「多くの男性はまともなセックスを知らない」精神科医が語る、性教育の限界と必要性

 日本性科学会理事長で産婦人科医の大川玲子先生に、女性の性機能不全に対する治療としてのセックス・セラピーの必要性を、女性の性と権利に詳しい婦人科医の早乙女智子先生に、女性の人権を取り巻く現状について伺ってきた。

 では、男性の性にはどのような問題があるのか? 今回は、性別違和についてカウンセリングやケアを行い、性犯罪者処遇プログラムの専門家でもある、精神科医の針間克己先生に、性暴力の根本に横たわるセックスの認識のズレや、日本の性教育が抱える矛盾について、お話を伺った。

■多くの男性は、まともなセックスを知らない

――精神科医からみて、男性が抱える性の問題は何がありますか?

針間克己先生(以下、針間) まず、性の問題を解決する方法はあるのに、それを見つけられない人が多い。性で悩んでいる人がインターネットで検索して調べようとすると、コンプレックスに付け込んでものを売りつけようとするような怪しいサイトや情報しか出てこないのが現状です。そして、医療機関や相談機関は、男性からするとプライドが損なわれるため行きづらい。男性はまだまだ、そういった相談に行くのを嫌がる傾向があります。しかし、恥ずかしさやプライドといった表面的なハードルを取り払わないと、解決まで進みません。プライドを捨てて一歩踏み出したほうがよいでしょう。性機能の診察において男性は泌尿器科、女性は産婦人科が対象となりますが、心理的要因が強い場合には、精神科でみることもあります。

――痴漢やレイプといった性犯罪など、男性の性に起因する問題が減少しないのはなぜでしょうか?

針間 そもそも多くの男性が、まともなセックスを知らないからです。最近の若い男性の多くはAVを見て育つので、AVの中で暴力的なものもスタンダードだと思ってしまっています。自分が挿れたいときにいつでも挿れられるわけではなく、ちゃんと合意を得て挿れられる状態にしてからでないと、男性は行為をしてはいけないんです。夫婦間できちんとセックスの合意が得られていない場合、それが性暴力になることも知らない男性がほとんど。年齢を重ねた夫婦間では、妻が濡れなくなっているのに夫が強引に求めてくるのが原因で、セックスレスになってしまうこともあります。

――そうした男性の認識は、いつになったら正されるのでしょうか?

針間 スウェーデンでは今年、合意を得ないセックスはレイプとする法律ができましたが、日本とは大きな差があります。それでも日本も少しは変わってきている。たとえば20年前、30年前、痴漢はほぼ放置されていました。職場などの飲み会で、女子社員を勝手に触ってもとがめられない時代がありました。女性がはっきり「NO」と言ってないからいいだろうという態度だった。しかし、現在では社会的に「痴漢は犯罪」という認識になりましたし、女子社員を触るのはセクハラとして注意されるようになった。女性の人権を尊重する時代がやっと来たともいえます。

――となると、セックスに合意が必要という意識が根付くまで、あと数十年は必要と考えられます。

針間 性暴力に関しては、最近だいぶ変わってきました。20年前は、携帯の出会い系サイトを通じて被害に遭った女の子がいると、女の子に携帯の使い方を教えなくてはいけないと新聞に書いてありましたが、今は被害者になりうる側に予防法を教えるだけではなく、性暴力を振るう加害者を作ってはいけないという認識も広がってきました。世の中は、徐々に変わってきてはいると思います。ただ、数年前にはやった「壁ドン」は暴力です。女性の逃げ場をなくして追い詰めている。少女漫画のファンタジーの世界の中でならともかく、現実の世界でやったら、ただの暴力にしかならない。でも、そのことに触れたマスコミは、なかったように思います。

――AVの世界がファンタジーである、合意のないセックスはカップル間でも性暴力だと認識するには、教育の力が必要なのではないでしょうか?

針間 学校で教える性教育は、セックスしないことを前提としているのです。だから「セックスする前に合意を得ましょう」といったことは教えられない。性暴力の話でいえば、「ストーカー的なことはやめましょう」という中途半端なことは教えますけど、「セックスをするには、必要なプロセスを踏まないといけない。合意があれば大丈夫です」とは教えません。

――しないことを前提としていたら、教育はできませんよね。

針間 現実的には性行為をする高校生はいるのですから、放っておくよりも、適切な性教育をして対策したほうがいいのは明白です。政府は子どもを増やしてほしいけれど、高校生には産んでほしくないという矛盾がある。性教育を行うにも、メリット・デメリットのバランスを考えることが大事になってきます。性教育によって、望まぬ妊娠と、すでに起こってしまっている梅毒など性感染症の爆発的増加を防げるわけです。

――先生自身は、性教育に期待することはなにかありますか?

針間 私個人としては、性教育によって女性が人生を豊かにするのは、非常にいいことだと思います。きちんとした性教育を行えば、女性が自分自身の体や妊娠や避妊についてよく知り、性行動をコントロールできるようになる。避妊して、性感を高めて楽しむことができる。それが保守的な人々にとっては喜ばしくないから反対しているんです。

――性暴力や感染症が防げる一方、女性がセックスを楽しむようになるため、性教育そのものを阻むということですか?

針間 「女性は産む機械」とか、「何人産んでほしい」といった政治家の発言のもとになっているのは、「女性はただ結婚して、ただ産んでくれればいいだけ」という思想です。女性が自分で何かを考えて、自発的に動いてほしくないからです。単純に産むことさえしてくれればいいので、いろいろなことを知ってほしくない。妊娠しないようにバースコントロールできる能力が高まるのは、そういう人々にとって非常に都合が悪いのでしょう。

――医療の現場からセックスに関する啓蒙は行われていますか?

針間 医療においては、セックスが一番遅れている問題です。一般の内科などの診察室では、性のことを口に出すと、自分がおかしいと思われるのではないかと懸念している医師もいます。専門的な性の知識を勉強していないからこそ、助言が個人的な経験によるものになってしまいがちな傾向があるのです。たとえば男性患者に相談されても、「僕の経験では、女性をイカすにはこうしたほうがいいよ」なんて言ってしまう医師もいる。専門的知識に、個人的な経験による意見が混じってしまう危険性があるんです。

――たしかに、セックス行為そのものは、親しい間柄であっても踏み込めないテーマですし、個人の観点からしか話せません。

針間 性暴力については、「セクハラはよくない」と考え方が変わってきたし、LGBTに関しては20年前と比べて劇的に認識が変わって、誰を好きになるかは個人の問題になりました。ところがセックスの問題だけ、議論されないまま取り残されている。非常にパーソナルな問題で、取り上げにくいために日本では取り上げられていない。セクシュアリティは個人の尊厳や人格に深く関わる問題なので、性暴力で損なわれるのもいけないし、本当は楽しみたいのに楽しめないのも権利を損なわれている。セクシュアリティを軽んじられている現在の状態はよくないですね。

――LGBTへの認識のように、女性の性に関する扱いも、急に変わることはあるのでしょうか?

針間 LGBTの状況が大きく変わったのは、1998年に性同一性障害を持つ人への手術が埼玉医科大学で行われてからです。それが医療行為として認められ、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例法に関する法律」が2003年にできました。さらに、病気としてではなくLGBTという存在についての認知が世間に広がってきた。ただ、そういうドラスティックな変化は、LGBTとは違って起こりにくいでしょう。

――性から派生するあらゆる問題に傷つき、絶望的な気持ちになっている日本女性は数多くいますが、この先はどうなっていくとお考えですか?

針間 本当に課題の多い問題でありますが、だんだんと変わっていくでしょう。我々は大河の一滴一滴です。世の中は確実に変わってはいる。一滴ずつ汗を流すことで変わっていくしかないと思います。
(弥栄 遖子)

針間克己(はりま・かつき)
はりまメンタルクリニック院長。1990年東京大学医学部医学科卒業。96年東京大学医学部大学院博士課程修了。医学博士。日本性科学学会理事。性同一性障害研究会理事。日本精神神経学会「性同一性障害に関する委員会」委員。The World Professional Association for Transgender Health(WPATH)会員。著書に『一人ひとりの性を大切にして生きる―インターセックス、性同一性障害、同性愛、性暴力への視点』(少年写真新聞社)『セクシュアル・マイノリティへの心理的支援―同性愛、性同一性障害を理解する』(編著・岩崎学術出版社)などがある。

「性に関して、自分だけは幸せになりなさい」婦人科医が語る、女性の権利を奪われない生き方

 前回、婦人科医の早乙女智子先生に「セクシュアル・ライツ(性の権利宣言)」に触れながら、女性の人権がないがしろにされている現状を伺った。今回は、女性がもっと生きやすくなる方法について探る。

前編はこちら:「男も世間も、女にラクをさせたくない」性の現場から語る、女性権利“不在”の日本の現状

■嫌なセックスをしないことで、身体権が守れる

――女性は、自分を守るためにどうしたらいいのでしょうか?

