借金を抱えて失踪、死亡説も……発明家になっていた日活ロマンポルノの伝説・曽根中生

IMGP4049.jpg 「借金を抱えてヤクザに殺された──」  2011年に湯布院映画祭に姿を現すまで、そんな話が半ば事実として語られていた。日活ロマンポルノの名監督として知られた、曽根中生氏のことである。  生存が確認された後も、曽根氏は大分県に暮らし、インタビューに答えることも少ない。  ところが今回、映画関連書籍で知られるワイズ出版から『曽根中生 過激にして愛嬌あり』(倉田剛・著)が出版されるにあたり、東京で特集上映が開催され、曽根氏も上京するという。いまや日活ロマンポルノはサブカルチャーのアイテムとして、男性のみならず女性も楽しむものとなった。そんな時代の変化を、曽根氏はどう捉えているのか? また、20年あまりにわたる失踪の真実を知りたい。  そんな欲望を満たすべく、かつて、曽根氏と共に製作会社の運営に携わっていたという映画編集者の鵜飼邦彦氏のツテをたどって、今回、取材の段取りをつけたのである。  10月5日、土曜日。映画興行にとっては恵みの雨とも呼べる秋雨の中、オーディトリウム渋谷にて、『ソネ・ラビリンス 曽根中生 過激にして愛嬌あり』と銘打った特集上映が初日を迎えた。朝から6本立て上映のプログラムすべてを鑑賞した熱心な邦画ファンもいるほど、各回とも満員の客席は熱気に包まれていた。  今回の特集上映では、齢76歳になるベテラン映画監督・曽根中生氏の日活ロマンポルノ時代の傑作選的なラインナップが組まれ、初日と2日目には監督がトークショーを行うという事前告知が功を奏し、大方の予想を上回る動員を記録したわけだが、これほどの大入りなった背景には、それなりの理由があったのだ。  この曽根氏、かつて横山やすし主演の『フライング 飛翔』(1988)を監督した直後、忽然と映画界から姿を消してしまい、20年近くも失踪状態にあった映画監督なのだ。関係者の間では失踪直後よりさまざまな憶測が飛び交っており、いわく「借金が返せず、コンクリート詰めにされて海底に沈んだ」「北九州でヤクザの親分をやっている」「ダンプカーの運転手になった」等々、出所不明の黒いウワサがまことしやかに業界内でささやかれ続けてきた、まさに生きる都市伝説なのである。  上映初日、トークショー出演のために大分県より上京した曽根氏を直撃し、それら都市伝説の数々を検証すべく、取材班は「日活ロマンポルノ」監督時代からの軌跡をインタビューによってたどっていった。 「(日活ロマンポルノは)私の生みの親なんです。お袋みたいなもんですね。しかも、なんというか、私生児みたいなもんですよね。私のお袋は男に逃げられてしまった。その後、神代(辰巳)さんや、田中登とか、私みたいな映画監督がゴチャゴチャと産まれちゃった。そういう意味で、日活ロマンポルノは時代の異端児でしょうね。異端っていうのは、歴史の傷ですからね。傷は絶対に消えないんですよね」(曽根)  確かに、「日活ロマンポルノ」は30代前半の曽根中生という日活の助監督を、映画監督へと昇進させたのだ。  1962年、日活へと入社した曽根氏は、助監督として現場でのキャリアを積む傍ら、強烈な個性で知られる映画監督・鈴木清順や若松孝二などのシナリオを手掛け、ロマンポルノ路線後の71年に『色暦女浮世絵師』で念願の監督デビューを果たした。  以降、続々と話題作を発表し、88年の「日活ロマンポルノ」終焉までを第一線の監督として支え続け、ポルノのほか『嗚呼!!花の応援団』シリーズ(76~)や『博多っ子純情』(78)等の一般映画でも成功を収め、瞬く間に映画界のメインストリームへと躍り出たのだが、そんな曽根氏を輩出した「日活ロマンポルノ」の定義とは、そもそもなんだったのか?  60年代、石原裕次郎、小林旭らによるアクション映画路線で隆盛を極めた日活も、70年代に入るとテレビの普及と共に観客動員は衰退し、斜陽産業と呼ばれるようになっていった。そこで日活は起死回生の一打として、一般映画から撤退し、成人映画中心の製作にシフトしていくことを発表したのだが、この日本最古の映画会社でもある日活の決断は世間に強い衝撃を与えた。  「10分に1回、絡みのシーンを入れる」「上映時間は70分程度」等々、一定の条件や低予算という制約がロマンポルノ製作にはつきまとった。しかし、それら苦渋の選択が、皮肉なことに、若き映画作家たちの才能を飛躍的に開花させる役割をもたらしたのである。 「製作費は安いけれども、予算のない中でポルノを隠れ蓑にして、やりたいことをやってやろうじゃないかっていう機運が高まってきた。でも、そこは当然、男女の絡みに時間を取られちゃうわけだから、合間にさまざまな要素を詰め込んでいったんです。