映画界も、いよいよ“池井戸潤頼り”に!『空飛ぶタイヤ』『七つの会議』焼き直し作品連発で……

「先日公開の映画『空飛ぶタイヤ』も、公開から3日間で興収3.4億円と好調な滑り出しをしました。最終的には20億円も視野に入ってきそうですよ。TOKIOの長瀬智也クンが主演ということもあって、山口達也さんの事件があったときは上層部も『これから番宣が始まるのに、なんてことをしてくれたんだ!』と怒り心頭でしたが、この結果を受けて、まずはホッとしているところですよ」(映画関係者)

 15日から公開された長瀬智也主演の映画『空飛ぶタイヤ』。カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した『万引き家族』には及ばなかったが、初登場2位を記録した。

「キャストも長瀬クンに高橋一生、ディーン・フジオカと人気どころを揃えていますが、やはり原作がヒットメーカーの池井戸潤作品だというのが大きいですね。これが初の映画化作品になるのですが、すでに映画化の2作品目も決まって撮影も行ってるんです。それが、野村萬斎さん主演の『七つの会議』です」(テレビ局関係者)

 実は、今回の『空飛ぶタイヤ』も『七つの会議』もすでに映像化された作品で、いわゆる“焼き直し”作品になる。

「『空飛ぶタイヤ』はWOWOWで2009年に放送されたので9年ぶりになりますが、『七つの会議』は13年に東山紀之さん主演でNHKで放送されて、まだ5年です。公開は来年なので6年という期間を長いととるか短いととるかは人によるでしょうけど、テレビも映画もそれくらい池井戸作品に頼らざるを得ない状況ということですね」(芸能事務所関係者)

 池井戸作品の中には、まだ映像化されてない作品もあるので、各局が“池井戸詣で”に精を出している。

「ただ、池井戸先生は本をイジられるのが嫌いで、フジテレビが『ようこそ、わが家へ』で主人公を変えたことで、今後は一切付き合わないと宣言してましたからね。もちろん脚本に関してもかなりチェックが入るので、この『七つの会議』も本の完成がかなり遅れて現場は慌てたそうですよ。この秋のドラマ『下町ロケット』の続編も、まだ本が完成していないようで、撮影がギリギリになりそうと担当が焦ってましたね」(TBS関係者)

 今年から来年へと続く“池井戸祭り”で笑うのは誰か――。

人間は何かに依存せずには生きていけないのか? ウディ・アレンの不倫ドラマ『女と男の観覧車』

 コメディ映画の巨匠ウディ・アレンが窮地に立たされている。ハリウッドで広まった“#MeToo”運動によって、ウディ・アレンは25年前に裁判沙汰になった性的虐待疑惑が蒸し返され、新作のキャスティングができない状況に陥っている。2017年に撮影した『A Rainy Day in New York』はすでに完成しているものの、こちらもお蔵入りする可能性が報じられている。作家の人格と作品は別物であるという考え方は、現代の米国社会では許されなくなってしまった。半世紀に及んだ巨匠のキャリアに終止符が打たれることになるのか。そんな中、米国では17年に封切られた、ケイト・ウィンスレット主演作『女と男の観覧者』(原題『Wonder Wheel』)が現在日本で公開中となっている。

 酸いも甘みも噛み分けたウディ・アレンが熟練の演出を見せる本作。舞台となるのは1950年代のNYのコニーアイランド。ニューヨーカーたちにとって、いちばん身近な避暑地であり、少年期のウディ・アレンにとっても思い出深い遊び場だった。行楽客で賑わうコニーアイランドにある遊園地は、ショウビジネス界の縮図だろう。時代の流れから取り残されたレトロムード漂う遊園地で、男女をめぐる悲喜劇がぐるぐると回り始める。

“ワンダー・ホイール”と名付けられた大観覧車がシンボルタワーとなっている遊園地に、ひとりのワケあり美女キャロライナ(ジュノー・テンプル)が現われる。キャロライナは20歳のときにイタリア系ギャングと駆け落ちしたものの、その後離婚。FBIから証言を強要され、ギャング一味から命を狙われている。行き場のないキャロライナは、遊園地で働く父親ハンプティ(ジム・ベルーシ)に助けを求めにきたのだ。回転木馬の操縦技師を勤めるハンプティは、勘当した娘キャロライナが5年ぶりに戻ってきたことに戸惑うが、見捨てることもできない。再婚相手のジニー(ケイト・ウィンスレット)、ジニーの連れ子であるリッチー(ジャック・ゴア)と3人で暮らす遊園地内の見世物小屋を改修した自宅に、しばらくかくまうことになる。

 

 アトラクションの騒音が絶え間なく聞こえてくる元見世物小屋での、変則的な一家の生活がこうして始まった。園内のカフェでウェイトレスとして働くジニーは、キャロライナが同居することが面白くない。キャロライナはろくに家事もできず、エンゲル係数が上がるだけ。それでなくてもジニーは、前夫との間に生まれたリッチーのことで頭が痛い。リッチーは学校をサボって、映画館に入り浸ってばかり。しかも火遊びの常習犯で、精神科に通院させる治療代がバカにならない。それなのにハンプティは、血の繋がったキャロライナばかり可愛いがっている。

 若い頃は女優を目指していたジニーだが、今では生活に疲れた中年女になってしまったことを自覚している。ビーチで監視員のバイトをしている作家志望の年下の男ミッキー(ジャスティン・ティンバーレイク)と知り合い、彼との情事にたちまち溺れていく。ライフセーバーは人妻に手を伸ばすのも得意だった。元女優であるジニーは、今はしがないウェイトレスという役を演じているのであって、ミッキーとの恋愛を成就させれば、本当の自分を取り戻せると思い込むようになっていく。『日陰のふたり』(96)や『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』『愛を読むひと』(ともに08)と同様、母性的な強さとその中に狂気を宿らせたヒロイン像を演じるのが、ケイト・ウィンスレットはとてもうまい。

 ジニーは、夫ハンプティがアルコール依存症であることを責めるが、それはジニーも同じだった。酒を遠ざけるようになったジニーだが、代わりにミッキーとの不倫愛に依存していくようになる。一方、多感な時期に両親の愛情を感じることができずにいるリッチーは、火遊びがますます激しくなっていく。このままだと放火魔になりかねない。ひと夏だけコニーアイランドで過ごすミッキーは、いつか小説家になるという夢に支えられている。ジニーとの交際は小説を書くための肥やしだった。みんな、何かに依存しながら生きている。それぞれ目の前にある幸せを手に入れようとするが、回転木馬のように永遠に追いつくことはできない。ウディ・アレンの作品を観ていると、その人が何に依存しているかが、その人自身ではないのかと思えてくる。彼らから依存対象を奪ったら、何が残るのだろうか。ウディ・アレンから映画づくりとクラリネットを奪ったら、後には何が残るのだろうか。

 

 再び“#MeToo”運動について。ウディ・アレンを訴えているのは、前妻ミア・ファローの連れ子だったディアン・ファロー。幼い頃にウディ・アレンに性的虐待を受けたと、これまで何度も主張してきた。今回、ウディ・アレンが窮地に追い詰められたのは、ウディ・アレンとミア・ファローの息子であるロナン・ファローの存在が大きい。新進ジャーナリストであるロナン・ファローは17年に「ニューヨーカー」でハリウッドにおけるセクハラ問題を大々的に取り上げ、“#MeToo”運動を後押しした。ウディ・アレンとは絶縁状態にあるロナン・ファローが、姉ディアンを援護射撃した格好だった。言ってみれば、ウディ・アレン一家にずっと燻り続けてきた火種が、“#MeToo”運動へと広がっていったことになる。ウディ・アレンも、子どもたちによって自身の監督生命を絶たれるとは思いもしなかっただろう。