早乙女智子先生(以下、早乙女) 嫌なセックスをしないことです。「お茶飲まない?」と聞かれたら、「飲まない」とか「いりません」と答えられるでしょう。それと同じです。セックスするかしないかをはっきりさせる。いるかいらないかをはっきりするだけです。「今はいいわ」「あなたとは飲みたくない」「砂糖はやめて」それだけのこと。相手のために我慢してセックスしたら、その我慢は性搾取でしかない。男性は絶対に自分が痛いセックスはしないでしょう。それなのに、女性には痛いセックスを最初から強要している。挿入は、女性にとっては後戯でしかありません。前戯が女性にとってのセックスです。つまり、前戯をしない挿入だけのセックスは暴力。女性の身体権が奪われています。それを愛とかいう男がいたら、「馬鹿野郎!」って叫んでやればいい。

――日本でセックス嫌いの女性がいるのは当然の状況のように思えます。暴力をなくすには、どうしたらいいでしょうか?

早乙女 まず、暴力とは何かを知ることですね。暴力に当たるものは非常に範囲が広いんです。精神的、身体的、性的、経済的、社会的……言葉の暴力もそうです。落ち度もないのに、故意になじることも暴力。一度振るった暴力を、再び振るうそぶりを見せることも、暴力に当たります。夫婦間でも、合意がない場合のセックスは暴力。デートDVも、もちろん暴力です。社会的暴力とは、社会から隔絶させることです。例えば、男の名前をスマホから消させるとか、外出を禁止するとか、外出先から必ず電話を入れさせるのも暴力です。男性は、いつでも遅くなったり飲み歩いたりしているのに。日本の女性はすさまじく地位が低く扱われています。その上、日本にはまだ、中絶する女性を下に見る風潮が残っているのです。

――シングルマザーで、苦しい生活を余儀なくされている女性も少なくないですね。

早乙女 妊娠も出産もセックスも、みんなお金の問題なんです。男性と女性で入れ替えてみれば、おかしい仕組みがすぐにわかります。嫌な言い方かもしれないけれど、日本では愛だけでは生きていけないし、子どもも育てられない。フランスやオランダのように生活保障がちゃんとしていれば、シングルマザーでもちゃんと育てられるけれど、そうではないのです。お金がなくて、頼れる人もいない足場の危ないところで子どもを産んでも、いい人生ではなくなってしまいます。だから、妊娠して出産を控えた女性に必ず言うことがあります。「たとえ小さなお財布でも、絶対に手放しちゃいけない」ということです。妊娠中の離婚もよくあるので、とにかく妊婦さんは小さな預金でも取り崩さずに隠して取っておくように。妊娠出産しても、女性は絶対にお金を生む手段を手放してはいけないんです。

――妊娠出産は女性だけの問題ではないはずなのに、すべてを女性が背負っているケースも多いように思います。

早乙女 女性は、自分の体のことを自分で決めていいんです。月経をずらすのも自由。ピルを飲んで何十人と経験するのも自由。ただ、それにはリスクがあって、感染症や望まない妊娠の危険性があります。だからパートナーはたくさんいていいけれども、最低限コンドームは使ってほしいですね。自分の性生活について、いちいち他人にとやかく言われる筋合いはありません。もし言われても「関係ない」と耳をふさいで無視するくらいでいいんです。日本社会では、そうでもしないと権利が守られないと思います。

■自分が幸せになろうとみんなが思えば、社会はもっと良くなる

――日本の女性は、科学の恩恵を受けられず、情報も必要な人に届いてない。そんな状況の中で、どのように考えたら楽になるでしょうか?

早乙女 性に関して、自分だけは幸せになろうとすることです。もちろん他人に迷惑をかけずにですけどね。一番は、自分が周りの人に対して、小さな自己主張をしていくこと。同調圧力に弱い人は、まずは小さなことから始めないとだめ。自分の好きなものを選ぶようにしましょう。日本人の良さとして、ある程度の同調はいいと思いますし、混乱するのを避けるのは悪いことではないけれど、それが自分たちを苦しめてしまっている。

――苦しんでいる人がたくさんいるのに、どうしてこれだけ窮屈な社会ができてしまうのでしょうか?

早乙女 お母さんという立場の人が「自分さえ我慢していれば」と思ってやり過ごしている。でも、お父さんも「俺だって会社で我慢している」と思っている。こっちもつらいけど、そっちもつらい。いま日本は、非生産的な人生観になっています。同調圧力が強くなっていて、みんなが苦しいから、みんなが苦しいことを確認して満足しているのが現状です。でも、同調しているだけで、それが正しいとは限りません。そんな状態から次の世代は生まれにくいでしょう。「子どもを産め」と言うならば、「まず私たち女性を伸び伸び生きさせてください」と言いたいですね。まずは、子どものことより自分たちからですよ。

―――具体的には、どうしたらいいかを教えてください。

早乙女 自分の中のもう1人の自分を想定し、常に気持ちを確認してみる。そこでもし「嫌だ」と言ってきたら、「本当はどうしたいの?」と聞いてみる。日本社会は少しずつ変わってきたような気もするけれど、根本的な女性問題は、まだなくなっていません。だから「自分だけは幸せになりなさい」と患者さんに言っています。他人はどうでもいいんです。「子どもが幸せでいてくれれば私はいい」というなら、それでもいいですが、子どもから見たら、「かあちゃんは、なんだかわからないけど楽しそうだよね」というほうが絶対にいいと思います。「あなたのためにこんなに我慢している」は、不幸の連鎖にしかなりません。エゴに見えるけど、自分だけは幸せになりなさい。みんながそう思っていたら、みんなが幸せになる。余っていれば、周りの人にも分けてやりなさい。それでいいと思います。それが案外難しいけれど、やったらできますよ。みんなが幸せな社会、それが一番です。
(弥栄 遖子)

早乙女智子(さおとめ・ともこ)
日本産婦人科学会認定 産婦人科専門医。1986年筑波大学医学専門学群卒業。国立国際医療センター、東京都職員共済組合青山病院、ふれあい横浜ホスピタル勤務などを経て、現在は主婦会館クリニック勤務。「性と健康を考える女性専門家の会」副会長、日本性科学会認定セックスセラピスト。著書は、『LOVE・ラブ・えっち』(保健同人社)、『13歳からの「恋とからだ」ノート』(新講社)など多数。

男尊女卑や性暴力、女性の人権に対する日本人の民度を検証する「女性自身」

下世話、醜聞、スキャンダル――。長く女性の“欲望”に応えてきた女性週刊誌を、伝説のスキャンダル雑誌「噂の真相」の元デスク神林広恵が、ぶった斬る!

麻原彰晃ら7人の死刑が先週金曜日に執行された。人数といいタイミングといい異様なものだが、日本世論にはむしろ歓迎ムードさえ漂っていたことも異様だ。しかも、先進国の多くが死刑廃止に舵を取る中、今回の大量執行でも死刑制度についての議論さえないとは――。

第420回(7/5〜7/10発売号より)
1位「伊藤詩織さん 『バッシングに耐えきれず昨秋移住。英国では告発に激励メールが殺到!』」(「女性自身」7月24・31日合併号)
2位「人生100年時代の『女性の生き方』対談 勝間和代『もう我慢しない。自分のしたいことを!』 香山リカ『LGBT告白も、その表現なんですね』(「女性自身」7月24・31日合併号)
3位「ベッキーCM会議で飛び出した“厳しい”ひと言」(「週刊女性」7月24日号)

 先月28日、イギリスBBCが放送した伊藤詩織さんの密着ドキュメンタリーは大反響を呼んだが、これを「女性自身」があらためて特集している。

 ジャーナリストの山口敬之氏からの準強姦被害を訴えた伊藤さんが、バッシングにより身の危険を感じ、イギリスに移住を余儀なくされたこと、またドキュメンタリーの放送後、イギリスの視聴者から数百件の激励があり、逆に誹謗中傷は一切なかったことなどが番組内容とともに紹介されている。

 このドキュメンタリーが『日本の秘められた恥』と題されているように、確かに日本ではレイプ告白をした伊藤さんへのセカンドレイプ的バッシングが巻き起こった。それだけでなく、このドキュメンタリー放送後も伊藤さんやBBCに対するひどい罵詈雑言がネットで飛び交ってもいたのだ。

 まったくもって、この国の男尊女卑や性暴力、女性の人権に対する民度の低さには愕然とするが、イギリスでは真逆だという事実に勇気付けられる。さらに「自身」記事で注目すべきは、伊藤さんをネット番組で非難し、BBCのインタビューにも答えた衆院議員の杉田水脈氏をクローズアップしていることだ。

 BBCで杉田氏は「女として落度がありますよね」などと、相変わらずの伊藤さんバッシングを繰り広げていたのだが、「自身」記事では人権問題に詳しい武井由起子弁護士が、杉田氏の言動を分析している。それが極めて正論で痛快なのだ。武井弁護士は、まず日本のジェンダーギャップ指数が144カ国中114位と極めて低いことを指摘した後、こう語っている。

「男性優位の日本社会で女性が認められるためには、自分を押し殺し、男性以上に男性の主張を代弁するような存在にならなければいけなかったのでしょう。そういう意味では、杉田議員はかわいそうな女性です」

 また武井弁護士は、“飲酒してレイプされたら女性の落度”などという考えを持つ国会議員は大問題であり、また伊藤さんの事件が起訴されなかった背景には、日本の司法の体質があること、そしてレイプ犯罪の立件が困難な構造的理由を指摘し、「こうした問題点を、杉田議員は認識していないのでは」とバッサリぶった切った。

