映画やTVドラマでよく見るおじさん俳優の素顔!! 川瀬陽太は演技だけでなく、トークも味わい深い

 俳優が売れるか売れないかは、大きな事務所に所属しているかどうか次第。長い間、ずっとそう思っていた。だが、そんな固定概念はひとりの男によって砕かれた。川瀬陽太、49歳。フリーランスの俳優だ。ピンク映画やインディーズ映画で活躍し、近年は『64 ロクヨン』『シン・ゴジラ』(16)などのメジャー映画、テレビドラマ『anone』(日本テレビ系)や『この世界の片隅に』(TBS系)にも出演。味のある個性派俳優として評価される一方、ここに来て主演&メインキャストを務めた新作映画が続々と公開されている。2月に公開された主演映画『おっさんのケーフェイ』に続き、大阪・釜ヶ崎でロケを行なった16ミリフィルム作品『月夜釜合戦』が公開中、3月23日(土)からおじさん愛に溢れた『天然☆生活』、そして4月6日(土)からはピンク映画時代からの盟友・いまおかしんじ監督とのタッグ作『こえをきかせて』の劇場公開が待っている。50歳を目前にし、さまざまな現場から引っ張りだこ状態となった川瀬陽太の人気の秘密に迫った。

──平成最後の春、川瀬さんの主演映画が目白押し状態です。

川瀬陽太(以下、川瀬) たまたまです。撮影時期はバラバラなんです。『月夜釜合戦』は4年前に、『ローリング』(15)と並行して撮ったものです。『おっさんのケーフェイ』は2年前。『天然☆生活』は比較的最近ですが、どうしても自主映画は撮影から劇場公開まで時間が空いてしまいますね。『こえをきかせて』も劇場公開されることになり、なぜか出演作がこの春に集中したんです。

──俳優業24年目にしての大ブレイク!

川瀬 いやいや。ブレイクと言われてみても我が暮らし楽にはならず、じっと手を見る―ですよ(苦笑)。

──地道に現場でキャリアを積み重ねて人気俳優に。フリーランサーの鑑です。

川瀬 ははは、そうですかね。まぁ、フリーの役者でもこのくらいはできますよ、と見せられたことはちょっと良かったかなとは思っています。

──最近は映画だけでなく、テレビドラマでも川瀬さんを観る機会が増えてきました。川瀬さんがワンポイントで出演することで、作品のアクセントや隠し味になっていますよね。

川瀬 僕自身は隠れている気はないんですが(笑)、隠し味でも重宝されているのならありがたいと思っています。たまに僕が出演していない映画でも、「よかったです」と言われることがあり、「ありがとうございます」と答えるようにしているんです(笑)。

──個性派俳優・川瀬陽太によく似た俳優がもう一人いる!?

川瀬 多分、宇野祥平くんあたりじゃないかなと。あいつも映画にいろいろ出ていますからね。それで、あいつの手柄は俺がもらおうと。逆のこともあるのかもしれませんが(笑)。宇野くんとも話したんですが「単館ではサインを求められるけど、シネコンじゃ声を掛けられることもないよな」と。売れているといっても、そんな感じです。そんな状況を楽しみながら、気楽に俳優業をやっています。

 

映画をつくるつもりが演じる側に

──売れっ子俳優の川瀬さんですが、桑沢デザイン研究所を卒業。もともとは俳優ではなく映画スタッフを目指していた?

川瀬 そうなんです。『SRサイタマノラッパー マイクの細道』(テレビ東京系)に出演したとき、主題歌を歌っていたライムスターのMummy Dさんから「僕、後輩です」と言われました。けっこう有名なアーティストやデザイナーが育っている学校なんです。僕も本当は研究所を卒業したら、映画の美術スタッフになるつもりでした。それで福居ショウジン監督の自主映画に参加していたときに、「お前しかいない」と頼まれて、カメラの前に立つことになって。多分、内容がハードで、暴力的なシーンもあったので、事務所に所属している俳優に頼めなかったんでしょうね。その後、瀬々敬久監督のピンク映画に出て、初めてギャラをもらいました。お金をもらえたこと以上に、「俺を必要としてくれる現場があるんだ」と思えたことが大きかった。だから、今までこの仕事が続いたんじゃないかと思います。

──監督の意図を汲み取る大道具みたいな……?

