特殊能力は何ひとつないけど、最強のヒーロー!! モチーフは白河だるま『ライズ ダルライザー』

 ヒーローとは、特撮ドラマやコミックの世界だけにしか生息できないフィクション上の存在なのか。ヒーローになれるのは、選ばれし人間だけなのか。そんな素朴な質問に、真剣に熱く答えるヒーロー映画が公開される。福島県白河市で撮影された『ライズ ダルライザー -NEW EDITION-』がそれだ。ハリウッド育ちのマーベルヒーローやDCヒーローに比べ、超低予算な手づくりヒーローだが、観た人の心にグサリと突き刺さるアクション快作に仕上がっている。

 現在公開中の『スパイダーマン:スパイダーバース』や『アクアマン』たちはそれぞれ驚異的なスーパーパワーを備えているが、本作のヒーローであるダルライザーには特殊能力はまったくない。生身の30代のおじさんが手縫いのオリジナルスーツに着替えて闘うだけ。唯一、ダルライザーを支えているのは「やられてもやられても、何度でも立ち上がる」という不屈の精神のみ。そう、ダルライザーは白河市の名産品である白河だるまをモチーフにしたご当地ヒーローなのだ。

 ダルライザーを考案したのは、本作に主演し、原案&プロデューサーも務めている白河市在住の和知健明さん。20代の頃は東京で自主映画づくりやコントなどの俳優活動に励んでいたが、結婚を機に地元である白河市に帰郷。やがて子どもが生まれ、我が子に愛情を注ぐ日々を送るようになった。そんな折、和知さんが所属していた白河市商工会議所青年部でご当地キャラクターを作ることになる。それが2008年のこと。和知さんの心の片隅にあったモヤモヤが、ひとつの形へと具象化していく。

 故郷・白河市をこよなく愛する和知さんだが、子どもの頃の楽しみだった映画館が現在は市内にひとつもないなど、町に活気がないことが気がかりだった。これから大きくなる我が子たちのためにも、もっと元気な町にしたい。そこで思いついたのが、白河だるまからヒントを得たヒーローだった。特殊能力も武器もいっさいなし。「決して諦めない。倒れても倒れても、何度でも起き上がる」がヒーローのコンセプトだった。名前は公募の結果、ダルライザーに決まった。

 映画『ライズ ダルライザー』は和知さんの半生をそのままドラマ化したような内容だ。主人公の館アキヒロ(和知健明)は人気俳優になることを夢見て、東京で役者を続けていた。観客を間近に感じられる舞台はやりがいがあるものの、生活は楽ではない。ある日、妻のミオ(桃奈)が妊娠したことを告げる。経済的に今のままでは子育ては無理なことから、白河市にあるアキヒロの実家にミオを連れて帰ることに。警備会社で働き始めるアキヒロだったが、俳優になる夢を捨てきれず、白河市が募集しているキャラクターコンテストに応募することを思いつく。かくしてオリジナルキャラクターのダルライザーが誕生。市内のヒーローショーで地味に俳優業を再開するアキヒロだった。

 自伝的要素の強いダルライザーの物語だが、中盤からはSFタッチのサスペンスアクション映画として盛り上がりを見せていく。天才的な科学者である田村(田村論)は秘密組織ダイスを率い、“シャングリラ計画”を進めようとしていた。パーソナルシートと呼ばれるハイテクガジェットを白河市民に無料配布し、このシートを体に装着すれば100%の意志の疎通が可能になるという画期的なプロジェクトだった。シャングリラ計画が実施されれば、人は心の中に秘密を持つことはなく、嘘をつくこともなくなる。まさに白河市は理想郷になるはずだった。

 だが、白河市がシャングリラ化すれば、市民の意思はひとつにまとまる一方、少数意見を持つ存在は認められなくなってしまう。ダイスの暴走を防ぐため、アキヒロは武術の師範であるアレハンドロ(フスト・ディエゲス)や幼なじみのマナブ(三浦佑介)と共に立ち向かっていく。ダイスたちにボコボコにされながらも、懸命に立ち上がるダルライザーことアキヒロの姿がそこにはあった。

 後半のシリアスなストーリー展開に影響を与えたのは、2011年3月11日に起きた東日本大震災とその直後に発生した福島第一原発事故だった。内陸部にある白河市は津波の被害はなかったものの、土砂崩れより13名の犠牲者があり、町のシンボルである白河小峰城や多くの家屋が崩壊。原発事故のあった福島県内ということから風評被害による打撃も少なくなかった。また市内には仮設住宅が設けられ、双葉町や浪江町などから避難してきた被災者たちが暮らしていた。和知さんは救援物資を配るボランティア活動に従事しながら、放射能のリスクを考えて家族と共に離郷した人たちと頑なに地元に残り続ける人たちとの間に亀裂が生じていることを身近に感じていた。それまでも地道にダルライザーショーを開いていた和知さんだったが、より多くの人が各地で楽しめるアクション娯楽映画として『ライズ ダルライザー』を自主制作することを決意する。

 和知さんの熱い想いに賛同する、頼もしい海外からの助っ人も現われた。和知さんはダルライザーのキャラクターを考案する際に、クリストファー・ノーラン監督の『バットマン ビギンズ』(05)を参考にしていた。そのメイキング映像を観た和知さんは、ノーラン版『バットマン』シリーズにはスペイン在住のフスト・ディエゲス氏が開発した武術KEYSIが採用されていることを知る。KEYSIは相手を倒すことが目的ではなく、自分の身を守るための護身術。また、フスト氏の座右の銘はスペイン語で「Nunca te rindas(ヌンカ・テ・リンダス)」(※ネバー・ギブ・アップの意)であり、ダルライザーのコンセプトとぴったり一致していた。

 震災と原発事故のことをニュースで知っていたフスト氏は、福島の人たちを励ますことに繋がるのならと和知さんの求めに応じて3回にわたって来日。アクション指導だけでなく、主人公アキヒロを支える道場の師範アレハンドロ役でも出演。ハリウッド映画クラスの本格アクションは、本作の大きな見どころとなっている。

「日本のヒーローは変身して強くなるものがほとんどですが、この映画は負けても負けても何度でも立ち上がる生身のヒーローを描いたものです。選ばれし者だけがヒーローになるわけじゃない、自分にも何かできることがあるんじゃないかと、この映画を観ていただいた方にそんなことを感じてもらえるとうれしいですね。もちろん、風変わりなアクションヒーローものとして楽しんでもらうだけでも充分です。この映画を観た子どもたちがダルライザーの精神を覚えてくれ、20年後や30年後に日本各地の地方都市が今よりもっと元気になっているといいなぁなんて思っているんです」と和知さんは笑う。

 どんな困難にぶつかっても、決して諦めないダルライザー。世界最強の、そして壮大な野心を秘めた真紅のリアルヒーローが福島県白河市で暮らしている。

(文=長野辰次)

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『ライズ ダルライザー -NEW EDITION-』
原作・プロデューサー/和知健明 監督・脚本/佐藤克則 アクション振付/フスト・ディエゲス
出演/和知健明、三浦佑介、桃奈、山口太郎、佐藤みゆき、山﨑さやか、田村論、宮尾隆司、赤城哲也、古川義孝、鈴木桂祐、鈴木裕哉、湯本淳人、緑川順子、フスト・ディエゲス、井田國彦
配給/ダルライザープランニング、アムモ98
(c)2018Dharuriser Plannig
3月9日(土)より池袋シネマ・ロサほか全国順次ロードショー
http://www.dharuriser.com/movie

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7.22銃乱射事件は現実と非現実との壁を壊した!? ノルウェー監督が語る『ウトヤ島、7月22日』

 日本人にとって「3.11」は東日本大震災と福島第一原発事故を思い出させる重い数字として脳裏に刻まれているが、北欧のノルウェー人にとっては「7.22」が大きなトラウマとなっている。東日本大震災と同じ2011年の7月22日に、ノルウェー連続テロ事件は起きた。午後3時30分ごろ、首都オスロの政府庁舎が爆破され、8名が死亡。同日午後5時すぎ、オスロ近郊にあるティーリフィヨレン湖に浮かぶウトヤ島で銃乱射事件が起き、サマーキャンプ中だった10代の男女69名の命が奪われた。どちらも極右系サイトの常連投稿者だったアンネシェ・ブレイビク(事件当時32歳)の犯行だった。単独犯による史上最悪の大量殺人事件となっている。

 この衝撃的な事件を題材にしたのが、ノルウェー映画『ウトヤ島、7月22日』。ウトヤ島で夏休みを過ごしていた若者たちが、突如現われた殺人鬼の無差別銃撃によってパニック状態に陥りながらも、懸命にサバイバルする姿を描いたものだ。“現代の十字軍”を自称したブレイビクが銃を乱射し、警察に投降するまでの時間は72分間だった。本作はその犯行時間を、被害者側の視点から1シーン1カットの長回しで撮り上げている。スクリーンから漂う臨場感と緊張感がハンパない。来日したエリック・ポッペ監督に、「7.22」がノルウェー人にどれだけ大きな衝撃を与えたのかを語ってもらった。

──2011年は東日本大震災が起きたこともあり、日本では「ノルウェー連続テロ事件」についての詳しいニュースは伝わってきませんでした。今日は事件と映画について、いろいろと教えてください。

エリック・ポッペ 日本があの大災害から立ち直ったことには敬意を感じています。東日本大震災と同じくらい、ノルウェー人にとっては「7.22」はとても大きな事件でした。第二次世界大戦でナチスドイツの侵攻を受けて以来の大惨事だったんです。事件から生還した被害者たちは二度と同じような事件が起きないようにと、ニュース番組のインタビューに答えたり、インターネット上で自身の体験談を語りました。事件のトラウマに苦しみながらも彼らは勇気をもって発言したのですが、そんな彼らに対してヘイトメールが届くようになったのです。「ブレイビクがお前を殺さなかったことが残念だ」というような文面です。あれだけ悲惨な事件が起きたのに、事件後には極右勢力が増殖するようになったのです。

■ネット上の敵意が現実世界を侵蝕し始めた!!