 行楽客で賑わうコニーアイランド全体を見渡す大観覧車がオープニング、そしてエンディングで大きく映し出される。「人生は近くで見れば悲劇だが、遠くから見れば喜劇である」と語ったのは喜劇王チャールズ・チャップリンだった。チャップリンもまた、女性問題と赤狩りによってハリウッド追放という辛酸を舐めている。観覧車に乗っていれば、ごみごみとした近景がやがて美しい絶景へと変わっていく。男女のどろどろとした修羅場も、やがて掛け替えのない思い出へと変わることを願うばかりだ。ウディ・アレンの新作を劇場で観るのは、これが最後になるのだろうか。
(文=長野辰次)

『女と男の観覧車』
監督・脚本/ウディ・アレン 撮影/ヴィットリオ・ストラーロ 
出演/ジム・ベルーシ、ジュノー・テンプル、ジャスティン・ティンバーレイク、ケイト・ウィンスレット、マックス・カセラ、ジャック・ゴア、デヴィッツド・クラムホルツ
配給/ロングライド 6月23日より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国公開中
Photo by Jessica MiglioC)2017 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.
http://longride.jp/kanransya-movie

 

『パンドラ映画館』電子書籍発売中!
日刊サイゾーの人気連載『パンドラ映画館』
が電子書籍になりました。
詳細はこちらから!

 

織田裕二、主演映画がプライム帯で3%台の壮絶爆死! 10月期のフジ月9ドラマは大丈夫なのか?

 織田裕二が主演した映画『ボクの妻と結婚してください。』が19日午後9時よりフジテレビ系で地上波初放送されたが、その視聴率は3.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)と壮絶な爆死を遂げた。

 同作は、余命6カ月と宣告された主人公が、残される家族のための「最期の企画」として、妻の再婚相手を探すべく奔走する物語。織田の妻役は吉田羊が演じた。

「『ボク妻』は、織田の4年ぶりの主演映画とあって、注目を集めましたが、フタを開けてみると、興行収入5億5,000万円の惨敗。それでも、今回地上波初放送でしたから、フジは6~8%程度は視聴率を取れると見込んだんでしょうが、プライム帯で3%台というのはひどすぎますね」(テレビ誌関係者)

 同日同時間帯で、NHK総合が『2018FIFAワールドカップ 1次リーグH組 日本×コロンビア』を中継。前半は42.8%、後半は48.7%という驚異的な視聴率をマークしただけに、その裏となると、同情すべき面があるのも確かだが、それにしても3%台は目を疑うような低視聴率だ。

「サッカー中継の裏では、テレビ東京系『100年先まで残したい 日本の名曲3時間SP』が6.6%と健闘。TBS系の連続ドラマ『花のち晴れ~花男 Next Season~』でさえ5.2%を取っています。そんな中で、『ボク妻』の3.6%は悪すぎ。いかに織田への視聴者の関心が低かったかでしょうね」(同)

 織田といえば、12日発売の「女性自身」(光文社)で、10月期のフジ月9ドラマで主演し、鈴木保奈美と、『東京ラブストーリー』以来、27年ぶりの“夢の共演”を果たすと報じられた。

 1991年1月期に、同じ月9枠で放送された『東京ラブストーリー』は、織田と鈴木のコンビで、平均22.9%の高視聴率をマークする大ヒットとなった。しかし、時は流れ、すでに織田は50歳、鈴木は51歳だ。50代の2人によるコンビとなると、ラブストーリーなど望むべくもなく、“シニア向け”ドラマを余儀なくされそう。

「織田は先に主演した、16年10月期の『IQ246~華麗なる事件簿~』(TBS系)で、平均10.5%と、辛うじて2ケタ台を死守しました。しかし、このドラマには、当時まだ旬だったディーン・フジオカが俳優2番手、土屋太鳳がヒロインで出演し、織田をサポートした結果といえるでしょう」(同)

 今さら、織田の主演ドラマに、どれほど需要があるかは甚だ疑問だが、報道通り、月9の主演を務めるのであれば、健闘を祈りたいところで、まずはフジの発表を待ちたい。

(文=田中七男)

織田裕二、主演映画がプライム帯で3%台の壮絶爆死! 10月期のフジ月9ドラマは大丈夫なのか?

 織田裕二が主演した映画『ボクの妻と結婚してください。』が19日午後9時よりフジテレビ系で地上波初放送されたが、その視聴率は3.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)と壮絶な爆死を遂げた。

 同作は、余命6カ月と宣告された主人公が、残される家族のための「最期の企画」として、妻の再婚相手を探すべく奔走する物語。織田の妻役は吉田羊が演じた。

「『ボク妻』は、織田の4年ぶりの主演映画とあって、注目を集めましたが、フタを開けてみると、興行収入5億5,000万円の惨敗。それでも、今回地上波初放送でしたから、フジは6~8%程度は視聴率を取れると見込んだんでしょうが、プライム帯で3%台というのはひどすぎますね」(テレビ誌関係者)

 同日同時間帯で、NHK総合が『2018FIFAワールドカップ 1次リーグH組 日本×コロンビア』を中継。前半は42.8%、後半は48.7%という驚異的な視聴率をマークしただけに、その裏となると、同情すべき面があるのも確かだが、それにしても3%台は目を疑うような低視聴率だ。

「サッカー中継の裏では、テレビ東京系『100年先まで残したい 日本の名曲3時間SP』が6.6%と健闘。TBS系の連続ドラマ『花のち晴れ~花男 Next Season~』でさえ5.2%を取っています。そんな中で、『ボク妻』の3.6%は悪すぎ。いかに織田への視聴者の関心が低かったかでしょうね」(同)

 織田といえば、12日発売の「女性自身」(光文社)で、10月期のフジ月9ドラマで主演し、鈴木保奈美と、『東京ラブストーリー』以来、27年ぶりの“夢の共演”を果たすと報じられた。

 1991年1月期に、同じ月9枠で放送された『東京ラブストーリー』は、織田と鈴木のコンビで、平均22.9%の高視聴率をマークする大ヒットとなった。しかし、時は流れ、すでに織田は50歳、鈴木は51歳だ。50代の2人によるコンビとなると、ラブストーリーなど望むべくもなく、“シニア向け”ドラマを余儀なくされそう。

「織田は先に主演した、16年10月期の『IQ246~華麗なる事件簿~』(TBS系)で、平均10.5%と、辛うじて2ケタ台を死守しました。しかし、このドラマには、当時まだ旬だったディーン・フジオカが俳優2番手、土屋太鳳がヒロインで出演し、織田をサポートした結果といえるでしょう」(同)

 今さら、織田の主演ドラマに、どれほど需要があるかは甚だ疑問だが、報道通り、月9の主演を務めるのであれば、健闘を祈りたいところで、まずはフジの発表を待ちたい。

(文=田中七男)

これって猛獣の多頭飼育崩壊ドキュメンタリー!? 動物愛護映画『ROAR/ロアー』がヤバすぎる!!

