少年犯罪や非行少女は他人事じゃない【刑務所のアイドルPaix2(ペペ)×元レディース・中村すえこ】

 元レディースの総長で少年院送致の経験もある中村すえこさんが監修・監督を務めた教育映画『記憶 少年院の少女たちの未来への軌跡』が完成、上映会が続いている。映画では、少年院を出院(≒卒業)する直前の4人の少女が中村さんに収容の経緯や今の思いを明かし、一部に再現ドラマも織り込んだ。今回、少年院や刑務所の慰問で「Prisonコンサート」を続けている“刑務所のアイドル”こと女性デュオPaix2(ペペ)のお2人と中村さんが対談。前編では、少年院の少女たちの家庭環境や更生について話を聞いたが、後編では、それぞれの活動を続ける意味と今後について語ってもらった。

(前編はこちら)

■やり直したいと思っている子たちを応援したい

――後編では、映画のお話とともに、中村さんとPaix2(ペペ)のお2人の活動についてもお聞きしたいと思います。作品は商業映画ではなく、クラウドファンディングや寄付を募って資金を集めて「教育映画」として製作されていますね。

中村すえこ(以下、中村) はい。学校などでの上映も目指しているので、入場料は無料です。今後も月に1回ほどのペースで無料上映会を予定しています。

――中村さんは、少年院出院者を支援する団体「NPO法人セカンドチャンス!」に参加されて女子少年院での講話を続けていらっしゃるほか、働くシングルマザーで、大学生でもあるんですね。

中村 はい。国内にある9カ所の女子少年院全部に伺いました。「人生、何度でもやり直せるよ。この私だってできたから、大丈夫!」というようなお話をさせていただいています。やり直したいと思っている子たちを応援したいですね。大学では、社会科の高校教員免許を取得するために学んでいます。大学の授業でライフストーリーを語る機会があり、私が少年院時代のことを含めて話した時に、「非行は他人事ではない」と、周りの学生たちにも理解してもらえたんです。直接話すことや映像は伝わるんだなと、改めて思いましたね。

――Paix2(ペペ)のお2人は、全国の少年院や刑務所での「Prisonコンサート」の活動とともに、保護司、矯正支援官としてもご活躍です。

Megumi(井勝めぐみ) はい。2014年に保護司、15年に矯正支援官に就任させていただき、今年は7月から北海道・月形町の「観光典獄」にも任命していただきました。典獄とは所長のことです。

Manami(北尾真奈美) 保護司の仕事を通じて、加害者である受刑者の皆さんと被害者の皆さんとの間にいる「第三者的な立場」が重要だと実感しています。

――なるほど。少年院や刑務所の収容者を励ます時に、被害者の方にも思いをはせられているんですね。「Prisonコンサート」はボランティアで行われているそうですが、採算は合うんですか?

Megumi まったく合いません(笑)。矯正支援官は交通費と宿泊費など実費はいただけますけど、全額を賄えるほどではないんです。

Manami それでも続けているのは、いろんな出会いがあるからですね。出所した方がコンサートに来てくださったり、CDを買ってくださったりすると、「この方は、もう再犯することはないんだな」と思います。

Megumi 私たちの音楽活動を知って、お米を送ってくださる方もいて。コンサートを通じて、人の心の温かさをたくさん知ることもできました。

――すばらしいことですね。お2人は、歌手になる前に、別のお仕事をされていたんですよね。

Manami はい、私は大学の研究室にいて、Megumiは看護師でした。別々に「日本縦断カラオケ選抜歌謡祭」の鳥取大会に出場して、主催者から「デュオでやってみてはどうか」と声をかけられたんです。

――今のマネジャーさんですね。デビュー後は、地元のテレビやラジオに出演されて、「一日警察署長」も務められています。

Manami それで、署長さんから「歌がさわやかだから、刑務所で慰問をしてはどうか」と言われたんです。

――怖くなかったんですか?

Megumi 怖かったというより、最初は刑務所の雰囲気に圧倒されて、とても緊張しました。

Manami 今はだいぶ変わりましたけど、以前はみんな灰色の服装で、色のない世界だったんです。

Megumi 慰問の際、受刑者の皆さんに許されているのは、歌い終わった後の拍手だけ。それ以外は何もしてはいけないので、とても静かで。「私たちがコンサートして、本当によかったのかな」って落ち込みました。でも、あとで感想文をいただいて、「楽しかったんだ……」とわかりました。

中村 それが今では刑務所のアイドルですからね。ストーカーとか、怖い思いはしないんですか(笑)?

Manami・Megumi (2人同時に)今のところはないです(笑)。

Megumi 一般のライブの時に、物販コーナーに黙って1万円札を置いて立ち去っていく人がいて。慌てて追いかけると、「いや、何かの足しにしてください」と言って帰っていかれました。

――その方も、元受刑者さんなのでしょうね。

Megumi たぶんそうだと思います。

中村 でも、1万円札を置いていけるということは、出所後も生活できてるということですよね。

Manami そう思います。刑務所でもらう「作業報奨金」の封筒を、封を切らずに持ってきてくださった方もいらっしゃいます。さすがにいただけなくて、福祉施設に寄付させていただきました。

中村 報奨金はすごいですね(笑)。いろんな方に応援されているんですね。お2人が、お金が目当てじゃないって伝わっているんでしょうね。

――最近の少年犯罪についてもお聞きします。少子化の影響で少年院の収容者数も減り、全国の施設で統廃合が進んでいると報じられていますね。一方で、少年犯罪の件数自体は減っていても、「振り込め詐欺」の受け子などで摘発される子どもたちは増えています。警察庁の調査などによると、刑法犯で摘発された少年は2万3,489人で、戦後最少を更新しています。でも、振り込め詐欺事件で2018年の1年間に摘発された20歳未満の少年は750人、前年の約1.6倍に上り、約8割が現金受け取り役の「受け子」です。

