楳図かずお×クローネンバーグ×探偵ナイト!! かつてない衝撃作『バイオレンス・ボイジャー』

 デジタル化の進む現代社会において、アナログ感たっぷりな新しい恐怖の扉が開いた。京都出身・宇治茶監督が3年半の歳月を費やして完成させたゲキメーション『バイオレンス・ボイジャー』は、観客にどこか懐かしく、そしてとんでもない恐怖のズンドコを体験させてくれる怪作だ。ざっくり説明するならば、楳図かずお先生が描くような恐怖漫画の世界に、SF映画『ザ・フライ』(86)などで知られるデヴィッド・クローネンバーグ監督っぽい気持ち悪さを加え、さらに関西の人気番組『探偵!ナイトスクープ』(朝日放送)の笑いと感動をミックスさせた闇鍋風味の映像作品なのである。いや、まるで分かんないよ、という人はもう観るしかない。

 物語はこんな感じ。日本の山村に暮らす米国人の少年・ボビー(声:悠木碧)は親友のあっくん(声:高橋茂雄)と山を越えて、隣村にいる友達に逢いに行こうとする。その途中で見つけたのが、「バイオレンス・ボイジャー」と名付けられた寂れた娯楽施設。この施設を運営するおっさん・古池(声:田口トモロヲ)の好意で無料入場したボビーらだったが、そこは子どもたちを生け捕りにするための狩猟場だった。古池に捕まった子どもたちは次々と改造手術を受け、グロテスクなクリーチャーへと姿を変えるはめに。ボビーたちは施設内で倒れていた少女・時子(声:前田好美)を助けながら、懸命の脱出を図る―。京都から上京した宇治茶監督にゲキメーションの世界について語ってもらった。

***

――「とんでもないものを観てしまった!」というのが『バイオレンス・ボジャー』を見終わっての感想です。楳図かずおワールドに、『悪魔のいけにえ』(74)などの米国のホラー映画を掛け合わせたような内容ですね

宇治茶 そういっていただけると、うれしいです。スルーされるのが、いちばん哀しいので。「なんじゃこりゃ」的に楽しんでもらえればと思っています。大好きな楳図かずおさんの世界に、いろんなホラー映画の要素など、自分の好きなものを次々に押し込んだ作品なんです。他にも諸星大二郎さんの漫画や松本人志さんの笑いなどからも大きな影響を受けています。

――楳図かずお原作のアニメ『妖怪伝 猫目小僧』(1976年/東京12チャンネル)は「ゲキメーション」と称した切り絵風の映像作品でしたが、その系譜を受け継ぐものでしょうか?

宇治茶 はい。『妖怪伝 猫目小僧』はリアルタイムでは観ていませんが、ネットで見つけて、ゲキメーションという手法を知ったんです。大学の卒業制作を何にしようか考えているときに、『墓場鬼太郎』(2008年/フジテレビ系)のオープニング曲にもなっていた電気グルーヴの「モノノケダンス」のプロモーションビデオも観ました。これも妖怪たちが紙人形化されていて動くゲキメーションの手法でした。それがあって、大学の卒業制作でゲキメーション手法の作品をつくり、前作『燃える仏像人間』(13)で商業監督デビューすることになったんです。なので、この世界で商業作品として存在するゲキメーションは、『猫目小僧』と「モノノケダンス」、僕がつくった『燃える仏像人間』『バイオレンス・ボイジャー』の4作品しかありません。

――普通のアニメーションをつくろうとは思わなかった?

宇治茶 普通のアニメーションはつくるのが大変そうだなぁと(笑)。以前から僕は絵を描くのが好きで、アクリル絵の具で描いていたんです。このタッチを活かすには、ゲキメーションがいちばんよかった。映画もつくりたかったし、自分の描いた絵もそのまま活かせる。僕の求めていた手法がゲキメーションだったんです。

――『バイオレンス・ボイジャー』は恐怖だけでなく、油断していると笑いもふいに襲ってきますね。

宇治茶 笑いも好きなんです。松本人志さんの笑いが大好きで、『バイオレンス・ボイジャー』はほぼ一人で原画を描いたんですが、作業中はずっと松本さんのラジオを聴いていました。楳図かずおさんの恐怖漫画も、怖いシーンの連続の中にふと「なにこれ?」と吹き出したくなるような笑いが混ざっていますよね。狙いすぎると寒い感じになってしまうので、自然と面白さが出てくるようにしました。『探偵!ナイトスクープ』からも影響を受けています。桂小枝さんが寂れた遊園地をレポートする「パラダイス」が好きなんです。「パラダイス」はおかしなおっさんが経営者として現われることが多いんですが、そんな「パラダイス」でもし殺戮が行われていたら……という妄想を膨らませたのが『バイオレンス・ボイジャー』なんです。

――子どもたちに確実にトラウマを植え付ける『バイオレンス・ボイジャー』ですが、宇治茶監督自身の恐怖体験を教えてください。小学生の頃、好きだった女の子に遠足中のバスでゲロを浴びせられた……みたいな恐ろしい目には遭っていませんか?

宇治茶 いや、そんな体験はしていません(笑)。実生活ではあんまり恐ろしい目には遭ってないかもしれません。やっぱり、テレビや映画から受けた恐怖が今でも残っていますね。小学校へ上がる前にテレビで、特撮映画『シンドバッド 虎の目大冒険』(77)を観たんですが、特撮監督レイ・ハリーハウゼンの手掛けるストップモーションアニメがすごく不気味で印象に残っています。デヴィッド・クローネンバーグ監督の『ザ・フライ』(86)やポール・バーホーベン監督の『ロボコップ』(87)も小学生のときにテレビ放映で観て、すごくショックを受けました。

――人間がハエと融合したり、殉職した警官が勝手にサイボーグ化されてしまう。宇治茶監督の作品と通じるものがありますね

宇治茶 一度改造されたら、もとの姿には戻れないという不可逆な怖さがありますよね。『仮面ライダー』(毎日放送)も改造人間ですが、変身した後に人間の姿に戻ることができるので、あんまり怖くないんです。クローネンバーグ監督がインタビューで面白いことを話していました。「主人公は別の存在に変わってしまうが、本人視点にしてみれば新しい次元に移ることができたわけで、それほどの悲劇ではない」みたいなことを語っていたんです。よく分からないけど、面白いなぁと。『バイオレンス・ボイジャー』のラストシーンは、クローネンバーグ監督のその言葉に感化されたものになっています。クローネンバーグの難しい言葉が、自分で作品にしてみたことでようやく理解できたような気がしています。

――あぁ、宇治茶監督自身も別の次元に移っちゃったんですね。この気持ち悪〜い感じは、デヴィッド・リンチ監督の作品も彷彿させますが……。

宇治茶 リンチ監督のデビュー作『イレイザーヘッド』(77)は好きなんですが、その後の作品はクローネンバーグほどは好きじゃないんですよね。どうしてかは自分でも分からないんですが。

――あまりオシャレすぎるとダメなんでしょうか?

宇治茶 そうなのかもしれません。アートっぽいところが鼻につくのかもしれませんね(笑)。

――原画3,000枚をほぼひとりで黙々と描いたそうですが、ご家族から心配されませんか?

宇治茶 はっきりと口にはしませんが、心配されていると思います。『燃える仏像人間』は、家族に「これ、面白いの?」と言われました(苦笑)。今回、よしもとの芸人さんたちに声優のオファーをしたところ、理想のキャスティングができました。テレビで活躍している人気芸人さんたちに出てもらえて、よかったです。家族には「すごいやろ?」と自慢しています(笑)。

――ナレーションは、なんと松本人志!

宇治茶 はい。前作『燃える仏像人間』を松本さんに観ていただき、「面白かった。手伝えることあったら言ってな」という言葉をいただいていたので、ダメもとでオファーしたらOKいただいたんです。松本さんのオリジナルビデオ『ヴィジュアルバム』(98〜99年)も大好きです。コメディコメディしていないというか、不条理な世界に真剣に生きているというか。でも、それでいて、どっか笑えてくるんですよね。今回のナレーション録りのときは、緊張しすぎて1回収録し終わった直後に、「はい、OKです」と言ってしまったんです。でも、松本さんが「いや、もう1回とっとこうか」と言ってくださって、合計3回録りました。最後の3回目が素晴しかったので、本編ではそれを使っています。松本さんの厚意は本当にうれしかったし、それを無駄にしないようにしたいです。

――ゲキメーションという手法ですが、原画のテイストを最大限に活かすこの手法は、まだまだ可能性があるように思います。映像化が不可能とされている楳図かずお先生の代表作『14歳』なども、ゲキメーションなら可能ですよね。