それで、だんだんと面白くなってきたんじゃないのかなぁ、と思います」(曽根)  そんな、過去の「日活ロマンポルノ」作品の魅力に、現代女性が惹き付けられつつあるのも事実だ。  セックス産業やアダルトコンテンツが充実していなかった70年代の世情とも相まって、当時のロマンポルノ上映館は、男性客で埋め尽くされていった。しかし昨今、徐々にではあるが、「日活ロマンポルノ」の特集上映が、ミニシアター系劇場を中心に企画されるようになると、かつて見かけることのなかった女性客が、座席の半数近くを占めるという現象が巻き起った。そんな現実を曽根氏にぶつけてみたところ、 「それはうれしい限りですね。ほかのいろんな映画の記憶なんていうのは、バンソコ(注:絆創膏)でも貼っておけばすぐに消えちゃう傷なんですよね。でも、ロマンポルノだけはバンソコではちょっと治らないくらいの傷だと、いまだに思ってるんですよ」(曽根)  まさしくロマンポルノ作品の劇中に登場する多くの女性たちは、心に何かしらの深い傷を負っている。だが、それにもめげず、現状を突破しようともがく行動力が共感を呼び、底抜けに明るく笑うことの少ない現代女性にとって、スクリーンで自由奔放に振る舞うロマンポルノのヒロイン像に憧れを抱いてしまうのだ。さらに、女性本来の姿で身を晒す体当たり演技と、妖しげな存在感に少なからず理解を深めていくようになるのだという。事実、劇場を後にする女性客の表情には、多少の戸惑いを感じつつも、その底知れない魅力に触れたすがすがしさに満ちあふれているのだ。 IMGP3977.jpg ■ヒラメの養殖が面白くなりすぎて  映画人としての曽根氏の話は尽きない。ただこちらは、冒頭で紹介した倉田氏の『曽根中生 過激にして愛嬌あり』に譲るとして、少々、興味本位の話題に移ろう。  やはり、筆者が聞きたいのは失踪中の出来事である。多くの業界関係者は、失踪の理由を、映画製作で莫大な借金を抱えたことだと語る。しかし、どうして失踪までしなければならなかったのか。そのあたりは不明瞭なところも多い。 「私自身は、いなくなったつもりはないんです」  曽根氏は、笑いながらそう答えた。会社を作って映画製作に乗り出したが、客の入りが悪く、借金をかぶったのは事実。その返済を考えていたときに転機が訪れた。 「横山やすしさんと大阪で飲んでいたのですが、彼も借金だらけだという。そこで、笹川良一さん(日本船舶振興会会長)に頼んで、競艇の映画を撮らせてもらおうということになったんです」  話はとんとん拍子に進み、映画は完成した。ところが、完成した映画は曽根氏にとって「撮るべき映画ではない」というデキであった。「そんな横道にそれたら、もう映画は撮れない」と、曽根氏は自身を恥じた。 「その時、競艇選手会の会長だった野中和夫さんに、飲み屋で“この映画を誰が見るんだ?こんな映画を作っていていいのか”とボロクソに言われてしまいました」  「もう映画はやめよう」と思った曽根氏は、自分の名前を刻んだ位牌を刻み、葬式を行った。そんな彼に野中氏は「九州でヒラメの養殖をやらないか」と、声をかけたのだ。 「それで、養殖を始めたら面白くなっちゃったんです。何しろ、この養殖場の社長が失敗ばかりするんですよ。何度やっても稚魚が死んじゃって、そのたびに野中さんに泣きついて“タマゴを買うからお金をください”と……。もう、熱くなってたんで、東京で私が失踪したってウワサになっているなんて、まったく知らなかった」  結局、養殖はうまくいかなかったが、映画とは違うモノづくりに曽根氏はのめり込んだ。ゴミを処理する機械などの発明に乗り出し、開発には理論も必要だと、九州大学に入学するまでに至ったのである。  今なお曽根氏は、新たな技術開発に熱心だ。最近は、生ゴミを入れるとバクテリアが処理してくれる生ゴミ処理機を実用化するべく力を注いでいる。しかも、この処理機はいま問題になっている福島第一原発の汚染水処理にも役立つと曽根氏は語る。 「汚染水をコンニャクにして、処理機に食べさせちゃえばいいんじゃないかと思っています。ただ、今のままだとコンニャクが足りなくなるので、まずは全国の休耕田にコンニャクを植えるところから始めて……」  生ゴミ処理機の商品名を『カラスも真っ青』にしようと提案したり、次々とアイデアを繰り出す曽根氏。ステージは変わっても、熱さだけは変わらない点に、真似できない人間力を感じた。 (文=昼間たかし/インタビュー=山口夢) <開催中> 曽根中生監督特集上映『ソネ・ラビリンス 曽根中生 過激にして愛嬌あり』 オーディトリウム渋谷 10/5(土)~11(金) <http://a-shibuya.jp/archives/7619

