今は亡き某指定組織の三次団体幹部の妻だった、待田芳子姐さんが語る極妻の暮らし、ヤクザの実態――。
夏といえば怪談ですね。実は、不良にはスピリチュアル好きが多いです。「御朱印集め」がブームになる前からみんな集めてましたし、怪談や占いも好きですね。大きなパワーストーンのブレスレットは、ヤクザファッションの定番でもあります。
また、幽霊など縁起の悪いデザインの刺青も魔除けとして人気があります。角界の「オシャレ番長」こと石浦関の着物も生首と幽霊の柄で話題ですが、デザインはやはり彫師さんだそうです。
切った張ったの世界で生きているので、縁起を担ぐ気持ちはわかりますね。そういえば、オットの組の若い衆たちも、心霊スポットなどにとっても詳しかったです。以前はよく「姐さん、○○ホテルの○階は出ますから、泊まっちゃダメですよ」とか教えてもらっていました。
■組事務所で「殺し」は(多分)ありません
殺人や自殺、火事のあった建物で「出る」というウワサは、まあありがちですよね。でも、「○○組の事務所に出る」となると、お聞きになったことのある方は少ないのではないでしょうか。これが実は結構あるんです。
もともとみんな怖い話が好きですから、「○○事務所の廊下に白い人影がうずくまってる」とか、「入り口にいつも半透明の中年の男が立っている」とかいうウワサはよくありました。そうなると、必然的に「あそこの親分、やっぱり殺(や)ってるんだなあ」とか話題になります。でも、指定団体の事務所のことは警察が常に把握していますから、そこで殺人はまず起こらないと思うんですよ。
そもそもヤクザの事件は目立つだけで、実際にはそうそう殺人は起こりません。ヤクザはカッとなって殴ったり蹴ったりすることはあっても(これもよくないですけど)、殺してしまったら自分も長い懲役に行かなくてはならないし、場合によっては親分にも殺人教唆の嫌疑がかかり、「使用者責任」も追及されますので、そういうことは計算しているはずです。だから、事務所に出る幽霊さんはおおむね「ヤクザに殺された人」ではないと思います。
■オッサンがオイオイ泣いている声が聞こえる
例えば、某事務所には「刑事も怖がって行かない」というウワサがありました。刑事さんが「あの事務所は怖い」と言っているのを聞いた、とオットも生前に言っていました。目撃者によると、トイレ脇の洗面台のところに女性、キッチンに小さな子どもの霊がいるそうです。さらに午前零時をまわるとラップ音が鳴り、買ったばかりの家電がしょっちゅう壊れるなどの実害も続出だったとか。
それで、若い衆から相談された姐さんが「拝み屋さん」(祈祷師)に見てもらったら、なんと「江戸時代からいる古い霊で、女性と子どもは(事務所とは)無関係らしい」と言われたそうです。近くに川があって、そこから来たのだとか。ヤクザが珍しかったんでしょうか。
そこはもうないんですけど、「あの事務所はデボチン(刑事)も怖がって来ないから、シャブ(覚醒剤)や道具(拳銃)を預かってもらおう」とオットたちがよくふざけて言っていました。
もう1つすごいのは、「泣きを入れるオッサン」が出る事務所です。これは、ある古い雑居ビルの一室を事務所にしていた組の若い衆から聞きました。明け方になると、「オレはまだ死にたくなかったのに……」と、オッサンがオイオイ泣いている声が聞こえるのだそうです。
組員たちはまったく心当たりがないので調べてみると、その組が借りるずっと前にカタギさん同士の殺人があった物件でした。「どうりで間取りの割に安いと思いました。30年くらい前の事件でしたから、不動産屋の告知義務もなかったみたいです」と若い衆。私が聞いた時にはもう笑い話になっていましたが、そのビルは解体されたそうですよ。幽霊さんたちはどこへ行くんでしょうね。南無阿弥陀仏。
■殺した相手が夢枕に……
以前のヤクザなら年がら年中、むやみに人を殺しているイメージかもしれませんが、実際には昔も今もそんなことはありません。「組織として仕方なく」という場合が多いです。それでも、罪悪感はあるようで、殺した相手が夢枕に立ったという話を以前はよく聞きました。それで自首した例もあります。
でも、懲役に行っていたオットの若い衆は、「むしろカタギさんのほうが、サバサバしていて怖かったです」と苦笑していました。この若い衆と同じ施設にいた政治運動家さんは殺人犯で、「だって、(殺人も)組織のためですから」とまったく悪びれず、どうやって殺したかを笑いながら具体的に話していたそうです。
まあ、私が女性だから若い衆たちも気を許して話してくれるのでしょうが、幽霊よりもヤクザよりも、その運動家さんのほうが怖いなあと思ってしまいました。

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