小林佐智子
編集/秦岳志 整音/小川武 音楽/柳下美恵 制作/島野千尋
製作・配給/疾走プロダクション 3月10日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
(c)疾走プロダクション
http://docudocu.jp/ishiwata

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福山雅治がアカデミー賞で屈辱すぎる“公開処刑”! 『三度目の殺人』6冠獲得も主演はノミネートなし

 役者や映画スタッフたちにとって晴れの舞台となったが、福山雅治にとっては「公開処刑」の場となってしまったようだ。

 3月2日、『第41回日本アカデミー賞授賞式』(日本テレビ系)が放送され、是枝裕和監督の『三度目の殺人』が最多の6冠に輝いた。

「興行収入も14.6億円の大ヒットを記録していますし、DVD発売時や地上波で放送する際には『日本アカデミー賞6冠』の箔が付くことで、関係者は大喜びだったでしょう」(映画ライター)

 同作は最優秀作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞のほか、役所広司が最優秀助演男優賞、広瀬すずが最優秀助演女優賞を獲得し、スポットライトを独占した形だ。

「しかし、作品は良い、監督も良い、脚本も良い、編集も良い、助演男優も助演女優も良い……それなのに主演の福山だけがノミネートすらされていないことを放送で知った人も多かったようで、放送中には『みじめすぎる』『よっぽど演技が下手だったのか』など、ネット上がザワつく事態となりました。実際、映画サイトのレビューでは福山に対して、『何を演じても、いつもの福山』『役所の迫力にはかなわない』『広瀬の演技にすら食われている』との辛辣な指摘も見られました。当日は主演にもかかわらず会場に福山の姿はなく、本人としてもかなりの屈辱だったことがうかがえます」(同)

 是枝監督が、壇上で「狭い空間の中で福山雅治さんと2人で芝居を作り上げました。福山さんにも感謝したい」と持ち上げれば、役所も「(長崎の)同郷なんですよ。勝手に親近感を持っていて、いい男でしたね。性格も素晴らしかった」と絶賛。しかし、周囲がその場にいない人物の名前を出すことで、皮肉にも「福山はどうした?」という違和感を強調する結果となってしまったようだ。

これは金城哲夫が見た夢の世界の続きなのか? 人口問題を解決する理想郷綺譚『ダウンサイズ』

 円谷プロが製作した往年の人気特撮ドラマ『ウルトラQ』(TBS系)の中でも、強烈に印象に残っているエピソードがある。伝説のシナリオライター・金城哲夫が脚本を書いた第17話「1/8計画」がそれだ。人類の人口があまりにも増え過ぎたため、人間を1/8サイズに縮めようという国家プロジェクトを題材にした内容だった。ナメゴンやケムール人といった怪獣や宇宙人は登場しないが、小さくなった人間の目には通常サイズの人間が巨大モンスターに映るという不気味さがあった。子どもたちに悪夢的恐怖を与えた「1/8計画」だが、マット・デイモン主演映画『ダウンサイズ』では、よりスケールアップした形で、より詳しくミニチュア化された世界が描かれる。果たしてミニチュア化された新世界は、人類にとってユートピアだろうか、それともディストピアなのだろうか。

 マット・デイモンは『プロミスト・ランド』(12)などごく普通の米国市民役がよく似合う俳優だ。ハンサムすぎず、身長も178cmと高過ぎない。『ボーン・アイデンティティー』(02)から始まるアクション映画「ボーン」シリーズは地味で平凡そうな男が、実は凄腕の工作員だったという設定がドラマを盛り上げた。そんなマット・デイモンが『ダウンサイズ』で演じる主人公ポールは、作業療法士という非常に地味な役柄だ。

 ネブラスカ州オハマで暮らすポール(マット・デイモン)は作業療法士として、様々な職場を回っては、体を酷使する労働者にストレッチ方法を教えたり、1日中パソコンを使うデスクワーカーに正しい姿勢をアドバイスしたりしている。若い頃のポールは医者になるつもりで医大に進んだが、母親の介護のため大学中退を余儀なくされた。以来、毎日マジメに働いているが、収入は限られていた。妻オードリー(クリステン・ウィグ)との仲は悪くないものの、狭い実家を出て、広い新居に移り住もうという夫婦の夢は到底叶えられそうにはなかった。