宇治茶 そうですね、確かに! 楳図さんの『14歳』は、僕のこれまでの人生の中で最大に好きな漫画です。もし可能ならやってみたいし、僕自身が映像化された『14歳』をぜひ観てみたいです。恐れ多いんですが、『14歳』のパイロット版を一度つくってみましょうか。ゲキメーションに関しては、僕以外にも作り手が現われれば、さらに面白くなってくると思うんです。基本、オリジナルストーリーのものを僕はつくっていくつもりですが、チャンスがあれば僕が好きな漫画家さんの原作ものにも挑戦してみたいです。『バイオレンス・ボイジャー』はPG12ですが、大人が同伴すれば小っちゃい子でも観ることができます。先行上映された「沖縄国際映画祭」では子どもたちが怖がって、次々と退席していきました。多くの人のトラウマになれればいいなと思っています。きっと、10年後とかに「昔観た不気味な映画なんだっけなぁ。あっ、これや!」と懐かしく楽しめると思います(笑)。

(取材・文=長野辰次)

『バイオレンス・ボイジャー』

監督・脚本・編集・キャラクターデザイン・撮影/宇治茶

声の出演/悠木碧、田中直樹(ココリコ)、藤田咲、高橋茂雄(サバンナ)、小野大輔、田口トモロヲ、松本人志

配給/よしもとクリエイティブ・エージェンシー PG12

5月24日(金)よりシネ・リーブル池袋ほか全国順次ロードショー

(c)吉本興業

http://violencevoyager.com/

●宇治茶(うじちゃ)

1986年京都府宇治市出身。京都嵯峨芸術大学観光デザイン学科卒業。大学の卒業制作でゲキメーション『RETNEPRAC2』(09)を制作。ゲキメーション第2弾『宇宙妖怪戦争』(10)を経て、安斎レオプロデュースによる長編『燃える仏像人間』(13)で商業監督デビュー。文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞を受賞。『燃える仏像人間』は冒頭と最後に実写パートがあるため、純度100%の長編ゲキメーションは『バイオレンス・ボジャー』が初となる。楳図かずおと諸星大二郎の漫画が大好き。

楳図かずお×クローネンバーグ×探偵ナイト!! かつてない衝撃作『バイオレンス・ボイジャー』

 デジタル化の進む現代社会において、アナログ感たっぷりな新しい恐怖の扉が開いた。京都出身・宇治茶監督が3年半の歳月を費やして完成させたゲキメーション『バイオレンス・ボイジャー』は、観客にどこか懐かしく、そしてとんでもない恐怖のズンドコを体験させてくれる怪作だ。ざっくり説明するならば、楳図かずお先生が描くような恐怖漫画の世界に、SF映画『ザ・フライ』(86)などで知られるデヴィッド・クローネンバーグ監督っぽい気持ち悪さを加え、さらに関西の人気番組『探偵!ナイトスクープ』(朝日放送)の笑いと感動をミックスさせた闇鍋風味の映像作品なのである。いや、まるで分かんないよ、という人はもう観るしかない。

 物語はこんな感じ。日本の山村に暮らす米国人の少年・ボビー(声:悠木碧)は親友のあっくん(声:高橋茂雄)と山を越えて、隣村にいる友達に逢いに行こうとする。その途中で見つけたのが、「バイオレンス・ボイジャー」と名付けられた寂れた娯楽施設。この施設を運営するおっさん・古池(声:田口トモロヲ)の好意で無料入場したボビーらだったが、そこは子どもたちを生け捕りにするための狩猟場だった。古池に捕まった子どもたちは次々と改造手術を受け、グロテスクなクリーチャーへと姿を変えるはめに。ボビーたちは施設内で倒れていた少女・時子(声:前田好美)を助けながら、懸命の脱出を図る―。京都から上京した宇治茶監督にゲキメーションの世界について語ってもらった。

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――「とんでもないものを観てしまった!」というのが『バイオレンス・ボジャー』を見終わっての感想です。楳図かずおワールドに、『悪魔のいけにえ』(74)などの米国のホラー映画を掛け合わせたような内容ですね

宇治茶 そういっていただけると、うれしいです。スルーされるのが、いちばん哀しいので。「なんじゃこりゃ」的に楽しんでもらえればと思っています。大好きな楳図かずおさんの世界に、いろんなホラー映画の要素など、自分の好きなものを次々に押し込んだ作品なんです。他にも諸星大二郎さんの漫画や松本人志さんの笑いなどからも大きな影響を受けています。

――楳図かずお原作のアニメ『妖怪伝 猫目小僧』(1976年/東京12チャンネル)は「ゲキメーション」と称した切り絵風の映像作品でしたが、その系譜を受け継ぐものでしょうか?

宇治茶 はい。『妖怪伝 猫目小僧』はリアルタイムでは観ていませんが、ネットで見つけて、ゲキメーションという手法を知ったんです。大学の卒業制作を何にしようか考えているときに、『墓場鬼太郎』(2008年/フジテレビ系)のオープニング曲にもなっていた電気グルーヴの「モノノケダンス」のプロモーションビデオも観ました。これも妖怪たちが紙人形化されていて動くゲキメーションの手法でした。それがあって、大学の卒業制作でゲキメーション手法の作品をつくり、前作『燃える仏像人間』(13)で商業監督デビューすることになったんです。なので、この世界で商業作品として存在するゲキメーションは、『猫目小僧』と「モノノケダンス」、僕がつくった『燃える仏像人間』『バイオレンス・ボイジャー』の4作品しかありません。

――普通のアニメーションをつくろうとは思わなかった?

宇治茶 普通のアニメーションはつくるのが大変そうだなぁと(笑)。以前から僕は絵を描くのが好きで、アクリル絵の具で描いていたんです。このタッチを活かすには、ゲキメーションがいちばんよかった。映画もつくりたかったし、自分の描いた絵もそのまま活かせる。僕の求めていた手法がゲキメーションだったんです。

――『バイオレンス・ボイジャー』は恐怖だけでなく、油断していると笑いもふいに襲ってきますね。

宇治茶 笑いも好きなんです。松本人志さんの笑いが大好きで、『バイオレンス・ボイジャー』はほぼ一人で原画を描いたんですが、作業中はずっと松本さんのラジオを聴いていました。楳図かずおさんの恐怖漫画も、怖いシーンの連続の中にふと「なにこれ?」と吹き出したくなるような笑いが混ざっていますよね。狙いすぎると寒い感じになってしまうので、自然と面白さが出てくるようにしました。『探偵!ナイトスクープ』からも影響を受けています。桂小枝さんが寂れた遊園地をレポートする「パラダイス」が好きなんです。「パラダイス」はおかしなおっさんが経営者として現われることが多いんですが、そんな「パラダイス」でもし殺戮が行われていたら……という妄想を膨らませたのが『バイオレンス・ボイジャー』なんです。

――子どもたちに確実にトラウマを植え付ける『バイオレンス・ボイジャー』ですが、宇治茶監督自身の恐怖体験を教えてください。小学生の頃、好きだった女の子に遠足中のバスでゲロを浴びせられた……みたいな恐ろしい目には遭っていませんか?

宇治茶 いや、そんな体験はしていません(笑)。実生活ではあんまり恐ろしい目には遭ってないかもしれません。やっぱり、テレビや映画から受けた恐怖が今でも残っていますね。小学校へ上がる前にテレビで、特撮映画『シンドバッド 虎の目大冒険』(77)を観たんですが、特撮監督レイ・ハリーハウゼンの手掛けるストップモーションアニメがすごく不気味で印象に残っています。デヴィッド・クローネンバーグ監督の『ザ・フライ』(86)やポール・バーホーベン監督の『ロボコップ』(87)も小学生のときにテレビ放映で観て、すごくショックを受けました。

――人間がハエと融合したり、殉職した警官が勝手にサイボーグ化されてしまう。宇治茶監督の作品と通じるものがありますね

宇治茶 一度改造されたら、もとの姿には戻れないという不可逆な怖さがありますよね。『仮面ライダー』(毎日放送)も改造人間ですが、変身した後に人間の姿に戻ることができるので、あんまり怖くないんです。クローネンバーグ監督がインタビューで面白いことを話していました。「主人公は別の存在に変わってしまうが、本人視点にしてみれば新しい次元に移ることができたわけで、それほどの悲劇ではない」みたいなことを語っていたんです。よく分からないけど、面白いなぁと。『バイオレンス・ボイジャー』のラストシーンは、クローネンバーグ監督のその言葉に感化されたものになっています。クローネンバーグの難しい言葉が、自分で作品にしてみたことでようやく理解できたような気がしています。

――あぁ、宇治茶監督自身も別の次元に移っちゃったんですね。この気持ち悪〜い感じは、デヴィッド・リンチ監督の作品も彷彿させますが……。

宇治茶 リンチ監督のデビュー作『イレイザーヘッド』(77)は好きなんですが、その後の作品はクローネンバーグほどは好きじゃないんですよね。どうしてかは自分でも分からないんですが。

――あまりオシャレすぎるとダメなんでしょうか?

宇治茶 そうなのかもしれません。アートっぽいところが鼻につくのかもしれませんね(笑)。

――原画3,000枚をほぼひとりで黙々と描いたそうですが、ご家族から心配されませんか?

宇治茶 はっきりと口にはしませんが、心配されていると思います。『燃える仏像人間』は、家族に「これ、面白いの?」と言われました(苦笑)。今回、よしもとの芸人さんたちに声優のオファーをしたところ、理想のキャスティングができました。テレビで活躍している人気芸人さんたちに出てもらえて、よかったです。家族には「すごいやろ?」と自慢しています(笑)。

――ナレーションは、なんと松本人志!

