名匠・山田洋次が、監督作82本目で初めて描く“家族の秘密”『小さいおうち』

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(C)2014「小さいおうち」製作委員会
 今週取り上げる最新映画は、ミステリアスな人間ドラマと、ファンタジックなヒーローアクションの邦画2作品。スタッフ・キャスト共に、日本映画界の多彩さと可能性を伝える充実の2本だ(いずれも公開中)。  『小さいおうち』は、山田洋次監督が中島京子の直木賞受賞のベストセラー小説を映画化。昭和初期、山形から上京してきた娘タキ(黒木華)は、東京郊外に建つ赤い屋根の小さな家で女中として働き始める。玩具会社に勤める主人の平井雅樹(片岡孝太郎)、妻の時子(松たか子)、息子の恭一と共に穏やかな日々を送っていたが、雅樹の部下・板倉(吉岡秀隆)が平井家に出入りするようになってから、時子の心が板倉へと傾いていく。それから60数年がたった平成の時代、晩年のタキ(倍賞千恵子)がノートに記した自叙伝を読んだ親戚の若者・健史(妻夫木聡)は、封印されていた真実を知る。  『男はつらいよ』シリーズなどで家族の絆を描き続けてきた名匠・山田洋次が、監督作82本目で初めて“家族の秘密”に迫った。小さい家の人々の暮らしぶりを通じて、好景気に沸く日中戦争の頃から言論統制と監視社会の第2次世界大戦期までを描き、右傾化する平成のこの時期にメッセージを投げかける時代感覚にもうならされる。『シャニダールの花』(2013)の新進女優・黒木華が、限りなく主演に近い助演で、純朴だが芯の強さを秘めたタキ役を確かな存在感で表現。山田組常連の名優たち、演技派の共演陣らによるぜいたくなアンサンブルも味わい深い。  もう1本の『ヌイグルマーZ』は、『片腕マシンガール』(08)、『電人ザボーガー』(11)の井口昇監督が、中川翔子主演で描く特撮アクションコメディ。地球でテディベアに寄生した宇宙生命体が、自分をブースケと呼ぶ響子(市道真央)を守ること誓う。響子の母・冬子(平岩紙)を頼り、妹の夢子(中川翔子)が居候することになるが、何をやってもダメな夢子をブースケは叱咤激励。やがて謎の組織がゾンビを大量発生させて人類滅亡を企て、魔の手が響子に迫ったとき、夢子とブースケが合体し、全身ピンクのヒーロー「ヌイグルマー」に変身する。  大槻ケンヂが手がけた楽曲「戦え!ヌイグルマー」の詞の世界が本作の起点となり、特異なセンスで特撮映画を更新する奇才・井口監督によって、オタクの夢、ヒーロー愛がたっぷり詰まった映画が実現した。中川が映画初主演を果たし、『デッド寿司』(12)に続いて井口作品登場の若手アクション女優・武田梨奈が、悪役キル・ビリーと変身後のヌイグルマーの二役を熱演。個性豊かなキャストが集い、スタッフらが楽しみながらオリジナリティーあふれる映画を作ろうという姿勢が伝わってきて、ジャンル映画のファンを幸福な気分にしてくれる。特撮ヒーロー物の王道を踏襲しつつ、満たされない者、日陰者へのシンパシーが現代社会へのリンクを提示している点も見逃せない。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『小さいおうち』作品情報 <http://eiga.com/movie/77840/> 『ヌイグルマーZ』作品情報 <http://eiga.com/movie/78606/>

ハリウッド2大アクションスターが大激突! 王道のエンタテインメント大作『大脱出』

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Motion Picture Artwork(c) 2013 Summit Entertainment, LLC.  All Rights Reserved.
 新しい年を迎え、フレッシュな気持ちで物事に臨みたいこの時期。そんなタイミングで気分の盛り上げに一役買ってくれる新作映画として、今週はスタローンとシュワちゃんが激突するアクション大作と、妻夫木聡扮するダメダメ広告マンの奮闘を描く爆笑コメディの2本を取り上げたい。    1月10日公開の『大脱出』は、最新のセキュリティで固められた監獄から脱出を図る男たちの姿を描くサスペンスアクション。刑務所のセキュリティを専門とするコンサルタントのブレスリン(シルベスター・スタローン)は、自ら囚人になりすまし、警備のスキを突き鮮やかに脱出してしまう“脱獄のプロ”。新たに民間運営の極秘刑務所からの脱獄という依頼を受け、巨大なハイテク監獄に収監されるが、それはブレスリンを葬り去るためのワナだった。サポートチームとの通信手段も断ち切られ、孤立無援で絶体絶命のブレスリンの前に、凶暴な囚人たちを束ねるロットマイヤー(アーノルド・シュワルツェネッガー)が現れる。  すでに『エクスペンダブルズ』シリーズで共演を果たしたスタローンとシュワルツェネッガーだが、同シリーズでは仲間同士という設定だったため、スクリーン上でタイマンのガチンコ勝負を見せるのは今作が初。ハリウッドでアクション映画史を築いてきたライバル2人の対決シーンに、長年の夢がかなったと歓喜するファンも多いはず。不屈の精神で難関を次々に突破していく爽快さに加え、大がかりな陰謀の全容、ロットマイヤーの正体と狙いなど、サスペンス要素もからめて最後までたっぷり楽しませてくれる王道のエンタテインメント大作だ。  続いて1月11日に封切られる『ジャッジ!』は、華やかな広告業界の裏側で繰り広げられるドタバタを描いたオリジナルコメディ。落ちこぼれ広告マンの太田喜一郎(妻夫木聡)は、身勝手な上司・大滝(豊川悦司)に押し付けられ、世界一のCMを決めるサンタモニカ広告祭で審査員を務めることに。現地で夜ごと開かれるパーティーに同伴者が必要なため、ギャンブル好きの同僚・ひかり(北川景子)が偽の妻として同行する。大滝から「ちくわのCMを入賞させなければクビ」と言い渡され、クセ者揃いの審査員らが駆け引きを繰り広げる審査会で四苦八苦する喜一郎だが、しぶしぶ助けてくれるひかりとの距離も次第に縮まって……。  CMディレクターの永井聡による初の長編映画監督作。脚本もCMプランナーの澤本嘉光が担当し、広告業界のリアルを知るコンビが抱腹絶倒のドタバタコメディを生み出した。妻夫木は上司の言いなりになってしまう気弱でナイーブな一面と、珍妙な言動で難局を乗り切るコミカルな要素、そしてバカ正直に広告の可能性を信じ続ける熱さを合わせ持つキャラクターを魅力的に好演。リリー・フランキー、鈴木京香、荒川良々ら個性的な共演陣に加え、竹中直人、加瀬亮、松本伊代ら大勢の豪華なワンシーン出演もしっかり笑いを誘う。小ネタを矢継ぎ早に繰り出すテンポ感はまさにCM的だが、バカバカしい笑いを積み上げつつ仕事や人生への姿勢をさりげなく問いかけてくる構成もさすが。明るく前向きな新年のスタートに、ぴったりな1本だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『大脱出』作品情報 <http://eiga.com/movie/58013/> 『ジャッジ!』作品情報 <http://eiga.com/movie/78935/>

