「子どもを元夫に会わせるのは、自分のため」慰謝料も養育費もなく離婚した妻の思い

singlemother13b『わが子に会えない』(PHP研究所)で、離婚や別居により子どもと離れ、会えなくなってしまった男性の声を集めた西牟田靖が、その女性側の声――夫と別居して子どもと暮らす女性の声を聞くシリーズ。彼女たちは、なぜ別れを選んだのか? どんな暮らしを送り、どうやって子どもを育てているのか? 別れた夫に、子どもを会わせているのか? それとも会わせていないのか――?

第13回 尾崎豊美さん(仮名・47歳)の話(後編)

 20代後半で一目惚れした、バツイチの男性と結婚。長男を妊娠中、夫には700万円もの借金があることが発覚。夫の服を売ったほか、食品のまとめ買いや、子ども服をすべて友人からのお下がりで済ますなどして節約し、サラ金4社の借金を数年かけて返済した。しかし、子育てに一切関わらない夫は、次第に暴力を振るい始め、三男が生まれて長男が学校で荒れだすと、「お前の育て方が悪い」といって殴るので、離婚を考えだす。

(前編はこちら)

■私を殴る夫に、長男はおびえるようになった

――豊美さんが叩かれたとき、子どもたちはどういう反応でしたか?

 私が叩かれている姿を見て、「パパがママをいじめてる」と認識したようです。それ以来、長男は父親のことをすごく毛嫌いするようになった。それでも、会話までは拒否してませんでしたけどね。

――とすると、旦那さんと息子さんの関係は、そのまま大丈夫だったんですか?

 いえ。その後、長男は、夫におびえるようになりました。夫が珍しく「外行くか」って誘ったことがあったんです。そのとき長男は勉強中で「終わるまで待ってて」って答えたんです。すると、途端に夫が腹を立てて、「行くのか。行かねえのか」って怒鳴りながら、テレビのリモコンで長男を殴りつけたんです。殴られてからというもの、長男は夫が帰ってくるたびにビクビクするようになっちゃった。そんな長男の姿を見て私、「急いで決着をつけないと」って思いました。

――その後、家から旦那さんを追い出して、離婚したのですか?

 いえ。その前に1回、私が子どもたちを連れて、多摩にある私の実家に帰ってます。その間、彼は1年間にわたり、この一軒家にひとりで生活していました。

――お父さんが買ってくれた家なのに、豊美さんは自ら出て行ったんですね?

 夫が長男をリモコンで殴った頃から、私は心身共にガタガタでした。顔面麻痺に加えて失語症にもなって、もはや限界。そんなとき、父が「家はそこだけじゃないぞ。戻ってこい」と救いの手を差し伸べてくれました。そうして親に甘える形で、私と子ども3人は、実家に住み始めたんです。その頃、私は在宅ワークで収入を得ていて、そこから家賃や食費を親に渡していました。

――決着をつけるべく、旦那さんと話し合いをされたのですか?

 やりとりは、主にメールで行いました。私のほうから「もう限界、別れて」って離婚を切り出すと、夫は渋りました。「別居のままでいいから、離婚はしないでくれ」って。「無理です」と短く返信したんです。

――別居中、旦那さんと子どもたちの関係は、どうだったのでしょうか?

 月に1〜2回のペースで会わせていました。でも、夫の発言を境に、会わせなかった時期もあります。というのも、別れ話の最中、夫は私にこんなことを言ったんです。「『離婚したい』っていうのは俺の意思じゃない。本当に離婚するっていうなら、おまえが慰謝料を払うべきだし、子どもには会わせろ。だけど養育費は払わないからな」って。

 離婚を切り出さざるを得ないぐらいに私たちを追い詰めておいて、『俺の意思じゃない』って、よく言えたものですよ。これには、震えるほどの強い怒りを覚えました。頭にきた私は、それから3カ月ほど連絡を絶ったのですが、すると子どもたち3人それぞれに、「なんで最近パパと会えないの?」「このままずっとパパに会えなくなるの? やだよ、そんなの」などと言われたんです。

 それを聞いて私、思いました。「なんだったんだろう? この10年以上。借金を返してきて、一生懸命あんたたちのためにと思って頑張ってきたのに、なんで『パパ、パパ』なの?」ってやるせない気分になって、下戸なのに私、ワンワン泣きながら浴びるようにお酒を飲み続けて、泣いて泣いて泣きまくったら、明け方になってしまっていました。

 夜が明けていく中、私、達観したんです。親は子どもから愛されている。父親と母親、子どもにはどちらも大事だと。床に就く前に、夫にメールしました。「養育費も慰謝料もいらないから、家から出て行って。その代わり、子どもたちとは好きに会っていい」って。するとすぐに、承諾する旨の返事がきました。そうして、あっさり協議離婚が成立したんです。

――別れた後の心理的な変化はありましたか?