 爽快である。そもそも勇気をもってレイプ被害を警察に訴えたにもかかわらず、政治的圧力によってもみ消されようとしたのが、このレイプ事件だ。それに対し、伊藤さん自身が必死に調査した上で、その被害を告白した。そうした女性に「女として落度がある」などという女性国会議員が存在していることが驚きであり、それこそが日本の“恥”なのだから。

 伊藤さんの事件が国際社会に広く放送されたことで、杉田氏の言動が“恥”として非難され、一方で伊藤さんの行動に称賛の声が集まる。それをあらためて検証し、日本の病理をクローズアップした「自身」。男性週刊誌では絶対“できない”ではなく“しない”良質な記事だった。

 そんな「自身」だが、もうひとつ興味深い記事があった。それが勝間和代と香山リカの対談だ。勝間といえば現在女性パートナーと同居するLGBTだとカミングアウトし話題になったが、この対談ではLGBTへのこんな“差別”に言及している。

「たとえば男性と女性のカップルに『2人でどうやってベッドに入るんですか?』と聞かないですよね。でも、男性同士や女性同士のカップルには、平気でそういうことを聞いてくるんです」

 確かに。しかし一方で勝間は、自身のカミングアウトについて好意的な報道ばかりだったことによって、LGBTの存在が“当たり前”になっていくのではないかと指摘する。いやいや、まだまだ差別はあるし、勝間が著名人であるなど“特殊”な環境にあったことが大きいとは思うが、まあ前向きなのは結構なこと。そこに今度は香山がこう切り込むシーンも。

「でも、LGBTへの差別がなくなりつつあるのに比べて、いわゆる在日外国人への差別はぜんぜんなくならず、むしろ逆行している」

 これもまた、おっしゃる通り。重いテーマだが軽妙さを残しつつ展開する、なかなか面白い対談になっているのだが、その中でも一番爽快だったのが、こんなやり取りだ。

「香山 二階俊博自民党幹事長が“子どもを産まないというのは勝手な考え”と言ったこととかね。
 勝間『だったらお前が産めよ』と思いますよ(笑)。」

 そうだ、そうだ!! 二階が産め(笑)。

 さらにさらに3位も女性差別絡み。不倫で干されたベッキーだが最近はテレビでもチラホラ見かけるし、熱愛報道も。しかしCMは敷居が高いらしい。あるメーカーと広告代理店のCM会議で、こんなやりとりがあったとか。

「主婦層は嫌いでしょ、ベッキー。あと矢口(真里)。主婦向け商品では絶対ダメだよ」

 おそらく男性の発言ではないかと推察されるが、このオヤジの認識が“主婦の認識なんてそんなもの”という上から目線の“主婦差別”なのか、はたまた主婦層が本当に差別的なのかはわからないが、同じ不倫で高齢者向け商品「ハズキルーペ」に出まくっている渡辺謙はOKで、ベッキーはいまだダメ、というところに日本社会全体の“差別”を感じてしまった。

男尊女卑や性暴力、女性の人権に対する日本人の民度を検証する「女性自身」

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麻原彰晃ら7人の死刑が先週金曜日に執行された。人数といいタイミングといい異様なものだが、日本世論にはむしろ歓迎ムードさえ漂っていたことも異様だ。しかも、先進国の多くが死刑廃止に舵を取る中、今回の大量執行でも死刑制度についての議論さえないとは――。

第420回(7/5〜7/10発売号より)
1位「伊藤詩織さん 『バッシングに耐えきれず昨秋移住。英国では告発に激励メールが殺到!』」(「女性自身」7月24・31日合併号)
2位「人生100年時代の『女性の生き方』対談 勝間和代『もう我慢しない。自分のしたいことを!』 香山リカ『LGBT告白も、その表現なんですね』(「女性自身」7月24・31日合併号)
3位「ベッキーCM会議で飛び出した“厳しい”ひと言」(「週刊女性」7月24日号)

 先月28日、イギリスBBCが放送した伊藤詩織さんの密着ドキュメンタリーは大反響を呼んだが、これを「女性自身」があらためて特集している。

 ジャーナリストの山口敬之氏からの準強姦被害を訴えた伊藤さんが、バッシングにより身の危険を感じ、イギリスに移住を余儀なくされたこと、またドキュメンタリーの放送後、イギリスの視聴者から数百件の激励があり、逆に誹謗中傷は一切なかったことなどが番組内容とともに紹介されている。

 このドキュメンタリーが『日本の秘められた恥』と題されているように、確かに日本ではレイプ告白をした伊藤さんへのセカンドレイプ的バッシングが巻き起こった。それだけでなく、このドキュメンタリー放送後も伊藤さんやBBCに対するひどい罵詈雑言がネットで飛び交ってもいたのだ。

 まったくもって、この国の男尊女卑や性暴力、女性の人権に対する民度の低さには愕然とするが、イギリスでは真逆だという事実に勇気付けられる。さらに「自身」記事で注目すべきは、伊藤さんをネット番組で非難し、BBCのインタビューにも答えた衆院議員の杉田水脈氏をクローズアップしていることだ。

 BBCで杉田氏は「女として落度がありますよね」などと、相変わらずの伊藤さんバッシングを繰り広げていたのだが、「自身」記事では人権問題に詳しい武井由起子弁護士が、杉田氏の言動を分析している。それが極めて正論で痛快なのだ。武井弁護士は、まず日本のジェンダーギャップ指数が144カ国中114位と極めて低いことを指摘した後、こう語っている。

「男性優位の日本社会で女性が認められるためには、自分を押し殺し、男性以上に男性の主張を代弁するような存在にならなければいけなかったのでしょう。そういう意味では、杉田議員はかわいそうな女性です」

 また武井弁護士は、“飲酒してレイプされたら女性の落度”などという考えを持つ国会議員は大問題であり、また伊藤さんの事件が起訴されなかった背景には、日本の司法の体質があること、そしてレイプ犯罪の立件が困難な構造的理由を指摘し、「こうした問題点を、杉田議員は認識していないのでは」とバッサリぶった切った。

 爽快である。そもそも勇気をもってレイプ被害を警察に訴えたにもかかわらず、政治的圧力によってもみ消されようとしたのが、このレイプ事件だ。それに対し、伊藤さん自身が必死に調査した上で、その被害を告白した。そうした女性に「女として落度がある」などという女性国会議員が存在していることが驚きであり、それこそが日本の“恥”なのだから。

 伊藤さんの事件が国際社会に広く放送されたことで、杉田氏の言動が“恥”として非難され、一方で伊藤さんの行動に称賛の声が集まる。それをあらためて検証し、日本の病理をクローズアップした「自身」。男性週刊誌では絶対“できない”ではなく“しない”良質な記事だった。

 そんな「自身」だが、もうひとつ興味深い記事があった。それが勝間和代と香山リカの対談だ。勝間といえば現在女性パートナーと同居するLGBTだとカミングアウトし話題になったが、この対談ではLGBTへのこんな“差別”に言及している。

「たとえば男性と女性のカップルに『2人でどうやってベッドに入るんですか?』と聞かないですよね。でも、男性同士や女性同士のカップルには、平気でそういうことを聞いてくるんです」

 確かに。しかし一方で勝間は、自身のカミングアウトについて好意的な報道ばかりだったことによって、LGBTの存在が“当たり前”になっていくのではないかと指摘する。いやいや、まだまだ差別はあるし、勝間が著名人であるなど“特殊”な環境にあったことが大きいとは思うが、まあ前向きなのは結構なこと。そこに今度は香山がこう切り込むシーンも。

「でも、LGBTへの差別がなくなりつつあるのに比べて、いわゆる在日外国人への差別はぜんぜんなくならず、むしろ逆行している」

 これもまた、おっしゃる通り。重いテーマだが軽妙さを残しつつ展開する、なかなか面白い対談になっているのだが、その中でも一番爽快だったのが、こんなやり取りだ。

「香山 二階俊博自民党幹事長が“子どもを産まないというのは勝手な考え”と言ったこととかね。
 勝間『だったらお前が産めよ』と思いますよ(笑)。」

 そうだ、そうだ!! 二階が産め(笑)。

 さらにさらに3位も女性差別絡み。不倫で干されたベッキーだが最近はテレビでもチラホラ見かけるし、熱愛報道も。しかしCMは敷居が高いらしい。あるメーカーと広告代理店のCM会議で、こんなやりとりがあったとか。

「主婦層は嫌いでしょ、ベッキー。あと矢口(真里)。主婦向け商品では絶対ダメだよ」

 おそらく男性の発言ではないかと推察されるが、このオヤジの認識が“主婦の認識なんてそんなもの”という上から目線の“主婦差別”なのか、はたまた主婦層が本当に差別的なのかはわからないが、同じ不倫で高齢者向け商品「ハズキルーペ」に出まくっている渡辺謙はOKで、ベッキーはいまだダメ、というところに日本社会全体の“差別”を感じてしまった。