【新春特別企画】2014年前半のヒット映画はこれだ!

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(c) 2013 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
 毎週、最新映画を紹介している当コーナー。今回は新春特別企画として、2014年前半にヒットが期待されるオススメ映画を3本取り上げたい。  まず1本目は、レオナルド・ディカプリオとマーティン・スコセッシ監督が5度目のタッグを組み、実在する株式ブローカーの“ヤバすぎる人生”を描いた『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(1月31日公開)。22歳でウォール街の投資銀行へ飛び込んだジョーダン・ベルフォート(ディカプリオ)は、学歴もコネも経験もなかったが、斬新な発想と巧みな話術でたちまち成り上がる。26歳で証券会社を設立して年収4900万ドルを稼ぎ、さらに常識を超えた金遣いで世間の度肝を抜いたジョーダンだが、ダイナミックな成功と同じくらい、センセーショナルな破滅をたどることになる……。『アビエイター』(04)や『華麗なるギャツビー』(13)など、問題を抱えた成金役がよく似合うディカプリオが、本作でもスコセッシの演出のもとノリノリで熱演。公開前から米メディアで大絶賛され、アカデミー賞前哨戦のゴールデン・グローブ賞に作品賞・主演男優賞でノミネートされており、日本でも大いに話題を呼ぶのは確実だ。  続く『スノーピアサー』(2月7日公開)は、『グエムル 漢江の怪物』(06)ほかで知られる韓国の鬼才ポン・ジュノが、欧米のキャストを招いて描く、近未来SFエンタテインメント。2014年、地球温暖化を防止するため、各国の上空で薬品を散布したことで、地球上は逆に寒冷化してしまい氷河期を迎える。それから17年後、わずかな生存者らは「スノーピアサー」と呼ばれる列車の中で暮らし、地上を移動し続けていた。列車の前方では一握りの上流階級が贅沢な生活を送る一方、後方車両には貧しい人々が劣悪な環境に押し込められていた。最後尾車両で革命の時機を待っていたカーティス(クリス・エバンス)はある日、仲間と決起して前方車両を目指すが……。フランスのグラフィックノベルが原作で、ポン・ジュノ監督にとっては初の英語作品。エド・ハリス、ティルダ・スウィントンらハリウッドスターの出演も話題で、弾丸列車という閉環境の中でダイナミックに展開する下克上のドラマとアクションが斬新だ。  邦画からは敢えてR18+指定のキワどい作品、人気劇作家・三浦大輔が自作戯曲を映画化した『愛の渦』(3月1日公開)を紹介しよう。六本木の高級マンション内にある裏風俗店で開かれる乱交パーティーに、ある夜集まった男女8人。セックスがしたくてたまらない人々が、ぎこちない会話で交渉と駆け引きをしながら、行為に至る。相手を替えて2回戦を終えるころ、次第に嫉妬や本音が露わになって……。主演を『横道世之介』(13)、『上京ものがたり』(同)などで注目の新進俳優・池松壮亮が務め、“地味な容姿だが、誰よりも性欲が強い”ヒロインを門脇麦が体当たりで挑んだ。本編123分のうち着衣時間はわずかに18分半という、日本映画史上“最もハダカ”な一夜の人間模様を描いた本作は、今年上半期における屈指の問題作として論議を呼び、R18+映画にしては異例のヒットにつながるかもしれない。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ウルフ・オブ・ウォールストリート』作品情報 <http://eiga.com/movie/78790/> 『スノーピアサー』作品情報 <http://eiga.com/movie/78218/> 『愛の渦』作品情報 <http://eiga.com/movie/78969/>

