N国党のやり方で、あなたも議員になれる!? ポピュリズムの暴走を誘うグロテスクな戦略

 史上2番目の低投票率となる48.8%を記録した参院選を振り返る本企画。前編では、中島氏が「日本政治史上の事件」と語る山本太郎登場の意味が語られるとともに、立憲民主党とてを組むことによる政権交代の可能性にまで話が拡大していった。後編では、れいわ新選組とともに今回の参院選で大きく注目されたN国党、そして、来年に総裁選挙を控える自民党の動きについて聞いた。

 はたして日本の政治は、この先どこへ向かっていくのだろうか?

■N国党の持つ可能性

──前編ではれいわ新選組が「闘技デモクラシー」を起動させ、左派ポピュリズムを味方につけたという話がなされました。その一方、同じく「ポピュリズム」と言われ、政見放送においては「カーセックス」を連呼しながらながらも1議席を獲得した「NHKから国民を守る会」についてはいかがでしょうか?

中島:まず、彼らの主張する内容は、政治的に全く同意できません。

 ただし選挙戦略としては、「政治学を勉強していたのではないか」と思うくらいのとても賢い戦略をとっています。彼らが目をつけたのは、日本の不統一な選挙制度です。衆議院の小選挙区制ばかりが議論されがちですが、地方議会議員選挙では一つの選挙区から複数名が当選する大選挙区制がとられています。この選挙制度では、少ない得票数で当選が可能です。彼らは地方政治から攻めはじめ、インターネットを駆使するだけで動員が可能な数千票を獲得することで、地方議会に議席を獲得しました。この勢力をベースにしながら選挙区で候補を擁立し、比例で1議席を獲得するだけでなく、全国で2パーセント以上の得票という政党要件を満たしていったんです。

 これは戦略としては巧みなものであり、本来リベラル勢力もこのやり方を学べるはずです。市民グループが本当に取り組みたい「子育て」「年金」といった問題を掲げてシングルイシュー政党を結党し、1議席を獲得する。そして、外交問題などにおいてはほかの党に協力する代わりに、掲げているイシューに関しては飲み込んでもらうという戦略が取れるんです。

──山本太郎氏も演説の中で人々の情動を刺激したように、N国も「NHKが気に入らない」という国民の情動を掴んでいました。今回の選挙ではポピュリズムとともに、それを支える「情動」がキーワードだったように感じます。

中島:前編でも紹介したベルギーの政治学者シャンタル・ムフは、左派は合理主義的な政策論を展開するあまり、大衆から乖離してしまったと記します。彼女の議論の中心となるのは大衆の情念をどのように起動させるか、ということなんです。

 ただし、もちろん情動の功罪はあります。

 右派ポピュリズムは、ナショナリズムへと向かい、愛国、排外主義といった面を強く押し出しました。メディア、教育、アカデミズムといった既得権益と考えられている層へのバッシングを行い、人気を獲得していく。このようなやり方を日本で起動させたのは日本維新の会・橋下徹氏でした。N国党のポピュリズムは右派ポピュリズムのグロテスクな姿であり、日本維新の会との連続性が見られるんです。

──北方領土への視察時に「戦争しないとどうしようもない」などと発言し、日本維新の会を除名された丸山穂高議員も参院選後、N国党に入党していますね。

中島:そしてポピュリズムは、暴走するととても危険な状態をもたらす。今回の選挙では、SNS上などでれいわ新選組の支持者と立憲民主党支持者の間に激しい応酬が繰り広げられていましたが、ポピュリズムにおいては有権者の「感情」が動員されるので「枝野が気に入らない」「山本が邪魔だ」となれば、相手を感情的に攻撃してしまう。これは、ポピュリズムのネガティブな側面です。

 だから、ポピュリズムにおいては抑制できるもう一方の車輪として「熟議」が必要になる。そして、その役割をまずは野党第一党の立憲民主党が担うべきです。一方、残念ながら、右派ポピュリズムには熟議が機能していないのが現状です。

■自民党はネオコン政党になる

──では、今回の参院選の結果を踏まえて、自民党側はどのような政権運営を行っていくと考えられますか?

中島:普通に考えれば、オリンピックを契機に安倍首相が退任し、その後衆院選に打って出るという形になると思います。現在、次の総理大臣として菅義偉官房長官が有力候補と目されていますが、安倍氏は次の内閣に対してどのように自分の影響力を残せるかを考えているでしょう。それは、おそらく、自分に近い加藤勝信総務会長や萩生田光一幹事長代行などを幹事長に据えたいと考えているはず。政権が次の総理大臣に移った時、与党支持率が高い場合はすぐに解散、そうでなければ21年の衆議院議員任期が迫る中で解散という形を選ぶのではないかと思います。

 ただし、安倍首相が勝負を仕掛けてくるならば、まったく異なる道筋も見えてきます。

 現在、野党は選挙に対してまったく体制を整えられておらず、今、選挙戦を仕掛けたら自民党は圧勝することが可能かもしれない。消費増税の影響は3カ月程度で出てくるはずなので、年内に仕掛ける可能性もなくはありません。特に、安倍総理が自民党総裁4選を真剣に考えているのであればやるしか手はないでしょうね。

──中島さんは先日、『自民党 価値とリスクのマトリクス』(スタンド・ブックス)を上梓し、安倍晋三、石破茂、菅義偉、小泉進次郎など、現在の自民党の有力者たち9名の思想をその著書やインタビューなどから分析し、マトリクス化しています。

中島:政治はおもに「お金」と「価値」を巡って行われます。この「お金」を、「リスクの社会化」と「リスクの個人化」という軸で、そして夫婦別姓や同性婚といった「価値」の問題を「リベラル」と「パターナル」という軸で読み解き、自民党の政治家をマトリクス上にプロットしながら今の自民党の姿を浮き彫りにしています。

 マトリクスを作成してみてわかったことは、一見するとパターナルでリスクを個人化する安倍晋三氏から、リベラルでリスクの社会化をねらう野田聖子氏まで、自民党のリーダーは多様に見えること。ただし、彼らは20年前の河野洋平氏などが主導権を握っていた時代に初当選を果たしており、河野洋平氏や宮沢喜一氏などハト派として知られる宏池会出身の人々が中心となって選んだことで、多様性が担保されているんです。

 しかし、これまで安倍内閣で5回の選挙が行われています。自民党の衆議院議員のうち、過半数は安倍政権、もしくは安倍執行部の時代に初当選を果たした人々。パターナルでリスクを個人化させる信念を持った彼らが実権を握る10年後、自民党には多様性が失われ“ネオコン(新保守主義)的なイデオロギーだけの政党”になっていくでしょうね。

──「ネオコン政党」と化した自民党は、よりリスクを個人化しパターナルな価値観を推し進めていく……ということになりそうですね。

中島:かつて、自民党は決してそのような政党ではありませんでした。80年代までの自民党は保守本流を掲げ、リスクを社会化していくことを是としていたんです。例えば、田中角栄は、地元利権をフル活用し不透明な再配分を行った。高速道路、新幹線などで田舎の土建屋にカネを落とすことによって彼らを集票マシーンにしていったんです。その一方で裏金が飛び交い、権力者の言うことを聞かなければならない息苦しい時代でした。

 これを改革するにあたって、目指すべきは「透明な再配分」だったのに、再配分の構造そのものが否定され、リスクを個人が引き受ける時代に突入していく。橋本龍太郎氏や小泉純一郎氏らが構造改革を推し進め、リスクを個人化していったことによって生まれたのは1%の金持ちと99%の貧乏人という格差の構図です。それに加えて、安倍首相がパターナルな価値の方へと党の流れを引きずっていったんです。

──80年代以前に比較すると、自民党そのものの内実は、ほとんど別政党であるかのように変わってきているんですね。では、そんな自民党に対して、野党はどのような戦略を展開していくべきでしょうか?

中島:野党がとるべき戦略は、リスクを社会化し、リベラルな価値観を提示することだと考えています。実際、預貯金ゼロの国民は3割を超えており、国民の多くはセーフティネットを望んでいる。安倍首相はパターナルでリスクが個人化された社会を目指していますが、実は、そんな政治に対する有権者からの強い支持は少ない。「政権を担える船が一隻しかないから支持する」という消極的なものにすぎません。

──いわゆる「他にいい人がいない」という状況ですね。

中島:しかし、リベラルでリスクを社会化する側にも政権交代可能な船が浮かんでいれば、国民はそちらに乗り移ることができます。だからこそ、前編でもお話したように山本太郎氏と連帯する野党勢力に可能性を感じているんです。

 山本氏は人の情念をつかめる得難い人物であり、あんな人は野党側にはいない。彼はヤンキーのハートをつかむことができ、祭りの神輿を担いで盛り上がれる人物。比喩的に言えば、「くるりではなくエグザイルを聞く人にも寄り添える」のが山本太郎なんです。これは素晴らしい。ヤンキー的マインドを掴めなければ、選挙で勝つことはできない。

 今後、彼が、現在投票に行ってない5割の有権者を動かし、政治の中心になっていくことは十分考えられると思います。 

※写真/石田寛 Ishida Hiroshi

なかじま・たけし

1975年大阪生まれ。大阪外国語大学卒業。京都大学大学院博士課程修了。北海道大学大学院准教授を経て、2017年8月現在は東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。専攻は南アジア地域研究、近代日本政治思想。2005年、『中村屋のボース インド独立運動と近代日本のアジア主義』で大佛次郎論壇賞を受賞。著書に『インドの時代』『秋葉原事件』『パール判事』『「リベラル保守」宣言』『血盟団事件』『ナショナリズムと宗教』『アジア主義』など。最新作『自民党 価値とリスクのマトリクス』がスタンド・ブックスから発売中。

『自民党 価値とリスクのマトリクス』発売:スタンド・ブックス

安倍晋三、石破茂、菅義偉、野田聖子、河野太郎、岸田文雄、加藤勝信、小渕優子、小泉進次郎。9人の有力政治家・首相候補の言葉、著作の分析を積み重ね、現在の自民党の本質をあぶり出す。「リベラル保守」を掲げる政治学者による、これからの日本の選択を考える際の重要な指標となる画期的自民党論。「右」「左」では表しきれない政治のあり方を、「価値」と「リスク」のマトリクスで読み解く!

