今週取り上げる新作映画は、若き日の心のありようと成長の過程をユーモラスに、またフレッシュに描いた邦画と洋画の2本。登場人物が体験する日常やハプニングは、今まさに青春進行中の若者世代と青春の日々を懐かしむ世代、両方に広く共感を呼びそうだ。 『もらとりあむタマ子』(11月23日公開)は、元AKB48の前田敦子がダメダメなぐうたら女子を演じ、女優としての新境地を切り拓いたドラマ。東京の大学を出たものの就職せず、甲府の実家に戻ってきた23歳のタマ子(前田)。スポーツ店を営み、妻と離婚した父・善次(康すおん)に食事の支度も洗濯もさせ、食う、寝る、テレビ、漫画の自堕落な毎日を過ごす。それでも季節はめぐり、タマ子にも少しずつ変化が訪れる。 監督は、『苦役列車』(12)でも前田とタッグを組んだ山下敦弘。『リアリズムの宿』(03)や『リンダ リンダ リンダ』(05)など、社会や周囲に馴染めない若者が自分なりに生き方を模索する姿を優しいまなざしで捉えてきたが、そうしたスタンスは本作でも貫かれている。テレビを見て「ダメだな、日本は」と毒づくタマ子と、「ダメなのはお前だ!」と返す父の掛け合いが楽しい。人生のモラトリアム=猶予期間に、ささやかなきっかけを得て前に進もうとする主人公を見守るうち、自然と「自分も、もうちょっと頑張ってみようかな」という気持ちになるはず。 『ウォールフラワー』(公開中)は、『ライ麦畑でつかまえて』の再来と絶賛されたベストセラー小説を、原作者のスティーブン・チョボスキーが自ら監督・脚本を手がけて映画化した青春ドラマ。16歳で小説家志望のチャーリー(ローガン・ラーマン)は、高校入学と同時にスクールカースト最下層に位置付けられてしまう。友達もなく、壁の花=ウォールフラワーのように片隅で孤独に毎日をやり過ごしていたが、陽気な問題児パトリック(エズラ・ミラー)とその義妹で美しく奔放なサム(エマ・ワトソン)に出会い、高校生活が一気に好転。チャーリーは初めて友情や恋を知るが、仲間内のトラブルと過去のつらい思い出を機に、暗い影が3人に忍び寄る。 『ハリー・ポッター』シリーズのハーマイオニーがすっかり大人っぽくなっちゃって、と思わず親戚気分になるほど、エマ・ワトソンも青春映画が似合う年頃になった。こんな子が仲良くしてくれたらどんな男子でも恋に落ちるよね、と納得のキラキラした魅力。『三銃士 王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』(11)のラーマン、『少年は残酷な弓を射る』(11)のミラーとの相性もバッチリだ。時代設定の90年代に人気を博した英国バンド、ザ・スミスのナイーブだが気高く美しい楽曲が、登場人物らの心情に寄り添うように流れる。同じくスクールカーストを扱った『桐島、部活やめるってよ』(12)とは、外れ者の文系オタクが他者の観察と創作を通じて成長していく姿を描いた点でも共通しており、見比べるのも一興だろう。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『もらとりあむタマ子』作品情報 <http://eiga.com/movie/79100/> 『ウォールフラワー』作品情報 <http://eiga.com/movie/77670/>(c)2013『もらとりあむタマ子』製作委員会 配給:ビターズ・エンド
「映画」カテゴリーアーカイブ
純真なペネロペと妖艶なキャメロンが好対照! 豪華キャスト競演の心理サスペンス『悪の法則』
秋の豊作が続く最新映画の中から、今週はコッテリ系の洋画2本と、アッサリ風味の邦画を取り上げたい。嗜好にベストマッチの一品を堪能するもよし、異なる味わいを比べるのももちろんOKだ。 『悪の法則』(11月15日公開、R15+)は、巨匠リドリー・スコット監督が豪華キャストで描くサスペンス。ハンサムで有能な弁護士カウンセラー(マイケル・ファスベンダー)は、美しい婚約者ローラ(ペネロペ・クルス)との未来のため、裏社会のビジネスに手を染める。レストランを経営するライナー(ハビエル・バルデム)とその女(キャメロン・ディアス)、ブローカーのウェストリー(ブラッド・ピット)と組んだカウンセラーは、ある誤解からメキシコ人組織に狙われるようになり、周囲にも危険が及んでゆく。 純真なクルスと妖艶なディアス、セクシュアルな美女2人が好対照。殺しの過程をスタイリッシュかつ緊迫感たっぷりに描く映像センスは、スコット監督の健在ぶりを印象づける。虚飾に満ちたセレブの生活が「悪の法則」に支配され、じわじわと闇の世界に覆われてゆくさまに、ずっしり重い衝撃を受けることだろう。 『マラヴィータ』(11月15日公開)は、主演ロバート・デ・ニーロ、製作総指揮マーティン・スコセッシ、監督リュック・ベッソンというビッグネームが組んだ痛快エンタテインメント。FBIの証人保護プログラムを適用され、米ニューヨークからフランス・ノルマンディー地方の田舎町に移り住んだブレイク一家。元マフィアの主フレッド(デ・ニーロ)をはじめ、妻マギー(ミシェル・ファイファー)、高校に通う娘と息子の4人は、町に溶け込もうとするものの次々とトラブルを巻き起こす。やがて、フレッドを恨むマフィアのドンが居場所を突き止め、殺し屋集団を送り込んでくる。 マフィア映画へのオマージュをたっぷり詰めこんだコミカルな快作。フレッドがゲストで招かれた映画上映会で、スコセッシ監督、デ・ニーロ主演の『グッドフェローズ』(90)が上映されるという「遊び」も楽しい。TVシリーズ『glee』のチアリーダー役で一躍有名になったディアナ・アグロン、ブレイク家を監視するFBI捜査官役のトミー・リー・ジョーンズも、それぞれいい味を出している。イタリア系マフィアを描きアメリカで確立したマフィア映画というジャンルに、フレンチのセンスを添えて仕上げた逸品をご賞味あれ。 『四十九日のレシピ』(公開中)は、伊吹有喜のロングセラー小説を『百万円と苦虫女』のタナダユキ監督が映画化した感動ドラマ。妻の乙美を亡くし生きる気力を失っていた良平(石橋蓮司)のもとに、夫の不倫で離婚を決意した娘・百合子(永作博美)が戻ってくる。そんな2人のペースを乱すかのように、元風俗嬢のイモ(二階堂ふみ)が登場。