 CGを多用したSF&ファンタジー映画が興隆する現代に、いっさいCGを使っていないドキュメンタリータッチの衝撃的な映画が今年6月6日にDVDとして再リリースされた。1981年に米国で製作されたファミリー向け動物映画『ROAR/ロアー』がそれ。70年代にテレビドラマ化されて、大ブームとなった『野生のエルザ』(66)のような人間とライオンとの交流を描いた感動作かなと思いきや、とんでもなくデンジャラスな内容なのだ。

 動物パニック映画の先駆けとなった、ヒッチコック監督の大ヒット作『鳥』(63)で鳥の大群に襲われまくった美人女優ティッピ・ヘドレンが主演。共演は本作の監督&脚本も手掛けたノエル・マーシャル。オカルト映画の金字塔『エクソシスト』(73)のプロデューサーであり、当時はティッピ・ヘドレンと夫婦だった。ティッピの連れ子だったメラリー・グリフィスが可憐な姿を見せ、ノエルの息子たちも出演。つまり、ティッピ&ノエル一家が総出演した文字どおりのファミリー映画として撮影されたものだ。

 ところがまぁ、どんな微笑ましい家族愛に満ちた映画かと思ってDVDを再生すると、驚愕シーンの目白押し。人里離れた僻地で野生動物保護官をしているハンク(ノエル・マーシャル)のところに、妻(ティッピ・ヘドレン)が子どもたちを連れて訪れる。ハンクは空港まで迎えに行くも、運悪くすれ違いに。ハンク不在の屋敷のドアを開けて、中に踏み込んだ一家は思わず絶句。屋敷の中はどこもかしこもライオンだらけ。さらにはトラ、ヒョウ、ゾウまで現われ、どこにも逃げ場なし。登場する猛獣たちの数は、何と156頭!

 

 ハンクによって手なづけられていたライオンやトラたちは、珍客たちを友好の印として腕や首筋を甘噛みしたり、背中におぶさってくるのだが、当然ながら彼らは鋭い牙や爪を持っているわけで、ティッピたちの着ていた衣服はボロボロ、体中キズだらけに。頼りの夫は車が故障してしまい、なかなか戻ってこない。上映時間93分間、ティッピたちはひたすら猛獣たちに追い回されるはめに。屋敷内とその周辺で、リアル鬼ごっこが続く。キャストやスタッフの安全性をまったく度外視したこのクレイジーさは、CG映画では到底味わえないものだ。

 DVDには特典映像として、メイキング・ミニドキュメンタリーが収録されており、撮影の舞台裏を追ったこちらも目が離せない。映画製作のきっかけは、ノエル・マーシャルとティッピ・ヘドレンの動物好きが高じて、72年に米国カリフォルニア州で動物トレーニングセンターを開設し、ライオンやトラの飼育を始めたことから。ライオンやトラは次々と子どもを生み、200頭にまで増え、『ROAR/ロアー』を撮影するために用意していた製作費は底をつくはめに。最近はネコの多頭飼育による崩壊一家の悲惨なドキュメンタリー番組をよく見かけるが、ノエル&ティッピの場合は猛獣の多頭飼育によって一家崩壊の瀬戸際にまで追い込まれたわけだ。

 メイキング・ドキュメンタリーの中では、今も元気なティッピ・ヘドレンは、『鳥』の撮影で使った毛皮の衣装や宝石類を売り払って、何とかやりくりしたとインタビューに答えている。後にキアヌ・リーブス主演のアクション映画『スピード』(94)を大ヒットさせるヤン・デ・ボン監督は、『ROAR/ロアー』には撮影監督として参加しており、ライオンに咬まれて頭の皮が剥がれ、病院送りとなった。70針縫いながらも1週間で現場復帰したのだから、すごいガッツだ。多くのスタッフはロケ現場から逃げ出したそうだが、薄給だったのでそれも当然だろう。さらに撮影終盤には大洪水に遭い、撮影に使っていた屋敷も動物たちの多くも流されてしまった。苦労して10年がかりで完成させた本作だが、当時はこの作品の狂気じみた面白さは理解されず、北米では劇場未公開に。まさに踏んだり蹴ったり咬まれたりである。

 

 本編の中で、ティッピ・ヘドレンが部屋の中に入ると、かわいい小鳥が飛んでくるという『鳥』を意識したギャグが盛り込まれているが、彼女の女優人生を語る上で、やはり『鳥』を監督したヒッチコックを外すことはできない。モナコ王室に王妃として迎えられたグレース・ケリーを失い、落ち込んでいたヒッチコックの目に留まったのがCMモデルとして売り出し中の新人ティッピ・ヘドレンだった。金髪でスレンダーな美女に、ヒッチコックは目がない。演技キャリアのほぼないティッピに、脚本の読み方から役づくりの方法など、ヒッチコックはつきっきりで女優としての所作を教え込んでいる。

 ヒッチコックは大ヒットした『鳥』に続いて、『マーニー』(64)のヒロインにもティッピを起用するが、次第に彼女のプラベートへの干渉が激しくなり、肉体関係を求めるようになる。ヒッチコックの完全なるパワハラ&セクハラだった。ヒッチコックは自分のもとを去ろうとするティッピを長期契約を記した書類を楯にして許さず、他の監督からのオファーを断るなど“飼い殺し”状態に追い込んだ。ティッピによると、ヒッチコックの妻アルマはセクハラの現場にいたそうだが、アルマは黙ったままで助けてくれなかったという。ティッピにとっては、言葉の通じない猛獣たちよりも、ヒッチコック夫妻のほうが遥かに怖かったようだ。

 ティッピ・ヘドレンの女優人生を知ってから『ROAR/ロアー』を観ると、また違った感慨が湧いてくるはず。ハリウッドで成功をおさめた女優たちは、みんな猛獣使いなのかもしれない。
(文=長野辰次)

『ROAR/ロアー』
監督・脚本/ノエル・マーシャル 撮影監督/ヤン・デ・ボン
出演/ティッピ・ヘドレン、メラリー・グリフィス、ジョン・マーシャル、ジェリー・マーシャル、ノエル・マーシャル、キアロ・マティーヴォ
発売元/ピクチャーズデプト
販売元/TCエンタテインメント
価格/DVD 3,800円+税 レンタル&セル同時リリース中
C)1981 Noel Marshall Productions in Association with Integrated Dynamics, Inc.

平成の世に起きた第二の「阿部定事件」なのか!? 佐藤寿保監督が女の多面性を描く『可愛い悪魔』

 1936年は日本が軍国化していくきっかけとなった「二・二六事件」の起きた年であり、「阿部定事件」が世間を騒がせたことでも知られている。料亭で働く定が不倫相手を窒息プレイで殺害した後に男性器を切り取ったこの猟奇的事件は、大島渚監督の『愛のコリーダ』(76)、大林宣彦監督の『SADA』(98)など、たびたび映画化されている。1980~90年代に“ピンク四天王”のひとりとして活躍した佐藤寿保監督の新作『可愛い悪魔』も、実在の事件にインスパイアされたものだ。2015年に起きた「弁護士局部切断事件」をモチーフに、佐藤監督は事件を招いた女性の多面性、現代社会における人間関係の希薄さを感じさせる官能サスペンスに仕立てている。

 本作のモチーフとなった「弁護士局部切断事件」だが、「阿部定事件」と違って殺人には至っていない。司法試験を目指していた大学院生の夫のために弁護士事務所で働いていた妻だが、やがて職場の上司と不倫関係に。夫にその事実を問い詰められ、妻は「無理矢理に関係を迫られた」と自己弁護。妻の言葉を信じ切った夫は弁護士を殴り倒し、枝切りバサミで局部を切断した。妻は黙って、その様子を眺めていたとされている。ピンク四天王時代、ホラー映画『華魂』(14)、日米合作『眼球の夢』(16)と過激な作品を次々と発表してきた佐藤監督がこの事件に惹かれたのは必然だったのかもしれない。

佐藤「この事件を最初に聞いたとき、やはり阿部定事件に似ているなと思いました。でも阿部定が切り取った男の局部を大事に持ち歩いていたのに対し、今回の事件では女性は直接手を下さず、切り取った局部はすぐに捨てている。即物的というか、現代的というか、時代の違いみたいなものを感じさせますよね。ワイドショーや週刊誌に当時はよく取り上げられたものの、どれも三面記事的な扱いばかり。事件の表層部分をいくら追っても、何も見えてこない。それならば、事件を招いた女性を中心にしたフィクションとして掘り下げてみようと考えたわけです」

