<p> 藤本由香里の『少女まんが魂―現在を映す少女まんが完全ガイド&インタビュー集』(白泉社)に収録されているインタビューで、漫画家の吉田秋生は「少女まんがの、あの、なんでもアリアリの突拍子のなさが、ひたすら好きなんですよね」と述べています。少女まんがが好きな人は、多かれ少なかれ、この意見に共感するのではないでしょうか。そう、少女まんがには、時にびっくりするような強引な設定から物語が紡ぎ出され、そして最終的には読者の気持ちをわしづかみにしてしまう作品があります。</p>
「慶應義塾大学・ヒサヨ先生の「あの頃の少女たちへ」」カテゴリーアーカイブ
暴走族でも不良でもなかった人が、『ホットロード』を懐かしんでしまう理由

『ホットロード(1)』/集英社
とおーいとおーい昔に、大好きだった少女マンガのことを覚えていますか。知らず知らずのうちに、あの頃の少女マンガが、大人になった私たちの価値観や行動に、影響を与えていることもあるのです。あの頃の少女たちと今の私たちはどうつながっているのか? 少女マンガを研究する慶應義塾大学の大串尚代先生と読み解いてみましょう!
<今回取り上げる作品>
紡木たく『ホットロード』/『別冊マーガレット』(集英社)連載、1986年~1987年
「この道をたどって どこまでも いけるとおもっていた こわくなかった あなたとふたりなら」
……とかなんとか、ありもしなかった過去へのノスタルジーにかられて、超ヘボいモノローグで語りたくなってしまうそんな夜。なぜ? なぜこんな気持ちになるの……。それはもちろん、紡木たくの『ホットロード』(集英社)を読んだからなのでした。
『ホットロード』の舞台は湘南。中学2年生、14歳の少女・宮市和希が、友達と万引きをしてお店の人に叱られているところから始まります。ほかの友達は親が迎えに来るのに、和希の母親は仕事を理由に迎えに来ず(父親とは死別)、代わりに担任の先生が警察に現れ、和希を気づかいます。「寂しい」と言えない和希と、娘にどう接していいかわからない母親。母親との間に埋められない溝が少しずつ深まっていくうちに、和希はたまたま友達に誘われ、とある「集会」に参加します。そう、いわゆる族(暴走族)の集会です。そこで和希は、MAD SPECIAL THE NIGHTS横浜本部の頭(ヘッド)の玉見トオル、トオルの彼女の宏子、そしてハルヤマ(春山洋志)に出会うのでした。和希はしだいに家に戻らなくなり、学校にも行かなくなり、ただ「走る」という行為に文字通り命をかけるハルヤマを見守ります。トオルの後を継いでNIGHTSの新たなヘッドになったハルヤマは、ほかの暴走族グループから目をつけられ、争いの日々へと突入してゆくのです。
『星の瞳のシルエット』の進まない内輪恋愛劇から得た、「じれったさ」への耐性