イモは更生施設で世話になった乙美から、楽しく飲み食いする「四十九日の大宴会」を頼まれたと言う。初めは却下した百合子だったが、良平が一転乗り気になったことで、母が遺したレシピに向き合い、大宴会の準備に取りかかる。 故人の一風変わった遺志と、愛情のこもったレシピによって、家族とゆかりの若者らが集い、それぞれの心の傷と折り合いをつけてゆく過程が丁寧に描かれる。抑えた感情の微妙な変化を表現した、永作の演技が味わい深い。滋味が伝わってきそうな料理、せせらぎの音を強調した川など、繊細に構成された映像に癒される。生と死、再生の意味を優しく問いかけてくる作品だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『悪の法則』作品情報 <http://eiga.com/movie/78963/> 『マラヴィータ』作品情報 <http://eiga.com/movie/78589/> 『四十九日のレシピ』作品情報 <http://eiga.com/movie/77745/>(C) 2013 Twentieth Century Fox Film Corporation
“反短パン”でパンクスだったボクが見た、ハイスタ・横山健のドキュメンタリー『横山健 疾風勁草編』
イカ天、ホコ天などをきっかけとした1980年代後半のバンドブーム。この頃から「自主制作」のことを「インディーズ」なんて呼ぶようになり、ライブハウスなどで活動していたバンドたちが突如として脚光を浴びることとなった。結果、多くのバンドがメジャーのレコード会社と契約しドカーンと売れたものの、ブームの渦に翻弄されまくった挙げ句、そのほとんどが使い捨て状態にされて、解散していってしまったのだ。 で、そんなバンドブームの終焉と時を同じくした1991年に結成されたのが「Hi-STANDARD」。 ブームの反動で「バンド冬の時代」なんて呼ばれていた時期に結成したハイスタは、80年代バンドブームの反省を生かした……というわけではないんだろうけど、うまーくメジャーを利用しつつも、本当の意味でのインディペンデントな活動にこだわり、自分たちのレーベルからリリースしたアルバムでミリオン・ヒットを飛ばしたり、自ら企画した大規模フェス「AIR JAM」を成功させたり、国内・海外をボーダーレスに活動したり。(C)PIZZA OF DEATH RECORDS 2013
右も左も分からないバンドマンたちが、業界の大人たちにいいように食い物にされた感のある80年代バンドブームのバンドたちと比べ、非常にクレバーに立ち回り、格好よく活動していたという印象がある。現在につながる日本インディーズシーンの基礎は、やはりこの頃のハイスタやその周辺のバンドたちが作ったといえるんでしょうねぇ。 まあとにかく、当時の勢いと人気はすさまじくて、ライブハウスに行けばみんな「PIZZA OF DEATH」(ハイスタのレーベル)のTシャツを着ていたし、学祭ではハイスタやメロコアのコピーバンドばっかり。あの頃に青春を送った人たちにとって「ハイスタ」「AIR JAM」というのは、今でもグッときてしまうワードなんじゃないだろうか。 ちなみにボクも年齢的には思いっきり「AIR JAM世代」、しかもその時期にライブハウスやパンクシーン周辺を頻繁にウロウロしていたのだが、「基本的に売れてるヤツらは気にくわない」というあまのじゃくな性格が災いし、ハイスタやメロコア周辺とはちょいと距離を置いていて、むしろ「短パンでパンクやるな!」とか思っていたのでした。 それでも、ハイスタの音や動向はちょいちょい耳に入ってくるし、パンクシーン全体を牽引する存在として、やっぱり気にはなっていたんだけどね。 そんな、なんだかんだで気になってしまう存在であるHi-STANDARDのギタリストであり、現在では「Ken Yokoyama」名義でソロ活動も行っている横山健を追ったドキュメンタリー映画『横山健 疾風勁草編』が、11月16日から全国60劇場にて 1週間限定で公開される。 ミュージシャンやアーティストのドキュメンタリー映画って、まあ基本的にはそのミュージシャンのファンが見るもの。「ファンならずとも必見!」なーんてうたわれていても、思い入れがない人が見ても、やっぱりピンとこないというものがほとんど。 要はこの記事、そんな横山健のドキュメンタリー映画を「反短パン」だったボクが見たらどう思うのか……というハナシなんですが、そんなボクがまず感じたのは横山健との距離の近さ。 この手のドキュメンタリー映画って、大体フォーマットが決まってるもんで、本人へのインタビューはもちろん、ライブシーンやオフショット、さらにはスタッフや周辺の関係者など多数の人たちからの話をうまいことまとめて、多角的な視点からミュージシャンの姿を浮かび上がらせる……的な。
そういう意味で本作はドキュメンタリー映画というよりも、「長~いひとり語りの記録」なのだ。ライブやオフショットなどももちろん入ってはくるものの、基本的にはその映像に乗せて、自身の生い立ちからハイスタ結成~活動休止、そしてソロ活動まで横山健が延々としゃべりまくり。 ハイスタを中心とした、当時のパンク・メロコアシーンについてのインタビューとしてもなかなか興味深い内容ではあるのだが、そこにほかのメンバーや当時のバンドマン、スタッフたちの語りはほとんど入り込むことなく、モロに横山健目線で、メチャクチャ主観的な意見が語られていく。 中でもハイスタの活動停止から、その後のメンバーとの関係性などは、本人にとってもまだうまいこと整理がつけられていない事柄なのか、悩み考えながら慎重に言葉を発していて、その姿には見ていて苦しくなるようなリアリティがある。 「アルバムの原盤の所有権でモメてる」とか「メチャクチャ仲が悪いらしい」など、“ハイスタ活動休止&再結成できない理由”についてはネット上でさまざまなウワサが流れていたが、その辺のことに関しても、具体的ではないまでも、とにかくいろいろとこじれている感じが語られており、あの時点では本人たちも、そしてファンたちすらも「ハイスタ、再結成してほしいけど、まあしねーんだろうな」と考えていたのではないだろうか。 そんな時に起こったのが、3.11の東日本大震災。