「男性も楽になる」ジェンダー論はおかしい――女性を“わかってるふう”の男性の問題点

 「男以上に成功してはいけない」「女は馬鹿だ」「家事も育児も女の仕事」といった、男性社会から求められる女性の生きづらさをつづった『「女子」という呪い』(集英社クリエイティブ)を上梓した、作家の雨宮処凛さん。男性視点でジェンダーを研究している社会学者の平山亮さんとの対談の前編では、男女の生きづらさの定義や、男性の受け身性について語ってもらった。後編では、どうすれば女性の生きづらさを男性は理解することができるのかに迫る。

前編はこちら:男女の“生きづらさ”の違いとは? 「共に被害者」という主張が強くなっているジェンダー論

■女性は過剰に責任を取らされてきた

平山亮さん(以下、平山) ジェンダーは非対称で、性被害者であっても、女性は過剰に責任を取らされてきました。だからある意味「あなたは悪くないんだよ、呪いのせいだよ」と、いったん責任を解除してあげる必要があります。逆に男性は「性欲のせいだ」と主張すれば受け入れられたり、責任を取らずに済ませてもらえる言説の方があふれているので、それ以上、責任を解除してあげる必要はないと思います。

 女性性の規範で女性がつらいというのと、男性性の規範で縛られて男性がつらいというのを同列に並べるのは危険です。男性のほうに同じように解除をしてあげると、ますます「男性性のせいだから本人に責任はない」という流れができて、男性に甘くなってしまう心配があります。

雨宮処凛さん(以下、雨宮) 「女性は過剰に責任を取らされてきた」とおっしゃいましたが、こんなことを思ってくれる男性って、きっとほとんどいないと思います。「俺らが責任を取ってきて、女は俺らの陰にいて守られてきたのに」くらいに思っている人が多い気がします。ゴミ出しをしても被害者意識、皿を洗っても被害者意識、痴漢をしても被害者意識……。

平山 そう。男性はとことん“被害者”できたから、もう少し加害性のようなものを見つめてくれないと変えられないんです。雨宮さんの本の中にもありましたが、男性に責任を取らせないようにしている女性もいます。

雨宮 そうしないとモテないとか、生きていけないという圧力もありますからね。でも、男性をうまくおだてて気持ち良くさせて家事をやらせるって、なんでそこまでサービスをしなきゃいけないのか、とても不思議です。

平山 最近はジェンダーやフェミニズムの話をすると「男性にも役に立つから」とか「これは男性にとっても楽になるから」といった話を入れないといけないというか、「男性の苦労もわかった上で話しています」と言わないといけないモードがあります。私はそれがすごく気に入りません。

雨宮 そういうことを言わないと、男性は聞く耳を持ってくれないですよね。

平山 でも、聞く耳をもたせるために使った「男性にも役に立つから」ということを悪用しだす人もいるんです。以前、お会いした女性運動家の方が講演に行った際、男性になんとか話を聞いてもらいたくて、男性の生きづらさについても語ったんですって。そうしたら、逆に「男だってつらいんだから被害者だ」と男性が言い始めて、手に負えなくなったという……。その方は、男性にもジェンダー問題に関心をもってもらおうとすごく頑張っていたのに、逆効果になってしまったことについて、すごく申し訳ないと思っているんです。

雨宮 女性としては、そういう男性にこそ、変わってもらいたいと思っているんですよね。でも、麻生太郎財務相をはじめ、“なぜセクハラはいけないのか”というところから理解できない男性がけっこういます。どんな男性なら、わかってくれるのでしょうか?

平山 ハラスメントや性暴力が起こった際、割とわかっているふうの男性って、「暴力を振るわない僕たちが、暴力を振るう男をなんとかしようモード」になることが多いです。でもおそらく、女性が期待しているのは、必ずしもそこではありません。性暴力事件だけでなく、普通のカップルの間でも、同意のない性交渉などは起きているかもしれないんです。普段男性のしていることが、いかにハラスメントや性暴力と地続きなのかを理解させないといけません。

 今どきの男性って、露骨なセクハラ発言はしないかもしれませんが、「セクハラをするのは異常な男性だけ、正常な僕らは女性の気持ちをわかってあげられる」と「自分だけは大丈夫」と思っている人もいます。でも、本当に考えなければならないのは、普段男性がやっていることが、本当に女性軽視になっていないかということです。例えば、女性軽視のメンタリティという点で、「正常な僕ら」と痴漢をする「異常な男性」は、そこまで違わないかもしれない、ということから考えないといけません。

 少し前に、女性専用車両に乗り込んで女性を攻撃する男性軍団が話題になりましたよね。あれを見て、「なんで私はあの軍団の中にいなかったのだろう?」と思ったことがありました。あの人たちは男性が感じる理不尽さをため込んで、女性を攻撃する方向に行ってしまった人たちです。辛うじて私はそちら側へは行かなかったけど、男性性と折り合いをつけられない私とあの人たちは、ほぼ紙一重だったのではないかなと感じています。何のきっかけで女性を攻撃する側に回るかはわかりません。

――女性専用車両に乗り込んで攻撃する男性と、平山さんの違いは何ですか?

平山 それを次に書こうと思って、まだ考え中です。でも、そういうふうな問いかけをしないと解決しないのではないかなと思っています。

平山 日本は一見近代的に見えるのですが、女性差別のような価値観は変わらないところがすごい国だと思います。しかも、その不当性を訴えることが“ワガママ”という捉え方をされるじゃないですか。「みんな我慢しているのだから、1人だけ言ってはいけない」というところがありますよね。言いづらいし、言いづらい雰囲気を誰も変えてくれない。

雨宮 中国の女性に「日本は先進国だと思ってたのに、日本の女性が世界で一番かわいそうだ」と同情されたことがあります。中国では結婚後も共働きの人が多いですが、男性も普通に家事をするそうです。日本人は中国と同じように共働きも多いのに、女性の負担が大きすぎて、求められるものが多すぎると。

平山 「性差別がおかしい」と言える雰囲気が日本はまだ全然作れていなくて、結局それは男性側の問題です。「女性が困っている」「女性差別は不当だ」という声は散々あちこちにあるわけで、それを「ヒステリーだ」とか「男性のことを理解していない」と、おとしめてきただけ。

雨宮 女性が怒っても、「生理中だから怒っている」とか、「更年期障害だから怒っている」とか、そんな言葉で済まされてしまうので、言うだけ辱められるんですよね。

平山 言えば叩かれ、言わなかったら言わなかったで「別に現状で問題ないってことじゃん」とされてしまう。少し語弊があるかもしれませんが、変な話、そろそろ男性はドMになりましょう。「痛い話」に快感を覚えなくてもいいけど、「痛い話」にわめき立てず、いったん丸ごと受け入れられるようにならないと。

雨宮 でも、それくらいの気持ちになってくれて初めて、ようやくちょっとだけわかったと思える程度ですよね。

平山 そう。ジェンダーの話って、男性に聞こえがいいはずがないんです。だから、なんとか男性に聞かせようと男性の生きづらさや、男性にとっても得なんだよというエピソードを付け加えて聞かせようとしている人もいますが、そもそも論として、男性にとって聞こえのいいジェンダー論って何かおかしいという前提でいたほうがいいです。だから、「耳の痛い話かもしれないけど、一回聞いて」「別に反応したり批評したりしなくていいから、黙って聞いて」と思います。

雨宮 男性にとって一番難しいですね。

平山 そこをなんとか聞かせる方向で頑張りたいですね。

雨宮 男性にとって耳が痛い話って、女性にとってはどういう話になるんですか? 私が男性だったら、おそらく自分が責められているような気分になって、#MeTooにすごくドキドキすると思うんです。怒られる、責められる、自分のキャリアをすべて失うということにおびえているから、逆ギレするような感じになるのではないかと。

平山 私のイメージだと、女性のほうがつらい話が多くないですか? 男性がキャリアを失うのではないかとおっしゃっていますが、この本だって雨宮さんは「書くのが怖かった」と書かれていますよね。女性がジェンダー問題を訴えるのは、別にのびのびとやっているわけではないことを男性はわかっていません。叩かれるかもしれないし、身近な男性から嫌われるかもしれない。女性がジェンダーの話をすると「ワガママを言っている」と言われがちですが、本当は逆で、いろんな恐怖に耐えて言っているので、雨宮さんはすごいと思います。男性の私がジェンダーに関して本を出すのは簡単なんですよ(笑)。

雨宮 そんなことはないです! まず、男性のジェンダー論自体をなかなか聞き出せないですよね。

平山 私が『介護する息子たち 男性性の死角とケアのジェンダー分析』(勁草書房)を書いたとき、男性からは反応が薄かったんです。多分、「痛っ!」って思っているんだけど、言い返さない。黙らせたからOKとは思っていないのですが、少なくとも「男のほうがつらいんだ」と反論されにくいのだとしたら、どんどん男性のほうがジェンダーに関して言わないといけないところがあります。

 でも、これは私も気をつけようと思っているのですが、男性である自分の声のほうが通りやすいから、“救世主”のような気分になってしまう、はた迷惑な男フェミニストも一部います。

雨宮 はた迷惑な男フェミニストでヒロイズムに燃え上がっちゃっている人って、一番厄介かもしれないですね。

平山 ヒロイズムに燃える男フェミニストは、結局“男性がいないとダメな世の中”にせずにはいられない、フェミニストぶった家父長制みたいな感じですよね。理想は「いてもいなくてもどっちでもいい男」だと思います。昔は生存戦略として結婚が必要でしたが、今はうっとうしい男が増えてきて、女性がのびのび生きようとするのを邪魔する。結局、生存戦略的にはいなきゃいけないか、いてくれないほうがむしろ生きやすいか、その両極しかありません。だから、男が「いてもいなくてもい」になって初めて、女性と男性は自由な関係をつくれる。

