女優・久保田紗友は「とにかく真面目で視野が広い」——映画『Love Will Tear Us Apart』宇賀那健一監督が語った“魅力”

 映画『サラバ静寂』(2018年)や『転がるビー玉』(20年)などで知られる宇賀那健一監督の最新作『Love Will Tear Us Apart』が絶賛公開中だ。

 同作は、とある出来事をきっかけに、主人公・真下わかばと関わった人物が次々と殺されていくサスペンスホラー&ラブロマンス映画。数々のドラマや映画に出演している今注目の新進女優・久保田紗友が主演を務め、青木柚、莉子、ゆうたろう、前田敦子(特別出演)、高橋ひとみ、田中俊介、麿赤兒、吹越満らがキャストに名を連ねている。

 今回、「サイゾーウーマン」では宇賀那監督にインタビュー。「狂おしいほどの、愛。」というキャッチコピーがつけられた映画の見どころはもちろん、製作のきっかけや撮影の裏側についてお話を伺った。

オーディションで選んだ、久保田紗友と青木柚の“魅力”

――まずは、製作過程のお話からお聞きしたいのですが、撮影はいつ頃行われたのでしょうか?

宇賀那健一監督 2021年の8月に撮影しました。コロナ禍での撮影だったので制限されることが多く、しかも真夏ということもありハードな現場ではありましたが、なんとか形にできました。

――今作は、渡辺紘文さんとの共同脚本ですよね。「狂愛」がテーマになっていると思うのですが、ラブストーリーとホラー要素を掛け合わせようと思ったきっかけは?

宇賀那監督 ずっとジャンルというものに縛られていることに違和感があったんです。そんな中、ここ数年、主に海外などでジャンルを越境する作品がすごく増えているなと感じていて、挑戦するなら今じゃないかなって思ったんです。

 あと、「喜劇王」と呼ばれたチャールズ・チャップリンの言葉で、「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」というものがあるんです。渦中の人物はすごく必死で、いろんな感情が渦巻いているけど、冷静になって俯瞰してみると、笑い話になったりすることってあるじゃないですか。近年、世界では新型コロナウイルスの流行や戦争など、いろんなことが起きている中、そういった不条理を笑い飛ばせるような作品にしたいなと思いました。

――渡辺さんとはどのように製作を進めていったのでしょう。

宇賀那監督 共同脚本の場合、いつもは初稿まで僕が担当することが多いんですが、今回はロングプロットまでを僕が書いて渡辺さんに初稿を起こしてもらい、あとはお互い確認し合いながら、「こういうアイディアがほしい」などと細かいやりとりをしながら本の精度を上げていきました。

――メインキャストはオーディションで選ばれたそうですね。

宇賀那監督 キャスティングの上で大きなポイントとなったのは、いかに“真面目にやりきるか”という点です。コメディ要素があるところで、演者が良かれと思って「笑わせよう」とすることってよくあるんです。でも、観客側の見る目って実は肥えていて、そのあざとさがすぐにバレて冷めてしまうこともよくあると思っていて。そうはしたくないので、とにかく「真面目」ということにはこだわりました。

 特に、主人公のわかばは、彼女の気持ちに入り込んで、最後まで演じきることができるかというところを重視しました。オーディションでは、みなさんにシリアスなシーンとコミカルなシーンを演じてもらったんですが、久保田さんは感情を高ぶらせた演技がとにかく素晴らしく、惹きつけられました。そしてその後、コメディシーンを演じる前に、「ちょっとだけ待ってもらっていいですか」と、気持ちが切り替わるまでの時間を確保したいと言ってくれたんです。その役や芝居に対する真面目さが、わかばの真面目さに通じるところがありました。

 また、男性キャストに関しては、一番最後にオーディションに参加したのが、青木さんだったんです。セリフを言いながらも、セリフと感情が必ずしも一致してないところがすごく人間臭くて魅力的だなと感じ、惹きつけられました。

――お二人と事前に役柄について話すことはありましたか?