 「今後は、自分が頑張ればいいんだ」っていうことに気がついて、すごく気持ちが楽になったんです。だからなのか、子どもには「離婚して、ママもパパも優しくなった」と感謝されました。だけど、もし夫が調停や裁判を起こしてきたりして長引いたら、私もアウトだったかもしれない。

――面会は、どのような調子で行っていますか?

 リモコンで殴られたことがある長男は当初、夫に会うことを怖がっていました。それでも次第に警戒心が解けていくと、長男が面会の段取りをリードするようになりました。連絡は、夫と主に長男が話をつけてるようです。面会させて帰ってきたときに子どもの様子がおかしいといったことはないですが、「なんでパパとママは一緒に住めないの?」と何回か言われたりはします。そのときは、「地球がひっくり返っても、ママは無理。その分、いっぱい会っていいから」と言ってます。

――面会をさせて、つらくなることはありませんか?

 当初はつらかった。「なんでこんなに喜んで帰ってくるんだろう?」とか「また夫だけいいとこ取りか」とか、面会させるたびに、そんなふうに気持ちがザワザワしていました。なので面会ごとに、エステに行ったり、友達とおいしいものを食べに行ったりして、あえて気を紛らわせていました。

――その後も、ずっと会わせているんですか?

 2年ほど前、夫が急に「子どもに会わなくていい」って言いだしたことがありました。たぶん彼女ができたんでしょうね。しかも、「一軒家を売りたい」って言って、それだけの理由で調停を起こされました。離婚したときは「家は私に譲る」という約束だったのに。

――そこで初めて調停なんですね。

 私、悔しくて、裁判所の調停室でワンワン泣いてしまいました。すると見かねた調停委員が、夫を注意してくれたみたいです。「今、調停をするのは、『子どもに会わせてくれ』っていう人がほとんどですよ。なのに、あなたは好きに会わせてもらって、しかも養育費も払わずに済んでるのに『家を売りたい』って主張する。いったいどういうことですか!」って。

 調停は「家は売らない」という結論で終了しました。それまで口約束だった取り決めを公正証書化し、そこには「家は私に譲渡する」という項目が含まれています。面会交流の項目も入れました。ただ、それは「最低でも夫は月に1回は子どもに会わなければ、罰金を科す」というものでした。結果的には、旦那が『家を売りたい』と言ってきたことで初めて、離婚後の約束を証書にまとめることができました。

――調停後の面会は、どのような感じですか?

 日曜日が多いかな。ご飯を食べに行きますね。長男と次男はもう大きくなっているので、昼間はパパと出歩くのは気恥ずかしいみたい。三男はもちろん、喜んで昼間から会いに行きますよ。それで夕飯には、長男と次男が合流するんです。夏なんかは一緒に、夫と泊まりでG県に行ってきたりしますよ。元義母からは、今でも電話は来ます。

――旦那さんとのやりとりはあるんですか?

 ほとんどないですが、連絡するとき、別にためらいはないです。子どもたちの父親ではあるけど、私にとっては過去の人だから。ここまで気持ちを整理するのに4年かかりました。定期的に淡々と会わせていくことで、私の中のわだかまりを消化していったんだと思う。

――今の生活はどうですか?

 育ち盛りの子どもが3人いると、何かしら出費が増えてしまって大変。だけど、結婚してたときみたいに耐えてないので楽です。家計が大変な分、子どもたちにはかわいそうな思いをさせてて、申し訳ないです。それでも学費だけは出してあげようって決めています。

――今後は何をしたいですか?