「主人公・花はすぐセックスさせてしまうけど……」『パリ、ただよう花』公開トークイベントレポ

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 12月21日(土)より公開された映画『パリ、ただよう花』。本作が問いかけるのは“愛”と“セックス”の問題。  クリスマス・イヴ前夜の12月23日(月)、本作の公開を記念してゲストに湯山玲子氏(著述家)と宮台真司氏(社会学者)が公開記念トークイベントに登壇。当日参加した約70名の参加者とともに、本作から学べる「恋愛テクニック」が語られた。  湯山氏は「主人公の花が最初に男に抱かれるシーンがあるけれど、あのシーンは女子が使える恋愛テクニックが潜んでいるんです。一見すると男が暴力的に強引に襲っているように見えるけれど、実は主人公の花は、目配せで“YES”と言っている。あの女優さん、もともとそういう女性なのか、監督の演出なのか分からないけど、これは女子が使えるテクニックですよ。みなさんじっくりそのシーンを研究された方がいいと思います」と本作に潜んだ恋愛テクニックを紹介した。  一方、宮台氏は「この映画はオーソドックスな男は、どんな時に恋愛に積極的に乗り出すのかが分かるテキストになっていますよね。目配せもそうだし、例えば普段口数の多い女性が急に黙るというだけでも、男にとっては十分なサインですよ。つまり普段とはモードを変えるってことですね。それって男の“性愛”スイッチを入れる絶好のアピールになります。女性がメタモルフォーゼする瞬間を見せるというのは、男に効きますよ」と分析した。  また昨今の若い世代の恋愛事情についても触れ、湯山氏は、「昔は、彼氏と横浜にデートに行ったら、その夜はセックスしてもOKっていう暗黙の了解になっていたんですよね。けれど、最近の若い子の話を聞くと、終電逃したら彼氏を漫画喫茶に行って『進撃の巨人』を読んでいるって。それに彼女の家に行っても彼女が“嫌だ”と言ったら、簡単に引き下がってしまうって。それじゃダメですよね。この映画に出てくる男も、むき出しの暴力性をもっているけど、どこかでそういう男の暴力性みたいなものを女子も受け入れてあげないといけないのかもしれない。難しい問題ですけどね。だって男に言葉で“いまからしていい?”なんて言われても、女子だってモード切り替わらないですよね」と語り、これに対して宮台氏は、「それって男女両方の問題ですよね。僕は若い人には散歩を薦めるんですよ。さっきの“性愛”スイッチというのは、いわゆる変性意識状態=トランス状態に入ることを指すと思いますけど、その状態に入るには、助走が必要なわけです。その助走をするためには、訓練が必要で、例えば散歩をすることで、同じものを同じように体験できるというシンクロ状態をつくっていくことができるわけです」と語った。  そして、再び恋愛テクニックについて触れ、宮台氏は「花はけっこう男にすぐセックスさせてしまうけど、女の子はすぐに男にセックスさせない方がいいです。そうやって障害を作ったほうが盛り上がります。男に“性愛”スイッチを入れさせないと男は迫ってこないですから、ここでテクニックが必要ですよね。たとえば今、冬でしょ。女の子がコートを脱ぐ瞬間って男はグッとくるんですよ。日常の中にいろんなシグナルが潜んでいるから、そこをうまく使って演出した方がいいですよ」と指南。そのシグナルの例として湯山氏は、「本作の主人公・花の服装に注目して欲しいんですよ。彼女は、コーデュロイのジャケットを着ているんですけど、ジャケットの下は、けっこうなボディコンなんです。これは女子のみなさん使えるテクニックですよ」と女性ならではの本作から得られる恋愛テクニックを指南した。  「男と女」、互いに意識しながらも、なかなか踏み出せない一歩をどうしたら踏み出せるのか、本作を契機に様々な恋愛ヒントが披露された本イベント。会場は大きな笑いと拍手に包まれた。 paristatdayois.jpg ●『パリ、ただよう花』 http://www.uplink.co.jp/hana/ 渋谷アップリンク、新宿K’s CINEMAほか全国順次公開中 北京からパリにやってきたばかりの若い教師、花。なじみのない街で彼女は様々な男と体を重ね、自分の狭いアパートと大学の間、かつての恋人たちとフランスで新たに出会った人々の間を漂う。ある日、建設工のマチューという男と出会う。一目で恋に落ちた二人は、激しく肉体を求め合う。お互い、秘密を抱えたまま……。異なる人種や文化、暴力と優しさ、愛とセックスのはざまで揺れ動くある女性の“愛の問題”を描く、本作をもって5年間の中国国内での映画製作の禁止が解かれたロウ・イエ版『ラスト・タンゴ・イン・パリ』 ☆ヴェネチア国際映画祭2011ヴェニス・デイズ正式出品、トロント国際映画祭2011正式出品 監督・脚本:ロウ・イエ/脚本:リウ・ジエ/撮影:ユー・リクウァイ/出演:コリーヌ・ヤン、タハール・ラヒム(仏・中国/2011年/105分)