川瀬 そうですね。映画のスタッフには演出部や技術部などありますが、俳優部という感覚ですね。芝居をするスタンドインみたいな感じでやってきました(笑)。いまおか監督の『こえをきかせて』はピンク映画と同じくらいの低予算映画ですが、このくらいのバジェットと撮影期間だと自分に何ができるかなぁって考えます。現場に入って、「こういうロケ地なら、こんなことができるな」とか思いつくことが多いですね。

──事前に台本を読み込んで、徹底的に役づくりするタイプではないんですね。

川瀬 台本は読みますが、あまり役づくりはし過ぎないようにしています。大喜利に参加するような感覚ですね。脇役のときはかなり自由に遊ばせてもらっていますが、主演のときはさすがに変わります。ストーリーだけでなく、周囲も引っ張っていく必要がありますから。その点では、主演俳優は大変だと思います。大きな映画で主演を張る俳優になると、興収結果が今後のキャリアにも関わってくるわけでしょ。僕は主演といっても大規模な作品ではないので、楽しみながらやっています。僕に求められているのはカメレオン俳優的なものではなく、ある種のタイプキャストであることが多いので、やりやすいですよ。

──いまおか監督は林由美香主演作『たまもの』(04)など珠玉のピンク映画を生み出してきた才人。長い付き合いになるそうですね。

川瀬 瀬々監督のボスに向井寛さんという監督兼プロデューサーがいたんですが、向井さんがやっていた「獅子プロダクション」で僕が仕事をするようになった頃、いまおか監督が助監督から監督になったんです。いまおか監督の監督デビュー2作目『痴漢電車 感じるイボイボ』(96)に僕も出ています。そこから20数年間の付き合いですね。いまおか監督がデビュー作『彗星まち』(95)を撮ったとき、上の世代が「ミトコンドリアが風邪をひいたみたいな映画を撮りやがって」と評していたんです。それを聞いて、「うまいこと言うなぁ」と(笑)。それで、「俺はそんなミトコンドリアが風邪をひいたみたいな映画を観たい」と思ったんです。いまおか監督は神代辰巳監督に憧れ、助監督をやっていました。いまおか監督も登場キャラクターたちを突き放して描くことが多いんですが、そのキャラクターたちがもがく姿がいいんです。いまおか監督は基本的にネガティブなことは描かない。ネガティブなことは起きるけれど、みんな幸せになってほしいと願いながら撮っている監督だと思うんです。

──そんな世界に、社会からドロップアウトしたおじさん役の川瀬さんはよく似合うわけですね。

川瀬 なんで、みんな俺のことを社会からドロップアウトさせたがるんでしょうか。こんな、ええとこの坊を捕まえて(笑)。僕はこう見えてもインテリ家族のもとで育ったんですよ(※お父さんは理系の大学講師)。まぁ、ピンク映画から僕のキャリアは始まったわけで、真っ裸からのスタートでした。失うものは何もありませんし、ストレスも感じません。

 

発見された原始人!?

──殺人犯などの犯罪者役を演じていても、観客は川瀬さんにどこか人のよさを感じてしまうのかもしれません。

川瀬 そうだといいですね。実はゴリゴリにハードな役はあまり得意ではないんです。「やれ」と言われればやりますが、個人的には本当の悪人はいないと思っています。加虐側の人間を演じるときは、そいつがそうなったのには何か理由があったんじゃないかと考えるんです。みんな幸せになりたいのに、その方法が分からずにそんなことになっちゃうわけです。ゼロ年代あたりは理解不能なモンスター的なキャラを描く作品が多くて、そんな役にけっこう呼ばれましたが、これからの若い監督には「俺はただの書き割りじゃねぇんだからな」と、その監督のためになればと思って言うこともありました。

──『こえをきかせて』ではヒロインの渡辺万美とテレフォンセックスならぬテレパシーセックスするシーンが印象に残ります。

川瀬 いいシーンですよね。台本を読みながら、いちばんおもろいシーンだなと思いました。カメラの前で一人でおっぱいを揉むマネを延々と続けるわけです。すっごいアホな絵ですよ。いまおか監督は「アホやなぁ」と笑いながら撮っている。やらされる身になってみろと(笑)。でも、僕はベタな泣かせるシーンで泣いたことがないんです。どこか、滑稽な姿のほうが胸が熱くなる。本人が一生懸命な分だけ、おかしみも生じるし、観ている人にも伝わるんじゃないかと思うんです。

