科学者の情熱が生み出した狂気の発明の数々! 兵器開発の封印された黒歴史『陸軍登戸研究所』

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明治大学生田キャンパス内に残る巨大な動物慰霊碑。人体実験の犠牲者たちを慰霊するために建てられたのではないかと言われている。
 宮崎駿監督の新作アニメ『風立ちぬ』が大ヒット公開中だ。第二次世界大戦で日本海軍の主力戦闘機となるゼロ戦を開発した航空技術者・堀越二郎(1903~1982)をモデルに、「美しい飛行機を作りたい」という主人公の夢がアニメーションならではの豊かな色彩によって描かれている。主人公の長年の夢は病気の妻や同僚たちの支えによって叶えられるも、夢の結晶であるゼロ戦はやがて特攻に使われ、日本は敗戦を迎えるという苦い結末が待ち受ける。自分の夢をひたすら追い続けた男のエゴイズムの是非を問い掛ける問題作となっているが、戦争と科学者・技術者の関わりを主題にした“もうひとつの『風立ちぬ』”と言うべき注目作が公開を控えている。8月17日(土)より公開されるドキュメンタリー映画『陸軍登戸研究所』がそれだ。  現在、明治大学生田キャンパスがある神奈川県川崎市多摩区の丘陵地帯に、陸軍登戸研究所は建てられた。日中戦争の最中の1939年のことだった。陸軍最大の謀略・秘密戦の研究機関として、多くの科学者・技術者たちが様々な研究を進めた。秘密厳守が命じられた各研究棟では、ナチスドイツと協力した殺人光線の開発、日本ならではの和紙とコンニャク糊で作った風船爆弾の実用化、石井部隊の暗躍でも知られる生物・化学兵器の研究、さらに中国の経済を混乱させるための偽札作りなどが行われていた。何ともオドロオドロしい研究内容だが、軍部から潤沢な予算が与えられ、所員たちにとっては“理想の職場”でもあったという。ドキュメンタリー映画『陸軍登戸研究所』は登戸研究所に勤めていた元所員や関係者たち35人の証言を6年がかりで集めた貴重な映像資料となっている。
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約1万個が製造され、偏西風に乗せて米大陸に放球された風船爆弾。細菌兵器の搭載が予定されたが、米軍の報復を恐れて中止された。
 秘密施設ゆえに終戦時に証拠品はすべて処分されてしまい、封印された黒歴史となっていた登戸研究所だが、元所員である伴繁雄氏(1906〜1993)は秘密研究の内容を後世に伝えようと尽力した。コンクリート製の研究棟が与えられた伴氏が専門としたのは毒物や爆薬の研究だった。毒物の研究は動物実験だけでは成果が分からないため、中国に渡って死刑囚や捕虜への人体実験にも関与。「最初は嫌だったが、やがて趣味になった」と証言している。戦時下だったとはいえ、研究者の業を感じさせるゾッとする言葉だ。晩年、伴氏は贖罪の意識から『陸軍登戸研究所の真実』(芙蓉書房出版)を執筆し、原稿を書き終えた直後に「晴れ晴れとした気持ちだ」という言葉を残して他界している。  宮崎監督の『風立ちぬ』が二郎と菜穂子の哀しいラブストーリーでもあったように、映画『陸軍登戸研究所』の後半は伴氏とその後妻となった和子さんとの夫婦のドラマとしても見ることができる。1972年にふたりはお見合い結婚するが、伴氏の申し出は「僕は研究所の本を書かなくてはいけないので手伝ってほしい」というものだった。和子さんは結婚してから伴氏の過去の研究内容を知って驚くが、原稿の整理や清書を手伝い、さらに伴氏が亡くなってからも7年越しで校正や資料との照合などの作業に努めた。伴氏と和子さんは甘い恋愛感情で結ばれた夫婦ではなく、戦争の悲惨さ、醜悪さを後世に伝えなくてはならないという義務感、使命感から生活を共にした同志だった。伴氏の最期を看取り、伴氏の遺稿『陸軍登戸研究所の真実』が2001年に出版されるのを見届けた後、和子さんは伸び伸びとひとり暮らしを始める。心の中に葛藤を抱え続けた伴氏との結婚生活は、和子さんにとっても過酷な日々だった。生前は口数が少なかった伴氏だが、亡くなってから「すまなかったな」と和子さんの枕元まで詫びを伝えに現われたそうだ。
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2011年まで明大内に存在していた偽札工場。現在は解体されたが、「登戸研究所資料館」に残された資料類は集められている。
 本作のプロデュースから編集、撮影、ナレーションまで手掛けたのは楠山忠之監督。現在は「登戸研究所資料館」が建てられた明治大学生田キャンパスに近い日本映画学校(現・日本映画大学)の講師を務めていた楠山監督は、授業の一環として生徒たちと一緒に登戸研究所について調べ始め、それが企画の始まりとなった。 楠山「僕が個人的に興味のある題材だったんですが、戦争を知らない若い学生たちを巻き込んだほうがより面白いだろうと思ったんです。生徒たちと取材撮影を始めたものの、取材に時間を要し、6年がかりの作品になってしまった(苦笑)。当時はまだ明治大学生田キャンパス内に『登戸研究所資料館』が建設されることが決まっておらず、キャンパス内で撮影するのにも映画学校の校長の認印が必要だったりするなどの煩わしさがありました。各地を取材して証言を求めた方たちは、取材拒否された方も含めて約40名。取材拒否された方は5名ほどでしたが、本人は研究所のことを話したがっているのに、子どもに反対されてNGになるケースが多かったんです」  戦争と科学者、技術者との関係について楠山監督はこう語る。 楠山 「ダイナマイトを発明したアルフレッド・ノーベルも、原子力の軍事利用をルーズベルト大統領に促したアルベルト・アインシュタインも、自分の研究や行為によって戦争で多くの人たちが犠牲になったことを悔いたわけです。日本人初のノーベル賞を受賞した物理学者の湯川秀樹は、正力松太郎が原子力委員会を立ち上げた際に参加を求められましたが、『慎重な上にも慎重でなくてはならない』と身を引いています。科学者は自分の研究に没頭することを望みますが、自分の研究が社会に対してどのような影響をもたらすのかを考えることも大切です。それは科学者だけでなく、どの仕事でも同じでしょう。自分はなぜこの仕事をしているのか、自分自身に問い掛けることが大事なんじゃないですか。目先の幸せや自分たちの生活の安定だけを求めていると、恐ろしい結果が待っていることは登戸研究所が充分に証明していると思いますよ」  『陸軍登戸研究所』は決して遠い過去の日本を扱ったものではない。これからの社会について考えさせるドキュメンタリー映画だ。宮崎駿監督もベネチア映画祭に行く前にぜひ本作を観てほしい。 (取材・文=長野辰次) rkgnnbrt04.jpg 『陸軍登戸研究所』 プロデューサー・監督・編集/楠山忠之 撮影/新井愁一、長倉徳生、鈴木麻耶、楠山忠之 録音/渡辺蕗子 編集技術/長倉徳生 朗読/石原たみ 聞き手/石原たみ、渡辺蕗子、宮永和子、楠山忠之 ナレーション/楠山忠之 ムックリ演奏/宇佐照代  配給/オリオフィルムズ 8月17日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開 (c)陸軍登戸研究所 <http://www.rikugun-noborito.com

