レイプ被害に遭ったら必要なのに、「緊急避妊薬」の市販化が見送られた理由

 7月26日、厚生労働省のある会議で、ドラッグストアでカウンター越しに売られる薬(スイッチOTC薬)の候補に挙がっていた、ある薬の市販化が「時期尚早」として見送られ、ネットでは産婦人科医を中心に話題となった。それは、緊急避妊薬レボノルゲストレル錠(商品名ノルレボ錠)。セックスから72時間以内に服用すれば、妊娠を回避できる薬だ。ノルレボ錠の効果や副作用、スイッチOTC化についての意見を、日本家族計画協会理事長・北村邦夫先生に聞いた。

■排卵を1週間ほど遅らせて妊娠を回避する

――今回市販化が見送られたノルレボ錠は、どのような仕組みで妊娠を回避できるのでしょうか?

北村邦夫先生(以下、北村) ノルレボ錠は、レボノルゲストレルというプロゲステロン(女性ホルモン)製剤です。妊娠は受精した卵が子宮内膜に着床することによって成立し、排卵日と排卵日前の5日間、計6日間の間に起こります。卵子の生存期間は8~24時間といわれていますので、排卵後24時間たってからのセックスでは妊娠しません。一方、精子は3~5日ほど女性の体内で生き続けますから、排卵前のセックスでも妊娠します。排卵日が一番妊娠の確率が高くて、おおむね36%くらいです。

 そして、ノルレボ錠は、排卵前に服用すると排卵を抑制する、あるいは排卵を遅らせることができるため、避妊が可能になります。僕たちの長い研究の結果、ノルレボ錠を服用することで、排卵がだいたい1週間ほど遅れることがわかりました。精子の生存期間は3~5日なので、排卵を遅らせれば、妊娠に直結することはありません。ただ、排卵後ならノルレボ錠を服用する必要がありませんから、排卵前なのか排卵後なのかの判断はとても重要です。僕のクリニックでは、研究の意味合いも含めて超音波などで排卵前なのか排卵後なのかを調べて、服用してもらうかどうかを決めています。

――ノルレボ錠を処方してもらえるのは、避妊に失敗したときや、レイプ被害に遭ったときですよね。

北村 避妊しなかった、あるいは避妊できなかった、そしてレイプされた場合など、いわゆる避妊が適切に行われなかった、あるいは十分でなかった性行為があった場合、72時間以内に1.5mg錠のノルレボ錠を服用することで、約90%の確率で妊娠を回避できます。避妊が十分でなかった場合とは、コンドームが破けたり外れたりしたとき、コンドームが膣内に落ちてしまった、膣外射精で不安だ、などという場合です。

norlevo

――約90%の確率ということは、服用しても妊娠を回避できない場合があるということですか?

北村 例えば、服用前にすでに受精してしまっていた場合は、妊娠する可能性が高まります。着床するのを阻止する役割がノルレボ錠にどの程度あるのかについては、いろいろな議論があり、時期によっては妊娠を阻止できない場合もあるわけです。

 また、ノルレボ錠は排卵を抑制したり、遅らせることで妊娠を回避しますが、一点だけ気をつけなければならないことがあります。排卵を遅らせたがために、ノルレボ錠服用後のセックスで妊娠をする危険性が高まります。先ほども述べましたが、卵子の生存期間は24時間で、精子は3~5日です。ということは、時期によっては緊急避妊が必要なかった人でも、排卵を遅らせたがために、その後のセックスによって受精してしまうんです。我々は、そこを見極めないといけません。

――ノルレボ錠はただ1錠飲んで終わり、というわけではないのですか?

北村 僕はノルレボ錠と一緒に低用量ピルを処方し、翌日から飲んでもらいます。これは「クイックスタート」という飲み方です。低用量ピルは、月経初日から飲むのが一般的ですが、この場合は7daysルールといって「1週間は避妊効果を期待しないでね」と伝えてから飲んでもらうわけです。そして、次の月経がくると妊娠が完全に阻止されたことがわかります。とはいえ、妊娠したか否かを早く知りたいと思うのは当然なので、ピルの1シート目(初めてのピル)は2週間くらいでやめさせます。すると、妊娠していない場合は出血(月経)が起こります。それからはピルの服用ルールに従って、7日間の休薬あるいは偽薬を服用してから、次のシートを続けてもらうことになります。いずれにせよ、ノルレボ錠服用3週間後に来院してもらって、次の確実な避妊法へとスイッチしていくわけです。このような指針をもとに、現在医療の現場では緊急避妊薬を処方しています。

――低用量ピルは、飲み始めに不正出血や吐き気といった副作用が起こることがあります。ノルレボ錠は一度の服用で避妊ができるということですが、その分、副作用も大きいのですか?

北村 副作用というと大げさなので、「マイナートラブル」と呼びます。ノルレボ錠が登場するまでは「ヤツペ法」という中用量ピルを使っていた時代がありますが、この場合は吐き気や嘔吐などの症状がありました。しかし、ノルレボ錠に関しては、僕たちの長い経験の中で、吐き気などのマイナートラブルはほとんどありません。

――今回、市販(スイッチOTC)化が見送られたのは「時期尚早」という理由でしたが、なぜそのような意見が出たのでしょうか?

北村 評価検討会議には日本医師会や日本産科婦人科学会、日本薬剤師会などが参加していたと聞きますが、参加された医師の話によれば、産婦人科のグループは非常に前向きな発言をしていたといいます。いささか後ろ向きだったのは、薬剤師会だったようです。薬剤師の教育レベルの状況を見ると、まだ時期尚早だと結論づけたわけです。

――手軽に手に入れられることで性が乱れる恐れがある、といった理由ではないのですね。

北村 僕は、ノルレボ錠を繰り返し使うのをいけないことだとは思っていません。緊急避妊は、早ければ早いほど妊娠率を下げられます。緊急避妊をしたいのに、医療機関が土日で閉まっているという可能性だってあり得ます。

 緊急避妊についての情報を提供しておくことと、本当に必要な人が簡単に手に入れられる状況を作ることはとても大事です。緊急避妊外来を開設しながらいつも思うのは、今でもコンドームに凝り固まっている日本の人たちの避妊法、膣外射精でよかれと思っている人たちの避妊法を大きく変えるきっかけに、ノルレボ錠がなるということです。緊急避妊薬を簡単に手に入れられるのは大事なことだけど、女性が主体的に取り組める、より確実な避妊法へと行動を変容できるかどうか、このあたりがスイッチOTC化に向けた課題のひとつになると思います。

 緊急避妊の情報をメディアが積極的に提供することも大事です。日本では、性犯罪被害者に対する支援事業が行われており、レイプ被害に遭った人は通常1万5,000円ほどかかる緊急避妊が無料です。都道府県によっても違いますが、性感染症の検査や中絶の経費が無料になる地域もあります。この支援事業は平成18年から始まっていますが、あまり知られていません。
(姫野ケイ)

(後編へ続く)

詩織さんがレイプ被害を訴えても、“110年ぶり刑法改正”でも変わらない、被害者への視線

 7月13日、性犯罪を厳罰化する改正刑法が110年ぶりに施行された。それまで「強姦罪」の名称だったものが「強制性交等罪」に変更、被害者の告訴が必要な「親告罪」の規定が撤廃された。法律が変わることは大きな一歩のように思えるが、実際の現場ではどうなのだろうか? 『あさイチ』(NHK)の性暴力特集に出演した、NPO法人レイプクライシスセンターTSUBOMIの代表で弁護士の望月晶子さんに、性被害の現状について聞いた。

■ワンストップセンターは、警察に出向かなくても支援が受けられる

――先日、望月さんがNHKの『あさイチ』に出演された際、視聴者から「なぜ死ぬ気で逃げなかったんだ」「本気で逃げようと思えば逃げられるはず」といった性暴力の被害者を責めるような意見のメールも届いていました。なぜ、被害者が責められる傾向にあるのでしょうか?

望月晶子さん(以下、望月) 「必死で抵抗して貞操を守るもの」といった昔の考えがあるからだと思います。また、「狙われるのは若い女性だけ」「露出の多い格好をしているから狙われる」などと思われがちですが、実際、加害者は警察に訴えそうにない「おとなしい人」を狙っています。

――番組では、被害に遭ったら「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」に問い合わせるようおっしゃっていましたが、どのような支援をしてもらえるのでしょうか? ワンストップセンターの存在自体を知っている人も、少ないように思いますが。

望月 ワンストップセンターができたのが最近のことなので、多くの人にはまだ知られていないと思います。内閣府のホームページをご覧になるとわかると思うのですが、ワンストップセンターは被害者が電話で問い合わせると、面談を受けられたり、必要な治療や情報を提供してもらえたりする場所です。警察に出向かなくても適切な治療を受けられるという支援を目指しています。各都道府県に1つは作ることを目標に、現在は全国に40近くあります。

――望月さんが代表をされているTSUBOMIでも、被害者の支援を行っていらっしゃいますね。

望月 性被害の電話相談を月曜から金曜の14~17時と、メール相談の返信を週2回行っています。相談を受け付けるのは心理の専門家というわけではありませんが、面談も行っています。公共機関に足を運ぶのが不安な方への付き添い支援もあります。

――付き添い支援というのは、警察や病院といった場所に一緒に行ってくれるということですよね? 被害者が勇気を出して警察へ行ったのに、たらい回しにされたという話も聞きます。

望月 例えば、埼玉で被害に遭った人が自宅のある東京の警察へ行くと、「被害に遭った埼玉の警察に行ってください」と言われます。また、ストーカー被害だと生活安全課ですが、強姦だと刑事課となるなど、担当が分かれており、最初の段階で、うまく被害に関する話ができていないと、たらい回しのようにされてしまうということはあります。そして、そのたびに同じことを話さないといけません。

――それが嫌で、あきらめてしまう人もいるそうですよね。

望月 弁護士がついていても、そのようなケースは多いです。先日の法改正により告訴をしなくても罪が認められるようにはなりましたが、加害者が友達の場合、周囲の人から「友達を犯罪者にするのか」などと言われてしまうことがあります。その結果、被害者が「私さえ黙っていれば事が収まる」と、告訴をしないケースも見てきました。

――今回の法改正について、望月さんはどのように受け止めていますか?