N国党のやり方で、あなたも議員になれる!? ポピュリズムの暴走を誘うグロテスクな戦略

 史上2番目の低投票率となる48.8%を記録した参院選を振り返る本企画。前編では、中島氏が「日本政治史上の事件」と語る山本太郎登場の意味が語られるとともに、立憲民主党とてを組むことによる政権交代の可能性にまで話が拡大していった。後編では、れいわ新選組とともに今回の参院選で大きく注目されたN国党、そして、来年に総裁選挙を控える自民党の動きについて聞いた。

 はたして日本の政治は、この先どこへ向かっていくのだろうか?

■N国党の持つ可能性

──前編ではれいわ新選組が「闘技デモクラシー」を起動させ、左派ポピュリズムを味方につけたという話がなされました。その一方、同じく「ポピュリズム」と言われ、政見放送においては「カーセックス」を連呼しながらながらも1議席を獲得した「NHKから国民を守る会」についてはいかがでしょうか?

中島:まず、彼らの主張する内容は、政治的に全く同意できません。

 ただし選挙戦略としては、「政治学を勉強していたのではないか」と思うくらいのとても賢い戦略をとっています。彼らが目をつけたのは、日本の不統一な選挙制度です。衆議院の小選挙区制ばかりが議論されがちですが、地方議会議員選挙では一つの選挙区から複数名が当選する大選挙区制がとられています。この選挙制度では、少ない得票数で当選が可能です。彼らは地方政治から攻めはじめ、インターネットを駆使するだけで動員が可能な数千票を獲得することで、地方議会に議席を獲得しました。この勢力をベースにしながら選挙区で候補を擁立し、比例で1議席を獲得するだけでなく、全国で2パーセント以上の得票という政党要件を満たしていったんです。

 これは戦略としては巧みなものであり、本来リベラル勢力もこのやり方を学べるはずです。市民グループが本当に取り組みたい「子育て」「年金」といった問題を掲げてシングルイシュー政党を結党し、1議席を獲得する。そして、外交問題などにおいてはほかの党に協力する代わりに、掲げているイシューに関しては飲み込んでもらうという戦略が取れるんです。

──山本太郎氏も演説の中で人々の情動を刺激したように、N国も「NHKが気に入らない」という国民の情動を掴んでいました。今回の選挙ではポピュリズムとともに、それを支える「情動」がキーワードだったように感じます。

中島:前編でも紹介したベルギーの政治学者シャンタル・ムフは、左派は合理主義的な政策論を展開するあまり、大衆から乖離してしまったと記します。彼女の議論の中心となるのは大衆の情念をどのように起動させるか、ということなんです。

 ただし、もちろん情動の功罪はあります。

 右派ポピュリズムは、ナショナリズムへと向かい、愛国、排外主義といった面を強く押し出しました。メディア、教育、アカデミズムといった既得権益と考えられている層へのバッシングを行い、人気を獲得していく。このようなやり方を日本で起動させたのは日本維新の会・橋下徹氏でした。N国党のポピュリズムは右派ポピュリズムのグロテスクな姿であり、日本維新の会との連続性が見られるんです。

──北方領土への視察時に「戦争しないとどうしようもない」などと発言し、日本維新の会を除名された丸山穂高議員も参院選後、N国党に入党していますね。

中島:そしてポピュリズムは、暴走するととても危険な状態をもたらす。今回の選挙では、SNS上などでれいわ新選組の支持者と立憲民主党支持者の間に激しい応酬が繰り広げられていましたが、ポピュリズムにおいては有権者の「感情」が動員されるので「枝野が気に入らない」「山本が邪魔だ」となれば、相手を感情的に攻撃してしまう。これは、ポピュリズムのネガティブな側面です。

 だから、ポピュリズムにおいては抑制できるもう一方の車輪として「熟議」が必要になる。そして、その役割をまずは野党第一党の立憲民主党が担うべきです。一方、残念ながら、右派ポピュリズムには熟議が機能していないのが現状です。

■自民党はネオコン政党になる

──では、今回の参院選の結果を踏まえて、自民党側はどのような政権運営を行っていくと考えられますか?

中島:普通に考えれば、オリンピックを契機に安倍首相が退任し、その後衆院選に打って出るという形になると思います。現在、次の総理大臣として菅義偉官房長官が有力候補と目されていますが、安倍氏は次の内閣に対してどのように自分の影響力を残せるかを考えているでしょう。それは、おそらく、自分に近い加藤勝信総務会長や萩生田光一幹事長代行などを幹事長に据えたいと考えているはず。政権が次の総理大臣に移った時、与党支持率が高い場合はすぐに解散、そうでなければ21年の衆議院議員任期が迫る中で解散という形を選ぶのではないかと思います。

 ただし、安倍首相が勝負を仕掛けてくるならば、まったく異なる道筋も見えてきます。

 現在、野党は選挙に対してまったく体制を整えられておらず、今、選挙戦を仕掛けたら自民党は圧勝することが可能かもしれない。消費増税の影響は3カ月程度で出てくるはずなので、年内に仕掛ける可能性もなくはありません。特に、安倍総理が自民党総裁4選を真剣に考えているのであればやるしか手はないでしょうね。

──中島さんは先日、『自民党 価値とリスクのマトリクス』(スタンド・ブックス)を上梓し、安倍晋三、石破茂、菅義偉、小泉進次郎など、現在の自民党の有力者たち9名の思想をその著書やインタビューなどから分析し、マトリクス化しています。

中島:政治はおもに「お金」と「価値」を巡って行われます。この「お金」を、「リスクの社会化」と「リスクの個人化」という軸で、そして夫婦別姓や同性婚といった「価値」の問題を「リベラル」と「パターナル」という軸で読み解き、自民党の政治家をマトリクス上にプロットしながら今の自民党の姿を浮き彫りにしています。

 マトリクスを作成してみてわかったことは、一見するとパターナルでリスクを個人化する安倍晋三氏から、リベラルでリスクの社会化をねらう野田聖子氏まで、自民党のリーダーは多様に見えること。ただし、彼らは20年前の河野洋平氏などが主導権を握っていた時代に初当選を果たしており、河野洋平氏や宮沢喜一氏などハト派として知られる宏池会出身の人々が中心となって選んだことで、多様性が担保されているんです。

 しかし、これまで安倍内閣で5回の選挙が行われています。自民党の衆議院議員のうち、過半数は安倍政権、もしくは安倍執行部の時代に初当選を果たした人々。パターナルでリスクを個人化させる信念を持った彼らが実権を握る10年後、自民党には多様性が失われ“ネオコン(新保守主義)的なイデオロギーだけの政党”になっていくでしょうね。

──「ネオコン政党」と化した自民党は、よりリスクを個人化しパターナルな価値観を推し進めていく……ということになりそうですね。

中島:かつて、自民党は決してそのような政党ではありませんでした。80年代までの自民党は保守本流を掲げ、リスクを社会化していくことを是としていたんです。例えば、田中角栄は、地元利権をフル活用し不透明な再配分を行った。高速道路、新幹線などで田舎の土建屋にカネを落とすことによって彼らを集票マシーンにしていったんです。その一方で裏金が飛び交い、権力者の言うことを聞かなければならない息苦しい時代でした。

 これを改革するにあたって、目指すべきは「透明な再配分」だったのに、再配分の構造そのものが否定され、リスクを個人が引き受ける時代に突入していく。橋本龍太郎氏や小泉純一郎氏らが構造改革を推し進め、リスクを個人化していったことによって生まれたのは1%の金持ちと99%の貧乏人という格差の構図です。それに加えて、安倍首相がパターナルな価値の方へと党の流れを引きずっていったんです。

──80年代以前に比較すると、自民党そのものの内実は、ほとんど別政党であるかのように変わってきているんですね。では、そんな自民党に対して、野党はどのような戦略を展開していくべきでしょうか?