──川瀬さん演じる精肉屋の安春は、ハルカ(渡辺万美)の心の叫びが聴こえてしまう。SFの世界でなくても、ありうる話じゃないかなと思うんです。

川瀬 そうかもしれませんね。俺の体験談で言うと、20代の頃は携帯電話を持っていませんでしたが、友達の電話番号を4~5件は覚えていました。待ち合わせで、30分くらいは普通に待っていましたよね。それって、相手のことを察している、相手のことを考えているからだと思うんです。今は友達の電話番号を覚えなくなったし、相手が5分遅れただけで携帯電話に連絡を入れますよね。ひと昔前までは、実はテレパシーみたいなすごいことを交わし合っていたのかもしれません。いろんな人のことを想いながら暮らしていたんじゃないのかなと思うんです。この業界の先輩でも「あの人はなんで他人の気持ちが分かるんだろう」と驚かせられる人がいました。人の心の機微が分かるパイセンたちがいたこの業界は、僕が好きな世界でもあったんです。

──デジタル化が進む現代社会に抗うように生きているんですね。

川瀬 ははは、原始人みたいな役が多いんですよ。僕は昔からやっていることは変わらないんです。ここに来て、みなさんに気づいてもらえた。「原始人、発見!」みたいな感じじゃないですか(笑)

40代になれば何とかなる

──フリーランスの俳優として、四半世紀を過ごしてきたわけですよね。

川瀬 数年間だけ事務所に入っていたことはありますが、辞めてからもう10数年になりますね。今は仕事がありますが、それは単価が安いからでしょう。銀行口座の残高はちっとも増えません(苦笑)。伊藤猛って先輩俳優がいたんですが、「30代はつらいぞ。40代になれば何とかなる」と言われていました。本当、30代は地獄でした。数カ月間、電話がまったく鳴らないんです。気が狂いそうになりました。40代になって少しずつ仕事が来るようになったんです。伊藤猛さんの予言したとおりでした。そう言った伊藤猛さんは52歳で亡くなったんですけどね。40歳を過ぎると、役者仲間たちがこの仕事を辞めていったり、それこそ亡くなったりして、その分だけ仕事が回るようになってきた。それもあって、余計にこの仕事を辞めることができずにいるんです。『anone』など地上波のテレビドラマに出るようになって、女優業を辞めて地方に引っ込んだ知り合いの女性から「がんばってるね」とLNEが来たときは、ちょっと泣きそうになりました。何だか『北の国から』(フジテレビ系)みたいなだなって。

──業界を去っていった、いろんな人たちの声が聴こえてきたんですね。それこそ『こえをきかせて』の安春のように。

川瀬 そうですね。こんな俺でも、ほんの少しは誰かを励ます足しにはなっているのかなぁって。でも、基本的にはあまり考え込むタイプではありません(笑)。

──多忙すぎて、現場をダブルブッキングしたことはありませんか?

川瀬 今のところはありません。昔は助監督の下のほうだったのが、長いことやっているとチーフ助監督になっていたりするんです。撮影日が被ってしまったときは、両作品のチーフ助監督同士が知り合いだったりして、うまくスケジュールをずらしてもらったりしました。そういうことができるようになったのも、40歳過ぎてからです。恥ずかしながら、食べていけるようになったのも40歳になってから。小さい現場も大きな現場も関係なく、声を掛けてもらえるようになった。「あ~、ここが俺の職場かもしれないな」と思えるようになりましたね。

──今や名バイプレイヤーに。

川瀬 その言葉も違和感あるんです(苦笑)。光石研さんや松重豊さんがバイブレイヤーなら、俺なんか路傍の石ですよ。『シン・ゴジラ』で共演した大杉漣さんとは少し面識がありましたが、現場でご一緒したことはありません。でも、大杉さんもそうですし、蛍雪次朗さんもピンク映画から一般映画にも出るようになった。勝手に繋がりを感じています。ピンク映画は予算も人数も少なく、そこからスタッフと一緒にキャリアを重ねていくことができた。そのことが自分にとってはベースになっているし、ありがたいなと思っているんです。自分がどこまでやれるのかは分かりません。体調管理なんて、インフルエンザに罹らないように気をつけているぐらいです。でも、20代でピークが来なくてよかった。こんな劣化したおじさんになってから、仕事が来るようになったわけですから。これでいいんだ、よかったなと思っています(笑)。

