“男はつらいよ”がボリウッド映画になった!? 感涙作『バジュランギおじさんと、小さな迷子』

『男はつらいよ』シリーズの主人公・寅さんが迷子の女の子と出逢い、彼女の家を探して旅を続ける。インド映画『バジュランギおじさんと、小さな迷子』のストーリーを、思いっきりざっくり説明するとそんな感じだ。“インドの寅さん”ことバジュランギおじさんは、根っからのお人よし。たまたま自分になついた女の子を連れて、インドの首都デリーから国境を越えてパキスタンまで700kmの旅をすることになる。行く先々で毎度のように大騒ぎを起こすが、最後にはみんなが“インドの寅さん”のことが大好きになる。お正月くらい、こんな映画を観てもいいんじゃないかという気にしてくれる、踊りあり、笑いあり、ホロリありの感涙作なのだ。

 寅さんが柴又帝釈天(もともとはヒンドゥー教の武神)で産湯に浸かったように、バジュランギおじさん(サルマン・カーン)も信心深い。ヒンドゥー教徒である彼は、孫悟空のモデルとも言われる猿の神さま・ハヌマーンを信仰している。浅草の雷門みたいなところで、ハヌマーンを讃えて踊っていたバジュランギを見て、迷子の女の子ヒシャーダー(ハルシャーリー・マルホートラ)は「この人は絶対にいい人!」と直感。バジュランギの後をついていく。困ったバジュランギは、ヒシャーダーを警察に預けようとするも、彼女は口が不自由なため警察はまともに対応しようとしない。幼いヒシャーダーを放っておくこともできず、ひとまず下宿先へと連れて帰ることに。

 下宿に戻ったパジュランギはびっくり。クリケットの国際大会のテレビ中継を大家一家と一緒に観戦していたところ、ヒシャーダーはパキスタンチームが得点すると大喜びする。ヒシャーダーはパキスタン人だった。しかも、ヒシャーダーがモスクで祈りを捧げていたことから、イスラム教徒であることも発覚。国籍も宗教も異なるヒシャーダーの家を探そうとしていた自分のおめでたさに、愕然とするバジュランギだった。

 寅さんにマドンナがいるように、バジュランギにも想いを寄せている美女がいる。下宿先の大家の娘ラスィカー(カリーナ・カプール)に男としての度量の大きさを見せようと、「ハヌマーンさまが見守ってくれるさ」と何の手掛かりもないままヒシャーダーを連れてパキスタンへ向かうことに。しかも、諸事情あって旅券もお金もないまま、パキスタンに密入国する。インドからのスパイに違いないとパキスタン警察に追われるバジュランギは、冒険を楽しむかのようにニコニコ顔のヒシャーダーの手を引いて、珍道中を繰り広げるはめになる。

“インドの寅さん”バジュランギは、旅を続けることでいろんなことを学んでいく。パキスタン警察から逃れるためにモスクの中に隠れようとするが、扉の前で一瞬ためらう。バジュランギは敬虔なヒンドゥー教徒だからだ。イスラム教の礼拝堂に、他教徒が足を踏み入れていいものかと。そんなバジュランギを、老司祭は「モスクはあらゆる人を歓迎します。誰でもいつでも入れるよう、モスクの扉は鍵が掛かっていないんです」と温かく迎え入れる。バジュランギが旅に出ることなくインドで平穏に暮らしていれば、ずっとそのままだっただろう、イスラム教徒やパキスタン人に対する誤解や偏見が少しずつ消えていく。そして、その分だけ、ヒシャーダーの故郷へと近づくことになる。

 インドの人気俳優サルマン・カーンは、アクション映画『タイガー 伝説のスパイ』(12)でも本作を撮ったカビール・カーン監督とタッグを組んだ。『タイガー 伝説のスパイ』はサルマン・カーン扮する凄腕のスパイ・タイガー(寅さん)が、パキスタンの女スパイと禁断の恋に陥るというラブロマンスものだった。印パ戦争やカシミール紛争など争いが絶えない隣国パキスタンとの政治問題を、一般市民レベルでより掘り下げて考えてみたのが『バジュランギおじさんと、小さな迷子』だと言えそうだ。

 もともと宗教は慈悲の心で他者と接することを説いていたはずなのに、いつの間にか神さまの呼び名の違いや形式の違いを咎め、争いが起きるようになった。ヒンドゥー教の熱心な信者だったバジュランギが、イスラム教徒のヒシャーダーと仲良くなったように、もっと大らかでズボラでもいいんじゃないだろうか。インド版『男はつらいよ』を見ながら、そんなことを考える。

 マッチョなアクションスターとして人気だったサルマン・カーン。本作でもインド相撲クシュティーを披露する場面があるが、これまでとは違った父性を感じさせる抱擁力のあるキャラクターに挑戦した。困っている人、泣いている子どもを見つけたら、自分のことは後回しにしてしまうイノセントな存在だ。サンマン・カーンやカビール監督が、『男はつらいよ』を観たことがあるかどうかは分からない。でも、寅さんが旅先でバジュランギおじさんと出逢ったら、きっと言葉の壁を軽~く乗り越えて意気投合し、朝まで呑み明かすことだろう。騒ぎすぎて、とんでもないことになるはずだ。『男はつらいよ』の公開50周年となる2019年正月に、インドから粋な客人が現われたことを歓迎したい。
(文=長野辰次)

『バジュランギおじさんと、小さな迷子』
製作・監督・脚本/カビール・カーン
出演/サルマン・カーン、ハルシャーリー・マルホートラ、カリーナ・カプール、ナワーズッディーン・シッディーキー
配給/SPACEBOX 1月18日(金)より全国順次ロードショー
C)Eros international all rights reserved.C)SKF all rights reserved.
http://bajrangi.jp

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『ボヘミアン・ラプソディ』異例の大ヒットと“ミーハーファン”に支えられた「クイーン」の真実

 昨年下半期に大ヒットした映画といえば、世界的人気を誇る英ロックバンド・クイーンの軌跡を描いた『ボヘミアン・ラプソディ』(20世紀フォックス映画)。昨年12月23日の時点で、興行収入が62億3,576万7,480円、観客動員が453万3,806人に達するほどだ。ちなみに、この興収は昨年公開の洋画の中では、81億円の『ジュラシック・ワールド 炎の王国』(東宝東和)に次いで、第2位となる。

 さて、今でこそレジェンド級のロックバンドの1つに数えられるクイーンだが、1973年にデビューした当初はアメリカはおろか、本国イギリスでも鳴かず飛ばずだった。70年代の日本における洋楽シーンをよく知る50代の音楽ライターは、次のように語る。

「比較的よく知られた話ではありますが、クイーンを世界で最初に評価したのが日本の洋楽ファンでした。ただ、その人気は主に女性ファンに支えられたものであり、クイーンは硬派な洋楽ファンからはキワモノ扱いされる存在だったんです」

 70年代前半、コアな洋楽ファンはレッド・ツェッペリンやディープ・パープルといったハードロック、ピンク・フロイドやイエスといったプログレッシブ・ロックを好んで聴いていた。そうした人たちからすると、本国でも評価が低かった初期のクイーンは、音楽的にもビジュアル的にも異端でしかなかった。

「世界に先駆け、日本でいち早く人気に火がついたといっても、あくまでもミーハー人気だったわけです。とりわけドラムのロジャー・テイラーの王子様風のビジュアルは、女性ファンのハートをつかみました。当時の洋楽専門誌はプレーヤー別の人気ランキングが毎年掲載されていたのですが、テイラーは常に上位にランクインしていましたね。たぶん当時は、クイーンのファン層はベイ・シティ・ローラーズ(70年代に世界的な人気を博したイギリスのアイドルバンド)のファン層とも被っていたと思いますよ。もちろんクイーンの音楽性を評価した男性ファンも少ないながらも存在したのですが、マニアックな洋楽の世界ではファンであることを公言できず、肩身の狭い思いをしたはずです。日本で人気があったとはいえ、クイーンが音楽的評価を得るのには、それなりに時間がかかりました。こうした話は、新しいファンからすると、意外かもしれませんが」(同)

 インターネットのなかった70年代は、欧米の流行がリアルタイムで日本に入って来なかった事情もあり、クイーンに限らず、本国で無名のバンドが突然日本で人気を集めたりするケースが少なからずあった。クイーンの現在の名声を考えると、日本のミーハーファンの嗅覚も捨てたものではないと言える。

『ボヘミアン・ラプソディ』異例の大ヒットと“ミーハーファン”に支えられた「クイーン」の真実

 昨年下半期に大ヒットした映画といえば、世界的人気を誇る英ロックバンド・クイーンの軌跡を描いた『ボヘミアン・ラプソディ』(20世紀フォックス映画)。昨年12月23日の時点で、興行収入が62億3,576万7,480円、観客動員が453万3,806人に達するほどだ。ちなみに、この興収は昨年公開の洋画の中では、81億円の『ジュラシック・ワールド 炎の王国』(東宝東和)に次いで、第2位となる。

 さて、今でこそレジェンド級のロックバンドの1つに数えられるクイーンだが、1973年にデビューした当初はアメリカはおろか、本国イギリスでも鳴かず飛ばずだった。70年代の日本における洋楽シーンをよく知る50代の音楽ライターは、次のように語る。

「比較的よく知られた話ではありますが、クイーンを世界で最初に評価したのが日本の洋楽ファンでした。ただ、その人気は主に女性ファンに支えられたものであり、クイーンは硬派な洋楽ファンからはキワモノ扱いされる存在だったんです」

 70年代前半、コアな洋楽ファンはレッド・ツェッペリンやディープ・パープルといったハードロック、ピンク・フロイドやイエスといったプログレッシブ・ロックを好んで聴いていた。そうした人たちからすると、本国でも評価が低かった初期のクイーンは、音楽的にもビジュアル的にも異端でしかなかった。

「世界に先駆け、日本でいち早く人気に火がついたといっても、あくまでもミーハー人気だったわけです。とりわけドラムのロジャー・テイラーの王子様風のビジュアルは、女性ファンのハートをつかみました。当時の洋楽専門誌はプレーヤー別の人気ランキングが毎年掲載されていたのですが、テイラーは常に上位にランクインしていましたね。たぶん当時は、クイーンのファン層はベイ・シティ・ローラーズ(70年代に世界的な人気を博したイギリスのアイドルバンド)のファン層とも被っていたと思いますよ。もちろんクイーンの音楽性を評価した男性ファンも少ないながらも存在したのですが、マニアックな洋楽の世界ではファンであることを公言できず、肩身の狭い思いをしたはずです。日本で人気があったとはいえ、クイーンが音楽的評価を得るのには、それなりに時間がかかりました。こうした話は、新しいファンからすると、意外かもしれませんが」(同)