──移民や難民の受け入れに反対していたブレイビクは、移民受け入れを表明していたノルウェー労働党(当時の政権与党)青年部のキャンプ地であるウトヤ島を襲ったわけですね。

エリック そうです。それまでのヘイトスピーチはインターネット上で行なわれていたのが、「7.22」をきっかけに現実世界でもヘイトスピーチが飛び交うようになってしまったんです。米国大統領のドナルド・トランプもその1人でしょう。ヘイトスピーチは危険です。実際にブレイビクはネット上のヘイトスピーチに感化され、犯行に及びました。現実からは離れた世界、ネット上の敵意が我々のいる現実世界を侵蝕するようになったのです。この事件は他人事だとは放っておけない問題です。中には「この事件を映画化するのは時期尚早だ」と反対する声もありました。確かにそれは正論です。ですが、時期尚早だと言っている状況ではないという切迫感から、この映画を企画したんです。

──「7.22」は現実世界とネット世界との境界線を崩壊させた大事件でもあったということですね。映画化は大変な苦労があったと思います。事件についてのリサーチ、資金集め、キャスティング……どれも大変だったと思いますが、いちばんの難関だったのは?

エリック 生存者たちが協力してくれ、彼らにしか分からないことを教えてくれました。彼ら被害者たちは犯人が単独犯であることも、本物の警官なのかどうかも事件当時は分かりませんでした(ブレイビクは警官に変装して島に上陸した)。銃声が鳴り響いた72分間はまるで永遠のような長さに感じられたでしょう。彼らの体験をリアルに再現するにはどのような手法にすべきかを熟考し、見つけ出した答えが事件の起きた72分間を被害者側の視点からノーカットで撮影するというアイデアでした。ですが逆に困った問題も生じたのです。こんな困難な撮影に耐えうる女優が見つかるだろうかということです。極限状態に陥った人間の複雑な表情を演じることは容易ではありません。女優選びがいちばんの難関でしたが、主人公のカヤ役のアンドレア・バーンツェンは見事に演じ切ってくれました。

■犠牲者たちの尊厳を損なってはならない

──家族想いのカヤを熱演したアンドレア・バーンツェンをはじめキャストはみんな新人だったと聞いています。リハーサルに3カ月を費やしたそうですが、打ち合わせの際にどのような話し合いを行なったのでしょうか?

エリック ディテールを大切にしようと話しました。ディテールをきちんと再現することで、あの日のウトヤ島で何が起きたのかを正しく伝えることができると考えたんです。アンドレアが演じたカヤは特定の1人の人物ではなく、生存者たちの証言をもとに集約したキャラクターとなっています。フィクションの存在ですが、ウトヤ島で起きたことをより正確に理解することができるキャラクターです。脚本を用意して、彼女たちはアドリブを交えることなく一字一句そのまま脚本どおりに演じてもらいました。大変な作業でしたが、その分しっかりとリハーサルを重ねたんです。生存者たちは撮影現場にも付きっきりで立ち会ってくれました。精神が今にも壊れてしまいそうになったとき、彼らはお互いに冗談を言い合ったり、歌を歌ったりしたそうで、そのことも映画には盛り込みました。生存者たちが繰り返し言ったことは「犠牲者たちの尊厳を失うことなく、誠実に演じてほしい」ということでした。そのことには充分こだわって撮影しています。

──アドリブはなかったとのことですが、銃弾から身を守るために森に身を潜めたカヤの腕に一匹の蚊がとまるカットは印象的です。殺人鬼から命を狙われているカヤは、自分の腕にとまった蚊を叩き潰すことに躊躇してしまう。命の重さを考えさせる、とても重要な場面になっていると思います。あのカットはどのように撮ったのですか?

エリック あの蚊がとまるカットだけが、この映画の唯一のアドリブでした(笑)。あのカットに気づいてもらえると、うれしいです。何度もリハーサルを繰り返したことで、逆に生まれた余白のような瞬間でした。私はこの映画を撮っている間、ずっと命の在り方について考えていました。SF映画の中では人類は宇宙人と戦争を繰り広げ、SF映画でなくても多くの映画の中にはアクションシーンがあり、命の奪い合いが描かれています。我々はそれらをエンターテイメントとして楽しんでいるわけです。今回、この映画では試してみたいと思っていたことがありました。1人の人間の肉体から命が抜けていく瞬間を、自分たちはカメラで撮ることができるのか。はたして映画にはそんな力があるのか。我々の鈍化した感覚は鋭敏さを取り戻すことができるのか。そのことをこの映画では試してみたかったのです。

──逮捕されたブレイビクは裁判を経て、現在は21年の禁固刑に処せられています。ノルウェー以外の国では「なぜ死刑にしないんだ」「21年は短い。終身刑にすべき」という声もありました。そのことをエリック監督はどう考えますか?

エリック ノルウェーでは21年の禁固刑がいちばん重い刑罰です。ノルウェーの刑務所は受刑者たちの更生に重きを置いており、彼らに治療を施すために受刑させているという側面があるんです。それもあって、ノルウェーには死刑制度は存在しません。「ブレイビクは21年後に出所するのか」と不安に思う海外の人は多いかもしれません。ですが、それはないと私は考えます。刑期を終えた際にブレイビクは自分が更生していることを裁判所でもう一度証明しなくてはいけないんです。恐らく、彼にはそれができないはずです。21年の刑期を終えた後も、ブレイビクは刑務所内で生き続けることになるでしょう。

 * * *

 国連が発表する「世界幸福度ランキング」では常に上位にランキングされ、移民や難民に対しても支援政策を打ち出していた“幸福と寛容の国”ノルウェーを襲った空前の大量殺人事件。2011年7月22日、ウトヤ島でいったい何が起きたのか。72分間にわたる衝撃を劇場で体感してみてほしい。
(取材・文=長野辰次)

『ウトヤ島、7月22日』
監督/エリック・ポッペ 脚本/シブ・ラジェンドラム・エリアセン、アンナ・バッヘ=ビーク 撮影/マルティン・オッテルベック
出演/アンドレア・バーンツェン、エリ・リアノン・ミュラー・オズボーン、ジェニ・スペネピク、アレクサンデル・ホルメン、インゲボルグ・エネス
配給/東京テアトル 3月8日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9ほか全国ロードショー
CopyrightC) 2018 Paradox
http://utoya-0722.com

●エリック・ポッペ
1960年ノルウェー・オスロ生まれ。83年からロイターなどの新聞カメラマンとしてキャリアをスタートさせ、国内外の紛争ニュースに従事。『BUNCH OF FIVE』(98)で映画監督デビュー。ジュリエット・ビノシュが戦場カメラマンを演じた『おやすみなさいを言いたくて』(13)はモントリオール映画祭で審査員特別賞を受賞。『ヒトラーに屈しなかった国王』(17)はアカデミー賞外国語部門のノルウェー代表に選ばれた。『ウトヤ島、7月22日』は第68回ベルリン映画祭エキュメニカ審査員賞、スペシャルメンションを受賞。

二宮和也の発言カット、山下智久『コード・ブルー』排除……「日本アカデミー賞」は“忖度”まみれ

 ネット民から“ジャニーズ至上主義”と叩かれているが、どうしても譲れないプライドもあったようだ。

 1日に日本テレビ系で録画放送された『第42回日本アカデミー賞授賞式』にて、司会の西田敏行の発言が一部カットされていたことが話題を呼んでいる。

 問題の場面は、『検察側の罪人』で優秀助演男優賞を受賞した、嵐・二宮和也との会話シーンだったという。

「東京スポーツによれば、カットされたのは西田が『嵐』について言及した際のやりとり。“俳優”二宮を絶賛した流れで、『ここで、嵐が終わるっていうことは……』と、実際は活動休止であるのを解散と取り違えた発言をしてしまった。すぐに二宮も『ちょっと、ちょっと、嵐は終わらないですから、お休みするだけですから、勝手に消滅させてないでください』とツッコんで会場の笑いを誘っていたものの、日テレ側がジャニーズの機嫌を損ねないよう“忖度”したのではないかとの見方が出ているようです」(芸能記者)

 日テレといえば、過去にも『スッキリ』でSMAPの映像を使用した際、ジャニーズを退所した3人だけ映さないように編集。司会の加藤浩次が不満をにじませていたものだった。

 しかし一方で、日テレは放送前から意地を見せていたという。映画ライターが明かす。

「今回の『日本アカデミー賞』では、社会現象を巻き起こした『カメラを止めるな!』は編集賞のみの受賞。主役となったのは、最優秀作品賞・監督賞などの8冠に輝いた是枝裕和監督の『万引き家族』。そのほかは、役所広司主演の『孤狼の血』も4冠を獲得し、ほぼ“2強”状態でした。放送を見ていた視聴者が首をかしげたのは、昨年興行収入92億円で、ぶっちぎりの邦画1位となった山下智久主演の『コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』がノミネートすらされていなかったこと。『アカデミー賞』は毎年、日テレで放送されており、フジテレビのドラマを映画化した同作を取り上げたくなかったのは想像に難くない。もちろん決めたのは日本アカデミー賞協会ですが、日テレ側からなんらかの圧力があったとの想像も働いてしまいます」

“その代わりに二宮さんを優秀助演男優賞に……”なんてやりとりが、裏であったのだろうか?