 子どもを元夫に会わせるのは、別れた後、幸せになるため。つまりは自分のためだということを、関わっている面会交流支援を通じて伝えたいです。「会わせたくない」という気持ちはすごくわかる。だけど、そのまま1人で抱え込むのは負担が大きすぎますよ。だから、私が支援している人たちには、「会わせ続けることが自分の新しい一歩になるし、自分の人生を生きることにつながるよ」って伝えています。

西牟田 靖(にしむた やすし)
1970年大阪生まれ。神戸学院大学卒。旅行や近代史、蔵書に事件と守備範囲の広いフリーライター。近年は家族問題をテーマに活動中。著書に『僕の見た「大日本帝国」』『誰も国境を知らない』『〈日本國〉から来た日本人』『本で床は抜けるのか』など。最新巻は18人の父親に話を聞いた『わが子に会えない 離婚後に漂流する父親たち』(PHP研究所)。数年前に離婚を経験、わが子と離れて暮らす当事者でもある。

<取材協力者募集>
この連載の取材にご協力いただける方を募集しています。夫と別居または離婚して子どもを育てているお母さん、子どもと夫との面会状況についてお話をお聞かせいただけると幸いです。下記フォームよりご応募ください。

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「一生会わなくてもいい」「養育費は払わない」“産後うつ”になった夫と離婚【別れた夫にわが子を会わせる?】

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第9回 松田亜美さん(仮名・38歳)後編

 中性的な雰囲気を持つ9歳年下のヨガ教室アシスタントの男性と、付き合い始めて半年で妊娠。結婚して彼の実家で同居を始める。出産に備えて、夫はがむしゃらに働いたが、アルバイトを掛け持ちして、疲労でうつになってしまう。

(前編はこちら)

■妻ではなく夫が「産後うつ」になる

 彼に覇気はなく、発言はマイナス思考。病院には行っていたが、薬は飲んでいなかった。自分の殻に閉じこもり、ゲームばかりするように。そんなとき、松田さんは出産を迎える。

「10月末の出産でした。彼は立ち会ってくれました。双方の両親に、助産院の場所を連絡したんですけど、陣痛が急に強くなり、5時間ぐらいで生まれてしまって、間に合わなかった。産んだとき、彼には『ありがとう』って、お礼を言われました」

――生まれた後、3人はどこで暮らしたんですか? 彼のうつは回復しましたか?

「産後、私は実家で過ごしました。肥立ちのキツイ時期に、彼の両親と過ごすのは精神的に無理だったんです。その代わり、彼に私の実家に来てもらいました。彼自身は『大丈夫』って言っていたんですが、全然ダメでした。私の両親との関係が気まずかったようで、気が休まらなかったみたい。だから、彼のうつは一向に治る兆しを見せませんでした」

――出産直後から別居していたんですね。

「翌年の6月ぐらいまで、8カ月ほど私は実家にいました。彼は相変わらずうつでした。どちらかの実家に3人で住もうとしたんですが、双方とも相手の親とか家がダメでしたね」

――3人が一家水入らずで暮らすことはなかったんですか?

「私が実家を出た後、3人で暮らしました。彼の両親に引っ越し費用を何十万円か借りて、都下に引っ越したんです」

――それは、うまくいきましたか?

「むしろ逆です。言い合いになって、怒りで打ち震えるようになって、双方が物を投げたりしました。当時、彼はまだうつ状態で無職。もともと無気力なんですが、家事や育児を何もしてくれない。自分だけ先にご飯を食べ終わると、スマホのゲームをしだすんです。そして夜中になると、借りてきたDVDを彼はひとりで見ていました。そんな感じなので、どんどん仲が悪くなっていって、一緒に住み始めて半年ぐらいで結局、別居したんです」

――最終的に、別れようと思ったきっかけは何ですか?

「一昨年の12月にすごく仲が悪くなって、寝るのも別々の状態となりました。その頃から子どもが夜中に吐くようになってしまって、いま思えば自家中毒だったんでしょう。一方、彼は寝たら絶対に起きない人なので、『(家事も子どもの世話も)なんで私ばっかりやらなきゃならないのよ』っていう気持ちが強まっていきまして、彼の失敗一つひとつに対し、怒りを募らせていったんです。

 それで、年明けから、お互いにすごい剣幕でののしり合いました。そんなことが毎日続いた果てに、彼が実家に帰ってしまったんです。その間も、ずっと子どもの具合が悪かった。私はひとりで毎日、具合悪い子どもを看て、吐いて汚れた服を洗濯して……という繰り返しの生活を送ったんです。

 それで1回、母親にヘルプに来てもらいました。そのとき『今後どうするか、はっきり決めたら?』と言われたんです。それで私、はたと考えました。彼が戻ってきたとしても、やり直せるかどうかわからない――って。そして、市役所に電話で離婚して引っ越したい旨を伝え、支援を受けられるか相談に乗ってもらいました。可能とのことだったので、後日、訪問して、その場で離婚の決意を固めたという感じです」

――離婚することを、彼にはどうやって切り出したんですか?