中村 最近の「受け子」にはワルっぽくない、いわゆる普通のイケメンふうの男の子も多いようです。罪の意識がないのでしょうね。建設現場で一日汗を流して働いても1万円にもならないのに、「受け子」なら2万円か3万円くらいにはなりますから、真面目に働く気はなくなりますよ。少女の売春も同じで、短時間で高額のお金をもらえますから、検挙されても、また同じことを繰り返します。摘発の件数は減っていても、再犯者は多いんですね。また、薬物犯罪も増えています。

――警視庁管内での大麻取締法違反の検挙件数は6年連続で増加しており、少女の覚せい剤取締法違反の事案も後を絶たないようですね(警視庁生活安全部少年育成課・平成30年中の「少年育成活動の概況」)。しかし、中村さんと、Paix2(ペペ)のお2人の「失敗しても人生を諦めないで、前を向いて歩いてほしい」というメッセージは、多くの方に伝わっていくと思います。

中村 はい。少年院に入って、社会に出て、また失敗しても諦めないでほしいです。映画にも、そういう思いを込めています。

Manami 私たちも「元気だせよ」をはじめとして、刑務所や少年院だけではなく、いろいろな方への応援歌をたくさん作っているので、ぜひ一般の方にも聴いていただきたいです。

――お2人の夢は、『NHK紅白歌合戦』への出場だそうですね。

Megumi はい、それだけが夢ではありませんが、もしも、そのような機会があれば、刑務所のグラウンドからの中継で出演させてほしいです。紅白は、大みそかの家族だんらんの象徴です。社会の皆さんに、幸せとはどういうことかを考えてもらえる機会になるのではないかと思うからです。塀の中で過ごす人もいれば、家族と過ごす人もいる。幸せの対比を幅広く伝えることができれば、少しでも犯罪の抑止につながるのではないかと思っています。

――ありがとうございました。

Paix2(ペペ)
Manami(マナミ、北尾真奈美)とMegumi(メグミ、井勝めぐみ)によるデュオ。01年に日本コロムビアよりメジャーデビュー。アルバムに『逢えたらいいな』(05年)、著書に『逢えたらいいな―プリズン・コンサート三〇〇回達成への道のり』(12年、鹿砦社)など。デビュー1年前から全国の刑務所や少年院などでの公演「Prisonコンサート」を続け、「受刑者のアイドル」と呼ばれる。14年に保護司、15年に矯正支援官に就任。16年 には「Prisonコンサート」400回の功績に対して法務大臣より感謝状を授与された。ユニット名はフランス語で「平和」を意味するpaix (発音は「ぺ」)を二つ重ねている。2019年7月より北海道・月形町の「月形観光大使(観光典獄)」に就任。「典獄」は「刑務所長」の意。
公式サイト

中村すえこ
ドキュメンタリー教育映画『記憶 少年院の少女たちの未来への軌跡』監修・監督。15歳で少女たちの暴走族・レディースの総長となり、傷害事件を起こして少年院に1年間収容される。結婚、出産、離婚を経験してシングルマザーとして働きながら、09年に創設された少年院出院者を支援する団体「NPO法人セカンドチャンス!」に参加、多くの出院者と交流を続ける。著書『紫の青春 ~恋と喧嘩と特攻服~』(08年、ミリオン出版)が『ハードライフ~紫の青春・恋と喧嘩と特攻服~』(関顕嗣監督)として11年に映画化。
『記憶 少年院の少女たちの未来への軌跡』公式サイト
法務省東京矯正管区主催上映会
日程:2019年9月22日(日)
場所:矯正研修所講堂(東京都昭島市もくせいの杜2-1-20)
上映時間:上映開始11:10〜中村すえこ舞台挨拶(終了13:10)
入場料:無料
主催:東京矯正管区
問い合わせ:東京矯正管区第三部 048-600-1500

少年犯罪や非行少女は他人事じゃない【刑務所のアイドルPaix2(ペペ)×元レディース・中村すえこ】

 元レディースの総長で少年院送致の経験もある中村すえこさんが監修・監督を務めた教育映画『記憶 少年院の少女たちの未来への軌跡』が完成、上映会が続いている。映画では、少年院を出院(≒卒業)する直前の4人の少女が中村さんに収容の経緯や今の思いを明かし、一部に再現ドラマも織り込んだ。今回、少年院や刑務所の慰問で「Prisonコンサート」を続けている“刑務所のアイドル”こと女性デュオPaix2(ペペ)のお2人と中村さんが対談。前編では、少年院の少女たちの家庭環境や更生について話を聞いたが、後編では、それぞれの活動を続ける意味と今後について語ってもらった。

(前編はこちら)

■やり直したいと思っている子たちを応援したい

――後編では、映画のお話とともに、中村さんとPaix2(ペペ)のお2人の活動についてもお聞きしたいと思います。作品は商業映画ではなく、クラウドファンディングや寄付を募って資金を集めて「教育映画」として製作されていますね。

中村すえこ(以下、中村) はい。学校などでの上映も目指しているので、入場料は無料です。今後も月に1回ほどのペースで無料上映会を予定しています。

――中村さんは、少年院出院者を支援する団体「NPO法人セカンドチャンス!」に参加されて女子少年院での講話を続けていらっしゃるほか、働くシングルマザーで、大学生でもあるんですね。

中村 はい。国内にある9カ所の女子少年院全部に伺いました。「人生、何度でもやり直せるよ。この私だってできたから、大丈夫!」というようなお話をさせていただいています。やり直したいと思っている子たちを応援したいですね。大学では、社会科の高校教員免許を取得するために学んでいます。大学の授業でライフストーリーを語る機会があり、私が少年院時代のことを含めて話した時に、「非行は他人事ではない」と、周りの学生たちにも理解してもらえたんです。直接話すことや映像は伝わるんだなと、改めて思いましたね。

――Paix2(ペペ)のお2人は、全国の少年院や刑務所での「Prisonコンサート」の活動とともに、保護司、矯正支援官としてもご活躍です。

Megumi(井勝めぐみ) はい。2014年に保護司、15年に矯正支援官に就任させていただき、今年は7月から北海道・月形町の「観光典獄」にも任命していただきました。典獄とは所長のことです。

Manami(北尾真奈美) 保護司の仕事を通じて、加害者である受刑者の皆さんと被害者の皆さんとの間にいる「第三者的な立場」が重要だと実感しています。

――なるほど。少年院や刑務所の収容者を励ます時に、被害者の方にも思いをはせられているんですね。「Prisonコンサート」はボランティアで行われているそうですが、採算は合うんですか?