当時、エンタテインメントに関わる仕事をしている人たちがみんな陥った「果たしてこんな時に、音楽や映画が必要なのか!?」という自問自答に、横山も向き合うことになる。その結果、さまざまな事柄が急展開し、復興支援や反原発を訴えていくため「一番影響力のある方法」として、まさかのHi-STANDARDが再始動。さらには2011年に横浜で、2012年に東北で復活・AIR JAMを開催することになる。
で、普通のドキュメンタリー映画だったらコレで「再結成バンザーイ!」「復興に向けて団結して頑張ってくぞ!」みたいな形で終わるのがキレイなんだろうけど、ここでもやはり横山は悩み考えてしまうのだ。
ライブやコラムなどでも「オレの曲を聴いて、そのまま受け入れるんじゃなくて考えろ!」「考えた結果、オレとは180度違う考えにたどり着いたとしても、それはそれでオッケーだと思う」などとリスナーに「考える」ことを訴えかけている横山だが、この映画でもまた答えを提示するのではなく、横山健と一緒に「考える」ことを強要される。
だって、震災からの復興も、原発も、そしてハイスタやAIR JAMの未来にだって、誰もキレイに答えなんて出せてないんだもん。
そこで、うまいこと映画としての答えを出さず、泥くさくアレコレ考えている姿をそのまんま見せつけたこのドキュメンタリーは、見ていてモヤモヤさせられ、そしていろいろと考えずにはいられなくなるのだ。
まあ横山健の「こんなにいろいろ考えて悩んでる人、一緒に仕事とかしたらめんどくさそうだなぁ~」……という感じもガンガン伝わってきたんだけど、とりあえず映画館の暗闇の中、メチャクチャ距離感近く語りかけてくる横山健とともにモヤモヤウダウダ考えていく、という映画体験はなかなか貴重な時間だった。
ちなみにタイトルに入っている、意味どころか、なんて読むのかもよく分からない「疾風勁草(しっぷうけいそう)」という言葉だが、インターネッツで調べたところ「苦境や厳しい試練にあるとき、初めて意志や節操が堅固な人であることが分かるたとえ」とのこと。ああーっ、横山健ってそんな感じ!
(文=北村ヂン)
●『横山健 疾風勁草編』
監督:MINORxU 出演:横山健 企画・制作:PIZZA OF DEATH RECORDS 配給:KDDI「Live'Spot」 上映時間:117分 上映劇場数:60館
(C)PIZZA OF DEATH RECORDS 2013
11月16日(土)~11月22日(金)1週間限定ロードショー
<http://livespot.jp/lv/detail/kenyokoyama.html>
●初日舞台挨拶
・日程:2013年11月16日(土)19時~
・会場:ユナイテッド・シネマ豊洲
最新情報はLive’Spotサイトにて
37年前の名作ホラーを、クロエ・グレース・モレッツでリメイク『キャリー』
今週紹介する新作映画は、亡き織田信長の後継者を決めた有名な会議を豪華出演陣でユーモラスに描く時代劇と、少女の超能力がもたらす惨劇を描いた名作ホラーの37年ぶりのリメイク。題材は古くとも、旬のキャストとフレッシュな演出で現代の観客を楽しませてくれる2作品だ。 11月9日公開の『清須会議』は、三谷幸喜が原作、脚本、監督を務め、会議を主要な舞台とした異色の時代劇。天正10年(1582年)、本能寺の変で織田信長が死去した後、家臣の柴田勝家(役所広司)や羽柴秀吉(大泉洋)らが後継者を決めるため尾張国の清洲城に参集する。勝家は信長の三男でしっかり者の信孝を、羽柴秀吉は次男でうつけ者の信雄をそれぞれ後継に推薦し、実権を握ろうと画策するが……。 役所、大泉のほかにも佐藤浩市、浅野忠信、松山ケンイチ、中谷美紀、妻夫木聡、伊勢谷友介、鈴木京香、剛力彩芽、西田敏行、天海祐希など主役級をぜいたくに配した文字通りのオールスターキャスト。舞台劇から映画化された『12人の優しい日本人』(91年)、『笑の大学』(04年)のように論戦や対話による作劇を得意とする三谷監督が、日本の歴史を動かした重要な会議をユーモアも盛り込みながらドラマチックに描き出す。織田家の血筋を強調する「付け鼻」など、一部の俳優への大胆な特殊メイクも見どころだが、別人に見えてしまうほどの変貌ぶりにファンは複雑な気持ちになるかも。城内の豪華なセット、美麗な衣装も合わせて楽しみたい。 11月8日に封切られる『キャリー』は、1976年にブライアン・デ・パルマ監督が映画化したスティーブン・キングの同名ホラー小説を、クロエ・グレース・モレッツ主演で再映画化した作品。内気な高校生のキャリー(モレッツ)は、学校では笑い者にされ、家では狂信的な母親(ジュリアン・ムーア)に束縛されて、孤独な日々を送っていた。ある日いじめられたことがきっかけになり、キャリーは念動力を発現させ、次第に能力を高めてゆく。クラスの人気者トミーからプロムパーティーに誘われ、母親の反対を押し切ってパーティーに出かけるが……。 原作者のキングは『キャリー』以降、ベストセラーを連発し、「モダンホラーの帝王」と称されるまでに。デ・パルマの後も、スタンリー・キューブリック、デビッド・クローネンバーグ、ロブ・ライナーといった名監督がこぞってキングの小説を映画化した。そうした一連のキング原作映画の最新版でもある本作は、スマホで撮影した動画によるいじめなど現代的なアレンジを加え、最新の視覚効果で超常現象をスペクタクルに表現。現在16歳、大人びたドレスが似合うミドルティーンに成長したモレッツは、うつむきがちな序盤、少しずつ自信をつけていく中盤、そして悪質ないじめに感情を爆発させるクライマックスへと、ヒロインの変化を印象的に演じ分けた。監督は『ボーイズ・ドント・クライ』(99)のキンバリー・ピアース。女性監督による視点も、デパルマ版とは一味違う青春の切なさ、残酷さに反映されているようだ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『清須会議』作品情報 <http://eiga.com/movie/77213/> 『キャリー』作品情報 <http://eiga.com/movie/77437/>(C)2012 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. and Screen Gems, Inc. All rights reserved.