 インターネットのなかった70年代は、欧米の流行がリアルタイムで日本に入って来なかった事情もあり、クイーンに限らず、本国で無名のバンドが突然日本で人気を集めたりするケースが少なからずあった。クイーンの現在の名声を考えると、日本のミーハーファンの嗅覚も捨てたものではないと言える。

“酒田大火”というタブーを映画で払拭する試み。地方が豊かだった記憶『世界一と言われた映画館』

 客席が暗くなり、「ムーンライト・セレナーデ」が流れる。しかし、スクリーンには映像は映し出されない。「おや、映写ミスかな」と思ったが、それは早とちりだった。映画評論家・淀川長治が「世界一の映画館」と評した、山形県酒田市にあった映画館「グリーン・ハウス」の劇場演出を模したものであることに、本編が始まってから気づくことになる。「グリーン・ハウス」では客席にまだ着いていない観客を急かすような開演ブザーは鳴らず、代わりにジャズのスタンダードナンバーが静かに流れた。人口11万人の北国の港町にあった洋画専門のロードショー館は、観客に極上の映画体験を味あわせてくれる特別な空間だった。

 1950年に本格オープンした「グリーン・ハウス」は、酒田市民にとって自慢の劇場だった。ところが、1976年10月29日に地元消防組合の消防長1名が殉職、3300名が被災した酒田大火が発生し、「グリーン・ハウス」は焼失。この大火の火元は、「グリーン・ハウス」内で起きた漏電だったとされている。以来、「グリーン・ハウス」の跡地に映画館が建てられることはなかった。地元の人々にとっての大切なハレの場は、一転して口にすることが憚れるタブーとなってしまった。山形県天童市在住の佐藤広一監督が撮り上げたドキュメンタリー映画『世界一と言われた映画館』は、「グリーン・ハウス」を愛した人たちを訪ね歩き、同館の記憶をスクリーン上に蘇らせる。タブー視されていた存在を、映画によって再評価しようという試みである。東京から遠く離れた地方都市にかつて華やかな文化が咲き誇っていたことに、映画を観た我々は驚きを覚えることになる。

 佐藤監督が本作を撮るきっかけとなったのが、「グリーン・ハウス」の支配人だった佐藤久一の評伝『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか』(講談社)だ。2008年に発刊されたこの本によると、「グリーン・ハウス」の玄関は当時の地方都市には珍しい回転ドアとなっており、水洗トイレも導入されていたとある。清掃は隅々まで行き届き、ホテルのようなゴージャスさだったようだ。観客が快適に映画を鑑賞できるよう、あらゆる配慮が施されていた。フィルムの本数が限られていた時代にあって、アラン・ドロン主演作『太陽がいっぱい』(60)は東京の封切り館と同日公開だった。東京の配給会社も、「グリーン・ハウス」を特別視していたことが分かる。

 世界一の映画館の支配人だった佐藤久一は、相当なアイデアマンだった。客席数500席の大スクリーンに加え、二階には家族やグループが貸し切りで楽しめる「特別室」や「家族室」を設け、久一のお気に入りの旧作を低料金で上映するミニシアター「シネサロン」もあった。シネコンを先取りする複合施設だった。上映作品を解説した小冊子「グリーン・イヤーズ」が毎月発行され、観客たちは読むのを楽しみにした。佐藤監督のインタビューに、かつて「グリーン・ハウス」に通い詰めたファンたちは、一階に併設されていたカフェ「緑館茶房」からいつもコーヒー豆のいい香りが漂っていたこと、「ムーンライト・セレナーデ」が流れると次第に客席の照明が落ちて、緑色の緞帳が開いていった思い出をうっとりした表情で語る。映画館の思い出が、場内に漂っていた匂いや開演前に流れていた音楽というのも面白い。

 やはり酒田市を舞台にしたドキュメンタリー映画『YUKIGUNI』(現在公開中)の主人公である大正15年(1926)生まれの現役バーテンダー・井山計一氏も、佐藤監督のインタビューに応えている。佐藤久一と仲のよかった井山氏が酒田市で経営しているバー「ケルン」から、「グリーン・ハウス」にバーテンを派遣していた時期もあったという。稼ぎどきであるはずの週末には、地元の演奏家たちを招いてのライブイベントが度々開かれた。「グリーン・ハウス」は単なる映画館ではなく、酒田の人々にとっての社交場であり、そして東京と遜色ない最新の情報発信スポットでもあった。

 緑館と名づけられたこの映画館のことを知れば知るほど、支配人だった佐藤久一がどんな人物だったのか気になってくる。昭和5年(1930)生まれの久一は、地元の酒造メーカー経営者の長男として不自由のない幼少期を過ごした。新しいものに対する目利きに優れ、センスのよさを父親に買われ、日大芸術学部を中退した久一は、20歳にして「グリーン・ハウス」の支配人に就任。酒田という地方都市にありながら、「世界一の映画館」を育て上げた久一だが、それだけでは満足できなかった。1964年、既婚者だった久一は電話交換手だった女性と駆け落ち同然に上京。映画評論家・荻昌一の勧めで“東洋一”と呼ばれた日生劇場に勤めるも、3年後には酒田に本格的な洋食を広めようと帰郷してフランス料理店を開業する。採算を度外視して、食材選びと客への細心のサービスに努めた久一のフランス料理店は東京や大阪でも評判となり、丸谷才一、開高健、山口瞳らが絶賛する名店として知られることになる。

 仕事と恋にあらん限りの情熱を注いだ佐藤久一の生涯は、地元の山形放送でラジオドラマ化され、そのとき久一役を演じたのが2018年2月に急逝した大杉漣だった。久一の生き方にシンパシーを覚えたことから、大杉は『世界一と言われた映画館』のナレーションも引き受ける。現在の酒田市には常設の映画館がないため、地元でのお披露目上映ができずにいた『世界一と言われた映画館』だったが、大杉は自身のバンドのライブと兼ねる形で、この映画の上映イベントを酒田市で開いている。このときのイベント費用は、大杉が出演していた『ぐるぐるナインティナイン』(日本テレビ系)の「ゴチになります!」で得ていた賞金が充てられたことを、佐藤監督は教えてくれた。

 1976年、佐藤久一は「グリーン・ハウス」の経営からすでに離れていたが、フランス料理店の入っていたビルの屋上から酒田大火を見つめることになった。晩年の久一はフランス料理店の累積する赤字とアルコール依存に悩まされ、67歳でその生涯を終えている。映画とフランス料理を通して酒田市に大きく文化貢献した久一を顕彰しようという動きが彼の死後にあったが、酒田大火の火元が「グリーン・ハウス」だったことがネックとなり実現しなかったようだ。それほど、「グリーン・ハウス」=佐藤久一というイメージが強かった。

 地元の由緒正しい寺院で行なわれた佐藤久一の葬儀の際にも、「ムーンライト・セレナーデ」が流れたという。仕事に恋に、そして映画に、飽くなきロマンスを求めた男たちがいた。そんな彼らを鎮魂するかのように、「ムーンライト・セレナーデ」の甘いメロディが客席へと流れていく。

(文=長野辰次)

酒田大火というタブーを映画で払拭する試み。地方が豊かだった記憶『世界一と言われた映画館』の画像4

『世界一と言われた映画館』
語り/大杉漣 プロデューサー/髙橋卓也 監督・構成・撮影/佐藤広一
配給/アルゴ・ピクチャーズ 1月5日(土)より有楽町スバル座ほか全国順次公開
c)認定NPO法人 山形国際ドキュメンタリー映画際
http://sekaiichi-eigakan.com/

『YUKIGUNI』
監督/渡辺智史 撮影/佐藤広一 ナレーション/小林薫
配給/有限責任事業組合いでは堂 1月2日よりポレポレ東中野、アップリンク渋谷ほか全国順次公開
http://yuki-guni.jp/

2019年、第2の『カメ止め』になりそうな“大穴”はどれだ!? 国内インディーズ映画を先取りチェック

 ほぼ無名の監督とキャストが製作費300万円で撮り上げたことで話題となった映画『カメラを止めるな!』。都内2館で上映スタートしたこのインディーズ映画は、SNSや口コミで人気に火が点き、興収31億円超えの大ヒットを記録する社会現象となった。『カメ止め』と同じく“ワークショップ”スタイルで製作された大根仁監督のヒット作『恋の渦』(13)は、製作費がわずか10万円だった。もはやメジャーな映画会社でなくても、また大予算を投じずとも、企画次第で面白い映画を作ることは可能なことが実証された。では『カメ止め』に続く、大化けしそうなインディーズ映画はあるのだろうか。2019年期待の新作映画を探ってみよう。

 映画館を爆笑の渦に巻き込んだ『カメ止め』と同様に客席が熱く盛り上がりそうなのが、『緊急検証! THE MOVIE ネッシーvsノストラダムスvsユリ・ゲラー』だ。CSファミリー劇場の名物番組『緊急検証!』を国内外のロケを交えてスケールアップさせた劇場版であり、オカルト番組を愛するマニアたちから“クラウド・ファンディング”として製作費245万円を調達することで完成に至っている。

 オカルト雑誌「ムー」(学研プラス)でもおなじみ、ネス湖の幻の怪獣ネッシーの生存を確かめるために英国にまで現地取材を敢行し、さらに五島勉の日本語訳によって空前の大ベストセラーとなった『ノストラダムスの大予言』を新たに解釈、そして1970年代に超能力ブームを巻き起こしたユリ・ゲラーを越える新しい超能力者を探し出そうという、まず地上波テレビでは扱わない面白すぎるネタばかり。登場する“オカルト三銃士”は観客の興味のツボをピンポイントで攻めてくるので、「初笑いは映画館で」という人たちにオススメの爆笑エンターテイメント作品となっている。

 最近のヒット作は、SNS上で話題が広がることが大きな決め手となっている。ネットユーザーとの親和性という点で期待されるのが、「au」のCMでおなじみの松本穂香が主演した『アストラル・アブノーマル鈴木さん』。実写ドラマ版『この世界の片隅に』(TBS系)でブレイクした松本が、地方在住の痛~いユーチューバーを演じた社会派コメディとなっている。YouTubeで配信された短編ドラマ全17話を上映時間87分のドラマに再編集したディレクターズカット版で、若き演技派女優・松本は『この世界の片隅に』の健気な人妻すず役とは180度異なる毒吐きキャラに挑戦し、レアな魅力を放っている。