望月 基本的には、今までと変わっていないと感じています。というのも、激しい暴行の伴う事件しか犯罪が成立しないからです。同意がなくても、突然襲われたものや、激しい暴行のない性行為は罪にならない点でいうと、今までと変わっていません。

 でも、今回の法改正には「3年後見直し」が入っているので、そこに向けて、暴行・脅迫要件についても改正されるよう頑張らねばいけないと思っています。

――最近では、フリージャーナリストの詩織さんが顔を出して被害を訴えました。この件を機に、今までは泣き寝入りしていたような人が声を上げやすくなったといった傾向はあるのでしょうか?

望月 上げやすくなりましたかね……? むしろ、頑張って届けを出して訴えたのに、潰されたという感じではないでしょうか。彼女のことが報道された後に、相談件数が増えたということも特にありませんでした。

――被害者の中には、それが性被害であることを知らず、加害者が顔見知りであると特に「単なる男女のいざこざ」と捉えてしまう人もいるようです。どうすれば、その行為が犯罪であると広められるでしょうか?

望月 義務教育の中で教えていくことだと思います。人の嫌がることをしてはいけないとか、自分が嫌なら性的なことはしなくていいといった、基本的な人権教育や性教育を行っていく必要があります。

 10年ほど前の話ですが、韓国に行った際に視察した性暴力被害者支援団体は、教育活動も行っていました。例えば「普段下着で隠れているパーツに触るのはいけないこと。触られたら嫌と言っていいんだよ」といった教育をしているのですが、日本にはそういった教育ってほとんどないですよね。

――きちんとした性教育を義務教育の中に入れたがらない、お偉いさんも多そうです。

望月 東京でも石原慎太郎都知事のときは、そんな雰囲気でしたよね。だいぶ前の話ではありますが、ある県で高校生の妊娠が問題になっていたとき、性教育をきちんと行ったら、望まない妊娠が減ったというケースがありました。

 子どもは何も知らない無防備な状態ですが、成長するに従って、性的なことに興味が出てきます。一方で、大人は「子どもが妊娠するなんてありえない!」と、子どもの性に対して目を向けたくないのだと思います。実際には、望まない妊娠という現実があります。現在は初めて性交する年齢も下がってきているので、現実と向き合って、避妊の仕方を教える等の現実的な対処をしていかなければならないのに、遅れているなと感じます。

――性被害に関する世間の意識を変えていくためには、どうすればいいでしょうか?

望月 そもそも、そのような被害があるということすら、あまり意識されていません。多くのマスコミは「強姦」ではなく「暴行」と書いて、生々しいことを伝えません。でも、警察に届けられているだけでも、年間1,200~1,500件の性犯罪が起こっています。事件が起きていることと、誰でもいつ被害に遭うかわからないということを、もう少し伝えていけたらと思います。

 また、被害を受けた方の痛みが全くわかっていない人も多いと実感しています。それこそ、「減るもんじゃないんだから」といった昔の考え方を持っている人もいます。被害者がどれだけ大変なのかを、教育の中で伝えておきたいですよね。
(姫野ケイ)

望月晶子(もちづき・あきこ)
NPO法人レイプクライシスセンターTSUBOMI代表。諏訪坂法律事務所所属弁護士。

詩織さんがレイプ被害を訴えても、“110年ぶり刑法改正”でも変わらない、被害者への視線

 7月13日、性犯罪を厳罰化する改正刑法が110年ぶりに施行された。それまで「強姦罪」の名称だったものが「強制性交等罪」に変更、被害者の告訴が必要な「親告罪」の規定が撤廃された。法律が変わることは大きな一歩のように思えるが、実際の現場ではどうなのだろうか? 『あさイチ』(NHK)の性暴力特集に出演した、NPO法人レイプクライシスセンターTSUBOMIの代表で弁護士の望月晶子さんに、性被害の現状について聞いた。

■ワンストップセンターは、警察に出向かなくても支援が受けられる

――先日、望月さんがNHKの『あさイチ』に出演された際、視聴者から「なぜ死ぬ気で逃げなかったんだ」「本気で逃げようと思えば逃げられるはず」といった性暴力の被害者を責めるような意見のメールも届いていました。なぜ、被害者が責められる傾向にあるのでしょうか?

望月晶子さん(以下、望月) 「必死で抵抗して貞操を守るもの」といった昔の考えがあるからだと思います。また、「狙われるのは若い女性だけ」「露出の多い格好をしているから狙われる」などと思われがちですが、実際、加害者は警察に訴えそうにない「おとなしい人」を狙っています。

――番組では、被害に遭ったら「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」に問い合わせるようおっしゃっていましたが、どのような支援をしてもらえるのでしょうか? ワンストップセンターの存在自体を知っている人も、少ないように思いますが。

望月 ワンストップセンターができたのが最近のことなので、多くの人にはまだ知られていないと思います。内閣府のホームページをご覧になるとわかると思うのですが、ワンストップセンターは被害者が電話で問い合わせると、面談を受けられたり、必要な治療や情報を提供してもらえたりする場所です。警察に出向かなくても適切な治療を受けられるという支援を目指しています。各都道府県に1つは作ることを目標に、現在は全国に40近くあります。

――望月さんが代表をされているTSUBOMIでも、被害者の支援を行っていらっしゃいますね。

望月 性被害の電話相談を月曜から金曜の14~17時と、メール相談の返信を週2回行っています。相談を受け付けるのは心理の専門家というわけではありませんが、面談も行っています。公共機関に足を運ぶのが不安な方への付き添い支援もあります。

――付き添い支援というのは、警察や病院といった場所に一緒に行ってくれるということですよね? 被害者が勇気を出して警察へ行ったのに、たらい回しにされたという話も聞きます。

望月 例えば、埼玉で被害に遭った人が自宅のある東京の警察へ行くと、「被害に遭った埼玉の警察に行ってください」と言われます。また、ストーカー被害だと生活安全課ですが、強姦だと刑事課となるなど、担当が分かれており、最初の段階で、うまく被害に関する話ができていないと、たらい回しのようにされてしまうということはあります。そして、そのたびに同じことを話さないといけません。

――それが嫌で、あきらめてしまう人もいるそうですよね。

望月 弁護士がついていても、そのようなケースは多いです。先日の法改正により告訴をしなくても罪が認められるようにはなりましたが、加害者が友達の場合、周囲の人から「友達を犯罪者にするのか」などと言われてしまうことがあります。その結果、被害者が「私さえ黙っていれば事が収まる」と、告訴をしないケースも見てきました。

――今回の法改正について、望月さんはどのように受け止めていますか?

望月 基本的には、今までと変わっていないと感じています。というのも、激しい暴行の伴う事件しか犯罪が成立しないからです。同意がなくても、突然襲われたものや、激しい暴行のない性行為は罪にならない点でいうと、今までと変わっていません。

 でも、今回の法改正には「3年後見直し」が入っているので、そこに向けて、暴行・脅迫要件についても改正されるよう頑張らねばいけないと思っています。

――最近では、フリージャーナリストの詩織さんが顔を出して被害を訴えました。この件を機に、今までは泣き寝入りしていたような人が声を上げやすくなったといった傾向はあるのでしょうか?

望月 上げやすくなりましたかね……? むしろ、頑張って届けを出して訴えたのに、潰されたという感じではないでしょうか。彼女のことが報道された後に、相談件数が増えたということも特にありませんでした。

――被害者の中には、それが性被害であることを知らず、加害者が顔見知りであると特に「単なる男女のいざこざ」と捉えてしまう人もいるようです。どうすれば、その行為が犯罪であると広められるでしょうか?

望月 義務教育の中で教えていくことだと思います。人の嫌がることをしてはいけないとか、自分が嫌なら性的なことはしなくていいといった、基本的な人権教育や性教育を行っていく必要があります。

 10年ほど前の話ですが、韓国に行った際に視察した性暴力被害者支援団体は、教育活動も行っていました。例えば「普段下着で隠れているパーツに触るのはいけないこと。触られたら嫌と言っていいんだよ」といった教育をしているのですが、日本にはそういった教育ってほとんどないですよね。

――きちんとした性教育を義務教育の中に入れたがらない、お偉いさんも多そうです。

望月 東京でも石原慎太郎都知事のときは、そんな雰囲気でしたよね。だいぶ前の話ではありますが、ある県で高校生の妊娠が問題になっていたとき、性教育をきちんと行ったら、望まない妊娠が減ったというケースがありました。

 子どもは何も知らない無防備な状態ですが、成長するに従って、性的なことに興味が出てきます。一方で、大人は「子どもが妊娠するなんてありえない!」と、子どもの性に対して目を向けたくないのだと思います。実際には、望まない妊娠という現実があります。現在は初めて性交する年齢も下がってきているので、現実と向き合って、避妊の仕方を教える等の現実的な対処をしていかなければならないのに、遅れているなと感じます。

――性被害に関する世間の意識を変えていくためには、どうすればいいでしょうか?

望月 そもそも、そのような被害があるということすら、あまり意識されていません。多くのマスコミは「強姦」ではなく「暴行」と書いて、生々しいことを伝えません。でも、警察に届けられているだけでも、年間1,200~1,500件の性犯罪が起こっています。事件が起きていることと、誰でもいつ被害に遭うかわからないということを、もう少し伝えていけたらと思います。

 また、被害を受けた方の痛みが全くわかっていない人も多いと実感しています。それこそ、「減るもんじゃないんだから」といった昔の考え方を持っている人もいます。被害者がどれだけ大変なのかを、教育の中で伝えておきたいですよね。
(姫野ケイ)

望月晶子(もちづき・あきこ)
NPO法人レイプクライシスセンターTSUBOMI代表。諏訪坂法律事務所所属弁護士。

「山口敬之レイプ疑惑」に新たな事実も!? 東京新聞・望月衣塑子記者が語る、報道の裏側

 現在、女性の新聞記者は増えてきたものの、その割合は全体の2〜3割程度だという。男性ばかりの環境で、積極的に相手に食い込んで取材をしていると話題の東京新聞社会部記者、望月衣塑子さんに、今の政権やメディアの問題点を聞いた。

(前編はこちら)

■日本のマスコミは、なぜ詩織さん事件について騒がないのか?