独創的な世界観は健在 松本人志、監督第4作『R100』の評価は?

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(C)吉本興業株式会社
 今週は、漫才コンビ「ダウンタウン」でお笑いの頂点を極め、映画監督としても新たな表現を開拓している松本人志と、美男俳優として人気を博し、監督デビュー作でいきなりオスカーを獲得したロバート・レッドフォード、日米2人の才人による最新作を取り上げたい(いずれも10月5日公開)。  『R100』(R15+)は、2007年のデビュー作『大日本人』以来、2年に1本のペースで長編映画を撮ってきた松本人志による監督第4作。大手家具店に勤務し、家庭では良き父親の片山(大森南朋)は、秘めたマゾ趣味を抑えきれず、謎のクラブ「ボンデージ」に入会する。それ以降、ボンデージ衣装に身を包んだ美女たちが不意に片山の日常に現れ、肉体的、精神的な責めを繰り出す。そのたびに至福のひとときを味わう片山だったが、やがて職場や自宅にまで女たちが出没し、生活を脅かすようになる。    冨永愛から唐突に回し蹴りをくらい、佐藤江梨子には握り寿司を平手で無惨につぶされるなど、さまざまな受難に大森が浮かべる恍惚の表情がたまらない。大地真央、寺島しのぶ、片桐はいりもボンデージ姿の“女王様”に扮し、松尾スズキ、渡部篤郎らが脇を固める。主人公の顔をCGでマンガ的にデフォルメする手法に戸惑うかもしれないが、後半で不条理の傾向を強めていく展開も含め、松本監督流の独創的な世界を楽しみたい。  『ランナウェイ 逃亡者』は、名優ロバート・レッドフォードが『大いなる陰謀』以来5年ぶりの監督・主演で手がけた社会派サスペンス。ベトナム戦争の時代、反戦を訴え連続爆破事件を起こした過激派グループ「ウェザーマン」の主要メンバーは、FBIに指名手配されながらも正体を隠して30年間米国各地で暮らしてきたが、その一人ソラーズ(スーザン・サランドン)が逮捕される。事件の調査を始めた新聞記者シェパード(シャイア・ラブーフ)は、模範的な市民と評判の弁護士が実は主犯格のスローン(レッドフォード)であると突き止め、スクープ記事で驚がくの事実を暴く。スローンは築き上げた生活を捨てて逃亡を開始し、FBIとシェパードに追われながら、ある目的を果たそうとする。  俳優、監督としての輝かしいキャリアはもちろん、若手映画人の発掘育成を主眼とするサンダンス映画祭の主催や、環境保護活動など、社会への積極的なコミットでもよく知られるレッドフォード。表現者として、また個人としても、「人間と社会」にこだわり続ける監督が、実在した反体制組織ウェザーマンを題材に、社会を変えるという理想と現実、過去の行いと向き合うこと、真実の追求といったテーマを盛り込んだ。緊迫感に満ちたダイナミックな逃亡劇と、激情を秘めた静かな対話場面の切り替えも絶妙で、最後まで飽きさせない。リチャード・ジェンキンス、ニック・ノルティ、クリス・クーパー、アナ・ケンドリックと共演陣も豪華だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『R100』作品情報 <http://eiga.com/movie/78690/> 『ランナウェイ 逃亡者』作品情報 <http://eiga.com/movie/78046/>    

『第9地区』ニール・ブロムカンプ監督最新作 SFアクション大作『エリジウム』

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(C) 2011 Columbia TriStar Marketing Group, Inc. All rights reserved.
 今週紹介する新作映画は、未来を舞台にしたハリウッド製SFアクション大作と、実在の死刑囚に取材したノンフィクションに基づく和製犯罪ドラマ。一見印象が大きく異なる2本だが、「格差」「貧困」といった現代の問題を浮き彫りにする社会派作品という共通項もある。  9月20日公開の『エリジウム』は、『第9地区』(09)のニール・ブロムカンプ監督がマット・デイモン主演で描くSFサスペンスアクション。2154年、人類は地表から400キロ上空に浮かぶスペースコロニー「エリジウム」に暮らす富裕層と、スラム化した地球で過酷な労働と生活を強いられる貧困層に二分されていた。スラム暮らしの労働者マックス(デイモン)は、工場の事故で大量の放射線を浴びてしまい、余命5日と宣告される。エリジウムにはどんな病気でも治せる装置があることから、マックスは弱った身体を外骨格型スーツで強化し、エリジウムへ潜入を試みる。  南アフリカ出身のブロムカンプ監督は、かつて悪名高いアパルトヘイト政策をとっていた同国の人種差別を、「人類に隔離され支配されるエイリアン」という構図で風刺した長編デビュー作『第9地区』で高い評価を得た。今作でも、超リッチで高度な医療を享受できる層と、貧しく抑圧される層との格差を、天空のコロニーと地上のスラムという分かりやすいメタファーで描く。作品中に登場する日本刀や手裏剣、武士の甲ちゅうに似たプロテクターなど日本カルチャーからの影響も明らかで、特に木城ゆきと作のSF漫画『銃夢(ガンム)』と世界観がよく似ている点は、海外の映画情報サイトでも指摘されている。ちなみに『銃夢』の映画化権はジェームズ・キャメロンが取得したが、超人的な女戦士が活躍するキャメロン製作のテレビドラマ『ダークエンジェル』でブロムカンプはリードアニメーターを務めており、『銃夢』の存在を知っていても不思議ではない。こうした先行作品からの影響や共通点をマニアックにチェックするもよし、CGで驚くほどリアルに描かれたロボットやエリジウムの景観、スリリングで迫力満点のバトルに感嘆し興奮するもよし。さまざまな楽しみ方ができる娯楽大作だ。  続いて9月21日に封切られる『凶悪』(R15+)は、死刑囚の告発をもとに、雑誌記者が未解決の殺人事件に迫っていくベストセラーノンフィクション『凶悪 ある死刑囚の告発』(新潮45編集部編)を映画化。東京拘置所でヤクザの死刑囚・須藤(ピエール瀧)と面会した雑誌記者の藤井(山田孝之)は、須藤が死刑判決を受けた事件のほかに、3件の殺人に関与しており、すべての首謀者は「先生」と呼ばれる木村(リリー・フランキー)だと告白される。藤井が調査を進めると、やがて恐るべき凶悪事件の真相が明らかになっていく。  多額の借金を抱え家族からも「お荷物」になっている高齢者を預かり、病死などに見せかけて殺し保険金をせしめるという、ある意味究極の「貧困ビジネス」が実在することに驚かされる。取材を通じて「先生」らの凶悪な行為に触れるうち、次第に狂気に感染して変貌する藤井を演じ切った山田孝之が圧巻。藤井の認知症の母親と介護に疲弊する妻(池脇千鶴)のサブストーリーを織り交ぜることで、特殊な凶悪事件とジャーナリストの話にとどめず、多くの人にとって身近で切実な高齢化と介護の問題や、日常に潜む「邪悪な感情」と地続きであることを実感させる。監督は『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(10)の白石和彌。長編2本目にしてこの構成力と演出力、緊張に満ちた語り口と重厚な映像に、今後のさらなる活躍を確信するはずだ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『エリジウム』作品情報 <http://eiga.com/movie/58255/> 『凶悪』作品情報 <http://eiga.com/movie/77879/>