 本作のファムファタールとなる美穂を演じるのは、佐藤監督作には初出演となる七海なな。城定秀夫監督の『舐める女』(16)がピンク大賞最優秀作品賞に選ばれるなど、近年その演技力が評価されている女優だ。10代の少女のような面影を残す七海だが、本作では法科大学院生で稼ぎのない夫・小塚(鐘ヶ江佳太)との生活を支えるために健気に働く貞淑な妻の顔、上司である弁護士の桑田(萩野崇)の前ではコスプレやSMプレイに応じるエロティックな女の顔、そして犯行直後には悪魔のような笑顔……といくつもの顔を見せる。自称ルポライターの法月(杉山裕右)は美穂の本当の顔を知ろうと事件について調べ始めるが、素顔の美穂について知れば知るほど真相は藪の中へと消えていく。思いあまった法月は美穂に直接接触するようになるが、美穂の妖艶さに取り込まれてしまう──。

佐藤「七海さんは『眼球の夢』のオーディションで初めて会ったんです。彼女は高校時代に生徒会長を務めていたこともあり、頭がよく、勘もいい。年齢を重ねても少女のような雰囲気を持ち合わせている。『眼球の夢』のイメージには合わなかったのですが、犯罪ものにはよく合うだろうなと感じていました。ある意味、犯罪って、人間の純真さが引き起こすものだと僕は考えています。純真無垢な少女は、その存在自体がすでに犯罪です(笑)。女がつく嘘は必ずしも自己弁護のためではなく、相手を傷つけたくない優しさから生まれることもある。でも、女がついた嘘のために、男は妄想を一方的に膨らませ、狂気に陥ってしまいかねない。ミステリアスな女ほど、男たちを魅了してしまうものです。映画的にとても魅力のある女性像を、七海さんは限られた撮影日数の中でうまく演じ切ってくれたと思います」

 佐藤監督によれば、そんな女の嘘に翻弄され、振り回される男たちも、ある意味では不器用であり、純真な存在であるらしい。中村淳彦原作のノンフィクションシリーズを原作にした『名前のない女たち』(10)の社会の欲望に消費されるだけの女たちと同じように、本作の男たちも人間関係が希薄になった現代社会でうつろい、目の前にある刹那的な関係性にしがみつこうとする。寄る辺なき現代人たちの浅はかさと哀しみが感じられる。

佐藤「ピンク映画の頃から、僕は犯罪ものをいろいろと撮ってきました。犯罪を犯す人間って、純真すぎるほど純真なことが多いんです。純真がゆえに思い込みも激しく、狂気へと走ってしまう。決して、僕らの日常から遠いものではないと思います。僕が28歳のとき、パリで事件を起こした佐川一政さんと知り合い、パリの事件を題材にした映画の脚本をお願いしたことがあります。あくまでもフィクションとして書いてもらったのですが、やはり映画化は難しく、完成には至りませんでした。でも、その後も佐川さんとはお付き合いが続き、僕が撮った『夢の中で犯して殺して』(92)や『眼球の夢』などに出演してもらっています。佐川さんも純真で、それゆえに思い込みが強く、またマスコミに書き立てられたことで勘違いもされやすい人。でも、そんな部分も含めて魅力的な人物です。それに狂気は、生きている人間なら誰しもが持っている一面だと思いますね」

 本作のヒロイン・美穂は、それぞれの男たちに対して理想の女性像を演じようと努める。それゆえに男たちは妄想を掻き立てられ、無意識下の欲望まで顕在化させ、やがて破滅を迎えることになる。自分の魅力に無自覚な女、可愛い悪魔に出会ってしまった男は、どうにも抗うことができない。もがけばもがくほど、その悪魔的な魅力の虜になってしまう。
(文=長野辰次)

『可愛い悪魔』
監督/佐藤寿保 脚本/いまおかしんじ 撮影/鈴木一博
出演/七海なな、杉山裕右、鐘ヶ江佳太、後藤ちひろ、志賀龍美、志村彩佳、
南久松真奈、ニシイアキラ、萩野崇
配給/アイエス・フィールド 6月23日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開
(c)2016「可愛い悪魔」製作委員会
http://is-field.com/kawa-aku

『パンドラ映画館』電子書籍発売中!
日刊サイゾーの人気連載『パンドラ映画館』
が電子書籍になりました。
詳細はこちらから!

 

平成の世に起きた第二の「阿部定事件」なのか!? 佐藤寿保監督が女の多面性を描く『可愛い悪魔』

 1936年は日本が軍国化していくきっかけとなった「二・二六事件」の起きた年であり、「阿部定事件」が世間を騒がせたことでも知られている。料亭で働く定が不倫相手を窒息プレイで殺害した後に男性器を切り取ったこの猟奇的事件は、大島渚監督の『愛のコリーダ』(76)、大林宣彦監督の『SADA』(98)など、たびたび映画化されている。1980~90年代に“ピンク四天王”のひとりとして活躍した佐藤寿保監督の新作『可愛い悪魔』も、実在の事件にインスパイアされたものだ。2015年に起きた「弁護士局部切断事件」をモチーフに、佐藤監督は事件を招いた女性の多面性、現代社会における人間関係の希薄さを感じさせる官能サスペンスに仕立てている。

 本作のモチーフとなった「弁護士局部切断事件」だが、「阿部定事件」と違って殺人には至っていない。司法試験を目指していた大学院生の夫のために弁護士事務所で働いていた妻だが、やがて職場の上司と不倫関係に。夫にその事実を問い詰められ、妻は「無理矢理に関係を迫られた」と自己弁護。妻の言葉を信じ切った夫は弁護士を殴り倒し、枝切りバサミで局部を切断した。妻は黙って、その様子を眺めていたとされている。ピンク四天王時代、ホラー映画『華魂』(14)、日米合作『眼球の夢』(16)と過激な作品を次々と発表してきた佐藤監督がこの事件に惹かれたのは必然だったのかもしれない。

佐藤「この事件を最初に聞いたとき、やはり阿部定事件に似ているなと思いました。でも阿部定が切り取った男の局部を大事に持ち歩いていたのに対し、今回の事件では女性は直接手を下さず、切り取った局部はすぐに捨てている。即物的というか、現代的というか、時代の違いみたいなものを感じさせますよね。ワイドショーや週刊誌に当時はよく取り上げられたものの、どれも三面記事的な扱いばかり。事件の表層部分をいくら追っても、何も見えてこない。それならば、事件を招いた女性を中心にしたフィクションとして掘り下げてみようと考えたわけです」

 本作のファムファタールとなる美穂を演じるのは、佐藤監督作には初出演となる七海なな。城定秀夫監督の『舐める女』(16)がピンク大賞最優秀作品賞に選ばれるなど、近年その演技力が評価されている女優だ。10代の少女のような面影を残す七海だが、本作では法科大学院生で稼ぎのない夫・小塚(鐘ヶ江佳太)との生活を支えるために健気に働く貞淑な妻の顔、上司である弁護士の桑田(萩野崇)の前ではコスプレやSMプレイに応じるエロティックな女の顔、そして犯行直後には悪魔のような笑顔……といくつもの顔を見せる。自称ルポライターの法月(杉山裕右)は美穂の本当の顔を知ろうと事件について調べ始めるが、素顔の美穂について知れば知るほど真相は藪の中へと消えていく。思いあまった法月は美穂に直接接触するようになるが、美穂の妖艶さに取り込まれてしまう──。

