社会と日常、その狭間。あまり明るくなさそうな将来におびえつつ、なんとなく日々を過ごしてしまっている小市民的な視点から、見えてくるものを考える。
消費税の税率が10%に引き上げられた。あわせて“軽減税率”“キャッシュレス決済ポイント還元”“プレミアム付き商品券”などという、よくわからないものが暮らしのなかに出現した。いや、プレミアム付き商品券については使っている人を見たことも聞いたこともないので、とくに出現していないのかもしれない。とりあえず、今のところは痛税感よりも「なんかよくわからないな」という割り切れない感じと戸惑いのほうが大きいのではないだろうか。
消費税増税の反動の景気対策に2兆円超!?
軽減税率の対象品目について、すべて完璧に理解している人はきっといないだろう。ラムネのフタ部分のオモチャ笛が“一体資産”とされて軽減税率の対象にならないとか、テイクアウトとイートインをめぐるゴタゴタとか、「もうどうでもいい」という気になって当然だ。店舗によって異なるキャッシュレス決済サービス、還元ポイント率をすべて把握している人もきっといない。とりあえず、これまで同じように買い物をして、たまにレシートを確認して商品によって税率が8%だったり10%だったり、ポイントが還元されていたり、いなかったり、するのを見て「へえ……」と軽い無力感を覚えるぐらいしかできない。麻生太郎財務大臣は消費税増税にともなう混乱について、「日本人の計算能力は極めて高い」から「ないと期待している」と述べたそうだけれど、計算能力の問題ではないよね。そもそも麻生大臣自身、かつて軽減税率について「面倒くさい」と言っていたはず。経団連の中西宏明会長もポイント還元制度について「やり方が難しく、どのように機能するかは正直わからない」といっていたので、私たちが面倒くさくてよくわからないと感じるのも当然だろう。
まあ、軽減税率やキャッシュレス決済ポイント還元がまったくもって意味不明でいかにバカバカしいものであるかは、増税前からさんざんっぱら指摘され続けてきたし、その事態の混迷っぷりも嫌というほど見せつけられてきた。それでも実際に始まったら少しは慣れてくるのかな、なんて思っていたけれど、やっぱり全然そんなことはなかった。これからもずっと「よくわからないな」というぼんやりとした嫌な感じを抱えたまま慣れることなく、増税した消費税を払い続けていくことを思うと、厭世的な気持ちにならざるを得ない。
消費増税は“社会保障の充実と安定化”のためということで、実際に社会保障費が年々上がっていって大変なことになっているということは嫌というほど聞かされている。しかし、今回の消費税増税分のうち社会保障費に充てられるのは、そのうちの一部でしかなく、それも軽減税率実施に必要な財源でほとんど帳消しになるとか、その財源を確保するために社会保障費からも1000億円回されるとかいう報道に接すると、わけのわからないものが余計にわからなくなってくる。さらに、消費税を増税すると当たり前だが消費が冷え込むということで、件のキャッシュレス決済還元やプレミアム付き商品券といった景気対策に2兆円を超える金が投入され、もろもろのコストを計算すると、増税で見込まれる増収を超えてしまうそうだ。「へえ……」と思ったね。
数兆円という巨額が動くなかに埋もれてしまいそうだが、キャッシュレス決済ポイント還元やプレミアム付き商品券の広報・宣伝費に約74億円が計上されていることも、なかなかどうしてという感じである。なんと、この予算で政府公認の“ゆるキュラ”も作られているそうだ。いったいどこにいるんだ。このゆるキャラについて会見で記者に問われた麻生財務大臣は「知らねぇな。その内容は詳しく知らない」と答えており、そりゃ担当大臣が詳しく知らないのなら誰も知らんわ。
一部で話題になった経産省公式「ポイント還元対象店舗検索アプリ」の地獄のような使い勝手の悪さと不具合の多さ、その有様もまさに悲惨の一言だ。ポイント還元制度が終わるのは来年6月。このまま機能が改善されることもなく、自然消滅的にひっそりと消えていきそうだが、たいして炎上していないのは、ほとんどの人がアプリを使っていないからだろう。このアプリ開発には74億円のうち、いくら使われたのか。このアプリだって一応は国を挙げてのプロジェクトのはずなのだが。日本の技術後進っぷりがもの悲しい。
消費税増税を歓迎しているのは……
まあ、そんなこんなで一般市民としては消費税が増税されて良かったことなんて何ひとつないように感じてしまうのだが、この増税について「非常に良いことだと歓迎する」と堂々と言ってのけたのが、ポイント還元が難しくてよくわからない経団連の中西会長である。これは当然、財政健全化を念頭に言っているわけだが、よく指摘されているように法人税は消費税が導入されてからどんどん減税。消費税の増税と反比例するように法人税が減っていて、言ってしまえば肩代わりしているようなものである。そりゃ財界は歓迎するだろうよという話だ。しかし、消費税増税が景気にマイナスなことはわかりきっているのに、この言い草。結局、日本の経済がどうなろうとも輸出で儲けている大企業中心の財界にはどうでもいいということなんだろう。そもそも、日本の賃金が全然上がらないのだって、企業経営者が労働者の給料を上げず、株主に還元もせずにただ内部留保を積み上げていることも大きな要因になっているはずだ。もはや、この人らは“庶民の敵”といっていいのではないか。
庶民はニンジンの皮を食べて増税を乗り切ろう
そして、経団連と仲良しの日経新聞は消費税増税に対して「ニンジンの皮を食べて乗り切れ」という記事を掲載。金がないのであれば普段は捨てているところを食べればいいじゃない!って、パンがなければ菓子を食べろといったマリー・アントワネットのほうがマシではないか。ちなみに日経新聞は甚大な被害をもたらした台風19号を受けて「『もう堤防には頼れない』国頼みの防災から転換を」という記事も掲載している。災害が起きても国や行政に頼らず、自分で自分の身を守ろうというのだが、いったい何のために私たちは税金を払っているのだろう。ちなみに、この台風19号が日本列島を荒らし回っている最中、安倍政権は社会保障費の1300億円圧縮の検討を開始したそうだ。
サンドバッグか。日々つましい暮らしをしている庶民はもう殴られっぱなしでK.O.寸前だ。既存のルールをぶち壊して価値観をひっくり返してしまうジョーカーのような存在も現実には出現しない。なすすべもなく、お上がいつの間にか決定したことにただ従い、それが当たり前になって何も感じないパンチドランカー状態。そして、よくわからないまま増税した消費税を払い続けるのだ。