『星の瞳のシルエット(1)』/集英社
とおーいとおーい昔に、大好きだった少女マンガのことを覚えていますか。知らず知らずのうちに、あの頃の少女マンガが、大人になった私たちの価値観や行動に、影響を与えていることもあるのです。あの頃の少女たちと今の私たちはどうつながっているのか? 少女マンガを研究する慶應義塾大学の大串尚代先生と読み解いてみましょう!
<今回取り上げる作品>
柊あおい『星の瞳のシルエット』/「りぼん」(集英社)掲載、1985~89年
柊あおい『耳をすませば』/「りぼん」掲載、1989年
柊あおいを知ったのは、「りぼん」(集英社)本誌に連載されていた『星の瞳のシルエット』が初めてでした。「200万乙女のバイブル」というキャッチフレーズがつけられ、長期連載となった人気作品なので、私と同じような人も多いのではないでしょうか。しかし、この頃すでに高校生だった私は、妹が毎月買ってくる「りぼん」を読みながら、こう思っていました。じ……じれったいわ……!!
『星の瞳』の主人公・沢渡香澄は、小さい頃にすすき野原で出会った、名も知らぬ少年から「星のかけら」といわれる石をもらい、それ以来ずっとその石を宝物にしています。その後少年と会うこともなく中学2年生になった香澄は、親友の真理子が片思いをしている少年・久住智史に惹かれ始めます。しかも久住も、香澄を気にしている様子。しかし香澄は、真理子に気づかって久住への思いを止めようとします。香澄と真理子のどちらの気持ちも察してしまい、どうにも動けない友人・沙樹。そんな香澄のいじらしさを目の当たりにして、香澄に惹かれるのが、久住の友人であり、沙樹の幼なじみである司。その司を密かに想っているのが沙樹(言葉にするとややこしいが、結局は内輪で恋愛……まあ中学生なんてそんなもんだ)。
「ナプキンを振り回した男子を許せない」40代で読み返す女子校マンガ『櫻の園』

『櫻の園』/白泉社
とおーいとおーい昔に、大好きだった少女マンガのことを覚えていますか。知らず知らずのうちに、あの頃の少女マンガが、大人になった私たちの価値観や行動に、影響を与えていることもあるのです。あの頃の少女たちと今の私たちはどうつながっているのか? 少女マンガを研究する慶應義塾大学の大串尚代先生と読み解いてみましょう!
<今回取り上げる作品>
吉田秋生『櫻の園』/「LaLa」(白泉社)掲載、1985~86年
高校2年生までを共学で過ごした私が初めて「女子校」を体験したのは、高校3年生の時でした。親の転勤にともなって地方都市から東京に来た時に、初めて引越と転校、そして「女子校」を経験したのでした。
「女子校」という空間は、まったくの未知の世界。しかも、私が転入した学校は小・中・高・短大まであり、その学校人生のほとんどを同じメンバーで過ごしている人たちも少なくないときた。すでに友人グループができ上がっているところに、高校生活最後の1年間だけ飛び込んでいくのは、もともと友達づくりが苦手な私には、相当な胆力が必要だったのでした。
10代の女の子たちだけの空間とは、どんなものか。それは、居心地の悪さと心地よさとが同時にあるような場所でした。クラスメートのあけすけな元気の良さにあっけにとられ、その率直な大胆さについていけない時があると同時に、男子の目がない分だけ、どこか安心感もありました。私はというと、さすがに目立つ女の子たちのグループにはとても近づけませんでしたが、休み時間に教室の片隅で文庫本や同人誌を読んでいるような女の子たちとぽつぽつ話すようになってから、私の女子校生活が安定し始めたのを覚えています。
ひとくくりに「女子高校生」といっても、いろんなタイプの女の子たちがいて、いろんな過ごし方を実践していました。あの学校で過ごす時間が長ければ、もっといろんな女の子と知り合えただろうし、この学校のことをもっと好きになっていたかもしれないと思えたのは、卒業式も近くなってのことでした。
岩館真理子『えんじぇる』の“察してちゃん主婦”に見る、結婚への絶望と希望