「付き合いが長いので、もはやプライベートでは話すことがない」という川瀬陽太といまおか監督だが、そんないまおか監督からも彼の俳優評をもらった。

いまおか「川ちゃんは脇役もできるし、俳優としての“華”もあるので主演もできるタイプ。ピンク映画に出てくれた俳優は、次第に出なくなるものなんですが、川ちゃんは今でも呼ぶと出てくれる。うれしいですよ。メジャー映画にも出るし、ピンク映画や今回みたいな低予算の映画にも出てくれる貴重な役者です。役者って呼ばれてナンボの芸者みたいな職業ですが、川ちゃんは出逢いとか運とかをつかむ才能もあるんでしょう。日本映画を観るとき、リリー・フランキーが出ていると安心するところがありますよね。川ちゃんもスクリーンに出てくると、観客は『この映画は面白そうだ』と期待できる。そんな存在になっているんじゃないですか」

 事務所の力ではなく、現場を愛する力で人気俳優となった川瀬陽太。これから、ますます頻繁に出没するだろう“映画原人”川瀬陽太をぜひスクリーンで目撃してほしい。

(取材・文=長野辰次/撮影=尾藤能暢)

『こえをきかせて』
モデルのハルカ(渡辺万美)は精肉屋の安春(川瀬陽太)の心の声を聞いてしまう。以来、2人は悩みを打ち明け合う仲となっていく。
監督・脚本/いまおかしんじ
出演/渡辺万美、吉岡睦雄、今川宇宙、長屋和彰、広瀬彰勇、古藤真彦、丸純子、川瀬陽太
配給/アルゴ・ピクチャーズ、レジェンド・ピクチャーズ R15+ 4月6日(土)~8日(月)、渋谷ユーロライブにて限定公開
(C)2019キングレコード

『月夜釜合戦』
労働者の街・釜ヶ崎で撮影した16ミリフィルム作品。古典落語「釜泥」をベースに、ヤクザ、旅芸人、活動家たちがお釜争奪戦を繰り広げる。
監督・脚本/佐藤零郎
出演/太田直里、川瀬陽太、渋川清彦、門戸紡、西山真来、カズ、デカルコ・マリィ、緒方晋、赤田周平、下田義弘、大宮義治、北野勇作、海道力也、角田あつし、大宮将司、日野慎也、柴哲平、岡元あつこ、得能洋平、福井大騎、足立正生
配給/映画「月夜釜合戦」製作委員会 3月22日(金)まで渋谷ユーロスペース、4月20日(土)より横浜シネマリンほか全国順次公開中
(C)映画「月夜釜合戦」製作委員会 
http://tukikama.com

『天然☆生活』
『トータスの旅』でゆうばり国際映画祭グランプリを受賞した永山正監督の新作インディーズ映画。川瀬陽太のボンゴ演奏も見どころ、聴きどころ。
監督・製作・脚本・編集/永山正史 脚本/鈴木由理子
出演/川瀬陽太、津田寛治、谷川昭一朗、鶴忠博、三枝奈都紀、秋枝一愛
配給/Spectra film 3月23日(土)より新宿K’s cinemaにてレイトショー
(C)TADASHI NAGAYAMA
https://www.tennen-seikatsu.com

●川瀬陽太(かわせ・ようた)
1969年北海道生まれ、神奈川県出身。桑沢デザイン研究所を卒業後、映画スタッフを経て、福居ショウジン監督の『RUBBER’S LOVERS』(96)で俳優デビュー。瀬々敬久監督のピンク映画『すけべてんこもり』(95)に主演以降、『64 ロクヨン』(16)や『菊とギロチン』(18)など多くの瀬々監督作に出演。冨永昌敬監督の『ローリング』(15)と山内大輔監督の『犯る男』(15)で2016年日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞を受賞。近年の映画出演作に『シン・ゴジラ』(16)、『バンコクナイツ』(17)、『トータスの旅』(17)、『blank13』(18)、『おっさんのケーフェイ』(19)など多数。『SRサイタマノラッパー マイクの細道』(テレビ東京系)、『anone』(日本テレビ系)、『この世界の片隅に』(TBS系)などテレビドラマへの出演も増えている。