――元TBSワシントン支局長の山口敬之氏に「レイプされた」として、ジャーナリストの詩織さんが被害届を出した件についても、裏で安倍政権が山口氏のために動いている疑惑があるとも聞きますが、どうなのでしょうか?

望月衣塑子さん(以下、望月) どういう過程でなぜ、逮捕が取りやめになったのか、その経緯は、まだはっきりわかりません。詩織さんのお話では、2人が出会ったのは、2015年3月末、詩織さんが働いているバーに山口氏がお客として来たことがあったようです。翌日、山口氏は詩織さん、TBSのNY支局員とともに食事をします。詩織さんは当時、フリーランスとなって仕事を始めるかTBSで働くかで悩んでおり、山口氏にTBSのワシントン支局で仕事ができないかという相談をしています。その後、山口氏と詩織さんは東京・恵比寿にある2軒のレストランで会食をした後、詩織さんが意識を失い、気付いた時には、ホテルで「レイプをされていた」と訴えています。詩織さん自身は、非常にお酒が強く、取材時に同席されていた友人の話でも、「ワインを2人で何本空けても、詩織さんが酔いつぶれたのは見たことがない」というのです。詩織さんは、「これで就職が決まるかどうかという面接も含んだような飲食の席で、緊張しているのに、大量にお酒を飲み、吐くまで泥酔するということ自体できない」とも話していました。

 また、関係者に取材したところ、事件が起きた日に山口氏と詩織さんが訪れたレストランは、山口氏のお父さんも愛用している「値段のないレストラン」だったそうです。山口氏のお父さんは、有名な元野球選手の顧問弁護士などもやられている方だと聞いています。

 そして、逮捕状が出て執行される予定だった15年6月8日、詩織さんの担当警察官は成田空港の出口で山口氏が降り立つのを待っていたところ、「逮捕はするな」という指示を受けました。TBSの元ワシントン支局長が逮捕されるということで、高輪署、警視庁の捜査一課、広報課にも根回していたにもかかわらずです。逮捕は見送られ、任意での聴取となりました。任意の聴取になった契機は、当時、警視庁の刑事部長だった中村格氏が「山口氏の身柄を取るな」と指示したとされており、「週刊新潮」(新潮社)の取材に中村氏は「(逮捕の必要がないと)私が判断した」と話しています。

――そうしたことを、詩織さんが顔や実名を出して訴えたのは、大きなリスクを伴いますし、非常に勇気ある行動だと思いました。

望月 そもそも詩織さんの事件は、山口氏が当時TBSワシントン支局長でありながら、「週刊文春」(文藝春秋)に「ベトナムに韓国軍の慰安所があった」という内容の記事を書いたため、会社から日本に呼び戻された際に起きています。山口氏は4月23日に支局長を解任されて営業に異動、その後、自ら会社を辞めています。警察も初めは「TBSワシントン支局長が相手では難しい」「準強姦(ごうかん)罪は動画がないと起訴は難しい」などと、被害届を受けたがらなかったらしいのですが、山口氏が営業に異動になった後、詩織さんや彼女の友人の供述や、タクシーのドライバーの証言、ホテルの防犯カメラに映っていた詩織さんが山口氏に引きずられているように見える動画などの証拠が集まるようになり、捜査が本格化していったそうです。

 詩織さんは準強姦罪の不起訴不当を訴え続けていますが、ジャーナリストとして活動するために、検察審査会に訴えたわけではないと言います。本来は、フリーランスのジャーナリストとしてやっていきたいのですが、この問題で自分が実名で声を上げずに示談で済ませてしまったら、ほかの性被害者の人がもっともっと声を上げにくいような世の中になってしまうのではないかと思ったそうです。一時期は、性被害者の団体に入って、そこの団体をサポートしようとも考えたそうなのですが、やはり日本の社会や法律を変えるために、自分が実名で出ていくことを選んだのだと思います。彼女は、市井の被害者ですが、戦っている相手のバックには、山口氏がかつて深く食い込んでいた安倍首相はじめ、強力な安倍政権があると感じており、権力を敵に回すのはとても恐ろしいはずです。28歳の女性にその覚悟ができるのは本当にすごいことで、かなりの覚悟と勇気が必要だったでしょう。しかし、話を聞くほど、彼女には自分のこと以上に、社会を変えていきたいという使命感のようなものが強くあると感じました。

 一方、山口氏は、詩織さんの実名告発会見を受けて、フェイスブック上で「私は法に触れる事は一切していません。ですから、一昨年の6月以降当局の調査に誠心誠意対応しました。当該女性が今回会見で主張した論点も含め、1年余りにわたる証拠に基づいた精密な調査が行われ、結果として不起訴という結論が出ました。よって私は容疑者でも被疑者でもありません。もちろん、不起訴処分の当事者は皆、検察審査会に不服申立する権利を有していますから、申立が行われたのであれば、私は今まで通り誠心誠意対応します」と反論しています。

 事件に関し、先日「ニューヨーク・タイムズ」の記者と話したところ、「アメリカだと、このような事件は政権が崩れるほどの超政治問題になるのに、日本のマスコミはなぜ騒がないのか」と、何度も何度も繰り返し質問されました。加計学園の疑惑はテレビで扱っていますが、詩織さんの場合は日本テレビ以外のテレビ局では、ほぼ放映されていません。取り上げない大きな理由のひとつには、一度不起訴になった人はたくさんいるので、なぜ、あえてこの件を取り上げるのかという指摘があり、新聞で書くにも壁があるのは確かです 

 しかし、この件に関しては、複数の国会議員が疑問視しており、今後、国会の場なども含めて議題として取り上げられ、新たな事実が浮き彫りになってくる可能性もあります。

――取材対象である政治家には男性が多い中、女性だからやりづらいと感じたことはありますか?

望月 体力勝負になるところやセクハラ的なものがあるなど、大変さもありますが、基本的には女性も男性も「これを取材したい」「報じなければいけないと」いう思いでは同じだと思います。ただ、どちらかというと女性だからグイグイいける、女性の方が単刀直入に聞いていけるのかなと思うことはあります。例えば、菅官房長官の会見だと、普段から菅さんと付き合いのある記者さんたちは「あまりご乱心させてはいけない」と気に掛けている面もあると思うのですが、私にはそのような配慮は、付き合いがないからこそ、ありません。毎日取材で顔を見せて会っていたら、私のようには、なかなか追及しづらいのだと思います。人それぞれですが、男性でガンガンストレートに聞く人は少ない印象です。でも稲田朋美防衛相の失言時は、防衛記者クラブでの質問は、男性記者がかなり執拗に追及していたと感じました。官邸の会見でも「ジャパンタイムズ」の男性記者は問題だと感じた場合、「それおかしいでしょ!」とストレートに怒りをぶつけていました。

――「菅官房長官が警察組織を使って、望月さんの身辺調査をするよう命じた」という報道もありましたが、実際に危険な目に遭ったりはしていませんか?

望月 疑惑について次々に質問を重ねているので、何か動きがあるのかもしれませんが、目に見える形にはなっていないので、今のところ危険な目には遭っていません。目立つと、やはり危ないことに巻き込まれる可能性は出てくるとは思っていますが、前川さんや詩織さんの話を聞くにつけ、私でなくても結局、誰かが声を上げなければいけなかったのではと思っています。日本の政治や社会を作っていくのは、政治家ではなく、私たち国民の意識なのだということを改めて認識していく必要があると思っています。

――新聞記者として、今後はどのような報道をしていきたいですか?

望月 加計疑惑をみると、現状は、官邸・内閣府と文科省の双方が「言った」「言わない」の議論に陥っているかのように見えますが、現時点で「加計ありきで進んでいたのではないか」という国民の疑念に対し、政府は納得のいく説明や客観的な資料をまったく示せていません。報道によって、政府がどのように何を説明でき、何を説明できていないのか、これを繰り返し繰り返し紙面やSNSなどを通じて、有権者である国民に伝えないといけないと感じています。

 06年の第一次安倍政権時に教育基本法が改正され、「愛国心」や「伝統」「公共の精神」が盛り込まれ、ナショナリズムが喚起される方向に変わったように思います。私が取材している武器輸出の問題でも、第二次安倍政権の閣議決定により、武器を他国に売らない国から、武器を売って稼ぐ国づくりへ大きく転換させようとしていることが見えてきます。

 2年前に筑波大学の学生新聞が行ったアンケート調査では、軍事研究賛成派の学生が反対派を上回ったという結果が出ています。筑波大はどちらかというと政府系の研究所やシンクタンクが多いということもありますが、そのような結果が出たのは衝撃的でした。今年になって、日本の科学者を代表する団体である「日本学術会議」で、軍事研究を禁止する1950年・67年の声明を継承していくとする決定が出たことを受け、同大の永田恭介学長は「軍事研究を禁止するルールを作っていく。学生とは一から議論していきたい」と会見で発表しました。NHKで一部報道されていましたが、名古屋大の大学院生らの中には「(実際の)戦争が起こらないのであれば、助成金をもらっていてもよいのではないか」「国防のためには軍事研究は必要だ」と言う学生もいたそうです。

 私が子どもの頃は、戦争の悲惨さを訴える番組がよく放送されていた記憶があります。でも、戦争を経験した世代が亡くなり、戦争の記憶が生々しく語り継がれていく機会が減っているという現状があります。今の若い学生さんほど、戦争に対するリアリティを持てないのでしょう。世代間の差が見えます。ここをどう埋めていけるか、戦争の記憶を引き継いだ私たち大人に課された課題だとも感じています。