中島:野党がとるべき戦略は、リスクを社会化し、リベラルな価値観を提示することだと考えています。実際、預貯金ゼロの国民は3割を超えており、国民の多くはセーフティネットを望んでいる。安倍首相はパターナルでリスクが個人化された社会を目指していますが、実は、そんな政治に対する有権者からの強い支持は少ない。「政権を担える船が一隻しかないから支持する」という消極的なものにすぎません。

──いわゆる「他にいい人がいない」という状況ですね。

中島:しかし、リベラルでリスクを社会化する側にも政権交代可能な船が浮かんでいれば、国民はそちらに乗り移ることができます。だからこそ、前編でもお話したように山本太郎氏と連帯する野党勢力に可能性を感じているんです。

 山本氏は人の情念をつかめる得難い人物であり、あんな人は野党側にはいない。彼はヤンキーのハートをつかむことができ、祭りの神輿を担いで盛り上がれる人物。比喩的に言えば、「くるりではなくエグザイルを聞く人にも寄り添える」のが山本太郎なんです。これは素晴らしい。ヤンキー的マインドを掴めなければ、選挙で勝つことはできない。

 今後、彼が、現在投票に行ってない5割の有権者を動かし、政治の中心になっていくことは十分考えられると思います。 

※写真/石田寛 Ishida Hiroshi

なかじま・たけし

1975年大阪生まれ。大阪外国語大学卒業。京都大学大学院博士課程修了。北海道大学大学院准教授を経て、2017年8月現在は東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。専攻は南アジア地域研究、近代日本政治思想。2005年、『中村屋のボース インド独立運動と近代日本のアジア主義』で大佛次郎論壇賞を受賞。著書に『インドの時代』『秋葉原事件』『パール判事』『「リベラル保守」宣言』『血盟団事件』『ナショナリズムと宗教』『アジア主義』など。最新作『自民党 価値とリスクのマトリクス』がスタンド・ブックスから発売中。

『自民党 価値とリスクのマトリクス』発売:スタンド・ブックス

安倍晋三、石破茂、菅義偉、野田聖子、河野太郎、岸田文雄、加藤勝信、小渕優子、小泉進次郎。9人の有力政治家・首相候補の言葉、著作の分析を積み重ね、現在の自民党の本質をあぶり出す。「リベラル保守」を掲げる政治学者による、これからの日本の選択を考える際の重要な指標となる画期的自民党論。「右」「左」では表しきれない政治のあり方を、「価値」と「リスク」のマトリクスで読み解く!

山本太郎は新時代の田中角栄か!? れいわ新選組の「躍進の謎」に迫る!

 7月に行われた参議院選では、与党側が選挙前の147から141へと議席を減らした一方、野党第一党となる立憲民主党が改選前の9から17へと議席を伸ばす結果となった。

 しかし、そんな結果とともに、史上2番目の低投票率となる48.8%を記録し、国民の政治に対する関心の薄さがますます浮き彫りに。「れいわ新選組(れいわ)」や「NHKから国民を守る党(N国党)」などの出現といった、不可解な選挙結果で多くの国民を混乱に陥れている。

 
 この選挙を、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授の中島岳志氏は、どのように振り返るのか? 今回の選挙において中島氏が注目をしたのは、選挙前、マスメディアではほとんど黙殺されていた「台風の目」。そう、山本太郎の登場を「事件」だと語る。その真意とは!?  


■低投票率は日本だけではない!  


──まず、今回の参院選を全体として振り返り、中島さんとしてはどのように感じていますか?

 
中島:今回、与党側の明確な勝利というわけではなく、安倍政権の権力が強化された形にはなりませんでした。選挙前には安倍4選も議論されましたが、その後押しになった選挙とは言えないと思います。一方、注目すべきは野党勢力。特に、「れいわ新選組」の活躍でしょうね。

 
──今回の参院選に向けて、山本太郎氏はれいわを立ち上げました。そして比例代表において、政党が当選者の優先順位をあらかじめ決められる「特定枠」という選挙制度を活用しながら舩後靖彦氏、木村英子氏の2人を議員として送り出しています。  


中島:山本太郎氏の出現は、日本政治史上の「事件」とも言うべき出来事。私は、世界史的な意味があると考えています。それを捉えるためには、政治学でこの20年にわたって議論されてきた「ラディカルデモクラシー」という概念を抑えなければなりません。


  自由競争を重んじる新自由主義が世界を席巻していくと、政策のほとんどを市場に任せることになり、政治が介入する余地が小さくなる。政治に代わって、金融資本が大きな力を持つようになっていきます。アントニオ・ネグリとマイケル・ハートの『帝国』(以文社)などは、まさにそのような未来を予見する議論でした。

 
 そのような新自由主義が続き、かつ間接民主制の下では、主権者である国民は「自分の1票によって世の中が変わる」という感覚を得られなくなっていきます。選挙による生活の変化が期待できないから「1票の重さ」と言われてもきれい事にしか感じられない。その結果、「選挙に行かなくていい」という結論が導かれるんです。これは、日本だけでなく、多くの先進国で起こってきました。

 
──近年、国政選挙の投票率は60%を下回ることもあり、今回の参院選に至っては、48.8%という低投票率になりました。これは、投票によって「政治が変わる」という実感が持てない構造的な問題に起因しているんですね。

 
中島:そこで注目されるのが、直接的な主権の行使を標榜する「ラディカルデモクラシー」です。これには、大きく2つの方向があります。

 
 1つ目が「熟議デモクラシー」というもの。特に、地方政治などの現場では、タウンミーティングや市民の意見を集めるグループワークを行いながら議論を練り上げていき、政策に反映させる事例も多くあります。首長・議会・住民が一緒になって議論を練り上げる参加型デモクラシーを作ることで、有権者は政治参加の実感が得られます。

 
 そして、もうひとつの軸が、ベルギー出身の政治学者であるシャンタル・ムフなどが提唱する「闘技デモクラシー」というあり方。争点を明確にし、境界線を引いていくことで対立軸を作っていく。そして、対抗者に対して「俺の声を聞け」と戦いを挑みながら権利や欲求を訴えていくことで有権者の情動を喚起していくという方法です。

 
 この図式を前提として考えた場合、霞が関と永田町で政治が決まる自民党のやり方は、ラディカルデモクラシーではありませんでした。しかし、この「ラディカルデモクラシー」の中でも、「熟議デモクラシー」としての運動がかつて日本でも起こったことがある。それが、立憲民主党が躍進した1年9カ月前の衆議院議員選挙でした。


■有権者を「裏切った」立憲民主党


──この選挙の直前、枝野幸男氏によって立憲民主党がつくられ、55議席を獲得。同党は野党第一党の座に就いています。

中島:枝野氏は、国民からの「枝野立て」の声に従って立憲民主党を結党し、ひとりで記者会見に望みました。そこで、多くの人は「俺の声が枝野に届いた」と感じ、ラディカルデモクラシーが起動した。だから、枝野氏は「立憲民主党はあなたです」という言葉を使ったんです。

 しかし今回の選挙では、立憲民主党のラディカルデモクラシーとしての側面が裏切られた形になりました。


──「裏切られた」とは?
 

中島:以前、立憲民主党は、「立憲パートナーズ」に象徴されるように、市民と対等なパートナーシップを築き、熟議デモクラシーを行いながら政策立案を一緒にやっていこうと考えていました。グループワークを行いながら、ボトムアップの政治をするというのが立憲民主党の目指す形だったんです。


 しかし、ラディカルデモクラシーを支える人々は、一部の人間による政治に見えた途端「俺たちの声が届いていない」と思い、離れていってしまう。この1年9カ月の間で、立憲民主党の姿勢の中に永田町にいる「一部の人間」の論理が出てしまった。その典型が国民民主党とのいざこざです。


 今回の選挙で、立憲民主党と国民民主党は「どちらの人数を上にするのか?」という争いを繰り広げ「一緒に活動できない」という姿勢を露呈させる。そんな永田町の理屈で行われた交渉が、「立憲民主党はあなたです」というメッセージから遠く離れたものになってしまいました。もちろん、政治を行う上ではどうしても「プロ」の側面は必要になるのですが、ラディカルデモクラシーを狙うのであれば、それを見せてはいけない。いつも主体は「あなた」だ、という物語を設定し続けなければならないんです。

 
──立憲民主党は、国民民主党とのいざこざで「プロの政治」を露呈させたことによって、「あなた」という説得力がなくなり、ラディカルデモクラシーの追い風を受けられなくなってしまった、と。今回の選挙では改選9議席からおよそ2倍となる17議席を獲得していますが、野党第1党としては前回、16年参院選で旧民進党が獲得した32議席に遠く及ばない結果となっています。

 
中島:そこで、立憲民主党の支持が低下してきたときに登場したのが山本太郎氏でした。彼の政策は立憲民主党とは異なり、決してボトムアップ型ではありません。山本氏はどの政治家よりも多くの人の声を丁寧に聞いています。しかし、その声を血肉化した上で、独断的に政策を掲げる。「絶対に消費税を廃止する」という明確な争点をつくり、そこに対して「力を貸してくださいよ」と叫ぶんです。彼の演説を聞くと、論理的なことを述べながらも、その間に情動を喚起する言葉を投げかけていることがわかります。「国民はATMじゃない」「生きててくれよ」「バカにすんなよ」、そんな言葉に涙を流している支持者の姿さえもありました。

 
 そうやって、情動を喚起しながらも争点を明確化させ、安倍、竹中、経団連といった対抗勢力をはっきりさせることによって、ポケットに数百円しか入っていない「俺たち」が連帯するという運動なんです。ラディカルデモクラシーを「闘技デモクラシー」としてとった山本太郎の出現は、今回の参院選の中でも特筆すべき事件であったと思います。

 
■山本×枝野による政権交代


──そんなれいわの躍進に対しては、「左派ポピュリズム」という言葉も使われています。彼らのポピュリズム的な側面について、中島さんはどのように感じていますか?