佐藤「七海さんは『眼球の夢』のオーディションで初めて会ったんです。彼女は高校時代に生徒会長を務めていたこともあり、頭がよく、勘もいい。年齢を重ねても少女のような雰囲気を持ち合わせている。『眼球の夢』のイメージには合わなかったのですが、犯罪ものにはよく合うだろうなと感じていました。ある意味、犯罪って、人間の純真さが引き起こすものだと僕は考えています。純真無垢な少女は、その存在自体がすでに犯罪です(笑)。女がつく嘘は必ずしも自己弁護のためではなく、相手を傷つけたくない優しさから生まれることもある。でも、女がついた嘘のために、男は妄想を一方的に膨らませ、狂気に陥ってしまいかねない。ミステリアスな女ほど、男たちを魅了してしまうものです。映画的にとても魅力のある女性像を、七海さんは限られた撮影日数の中でうまく演じ切ってくれたと思います」

 佐藤監督によれば、そんな女の嘘に翻弄され、振り回される男たちも、ある意味では不器用であり、純真な存在であるらしい。中村淳彦原作のノンフィクションシリーズを原作にした『名前のない女たち』(10)の社会の欲望に消費されるだけの女たちと同じように、本作の男たちも人間関係が希薄になった現代社会でうつろい、目の前にある刹那的な関係性にしがみつこうとする。寄る辺なき現代人たちの浅はかさと哀しみが感じられる。

佐藤「ピンク映画の頃から、僕は犯罪ものをいろいろと撮ってきました。犯罪を犯す人間って、純真すぎるほど純真なことが多いんです。純真がゆえに思い込みも激しく、狂気へと走ってしまう。決して、僕らの日常から遠いものではないと思います。僕が28歳のとき、パリで事件を起こした佐川一政さんと知り合い、パリの事件を題材にした映画の脚本をお願いしたことがあります。あくまでもフィクションとして書いてもらったのですが、やはり映画化は難しく、完成には至りませんでした。でも、その後も佐川さんとはお付き合いが続き、僕が撮った『夢の中で犯して殺して』(92)や『眼球の夢』などに出演してもらっています。佐川さんも純真で、それゆえに思い込みが強く、またマスコミに書き立てられたことで勘違いもされやすい人。でも、そんな部分も含めて魅力的な人物です。それに狂気は、生きている人間なら誰しもが持っている一面だと思いますね」

 本作のヒロイン・美穂は、それぞれの男たちに対して理想の女性像を演じようと努める。それゆえに男たちは妄想を掻き立てられ、無意識下の欲望まで顕在化させ、やがて破滅を迎えることになる。自分の魅力に無自覚な女、可愛い悪魔に出会ってしまった男は、どうにも抗うことができない。もがけばもがくほど、その悪魔的な魅力の虜になってしまう。
(文=長野辰次)

『可愛い悪魔』
監督/佐藤寿保 脚本/いまおかしんじ 撮影/鈴木一博
出演/七海なな、杉山裕右、鐘ヶ江佳太、後藤ちひろ、志賀龍美、志村彩佳、
南久松真奈、ニシイアキラ、萩野崇
配給/アイエス・フィールド 6月23日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開
(c)2016「可愛い悪魔」製作委員会
http://is-field.com/kawa-aku

『パンドラ映画館』電子書籍発売中!
日刊サイゾーの人気連載『パンドラ映画館』
が電子書籍になりました。
詳細はこちらから!

 

『翔んで埼玉』二階堂ふみに正念場! 高評価作品連発も「興収に結びつかない……」

「撮影はほぼ終了しましたが、二階堂さんを中心に和気あいあいとした雰囲気で撮影できましたよ。内容もコメディなので、みんなで意見を出し合ってコントを作るようなイメージで撮影してました。もちろん、GACKTさんもノリノリで意見を出してましたよ」(芸能事務所関係者)

 来年公開の映画『翔んで埼玉』でGACKTとW主演を務める、二階堂ふみ。

「原作は『パタリロ!』などで一世を風靡した漫画家・魔夜峰央氏が1982年に発表した『翔んで埼玉』です。主人公の壇ノ浦百美を演じる二階堂さんは初の男性役で、もうひとりの主人公の麻実麗を演じるのはGACKTさんですが、こちらも高校生役ということで話題になりました。ほかにも、伊勢谷友介さん、中尾彬さん、竹中直人さんに京本政樹さんといった豪華俳優陣が脇を固めています」(テレビ局関係者)

 配給の東映はフジテレビとタッグを組んで興収10億円以上を見込んでいるというが、主演の二階堂に一抹の不安があると東映の関係者は語る。

「意外なことに主演の二階堂さんの作品は賞を獲ったり、作品の評価は非常に高いのですが、興収には結びついていないんです。バストトップを披露して話題になった『リバーズ・エッジ』も、恐らく5億円もいってないでしょう。ただ、二階堂さん自身の評価は高いですし、スタッフからの評価も高いので仕事のオファーは続々と来ているようですが、ここでまたコケると、今後、主演映画となると大手の仕事は来なくて単館系ばかりになるかもしれませんね」

 大ヒットを飛ばして、汚名を返上できるか――。

『カメラを止めるな!』に騙される人が続出中!? “新世代の三谷幸喜”上田慎一郎監督インタビュー

「面白い!」「完全に騙された!」「感動した!」と映画ファンの間で噂を呼んでいるのが、上田慎一郎監督のノンストップコメディ『カメラを止めるな!』だ。今年の「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」でゆうばりファンタランド賞(観客賞)を受賞。4月にイタリアで開催された「ウディネ・ファーイースト映画祭」では1位の観客賞をごく僅差で逃したものの、2位のSilver Mulberry Awardに選ばれ、各国から配給の申し込みが殺到している。2017年11月に6日間限定で行なわれた国内での先行上映会は、全席が瞬く間にソールドアウトするほどの人気を呼んだ。インディーズ映画ながら、口コミで『カメラを止めるな!』の面白さが世界中へと広がりつつある。

 タンクトップ姿の若い女性がゾンビに襲われるシーンから映画はスタートする。B級ホラー『ワンカット・オブ・ザ・デッド』の始まりだ。ここから37分間にわたって、ワンカット撮影によるゾンビ映画がゆるゆると続く。1台のカメラで、しかも長回しで撮られている独特のテンションが流れているものの、観た人全員が大絶賛していることにはふと首を傾げてしまう。キャストは無名だし、演技は微妙だし、妙な間があるし……。

 ところが『ワンカット・オブ・ザ・デッド』が終了すると同時に、本編『カメラを止めるな!』が幕を開ける。実はこの映画、B級ホラーの撮影事情を描いた内幕ものだったのだ。お人よしな監督に難題を吹っかけるプロデューサー、超わがままな俳優、撮影になかなか集中できずにいるスタッフたち、と撮影の舞台裏が次々と明かされていく。撮影現場で起きるハプニングの数々に大笑いしながらも、視聴後はすぐに忘れ去られそうなB級ホラーを健気に作っている人々の映画愛、さらには家族愛が思わぬ感動を呼ぶのだ。インディーズ映画界に現われた“新世代の三谷幸喜”と呼びたい上田監督に、バックステージものの傑作『カメラを止めるな!』の舞台裏について語ってもらった。

──ぬるい低予算ホラー映画だなぁと思って観ていたら、クライマックスは思わず感動する展開に。完全に騙されました(笑)。ユニークな作品スタイルはどのようにして生まれたんでしょうか?