 国民は身の回りの生活が干上がってくると政治に怒りを持つけれど、自分たちの周りが豊かなうちは、ちょっとくらい国の方向性が右や左にそれようが、実感としてはよくわからないのかもしれません。日本経済団体連合会(経団連)に属する大手企業の幹部たちも、話を聞くと、みんながみんな安倍首相の国家観がよいと思っているわけではないことがわかります。ただ、経済効果を数字で出し、株価を維持することが大切だと考える経営者は多く、富の格差が広がっていることは明らかですが、今は有効求人倍率の数字などは良く、経済成長が大きく後退しているようには見えないので、今の政権に対して経済界も妥協しているのかなと、取材していて実感します。でも、この国の形をつくるのは、私たちの民意です。今の政権の抱えている問題点について、一人でも多くの人たちに考える契機を持ってもらえるよう願っています。
(姫野ケイ)

望月衣塑子(もちづき・いそこ)
1975年、東京都生まれ。東京新聞社会部記者。慶應義塾大学法学部卒業後、東京・中日新聞に入社。千葉、神奈川、埼玉の各県警、東京地検特捜部などで事件を中心に取材する。2004年、日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑の一連の事実をスクープし、自民党と医療業界の利権構造を暴く。また09年には足利事件の再審開始決定をスクープする。東京地裁・高裁での裁判担当、経済部記者などを経て、現在は社会部遊軍記者。防衛省の武器輸出、軍学共同などをテーマに取材している。二児の母。趣味は子どもと遊ぶこと。

「山口敬之レイプ疑惑」に新たな事実も!? 東京新聞・望月衣塑子記者が語る、報道の裏側

 現在、女性の新聞記者は増えてきたものの、その割合は全体の2〜3割程度だという。男性ばかりの環境で、積極的に相手に食い込んで取材をしていると話題の東京新聞社会部記者、望月衣塑子さんに、今の政権やメディアの問題点を聞いた。

(前編はこちら)

■日本のマスコミは、なぜ詩織さん事件について騒がないのか?

――元TBSワシントン支局長の山口敬之氏に「レイプされた」として、ジャーナリストの詩織さんが被害届を出した件についても、裏で安倍政権が山口氏のために動いている疑惑があるとも聞きますが、どうなのでしょうか?

望月衣塑子さん(以下、望月) どういう過程でなぜ、逮捕が取りやめになったのか、その経緯は、まだはっきりわかりません。詩織さんのお話では、2人が出会ったのは、2015年3月末、詩織さんが働いているバーに山口氏がお客として来たことがあったようです。翌日、山口氏は詩織さん、TBSのNY支局員とともに食事をします。詩織さんは当時、フリーランスとなって仕事を始めるかTBSで働くかで悩んでおり、山口氏にTBSのワシントン支局で仕事ができないかという相談をしています。その後、山口氏と詩織さんは東京・恵比寿にある2軒のレストランで会食をした後、詩織さんが意識を失い、気付いた時には、ホテルで「レイプをされていた」と訴えています。詩織さん自身は、非常にお酒が強く、取材時に同席されていた友人の話でも、「ワインを2人で何本空けても、詩織さんが酔いつぶれたのは見たことがない」というのです。詩織さんは、「これで就職が決まるかどうかという面接も含んだような飲食の席で、緊張しているのに、大量にお酒を飲み、吐くまで泥酔するということ自体できない」とも話していました。

 また、関係者に取材したところ、事件が起きた日に山口氏と詩織さんが訪れたレストランは、山口氏のお父さんも愛用している「値段のないレストラン」だったそうです。山口氏のお父さんは、有名な元野球選手の顧問弁護士などもやられている方だと聞いています。

 そして、逮捕状が出て執行される予定だった15年6月8日、詩織さんの担当警察官は成田空港の出口で山口氏が降り立つのを待っていたところ、「逮捕はするな」という指示を受けました。TBSの元ワシントン支局長が逮捕されるということで、高輪署、警視庁の捜査一課、広報課にも根回していたにもかかわらずです。逮捕は見送られ、任意での聴取となりました。任意の聴取になった契機は、当時、警視庁の刑事部長だった中村格氏が「山口氏の身柄を取るな」と指示したとされており、「週刊新潮」(新潮社)の取材に中村氏は「(逮捕の必要がないと)私が判断した」と話しています。

――そうしたことを、詩織さんが顔や実名を出して訴えたのは、大きなリスクを伴いますし、非常に勇気ある行動だと思いました。

望月 そもそも詩織さんの事件は、山口氏が当時TBSワシントン支局長でありながら、「週刊文春」(文藝春秋)に「ベトナムに韓国軍の慰安所があった」という内容の記事を書いたため、会社から日本に呼び戻された際に起きています。山口氏は4月23日に支局長を解任されて営業に異動、その後、自ら会社を辞めています。警察も初めは「TBSワシントン支局長が相手では難しい」「準強姦(ごうかん)罪は動画がないと起訴は難しい」などと、被害届を受けたがらなかったらしいのですが、山口氏が営業に異動になった後、詩織さんや彼女の友人の供述や、タクシーのドライバーの証言、ホテルの防犯カメラに映っていた詩織さんが山口氏に引きずられているように見える動画などの証拠が集まるようになり、捜査が本格化していったそうです。

 詩織さんは準強姦罪の不起訴不当を訴え続けていますが、ジャーナリストとして活動するために、検察審査会に訴えたわけではないと言います。本来は、フリーランスのジャーナリストとしてやっていきたいのですが、この問題で自分が実名で声を上げずに示談で済ませてしまったら、ほかの性被害者の人がもっともっと声を上げにくいような世の中になってしまうのではないかと思ったそうです。一時期は、性被害者の団体に入って、そこの団体をサポートしようとも考えたそうなのですが、やはり日本の社会や法律を変えるために、自分が実名で出ていくことを選んだのだと思います。彼女は、市井の被害者ですが、戦っている相手のバックには、山口氏がかつて深く食い込んでいた安倍首相はじめ、強力な安倍政権があると感じており、権力を敵に回すのはとても恐ろしいはずです。28歳の女性にその覚悟ができるのは本当にすごいことで、かなりの覚悟と勇気が必要だったでしょう。しかし、話を聞くほど、彼女には自分のこと以上に、社会を変えていきたいという使命感のようなものが強くあると感じました。

 一方、山口氏は、詩織さんの実名告発会見を受けて、フェイスブック上で「私は法に触れる事は一切していません。ですから、一昨年の6月以降当局の調査に誠心誠意対応しました。当該女性が今回会見で主張した論点も含め、1年余りにわたる証拠に基づいた精密な調査が行われ、結果として不起訴という結論が出ました。よって私は容疑者でも被疑者でもありません。もちろん、不起訴処分の当事者は皆、検察審査会に不服申立する権利を有していますから、申立が行われたのであれば、私は今まで通り誠心誠意対応します」と反論しています。

 事件に関し、先日「ニューヨーク・タイムズ」の記者と話したところ、「アメリカだと、このような事件は政権が崩れるほどの超政治問題になるのに、日本のマスコミはなぜ騒がないのか」と、何度も何度も繰り返し質問されました。加計学園の疑惑はテレビで扱っていますが、詩織さんの場合は日本テレビ以外のテレビ局では、ほぼ放映されていません。取り上げない大きな理由のひとつには、一度不起訴になった人はたくさんいるので、なぜ、あえてこの件を取り上げるのかという指摘があり、新聞で書くにも壁があるのは確かです 

 しかし、この件に関しては、複数の国会議員が疑問視しており、今後、国会の場なども含めて議題として取り上げられ、新たな事実が浮き彫りになってくる可能性もあります。

――取材対象である政治家には男性が多い中、女性だからやりづらいと感じたことはありますか?

望月 体力勝負になるところやセクハラ的なものがあるなど、大変さもありますが、基本的には女性も男性も「これを取材したい」「報じなければいけないと」いう思いでは同じだと思います。ただ、どちらかというと女性だからグイグイいける、女性の方が単刀直入に聞いていけるのかなと思うことはあります。例えば、菅官房長官の会見だと、普段から菅さんと付き合いのある記者さんたちは「あまりご乱心させてはいけない」と気に掛けている面もあると思うのですが、私にはそのような配慮は、付き合いがないからこそ、ありません。毎日取材で顔を見せて会っていたら、私のようには、なかなか追及しづらいのだと思います。人それぞれですが、男性でガンガンストレートに聞く人は少ない印象です。でも稲田朋美防衛相の失言時は、防衛記者クラブでの質問は、男性記者がかなり執拗に追及していたと感じました。官邸の会見でも「ジャパンタイムズ」の男性記者は問題だと感じた場合、「それおかしいでしょ!」とストレートに怒りをぶつけていました。

――「菅官房長官が警察組織を使って、望月さんの身辺調査をするよう命じた」という報道もありましたが、実際に危険な目に遭ったりはしていませんか?

望月 疑惑について次々に質問を重ねているので、何か動きがあるのかもしれませんが、目に見える形にはなっていないので、今のところ危険な目には遭っていません。目立つと、やはり危ないことに巻き込まれる可能性は出てくるとは思っていますが、前川さんや詩織さんの話を聞くにつけ、私でなくても結局、誰かが声を上げなければいけなかったのではと思っています。日本の政治や社会を作っていくのは、政治家ではなく、私たち国民の意識なのだということを改めて認識していく必要があると思っています。

――新聞記者として、今後はどのような報道をしていきたいですか?