『岩館真理子自選集 (3) えんじぇ
る』/集英社
とおーいとおーい昔に、大好きだった少女マンガのことを覚えていますか。知らず知らずのうちに、あの頃の少女マンガが、大人になった私たちの価値観や行動に、影響を与えていることもあるのです。あの頃の少女たちと今の私たちはどうつながっているのか? 少女マンガを研究する慶應義塾大学の大串尚代先生と読み解いてみましょう!
<今回取り上げる作品>
岩館真理子『えんじぇる』/『週刊マーガレット』(集英社)掲載、1982年
トピタイトル「幸せだけど幸せじゃない」
「トピを開いてくださってありがとうございます。もうすぐ2歳になる娘がいる20代女性です。高校を卒業してすぐに見合いで夫と結婚し、4年になります。夫は商社に勤めている、いわゆるエリートサラリーマンです。夫は優しい人で、わがままも聞いてくれますし、私が不得意な家事についても文句ひとつ言いません。周りの人は、みんな幸せな結婚だと言ってくれます。でも……どこか満たされないんです。なんでこの人と一緒にいるんだろうって思って。先日思いあまって、娘を連れて家を出ました。これから離婚に向けて、話し合いをすることになると思いますが、どうすればこの心の穴が満たされるでしょうか」
「トピ主です。みなさん、ご意見ありがとうございました。厳しいご意見もすべて読んでいます。もう少し説明させてください(後出しですみません)。夫は20代後半です。私が高校を卒業して、すぐに結婚したのは、高校時代につきあっていた先輩に、ほかに恋人がいることがわかって、失恋してしまったからなんです。それで親に勧められるままお見合いをして、良さそうな人だなって思って、結婚したんです。結婚ってそういうものじゃないんですか? それから私は専業主婦じゃありません。高校時代から描いていたイラストでお仕事をもらえているので、なんとか生活はできます」
世界一“気にしない”少女キャンディを通して感じる、今の自分と少女との距離

『キャンディ・キャンディ』/中央
公論新社
とおーいとおーい昔に、大好きだった少女マンガのことを覚えていますか。知らず知らずのうちに、あの頃の少女マンガが、大人になった私たちの価値観や行動に、影響を与えていることもあるのです。あの頃の少女たちと今の私たちはどうつながっているのか? 少女マンガを研究する慶應義塾大学の大串尚代先生と読み解いてみましょう!
<今回取り上げる作品>
いがらしゆみこ 原作・水木杏子『キャンディ・キャンディ』/『なかよし』(講談社)連載、1975~1979年
キャンディ……あなたにはとても感謝してる。だって私が「少女マンガ」の存在を知ったのは、あなたのおかげなのだもの。そう、あの当時、みんなあなたに夢中だったわね。アニメもあったし。まわりの女の子たちは、みんな落書き帳に大きなリボンをつけたツインテールの女の子を描いていたっけ。
なにぶん、小学校の低学年の私だったから、物語をきちんと把握できていないところも多かった。シカゴとロンドンの区別もつかなかったり(みんな一律に外国というくくり)、本当は20代のアルバートさんをとんでもなく年上のオッサンだと思いこんでいたり。でも、外国への憧れや、ちょっと不良だけど影のある少年の魅力を教えてくれたり、「戦争と死」というシリアスなことを教えてくれたのも、あなただったわ。
うざがられても「だって好きだもの」一途さを肯定してくれる 『ときめきトゥナイト』

『ときめきトゥナイト 1 (集英社文
庫―コミック版)』/集英社
とおーいとおーい昔に、大好きだった少女マンガのことを覚えていますか。知らず知らずのうちに、あの頃の少女マンガが、大人になった私たちの価値観や行動に、影響を与えていることもあるのです。あの頃の少女たちと今の私たちはどうつながっているのか? 少女マンガを研究する慶應義塾大学の大串尚代先生と読み解いてみましょう!
<今回取り上げる作品>
池野恋『ときめきトゥナイト』/『りぼん』(集英社)連載、1982〜1994年
いちおう「文学研究なぞをやっている学者研究者」ということになっている私ですが、作家や作品についてコマコマと調べていると、時折ふと、中学生の頃の恥ずかしい記憶が蘇ってくることがあります。そう――それは好きな男の子の「マル秘調査レポート」制作です。
生年月日、住所、電話番号はもとより、身長・体重、家族構成、通っている塾、得意科目、好きな食べ物、好きな歌手……「好きな人のことなら何でも知りたい! 私服の彼を見てみたい!」などという芸能レポーターも真っ青の探求心は留まることを知りません。地道な聞き込み調査や、会話の端々から彼の好みを推察する考察力は、今の私の生業の基礎になっているかもしれません。