ずっしりとした夏の“重み”を感じさせる、歴史サスペンス『終戦のエンペラー』

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 今週紹介する新作映画は、日本の1945年と、米フロリダ州の1960年代末、それぞれの特別な夏の出来事を緊張感たっぷりに描き出す2本。ずっしりとした夏の「重み」が印象に残る、見応え十分の力作たちだ(いずれも7月27日公開)。  『終戦のエンペラー』は、『真珠の耳飾りの少女』(2003)のピーター・ウェーバー監督が、太平洋戦争直後の日米の史実をもとに描く歴史サスペンス。日本が連合国に降伏し終戦を迎えた1945年8月、マッカーサー元帥率いるGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が東京に置かれ、米軍統治が始まる。マッカーサーは秘書官のフェラーズ准将に対し、戦争における天皇の役割を10日間で探るよう命令。日本文化を研究し、戦前に日本人留学生のアヤと恋仲だったフェラーズは、東條英機、近衛文麿、木戸幸一ら要人を相手に困難な聞き取り調査を続けるかたわら、消息を絶ったアヤの安否を秘かに調べる。  昭和天皇とマッカーサーが並んだ有名な写真。あのツーショットが実現するまでの歴史秘話が解き明かされる。マッカーサー役にハリウッドスターのトミー・リー・ジョーンズを据え、日本人キャストも西田敏行、中村雅俊、夏八木勲、片岡孝太郎と豪華。クレジット上の製作国はアメリカだが、原作は岡本嗣郎のノンフィクション作品。製作陣にも日米のプロデューサーが名を連ねることから、実質的な日米合作と言っていいだろう。とはいえ、ニュージーランドに再建された空襲後の東京の街並みをはじめ、ハリウッド映画と遜色ないスケール感と質感で終戦後の日本の風景と歴史を動かした人々のドラマがリアルに再現されているのは感無量。アヤ役に抜擢された初音映莉子の清新な魅力が映画にうるおいをもたらしている。  『ペーパーボーイ 真夏の引力』(R15+)は、ザック・エフロンとニコール・キッドマンが危険で刺激的な関係にのめり込む男女を演じた問題作。1969年、フロリダで暮らす青年ジャック(エフロン)は、問題を起こして大学を追われ、父が経営する地方新聞社の配達仕事だけで無気力に過ごしていた。ある夏の日、大手新聞社に勤める兄ウォード(マシュー・マコノヒー)が、4年前の殺人事件の死刑囚をめぐる冤罪疑惑の取材で帰省。ジャックはウォードの調査を手伝う過程で、死刑囚の婚約者で謎めいた美貌のシャーロット(キッドマン)と出会い、心を奪われる。混迷する事件調査、兄の衝撃的な秘密、そしてシャーロットへの恋が、ジャックの人生を大きく変えていく。  『プレシャス』(09)のリー・ダニエルズ監督が、米作家ピート・デクスターのベストセラー小説を映画化。差別や偏見が色濃く残る60年代末の南部フロリダを舞台に、じっとり汗ばむ空気感、徐々に高まる焦燥と狂気、抑えがたい感情と欲望を、粗くぎらついた映像で描き出した。知的で貞淑な役どころも多いニコール・キッドマンだが、今作は『誘う女』(95)、『アイズ ワイド シャット』(99)に連なるエロい美魔女系。エフロンが演じるイケメン童貞、ジョン・キューザック扮する異様な死刑囚とキッドマンが繰り広げる危険な愛の行方から目が離せない。  (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『終戦のエンペラー』作品情報 <http://eiga.com/movie/78092/> 『ペーパーボーイ 真夏の引力』作品情報 <http://eiga.com/movie/58154/>