望月 加計疑惑をみると、現状は、官邸・内閣府と文科省の双方が「言った」「言わない」の議論に陥っているかのように見えますが、現時点で「加計ありきで進んでいたのではないか」という国民の疑念に対し、政府は納得のいく説明や客観的な資料をまったく示せていません。報道によって、政府がどのように何を説明でき、何を説明できていないのか、これを繰り返し繰り返し紙面やSNSなどを通じて、有権者である国民に伝えないといけないと感じています。

 06年の第一次安倍政権時に教育基本法が改正され、「愛国心」や「伝統」「公共の精神」が盛り込まれ、ナショナリズムが喚起される方向に変わったように思います。私が取材している武器輸出の問題でも、第二次安倍政権の閣議決定により、武器を他国に売らない国から、武器を売って稼ぐ国づくりへ大きく転換させようとしていることが見えてきます。

 2年前に筑波大学の学生新聞が行ったアンケート調査では、軍事研究賛成派の学生が反対派を上回ったという結果が出ています。筑波大はどちらかというと政府系の研究所やシンクタンクが多いということもありますが、そのような結果が出たのは衝撃的でした。今年になって、日本の科学者を代表する団体である「日本学術会議」で、軍事研究を禁止する1950年・67年の声明を継承していくとする決定が出たことを受け、同大の永田恭介学長は「軍事研究を禁止するルールを作っていく。学生とは一から議論していきたい」と会見で発表しました。NHKで一部報道されていましたが、名古屋大の大学院生らの中には「(実際の)戦争が起こらないのであれば、助成金をもらっていてもよいのではないか」「国防のためには軍事研究は必要だ」と言う学生もいたそうです。

 私が子どもの頃は、戦争の悲惨さを訴える番組がよく放送されていた記憶があります。でも、戦争を経験した世代が亡くなり、戦争の記憶が生々しく語り継がれていく機会が減っているという現状があります。今の若い学生さんほど、戦争に対するリアリティを持てないのでしょう。世代間の差が見えます。ここをどう埋めていけるか、戦争の記憶を引き継いだ私たち大人に課された課題だとも感じています。

 国民は身の回りの生活が干上がってくると政治に怒りを持つけれど、自分たちの周りが豊かなうちは、ちょっとくらい国の方向性が右や左にそれようが、実感としてはよくわからないのかもしれません。日本経済団体連合会(経団連)に属する大手企業の幹部たちも、話を聞くと、みんながみんな安倍首相の国家観がよいと思っているわけではないことがわかります。ただ、経済効果を数字で出し、株価を維持することが大切だと考える経営者は多く、富の格差が広がっていることは明らかですが、今は有効求人倍率の数字などは良く、経済成長が大きく後退しているようには見えないので、今の政権に対して経済界も妥協しているのかなと、取材していて実感します。でも、この国の形をつくるのは、私たちの民意です。今の政権の抱えている問題点について、一人でも多くの人たちに考える契機を持ってもらえるよう願っています。
(姫野ケイ)

望月衣塑子(もちづき・いそこ)
1975年、東京都生まれ。東京新聞社会部記者。慶應義塾大学法学部卒業後、東京・中日新聞に入社。千葉、神奈川、埼玉の各県警、東京地検特捜部などで事件を中心に取材する。2004年、日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑の一連の事実をスクープし、自民党と医療業界の利権構造を暴く。また09年には足利事件の再審開始決定をスクープする。東京地裁・高裁での裁判担当、経済部記者などを経て、現在は社会部遊軍記者。防衛省の武器輸出、軍学共同などをテーマに取材している。二児の母。趣味は子どもと遊ぶこと。

「福田和子」も被害者? 元女囚が明かす、刑務所で起こったレイプ事件

 覚せい剤の使用や密売などで逮捕起訴され、通算12年を塀の中で過ごした後、その経験を基にさまざまな活動を続ける中野瑠美さんが、女子刑務所の実態を語る「知られざる女子刑務所ライフ」シリーズ。

■刑務官が懲役の手先に

 今回は、刑務所を長く取材している記者さんにも驚かれた「とっておきの獄中恋愛」のお話です。

 男子刑務所には、女性の職員は1人もいません。あまりにも危険ですからね。ちょっと前に法務省の「特別矯正監」をされている杉サマこと杉良太郎さんが「男子刑務所に女性職員を増やしたい」とおっしゃってましたけど、絶対ムリですね。「レイプしてくれ」って言ってるようなもんです。実は、以前は刑務所でレイプ事件が本当にあったと聞きました。今はどうですかねえ。めくれて(発覚して)ないだけですかね。

 1966年と半世紀も前の話ですけど、松山刑務所(ちなみに所在地は、愛媛県松山市でなく東温市内)では、男性の受刑者や看守による女性受刑者へのレイプ事件がありました。

 本当に映画みたいな話で、ヤクザの受刑者が看守を脅して鍵を取り上げ、所内でバクチや飲酒・喫煙、そしてレイプまで行っていたのだそうです。「松山刑務所強姦事件」でググると少し出てきますよ。当時の国会でも問題になりましたが、関係者の自殺などもあって、法務省がもみ消したそうです。

 そして、そのレイプの被害者の1人に、あの「福田和子」がいてたそうなんですよ。松山ホステス殺害事件より前に起こした別の強盗事件で服役していて、法務省からレイプの被害届けを取り下げさせられたそうです。それからだいぶたって、和歌山刑務所で「和ちゃん」と呼ばれてた福田さんと私が出会うわけですが(笑)、これもご縁ですかね。

 なんでこんなことが起こるかっていうと、懲役(受刑者)が看守を手なずけるんですね。まずは、わざと困らせます。とにかくちょっとしたことで看守を呼び出すボタンを押すんです。呼出音が鳴るたびに看守は急行しなくてはなりませんから、そのうち「ええかげんにしてくれや」ってなります。そしたら「じゃあ、おとなしくするから切手を1枚ちょうだい」とか簡単な要求をします。これに応じたら、看守はもう「負け」なんですね。「懲役にモノを渡したな。規則違反じゃねえか。上司にバラすぞ」と脅かして、要求をエスカレートさせていくんです。

 これはわりとポピュラーな手口で、若い看守はけっこうやられてますよ。さすがにレイプを要求するような懲役はもういてないでしょうけど。

 女子刑務所では、さすがにこんな大事件はないし、男性職員も多数いてます。所長なんかほとんど男性ですし、もともと女性の刑務官は多くないですからね。

 そこでナニが起こるかというと、やっぱり「不適切な関係」なんですね。私ら懲役は男と接触できない生活ですし、警察官や刑務官は職業柄か女との出会いが少ないので、懲役と職員はすっかり「恋人気分」です。

 もう時効ですけど、私もありましたよ。私の場合は警察署の留置場の担当で、警察官でしたね。夜間の見回りの時に、房の前に来てくれるんですが、「起きてるか?」って聞かれるのがうれしくて、わざと寝たふりをしてました。

 チューとか普通にしてましたし、ドアについている食器口(食器を出し入れするための小さい扉)は自由に開けられるので、そこから手を出して、話しながら手をつないだり。さすがに「挿入」はなかったですけど(笑)、けっこうラブラブでした。お菓子をもらうとか、外に連れ出してもらうとかもないですけど、真顔で「俺、お前好っきゃねん……」とか「ここから逃がしてやりたい」とも言われましたよ。「ホンマ逃がしてほしいわ……」と思いましたけど、逃げなくてよかったです。罪が増えるだけですからね。

 そんなわけで、ムショにも楽しい思い出がいくつかあります。塀の中みたいな特殊な空間の「色恋沙汰」は楽しかったですよ。もう一度、あの看守さんに会いたいけど……。こんなこと書いちゃって、もし読んでたら、ヒヤヒヤしてるだろうな、大好きなYくん。素敵な刑事さんになっててほしいですね。え? 本気で会いたいかって? ほんじゃムショに戻らなきゃダメやないですかー。嫌ですわ。もちろん戻りたくはないです。

中野瑠美(なかの・るみ)
1972年大阪・堺市生まれ。特技は料理。趣味はジェットスキーとゴルフ。『ダウンタウンなう』(フジテレビ系)や『新・情報7daysニュースキャスター』(TBS系)などへの出演でも注目を集める。経営するラウンジ「祭(まつり)

性犯罪者は生きるために再犯するーー厳罰化で被害者は減るのか?

 明治時代から110年間、変わらずにきた刑法がようやく「性被害の実態に即していない」という理由で見直される。現在、刑法の性犯罪規定部分に対する改正案が国会で審議されるのを待っている状況だ。強姦が「強制性交等罪」と改められる、対象が男性にも広がる、「非親告罪化」によって被害者からの告訴がなくとも起訴できるなどに加え、「厳罰化」も論点にあがっている。これまでは強姦罪における法定刑の下限は、懲役3年だった。改正案では5年に引き上げられている。これは、殺人罪の下限と同じ年数である。

 5月某日、性犯罪を題材とした映画『SCOPE』が東京・榎本クリニックで上映された。舞台となる近未来の日本では、刑期を終えて社会に出た性犯罪者を徹底的に監視するための「SCOPE(スコープ)法」が施行されている。主人公の篤夫は集団暴行の罪で逮捕され、6年間の服役を終えて刑務所を出所したものの、家族から拒否され、ひとり仕事を探す。離島の工場で働き始め、いったんは居場所を得たかと思ったが……。

 2010年に公開された映画だが、「厳罰化」について非常に多くの問いを投げかけているため、法律が変わりつつあるいま、改めて見られるべき作品である。

 上映後、同作の監督・卜部(うらべ)敦史さん、刑事訴訟法を専門とする白鷗大学法学部教授の平山真理さん、榎本クリニックに所属する精神保健福祉士、社会福祉士として、“社会の中での性犯罪加害者更生プログラム”に取り組む斉藤章佳さんの3名によるトークショーが行われた。その模様を一部抜粋してお届けする。

■社会の中で出所者を監視する法律は、アメリカや韓国にある

卜部 僕はもともとテレビで報道番組の制作に携わっていたのですが、事件報道は被害者にフォーカスすることが多い一方で、加害者の“その後”が取り上げられることはほとんどないと気づきました。彼らは出所後どう生きているのか? と考え始めたのと同時期に、日本でも性犯罪者監視法の導入が検討されていると知ったんです。社会からの監視はひとつのペナルティになるので、出所後の人にそれを科すのは“二重刑罰”にもなります。それが性犯罪者に“だけ“与えられるとしたら、どういう意味があるのだろう? 罪の意識を抱えながら生きている人たちを社会はどう受け入れていくのだろう……? 『SCOPE』は7年前に作った映画ですが、いまでも現在進行形で関心を持っているテーマです。