 松本の新しい一面を引き出した大野大輔監督は、主演も兼ねた痴話ゲンカコメディ『ウルフなシッシー』(18)で劇場デビューを果たした新鋭クリエイター。閉塞的な社会でやさぐれながら生きる若者たちの描き方に、独特の味わいを感じさせる。YouTubeから生まれた新感覚ドラマが、劇場でどのように受け止められるのか注目したい。

 監督としてブレイクが確実視されているのは、『映画 めんたいぴりり』を撮り上げた福岡在住の江口カン監督。『映画 めんたいぴりり』は博多の名産品「からしめんたい」の生みの親である川原俊夫と妻・千鶴子を、福岡出身の博多華丸と富田靖子が演じたほのぼの系実録ホームドラマとなっている。博多大吉が意表を突くキャラクターで共演しているのも見どころ。

 江口監督はCMディレクターとして福岡を拠点にして活動し、カンヌ国際広告祭で数々の賞を受賞。競輪の世界を題材にした激熱映画『ガチ星』(18)で監督デビューを果たした。2019年6月には、岡田准一主演映画『ザ・ファブル』が全国公開されることも決まっている。人間くさい世界を描くことに定評のある江口監督が、岡田のほか、木村文乃、山本美月、佐藤浩市ら豪華キャストを使って、どんなエンターテイメント作品に仕上げるのか楽しみ。

 インディーズ映画ならではのエッジの効いた作品として気になるのは、岡部哲也監督のデビュー作『歯まん』。歯まんとは歯の付いた女性器のことで、セックスをするたびに男性の局部を喰いちぎってしまう特殊体質な女子高生を主人公にしたダークファンタジーだ。若手監督の登竜門とされてきた「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」オフシアター・コンペ部門で、2015年の「北海道知事賞」を受賞している。

 ホラーコメディと思われがちな『歯まん』だが、人間なら誰もが持つコンプレックスそのものを主題としており、少女から大人へと成長していくヒロインの心の痛みを描いた異色ドラマとなっている。人を愛するたびに、その人の命を奪ってしまうというどうしようもない贖罪を抱え込んだ女子高生を演じた馬場野々香の堂々たる主演女優ぶりも見ものだ。

 常に作品選びや言動が話題を呼ぶ人気俳優・山田孝之。彼が初めて映画プロデュースに挑んだ『デイアンドナイト』も注目作となっている。『クローズZEROII』(09)で共演した阿部進之介が長年温めていた原案を、山田が脚本づくり、資金集めからサポートし、5年がかりで完成に漕ぎ着けた。秋田ロケを敢行した『デイアンドナイト』は阿部の他に安藤政信、清原果耶、田中哲司ら実力派キャストがそろい、地方都市で暮らす若者たちのシビアさを生々しく伝える犯罪サスペンスとして見応え充分。また、山田は撮影に入るまでのプリプロダクションだけでなく、秋田で約1か月続いた撮影にもほぼ連日立ち会い、雪掻きや撮影後の清掃まで黙々とこなすなど、完全に裏方に徹していたことも伝えられている。

 山田とは『クローズZERO』(07)で共演した小栗旬が『ゴジラvsキングコング』(2020年公開予定)でハリウッドデビューを果たすことが報じられたが、山田はプロデューサー、小栗はハリウッドメジャー……と映画界を牽引する売れっ子俳優2人がそれぞれ違った道を進んでいるのも面白い。俳優たちの「もっと面白い映画に出たい」、観客たちの「もっと面白い映画を観たい」という想いがうまく結びつけば、日本映画界に新しい潮流が生まれるに違いない。
(文=長野辰次)

『緊急検証! THE MOVIE ネッシーvsノストラダムスvsユリ・ゲラー』
監督/髙橋圭 脚本/伊藤のぶゆき 主題歌/筋肉少女帯「オカルト」
出演/逸見太郎、大槻ケンヂ、辛酸なめ子、飛鳥昭雄、山口敏太郎、中沢健、吉田悠軌、ユリ・ゲラー、清田益章、秋山眞人、康芳夫、森達也、唐沢俊一
ナレーター/奈佐健臣、上坂すみれ
配給/東北新社 1月11日(金)よりユナイテッド・シネマ豊洲、ユナイテッド・シネマとしまえん、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかロードショー
(C)東北新社
https://www.fami-geki.com/kinkyu/themovie/

『アストラル・アブノーマル鈴木さん』
監督・脚本・編集/大野大輔
出演/松本穂香、西山繭子、田中偉登、広山詞葉、谷のばら、大沼遼平、木村知貴、芦原健介、中沢健、三坂知絵子、AKI、松井理子、鳥谷宏之、大野大輔、根矢涼香、加藤啓
配給/SPOTTED PRODUCTIONS 1月5日(土)より新宿シネマカリテほか全国公開
(C) 2018 ALPHABOAT・SPOTTED PRODUCTIONS
http://asab-szk.com/

『映画 めんたいぴりり』
原作/川原健『明太子をつくった男 ふくや創業者・川原俊夫の人生と経営』
監督/江口カン 脚本/東憲司 
出演/博多華丸、富田靖子、斉藤優(パラシュート部隊)、瀬口寛之、福場俊策、井上佳子、山時聡真、増永成遥、豊嶋花、酒匂美代子、ゴリけん、博多大吉、中澤裕子、髙田延彦、吉本実憂、柄本時生、田中健、でんでん
配給/よしもとクリエイティブ・エージェンシー 1月11日(金)より福岡先行ロードショー、1月18日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
(C)2019めんたいぴりり製作委員会
http://piriri_movie.official-movie.com/

『歯まん』
監督・脚本/岡部哲也
出演/馬場野々花、小島祐輔、水井真希、中村無何有、宇野祥平
配給/アルゴ・ピクチャーズ R18+ 3月2日(土)からUPLINK渋谷ほか全国順次公開
(c)2015「歯まん」
http://www.haman.link/

『デイアンドナイト』
企画・原案/阿部進之介 脚本/藤井道人、小寺和久、山田孝之 監督/藤井道人 プロデューサー/山田孝之、伊藤主税、岩崎雅公
出演/阿部進之介、安藤政信、清原果耶、小西真奈美、佐津川愛美、深水元基、藤本涼、笠原将、池端レイナ、山中崇、淵上泰史、渡辺裕之、室井滋、田中哲司
配給/日活 1月19日(土)より秋田県先行公開、1月26日(土)より全国公開
https://day-and-night-movie.com/

福士蒼汰『BLEACH』、吉岡里帆『音量を上げろタコ』……2018年の「大コケ映画」3作品

 新年を迎えるにあたって、映画業界の関係者に2018年を振り返ってもらったところ、「話題性があったにもかかわらず、大コケした作品」のタイトルが複数挙がった。それぞれの映画に寄せられた批判コメントとともに、紹介していこう。

「福士蒼汰主演の映画『BLEACH』(7月20日公開)は、『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載されていた同名漫画の実写版とあって、当初より原作ファンからは不安な声が上がっていました。ただ、キャストは福士を筆頭に杉咲花や吉沢亮といった人気の若手や、長澤まさみに江口洋介ら実力派の役者が集結。また、『ジャンプ』作品の実写化は『銀魂』や『るろうに剣心』などの成功例もあるだけに、関係者は『BLEACH』にも期待していたようです」(映画誌ライター)

 こうして全国329スクリーンで大々的に公開された『BLEACH』だが、映画ランキング(興行通信社)では初登場4位と微妙な滑り出し。ネット上には「アクションシーンは評価できる」という声も寄せられるも、「登場人物のコスプレ感が強くて、安っぽく見える」「原作の世界観とはかけ離れた仕上がり」などと厳しい書き込みも。それでも、翌週は5位に踏みとどまったが……。

「公開から1週間後、7月27日に山下智久主演の『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』が公開されると、『BLEACH』がターゲットにしていた若年層や女性層が一気に流れた模様。『コード・ブルー』が初登場から3週連続で1位を獲得し、その後もしばらくトップ10入りしていたのに対し、『BLEACH』は公開3週目にはランキング圏外となってしまいました」(同)

 一方、4月20日公開の『いぬやしき』はとんねるず・木梨憲武と佐藤健のダブル主演で注目を集めていたはずが、ランキング5位発進という中途半端な成績に。こちらも「イブニング』(講談社)で連載された同名漫画を実写化したもので、全国313スクリーンで上映開始。初週の土日の観客動員は9万1000人、興行収入は1億2400万円だったが、同日公開されたハリウッド作品『レディ・プレイヤー1』は土日動員21万人超え、興収も3億円オーバーで2位発進と、出だしから大きく引き離された。

「さらに、この時期は『名探偵コナン ゼロの執行人』(4月13日公開)が爆発的ヒットを記録していたほか、ディズニー映画『リメンバー・ミー』(3月16日公開)も根強い人気を保っていたため、『いぬやしき』は公開4週目でランク外に。ネット上には『佐藤はもちろん、ノリさんの演技も良かった』『映像に迫力があった』という評価が寄せられていたものの、『話題作の公開が重なって、埋もれたね』と同情する者も少なくありませんでした」(映画関係者)

 最後は、10月12日公開の『音量を上げろタコ! なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』の“大爆死”をおさらいする。

「阿部サダヲ主演、ヒロインは吉岡里帆ということで話題性のありそうな映画でしたが、初週からトップ10入りを逃しました。214スクリーンでの上映開始だったとはいえ、同日に206スクリーンで公開した『幸福の科学』のアニメ映画『宇宙の法 黎明編』は初登場1位、9月に亡くなった樹木希林さんの遺作『日日是好日』は10月13日から160スクリーンで公開して初登場2位にランクイン。『音量を上げろタコ!』の爆死ぶりが際立ちました」(同)

 ネット上では今年、「吉岡がゴリ押しされている」としてアンチが急増していたが、同映画については「吉岡だけのせいではなさそう」「そもそもストーリーに魅力がない」といった指摘も。

「主人公のロック歌手・シン(阿部)が“声帯ドーピング”で喉を壊しかけている中、ストリートミュージシャンのふうか(吉岡)と出会い、距離を縮めていく……という内容でしたが、『なんか古臭い設定』『タイトルからしてサムい』『これはヒロインが吉岡じゃなかったとしても見に行かないわ』などと言われていた。その結果、実際に見に行ったネットユーザーからは『劇場ガラガラ』との報告が寄せられ、初週の興収に関して『約3000万円』とする報道もありました」(同)

 2019年もさまざまな新作映画の公開が控えているが、それぞれの出足に注目していきたい。

イーストウッド88歳の主演&監督作『運び屋』ほか、2019年注目すべきメジャー洋画を一気に紹介!!