雨宮 自分の親世代までは、配偶者がいないとなかなか生活ができませんでしたが、「いてもいなくてもどっちでもいい男」を実現するためには、まずは女性が自立できる社会が整っているということですよね。そしたらいつでも別れられますし、シングルマザー=貧困でなくなります。一番いい男は、女性の人生を邪魔しない人ですよね。
(姫野桂)

雨宮処凛(あまみや・かりん)
1975年生まれ。作家、活動家。バンギャル、右翼活動を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』(筑摩書房)でデビュー。自身の経験から、若者の生きづらさについて著作を発表する傍ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ねる。その後、格差や貧困問題について取材、執筆、運動を続ける。『生きさせろ!難民化する若者たち』(同)はJCJ賞受賞。反貧困ネットワーク世話人。著書に『非正規・単身・アラフォー女性 「失われた世代」の絶望と希望』(光文社新書)など多数。

平山亮(ひらやま・りょう)
1979年生まれ。東京大学文学部、同大学大学院人文社会系研究科修士課程を経て、オレゴン州立大学大学院博士課程修了。専門は社会学、ジェンダー論。東京都健康長寿医療センター研究所、福祉と生活ケア研究チーム研究員。現在は中高齢期の親子関係と高齢者介護をテーマに、男性とケア/男性のケアの問題を研究中。主な著書に『迫りくる「息子介護」の時代 28人の現場から』(共著・光文社新書)、『きょうだいリスク』(共著・朝日新書)。

『風俗嬢さんのための護身術講座』に学ぶ、女性が指1本で身を守る方法

 女性のなかで「怖い思いをしたことがない」という人は、ほとんどいないのではないか。暗い夜道で、人のいない路地で、混み合った電車内で、身の危険を感じたことはあっても、どうやったら自分の身を守れるのかわからない。なにしろ男性は総じて自分たちより体格がよく、力も強い。到底、かなうとは思えない……。

「たしかに真っ向勝負すれば、男性には勝てませんよね。圧倒的な体力差があります。でも身長155cmの私のような小柄な女性でも、指1本で身を守ることはできるんです!」

とお話ししてくれたのは、おりえ先生。2014年に硬式空手日本女子チャンピオンに輝き、現在は日本唯一の女性護身術師として女性や子どもに自分の身を守るためのノウハウを教えている。

 この日は「日本風俗女子サポート協会」が開催した『風俗嬢さんのための護身術講座』に登壇。同協会の代表・あや乃さんによると、派遣型の風俗が主流となり、見知らぬ男性とホテルの部屋でふたりきりになる女性たちは、危険な場面に出くわすことも多いそう。もちろん大半の男性は紳士的に、そして楽しくサービスを受けてくれるが、力ずくで女性を思い通りにしようとする男性もいる。スタッフに助けを求めても、すぐには駆けつけられないーーそんなときに、どうやって身を守ればいいのか?

 これは多くの女性にとって他人事ではない。暴漢に遭ったとき、私たちが取るべき行動とは? 女性に自衛を求めるばかりの社会はあってはならないが、自分を守るのは自分しかいないというシチュエーションは誰にでも起こりうる。

「急に危険な場面に身を置かれると、人は凍りつき、動けなくなります。でも、そんなときこそ自分が危険にさらされている状況を認識し、『何がなんでも逃げる!』という強い意志を持ってください。でも、実はこれが意外と難しいんです。襲ってくる相手は、女性の心を徹底的に折ろうとしますから。自分の目的を達成するためなら、何だってする人間なんです。そんな相手から自分は絶対に逃げると強く思うことが大事です」(おりえ先生)

 しかし、逃げようにも、体を羽交い締めにされて身動きが取れなくなっているかもしれない。声を上げようにも、口をふさがれているかもしれない。

「そのままどこかに引きずり込まれたり、車に押し込まれたりする前に、まず、どこでもいいので全力でかんでください! かむ力というのは女性でも案外、強いものです。もう相手の肉をかみちぎるぐらいの勢いで、全力を歯に注ぐのです。もしくは、手が自由になるなら、相手の“指1本”を狙います。拘束されているときに手首をつかんではがそうとしても、力の差があり難しい……。でも、指1本なら、なんとかつかめることがあります。手の甲側にぐいっと、折れてしまうかもしれないぐらいに引き倒しましょう。かむにしろ指を狙うにしろ、ダメージを与えれば相手の心が一瞬折れます。その隙をついて、全身全霊を傾けて逃げてください!」(同)

 体格のいい男性の全身をどうこうすることは、女性には難しい。しかし、全力でかむぐらいなら、指1本を狙うぐらいなら、自分にもできそうな気がする。

 このように、おりえ先生が提唱する護身術は、自身のルーツである空手をベースとしながらも少ないステップで構成されているため、イメージトレーニングしておけば、その場では頭を使わずとも動けそうなものばかり。講座でレクチャーされた護身術の一部を紹介する。

●腕を片手でつかまれたとき

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 男性が引き寄せようとする力を利用して、つかまれている腕と反対側の脚を大きく男性の体側に踏み込む。同時に、自分の空いている腕を勢いよく突き出す。そのとき、手のひらと手首のあいだの硬い部分で、男性の顔を狙う。急所であるアゴや鼻の部分に当たればベストだが、場所にこだわるよりヒットさせることが大事。

●腕を両手でつかまれたとき

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 おりえ先生が「パックンチョ」と名づけたワザ。空いている方の手をつかまれている手に重ね、互いに強く握り合う。両腕に力を込め、ぐいっと胸に引き寄せる。男性の力が強くても、無理やり引きはがすように!

●後ろから羽交い締めにされたとき

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 片足をひざから後ろに曲げ、自分の足裏を相手の膝下あたりに当て、足首にかけて一気にこすり下ろす。ここはまさに「弁慶の泣きどころ」。男性に強い痛みが走る。

●バッグを奪われそうになったとき

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 引っ張り合いになったら、基本的には手を離してバッグより身の安全を優先する。だが、どうしても奪われたくないときは、強く引っ張り合いながら、勢いよくしゃがむ! そして相手がバッグから手を離した瞬間に逃げる。

 いずれも相手に一瞬の隙を作らせ、その間に逃げるための“術”である。これを知っているだけで、いざというときに命を守れる可能性がぐっと上がる。

 最後に、おりえ先生から「ふだんの帰り道」に実践してほしい護身術を教えてもらった。

「最寄り駅に着いたら、キーホルダーをバッグから出して、手でぎゅっと握ってください。指と指のあいだからカギの先端がにょきっと顔を出すように。これでいざ襲われたとき、腕を振り回すだけで相手にカギが当たります。大きなダメージにはならないかもしれませんが、相手が驚いている間に逃げられます。また、夜道を後ろからつけられているとき、カギを手に持っていれば、自宅にたどり着いたとき、すみやかに解錠して中に入れるメリットもあります。でも追いつかれそうな場合は、そのまま押し入られる可能性もあるので、自宅には入らないようにしましょうね。近くの警察などに助けを求めてください」

goshinjutsu9

 特別なテクニックも、力もいらない。だけど最悪の事態を防げるかもしれない。習慣として身につけておきたい。
(三浦ゆえ)

・おりえ先生公式サイト「女性護身術と空手エクササイズ

『風俗嬢さんのための護身術講座』に学ぶ、女性が指1本で身を守る方法

 女性のなかで「怖い思いをしたことがない」という人は、ほとんどいないのではないか。暗い夜道で、人のいない路地で、混み合った電車内で、身の危険を感じたことはあっても、どうやったら自分の身を守れるのかわからない。なにしろ男性は総じて自分たちより体格がよく、力も強い。到底、かなうとは思えない……。

「たしかに真っ向勝負すれば、男性には勝てませんよね。圧倒的な体力差があります。でも身長155cmの私のような小柄な女性でも、指1本で身を守ることはできるんです!」

とお話ししてくれたのは、おりえ先生。2014年に硬式空手日本女子チャンピオンに輝き、現在は日本唯一の女性護身術師として女性や子どもに自分の身を守るためのノウハウを教えている。

 この日は「日本風俗女子サポート協会」が開催した『風俗嬢さんのための護身術講座』に登壇。同協会の代表・あや乃さんによると、派遣型の風俗が主流となり、見知らぬ男性とホテルの部屋でふたりきりになる女性たちは、危険な場面に出くわすことも多いそう。もちろん大半の男性は紳士的に、そして楽しくサービスを受けてくれるが、力ずくで女性を思い通りにしようとする男性もいる。スタッフに助けを求めても、すぐには駆けつけられないーーそんなときに、どうやって身を守ればいいのか?