映画やTVドラマでよく見るおじさん俳優の素顔!! 川瀬陽太は演技だけでなく、トークも味わい深い

 俳優が売れるか売れないかは、大きな事務所に所属しているかどうか次第。長い間、ずっとそう思っていた。だが、そんな固定概念はひとりの男によって砕かれた。川瀬陽太、49歳。フリーランスの俳優だ。ピンク映画やインディーズ映画で活躍し、近年は『64 ロクヨン』『シン・ゴジラ』(16)などのメジャー映画、テレビドラマ『anone』(日本テレビ系)や『この世界の片隅に』(TBS系)にも出演。味のある個性派俳優として評価される一方、ここに来て主演&メインキャストを務めた新作映画が続々と公開されている。2月に公開された主演映画『おっさんのケーフェイ』に続き、大阪・釜ヶ崎でロケを行なった16ミリフィルム作品『月夜釜合戦』が公開中、3月23日(土)からおじさん愛に溢れた『天然☆生活』、そして4月6日(土)からはピンク映画時代からの盟友・いまおかしんじ監督とのタッグ作『こえをきかせて』の劇場公開が待っている。50歳を目前にし、さまざまな現場から引っ張りだこ状態となった川瀬陽太の人気の秘密に迫った。

──平成最後の春、川瀬さんの主演映画が目白押し状態です。

川瀬陽太(以下、川瀬) たまたまです。撮影時期はバラバラなんです。『月夜釜合戦』は4年前に、『ローリング』(15)と並行して撮ったものです。『おっさんのケーフェイ』は2年前。『天然☆生活』は比較的最近ですが、どうしても自主映画は撮影から劇場公開まで時間が空いてしまいますね。『こえをきかせて』も劇場公開されることになり、なぜか出演作がこの春に集中したんです。

──俳優業24年目にしての大ブレイク!

川瀬 いやいや。ブレイクと言われてみても我が暮らし楽にはならず、じっと手を見る―ですよ(苦笑)。

──地道に現場でキャリアを積み重ねて人気俳優に。フリーランサーの鑑です。

川瀬 ははは、そうですかね。まぁ、フリーの役者でもこのくらいはできますよ、と見せられたことはちょっと良かったかなとは思っています。

──最近は映画だけでなく、テレビドラマでも川瀬さんを観る機会が増えてきました。川瀬さんがワンポイントで出演することで、作品のアクセントや隠し味になっていますよね。

川瀬 僕自身は隠れている気はないんですが(笑)、隠し味でも重宝されているのならありがたいと思っています。たまに僕が出演していない映画でも、「よかったです」と言われることがあり、「ありがとうございます」と答えるようにしているんです(笑)。

──個性派俳優・川瀬陽太によく似た俳優がもう一人いる!?

川瀬 多分、宇野祥平くんあたりじゃないかなと。あいつも映画にいろいろ出ていますからね。それで、あいつの手柄は俺がもらおうと。逆のこともあるのかもしれませんが(笑)。宇野くんとも話したんですが「単館ではサインを求められるけど、シネコンじゃ声を掛けられることもないよな」と。売れているといっても、そんな感じです。そんな状況を楽しみながら、気楽に俳優業をやっています。

 

映画をつくるつもりが演じる側に

──売れっ子俳優の川瀬さんですが、桑沢デザイン研究所を卒業。もともとは俳優ではなく映画スタッフを目指していた?

川瀬 そうなんです。『SRサイタマノラッパー マイクの細道』(テレビ東京系)に出演したとき、主題歌を歌っていたライムスターのMummy Dさんから「僕、後輩です」と言われました。けっこう有名なアーティストやデザイナーが育っている学校なんです。僕も本当は研究所を卒業したら、映画の美術スタッフになるつもりでした。それで福居ショウジン監督の自主映画に参加していたときに、「お前しかいない」と頼まれて、カメラの前に立つことになって。多分、内容がハードで、暴力的なシーンもあったので、事務所に所属している俳優に頼めなかったんでしょうね。その後、瀬々敬久監督のピンク映画に出て、初めてギャラをもらいました。お金をもらえたこと以上に、「俺を必要としてくれる現場があるんだ」と思えたことが大きかった。だから、今までこの仕事が続いたんじゃないかと思います。

──監督の意図を汲み取る大道具みたいな……?