 あけましておめでとうございます。お正月休みには、たっぷり映画を楽しみたいという方が多いのではないでしょうか。そんな映画好きなみなさんへ、2019年注目のメジャー洋画をどどんとご紹介したいと思います。2月24日(現地時間)に開催されるアカデミー賞授賞式に向けて、米国ではノミネートが有力視される話題作が年末に続々と公開されました。ちなみにノミネート発表は1月22日になります。WOWOWの映画情報番組『週刊ハリウッドエクスプレス』(毎週土曜朝11:30~)の飯塚克味ディレクターに、賞レースに絡んでいる注目作、気になる話題作について語ってもらいました。

──番組の収録・編集で忙しいところ、すみません。ハリウッドの最新情報に詳しい飯塚ディレクターに、日本でも話題になりそうなオススメ作品を教えてもらえればと思います。

飯塚克味(以下、飯塚) 仕事に追われてなかなか本編を観ることができずにいるんですが、僕で話せる範囲でよかったら(笑)。アカデミー賞ノミネート間違いないのは、日本でも公開が始まったレディー・ガガ主演作『アリー/スター誕生』ですね。米国では初週1位にはなれなかったものの、高いアベレージで動員を続け、米国内だけで興収2億ドルを超えています。レディー・ガガはテレビドラマ『アメリカン・ホラー・ストーリー:ホテル』(16)でゴールデングローブ賞テレビドラマ部門女優賞をすでに受賞していますが、ネームバリューのある彼女ならアカデミー賞にノミネートされるだけで大変なニュースになるでしょう。

──監督を兼任しているブラッドリー・クーパーも、ステージシーンでがんばっていますね。

飯塚 ブラッドリー・クーパーはもともと監督志望だったけれど、『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(09)でブレイクし、イケメン俳優として有名になってしまった人です。ロン・ハワードと境遇が似ていますね。ロン・ハワードも『アメリカン・グラフィティ』(73)などに俳優として出ていたんですが、“B級映画の帝王”ロジャー・コーマンのお陰で『バニシングIN TURBO』(77)を主演と兼ねる形で監督させてもらった。多分、ブラッドリー・クーパーも出演を兼ねることを条件に、監督をやらせてもらったんじゃないかと思います。『スター誕生』というタイトルですが、実は『スター没落』でもあるんです。女は輝き、手を貸した男は逆に落ち目になっていく。なぜか米国人はこの物語が大好きで、映画化されるのは『栄光のハリウッド』(32)も含めると今回で5度目なんです。

■今年の賞レースの大本命はこれだ!!

──KKKに潜入捜査する黒人刑事を主人公にした実録映画『ブラック・クランズマン』は賞レースで本命視されていますね。

飯塚 スパイク・リー監督はここ何本か日本での劇場未公開が続きましたが、『ブラック・クランズマン』は期待できそうです。2016年のアカデミー賞で白人俳優ばかりがノミネートされていたことを、スパイク・リーはツイッター上で批判し、翌年はアメリカンアフリカ系の俳優たちが大挙ノミネートされました。彼の発言の影響が大きかったと思います。今年のアカデミー賞はさらにすごいことになりそうです。スパイク・リーはパームスプリングス国際映画祭で生涯功労賞を受賞することが決まっており、アカデミー会員たちも彼のことを無視できないはず。また、2018年はライアン・クーグラー監督の『ブラックパンサー』が全米で7億ドルという驚異的な大ヒットを記録しました。単なるヒーローアクションものと思われがちな『ブラックパンサー』ですが、アフリカ系アメリカ人映画批評家協会の最優秀作品賞に選ばれるなど、賞レースにも絡んでいます。主人公が最後にスピーチする「愚か者は壁を作るが、賢き者は橋を架ける」という台詞は、米国人の胸に刺さったようです。『ブラックパンサー』は日本で考えられている以上に、米国では大きな作品となっています。アフリカ系の監督や俳優たちが今年のアカデミー賞を席巻しそうです。

──人種差別を題材にした『グリーン ブック』もアカデミー賞で有力視されています。監督のピーター・ファレリーって、もしかして……。

飯塚 そうです、ファレリー兄弟のお兄ちゃんのほうです(笑)。まさか『ジム・キャリーはMr.ダマー』(94)を撮った監督がアカデミー賞の有力候補になるなんて、誰も考えなかったでしょう。同姓同名の別人かと思いますよね(笑)。人種差別が残っていた1960年代の物語ですが、ピーター・ファレリーの笑いのセンスはそう変わってないんじゃないかなぁ。でもヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリといった演技派俳優が出演しているので、ピーター・ファレリーも彼らとコミュニケーションを図りながら、バランスの取れた作品になっていると思います。米国では11月末に公開され、興収的にはまだまだな感じですが、アカデミー賞にノミネートされたら大きく伸びるでしょうね。

 

■イーストウッドとアカデミー賞との関係

──製作費6,000万ドルを投じた大作『ファースト・マン』(日本では2月8日公開)は、米国での興収は奮わなかったようですね。

飯塚 『ラ・ラ・ランド』(16)のデイミアン・チャゼル監督とライアン・ゴズリングが再びタッグを組んだ注目作ですが、ゴールデングローブ賞では助演女優賞と作曲賞の2部門にノミネートされただけでした。月面に初めて立った英雄ニール・アームストロング船長の伝記映画に対し、アカデミー賞がどう対応するのか気になるところです。宇宙飛行士たちを主人公にした実録ものといえば、名作『ライトスタッフ』(83)があるので、どうしても比較してしまいますよね。配給のユニバーサルは作品内容には自信を持っているらしく、日本での試写はIMAXシアターで行なっています。アカデミー賞の結果次第では、日本で化ける可能性のある作品だと思います。

──クリント・イーストウッドの主演&監督作『運び屋』が公開されるのも2019年の大きなニュース。

飯塚 88歳になるイーストウッドが、実在した麻薬の運び屋を演じるという大注目作です。米国では年末に公開され、イーストウッド主演作としては歴代2位、監督作としては3位という好スタートを切っています。個人的にも、とても楽しみにしている作品ですが、これはアカデミー賞には絡まないんじゃないかと思います。『ミリオンダラー・ベイビー』(04)で作品賞・監督賞などを受賞して以降、アカデミー賞ではイーストウッド作品は選考の対象から外れています。イーストウッドほどの存在になると、アカデミー賞にノミネートされましたが受賞はできませんでした……というわけにはいきませんからね(笑)。今では誰もが名監督・名優として認めるイーストウッドですが、かつてはオラウータンと共演した『ダーティファイター』(78)や続編『ダーティファイター 燃えよ鉄拳』(80)なんて、おかしな映画に主演しています。それもまた、彼の魅力。イーストウッド映画を観て育った世代には、『運び屋』は見逃せません。

■大ヒット作『ボヘラプ』の監督はどうなった?

──ジェームズ・キャメロン製作の『アリータ:バトル・エンジェル』は正月映画として世界公開される予定だったのが、2月22日(金)に公開延期。日本のSF漫画『銃夢』が原作ですが、仕上がりが心配です。

飯塚 予告編の公開以降、ヒロインの眼の大きさばかりが話題になっています。いくらヒロインがアクロバティックな動きを見せても、「アニメでしょ」と思われてしまいますよね。ロバート・ロドリゲス監督がこちらの想像を上回るサプライズを用意していることを期待しましょう(笑)。米国では『アリータ』の正月公開が間に合わなかったことで、20世紀フォックスが『デッドプール2』をR指定からPG13に再編集したものを急遽上映するなど、対応に苦慮したようです。日本では『ボヘミアン・ラプソディ』が大ヒットしているので、逆にお正月のスクリーンが空いてラッキーでした。『ボヘラプ』の日本での熱狂ぶりはすごく、日本での興収75億円を射程距離に置いています。世界的に見ても、日本での『ボヘラプ』人気はすごいことになっています。

──日本で大絶賛されている『ボヘラプ』ですが、ブライアン・シンガー監督について触れたニュースはあまり聞かないんですが……。

飯塚 ブライアン・シンガーは監督としてクレジットは残っていますが、撮影途中で降板して、俳優でもあるデクスター・フレッチャーが残り2週間分を撮って完成させています。トラブルを起こしたブライアン・シンガーは、ディズニー配給になる『X-MEN』シリーズからも外されるでしょう。ディズニーはゴシップを嫌いますから。ディズニーといえば、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(14)のジェームズ・ガン監督を過去のツイッター上の暴言を理由に、『ガーディアンズ』シリーズから降板させたことも話題になりました。マーベルユニバースである『ガーディアンズ』を降ろされたジェームズ・ガンですが、ライバルであるDCコミックの『スーサイド・スクワット』(16)の続編の脚本に起用され、監督も務めることになりそうです。まるで笑い話のようですが、『ガーディアンズ』のキャストの中には『スーサイド・スクワッド』に出たがっているジェームズ・ガン支持派が少なくないようですね。転んでもただでは起きないところは、さすがジェームズ・ガンです(笑)。

 

■ハリウッドの新トレンドは、Jホラーの影響?

──ダリオ・アルジェント監督が撮ったカルトホラー『サスペリア』(77)のリメイク版が、日本では1月25日(金)から公開されます。これって米国では劇場公開されたんでしょうか?