「現代の日本なのかよ!」実写版『魔女の宅急便』本編映像公開で、ネット掲示板が騒然……
来年3月に公開予定の映画『魔女の宅急便』の新たな特報動画が公開され、話題を呼んでいる。 これまで、山間部や海上を飛ぶイメージの空撮映像や、キキ役の女優・小柴風花がレンガ造りの黄色い建物の前に立つスチール写真などが公開されてきたが、今回の特報では初めて作品本編の映像が差し込まれている。 この映像は、キキが物語の舞台であるコリコ島での一場面だといい、ホウキに乗ったキキが空から舞い降りると、地面に鮮やかに着地し、子どもたちに向かって元気いっぱいに「お待たせしました! お届けものです!」と本を手渡すシーンが収められている。 だが、この舞台であるコリコ島の風景が、日本の郊外にあるごく一般的なコンクリート造の小学校らしき建物であることから、「コリコ島って現代の日本なのかよ!」とネット上の一部掲示板などが騒然となっているのだ。 「今作は角野栄子さんの児童文学が原作となっていますが、やはり一般の映画ファンにとっては『魔女の宅急便』といえば、1989年に公開されたジブリアニメのイメージが非常に強い。アニメ版の風景はスウェーデンのストックホルムやバルト海に浮かぶゴトランド島ヴィスビーなど、中世から近代に建立された北欧の町を参考にして描かれていましたから、そのギャップに驚くのも無理はないですね」(映画ライター) また、華やかな空撮イメージから急に曇り空の校舎に映像が切り替わるため「ファンタジーじゃなかったのか」「初出しの特報ってことは、これが一番いい映像ってことなの!?」などと困惑の声も少なくないようだ。 何かと不安を抱かせる特報映像だったが、同作の監督は現代日本の風景の中で渦巻く人間の機微や、そこからにじみ出る恐怖を描かせたら右に出る者がない“Jホラーの旗手”清水崇。どんな仕上がりになるのか、公開を楽しみに待ちたい。映画『魔女の宅急便』特報 - YouTube
屠場は本当に美しかった! 今夜は焼き肉にしたくなる、ドキュメンタリー『ある精肉店のはなし』
冒頭、描かれるのは屠場へと引かれていく牛の姿。住宅地の道を牛は引かれていく。そして、やってきた屠場は昭和の香りのする古ぼけた建物だ。オートメーション化された近代的な工場スタイルではない。建物の中へ引かれていった牛は、頭にハンマーの一撃を食らって倒れる。まだ、ピクピクと動いている牛は手作業で手際よく解体されていく。そして、枝肉になった牛は軽トラックで運ばれる。肉はブロック肉にして、薄切りやさまざまな形で店先に。ホルモンは油かすになり、皮は太鼓の材料へと、文字通り余すことなく使われていく。画面に映し出される店頭に並ぶおいしそうな肉、そして新鮮なホルモンを見て、観客はみな思うだろう「晩ご飯は、肉にしよう」と。
今年、山形国際ドキュメンタリー映画祭や釜山国際映画祭での先行上映で激賞された『ある精肉店のはなし』。これが2作目となる纐纈(はなぶさ)あや監督が被写体にしたのは、大阪府貝塚市にある北出精肉店だ。
この精肉店を営む北出家は江戸時代末期から屠畜・食肉の仕事に携わってきた一家で、現在の店主・新司さんで7代目になる。新司さんの父・静雄さんの代からは市場で牛を買い付け、屠畜して卸業を営むことを始めた(のちに小売りも始める)。そして、昨年まで店舗兼自宅に隣接した牛舎で牛を飼い、育った牛を肉にして販売する、文字通りの産直販売を行ってきた。
映画は、北出精肉店しか利用する業者がなくなり閉鎖されることになった貝塚市の屠場での最後の作業を軸に、一家の姿を追いかけていくという1年を越える取材の末に出来上がった作品だ。
少なくとも、現代の日本で牛肉を好まない人はそうそういない。私見だが、肉ほどテンションの上がる食べ物はない。筆者も何か大きな原稿を書き上げた時には肉と決めている。それに、焼き肉をワイワイしながら食べるのは至上の快楽である。
なぜに、こんなに肉は人の心を昂ぶらせ、パワーを与えてくれるのか。この映画を見て腑に落ちた。それは、丸々とおいしそうに育った肉牛の命をいただいているからだ。その命を直接受け止めているからだろうか、作品中に映し出される北出精肉店の家族は、誰もが命がみなぎった美しさを宿している。
食卓に欠かせない牛肉だが、それがどのように生産されているのかという話になると、多くの人は目を背ける。それは、食肉産業には被差別部落で伝統的に行われてきた一面があり、現在もそうだからである。この作品は、そうした世間がタブー視し、目を背けるものにもアプローチをしていく。カメラは、結婚することになった一家の次男の婚約者にも、部落の問題を問いかけたりするのだ。
ともすれば、伝統的な左翼の香りのする社会派のテイストになりそうなテーマ。ところが、本作には「差別をなくそう」的な説教臭さは一切ない。誰もが、7代にわたっておいしい牛肉を生産し続けてきた北出精肉店の一家に親しみを感じ、腹の虫を鳴らすハズだ。
この一家に密着し続けた纐纈監督も、最初に魅せられたのは屠畜された肉牛の美しさだったという。
「出会いは2008年の初頭です。今回、映画が上映されるポレポレ東中野で食べ物にまつわる映画の特集があったのですが、その時に、一点の枝肉を吊るした写真が展示されていたんです。それを見て、美しいと感じました。それまで、屠場にあった冷たく暗いイメージとはまったく違う写真でびっくりしましたし、枝肉を美しいと感じる自分にもびっくりしました」
それが、写真集『屠場』(平凡社)として刊行された本橋成一氏の作品であった。それがきっかけで、本橋氏に同行して大阪府松原の屠場を見学した纐纈監督は、さらに屠場に魅せられた。肉牛を食肉にしていくという作業は、全身を使わなくてはできない。その作業が行われる現場には、それまでに見たことがなかったほどエネルギーが充満していたのだ。
「これは、ぜひ映画にしたい」と感じたが、当然、簡単なことではなかった。その思いが動き始めたのは11年に写真集『屠場』が刊行された時のこと。刊行に併せて大阪人権博物館で展覧会を主催した知人から、纐纈監督は北出精肉店のことを聞かされた。そして撮影されたのが、映画の冒頭で映し出される見学会の模様だ。当初は、これが最後の屠畜になる予定だった。