Megumi まったく合いません(笑)。矯正支援官は交通費と宿泊費など実費はいただけますけど、全額を賄えるほどではないんです。

Manami それでも続けているのは、いろんな出会いがあるからですね。出所した方がコンサートに来てくださったり、CDを買ってくださったりすると、「この方は、もう再犯することはないんだな」と思います。

Megumi 私たちの音楽活動を知って、お米を送ってくださる方もいて。コンサートを通じて、人の心の温かさをたくさん知ることもできました。

――すばらしいことですね。お2人は、歌手になる前に、別のお仕事をされていたんですよね。

Manami はい、私は大学の研究室にいて、Megumiは看護師でした。別々に「日本縦断カラオケ選抜歌謡祭」の鳥取大会に出場して、主催者から「デュオでやってみてはどうか」と声をかけられたんです。

――今のマネジャーさんですね。デビュー後は、地元のテレビやラジオに出演されて、「一日警察署長」も務められています。

Manami それで、署長さんから「歌がさわやかだから、刑務所で慰問をしてはどうか」と言われたんです。

――怖くなかったんですか?

Megumi 怖かったというより、最初は刑務所の雰囲気に圧倒されて、とても緊張しました。

Manami 今はだいぶ変わりましたけど、以前はみんな灰色の服装で、色のない世界だったんです。

Megumi 慰問の際、受刑者の皆さんに許されているのは、歌い終わった後の拍手だけ。それ以外は何もしてはいけないので、とても静かで。「私たちがコンサートして、本当によかったのかな」って落ち込みました。でも、あとで感想文をいただいて、「楽しかったんだ……」とわかりました。

中村 それが今では刑務所のアイドルですからね。ストーカーとか、怖い思いはしないんですか(笑)?

Manami・Megumi (2人同時に)今のところはないです(笑)。

Megumi 一般のライブの時に、物販コーナーに黙って1万円札を置いて立ち去っていく人がいて。慌てて追いかけると、「いや、何かの足しにしてください」と言って帰っていかれました。

――その方も、元受刑者さんなのでしょうね。

Megumi たぶんそうだと思います。

中村 でも、1万円札を置いていけるということは、出所後も生活できてるということですよね。

Manami そう思います。刑務所でもらう「作業報奨金」の封筒を、封を切らずに持ってきてくださった方もいらっしゃいます。さすがにいただけなくて、福祉施設に寄付させていただきました。

中村 報奨金はすごいですね(笑)。いろんな方に応援されているんですね。お2人が、お金が目当てじゃないって伝わっているんでしょうね。

――最近の少年犯罪についてもお聞きします。少子化の影響で少年院の収容者数も減り、全国の施設で統廃合が進んでいると報じられていますね。一方で、少年犯罪の件数自体は減っていても、「振り込め詐欺」の受け子などで摘発される子どもたちは増えています。警察庁の調査などによると、刑法犯で摘発された少年は2万3,489人で、戦後最少を更新しています。でも、振り込め詐欺事件で2018年の1年間に摘発された20歳未満の少年は750人、前年の約1.6倍に上り、約8割が現金受け取り役の「受け子」です。

中村 最近の「受け子」にはワルっぽくない、いわゆる普通のイケメンふうの男の子も多いようです。罪の意識がないのでしょうね。建設現場で一日汗を流して働いても1万円にもならないのに、「受け子」なら2万円か3万円くらいにはなりますから、真面目に働く気はなくなりますよ。少女の売春も同じで、短時間で高額のお金をもらえますから、検挙されても、また同じことを繰り返します。摘発の件数は減っていても、再犯者は多いんですね。また、薬物犯罪も増えています。

――警視庁管内での大麻取締法違反の検挙件数は6年連続で増加しており、少女の覚せい剤取締法違反の事案も後を絶たないようですね(警視庁生活安全部少年育成課・平成30年中の「少年育成活動の概況」)。しかし、中村さんと、Paix2(ペペ)のお2人の「失敗しても人生を諦めないで、前を向いて歩いてほしい」というメッセージは、多くの方に伝わっていくと思います。

中村 はい。少年院に入って、社会に出て、また失敗しても諦めないでほしいです。映画にも、そういう思いを込めています。

Manami 私たちも「元気だせよ」をはじめとして、刑務所や少年院だけではなく、いろいろな方への応援歌をたくさん作っているので、ぜひ一般の方にも聴いていただきたいです。

――お2人の夢は、『NHK紅白歌合戦』への出場だそうですね。

Megumi はい、それだけが夢ではありませんが、もしも、そのような機会があれば、刑務所のグラウンドからの中継で出演させてほしいです。紅白は、大みそかの家族だんらんの象徴です。社会の皆さんに、幸せとはどういうことかを考えてもらえる機会になるのではないかと思うからです。塀の中で過ごす人もいれば、家族と過ごす人もいる。幸せの対比を幅広く伝えることができれば、少しでも犯罪の抑止につながるのではないかと思っています。