日米“サムライ対決”の勝敗は!?『ウルヴァリン:SAMURAI』『許されざる者』

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(C) 2013 Twentieth Century Fox.
 今週も数多く封切られる新作映画の中で最注目は、ウエスト・ミーツ・イーストな“サムライ対決”! アメコミヒーローが日本を舞台に刀を振り回す敵役と戦うハリウッド製アクションと、オスカーに輝く傑作西部劇を北海道開拓時代の物語としてリメイクした日本映画を紹介したい(いずれも9月13日公開)。  『ウルヴァリン:SAMURAI』は、『X-MEN』シリーズの人気キャラクターを主人公としたスピンオフ作品『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(09)の続編。カナダで隠遁生活を送っていたウルヴァリン(ヒュー・ジャックマン)は、かつて命を救った大物実業家・矢志田に請われて東京を訪れる。重病を患っていた矢志田は、再会を果たした直後に死去。葬儀の会場で孫娘マリコが謎の武装組織に拉致されかけたことから、ウルヴァリンはマリコと共に西日本へ逃れる。だが、矢志田家の内部に潜入していた女ミュータントにより、ウルヴァリンは不老不死を支える驚異的な治癒能力を奪われ、かつてない危機的な状況で敵と対峙する。  本作のハイライトの1つは、矢志田の息子シンゲンに扮する真田広之と、ウルヴァリン役のヒュー・ジャックマンとの真剣勝負。40代半ばながら筋肉隆々の裸上半身をさらすジャックマンと、50代前半で依然衰えないスピーディーな太刀さばきの真田による迫力満点の死闘は、単純な興奮や高揚感だけでなく、さまざまな感慨をも日本人観客にもたらすはず。ウルヴァリンと恋に落ちるマリコ役のTAOと、赤毛で武闘派のユキオに扮した福島リラは、共にモデル出身だが重要なキャラクターを魅力的に演じ、今後のさらなる活躍が期待される。監督は『“アイデンティティー”』(03)、『ナイト&デイ』(10)のジェームズ・マンゴールド。新宿駅や上野駅、増上寺といった日本の見慣れた風景の中にアメコミヒーローが存在しているという微妙な違和感や、外国映画にありがちな「ニッポンの変な描写」も含め、大いに興奮し随所で笑える娯楽作だ。  もう1本の『許されざる者』は、クリント・イーストウッド監督・主演で第65回米アカデミー賞で、作品賞など4部門を受賞した西部劇『許されざる者』(92)を、『悪人』の李相日監督がリメイクした作品。江戸時代末、幕府軍最下層の兵士として大勢の志士を斬りまくり「人斬り十兵衛」と恐れられた男(渡辺謙)が、幕府崩壊後の明治初期に北海道へ逃れ、人里離れた土地で細々と暮らしていた。亡き妻に「二度と人は殺さない」と誓った十兵衛だが、2人の子どもを養えないほどの貧困に追いつめられ、不良開拓民に懸けられた賞金を稼ぐため再び刀を手にする。  オリジナルが持つ骨太なエッセンスをそのままに、北海道の雄大な景観、明治初期の開拓時代、辺境地に落ち延びたかつての人斬り侍、先住民と開拓民との関係といった要素で見事に再構築したリメイク作。罪の重みに耐える男の佇まいから、怒りと痛みと悲しみを鬼気迫る表情で演じた終盤の大立ち回りまで、渡辺謙による重厚で味わい深い演技が絶品だ。柄本明、佐藤浩市、柳楽優弥ら共演陣も、コントラストの効いたアンサンブルで物語を盛り上げる。オープンセットが建てられた大雪山山麓の美しく広大な自然、水平方向の被写体配置を強調した構図など、ぜひ大スクリーンでその魅力をたっぷり味わっていただきたい。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ウルヴァリン:SAMURAI』作品情報 <http://eiga.com/movie/77469/> 『許されざる者』作品情報 <http://eiga.com/movie/77402/>