川瀬 そうですね。映画のスタッフには演出部や技術部などありますが、俳優部という感覚ですね。芝居をするスタンドインみたいな感じでやってきました(笑)。いまおか監督の『こえをきかせて』はピンク映画と同じくらいの低予算映画ですが、このくらいのバジェットと撮影期間だと自分に何ができるかなぁって考えます。現場に入って、「こういうロケ地なら、こんなことができるな」とか思いつくことが多いですね。

──事前に台本を読み込んで、徹底的に役づくりするタイプではないんですね。

川瀬 台本は読みますが、あまり役づくりはし過ぎないようにしています。大喜利に参加するような感覚ですね。脇役のときはかなり自由に遊ばせてもらっていますが、主演のときはさすがに変わります。ストーリーだけでなく、周囲も引っ張っていく必要がありますから。その点では、主演俳優は大変だと思います。大きな映画で主演を張る俳優になると、興収結果が今後のキャリアにも関わってくるわけでしょ。僕は主演といっても大規模な作品ではないので、楽しみながらやっています。僕に求められているのはカメレオン俳優的なものではなく、ある種のタイプキャストであることが多いので、やりやすいですよ。

──いまおか監督は林由美香主演作『たまもの』(04)など珠玉のピンク映画を生み出してきた才人。長い付き合いになるそうですね。

川瀬 瀬々監督のボスに向井寛さんという監督兼プロデューサーがいたんですが、向井さんがやっていた「獅子プロダクション」で僕が仕事をするようになった頃、いまおか監督が助監督から監督になったんです。いまおか監督の監督デビュー2作目『痴漢電車 感じるイボイボ』(96)に僕も出ています。そこから20数年間の付き合いですね。いまおか監督がデビュー作『彗星まち』(95)を撮ったとき、上の世代が「ミトコンドリアが風邪をひいたみたいな映画を撮りやがって」と評していたんです。それを聞いて、「うまいこと言うなぁ」と(笑)。それで、「俺はそんなミトコンドリアが風邪をひいたみたいな映画を観たい」と思ったんです。いまおか監督は神代辰巳監督に憧れ、助監督をやっていました。いまおか監督も登場キャラクターたちを突き放して描くことが多いんですが、そのキャラクターたちがもがく姿がいいんです。いまおか監督は基本的にネガティブなことは描かない。ネガティブなことは起きるけれど、みんな幸せになってほしいと願いながら撮っている監督だと思うんです。

──そんな世界に、社会からドロップアウトしたおじさん役の川瀬さんはよく似合うわけですね。

川瀬 なんで、みんな俺のことを社会からドロップアウトさせたがるんでしょうか。こんな、ええとこの坊を捕まえて(笑)。僕はこう見えてもインテリ家族のもとで育ったんですよ(※お父さんは理系の大学講師)。まぁ、ピンク映画から僕のキャリアは始まったわけで、真っ裸からのスタートでした。失うものは何もありませんし、ストレスも感じません。

 

発見された原始人!?

──殺人犯などの犯罪者役を演じていても、観客は川瀬さんにどこか人のよさを感じてしまうのかもしれません。

川瀬 そうだといいですね。実はゴリゴリにハードな役はあまり得意ではないんです。「やれ」と言われればやりますが、個人的には本当の悪人はいないと思っています。加虐側の人間を演じるときは、そいつがそうなったのには何か理由があったんじゃないかと考えるんです。みんな幸せになりたいのに、その方法が分からずにそんなことになっちゃうわけです。ゼロ年代あたりは理解不能なモンスター的なキャラを描く作品が多くて、そんな役にけっこう呼ばれましたが、これからの若い監督には「俺はただの書き割りじゃねぇんだからな」と、その監督のためになればと思って言うこともありました。

──『こえをきかせて』ではヒロインの渡辺万美とテレフォンセックスならぬテレパシーセックスするシーンが印象に残ります。

川瀬 いいシーンですよね。台本を読みながら、いちばんおもろいシーンだなと思いました。カメラの前で一人でおっぱいを揉むマネを延々と続けるわけです。すっごいアホな絵ですよ。いまおか監督は「アホやなぁ」と笑いながら撮っている。やらされる身になってみろと(笑)。でも、僕はベタな泣かせるシーンで泣いたことがないんです。どこか、滑稽な姿のほうが胸が熱くなる。本人が一生懸命な分だけ、おかしみも生じるし、観ている人にも伝わるんじゃないかと思うんです。