平山 とても挑戦的な映画ですよね。社会の中で出所者を監視する法律はアメリカのメーガン法がありますし、韓国では足首にGPSを装着させ、彼らの居場所が常に把握されています。もしSCOPE法が現実のものとなったら日本はどうなってしまうのか……と想像しながら見ました。また、主人公の篤夫が被害女性の父親に謝罪をしにいく場面がありますね。被害者と加害者が対話することで理解し合う“修復的司法”はいま各国で注目されています。ただ、それらの国でも、性犯罪事件にこれを適用するのは難しい、という意見が多いです。

斉藤 私も謝罪の場面に、考えさせられるところが多くありました。以前ある講演会で、お子さんを交通事故で亡くして、現在は被害者支援の活動をしている男性に、「加害者に、どんな謝罪をしてほしいですか?」と尋ねたことがあります。そこで返ってきた「謝罪はいらない。彼らにいずれ大切な人ができたら、自分が他人からどれだけ大切なものを奪ったのか、気づくことになりますから」という答えが思い出されました。

 主人公の篤夫は、孤立している。右手の甲にはSCOPE法対象者であることを示す数字の刻印があり、それを悟られないよう、常に人との間に距離を置いている。

斉藤 孤立も、この映画の大きなテーマですよね。身柄引受人がいないところを見ると、篤夫はおそらく満期で出所しています。家族から受け入れられず、過去を隠しているため誰ともつながりが持てず、仕事もなく、SCOPE法にがんじがらめにされながら、どんどん社会から排除されていく……。

平山 刑法が改正されれば、強姦罪改め強制性交等罪の法定刑は、懲役5~20年になります。厳罰化は、「性犯罪を許さない」と社会全体にメッセージを発信していくことでもあるので、それ自体は評価できます。が、刑期が長くなると、その分、社会と隔絶している時間も長くなり、出所後に孤立しやすくなります。社会の中で彼らをどう扱っていくか、つまり“社会内処遇”にどうつなげるかを、同時に考えなければいけませんよね。

斉藤 同じ犯罪を何度も重ねている人ほど、孤立したとき、それまでに慣れ親しんできた犯罪に再び手を染めてしまう傾向があります。窃盗なら窃盗、性犯罪なら性犯罪。決して許されないことですが、これは彼らとしては“生きるため”の手段です。それをすれば刑務所に戻れますから。言うまでもありませんが、性犯罪の再犯とは、新たな被害者を生むということです。それを防ぐためにも、平山先生がおっしゃった社会内処遇の枠組みの中で、継続した治療が不可欠です。

卜部 受け皿が何もないまま刑罰だけを重くすることについては、もっと議論が必要ですね。人は誰しもひとりでは生きていけなくて、社会も彼らに関わっていかなければならないーーということが、もっと広く知られてほしいです。

 会場からは、児童への、特に家庭内での性暴力についての質問が寄せられた。篤夫のように刑に処せられることもないどころか、この場合の加害者の多くは、加害者としての自覚もなく、のうのうと生きている。社会は、彼らをどうしていくべきか?

平山 今回の刑法改正案では、監護者、つまり18歳未満の子どもと生活を共にしたり、その身の回りの世話をする者が、その子にわいせつ行為や性交をした場合、そこに暴行や脅迫がなくとも、性暴力と見なし、罰することも盛り込まれています。けれど改正されたとしても、子どもが大人を加害者として突き出すのはハードルが高すぎますよね。子どもたちが被害を相談しやすい体制づくりを急ぐ必要があります。

卜部 自覚していない人に自覚させ、反省していない人に反省させるというのは、非常に難しいですよね。篤夫はある出来事を機に自分で気づいて、反省し、謝罪をしました。人から無理やり自覚させられたり、反省を強制されたりしても、それは真の自覚や反省にならないように僕は思います。

斉藤 私たちがまず家庭内性虐待加害者の実態を知ることが、発生そのものを減らすことにつながると思います。これは性暴力全般にもいえることで、昨今は以前よりもその実態が社会で知られるようになってきましたが、それでもまだまだモンスター的な存在として描かれるなど、ゆがんだ加害者像が根強いと感じています。これでは加害者は社会の目をすり抜け、野放しになってしまいます。彼らのリアルを広く伝えていくことが、私たちの役目ですね。

 加害者の実態を知らないことは、加害行為を見逃すことにつながる。それは加害者にとって都合のいい社会にほかならない。さらには、一度罰を受けて社会に出てきた加害者に二度と罪を犯させないようにするには、どうすればいいのか? 仮にSCOPE法のような矛盾を孕んだ刑罰が将来検討されるとして、本当にそれが再犯防止につながるのか……? 映画『SCOPE』が投げかける問いは、重い。
(三浦ゆえ)

性犯罪者は生きるために再犯するーー厳罰化で被害者は減るのか?

 明治時代から110年間、変わらずにきた刑法がようやく「性被害の実態に即していない」という理由で見直される。現在、刑法の性犯罪規定部分に対する改正案が国会で審議されるのを待っている状況だ。強姦が「強制性交等罪」と改められる、対象が男性にも広がる、「非親告罪化」によって被害者からの告訴がなくとも起訴できるなどに加え、「厳罰化」も論点にあがっている。これまでは強姦罪における法定刑の下限は、懲役3年だった。改正案では5年に引き上げられている。これは、殺人罪の下限と同じ年数である。

 5月某日、性犯罪を題材とした映画『SCOPE』が東京・榎本クリニックで上映された。舞台となる近未来の日本では、刑期を終えて社会に出た性犯罪者を徹底的に監視するための「SCOPE(スコープ)法」が施行されている。主人公の篤夫は集団暴行の罪で逮捕され、6年間の服役を終えて刑務所を出所したものの、家族から拒否され、ひとり仕事を探す。離島の工場で働き始め、いったんは居場所を得たかと思ったが……。

 2010年に公開された映画だが、「厳罰化」について非常に多くの問いを投げかけているため、法律が変わりつつあるいま、改めて見られるべき作品である。

 上映後、同作の監督・卜部(うらべ)敦史さん、刑事訴訟法を専門とする白鷗大学法学部教授の平山真理さん、榎本クリニックに所属する精神保健福祉士、社会福祉士として、“社会の中での性犯罪加害者更生プログラム”に取り組む斉藤章佳さんの3名によるトークショーが行われた。その模様を一部抜粋してお届けする。

■社会の中で出所者を監視する法律は、アメリカや韓国にある

卜部 僕はもともとテレビで報道番組の制作に携わっていたのですが、事件報道は被害者にフォーカスすることが多い一方で、加害者の“その後”が取り上げられることはほとんどないと気づきました。彼らは出所後どう生きているのか? と考え始めたのと同時期に、日本でも性犯罪者監視法の導入が検討されていると知ったんです。社会からの監視はひとつのペナルティになるので、出所後の人にそれを科すのは“二重刑罰”にもなります。それが性犯罪者に“だけ“与えられるとしたら、どういう意味があるのだろう? 罪の意識を抱えながら生きている人たちを社会はどう受け入れていくのだろう……? 『SCOPE』は7年前に作った映画ですが、いまでも現在進行形で関心を持っているテーマです。

平山 とても挑戦的な映画ですよね。社会の中で出所者を監視する法律はアメリカのメーガン法がありますし、韓国では足首にGPSを装着させ、彼らの居場所が常に把握されています。もしSCOPE法が現実のものとなったら日本はどうなってしまうのか……と想像しながら見ました。また、主人公の篤夫が被害女性の父親に謝罪をしにいく場面がありますね。被害者と加害者が対話することで理解し合う“修復的司法”はいま各国で注目されています。ただ、それらの国でも、性犯罪事件にこれを適用するのは難しい、という意見が多いです。

斉藤 私も謝罪の場面に、考えさせられるところが多くありました。以前ある講演会で、お子さんを交通事故で亡くして、現在は被害者支援の活動をしている男性に、「加害者に、どんな謝罪をしてほしいですか?」と尋ねたことがあります。そこで返ってきた「謝罪はいらない。彼らにいずれ大切な人ができたら、自分が他人からどれだけ大切なものを奪ったのか、気づくことになりますから」という答えが思い出されました。

 主人公の篤夫は、孤立している。右手の甲にはSCOPE法対象者であることを示す数字の刻印があり、それを悟られないよう、常に人との間に距離を置いている。

斉藤 孤立も、この映画の大きなテーマですよね。身柄引受人がいないところを見ると、篤夫はおそらく満期で出所しています。家族から受け入れられず、過去を隠しているため誰ともつながりが持てず、仕事もなく、SCOPE法にがんじがらめにされながら、どんどん社会から排除されていく……。

平山 刑法が改正されれば、強姦罪改め強制性交等罪の法定刑は、懲役5~20年になります。厳罰化は、「性犯罪を許さない」と社会全体にメッセージを発信していくことでもあるので、それ自体は評価できます。が、刑期が長くなると、その分、社会と隔絶している時間も長くなり、出所後に孤立しやすくなります。社会の中で彼らをどう扱っていくか、つまり“社会内処遇”にどうつなげるかを、同時に考えなければいけませんよね。

斉藤 同じ犯罪を何度も重ねている人ほど、孤立したとき、それまでに慣れ親しんできた犯罪に再び手を染めてしまう傾向があります。窃盗なら窃盗、性犯罪なら性犯罪。決して許されないことですが、これは彼らとしては“生きるため”の手段です。それをすれば刑務所に戻れますから。言うまでもありませんが、性犯罪の再犯とは、新たな被害者を生むということです。それを防ぐためにも、平山先生がおっしゃった社会内処遇の枠組みの中で、継続した治療が不可欠です。

卜部 受け皿が何もないまま刑罰だけを重くすることについては、もっと議論が必要ですね。人は誰しもひとりでは生きていけなくて、社会も彼らに関わっていかなければならないーーということが、もっと広く知られてほしいです。

 会場からは、児童への、特に家庭内での性暴力についての質問が寄せられた。篤夫のように刑に処せられることもないどころか、この場合の加害者の多くは、加害者としての自覚もなく、のうのうと生きている。社会は、彼らをどうしていくべきか?