「彼が戻ってきたときに言いました。ちょうど私が実家に帰る予定にしていたタイミングです。去年の1月中旬のことでした。以前の夫婦ゲンカで、離婚という話が出ていたので、離婚届はすでに記入と捺印が終わっていました。それを最終的には、彼が市役所に持っていったんです」

――そのとき、養育費や親権、面会といった話はしましたか?

「親権は私。養育費は『経済力がないので払いません』と彼は言っていた。『私が受け取るんじゃなくて、子どもに受け取る権利があるんだ』とは何度も言ったんですけどね。すると、彼は私に『子どもに一生会わせたくないって言うんなら、一生会わなくてもいい』とまで言いました。振り返ると、そんな言葉が出てくるぐらいにお互い仲が悪かったんだなって思います」

――その後は、お子さんと2人で暮らしたんですか?

「そうです。実家のそばのアパートに、息子と2人で引っ越してきました。まだ1歳半頃でした。私は働きたいんですが、息子は怒ったり泣いたりが、すごく激しいんです。

 ほどなく父が交通事故で寝たきりになり、母親を頼ることもできなくなってしまいました。かといって保育園は激戦区なので、なかなか入れない。そんなわけで、多動気味の息子の面倒を一日中ずっと見てるだけの毎日です。

 一方、彼は、仕事でペアを組む15歳くらい年上の女性と付き合うようになったそうです。収入も安定し始めたんだとか」

――離婚後の面会は、どうしていますか?

「会わせたほうがいいのかなという気持ちと、私ばっかり大変な思いをしているんだから会わせたくないという気持ちとの間を揺れ動いていました。でも、やっぱり子どもにとっては実の父親なので、たまには会わせたほうがいいかなって思ったんです。

 昨年10月の誕生日には、彼から『息子に会いたい』と連絡があったので、会わせました。別れて以来、養育費を一銭も払ってないのに、虫がよすぎますけどね。

 3人で食事に行って、その費用は全部払ってくれました。今年の5月ぐらいに、一度子どもを預かってもらったことがあるんですが、そのときはおもちゃを買ってくれて、お金も少しもらいました。そのぐらいです。金額は3万円でした」

――今後は、どのような形で会わせますか?

「今年も息子の誕生日が近づいてきているので、また連絡があるんじゃないですか? あと、面会ではないんですが、息子の世話で私がいっぱいいっぱいになるときがあるので、そんなときは『預かって』ほしいって、こちらから連絡します。実際には『(預かる代わりに)今後はお金で』と言われて、一度断られましたけどね。ひどいでしょ。

 その後、私から彼に連絡をしたんです。するとまた子どものおもちゃを持って数日後に来てくれて、ちょっと話をしたり、数時間うちにいましたね。やっぱり子どもが覚えてるので、実の父親が一番です。とはいっても、彼とやり直そうっていう気持ちはまったくないです。彼に新たな相手がいるということもありますから、私が望んでも無理なんですけどね」

――父親のことを、これからどうやって子どもに伝えようと考えていますか?

「彼が帰った後、息子に『お父さんは?』って聞かれたんです。『お父さんはいつもいないよ。ときどき会うだけでしょ』って答えました。息子はふーん、という感じで、それ以上特に何もなかった。今後も、そのときと同じように答えるつもりです」

――これから子育てのプランはあったりしますか?

「養育費は、可能なら欲しいです。彼も仕事がノッてきたそうで、払える状態みたいですからね。息子が大きくなってきて、手がかからなくなったから、そろそろ働き始めないと、とも思ってます。

 息子を成長させるには、やはり男性との関わりがあったほうがいいでしょう。だから、息子と遊んでくれる男の人がいてくれたらなって思います。それは新しいパートナーでもいいし、恋愛抜きの関係で、子どもと一緒に遊んでくれるだけの人でもいい。今、私に交際している相手はいないですけどね」