「やっぱり、“こっち側”?」堀北真希が声優を目指すアニヲタ女子を好演!『麦子さんと』

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(C)『麦子さんと』製作委員会
 今週紹介する最新映画は、堀北真希主演のハートウォーミングな母子のドラマと、冒険レースを繰り広げる飛行機が主人公のディズニーアニメ。日ごと寒さが深まるこの時期、ぜひ好みの作品で心から温まって、あるいはアツく盛り上がっていただきたい。  『麦子さんと』は、『純喫茶磯辺』(08)の吉田恵輔監督が実体験もまじえながら、長く離れて暮らしていた母と娘の関係と愛情を描いたオリジナル作品。声優を目指すアニヲタ女子・麦子(堀北)は、パチンコ店で働く無責任な兄・憲男(松田龍平)と2人暮らし。ある日、兄妹が幼い頃に家を出たまま音信不通だった母親の彩子(余貴美子)が突然現れ、同居することに。麦子は母を許せず心ない言葉を投げつけるが、重い病を隠していた彩子はほどなく他界。納骨のため母の田舎を訪れた麦子は、若い頃の彩子とそっくりな外見から町の人々に歓迎され、それまで知らなかった母の人生に触れる。  心を閉ざし生前の母につらく当たってしまった麦子が、町の人々と触れ合い彩子の思い出を聞くうちに、母の愛情を知り自らも精神的に成長する様子を、堀北が抑えた演技で繊細に表現。仏頂面のままアニメ声でキャラのセリフをそらんじるシーンや、ダメ兄を演じる松田とのやりとりも楽しい。アイドル歌手を夢見て田舎を飛び出した母、母と反発していた娘の和解の物語といえば、今年大きな話題になったNHK朝ドラ『あまちゃん』を思わせるが、実は吉田監督が8年越しで構想してきた企画。自身が迷惑をかけた母と死別し、感謝を伝えられなかった体験も、確かに作品に投影されている。随所でくすくすと笑えて、いつの間にか自らの肉親を思って涙ぐんでしまうような好作だ。  もう1本の『プレーンズ』(2D/3D上映)は、ピクサーの人気アニメ『カーズ』(06)の世界観から生まれた、意志を持つ飛行機が空の冒険を繰り広げるCGアニメーション作品。田舎の農場で働く農薬散布機のダスティは、世界最速のレーサーを夢見ているが、現実には高所恐怖症のため低空飛行しかできない。それでも夢をあきらめきれず、仲間の応援も受けて世界一周レースへの出場を果たす。最新鋭の飛行機たちに性能で劣りながらも、各ステージでアクロバット飛行を駆使し、最下位から徐々に順位を上げていくダスティ。だが、インドからスタートしたステージで、目前に世界最高峰のヒマラヤ山脈が立ちはだかる。  ピクサーアニメの立役者、ジョン・ラセターが自ら監督した『カーズ』と共通するのは、人間が存在しない代わりに、自動車や飛行機などの乗り物が意志を持ち、レースや冒険に挑戦する世界。ピクサーがディズニーの子会社になり、ラセターもいまやディズニーアニメの幹部に出世したことで実現した企画だが、ディズニーが制作したことでよりウェルメイドになった反面、ピクサーらしい脚本の独特なクセが弱まった感も。とはいえ、3Dで見る空中のアクロバットシーンや米空母上での場面などはリアルかつ迫力満点だし、擬人化された乗り物キャラに素直に感情移入できるなら、童心に帰ってスリリングな空の冒険の旅を楽しめるはずだ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『麦子さんと』作品情報 <http://eiga.com/movie/78246/> 『プレーンズ』作品情報 <http://eiga.com/movie/77782/>