平山 今回の刑法改正案では、監護者、つまり18歳未満の子どもと生活を共にしたり、その身の回りの世話をする者が、その子にわいせつ行為や性交をした場合、そこに暴行や脅迫がなくとも、性暴力と見なし、罰することも盛り込まれています。けれど改正されたとしても、子どもが大人を加害者として突き出すのはハードルが高すぎますよね。子どもたちが被害を相談しやすい体制づくりを急ぐ必要があります。

卜部 自覚していない人に自覚させ、反省していない人に反省させるというのは、非常に難しいですよね。篤夫はある出来事を機に自分で気づいて、反省し、謝罪をしました。人から無理やり自覚させられたり、反省を強制されたりしても、それは真の自覚や反省にならないように僕は思います。

斉藤 私たちがまず家庭内性虐待加害者の実態を知ることが、発生そのものを減らすことにつながると思います。これは性暴力全般にもいえることで、昨今は以前よりもその実態が社会で知られるようになってきましたが、それでもまだまだモンスター的な存在として描かれるなど、ゆがんだ加害者像が根強いと感じています。これでは加害者は社会の目をすり抜け、野放しになってしまいます。彼らのリアルを広く伝えていくことが、私たちの役目ですね。

 加害者の実態を知らないことは、加害行為を見逃すことにつながる。それは加害者にとって都合のいい社会にほかならない。さらには、一度罰を受けて社会に出てきた加害者に二度と罪を犯させないようにするには、どうすればいいのか? 仮にSCOPE法のような矛盾を孕んだ刑罰が将来検討されるとして、本当にそれが再犯防止につながるのか……? 映画『SCOPE』が投げかける問いは、重い。
(三浦ゆえ)

「性被害は被災と同じくらい大変なこと」被害者支援の立場から見た、性暴力を取り巻く社会の現状

 3月7日、政府は性犯罪の処罰のあり方を110年ぶりに見直し、厳罰化する刑法改正案を閣議決定した。この法案が通れば、男女とも性被害者として認められ、告訴なしで立件できるようになる。『13歳、「私」をなくした私 性暴力と生きることのリアル』(朝日新聞出版)を上梓した山本潤さんは、13歳の頃から実の父親から性暴力を受けていた被害者で、現在は性暴力被害者を支援する活動を行っている。今回の刑法改正で性被害の実情がどう変わるのか、山本さんに話を聞いた。

■性被害からの回復は、人との間で本来の自分を取り戻していくこと

――山本さんは著書の中で、大変つらい経験を乗り越えたことを書かれています。そのような経験を書くという作業は大変だったと思いますが、出版に至った経緯を教えてください。

山本潤さん(以下、山本) 昨年の2月1日に朝日新聞の“ひと”欄に『被害者から見た刑法についての発言をしている「性暴力と刑法を考える当事者の会」の活動をしている山本潤さん』ということで掲載されました。それを朝日新聞出版の編集者さんが見てくれていて。私は各地で講演をしているのですが、熊本の「国民のつどい」で講演をした講演録をネットで読んでくださり、「この内容を深めて本にできると思います」と、お話をいただいて、書くことにしました。

――書いている最中、性被害のフラッシュバックなどは起こりませんでしたか?

山本 思い起こしながら書くので、当時は遮断していたような感覚を取り戻して、深く味わうような感じです。だから、ずっとセラピーを受けながら執筆していました。セラピストさんと一緒に「これはどういうことなのだろうか」と探求しながら書きました。

――分析をしながら書くことによって、回復につながるような効果があったのでしょうか?

山本 私の場合は、「なぜそうなるのか」を自分が知りたいということがあったように思います。私は看護師として働いているので、患者さんの尿の入った尿瓶を扱う業務がありました。その際に尿を飲みたいという思いに襲われたんです。尿を飲みたいだなんて明らかにおかしい話ですし、自分でもなぜかがわからない。でも、あまり考えると、また(心の)傷口から血が吹き出して動揺するので、あまり考えないようにしていたのですが、書かざるを得なくなったので、セラピストさんと掘り起こしてみたら、「ああ、そういうことか」と自分でも納得ができたというか……。必ずしも書くことが必要なわけではなく、感覚的なものなので、被害で受けた傷を言葉にして整理するのはすごく難しいことでもあります。

――回復の方法は人によって違うのですか?

山本 はい。その人の置かれている状況によっても違うし、その人の行動によっても違うと思うのですが、基本的には、人を信頼できるようになるということがすごく大事です。そして、自分自身にも力があると信じられるようになることも大事。やはり、人との間で本来の自分を取り戻していくことですね。だから、セラピストさんを信頼できるかどうかもとても重要です。

――中には相性の合わないセラピストさんもいるということですか?

山本 そうですね。セラピストさんを探すのもすごく大変です。自分に合うセラピストさんをマッチングしてもらえるといいんですけど、なかなかそういうシステムもないので。でも、やはり良いセラピストさんと一緒だったら、“治療同盟”が結べるので、そこでいろいろなことを一緒に経験していくことができます。

――私自身、友人で性被害に遭った人がいるのですが、そういう人とどう接していけばいいのか悩みます。変に元気付けると傷をえぐるだけの場合もありますし……。

山本 やはり、責められたり「あなたが悪いんじゃないの?」と言われたりすることは、とても傷付きます。性被害のトラウマが大変だとわかる人はわかるのですが、“まったく大変と認めない人”や、“大変なんだろうけど、どうすればいいのかわからない人”がいます。

■“良い性的な関係”を築くためにはどうすればいいのか、わかっていない

――性被害を受けた人に言ってはいけない言葉はありますか?

山本 「そんな大変なことは忘れて、前を見ようよ!」と、被害者は言われがちなんですが、人は大きな被害を受けたとき、忘れることはできません。それは震災の被害に遭った方も同じですし、大切な人を殺されたり、大きな事故に遭ったりしたときも同じだと思います。同じくらい大変なんだよ、ということを想像しながら関わっていけばいいのではないかと思います。

――「忘れて前を見ようよ!」なんて、つい言ってしまいそうです。性被害者の心理に関する知識が広まるためには、どうしたらいいと思いますか?

山本 支援機関に携わっている人ならマストで知っていることなのですが、一般の人には広まっていないのが現状です。やはり、こうやって報道されることや、あとは教育をしていくことですね。

――教育は大事ですよね。キャンパスレイプも起こっていますし、特に若い世代は性暴力に関する知識があまりにもないのではと感じてしまいます。お酒で酔いつぶれた女性はOKサインだと思って性的暴行をした、という話も聞いたことがあります。

山本 そのあたりのことを学校はきちんと教えていません。アメリカだと、新入生に「性暴力対応トレーニング」を先輩が後輩に行うんです。何が同意で何が同意でないか、ということもそうだし、女性を酔いつぶしてレイプをしたら、それはもう犯罪なのだということ、そのような状況を見たらどう助けるのか、ということまで学びます。また、飲み物にクスリを入れられるケースもあるので、そういう具体的な手口も教えつつ、どうやって止めるのかもトレーニングで学ぶということをしています。

――日本にはそういった教育がありません。やはり、性暴力に関する法律が遅れていることも要因にあるのでしょうか?

山本 教育委員会や政治家の人たちの価値観によるものでしょう。市民が性暴力に関する現在の法律について、おかしいとわかってくれることが大事だと思います。そうすると、それが政治家を動かす力になるはずです。裁判員裁判だって、以前は司法の世界の昔ながらのやり方で、「強姦罪だったらこのくらいの刑」と下されていたものが、市民が入ることで、「こんなひどいことをされているんだから、その判決はおかしい!」というふうに、量刑が重くなったケースもあるので、市民感覚が反映されるのは重要だと思います。

 また、日本では性に関することはタブーになっていますが、その中でも性行動自体の内容は多岐にわたっています。セックスは本当に同意のある良い関係の人と行うと、健康寿命が伸びるというデータもありますし、悪いものではありません。そういう“良い性的な関係”を築くためにはどうすればいいのか、わかっていないから、ドラマやアダルトビデオ、漫画などから学んでDVが起こったりするのではないかと思います。

■“私たちの同意ガイドライン”を作っていきたい

――現在、性暴力に関する法律が変わろうとしています。法律が変わることによって、今後、社会はどう変わっていくと思いますか? また、性暴力の抑止になるとは思いますか?

山本 私の考えでは、暴行・脅迫要件が残るということは、性暴力=性犯罪にならないことだと思っています。ただ、今回の法改正で、男性も被害者と認められるようになりますし、今まで親告罪だったものも非親告罪になります。それは遅すぎたくらいで、法改正は当然のことです。あと、監護者(親など)による強制的な性交は犯罪であると認識されるようになることは、とても良いメッセージになるのではないかと思っています。

 ただ、どうしてこの暴行・脅迫要件は残るのかと考えると、抵抗したけど奪われてしまった場合でないとレイプと認められない、と考えられていることと根本は変わらないんじゃないかと思います。脅されたり殴られたり、刃物で刺されたり、そういうことがなくても、その人が同意していないのに性的なことをされること自体が暴力であり、そこで傷が発生するということを認識しなければ、まだ性暴力もキャンパスレイプも続くと思います。

――最後に、山本さんの今後の目標を教えてください。

山本 直近の目標は今行っている「ビリーブキャンペーン~刑法性犯罪改法プロジェクト~」の中で、性関係やパートナーシップにおける同意ガイドラインを作ることです。ロビイングに行くと、男性から「何が同意で何が同意じゃないのか、わからないから怖くて不安」という話を聞くことがあります。ワークショップをしながら1,000人くらいから意見を募り、何が同意で何が同意でないかの“私たちの同意ガイドライン”を作っていきたいです。例えば、セクハラにもセクハラガイドラインがあり、上司が「個人的に2人で会おう」と部下に言ったらアウトじゃないですか。

――そういう具体的な例を出さないと、なかなか理解が深まらないということですね。

山本 そう。そこで齟齬があったのなら、そこを共有することで、性暴力につながることもなくなっていくと思います。やはり、「同意なしに性的な行為をすることはおかしい」ということが広がっていくことが大事です。

