多くのメディアで「銀行が口座維持手数料の導入を検討」と報道されたことで、SNSを中心に銀行に対する非難が渦巻いている。「他人のお金で儲けているのに、そのお金を預けるのに手数料を取るのは銀行の横暴だ」というわけだ。しかし、果たして銀行の口座維持手数料の導入は本当に銀行の横暴なのだろうか。
はじめにお断りしておくが、筆者は銀行が口座維持手数料を導入することに賛成しているわけではない。
銀行の経営環境が悪化したことで検討課題に
「口座維持手数料」は、預金口座に手数料をかけるもので、米国では多くの銀行が実施している。一定の預金残高を基準として、基準残高を割り込んだ場合には手数料が必要になるという方法が主流だ。
例えば、1万ドルを基準残高とし、常に口座残高は1万ドルを維持することを条件に手数料を免除する。この条件が守られている口座については、ATMが月の3回まで無料で利用できるなどのサービスが付加されるという仕組みだ。
しかし、日本の銀行は一部の富裕層向け口座などを除いて、口座維持手数料を導入していない。では、ここに来て、急に口座維持手数料の導入が検討されているはなぜか。それは、銀行の経営環境が大きく悪化しているためだ。
黒田東彦氏が日本銀行総裁に就任して以降、日銀は「デフレ退治」のために異例の金融緩和を推し進めてきた。すでに、民間の銀行が日銀に預金する際の金利や、国債市場などで取引される金利は“マイナス”になるなど、超低金利となっている。
銀行は預金者から集めた預金を元に、これを貸し出すことで、預金金利と貸出金利の差である利ザヤが収益の根源となる。しかし、超低金利により、この利ザヤが稼げなくなっており、収益が急激に悪化しているのだ。
預金者から見れば、ほとんど利息の付かない銀行口座にお金を預けるために、年間数千円の手数料を払わなければならなくなるのは、納得できないだろう。だが、銀行を責める前に考えるべきは、銀行が口座維持手数料の導入まで考えなければならなくなった元凶は、日銀の金融緩和政策にあるということだ。
実は、銀行が口座維持手数料の導入を検討するのは、これが初めてではない。これまでにも何度も導入案が浮上しては、消えていっている。そこには、口座維持手数料を導入せずとも利益を十分に稼ぎ出せたという背景がある。しかし、今回のように導入を前提とした検討を行うというのは、それだけ銀行が“切羽詰まっている”ことの証左でもあろう。
その上、これまで銀行の口座維持手数料導入には口を出すことがなかった日銀までもが、口座維持手数料が銀行の収益を下支えするとして導入に前向きな姿勢を示していることが、銀行の検討を後押ししている。
さて、少し視点を変えて「手数料」とは何かを考えてみたい。手数料とは、「一般に他人の求めに応じて行った特定の行為に対する報償として受け取る金銭を指すが、行政上は国、公共団体などが特定の者のために行う事務について徴収する料金をいう。手数をかけたことに対する報酬として支払う金銭」と国語辞典には書かれている。
ポイントは、「特定の行為(手数)に対する報償」と「特定の者のために行う事務への対価」という点にある。とするならば、銀行にお金を預けても、その預金を引き出しても“事務”が発生する。つまり、口座を利用する場合の事務手数料を徴求することは、銀行からすれば“正当な理由がある”ということになる。
海外旅行に行くとわかるが、多くの国で場面は違っていても“チップ”を支払う。米国などでは、基本給が低く抑えられ、チップが給与に組み込まれている仕事が多くある。日本人にとっては“サービスは無料”であっても、海外では“サービスは有料”だ。海外旅行では日本人も甘んじてこれを受け入れている。
日本にも旅館などの中居さんなどに“心づけ”というチップを渡す習慣がある。しかし、多くの旅館などでは心づけを受け取ることを止めている。その代わり、旅館やホテルなどでは、「サービス料」として心づけは正規料金に含まれるようになった。
身近なところでは、病院の初診料は手数料だ。中央社会保険医療協議会によると、初診料は①診療にあたって、個別技術にて評価されないような基本的な診察や検査、処置等。②診療にあたって、基本的な医療の提供に必要な人的、物的コストのために徴収するとしている。その中身は、人件費や診察用具等の設備、光熱費などのコストを指している。今や病院は400床以上の大病院では、紹介状がなければ初診料は5000円以上の追加料金を義務づけている。
例えば、航空券の払い戻しには手数料がかかる。飛行機に乗っていなくても、手数料を支払わなければならない。宴会や結婚式をキャンセルすれば、キャンセル料を支払わなければならない。中には、法外なキャンセル料を要求されるケースまである。名目こそ違うが、「特定の行為」と「特定の者のために行う事務」には料金がかかっている。
銀行のATMは年々高性能化している。現在のATMは現金の引き出しだけではなく、預入、振込・振替、クレジットカードの取扱いなどさまざまな機能があり、さらに指紋認証などの防犯性を兼ね備えたものまである。これらの高機能ATMは1台当たり数千万円もする上、1台を稼働させておくのに必要な維持費が年間で約700万円も必要となる。そのATMの時間外利用手数料は1回110円だ。
手数料は独自に設定するものであって、同一の手数料にすることは“談合”と見なされることがある。かつて、公正取引委員会が銀行のATM手数料が“談合”に該当するのではないかと調査したことがある。この時、銀行側は「同業のためコスト構造が似通っていることで、同水準の手数料となっている」とし、公取委の追及をかわした。しかし、これは銀行同士がATMの相互利用ができるネットワークを広げていく上で、手数料のバラツキを嫌がったためだった。
これまで銀行業界は、高い利益を背景に“サービスを無料”あるいは“サービスを低価格”にすることで顧客の獲得を図ってきたわけだが、もはや銀行にその余裕はなくなっており、銀行が主張するところの“正当なサービス料金”を徴収する姿勢に変化したのだ。
銀行の口座手数料を支払いたくなければ、口座を持たなければよいだけのこと。ただし、現金は自分で金庫を購入するなど安全策を万全にして保管し、口座引き落としで支払っている家賃、電気やガス、水道などの公共料金は、自らがコンビニエンスストアなどに支払いに行かなければならない。それだけの手間を覚悟する必要があるだろう。
銀行の口座維持手数料だけの問題ではなく、そろそろ、“サービスは無料”という考え方を“サービスは有料”という考え方に改める必要があるのかもしれない。