宇賀那監督 僕は基本的に、撮影前に本読みをすることはありません。相手の出方を想定して役を演じると、だんだん自分自身の芝居に飽きて、本番で「何か違うことをやらなきゃ」と勝手に思い込むことがあるんですよ。こちらからしたら、それがベストの芝居なのに、考えすぎたり、どう演じるべきか迷ってしまう人がいるので、それをできるだけ避けたい、鮮度を保ちたいという意味で、今回も本読みは行いませんでした。でも、役について話し合う時間は設けて、「このとき誰がどういう感情でこういう行動をしたか」という質問に答えたり、参考作品に関するお話をしましたね。

 ただ、セリフの言い回しなど、「このほうがいい」と現場で変更したことはあったものの、大きく変えた部分はほぼありません。僕は脚本を変えることに対してネガティブではないんですが、今回、“当て書き”的に変えていった部分はなかったように思います。

――それだけ、お二人が役柄にぴったりだったということですね。撮影を通して、印象の変化はありましたか?

宇賀那監督 第一印象から大きくは変わっていなくて、久保田さんはとにかく真面目にどう若葉役をやりきるかということを第一に考えてくれていました。同時に、とにかく視野が広い人だなと思いましたね。スタッフやほかのキャストのことだったり、常に気にしてくださっていた。座長として、すごく信頼感がありました。現場では細かいディスカッションも重ねていったんで、そこで信頼関係がより強固になっていったなと思います。

 青木さんに関していえば、役をどう広げていくかを深く考えていた印象です。芝居はもちろん、「キャラクターを表現するためにどんなアクションをしたら一番面白いか」とか「この衣装を見せたほうが、この役のパーソナリティが出るんじゃないか」など、小道具や衣装など細かい部分の使い方からも自分の役の魅せ方を考えているんだなと実感しました。本当に“映画愛”があって、俳優部だけじゃない、製作に関わる各部署の重みもちゃんと知っている人だなとも思いましたね。

――そんな魅力あふれる久保田さんや青木さんをはじめ、若い役者が多かったと思いますが、現場の雰囲気はいかがでしたか?

宇賀那監督 座長として、久保田さんがいてくれるというところの安心感はありましたね。それと同時に、キャンプシーンなどは、本当に和気あいあいとしていましたし、みんながこの映画を良くしようと向き合ってくれたからこそ、現場の雰囲気はとても良かったです。

――ベテランの吹越満さんの演技も印象的でした。

宇賀那監督 とても楽しんで演じてくださって、うれしかったです。吹越さんからどんどん演技や魅せ方について提案してくださいました。

 僕は映画作るときに、「自分が見たことないものを見たい」と思っているし、お客さんとして映画館に行くときもそう思っていて。俳優部の皆さんも、やったことない役に挑戦してみたいという思いを持っていて、そこにこの作品がうまくハマったのかなとは思っています。

――撮影はどこで行ったのですか?

宇賀那監督 コロナ禍で撮影に際しての制約が多く、今後しばらく同じような場所で撮影する映画が増えるんじゃないかと思い、いろんな場所を転々としたいなと考えました。かといって、普通のロードムービーとして撮るのではなく、殺人鬼に追いかけ回されるロードムービーにしたら面白いんじゃないかなと思い、栃木、茨城、神奈川、東京、奄美と、各地で撮影しました。

――特に、クライマックスのシーンはホラー作品とは思えない、とても綺麗なロケーションでした。ちなみに、今回、監督が特に力を入れたシーンはどこですか?

宇賀那監督 パブで撮影したシーンは、僕のやりたかったことがすべて集約されているので、芝居に関しては珍しくかなり粘ってしまったかなとは思います(笑)。でも、撮影していて一番楽しかったシーンでもありました。いい芝居を撮れたという達成感もあったし、造形的な意味でも見せ場、エンターテインメント要素もてんこ盛りだったので、ハードな撮影でボロボロになりつつ、たくさん笑ったシーンでもありますから、ぜひ注目していただきたいです。

――今作では、宇賀那監督の作品では初めてタイトルが英語になっているのも気になりました。イギリスのロックバンド「ジョイ・ディヴィジョン」の同名楽曲からインスパイアを受けたのでしょうか?

宇賀那監督 そうです。彼らはポストパンクを代表するバンドの一つで、パンクの新しいスタイルを提示した人たち。今作も、ホラー映画のその後、“ポスト・ホラー”として自分の中では位置づけています。

 また、作中では、良かれと思ってやったことが、「Love Will Tear Us Apart(愛は2人を引き裂いていく)」ことにつながるし、同時にスラッシャームービーとして「2人を引き裂いていく」っていう意味も込めた、ダブルミーニングとなっています。

 それに、ジョイ・ディヴィジョンのボーカルのイアン・カーティスは、1980年に23歳の若さで自死を図ったんですが、真面目な性格で知られていました。彼の真面目さを、キャラクターたちに乗せていきたいなっていう意味で、このタイトルにしたんです。

――これまでさまざまなジャンルの作品を生み出してきた宇賀那監督ですが、どのようなところからストーリーのアイディアを思いつくのですか?