ところが、見学会は日常とは違うと感じた纐纈監督は「映画にしたいので、もう一度やってほしい」と頼んだのだ。
「簡単に応じてもらうことはできませんでした。映画になれば、それをきっかけに、また差別的なことが起こるかもしれないという不安もあったでしょう。何度も足を運び、お願いしました」
そして、2012年の3月、本当に最後の屠畜が行われることとなった。ここから始まった撮影は100時間を越えたというから、いかに熱のこもった撮影であったかは自ずと理解できるだろう。その監督の熱意ゆえなのか、映像を見ているだけでも、登場する人々の魅力にぐいぐいと引きずりこまれていく。
実は、この作品を見るまで、かつての「屠殺場」という言葉が差別的だとして使ってはならないことに疑問を感じていた。でも、この映画での登場人物の言葉を聞いてハッとした。
「命をいただくのだから、私たちは決して牛を“殺す”とはいわない」。
差別云々ではない。大事な命をいただいているのに、失礼な言葉を使っては申しわけない。
(取材・文=昼間たかし)
<上映情報>
東京:ポレポレ東中野
2013年11月29日(金)~
大阪:第七藝術劇場
2013年12月7日(土)~
詳細は公式サイトにて
<http://www.seinikuten-eiga.com/>
英会話講師殺害事件、茨城上申書殺人事件……“実録犯罪映画”が続々公開される、その舞台裏は?
ベストセラー小説や人気コミックの実写化、ファンタジックなアニメーション作品が主流を占めるようになった現代の日本映画界において、異彩を放っているのが“実録犯罪もの”と呼ばれる生々しいジャンルだ。“愛犬家殺人事件”を題材にした園子温監督の『冷たい熱帯魚』(11)が皮切りとなり、同じく園監督が“東電OL殺人事件”に着想を得た『恋の罪』(同)もスマッシュヒット。2013年には“秋葉原無差別殺傷事件”を扱った『ぼっちゃん』、東海テレビが製作した『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』など実在の凶悪事件をテーマにした作品が相次いで劇場公開されている。不動産ブローカーが保険金目当てで高齢者を死に追い込んだ“茨城上申書殺人事件”の真相に迫った『凶悪』は9月21日に公開され、現在もロングランヒット中だ。さらに11月9日(土)からは“英会話講師殺害事件”を起こした市橋達也の手記を原作にした『I am ICHIHASHI 逮捕されるまで』が全国公開(11月6日よりネット配信開始)、新宿ケイズシネマでは“大阪2児餓死事件”を描いた密室劇『子宮に沈める』が封切られる。 「被害者遺族の心情を逆なでする」「犯罪者を英雄視するのか」などの非難が度々起きる実録犯罪ものだが、一部の批判を浴びながらも次々と製作されているのはなぜだろうか。この疑問に答えてくれたのは、セディックインターナショナル代表取締役の中沢敏明氏だ。アカデミー賞外国語映画賞を受賞した大ヒット『おくりびと』(08)のプロデューサーであり、阪本順治監督と組んだ“松山ホステス殺害事件”のドラマ化『顔』(00)やタイでの“幼児売買”の実態を描いた『闇の子供たち』(08)も手掛けている。『I am ICHIHASHI』を企画・製作した経緯をこう語った。市橋達也の手記の映画化『I am ICHIHASHI 逮捕されるまで』。台湾など海外で活躍するディーン・フジオカの主演・監督作となっている。
中沢 「凶悪犯罪なら、なんでも映画になるというわけではありません。僕自身がノンフィクションものが好きで、『I am ICHIHASHI』の原作となる『逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記憶』を読んだんです。英会話講師を殺害した後、彼はどのような心理状態で逃げ続け、整形手術を受けたのか興味があったのですが、読んでいて唯一共感できたのが、主人公が逃亡資金を稼ぐために日雇い労働をする部分でした。裕福な家庭で育ったためにアルバイトの経験すらなかった彼は、初めての肉体労働で、働くことの楽しさを覚えたわけです。そのことをもっと早く知っていれば、あんな事件は起きなかったかもしれない。僕は仕事で海外に行くことが多く、最近よく感じるのは、今の日本はとても特殊な社会だということなんです。不況だと言いつつも、若者が働かずとも生活できている。多分、世界中でそんな国は日本だけでしょう。『I am ICHIHASHI』を映画化することで、少しでも若い人たちが“市橋は、なんであんな事件を起こしちゃったんだろう”と考えるきっかけになればと思っているんです」 中沢氏によると、『逮捕されるまで』の出版元である幻冬舎に映画化を申し込み、当時拘置所にいた市橋達也にも弁護士を通して映画化の許可を得たそうだ。 中沢 「今回の映画は、犯罪を唱道したり、犯罪者を美化したりする意図で制作したものではありません。被害者・ご遺族の名誉やプライバシーを毀損するおそれのある表現を避けることはもちろんのこと、被害者遺族の感情を十分に配慮する必要がありました。被害者となった英国人講師は描かず、事件を起こした逃亡者の目線に立った主観映像によるドラマにしたんです」 主演のディーン・フジオカは台湾などアジア各国で活躍する俳優であり、ミュージシャンでもある。『I am ICHIHASHI』で初監督に抜擢されたが、製作の舞台裏で監督交代劇があったことを中沢氏は明かした。 中沢 「実を言うと、崔洋一監督に最初はお願いしていたんです。崔監督も低予算映画であることを了承し、原作にとても興味を示してくれました。崔監督が映画を完成させていたら、大変な話題作になっていたでしょうし、映画として評価の高い作品になっていたはずです。しかし、弁護士とも入念に話し合い、今回は被害者遺族への配慮が必要であり、事件の全容を客観的に描こうと考えていた崔監督には申し訳なかったのですが、理由を説明して、ディーン・フジオカにバトンタッチしてもらったんです。