清水富美加の主演映画公開も……ネットレビューから見る映画の“意外な真価”

 清水富美加の主演映画『僕の彼女は魔法使い』が、2月22日に公開された。千眼美子に改名後初の主演作は、「幸福の科学」創始者・大川隆法総裁が製作総指揮を担当したものだが、ネットのレビューが興味深いことになっている。

 清水は10代半ばでデビューし、ドラマ、映画、バラエティなどで活躍。複数の番組で司会を務め、CMにも多数起用され、順風満帆の芸能生活を歩んでいたが、状況が大きく変化したのが2017年の出家騒動だ。芸能誌記者が振り返る。

「若手女性タレントでもトップクラスの売れっ子だった清水富美加ですが、2017年2月に突然、芸能界からの引退と幸福の科学への出家を発表しました。清水は『給料が5万円だった』『嫌だった水着の仕事をやらされた』など不満を爆発させ、『全部、言っちゃうね。 ~本名・清水富美加、今日、出家しまする。~』(幸福の科学出版)というタイトルの告白本も出版。当時、大騒動になりました」(芸能誌記者)

 そして名前を清水富美加から千眼美子に改めた彼女。新作は、「人びとの幸せを奪い去る黒魔術の脅威から、“愛の魔法”で世界を守る白い魔法使い。そんな彼女が、赤い糸で結ばれた『運命の人』を探し出し、時空を超えた戦いに立ち向かっていく」──というストーリーだが、映画ファンは、この作品をどのように見たのか? 女性週刊誌の映画担当記者が語る。

「普通の映画のレビューは5段階の3点が一番多く、点数分布は山の形になります。しかし、『僕の彼女~』のYahoo!のレビューを見ると、6割以上の人が1点をつける一方(1点が最低)、3割の人が5点をつけており、評価が完全に二分されています。どうやら教団は世間の反応を気にしているようで、教団のIT伝道局から、良いレビューを書き込むよう推奨するメールが信者に送られているというウワサも。そのかいあってかどうなのか、評価は1点だらけでも、コメントを書き込んでいるのは5点をつけた人ばかりです。別のレビューサイトでは、この映画だけコメントしている人の平均年齢が異常に高くなる現象も発生しています」(映画担当記者)

 それでも『僕の彼女~』は、2月23日~24日の週末動員ランキングで3位に入っている。ずばり、誰が本作を見ているのか?

「基本的には、もちろん信者です。しかも信者は同じ作品を何度も見るので、大コケすることはありません。また、信者の中には映画のチケットを大量に購入し、周囲に配る者もいます。ビジネスとしては優れたやり方ですよ」(同)

 コケる心配がゼロとは、“一般の映画”の関係者には夢のような話。映画公開直前には「もう一段、清水富美加と遠ざからなあかん」とツイートした清水富美加だが、その宣言通り、完全に遠い存在の人になってしまったようだ。

アンチノミーを抱えたハリウッドの頑固オヤジ! クリント・イーストウッドが贖罪の旅『運び屋』

 ハリウッドが誇る大スターでありながら、名監督でもあり続けるクリント・イーストウッド。誰もが認める唯一無二の存在だ。イーストウッド自身による生前葬を思わせた主演&監督作『グラン・トリノ』(08)の後も、『インビクタス/負けざる者たち』(09)や『アメリカン・スナイパー』(14)などの力作、名作を監督し、精力的に活動を続けている。そんなイーストウッドが10年ぶりに主演&監督したのが、全米大ヒット作『運び屋』(原題『The Mule』)。88歳になるイーストウッドが実在した87歳の麻薬の運び屋を演じ、イーストウッドの映画人生と重なり合うロードムービーとなっている。

「今のハリウッドは若者向けの映画ばかりで、自分に合った作品がない」と『グラン・トリノ』以降は、イーストウッド作品を長年プロデュースしてきたロバート・ロレンツの監督デビュー作『人生の特等席』(12)に出演しただけで俳優業はリタイア状態だった。1930年生まれというイーストウッドの年齢を考えれば、年1本ペースで監督業を続けていることすら驚異だが、久々に俳優として興味を示したのが87歳のおじいちゃんが麻薬の運び屋をやっていたという雑誌記事だった。「この役を演じられるのは俺だ」と久々に主演&監督作を引き受けることになった。

 主人公のアール・ストーン(クリント・イーストウッド)は地方都市で暮らす園芸家。特にデイリリーという手間の掛かる花を育てることに情熱を注いできた。品評会では多くの賞を受賞し、社交的な人柄で人気者だった。だが、外面のよさとは反対に、家庭を省みることはなかった。娘アイリス(アリソン・イーストウッド)の結婚式すら欠席し、妻のメアリー(ダイアン・ウィースト)とは離縁。さらにはネットビジネスの台頭で、アールは園芸場と家も失い、天涯孤独の身に。そんなとき、アールに怪しい儲け話が持ち掛けられる。

 アールは全米各地の品評会に参加してきたので、車の運転には自信がある。しかも違反ゼロ。そんなアールに目をつけたのがメキシコの麻薬カルテルだった。アールは言われるがまま、年代物のトラックに大きなバッグを載せ、指定された場所へと届ける。「見るな」と言われたバッグの中身は、キロ単位の大量の麻薬だ。警察もまさか80歳過ぎの老人が麻薬の運び屋だとは思わないだろうという麻薬カルテルの狙いだった。

 アールじいさんは朝鮮戦争に従軍した退役軍人なので肝っ玉が据わっている。レストランでのんびり休憩したり、タイヤがパンクして困っている家族を見つけては手助けしたりと、自由気まま。麻薬取締局のコリン捜査官(ブラッドリー・クーパー)が麻薬ルートを一網打尽にしようと網を張っているが、その網にアールはなかなか引っ掛からない。

 運び屋稼業で儲けたギャラで園芸場を取り戻しただけでなく、唯一アールのことを慕ってくれていた孫娘ジニー(タイッサ・ファーミガ)の結婚パーティーの費用を全額負担する。さらには閉鎖が決まっていた退役軍人クラブに大金を寄付するなどの大判振る舞い。義賊ロビンフッドになったような気分だった。男としての自信をすっかり取り戻し、宿泊先にセクシーな風俗嬢を2人も呼ぶほど。麻薬カルテルから派遣された若い監視役に「人生には遊びが必要だ」と説教を垂れるアールじいさんだった。

 旅する園芸家アールには実在のモデルがいるものの、イーストウッド自身の姿とダブッて映る。イーストウッドも映画づくりに情熱を注ぐことを優先して生きてきた。映画の仕事がないときは、趣味の音楽に時間を割いた。その分、家族と過ごす時間は少なく、離婚と再婚を重ねてきた。『アウトロー』(76)から『ダーティハリー4』(83)まで度々共演した女優ソンドラ・ロックとは長年ダブル不倫関係にあり、最後は慰謝料をめぐって泥沼裁判となった。映画人としての名声とは裏腹に、家庭人としてはダメダメな人生を歩んでいる。

 運び屋稼業で生活力を取り戻したアールじいさんは、これまで傷つけてきた別れた妻メアリーや顔を合わせようともしない娘アイリスに詫びを入れる。もちろん、運び屋をやっていることは内緒にして。結婚生活が実質10年しか保たなかった元妻メアリーは、アールに向かって囁く。「あなたは私にとって最愛の人。でも、あなたは私に最大の苦痛も与える」と。憎んでも憎みきれない人。それがアールであり、またイーストウッドでもある。

 イーストウッド監督作は、どれもストーリーは明瞭だが、テーマは深遠なものが多く、簡単には咀嚼することができない。イーストウッド監督作を観ながら思ったことは、この人はアンチノミー(自己矛盾)そのものを描いているのではないかということだ。