飯塚 『君の名前で僕を呼んで』(17)のルカ・グァダニーノ監督がリメイクした『サスペリア』はAmazonが出資した作品で、米国では2018年10月に限定公開されただけです。銀座シネパトスでひっそり上映されたみたいな感じですね(笑)。ホラーファンにとっては特別な作品なので、ひょっとしたら興収トップ10に入るかなと思っていたんですが、いかせん公開劇場数が少なすぎました。配信を前提に製作された作品なので、仕方ないのかもしれません。今後は劇場公開はなくて配信のみ、パッケージ化もされないという洋画が増えてくるかもしれません。日本にはオリジナル版『サスペリア』の熱狂的なファンが多いので、劇場公開で盛り上がってほしいですね。

──米国では『イット・フォローズ』(14)、『ドント・ブリーズ』(16)『ゲット・アウト』(17)など新感覚のホラー作品が人気を集めています。

飯塚 ホラーとサスペンスの中間みたいな作品が米国では当たっていますね。日本では11月に公開された『ヘレディタリー/継承』も、新しいタイプのホラーとしてかなり話題を集めました。『イット・フォローズ』や『ドント・ブリーズ』は出来がよかったし、『ゲット・アウト』は大ヒットし、アカデミー賞脚本賞まで受賞しています。ホラーなどのジャンル映画を低く見ていた認識が、米国人の中でもずいぶん変わってきているようです。

──不条理な物語『イット・フォローズ』などは、Jホラー映画の進化形のような印象を受けました。

飯塚 Jホラーの影響は確実にあるでしょう。Jホラーが種を蒔いて、海外で予想以上に大きな花を咲かせているような感じがしますよね。Jホラーブームの発火点となった鶴田法男監督は、現在は中国で撮った新作が公開待機中だそうです。内容はまだ明かせないそうですが、鶴田監督が恋愛ドラマを撮るとは思えないので、ホラーファンは期待しますよね(笑)。鶴田監督だけでなく、中国資本で映画を撮るホラー系の日本の監督はけっこういるようです。ホラー出身監督といえば、ジェームズ・ワン監督の『アクアマン』が日本では2月8日(金)に公開されます。低予算ホラー『ソウ』(04)でデビューしたワン監督が、『ワイルド・スピードSKY MISSION』(15)を経て、大作『アクアマン』を撮るなんて、感無量です。ワン監督がプロデュースしている『死霊館』『インシディアス』シリーズも面白さをキープしているので、『アクアマン』の出来映えも楽しみです。

 

■ホームシアター派に推したいSF官能ホラー

──オススメ映画はまだまだありそうですね。

飯塚 アカデミー賞絡みで挙げるなら、ヨルゴス・ランティモス監督のコスチュームもの『女王陛下のお気に入り』(日本では2月15日公開)もノミネートは固いでしょう。賞レース以外では、『トランスフォーマー』シリーズの最新作『バンブルビー』(日本では3月22日公開)が面白そうです。『トランスフォーマー』はシリーズが進むにつれてごちゃごちゃしてきましたが、これは少女とバンブルビーとのシンプルな友情ものなので、予告編を観た限りでは期待できそうです。ヒロイン役のヘイリー・スタインフィルドは作品選びがうまいので、脚本もきちんとしているんじゃないかと思います。『バンブルビー』にも出演しているジョン・シナ主演のコメディ『Blockers(原題)』は米国ではヒットしたんですが、日本での配給が決まっていないのが残念です。ハリウッド作品ではありませんが、僕が個人的に推しているのがスペイン・アルゼンチン合作映画『家(うち)へ帰ろう』。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭コンペ部門の一次審査員をしている関係で毎年100本ほど海外からの応募作品を観ていますが、2018年の観客賞を受賞した『家へ帰ろう』は素晴しい作品です。日本では12月22日から公開が始まったばかりなので、劇場で感動体験をしたい方はぜひ足を運んでみてください。

──週刊誌「SPA!」(扶桑社)で「飯塚克味のボーナス・エイゾーに乾杯!」を連載されていた飯塚さんですが、最近のオススメのパッケージものは?

飯塚 11月にキングレコードからブルーレイとしてリリースされた『スペースバンパイア〈最終版〉』の特典インタビューがよかったですね。バンパイア役のマチルダ・メイの堂々としたヌード姿が強烈だった『スペースバンパイア』(85)ですが、本人へのインタビューによると当時のマチルダ・メイは脱ぐことは納得していたものの、どんな役か説明されないままカメラの前に立たされたそうなんです。そのことを恥じらいながら語る表情がいいんですよ(笑)。WOWOWの『週刊ハリウッドエクスプレス』の年明けは1月12日(土)午前10時30分、いつもよりちょっと早く始まるので、こちらもよろしくお願いします。
(取材・文=長野辰次)

●飯塚克味(いいづか・かつみ)
千葉県出身、日大芸術学部卒業。フリーの映像ディレクターとして、WOWOWの映画情報番組『週刊ハリウッドエクスプレス』の演出などを担当。映像ソフトライターとして「DVD&動画配信でーた」(KADOKAWA)などでも執筆中。

平成30年、世間を騒がせた日本映画界10大事件!! 宗教映画の跋扈、お家騒動、伝説の大コケ映画……

 平成時代は日本映画界が低迷期にあった1988年から始まった。90年代にはミニシアターブームが起きるが、郊外に次々と建つ巨大ショッピングモールに併設されたシネコンがその勢いを凌駕していく。テレビ局主導による“製作委員会”方式の映画とシネコンは相性がよく、ゼロ年代には邦画ブームが到来。人気ドラマの劇場版から、人気コミックを実写化したキラキラ映画へとフォーマットを変え、現代に至る。一方、高畑勲、宮崎駿という二大天才アニメーターを擁したスタジオジブリは博報堂、電通という大手広告代理店と組み、『平成狸合戦ぽんぽこ』(94)や『もののけ姫』(97)などを大ヒットさせた。平成時代に日本映画界で起きた事件の数々をもとに、この30年間を振り返ってみた。

10)北野武監督、衝撃のデビュー

 平成の日本映画史は、北野武監督の登場によって幕が開いた。映画監督・北野武のデビューは、まさに衝撃的な事件だった。松竹配給の『その男、凶暴につき』(89)は深作欣二監督によって撮影準備が進んでいたが、深作監督が降板するというアクシデントから、主演のビートたけしが監督も兼任することになった。そして北野武監督のデビュー作をスクリーンで観た我々は、言葉を失った。乾いた映像とバイオレンス、説明的な台詞を排したキレのある演出は、従来のじめっとした邦画のイメージを一新させるものだった。深作監督と共に脚本を練り上げた野沢尚は初号試写を見て、自分の書いたシナリオがガタガタにされたことに愕然とするも、「悔しいが、これは傑作だ」と北野監督の才能を認めざるを得なかったと小説『烈火の月』(小学館)のあとがきで語っている。

 北野監督は、沖縄ロケ作品『3対4x 10月』(90)、静謐さを極めたラブストーリー『あの夏、いちばん静かな海』(91)でキタノブルーと呼ばれる世界観を確立し、再び主演&監督した『ソナチネ』(93)で北野ワールドは完成することになる。日本だけでなく、欧州でも北野映画は絶賛された。ワーナー・ブラザーズとオフィス北野の共同配給作『アウトレイジ最終章』(17)を最後にビートたけしは、オフィス北野から離脱。監督デビュー以降、北野作品を常にサポートしてきた森昌行プロデューサーとも袂を分かつことになった。2018年12月26日にオンエアされたトーク番組『チマタの噺SP』(テレビ東京系)に出演したビートたけしは「2020年には映画を撮りたい」と語った。ポスト平成時代の北野映画はどんな体制でつくられ、どんな内容になるのだろうか。

9)『紙の月』さながらの横領事件発覚

 事件は「映倫」で起きた。事件が発覚したのは1992年。当時、ヘア論争で注目を集めていた「映倫(映画倫理機構)」だったが、経理担当の女性職員が映倫名義の預金を横領していたことが明るみになった。映画の審査料などが振り込まれた銀行口座から、ほぼ全額にあたる9,200万円を引き出し、そのうち7,700万円を着服していたというもの。「週刊新潮」(1993年1月7日号)によると「また、事務局長印鑑を無断で使用し、小切手を渋谷区内の会社社長あてに振り込んでおり、この社長に貢ぐための犯行という見方が強い」とある。

 宮沢りえが日本アカデミー賞最優秀女優賞を受賞した『紙の月』(14)を思わせる横領事件が、映画倫理を守る「映倫」で起きたことに驚いた。女性職員は懲戒解雇処分されているが、「映倫」には映画には詳しいものの経理に明るい職員がほとんどいないために起きた事件だった。なけなしのお金を「映倫」の審査料として支払うインディーズ系の映画監督たちは「映倫」を目の敵にするが、杜撰な経理を行なっていたことへの不信感もあるようだ。

8)監督たちの“理想郷”ディレカンの崩壊

 カルト映画として名高い『太陽を盗んだ男』(79)の長谷川和彦、『狂い咲きサンダーロード』(80)でインディーズ映画の旗手と呼ばれた石井聰亙(現・石井岳龍)、薬師丸ひろ子主演の大ヒット作『セーラー服と機関銃』(81)の相米慎二、ピンク映画出身の高橋伴明ら、気鋭の映画監督たちが集まり、1981年にディレクターズ・カンパニー、通称ディレカンが設立された。監督たちがお互いに協力し、大手映画会社の制約から離れた新しい映画を生み出す理想の創作集団として、大きな期待を寄せられていた。池田敏春監督の『人魚伝説』(84)、相米監督の『台風クラブ』(85)などの名作・佳作を放つものの、『光る女』(87)の興行的失敗、91年には井筒和幸監督の時代劇大作『東方見聞録』(劇場未公開)の撮影現場でキャストが事故死するなどのトラブルが続き、ディレカンは92年に倒産へと追い込まれた。

 ホラーコメディ『発狂する唇』(00)などで知られる佐々木浩久監督はディレカンで助監督としてのキャリアを積んでおり、当時の体験を『衝撃の世界映画事件史』(洋泉社)に記している。才気溢れる監督たちが集まったディレカンだったが、予算を管理するプロデューサーは不在だった。佐々木監督は「映画の制作経験のないプロデューサー」を重用し始めたことがディレカン崩壊のいちばんの要因だったと指摘している。スタッフへのギャラの支払いの遅れが目立つようになったディレカン後期からは、高橋伴明監督や黒沢清監督は低予算のオリジナルビデオ作品を手掛けるようになり、90年代のVシネマブームへとつながっていくことになる。

7)名監督のミステリアスな最期

 1980年代~90年代中期の日本映画界は、収面での低迷が長く続いた暗黒時代だった。そんな中で孤軍奮闘の活躍を見せたのが、個性派俳優から映画監督へと転身した伊丹十三だった。51歳にして『お葬式』(84)で監督デビューを果たし、グルメものの先駆作『タンポポ』(85)、業界の裏側を軽妙に描いた『マルサの女』(87)などユニークな作品を続けざまにヒットさせた。日本映画界を代表するヒットメーカーとなった伊丹監督だが、1997年12月20日、伊丹プロダクションのある都内のマンションの下で遺体となって見つかった。