 別れのショックから立ち直りつつある松田さんは、問題点を冷静に見つめつつ、将来のことを前向きに語った。彼女に良い未来が切り開けることを、筆者は心から願っている。

西牟田 靖(にしむた やすし)
1970年大阪生まれ。神戸学院大学卒。旅行や近代史、蔵書に事件と守備範囲の広いフリーライター。近年は家族問題をテーマに活動中。著書に『僕の見た「大日本帝国」』『誰も国境を知らない』『日本國から来た日本人』『本で床は抜けるのか』など。最新巻は18人の父親に話を聞いた『わが子に会えない 離婚後に漂流する父親たち』(PHP研究所)。数年前に離婚を経験、わが子と離れて暮らす当事者でもある。

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「一生会わなくてもいい」「養育費は払わない」“産後うつ”になった夫と離婚【別れた夫にわが子を会わせる?】

『わが子に会えない』(PHP研究所)で、離婚や別居により子どもと離れ、会えなくなってしまった男性の声を集めた西牟田靖が、その女性側の声――夫と別居して子どもと暮らす女性の声を聞くシリーズ。彼女たちは、なぜ別れを選んだのか? どんな暮らしを送り、どうやって子どもを育てているのか? 別れた夫に、子どもを会わせているのか? それとも会わせていないのか――?

第9回 松田亜美さん(仮名・38歳)後編

 中性的な雰囲気を持つ9歳年下のヨガ教室アシスタントの男性と、付き合い始めて半年で妊娠。結婚して彼の実家で同居を始める。出産に備えて、夫はがむしゃらに働いたが、アルバイトを掛け持ちして、疲労でうつになってしまう。

(前編はこちら)

■妻ではなく夫が「産後うつ」になる

 彼に覇気はなく、発言はマイナス思考。病院には行っていたが、薬は飲んでいなかった。自分の殻に閉じこもり、ゲームばかりするように。そんなとき、松田さんは出産を迎える。

「10月末の出産でした。彼は立ち会ってくれました。双方の両親に、助産院の場所を連絡したんですけど、陣痛が急に強くなり、5時間ぐらいで生まれてしまって、間に合わなかった。産んだとき、彼には『ありがとう』って、お礼を言われました」

――生まれた後、3人はどこで暮らしたんですか? 彼のうつは回復しましたか?

「産後、私は実家で過ごしました。肥立ちのキツイ時期に、彼の両親と過ごすのは精神的に無理だったんです。その代わり、彼に私の実家に来てもらいました。彼自身は『大丈夫』って言っていたんですが、全然ダメでした。私の両親との関係が気まずかったようで、気が休まらなかったみたい。だから、彼のうつは一向に治る兆しを見せませんでした」

――出産直後から別居していたんですね。

「翌年の6月ぐらいまで、8カ月ほど私は実家にいました。彼は相変わらずうつでした。どちらかの実家に3人で住もうとしたんですが、双方とも相手の親とか家がダメでしたね」

――3人が一家水入らずで暮らすことはなかったんですか?

「私が実家を出た後、3人で暮らしました。彼の両親に引っ越し費用を何十万円か借りて、都下に引っ越したんです」

――それは、うまくいきましたか?

「むしろ逆です。言い合いになって、怒りで打ち震えるようになって、双方が物を投げたりしました。当時、彼はまだうつ状態で無職。もともと無気力なんですが、家事や育児を何もしてくれない。自分だけ先にご飯を食べ終わると、スマホのゲームをしだすんです。そして夜中になると、借りてきたDVDを彼はひとりで見ていました。そんな感じなので、どんどん仲が悪くなっていって、一緒に住み始めて半年ぐらいで結局、別居したんです」

――最終的に、別れようと思ったきっかけは何ですか?

「一昨年の12月にすごく仲が悪くなって、寝るのも別々の状態となりました。その頃から子どもが夜中に吐くようになってしまって、いま思えば自家中毒だったんでしょう。一方、彼は寝たら絶対に起きない人なので、『(家事も子どもの世話も)なんで私ばっかりやらなきゃならないのよ』っていう気持ちが強まっていきまして、彼の失敗一つひとつに対し、怒りを募らせていったんです。

 それで、年明けから、お互いにすごい剣幕でののしり合いました。そんなことが毎日続いた果てに、彼が実家に帰ってしまったんです。その間も、ずっと子どもの具合が悪かった。私はひとりで毎日、具合悪い子どもを看て、吐いて汚れた服を洗濯して……という繰り返しの生活を送ったんです。

 それで1回、母親にヘルプに来てもらいました。そのとき『今後どうするか、はっきり決めたら?』と言われたんです。それで私、はたと考えました。彼が戻ってきたとしても、やり直せるかどうかわからない――って。そして、市役所に電話で離婚して引っ越したい旨を伝え、支援を受けられるか相談に乗ってもらいました。可能とのことだったので、後日、訪問して、その場で離婚の決意を固めたという感じです」

――離婚することを、彼にはどうやって切り出したんですか?

