家庭を持っている女性が、家庭の外で恋愛を楽しむ――いわゆる“婚外恋愛”。その渦中にいる女性たちは、なぜか絶対に“不倫”という言葉を使わない。どちらの呼び名にも大差はない。パートナーがいるのにほかの男とセックスする、それを仰々しく “婚外恋愛”と言わなくても、別に“不倫”でいいんじゃない? しかしそこには、相手との間柄をどうしても“恋愛”だと思いたい、彼女たちの強い願望があるのだろう。
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これまで、婚外恋愛をしている女性たちに話を聞いてきたが、一方で、夫に婚外恋愛を“されている”女性は、どんな心境にあるのだろうか。
婚外恋愛に走ると、男女問わず、普段とは異なる行動を取りがちだという。スマホをこまめにチェックしたり、外出が増えたりなど、配偶者の些細な行動の変化に不安を募らせている側の話を聞きたくなった。
今回お話を聞かせていただいた美和さん(仮名)に、「ご主人の変化には、敏感に気づくものなんですか?」と質問すると、彼女は静かに微笑み、こう言った。
「当たり前じゃないですか……気づきますよ。気づいたからこそ、泳がせたんです」
■夫の不倫相手は、同じ会社の独身女性
美和さんは、ネットスラングで「され妻」と呼ばれている、「夫に不倫を“された”妻」である。
2人の出会いは6年前。美和さんは派遣先の会社で今の夫と知り合った。
「その会社は、正社員と派遣社員の垣根が低い、アットホームな社風の会社でした。トレッキングやダーツなんかの社内サークルもたくさんあって、私はとあるスポーツ系のサークルで夫と親しくなりました」
当時の美和さんは30代手前、ご主人となる男性は年上の正社員であった。
「大学時代に知り合った彼氏と数年付き合って、『そろそろ結婚かな』というところで別れてしまって……30歳手前にして焦っていたところもあると思います。浅ましい表現ですが、どの男性だったら将来性があるだろうと品定めした時に、一番理想だったのが主人でした」
美和さんのご主人は営業職で、「社内では営業成績も人柄も良かった」という。地方出身の長男で兄弟思いのところがあり、スポーツマンで明るいところにも惹かれたそうだ。
サークル活動や飲み会などの機会があるたびに、美和さんは積極的にご主人にアプローチをし、交際に発展。2年弱の交際期間を経てゴールインした時には「舞い上がるほどうれしかった」という。
「私は、何も特筆できるものがないって自覚しているんです。見た目も普通、学歴も短大卒で、仕事もできる方じゃないし、そもそも好きじゃない……かといって趣味もありません。母に似たんだと思います。けれど母は20代の早いうちに結婚して子どもを産んで『専業主婦』という肩書を手に入れました」
女が人生を歩む時に、社会的に必須となるのが「肩書」なのかもしれない。悲しいかな現在の日本では、なんらかの夢や目標を持たずに1人で生きる女は、周囲に不審がられる場合が多い。美和さんのように「夢や目標はないけれど、たまたま1人」である女性は、周囲から「どうして結婚しないの?」といった無言の圧力を受けることもあるのだ。
「私も、母のように自分の落としどころがほしかったんです」
結婚を機にしばらくは休職していた美和さんだが、「自宅にいてもやることがなかったんで」という理由で、再び派遣社員として会社に復帰する。
ご主人の不倫に気づいたのは、結婚してから4年近くたった頃。相手は美和さんも知る、正社員である年上の独身女性であった。
「主人の浮気を知るきっかけになったのはLINEでした。主人がお風呂に入っている時にスマホのディスプレイを見て……IDが私も知っている名前だったので、すぐに気付きました。無関係な部署の彼女が、どうして頻繁に主人にメッセージを送ってくるんだろうって」
ご主人は、帰宅するとリビングにスマホを置いたままにしているそうだ。美和さんは無造作に置かれたスマホの画面に常に気を配り、ディスプレイが明るくなると新着情報をチェックし、彼女からのメッセージを確認すると証拠写真を撮り続けているという。
しかし現在のところ、決定打となる情報はなく、あくまでも美和さんの推測にしか過ぎない。ただ、彼女から、“地方のおいしい店”の情報がスマホに流れてくると、ご主人はその地方へ出張に行くという。さらに、外出も増え、帰宅時間も遅くなったそうだ。
美和さんは、そんなご主人の不審な行動を、毎日匿名のブログに綴り続けている。
「もしも『何かあった』時のための対策としてメモしています。でも、正直言って、主人は『やるな』と思いましたね……不倫相手にあの女を選ぶなんて、私を否定しているようなものですから」
美和さんが、ご主人と「不倫をしている」と疑っている女性は、年上のご主人よりも数歳上の管理職の女性だという。
「何もかも私よりスペックが上なんですよ。四大卒だし、仕事もできるし、肌も綺麗でオシャレだし、週末はちゃんと趣味に通っていて……主人と同等のスペックなんですよ。きっと私なんかよりも彼女といる方が、主人も楽しいんだと思いますよ」
美和さんは、今後もご主人の動向をチェックし、ブログにメモを残していくそうだ。
ある程度の情報を集めたところで離婚を考えているのだろうか? 筆者がそう尋ねると、美和さんは曖昧な表情をした。
「迷っています。私はどうしてこんなことをしているんだろうって……主人の不倫疑惑の情報を集めることが、今の私にとっては趣味なんだと思います。仮に決定的な情報を集めて、離婚を突きつけたとしたら、主人はあっさり承諾すると思いますよ。私よりも彼女の方が主人にはふさわしいと思いますから」
美和さんはそう言って寂しそうに笑っていた。できることであれば、一連の疑惑は美和さんの杞憂であればよいのだが、ご主人は美和さんをここまで追い詰めていることを知っているのだろうか。婚外恋愛をしている人たちにあらためて聞きたくなった。
(文・イラスト/いしいのりえ)