宇賀那監督 デビュー作の『黒い暴動』(16年)は、元ガングロギャルたちの物語なんですが、その前に撮った自主映画のオーディションに参加してくれた木夏咲という女優が、地元の山形でガングロギャルをしていたそうで、当時のエピソードを聞いて、ストーリーが思いついたんです。彼女いわく、山形の一部のガングロギャルの間では“階級”があって、自分のレベルを上げるためには、河原で決闘して相手のルーズソックスを奪い取るか、神経衰弱で勝負するんですって。それを真顔で話していたこともあり、「ギャルならではの文化って面白いな」と興味が湧きました。

 また、娯楽が禁止された日本で音楽に出会った若者たちの姿を描いた『サラバ静寂』(18年)は、16年に風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)が改正されたことが製作のきっかけです。

 『魔法少年☆ワイルドバージン』(19年)は、「童貞のまま30歳を迎えると魔法使いになれる」という都市伝説をモチーフにしていて、飲みの席で言った冗談がすごくウケたので、「これを映画にしたらイケるな」と(笑)。だから、映画を作るアイディアはいろんな瞬間に生まれています。

――今回の『Love Will Tear Us Apart』を拝見し、恋は人を狂わせるとあらためて感じました。恋をすればするほど、その人しか見えなくなるというか……。

宇賀那監督 そうなんですよね。本人たちは至って真面目ですが、一歩引いて考えると、キャラクターたちの行動は、狂っていないとできないことだし、愛があるからこそできることでもあるんです。

――そういった意味では、この作品はホラー映画が苦手な人でも見やすい作品なのではないかと思いました。日本での公開に先駆け、『ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭』にてワールドプレミアも行われましたが、海外の方の反応はいかがでした?

宇賀那監督 「そうだよね」って納得した部分と、「そうなんだ」と驚いた部分がありました。前者についていうと、海外ではスプラッターシーンで笑いが起きるんです。『ポートランドホラー映画祭』でグランプリをいただき、そのプログラマーが上映中の様子を動画に収めて送ってくれたんですが、やはり、スプラッターシーンで爆笑と拍手が起きていました。これは海外ならではの反応かなと思います。これはある種、映画のリテラシーが高いからこそ起こる文化でもありますよね。

 一方で、後者については、海外の方のレビューを見ると、わりと真面目な感想が多くて、「いじめとかネグレクトとか、貧困から生まれた悲劇へのアンサーだ」という声もあり、そういった捉えられ方もするんだなと意外に感じました。

――では最後に、「ぜひここを見てほしい」というポイントがあれば教えてください。

宇賀那監督 この映画は、僕の中では、「超純愛映画」として作りました。もちろん、ホラーシーンもないわけではありませんが、あくまでジャンルの一つとして、その要素を借りているだけなので、ホラー映画は苦手という方でも楽しんで見ていただけると思っております。新しい愛の形を描いた作品だと思いますので、好き嫌いは分かれるかもしれませんが、ぜひ劇場に足を運んでいただけたらうれしいです。

 

『Love Will Tear Us Apart』
公式サイト:https://lwtua.jp/

監督:宇賀那健一
脚本:宇賀那健一 渡辺紘文
出演:久保田紗友、青木柚、莉子、ゆうたろう、前田敦子(特別出演)、高橋ひとみ、田中俊介、麿赤兒、吹越満ほか
プロデューサー:當間咲耶香 宇賀那健一 共同プロデューサー/編集:小美野昌史
制作プロダクション:VANDALISM
製作:「Love Will Tear Us Apart」製作委員会
配給:VANDALISM/エクストリーム
2023年/87分/シネスコ/日本/カラー/DCP/R15+
(C)『Love Will Tear Us Apart』製作委員会

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『君たちはどう生きるか』いまだ“ネタバレ厳禁”の空気……興行収入は現在ジブリ歴代9位