中島:まず、政治学者が使う「ポピュリズム」と、世の中の「ポピュリズム」の意味が、大きく乖離しているという前提があります。

 
 ポピュリズムという言葉には「大衆迎合主義」という訳語が当てられていますが、この言葉自体にイデオロギーはなく、あくまでも「俺たちの声を聞け」という意味しか含まれていない。この声をしばらく独占してきたのが移民排斥や自国第一主義を掲げる右派勢力だったので、どこか右派的な印象がありますが、もともとはイデオロギーを示す言葉ではないんです。

 
「闘技デモクラシー」として左派ポピュリズムを起動させるリベラル側の動きとしては、アメリカではサンダース、イギリスならコービンといった人々がいます。彼らは、旧来左翼を打破し、大衆の情念に訴えながら「敵はあいつらだ」と語りかけているんです。

 
──中島さんが、山本太郎氏に注目をはじめたのはいつごろでしょうか?  


中島:実は、もともと山本太郎氏については、単に“お騒がせな人”としか思っていませんでした。原発に関する発言も同意できない部分があり、パフォーマンス過多の印象。むしろ毛嫌いをしていましたね。彼がれいわ新選組を旗揚げしたときにも、特に注目はしていませんでした。

 
 しかし、寄付が1億円を超えるような状況になり、社会現象が起こっているということをようやく認識する事ができた。そして、彼の演説動画を観たときに「もしかしたら、彼は闘技デモクラシーに火をつけようとしているのではないか?」「“日本のサンダース”になるのではないか?」と思えてきた。そこから彼に注目をはじめ、これまで書いたものを集めて読み始めたんです。すると、彼自身が6年間の議員生活の中で大きな変遷を遂げていたことがわかってきました。


──「大きな変遷」とは?  


中島:彼は、参院選に当選した6年前を冷静に反省しています。議席をとったにも関わらず、街頭演説に集まる人の数はどんどんと減少していく。彼が掲げる「脱原発」だけを述べていても、誰もついてきてくれなかったんです。しかし、「福島第一原発の処理を行っているのは金のない派遣の立場にいる人々で、これは格差問題である」と主張したところ、拍手が起こった。そこから、原発問題は労働問題につながっていることを実感して、勉強し始めるんです。

 
──以前は、反原発だけだったのが、労働問題や経済問題を含む広い視野を得ていった。  


中島:また彼のすごいところは、人の話をよく聞くところ。いくら格差問題を叫んでも、彼は俳優出身であり、下層労働者ではありませんよね。その代わりに例えば彼は、演説中に意見を言ってきた人を後日議員会館に招いて、その人の語りに耳を傾けたり、時にはその意見を取り入れることもしている。彼らの言葉を血肉化させることで、山本氏の中には体重の乗った言葉が生まれるんです。

 
 彼は日本のサンダース的な運動を作りました。そしておそらく、この流れは一過性ではないでしょう。  


──彼の行動は、今後どのくらいの規模にまで拡大していくと思いますか?

 
中島:僕は政権交代が可能かもしれないと思っています。ただ、そのためには闘技デモクラシーだけでは十分ではない。それだけで政権を運営できるほど政治は甘くないんです。官僚ともやりあえるほどの熟議デモクラシー型の政策集団がいることで、はじめて政権として成り立つでしょう。そこで必要なのが立憲民主党の枝野氏。彼が熟議デモクラシーの代表として、しっかりと山本太郎氏と相互補完的な関係を結ぶことができれば、自民党を倒すことも夢ではありません。逆に枝野氏が山本氏を遠ざけていては、政権交代はできないでしょう。熟議デモクラシーを担うリーダーが、別のところから出てくる可能性もある。誰が山本氏とパートナーシップを組めるのかがポイントです。

 
 かつて70年代の自民党には田中角栄と大平正芳という2人のタイプの違うリーダーがいました。「今太閤」と呼ばれ、大衆の情念を掴んだ田中角栄と、一橋大学を卒業後に高級官僚となり、自民党に入った大平。全く異なったタイプの2人ですが、大平は田中が持っている数十秒で人の心を掴む才能に憧れ、田中は大平が持つエリートとしての政策構想力に惚れ込んだ。そのような相補関係を、枝野氏と山本氏が築けるかが鍵になってくるのではないかと思います。(後編へ続く)

※写真/石田寛 Ishida Hiroshi

山本太郎は新時代の田中角栄か!? れいわ新選組の「躍進の謎」に迫る!

 7月に行われた参議院選では、与党側が選挙前の147から141へと議席を減らした一方、野党第一党となる立憲民主党が改選前の9から17へと議席を伸ばす結果となった。

 しかし、そんな結果とともに、史上2番目の低投票率となる48.8%を記録し、国民の政治に対する関心の薄さがますます浮き彫りに。「れいわ新選組(れいわ)」や「NHKから国民を守る党(N国党)」などの出現といった、不可解な選挙結果で多くの国民を混乱に陥れている。

 
 この選挙を、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授の中島岳志氏は、どのように振り返るのか? 今回の選挙において中島氏が注目をしたのは、選挙前、マスメディアではほとんど黙殺されていた「台風の目」。そう、山本太郎の登場を「事件」だと語る。その真意とは!?  


■低投票率は日本だけではない!  


──まず、今回の参院選を全体として振り返り、中島さんとしてはどのように感じていますか?

 
中島:今回、与党側の明確な勝利というわけではなく、安倍政権の権力が強化された形にはなりませんでした。選挙前には安倍4選も議論されましたが、その後押しになった選挙とは言えないと思います。一方、注目すべきは野党勢力。特に、「れいわ新選組」の活躍でしょうね。

 
──今回の参院選に向けて、山本太郎氏はれいわを立ち上げました。そして比例代表において、政党が当選者の優先順位をあらかじめ決められる「特定枠」という選挙制度を活用しながら舩後靖彦氏、木村英子氏の2人を議員として送り出しています。  


中島:山本太郎氏の出現は、日本政治史上の「事件」とも言うべき出来事。私は、世界史的な意味があると考えています。それを捉えるためには、政治学でこの20年にわたって議論されてきた「ラディカルデモクラシー」という概念を抑えなければなりません。


  自由競争を重んじる新自由主義が世界を席巻していくと、政策のほとんどを市場に任せることになり、政治が介入する余地が小さくなる。政治に代わって、金融資本が大きな力を持つようになっていきます。アントニオ・ネグリとマイケル・ハートの『帝国』(以文社)などは、まさにそのような未来を予見する議論でした。

 
 そのような新自由主義が続き、かつ間接民主制の下では、主権者である国民は「自分の1票によって世の中が変わる」という感覚を得られなくなっていきます。選挙による生活の変化が期待できないから「1票の重さ」と言われてもきれい事にしか感じられない。その結果、「選挙に行かなくていい」という結論が導かれるんです。これは、日本だけでなく、多くの先進国で起こってきました。

 
──近年、国政選挙の投票率は60%を下回ることもあり、今回の参院選に至っては、48.8%という低投票率になりました。これは、投票によって「政治が変わる」という実感が持てない構造的な問題に起因しているんですね。

 
中島:そこで注目されるのが、直接的な主権の行使を標榜する「ラディカルデモクラシー」です。これには、大きく2つの方向があります。

 
 1つ目が「熟議デモクラシー」というもの。特に、地方政治などの現場では、タウンミーティングや市民の意見を集めるグループワークを行いながら議論を練り上げていき、政策に反映させる事例も多くあります。首長・議会・住民が一緒になって議論を練り上げる参加型デモクラシーを作ることで、有権者は政治参加の実感が得られます。

 
 そして、もうひとつの軸が、ベルギー出身の政治学者であるシャンタル・ムフなどが提唱する「闘技デモクラシー」というあり方。争点を明確にし、境界線を引いていくことで対立軸を作っていく。そして、対抗者に対して「俺の声を聞け」と戦いを挑みながら権利や欲求を訴えていくことで有権者の情動を喚起していくという方法です。

 
 この図式を前提として考えた場合、霞が関と永田町で政治が決まる自民党のやり方は、ラディカルデモクラシーではありませんでした。しかし、この「ラディカルデモクラシー」の中でも、「熟議デモクラシー」としての運動がかつて日本でも起こったことがある。それが、立憲民主党が躍進した1年9カ月前の衆議院議員選挙でした。


■有権者を「裏切った」立憲民主党


──この選挙の直前、枝野幸男氏によって立憲民主党がつくられ、55議席を獲得。同党は野党第一党の座に就いています。

中島:枝野氏は、国民からの「枝野立て」の声に従って立憲民主党を結党し、ひとりで記者会見に望みました。そこで、多くの人は「俺の声が枝野に届いた」と感じ、ラディカルデモクラシーが起動した。だから、枝野氏は「立憲民主党はあなたです」という言葉を使ったんです。

 しかし今回の選挙では、立憲民主党のラディカルデモクラシーとしての側面が裏切られた形になりました。


──「裏切られた」とは?
 