「子どもは飽きて走り回り……」ジブリ宮崎駿最新作『風立ちぬ』に賛否両論

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『風立ちぬ』公式サイトより
 『崖の上のポニョ』以来、5年ぶりとなる宮崎駿監督の長編映画『風立ちぬ』が7月20日に公開される。同作は、東京、名古屋、ドイツを舞台に、1982年に亡くなった航空技術者の堀越二郎をモデルとした主人公の半生を描いた、フィクション作品だという。  主演声優を『新世紀エヴァンゲリオン』などで知られる映画監督・庵野秀明が務め、主題歌は松任谷由美が担当(楽曲は荒井由美時代のもの)。映画を見た松任谷は、「嗚咽が出てしまうくらい感動した」と絶賛し、宮崎監督自身も上映会で号泣してしまったという。  また、業界関係者からの評判もよく、6月の関係者向け試写会後、『サマーウォーズ』などのヒット作を手掛ける細田守監督は、Twitterで「こんなにいい映画はいままでになく、そしてこれからもない」と大称賛。これに、アニメファンらの期待は急上昇した。  しかし7月に入り、一般向けに1万人以上を招待した大規模な試写会が行われると、ネットには賛否両論が書き込まれた。「心にじわじわきて涙が止まらなかった」「作画の美しさはジブリ作品一」という感想の一方で、「話が分からなかった」「退屈で寝てしまった」いった声も多いようだ。  また、子連れで訪れた親からは、「子どもが退屈して、席に座っていられなかった」「子どもに感想を聞いても『意味分らなかった』としか言わない」といった不満が出たほか、「ジブリなのに、トトロやポニョみたいなキャラが出てこないじゃない!」と逆ギレする親まで。 「派手さはなく、笑えるシーンや盛り上がりもほぼありません。公開前から、大人向けの内容であることは伝えられていましたが、それを知らないお母さんたちが『ジブリだから』と小さな子どもを連れていき、上映中に退屈で泣き出す子どもや、走り回る子どもが頻発したようです」(映画ライター)  72歳にして、“子どもに届かない”作品を完成させた宮崎駿。観客側も、先入観を捨てて見に行く必要がありそうだ。

猛暑の夏は映画館で肝試し! 日米ホラー映画が続々公開

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A Canada-France Co-Production (c) 2012 Silent Hill 2 DCP Inc. and Davis Films Production SH2, SARL.
 いよいよ猛暑の夏がやってきた。夏映画の定番ジャンルといえばホラーもその1つで、今週末封切られるメジャー作品の続編や人気シリーズ最新作を3本まとめてご紹介。エアコンの効いた映画館でゾクゾクと肝を冷やし、初夏の納涼のひとときを過ごしていただきたい。  『サイレントヒル リベレーション3D』(TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国で公開中、2D/3D上映)は、コナミのホラーアドベンチャーゲームを映画化した『サイレントヒル』(2006)の続編。幼いころの記憶がなく、父親(ショーン・ビーン)に守られるように米国の各地を転々としながら成長し、もうすぐ18歳になるヘザー(アデレイド・クレメンス)。新たに引っ越してきた先でショッキングな出来事が続き、ついには父親が失踪してしまう。家の壁に残された「サイレントヒルへ来い」という血文字を頼りに、ヘザーは悪夢で何度も見てきた謎の町サイレントヒルに足を踏み入れる。白い灰が降り積もり、不気味な何かがうごめく闇の世界で、ヘザーはある狂信的な教団と対峙する。  監督は英国出身の新鋭、マイケル・J・バセット。和製ゲーム発のハリウッド映画といえば『バイオハザード』シリーズが有名だが、ジョヴォヴィッチが華麗なアクションでゾンビの群れをなぎ倒すアチラに比べ、本シリーズではごく普通の女性がおどろおどろしい迷宮のような異世界を逃げまどう。特別な能力も強力な武器も持たないからこそ、異形の存在に怯える主人公の恐怖に共感できるし、家族を救うため力と知恵を絞って生き残り、自らの宿命をも乗り越えようと懸命な姿に心を動かされるのだろう。共演陣のキャリー=アン・モス、デボラ・カーラ・アンガー、マルコム・マクダウェルらも存在感を放つ。終盤の舞台となるダークな遊園地で、お化け屋敷を進むかのような恐怖をよりリアルに体感したい向きには、3D上映がオススメだ。  続いて、7月13日封切りの『飛びだす 悪魔のいけにえ レザーフェイス一家の逆襲』(R18+)も3Dホラーで、1974年に映画史に残る殺人鬼レザーフェイスを生み出した『悪魔のいけにえ』のその後を描く続編として製作された1本。73年、米テキサスで凄惨な殺人事件を起こしたソーヤー家は、駆けつけた保安官らにより、幼子だったヘザーを除く全員が抹殺された。時は流れ、成人したヘザーのもとに、亡くなった祖母からの遺産相続の通知が届く。恋人や友人たちとともに、祖母が残した大邸宅に到着したヘザーだったが、そこには密かに生き延びていたレザーフェイスが待ち受けていた。  監督は『テイカーズ』(10)のジョン・ラッセンホップ。人間の皮で作ったマスクをかぶり、チェーンソーで若者たちを次々に虐殺するレザーフェイスを描いた作品は、続編、リメイクを含め今回で実に7作目。のちのホラー映画に多大な影響を与えた古典的プロットを尊重しながらも、スプラッタ描写を最新の3D映像でより過激に表現した。さすがに万人向きの映画ではないが、3週間限定公開の劇場も多いので、チェーンソーが飛び出してくる恐怖を体験したい方はどうぞお見逃しなく。  同じく7月13日公開の『怪談新耳袋殴り込み!劇場版 魔界編 前編』は、怪談集『現代百物語 新耳袋』を原作とする人気ホラーシリーズ『怪談新耳袋』から生まれた、スピンオフ企画のドキュメンタリー『怪談新耳袋殴り込み!』の劇場版第5弾だ。日本各地の心霊スポットを潜入取材する6人の男たち、通称「殴り込みGメン」が、沖縄本島と宮古島の心霊スポットに突撃し、その模様を前後編で公開する『魔界編』2部作の前編。守護神をまつる聖地を潰して作られたホテル廃墟や、太平洋戦争の亡霊が出没する塔などを訪れ、幽霊をカメラに収めようと奮闘する。  ニコニコ生放送でも心霊スポット生中継を5回敢行し、のべ50万人が視聴するなど若い世代を中心に人気を誇る本シリーズ。第2弾の『沖縄編』でGメンたちが恐怖のあまりリタイアしてしまった心霊スポットへの再挑戦もあり、今作のホラー度もパワーアップ。『魔界編 後編』の封切りは7月20日で、それぞれ1週間ずつの公開となる。殴り込み、と威勢がよいわりに怖がりなオッサンGメンたちのビビリぶりも見どころだ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『サイレントヒル リベレーション3D』作品情報 <http://eiga.com/movie/77737/> 『飛びだす 悪魔のいけにえ レザーフェイス一家の逆襲』作品情報 <http://eiga.com/movie/58153/> 『怪談新耳袋殴り込み!劇場版 魔界編 前編』作品情報 <http://eiga.com/movie/78627/>