謎めいた美女は悲劇のヒロインか悪女か ヒッチコック風サスペンス『サイド・エフェクト』

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(C) 2012 Happy Pill Productions.
 今週紹介する最新映画は、伝統的な様式をベースに新たな着想と現代的なセンスを加味して才気あふれる作品に仕上がった洋画2本。映画の楽しさと可能性をあらためて教えてくれる傑作たちだ。  9月6日に封切られる『サイド・エフェクト』(R15+)は、社会問題に切り込む硬派な作品から豪華スター競演の娯楽大作まで、多彩な話題作を送り出してきたスティーブン・ソダーバーグ監督が、自身の“最後の劇場映画”として挑んだヒッチコック風サスペンス。若妻のエミリー(ルーニー・マーラ)は、金融マンの夫マーティン(チャニング・テイタム)がインサイダー取引で収監された4年の間に、かつて患ったうつ病を再発させる。精神科医のバンクス(ジュード・ロウ)が処方した新薬により、エミリーはうつ症状を改善させるが、副作用で夢遊病を発症。出所して再び一緒に暮らし始めたマーティンを、意識がもうろうとした状態で刺殺してしまう。主治医としての責任を問われ、仕事も家族も失う危機に直面したバンクスは、問題の新薬を独自に調べ始める。  悲劇のヒロインか男を破滅させるファム・ファタールか、謎めいた美女をルーニー・マーラが迫真の演技で表現。『ドラゴン・タトゥーの女』(11)の女ハッカー役に続いてスレンダーな肢体を大胆に披露し、美しくも危険な魅力を放っている。ソダーバーグ監督は、精神疾患と司法制度、製薬会社と医師をめぐるカネ、株の不正取引などさまざまな現代の問題を盛り込みつつ、緻密に伏線を張って一級のサスペンスに組み立てた。登場人物らの言動が、意図しない副作用(サイド・エフェクト)を起こして予想外の事態につながっていくさまを、リアルさを重視した映像とともに楽しみたい。  続いて9月7日公開の『アップサイドダウン 重力の恋人』は、ジム・スタージェス、キルステン・ダンスト主演で描くSFラブストーリー。真反対に引力が作用する双子惑星で、貧困層の住む「下の世界」の少年アダムは、富裕層が暮らす「上の世界」の少女エデンに恋をする。両世界の交流を禁じる法を破った2人は警備隊に見つかり、アダムの家は焼き払われ、エデンは逃げる際の事故で記憶喪失になってしまう。それから10年後、アダムは両世界を唯一つなぐ「トランスワールド社」に就職し、上の世界に潜入してエデンとの再会を試みる。  メガホンをとったフアン・ソラナス監督は、カンヌ映画祭で監督賞を受賞したアルゼンチンの巨匠フェルナンド・E・ソラナスを父に持ち、長編映画はこれが2作目となる新鋭。夢で見たという逆さまに向き合う男女のビジュアルを出発点に、『ロミオとジュリエット』から連綿と続く格差恋愛物語のSFファンタジー版といった趣の脚本を書き起こし、オリジナリティあふれる世界観を驚異的な映像で表現した。トランスワールド社の上下シンメトリックにデスクが並び天井側にも社員が逆さまに行き来する圧倒的なオフィスの光景や、2人が逢瀬を重ねる山頂で逆さまにキスするファンタジックで詩的なシーンなど、二重の引力という設定から生まれるユニークでインパクト大の場面の数々に息をのみ、想像をかきたてられる。逆さまの男女が織りなすラブストーリーという点は、11月に公開される日本のアニメ映画『サカサマのパテマ』にも共通しており、こうした特殊な設定の映画がほぼ同時期に製作されるというシンクロニシティの不思議も感じつつ、両作品を見比べるのも一興だろう。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『サイド・エフェクト』作品情報 <http://eiga.com/movie/77977/> 『アップサイドダウン 重力の恋人』作品情報 <http://eiga.com/movie/78215/>