中島:以前、立憲民主党は、「立憲パートナーズ」に象徴されるように、市民と対等なパートナーシップを築き、熟議デモクラシーを行いながら政策立案を一緒にやっていこうと考えていました。グループワークを行いながら、ボトムアップの政治をするというのが立憲民主党の目指す形だったんです。


 しかし、ラディカルデモクラシーを支える人々は、一部の人間による政治に見えた途端「俺たちの声が届いていない」と思い、離れていってしまう。この1年9カ月の間で、立憲民主党の姿勢の中に永田町にいる「一部の人間」の論理が出てしまった。その典型が国民民主党とのいざこざです。


 今回の選挙で、立憲民主党と国民民主党は「どちらの人数を上にするのか?」という争いを繰り広げ「一緒に活動できない」という姿勢を露呈させる。そんな永田町の理屈で行われた交渉が、「立憲民主党はあなたです」というメッセージから遠く離れたものになってしまいました。もちろん、政治を行う上ではどうしても「プロ」の側面は必要になるのですが、ラディカルデモクラシーを狙うのであれば、それを見せてはいけない。いつも主体は「あなた」だ、という物語を設定し続けなければならないんです。

 
──立憲民主党は、国民民主党とのいざこざで「プロの政治」を露呈させたことによって、「あなた」という説得力がなくなり、ラディカルデモクラシーの追い風を受けられなくなってしまった、と。今回の選挙では改選9議席からおよそ2倍となる17議席を獲得していますが、野党第1党としては前回、16年参院選で旧民進党が獲得した32議席に遠く及ばない結果となっています。

 
中島:そこで、立憲民主党の支持が低下してきたときに登場したのが山本太郎氏でした。彼の政策は立憲民主党とは異なり、決してボトムアップ型ではありません。山本氏はどの政治家よりも多くの人の声を丁寧に聞いています。しかし、その声を血肉化した上で、独断的に政策を掲げる。「絶対に消費税を廃止する」という明確な争点をつくり、そこに対して「力を貸してくださいよ」と叫ぶんです。彼の演説を聞くと、論理的なことを述べながらも、その間に情動を喚起する言葉を投げかけていることがわかります。「国民はATMじゃない」「生きててくれよ」「バカにすんなよ」、そんな言葉に涙を流している支持者の姿さえもありました。

 
 そうやって、情動を喚起しながらも争点を明確化させ、安倍、竹中、経団連といった対抗勢力をはっきりさせることによって、ポケットに数百円しか入っていない「俺たち」が連帯するという運動なんです。ラディカルデモクラシーを「闘技デモクラシー」としてとった山本太郎の出現は、今回の参院選の中でも特筆すべき事件であったと思います。

 
■山本×枝野による政権交代


──そんなれいわの躍進に対しては、「左派ポピュリズム」という言葉も使われています。彼らのポピュリズム的な側面について、中島さんはどのように感じていますか?


中島:まず、政治学者が使う「ポピュリズム」と、世の中の「ポピュリズム」の意味が、大きく乖離しているという前提があります。

 
 ポピュリズムという言葉には「大衆迎合主義」という訳語が当てられていますが、この言葉自体にイデオロギーはなく、あくまでも「俺たちの声を聞け」という意味しか含まれていない。この声をしばらく独占してきたのが移民排斥や自国第一主義を掲げる右派勢力だったので、どこか右派的な印象がありますが、もともとはイデオロギーを示す言葉ではないんです。

 
「闘技デモクラシー」として左派ポピュリズムを起動させるリベラル側の動きとしては、アメリカではサンダース、イギリスならコービンといった人々がいます。彼らは、旧来左翼を打破し、大衆の情念に訴えながら「敵はあいつらだ」と語りかけているんです。

 
──中島さんが、山本太郎氏に注目をはじめたのはいつごろでしょうか?  


中島:実は、もともと山本太郎氏については、単に“お騒がせな人”としか思っていませんでした。原発に関する発言も同意できない部分があり、パフォーマンス過多の印象。むしろ毛嫌いをしていましたね。彼がれいわ新選組を旗揚げしたときにも、特に注目はしていませんでした。

 
 しかし、寄付が1億円を超えるような状況になり、社会現象が起こっているということをようやく認識する事ができた。そして、彼の演説動画を観たときに「もしかしたら、彼は闘技デモクラシーに火をつけようとしているのではないか?」「“日本のサンダース”になるのではないか?」と思えてきた。そこから彼に注目をはじめ、これまで書いたものを集めて読み始めたんです。すると、彼自身が6年間の議員生活の中で大きな変遷を遂げていたことがわかってきました。


──「大きな変遷」とは?  


中島:彼は、参院選に当選した6年前を冷静に反省しています。議席をとったにも関わらず、街頭演説に集まる人の数はどんどんと減少していく。彼が掲げる「脱原発」だけを述べていても、誰もついてきてくれなかったんです。しかし、「福島第一原発の処理を行っているのは金のない派遣の立場にいる人々で、これは格差問題である」と主張したところ、拍手が起こった。そこから、原発問題は労働問題につながっていることを実感して、勉強し始めるんです。

 
──以前は、反原発だけだったのが、労働問題や経済問題を含む広い視野を得ていった。  


中島:また彼のすごいところは、人の話をよく聞くところ。いくら格差問題を叫んでも、彼は俳優出身であり、下層労働者ではありませんよね。その代わりに例えば彼は、演説中に意見を言ってきた人を後日議員会館に招いて、その人の語りに耳を傾けたり、時にはその意見を取り入れることもしている。彼らの言葉を血肉化させることで、山本氏の中には体重の乗った言葉が生まれるんです。

 
 彼は日本のサンダース的な運動を作りました。そしておそらく、この流れは一過性ではないでしょう。  


──彼の行動は、今後どのくらいの規模にまで拡大していくと思いますか?

 
中島:僕は政権交代が可能かもしれないと思っています。ただ、そのためには闘技デモクラシーだけでは十分ではない。それだけで政権を運営できるほど政治は甘くないんです。官僚ともやりあえるほどの熟議デモクラシー型の政策集団がいることで、はじめて政権として成り立つでしょう。そこで必要なのが立憲民主党の枝野氏。彼が熟議デモクラシーの代表として、しっかりと山本太郎氏と相互補完的な関係を結ぶことができれば、自民党を倒すことも夢ではありません。逆に枝野氏が山本氏を遠ざけていては、政権交代はできないでしょう。熟議デモクラシーを担うリーダーが、別のところから出てくる可能性もある。誰が山本氏とパートナーシップを組めるのかがポイントです。

 
 かつて70年代の自民党には田中角栄と大平正芳という2人のタイプの違うリーダーがいました。「今太閤」と呼ばれ、大衆の情念を掴んだ田中角栄と、一橋大学を卒業後に高級官僚となり、自民党に入った大平。全く異なったタイプの2人ですが、大平は田中が持っている数十秒で人の心を掴む才能に憧れ、田中は大平が持つエリートとしての政策構想力に惚れ込んだ。そのような相補関係を、枝野氏と山本氏が築けるかが鍵になってくるのではないかと思います。(後編へ続く)

※写真/石田寛 Ishida Hiroshi

埼玉県知事選の不可解な動きが10月の参院埼玉補選と連動!? 青島健太の落選が意味するものとは

 与野党対決となった8月25日投開票の埼玉県知事選は、現職の参院議員から野党の統一候補に転じた大野元裕・元防衛政務官が初当選を果たした。

 与党が擁立したスポーツライター・青島健太氏との接戦を制したことから、安倍晋三政権に少なからぬ衝撃を与えているといわれる。在京の民放政治部記者が語る。
 
「与党が勝利した7月の参院選後、初めての与野党対決でした。いずれも党首クラスがこぞって埼玉に応援演説に入り、国政選挙さながらの盛り上がりを見せました。大野氏の勝利によって野党共闘の機運が高まり、秋の臨時国会は大揺れになると野党陣営の鼻息は荒い。安倍政権の行方は決して安泰ではありませんよ」
 
 ”安倍一強”を良しとしない国民の審判が埼玉の地で下ったようにみえる今回の知事選。しかし、筆者がつかんだ情報によれば内情はむしろ逆だ。大野知事の誕生は一歩間違えば実現には至らなかった。しかも、来たる10月の参院選埼玉補選で与党が勝利するためにわざと知事選の勝利を野党に譲った―という謀略説まで飛び出す始末なのだ。
 