――おかしいかどうかわからない状態だったら、何も変わらないとも言えますね。

山本 それもそうだし、今まで被害を受けたと声を挙げた人たちが「おかしな人」とか「かわいそうだけど騙されてバカな人」みたいな扱いを受けていたことが、なくなることも、とても大事ですね。そしてその時、性加害をした加害者を適切に処罰するなどの対応をして、「加害者に責任がある」という認識がしっかり広まるといいと思います。
(姫野ケイ)

山本潤(やまもと・じゅん)
1974年生まれ。看護師・保健師。「性暴力と刑法を考える当事者の会」代表。13歳から20歳までの7年間、父親から性暴力を受けていたサバイバー。性暴力被害者支援看護師(SANE)として、その養成にも携わる。性暴力被害者の支援者に向けた研修や、一般市民を対象とした講演活動も多数行う。

性暴力と刑法を考える当事者の会

「性被害は被災と同じくらい大変なこと」被害者支援の立場から見た、性暴力を取り巻く社会の現状

 3月7日、政府は性犯罪の処罰のあり方を110年ぶりに見直し、厳罰化する刑法改正案を閣議決定した。この法案が通れば、男女とも性被害者として認められ、告訴なしで立件できるようになる。『13歳、「私」をなくした私 性暴力と生きることのリアル』(朝日新聞出版)を上梓した山本潤さんは、13歳の頃から実の父親から性暴力を受けていた被害者で、現在は性暴力被害者を支援する活動を行っている。今回の刑法改正で性被害の実情がどう変わるのか、山本さんに話を聞いた。

■性被害からの回復は、人との間で本来の自分を取り戻していくこと

――山本さんは著書の中で、大変つらい経験を乗り越えたことを書かれています。そのような経験を書くという作業は大変だったと思いますが、出版に至った経緯を教えてください。

山本潤さん(以下、山本) 昨年の2月1日に朝日新聞の“ひと”欄に『被害者から見た刑法についての発言をしている「性暴力と刑法を考える当事者の会」の活動をしている山本潤さん』ということで掲載されました。それを朝日新聞出版の編集者さんが見てくれていて。私は各地で講演をしているのですが、熊本の「国民のつどい」で講演をした講演録をネットで読んでくださり、「この内容を深めて本にできると思います」と、お話をいただいて、書くことにしました。

――書いている最中、性被害のフラッシュバックなどは起こりませんでしたか?

山本 思い起こしながら書くので、当時は遮断していたような感覚を取り戻して、深く味わうような感じです。だから、ずっとセラピーを受けながら執筆していました。セラピストさんと一緒に「これはどういうことなのだろうか」と探求しながら書きました。

――分析をしながら書くことによって、回復につながるような効果があったのでしょうか?

山本 私の場合は、「なぜそうなるのか」を自分が知りたいということがあったように思います。私は看護師として働いているので、患者さんの尿の入った尿瓶を扱う業務がありました。その際に尿を飲みたいという思いに襲われたんです。尿を飲みたいだなんて明らかにおかしい話ですし、自分でもなぜかがわからない。でも、あまり考えると、また(心の)傷口から血が吹き出して動揺するので、あまり考えないようにしていたのですが、書かざるを得なくなったので、セラピストさんと掘り起こしてみたら、「ああ、そういうことか」と自分でも納得ができたというか……。必ずしも書くことが必要なわけではなく、感覚的なものなので、被害で受けた傷を言葉にして整理するのはすごく難しいことでもあります。

――回復の方法は人によって違うのですか?

山本 はい。その人の置かれている状況によっても違うし、その人の行動によっても違うと思うのですが、基本的には、人を信頼できるようになるということがすごく大事です。そして、自分自身にも力があると信じられるようになることも大事。やはり、人との間で本来の自分を取り戻していくことですね。だから、セラピストさんを信頼できるかどうかもとても重要です。

――中には相性の合わないセラピストさんもいるということですか?

山本 そうですね。セラピストさんを探すのもすごく大変です。自分に合うセラピストさんをマッチングしてもらえるといいんですけど、なかなかそういうシステムもないので。でも、やはり良いセラピストさんと一緒だったら、“治療同盟”が結べるので、そこでいろいろなことを一緒に経験していくことができます。

――私自身、友人で性被害に遭った人がいるのですが、そういう人とどう接していけばいいのか悩みます。変に元気付けると傷をえぐるだけの場合もありますし……。

山本 やはり、責められたり「あなたが悪いんじゃないの?」と言われたりすることは、とても傷付きます。性被害のトラウマが大変だとわかる人はわかるのですが、“まったく大変と認めない人”や、“大変なんだろうけど、どうすればいいのかわからない人”がいます。

■“良い性的な関係”を築くためにはどうすればいいのか、わかっていない

――性被害を受けた人に言ってはいけない言葉はありますか?

山本 「そんな大変なことは忘れて、前を見ようよ!」と、被害者は言われがちなんですが、人は大きな被害を受けたとき、忘れることはできません。それは震災の被害に遭った方も同じですし、大切な人を殺されたり、大きな事故に遭ったりしたときも同じだと思います。同じくらい大変なんだよ、ということを想像しながら関わっていけばいいのではないかと思います。

――「忘れて前を見ようよ!」なんて、つい言ってしまいそうです。性被害者の心理に関する知識が広まるためには、どうしたらいいと思いますか?

山本 支援機関に携わっている人ならマストで知っていることなのですが、一般の人には広まっていないのが現状です。やはり、こうやって報道されることや、あとは教育をしていくことですね。

――教育は大事ですよね。キャンパスレイプも起こっていますし、特に若い世代は性暴力に関する知識があまりにもないのではと感じてしまいます。お酒で酔いつぶれた女性はOKサインだと思って性的暴行をした、という話も聞いたことがあります。

山本 そのあたりのことを学校はきちんと教えていません。アメリカだと、新入生に「性暴力対応トレーニング」を先輩が後輩に行うんです。何が同意で何が同意でないか、ということもそうだし、女性を酔いつぶしてレイプをしたら、それはもう犯罪なのだということ、そのような状況を見たらどう助けるのか、ということまで学びます。また、飲み物にクスリを入れられるケースもあるので、そういう具体的な手口も教えつつ、どうやって止めるのかもトレーニングで学ぶということをしています。

――日本にはそういった教育がありません。やはり、性暴力に関する法律が遅れていることも要因にあるのでしょうか?

山本 教育委員会や政治家の人たちの価値観によるものでしょう。市民が性暴力に関する現在の法律について、おかしいとわかってくれることが大事だと思います。そうすると、それが政治家を動かす力になるはずです。裁判員裁判だって、以前は司法の世界の昔ながらのやり方で、「強姦罪だったらこのくらいの刑」と下されていたものが、市民が入ることで、「こんなひどいことをされているんだから、その判決はおかしい!」というふうに、量刑が重くなったケースもあるので、市民感覚が反映されるのは重要だと思います。

 また、日本では性に関することはタブーになっていますが、その中でも性行動自体の内容は多岐にわたっています。セックスは本当に同意のある良い関係の人と行うと、健康寿命が伸びるというデータもありますし、悪いものではありません。そういう“良い性的な関係”を築くためにはどうすればいいのか、わかっていないから、ドラマやアダルトビデオ、漫画などから学んでDVが起こったりするのではないかと思います。

■“私たちの同意ガイドライン”を作っていきたい

――現在、性暴力に関する法律が変わろうとしています。法律が変わることによって、今後、社会はどう変わっていくと思いますか? また、性暴力の抑止になるとは思いますか?

山本 私の考えでは、暴行・脅迫要件が残るということは、性暴力=性犯罪にならないことだと思っています。ただ、今回の法改正で、男性も被害者と認められるようになりますし、今まで親告罪だったものも非親告罪になります。それは遅すぎたくらいで、法改正は当然のことです。あと、監護者(親など)による強制的な性交は犯罪であると認識されるようになることは、とても良いメッセージになるのではないかと思っています。

 ただ、どうしてこの暴行・脅迫要件は残るのかと考えると、抵抗したけど奪われてしまった場合でないとレイプと認められない、と考えられていることと根本は変わらないんじゃないかと思います。脅されたり殴られたり、刃物で刺されたり、そういうことがなくても、その人が同意していないのに性的なことをされること自体が暴力であり、そこで傷が発生するということを認識しなければ、まだ性暴力もキャンパスレイプも続くと思います。

――最後に、山本さんの今後の目標を教えてください。

山本 直近の目標は今行っている「ビリーブキャンペーン~刑法性犯罪改法プロジェクト~」の中で、性関係やパートナーシップにおける同意ガイドラインを作ることです。ロビイングに行くと、男性から「何が同意で何が同意じゃないのか、わからないから怖くて不安」という話を聞くことがあります。ワークショップをしながら1,000人くらいから意見を募り、何が同意で何が同意でないかの“私たちの同意ガイドライン”を作っていきたいです。例えば、セクハラにもセクハラガイドラインがあり、上司が「個人的に2人で会おう」と部下に言ったらアウトじゃないですか。

――そういう具体的な例を出さないと、なかなか理解が深まらないということですね。

山本 そう。そこで齟齬があったのなら、そこを共有することで、性暴力につながることもなくなっていくと思います。やはり、「同意なしに性的な行為をすることはおかしい」ということが広がっていくことが大事です。

――おかしいかどうかわからない状態だったら、何も変わらないとも言えますね。

山本 それもそうだし、今まで被害を受けたと声を挙げた人たちが「おかしな人」とか「かわいそうだけど騙されてバカな人」みたいな扱いを受けていたことが、なくなることも、とても大事ですね。そしてその時、性加害をした加害者を適切に処罰するなどの対応をして、「加害者に責任がある」という認識がしっかり広まるといいと思います。
(姫野ケイ)

山本潤(やまもと・じゅん)
1974年生まれ。看護師・保健師。「性暴力と刑法を考える当事者の会」代表。13歳から20歳までの7年間、父親から性暴力を受けていたサバイバー。性暴力被害者支援看護師(SANE)として、その養成にも携わる。性暴力被害者の支援者に向けた研修や、一般市民を対象とした講演活動も多数行う。

性暴力と刑法を考える当事者の会