――ありがとうございました。

Paix2(ペペ)
Manami(マナミ、北尾真奈美)とMegumi(メグミ、井勝めぐみ)によるデュオ。01年に日本コロムビアよりメジャーデビュー。アルバムに『逢えたらいいな』(05年)、著書に『逢えたらいいな―プリズン・コンサート三〇〇回達成への道のり』(12年、鹿砦社)など。デビュー1年前から全国の刑務所や少年院などでの公演「Prisonコンサート」を続け、「受刑者のアイドル」と呼ばれる。14年に保護司、15年に矯正支援官に就任。16年 には「Prisonコンサート」400回の功績に対して法務大臣より感謝状を授与された。ユニット名はフランス語で「平和」を意味するpaix (発音は「ぺ」)を二つ重ねている。2019年7月より北海道・月形町の「月形観光大使(観光典獄)」に就任。「典獄」は「刑務所長」の意。
公式サイト

中村すえこ
ドキュメンタリー教育映画『記憶 少年院の少女たちの未来への軌跡』監修・監督。15歳で少女たちの暴走族・レディースの総長となり、傷害事件を起こして少年院に1年間収容される。結婚、出産、離婚を経験してシングルマザーとして働きながら、09年に創設された少年院出院者を支援する団体「NPO法人セカンドチャンス!」に参加、多くの出院者と交流を続ける。著書『紫の青春 ~恋と喧嘩と特攻服~』(08年、ミリオン出版)が『ハードライフ~紫の青春・恋と喧嘩と特攻服~』(関顕嗣監督)として11年に映画化。
『記憶 少年院の少女たちの未来への軌跡』公式サイト
法務省東京矯正管区主催上映会
日程:2019年9月22日(日)
場所:矯正研修所講堂(東京都昭島市もくせいの杜2-1-20)
上映時間:上映開始11:10〜中村すえこ舞台挨拶(終了13:10)
入場料:無料
主催:東京矯正管区
問い合わせ:東京矯正管区第三部 048-600-1500

覚醒剤、万引、パパ活、整形――少年院の少女たちの事情【元レディース総長・中村すえこ×刑務所のアイドル・Paix2】

 元レディースの総長で少年院送致の経験もある中村すえこさんが監修・監督を務めた教育映画『記憶 少年院の少女たちの未来への軌跡』が完成、上映会が続いている。映画では、少年院を出院(≒卒業)する直前の4人の少女が中村さんに収容の経緯や今の思いを明かし、一部に再現ドラマも織り込んだ。今回、少年院や刑務所の慰問で「Prisonコンサート」を続けている“刑務所のアイドル”こと女性デュオPaix2(ペペ)と、中村さんの対談で、少女たちの更生について話してもらった。

■「こんな少女たちがいる」と知ってほしくて

――この映画には、佳奈、沙羅、美和、遥香(いずれも仮名)の4人の少女たちが登場します。佳奈は乳児院と児童養護施設で育って覚醒剤にまで手を出し、沙羅は薬物依存症で生活保護を受けている母のために万引を続け、美和は整形手術を繰り返し、「パパ活」で稼いだ600万円をホストに貢ぎ、遥香は男の言いなりになって美人局に加担して検挙され、それぞれ少年院に収容されました。顔にはモザイクがかかっていますが、少女たちの「記憶」はとてもリアルに伝わってきますね。

中村すえこ(以下、中村) そうなんです。私は少年院の出院者を支援する団体「NPO法人セカンドチャンス!」の活動として全国の女子少年院を回ってきたのですが、今どきの「不良少女」たちの抱える複雑な事情は、私の子どもの頃とは違うなと実感しています。私の頃はなんでも暴力で解決して、もっと単純だった気がします(笑)。

 収容の期間を終えて出院したところで、少女たちが社会で生きていくにはハードルがたくさんあります。直接助けてあげられなくても、まず「こんな子たちがいるんだ」と多くの方に知ってほしくて、ドキュメンタリー映画を作りたいと考えてきました。

――中村さんの少女時代を綴った著書『紫の青春 ~恋と喧嘩と特攻服~』(ミリオン出版)も映画化されていますね。   

中村 はい。この時に「映画の発信力ってすごいな」と思ったんです。今回は法務省にも協力をいただいているので、かなり突っ込んだ取材ができました。全部で110分と長めなんですが、カットしたくない場面もたくさんありました。

――Paix2(ペペ)のお2人は、映画を見て、どのように感じましたか? お2人は、2000年から国内の少年院や刑務所などで「Prisonコンサート」を開催されており、公演回数は9月7日現在で487回にも上っていますね。

Manami(北尾真奈美) 一言でいえば、作品は「重かった」ですね。少年院の子どもたちとは、コンサートの時しか接することがないので。

――「Prisonコンサート」では、子どもたちはとても楽しそうにしていますね。

Manami はい。みんないい顔をしているので、「(罪を犯して少年院にいても)法務教官の先生方に守られて、助けられているんだな」と思っていたんです。でも、この映画を見て、それだけではないんだなと気づきました。少年院について、私たちはまだまだ知らないこともあるし、先生も大変だなと思いました。

Megumi(井勝めぐみ) 本当に先生方は大変ですね。私もそう思いました。Manamiと同じで、公演を通じてしか知らなかった少年院の少女たちについて、いろいろ知ることができました。また、彼女たちがカメラの前で自分を表現できているのは素晴らしいとも思いました。私たち大人が「こういう人生もある」と知り、今後できることや問題点などを考えることができる作品です。いろんな葛藤があっても、少年院での経験は将来、報われるんじゃないかなあとも考えています。

中村 はい、むしろ少年院に行かずに矯正教育を受けなかった子たちのほうが心配です。逮捕されないまま悪いことを続けて大人になって、刑務所に行ったら、もう矯正は難しいですね。刑務官の指示に従っていればいい刑務所と違って、少年院は、とにかく先生たちが自分に向き合わせて考えさせますから、すごく厳しいんです。でも、それが結局は自分のためになります。私も少年院に行って多くのことを学びました。まあ最初から逮捕されるようなことをしてはダメなんですけれども(笑)。

Manami なるほど。ある少年院のコンサートで、入ったばかりの女の子と出会って、たまたま1年後に同じ施設で再会したことがありました。1年間で表情がまったく違いましたね。出院が間近で、生き生きとしていました。先生方がきちんと向き合ってくれたからでしょうが、出院してから自分を保っていくのは大変だろうなと、かわいそうに思ったことがあります。