「彼が戻ってきたときに言いました。ちょうど私が実家に帰る予定にしていたタイミングです。去年の1月中旬のことでした。以前の夫婦ゲンカで、離婚という話が出ていたので、離婚届はすでに記入と捺印が終わっていました。それを最終的には、彼が市役所に持っていったんです」

――そのとき、養育費や親権、面会といった話はしましたか?

「親権は私。養育費は『経済力がないので払いません』と彼は言っていた。『私が受け取るんじゃなくて、子どもに受け取る権利があるんだ』とは何度も言ったんですけどね。すると、彼は私に『子どもに一生会わせたくないって言うんなら、一生会わなくてもいい』とまで言いました。振り返ると、そんな言葉が出てくるぐらいにお互い仲が悪かったんだなって思います」

――その後は、お子さんと2人で暮らしたんですか?

「そうです。実家のそばのアパートに、息子と2人で引っ越してきました。まだ1歳半頃でした。私は働きたいんですが、息子は怒ったり泣いたりが、すごく激しいんです。

 ほどなく父が交通事故で寝たきりになり、母親を頼ることもできなくなってしまいました。かといって保育園は激戦区なので、なかなか入れない。そんなわけで、多動気味の息子の面倒を一日中ずっと見てるだけの毎日です。

 一方、彼は、仕事でペアを組む15歳くらい年上の女性と付き合うようになったそうです。収入も安定し始めたんだとか」

――離婚後の面会は、どうしていますか?

「会わせたほうがいいのかなという気持ちと、私ばっかり大変な思いをしているんだから会わせたくないという気持ちとの間を揺れ動いていました。でも、やっぱり子どもにとっては実の父親なので、たまには会わせたほうがいいかなって思ったんです。

 昨年10月の誕生日には、彼から『息子に会いたい』と連絡があったので、会わせました。別れて以来、養育費を一銭も払ってないのに、虫がよすぎますけどね。

 3人で食事に行って、その費用は全部払ってくれました。今年の5月ぐらいに、一度子どもを預かってもらったことがあるんですが、そのときはおもちゃを買ってくれて、お金も少しもらいました。そのぐらいです。金額は3万円でした」

――今後は、どのような形で会わせますか?

「今年も息子の誕生日が近づいてきているので、また連絡があるんじゃないですか? あと、面会ではないんですが、息子の世話で私がいっぱいいっぱいになるときがあるので、そんなときは『預かって』ほしいって、こちらから連絡します。実際には『(預かる代わりに)今後はお金で』と言われて、一度断られましたけどね。ひどいでしょ。

 その後、私から彼に連絡をしたんです。するとまた子どものおもちゃを持って数日後に来てくれて、ちょっと話をしたり、数時間うちにいましたね。やっぱり子どもが覚えてるので、実の父親が一番です。とはいっても、彼とやり直そうっていう気持ちはまったくないです。彼に新たな相手がいるということもありますから、私が望んでも無理なんですけどね」

――父親のことを、これからどうやって子どもに伝えようと考えていますか?

「彼が帰った後、息子に『お父さんは?』って聞かれたんです。『お父さんはいつもいないよ。ときどき会うだけでしょ』って答えました。息子はふーん、という感じで、それ以上特に何もなかった。今後も、そのときと同じように答えるつもりです」

――これから子育てのプランはあったりしますか?

「養育費は、可能なら欲しいです。彼も仕事がノッてきたそうで、払える状態みたいですからね。息子が大きくなってきて、手がかからなくなったから、そろそろ働き始めないと、とも思ってます。

 息子を成長させるには、やはり男性との関わりがあったほうがいいでしょう。だから、息子と遊んでくれる男の人がいてくれたらなって思います。それは新しいパートナーでもいいし、恋愛抜きの関係で、子どもと一緒に遊んでくれるだけの人でもいい。今、私に交際している相手はいないですけどね」

 別れのショックから立ち直りつつある松田さんは、問題点を冷静に見つめつつ、将来のことを前向きに語った。彼女に良い未来が切り開けることを、筆者は心から願っている。

西牟田 靖(にしむた やすし)
1970年大阪生まれ。神戸学院大学卒。旅行や近代史、蔵書に事件と守備範囲の広いフリーライター。近年は家族問題をテーマに活動中。著書に『僕の見た「大日本帝国」』『誰も国境を知らない』『日本國から来た日本人』『本で床は抜けるのか』など。最新巻は18人の父親に話を聞いた『わが子に会えない 離婚後に漂流する父親たち』(PHP研究所)。数年前に離婚を経験、わが子と離れて暮らす当事者でもある。

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密会現場がラブホテルとビジネスホテルで「不倫の証拠」の価値は違う?