上田 4、5年ほど前になるんですが、ある舞台を観て、そこからインスピレーションを得たんです。すごく面白いと聞いて観に行ったところ、最初はB級サスペンスっぽい展開で、「あれ~、上演終わった後、なんて感想を言おうかなぁ」と微妙な気分で観ていたんです。すると1時間ほどでカーテンコールになり、「えっ、もう終わったんだ」と思っていたら、そこから舞台裏が描かれるというコメディ展開だったんです。これは面白いなと。それでストーリーも登場人物も変えていますが、この作品の構造を使った映画をつくりたいと、プロットを開発していったのが『カメラを止めるな!』なんです。

──同じ時間を別角度から捉え直す点では、吉田大八監督の『桐島、部活やめるってよ』(12)、無茶な映画製作のオーダーについつい応えてしまう映画人の哀しい性を描いているという点では、園子温監督の『地獄でなぜ悪い』(13)などを連想させますね。

上田 映画ならではの時間軸を遡らせたり、時間を省略させた作品が大好きなんです。『桐島、部活やめるってよ』は劇場で3回観ましたし、DVDでは何十回見直したか分からないほどです。クエンティン・タランティーノ監督の『パルプ・フィクション』(94)や内田けんじ監督の『運命じゃない人』(05)、スタンリー・キューブリック監督の『現金に体を張れ』(56)も昔から好きですね。バックステージものもよく観ています。三谷幸喜監督の『ラヂオの時間』(97)とか。いちばん影響を受けたのは、三谷さんが作・演出した舞台『ショウ・マスト・ゴー・オン』です。副題が『幕を降ろすな』。三谷さんのドラマや舞台は、僕が思春期の頃に見たので、僕にとってはど真ん中なんです。

 

■本番中のほつれを大事にした

──劇中劇『ワンカット・オブ・ザ・デッド』と舞台裏が綿密にリンクする脚本を書き上げるのは、簡単じゃなかったのでは?

上田 映画の脚本は中学の頃から書いていることもあって、これまで撮ってきた短編映画の脚本はだいたい一晩で初稿を書き上げています。脚本を書くスピードは速いほうだと思います。でも、今回はさすがに時間を要しました。初めての劇場デビュー作ということもあり、2カ月くらい掛かりました。脚本を書く上で難しかったのは、メインになる登場人物が15~16人ほどいるんですが、それぞれに見せ場をつくることでした。今回、ワークショップに参加した新人俳優たちを使って映画を撮るという企画だったので、決して安くはないワークショップ参加費を払って参加してくれた出演者たちに、それぞれに見せ場をつくるという使命があるなと思いました。それに加え、表の芝居とその裏で起きているエピソードをうまく呼応するような脚本にしなくちゃいけなかったので、嫁と生まれたばかりの子どもを里帰りさせて、脚本執筆に集中しました。

──ワークショップ参加者にそれぞれ見せ場を用意したいという上田監督の心配りがあったんですね。苦労した甲斐あって、脇役俳優や裏方スタッフにもひとりずつ人間味があって、それぞれが自分の人生を歩んでいるんだろうなぁということを感じさせます。

上田 そうですね。個性的なキャストが集まってくれたと思います。上映時間が96分なんですが、その中に15~16人もキャラクターがいると観客は混乱しないかなと心配でしたが、みなさんそれぞれのキャラクターを楽しんでいただけているみたいでよかった(笑)。

──クランクイン前に、かなりリハーサルを重ねた?

上田 はい、特に37分間の部分ですね。でも、リハーサルをやり過ぎないようにも気をつけました。あまり固めすぎると面白くないなぁと。本番中にほつれみたいなものが出たほうが面白いんじゃないかなと。本作を実際にご覧になっても区別はつかないと思いますが、僕が脚本上で書いていたトラブルと、それとは別に現場でリアルに起きたトラブルが交じっているんです(笑)。ゾンビメイクが間に合わずに、キャストがアドリブでつないでいる場面は、本当にメイクが遅れてしまって、みんな必死でつないでいます(笑)。あとカメラのレンズ部分に血のりが付着してしまうんですが、あれもアクシデントでした。あのときは僕とカメラマンとでアイコンタクトを交わして、乗り切りました。本番では37分間の長回しは6回挑戦し、最後までカメラを回したのは4回です。血のりで衣装が真っ赤になってしまうので、1日に2~3テイクやるのが精一杯でしたね。

──撮り終わった瞬間は「やったー!」ですね。

上田 いえ、カメラにちゃんと映っているかどうか確認するまでは安心できなかったですね。カメラマンが転ぶ場面があるんですが、本番でカメラマンは本当に転んでしまい、転んだ拍子にカメラの録画スイッチがオフになり、最後まで演じたけど確認したら撮れてなかったなんてこともあったんです(苦笑)。僕やスタッフがカメラに見切れないようにするのも、けっこう大変でした。ちょっとくらいなら見切れてもいいように、スタッフも僕も劇中衣装の『ワンカット・オブ・ザ・デッド』Tシャツを着ていたんです(笑)。

■二度は撮れないカットを撮ることの大切さ

──「早い、安い、質もそこそこ」を売りにしているディレクターの日暮(濱津隆之)は、現場のことをよく知らないプロデューサーから無茶ぶりされ、断れずにワンテイクのゾンビものを撮ることになる。雇われ監督だった日暮が、あまり気の進まない企画ながらも撮影現場に入ると全力以上のものを発揮してしまう。雇われ監督ならではの哀歓が、本作の肝になっているように感じました。

上田 自分が本当にやりたい企画なら、がんばるのが当然ですよね。あまりやりたくないはずの企画で、さらに現場で次々と問題が起き、トラブルに巻き込まれていく展開のほうがコメディになるなと考えたんです。監督の日暮は普段は再現ドラマのディレクターという設定です。再現ドラマって、1日でものすごい量のカットを撮らなくちゃいけない。それでも職人として、納期を守ることをいちばんに考えている。スキルを持ちながら、妥協することもできるプロフェッショナルだと思うんです。これが映画監督なら「こんな質のものは世間に見せられない」とお蔵入りさせてしまうかもしれない。僕は、大人の職人であることに憧れみたいなものが少しあるんです。日々の仕事に対する葛藤を持ちながら、あるとき娘に対する格好つけもあって、ちゃんとした作品をつくろうという気持ちが湧いてくるわけです。

──ディレクターの日暮には、上田監督自身の体験も投影されている?

上田 多分にあると思います。わがままな役者っていますよ(笑)。適当なプロデューサーもいます(笑)。最初は「監督の好きなように撮ってかまいません」と言いながら、撮影直前になって「クライアントから頼まれました」「この人をちょっとでいいので、どこかで使ってください」「台詞を増やしてほしいと事務所が言ってきたので、よろしく」とか。でも、僕はなるべく、そういう無茶ぶりも楽しむように心掛けるようにしています。

──現場では意図せぬアクシデントが次々と起こる一方、役者やスタッフたちとの個性が化学反応を起こし、思いがけないものが生まれることに。

上田 そこは、すごく意識していることです。リハーサルはやりますが、本番では逆にリハーサルで固めていったことを、崩そうと考えています。何度やっても撮れるカットじゃなくて、二度と撮れないカットを積み重ねていきたいんです。ドキュメンタリーが入った、二度は撮れないカットを狙うことは、映画づくりにおいて重要なことだと思いますね。

 

■流行に左右されない、100年後に観ても面白い映画

──『ワンカット・オブ・ザ・デッド』は日暮ディレクターの奥さんや娘がアシストすることで、カメラを止めることなく撮影が続くことになる。上田監督の奥さまは、アニメ映画『こんぷれっくす×コンプレックス』(15)のふくだみゆき監督。ふくだ監督の協力も大きかったのでは?