今度はカスタム戦車が公道を爆走!!! シリーズ通算6作目『ワイルド・スピード EURO MISSION』

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(C)Universal Pictures
 今週紹介する新作映画は、超絶カーアクションと大胆な強奪ミッションが売りの人気シリーズ最新作と、権威へ服従してしまう人間の心理を描くサスペンス。どちらも先の読めない展開に思わず引き込まれ、本格化する夏の暑さをしばし忘れさせてくれるかも!?  7月6日公開の『ワイルド・スピード EURO MISSION』は、2001年に好スタートを切った『ワイルド・スピード』シリーズの通算第6作。逃亡先の南洋の地で穏やかに暮らしていた強盗団の元リーダー、ドミニクの前に、FBI特別捜査官ホブスが現れ、高度な運転技術を駆使して犯罪を繰り返す元エリート軍人ショウと一味の逮捕に協力するよう要請する。ドミニクは、死んだはずの元恋人レティがショウに加担していると聞き、相棒のブライアンら仲間のドライバーたちを招集。ホブスの依頼を引き受け、ショウ一味を追跡するが……。  作品を重ねるごとにアクションがスケールアップする本シリーズ。スポーツカー同士のチェイスではもはや物足りないと言わんばかりに、今作では公道を高速走行するカスタム戦車、強固なパイプと鉄板で装甲したF1カー似のデザインで進路上の車をはね飛ばす特製の「フリップ・カー」、さらにはロシア製大型輸送機など、インパクト大な特殊ビークルとのスピード感あふれるスリリングな攻防が繰り広げられる。前作は追われる側と追う側だったドミニク役ヴィン・ディーゼルとホブス役ドウェイン・ジョンソンというマッチョな2人が今回は手を組み、女性総合格闘技出身で『エージェント・マロリー』(12)主演のジーナ・カラーノとシリーズ復帰組のレティ役ミシェル・ロドリゲスによる熱いキャットファイトなど、ごつい肉弾戦もたっぷり。さらにエンディング後のフッテージで、次作の敵役をほのめかす大物アクションスターのカメオ出演もあり、『ワイルド・スピード』まだまだ止まりそうにない。  もう1本の『コンプライアンス 服従の心理』(公開中、R15+)は、04年に実際に起きた事件を題材にした問題作。米ケンタッキー州のファストフード店で店長を務めるサンドラに、警察官を名乗る男から電話が入る。男は若い女性店員ベッキーに窃盗の疑いがあると言い、サンドラにベッキーの身体検査を命じる。警察官の言うことならばと指示に従ったサンドラだったが、男の要求は次第にエスカレートしていく。  人が善悪の判断を超えて権威に服従してしまうことを実証した有名な「ミルグラム実験」を、実社会で証明したかのような衝撃の事件。上司からの評価を気にする中年女性店長が、不祥事を穏便に済ませようという意識も働き、電話口の男に命じられるままベッキーを全裸にし、衣服を取り上gげ、さらには自分の婚約相手の男に「検査役」を委ねるなど、信じがたい行為に及ぶ一部始終がサスペンスフルに描かれる。日本でも、振り込め詐欺で警察や弁護士を名乗る手口の被害が多数出ているし、会社の上司に命じられるまま組織的な不正に加担してしまう事件も後を絶たないことから、こうした話は誰にとっても決して無縁ではないはず。自分がその場にいたら、本当に正しい判断ができるのか。想像力をはたらかせながら本作を鑑賞することは、いざという時に備えるシミュレーションにもなりそうだ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ワイルド・スピード EURO MISSION』作品情報 <http://eiga.com/movie/77678/> 『コンプライアンス 服従の心理』作品情報 <http://eiga.com/movie/78035/>