 そんなとき、高校時代の同窓会に夫婦で参加したポールとオードリーは、意外な姿になった旧友と再会する。同窓生のデイヴ(ジェイソン・サダイキス)は奥さんと共に13cmのミニサイズになって現われたのだ。これは人類を縮小化することで、食料問題、資源問題、さらには廃棄物問題を一挙に解決しようという国際的な大プロジェクトだった。志願者は今なら格安料金でダウンサイズ手術を受けることができ、その上わずかな資産で大豪邸が手に入り、税金の支払いも今後は免除されるという。どう転んでもこれから上流階級の仲間入りすることはできない人間たちにとっては魅力的なプランだった。デイヴはダウンサイズ化された世界がいかに素晴しいかを熱心にポールに語った。意を決したポールとオードリーは、夫婦で13cmサイズになる手続きを進める。

 これまでの人生は挫折感でいっぱいだったポールだが、ダウンサイズ化された新世界なら人生をリセットでき、今ある心細い資産を倍増させることができる。一方、ダウンサイズ計画を快く思わない人間もいる。「税金を払わない人間に、選挙権や人権は認められるのか」という中傷がポールの耳にも入ってくる。ダウンサイズ化してしまうと、二度と元のサイズには戻れないことに躊躇する人間も当然いる。誰かにとってのユートピアは、別の誰かにとってのディストピアとなってしまう。ポールのダウンサイズ化手術は無事に済んだ。戸惑いながらも、ポールは新世界に順応していくことになる。

 本作を撮ったのは、米国ネブラスカ州出身のアレクサンダー・ペイン監督。定年退職した仕事人間がそれまで生きてきた人生を見つめ直す『アバウト・シュミット』(02)やインチキめいた懸賞金の知らせに応じる父子のロードムービー『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(13)など、米国中流階級の人々の生活をペーソスたっぷりに描いてきた。今回のようなSF設定はちょっと珍しい。小津安二郎や黒澤明などの日本映画を敬愛するペイン監督が『ウルトラQ』を観たかどうかは明言されてないが、本作の最初のコンセプトを考え出した脚本家ジム・テイラーとその弟でアソシエイト・プロデューサーのダグラス・テイラーあたりが『ウルトラQ』を観ていた可能性はありそうだ。でも『ウルトラQ』が元ネタかどうかということよりも、1960年代に金城哲夫が思い浮かべたユートピア計画が、ペイン監督ら現代のハリウッドのクリエイターたちによって、どれだけリアリティーのある世界として構築されたかということに興味が湧いてしまう。

 一見すると、いいこと尽くめの理想郷のように思えるダウンサイズワールドだが、そこで暮らす人々は必ずしも聖人君子ばかりとは限らない。ポールの隣人となるドゥシャン(クリストフ・ヴァルツ)とその仲間マリス(ウド・ギア)は闇ビジネスで私腹を肥やしている。脚の不自由なアジア人のノク・ラン・トラン(ホン・チャウ)は母国で反政府活動に参加していたため、懲罰として強制的にダウンサイズ化させられていた。理想世界と思えたのは最初だけで、体がダウンサイズしたように、人間が内面に抱える悪意や悲しみもまたダウンサイズ化して新世界には蔓延していた。

 物語の後半、ポールはそれまで暮らしていた米国のダウンサイズ化された街「レジャーランド」を離れ、ドゥシャン、マリス、トランたちと北欧のコロニーへと旅立ち、思いがけない事態に遭遇する。ノルウェーにあるコロニーはダウンサイズ計画が始まって最初に誕生したコミュニティーであり、そこそこ歴史があり、そこで暮らす人々の意識も先進的だった。近い将来、人類が滅亡することを予測し、オリジナルコロニーの人々は「ノアの方舟」計画を準備していた。人間がダウンサイズされたことで、空間や物質のスケールが変わっただけでなく、ダウンサイズ人間は体内時計の進み方も速いらしい。オリジナルコロニーでは、人類はすでに幼年期の終わりを迎えようとしていた。