上田 とても大きかったです(笑)。物理的なことで言えば、『カメラを止めるな!』のタイトルロゴやポスターなどのビジュアルは、彼女がやってくれました。衣装なども、相談して決めています。女性はこういう場でピアスは付けないとか、そういう細かい点は、男ではなかなか気づきません。あと、いちばん大きなのは僕のメンタルケアですね(笑)。

──それ、とても大事ですよね。

上田 ハハハ。やっぱり外でイヤなことがあって、落ち込むこともあるわけです。でも、家に帰って話し相手がいるのは、すごく大きい。「実は今日はこんなことがあってさ~」と話しているうちに、だんだんと笑い話になっちゃうんです。精神衛生上、とてもいいですね。脚本もその都度、いちばん最初に読んでもらっています。妻は遠慮がなく、面白くないときはハッキリと「面白くない」と言ってくれるので、有り難いですよ。『カメラを止めるな!』には当時生まれて数カ月だった息子も出演しています。脚本を書いているときに、夜泣きがすごくて、そのときの体験を脚本に活かしました。『カメラを止めるな!』は妻と息子なしでは完成しなかった映画です(笑)。

──クラウドファンディングで製作された本作ですが、HP上の「100年後に観ても おもしろい映画」という上田監督のスローガンが印象に残ります。

上田 最近起きた事件や事象を追い掛けて映画を撮るというよりは、50年や60年経っても楽しんで観てもらえるような娯楽作品を追求したいなと僕は考えているんです。映画そのものの面白さが真ん中にあるような普遍的な映画を、これからも撮っていきたいですね。
(取材・文=長野辰次)

『カメラを止めるな!』
監督・脚本・編集/上田慎一郎
出演/濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、長屋和彰、細井学、市原洋、山﨑俊太郎、大沢真一郎、竹原芳子、吉田美紀、合田純奈、浅森咲希奈、秋山ゆずき 
配給/ENBUゼミナール・シネマプロジェクト 6月23日(土)より新宿K’s cinema、池袋シネマ・ロサにて劇場公開
(c)ENBUゼミナール
http://kametome.net

●上田慎一郎(うえだ・しんいちろう)
1984年滋賀県出身。中学・高校の頃から自主映画を制作。2010年から映画製作団体PANPOKOPINAを結成。主な監督作に、短編映画『テイク8』(15)、『ナポリタン』(16)など。オムニバス映画『4/猫』(15)の一編『猫まんま』で商業デビュー。『カメラを止めるな!』で劇場長編デビュー。同級生のわき毛が気になって仕方がない女子中学生を主人公にした、ふくだみゆき監督のアニメ作品『こんぷれっくす×コンプレックス』(15)ではプロデューサーを務めている。

『カメラを止めるな!』に騙される人が続出中!? “新世代の三谷幸喜”上田慎一郎監督インタビュー

「面白い!」「完全に騙された!」「感動した!」と映画ファンの間で噂を呼んでいるのが、上田慎一郎監督のノンストップコメディ『カメラを止めるな!』だ。今年の「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」でゆうばりファンタランド賞(観客賞)を受賞。4月にイタリアで開催された「ウディネ・ファーイースト映画祭」では1位の観客賞をごく僅差で逃したものの、2位のSilver Mulberry Awardに選ばれ、各国から配給の申し込みが殺到している。2017年11月に6日間限定で行なわれた国内での先行上映会は、全席が瞬く間にソールドアウトするほどの人気を呼んだ。インディーズ映画ながら、口コミで『カメラを止めるな!』の面白さが世界中へと広がりつつある。

 タンクトップ姿の若い女性がゾンビに襲われるシーンから映画はスタートする。B級ホラー『ワンカット・オブ・ザ・デッド』の始まりだ。ここから37分間にわたって、ワンカット撮影によるゾンビ映画がゆるゆると続く。1台のカメラで、しかも長回しで撮られている独特のテンションが流れているものの、観た人全員が大絶賛していることにはふと首を傾げてしまう。キャストは無名だし、演技は微妙だし、妙な間があるし……。

 ところが『ワンカット・オブ・ザ・デッド』が終了すると同時に、本編『カメラを止めるな!』が幕を開ける。実はこの映画、B級ホラーの撮影事情を描いた内幕ものだったのだ。お人よしな監督に難題を吹っかけるプロデューサー、超わがままな俳優、撮影になかなか集中できずにいるスタッフたち、と撮影の舞台裏が次々と明かされていく。撮影現場で起きるハプニングの数々に大笑いしながらも、視聴後はすぐに忘れ去られそうなB級ホラーを健気に作っている人々の映画愛、さらには家族愛が思わぬ感動を呼ぶのだ。インディーズ映画界に現われた“新世代の三谷幸喜”と呼びたい上田監督に、バックステージものの傑作『カメラを止めるな!』の舞台裏について語ってもらった。

──ぬるい低予算ホラー映画だなぁと思って観ていたら、クライマックスは思わず感動する展開に。完全に騙されました(笑)。ユニークな作品スタイルはどのようにして生まれたんでしょうか?

上田 4、5年ほど前になるんですが、ある舞台を観て、そこからインスピレーションを得たんです。すごく面白いと聞いて観に行ったところ、最初はB級サスペンスっぽい展開で、「あれ~、上演終わった後、なんて感想を言おうかなぁ」と微妙な気分で観ていたんです。すると1時間ほどでカーテンコールになり、「えっ、もう終わったんだ」と思っていたら、そこから舞台裏が描かれるというコメディ展開だったんです。これは面白いなと。それでストーリーも登場人物も変えていますが、この作品の構造を使った映画をつくりたいと、プロットを開発していったのが『カメラを止めるな!』なんです。

──同じ時間を別角度から捉え直す点では、吉田大八監督の『桐島、部活やめるってよ』(12)、無茶な映画製作のオーダーについつい応えてしまう映画人の哀しい性を描いているという点では、園子温監督の『地獄でなぜ悪い』(13)などを連想させますね。

上田 映画ならではの時間軸を遡らせたり、時間を省略させた作品が大好きなんです。『桐島、部活やめるってよ』は劇場で3回観ましたし、DVDでは何十回見直したか分からないほどです。クエンティン・タランティーノ監督の『パルプ・フィクション』(94)や内田けんじ監督の『運命じゃない人』(05)、スタンリー・キューブリック監督の『現金に体を張れ』(56)も昔から好きですね。バックステージものもよく観ています。三谷幸喜監督の『ラヂオの時間』(97)とか。いちばん影響を受けたのは、三谷さんが作・演出した舞台『ショウ・マスト・ゴー・オン』です。副題が『幕を降ろすな』。三谷さんのドラマや舞台は、僕が思春期の頃に見たので、僕にとってはど真ん中なんです。

 

■本番中のほつれを大事にした

──劇中劇『ワンカット・オブ・ザ・デッド』と舞台裏が綿密にリンクする脚本を書き上げるのは、簡単じゃなかったのでは?

上田 映画の脚本は中学の頃から書いていることもあって、これまで撮ってきた短編映画の脚本はだいたい一晩で初稿を書き上げています。脚本を書くスピードは速いほうだと思います。でも、今回はさすがに時間を要しました。初めての劇場デビュー作ということもあり、2カ月くらい掛かりました。脚本を書く上で難しかったのは、メインになる登場人物が15~16人ほどいるんですが、それぞれに見せ場をつくることでした。今回、ワークショップに参加した新人俳優たちを使って映画を撮るという企画だったので、決して安くはないワークショップ参加費を払って参加してくれた出演者たちに、それぞれに見せ場をつくるという使命があるなと思いました。それに加え、表の芝居とその裏で起きているエピソードをうまく呼応するような脚本にしなくちゃいけなかったので、嫁と生まれたばかりの子どもを里帰りさせて、脚本執筆に集中しました。

──ワークショップ参加者にそれぞれ見せ場を用意したいという上田監督の心配りがあったんですね。苦労した甲斐あって、脇役俳優や裏方スタッフにもひとりずつ人間味があって、それぞれが自分の人生を歩んでいるんだろうなぁということを感じさせます。

上田 そうですね。個性的なキャストが集まってくれたと思います。上映時間が96分なんですが、その中に15~16人もキャラクターがいると観客は混乱しないかなと心配でしたが、みなさんそれぞれのキャラクターを楽しんでいただけているみたいでよかった(笑)。

──クランクイン前に、かなりリハーサルを重ねた?