 遺書があったことから警察は飛び降り自殺と断定。しかし、暴力団対策法の施行に合せて製作された『ミンボーの女』(92)の公開直後に5人の暴漢に襲われて負傷、さらにそのときの体験をもとにした『マルタイの女』(97)が公開されて間もなかったことから、暴力団関係者を刺激しすぎたのではないかなどの憶測が乱れ飛んだ。

 伊丹監督は64歳でその生涯を終えたが、多くのフォロワーを生んでいる。『マルサの女』のメイキングを担当した周防正行監督は『ファンシィダンス』(89)で一般映画デビュー、『マルタイの女』に企画協力した三谷幸喜は『ラヂオの時間』(97)、『大病人』(93)の臨死体験シーンを担当した山崎貴は『ジュブナイル』(00)でそれぞれ監督デビュー。黒沢清監督は『スウィートホーム』(89)のビデオ版の著作権をめぐって伊丹プロと裁判沙汰となったが、彼もまた伊丹監督が早くから才能を認めた一人だった。伊丹監督がその後の日本映画に与えた影響は少なくない。

6)伝説となった平成トホホ映画

 佐藤純彌監督の『北京原人 Who are you?』(97)と並ぶ、伝説の大コケ映画として好事家たちの脳裏に刻まれているのが那須博之監督の実写版『デビルマン』(04)だ。平成トホホ映画を決めるアンケートを実施したら、この2本は確実にランクインするだろう。『ビー・バップ・ハイスクール』(85)をヒットさせた那須監督は、永井豪のカルト漫画を学園青春映画として撮り上げるつもりだったらしい。だが、公開を遅らせてまで完成させた映画は、見せ場であるデビルマンと宿敵サタンとの対決シーンがいきなり2Dアニメになるという斬新すぎる演出で、観客たちを仰け反らせることになった。製作費10億円に対し、興収はその半分だったと言われている。ビートたけしは「第14回東京スポーツ映画大賞」において「これは『みんな~やってるか!』『シベリア超特急』『北京原人』に続く映画史に残る4大おバカ映画」と評し、特別映画賞を贈った。

 DVDで『デビルマン』を久しぶりに見直してみた。確かに演技経験のないまま主演に抜擢された不動明・飛鳥了役の伊崎央登・右典兄弟の芝居はトホホすぎ、彼らを追うカメラもおざなりだが、意外なキャストの出演シーンだけは熱が感じられた。原作ではデーモン化した両親にあっさり殺されるススム少年を子役時代の染谷将太が演じており、人類滅亡という絶望の世界をミーコ(渋谷飛鳥)と共に生きていくことになる。染谷と渋谷の出演パートには、スタッフもかなり力を入れていたことが画面から伝わってくる。那須監督は『デビルマン』公開の翌年2005年に肝臓がんで亡くなった。染谷の将来に、明るい希望を感じていたのではないだろうか。

5)邦画バブルに沸き、そして沈んだゼロ年代

 フジテレビの人気ドラマ『踊る大捜査線』の劇場版第2弾『踊る大捜査線THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(03)が実写邦画歴代1位となる興収173.5億円を記録。長澤まさみが大ブレイクした『世界の中心で、愛をさけぶ』(04)は85億円の大ヒット。テレビ局を中心に映画会社、出版社、DVDメーカーなどが出資しあう「製作委員会方式」がゼロ年代にはすっかり定着し、人気テレビドラマやベストセラー小説の映画化が相次いだ。

 邦画ブームに活気づく中、独立系映画会社シネカノンも『パッチギ!』(04)、『フラガール』(06)などのヒット作を放ち、“準メジャー”と称されるほどの勢いを見せた。シネカノンはジャパン・デジタル・コンテンツ信託(JDC)と提携し、2006年から映画ファンドを始めたが、JDCは不正流用を金融庁に指摘されて行政処分に。シネカノンは2010年に総額47億円3000万円の負債を抱え、東京地裁に民事再生法の適用を申請することになった。

 2008年には『純喫茶磯辺』(08)のムービーアイ、2010年には『日本以外全部沈没』(06)のトルネード・フィルム、2013年にはトニー・レオン、前田敦子らの出演を予定していた『一九〇五』の製作を進めていたプレノンアッシュが破産。邦画バブルに沸いたのも束の間、映画業界に再び冬の時代が訪れた。

4)ウルトラマンが泣いている

 円谷英二と言えば、『ゴジラ』(54)の特技監督を務め、『ウルトラマン』(TBS系)で怪獣ブームを巻き起こした特撮の神さま。その円谷英二が創業した「円谷プロ」でのお家騒動が表面化したのが2004年。円谷英二の長男・一(2代目社長)の長男が5代目社長を継いでいたが、女子社員から過去のセクハラ行為を訴えられて辞任。次男が6代目社長となるも、従兄弟である4代目社長(円谷英二の次男・皐の息子)の息のかかった役員たちによって「役員会を軽視した」と解任されてしまう。団結力を誇るウルトラマンファミリーと、円谷一族はまったく違った。内紛続きの後、円谷プロは企業買収を得意とする会社に乗っ取られ、円谷一族は一掃されることに。このへんの内情は『ウルトラマンが泣いている 円谷プロの失敗』(講談社現代新書)で詳しく語られている。

 その後の円谷プロは、円谷英二時代の現場を知る元カメラマンの大岡新一氏が製作部長を経て、2008年に社長に就任。新作を作る度に赤字になることが当たり前になっていた長年の放漫体質を改め、借金のない健全経営へと立て直した。ちなみに大岡氏は『ウルトラマン』シリーズの中で最も好きなエピソードに、『帰ってきたウルトラマン』(TBS系)の「怪獣使いと少年」を挙げている。「経営についてはいずれ有能な後進に譲り、一カメラマンに戻りたい」(週刊現代2015年11月14日号)と語り、現在は相談役に退いている。昭和から続いた負の遺産を整理した、まさに“帰ってきたウルトラマン”だった。

3)宗教アニメがアカデミー賞ノミネート?

 毎週土曜の午前、国内映画の興収ランキングを紹介している『王様のブランチ』(TBS系)だが、2018年10月は2週にわたってちょっとした異変が起きた。2週連続でランキング1位になった新作映画について、映画コメンテーターのLiLiCoや出演者全員がひと言も口を開かずに映画コーナーを終えたのだ。このとき1位になったのは、アニメ映画『宇宙の法 黎明編』。「幸福の科学」の大川隆法総裁が製作総指揮・原案を務めた作品だった。

 2018年5月には清水富美加改め千眼美子がヒロインを演じた、大川隆法の自伝映画『さらば青春、されど青春。』も公開された。また、アニメ映画『UFO学園の秘密』(15)は、米国のアカデミー賞長編アニメ部門に『思い出のマーニー』『バケモノの子』と共に日本代表作品としてエントリーされている。最終的なノミネートに残ったのは『思い出のマーニー』だけだったが、大川総裁がオスカーに近づいた瞬間だった。

 宗教団体と映画界の関係をひも解くと、過去には創価学会の初代理事長・戸田城聖を丹波哲郎が演じた『人間革命』(73)が東宝系で全国公開され、その年の大ヒット作『日本沈没』に次ぐ観客動員を記録している。アニメブームの発火点となった『宇宙戦艦ヤマト』が77年に劇場公開された際には、西崎義展プロデューサーは創価学会系の団体「民音」で前売り券30万枚をさばいてもらい、『ヤマト』をヒットへと導いた。映画と宗教は思いのほか親和性が高いと言えるだろう。

2)会社組織は街宣車に弱かった

 日中合作ドキュメンタリー映画『靖国 YASUKUNI』(07)は劇場公開前に大きな波紋を呼んだ。「反日映画だ」と報じた「週刊新潮」の記事を読んだ自民党の稲田朋美国会議員が、文化庁の助成金を『靖国』が受けていることに疑問を投げ掛けたことから、騒ぎが広まった。上映を予定していた銀座シネパトスや都内のシネコンに抗議の電話が殺到し、公開中止を求める街宣車がシネパトスの前に現われた。表現の自由を侵害する行為だという反論もあったが、当初公開を予定していた映画館は、公開中止に追い込まれた。

 和歌山県太地町で行なわれているイルカ漁の様子を米国人クルーが盗み撮りしたドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』(09)も2010年の日本での公開前に大変な騒ぎとなったが、肝心の映画の公開が始まると論争は過熱することなく次第に沈静化していった。全体像のよく見えないものや外来者に対する警戒心、恐怖心が騒ぎをよりヒステリックなものにしていたようだ。『ザ・コーヴ』の内容に疑問を覚えた八木景子監督は、自費を投じて反証映画『ビハインド・ザ・コーヴ 捕鯨問題の謎に迫る』(16)を製作し、日本だけでなく米国や各国での上映を続けている。『ビハンド・ザ・コーヴ』の公開時、八木監督が「配給や宣伝まで個人でやったのがよかったと思う。企業だったら抗議メールが殺到していたんじゃないでしょうか」と笑顔で語った言葉が印象的だった。

1)日本の興収No.1映画は……?