映画以上に映画宣伝が面白かった時代があった! 宣伝マンの過剰な情熱『映画宣伝ミラクルワールド』

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1977年に公開されたイタリア映画『サスペリア』の広告。「決してひとりでは見ないでください―」という惹句はその年の流行語となった。
 消費者を欺く食品偽装が次々と発覚する騒ぎとなった2013年だが、かつては詐欺行為ギリギリの誇大宣伝が平然と出回っていた大らかな(?)時代があった。1970年代後半から80年代前半にかけての映画宣伝は異常なまでの熱気をはらみ、奇天烈なキャッチコピーやポスターに釣られた若者たちが映画館へとぞろぞろと向かった。まるでハーメルンの笛吹きに操られているかのように。そんな過剰な映画宣伝の急先鋒を務めていたのが東宝東和だった。映画ジャーナリストの斉藤守彦氏が上梓した『映画宣伝ミラクルワールド 東和・ヘラルド・松竹富士 独立系配給会社黄金時代』(洋泉社)は東宝東和を中心に、ライバル関係にあったヘラルド、東宝東和の影響を強く受けた松竹富士といった独立系配給会社がメジャー系に負けじと、いやそれ以上に目立ちまくっていた、かつての映画業界を検証したノンフィクション本である。  70年代から80年代にかけて日本で劇場公開された洋画を振り返ると、メジャー大作ではないのに妙に記憶に焼き付いている作品が多いことに気づく。オカルトブームを盛り上げたイタリアンホラー『サスペリア』(77)、主人公が高木ブーに似ているという理由で邦題が決まった人気コメディシリーズ『Mr.BOO!/ミスター・ブー』(76=日本公開は79)、香港映画なのにハリウッド大作と思わせた『キャノンボール』(81)、ヒューマン感動作として売り出されたデヴィッド・リンチ監督作『エレファント・マン』(80)、ノンスターながら特大ヒットとなった『ブッシュマン』(81)……。どれも東宝東和が配給宣伝を手掛けた作品だ。作品の内容よりも、むしろ公開当時の過剰なまでの宣伝がインパクトを残した。  そんな東宝東和の宣伝チームの中心にいたのが“伝説の宣伝マン”松本勉氏。彼が放った初ヒット作が『サスペリア』だった。当時の日本ではダリオ・アルジェント監督はまったくの無名。しかも、宣伝用の素材はほとんどない。宣伝期間はわずか3カ月弱しかなかった。そんな不利な状況で、松本氏は「決してひとりでは見ないでください──」という秀逸なコピーを発案。主演女優ではなく、助演女優の怯えた表情をメインビジュアルに選んだ“伝説の映画デザイナー”檜垣紀六氏が手掛けたポスターに、そのコピーはぴったりハマった。松本&檜垣の黄金コンビの活躍によって『サスペリア』は77年公開洋画の第6位となる10億8,800万円の配給収入を生み出す。  東宝東和のイベント宣伝も強烈だ。ミミズの大群が人間を襲うパニック映画『スクワーム』(76)の公開時には、銀座の真ん中に置いた水槽に1万2,000匹ものミミズと現金10万円を入れてのつかみ取り大会“銀座ミミズ地獄”を催している。イベントには映画とは無関係の水着美女も登場した。ミミズの大群、現金つかみ取り、水着美女……。下世話だが、スポーツ新聞や週刊誌の記事にもってこいのネタだった。青春映画『個人授業』(83)の公開時には、人気ストリッパー・美加マドカを呼んでの“童貞クンコンテスト”が開かれた。果たしてどれだけ興行につながったのか定かではないが、公開の度にあの手この手でイベントを仕込む映画宣伝マンの情熱のほとばしりを感じさせるではないか。  日本人がよりシンパシーを覚える邦題をひねり出すのも、東宝東和の伝統だった。松本氏を上座にした邦題会議では“意味はわからなくとも、一度目にしたら忘れられないモノ”が求められた。「邦題には必ず、“ン”と濁音を入れるべし」が松本氏のこだわりだ。これは薬品のネーミングがヒントとなっていた。「薬品の名称には“ン”と濁音が入っていて、広告やCMスポットにも映え、聴覚的にもインパクトがある」と松本氏は語る。松本氏らが知恵を絞って煮詰めた邦題は、映画ファンの体によく効いた。
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“伝説の映画デザイナー”檜垣紀六氏が手掛けた『ランボー』の宣伝ビジュアルはレーザーディスクのジャケにも使われた。
 東宝東和が考えた邦題がハリウッドに逆輸入された有名例がシルヴェスター・スタローン主演の『ランボー』(82)。原題は『First Blood』だったが、よりインパクトのあるネーミングを求めた結果、主人公の名前ランボーがそのまま邦題となった。ベトナム戦争の帰還兵ランボー=乱暴もの、という語呂の良さから日本人の耳に馴染み、スマッシュヒットに。スタローンから感謝状が届き、シリーズ2作目からは『Rambo』が米国でも正式タイトルとなった。ちなみに『ランボー』の日本版ポスターでスタローンが機関銃を構えているカットは本編には登場しない。銃を持っているのは、デザイナー檜垣氏の腕である。しかも背景となっている夕焼け空は、東宝東和の社員旅行で熱海に繰り出した際に撮ったものらしい。当時の洋画宣伝の現場がノリノリで創造性に富んでいたことがうかがえるエピソードだ。  いかにイケイケだった東宝東和とはいえ、当然ながら空振りに終わった作品も少なくない。その代表例が後にカルト的ホラー映画としてリメイクされることになる『サランドラ』(77=日本公開は84)。劇中にほんの一瞬だけ軍用ナイフが映ることから、そのナイフを勝手にジョギリと命名し、“全米が震え上がった! これが噂のジョギリ・ショックだ!”なるコピーが付けられた。日本版ポスターには宣伝スタッフが買ってきた巨大ナイフが使われた。ジョギリ・ショックなる謎の言葉に釣られて劇場に足を運んだ観客は殺人鬼がジョギリを使って殺戮を繰り広げるシーンを期待したものの、本編にはジョギリの出番はまるでなし。劇場に飾られていた木製ジョギリは初日のうちに観客にへし折られ、興行結果も散々な結果に。いくら過剰に宣伝を仕掛けても、作品内容と掛け離れていると観客の怒りを買うという見本となった。  やがて80年代半ばに入ると、家庭用ビデオデッキが普及し、映画マーケットも大きく変貌していく。微妙な作品、眉唾っぽい作品は劇場公開後にビデオ化されてから観ればいいという選択肢を観客は持つようになる。アドバダイジング(広告製作)に力を注いでいた東宝東和の宣伝スタイルは、次第にパブリシティー(新聞や雑誌への露出)中心に比重を変えざるを得なくなっていく。ハッタリやこけおどしが通用する時代ではなくなったのだ。同時に、若い映画ファンの「今度は騙されないよな?」とドキドキしながら映画館に向かう楽しみも消失していく。香具師の巧みな口上に乗せられて、つい財布を開けてしまっていた高揚感も映画館からなくなったように思う。  当時の映画ファンは映画本編とは別に、ユニークな邦題やインパクトのあるポスターから勝手に想像した妄想映画を自分の脳内で上映して楽しんでいたのではないだろうか。新聞広告やポスターを見てから映画館に入るまでの時間が無性にワクワクしていたことが思い出される。映画宣伝マンたちの過剰な情熱こそが映画ファンの心を掻き立て、数々のヒット作を生み出していたのだ。当時の東宝東和なら、『007は二度死ぬ』(67)を上回る怪作『47RONIN』も、おもしろおかしく宣伝展開していただろうになぁとわびしく感じる。