崔監督も納得済みで、決してゴタゴタではありません。ディーン・フジオカは日本人ながら海外での活動を中心にしていることから今の日本に対して独自の視点を持ち、また主人公に実年齢が近いということもあり、初めての監督業にとても意欲を見せてくれました」 ■リスクのある企画にこそパワーが生まれる 世界的な大ヒット作となった『おくりびと』だが、企画段階では「納棺師が主人公では暗すぎる」と出資者が集まらなかった。タイでのロケを敢行した『闇の子供たち』は「タイの恥部を日本人が映画化するな」と撮影現場が銃撃されかねない危険が伴った。中沢氏がリスクを冒してまで、大手映画会社が扱わない企画にこだわるのはなぜなのか? 中沢 「リスクそのものがパワーとなるからです。セディックインターナショナルは、僕が個人経営している弱小プロダクションです。大手映画会社やテレビ局のように、ベストセラー小説を映像化したくてもなかなかできません(苦笑)。三池崇史監督と組んで『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(07)という全編英語での台詞による和製西部劇を作ったんですが見事に大コケして、目玉が飛び出るくらいの赤字を抱えました。でも、タランティーノも出演してくれ、作っていてあんなに楽しい映画はなかった(笑)。大失敗したけど、そのことがバネになった。「また、やろう」と約束した三池監督は『十三人の刺客』(10)を大ヒットさせて、僕が抱えていた赤字を帳消しにしてくれたんです。僕は自分の企画を進めるときは自腹を切る覚悟でやっています。リスクを背負う覚悟が、人の心に届く映画につながると信じています」警察から逃げ続ける市橋(ディーン・フジオカ)は生活費が底を尽き、建築現場で働き始める。市橋にとって、すべてが初めての体験だった。
若者たちに観てほしいという意図から『I am ICHIHASHI』は入場料&配信料を1000円に設定。また、FacebookやTwitterを利用すれば、500円で入場できる割引サービスも行っている。ちなみに同日公開される『TAP 完全なる飼育』は女子高生拉致監禁事件を題材にした『完全なる飼育』(99)の第8弾。中沢氏が第1作を手掛けた人気シリーズだ。『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(12)など数多くの実録犯罪映画を放った若松孝二監督に師事した片嶋一貴監督が、南国を舞台に性と死が交錯する青春ドラマに仕上げている。松田美智子のノンフィクション小説を原作にした『TAP 完全なる飼育』。オーディションで選ばれた前川伶早が鮮烈シーンに挑んでいる。
■ヒットの要因は、リリー・フランキーが凶悪犯を演じた意外性 『凶悪』の白石和彌監督も若松監督の薫陶を受けた新進気鋭の監督。日活が製作・配給する『凶悪』は山田孝之、リリー・フランキー、ピエール瀧という異色の顔合わせが実現した話題性もあり、9月に公開されて以降、ロングラン興行を続けている。日活の宣伝プロデューサーであり、『凶悪』の宣伝統括である大場渉太氏は、ヒットの内情についてこう語る。 大場 「日活が製作・配給した園監督の『冷たい熱帯魚』『恋の罪』は興収1億円台のヒット作となりましたが、『凶悪』はこれからのムーブオーバー次第では2億円に届きそうな気配です。都内のシネコンでの上映は10月いっぱいで終わりましたが、11月からはテアトル新宿で上映されています。『凶悪』は50スクリーンで始める予定が、各地の劇場からの問い合わせが多く、約100スクリーンにまで膨らみました。この規模の作品では十分なヒット作です。意外だったのは、この手の実録犯罪ものは30代後半以上の男性客が中心だろうと予測していたんですが、劇場には若い層、それもデートムービーとして観にきた若い男女が多かったこと。従来のシネコンで上映されている明るく楽しいだけの映画に飽きている層が少なくないようですね。『凶悪』は主演3人の顔合わせから“一体何が起きるんだろう”というゾワゾワ感を抱いたお客さんたちが集まってくれたんだと思います」 実録犯罪ものは事件の持つ話題性から観客への浸透度が高く、潤沢な予算のないインディペンデント系のプロダクションにとっては有効なジャンルである一方、マーケットはそれほど大きくはないとも大場氏は語る。 大場 「実際に起きた犯罪を題材にした映画を作る際に重要なことは、その事件をもとにして人間の内面や業、普段は隠されている人間のリアルな怖さをきちんと描けるかどうかでしょう。凶悪な事件をそのまま再現しようとしても、映画は現実にはかないません。ただ過激さだけを追い求めると、銀座シネパトスで上映中止騒ぎになった実録犯罪もののようにグロテスクなものに陥ってしまいます。製作側とキャストが同じ方向性を持って船を進めないと、遭難しかねない危険性を孕んでいるジャンルでもあるんです」 最後にもう一度、『I am ICHIHASHI』の話題に戻ろう。原作本である『逮捕されるまで』が発売された際に、印税収入はどうなるのかが問題となった。『I am ICHIHASHI』の原作料は、市橋達也に支払われるのだろうか? セディックインターナショナル社の回答は「通常の映画と同じように、出版元である幻冬舎に原作使用料は支払っています」というものだった。出版社を経由した原作料がどうなったかは、市橋達也サイドの弁護士しか把握していないそうだ。 (取材・文=長野辰次)『凶悪』の初日舞台あいさつ。山田孝之、リリー・フランキー、ピエール瀧という意外性のあるキャスティングが注目を集めた。
『I am ICHIHASHI 逮捕されるまで』
企画・製作/中沢敏明 原作/市橋達也『逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録』(幻冬舎文庫) 監督・主演・主題歌/DEAN FUJIOKA 脚本/湯浅弘章 Team D 撮影/鍋島淳裕 配給協力/マンハッタンピープル PG12 11月6日(水)よりネット配信開始、11月9日(土)より109シネマズほか全国ロードショー