「“タリウム少女”の無感情さはAKB48のセンターを彷彿とさせる」『タリウム少女の毒殺日記』公開記念トークイベント・レポート

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朝井麻由美氏(左)と、本作監督の土屋豊氏
 2005年にタリウムによる母親毒殺未遂事件を起こして世間を騒がせた“タリウム少女”をモチーフとし、管理社会の窮屈さを自らのケータイのカメラで軽々と飛び越えていく女子高生を描いた映画『タリウム少女の毒殺日記』。  7月6日(土)より公開となる本作の公開を記念して、6月29日(土)、ライター・編集者の朝井麻由美氏と、本作監督の土屋豊氏が公開記念トークイベントに登壇。当日参加した約40名の参加者とともに、それぞれの立場から「10年代の幸福論」をテーマに、本作で描かれる管理社会からの脱却方法、そして現代日本における幸福論が語られた。  朝井氏は「主人公のタリウム少女は異物として扱われているけれど、私は異物とは思わない。むしろ共感する。(タリウム少女は)ケータイで全てを観察するけど、今の若い人たちは、わりとそうなんじゃないかと思うのは、スマホを通して全てを観るという行為を日常的に行っているということ。私自身、Twitterで何をつぶやこうか日常的に考えているし、ブログに載せる前提で写真を撮ったりしている。そういう行為は映画で客観的に観ると異常に見えるけど、よく考えたら自分も同じことをしていると気づかされた」と本作の感想について最初に語った。  そして朝井氏の近著『女子校ルール』(中経出版)取材時のエピソードに触れ、「今の女子高生たちは、驚くくらいネット上で顔の使い分けをしている。当たり前のようにTwitterのアカウントを2~3個持っていて、ここは非公開の友達用、ここはオープン用等と自己のペルソナ(外面的側面)を使い分けている。タリウム少女の言葉を借りれば、観察する、されるの機会が多すぎると思う。また、自分をさらけ出すと周囲から突っ込まれるから、批判が起こるのを避けるため、皆、常に自己プロデュースをしなくてはいけない生き辛さがあるんじゃないかと思う」と、SNS世代のコミュニケーションの在り方について分析した。
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ちなみに朝井氏は日刊サイゾーでも【散歩師・朝井がゆく!】連載中です
 朝井氏の指摘に対し、土屋監督は「年齢は離れているけど、彼女たちと同じ環境に生きている中で、僕自身にもそういう面はある。その僕自身を投影させながら本作を作った。でも、その中で言いたかったのは、もともと僕らはデフォルトで自己が分散している。それを当たり前と思い、もっとポジティブに捉えてみたらどうかと考えてみた」と語り、本作の内包するメッセージについて解説した。  さらに土屋監督からの「大きな成功をしたいと思うか?」との質問に対して、朝井氏は「成功はしたいけど、すごく細かく考えると、成功したら叩かれる等、反面についてくるものまで考えてしまう」と語り、読者モデルの取材時のエピソードに触れ、「読モのトップになって、あとは結婚するのが3~4年前くらいにブームだった。結局、素人だけど有名みたいな感じで、生活を脅かされない範囲でそこそこの成功が欲しいという風潮があるんじゃないかと思う」と分析した。 tarium_event_02.jpg  土屋監督は、「インディペンデント映画の世界でも、全部じゃないけど、映画ごっこがしたい、完成度の高いごっこができたらそれで満足という人が増えている気がする。でも、本来であれば、例えばカンヌに行って賞が取りたいとか、そういう風に考えて撮り始めるのが当たり前じゃないかと思う」とインディペンデント映画界の現状を憂いた。土屋監督の指摘に対し、朝井氏は、「“タリウム少女”の無感情さはAKB48のセンターを張ってた前田敦子や島崎遥香を想起させる。どちらも無気力感がキーワードになっている人だったし、前田敦子にインタビューした人の話では、空気人形みたいだったという印象だったみたいで、低体温な人に皆共感するんじゃないかと思う」と語った。  最後に土屋監督は、「保険をかけている人生は嫌だな。それで安心することが幸せだとは思えない。そうして保険をかけるせいで、色んなことがつまらなくなっている」と語り、これに対して朝井氏は、「今日、お話してみて、自己矛盾を発見した。役所的規制は嫌いなのに、自分で自分に規制をかけていることに気が付いた」と感想を語った。「10年代の幸福論」をテーマに始まった討論。価値観が多様化する中で、本当の幸せとは何かについて、会場の誰もが深く考える契機となるイベントとなった。 映画『タリウム少女の毒殺日記』 公式サイト:http://www.uplink.co.jp/thallium/ 2013年7月6日(土)より渋谷アップリンクほか全国順次公開 2005年、タリウムによる母親毒殺未遂事件が起きた。世間を騒がせた「タリウム少女」が綴ったブログには、動物を観察するのと同じように母親を観察する記録が存在した。そのブログからは、全てを傍観する「観察者」としての少女の一面が浮かび上がってくる……。 そして今、彼女をモチーフにして≪架空のタリウム少女≫が作り出された。新たに作り出されたタリウム少女は、あらゆるシステムを飛び越え、本当の自由を手にするためにある決断を下すのだった。 ☆第25回 東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門作品賞受賞 監督・脚本・編集:土屋豊(『新しい神様』、『PEEP“TV”SHOW』)/出演:倉持由香、渡辺真紀子、古舘寛治、Takahashi (日本/2012//カラー/HD/82分)