 日本映画の歴代興収ランキングは宮崎駿監督の劇場アニメ『千と千尋の神隠し』(01)の308億円が、やはり宮崎監督の『もののけ姫』(97)の193億円を抜いて以来、不動の1位の座を守っている。ところが、宮崎監督の『千と千尋』が日本映画の興収1位という認識は、日本人だけのものだった。新海誠監督の『君の名は。』(16)は国内興収250.3億円を記録し、『千と千尋』に次ぐ2位とされているが、世界興収では中国や韓国などアジア各国でも人気を呼んだ『君の名は。』は3.55億ドル(日本円で約393億円)を稼ぎ、『千と千尋』の世界興収2.75億ドルを上回っている。引退を撤回した宮崎監督やスタジオジブリに対する配慮なのか、このことはあまり大きなニュースにはならなかった。これからは国内興収ではなく、世界興収でランキング発表したほうが、映画業界の活性化のためにもよいのではないだろうか。

(文=長野辰次)

ポジティブ思考で非モテ系が超絶美女に大変身!? 幸せになる秘訣『アイ・フィール・プリティ!』

 録音された自分の声を聞いて、愕然とした覚えはないだろうか。自分のことは自分がいちばん知っていると思いがちだが、自分自身を客観視して認識することは難しい。映画『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』の主人公レネーもそうだった。自分の容姿に自信が持てずにいたレネーだが、美容整形することもなく、誰もが振り返る超絶美女へと大変身を遂げる。一体、何が彼女を変えてしまったのだろうか。

 レネー・ベネット(エイミー・シューマー)は、ぽっちゃり体型の独身OL。オシャレには関しては敏感で高級コスメ会社に勤めているものの、本社ビルからずいぶん離れた雑居ビルの地下室でネットユーザーからのクレーム対応に追われている。彼氏はおらず、終業後は同じく非モテ系の女友達とくだを巻く日々だった。こんな冴えない生活から脱出してやると意気込んだレネーは、シェイプアップ目指してジム通いをスタート。ところがエアロバイクを懸命に漕いでいたレネーは、とんでもない事故に遭遇してしまう。

 エアロバイクから転倒して頭を強打したレネーは、鏡に映った自分を見てびっくり。なんと超絶プロポーションの美女に生まれ変わっているではないか。実はこれ、本人がそう思っているだけ。実際のレネーは以前とまるで変わっていない。ところが「私、すごい美女に変身しちゃったわ!」と思い込んだレネーは、それまでの消極的だった生き方を改めて、スーパーポジティブな人生を歩み始める。

 自分の容姿に自信満々なレネーは、本社ビルの受け付け係に立候補。モデル並みの美人社員ぞろいの本社ビルの中で、ぽっちゃり体型で、しかも全身からハッピーオーラをダダ漏れさせているレネーは瞬く間に注目の的になる。美しくなることに憧れる平凡な女の子の感覚を持ち合わせているレネーは、生まれつきセレブな美女たちにはないフレッシュなアイデアを次々と提案し、“美のカリスマ”として知られる社長のエイヴリ(ミシェル・ウィリアムズ)のお気に入りとなる。さらにはクリーニング店で偶然一緒になった草食系男子のイーサン(ロリー・スコヴェル)から口説かれたと勘違いし、一方的にデートの約束を決めてしまう。頭を打って以来、レネーの人生はバラ色だった。

 ジャド・アパドー監督の毒舌コメディ『エイミー、エイミー、エイミー! こじらせシングルライフの抜け出し方』(15)が大ヒットしたエイミー・シューマーが、本作でもぽっちゃり体型を活かしたチャーミングな女性像を演じている。最大の見せ場は、イーサンとレネーとのデートシーンだ。デート先のビアホールでは“ビキニコンテスト”が開かれており、レネーは飛び入りで参加することに。Tシャツをまくり上げたレネーはお腹のお肉をたぷたぷさせながら、ステージ狭しとセクシーダンスを踊りまくる。レネーの最高な弾けっぷりに、イーサンだけでなくホール中のみんなの目が釘付けになってしまう。

 汗だくになって踊るレネーを見ていた初対面の男が、イーサンに話し掛ける。「高速道路で車がパンクしたとき、一緒にいたいのはあんな子だよ」と。ステージに並ぶビキニ姿の若い美女たちよりも、自分のすべてをさらけ出して一途に踊るこのぽっちゃり女子のことが堪らなくラブリーに思えてきてしまう。

 恋愛は、それこそ思い込みの産物だ。米国のロマンティックコメディには思い込み、勘違いをネタにした作品が少なくない。ファレリー兄弟の『愛しのローズマリー』(01)では、女性を外見でしか判断できない小デブ男(ジャック・ブラック)が催眠術によって体重130kgの女性(グウィネス・パルトロー)を絶世の美女と思い込んで猛アタックした。『イエスマン“YES”は人生のパスワード』(08)では、自己啓発セミナーに通う主人公(ジム・キャリー)がどんなときも「イエス」と答えることで、ズーイー・デシャネルと出逢うことになる。『スコルピオンの恋まじない』(01)では、犬猿の仲の男女(ウディ・アレン、ヘレン・ハント)が催眠術によって熱愛関係に陥る。これらの作品を観ていると、恋愛とは一種の自己催眠ではないのかという気がしてくる。

 本作の面白さは、主演のエイミー・シューマーが変身前と変身後をCGなどで加工することなく、本人がまったくそのまま演じているところ。姿はまるで変わっていないのに、頭を打った後は自分を美女だと思い込み、堂々と恋も仕事も大成功を収めていく。さらに自信を深めたことで、彼女の周囲にはイケメンやセレブたちが集まるようになっていく。コンプレックスから解放され、他者から愛される喜びを知ったヒロインは、ますます輝きを増し、本来の才能を発揮し始める。ここらへんの展開は、レディー・ガガ主演の話題作『アリー/スター誕生』(現在公開中)ととてもよく似ている。お笑い版『スター誕生』だとも言えるだろう。

 自分の体型を気にせず、いつも明るいレネーを見て、多くの人たちは勇気づけられる。草食系のイーサンは職場で「ホモっぽい」とからかわれていたが、レネーと付き合うようになって他人の視線が気にならなくなった。社長のエイヴリは甲高い自分の声にコンプレックスを長年抱いていたが、人生を満喫しているレネーと話していると、些細なことで悩んでいる自分がバカらしく思えてしまう。レネーにはコンプレックスをその人の個性へと反転させてしまう大らかな魅力に溢れていた。

 物語は後半、お約束どおりの展開が待っている。シンデレラ姫と同じように、レネーもまた魔法が解けることになる。自分が元のぽっちゃり体型に戻ってしまったことを嘆くレネーはアパートに閉じ篭り、会社にも出社せず、恋人のイーサンとも会おうとしなくなる。周囲の人間はレネーがなんでそんなに落ち込んでいるのか、さっぱり理解することができない。外見で判断されることに悩まされ続けてきたレネーだが、実は外見にいちばん囚われていたのはレネー自身だったことが分かる。

 いじけた表情のレネーも、また愛らしい。コンプレックスに悩む姿も含めて、彼女自身なのだ。自分自身を愛することができれば、世界はほんの少し扉を開けてくれる。シンプルだけど、大切なことをNYで暮らすこのぽっちゃり女子は教えてくれる。大いに笑わせ、最後にホロリとさせてくれる。うさん臭い自己啓発セミナーに通うよりは、ずいぶんとリーズナブルでお得な映画ではなだろうか。
(文=長野辰次)

『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』
監督/マーク・シルヴァースタイン&アビー・コーン
出演/エイミー・シューマー、ミシェル・ウィリアムズ、エミリー・ラタコウスキー、ナオミ・キャンベル
配給/REGENTS 12月28日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
(c) MMXVIII Voltage Pictures, LLC. All rights Reserved.
http://ifeelpretty.jp

2018年の日本映画を英国人プロデューサーが語る「今後は俳優もロイヤリティー契約を結ぶべき」

 是枝裕和監督、安藤サクラ主演作『万引き家族』はカンヌ映画祭パルムドールを受賞、国内でも興収45億円の大ヒットとなった。製作費300万円という超低予算映画『カメラを止めるな!』は都内2館の上映から始まり、口コミやSNSで人気が広まり、31億円超えのミラクルヒットとなった。インディペンデント系の映画が話題を集めた2018年の日本映画界。日本映画をこよなく愛し、それゆえに「日本映画のポスターはダサすぎる」(参照記事)などの苦言も呈する英国人プロデューサーのアダム・トレル氏に、この1年の日本映画を振り返ってもらった。

──日本の優れたインディペンデント映画を海外へ広めているアダムさんは、『カメラを止めるな!』に早い段階から注目していたそうですね。

アダム・トレル(以下、アダム) アスミック・エースは『カメ止め』が話題になってから共同配給に名乗り出たけど、俺は前から上田慎一郎監督の短編映画も観ていたし、奥さんのふくだみゆき監督のアニメ作品も観ていたから、上田監督が長編を撮るのを知って楽しみにしていたよ。17年の先行上映で観て、「絶対に話題になる」と思った。上田監督は子どもが産まれたばかりで大変だったから、上田監督と奥さん、子どものためにも、俺は『カメ止め』の宣伝をがんばろうと思った。それでまず海外の映画祭で話題にしようと考えて、世界80カ国の映画祭に出品した。友達にDCPを無料で作ってもらい、各国の映画祭とはメールでやりとりして交渉したから、費用は全然使わなかった。中でもイタリアのウディネ・ファーイースト映画祭はアジアから芸能人が参加するし、映画関係者も多いからニュースになりやすいと思った。

──ウディネ・ファーイースト映画祭では、『カメ止め』は韓国映画『1987、ある闘いの真実』に次ぐ観客賞第2位に。日本での公開前に勢いづかせる、効果的な宣伝になりました。

アダム 『カメ止め』の公開が始まってからも、海外の映画祭で次々と上映されて、話題が絶えなかったのもよかったと思う。海外の映画祭に出品するまで時間がなかったから、ポスターは俺が構成案を考えて、ふくださんに仕上げてもらった。自主映画のスタッフたちを主人公にしたコメディであることを前面に出すと観客のハードルを上げてしまうので、ジョージ・A・ロメロっぽいゾンビ映画みたいなビジュアルがいいと思った。英語タイトルも『ONE CUT OF THE DEAD』にした。ゾンビ映画が好きな人は低予算なほど喜ぶし、会場で盛り上げてくれるから。映画の内容と違うと反対するスタッフが最初は多かったけど、日本映画のポスターはどれも説明的すぎてよくない。見た目のインパクトのあるゾンビ映画ふうのポスターにしてよかったと思うよ。

──なるほど、アダムさんが考えた海外用のポスタービジュアルが、そのまま国内のポスターにも生かされることになったんですね。製作費300万円という低予算なことも注目を集めました。

アダム 公開初日後も、ずっと監督やキャストが劇場での舞台あいさつを続けたでしょ。あれがよかった。お金のかからないうまい宣伝方法。日本独自の素晴しいスタイルだと思う。安藤サクラが主演した『百円の恋』(14)も安藤サクラが自分でいろんなところでチケットを売って、下北沢でチラシを配って回った。『百円の恋』がヒットしたのは、もちろん安藤サクラの芝居がよく、映画が面白いからだけど、安藤サクラが宣伝をがんばったことも大きかった。キャストががんばって宣伝することで『百円の恋』も『カメ止め』もヒットした。ヒットしたら、その分はキャストやスタッフにロイヤリティーとして還元できるような契約にしたほうがいい。『カメ止め』は上田監督も劇場公開段階ではロイヤリティーはなくて、DVDが売れた場合にDVDの売り上げの1.75%がもらえるだけ。

──いくら劇場で満席が続いても、監督やキャストにはロイヤリティーは発生しないんですね。

アダム いちばん美味しいのは、途中から配給に加わったアスミック・エースだよね。すでに話題になってから配給したから、宣伝費もかからなかった。俺、アスミック・エースの社員になりたいよ(笑)。今後はロイヤリティー契約を俳優たちも結べるようにしたほうがいいと思う。スタッフやキャストのギャラをみんな上げると、インディペンデント系の映画は撮れなくなってしまうけど、ロイヤリティー契約なら、配給会社はヒットしたときだけ支払えばいいから、リスクはないはず。俺が日本でプロデュースした『下衆の愛』(16)はスタッフだけでなく、キャストともロイヤリティー契約を結んだ。そのほうがスタッフもキャストも、映画をヒットさせようとさらにヤル気が出ると思うよ。

■映画館で映画を楽しむのは、もはや日本の独自文化!?