上田 はい、特に37分間の部分ですね。でも、リハーサルをやり過ぎないようにも気をつけました。あまり固めすぎると面白くないなぁと。本番中にほつれみたいなものが出たほうが面白いんじゃないかなと。本作を実際にご覧になっても区別はつかないと思いますが、僕が脚本上で書いていたトラブルと、それとは別に現場でリアルに起きたトラブルが交じっているんです(笑)。ゾンビメイクが間に合わずに、キャストがアドリブでつないでいる場面は、本当にメイクが遅れてしまって、みんな必死でつないでいます(笑)。あとカメラのレンズ部分に血のりが付着してしまうんですが、あれもアクシデントでした。あのときは僕とカメラマンとでアイコンタクトを交わして、乗り切りました。本番では37分間の長回しは6回挑戦し、最後までカメラを回したのは4回です。血のりで衣装が真っ赤になってしまうので、1日に2~3テイクやるのが精一杯でしたね。

──撮り終わった瞬間は「やったー!」ですね。

上田 いえ、カメラにちゃんと映っているかどうか確認するまでは安心できなかったですね。カメラマンが転ぶ場面があるんですが、本番でカメラマンは本当に転んでしまい、転んだ拍子にカメラの録画スイッチがオフになり、最後まで演じたけど確認したら撮れてなかったなんてこともあったんです(苦笑)。僕やスタッフがカメラに見切れないようにするのも、けっこう大変でした。ちょっとくらいなら見切れてもいいように、スタッフも僕も劇中衣装の『ワンカット・オブ・ザ・デッド』Tシャツを着ていたんです(笑)。

■二度は撮れないカットを撮ることの大切さ

──「早い、安い、質もそこそこ」を売りにしているディレクターの日暮(濱津隆之)は、現場のことをよく知らないプロデューサーから無茶ぶりされ、断れずにワンテイクのゾンビものを撮ることになる。雇われ監督だった日暮が、あまり気の進まない企画ながらも撮影現場に入ると全力以上のものを発揮してしまう。雇われ監督ならではの哀歓が、本作の肝になっているように感じました。

上田 自分が本当にやりたい企画なら、がんばるのが当然ですよね。あまりやりたくないはずの企画で、さらに現場で次々と問題が起き、トラブルに巻き込まれていく展開のほうがコメディになるなと考えたんです。監督の日暮は普段は再現ドラマのディレクターという設定です。再現ドラマって、1日でものすごい量のカットを撮らなくちゃいけない。それでも職人として、納期を守ることをいちばんに考えている。スキルを持ちながら、妥協することもできるプロフェッショナルだと思うんです。これが映画監督なら「こんな質のものは世間に見せられない」とお蔵入りさせてしまうかもしれない。僕は、大人の職人であることに憧れみたいなものが少しあるんです。日々の仕事に対する葛藤を持ちながら、あるとき娘に対する格好つけもあって、ちゃんとした作品をつくろうという気持ちが湧いてくるわけです。

──ディレクターの日暮には、上田監督自身の体験も投影されている?

上田 多分にあると思います。わがままな役者っていますよ(笑)。適当なプロデューサーもいます(笑)。最初は「監督の好きなように撮ってかまいません」と言いながら、撮影直前になって「クライアントから頼まれました」「この人をちょっとでいいので、どこかで使ってください」「台詞を増やしてほしいと事務所が言ってきたので、よろしく」とか。でも、僕はなるべく、そういう無茶ぶりも楽しむように心掛けるようにしています。

──現場では意図せぬアクシデントが次々と起こる一方、役者やスタッフたちとの個性が化学反応を起こし、思いがけないものが生まれることに。

上田 そこは、すごく意識していることです。リハーサルはやりますが、本番では逆にリハーサルで固めていったことを、崩そうと考えています。何度やっても撮れるカットじゃなくて、二度と撮れないカットを積み重ねていきたいんです。ドキュメンタリーが入った、二度は撮れないカットを狙うことは、映画づくりにおいて重要なことだと思いますね。

 

■流行に左右されない、100年後に観ても面白い映画

──『ワンカット・オブ・ザ・デッド』は日暮ディレクターの奥さんや娘がアシストすることで、カメラを止めることなく撮影が続くことになる。上田監督の奥さまは、アニメ映画『こんぷれっくす×コンプレックス』(15)のふくだみゆき監督。ふくだ監督の協力も大きかったのでは?

上田 とても大きかったです(笑)。物理的なことで言えば、『カメラを止めるな!』のタイトルロゴやポスターなどのビジュアルは、彼女がやってくれました。衣装なども、相談して決めています。女性はこういう場でピアスは付けないとか、そういう細かい点は、男ではなかなか気づきません。あと、いちばん大きなのは僕のメンタルケアですね(笑)。

──それ、とても大事ですよね。

上田 ハハハ。やっぱり外でイヤなことがあって、落ち込むこともあるわけです。でも、家に帰って話し相手がいるのは、すごく大きい。「実は今日はこんなことがあってさ~」と話しているうちに、だんだんと笑い話になっちゃうんです。精神衛生上、とてもいいですね。脚本もその都度、いちばん最初に読んでもらっています。妻は遠慮がなく、面白くないときはハッキリと「面白くない」と言ってくれるので、有り難いですよ。『カメラを止めるな!』には当時生まれて数カ月だった息子も出演しています。脚本を書いているときに、夜泣きがすごくて、そのときの体験を脚本に活かしました。『カメラを止めるな!』は妻と息子なしでは完成しなかった映画です(笑)。

──クラウドファンディングで製作された本作ですが、HP上の「100年後に観ても おもしろい映画」という上田監督のスローガンが印象に残ります。

上田 最近起きた事件や事象を追い掛けて映画を撮るというよりは、50年や60年経っても楽しんで観てもらえるような娯楽作品を追求したいなと僕は考えているんです。映画そのものの面白さが真ん中にあるような普遍的な映画を、これからも撮っていきたいですね。
(取材・文=長野辰次)

『カメラを止めるな!』
監督・脚本・編集/上田慎一郎
出演/濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、長屋和彰、細井学、市原洋、山﨑俊太郎、大沢真一郎、竹原芳子、吉田美紀、合田純奈、浅森咲希奈、秋山ゆずき 
配給/ENBUゼミナール・シネマプロジェクト 6月23日(土)より新宿K’s cinema、池袋シネマ・ロサにて劇場公開
(c)ENBUゼミナール
http://kametome.net

●上田慎一郎(うえだ・しんいちろう)
1984年滋賀県出身。中学・高校の頃から自主映画を制作。2010年から映画製作団体PANPOKOPINAを結成。主な監督作に、短編映画『テイク8』(15)、『ナポリタン』(16)など。オムニバス映画『4/猫』(15)の一編『猫まんま』で商業デビュー。『カメラを止めるな!』で劇場長編デビュー。同級生のわき毛が気になって仕方がない女子中学生を主人公にした、ふくだみゆき監督のアニメ作品『こんぷれっくす×コンプレックス』(15)ではプロデューサーを務めている。