宇治茶 はい。前作『燃える仏像人間』を松本さんに観ていただき、「面白かった。手伝えることあったら言ってな」という言葉をいただいていたので、ダメもとでオファーしたらOKいただいたんです。松本さんのオリジナルビデオ『ヴィジュアルバム』(98〜99年)も大好きです。コメディコメディしていないというか、不条理な世界に真剣に生きているというか。でも、それでいて、どっか笑えてくるんですよね。今回のナレーション録りのときは、緊張しすぎて1回収録し終わった直後に、「はい、OKです」と言ってしまったんです。でも、松本さんが「いや、もう1回とっとこうか」と言ってくださって、合計3回録りました。最後の3回目が素晴しかったので、本編ではそれを使っています。松本さんの厚意は本当にうれしかったし、それを無駄にしないようにしたいです。

――ゲキメーションという手法ですが、原画のテイストを最大限に活かすこの手法は、まだまだ可能性があるように思います。映像化が不可能とされている楳図かずお先生の代表作『14歳』なども、ゲキメーションなら可能ですよね。

宇治茶 そうですね、確かに! 楳図さんの『14歳』は、僕のこれまでの人生の中で最大に好きな漫画です。もし可能ならやってみたいし、僕自身が映像化された『14歳』をぜひ観てみたいです。恐れ多いんですが、『14歳』のパイロット版を一度つくってみましょうか。ゲキメーションに関しては、僕以外にも作り手が現われれば、さらに面白くなってくると思うんです。基本、オリジナルストーリーのものを僕はつくっていくつもりですが、チャンスがあれば僕が好きな漫画家さんの原作ものにも挑戦してみたいです。『バイオレンス・ボイジャー』はPG12ですが、大人が同伴すれば小っちゃい子でも観ることができます。先行上映された「沖縄国際映画祭」では子どもたちが怖がって、次々と退席していきました。多くの人のトラウマになれればいいなと思っています。きっと、10年後とかに「昔観た不気味な映画なんだっけなぁ。あっ、これや!」と懐かしく楽しめると思います(笑)。

(取材・文=長野辰次)

『バイオレンス・ボイジャー』

監督・脚本・編集・キャラクターデザイン・撮影/宇治茶

声の出演/悠木碧、田中直樹(ココリコ)、藤田咲、高橋茂雄(サバンナ)、小野大輔、田口トモロヲ、松本人志

配給/よしもとクリエイティブ・エージェンシー PG12

5月24日(金)よりシネ・リーブル池袋ほか全国順次ロードショー

(c)吉本興業

http://violencevoyager.com/

●宇治茶(うじちゃ)

1986年京都府宇治市出身。京都嵯峨芸術大学観光デザイン学科卒業。大学の卒業制作でゲキメーション『RETNEPRAC2』(09)を制作。ゲキメーション第2弾『宇宙妖怪戦争』(10)を経て、安斎レオプロデュースによる長編『燃える仏像人間』(13)で商業監督デビュー。文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞を受賞。『燃える仏像人間』は冒頭と最後に実写パートがあるため、純度100%の長編ゲキメーションは『バイオレンス・ボジャー』が初となる。楳図かずおと諸星大二郎の漫画が大好き。

映画『キングダム』続編確定か……? 大沢たかお最新作『AI崩壊』にも期待集まる

「動員も100万人を突破しましたし、このままいくと興収も45億を超えて続編制作もすんなりとOKが出そうな感じになってますね。大沢さんも続編込みで受けてるみたいですから」(テレビ局関係者)

 山崎賢人主演でこの春一番の話題作『キングダム』で物語の重要人物である王騎を演じている大沢たかお。

「大沢さんは2年間休業していたこともあって、久々の映画出演となりました。本人は休業の理由をモチベーションの欠如と言っていましたが、あまり声が掛からなかったのも事実でしょう。主演復帰作となる『AI崩壊』はオリジナル作品で大作ということもあって、入江監督にも自分の意見を言ったりして現場を作ってたようですよ」(映画関係者)

『AI崩壊』は2020年公開だが、最低でも30億円以上の興収を狙っているという。

「その点、『キングダム』がヒットしたのはいい宣伝効果になると思います。基本的に大沢さんは主演以外を受けない人ですからね。今回、『キングダム』で脇を引き受けたことは業界でも驚きの声があがってましたよ。今や彼のポジションには西島秀俊さんや竹野内豊さん、江口洋介さんら主演も脇もこなす人がたくさんいますから、焦りもあったのかもしれませんね。役所広司さんなんかは監督の指示には一切口を出さないですが、大沢さんは良くも悪くも現場で口を出すのが好きな人ですからね。もし『AI崩壊』が大コケでもしたらもう主演の話はないかもしれませんよ」(芸能事務所関係者)

 プライドを守れるか――。

『いだてん』だけじゃない!? “クドカン”宮藤官九郎の大コケ作品

 NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』の視聴率下落が止まらない。4月28日放送回では、歴代最低の7.1%(ビデオリサーチ調べ・関東地区平均)を記録した。このまま視聴率回復が望めない場合、大河史上最低の作品となることは間違いない。

 この原因を昨今のテレビ不況に求めようにも、『いだてん』の前後に放送されている番組の視聴率は好調であり、視聴者がチャンネルを変えているとわかる。

『いだてん』はもともと大河ドラマで弱いといわれてきた近現代をテーマとした点や、東京オリンピックに直接関係のない古今亭志ん生を演じるビートたけしのナレーションとして起用するなど、もともと“無理ゲー”な要素が多くあった。「人気脚本家を起用したのになぜ……」といった声もあるが、そもそも脚本を務めるクドカンこと宮藤官九郎は、手がける作品がすべて大ヒットというわけではなく『いだてん』に並ぶ黒歴史作も多い。

「宮藤官九郎のテレビドラマの代表作といえば『池袋ウエストゲートパーク』『木更津キャッツアイ』(ともにTBS系)があげられますが、両作は決して高い視聴率を獲得した作品ではなく、再放送や口コミで人気に火がついていったといわれます。『いだてん』は展開のわかりにくさが問題となっていますが、それはもともとクドカンの作風であり、万人に受け入れられるタイプのものではないといえるでしょう」(業界関係者)

 そうしたタイプの作品はドラマではなく、映画にも存在する。

「2004年に映画化された『69 sixty nine』は“政治の季節”を描いた村上龍の自伝的作品がテーマとなりました。しかし、クドカンはそうした要素を取っ払い、ギャグ要素が強めの作品に仕上げ、原作とは似ても似つかないものとしてしまい、同作のファンからは不評を買いました。同年公開の『ゼブラーマン』は、特撮ヒーローに憧れる冴えない小学校教師を哀川翔が演じましたが、大ヒットには繋がりませんでした。10年には仲里依紗をヒロインに加えての続編も作られますが、こちらも大コケしています」(同)

 クドカン脚本は一部の好事家に熱狂的に受け入れられるアクの強い作風といえる。いまだ国民的番組である大河ドラマにふさわしかったかは疑問が残るところだろう。
(文=平田宏利)

日本領土が武装勢力に占拠されたら、どうする!? かわぐちかいじの世界を初実写化『空母いぶき』

 スケールの大きな海洋アクションもの『沈黙の艦隊』『ジパング』などで知られる人気漫画家・かわぐちかいじのコミックが初めて実写映画化された。西島秀俊、佐々木蔵之介、佐藤浩市らが出演した『空母いぶき』がそれだ。旧日本海軍の伝統を引き継ぐ海上自衛隊が日本領である南洋の孤島を占拠した武装勢力と軍事衝突するという、ミリタリー愛好家には見逃せない作品となっている。

 物語の中心人物となるのは、航空自衛隊のエースパイロットだった秋津竜太1佐(西島秀俊)。米軍の伝統にならい、海上自衛隊初となる空母「いぶき」の初代艦長に任命される。生え抜きの海上自衛隊員であり、「いぶき」の副艦長となる新波歳也2佐(佐々木蔵之介)とは、防衛大学で首席の座を争った関係だった。自衛隊が空母を所有することに国会や世論が厳しい声を浴びせる中、艦内でも“武闘派”秋津と“平和主義者”新波との間で国防に関する意識の違いが浮かび上がる。

 そんな中、日本領である南洋の孤島が、正体不明の武装勢力によって占拠されたという情報が舞い込む。演習中だった「いぶき」を旗艦に、護衛艦「はつゆき」「しらゆき」、イージス艦「あしたか」「いそかぜ」、潜水艦「はやしお」で編成された「第五護衛隊群」は現場海域へと出動。そこで待っていたのは、敵艦隊からの魚雷、およびミサイル攻撃だった。東京にいる垂水総理(佐藤浩市)の決断により自衛隊初となる「防衛出動」が下され、ついに戦闘状態へと突入する。