 イーストウッドが監督としての作家性を明確に発揮し始めたのは、『ホワイトハンター ブラックハート』(90)からだろう。ハリウッドの巨匠ジョン・ヒューストンをモデルにした主人公は人種差別を嫌うリベラリストでありながら、“地上で最も崇高な生き物”アフリカ象をハンティングすることに異常な執念を燃やす。『ミリオンダラー・ベイビー』(04)ではボクシングに生き甲斐を見い出したヒロインに、死の引導を渡す役割を演じた。

 実質的にイーストウッドが監督した犯罪サスペンス『タイトロープ』(84)も興味深い作品だった。風俗嬢を専門に狙う強姦殺人鬼の足取りを調べるうちに、刑事役のイーストウッドはアブノーマルなSM世界へとハマってしまう。犯罪者を追い詰める刑事の心の中にも、黒い影が蠢いていた。新人監督をクビにしてまで映画づくりにのめり込む父親の姿は、『タイトロープ』で親子共演していた少女時代のアリソン・イーストウッドの目にはどのように映っていたのだろうか。

 与えられ人生を、目の前に続く道を懸命に走れば走るほど、自分の生き方は矛盾をはらんでいることに気づくことになる。多くの人を楽しませるために映画づくりに励んできたイーストウッドだが、気がつけば身近な人たちを傷つけてしまっていた。別れ離れになっていた家族と復縁するためにアールじいさんは、せっせと麻薬を全米各地へとバラまき、多くのジャンキーを生み出すことになる。アールじいさんとイーストウッドは、表裏一体の関係ではないだろうか。

 どうすれば、このアンチノミーを解消することができるのだろうか。多分、この難解な方程式は死ぬまで解くことはできないと思う。それでも、その答えを求めてイーストウッドは旅を続ける。自分が抱え込んだアンチノミーとどう向き合うのか。それが生きるということなのかもしれない。

(文=長野辰次)

アンチノミーを抱えたハリウッドの頑固オヤジ! クリント・イーストウッドが贖罪の旅『運び屋』の画像4

『運び屋』
監督・製作/クリント・イーストウッド 脚本/ニック・シェンク
出演/クリント・イーストウッド、ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン、マイケル・ペーニャ、ダイアン・ウィースト、アンディ・ガルシア、イグナシオ・セリッチオ、アリソン・イーストウッド、タイッサ・ファーミガ
配給/ワーナー・ブラザース映画 3月8日(金)より全国公開
(C)2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
http://wwws.warnerbros.co.jp/hakobiyamovie

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アンチノミーを抱えたハリウッドの頑固オヤジ! クリント・イーストウッドが贖罪の旅『運び屋』

 ハリウッドが誇る大スターでありながら、名監督でもあり続けるクリント・イーストウッド。誰もが認める唯一無二の存在だ。イーストウッド自身による生前葬を思わせた主演&監督作『グラン・トリノ』(08)の後も、『インビクタス/負けざる者たち』(09)や『アメリカン・スナイパー』(14)などの力作、名作を監督し、精力的に活動を続けている。そんなイーストウッドが10年ぶりに主演&監督したのが、全米大ヒット作『運び屋』(原題『The Mule』)。88歳になるイーストウッドが実在した87歳の麻薬の運び屋を演じ、イーストウッドの映画人生と重なり合うロードムービーとなっている。

「今のハリウッドは若者向けの映画ばかりで、自分に合った作品がない」と『グラン・トリノ』以降は、イーストウッド作品を長年プロデュースしてきたロバート・ロレンツの監督デビュー作『人生の特等席』(12)に出演しただけで俳優業はリタイア状態だった。1930年生まれというイーストウッドの年齢を考えれば、年1本ペースで監督業を続けていることすら驚異だが、久々に俳優として興味を示したのが87歳のおじいちゃんが麻薬の運び屋をやっていたという雑誌記事だった。「この役を演じられるのは俺だ」と久々に主演&監督作を引き受けることになった。

 主人公のアール・ストーン(クリント・イーストウッド)は地方都市で暮らす園芸家。特にデイリリーという手間の掛かる花を育てることに情熱を注いできた。品評会では多くの賞を受賞し、社交的な人柄で人気者だった。だが、外面のよさとは反対に、家庭を省みることはなかった。娘アイリス(アリソン・イーストウッド)の結婚式すら欠席し、妻のメアリー(ダイアン・ウィースト)とは離縁。さらにはネットビジネスの台頭で、アールは園芸場と家も失い、天涯孤独の身に。そんなとき、アールに怪しい儲け話が持ち掛けられる。

 アールは全米各地の品評会に参加してきたので、車の運転には自信がある。しかも違反ゼロ。そんなアールに目をつけたのがメキシコの麻薬カルテルだった。アールは言われるがまま、年代物のトラックに大きなバッグを載せ、指定された場所へと届ける。「見るな」と言われたバッグの中身は、キロ単位の大量の麻薬だ。警察もまさか80歳過ぎの老人が麻薬の運び屋だとは思わないだろうという麻薬カルテルの狙いだった。

 アールじいさんは朝鮮戦争に従軍した退役軍人なので肝っ玉が据わっている。レストランでのんびり休憩したり、タイヤがパンクして困っている家族を見つけては手助けしたりと、自由気まま。麻薬取締局のコリン捜査官(ブラッドリー・クーパー)が麻薬ルートを一網打尽にしようと網を張っているが、その網にアールはなかなか引っ掛からない。

 運び屋稼業で儲けたギャラで園芸場を取り戻しただけでなく、唯一アールのことを慕ってくれていた孫娘ジニー(タイッサ・ファーミガ)の結婚パーティーの費用を全額負担する。さらには閉鎖が決まっていた退役軍人クラブに大金を寄付するなどの大判振る舞い。義賊ロビンフッドになったような気分だった。男としての自信をすっかり取り戻し、宿泊先にセクシーな風俗嬢を2人も呼ぶほど。麻薬カルテルから派遣された若い監視役に「人生には遊びが必要だ」と説教を垂れるアールじいさんだった。

 旅する園芸家アールには実在のモデルがいるものの、イーストウッド自身の姿とダブッて映る。イーストウッドも映画づくりに情熱を注ぐことを優先して生きてきた。映画の仕事がないときは、趣味の音楽に時間を割いた。その分、家族と過ごす時間は少なく、離婚と再婚を重ねてきた。『アウトロー』(76)から『ダーティハリー4』(83)まで度々共演した女優ソンドラ・ロックとは長年ダブル不倫関係にあり、最後は慰謝料をめぐって泥沼裁判となった。映画人としての名声とは裏腹に、家庭人としてはダメダメな人生を歩んでいる。

 運び屋稼業で生活力を取り戻したアールじいさんは、これまで傷つけてきた別れた妻メアリーや顔を合わせようともしない娘アイリスに詫びを入れる。もちろん、運び屋をやっていることは内緒にして。結婚生活が実質10年しか保たなかった元妻メアリーは、アールに向かって囁く。「あなたは私にとって最愛の人。でも、あなたは私に最大の苦痛も与える」と。憎んでも憎みきれない人。それがアールであり、またイーストウッドでもある。

 イーストウッド監督作は、どれもストーリーは明瞭だが、テーマは深遠なものが多く、簡単には咀嚼することができない。イーストウッド監督作を観ながら思ったことは、この人はアンチノミー(自己矛盾)そのものを描いているのではないかということだ。

 イーストウッドが監督としての作家性を明確に発揮し始めたのは、『ホワイトハンター ブラックハート』(90)からだろう。ハリウッドの巨匠ジョン・ヒューストンをモデルにした主人公は人種差別を嫌うリベラリストでありながら、“地上で最も崇高な生き物”アフリカ象をハンティングすることに異常な執念を燃やす。『ミリオンダラー・ベイビー』(04)ではボクシングに生き甲斐を見い出したヒロインに、死の引導を渡す役割を演じた。

 実質的にイーストウッドが監督した犯罪サスペンス『タイトロープ』(84)も興味深い作品だった。風俗嬢を専門に狙う強姦殺人鬼の足取りを調べるうちに、刑事役のイーストウッドはアブノーマルなSM世界へとハマってしまう。犯罪者を追い詰める刑事の心の中にも、黒い影が蠢いていた。新人監督をクビにしてまで映画づくりにのめり込む父親の姿は、『タイトロープ』で親子共演していた少女時代のアリソン・イーストウッドの目にはどのように映っていたのだろうか。

 与えられ人生を、目の前に続く道を懸命に走れば走るほど、自分の生き方は矛盾をはらんでいることに気づくことになる。多くの人を楽しませるために映画づくりに励んできたイーストウッドだが、気がつけば身近な人たちを傷つけてしまっていた。別れ離れになっていた家族と復縁するためにアールじいさんは、せっせと麻薬を全米各地へとバラまき、多くのジャンキーを生み出すことになる。アールじいさんとイーストウッドは、表裏一体の関係ではないだろうか。

 どうすれば、このアンチノミーを解消することができるのだろうか。多分、この難解な方程式は死ぬまで解くことはできないと思う。それでも、その答えを求めてイーストウッドは旅を続ける。自分が抱え込んだアンチノミーとどう向き合うのか。それが生きるということなのかもしれない。