「ドラマのこのシーンってありえるの?」「バラエティーのあのやり方ってコンプライアンス的にどうなの?」……テレビを見ていて感じた疑問を弁護士に聞いてみる、テレビ好きのための法律相談所。

<今回のテーマ>
袴田吉彦の不倫騒動

■ラブホテル、ビジネスホテル、シティホテルに不倫の証拠としての法的な違いはない

 今年一発目の“ゲス不倫”案件として大きな話題となった、俳優・袴田吉彦と30歳の元グラビアアイドルとの不倫。2人で会うときに、袴田がビジネスホテルのアパホテルを利用していたことにも注目が集まったが、不倫の証拠としてビジネスホテルとシティホテルやラブホテルとに法的な違いはあるのだろうか? アディーレ法律事務所の村松優子弁護士に聞いた。

 まず、ラブホテル、ビジネスホテル、シティホテルの間に「法的な違いは特にない」と村松弁護士は言う。

「どの種類のホテルであっても、健全な男女が1室で2人きりで宿泊等していた場合には、通常、当該男女が肉体関係を持ったと推認されます。そのため、『健全な男女が1室で2人きりで宿泊等していた』証拠がばっちり取得できれば、どの種類のホテルであっても不倫の証拠となり、その証拠の価値に違いは生じません」

 しかし、それ以外の証拠、たとえば『ホテルのエントランスに2人が出入りした』証拠を押さえたとしても、その価値はホテルの種類によって変わってくるという。

「まず、ラブホテルの場合には、一般的に男女が肉体関係を持つためのホテルと認識されていますので、ラブホテルに男女が2人で入り、2人で出てきた場合には、時間帯問わず、それだけで当該2人が肉体関係を持ったことを裏付ける有力な証拠になります」

 したがって、昨年、落語家の三遊亭円楽が40代女性とラブホテルに入っていく様子を撮影した『フライデー』(講談社)の写真は、明らかに不倫の証拠となるのだ。一方、今回の袴田のように、ビジネスホテルを利用した場合、もしエントランスに2人で入り、2人で出てきた写真があったとしても、「別の部屋に泊まっていた」という言い訳が成り立つため、それだけでただちに不倫の有力な証拠にはならないという。

「その場合、2人が同じ部屋に入室をして、出てきた(同じ部屋に泊まっていた)という証拠等で補強しなければならないケースもあります。同様に、シティホテルの場合には、別の部屋であるとの言い訳に加え、ホテル内のレストランで食事をしてきたという言い訳も考えられますので、同じく同じ部屋に入室していたこととその滞在時間などを他の証拠で補強しなければならないケースがあります」

 ということは、今後、芸能人の不倫現場として、カモフラージュしやすく、比較的リーズナブルなビジネスホテルの利用が増えるのかもしれない!?

アディーレ法律事務所

密会現場がラブホテルとビジネスホテルで「不倫の証拠」の価値は違う?

「ドラマのこのシーンってありえるの?」「バラエティーのあのやり方ってコンプライアンス的にどうなの?」……テレビを見ていて感じた疑問を弁護士に聞いてみる、テレビ好きのための法律相談所。

<今回のテーマ>
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■ラブホテル、ビジネスホテル、シティホテルに不倫の証拠としての法的な違いはない

 今年一発目の“ゲス不倫”案件として大きな話題となった、俳優・袴田吉彦と30歳の元グラビアアイドルとの不倫。2人で会うときに、袴田がビジネスホテルのアパホテルを利用していたことにも注目が集まったが、不倫の証拠としてビジネスホテルとシティホテルやラブホテルとに法的な違いはあるのだろうか? アディーレ法律事務所の村松優子弁護士に聞いた。