酔いどれ3人組のドタバタ劇も、ついに見納め!『ハングオーバー!!! 最後の反省会』

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(C)2013 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND LEGENDARY PICTURES
 今週紹介する新作映画は、おバカで下品なコメディと、禁酒法時代の無法者たちを描いた暴力と愛と復讐のドラマ。いずれもアメリカの端的な一面を切り取って劇的に提示してくれる、ぜいたくなハリウッドエンタテインメントだ。  公開中の『ハングオーバー!!! 最後の反省会』は、世界的大ヒットを記録した人気コメディ『ハングオーバー!』シリーズの完結編。かつて、ラスベガスとタイで泥酔しては騒動を繰り広げてきたフィル、ステュ、アランの3人組は、大人になりきれない息子アランに心を痛めて他界した父親の葬儀で再会する。同じ頃、タイの刑務所に収監されていたアジア系ギャングのチャウが脱獄し、秘かに米国へ渡航してメル友のアランに接触。昔、チャウから金を盗まれたギャングのマーシャルは、3人組の親友ダグを人質にとり、フィルたちにチャウを見つけて金を取り戻すよう要求する。  監督は3作続投のトッド・フィリップス。フィル役のブラッドレイ・クーパー、ステュを演じるエド・ヘルムズ、そしてアランに扮するザック・ガリフィアナキスの3人が困惑顔で同じフレームに収まっているだけで、自然と笑いがこみ上げてくる。ケミストリーを発揮するトリオを振り回す2人のギャング、ケン・チョンとジョン・グッドマンもいい味。特にチャウ役のチョンは、アクションスターばりの本格的なスタントを数多くこなし、物語をダイナミックにリードする。今回の旅を通じてアランが成長し、彼らが織りなすドタバタもとうとう見納め。前2作をDVDなどでしっかり予習して、最後まで心おきなく爆笑していただきたい。  続いて6月29日に封切られる『欲望のバージニア』(R15+)は、アメリカ禁酒法時代の実話を基にしたドラマで、シャイア・ラブーフ、トム・ハーディ、ジェシカ・チャステインらの豪華共演も話題の作品。1931年のバージニア州、密造酒ビジネスが最も盛んな無法の地で、荒くれのボンデュラント3兄弟は「不死身」の名を馳せていた。しかし、次男フォレスト(ハーディ)がシカゴから来た女性マギー(チャステイン)に心を奪われ、三男ジャック(ラブーフ)は牧師の娘バーサ(ミア・ワシコウスカ)に恋したことから、兄弟の力関係に変化が。一方、新任の捜査官レイクス(ガイ・ピアース)は高額のワイロを要求するも、兄弟はこれを拒否。非情なレイクスは、兄弟の愛する女性や仲間への脅迫と暴力をエスカレートさせていく。  オーストラリア出身で『ザ・ロード』(09)のジョン・ヒルコート監督がメガホンを取った。1930年代を見事に再現したセットに、古酒のようにしみじみ味わい深い映像。その中で個性豊かなキャストたちが、入魂の演技をたっぷり見せてくれる。とりわけトム・ハーディの圧倒的な存在感と、ジェシカ・チャステインの憂いを帯びた魅力が印象的。大切なものを命懸けで守ることの意味、報復行為の是非を含め、現代のアメリカの状況と照らし合わせても大いに考えさせられる映画だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ハングオーバー!!! 最後の反省会』作品情報 <http://eiga.com/movie/77571/> 『欲望のバージニア』作品情報 <http://eiga.com/movie/77466/>