「もはやガッチャマンではない、別の何か」実写版『ガッチャマン』興収1億1,570万円で大コケ確定か

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映画『ガッチャマン』公式サイトより
 24日に公開された映画『ガッチャマン』に、大コケの予感が漂っているという。  同作は、1974年まで放送されたタツノコプロ原作の人気アニメ『科学忍者隊ガッチャマン』(フジテレビ系)の実写化。わずか17日で地球の半分を占領した謎の組織・ギャラクターに、究極の兵器「ガッチャマン」に変身した5人が立ち向かう物語だ。  企画・製作に日本テレビ放送網が携わっているため、公開前からテレビを中心に大々的にプロモーションを展開。メインキャストの松坂桃李、綾野剛、剛力彩芽、濱田龍臣、鈴木亮平らもインタビューに舞台挨拶にとフル稼働であった。  しかしフタを開けてみると、公開日から2日間で興収1億1,570万円(全国週末興行成績・興行通信社)と伸びず。CG制作に数億円を投入しているとも言われており、早くも大赤字の可能性が指摘されている。  また、劇場へ足を運んだ観客の評価も、総じてよくないようだ。  「映像や音楽は素晴らしかった」「キャストは悪くない」「アクションはいい」「松坂くんと綾野くんがかっこいい~」といった感想もあるが、「とにかく脚本が残念」「中盤で寝てしまった」「テレビ畑のスタッフが作った感、丸出し」「コメディーなんだか、シリアスなんだか最後まで分からなかった」という酷評が圧倒的。どうやら脚本に問題がありそうだ。  また、「原作へのリスペクトがみじんも感じられない」「原作ファンは、マジで見に行かないほうがいい」「ガッチャマンではない、別の何か」という声も多いため、これから見に行く予定の人は、原作のイメージを取っ払ったほうが安全のようだ。  しかし、「子どもと一緒に行く人はいいと思う」「日曜朝にやってるテレビの戦隊物と変わらない」「予告編を見て大人向けかと思いきや、完全に子ども向け映画だった」という意見も目立つため、子どもは楽しめるのかもしれない。 「宣伝の仕方が失敗でしたね。CMや予告編映像を見る限り、大人向けのシリアスな作品だという誤解を招く。実際は、ベタなセリフや幼稚なギャグも多く、中途半端な世界観がタツノコファンの怒りを買っています。  紀里谷和明監督の『CASSHERN』のようにシリアスに作るか、三池崇史監督の『ヤッターマン』のようにコメディータッチにするか、どちらかに振ったほうがよかった。映画『HK/変態仮面』で海外でも高い評価を得ている鈴木亮平をはじめ、いい役者も出ているだけに、もったいない」(映画サイト編集者)  宣伝が派手だっただけに、おサムい空気が漂っている同作。酷評の嵐に「逆に見たくなった」という人も続出しているため、まだ起死回生の可能性もある……か?

往年のファンもうならせる驚愕の展開!『スター・トレック イントゥ・ダークネス』

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Photo credit: Zade Rosenthal
(C) 2013 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
 夏休み映画の公開もいよいよ大詰めだが、アトラクション感覚の3Dムービーの封切りはまだまだ続く。今週の当コーナーでは、ハリウッドの才能と技術を結集したスペースアドベンチャー超大作と、比較的低予算ながらB級映画のよくあるプロットをテンコ盛りにした意欲作という、好対照な3D映画2作品を紹介したい。  『スター・トレック イントゥ・ダークネス』(8月23日公開、2D/3D)は、60年代からテレビドラマと映画で根強い人気を集めてきたSFシリーズのリブート作『スター・トレック』の続編。西暦2259年、宇宙船USSエンタープライズを率いる若きカーク船長(クリス・パイン)は、惑星調査中に陥った危機からスポック副長(ザッカリー・クイント)を救うため重大な規則違反を犯し、艦長職を解任されてしまう。その頃、ロンドンの艦隊基地が爆破され、犯人は艦隊士官のハリソン(ベネディクト・カンバーバッチ)と判明。捕獲の命を受けエンタープライズで旅立つカークらに、ハリソンが仕掛ける冷酷な罠が待ち受けていた。  監督は前作に引き続きJ・J・エイブラムス。スティーブン・スピルバーグ製作の『SUPER 8 スーパーエイト』でメガホンをとり、『スター・ウォーズ』の新シリーズ監督をジョージ・ルーカスから委ねられたエイブラムス監督は、いまや2人の巨匠のみならずハリウッドから最も信頼されるSFアクション分野のヒットメーカー。カークとスポックを中心とする若きクルーたちの成長と絆のドラマや、強敵との手に汗握る攻防を、3DとIMAX撮影に最新の視覚効果を織り交ぜてダイナミックかつ情感豊かに描き出した。クルーを演じるゾーイ・サルダナ、サイモン・ペッグ、アントン・イェルチンらの続投もうれしいが、英俳優ベネディクト・カンバーバッチがメインキャスト陣を圧倒するほどの存在感で敵役ハリソンを熱演。対決の結末は明かせないが、往年のファンもうならせる驚愕の展開が待っている。前作を未見の方は、事前にDVDなどで鑑賞しておくと一層楽しめるはず。そして可能であれば、IMAX 3D版の上映館で迫力の映像を堪能していただきたい。  続いて8月24日公開の『パニック・マーケット3D』(R15+)は、オーストラリアとシンガポールの合作としては初の3D映画。オーストラリアの海岸でライフセーバーの仕事をしていたジョシュは、婚約者ティナの兄が自分の代わりに沖に出た時サメに食い殺されてしまったことで、ティナとも別れてしまう。1年後、海岸近くのスーパーマーケットで無気力に働いていたジョシュは、店内で偶然ティナと再会。それもつかの間、銃を持った強盗が発砲して1人の女性を射殺し、ティナを人質に取る。店内がパニックに陥った次の瞬間、津波が沿岸部に押し寄せ、半地下のスーパーのフロアに大量の海水が流れ込む。押し流されたトラックに入口をふさがれ閉じこめられた十数人に、津波とともに入り込んだ巨大人食いザメが襲いかかる。  人食いザメをはじめ、洪水、強盗殺人犯、高圧電線といった具合に、B級ホラーやサバイバルパニック系の「あるある」を寄せ集めた“見本市"的な一本。とはいえ、オリンピックサイズのプールにスーパーのセットを作って数千トンの水を流し込むというアイデアが奏功し、売り場フロアと地下駐車場の2面で展開するストーリー構成も相まって、こうしたジャンル映画のファンならそこそこ楽しめる出来に。『エクリプス トワイライト・サーガ』のゼイビア・サミュエル、『ステップ・アップ3』のシャーニ・ビンソン、『ファンタスティック・フォー』シリーズのジュリアン・マクマホンなど、それなりに知られた俳優陣も出演。宣伝文句によると中国では「アバター」を超えて2012年の興行収入ランキング1位に輝いたというが、過剰に期待せず、絶叫マシンやお化け屋敷の感覚で気軽に楽しむのがよさそうだ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『スター・トレック イントゥ・ダークネス』作品情報 <http://eiga.com/movie/55158/> 『パニック・マーケット3D』作品情報 <http://eiga.com/movie/58043/>