 まず、ラブホテル、ビジネスホテル、シティホテルの間に「法的な違いは特にない」と村松弁護士は言う。

「どの種類のホテルであっても、健全な男女が1室で2人きりで宿泊等していた場合には、通常、当該男女が肉体関係を持ったと推認されます。そのため、『健全な男女が1室で2人きりで宿泊等していた』証拠がばっちり取得できれば、どの種類のホテルであっても不倫の証拠となり、その証拠の価値に違いは生じません」

 しかし、それ以外の証拠、たとえば『ホテルのエントランスに2人が出入りした』証拠を押さえたとしても、その価値はホテルの種類によって変わってくるという。

「まず、ラブホテルの場合には、一般的に男女が肉体関係を持つためのホテルと認識されていますので、ラブホテルに男女が2人で入り、2人で出てきた場合には、時間帯問わず、それだけで当該2人が肉体関係を持ったことを裏付ける有力な証拠になります」

 したがって、昨年、落語家の三遊亭円楽が40代女性とラブホテルに入っていく様子を撮影した『フライデー』(講談社)の写真は、明らかに不倫の証拠となるのだ。一方、今回の袴田のように、ビジネスホテルを利用した場合、もしエントランスに2人で入り、2人で出てきた写真があったとしても、「別の部屋に泊まっていた」という言い訳が成り立つため、それだけでただちに不倫の有力な証拠にはならないという。

「その場合、2人が同じ部屋に入室をして、出てきた(同じ部屋に泊まっていた)という証拠等で補強しなければならないケースもあります。同様に、シティホテルの場合には、別の部屋であるとの言い訳に加え、ホテル内のレストランで食事をしてきたという言い訳も考えられますので、同じく同じ部屋に入室していたこととその滞在時間などを他の証拠で補強しなければならないケースがあります」

 ということは、今後、芸能人の不倫現場として、カモフラージュしやすく、比較的リーズナブルなビジネスホテルの利用が増えるのかもしれない!?

アディーレ法律事務所

ドラマ『奪い愛、冬』、婚約中の浮気も不倫と同じ?

「ドラマのこのシーンってありえるの?」「バラエティーのあのやり方ってコンプライアンス的にどうなの?」……テレビを見ていて感じた疑問を弁護士に聞いてみる、テレビ好きのための法律相談所。

<今回のドラマ>
『奪い愛、冬』(テレビ朝日系/金曜日午後11時15分~)

■口頭の合意があれば婚約となる

 1月20日スタートのドラマ『奪い愛、冬』は、倉科カナと三浦翔平が繰り広げる、どろどろの恋愛模様が見どころ。倉科演じる主人公・池内光は、婚約者がいるにもかかわらず、その心は妻帯者である元彼を求めていくという設定だが、結婚前の「婚約」の段階で浮気をしたら、慰謝料請求される可能性はあるのか? アディーレ法律事務所の村松優子弁護士に聞いた。

 まず、婚約の法的な定義について、村松弁護士は次のように説明する。

「婚約とは、将来婚姻をするという約束をいいます。そのため、当事者が真に将来婚姻関係を成立させる旨の口頭の合意があれば婚約となります」

 つまり、口頭で「結婚しよう」とプロポーズして、相手も受け入れれば、その時点ですでに婚約が成立した状態になるのだ。ただし、村松弁護士は次のように続ける。

「ですが、当事者の内心の意思は、客観的に把握するのが困難であるため、公的に婚約が成立したと言えるためには、長期間の肉体関係を継続していること、両親や友人などに対して当事者が婚約意思を伝えていること、婚約指輪の授受、結納の執り行い等の客観的な事情が存在していることが必要となります」

 では、結婚前に婚約者以外の相手と浮気をしたら、された側は慰謝料等を請求することは可能なのだろうか?

「諸説ありますが、婚約をした当事者は、双方婚姻成立に向けて誠実に交際し、婚姻関係を成立させるために努力する義務を負っており、婚姻成立となれば互いに貞操を守る義務を負います。貞操義務に違反をすれば離婚原因にもなり得る以上、婚約中の当事者間においても、婚姻中ほど強くないとしても、互いに貞操を維持する義務を負っていると解されていますので、原則として慰謝料の請求は可能と考えられています」

 いったん婚約したら、それはもう結婚に近い法的な拘束力があるということ。だから、浮気をすれば不倫と同じように見られても仕方なく、慰謝料を請求される可能性もあるのだ。禁じられた恋ほど燃えるものかもしれないが、ドラマの主人公の想いはどこまで行くのか、目が離せなくなりそうだ。

アディーレ法律事務所