(c)2013「I AM ICHIHASHI 逮捕されるまで」製作委員会
<http://ichihashi-movie.jp>
『TAP 完全なる飼育』
企画・製作/中沢敏明 原作/松田美智子 脚本/一雫ライオン 音楽/白井良明 監督/片嶋一貴 出演/前川伶早、西沢仁太、有森也実、高川裕也、山根和馬、千原せいじ、麿赤兒、竹中直人 配給協力/マンハッタンピープル R15 11月6日(水)よりネット配信開始、11月9日(土)より109シネマズほか全国ロードショー
(c)2012「TAP 完全なる飼育」
<http://shiiku-movie.jp>
『凶悪』
原作/新潮45編集部編『凶悪 ある死刑囚の告発』(新潮文庫) 脚本/白石和彌 出演/山田孝之、ピエール瀧、リリー・フランキー、池脇千鶴、白川和子、吉村実子、小林且弥、斉藤悠、米村亮太朗、松岡依都美、ジジ・ぶぅ、村岡希美、外波山文明、廣末哲万、九十九一、原扶貴子 配給/日活 R15 9月21日より全国公開中
(c)2013「凶悪」製作委員会
<http://www.kyouaku.com>
劇場で体験せよ! 壮大な映像魔術にグイグイ引き込まれる『グランド・イリュージョン』
今週も続々と封切られる新作映画の中から、選り抜きの2作品を紹介したい。 『グランド・イリュージョン』(10月25日公開)は、大金を盗み出したマジシャン4人組とFBI捜査官らの攻防を豪華スター共演で描くクライムエンタテインメント。カリスママジシャンのアトラス(ジェシー・アイゼンバーグ)率いるイリュージョニスト集団「フォー・ホースメン」が、ラスベガスでのショーの最中にパリの銀行から金を奪うという超絶マジックを披露し、観客を驚かせる。FBI捜査官のディラン(マーク・ラファロ)とインターポールのアルマ(メラニー・ロラン)は、4人を逮捕し取り調べるが、証拠がなくしぶしぶ釈放。捜査陣はマジックの種を暴くことで有名なサディウス(モーガン・フリーマン)に協力を依頼し、4人の次なる犯行を阻止しようと万全の体制を敷くが……。 『トランスポーター』のルイ・レテリエ監督による、小気味よいカット編集とスペクタクルな映像魔術にグイグイと引き込まれる。マジックと映画が、これほど相性がいいものだったとは、と驚喜してしまう大傑作。まず壮大なイリュージョンで観客の度肝を抜き、そのあと緻密に組み合わされた数々のトリックの種を明かす。見事なマジックを目にした興奮と、疑問が鮮やかに解き明かされる快感。この構造がストーリー中3回のバリエーションで提示されるが、映画全体にも大きな1つのトリックが仕掛けられている。ネットや口コミでネタバレされる前に、早めに劇場でイリュージョンを「体験」することを強くオススメしたい。ラストですべての謎が明らかになった後、再見したくなる人が続出するはずだ。 続いて10月26日公開の『潔く柔く きよくやわく』は、いくえみ綾の人気少女コミックを原作に、長澤まさみと岡田将生の初共演で映画化した切ないラブストーリー。幼なじみのカンナ(長澤)とハルタ(高良健吾)は、高校1年で同級になったマヤ(中村蒼)やアサミ(波瑠)と、それぞれの思いを秘めたまま仲良く過ごす。だが花火大会の夜、カンナがマヤから告白されたのと同じ頃、携帯でカンナにメールを送っていたハルタが事故死。そのせいで恋ができなくなったまま社会人になったカンナは、出版社で働く禄(岡田)と出会う。無遠慮で悩みなどなさそうな禄が、実は自分と似たつらい過去を背負っていることを知り、カンナの気持ちが徐々に変化してゆく。 監督は『ただ、君を愛してる』(06)、『僕の初恋をキミに捧ぐ』(09)など恋愛物を多く手がける新城毅彦。原作のオムニバス形式の群像劇を、カンナと禄を両軸に再構成したためか、若干強引な展開や説明不足に思われる描写も。とはいえ、久しぶりの純愛映画主演となる長澤まさみをはじめ、主要キャストがピュアな登場人物をいずれも魅力的に演じていて、若い世代の観客を中心に広く共感を呼びそう。淡い恋の終わりや大切な人との死別など、誰もが胸の奥にしまっている忘れがたい記憶に、穏やかな気持ちで向き合うことを教えてくれる感動作だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『グランド・イリュージョン』作品情報 <http://eiga.com/movie/78217/> 『潔く柔く きよくやわく』作品情報 <http://eiga.com/movie/77839/>(C) 2013 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
幽霊捜査官コンビの活躍を描いた、異色のバディームービー『ゴースト・エージェント R.I.P.D.』
今週紹介する2本の最新映画は、どちらもある意味、亡霊を題材にしたフィクションといえるかもしれない。殉職した警官があの世の警察組織で悪霊どもを退治するコミカルなハリウッド製活劇と、旧日本軍が隠した資金として詐欺の手口にたびたび使われ、半ば都市伝説化した「M資金」をめぐる陰謀を描くシリアスな和製サスペンスだ。 公開中の『ゴースト・エージェント R.I.P.D.』(3D/2D上映)は、幽霊の捜査官コンビが世界滅亡をたくらむ悪霊たちと戦う奇想天外で痛快なアクション。恋人と幸せに暮らしていたボストン警察の警官ニック(ライアン・レイノルズ)は、捜査中に同僚の悪徳警官ボビー(ケビン・ベーコン)に撃たれ殉職。肉体を離れ昇天するかに思われた直後、現世にはびこる悪霊を取り締まる組織「R.I.P.D.」にスカウトされる。西部開拓時代のガンマンだったベテランのロイ(ジェフ・ブリッジス)とコンビを組んだニックは、R.I.P.D.の捜査官として活動を開始。逮捕した悪霊から、世界を滅亡させる陰謀が進行中だと聞き出し、ロイと協力して陰謀を阻止すべく奮闘する。 原題にもなっている「R.I.P.D.」