 まず、筆者が入手したマスコミの期日前投票の調査データからみてみよう。

 期日前投票とは、投開票日に投票所へ行けない有権者が事前に投票を行うこと。特定の公民館などを投票所に充てるため、大手の新聞やテレビが出入り口に張り付き、投票を済ませた人たちにぶら下がって聞き取り調査を行う。

 その調査結果が下記のデータだ。投開票日(25日)の2週間前から随時行われており、どの調査日も与党候補の青島氏が7~1ポイント差で大野氏を引き離し、一貫してリードしていた。地元メディアの記者が言う。


「与党の選挙基盤である公明党の支持母体『創価学会』が事前の投票に確実に動員された結果です。逆に、野党支持層の事前投票は低調で、統一候補を擁立した機運はさほど有権者に感じられませんでした。この勢いで投開票日を迎え、投票率が前回並みの28%にとどまるようなら、大野氏の敗北は見えていたんです」
 
 ところが事前の予想を裏切り、投開票日当日は好天に恵まれたこともあって、投票率は32%まで跳ね上がった。これは無党派層が投票所に出向いた結果で、大野氏の最たる勝因になった――大手マスコミはいずれもこんな分析を行っている。しかし、見落とされたポイントがある。全国紙デスクが言う。
 
「マスコミ各社は投開票当日の25日、投票所に張り付いて有権者の投票結果を尋ねる〝出口調査〟を行っている。どのマスコミの調査結果をみても、自民党支持者の3割が大野氏に投票していたことがうかがえるんだ。同じ与党側でも、公明党支持層のほとんどが青島氏に投票していた。今回の大野氏誕生の裏に、自民党の一部による”裏切り”が認められる」
 
 データが語る”自民党の裏切り”。それはいったい、何か。自民党本部関係者が重い口を開く。
 
「埼玉県知事選をめぐるマスコミの騒ぎをよそに、党本部はひどく冷めていました。もし青島氏が知事選で負けても、大野氏の議員辞職に伴う10月の参院補選に再出馬して当選してくれた方が、国政上、都合がいいからなんです。

 というのも、7月の参院選では、改憲勢力である『自民+公明+日本維新の会』の議席数が改憲発議に必要な”3分の2”まで四つ足りなかったんです。そこへ、8月に大野氏が議員辞職し、10月の補選で青島氏が勝てば、残り2議席足りない状況にある。

 実は、10月頃をめどに野党から自民党に引き抜けそうな現職議員が1人いるんです。この引き抜き工作が成功し、青島氏が参院補選に当選してくれたら、ちょうど”3分の2”になる。10月に予定される臨時国会で、改憲を発議できる準備は整うわけです。ですから自民党本部内には『知事選は野党に譲り、国政選挙で実を取れ』という声すらあったんです」
 
 実際、埼玉県知事選をめぐって、不可思議な動きが絶えなかった。

 例えば、旧民主党の参院議員だった行田邦子氏が出馬し、野党分裂になりかけたことがある。しかし8月8日の告示日目前になって「熱中症」の疑いで突如入院して出馬を取りやめ、晴れて大野氏の野党統一候補が誕生している。

 この行田氏、知事選に突入した8月半ば、いきなりインターネットに動画を公開して「私の県政運営のスタンスと最も近い」と発言し、あろうことか、青島氏支持を宣言しているのだ。前出の地元メディア記者が「あくまで臆測ですが」と断った上で解説する。
 
「行田さんに自民党サイドが何らかの働きかけが行われ、知事選に降りてもらう代わりに、将来の選挙支援を約束したのではないかという観測が出ています。そうでなければ、ライバル陣営の青島氏を支持するなんて言い出すはずがありません」
 
 ところで、来たる10月の参院埼玉補選に向けて、大野氏を後継指名した上田清司・前知事の出馬が早くも取りざたされている。前出の自民党本部関係者の話。
 
「うちは独自候補として青島氏を擁立することも可能だし、様々なオプションを考えています。もし上田氏が出馬すれば、最強のライバルになるでしょうね。でも、彼はゴリゴリの改憲派なんです。上田氏が衆院議員をやっていた時代、うちの二階俊博幹事長と親しく、いまも気脈を通じています。上田氏には無所属で出馬してもらい、当選した暁にはうちの陣営に来てもらうシナリオもあり得ます。そのために、上田氏の後継者である大野氏に知事選を譲ったのですから」
 
 なんと情けない選挙の舞台裏ではないか。10月の参院補選もどんな茶番劇が繰り広げられるか、見届けたいものだ。

今回もやっぱり”支持政党なし”が多数の参院選 投票前に確認しておきたい各党『年金』マニフェスト

 7月21日に投開票される参議院議員選挙が目前に迫ってきた。しかし、賢明な読者からみれば一目瞭然の通り相変わらず選挙戦は盛り上がっておらず、国民の関心は低いままだ。その要因の一つとして特に今回は、選挙の争点が明確ではなく、政策論議が盛り上がっていないことが挙げられる。

 7月16日にNHKが発表した最新の世論調査では、各党の支持率は以下のようになっている。

・自民党=34.2%
・立憲民主党=6.0%
・国民民主党=1.5%
・公明党=4.3%
・共産=3.2%
・日本維新の会=3.1%
・社民党=0.5%
・特に支持している政党はない=39.1%

 自民党絶対有利の状況は変わらないものの投票日の21日は、天気予報では北海道を除き全国的に雨予報で、それでなくともここのところの国民の政治への関心の低さと相まって「投票率が過去最低を更新する可能性もある」(自民党関係者)との声も聞かれる。

 ただし、我々の生活に関わる関心事として『年金問題』や『消費税率10%引き上げ』があがっているのだが、野党関係者によると「安倍政権はこれらの問題を争点にするつもりはなく、あくまで選挙に勝った上で、“国民の信任を得た”として『憲法改正』に踏み出す構え」なのだという。

■曖昧自民党のマニフェストを追及できない野党の無策

 5月末から6月にかけて“火を噴いた”「老後には2000万円の金融資産が必要」とした金融庁の報告書問題により、年金は選挙の争点の一つとなった。

 当然、各党ともマニフェストに以下のように年金問題を取り上げている。
「自民党」
・低年金者への福祉給付金の支給
・年金受給開始時期の選択肢の拡大

「立憲民主党」
・年金の最低保証機能の強化

「国民民主党」
・低所得の年金生活者への給付加算
・厚生年金加入適用の拡大

「公明党」
・低年金者への給付金とさらなる拡充

「日本共産党」
・年金のマクロ経済スライドの廃止
・高額所得者の年金保険料の見直し

「日本維新の会」
・年金を積み立て方式へ変更
・年金支給年齢の段階的引き上げ

「社会民主党」
・基礎年金のマクロ経済スライド廃止
・年金支給年齢の引き上げ反対

 しかし、年金問題に対しては、現在年金を受給している層と年金受給開始年齢に近い層は強い関心があるものの、「総じて若者層は年金に対する関心は薄い」(自民党関係者)こともあり、投票行動(特に若者層の)に結び付くような争点とはなっていないのが実際のところ。

 確かに日本共産党のように、年金財源として「大企業優遇税制の見直し」や「富裕層への課税強化」などを打ち出しているところもあるが、自民党も野党も総じて年金財源に対する具体案に乏しいことも、年金問題が選挙の争点として盛り上がらない原因の1つでもあろう。

 加えて、野党は総じて「10月1日からの消費税率10%への引き上げ反対」を打ち出してはいるものの、「すでに引き上げは規定事実であり、今さら引き上げ中止というのは“非現実的”であり、選挙の争点にはならない」(野党関係者)との指摘もある。

 一方で、年金と消費税に関しては、野党側の追及の“未熟さ”も目立つ。例えば、6月30日に安倍首相はインターネット番組の党首討論に出席し、「10月から幼児教育・保育を無償化し、高等教育を無償化する。そのためにも安定財源である消費税が必要だ」と述べている。

 しかし、1989年2月、当時の竹下登首相が消費税3%の導入の際には、消費税による税収の利用目的を「高齢化に向けた安定的な財源確保」が論じられていた。そもそも、消費税は年金財源をはじめとした社会保障に使われるために導入されたものだ。

 それがその後の政権下では、消費税の利用目的はさまざまに変更され、ついには「幼児教育・保育を無償化し、高等教育を無償化するため」にまで使われることになった。どう考えても、これらを「高齢化に向けた社会保障制度の拡充」とするのは筋違いだ。というのも本来、「幼児教育・保育の無償化、高等教育の無償化」は、教育制度とともに検討をするべきであり消費税を使った社会保障制度に組み込むのは、無理がある。

 それでも、安倍政権が国民受けする、いわば“ポピュリズム”的な政策として「幼児教育・保育の無償化、高等教育の無償化」を打ち出し、その財源として消費税を利用するのであれば、野党はその点を選挙の争点とし国民の是非を問うといった姿勢が必要だったのではないか。