映画以上に映画宣伝が面白かった時代があった! 宣伝マンの過剰な情熱『映画宣伝ミラクルワールド』

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1977年に公開されたイタリア映画『サスペリア』の広告。「決してひとりでは見ないでください―」という惹句はその年の流行語となった。
 消費者を欺く食品偽装が次々と発覚する騒ぎとなった2013年だが、かつては詐欺行為ギリギリの誇大宣伝が平然と出回っていた大らかな(?)時代があった。1970年代後半から80年代前半にかけての映画宣伝は異常なまでの熱気をはらみ、奇天烈なキャッチコピーやポスターに釣られた若者たちが映画館へとぞろぞろと向かった。まるでハーメルンの笛吹きに操られているかのように。そんな過剰な映画宣伝の急先鋒を務めていたのが東宝東和だった。映画ジャーナリストの斉藤守彦氏が上梓した『映画宣伝ミラクルワールド 東和・ヘラルド・松竹富士 独立系配給会社黄金時代』(洋泉社)は東宝東和を中心に、ライバル関係にあったヘラルド、東宝東和の影響を強く受けた松竹富士といった独立系配給会社がメジャー系に負けじと、いやそれ以上に目立ちまくっていた、かつての映画業界を検証したノンフィクション本である。  70年代から80年代にかけて日本で劇場公開された洋画を振り返ると、メジャー大作ではないのに妙に記憶に焼き付いている作品が多いことに気づく。オカルトブームを盛り上げたイタリアンホラー『サスペリア』(77)、主人公が高木ブーに似ているという理由で邦題が決まった人気コメディシリーズ『Mr.BOO!/ミスター・ブー』(76=日本公開は79)、香港映画なのにハリウッド大作と思わせた『キャノンボール』(81)、ヒューマン感動作として売り出されたデヴィッド・リンチ監督作『エレファント・マン』(80)、ノンスターながら特大ヒットとなった『ブッシュマン』(81)……。どれも東宝東和が配給宣伝を手掛けた作品だ。作品の内容よりも、むしろ公開当時の過剰なまでの宣伝がインパクトを残した。  そんな東宝東和の宣伝チームの中心にいたのが“伝説の宣伝マン”松本勉氏。彼が放った初ヒット作が『サスペリア』だった。当時の日本ではダリオ・アルジェント監督はまったくの無名。しかも、宣伝用の素材はほとんどない。宣伝期間はわずか3カ月弱しかなかった。そんな不利な状況で、松本氏は「決してひとりでは見ないでください──」という秀逸なコピーを発案。主演女優ではなく、助演女優の怯えた表情をメインビジュアルに選んだ“伝説の映画デザイナー”檜垣紀六氏が手掛けたポスターに、そのコピーはぴったりハマった。松本&檜垣の黄金コンビの活躍によって『サスペリア』は77年公開洋画の第6位となる10億8,800万円の配給収入を生み出す。  東宝東和のイベント宣伝も強烈だ。ミミズの大群が人間を襲うパニック映画『スクワーム』(76)の公開時には、銀座の真ん中に置いた水槽に1万2,000匹ものミミズと現金10万円を入れてのつかみ取り大会“銀座ミミズ地獄”を催している。イベントには映画とは無関係の水着美女も登場した。ミミズの大群、現金つかみ取り、水着美女……。下世話だが、スポーツ新聞や週刊誌の記事にもってこいのネタだった。青春映画『個人授業』(83)の公開時には、人気ストリッパー・美加マドカを呼んでの“童貞クンコンテスト”が開かれた。果たしてどれだけ興行につながったのか定かではないが、公開の度にあの手この手でイベントを仕込む映画宣伝マンの情熱のほとばしりを感じさせるではないか。  日本人がよりシンパシーを覚える邦題をひねり出すのも、東宝東和の伝統だった。松本氏を上座にした邦題会議では“意味はわからなくとも、一度目にしたら忘れられないモノ”が求められた。「邦題には必ず、“ン”と濁音を入れるべし」が松本氏のこだわりだ。これは薬品のネーミングがヒントとなっていた。「薬品の名称には“ン”と濁音が入っていて、広告やCMスポットにも映え、聴覚的にもインパクトがある」と松本氏は語る。松本氏らが知恵を絞って煮詰めた邦題は、映画ファンの体によく効いた。
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“伝説の映画デザイナー”檜垣紀六氏が手掛けた『ランボー』の宣伝ビジュアルはレーザーディスクのジャケにも使われた。
 東宝東和が考えた邦題がハリウッドに逆輸入された有名例がシルヴェスター・スタローン主演の『ランボー』(82)。原題は『First Blood』だったが、よりインパクトのあるネーミングを求めた結果、主人公の名前ランボーがそのまま邦題となった。ベトナム戦争の帰還兵ランボー=乱暴もの、という語呂の良さから日本人の耳に馴染み、スマッシュヒットに。スタローンから感謝状が届き、シリーズ2作目からは『Rambo』が米国でも正式タイトルとなった。ちなみに『ランボー』の日本版ポスターでスタローンが機関銃を構えているカットは本編には登場しない。銃を持っているのは、デザイナー檜垣氏の腕である。しかも背景となっている夕焼け空は、東宝東和の社員旅行で熱海に繰り出した際に撮ったものらしい。当時の洋画宣伝の現場がノリノリで創造性に富んでいたことがうかがえるエピソードだ。  いかにイケイケだった東宝東和とはいえ、当然ながら空振りに終わった作品も少なくない。その代表例が後にカルト的ホラー映画としてリメイクされることになる『サランドラ』(77=日本公開は84)。劇中にほんの一瞬だけ軍用ナイフが映ることから、そのナイフを勝手にジョギリと命名し、“全米が震え上がった! これが噂のジョギリ・ショックだ!”なるコピーが付けられた。日本版ポスターには宣伝スタッフが買ってきた巨大ナイフが使われた。ジョギリ・ショックなる謎の言葉に釣られて劇場に足を運んだ観客は殺人鬼がジョギリを使って殺戮を繰り広げるシーンを期待したものの、本編にはジョギリの出番はまるでなし。劇場に飾られていた木製ジョギリは初日のうちに観客にへし折られ、興行結果も散々な結果に。いくら過剰に宣伝を仕掛けても、作品内容と掛け離れていると観客の怒りを買うという見本となった。  やがて80年代半ばに入ると、家庭用ビデオデッキが普及し、映画マーケットも大きく変貌していく。微妙な作品、眉唾っぽい作品は劇場公開後にビデオ化されてから観ればいいという選択肢を観客は持つようになる。アドバダイジング(広告製作)に力を注いでいた東宝東和の宣伝スタイルは、次第にパブリシティー(新聞や雑誌への露出)中心に比重を変えざるを得なくなっていく。ハッタリやこけおどしが通用する時代ではなくなったのだ。同時に、若い映画ファンの「今度は騙されないよな?」とドキドキしながら映画館に向かう楽しみも消失していく。香具師の巧みな口上に乗せられて、つい財布を開けてしまっていた高揚感も映画館からなくなったように思う。  当時の映画ファンは映画本編とは別に、ユニークな邦題やインパクトのあるポスターから勝手に想像した妄想映画を自分の脳内で上映して楽しんでいたのではないだろうか。新聞広告やポスターを見てから映画館に入るまでの時間が無性にワクワクしていたことが思い出される。映画宣伝マンたちの過剰な情熱こそが映画ファンの心を掻き立て、数々のヒット作を生み出していたのだ。当時の東宝東和なら、『007は二度死ぬ』(67)を上回る怪作『47RONIN』も、おもしろおかしく宣伝展開していただろうになぁとわびしく感じる。