 これは多くの女性にとって他人事ではない。暴漢に遭ったとき、私たちが取るべき行動とは? 女性に自衛を求めるばかりの社会はあってはならないが、自分を守るのは自分しかいないというシチュエーションは誰にでも起こりうる。

「急に危険な場面に身を置かれると、人は凍りつき、動けなくなります。でも、そんなときこそ自分が危険にさらされている状況を認識し、『何がなんでも逃げる!』という強い意志を持ってください。でも、実はこれが意外と難しいんです。襲ってくる相手は、女性の心を徹底的に折ろうとしますから。自分の目的を達成するためなら、何だってする人間なんです。そんな相手から自分は絶対に逃げると強く思うことが大事です」(おりえ先生)

 しかし、逃げようにも、体を羽交い締めにされて身動きが取れなくなっているかもしれない。声を上げようにも、口をふさがれているかもしれない。

「そのままどこかに引きずり込まれたり、車に押し込まれたりする前に、まず、どこでもいいので全力でかんでください! かむ力というのは女性でも案外、強いものです。もう相手の肉をかみちぎるぐらいの勢いで、全力を歯に注ぐのです。もしくは、手が自由になるなら、相手の“指1本”を狙います。拘束されているときに手首をつかんではがそうとしても、力の差があり難しい……。でも、指1本なら、なんとかつかめることがあります。手の甲側にぐいっと、折れてしまうかもしれないぐらいに引き倒しましょう。かむにしろ指を狙うにしろ、ダメージを与えれば相手の心が一瞬折れます。その隙をついて、全身全霊を傾けて逃げてください!」(同)

 体格のいい男性の全身をどうこうすることは、女性には難しい。しかし、全力でかむぐらいなら、指1本を狙うぐらいなら、自分にもできそうな気がする。

 このように、おりえ先生が提唱する護身術は、自身のルーツである空手をベースとしながらも少ないステップで構成されているため、イメージトレーニングしておけば、その場では頭を使わずとも動けそうなものばかり。講座でレクチャーされた護身術の一部を紹介する。

●腕を片手でつかまれたとき

OLYMPUS DIGITAL CAMERAOLYMPUS DIGITAL CAMERA

 男性が引き寄せようとする力を利用して、つかまれている腕と反対側の脚を大きく男性の体側に踏み込む。同時に、自分の空いている腕を勢いよく突き出す。そのとき、手のひらと手首のあいだの硬い部分で、男性の顔を狙う。急所であるアゴや鼻の部分に当たればベストだが、場所にこだわるよりヒットさせることが大事。

●腕を両手でつかまれたとき

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 おりえ先生が「パックンチョ」と名づけたワザ。空いている方の手をつかまれている手に重ね、互いに強く握り合う。両腕に力を込め、ぐいっと胸に引き寄せる。男性の力が強くても、無理やり引きはがすように!

●後ろから羽交い締めにされたとき

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 片足をひざから後ろに曲げ、自分の足裏を相手の膝下あたりに当て、足首にかけて一気にこすり下ろす。ここはまさに「弁慶の泣きどころ」。男性に強い痛みが走る。

●バッグを奪われそうになったとき

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 引っ張り合いになったら、基本的には手を離してバッグより身の安全を優先する。だが、どうしても奪われたくないときは、強く引っ張り合いながら、勢いよくしゃがむ! そして相手がバッグから手を離した瞬間に逃げる。

 いずれも相手に一瞬の隙を作らせ、その間に逃げるための“術”である。これを知っているだけで、いざというときに命を守れる可能性がぐっと上がる。

 最後に、おりえ先生から「ふだんの帰り道」に実践してほしい護身術を教えてもらった。

「最寄り駅に着いたら、キーホルダーをバッグから出して、手でぎゅっと握ってください。指と指のあいだからカギの先端がにょきっと顔を出すように。これでいざ襲われたとき、腕を振り回すだけで相手にカギが当たります。大きなダメージにはならないかもしれませんが、相手が驚いている間に逃げられます。また、夜道を後ろからつけられているとき、カギを手に持っていれば、自宅にたどり着いたとき、すみやかに解錠して中に入れるメリットもあります。でも追いつかれそうな場合は、そのまま押し入られる可能性もあるので、自宅には入らないようにしましょうね。近くの警察などに助けを求めてください」

goshinjutsu9

 特別なテクニックも、力もいらない。だけど最悪の事態を防げるかもしれない。習慣として身につけておきたい。
(三浦ゆえ)

・おりえ先生公式サイト「女性護身術と空手エクササイズ

性犯罪者は生きるために再犯するーー厳罰化で被害者は減るのか?

 明治時代から110年間、変わらずにきた刑法がようやく「性被害の実態に即していない」という理由で見直される。現在、刑法の性犯罪規定部分に対する改正案が国会で審議されるのを待っている状況だ。強姦が「強制性交等罪」と改められる、対象が男性にも広がる、「非親告罪化」によって被害者からの告訴がなくとも起訴できるなどに加え、「厳罰化」も論点にあがっている。これまでは強姦罪における法定刑の下限は、懲役3年だった。改正案では5年に引き上げられている。これは、殺人罪の下限と同じ年数である。

 5月某日、性犯罪を題材とした映画『SCOPE』が東京・榎本クリニックで上映された。舞台となる近未来の日本では、刑期を終えて社会に出た性犯罪者を徹底的に監視するための「SCOPE(スコープ)法」が施行されている。主人公の篤夫は集団暴行の罪で逮捕され、6年間の服役を終えて刑務所を出所したものの、家族から拒否され、ひとり仕事を探す。離島の工場で働き始め、いったんは居場所を得たかと思ったが……。

 2010年に公開された映画だが、「厳罰化」について非常に多くの問いを投げかけているため、法律が変わりつつあるいま、改めて見られるべき作品である。

 上映後、同作の監督・卜部(うらべ)敦史さん、刑事訴訟法を専門とする白鷗大学法学部教授の平山真理さん、榎本クリニックに所属する精神保健福祉士、社会福祉士として、“社会の中での性犯罪加害者更生プログラム”に取り組む斉藤章佳さんの3名によるトークショーが行われた。その模様を一部抜粋してお届けする。

■社会の中で出所者を監視する法律は、アメリカや韓国にある

卜部 僕はもともとテレビで報道番組の制作に携わっていたのですが、事件報道は被害者にフォーカスすることが多い一方で、加害者の“その後”が取り上げられることはほとんどないと気づきました。彼らは出所後どう生きているのか? と考え始めたのと同時期に、日本でも性犯罪者監視法の導入が検討されていると知ったんです。社会からの監視はひとつのペナルティになるので、出所後の人にそれを科すのは“二重刑罰”にもなります。それが性犯罪者に“だけ“与えられるとしたら、どういう意味があるのだろう? 罪の意識を抱えながら生きている人たちを社会はどう受け入れていくのだろう……? 『SCOPE』は7年前に作った映画ですが、いまでも現在進行形で関心を持っているテーマです。

平山 とても挑戦的な映画ですよね。社会の中で出所者を監視する法律はアメリカのメーガン法がありますし、韓国では足首にGPSを装着させ、彼らの居場所が常に把握されています。もしSCOPE法が現実のものとなったら日本はどうなってしまうのか……と想像しながら見ました。また、主人公の篤夫が被害女性の父親に謝罪をしにいく場面がありますね。被害者と加害者が対話することで理解し合う“修復的司法”はいま各国で注目されています。ただ、それらの国でも、性犯罪事件にこれを適用するのは難しい、という意見が多いです。

斉藤 私も謝罪の場面に、考えさせられるところが多くありました。以前ある講演会で、お子さんを交通事故で亡くして、現在は被害者支援の活動をしている男性に、「加害者に、どんな謝罪をしてほしいですか?」と尋ねたことがあります。そこで返ってきた「謝罪はいらない。彼らにいずれ大切な人ができたら、自分が他人からどれだけ大切なものを奪ったのか、気づくことになりますから」という答えが思い出されました。

 主人公の篤夫は、孤立している。右手の甲にはSCOPE法対象者であることを示す数字の刻印があり、それを悟られないよう、常に人との間に距離を置いている。

斉藤 孤立も、この映画の大きなテーマですよね。身柄引受人がいないところを見ると、篤夫はおそらく満期で出所しています。家族から受け入れられず、過去を隠しているため誰ともつながりが持てず、仕事もなく、SCOPE法にがんじがらめにされながら、どんどん社会から排除されていく……。

平山 刑法が改正されれば、強姦罪改め強制性交等罪の法定刑は、懲役5~20年になります。厳罰化は、「性犯罪を許さない」と社会全体にメッセージを発信していくことでもあるので、それ自体は評価できます。が、刑期が長くなると、その分、社会と隔絶している時間も長くなり、出所後に孤立しやすくなります。社会の中で彼らをどう扱っていくか、つまり“社会内処遇”にどうつなげるかを、同時に考えなければいけませんよね。

斉藤 同じ犯罪を何度も重ねている人ほど、孤立したとき、それまでに慣れ親しんできた犯罪に再び手を染めてしまう傾向があります。窃盗なら窃盗、性犯罪なら性犯罪。決して許されないことですが、これは彼らとしては“生きるため”の手段です。それをすれば刑務所に戻れますから。言うまでもありませんが、性犯罪の再犯とは、新たな被害者を生むということです。それを防ぐためにも、平山先生がおっしゃった社会内処遇の枠組みの中で、継続した治療が不可欠です。

卜部 受け皿が何もないまま刑罰だけを重くすることについては、もっと議論が必要ですね。人は誰しもひとりでは生きていけなくて、社会も彼らに関わっていかなければならないーーということが、もっと広く知られてほしいです。

 会場からは、児童への、特に家庭内での性暴力についての質問が寄せられた。篤夫のように刑に処せられることもないどころか、この場合の加害者の多くは、加害者としての自覚もなく、のうのうと生きている。社会は、彼らをどうしていくべきか?