 結局この参議院選挙は、“憲法改正にしか興味のない”安倍自民党が、国民を選挙行動に呼び込むことができない“無策な野党”に圧倒的な差を付け、揺るぎない1強の地位を見せつけるだけの選挙で終わることになりそうだ。

安倍政権の長期化は「内閣情報調査室」のおかげ!? 官僚制の闇に迫る危険なサスペンス『新聞記者』

 菅義偉官房長官との定例会見での攻防で、すっかり有名になった東京新聞の望月衣塑子(いそこ)記者。望月記者の著書を原案にしたのが、社会派サスペンス映画『新聞記者』だ。韓国映画『サニー 永遠の仲間たち』(11)や『怪しい彼女』(14)で名演を見せたシム・ウンギョンと『娼年』『孤狼の血』(18)での熱演が印象に残る松坂桃李が共演した異色作となっている。

 原案となっている『新聞記者』(角川新書)には、森友学園・加計学園問題を精力的に追う望月記者の生い立ちから、レイプ事件を起こしたTBSの元男性記者は官邸と懇意にしていたことから逮捕を免れた……などのマスコミの裏側について書かれている。また、加計学園問題で官邸側に不都合な発言をした文部科学省の前事務次官が出会い系バーに通っていたことを読売新聞がスクープしたのは、官邸側からの報復リークだった可能性が高いことにも触れている。

 テレビ局が入った製作委員会方式では決して作られることのない本作を企画したのは、配給会社「スターサンズ」を設立した河村光庸プロデューサー。北朝鮮と日本とに引き裂かれた実在の家族を描いた安藤サクラ主演作『かぞくのくに』(11)や寺山修司原作のボクシング映画『あゝ、荒野』(17)などクセの強い作品を次々と放っている。本作でも安倍政権に“忖度”することなく取材活動を続ける望月記者をモデルに、映画的フィクションも加えた上で「世界の報道の自由度ランキング」で下位に低迷するようになった現在の日本の問題点に斬り込んでいく。

 東都新聞に勤める社会部記者・吉岡エリカ(シム・ウンギョン)は、父は日本人、母は韓国人で、NYで生まれ育った帰国子女。そのため、日本語はどこかたどたどしく、場の空気を読むという日本社会の特性にもなじめずにいた。ある夜、東都新聞に差出人不明の怪文書が届く。両目が黒く塗りつぶされた羊のイラストの付いた怪文書は、新設大学の認可に疑問を投げ掛けたものだった。フェイクニュースか、それとも関係者からの内部告発なのか。デスクの陣野(北村有起哉)から命じられ、吉岡は盲目の羊の正体を追うことになる。

 注目すべきは、松坂桃李が演じるもうひとりの主人公・杉原だ。外務省でキャリアを積んできたエリート官僚の杉原だが、内閣府へと出向となり、「内閣情報調査室」で働くようになる。“内調”と呼ばれるこの諜報機関は、非常に謎が多い。安倍総理は菅官房長官よりも内調のトップである内閣情報官と綿密に接していることでも知られている。

 劇中の杉原は、現政権を守るための情報操作やマスコミ工作をもっぱら手掛けている。現政権にとって不都合な言動をする人物は内調によってマークされ、尾行のプロである公安がその人物の周辺を洗い、弱点を探り出す。杉原の上司である内閣参事官の多田(田中哲司)はマークした人物は民間人でも「犯罪者予備軍」と呼び、公安がつかんだスキャンダルをマスコミやSNSへとバラまき、社会的に抹殺するよう杉原に指示するのだった。

 公僕として国民のために汗を流すことを生き甲斐にしてきた杉原は、内調での仕事が苦痛だった。とはいえ、妻の奈津実(本田翼)はもうすぐ出産を控えており、今の生活を放り出すこともできない。そんなとき、外務省時代の尊敬していた上司で、数年前から内閣府の別の部署にいた神崎(高橋和也)が高層ビルから投身自殺を遂げたという悲報が届く。怪文書のキーパーソンとして神崎に注目していた吉岡と神崎の通夜に参列した杉原は、悲しい出会いを果たすことになる。

 日本映画ではとても珍しい現在進行形の問題を扱った社会派ドラマであり、謎多き諜報機関「内閣情報調査室」に果敢にスポットライトを当てたことを評価したい。自殺した神崎が勤めていた内閣府は、各省庁からの出向者がほとんどで、プロパーは少ないという。組織としての自律性が低く、官邸側の意向に逆らうことができない。内閣府に勤める公務員たちは元の省庁に戻りたいがゆえに、上からの指示に粛々と従い、与えられた仕事を黙々と片付ける。それが汚れ仕事だと気づいても、気づかないふりをする。まさに盲目の羊たちだ。この国にはびこる悪しき組織構造を、本作は浮かび上がらせる。

 本作が描いているように内調が世論を操作しているのなら、安倍政権が多くの問題を抱えながらも、のらりくらりと長期政権を維持できているのは内調のおかげだということになる。安倍政権が長期化する一方、「世界の報道の自由度ランキング」はG7(先進7カ国)中最下位が日本の定位置となってしまった。報道の自由度が低いほうが、政権を安定させるには都合がいいらしい。官僚たちだけでなく、官僚や官邸の不正をチェックするはずのマスコミや選挙権を持つ国民も、同調圧力によって盲目の羊化が進みつつあるようだ。クライマックスで明かされる羊をめぐる謎かけの答えには、ゾッとさせられる。

 弾けるような笑顔を『サニー 永遠の仲間たち』や『怪しい彼女』で見せたシム・ウンギョンだが、本作ではずっと苦虫を噛み潰したような固い表情のままだ。『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)ではゾンビ化する女性感染者として1シーンだけ出演したが、本作もつらそうに映る。同調圧力に弱い日本社会の縮図の中、役に成り切って見せる彼女にとって感情を爆発させることのない記者の役は、ゾンビ役と同じくらいしんどい体験だったに違いない。

(文=長野辰次)

『新聞記者』

原案/望月衣塑子、河村光庸 脚本/詩森ろば、高石明彦、藤井道人 監督/藤井道人 音楽/岩代太郎

出演/シム・ウンギョン、松坂桃李、本田翼、岡山天音、郭智博、長田成哉、宮野陽名、高橋努、西田尚美、高橋和也、北村有起哉、田中哲司

配給/スターサンズ、イオンエンターテイメント 6月28日(金)より新宿ピカデリー、イオンシネマほか全国ロードショー

(c)2019「新聞記者」フィルムパートナーズ

https://shimbunkisha.jp

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安倍政権の長期化は「内閣情報調査室」のおかげ!? 官僚制の闇に迫る危険なサスペンス『新聞記者』

 菅義偉官房長官との定例会見での攻防で、すっかり有名になった東京新聞の望月衣塑子(いそこ)記者。望月記者の著書を原案にしたのが、社会派サスペンス映画『新聞記者』だ。韓国映画『サニー 永遠の仲間たち』(11)や『怪しい彼女』(14)で名演を見せたシム・ウンギョンと『娼年』『孤狼の血』(18)での熱演が印象に残る松坂桃李が共演した異色作となっている。

 原案となっている『新聞記者』(角川新書)には、森友学園・加計学園問題を精力的に追う望月記者の生い立ちから、レイプ事件を起こしたTBSの元男性記者は官邸と懇意にしていたことから逮捕を免れた……などのマスコミの裏側について書かれている。また、加計学園問題で官邸側に不都合な発言をした文部科学省の前事務次官が出会い系バーに通っていたことを読売新聞がスクープしたのは、官邸側からの報復リークだった可能性が高いことにも触れている。

 テレビ局が入った製作委員会方式では決して作られることのない本作を企画したのは、配給会社「スターサンズ」を設立した河村光庸プロデューサー。北朝鮮と日本とに引き裂かれた実在の家族を描いた安藤サクラ主演作『かぞくのくに』(11)や寺山修司原作のボクシング映画『あゝ、荒野』(17)などクセの強い作品を次々と放っている。本作でも安倍政権に“忖度”することなく取材活動を続ける望月記者をモデルに、映画的フィクションも加えた上で「世界の報道の自由度ランキング」で下位に低迷するようになった現在の日本の問題点に斬り込んでいく。

 東都新聞に勤める社会部記者・吉岡エリカ(シム・ウンギョン)は、父は日本人、母は韓国人で、NYで生まれ育った帰国子女。そのため、日本語はどこかたどたどしく、場の空気を読むという日本社会の特性にもなじめずにいた。ある夜、東都新聞に差出人不明の怪文書が届く。両目が黒く塗りつぶされた羊のイラストの付いた怪文書は、新設大学の認可に疑問を投げ掛けたものだった。フェイクニュースか、それとも関係者からの内部告発なのか。デスクの陣野(北村有起哉)から命じられ、吉岡は盲目の羊の正体を追うことになる。

 注目すべきは、松坂桃李が演じるもうひとりの主人公・杉原だ。外務省でキャリアを積んできたエリート官僚の杉原だが、内閣府へと出向となり、「内閣情報調査室」で働くようになる。“内調”と呼ばれるこの諜報機関は、非常に謎が多い。安倍総理は菅官房長官よりも内調のトップである内閣情報官と綿密に接していることでも知られている。