(文=長野辰次)

アンチノミーを抱えたハリウッドの頑固オヤジ! クリント・イーストウッドが贖罪の旅『運び屋』の画像4

『運び屋』
監督・製作/クリント・イーストウッド 脚本/ニック・シェンク
出演/クリント・イーストウッド、ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン、マイケル・ペーニャ、ダイアン・ウィースト、アンディ・ガルシア、イグナシオ・セリッチオ、アリソン・イーストウッド、タイッサ・ファーミガ
配給/ワーナー・ブラザース映画 3月8日(金)より全国公開
(C)2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
http://wwws.warnerbros.co.jp/hakobiyamovie

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超問題作を引っさげ、大型新人監督がデビュー!! 発達障害者の性と承認欲求を描いた『岬の兄妹』

 障害を抱えた兄妹が、犯罪に手を染めることで生きていく。片山慎三監督のデビュー作『岬の兄妹』は、タブー知らずの大問題作だ。地方都市で暮らす良夫は発達障害の妹・真理子の面倒を見ていたが、職場をリストラされて困窮。真理子に売春させることで、生活の糧を得ることになる。社会のドン底を描いたインディーズ映画ながら、兄妹のタフな生き方に圧倒される魅力的な作品となっている。ポン・ジュノ監督や山下敦弘監督の助監督を務め、念願の劇場デビューを果たす片山監督に、企画意図や助監督時代の体験を語ってもらった。

──自閉症の妹・真理子(和田光沙)に1回1万円で売春させ、脚に障害のある兄・良夫(松浦祐也)は女衒として振る舞う。日本映画にはなかなかない衝撃作です。デビュー作にこの企画を選んだということは、片山監督がどうしても撮りたいテーマだったということですね?

片山慎三監督(以下、片山) いくつか企画は考えていたんですが、このテーマは以前からずっとやりたいと思っていたものです。でも、デビュー作だからこのテーマを選んだというよりは、自主制作だったのでお金をあまり使わずに済みそうだなという現実的な理由から決まった企画でした。自主映画で、監督としてのキャリアのない自分に何ができるかを考えて、これならやれると考えたんです。

――新人監督が有名キャストを使った作品を撮ることは難しい。なら、無名のキャストを使って、メジャーな作品ではできない内容のものにしようと。

片山 そうです。この映画を観る人の多くは、自閉症の真理子を演じた和田光沙さんを観るのは初めてだと思うんです。そんな人たちが「もしかしたら本物?」と錯覚するような作品にしたかったんです。和田さんはインディーズ映画ではかなり知られている存在ですが、まだまだこれから有名になる女優です。松浦祐也さんは、山下敦弘監督の『苦役列車』(12)で1日だけ主演の森山未來さんが現場に来れないときがあって、そのとき森山さんの代役をやったんです。それがすごくよかった。和田さんと松浦さんは以前から知り合いで、相性も抜群でした。そんな2人とじっくり時間を費やして、妥協しない映画を作りたいなと思ったんです。

 

■売春はお金のためではなく

──身体障害者の性について扱った映画は最近少しずつ公開されるようになりましたが、発達障害者や知的障害者の性問題を取り上げた映像作品はほとんどありません。白石和彌監督のデビュー作『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(09)か、野島伸司脚本の『聖者の行進』(98年放送/TBS系)くらいまで遡ってしまう。

片山 野島伸司さんのドラマは好きで、『聖者の行進』はリアルタイムで観ていました。けっこう影響を受けている部分はあるかもしれません。今はテレビドラマはもちろん、映画でもこういうテーマのものは難しくなっている気がします。野島さんのドラマは他の作品でも障害者のキャラクターがよく出ていました。親戚にも障害を持っている人がいたので、自分としては身近に感じるテーマではあったんです。

──障害者たちが何度も犯罪を繰り返してしまう実情を取材したルポルタージュ『累犯障害者』(新潮社)も、参考にしているそうですね。

片山 脚本を書く上で、ヒントになりました。いちばん大きかったのは、知的障害を持った女性たちが仕事として売春しているけど、罪の意識がないというところでした。売春は犯罪行為なんだけど、彼女たちも他の女性たちのように認められたいという承認欲求があり、男に抱かれることでその欲求が満たされ、売春が止められなくなってしまうわけです。お金のためではなくなってしまう。その部分には、すごく興味を惹かれました。

──ヒントになる題材はあったわけですが、自分の作品としてどのように肉づけしていったんでしょうか?

片山 脚本は想像も交えて書いたんですが、障害者やその家族と交流する地区のイベントに参加したりもしました。障害者と一緒に絵を描いたりする触れ合いの場にボランティアとして参加したんです。自閉症やダウン症など、いろんな障害を持っている人たちの集まりでした。様々な障害があり、障害の度合いも人によってまったく違うんです。それもあって、この障害の人はこういう症状なんだと型にはめた描き方はやめようと。映画の中の真理子は架空の存在ですが、ひとりのキャラクターとして自由に成立させることができればいいなと、勇気づけられた部分がありました。

■口紅を塗るシーンで役とシンクロ

──オーディションで真理子役を選んだそうですね。

片山 10人くらいの女優に声を掛けて、真理子のポケットから1万円札が出てくるシーンを演じてもらいました。和田光沙さんもそのオーディションに参加してもらったんです。「脱ぐ」ことと撮影が1年間続くことがこちらからの条件でした。この条件をクリアする女優は他にもいたと思います。でも和田さんが真理子役を演じると、あまり可哀想な感じがしないんですよ(笑)。この映画を観る方たちもそう思うはずです。それもあって、和田さんを選んだんです。

──和田さんが演じることで、真理子は陽性のキャラとなった。季節ごとに撮影を重ね、撮影期間は1年以上に。撮影の度に役に入り直すのはキャストも大変だったと思います。

片山 和田さんは特殊な役だったので、難しかったと思います。兄役の松浦さんは普段からああいう感じの人なんです(笑)。和田さんは最初は手探りでの演技でしたが、季節を追うごとにうまくなってきました。どのタイミングで真理子役を掴んだのかは、はっきりとは分かりません。でも、僕がいちばん好きなのは、公衆トイレで口紅を塗った真理子が鏡を見るシーンです。あのシーンの和田さんは、すごく真理子役にハマっていました。その後の撮影はどんどんよくなっていったように思います。

■助監督が常に抱えている悩みとは?

──生活に困った兄妹が、捨てられていたお弁当用の使い切りソースを舐めたり、テッシュペーパーを「甘い」と食べるシーンも、すごくリアルでした。

片山 使い切りソースを舐めるのは、松浦さんたちのアドリブです。テッシュを食べると甘く感じるというのは、ネットか何かで読んだものです。僕の実体験ではありません(笑)。

──アカデミー賞受賞作『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)のギレルモ・デル・トロ監督は、若手時代にドッグフードを食べていたそうです。『ぐるりのこと。』(08)の橋口亮輔監督は「ふえるわかめちゃん」を食べて飢えを凌いでいたそうですが……。

片山 そうなんですか。そこまでは経験していませんが、大阪から東京に上京してきた20代前半の頃は、六畳のアパートに男3人で1年ほど暮らしていたことがあります。月4万6000円の家賃を3人で割っていたので、経済的には楽でしたが、気分的にはサイアクでした(苦笑)。

──助監督を長くやっていると、「自分はいつ監督デビューできるんだろうか」みたいな不安を感じることがありますか?

片山 それは助監督をやっている人たちみんなが抱えている悩みでしょうね。助監督は誰もが監督になれるわけではありませんから。まぁ、長く助監督をやっていると、チャンスは回ってきます。昔のプロデューサーみたいに「おまえもそろそろ、一本撮ってみるか?」みたいに声を掛けられることは今はないと思いますが、例えばテレビドラマ10話あるうちの1~2話を撮らせてもらえることはあるわけです。でも、それでは自分の色は出せない。やっぱり自分で考えた企画を温めて続け、勝負に出ることが大事じゃないかなと思うんです。

■韓国映画の鬼才から学んだこと

──韓国映画『殺人の追憶』(03)や『漢江の怪物 グニエル』(06)などで知られるポン・ジュノ監督の助監督を務めていたそうですね。どうやってコミュニケーションを?