『ウルトラQ』の「1/8計画」は、ナレーターの石坂浩二が「古い文献によると巨石文化時代の人類は身の丈18mあったが、誰の手によって、どうして小さくなったのかは謎のままである」と最後に告げて幕を閉じる。もしかすると『ダウンサイズ』が描いている世界は、旧人類の物語なのかもしれないし、現人類が滅亡した後の新人類の物語なのかもしれない。ミニチュア化された世界の神話時代、そしてミニ人類の誕生とその終わりを時計を早回ししながら見ているような、奇妙な面白さが本作にはある。
(文=長野辰次)

『ダウンサイズ』
監督/アレクサンダー・ペイン 脚本/アレクサンダー・ペイン、ジム・テイラー 
出演/マット・デイモン、クリステン・ウィグ、クリストフ・ヴァルツ、ホン・チャウ、ウド・ギア、ジェイソン・サダイキス、ニール・パトリック・ハリス、ローラ・ダーン
配給/東和ピクチャーズ PG12 3月2日(金)より全国ロードショー
C)2018 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
http://downsize.jp

 

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モンスター映画はアカデミー賞での受賞なるか? オタク監督の新作『シェイプ・オブ・ウォーター』

 日本時間で3月5日(月)に発表される米国アカデミー賞において、作品賞・監督賞・脚本賞・主演女優賞・助演女優賞ほか最多13部門でノミネートされている話題の映画『シェイプ・オブ・ウォーター』。日本の怪獣映画&ロボットアニメへの惜しみなきオマージュを捧げたSF大作『パシフィック・リム』(13)で知られる、ハリウッドきってのオタク監督、ギレルモ・デルトロの最新作だ。これまでオタク心満載な特撮ドラマを撮り続けてきたギレルモ監督だが、本作はアカデミー賞会員たちも認める今日的なテーマ性を持ちつつ、いつも以上にキテレツかつ娯楽性の高い作品となっている。

 ストーリーは極めてシンプル。異類婚姻譚『美女と野獣』をギレルモ流に振り切ってアレンジした内容だ。時代は1962年。主人公のイライザ(サリー・ホーキンス)は米国の極秘研究施設で清掃員として働いている。イライザは言葉を話すことができず、気のいい同僚のゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)とは手話で会話をしていた。そんな彼女たちの働く施設に、南米から不思議な生き物である“彼”が運ばれてきた。水槽に潜む彼の正体は、アマゾンの原住民たちが神として崇めている半魚人だった。軍人のストリックランド(マイケル・シャノン)は力づくで彼を服従させようとするが、逆に指を喰いちぎられるはめに。怒ったストリックランドは、電気棒で執拗に彼を殴りつける。

 南米から連れ去られてきた彼が虐待され続けるのを見かねたイライザは、昼休みにこっそり研究室に忍び込み、ゆで卵を水槽のふちに置くようになる。卵は彼の好物だった。ランチの差し入れをきっかけに、顔を合せるようになるイライザと彼。人間の言葉は通じない彼だったが、イライザの手話はボディランゲージとして彼にも理解することができた。やがてイライザはレコードプレイヤーを研究室に持ち込み、音楽やダンスを介して、彼と感情を共有しあうようになっていく。だが、研究のために彼が生体解剖される日が迫っていた。意を決したイライザは同じアパートに住む売れない画家ジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)やゼルダに協力を求め、研究施設から彼を脱走させる計画を実行することに―。

 90年の伝統を誇るアカデミー賞は人権問題などを扱った意識高い系の社会派作品や実録作品が最高賞である作品賞を受賞することが多く、SF映画や怪獣映画は特殊メークなどの限られた賞しか与えられないのが相場だった。ギレルモ監督作のアカデミー賞ノミネートは、ファシストと少女との闘いをファンタジー要素を交えて描いた『パンズ・ラビリンス』(06)以来のこと。今回の『シェイプ・オブ・ウォーター』は往年のユニバーサル怪奇映画『大アマゾンの半魚人』(54)とその続編『半魚人の逆襲』(55)をベースにしながら、半魚人/モンスターを恐怖の存在としてではなく、自分たちの文明社会と相容れない他者として描いているところがアカデミー賞会員たちのハートに響いているようだ。口の不自由なイライザとアマゾンでひとりぼっちで暮らしてきた彼とが、手話や音楽を通して心を通い合わせていく過程が見どころとなっている。