「今年最高の3D映画」との呼び声多し! サンドラ・ブロック×ジョージ・クルーニー『ゼロ・グラビティ』

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(C)2013 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.
 今週紹介する最新映画は、宇宙空間で孤立してしまった宇宙飛行士と、セレブ宅の空き巣を繰り返す少女グループをそれぞれ描く2本。われわれ一般の観客にはおよそ縁のない特殊な状況を、スリリングに疑似体験させてくれる作品だ。  公開中の『ゼロ・グラビティ』(2D/3D上映)は、『トゥモロー・ワールド』(06)のアルフォンソ・キュアロン監督がサンドラ・ブロックを主演に迎え、最新VFXと3D技術を駆使して描いたSFドラマ。地球上空60万メートルのスペースシャトル船外で作業をしていたメディカルエンジニアのストーン博士(ブロック)とベテラン宇宙飛行士のマット(ジョージ・クルーニー)は、破壊された人工衛星の破片群が猛烈なスピードでシャトルに襲いかかる事故に遭遇。シャトルは大破し、ほかの乗組員は死亡。2人は宇宙空間に放り出されてしまう。酸素の残量はわずかで地球との交信手段も断たれたストーンとマットは、互いの身体を1本のロープでつなぎ、小型ジェット推進装置を使って国際宇宙ステーションを目指すが……。  冒頭の和やかな船外作業から、NASA管制官からの緊急避難の呼びかけ(声の出演は『アポロ13』のエド・ハリスという憎いキャスティング)、流星群のように襲いかかる宇宙ゴミ、投げ出される主人公らという急展開が、相当な尺の「長回し」で描き出されることにまず圧倒される。その間にも自在に動き回る視点が宇宙飛行士のヘルメットの中に入ったり出たりと、実際にはVFXを駆使した擬似的な長回しなのだが、実写とCGのつなぎ目をまったく感じさせない自然な映像に、観客もまた2人が遭遇する予想外のアクシデントを間近で目撃している気分になるはず。『しあわせの隠れ場所』(09)でアカデミー賞最優秀主演女優賞を獲得したサンドラ・ブロックは、大半のシーンで一人芝居という難役ながら、不安、恐怖、絶望、そして生還する意志を説得力十分に演じ切り、本作でもオスカー候補の呼び声が高い。新開発の技術も駆使して創り出された3D映像は、宇宙空間の奥行き、シャトルの壮絶な事故、無重力空間に漂う宇宙飛行士などを驚異的な臨場感で描き出すことに成功しており、今年最高の3D映画と断言したい傑作だ。  続いて12月14日公開の『ブリングリング』(R15+)は、ソフィア・コッポラ監督、エマ・ワトソン主演で実際に起きた少女窃盗団を題材に描く青春ドラマ。ロサンゼルスの高級住宅街カラバサスに暮らす少女ニッキー(ワトソン)らは、近隣に邸宅を構えるハリウッドセレブの華麗な生活や身にまとうブランド品に憧れ、意気投合する。彼らはネットの地図でセレブ宅を調べ、SNS等で得た情報で留守になる隙を狙って侵入。あっけなく空き巣に成功し、また盗んだブランド品が周囲から羨望を集めることにも味をしめ、通称「ブリングリング」(キラキラしたやつら)の5人組は大胆に空き巣を繰り返していく。  先月公開の『ウォールフラワー』に続き、エマ・ワトソンが“脱ハーマイオニー”と言わんばかりの奔放な不良少女役に挑戦。エキセントリックな言動とある種のカリスマ性が周囲を巻き込んでゆくティーン窃盗団の中心人物を、心に問題を抱えた痛々しさも込みで魅力的に演じた。ガーリー・カルチャーを牽引してきたソフィア・コッポラ監督らしく、『マリー・アントワネット』(06)と同様にファッションやジュエリーのきらびやかさが女性観客の目を楽しませてくれそう。実際に事件の被害にあったパリス・ヒルトンが自宅をロケ地として提供したことも話題で、セレブの生活をのぞき見る俗っぽい快感も味わえる。その一方で、華美なブランド品に憧れSNSで仲間意識を確認する若者の、内面の空虚さと孤独感を浮き彫りにした切実な作品でもある。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ゼロ・グラビティ』作品情報 <http://eiga.com/movie/57690/> 『ブリングリング』作品情報 <http://eiga.com/movie/78304/>