「それってネタバレじゃ……」『風立ちぬ』タバコ描写問題で、日本禁煙学会に映画界からブーイングの声

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『風立ちぬ』公式サイトより
 大ヒット中の映画『風立ちぬ』の中で頻出する登場人物たちの“喫煙シーン”に、NPO法人「日本禁煙学会」が要望書を出した問題が波紋を広げている。  12日、日本禁煙学会は『映画「風立ちぬ」でのタバコの扱いについて(要望)』という文章を公開。同文書を製作担当者に提出したことを明かした。文書では「教室での喫煙場面、職場で上司を含め職員の多くが喫煙している場面、高級リゾートホテルのレストラン内での喫煙場面など、数え上げれば枚挙にいとまがありません」などとし、同作品が“タバコ広告にあたる”として「タバコ規制枠組み条約」13条違反、また「学生が『タバコくれ』と友人にタバコをもらう場面などは未成年者の喫煙を助長」しているとして「未成年者喫煙禁止法」にも抵触するおそれがあると指弾している。  これを受けて、ネット上では賛否の意見が噴出。掲示板などでは大きな議論を呼んでいるが、映画関係者からは「この要望書そのものがマナー違反だ」という声が聞こえている。 「要望書の中で『肺結核で伏している妻の手を握りながらの喫煙描写は問題』と言っていますが、このシーンで主人公は、妻の手を握りながら喫煙をするかしないかを逡巡するんです。映画は“吸うか・吸わないか”を迷う人物を描写しているのに、この要望書が広まったおかげで、観客は“吸う”ことを事前に知ってしまう。公開中の映画の、クライマックスに近い時間帯での、非常に重要な葛藤が描かれている大切なシーンですよ。その結末を軽々しくネタバレさせるような人たちに、喫煙マナーなんかを語る資格があるんですかね。これから劇場に足を運んでくれるお客さんに失礼ですよ」(映画製作会社関係者)  要望書は「映画制作にあたってはタバコの扱いについて、特段の留意をされますことを心より要望いたします」と締められているが、禁煙学会側にも、要望にあたっては特段の留意が必要だったかもしれない。

エメリッヒ監督がまたまホワイトハウスをぶっ壊す!『ホワイトハウス・ダウン』

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配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 
 今週紹介する新作映画2作品はいずれも、命を賭して大切なものを守ろうと奮闘する男たちを描くハリウッド製アクション。ただし、片やド派手な破壊シーンが満載の娯楽活劇、他方はリアルな描写を積み上げる骨太のドラマと好対照で、見比べるのも一興だ。  8月16日公開の『ホワイトハウス・ダウン』は、ディザスタームービーの巨匠で“破壊王”の異名を持つローランド・エメリッヒ監督が、アメリカを象徴する建物である米大統領官邸を本格的にブチ壊すアクション大作。議会警察官のジョン(チャニング・テイタム)は、大統領(ジェイミー・フォックス)のシークレットサービスになるため面接試験を受けるが、不採用に。その足で幼い娘とホワイトハウス見学ツアーに参加したところ、運悪く謎の武装集団による襲撃に遭遇してしまう。ホワイトハウスが破壊され占拠されるという極限状況で、ジョンは大統領と娘、そしてアメリカの命運をかけた戦いに身を投じる。  『インデペンデンス・デイ』(96)、『2012』(09)といった過去作でもホワイトハウスを一瞬で壊滅させてきたエメリッヒ監督だが、本作では物語の舞台を同官邸に据え、敵味方のバトルでじわじわと破壊されていく様子をたっぷりと描く。ダンサーの経歴を持ち運動神経抜群のチャニング・テイタムが、迫真のファイトシーンを熱演。大統領がスニーカーをはいた足で敵に蹴りを入れて攻撃したり、大統領の安否が不明なのに死んだと見なして軍がホワイトハウスを攻撃するなど、トンデモな描写もエメリッヒ監督ならでは。6月に公開されたジェラルド・バトラー主演の『エンド・オブ・ホワイトハウス』とストーリー設定がよく似ており、興行成績、評価でどちらに軍配が上がるかも気になるところだ。  続いて8月17日に封切られる『エンド・オブ・ウォッチ』は、ロサンゼルスの犯罪多発地区を舞台に、巡査たちの死と隣り合わせの日常と友情をリアルに描くポリスアクション。恋人ジャネット(アナ・ケンドリック)との結婚を考えている白人巡査テイラー(ジェイク・ギレンホール)と、相棒のメキシコ系巡査ザバラ(マイケル・ペーニャ)は、LAで最も治安の悪いサウスセントラル地区を担当し、日々体を張って職務をこなしている。パトロール中に思いがけずメキシコ麻薬カルテルの秘密に触れた2人は、カルテルから暗殺指令を受けたギャングたちに命を狙われるようになる。  監督は、10代をサウスセントラル地区で過ごし、キアヌ・リーブス主演の刑事ドラマ『フェイク シティ ある男のルール』でもメガホンをとったデビッド・エアー。テイラーが課題の映像制作のため、勤務中にビデオカメラを携帯してパトロール現場を撮影しているという設定が活かされ、記録ビデオの映像が適宜挿入されることで、犯罪が発生する現場や容疑者逮捕の瞬間を至近距離から目撃しているかのよう。緊迫したシーンや殺伐とした描写が続くが、恋人や家族とのやり取りなど和ませる場面も。テイラーとザバラの他愛ない会話と熱い絆、衝撃的な終盤も含め、リアルさに徹底してこだわった力作だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ホワイトハウス・ダウン』作品情報 <http://eiga.com/movie/58261/> 『エンド・オブ・ウォッチ』作品情報 <http://eiga.com/movie/77535/>