 とは言っても、ギレルモ監督はアカデミー賞狙いで優等生タイプの作品を撮ったわけではなく、本作は相当にアブノーマルな内容でもある。心が通じ合うようになったイライザと彼は、人間とモンスターという壁を越えて愛し合うようになっていく。英国の名女優サリー・ホーキンスはフルヌードを披露し、バスルームいっぱいに満たされた水中で、半魚人とSEXするシーンが用意されている。

 映画史に残りそうな水中SEXシーンだが、決してエログロ描写にはなっておらず、ギレルモ監督ならではの映画愛に溢れたロマンチックなシーンに仕上げられている。1964年生まれのギレルモ監督はメキシコで過ごした少年時代、東映動画作品を熱心に観ていたこともあって、宮崎駿監督をリスペクトしていることでも有名。人間と半魚人とのラブストーリーという点では『崖の上のポニョ』(08)、水中で愛を確かめ合うイライザと彼の姿は『未来少年コナン』(NHK総合)の第8話でコナンとラナが海中で口づけを交わす名シーンを連想する人もいるのではないだろうか。

 1月末に来日したギレルモ監督は、会見の席で『シェイプ・オブ・ウォーター』に込めたメッセージ性をこのように語っている。

ギレルモ「我々とは異なる他者や異種を恐れてしまう今の時代に、この物語は必要だと考えました。でも、現代の設定にすると、なかなか耳を傾けてもらえません。それでお伽噺という形にしたんです。“アメリカを再び偉大に”という言葉がトランプ政権と共に言われるようになりましたが、本作の舞台となっている1962年が、まさにその偉大な時代でした。世界大戦が終わり、みんな裕福になり、未来への希望を抱いていた。宇宙開発が進み、ホワイトハウスにはケネディがいた。でも、現実的には1962年には今と同じように人種差別問題があり、ソ連との冷戦が続いていました。1962年と現代はまったく同じ時代として描いています。1960年代はテレビが普及して、映画業界の衰退が始まった時代でもありました。その点でも今と似ています。そんな時代への愛を、映画への愛を込めて描いた作品です」

 本作で半魚人の彼を演じたのは、ギレルモ監督の人気作『ヘルボーイ』(04)と『ヘルボーイ/ゴールデンアーミー』(08)で水棲人エイブを演じたダグ・ジョーンズ。日本ではスーツアクターは裏方的存在だが、特殊スーツをまといながらクリーチャーになりきってみせるダグ・ジョーンズの情感たっぷりな芝居は米国では高く評価されている。ギレルモ作品に欠かせない盟友ダグ・ジョーンズの演技を、ギレルモ監督は日本の古典芸能に例えて語った。

ギレルモ「ダグは世界的にも希有な素晴しい役者です。日本には文楽という古典芸能がありますね。文楽の人形遣いでまぁまぁな人はうまく人形を操ります。でも、文楽の最高の人形遣いは、自分自身が人形と一心同体化してみせます。ダグもそういったタイプの役者なんです。あの特殊スーツを着たら、完璧にあのキャラクターになってしまうんです。ダグが完全にキャラクターになっていることで、サリー・ホーキンス演じるヒロインも彼に愛を感じることができたんです」

 日本のオタク文化だけでなく、日本の古典芸能や浮世絵などへの関心も高いギレルモ監督。『パシフィック・リム』に出演した菊地凛子との久しぶりの再会を喜んだ記者会見の最後には「メキシコの兄弟を助けるつもりで、映画館に足を運んでね」と大きな体で謙虚にアピールしてみせた。オタク監督が異形の愛を描いた『シェイプ・オブ・ウォーター』、果たしてアカデミー賞ではどんな結果を残すだろうか。
(取材・文=長野辰次)

『シェイプ・オブ・ウォーター』
製作・原案・脚本・監督/ギレルモ・デルトロ 
脚本/ヴァネッサ・テイラー 撮影監督/ダン・ローストセン 美術/ポール・デナム・オースタベリー 編集/シドニー・ウォリンスキー 音楽/アレクサンドル・デスプラ 衣装/ルイス・セケイラ
出演/サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・スツールバーグ、オクタヴィア・スペンサー 
配給/20世紀フォックス R15+ 3月1日(木)よりTOHOシネマズ シャンテほかロードショー
(c)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
http://www.foxmovies-jp.com/shapeofwater