 現在も「ビックコミック」(小学館)で連載が続いている原作コミックとの大きな違いは、「いぶき」が対峙することになる敵の正体。2014年に連載が始まった原作では自衛隊は中国人民解放軍と戦うが、映画版では架空の国「東亜連邦」となっている。また、原作では中国軍は尖閣諸島に加え、先島諸島も軍事制圧するが、映画版ではやはり架空の島「初島」をめぐる24時間の攻防に限定した設定へとアレンジされた。現場の自衛隊員たちは有事の際にどう対処するのか、自衛隊を東京から指揮する総理はどのような情報をもとに決断を下すことになるのかをシミュレーションしてみせる。ちなみに脚本は、首都・東京のテロに対する脆弱さに警鐘を鳴らした劇場アニメ『機動警察パトレイバー2 the move』(93)の伊藤和典、海上自衛隊員の反乱を描いた『亡国のイージス』(05)の長谷川康夫との共作となっている。

「いぶき」搭載機であるステルス型戦闘機、イージス艦や潜水艦の活躍が描かれるが、本作で重点が置かれているのは、どこまでが軍事衝突でどこからが戦争なのかというボーダーの引き方だろう。そのボーダーを引くことになるのは東京の首相官邸にいる垂水総理であり、また最前線にいる秋津艦長の判断によって事態は大きく変わることになる。副艦長の新波はあくまでも自衛隊は「専守防衛」を貫かなくてはならないと主張するが、相手の攻撃を待っていれば自衛隊員から犠牲者を出すことは避けられない。さらに一度局地戦が始まれば、中距離弾道ミサイルによって東京をはじめ日本全土が標的となる危険がある。一手間違えれば、全面戦争を招き、多くの命を奪いかねない。ポーカーフェイスを装う秋津は、命懸けの詰め将棋を強いられる。

 骨太な作風で人気の漫画家かわぐちかいじだが、どのようなスタンスで軍事漫画を描き続けているのだろうか。歴史改変SF『ジパング』連載時(2000年~2009年)のインタビューを読むと興味深いコメントがあったので、その一部を紹介したい。

かわぐちかいじ「僕の中には過去の日本人を否定したいという欲望と誇りに思いたいという欲望が両方あります。なぜあんな戦争(太平洋戦争)をしたのか、日本人のダメさ加減をきちんと掘り起こして描かなければいけないと思う反面、日本人を誇りたいという気持ちもある。(中略)マンガで日本人を描こうとするとダメだなと思う面と誇りに思う両面が、いつも自分の中で相克しているんです。マンガを読んでくれている人たちもその相克はみんな持っているんじゃないでしょうか。日本人を賛美したいという気持ちの裏側には、弱さも抱えているんじゃないかと思います。僕はそこをマンガの中で問いかけていきたいなと思っているんです」(『創』2005年6月号)

 映画版『空母いぶき』を撮ったのは、1948年生まれのかわぐちかいじと同世代であるテレビディレクター出身の若松節朗監督(1949年生まれ)。映画『ホワイトアウト』(00)では巨大ダムを襲うテロとの戦い、『沈まぬ太陽』(09)ではナショナル・フラッグ・キャリアの座に胡座をかく大企業が沈没船のように傾く姿を描いた。東京五輪が開催される2020年には、福島第一原発事故の際に被曝の恐怖にさらされながらも現場に残って事故対応に尽力した作業員たちを主人公にした『Fukushima50』の公開が予定されている。若松監督が撮る映画も、日本人が持つ強さと弱さの二面性がテーマとなっているといえるだろう。若松監督のフィルモグラフィーを見ると、平和という名の日常生活を享受するために日本人は大変な代償を支払っていることに気づかせられる。

(文=長野辰次)

『空母いぶき』
原作/かわぐちかいじ 企画/福井晴敏 脚本/伊藤和典、長谷川康夫 音楽/岩代太郎 監督/若松節朗
出演/西島秀俊、佐々木蔵之介、本田翼、小倉久寛、髙嶋政宏、玉木宏、戸次重幸、市原隼人、堂珍嘉邦、片桐仁、和田正人、石田法嗣、平埜生成、土村芳、深川麻衣、山内圭哉、中井貴一、村上淳、吉田栄作、工藤俊作、金井勇太、中村育二、益岡徹、斉藤由貴、藤竜也、佐藤浩市
配給/キノフィルムズ、木下グループ 5月24日(金)より全国ロードショー
(c)かわぐちかいじ・惠谷治・小学館/「空母いぶき」フィルムパートナーズ
https://kuboibuki.jp

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“神の沈黙”をデビュー作で描き切った注目の才能!! 岩井俊二、是枝裕和の再来を思わせる新鋭監督現わる

 神さまは本当にいるの? 人間は死んだらどうなるの? 誰しも子どもの頃に頭を悩めた問題ではないだろうか。大人たちに尋ねても答えてはもらえず、結局答えが分からないまま自分も大人になってしまった。そんな少年期のモヤモヤ感を瑞々しい映像で、ユーモアと残酷さを交えて描いてみせたのが新人・奥山大史監督だ。長編デビュー作『僕はイエス様が嫌い』は奥山監督が青山学院大学在学中に撮った低予算の自主映画ながら、スペインのサンセバスチャン国際映画祭で最優秀新人監督賞を受賞(22歳での同賞受賞は史上最年少記録)。ストックホルム国際映画祭とダブリン国際映画祭では最優秀撮影賞を受賞するなど、すでに海外でその才能が高く評価されている。

 物語の主人公は、転校先の小学校がミッション系だったことに戸惑う少年・ユラ(佐藤結良)。神の存在について考えるようになったユラの前に小さな小さな神さま(チャド・マレーン)が現われ、ひとりぼっちだったユラは「友達ができますように」と祈る。その願いは叶えられ、サッカーが得意な和馬(大熊理樹)という親友ができる。次々とユラの願いを叶えてくれる神さまだったが、やがてユラに大きな試練も与えることに―。

 現在は大手広告会社に勤める奥山監督に、宗教や死生観という深淵なテーマを扱ったデビュー作について語ってもらった。

──『僕はイエス様が嫌い』は学生時代に撮った作品ですが、青山学院大学には映画学科はありませんよね?

奥山大史(以下、奥山) はい、芸術系の大学のような映画学科はありません。大学の卒業制作として撮ったわけではなく、あくまでも学生が撮った自主映画です。でも、社会人になったらのんびり自主映画をつくる余裕もなくなるだろうから、その前に形になるものを残しておきたいという思いがあり、学生時代の集大成のつもりで撮り上げた作品なんです。

──神さまはいるの? 死後の世界はあるの? と子どもの頃は真剣に考えましたが、大人になると悩んでいたことさえも忘れてしまう。そんな誰もが体験した宗教観や死生観を、デビュー作で見事に描いています。

奥山 大人になると忙しくなるので、いくら考えても仕方ないってことなんでしょうね。僕自身、子どもの頃に「本当に神さまはいるのかな」とすごく考えていた時期があります。その頃の体験を、映画を撮ることで改めて考えるようになりました。最初はもっとガチガチに宗教観や死生観を描いたものにしようとプロットを書いてみたんですが、あまりに取っ付きにくい偏った宗教映画になってしまいそうだったので、もう少し普遍性のある一人の少年の成長ドラマにすることにしたんです。

神さまはイマジナリーフレンドだった!?

──ひとりぼっちのユラの前に、愛嬌のある小さな神さまが現われる。神さまを子どもの頭の中にいるイマジナリーフレンドとして描いている点が斬新でした。現実に対して非力な子どもたちにとって、神さまはイマジナリーフレンドと同じくらい身近な存在なんだなと感じました。

奥山 姿が見えないのに、みんながその存在を信じている神さまって、どこかイマジナリーフレンドと近いものなのかもしれません。何か迷ったときに相談にのってくれたり、答えへと導いてくれる神さまは、子どもたちにとって、とても身近な存在だと思います。特定の宗教じゃなくても、自分だけの神さま、困ったときに悩みを共有してくれるイマジナリーフレンドって、みんないたんじゃないかと思うんです。

──ひとりっ子のユラの望みを、小さな神さまは次々と叶えてくれる。『ドラえもん』ののび太とドラえもんの関係も連想させます。

奥山 そう言われれば、確かにそうですね(笑)。映画をつくっているときは意識していませんでしたが、3Dアニメ版『STAND BY ME ドラえもん』(14)も、のび太の前からドラえもんが消えてしまう物語でした。“神の沈黙”というか“ドラえもんの沈黙”が描かれていたわけですよね。オールマイティーな存在がいて、自分の味方になってくれるけど、やがて姿を消してしまうという展開は、ある意味では少年の成長ドラマを描く上での王道なのかもしれません。王道の世界に宗教を絡めたところが、観てくれた人たちには新鮮に感じてもらえたようです。

──千円札を折って作った紙人形と神さまを紙相撲対決させるなど、けっこうブラックジョークも効いています。

奥山 そうですね(笑)。小道具を使うときは、単純にそのシーンを盛り上げるためだけじゃなくて、物語の伏線になるように考えました。そうじゃないと出す意味がないと思うんです。でも、あまり説明的になり過ぎないようにも意識しました。観ていただいた方に考える余白がちょっとあるくらいが、楽しんで観てもらえるんじゃないかと思うんです。神さまを演じてくれたチャド・マレーンさんに海外の映画祭向けの英語字幕も付けてもらったんですが、お笑い芸人なだけあって、字幕を出すタイミングや意訳の仕方が抜群だとほめてもらっています。海外で評価が高かったのは、チャドさんの力がかなりあると思います。サンセバスチャン映画祭に応募するための仮編集版、映画祭上映版、その後の修正版……と編集し直す度に、チャドさんが英語字幕を付け直してくれたので、本当に感謝しています。

──ユラがミッション系の学校に転校し……というストーリーは、奥山監督自身の体験がベースになっているんですよね?