まるで『ジョジョ』のスタンド使い!? 異色カンフーアクション『アイアン・フィスト』

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(C)2012 Universal Pictures
 今週紹介する新作映画は、西部劇とカンフーというややレトロな形式をそれぞれベースにしながら、斬新なセンスを加味することで現代的なエンタテインメントに仕上がった痛快アクション2作品だ。  8月2日公開の『ローン・レンジャー』は、1950年代にテレビドラマが日本でも放映されるなど世界的な人気を博した往年の西部劇ヒーローを、ジョニー・デップと『ソーシャル・ネットワーク』(2010)のアーミー・ハマーの主演で新たに映画化したアクション大作。アメリカ先住民コマンチ族のミステリアスな男トント(デップ)は、復讐という悲願を果たすため、悪党一味の待ち伏せ攻撃で瀕死の重傷を負った郡検事ジョン(ハマー)を聖なる力でよみがえらせる。ジョンは黒いマスクで素性を隠し、白馬シルバーにまたがってローン・レンジャーとなり、トントとともに巨悪に立ち向かう。  トント役のジョニー・デップに、監督ゴア・ヴァービンスキー、製作ジェリー・ブラッカイマーと『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのチームが再結集。西部開拓時代のテキサスを舞台に、白塗りメイクにカラスの死骸を頭に乗せた先住民と、法に基づく正義を追求する堅物の白人レンジャーという、異色のコンビがぶつかり合いながら悪党どもを小気味よくやっつける冒険活劇を作り上げた。ちょっとした表情や動作の演技で爆笑を呼ぶデップと、真面目であるがゆえにデップとのやりとりが意外なおかしみを生むハマー、2人の「バディっぷり」が最高だ。暴走する列車を巧みに使ったスピード感あふれるアクションシーンでは、ブラッカイマー組らしい派手さだけでなく、CG合成などの特殊効果を極力意識させないリアルさへのこだわりも感じさせる。テンポ良い最近のアクションを好む若い層から往年の西部劇ファンまで、幅広い世代に支持されそうな娯楽作だ。  続いて8月3日に封切られる『アイアン・フィスト』(R15+)は、ヒップホップ・アーティストで俳優としても活躍するRZAが、クエンティン・タランティーノによるサポート、イーライ・ロスの脚本参加を受けて、監督・主演・脚本・音楽の4役に挑んだ異色カンフーアクション。19世紀中国のとある宿場町で、名もない鍛冶屋(RZA)は、武装組織の抗争に巻き込まれて両腕を切り落とされてしまう。自ら作った鉄製の義手を装着した鍛冶屋は、アイアン・フィストとなって復讐の闘いに立ち上がる。  全身に刀を仕込んだ若き武術家(リック・ユーン)、密命を帯びた不良役人(ラッセル・クロウ)、全身を真ちゅうに変える特殊能力を備えた殺し屋(デヴィッド・バウティスタ)、美しい装いの中に高い武闘能力を秘めた娼館の女主人(ルーシー・リュー)ら、キャラの立った敵味方が入り乱れて、目まぐるしい肉弾戦を繰り広げる。ワイヤーを駆使した空中戦に加え、怪人が瞬時に身体を金属化させたり、拳法の達人が奥義で龍を出現させたりするシーンに至っては、傑作漫画『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの“スタンド使い”を連想させるほど。タランティーノ組の流れを汲む、バカバカしいほどの荒唐無稽さが逆にカッコいいバトルを、ぜひ多くのアクションファンに満喫していただきたい。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ローン・レンジャー』作品情報 <http://eiga.com/movie/54517/> 『アイアン・フィスト』作品情報 <http://eiga.com/movie/77759/>