 8月14日、全国週末興行成績による最新の映画ランキング(興行通信社調べ、以下同)が発表され、公開5週目を迎えたスタジオジブリのアニメーション映画『君たちはどう生きるか』(7月14日公開)は3位をマーク。前週より1つ順位を上げたものの、「“大ヒットジブリ映画”の仲間入りは難しいかもしれない状況」(芸能ライター)のようだ。

 映画監督・宮崎駿氏の最新アニメ映画『君たちはどう生きるか』には、山時聡真、菅田将暉、あいみょん、柴咲コウ、木村佳乃、木村拓哉ら豪華キャストが起用されているが、公開まで全員“シークレット”にされていた。

「加えてあらすじも伏せられ、事前のプロモーションも行われず、ベールに包まれた状態で公開がスタート。さらに、一般的には上映開始と同時に劇場などで販売されるパンフレットも“後日発売”で、制作サイドは徹底的にネタバレを防いでいたんです。それが仇になったのか、口コミが広がりにくい状況が生まれてしまいました。公開から1カ月以上たった現在でも、SNSではいまだに“ネタバレ厳禁”の空気が漂っています」(同)

 そんな『君たちはどう生きるか』は初日から3日間で観客動員約100万3,000人、興行収入約16億2600万円をあげ、ランキング初登場時は1位を獲得。しかし2週目は2位、3週目は3位、4週目は4位と徐々にランクダウン。なお、宮崎氏が10年前、原作・脚本・監督を務めた『風立ちぬ』(2013年7月公開)は当時、上映開始から8週連続で1位に君臨していた。

「『君たちはどう生きるか』は今月11日、ついにパンフレットの販売を開始。ちょうど世間がお盆休みに入るタイミングでしたし、パンフレットを購入して作品の理解を深めようとするジブリファンの“リピート鑑賞”を狙っていたのではないでしょうか。しかし、これによる成績の伸びはそこまでなかった印象。公開5週目でランキングの順位を1つ上げたものの、累計興行収入は62億3500万円。かつて、5週目で興収72億円を超えていた前作『風立ちぬ』と、約10億円の差がついてしまっています」(同)

『君たちはどう生きるか』の興行収入は現在、ジブリ歴代作品で第9位

 ちなみに、満を持して発売された『君たちはどう生きるか』のパンフレットの中身も、ネット上では「結局情報が少なくて、こんなパンフならいらなかった」「批判されても仕方ないくらい、内容が薄いパンフ」などと不評のようだ。

「ジブリの歴代長編映画全23作品で最もヒットした『千と千尋の神隠し』(01年7月公開)は最終興収約316.8億円をあげており、次いで『もののけ姫』(1997年7月公開)が201.8億円、それ以下で100億円超えしているのは『ハウルの動く城』(2004年11月公開)の196.0億円、『崖の上のポニョ』(08年7月公開)の155.0億円、『風立ちぬ』の120.2億円。『君たちはどう生きるか』は、現在、歴代9位につけています」(同)

 興収が低くても名作と呼ばれるジブリ映画は多い。しかし、『君たちはどう生きるか』はその仲間に入れないかもしれない。

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 異例のロングランを記録しているアニメーショ映画『THE FIRST SLAM DUNK』(2022年12月3日公開)が、今年7月31日時点で興行収入150億円を超えたと伝えられ、ネット上のファンが沸いている。昨今、日本映画界では、アニメ作品の盛り上がりが顕著だが、「“超人気アニメ”の最新映画なのに、ほぼ話題になっていない作品がある」(映画誌ライター)という。

 大ヒット中の『THE FIRST SLAM DUNK』は、漫画家・井上雄彦氏が「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載し、アニメ化も果たした人気作『SLAM DUNK』の最新映画。原作の主人公は桜木花道だったが、今作は宮城リョータを中心にストーリーを展開。7月31日は宮城の誕生日ということで全国各地で特別上映が実施され、その記念すべき日に興収150億円を突破。8月末で上映終了が発表されているものの、それまでにさまざまなイベントが用意されていることもあり、まだまだ成績を伸ばしそうだ。

「今年封切られたアニメ映画にも好調な作品が多く、例えば、4月14日に公開された『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』は、人気キャラクター・灰原哀(林原めぐみ)にスポットを当てたストーリーで、7月30日時点で興収134億円を超えたと伝えられています。この数字は歴代劇場版の中でトップの成績です」(同)