奥山 はい、幼稚園の途中から大学までミッション系の学校に通いました。最初はすごく戸惑いがありました。みんな楽しげに礼拝堂で聖句を唱えているんですが、どうして姿も見えないものをそんなに信じることができるんだろうって。集団で祈るという行為にも抵抗がありました。でも、子どもの頃の記憶をすべて鮮明に覚えていたわけではなくて、脚本を書く前に母校に1週間ほど通い、いろいろと思い出していった感じでした。ユラが親友となる和馬と仲良くなり、そして別れることになるのも、僕自身の体験を投影したものです。僕にとって初めての親しい人との死別でした。彼が亡くなったとき、周囲の人たちが意外とあっさりと日常生活に戻っていったことにも違和感がありましたし、自分も亡くなったらこんなふうに忘れられていくんだなぁ……とか考えるようになったんです。

──映画とはもしかすると、二度と逢えない人と再会するためのタイムマシン的な装置なのかもしれませんね。

奥山 そうですね……。『僕はイエス様が嫌い』に関していえば、自分の中で消化されてなかった記憶を追体験したいという気持ちが強かったように思います。主人公の少年には自分の過去を投影させていますし、追体験することで胸の中に消化されずにいた想いにもう一度向かい合いたかったんだと思うんです。撮影中は忙しすぎて、当時を振り返る余裕はありませんでしたが、脚本を書いている間や編集中は、思い出すことが多かったですね。今回、映画をつくったいちばんの動機である亡くなった親友のお母さんに完成したDVDを届けに行ったんです。そのとき親友のお母さんに「一緒に観よう」と言われ、観ることにしました。多分、映画をつくってなかったら、親友のお母さんと一緒にそんな時間を過ごすこともなかったでしょうね。自分の中で消化できずにいた記憶が少しだけ消化できたというか、整理できたんじゃないかなと思うんです。

男の子がいちばん美しい年齢

──子どもたちがいつも窓から外の景色を眺めているのが印象的です。

奥山 窓から外の様子を眺めている姿って、人間がいちばん美しく撮れるカットだと僕は思っているんです。一定の方向から光が当たるので、陰影がはっきり出ますし、子どもを撮っていてもそうだと思います。人が窓から外を眺めているカットって、僕はすごく魅力的だと感じているんです。

──中学校に上がる前の男の子たちが主人公。大人でも子どもでもない、曖昧な年齢ですね。

奥山 僕自身がその年齢の頃に体験したことを描いたということもありますが、あの年齢の男の子たちを主人公にしてよかったなと思っています。小5から中1にかけてが、男の子がいちばん美しい年齢じゃないかと僕は思っているんです。和馬役の大熊くんはユラ役の佐藤くんより1歳年上なんですが、久しぶりに会うとすっかり大人びていました。あの年頃の少年は1歳年齢を重ねるだけで、すごく変わります。男の子が子どもでも大人でもない時期って、すごく短い。でも、その儚さみたいなものが危うさを感じさせますし、魅力的でもあるんじゃないでしょうか。撮影期間は1週間だけで、夜8時以降は子どもたちの撮影はできないとか、いろんな規制はありましたが、子どもたちと同じ旅館に泊まっていたこともあり、一緒になって遊んだり、カップラーメンを食べたり、楽しく過ごすことができました。

 

奥山監督に影響を与えた人物は?

──子どもたちの豊かな世界を描いた、という点で是枝裕和監督の『誰も知らない』(04)なども連想させますね。

奥山 もちろん、是枝さんの作品は大好きですし、子どもたちには脚本を見せないという演出方法は是枝さんからの影響です。でも、是枝さんも最初からその手法を見つけていたわけではなく、いろんな人たちの影響を受けながら体得したものだと思うんです。僕自身、中学の頃に「大人計画」の舞台を観たことで演技の世界に魅了されたことが映画を撮るようになったきっかけですし、1シーン1カットで撮影するという手法は海外の監督からの影響で、構図は写真を撮ることで学んだものです。一人からではなく、いろんなものから影響を受けています。今回は自分の実体験がベースになっていますし、何を描きたいのか、何を伝えたいのかがはっきりしていれば、伝え方は誰かの影響を受けたものでもかまわないと思うんです。

──前作『Tokyo 2001/10/21 22:32~22:41』(18)は短編映画でしたが、大竹しのぶ主演作。よく学生監督のオファーに大竹さんが応えてくれましたね。

奥山 もともとはテレビ番組『岩井俊二のMOVIEラボ』(NHK教育)向けにつくった1分程度の映像だったんですが、短編映画として残したいと思い、大人計画の舞台「ふくすけ」に出演していた大竹さんにオファーしたんです。事務所宛に手紙を送ったんですが、半年くらいそのままになっていたので、自分で企画書を持って事務所を訪ねました。1日だけの撮影で10分程度の短編ですが、企画から完成まで2年半ほど掛かったんです。大竹さんが出演してくれて、本当にラッキーでした。

──現在は大手広告会社に勤務しているわけですが、映画監督としての今後の活動予定は?

奥山 国内でこれからようやく劇場公開されるので、どんな反応があるのか楽しみにしているところです。「一緒に何かやろう」と声を掛けてくださる方もいて、ありがたいです。構想はいくつかありますが、まだ具体的な脚本はできていません。今は会社で広告全般にまつわる仕事をしているところです。脳の使い方が映画を撮るときはとはまったく違いますね(笑)。いろいろと勉強になります。映画監督をしていく上で視野の広さを持つことは大切なので、会社での経験もきっと役立つんじゃないかと信じているんです

 窓から差し込む冬の日差しを浴びた少年たちの姿を繊細に映し出すカメラワークは岩井俊二監督を思わせ、子どもたちだけの豊饒な世界は是枝裕和監督の作品を連想させる。奥山監督いわく、他にもいろんな人物や作品から刺激を受けてきたそうだ。新しい才能の誕生を、映画の神さまもきっと祝福するに違いない。

(取材・文=長野辰次/撮影=尾藤能暢)

神の沈黙をデビュー作で描き切った注目の才能!! 岩井俊二、是枝裕和の再来を思わせる新鋭監督現わるの画像5

『僕はイエス様が嫌い』
監督・撮影・脚本・編集/奥山大史
出演/佐藤結良、大熊理樹、チャド・マレーン、木引優子、ただのあつ子、二瓶鮫一、秋山建一、大迫一平、北山雅康、佐伯日菜子
配給/ショウゲート 5月31日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国順次ロードショー
(C)2019閉会宣言
https://jesus-movie.com

●奥山大史(おくやま・ひろし)
1996年東京都生まれ。初長編映画『僕はイエス様が嫌い』がサンセバスチャン国際映画祭で最優秀新人監督賞、ストックホルム国際映画祭とダブリン国際映画祭で最優秀撮影賞、マカオ国際映画祭でスペシャルメンションを受賞した。大竹しのぶが主演した短編映画『Tokyo 2001/10/21 22:32~22:41』(18)は釜山国際映画祭に正式出品されている。小川紗良監督『最期の星』(18)では撮影監督を務めた他、GUやLOFTのCM撮影も担当。

“神の沈黙”をデビュー作で描き切った注目の才能!! 岩井俊二、是枝裕和の再来を思わせる新鋭監督現わる

 神さまは本当にいるの? 人間は死んだらどうなるの? 誰しも子どもの頃に頭を悩めた問題ではないだろうか。大人たちに尋ねても答えてはもらえず、結局答えが分からないまま自分も大人になってしまった。そんな少年期のモヤモヤ感を瑞々しい映像で、ユーモアと残酷さを交えて描いてみせたのが新人・奥山大史監督だ。長編デビュー作『僕はイエス様が嫌い』は奥山監督が青山学院大学在学中に撮った低予算の自主映画ながら、スペインのサンセバスチャン国際映画祭で最優秀新人監督賞を受賞(22歳での同賞受賞は史上最年少記録)。ストックホルム国際映画祭とダブリン国際映画祭では最優秀撮影賞を受賞するなど、すでに海外でその才能が高く評価されている。

 物語の主人公は、転校先の小学校がミッション系だったことに戸惑う少年・ユラ(佐藤結良)。神の存在について考えるようになったユラの前に小さな小さな神さま(チャド・マレーン)が現われ、ひとりぼっちだったユラは「友達ができますように」と祈る。その願いは叶えられ、サッカーが得意な和馬(大熊理樹)という親友ができる。次々とユラの願いを叶えてくれる神さまだったが、やがてユラに大きな試練も与えることに―。

 現在は大手広告会社に勤める奥山監督に、宗教や死生観という深淵なテーマを扱ったデビュー作について語ってもらった。

──『僕はイエス様が嫌い』は学生時代に撮った作品ですが、青山学院大学には映画学科はありませんよね?