ウィル・スミス親子が再共演! 鬼才・シャマラン監督が放つスペクタクル『アフター・アース』

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配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
 今週紹介する新作映画2本は、ハリウッド製のSFアクションと、和製の人間ドラマ。場面設定は大きく違えど、いずれもメインキャラクター2人の重層的な関係性をじっくり描いたことで、見応えのある作品に仕上がっている。  『アフター・アース』(公開中)は、ウィル・スミスとジェイデン・スミスが『幸せのちから』(06)以来7年ぶりに親子で共演した、SFサバイバルアクション。環境が激変した地球を人類が放棄して別の惑星に移住してから1000年。伝説的な軍司令官サイファ(ウィル)と息子で軍候補生のキタイ(ジェイデン)は、宇宙遠征の途中で見知らぬ惑星に不時着する。大破した船体の一部が落下した100キロ先へ救援要請発信器を求め、重傷で動けない父に代わり、キタイは探索の旅へ。だが、この星こそ過酷な自然環境のなか大型野生動物が支配する変貌した地球であり、実戦経験のないキタイにさまざまな危険が襲いかかる。  息子ジェイデンとの会話を基に原案を作ったウィル・スミスが、『シックス・センス』(99)のM・ナイト・シャマランに脚色と監督を依頼した本作。親と子の葛藤や絆に加え、偉大なる先達とそれに憧れ追いかける後進という構図も、スミス親子の現実の関係性が投影されているようで興味深い。大自然の猛威、凶暴な野獣、そして究極の生物兵器「アーサ」との戦いを通じて、キタイが精神的に成長する過程がスピーディーなアクションと共に楽しめる。シャマラン監督といえば、初期作品のトレードマークだった「どんでん返し」が最近見られないのが寂しくもあるが、「恐怖」を克服することが成長のカギになっているあたりに、インド出身の監督らしい東洋思想のテイストも感じさせる。  続いて6月22日公開の『さよなら渓谷』(R15+)は、吉田修一の同名小説を原作に、真木よう子主演で映画化した大人向けのドラマ。緑豊かな渓谷で母親が幼い息子を殺害する事件が起こり、母子のアパートの隣室に住むかなこ(真木)と俊介(大西信満)も騒動に巻き込まれる。現場で取材を続けていた週刊誌記者の渡辺(大森南朋)は、俊介が15年前にかかわった事件が2人の関係に影を落としていると知り、かなこと俊介の過去と現在をめぐる秘密に迫っていく。  真木よう子が難役のキャスティングに渾身の演技で見事に応えた。吉田修一原作の過去の映画化作品、『パレード』や『悪人』(ともに10)と同様に、本作でも「心の闇」「悪」「罪」の本質にするどく迫り、男女間の「愛と憎しみ」「購(あがな)いと赦(ゆる)し」をヒリヒリするような痛みと共に提示する。メガホンを取ったのは、『まほろ駅前多田便利軒』(11)の大森立嗣監督で、同作に続き実弟の大森南朋を起用したことでも話題だ。切実さとやるせなさが全編に漂いながらも、一筋の希望を内包する穏やかで温かみのある映像が胸にしみる。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『アフター・アース』作品情報 <http://eiga.com/movie/58024/> 『さよなら渓谷』作品情報 <http://eiga.com/movie/77717/>

名作小説×3Dが魅せる新境地! ディカプリオ主演『華麗なるギャツビー』

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 今週紹介する最新映画3本はいずれも、現実を変えてしまうほどの“妄想力”や、常識を無意味にするほどの“現実逃避力”が物語の核になっている。「創造は想像から始まる」という普遍の真理を、現代的な味付けで描き直した作品群といえるかもしれない。  『華麗なるギャツビー』(2D/3D上映、公開中)は、米作家F・スコット・フィッツジェラルドの名作小説『グレート・ギャツビー』を、『ムーラン・ルージュ』(2001)のバズ・ラーマン監督、レオナルド・ディカプリオ主演で映画化。好景気にわく1920年代の米ニューヨーク。素性も仕事も謎めいた大富豪ギャツビー(ディカプリオ)は、宮殿のような豪邸で夜ごと盛大なパーティーを開いていた。豪邸の隣に住む証券マンのニック(トビー・マグワイア)は、ギャツビーと知り合いその魅力にひかれていくが、できすぎた身の上話に不信感も抱く。やがてギャツビーはニックに仲介を頼み、ニックの親戚で社交界の花のデイジー(キャリー・マリガン)と再会。今は人妻となっているデイジーとギャツビーには、秘められた過去があった。  完璧な笑顔で人々を魅了する上流階級の美青年から、禁じられた恋にのめり込み、次第に素顔をさらしていく主人公を、ディカプリオがゴージャスかつミステリアスに演じた。ラーマン監督は『ムーラン・ルージュ』や『オーストラリア』(09)で見せた華麗な屋内セットや壮大な光景による映像美を、本作では最新の3D映像で臨場感たっぷりに描き出し、文芸作品の3D映画という新境地を開拓。パーティーでのダンス場面にあえて現代のヒップホップ音楽を当てるなど、単なる歴史の再現や懐古趣味にとどまらない挑戦も。好況期から大恐慌へと向かう当時のアメリカを象徴する主人公の、切なくもはかない「夢の実現」は、再びバブルの気配が漂いはじめた現代の日本でどう受け止められるのかも気になるところだ。  続いて6月15日に封切られる『俺はまだ本気出してないだけ』は、外見も中身も残念な中年男が奮闘する姿を描いた青野春秋の同名漫画を、堤真一主演、『大洗にも星はふるなり』(09)の福田雄一監督で映画化。42歳バツイチ子持ちのシズオ(堤)は、「本当の自分を探す」と言い残し会社を辞めたが、毎日朝からだらだらとゲームをして過ごしていた。高校生の娘・鈴子(橋本愛)に借金し、バイト先では新人からも叱られる始末。そんなシズオがある日突然、漫画家になると宣言する。  さわやかな好青年、仕事のできる大人といった役どころを多くこなしてきた堤真一に、パンツ一丁でゴロゴロするダメ中年役のキャスティングは意外だが、さすがは実力派俳優。根拠のない自信と現実社会への不適格ぶりのギャップを見事に体現し、痛々しさが笑いを誘うキャラクターを再創造した。生瀬勝久、山田孝之、濱田岳、石橋蓮司ら個性的な共演陣との掛け合いも楽しい。先のAKB48選抜総選挙で1位に輝いた指原莉乃が、編集者役で出演していることでも話題だ。  同じく6月15日公開の『フィギュアなあなた』(R18+)は、『GONIN』(95)、『花と蛇』(04)の石井隆監督が、自身の短編漫画を自ら映画化したエロティック・ラブファンタジー。勤務先の出版社からリストラ宣告された孤独なオタク青年・健太郎(柄本佑)は、ヤケ酒の勢いでケンカになった相手から追われ、逃げ込んだ廃墟ビルでセーラー服姿の等身大フィギュアを発見する。健太郎が危険なチンピラたちに取り囲まれたその時、美少女フィギュアが突然動き出し、男たちを次々に倒して健太郎を救う。健太郎は彼女を自宅に連れ帰り、ココネと名づけて同居生活を始める。  人気グラビアアイドルの佐々木心音がココネ役を演じ、ヘアヌードやコスプレで体当たりの演技を披露。シュールで不条理な展開に身を委ね、石井監督渾身のエロス表現を頭で理解するのではなく、体で感じるのが本作との正しい向き合い方だろう。なお本作は、石井監督が今年角川書店配給で相次いで発表するエロス連作の1本で、9月公開の『甘い鞭』(R18+)では壇蜜がSM嬢を演じることでも注目される。  (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『華麗なるギャツビー』作品情報 <http://eiga.com/movie/57190/> 『俺はまだ本気出してないだけ』作品情報 <http://eiga.com/movie/77297/> 『フィギュアなあなた』作品情報 <http://eiga.com/movie/77917/>