──アスミック・エースの話題が出ましたが、『時効警察』(テレビ朝日系)で知られる三木聡監督の9年ぶりのオリジナル映画だった阿部サダヲ&吉岡里帆主演作『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』はアスミック・エース配給で全国公開したところ、興収的には残念な結果に。

アダム 俺、三木監督の作品が大好き。俺的には音楽業界を舞台にした『音量を上げろタコ!』は面白かった。主演俳優たちは日本では有名なんだよね? 他の映画やテレビにいっぱい出ているから、見飽きられてたんじゃないのかな。日本の映画製作会社は映画やテレビにいっぱい出ている有名芸能人を主演にすればヒットすると思いがちだけど、客はテレビでよく見る人を映画館までわざわざ観に行こうとは思わない。三木監督は英国で人気がある。三木監督の『亀は意外と速く泳ぐ』(05)や『転々』(07)、それに『インスタント沼』(09)を英国でDVD BOXとしてリリースしたら、すごく売れた。三木監督と奥さんのふせえりさんを英国に呼んでトークイベントを開いたら、すごく盛り上がった。三木監督のブラックな笑いは海外で人気があるけど、逆に日本では大ヒットは難しい。『亀は意外と速く泳ぐ』の頃みたいに、あまり予算を使わない映画を撮ったほうがいいと思う。

──ゼロ年代にはミニシアター文化がありましたが、今はミニシアターが減ってしまい、難しいのかもしれません。

アダム そんなことはないよ。海外に比べると、日本にはまだまだミニシアターは残っている。海外ではネットフリックスなどの映像配信に押されて、ミニシアターどころか映画館そのものがどんどん消えている。日本はミニシアターが残っている映画文化のある国。新宿のK’s cinemaなどに行くと、いろんな自主映画が上映されている。これは日本だけの独自の文化だよ。

──アダムさんは中島哲也監督の作品も好きで『下妻物語』(04)がきっかけで、日本映画を海外で配給するようになった。中島監督がホラー映画に初挑戦した『来る』はどうでしたか?

アダム 『来る』は公開初日に新宿ピカデリーで観たよ。中島監督の『告白』(10)は海外でも人気だし、俺も大好き。でも前作の『渇き。』(14)もそうだったけど、『来る』もやりすぎだと思う。『下妻物語』や『嫌われ松子の一生』(06)は俺が海外配給やったんだけど、物語や映像にアップダウンがあって楽しめた。『来る』は最初から最後までアップばかりで、疲れてしまう。編集で短くしたら、印象は変わるかもしれない。

──中島監督は実写版『進撃の巨人』で挫折したことから、破壊衝動に振り切ったように『渇き。』のときは感じられたのですが、まだ『来る』でもその衝動は収まっていないように思いました。

アダム 実写版『進撃の巨人』は、中島監督で観たかったよね。中島監督は英国のパインスタジオでの撮影を予定し、北欧のリトアニアでのロケも計画していて、俺は英国で『進撃の巨人』のプロデューサーと会って打ち合わせもしていた。実際に撮影もスタートしていたんだけど、いろいろ大変だったみたい。中島監督はスタッフやキャストに厳しいけど、自分自身にも厳しい。中島監督のそういうところは、俺はすごくリスペクトしている。

■才能ある俳優を生かすも殺すも事務所次第

──アダムさんが日本でプロデュースした『獣道』(17)でヒロインを演じた伊藤沙莉は、今や映画やテレビドラマに引っ張りだこ状態。助演した『寝ても覚めても』も評判がいいですね。

アダム 『寝ても覚めても』のキャストの中では、伊藤沙莉がいちばんよかった。伊藤沙莉は演技がうまいし、人間的にも好感が持てる。彼女自身も素晴しいけど、彼女のマネジャーや所属事務所もいい。でんでん、毎熊克己とか他にもいい役者がいるし、事務所が映画のことに理解がある。あと、『寝ても覚めても』を面白いと思った人は、ぜひ濱口竜介監督の過去の作品も観てほしい。『PASSION』(08)や『THE DEPTHS』(10)はもっといいから。観たら、きっと驚くと思う。

──アダムさんは前回のインタビューでも、日本は芸能事務所の力が強すぎることを問題点として挙げていました。事務所の力がいくら強くても、脚本の善し悪しを判断できないマネジャーだと俳優は伸びることができない。

アダム 俳優にいくら才能があっても、所属事務所がダメだといい作品に出会うことができないよね。ジャニーズや吉本興業はタレント数が多いから、マネジャーも大変だと思う。でも、事務所が所属タレントの舞台あいさつの際に写真撮影を禁じるのはどうかと思う。本人の判断に任せればいい。舞台あいさつはSNSなどで話題が広まるから、すごくいい宣伝になる。もったいないよ。

──2018年は白石和彌監督の活躍も印象に残ります。

アダム 今、日本でいちばんいい監督だよね。『凶悪』(13)のときから才能があることは分かっていたけど、年々レベルアップしている。東映で全国公開された『孤狼の血』もよかったし、『止められるか、俺たちを』はすごくよかった。『止められるか、俺たちを』は若松孝二(井浦新)を主人公にしたら、よくある伝記映画になっていたし、若松孝二のファンしか興味を持たない作品になっていたと思うけど、若い女性助監督(門脇麦)の視点から描いたことで、若松孝二のことを知らない人でも楽しめる作品になっていた。こういう発想を出来る白石監督はすごくいい。日本ではフレディー・マーキュリーの生涯を描いた『ボヘミアン・ラプソディー』が大ヒットしているけど、海外ではあの映画は評価がそれほど高くない。英国人はクイーンに関するエピソードたくさん知っているから、映画を観ても驚きがない。俺は『止められるか、俺たちを』のほうが面白いと思った。

■日本の監督は、作品を厳選したほうがいい

──アダムさん的に気になった日本映画は?

アダム 俺が今年いちばん好きだったのは、『ドブ川番外地』。渡邊安悟監督が大阪芸術大学の卒業制作として撮った作品。映画祭での上映だけだったから、観た人は少ないと思う。あと、村上春樹原作の『ハナレイ・ベイ』も意外とよかった。松永大司監督は面白い映画を撮る人。吉田恵輔監督はオリジナル作『犬猿』がよかった。吉田監督の『純喫茶磯辺』(08)や漫画原作の『ヒメアノ~ル』(16)も面白かったけど、『愛しのアイリーン』の後半はやりすぎだと思う。武正晴監督の『銃』はオシャレだし、見やすかった。武監督みたいにマジメなエンタテインメント作品を撮れる監督は日本では少ないと思う。

──是枝裕和監督の『万引き家族』はどうでしたか。

アダム 『万引き家族』は観てない。是枝監督や河瀬直美監督は海外配給がすでにしっかり付いているから、俺が出る幕じゃない。福田雄一監督の『銀魂2 掟は破るためにこそある』は機内で観たよ。俺は漫画を全然読まないから分からないけど、原作漫画をそのまま実写化しているんでしょ? 漫画やアニメが好きな人は実写映画を観ないけど、福田監督の演出だったら抵抗なく観られるのかもしれない。逆に実写映画が好きな人は興味を持たないと思うけど。

──日本映画を愛するあまり、海外配給だけでなく日本で映画をプロデュースするようになったアダムさんですが、今の日本映画の置かれた状況をどう感じていますか?

アダム 日本映画は年間600本も公開されている。いくらなんでも製作本数が多すぎると思う。英国では年間40本、フランスでは80本、ドイツでは50本ぐらい。製作本数は絞られている。もちろんつまらない作品もあるけど、面白い作品に当たる確率は50%くらいはある。日本映画を俺は年間200本くらい観ているけど、面白いと思う映画は20~30本くらい。確率は10~15%。たまにしか映画館に行かない人が、つまらない日本映画に当たってしまう確率が高い。ギャラが安い分、たくさん映画を撮る監督がいるけど、それも問題。撮る映画はもっと選んだほうがいいと思う。お金を稼ぐために撮るのなら、テレビドラマを撮ればいい。テレビドラマまでは海外の人は観ないけど、映画は海外でも観られるから、自分のクオリティーを下げるようなことは避けたほうがいい。日本は評論家が厳しいことを言わないのもダメ。あと映画の配給会社や宣伝スタッフは試写やサンプル映像で済ませるのではなく、お金を払って劇場で映画を観るべき。そうしないと、どんなお客さんが来て、どんなシーンで盛り上がっているのか分からないよ。

──2019年はアダムさんがプロデュースした『ばるぼら』の公開が楽しみです。

アダム 俺、1980年代にデビューした日本の監督たちが好き。80年代は塚本晋也、石井岳龍、山本政志みたいな個性的な監督がいっぱい出てきた。彼らの撮った作品にはパッションがあった。中でも手塚眞監督の『星くず兄弟の伝説』(85)は大好き。それで手塚監督に頼まれて、『ばるぼら』をプロデュースした。撮影もポスプロも終わり、あとは国内での配給が決まるのを待っているところ。これが難しくて、なかなか決まらない(苦笑)。ばるぼら役の二階堂ふみはクレバーだし、英語も話せるから、海外でも充分活躍できると思うよ。2019年は1月から『カメ止め』の英国公開が始まるし、俺もがんばるしかないよ。
(取材・文=長野辰次)

●アダム・トレル
1982年英国ロンドン生まれ。22歳で映画配給会社「Third Window Films」を設立。中島哲也監督の『下妻物語』(04)や園子温監督の『愛のむきだし』(08)などの海外配給を手掛けた。資金集めが難航した園監督の『希望の国』(12)に共同プロデューサーとして参加。2014年より日本での映画製作を始め、藤田容介監督の『福福荘の福ちゃん』(14)、内田英治監督の『下衆の愛』(16)と『獣道』(17)をプロデュースしている。最新プロデュース作である手塚眞監督の『ばるぼら』が公開待機中。