ツッコミどころ満載!? 自由すぎるハリウッド版忠臣蔵『47RONIN』

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(C)Universal Pictures/配給:東宝東和/12月6日(金)世界最速公開
 今週注目の最新映画はなんといっても、自由すぎるハリウッド版忠臣蔵、キアヌ・リーブス主演の『47RONIN』(12月6日公開、2D/3D上映)がユニークさの点でダントツだろう。5代将軍徳川綱吉の時代、赤穂の領主・浅野(田中泯)は、吉良(浅野忠信)と妖術使い・ミヅキ(菊地凛子)の奸計(かんけい)により刃傷沙汰を犯し、切腹。藩士の大石(真田広之)らは侍の身分を奪われ、浪人となる。幼少のころ山麓で拾われ、浅野の娘ミカ(柴咲コウ)と心を通わせて成長したカイ(リーブス)は、大石に請われ、主君の仇討ちに決起した浪人衆と合流。わずか47人で、圧倒的な吉良軍勢に立ち向かう。  有名な赤穂浪士討ち入り事件の経緯をゆるやかになぞりつつも、巨大な幻獣が暴走し、妖術が駆使され、天狗も登場したりと、相当に自由な発想で組み立てられたストーリー。長崎の出島で奴隷として地下格闘試合に出場していたカイの脱出劇は『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのようだし、最新CGを駆使したクライマックスのバトルは、キアヌ・リーブスが主役ということもあり『マトリックス』シリーズで描かれた仮想世界のひとつかと錯覚するほど。伝統的な仇討ちの物語に、ファンタジー要素を加味して壮大に構築した“ネオ時代劇”といえるかもしれない。なぜか中国風の城郭や衣装、髪型も含め、奇天烈な世界観や細部にツッコミを入れながら,楽しく鑑賞したい。  続いて12月7日に封切られる、市川海老蔵主演の『利休にたずねよ』も、また異なるアプローチの新たな時代劇といえそうだ。豊臣秀吉(大森南朋)に疎まれ切腹を命じられた、希代の茶人・利休(海老蔵)。死に向かう朝、妻(中谷美紀)の言葉で、秘めた過去の記憶を蘇らせる。若い頃、色街に入り浸っていた利休は、高麗からさらわれてきた女と出会う。その気品と美しさに心を奪われ、別れを目前に控えた夜、ある事件を引き起こす。  第140回直木賞を受賞した山本兼一の同名小説を、『火天の城』の田中光敏監督が映画化。さすがは歌舞伎俳優と思わせる海老蔵の美しい所作、絢爛豪華な美術と衣装、そして名品・逸品揃いの茶器の数々が、クリアで瑞々しい映像によって空気感や質感までしっかりと再現された。今年2月に他界した市川團十郎と海老蔵の親子共演をはじめ、伊勢谷友介、成海璃子、檀れい、柄本明、伊武雅刀ほか、名だたる共演陣のぜいたくな起用も見どころだ。こちらは日本の伝統的な美意識や価値観を、現代的な視点から真摯に見つめ直した作品として堪能したい。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『47RONIN』作品情報 <http://eiga.com/movie/56095/> 『利休にたずねよ』作品情報 <http://eiga.com/movie/77761/>

トム・ハンクスが迫真の演技で魅せる“普通の男”『キャプテン・フィリップス』

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 今週紹介する最新映画は、ベテランのハリウッドスターたちが奮闘するアクションとサスペンスの2作品。シニアな主人公らの体を張った活躍に、中堅・若手世代の観客も大いに刺激を受けるはず。  『REDリターンズ』(11月30日公開)は、引退した元CIA工作員らが国家的陰謀に立ち向かう姿を豪華スター競演で描いた娯楽アクション大作『RED レッド』(2010)の続編。CIAからRED=「引退した超危険人物」のコードネームで呼ばれるフランク(ブルース・ウィリス)、マービン(ジョン・マルコビッチ)、ビクトリア(ヘレン・ミレン)らは、米ソ冷戦時代の極秘核兵器開発計画が露見したのを機に、再び戦いの舞台に呼び戻される。狂気をはらむ物理学者ベイリー(アンソニー・ホプキンス)、REDメンバーの暗殺指令を受けたハン(イ・ビョンホン)といった面々が入り乱れ、刻一刻と迫る核爆発の危機を、フランクらは救うことができるのか……。  銃火器をブッ放すド派手なバトルは前作と同様だが、新たにイ・ビョンホンが参戦したことで、格闘アクションの見せ場が大増量。ウィリスとビョンホンのマッチアップは、今年6月に公開された『G.I.ジョー バック2リベンジ』で実現していて既視感を覚えなくもないが、細かいことは気にせずスピーディーな展開に身を委ねて楽しもう。メアリー=ルイーズ・パーカーが演じるサラは、前作ではREDの死闘に巻き込まれてしまうツイてない素人女性だったが、本作では晴れてフランクの恋人になり、さまざまなスキルを教わってメンバー顔負けの活躍を見せる点も痛快だ。  もう1本の『キャプテン・フィリップス』(公開中)は、米貨物船の船長がソマリアの海賊の人質になった実際の事件を、トム・ハンクス主演で映画化したサスペンスドラマ。09年春、ケニアへの支援物資を積みソマリア海域を航行していた米船籍のコンテナ船が、マシンガンで武装した海賊に襲われる。ベテラン船長のフィリップスは、乗組員20人に機関室に隠れるよう指示し、船が占拠された後もたった1人で海賊らと根気強く交渉。現金3万ドルを手渡し、船を離れるよう説得できたかに思えたが、海賊たちが乗り込んだ救命艇を発進させる際、フィリップスは拘束され人質に取られてしまう。  監督は『ジェイソン・ボーン』シリーズ2作品や、『ユナイテッド93』(06)、『グリーン・ゾーン』(06)のポール・グリーングラス。リアリズムにこだわるアクション演出と、実話ベースのドラマをスリリングに再現する構成力を、本作でも存分に発揮した。アカデミー賞主演男優賞に2度輝いたトム・ハンクスは、死の恐怖に直面しながらも乗組員を守るため勇気を振り絞り、家族のもとに生きて帰りたいと願う「普通の男」を迫真の演技で演じきった。米海軍特殊部隊ネイビーシールズによる、ハイテクを駆使した救出作戦の様子も生々しく再現され、思わず手に汗握ってしまうはず。一方で、海賊という非常手段に訴えるしかないソマリア人たちの窮状への言及もあり、国際的な格差の問題について考えさせる相対的な視点も見逃せない。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『REDリターンズ』作品情報 <http://eiga.com/movie/57263/> 『キャプテン・フィリップス』作品情報 <http://eiga.com/movie/58257/>