 劇中の杉原は、現政権を守るための情報操作やマスコミ工作をもっぱら手掛けている。現政権にとって不都合な言動をする人物は内調によってマークされ、尾行のプロである公安がその人物の周辺を洗い、弱点を探り出す。杉原の上司である内閣参事官の多田(田中哲司)はマークした人物は民間人でも「犯罪者予備軍」と呼び、公安がつかんだスキャンダルをマスコミやSNSへとバラまき、社会的に抹殺するよう杉原に指示するのだった。

 公僕として国民のために汗を流すことを生き甲斐にしてきた杉原は、内調での仕事が苦痛だった。とはいえ、妻の奈津実(本田翼)はもうすぐ出産を控えており、今の生活を放り出すこともできない。そんなとき、外務省時代の尊敬していた上司で、数年前から内閣府の別の部署にいた神崎(高橋和也)が高層ビルから投身自殺を遂げたという悲報が届く。怪文書のキーパーソンとして神崎に注目していた吉岡と神崎の通夜に参列した杉原は、悲しい出会いを果たすことになる。

 日本映画ではとても珍しい現在進行形の問題を扱った社会派ドラマであり、謎多き諜報機関「内閣情報調査室」に果敢にスポットライトを当てたことを評価したい。自殺した神崎が勤めていた内閣府は、各省庁からの出向者がほとんどで、プロパーは少ないという。組織としての自律性が低く、官邸側の意向に逆らうことができない。内閣府に勤める公務員たちは元の省庁に戻りたいがゆえに、上からの指示に粛々と従い、与えられた仕事を黙々と片付ける。それが汚れ仕事だと気づいても、気づかないふりをする。まさに盲目の羊たちだ。この国にはびこる悪しき組織構造を、本作は浮かび上がらせる。

 本作が描いているように内調が世論を操作しているのなら、安倍政権が多くの問題を抱えながらも、のらりくらりと長期政権を維持できているのは内調のおかげだということになる。安倍政権が長期化する一方、「世界の報道の自由度ランキング」はG7(先進7カ国)中最下位が日本の定位置となってしまった。報道の自由度が低いほうが、政権を安定させるには都合がいいらしい。官僚たちだけでなく、官僚や官邸の不正をチェックするはずのマスコミや選挙権を持つ国民も、同調圧力によって盲目の羊化が進みつつあるようだ。クライマックスで明かされる羊をめぐる謎かけの答えには、ゾッとさせられる。

 弾けるような笑顔を『サニー 永遠の仲間たち』や『怪しい彼女』で見せたシム・ウンギョンだが、本作ではずっと苦虫を噛み潰したような固い表情のままだ。『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)ではゾンビ化する女性感染者として1シーンだけ出演したが、本作もつらそうに映る。同調圧力に弱い日本社会の縮図の中、役に成り切って見せる彼女にとって感情を爆発させることのない記者の役は、ゾンビ役と同じくらいしんどい体験だったに違いない。

(文=長野辰次)

『新聞記者』

原案/望月衣塑子、河村光庸 脚本/詩森ろば、高石明彦、藤井道人 監督/藤井道人 音楽/岩代太郎

出演/シム・ウンギョン、松坂桃李、本田翼、岡山天音、郭智博、長田成哉、宮野陽名、高橋努、西田尚美、高橋和也、北村有起哉、田中哲司

配給/スターサンズ、イオンエンターテイメント 6月28日(金)より新宿ピカデリー、イオンシネマほか全国ロードショー

(c)2019「新聞記者」フィルムパートナーズ

https://shimbunkisha.jp

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杉並区の美人活動家議員が、中核と革マルの“沖縄局地戦”に参戦!

 警察庁が「極左暴力集団」に指定する新左翼「中核派」が急速に存在感を増している。その背景にあるのは、4月の地方選にて30歳の若さで杉並区議に当選した洞口朋子(ほらぐち・ともこ)氏の存在だ。

「洞口氏は区議選立候補の直前まで、中核派系の学生団体『全学連』で広報担当として活動していました。杉並はもともと革新勢力が強い土壌がありますが、警察当局がマークしている過激派に所属する活動家の当選は異例中の異例。マスコミ各社が当選の一報を伝え、大いに話題となりました。加えて、洞口氏はルックスも今どき。『中核派の三大美人の一人といわれていた』との話もあり、中核派は彼女を前面に出して活発なオルグ活動を展開しています」(大手紙社会部記者)

 本人のホームページなどによると、洞口氏は1988年、宮城県仙台市生まれ。両親ともに活動家という家庭に育ち、2008年に法政大学に入学後、中核派系の全学連に加入したという。かねてからメディアのインタビューを受けたり、中核派の新聞を紹介するYouTube動画でキャスターも務めていた。 

 そんな洞口氏だが、先日、意外な場所で目撃されていた。

「沖縄の本土復帰記念日の5月15日に毎年行われている県民大会に参加していたようです。会場前で100人くらいの中核派メンバーと共にビラ配りをしていた。テレビにも登場した有名人の登場に、足を止める人もいたようです」(現地事情通)

 沖縄の県民大会といえば、例年、日本中から労働組合が集まり、さながら「リベラル勢力の大集会」の様相を呈することでも知られる。最近では、県民大会が始まる前に行われるデモ行進に右翼の街宣車が並走して罵声を浴びせるなどトラブルも頻発するようになっており、中核派をはじめとする新左翼勢力にとっては存在感を示す場であることは間違いないだろう。

 ただ、その事情は中核派以外の新左翼勢力にとっても同じのようで、県民大会の会場前では、ある種異様な状況も繰り広げられていたという。

「中核派のビラ配りを取り囲むように、対立する新左翼の『革マル派』のメンバーも姿を見せていたという話です。顔バレを防ぐ目的なのか、彼らの多くはサングラスをかけて黙々と一般の参加者にビラを配っていた。知名度のある洞口氏を中心に声を張り上げて党勢拡大に勤しむ中核派とは対照的だったようです」(同)

 過去には血で血を洗う抗争を繰り広げた両派。沖縄で、静かな局地戦を繰り広げていたようだ。

かわいすぎる首相官邸インスタグラム、“中の人”はJK!? トランプ大統領に「#おそろコーデ」

「ポップでかわいい」と女子から人気の首相官邸インスタグラム。アメリカのドナルド・トランプ米大統領が26日まで国賓として来日したことで、フォロワー数を大きく伸ばしている。

 同インスタグラムは26日、トランプ大統領と安倍晋三首相が千葉県でゴルフを楽しむ様子をストーリー機能で投稿。どの動画もかわいく“デコられて”いるほか、ゴルフカートで移動する2人の動画では「どちらがスコアが上になると予想?」とアンケート機能を使用。横には「結果は国家秘密です」といった“小ボケ”なども添えられている。

 また、27日の宮中晩さん会前に撮影された動画には、トランプ大統領と安倍晋三首相のネクタイが赤色であったことから、「#赤ネクタイ」「#おそろコーデ」のハッシュタグがつけられている。

「先月、イタリアを訪問した際には、政府専用機の動画と共に『#飛行機好きな人と繋がりたい』とのハッシュタグがつけられるなど、そのユルさが話題に。今回の来日では、『かわおじ』(かわいいおじさんの略)などと呼んでトランプ大統領と安倍首相のツーショット写真をデコる女子が続出しており、動物の耳をつけたり、『ズッ友だヨ』と2人の周りにハートを撒き散らした画像などが出回っている。4月以前はなかなか注目されなかった同アカウントですが、デコり効果でフォロワー数はこの2カ月で約4倍に急増しました」(カルチャーライター)

 そんな女子人気の高い同アカウントだが、幻冬舎の編集者・箕輪厚介氏が主催するオンラインサロン「箕輪編集室」のツイッターが「首相官邸のインスタの中の人が2月入会にいるそうです!」とツイート。先月、ネット番組に出演した箕輪氏は、この“中の人”について「同い歳くらいの年齢の男。真面目そうな人だったけど、首相官邸のインスタはフリが効いているから、やりようはメッチャあるよねっていう話はした」などと語っていた。

「これまで『政府が女子高生を雇っているのでは?』などとウワサされてきましたが、実際は『箕輪編集室』に出入りするような意識高い系のおじさんが戦略的に行っていることが判明。当たり前の話ですが、一部では『言わないでほしかった』なんて声が上がっています」(同)

 日米の仲良しアピールを演出した同インスタグラムだが、こんな皮肉も……。

「日本はトランプ大統領を最大限もてなすことで、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉において譲歩を引き出したい思惑がありましたが、日本滞在中のトランプ大統領のSNSを見てみると『日本政府の人々はこう話す。民主党は、私や共和党が成功を収めるより、アメリカが失墜することを望んでいると』と民主党を攻撃するなど、いつもの調子。この温度差は、世界中に“浮かれているのは日本だけ”という印象を与えてしまったのでは」(同)

 首相官邸によるデコ画像・動画の数々は、若者の政治離れを食い止める特効薬となるだろうか?