──川瀬さん演じる精肉屋の安春は、ハルカ(渡辺万美)の心の叫びが聴こえてしまう。SFの世界でなくても、ありうる話じゃないかなと思うんです。

川瀬 そうかもしれませんね。俺の体験談で言うと、20代の頃は携帯電話を持っていませんでしたが、友達の電話番号を4~5件は覚えていました。待ち合わせで、30分くらいは普通に待っていましたよね。それって、相手のことを察している、相手のことを考えているからだと思うんです。今は友達の電話番号を覚えなくなったし、相手が5分遅れただけで携帯電話に連絡を入れますよね。ひと昔前までは、実はテレパシーみたいなすごいことを交わし合っていたのかもしれません。いろんな人のことを想いながら暮らしていたんじゃないのかなと思うんです。この業界の先輩でも「あの人はなんで他人の気持ちが分かるんだろう」と驚かせられる人がいました。人の心の機微が分かるパイセンたちがいたこの業界は、僕が好きな世界でもあったんです。

──デジタル化が進む現代社会に抗うように生きているんですね。

川瀬 ははは、原始人みたいな役が多いんですよ。僕は昔からやっていることは変わらないんです。ここに来て、みなさんに気づいてもらえた。「原始人、発見!」みたいな感じじゃないですか(笑)

40代になれば何とかなる

──フリーランスの俳優として、四半世紀を過ごしてきたわけですよね。

川瀬 数年間だけ事務所に入っていたことはありますが、辞めてからもう10数年になりますね。今は仕事がありますが、それは単価が安いからでしょう。銀行口座の残高はちっとも増えません(苦笑)。伊藤猛って先輩俳優がいたんですが、「30代はつらいぞ。40代になれば何とかなる」と言われていました。本当、30代は地獄でした。数カ月間、電話がまったく鳴らないんです。気が狂いそうになりました。40代になって少しずつ仕事が来るようになったんです。伊藤猛さんの予言したとおりでした。そう言った伊藤猛さんは52歳で亡くなったんですけどね。40歳を過ぎると、役者仲間たちがこの仕事を辞めていったり、それこそ亡くなったりして、その分だけ仕事が回るようになってきた。それもあって、余計にこの仕事を辞めることができずにいるんです。『anone』など地上波のテレビドラマに出るようになって、女優業を辞めて地方に引っ込んだ知り合いの女性から「がんばってるね」とLNEが来たときは、ちょっと泣きそうになりました。何だか『北の国から』(フジテレビ系)みたいなだなって。

──業界を去っていった、いろんな人たちの声が聴こえてきたんですね。それこそ『こえをきかせて』の安春のように。

川瀬 そうですね。こんな俺でも、ほんの少しは誰かを励ます足しにはなっているのかなぁって。でも、基本的にはあまり考え込むタイプではありません(笑)。

──多忙すぎて、現場をダブルブッキングしたことはありませんか?

川瀬 今のところはありません。昔は助監督の下のほうだったのが、長いことやっているとチーフ助監督になっていたりするんです。撮影日が被ってしまったときは、両作品のチーフ助監督同士が知り合いだったりして、うまくスケジュールをずらしてもらったりしました。そういうことができるようになったのも、40歳過ぎてからです。恥ずかしながら、食べていけるようになったのも40歳になってから。小さい現場も大きな現場も関係なく、声を掛けてもらえるようになった。「あ~、ここが俺の職場かもしれないな」と思えるようになりましたね。

──今や名バイプレイヤーに。

川瀬 その言葉も違和感あるんです(苦笑)。光石研さんや松重豊さんがバイブレイヤーなら、俺なんか路傍の石ですよ。『シン・ゴジラ』で共演した大杉漣さんとは少し面識がありましたが、現場でご一緒したことはありません。でも、大杉さんもそうですし、蛍雪次朗さんもピンク映画から一般映画にも出るようになった。勝手に繋がりを感じています。ピンク映画は予算も人数も少なく、そこからスタッフと一緒にキャリアを重ねていくことができた。そのことが自分にとってはベースになっているし、ありがたいなと思っているんです。自分がどこまでやれるのかは分かりません。体調管理なんて、インフルエンザに罹らないように気をつけているぐらいです。でも、20代でピークが来なくてよかった。こんな劣化したおじさんになってから、仕事が来るようになったわけですから。これでいいんだ、よかったなと思っています(笑)。