中村 たしかに出院後のほうが心配ですね。出てからの「居場所」、つまり住むところと働く場所の問題はとても大きいです。そもそも少年院に行くような子たちは家庭も崩壊しているし、まず帰るところがありません。映画には、せっかくの居場所からいなくなってしまう子が登場します。詳しくは映画を見ていただいて(笑)。

――出演している少女たちは、それぞれ親との葛藤を抱えていました。保護者の考え方もそれぞれですし、少年院の先生である法務教官にもいろいろな方がいらっしゃるのだと思いますが、子どもたちに寄り添うことの難しさがわかります。

中村 非行に走る原因は、たいていは親との関係です。その親もいい育ち方をしていないことがほとんどです。親に愛されたことがないから、うまく愛情が表現できないのも、彼女たちの特性ですね。自分のことも好きじゃないんです。

Megumi それ、わかります。以前、コンサートの後にいただく感想文に、「こんな私と握手をしてくれて、うれしかった」と書かれていたことがありました。私は「公演を聴いてくれてありがとう」という気持ちで、普通に握手をしただけなんですが、まだ子どもの彼女たちが「こんな私」と言っていて……。反抗も、したくてしているのではないのでしょう。自分がどうしていいかわからない子どもたちと、距離を縮められたらいいですね。

中村 私もそうでしたけど、子どもたちは寂しいんです。当時は、それすらわかりませんでした。それで、私の場合は暴走族ですが、知り合った仲間次第で窃盗や美人局、男の子ならオレオレ詐欺の受け子などの非行に関わっていくんですね。そういう子どもたちは「加害者」ではあるんですが、その前に家庭が貧困だったり、虐待や育児放棄をされていたりした「被害者」なんです。

――そんな環境で生まれ育ったら、「いい子になれ」というほうがムリですね。

中村 でも、世間の大半の人たちは、加害者である少年が被害者という事実は知らないし、知ろうともしません。「少年院に収容された非行少年」と言う印象しか持っていません。事件を起こして少年院で学び直しても、社会に出てまた挫折してしまう子どもたちもいることを、多くの方に知っていただきたいと思っています。

――私たち大人が温かい目で見守れば、状況は変わるかもしれませんね。

中村 作品が別世界の話ではないと感じてほしいです。こうした事実を知ることで、人も社会も変われると信じています。

Megumi 私は、たまたま学校に行かせてもらえたけれど、そうではない子どもたちもたくさんいる。直接彼らに何かをできなくても、それを「知ること」から始まるんですね。
(後編に続く)

Paix2(ペペ)
Manami(マナミ、北尾真奈美)とMegumi(メグミ、井勝めぐみ)によるデュオ。2001年に日本コロムビアよりメジャーデビュー。アルバムに『逢えたらいいな』(05年)、著書に『逢えたらいいな―プリズン・コンサート三〇〇回達成への道のり』(12年、鹿砦社)など。デビュー1年前から全国の刑務所や少年院などでの公演「Prisonコンサート」を続け、「受刑者のアイドル」と呼ばれる。14年に保護司、15年に矯正支援官に就任。16年には「Prisonコンサート」400回の功績に対して法務大臣より感謝状を授与された。ユニット名はフランス語で「平和」を意味するpaix (発音は「ぺ」)を二つ重ねている。2019年7月より北海道・月形町の「月形観光大使(観光典獄)」に就任。「典獄」は「刑務所長」の意。
公式サイト

中村すえこ
ドキュメンタリー教育映画『記憶 少年院の少女たちの未来への軌跡』監修・監督。15歳で少女たちの暴走族・レディースの総長となり、傷害事件を起こして少年院に1年間収容される。結婚、出産、離婚を経験してシングルマザーとして働きながら、09年に創設された少年院出院者を支援する団体「NPO法人セカンドチャンス!」に参加、多くの出院者と交流を続ける。著書『紫の青春 ~恋と喧嘩と特攻服~』(08年、ミリオン出版)が『ハードライフ~紫の青春・恋と喧嘩と特攻服~』(関顕嗣監督)として11年に映画化。
『記憶 少年院の少女たちの未来への軌跡』公式サイト

法務省東京矯正管区主催上映会
日程:2019年9月22日(日)
場所:矯正研修所講堂(東京都昭島市もくせいの杜2-1-20)
上映時間:上映開始11:10〜中村すえこ舞台挨拶(終了13:10)
入場料:無料
主催:東京矯正管区
問い合わせ:東京矯正管区第三部 048-600-1500

「男性も楽になる」ジェンダー論はおかしい――女性を“わかってるふう”の男性の問題点

 「男以上に成功してはいけない」「女は馬鹿だ」「家事も育児も女の仕事」といった、男性社会から求められる女性の生きづらさをつづった『「女子」という呪い』(集英社クリエイティブ)を上梓した、作家の雨宮処凛さん。男性視点でジェンダーを研究している社会学者の平山亮さんとの対談の前編では、男女の生きづらさの定義や、男性の受け身性について語ってもらった。後編では、どうすれば女性の生きづらさを男性は理解することができるのかに迫る。

前編はこちら:男女の“生きづらさ”の違いとは? 「共に被害者」という主張が強くなっているジェンダー論

■女性は過剰に責任を取らされてきた

平山亮さん(以下、平山) ジェンダーは非対称で、性被害者であっても、女性は過剰に責任を取らされてきました。だからある意味「あなたは悪くないんだよ、呪いのせいだよ」と、いったん責任を解除してあげる必要があります。逆に男性は「性欲のせいだ」と主張すれば受け入れられたり、責任を取らずに済ませてもらえる言説の方があふれているので、それ以上、責任を解除してあげる必要はないと思います。

 女性性の規範で女性がつらいというのと、男性性の規範で縛られて男性がつらいというのを同列に並べるのは危険です。男性のほうに同じように解除をしてあげると、ますます「男性性のせいだから本人に責任はない」という流れができて、男性に甘くなってしまう心配があります。