平山 今回の刑法改正案では、監護者、つまり18歳未満の子どもと生活を共にしたり、その身の回りの世話をする者が、その子にわいせつ行為や性交をした場合、そこに暴行や脅迫がなくとも、性暴力と見なし、罰することも盛り込まれています。けれど改正されたとしても、子どもが大人を加害者として突き出すのはハードルが高すぎますよね。子どもたちが被害を相談しやすい体制づくりを急ぐ必要があります。

卜部 自覚していない人に自覚させ、反省していない人に反省させるというのは、非常に難しいですよね。篤夫はある出来事を機に自分で気づいて、反省し、謝罪をしました。人から無理やり自覚させられたり、反省を強制されたりしても、それは真の自覚や反省にならないように僕は思います。

斉藤 私たちがまず家庭内性虐待加害者の実態を知ることが、発生そのものを減らすことにつながると思います。これは性暴力全般にもいえることで、昨今は以前よりもその実態が社会で知られるようになってきましたが、それでもまだまだモンスター的な存在として描かれるなど、ゆがんだ加害者像が根強いと感じています。これでは加害者は社会の目をすり抜け、野放しになってしまいます。彼らのリアルを広く伝えていくことが、私たちの役目ですね。

 加害者の実態を知らないことは、加害行為を見逃すことにつながる。それは加害者にとって都合のいい社会にほかならない。さらには、一度罰を受けて社会に出てきた加害者に二度と罪を犯させないようにするには、どうすればいいのか? 仮にSCOPE法のような矛盾を孕んだ刑罰が将来検討されるとして、本当にそれが再犯防止につながるのか……? 映画『SCOPE』が投げかける問いは、重い。
(三浦ゆえ)

性犯罪者は生きるために再犯するーー厳罰化で被害者は減るのか?

 明治時代から110年間、変わらずにきた刑法がようやく「性被害の実態に即していない」という理由で見直される。現在、刑法の性犯罪規定部分に対する改正案が国会で審議されるのを待っている状況だ。強姦が「強制性交等罪」と改められる、対象が男性にも広がる、「非親告罪化」によって被害者からの告訴がなくとも起訴できるなどに加え、「厳罰化」も論点にあがっている。これまでは強姦罪における法定刑の下限は、懲役3年だった。改正案では5年に引き上げられている。これは、殺人罪の下限と同じ年数である。

 5月某日、性犯罪を題材とした映画『SCOPE』が東京・榎本クリニックで上映された。舞台となる近未来の日本では、刑期を終えて社会に出た性犯罪者を徹底的に監視するための「SCOPE(スコープ)法」が施行されている。主人公の篤夫は集団暴行の罪で逮捕され、6年間の服役を終えて刑務所を出所したものの、家族から拒否され、ひとり仕事を探す。離島の工場で働き始め、いったんは居場所を得たかと思ったが……。

 2010年に公開された映画だが、「厳罰化」について非常に多くの問いを投げかけているため、法律が変わりつつあるいま、改めて見られるべき作品である。

 上映後、同作の監督・卜部(うらべ)敦史さん、刑事訴訟法を専門とする白鷗大学法学部教授の平山真理さん、榎本クリニックに所属する精神保健福祉士、社会福祉士として、“社会の中での性犯罪加害者更生プログラム”に取り組む斉藤章佳さんの3名によるトークショーが行われた。その模様を一部抜粋してお届けする。

■社会の中で出所者を監視する法律は、アメリカや韓国にある

卜部 僕はもともとテレビで報道番組の制作に携わっていたのですが、事件報道は被害者にフォーカスすることが多い一方で、加害者の“その後”が取り上げられることはほとんどないと気づきました。彼らは出所後どう生きているのか? と考え始めたのと同時期に、日本でも性犯罪者監視法の導入が検討されていると知ったんです。社会からの監視はひとつのペナルティになるので、出所後の人にそれを科すのは“二重刑罰”にもなります。それが性犯罪者に“だけ“与えられるとしたら、どういう意味があるのだろう? 罪の意識を抱えながら生きている人たちを社会はどう受け入れていくのだろう……? 『SCOPE』は7年前に作った映画ですが、いまでも現在進行形で関心を持っているテーマです。

平山 とても挑戦的な映画ですよね。社会の中で出所者を監視する法律はアメリカのメーガン法がありますし、韓国では足首にGPSを装着させ、彼らの居場所が常に把握されています。もしSCOPE法が現実のものとなったら日本はどうなってしまうのか……と想像しながら見ました。また、主人公の篤夫が被害女性の父親に謝罪をしにいく場面がありますね。被害者と加害者が対話することで理解し合う“修復的司法”はいま各国で注目されています。ただ、それらの国でも、性犯罪事件にこれを適用するのは難しい、という意見が多いです。

斉藤 私も謝罪の場面に、考えさせられるところが多くありました。以前ある講演会で、お子さんを交通事故で亡くして、現在は被害者支援の活動をしている男性に、「加害者に、どんな謝罪をしてほしいですか?」と尋ねたことがあります。そこで返ってきた「謝罪はいらない。彼らにいずれ大切な人ができたら、自分が他人からどれだけ大切なものを奪ったのか、気づくことになりますから」という答えが思い出されました。

 主人公の篤夫は、孤立している。右手の甲にはSCOPE法対象者であることを示す数字の刻印があり、それを悟られないよう、常に人との間に距離を置いている。

斉藤 孤立も、この映画の大きなテーマですよね。身柄引受人がいないところを見ると、篤夫はおそらく満期で出所しています。家族から受け入れられず、過去を隠しているため誰ともつながりが持てず、仕事もなく、SCOPE法にがんじがらめにされながら、どんどん社会から排除されていく……。

平山 刑法が改正されれば、強姦罪改め強制性交等罪の法定刑は、懲役5~20年になります。厳罰化は、「性犯罪を許さない」と社会全体にメッセージを発信していくことでもあるので、それ自体は評価できます。が、刑期が長くなると、その分、社会と隔絶している時間も長くなり、出所後に孤立しやすくなります。社会の中で彼らをどう扱っていくか、つまり“社会内処遇”にどうつなげるかを、同時に考えなければいけませんよね。

斉藤 同じ犯罪を何度も重ねている人ほど、孤立したとき、それまでに慣れ親しんできた犯罪に再び手を染めてしまう傾向があります。窃盗なら窃盗、性犯罪なら性犯罪。決して許されないことですが、これは彼らとしては“生きるため”の手段です。それをすれば刑務所に戻れますから。言うまでもありませんが、性犯罪の再犯とは、新たな被害者を生むということです。それを防ぐためにも、平山先生がおっしゃった社会内処遇の枠組みの中で、継続した治療が不可欠です。

卜部 受け皿が何もないまま刑罰だけを重くすることについては、もっと議論が必要ですね。人は誰しもひとりでは生きていけなくて、社会も彼らに関わっていかなければならないーーということが、もっと広く知られてほしいです。

 会場からは、児童への、特に家庭内での性暴力についての質問が寄せられた。篤夫のように刑に処せられることもないどころか、この場合の加害者の多くは、加害者としての自覚もなく、のうのうと生きている。社会は、彼らをどうしていくべきか?

平山 今回の刑法改正案では、監護者、つまり18歳未満の子どもと生活を共にしたり、その身の回りの世話をする者が、その子にわいせつ行為や性交をした場合、そこに暴行や脅迫がなくとも、性暴力と見なし、罰することも盛り込まれています。けれど改正されたとしても、子どもが大人を加害者として突き出すのはハードルが高すぎますよね。子どもたちが被害を相談しやすい体制づくりを急ぐ必要があります。

卜部 自覚していない人に自覚させ、反省していない人に反省させるというのは、非常に難しいですよね。篤夫はある出来事を機に自分で気づいて、反省し、謝罪をしました。人から無理やり自覚させられたり、反省を強制されたりしても、それは真の自覚や反省にならないように僕は思います。

斉藤 私たちがまず家庭内性虐待加害者の実態を知ることが、発生そのものを減らすことにつながると思います。これは性暴力全般にもいえることで、昨今は以前よりもその実態が社会で知られるようになってきましたが、それでもまだまだモンスター的な存在として描かれるなど、ゆがんだ加害者像が根強いと感じています。これでは加害者は社会の目をすり抜け、野放しになってしまいます。彼らのリアルを広く伝えていくことが、私たちの役目ですね。

 加害者の実態を知らないことは、加害行為を見逃すことにつながる。それは加害者にとって都合のいい社会にほかならない。さらには、一度罰を受けて社会に出てきた加害者に二度と罪を犯させないようにするには、どうすればいいのか? 仮にSCOPE法のような矛盾を孕んだ刑罰が将来検討されるとして、本当にそれが再犯防止につながるのか……? 映画『SCOPE』が投げかける問いは、重い。
(三浦ゆえ)