は、死者に送る言葉「安らかに眠れ」を意味するR.I.P.と、警察の分署を表すPDを組み合わせた、いわばダジャレの造語。名は体を表すということわざの通り、バディムービー、ポリスストーリー、『ゴースト/ニューヨークの幻』(90)に代表される幽霊と人間の恋愛物語など、ジャンル映画のさまざまな定番要素をヒップホップよろしく巧みにミックスし、シニカルな笑いで味付けしてテンポのよい娯楽作に仕上げた。監督は『RED レッド』(10)のロベルト・シュベンケ。『RED レッド』でブルース・ウィリスの恋人役で注目されたメアリー=ルイーズ・パーカーが、白いブーツがキュートな60年代風ファッションの上官を好演しているのも見どころだ。3D上映では、静止した立体的な背景でキャラクターが動く映像など、さりげなく織り込まれた斬新な視覚効果も見逃せない。 続いて10月19日公開の『人類資金』は、敗戦直前に旧日本軍が隠匿したとされる財宝「M資金」をめぐって繰り広げられる陰謀を描く経済サスペンス大作。M資金をネタに詐欺を繰り返してきた真舟(佐藤浩市)は、石(森山未來)と名乗る男に連れられ、ある財団のビルを訪問。そこで防衛省の秘密組織に襲撃を受けるが、石の助けで難を逃れる。財団の人物から「10兆円のM資金を報酬50億円で盗み出してほしい」と依頼された真舟は、M資金をめぐる国際的な争いに巻き込まれていく。 原作・福井晴敏と監督・阪本順治という『亡国のイージス』のコンビが、邦画の常識を超える壮大なスケールのサスペンス巨編に再び挑む。諸説飛び交い今も謎に包まれるM資金を素材に、リーマン・ショックでその危うさが顕在化した金融資本主義への批判と、人類の未来の幸福につながる新たなルール作りの提言という、真摯なテーマを訴えた。佐藤、森山に加え香取慎吾、観月ありさ、オダギリジョー、ビンセント・ギャロら豪華キャストが顔を揃え、ロシア、タイ、アメリカでの海外ロケを敢行。特に森山は、敵対組織の工作員と戦うアクションシーン、米映画以外では初のロケというニューヨークの国連本部での英語スピーチなどを熱演し、準主役として輝きを放つ。金融分野の用語にも分かりやすい解説が添えられ、経済の入門にも役立つ1本としてオススメしたい。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ゴースト・エージェント R.I.P.D.』作品情報 <http://eiga.com/movie/77680/> 『人類資金』作品情報 <http://eiga.com/movie/78192/> –(C) 2013 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
『スラムドッグ$ミリオネア』ダニー・ボイル監督の新たな挑戦『トランス』
今週も数多く封切られる最新映画の中から、今回は犯罪を題材にした個性的な2作品を取り上げたい。名画強盗と失われた記憶をめぐる緊迫した心理劇と、殺し屋稼業の少女2人組を描く一風変わった活劇。日常をしばし忘れ、危うくも魅力的な世界に浸ってみよう。 公開中の『トランス』(R15+)は、『スラムドッグ$ミリオネア』(08)でアカデミー賞8部門受賞のダニー・ボイル監督が、『ウォンテッド』(08)のジェームズ・マカボイ主演で描くスタイリッシュなスリラー。競売人のサイモン(マカボイ)は、ギャングと手を結んでオークション会場からゴヤの名画を盗み出す。だが、計画にない行動をとったため首謀者のフランク(バンサン・カッセル)から殴り倒され、病院で目覚めたときには絵の隠し場所を含む記憶の一部を失っていた。フランクは催眠療法士エリザベス(ロザリオ・ドーソン)を使い、サイモンの潜在意識から絵画のありかを探ろうとする。 サイモン、フランク、エリザベスという3者の関係がストーリーの進行と共に二転三転し、キャラクターに対する観客の印象もがらりと変わる。催眠術にかかった状態(トランス)の記憶と妄想の入り混じった映像にまでしっかりと伏線が張られ、終盤ですべての謎が明らかになるシークエンスの衝撃はまさに圧巻。結末を知った後で、もう一度見返したくなる人も多いはず。オスカーを獲得しロンドン五輪開会式の総監督も務めるなど、50代にして巨匠の風格さえ漂うボイル監督だが、新たな表現にチャレンジする姿勢は本作でも健在だ。 『天使の処刑人 バイオレット&デイジー』は、『つぐない』(07)のシアーシャ・ローナンと『旅するジーンズと16歳の夏』(05)のアレクシス・ブレーデルが、ティーンエイジャーの殺し屋に扮したアクションドラマ。清楚な尼僧服に身を包み拳銃で大男たちを次々に射殺するバイオレット(ブレーデル)とデイジー(ローナン)。新作ドレス欲しさに引き受けた次の依頼は、アパートで一人暮らしのマイケル(ジェームズ・ガンドルフィーニ)を殺すというごく簡単な仕事のはずだった。だが、マイケルが別の集団にも命を狙われていたことから、2人は思わぬ事態に巻き込まれる。 『プレシャス』(09)でアカデミー脚本賞を受賞したジェフリー・フレッチャーが、オリジナル脚本で監督デビューを飾った本作。ファッションと甘いお菓子が大好きで、名前の通り花のように可憐な十代の乙女たちが、表情を変えずに銃をブッ放し「バイオレンス&デス」を繰り広げるギャップが楽しい。撃ち殺したばかりの死体に乗って踊ったり、浴槽に集めた死体の上でシャワーを浴びたりと、無邪気さと残酷さが奇妙に同居したシーンの数々が不謹慎な笑いを誘う。今年6月に心臓発作で急死した名優ジェームズ・ガンドルフィーニの演技もしみじみと味わい深い。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『トランス』作品情報 <http://eiga.com/movie/78755/> 『天使の処刑人 バイオレット&デイジー』作品情報 <http://eiga.com/movie/78059/>(C)2013 Twentieth Century Fox