片山 ポン・ジュノ監督の『シェイキング東京』(08)や『母なる証明』(09)に助監督として就いていました。「ただ働きでいいので」と頼み込んだんです。僕は英語も韓国語もつたないんですが、韓国人しかいない現場でずっと過ごしていると何となく分かるようになってくるものです(笑)。とはいえ細かいコミュニケーションが必要な作業はできなかったので、カメラとモニターの間のケーブルを繋ぐとか、そういう簡単な作業をもっぱら担当していました。ポン・ジュノ監督がモニターを覗いている後ろに立って、「同じカットを40テイクも撮るのか。でも、今のカットはさっきのとあまり変わらないなぁ」なんて見ていましたね(笑)。

──助監督時代から、相当に肝が据わっていたんですね。

片山 そうですか(笑)。ポン・ジュノ監督はとてもオープンな性格で、人間的にも本当に素晴しい方でした。激しい内容の作品が多いけれど、すごくバランスも考えて撮っている監督です。ハードなシーンの撮影がある日は、そのシーンだけしか撮らないとか、俳優にあまり無理な負担が掛からないようにしていました。『母なる証明』のときは1日5カット程度しか撮っていません。その分、撮影期間が半年くらいありましたけど。時間を費やして、いい作品を撮るという韓国映画の姿勢は、すごく刺激になりました。

──日本に戻ってからは、山下敦弘監督の硬派文芸路線『マイ・バック・ページ』(11)や『苦役列車』の助監督に。

片山 僕の知り合いが「お前に合っているはずだ」と誘ってくれたんです。うれしかったですね。『マイ・バック・ページ』や『苦役列車』で松浦さんとも知り合いましたし、面白い現場でした。アイドル主演映画の現場にも参加し、自分にはなかった視野を広げるいい勉強になったと思います。助監督時代にいろんなタイプの作品を体験しておくことは大切ですね。

■高校時代の挫折が、映画監督を目指す転機に

──大阪で過ごした高校時代は、花村萬月の小説などを読んでいたとのこと。どんな青春を送っていたのか気になります。

片山 高校時代はラグビー部で3年間けっこうマジメに練習やっていました。とは言っても、映画の試写会の抽選に当たったりすると、母親に頼んで「親戚が入院したので……」など学校に電話してもらって、練習を早退したりしていました(笑)。本を読むのも好きで、学校の行き帰りや部活が休みの日はよく小説を読んでいました。それでも体がデカく、足も速かったんで、顧問の教師からはラグビーで大学推薦できるぞと声を掛けてもらっていたんです。高3のときに鎖骨を折って、それで最後の全国大会は出場できませんでした。多分、怪我をしてなかったら、大学、社会人でもラグビーをずっと続けていたんじゃないかと思います。

──ラグビーに挫折したことが転機になって、映画の世界に。

片山 怪我で大会に出場できなくなったときは途方に暮れました。高校卒業後もしばらくプラプラしてバイクで旅をしたりしていたんですが、しばらくしてシナリオの勉強を始めたんです。その頃、好きだったのはデヴィッド・フィンチャー監督の『セブン』(95)ですね。スタンリー・キューブリック監督の『フルメタル・ジャケット』(87)も大好きで、今でもよく見直しています。痛みを感じさせる映画が好きなんです。それから東京に上京して「中村幻児映像塾」に通い、映画の現場に入るようになったんです。

■岬の兄妹と福祉との関係

──自主映画『岬の兄妹』で待望の監督デビューを果たすわけですが、今後は?

片山 商業作品を撮る機会があるといいなと思っています。もちろんオリジナルの企画もやりたいですが、自分が気に入っている原作ものも映画にできればいいですね。樋口毅宏さんの『民宿雪国』は大好きな小説なので、なんとか映画化したいです。

──最後にもうひとつ訊かせてください。『岬の兄妹』を観て、「なぜ、この兄妹は福祉に救いを求めないんだ」と疑問に思う人もいるかもしれません。そのことはどう感じますか?

片山 そう思う人は多いと思います。でも、この映画の中では、2人には自分たちの力で生きていく道を見つけさせたかったんです。何でもかんでも社会のせいにしたり、役所に助けを求める主人公には、映画を観ている人たちは魅力を感じないと思うんです。脚本段階では、2人が役所に生活保護の申請を出すけど却下されるシーンや、役所の人が訪ねてきたのに2人は居留守するシーンとかも考えたんですが、それはちょっと違うなと。ケン・ローチ監督の『わたしは、ダニエル・ブレイク』(16)という福祉問題を正面から扱ったとてもいい映画がありましたが、描くならあのくらいガッツリやらないとダメだと思うんです。

──犯罪ではあるものの売春でお金を稼ぐようになり、それまで社会から隔離されるように暮らしていた兄妹の家に明るい光が差し込む。あのシーンはとても印象的です。

片山 もちろん経済的な安定を手に入れたという喜びもあるんでしょうが、それ以上に自分たちの力で生きていける手段を見つけたという希望を感じたことが大きかったと思うんです。そんな2人の心情を視覚的に表現したいなと思ったシーンです。障害を持った兄妹を主人公にしていますが、情報弱者の不憫な家族として描いたつもりはありません。普遍的な物語として、みなさんに観ていただきたいですね。観た方の価値観を変えてしまうような映画になるといいなと思っています。
(取材・文=長野辰次)

超問題作を引っさげ、大型新人監督がデビュー!! 発達障害者の性と承認欲求を描いた『岬の兄妹』の画像5

『岬の兄妹』
監督・製作・プロデューサー・編集・脚本/片山慎三
出演/松浦祐也、和田光沙、北山雅康、中村祐太郎、岩谷健司、時任亜弓、ナガセケイ、松澤匠、芹澤興人、荒木次元、杉本安生、風祭ゆき
配給/プレシディオ R15+ 3月1日(金)よりイオンシネマ板橋、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9ほか全国順次公開
(c)SHINZO KATAYAMA
https://misaki-kyoudai.jp


●片山慎三(かたやま・しんぞう)

1981年生まれ、大阪府出身。中村幻児監督主催の映像塾を卒業後、オムニバス映画『TOKYO!』(08)のポン・ジュノ監督パート『シェイキング東京』や『母なる証明』(09)に助監督として参加。韓国から日本に戻り、山下敦弘監督の『マイ・バック・ページ』(11)、『苦役列車』(12)、『味園ユニバース』(15)などにも助監督として就いている。監督作として、本多奏多主演ドラマ『アカギ』第7話などがある。

第28回東京スポ映画大賞開催! 山根明は「リアルアウトレイジ」北野武監督の次回作は「時代劇」?

 2月24日、東京プリンスホテルにて東京スポーツ社が主催する「第28回東京スポーツ映画大賞」の授賞式が行われた。毎年恒例、ビートたけし審査委員長の独断と偏見の元に行われる映画賞もいよいよ30回目前。気が付けば日本の映画賞のなかでも、そこそこに古い歴史を持つ賞へと成長してしまった。果たして今回はどのようなユニークな授賞式になったのだろうか…?

 今年における東スポ映画大賞へのノミネート作品は非常に少なく、洋画ではブライアン・シンガー監督の『ボヘミアン・ラプソディ』、邦画では是枝裕和監督の『万引き家族』、白石和彌監督の『孤狼の血』、上田慎一郎監督の『カメラを止めるな!』など4作品のみ。しかし、どれも話題性は十分で、特に毎年のように東スポ映画大賞にノミネートされている是枝監督は、2018年公開の『万引き家族』が第71回 カンヌ国際映画祭での最高賞を受賞したことを皮切りにアカデミー賞の外国語映画賞にもノミネートされるなど、国内外の由緒ある映画賞に輝き、一躍「世界の是枝」に。

 この輝かしい成績に「世界のキタノ」こと、ビートたけしは「是枝がアカデミー賞にノミネートされた。ジャンルは違うが小津安二郎みたいになるのではないかと予感はしている。日本の映画がもう一度、世界から評価されるようになってほしいよね」と語った。

 この日『万引き家族』のチームは、アカデミー賞への出席のため是枝監督ほか主演女優の安藤サクラもアメリカへと旅立ってしまったため、代理として『万引き家族』で主演男優賞のリリー・フランキーが是枝監督の代理も兼ねてトロフィーを受け取った。

 リリーは『万引き家族』の共演者で18年9月に亡くなった樹木希林の思い出を語り「希林さんはもらった(映画祭の)トロフィーを電気スタンドにして飾っていて、人にもよくあげていた」という樹木希林らしい珍エピソードを語ったほか、同じく『万引き家族』で助演女優賞を授賞した松岡茉優は樹木から「あなたの顔、覚えにくいわね」と言われたほか、樹木がリリーにあげたトロフィー型電気スタンドのガムテープ跡をその場のノリで松岡が剥がすことになったなど、亡くなってもなお、映画界に存在感を示し続ける名女優・樹木希林を追懐した。

 そして、18年度最大の話題作となった『カメラを止めるな!』は監督賞(上田慎一郎)および新人賞(しゅはまはるみ)を受賞。監督の上田慎一郎が壇上に上がった。

 たけしは『カメラを止めるな!』に対し「最初は蛭子能収さん(の漫画)みたいな『下手ウマ』かと思ったら2回目を見たときは、かなり緻密な計算をしていることがわかった。正直見くびっていてすいませんでした。監督のこの緻密な計算能力があれば次回作もきっとヒットできる」と太鼓判を押し、たけしと一緒に『カメ止め』を代表する「ゾンビポーズ」で記念撮影に応じた。