「性被害は被災と同じくらい大変なこと」被害者支援の立場から見た、性暴力を取り巻く社会の現状

 3月7日、政府は性犯罪の処罰のあり方を110年ぶりに見直し、厳罰化する刑法改正案を閣議決定した。この法案が通れば、男女とも性被害者として認められ、告訴なしで立件できるようになる。『13歳、「私」をなくした私 性暴力と生きることのリアル』(朝日新聞出版)を上梓した山本潤さんは、13歳の頃から実の父親から性暴力を受けていた被害者で、現在は性暴力被害者を支援する活動を行っている。今回の刑法改正で性被害の実情がどう変わるのか、山本さんに話を聞いた。

■性被害からの回復は、人との間で本来の自分を取り戻していくこと

――山本さんは著書の中で、大変つらい経験を乗り越えたことを書かれています。そのような経験を書くという作業は大変だったと思いますが、出版に至った経緯を教えてください。

山本潤さん(以下、山本) 昨年の2月1日に朝日新聞の“ひと”欄に『被害者から見た刑法についての発言をしている「性暴力と刑法を考える当事者の会」の活動をしている山本潤さん』ということで掲載されました。それを朝日新聞出版の編集者さんが見てくれていて。私は各地で講演をしているのですが、熊本の「国民のつどい」で講演をした講演録をネットで読んでくださり、「この内容を深めて本にできると思います」と、お話をいただいて、書くことにしました。

――書いている最中、性被害のフラッシュバックなどは起こりませんでしたか?

山本 思い起こしながら書くので、当時は遮断していたような感覚を取り戻して、深く味わうような感じです。だから、ずっとセラピーを受けながら執筆していました。セラピストさんと一緒に「これはどういうことなのだろうか」と探求しながら書きました。

――分析をしながら書くことによって、回復につながるような効果があったのでしょうか?

山本 私の場合は、「なぜそうなるのか」を自分が知りたいということがあったように思います。私は看護師として働いているので、患者さんの尿の入った尿瓶を扱う業務がありました。その際に尿を飲みたいという思いに襲われたんです。尿を飲みたいだなんて明らかにおかしい話ですし、自分でもなぜかがわからない。でも、あまり考えると、また(心の)傷口から血が吹き出して動揺するので、あまり考えないようにしていたのですが、書かざるを得なくなったので、セラピストさんと掘り起こしてみたら、「ああ、そういうことか」と自分でも納得ができたというか……。必ずしも書くことが必要なわけではなく、感覚的なものなので、被害で受けた傷を言葉にして整理するのはすごく難しいことでもあります。

――回復の方法は人によって違うのですか?

山本 はい。その人の置かれている状況によっても違うし、その人の行動によっても違うと思うのですが、基本的には、人を信頼できるようになるということがすごく大事です。そして、自分自身にも力があると信じられるようになることも大事。やはり、人との間で本来の自分を取り戻していくことですね。だから、セラピストさんを信頼できるかどうかもとても重要です。

――中には相性の合わないセラピストさんもいるということですか?

山本 そうですね。セラピストさんを探すのもすごく大変です。自分に合うセラピストさんをマッチングしてもらえるといいんですけど、なかなかそういうシステムもないので。でも、やはり良いセラピストさんと一緒だったら、“治療同盟”が結べるので、そこでいろいろなことを一緒に経験していくことができます。

――私自身、友人で性被害に遭った人がいるのですが、そういう人とどう接していけばいいのか悩みます。変に元気付けると傷をえぐるだけの場合もありますし……。

山本 やはり、責められたり「あなたが悪いんじゃないの?」と言われたりすることは、とても傷付きます。性被害のトラウマが大変だとわかる人はわかるのですが、“まったく大変と認めない人”や、“大変なんだろうけど、どうすればいいのかわからない人”がいます。

■“良い性的な関係”を築くためにはどうすればいいのか、わかっていない

――性被害を受けた人に言ってはいけない言葉はありますか?

山本 「そんな大変なことは忘れて、前を見ようよ!」と、被害者は言われがちなんですが、人は大きな被害を受けたとき、忘れることはできません。それは震災の被害に遭った方も同じですし、大切な人を殺されたり、大きな事故に遭ったりしたときも同じだと思います。同じくらい大変なんだよ、ということを想像しながら関わっていけばいいのではないかと思います。

――「忘れて前を見ようよ!」なんて、つい言ってしまいそうです。性被害者の心理に関する知識が広まるためには、どうしたらいいと思いますか?

山本 支援機関に携わっている人ならマストで知っていることなのですが、一般の人には広まっていないのが現状です。やはり、こうやって報道されることや、あとは教育をしていくことですね。

――教育は大事ですよね。キャンパスレイプも起こっていますし、特に若い世代は性暴力に関する知識があまりにもないのではと感じてしまいます。お酒で酔いつぶれた女性はOKサインだと思って性的暴行をした、という話も聞いたことがあります。

山本 そのあたりのことを学校はきちんと教えていません。アメリカだと、新入生に「性暴力対応トレーニング」を先輩が後輩に行うんです。何が同意で何が同意でないか、ということもそうだし、女性を酔いつぶしてレイプをしたら、それはもう犯罪なのだということ、そのような状況を見たらどう助けるのか、ということまで学びます。また、飲み物にクスリを入れられるケースもあるので、そういう具体的な手口も教えつつ、どうやって止めるのかもトレーニングで学ぶということをしています。

――日本にはそういった教育がありません。やはり、性暴力に関する法律が遅れていることも要因にあるのでしょうか?

山本 教育委員会や政治家の人たちの価値観によるものでしょう。市民が性暴力に関する現在の法律について、おかしいとわかってくれることが大事だと思います。そうすると、それが政治家を動かす力になるはずです。裁判員裁判だって、以前は司法の世界の昔ながらのやり方で、「強姦罪だったらこのくらいの刑」と下されていたものが、市民が入ることで、「こんなひどいことをされているんだから、その判決はおかしい!」というふうに、量刑が重くなったケースもあるので、市民感覚が反映されるのは重要だと思います。

 また、日本では性に関することはタブーになっていますが、その中でも性行動自体の内容は多岐にわたっています。セックスは本当に同意のある良い関係の人と行うと、健康寿命が伸びるというデータもありますし、悪いものではありません。そういう“良い性的な関係”を築くためにはどうすればいいのか、わかっていないから、ドラマやアダルトビデオ、漫画などから学んでDVが起こったりするのではないかと思います。

■“私たちの同意ガイドライン”を作っていきたい

――現在、性暴力に関する法律が変わろうとしています。法律が変わることによって、今後、社会はどう変わっていくと思いますか? また、性暴力の抑止になるとは思いますか?

山本 私の考えでは、暴行・脅迫要件が残るということは、性暴力=性犯罪にならないことだと思っています。ただ、今回の法改正で、男性も被害者と認められるようになりますし、今まで親告罪だったものも非親告罪になります。それは遅すぎたくらいで、法改正は当然のことです。あと、監護者(親など)による強制的な性交は犯罪であると認識されるようになることは、とても良いメッセージになるのではないかと思っています。

 ただ、どうしてこの暴行・脅迫要件は残るのかと考えると、抵抗したけど奪われてしまった場合でないとレイプと認められない、と考えられていることと根本は変わらないんじゃないかと思います。脅されたり殴られたり、刃物で刺されたり、そういうことがなくても、その人が同意していないのに性的なことをされること自体が暴力であり、そこで傷が発生するということを認識しなければ、まだ性暴力もキャンパスレイプも続くと思います。

――最後に、山本さんの今後の目標を教えてください。

山本 直近の目標は今行っている「ビリーブキャンペーン~刑法性犯罪改法プロジェクト~」の中で、性関係やパートナーシップにおける同意ガイドラインを作ることです。ロビイングに行くと、男性から「何が同意で何が同意じゃないのか、わからないから怖くて不安」という話を聞くことがあります。ワークショップをしながら1,000人くらいから意見を募り、何が同意で何が同意でないかの“私たちの同意ガイドライン”を作っていきたいです。例えば、セクハラにもセクハラガイドラインがあり、上司が「個人的に2人で会おう」と部下に言ったらアウトじゃないですか。

――そういう具体的な例を出さないと、なかなか理解が深まらないということですね。

山本 そう。そこで齟齬があったのなら、そこを共有することで、性暴力につながることもなくなっていくと思います。やはり、「同意なしに性的な行為をすることはおかしい」ということが広がっていくことが大事です。

――おかしいかどうかわからない状態だったら、何も変わらないとも言えますね。

山本 それもそうだし、今まで被害を受けたと声を挙げた人たちが「おかしな人」とか「かわいそうだけど騙されてバカな人」みたいな扱いを受けていたことが、なくなることも、とても大事ですね。そしてその時、性加害をした加害者を適切に処罰するなどの対応をして、「加害者に責任がある」という認識がしっかり広まるといいと思います。
(姫野ケイ)

山本潤(やまもと・じゅん)
1974年生まれ。看護師・保健師。「性暴力と刑法を考える当事者の会」代表。13歳から20歳までの7年間、父親から性暴力を受けていたサバイバー。性暴力被害者支援看護師(SANE)として、その養成にも携わる。性暴力被害者の支援者に向けた研修や、一般市民を対象とした講演活動も多数行う。

性暴力と刑法を考える当事者の会