雨宮処凛さん(以下、雨宮) 「女性は過剰に責任を取らされてきた」とおっしゃいましたが、こんなことを思ってくれる男性って、きっとほとんどいないと思います。「俺らが責任を取ってきて、女は俺らの陰にいて守られてきたのに」くらいに思っている人が多い気がします。ゴミ出しをしても被害者意識、皿を洗っても被害者意識、痴漢をしても被害者意識……。

平山 そう。男性はとことん“被害者”できたから、もう少し加害性のようなものを見つめてくれないと変えられないんです。雨宮さんの本の中にもありましたが、男性に責任を取らせないようにしている女性もいます。

雨宮 そうしないとモテないとか、生きていけないという圧力もありますからね。でも、男性をうまくおだてて気持ち良くさせて家事をやらせるって、なんでそこまでサービスをしなきゃいけないのか、とても不思議です。

平山 最近はジェンダーやフェミニズムの話をすると「男性にも役に立つから」とか「これは男性にとっても楽になるから」といった話を入れないといけないというか、「男性の苦労もわかった上で話しています」と言わないといけないモードがあります。私はそれがすごく気に入りません。

雨宮 そういうことを言わないと、男性は聞く耳を持ってくれないですよね。

平山 でも、聞く耳をもたせるために使った「男性にも役に立つから」ということを悪用しだす人もいるんです。以前、お会いした女性運動家の方が講演に行った際、男性になんとか話を聞いてもらいたくて、男性の生きづらさについても語ったんですって。そうしたら、逆に「男だってつらいんだから被害者だ」と男性が言い始めて、手に負えなくなったという……。その方は、男性にもジェンダー問題に関心をもってもらおうとすごく頑張っていたのに、逆効果になってしまったことについて、すごく申し訳ないと思っているんです。

雨宮 女性としては、そういう男性にこそ、変わってもらいたいと思っているんですよね。でも、麻生太郎財務相をはじめ、“なぜセクハラはいけないのか”というところから理解できない男性がけっこういます。どんな男性なら、わかってくれるのでしょうか?

平山 ハラスメントや性暴力が起こった際、割とわかっているふうの男性って、「暴力を振るわない僕たちが、暴力を振るう男をなんとかしようモード」になることが多いです。でもおそらく、女性が期待しているのは、必ずしもそこではありません。性暴力事件だけでなく、普通のカップルの間でも、同意のない性交渉などは起きているかもしれないんです。普段男性のしていることが、いかにハラスメントや性暴力と地続きなのかを理解させないといけません。

 今どきの男性って、露骨なセクハラ発言はしないかもしれませんが、「セクハラをするのは異常な男性だけ、正常な僕らは女性の気持ちをわかってあげられる」と「自分だけは大丈夫」と思っている人もいます。でも、本当に考えなければならないのは、普段男性がやっていることが、本当に女性軽視になっていないかということです。例えば、女性軽視のメンタリティという点で、「正常な僕ら」と痴漢をする「異常な男性」は、そこまで違わないかもしれない、ということから考えないといけません。

 少し前に、女性専用車両に乗り込んで女性を攻撃する男性軍団が話題になりましたよね。あれを見て、「なんで私はあの軍団の中にいなかったのだろう?」と思ったことがありました。あの人たちは男性が感じる理不尽さをため込んで、女性を攻撃する方向に行ってしまった人たちです。辛うじて私はそちら側へは行かなかったけど、男性性と折り合いをつけられない私とあの人たちは、ほぼ紙一重だったのではないかなと感じています。何のきっかけで女性を攻撃する側に回るかはわかりません。

――女性専用車両に乗り込んで攻撃する男性と、平山さんの違いは何ですか?

平山 それを次に書こうと思って、まだ考え中です。でも、そういうふうな問いかけをしないと解決しないのではないかなと思っています。

平山 日本は一見近代的に見えるのですが、女性差別のような価値観は変わらないところがすごい国だと思います。しかも、その不当性を訴えることが“ワガママ”という捉え方をされるじゃないですか。「みんな我慢しているのだから、1人だけ言ってはいけない」というところがありますよね。言いづらいし、言いづらい雰囲気を誰も変えてくれない。

雨宮 中国の女性に「日本は先進国だと思ってたのに、日本の女性が世界で一番かわいそうだ」と同情されたことがあります。中国では結婚後も共働きの人が多いですが、男性も普通に家事をするそうです。日本人は中国と同じように共働きも多いのに、女性の負担が大きすぎて、求められるものが多すぎると。

平山 「性差別がおかしい」と言える雰囲気が日本はまだ全然作れていなくて、結局それは男性側の問題です。「女性が困っている」「女性差別は不当だ」という声は散々あちこちにあるわけで、それを「ヒステリーだ」とか「男性のことを理解していない」と、おとしめてきただけ。

雨宮 女性が怒っても、「生理中だから怒っている」とか、「更年期障害だから怒っている」とか、そんな言葉で済まされてしまうので、言うだけ辱められるんですよね。

平山 言えば叩かれ、言わなかったら言わなかったで「別に現状で問題ないってことじゃん」とされてしまう。少し語弊があるかもしれませんが、変な話、そろそろ男性はドMになりましょう。「痛い話」に快感を覚えなくてもいいけど、「痛い話」にわめき立てず、いったん丸ごと受け入れられるようにならないと。

雨宮 でも、それくらいの気持ちになってくれて初めて、ようやくちょっとだけわかったと思える程度ですよね。

平山 そう。ジェンダーの話って、男性に聞こえがいいはずがないんです。だから、なんとか男性に聞かせようと男性の生きづらさや、男性にとっても得なんだよというエピソードを付け加えて聞かせようとしている人もいますが、そもそも論として、男性にとって聞こえのいいジェンダー論って何かおかしいという前提でいたほうがいいです。だから、「耳の痛い話かもしれないけど、一回聞いて」「別に反応したり批評したりしなくていいから、黙って聞いて」と思います。