スタローンが肉体アクションに回帰 『バレット』で暴れまくる!!

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 今週取り上げる新作映画3本は、未来の地球を舞台にしたSFアドベンチャー、現代の米国でマッチョな殺し屋が活躍するアクションスリラー、昭和の名映画監督を題材にした人間ドラマ。時代設定もジャンルも異なる3作品に、あえて共通項を挙げるならば「愛」と「戦い」だろうか。  『オブリビオン』(公開中)は、トム・クルーズが主演した近未来SF超大作。2077年の地球はエイリアンの攻撃により壊滅し、生き残った人類は遠い惑星への移住を進めていた。監視任務に就くジャック(クルーズ)は妻と共に最後まで地球に残っていたが、ある日不時着した宇宙船から、何度も夢で見た美女(オルガ・キュリレンコ)を救出。その現場を調べていたジャックは、謎めいた男ビーチ(モーガン・フリーマン)に拉致され、驚くべき真実を告げられる。  映像クリエイターとしてCM業界で活躍し、『トロン:レガシー』(10)で長編映画監督デビューしたジョセフ・コシンスキーによる2作目。主人公らが暮らすスカイタワーやパトロール機の洗練された未来的デザインと、荒涼とした地球の景観を対比させたビジュアルが圧倒的だ。ストーリーとしては『トータル・リコール』(12)、『マトリックス』(93)、『月に囚われた男』(09)など過去の名作SFを想起させる要素が多く、ある意味そうした“SF映画あるある”を楽しむのも一手だが、「愛」「魂」「人間性」といった哲学的な命題に挑んだ野心作でもある。  2本目の『バレット』(公開中、R15+)は、『エクスペンダブルズ』シリーズのシルベスター・スタローン主演のスリリングなアクション。元海兵隊員で殺し屋のジミー(スタローン)は、依頼を受け米国南部ニューオリンズで悪徳警官を射殺。だが、その依頼は謎の組織が仕掛けた罠で、ジミーの相棒が殺されてしまう。組織と警察から追われる身になったジミーは、復讐を果たすため、自分とは正反対の正義を信じる刑事テイラー(サン・カン)とコンビを組むことになる。  原題“Bullet to the Head”(頭に銃弾)の通り、スタローンが無慈悲にターゲットの眉間を打ち抜くベテランの殺し屋を演じる。『エクスペンダブルズ』シリーズでアクションスターのオールキャスト映画を実現させた立役者が、シンプルな肉体アクションに回帰した娯楽作。容赦なく敵を殺しまくるヒットマンと、法の下の正義にこだわるカタブツ刑事が反目しながら協力するバディムービーの楽しさも。原作はフランス発グラフィックノベルだが、映画化に『48時間』シリーズのウォルター・ヒル監督はまさに適任。スクリーン狭しと暴れまくる、まだまだ元気いっぱいのスタローンを満喫できる1本だ。  最後の『はじまりのみち』(公開中)は、『二十四の瞳』(54)、『楢山節考』(58)などで知られる映画監督・木下惠介の生誕100周年記念作品で、同監督の若き日の姿を描く。第二次世界大戦中、日本政府は映画界に戦意高揚の国策映画を製作するよう要求していた。昭和19年に惠介(加瀬亮)は『陸軍』を監督するが、当局ににらまれ、嫌気が差して松竹に辞表を提出。脳溢血で倒れた母(田中裕子)の療養先を訪ねた惠介は、戦局が悪化してきたことから疎開を決断する。しかし疎開先は徒歩で山を越えなければならず、ほぼ丸1日かかる距離。惠介は2台のリヤカーに母と身の回りの品を積み、兄(ユースケ・サンタマリア)と便利屋(濱田岳)と共に歩き出す。  『クレヨンしんちゃん』シリーズや『河童のクゥと夏休み』(07)などのアニメ映画で高い評価を得てきた原恵一監督による、自身初の実写映画。『カラフル』(10)では実景の写真にアニメのキャラをはめ込むなど柔軟な演出が光ったが、本作でも若き日の木下監督を描くストーリー部分に実際の木下作品のフッテージを挿入して、違和感なく、かつ感動的に構成している。親と子の愛、挫折と再生の軌跡は、現代のあらゆる世代に訴えかける普遍的な物語だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『オブリビオン』作品情報 <http://eiga.com/movie/77677/> 『バレット』作品情報 <http://eiga.com/movie/57825/> 『はじまりのみち』作品情報 <http://eiga.com/movie/77559/>