奥山大史(以下、奥山) はい、芸術系の大学のような映画学科はありません。大学の卒業制作として撮ったわけではなく、あくまでも学生が撮った自主映画です。でも、社会人になったらのんびり自主映画をつくる余裕もなくなるだろうから、その前に形になるものを残しておきたいという思いがあり、学生時代の集大成のつもりで撮り上げた作品なんです。

──神さまはいるの? 死後の世界はあるの? と子どもの頃は真剣に考えましたが、大人になると悩んでいたことさえも忘れてしまう。そんな誰もが体験した宗教観や死生観を、デビュー作で見事に描いています。

奥山 大人になると忙しくなるので、いくら考えても仕方ないってことなんでしょうね。僕自身、子どもの頃に「本当に神さまはいるのかな」とすごく考えていた時期があります。その頃の体験を、映画を撮ることで改めて考えるようになりました。最初はもっとガチガチに宗教観や死生観を描いたものにしようとプロットを書いてみたんですが、あまりに取っ付きにくい偏った宗教映画になってしまいそうだったので、もう少し普遍性のある一人の少年の成長ドラマにすることにしたんです。

神さまはイマジナリーフレンドだった!?

──ひとりぼっちのユラの前に、愛嬌のある小さな神さまが現われる。神さまを子どもの頭の中にいるイマジナリーフレンドとして描いている点が斬新でした。現実に対して非力な子どもたちにとって、神さまはイマジナリーフレンドと同じくらい身近な存在なんだなと感じました。

奥山 姿が見えないのに、みんながその存在を信じている神さまって、どこかイマジナリーフレンドと近いものなのかもしれません。何か迷ったときに相談にのってくれたり、答えへと導いてくれる神さまは、子どもたちにとって、とても身近な存在だと思います。特定の宗教じゃなくても、自分だけの神さま、困ったときに悩みを共有してくれるイマジナリーフレンドって、みんないたんじゃないかと思うんです。

──ひとりっ子のユラの望みを、小さな神さまは次々と叶えてくれる。『ドラえもん』ののび太とドラえもんの関係も連想させます。

奥山 そう言われれば、確かにそうですね(笑)。映画をつくっているときは意識していませんでしたが、3Dアニメ版『STAND BY ME ドラえもん』(14)も、のび太の前からドラえもんが消えてしまう物語でした。“神の沈黙”というか“ドラえもんの沈黙”が描かれていたわけですよね。オールマイティーな存在がいて、自分の味方になってくれるけど、やがて姿を消してしまうという展開は、ある意味では少年の成長ドラマを描く上での王道なのかもしれません。王道の世界に宗教を絡めたところが、観てくれた人たちには新鮮に感じてもらえたようです。

──千円札を折って作った紙人形と神さまを紙相撲対決させるなど、けっこうブラックジョークも効いています。

奥山 そうですね(笑)。小道具を使うときは、単純にそのシーンを盛り上げるためだけじゃなくて、物語の伏線になるように考えました。そうじゃないと出す意味がないと思うんです。でも、あまり説明的になり過ぎないようにも意識しました。観ていただいた方に考える余白がちょっとあるくらいが、楽しんで観てもらえるんじゃないかと思うんです。神さまを演じてくれたチャド・マレーンさんに海外の映画祭向けの英語字幕も付けてもらったんですが、お笑い芸人なだけあって、字幕を出すタイミングや意訳の仕方が抜群だとほめてもらっています。海外で評価が高かったのは、チャドさんの力がかなりあると思います。サンセバスチャン映画祭に応募するための仮編集版、映画祭上映版、その後の修正版……と編集し直す度に、チャドさんが英語字幕を付け直してくれたので、本当に感謝しています。

──ユラがミッション系の学校に転校し……というストーリーは、奥山監督自身の体験がベースになっているんですよね?

奥山 はい、幼稚園の途中から大学までミッション系の学校に通いました。最初はすごく戸惑いがありました。みんな楽しげに礼拝堂で聖句を唱えているんですが、どうして姿も見えないものをそんなに信じることができるんだろうって。集団で祈るという行為にも抵抗がありました。でも、子どもの頃の記憶をすべて鮮明に覚えていたわけではなくて、脚本を書く前に母校に1週間ほど通い、いろいろと思い出していった感じでした。ユラが親友となる和馬と仲良くなり、そして別れることになるのも、僕自身の体験を投影したものです。僕にとって初めての親しい人との死別でした。彼が亡くなったとき、周囲の人たちが意外とあっさりと日常生活に戻っていったことにも違和感がありましたし、自分も亡くなったらこんなふうに忘れられていくんだなぁ……とか考えるようになったんです。

──映画とはもしかすると、二度と逢えない人と再会するためのタイムマシン的な装置なのかもしれませんね。

奥山 そうですね……。『僕はイエス様が嫌い』に関していえば、自分の中で消化されてなかった記憶を追体験したいという気持ちが強かったように思います。主人公の少年には自分の過去を投影させていますし、追体験することで胸の中に消化されずにいた想いにもう一度向かい合いたかったんだと思うんです。撮影中は忙しすぎて、当時を振り返る余裕はありませんでしたが、脚本を書いている間や編集中は、思い出すことが多かったですね。今回、映画をつくったいちばんの動機である亡くなった親友のお母さんに完成したDVDを届けに行ったんです。そのとき親友のお母さんに「一緒に観よう」と言われ、観ることにしました。多分、映画をつくってなかったら、親友のお母さんと一緒にそんな時間を過ごすこともなかったでしょうね。自分の中で消化できずにいた記憶が少しだけ消化できたというか、整理できたんじゃないかなと思うんです。

男の子がいちばん美しい年齢

──子どもたちがいつも窓から外の景色を眺めているのが印象的です。

奥山 窓から外の様子を眺めている姿って、人間がいちばん美しく撮れるカットだと僕は思っているんです。一定の方向から光が当たるので、陰影がはっきり出ますし、子どもを撮っていてもそうだと思います。人が窓から外を眺めているカットって、僕はすごく魅力的だと感じているんです。

──中学校に上がる前の男の子たちが主人公。大人でも子どもでもない、曖昧な年齢ですね。

奥山 僕自身がその年齢の頃に体験したことを描いたということもありますが、あの年齢の男の子たちを主人公にしてよかったなと思っています。小5から中1にかけてが、男の子がいちばん美しい年齢じゃないかと僕は思っているんです。和馬役の大熊くんはユラ役の佐藤くんより1歳年上なんですが、久しぶりに会うとすっかり大人びていました。あの年頃の少年は1歳年齢を重ねるだけで、すごく変わります。男の子が子どもでも大人でもない時期って、すごく短い。でも、その儚さみたいなものが危うさを感じさせますし、魅力的でもあるんじゃないでしょうか。撮影期間は1週間だけで、夜8時以降は子どもたちの撮影はできないとか、いろんな規制はありましたが、子どもたちと同じ旅館に泊まっていたこともあり、一緒になって遊んだり、カップラーメンを食べたり、楽しく過ごすことができました。

 

奥山監督に影響を与えた人物は?

──子どもたちの豊かな世界を描いた、という点で是枝裕和監督の『誰も知らない』(04)なども連想させますね。

奥山 もちろん、是枝さんの作品は大好きですし、子どもたちには脚本を見せないという演出方法は是枝さんからの影響です。でも、是枝さんも最初からその手法を見つけていたわけではなく、いろんな人たちの影響を受けながら体得したものだと思うんです。僕自身、中学の頃に「大人計画」の舞台を観たことで演技の世界に魅了されたことが映画を撮るようになったきっかけですし、1シーン1カットで撮影するという手法は海外の監督からの影響で、構図は写真を撮ることで学んだものです。一人からではなく、いろんなものから影響を受けています。今回は自分の実体験がベースになっていますし、何を描きたいのか、何を伝えたいのかがはっきりしていれば、伝え方は誰かの影響を受けたものでもかまわないと思うんです。

──前作『Tokyo 2001/10/21 22:32~22:41』(18)は短編映画でしたが、大竹しのぶ主演作。よく学生監督のオファーに大竹さんが応えてくれましたね。

奥山 もともとはテレビ番組『岩井俊二のMOVIEラボ』(NHK教育)向けにつくった1分程度の映像だったんですが、短編映画として残したいと思い、大人計画の舞台「ふくすけ」に出演していた大竹さんにオファーしたんです。事務所宛に手紙を送ったんですが、半年くらいそのままになっていたので、自分で企画書を持って事務所を訪ねました。1日だけの撮影で10分程度の短編ですが、企画から完成まで2年半ほど掛かったんです。大竹さんが出演してくれて、本当にラッキーでした。

──現在は大手広告会社に勤務しているわけですが、映画監督としての今後の活動予定は?