雨宮 男性にとって一番難しいですね。

平山 そこをなんとか聞かせる方向で頑張りたいですね。

雨宮 男性にとって耳が痛い話って、女性にとってはどういう話になるんですか? 私が男性だったら、おそらく自分が責められているような気分になって、#MeTooにすごくドキドキすると思うんです。怒られる、責められる、自分のキャリアをすべて失うということにおびえているから、逆ギレするような感じになるのではないかと。

平山 私のイメージだと、女性のほうがつらい話が多くないですか? 男性がキャリアを失うのではないかとおっしゃっていますが、この本だって雨宮さんは「書くのが怖かった」と書かれていますよね。女性がジェンダー問題を訴えるのは、別にのびのびとやっているわけではないことを男性はわかっていません。叩かれるかもしれないし、身近な男性から嫌われるかもしれない。女性がジェンダーの話をすると「ワガママを言っている」と言われがちですが、本当は逆で、いろんな恐怖に耐えて言っているので、雨宮さんはすごいと思います。男性の私がジェンダーに関して本を出すのは簡単なんですよ(笑)。

雨宮 そんなことはないです! まず、男性のジェンダー論自体をなかなか聞き出せないですよね。

平山 私が『介護する息子たち 男性性の死角とケアのジェンダー分析』(勁草書房)を書いたとき、男性からは反応が薄かったんです。多分、「痛っ!」って思っているんだけど、言い返さない。黙らせたからOKとは思っていないのですが、少なくとも「男のほうがつらいんだ」と反論されにくいのだとしたら、どんどん男性のほうがジェンダーに関して言わないといけないところがあります。

 でも、これは私も気をつけようと思っているのですが、男性である自分の声のほうが通りやすいから、“救世主”のような気分になってしまう、はた迷惑な男フェミニストも一部います。

雨宮 はた迷惑な男フェミニストでヒロイズムに燃え上がっちゃっている人って、一番厄介かもしれないですね。

平山 ヒロイズムに燃える男フェミニストは、結局“男性がいないとダメな世の中”にせずにはいられない、フェミニストぶった家父長制みたいな感じですよね。理想は「いてもいなくてもどっちでもいい男」だと思います。昔は生存戦略として結婚が必要でしたが、今はうっとうしい男が増えてきて、女性がのびのび生きようとするのを邪魔する。結局、生存戦略的にはいなきゃいけないか、いてくれないほうがむしろ生きやすいか、その両極しかありません。だから、男が「いてもいなくてもい」になって初めて、女性と男性は自由な関係をつくれる。

雨宮 自分の親世代までは、配偶者がいないとなかなか生活ができませんでしたが、「いてもいなくてもどっちでもいい男」を実現するためには、まずは女性が自立できる社会が整っているということですよね。そしたらいつでも別れられますし、シングルマザー=貧困でなくなります。一番いい男は、女性の人生を邪魔しない人ですよね。
(姫野桂)

雨宮処凛(あまみや・かりん)
1975年生まれ。作家、活動家。バンギャル、右翼活動を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』(筑摩書房)でデビュー。自身の経験から、若者の生きづらさについて著作を発表する傍ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ねる。その後、格差や貧困問題について取材、執筆、運動を続ける。『生きさせろ!難民化する若者たち』(同)はJCJ賞受賞。反貧困ネットワーク世話人。著書に『非正規・単身・アラフォー女性 「失われた世代」の絶望と希望』(光文社新書)など多数。

平山亮(ひらやま・りょう)
1979年生まれ。東京大学文学部、同大学大学院人文社会系研究科修士課程を経て、オレゴン州立大学大学院博士課程修了。専門は社会学、ジェンダー論。東京都健康長寿医療センター研究所、福祉と生活ケア研究チーム研究員。現在は中高齢期の親子関係と高齢者介護をテーマに、男性とケア/男性のケアの問題を研究中。主な著書に『迫りくる「息子介護」の時代 28人の現場から』(共著・光文社新書)、『きょうだいリスク』(共著・朝日新書)。

男女の“生きづらさ”の違いとは? 「共に被害者」という主張が強くなっているジェンダー論

 昨年、世界経済フォーラムが発表した、世界各国における男女格差を測る「ジェンダー・ギャップ指数」で、日本は世界144カ国中114位。過去最低だった前年の111位よりさらに後退した。この指数にも表れているような、数々の女性の生きづらさの事例を、作家の雨宮処凛さんは著書『「女子」という呪い』(集英社クリエイティブ)でつづっている。その雨宮さんと、著書に『介護する息子たち 男性性の死角とケアのジェンダー分析』(勁草書房)があり、男性視点でジェンダーを研究している社会学者の平山亮さんに、社会が男女に求める矛盾や男女の生きづらさについて語ってもらった。

■男らしさや女らしさは、周りの人とのやりとりの中で押し付けられていく

――まずは、雨宮さんが考える「女性の生きづらさ」について、あらためて教えてください。

雨宮処凛さん(以下、雨宮) 『「女子」という呪い』の裏表紙の帯にも書いてありますが、「男以上に成功するな」とか、「女は馬鹿なほうが可愛い」とか、「男の浮気は笑って許せ」などと言われ、小さい頃からそうした概念を刷り込まれている一方で、仕事をして自立しつつ、結婚・出産をして家事も育児もするのが当然だとするダブルスタンダードがあります。人間としての幸せと女性としての幸せのラインが分かれていて、どちらを取るかを常に迫られながら、どちらも実現しろという圧力もある。また、結婚によって名字が変わるのも女性というのが、まだまだ一般的です。

 私が特につらかったのは、女同士のマウンティングです。持っているブランドとか彼氏のランクだとか、そのような格付けの同調圧力のようなものに、10代、20代の頃は苦しめられました。また、セクハラであっても、自分のせいなのではないかと口を封じてしまうことがあります。そのようなもの全般が、女性の生きづらさだと思っています。