 また、今回は動画配信サービスに押されがちなレンタル業界を応援するため「TSUTAYA特別賞」がたけしの計らいで制定された。

 本賞は18年度にTSUTAYAでもっとも借りられたDVDソフトに授与される賞で、北野武監督の『アウトレイジ最終章』が受賞した。

 東スポ映画大賞は「ビートたけしが独断と偏見で選ぶ」映画賞のため、会場では一時「データ改ざん説」も流れたが、出席した株式会社TSUTAYAの代表取締役社長によると『アウトレイジ最終章』はレンタル稼働率ナンバーワンで間違いなく、北野監督は「自分の作品をレンタルでこんなに見てくれてる人がいるのは嬉しい」と語ったほか、『アウトレイジシリーズ』に続く「次回作」についても言及があった。

 北野監督いわく「大河ドラマ(『いだてん』)の撮影が終わったら、戦国時代の話を描いた時代劇を撮りたい」とのことで、現在構想を固めている最中だという。

 オフィス北野退所騒動もあり、今後の映画製作状況が白紙状態となっていた、たけしの「新作情報」に一時、会場が湧き上がったところで、表彰は「第19回ビートたけしのエンターテインメント賞」へ。

 話題賞には18年に日本ボクシング連盟の関係者333人からの告発状が届いた連盟元会長の山根明が授賞し壇上に。たけしは山根前会長とバラエティ番組で共演した際に「強面だけでなくジョークもいける面白い人だとわかった。存在自体が『アウトレイジ』なのだ」と感じ「お気に入り」ということで今回の受賞が決まったという。

 また、同じく話題賞には、18年12月31日に念願の『NHK紅白歌合戦』に出場後、メンバーのひとりが交際女性へのDV疑惑により脱退、年末年始の話題をかっさらった「純烈」に授与された。たけしは「ああいった事件(DV)は芸人の世界ではよくあることだからね。でもメンバーが抜けても見事なコーラスを披露できているのは流石だね。オイラはずっと応援していきたい」とエールを送った。

 純烈は舞台上で紅白歌合戦時に披露した「プロポーズ」を含む3曲を熱唱。後半は客席へ移動し握手しながら歌う「純烈スタイル」で出番を終えた。

「エンターテインメント賞」では、特別芸能賞としてグレート義太夫、ホーキング青山の2名、演芸新人賞にはハナコ、和牛、ANZEN漫才・みやぞん、マッハスピード豪速球、霜降り明星、特別賞にはプロレスラーの棚橋弘至、SNS炎上賞として、とろサーモン・久保田かずのぶ、スーパーマラドーナ・武智正剛の2名が選ばれたほか、日本芸能大賞には「平成を代表する芸人」として明石家さんま、笑福亭鶴瓶の2名が選ばれ、約2時間30分に渡る授賞式は大盛況のままに終わった。

 たけしは最後に「昨年度は邦画作品があまり元気がない印象だったけど、『カメラを止めるな!』をはじめ、予算が少なくてもいい作品を撮れる監督が出てきたことは素直に嬉しい。まあ、自分は時代劇を撮ろうとしてるのでお金はかかるんだけど……。ただ、これだけいろいろな分野の人を表彰するのは東スポ映画賞だけだからね。自分が舞台に立てるまで続けたいな」と来年への抱負と意欲を語り、「第28回」の式を締めた。
(文・写真=穂積昭雪)

人種問題を描いたオスカー候補のバディムービー『グリーンブック』『ブラック・クランズマン』

 2月25日(日本時間2月26日)に発表される米国アカデミー賞で作品賞ほか各部門の有力作と目されているのが、ピーター・ファレリー監督の『グリーンブック』とスパイク・リー監督の『ブラック・クランズマン』だ。どちらも“人種差別”を扱った実録バディムービー。コメディを得意とするピーター・ファレリー監督、アフリカ系米国人の視点から辛口映画を撮り続けるスパイク・リー監督のそれぞれの持ち味が生かされた作品となっている。

 LA暴動を予見した『ドゥ・ザ・ライト・シング』(89)でのブレイク以降、ブラックムービーを牽引してきたスパイク・リー監督。近年は低迷気味だったが、元潜入捜査官ロン・ストールワースの原作小説をベースにした『ブラック・クランズマン』は、デンゼル・ワシントン主演作『マルコムX』(92)と並ぶ彼の代表作となりそうだ。白人至上主義を唱える秘密結社KKK (クー・クラック・クラン)を黒人刑事が潜入捜査したという冗談のような本当の話を描いている。名優デンゼル・ワシントンの息子ジョン・デヴィッド・ワシントンの初主演作というのも興味を惹く。

 舞台は1970年代の米国コロラド州。ロン(ジョン・デヴィッド・ワシントン)はコロラドスプリングス警察署の初の黒人刑事となる。目指すは警察界のジャッキー・ロビンソンだが、ロンも黒人初のメジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソン同様に仕事仲間からの偏見に悩まされる。そんな彼の初めての捜査は、過激さで恐れられていた“黒人解放組織”ブラックパンサー党の演説集会へ潜入すること。黒人のロンでなければ務まらない任務だった。

 次なるロンの潜入先はKKK。新聞広告でKKKがメンバーを募集していることを知り、さっそく電話するロン。黒人がいかに愚かな人種であるかを捲し立て、KKK幹部にすっかり気に入られる。ロンとコンビを組むのは、白人刑事のフィリップ(アダム・ドライバー)。ロンが電話でKKKに近づき、実際にはフィリップが接触することに。ロンとフィリップは、まるで二人羽織のような奇妙な潜入捜査を始める。

 電話で差別主義者に巧みに成りすますロン。彼の台詞には真実味があった。それはなぜか? ロンはこれまでに自分が言われて傷ついてきた言葉や言われるといちばん嫌なことを、そのまま口にした。ロンが自虐的な言葉を吐けば吐くほど、KKKの幹部は大喜びした。潜入捜査とはいえ、このときのロンはどんな気持ちだったのだろうか。

 シリアスな社会派ドラマとブラックな笑いの世界とのギリギリの狭間を狙った『ブラック・クランズマン』。映画界における人種差別についてのトリビアも多く盛り込まれている。1915年に公開されたD・W・グリフィス監督の『國民の創生』はハリウッド初の長編映画として有名だが、KKKはこの古典映画の中では正義の覆面ヒーローとして描かれている。その後もハリウッドでは白人ヒーローが活躍する映画ばかりが製作され続け、その反動から70年代になって黒人ヒーローを主人公にした『黒いジャガー』(71)や『スーパーフライ』(72)などの“ブラックスプロイテーション”が誕生した。ロンが勤める警察署だけでなく、スパイク・リー監督が暮らす映画界も偏見だらけの歴史の上に成り立っている。

 2016年のアカデミー賞授賞式に呼ばれていたスパイク・リー監督は「俳優部門の候補者は白人ばかり」と批判し、出席をボイコットする騒ぎがあった。この一件がなければ、マーベル初の黒人ヒーローもの『ブラックパンサー』(18)が今年のアカデミー賞作品賞にノミネートされることもなかっただろう。

 もうひとつの『グリーンブック』は、『メリーに首ったけ』(98)などの爆笑コメディを大ヒットさせてきたファレリー兄弟のお兄ちゃんピーター・ファレリーの単独監督作。実在した黒人ピアニストのドクター・ドナルド・シャーリーとナイトクラブのオーナーだったトニー・リップとの交流談を映画化したもので、これまでのようなお下劣ギャグは控えめ。その分、米国社会に根強く残る人種差別が浮かび上がる人間ドラマに仕上げてある。

 こちらの時代設定は1960年代。主人公となるトニー(ヴィゴ・モーテンセン)はNYのナイトクラブの用心棒を務めているコワモテの男だ。とはいえイタリア系移民らしく、妻のドロレス(リンダ・カーデリーニ)と2人の息子のことを溺愛している。ナイトクラブが改装するため仕事を失ったトニーは、ドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)の運転手として雇われる。一流ピアニストであるシャーリーが米国南部をツアーすることになり、ボディガードを兼任する形で声が掛かったのだ。粗野なトニーと繊細な心を持つシャーリーとの奇妙なコンビの旅がこうして始まった。

 タイトルとなっている“グリーンブック”とは、米国南部を旅する黒人たちにとっては必携だったガイドブックのこと。リンカーン大統領による「奴隷解放宣言」から100年が経っても、米国の南部州には「ジム・クロウ法」と呼ばれる人種隔離法が残されたままだった。黒人が利用できるレストランやホテルは限られており、トニーはグリーンブックを見ながら車を運転することになる。

 ファレリー作品の特徴は、『愛しのローズマリー』(01)では肥満体、『ふたりにクギづけ』(03)では結合性双生児など、社会的マイノリティーの視線が入っている点にある。『グリーンブック』の主人公トニーは黒人のシャーリーと一緒に旅をすることで、それまでは気づかなかった人種差別の実態を目の当たりにすることになる。シャーリーは主宰者に招かれてきた来賓なのに、コンサート会場のトイレを使わせてもらえない。普段は裏社会のゴロツキを相手に暴力三昧な生活を送っているトニーだが、彼が黙っていられないほどの社会的暴力にシャーリーは耐えていた。なぜ人種偏見の強い米国南部を、シャーリーはわざわざツアーして回るのか。その謎が物語後半に明かされる。