 なお、日本公開映画の歴代興収ランキング(興行通信社調べ、以下同)を見ていくと、『THE FIRST SLAM DUNK』は現在第14位、『名探偵コナン 黒鉄の魚影』は24位。そして25位につけているのが、今年4月28日に公開された『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』だ。

「任天堂と『ミニオンズ』シリーズなどで知られるイルミネーションが共同制作した同作は、日本での洋画アニメ史上最速となる公開31日で興行収入100億円を突破。7月30日時点では133億円超えという大記録を刻んでいます」(同)

『セーラームーン』最新アニメ映画、前編はトップ10圏外の寂しい結果

 このように複数のアニメ映画が大ヒットを飛ばす中、ほとんど話題にならなかったのが、『美少女戦士セーラームーン』の最新作だという。タイトルは『劇場版 美少女戦士セーラームーンCosmos』で、6月9日に前編、同30日に後編が公開された。

 原作は、少女漫画誌「なかよし」(講談社)で1992年2月号~97年3月号まで連載された『美少女戦士セーラームーン』(作・武内直子)。92年にテレビアニメ化を果たし、一大旋風を巻き起こした後、2014年からは新作アニメシリーズ『美少女戦士セーラームーンCrystal』がスタート。こちらは第3期まで放送され、その後、21年に劇場公開された第4期『Eternal』(前後編)を経て、今作で完結を迎えることになったが……。

「『Cosmos』は原作の最終章をもとに描いた作品で、後編に登場するセーラーコスモスのボイスキャストに女優・北川景子が抜てきされたことも話題に。ちなみに北川は2003~04年にかけて放送されたドラマ版『美少女戦士セーラームーン』(TBS系)で火野レイ/セーラーマーズを演じていました」(同)

 そんな『Cosmos』だが、前編は公開初週から「国内映画ランキング」(全国週末興行成績)のトップ10に入らず、後編は初登場9位に入るも翌週には圏外へ。ちなみに『THE FIRST SLAM DUNK』『名探偵コナン 黒鉄の魚影』、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』はいずれも初登場1位を獲得していた。

「『Cosmos』はそもそも上映館数が200スクリーン程度と少なめではありましたが、後編がかろうじて9位に入った同週のランキングを見ると、6位には上映開始時は173スクリーンで上映された、公開7週目の『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』がランクイン。かつては国民的アニメと称された『美少女戦士セーラームーン』の最新映画としては、かなり寂しい結果といえるでしょう」(同)

『セーラームーン』最新アニメ映画はなぜ盛り上がらなかったのか?

 上映館数の問題ではないなら、『Cosmos』はなぜここまで盛り上がらなかったのか。

「その理由の一つとして、公開時期にほかの注目作の上映が重なったことが挙げられるでしょう。前編が公開された6月9日はディズニーの実写ミュージカル『リトル・マーメイド』も上映を開始し、初登場1位に。また、この時まだ『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が2位につけていましたし、3位は上映2週目の是枝裕和監督作『怪物』(6月2日公開)がランクインするなど、“強敵”ぞろいだったんです」(同)

 後編公開日かつ月野うさぎの誕生日でもあった6月30日には、漫画家・和久井健氏が「週刊少年マガジン」(講談社)で連載していた『東京卍リベンジャーズ』の実写映画シリーズ『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編-決戦-』の上映が始まり、初登場1位を獲得。同日公開の世界的大ヒットシリーズの最新作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』が2位につけ、3位は『リトル・マーメイド』、4位は『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』……と、上位はやはり激戦となっていた。

「『Cosmos』が盛り上がらなかったのは、『原作を知らないファンにはとっつきにくい内容だったから』という理由もありそう。実際、一部ネット上では『原作やテレビアニメシリーズを見ていないと楽しめないかも』『ファンには懐かしいけど、そうじゃないと理解できない内容なのでは』という指摘が上がっています。例えば『THE FIRST SLAM DUNK』は、シンプルにバスケットボールの試合が物語の主軸であったことから、原作を知らない層も十分楽しめたはず。しかし、『Cosmos』は世界観やキャラクターの設定などを知らなければ、気軽に『見てみよう』とならないのではないでしょうか」(同)

 その半面、往年のファンからの評判も「決して高くない」(同)という『劇場版 美少女戦士セーラームーンCosmos』。この結果を制作陣はどのように受け止めているのだろうか。