奥山 国内でこれからようやく劇場公開されるので、どんな反応があるのか楽しみにしているところです。「一緒に何かやろう」と声を掛けてくださる方もいて、ありがたいです。構想はいくつかありますが、まだ具体的な脚本はできていません。今は会社で広告全般にまつわる仕事をしているところです。脳の使い方が映画を撮るときはとはまったく違いますね(笑)。いろいろと勉強になります。映画監督をしていく上で視野の広さを持つことは大切なので、会社での経験もきっと役立つんじゃないかと信じているんです

 窓から差し込む冬の日差しを浴びた少年たちの姿を繊細に映し出すカメラワークは岩井俊二監督を思わせ、子どもたちだけの豊饒な世界は是枝裕和監督の作品を連想させる。奥山監督いわく、他にもいろんな人物や作品から刺激を受けてきたそうだ。新しい才能の誕生を、映画の神さまもきっと祝福するに違いない。

(取材・文=長野辰次/撮影=尾藤能暢)

神の沈黙をデビュー作で描き切った注目の才能!! 岩井俊二、是枝裕和の再来を思わせる新鋭監督現わるの画像5

『僕はイエス様が嫌い』
監督・撮影・脚本・編集/奥山大史
出演/佐藤結良、大熊理樹、チャド・マレーン、木引優子、ただのあつ子、二瓶鮫一、秋山建一、大迫一平、北山雅康、佐伯日菜子
配給/ショウゲート 5月31日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国順次ロードショー
(C)2019閉会宣言
https://jesus-movie.com

●奥山大史(おくやま・ひろし)
1996年東京都生まれ。初長編映画『僕はイエス様が嫌い』がサンセバスチャン国際映画祭で最優秀新人監督賞、ストックホルム国際映画祭とダブリン国際映画祭で最優秀撮影賞、マカオ国際映画祭でスペシャルメンションを受賞した。大竹しのぶが主演した短編映画『Tokyo 2001/10/21 22:32~22:41』(18)は釜山国際映画祭に正式出品されている。小川紗良監督『最期の星』(18)では撮影監督を務めた他、GUやLOFTのCM撮影も担当。

まるで大巨人の脳内を探検しているかのようだ!! ホームレスも許容する『ニューヨーク公共図書館』

 友達や交際相手の家に初めて遊びに行った際、本棚に見入ってしまう人は多いのではないだろうか。これまでに一体どんな本や漫画を読み、思考回路が形成されてきたのか気になってしまう。本棚チェックには、その人の頭の中を覗き見るような面白さがある。この考えに同意してくれる方なら、フレデリック・ワイズマン監督のドキュメンタリー映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』(原題『Ex Libris The New York Public Library』)は充分に楽しめるはずだ。ニューヨーク公共図書館(以後、NYPL)は米国最大の図書館。つまり、NYPLの裏側を見せる本作を観ることは、多種多様な人種や民族によって形成されている米国人の頭の中を覗いてみることに等しいといえるだろう。

 ワイズマン監督は1930年生まれのドキュメンタリー映画界の大巨匠。フランスの超一流トップレス劇場を密着取材した『クレイジーホース パリ・夜の宝石たち』(11)、英国人のこだわりを感じさせる英国立美術館でカメラを回した『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』(14)など、人気スポットのバックヤードにカメラを潜り込ませ、なぜ人気スポットとなりえているかを描き出してきた。ワイズマン監督のドキュメンタリー作品は“ダイレクトシネマ”と呼ばれ、ナレーション、テロップ、BGM、インタビューなどは排されている。まるでワイズマン監督と一緒に撮影現場に立ち会っているかのような気分になってくる。

 1911年に竣工したボザール様式のNYPL本館は、映画『ティファニーで朝食を』(61)や『ザ・デイ・アフター・トゥモロー』(04)の舞台になるなど、ニューヨークの観光スポットとしても有名だ。NYPLは厳粛さの漂う本館に加え、多くのアーティストが通い詰めた舞台芸術図書館をはじめとする4つの研究図書館、地域に密着した89の分館を合わせた92の図書館ネットワークとなっている。世界有数の蔵書数を誇る、まさに知の殿堂である。日本の公立図書館が税金によって運営されているのに対し、NYPLは市の出資と民間からの寄付金によって成り立っている点が特徴だろう。

 運営費の違いだけでなく、図書館側から市民へと呼び掛ける姿勢も日本の図書館とは大きく異なる。図書館というと本好きな人が通う無料の貸本屋、もしくは試験前の学生たちが静かに勉強する場所というイメージがあるが、NYPLはもっとアクティブだ。日本以上に米国では経済格差が激しい。パソコンを持ってない低所得者や移民向けにパソコン講座を開き、情報格差に陥らないよう啓蒙活動に努めている。エルヴィス・コステロやパティ・スミスら人気アーティストたちのトークライブが開かれ、シニア向けのダンス教室など多彩なワークショップも用意されている。もちろんすべて無料。NYPLはとても賑やかで活気が溢れている。

 市民からの電話での問い合わせに司書が即座に文献を調べて答える様子、大量の返却本を各分館のコンテナへと分類していく流れ作業など、NYPLを支えるスタッフたちの姿を205分間にわたってカメラは映し出していく。中でも印象に残るのは、図書館を訪れるホームレスにどう対処すべきかを図書館員たちが熱心に討論するシーンだ。所持金なしでも雨や寒さが凌げる図書館は、ホームレスにとって欠かせないセーフティネットである。知的好奇心を持った人ならば、誰でも自由に利用できる―というのが近代図書館の基本理念となっている。世界に誇る知の殿堂・NYPLもホームレスを締め出すことはしない。他の来館者たちの迷惑にならずに、ホームレスにも利用してもらうためにはどうすればいいのかを彼らは真剣に考え、そして話し合う。

 アンソニー・マークス館長は語る。「規則や専門機関を設けることも大事だが、最終的に変えるべきはこの街の文化だ」と。ホームレスを好まざる客として排除、もしくはスルーするのではなく、米国の抱える大きな社会問題のひとつとして認識していることが分かる。気になって調べてみたところ、米国の図書館ではソーシャルワーカーを駐在させ、ホームレスたちが無料で健康チェックでき、路上生活から脱出できるようサポートする取り組みを行なっているところが少なくないようだ。NYPLでも失業者に対して、職業支援プログラムが組まれ、さまざまな職種のリクルート説明会が行なわれている。ニューヨークという街をより豊かにするためにNYPLは存在するといっていい。

 日本では経費削減のために図書館の民間委託が進んでいるが、NYPLも限られた予算の中での闘いを強いられている。市民からのニーズが高いベストセラー本を購入するか、それとも推薦図書を充実させるか。デジタル化に対応し、もっと電子書籍に予算を割くべきか。図書館員たちが頭を悩めながら話し合う様子を、ワイズマン監督は度々挿入する。図書館は別名「民主主義の砦」とも呼ばれている。書籍は人間が生み出した英知の結晶だ。図書館にはそんな英知の結晶を時代を超えて守り、より育んでいく役割がある。そのためにも多くの人たちが対話を続ける必要がある。ユダヤ系移民であるワイズマン監督の伝えたいことが、声高ではなく映像を通した形ではっきりと浮かび上がる。

 米国は、いろんな人種や民族によって成り立っている。マスメディアに煽られて誤った戦争を犯し、レイシストを大統領に選んでしまったりもする。それでも、米国は民主主義国家であることは止めようとはしない。NYPLの内情を知るということは、米国という名の大巨人の頭の中を覗くということに等しいのではないだろうか。

 脳みそは使えば使うほど活性化されるらしい。日本という名の小さな巨人の脳みそも、もっと積極的に活用したい。
(文=長野辰次)

まるで大巨人の脳内を探検しているかのようだ!! ホームレスも許容する『ニューヨーク公共図書館』の画像4

『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』
監督・録音・編集・製作/フレデリック・ワイズマン
配給/ミモザフィルム、ムヴィオラ
5月18日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー
(C)2017 EX LIBRIS Films LLC – All Rights Reserved
http://moviola.jp/nypl

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「10分で苦痛」「役者がかわいそう」パッとしなかった人気ドラマの映画化作品3本

 昨年10月期に放送され、前評判を覆す大ヒットとなったドラマ『今日から俺は!!』(日本テレビ系)の映画化が決定し、5日に発表された。最終回の平均視聴率が12.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録するなど、主演の賀来賢人のブレーク作になった本作。早くも期待の声が集まっているが、ドラマが大ヒットを記録した後、映画化でパッとしなかった作品は少なくない。映画『ホタルノヒカリ』がその一つだ。

「2007年に綾瀬はるか主演で放送された『ホタルノヒカリ』(日本テレビ系)は、ジャージ姿でくつろぐ“干物女”生活スタイルが女性たちの大きな共感を呼び、10年に放送された続編『ホタルノヒカリ2』(同)では平均視聴率15.5%、最高視聴率17.4%を記録。同クールの連ドラで最高の数字を獲得しました。映画版は12年に上映され、ドラマの視聴率が高かったたこともあり、期待が集まっていましたが、ふたを開けてみれば、映画を鑑賞したネットユーザーからは、『わざわざ映画するほどのストーリーじゃない。テレビで終わらせておけばよかった』『役者さんがかわいそうになるほどつまらなかった』『綾瀬はるかだから許せる映画だった』と酷評の嵐でした。なお年間の興行収入ランキングは29位でした」(芸能ライター)