 水と油の関係だったトニーとシャーリーだが、いくつものトラブルを乗り越えるうちに次第に距離が近くなっていく。愛妻家のトニーは手紙を綴ることを日課にしている。インテリのシャーリーの出番だった。高い教養を身に付けているシャーリーは、妻ドロレスに愛情がしっかり伝わる文章のレトリックをトニーにレクチャーする。シャーリーに手紙を添削してもらうことで、トニーの文章力は格段にアップする。

 ここで描かれる手紙とは、一種の比喩表現だろう。手紙を綴るという行為は愛情表現全般を意味するメタファーだ。ピアノのレッスンと同じように、人の愛し方も良きお手本が身近にあればすぐに上達する。逆に悪い手本しかないと、人を傷つける方法ばかり覚えることになる。無教養でガサツな用心棒だったトニーだが、孤高の天才シャーリーと旅をすることで、離れて暮らす家族のことをよりいっそう深く愛するようになっていく。

 アカデミー賞の行方以上に、ファレリー作品のファンにとって気になるのは、『グリーンブック』に弟ボビー・ファレリーの名前がクレジットされていないことではないだろうか。配給に尋ねたところ、たまたま今回は参加できなかっただけで、ケンカ別れしたわけではないらしい。それを聞いてホッとした。賞レースが落ち着いたら、また兄弟コンビで『帰ってきたMr.ダマー バカMAX!』(14)みたいな猛烈バカ映画をつくってくれるに違いない。
(文=長野辰次)

人種問題を描いたオスカー候補のバディムービー『グリーンブック』『ブラック・クランズマン』の画像4

『グリーンブック』
監督/ピーター・ファレリー 脚本/ニック・バレロンガ、ブライアン・カーリー、ピーター・ファレリー
出演/ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ
配給/ギャガ 3月1日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
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人種問題を描いたオスカー候補のバディムービー『グリーンブック』『ブラック・クランズマン』の画像5

『ブラック・クランズマン』
原作/ロン・ストールワース 監督・脚本・製作/スパイク・リー 音楽/テレンス・ブランチャード
出演/ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライバー、トファー・グレイス、コーリー・ホーキンズ、ローラ・ハリアー、ライアン・エッゴールド、ヤスペル・ペーコネン、ポール・ウォルター・ハウザー、アシュリー・アトキンソン、アレック・ボールドウィン、ハリー・ベラフォンテ
配給/パルコ 3月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
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大震災直後の朝鮮人虐殺事件を描いた実録映画!! 法廷で愛を叫んだ恋人たち『金子文子と朴烈』

 1923(大正12)年9月1日、死者・行方不明者10万5,000人という甚大な被害を生じた関東大震災が起きた。さらに震災の混乱に乗じて、「朝鮮人が井戸に毒を投げ入れ、火を放っている」というデマが流され、自警団による朝鮮人虐殺事件が各地で起きている。この事件で亡くなった朝鮮人は数千人に及ぶともいわれ、朝鮮人に間違えられて殺された中国人や日本人の聾唖者もいる。日本近代史の暗部というべきこの事件に、真っ正面から向き合ったのが実録映画『金子文子と朴烈』だ。「大逆罪」に問われた在日朝鮮人の朴烈(パク・ヨル)とその恋人だった金子文子が社会の波に翻弄されながらも、純愛を貫く姿を描いている。

 獄中手記『何が私をこうさせたか』や瀬戸内晴美の小説『余白の春』などで知られる金子文子は、壮絶さを極めた23歳の生涯を送った。神奈川県横浜市に生まれた文子は、警察官だった父親が出生届けを出さず、戸籍のないまま少女時代を過ごした。9歳のときに日本に統治されていた朝鮮で暮らす父方の親戚に引き取られるも、女中代わりに扱き使われる過酷な日々だった。自殺を考えていた文子は、3.1独立運動で盛り上がる朝鮮人たちの姿に共感を抱くことになる。16歳のときに帰国した文子は、やがて有楽町のおでん屋で働き、その頃に出会ったのが詩人であり、アナーキストの朴烈だった。朴が書いた一編の詩「犬ころ」に惹かれた文子は、朴と一緒に暮らし始め、共に「不逞社」を結成。国籍や性別にとらわれることなく、横暴な権力者たちに抵抗する同志となることを誓い合う。

 朴と文子が「不逞社」を立ち上げたのが1923年4月、その年9月に関東大震災が発生。朝鮮人大虐殺を招いた内務大臣・水野錬太郎は国際的世論をかわすために、テロ行為を画策した不穏分子を仕立てることを思いつく。そして、そのスケープゴートに選ばれたのが「不逞社」を名乗る朴と文子だった。水野がでっち上げた「大逆罪」をあえて認めることで、朴と文子は法廷に立ち、帝国主義へと突き進む日本の権力者たちとの命懸けの闘いに挑むことになる。

 本作を企画したのは、『王の男』(06)や『ソウォン/願い』(13)など実在の人物や事件を題材にした重厚なドラマを撮り続けている韓国のイ・ジュンイク監督。韓国人視点による“反日映画”と思われがちな本作だが、なぜ大震災直後に朝鮮人虐殺や思想家たちの弾圧が起きたのかという社会背景をしっかりと描いた作品となっている。朴と文子を救おうと尽力する日本の司法関係者たちも登場させるなど、日本=悪の帝国として扇情的に描くことなく、きちんと史実に基づいている。日本の映画監督たちが手を出せなかった歴史の暗部に、意欲的に斬り込んだ作品だといえるだろう。

 ヒロインとなる金子文子を演じたのは、日本で獄中死を遂げた実在の詩人を主人公にしたイ・ジュンイク監督の前作『空と風と星の詩人 尹藤柱の生涯』(15)にも出演した韓国の若手女優チェ・ヒソ。小学生時代を大阪で過ごし、そのときに阪神・淡路大震災を体験している。日本語に堪能なことから、裁判所での長台詞もある難役・金子文子役に抜擢された。「大阪で食べたタコ焼きの美味しさと少女漫画の面白さが忘れられない。大阪時代は私がいちばん幸せだった大切な思い出」と語る親日派のチェ・ヒソに役づくりの難しさについて語ってもらった。

チェ・ヒソ「金子文子の手記『何が私をこうさせたか』は日本語版とハングル版を何度も読み返しました。日本語で書かれている裁判記録もすべて読みました。『何が私をこうさせたか』は文子が朴と出会ったところで終わっています。多分、出版された当時(1931年)は政治思想については触れることができなかったんだと思います。裁判記録は読み易いものではありませんでしたが、文子の思想についてかなり詳しく記述されていたので役立ちました。裁判の最後に文子が語る陳述は裁判記録に実際に残っていたもので、私からイ・ジュンイク監督に『ぜひ使って』とお願いしたものです。文子は手記にも書かれているように大変につらい少女時代を過ごしていますが、その体験から権力者への反抗心や生命力を燃やした女性だったと思います。ジュンイク監督と話し合い、フェデリコ・フェリーニ監督の『道』(54)や『ブルックリン最終出口』(89)のような明るくタフなヒロインをイメージして演じました」

 皇太子(後の昭和天皇)暗殺を計画したテロリストとして「大逆罪」に問われる朴と文子だったが、暗殺計画は具体性のない妄想レベルのものだった。「大逆罪」が確定すれば死刑宣告されるにもかかわらず、朴と文子は世界各国が注目する裁判に韓服とチマチョゴリを着て臨み、権力者が労働者を搾取する現実社会の理不尽さを訴える。「すべての人間は平等である」と主張する2人は、思想犯というよりはヒューマニズムを貫くイノセントな恋人たちだった。

チェ・ヒソ「朝鮮人虐殺事件は祖父や祖母の世代には知られていた大事件でしたが、韓国には悲しい事件が多すぎて、今の若い世代にはあまり知られていません。『歴史は成功者の名前しか残らない。だが、負けることを覚悟して権力者と闘った人たちの闘いの過程を知ることも重要だ』という想いからイ・ジュンイク監督は映画にしました。日本と韓国は距離的にも文化的にもとても近い国。その分、どうしても政治的にはぶつかり合うことが多いと思います。国籍や性別に左右されることなく、真っすぐに生きた金子文子という素敵な女性がいたことを、日本のみなさんにも知っていただけるとうれしいです」

 関東大震災と朝鮮人虐殺、そして思想家たちの弾圧という暗い日本の歴史の中で、一途な愛を貫いたひとりの女性がいた。厳粛な法廷を愛の告白の場に変えてしまった彼女こそが、至高のアナーキストだった。
(文=長野辰次)

『金子文子と朴烈』
監督/イ・ジュンイク 脚本/ファン・ソング
出演/イ・ジェフン、チェ・ヒソ、キム・インウ、キム・ジュンハン、山野内扶、金守珍、趙博、柴田善行、小澤俊夫、佐藤正行、金淳次、松田洋治、ハン・ゴンテ、ユン・スル
配給/太秦 PG12 2月16日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
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