「付き合いが長いので、もはやプライベートでは話すことがない」という川瀬陽太といまおか監督だが、そんないまおか監督からも彼の俳優評をもらった。

いまおか「川ちゃんは脇役もできるし、俳優としての“華”もあるので主演もできるタイプ。ピンク映画に出てくれた俳優は、次第に出なくなるものなんですが、川ちゃんは今でも呼ぶと出てくれる。うれしいですよ。メジャー映画にも出るし、ピンク映画や今回みたいな低予算の映画にも出てくれる貴重な役者です。役者って呼ばれてナンボの芸者みたいな職業ですが、川ちゃんは出逢いとか運とかをつかむ才能もあるんでしょう。日本映画を観るとき、リリー・フランキーが出ていると安心するところがありますよね。川ちゃんもスクリーンに出てくると、観客は『この映画は面白そうだ』と期待できる。そんな存在になっているんじゃないですか」

 事務所の力ではなく、現場を愛する力で人気俳優となった川瀬陽太。これから、ますます頻繁に出没するだろう“映画原人”川瀬陽太をぜひスクリーンで目撃してほしい。

(取材・文=長野辰次/撮影=尾藤能暢)

『こえをきかせて』
モデルのハルカ(渡辺万美)は精肉屋の安春(川瀬陽太)の心の声を聞いてしまう。以来、2人は悩みを打ち明け合う仲となっていく。
監督・脚本/いまおかしんじ
出演/渡辺万美、吉岡睦雄、今川宇宙、長屋和彰、広瀬彰勇、古藤真彦、丸純子、川瀬陽太
配給/アルゴ・ピクチャーズ、レジェンド・ピクチャーズ R15+ 4月6日(土)~8日(月)、渋谷ユーロライブにて限定公開
(C)2019キングレコード

『月夜釜合戦』
労働者の街・釜ヶ崎で撮影した16ミリフィルム作品。古典落語「釜泥」をベースに、ヤクザ、旅芸人、活動家たちがお釜争奪戦を繰り広げる。
監督・脚本/佐藤零郎
出演/太田直里、川瀬陽太、渋川清彦、門戸紡、西山真来、カズ、デカルコ・マリィ、緒方晋、赤田周平、下田義弘、大宮義治、北野勇作、海道力也、角田あつし、大宮将司、日野慎也、柴哲平、岡元あつこ、得能洋平、福井大騎、足立正生
配給/映画「月夜釜合戦」製作委員会 3月22日(金)まで渋谷ユーロスペース、4月20日(土)より横浜シネマリンほか全国順次公開中
(C)映画「月夜釜合戦」製作委員会 
http://tukikama.com

『天然☆生活』
『トータスの旅』でゆうばり国際映画祭グランプリを受賞した永山正監督の新作インディーズ映画。川瀬陽太のボンゴ演奏も見どころ、聴きどころ。
監督・製作・脚本・編集/永山正史 脚本/鈴木由理子
出演/川瀬陽太、津田寛治、谷川昭一朗、鶴忠博、三枝奈都紀、秋枝一愛
配給/Spectra film 3月23日(土)より新宿K’s cinemaにてレイトショー
(C)TADASHI NAGAYAMA
https://www.tennen-seikatsu.com

●川瀬陽太(かわせ・ようた)
1969年北海道生まれ、神奈川県出身。桑沢デザイン研究所を卒業後、映画スタッフを経て、福居ショウジン監督の『RUBBER’S LOVERS』(96)で俳優デビュー。瀬々敬久監督のピンク映画『すけべてんこもり』(95)に主演以降、『64 ロクヨン』(16)や『菊とギロチン』(18)など多くの瀬々監督作に出演。冨永昌敬監督の『ローリング』(15)と山内大輔監督の『犯る男』(15)で2016年日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞を受賞。近年の映画出演作に『シン・ゴジラ』(16)、『バンコクナイツ』(17)、『トータスの旅』(17)、『blank13』(18)、『おっさんのケーフェイ』(19)など多数。『SRサイタマノラッパー マイクの細道』(テレビ東京系)、『anone』(日本テレビ系)、『この世界の片隅に』(TBS系)などテレビドラマへの出演も増えている。