 一方、10年に嵐・大野智主演で実写化されたドラマ『怪物くん』(日本テレビ系)はドラマ・映画ともに成功したが――。

「ドラマ版は平均視聴率13.9%と人気を博し、11年に3D映画化された『怪物くん』。映画化発表に際し、大野は『正直に言うと、僕自身もどんな仕上がりになるのかわかりません』とコメントを寄せていました。結果的には、その年の興行収入ランキングは14位にランクイン。30億円を超えのヒット作になりました。ネット上には『大野君の怪物くん役がとてもハマっていた。スタントマンなしでアクションシーンを演じていてすごい』と絶賛の声もある一方で、『テレビならこの程度でいいけど、映画としてレベルがあまりにも低くて見ていられなかった』『この内容なら、お金を払って映画館で見る意味がなかった』と厳しい感想が続出しました」(同)

 また、鈴木京香と長谷川博己が共演し、スキャンダラスな不倫愛が大きな話題呼んだ『セカンドバージン』(NHK)も11年に映画化されている。

「10年に放送したドラマの主要キャストをそのままに11年に映画化。マレーシアを舞台に、ドラマで描かれなかった衝撃の真実が明かされるというストーリーで、鈴木と長谷川のベッドシーンが話題となったが、映画を見た観客からは『ドラマを見てない人は絶対に意味不明。見ていたけど理解不能だった』『最初の10分だけで見るのが苦痛になった』『ドラマの良いところをまったく引き継いでなかった。映画にした意味がない』と批判が噴出しました。鈴木と長谷川はその後熱愛報道で世間を騒がせるも、興行収入は4億円に届くのがやっと。大コケとなってしまいました」(同)

 果たして映画『今日から俺は!!』は、ドラマファンを裏切ることなく大ヒットを記録することができるのだろうか――。
(立花はるか)

人生を詰んだ瞬間から、本当の人生が始まった!? 感動実話『ドント・ウォーリー』『HOMIE KEI』

 ジョン・キャラハンは最悪な人生を送っていた。幼い頃に実の母親に捨てられ、母親の名前すら知らない。養父母に育てられたが、13歳で酒を覚え、成人したときにはすっかりアルコール依存症となっていた。21歳のとき、酔った友人の運転する車が大破。ジョンは胸から下が麻痺状態となり、車イス生活を余儀なくされる。不幸に輪を掛けたようなドン底人生だったが、そんな中でジョンは親身に接してくれる人たちと出会い、やがて漫画家として活躍するようになる。ガス・ヴァン・サント監督の『ドント・ウォーリー』(原題『Don’t Worry ,He Won’t Get Far on Foot』)は、実話をベースにしたホロリとさせる人間ドラマとなっている。

 不幸な星のもとに生まれたことを、呪って生きてきたジョン・キャラハン(ホアキン・フェニックス)。車イスに乗るようになってからも、つらい現実を忘れるためにアルコールを手放せずにいた。そんなジョンに、キツい言葉を投げ掛ける人物が現われる。AAと呼ばれる断酒会を主宰するドニー(ジョナ・ヒル)だった。交通事故を起こしたのに見舞いにすら来なかった友人デクスター(ジャック・ブラック)を非難するジョンだったが、ドニーは「酔っぱらいの運転する車に、なんで君は乗ったんだ?」と問い掛ける。ジョンは「酔っぱらっていたので、覚えていない」と答えるのが精一杯だった。自分は同情こそされても、責められる立場ではないと思っていたのだ。

 振り返ってみれば、ジョンのそれまでの人生は母親に捨てられたことを口実に、ずっと周囲へ不満を漏らしてばかりだった。世間をディスってばかりで、自分自身は何もしていなかったことにジョンは気づく。

 ジョンは自分を育ててくれた養父母のことも嫌っていた。養父母は血の繋がった実の子どもは叱ったが、ジョンが悪戯をしても叱ることはなかった。ジョンはそのことに、ずっと疎外感を感じていた。障害者センターのスタッフの対応が悪いことにも腹を立てていた。自分の人生も周囲にいる人たちも、みんなまとめて呪い続けてきたジョン。だが、依存症だけでなく、さまざまなトラブルを抱えるドニーら断酒会のメンバーたちやセラピストのアヌー(ルーニ・マーラ)との交流によって、それまでの生き方を改めることになる。

 得意のブラックジョークを生かそうと、うまく動かない手を使い、風刺漫画を描き始めるようになるジョン。社会の底辺から世界を見つめたジョンのひとコマ漫画は、賛否両論ながらも、地方新聞や雑誌に掲載されるようになっていく。人生、詰んじゃったな……としか思えない状況から、現実を噛み締めたジョンの本当の人生がゆっくりと始まった。

 米国ポートランドを舞台にした本作の企画を立ち上げたのは、ガス・ヴァン・サント監督のヒット作『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97)に出演したロビン・ウィリアムズ。自身の主演作として漫画家ジョン・キャラハンの自伝の映画化をガス・ヴァン・サント監督に依頼していたが、ロビンは2014年に急逝。ホアキン・フェニックスが名優の遺志を継ぐ形で完成に至った。

 兄リバー・フェニックスをオーバードースで失うなど、生と死を隔てるボーダーは紙一重であることをホアキンは知っている。宗教への依存を描いた『ザ・マスター』(12)や人工知能との恋愛ドラマ『her/世界でひとつだけの彼女』(13)と並ぶ、彼の代表作となりそうだ。

 4月26日から上映が始まったドキュメンタリー映画『HOMIE KEI チカーノになった日本人』も、生死の狭間を味わった主人公が、それまでの最悪人生を逆回転させていく驚きのトゥルーストーリーとなっている。顔に大きな傷痕、背中には刺青、小指が欠けている元ヤクザのKEI。母親が育児放棄し、親戚や知り合いの家をたらい回しされながら育ったKEIは、中学卒業後は暴走族から暴力団組員へとワルの道を突き進んでいた。障害者の乗る車イスのパイプにコカインを隠して海外旅行させるなど、KEIは頭の回転がよく、ドラッグビジネスで大儲けすることになる。
 
 ところがハワイでFBIの囮捜査に引っ掛かり、KEIは米国の重犯罪者用刑務所で10年以上を過ごすはめとなる。かわいがっていたはずの弟分の裏切りだった。人種のるつぼである米国の刑務所は、リンチや殺人が平然と行なわれるこの世の生き地獄だった。黒人グループやイタリア系グループなどが割拠する刑務所内へ日本人がたった一人で放り込まれたことは、オカマを掘られるか死を意味していた。どこにも逃げ場のない絶体絶命の状況にありながらKEIは「見下されるのなら、死んだほうがまし」と不敵な態度を貫き、刑務所内の最大勢力であるメキシコ系グループ“チカーノ”のボスに気に入られる。

 刑務所で更生できずにいる受刑者が多い中、KEIはチカーノたちと出会ったことで人生が大きく変わっていく。人との繋がりを求めて暴走族や暴力団に身を置いていたKEIだったが、いつの間にか人間関係よりもお金のほうが大事になっていた。それに対してチカーノたちはお金や法律よりも、仲間同士の関係を大切にしていた。日本のヤクザが失っていた“仁義”が生きていた。KEIは刑務所でチカーノたちと家族同然の仲となり、刑務所内で上映されている映画と辞書で語学をマスター。日本に帰国後は、チカーノのファッションブランド店やクラブを経営し、成功を収めている。

 薬物とはきっぱり縁を切り、現在はチカーノカルチャーを日本で広める他、児童クラブを無償で設立し、家庭や学校に居場所のない子どもたちとの交流を育んでいる。『ドント・ウォーリー』のジョンと同じく母親と一緒に過ごした幼少期の記憶のないKEIは、チカーノの一員となったことで家族の温かさをようやく知ることができた。7年ごしでKEIを追い続けたカメラは、KEIが子どもたちと一緒になって笑っている姿を映し出す。本当は自分が幼い頃に母親にしてほしかったことを、自分が母親代わりになって子どもたちにしてあげているかのように思える。

 大事故に遭いながらも、命拾いしたジョン・キャラハン。いつ殺されてもおかしくない刑務所からの生還を果たしたKEI。2人とも単に運がよかっただけなのかもしれない。でも、ジョンもKEIも人生のドン底での出会いの中に幸運の種を見つけ、それを大事に育て続けた。彼らの本当の人生は、ドン底から始まった。

(文=長野辰次)

『ドント・ウォーリー』
原作/ジョン・キャラハン 監督・脚本/ガス・ヴァン・サント
出演/ホアキン・フェニックス、ジョナ・ヒル、ルーニー・マーラ、ジャック・ブラック、マーク・ウィーバー、ウド・キア、キャリー・ブラウンスタイン、ベス・ディットー、キム・ゴードン
配給/東京テアトル 5月3日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラスト渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
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『HOMIE KEI チカーノになった日本人』
監督/サカマキマサ 撮影/加藤哲宏 音楽/原夕輝
編集/有馬顕、大畑創、トラビス・クローゼ
配給/エムエフピクチャーズ 4月26日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
https://homie-kei.com