平山亮さん(以下、平山) 私が雨宮さんの本を読んで鋭いなと思ったのは、男らしさや女らしさは、周りの人とのやりとりの中で押し付けられていくと書かれていることです。ジェンダーの話は、男らしさ規範や女らしさ規範が空から突然降りてくるかのように書かれていることが多いのですが、雨宮さんは、規範を日常生活にしつこく持ち込んでくる誰かがいること、特におっさんが女らしさについてケチをつけてくるのだということを書かれていて、私はとても納得しました。

――平山さんは著書の中で、男性の生きづらさと女性の生きづらさは比較できるものではないと書かれています。この点について、詳しくお聞きしたいです。

平山 多分、自分の意のままにならないことをなんでも「生きづらさ」と言ってしまって、「生きづらさ」という言葉を乱用している人が一部いるんです。社会が求める「男性は家族を養ってナンボ」という男らしさの規範を達成できないことを「生きづらさ」と言っている人がいますが、家族を養ってナンボという規範をよく考えてみると、要は「家族を自分の支配下に置かせたい」ということです。

 だとすると、例えば男女の賃金格差がはっきりあって、男性と比べて女性が1人で生きていくのが難しいという生きづらさと、男性が家族を養ってナンボという規範を達成できないままならなさというのは、少し違っています。生きづらさという言葉が幅広く受け取られることによって、本当は一緒にしてはいけないものまで一緒にしている人がいるということを私は危惧しています。最近のジェンダー論では、「男性も女性も共に被害者である」という主張が、わりと強くなっているように感じます。

雨宮 男女とも被害者であると訴えるほうが、多くの人から支持を受けますよね。

平山 雨宮さんは、そのような傾向をどう考えてらっしゃいますか?

雨宮 この本を出した際のイベントでお客さんに接したとき「男のほうがつらいんだ」とか「男のつらさもわかってくれ」という意見は多くいただきました。でも、そうやって言える男性はまだいいと思います。確かに、男性は、男性にしかされないハラスメントを受けることもあります。例えば上司にキャバクラや風俗への同行を強要される、大量の飲酒を強いられる、上半身裸になるなど宴会芸をさせられたり、靴に注いだビールを飲ませるという会社もありました。本人からすると死ぬほどつらいのに、みんなが笑っているからその空気を壊せない。宴会芸などを喜んでやる男性も中にはいますが、本当につらい人でも「男らしくない」「男のくせに」と黙らされてしまいます。

 とても雑な言い方をすると、男性に求められているものは「働け、稼げ、以上」という感じがします。女性の場合はいろんな道があるからこその生きづらさですが、男性は働いて賃金を獲得しないと生きる価値がないということが前提になった上で、ひとつしかない道の生きづらさです。ひきこもりに男性が多いのも、そのことと関係があるでしょう。だから、生きづらさにおいて比較はできません。「男だってつらいんだ」という反応が来るのはわかりますが、「どっちがつらい合戦」をやっても絶対に答えは出ないでしょうし、それはあまり意味がないことだと思います。

平山 先ほど雨宮さんがおっしゃった、男性にしか起こらないハラスメントのお話で思い出すのが、私の個人的な体験です。私は全然覚えていないのですが、初めて幼稚園に行って帰宅したとき、親に「怖い」と言ったそうなんです。男の子たちは普通に遊んでいるように見えるのだけど、実はすごくお互いを牽制し合って、自分のほうが上であると誇示しようとしていたことを「怖い」と言ったようです。遊びモードの中で相手を抑えつけることが普通に行われていて、笑いに変えてしまっているところがあるので、男性のハラスメントは見えにくいです。

雨宮 平山さんの著書『迫りくる「息子介護」の時代 28人の現場から』(光文社新書)の中で、弱音も含めた介護の話ができる男性同士の友人がいる人もいれば、全くいない、逆に男友達に会うと惨めに思えて傷つくという人もいると書かれていましたよね。なんかすごくわかるというか、親戚のおじさんなんかを含めた年配の男性の会話を見ていると、「俺のほうが偉いんだ」という競争ばかりで、かわいそうになるくらい貧しいコミュニケーションだなと感じます。

平山 コミュニケーションが貧しいし、独り言合戦のようですよね。自分はこういうことを知っている、僕はもっと知っているという話ばかりで、あまり自分がどう思っているかを話すことを訓練されてきていないような。

――そのような男性による牽制は、大きな社会問題にまでなった、日大アメフト部の選手が、監督の指示で関西学院大学の選手に違反タックルをしかけた事件にも通ずるよう思えます。ネット上では、この選手と同様のパワハラ被害者として、元TOKIOの山口達也によるわいせつ事件被害者の女子高生と比較するツイートが話題になっていました。女子高生には「(もう大人なのに)男の部屋に行く女子高生が悪い。自己責任だ」という二次加害が見受けられる一方、選手には「まだ20歳なのにかわいそう」と同情する意見が多いということを並べて、男女の非対称を訴えているのですが。

平山 私はあまりネットに詳しくないので、正しく理解できているかどうかわからないのですが、山口事件の被害者の女子高生と、日大アメフト部の学生を比較できるのだということにびっくりしました。というのは、アメフト部の学生は確かに上からの圧力は受けましたが、加害者になってしまったわけです。けれど、山口事件で被害に遭った女子高生に加害性は一切ありません。女子高生と違反タックルを受けた関西学院大学の学生を並べるのならわかりますが、加害性のない女子高生と日大アメフト部の選手を並べてしまうことが怖いなと感じています。

 これは男女の問題だけではないのかもしれないのですが、「マジョリティ特権」というのは、責任を解除してもらえるというか、自分がやった行為や自分が置かれた状況を説明するための理由を周りが勝手に用意してくれることだと思うんです。だからそういう点で見ると、男性と女性はとても対照的で、男性は「妻の頼み方や言い方が悪いから、家事をやる気がなくなった」と言いますが、女性は「自分の頼み方や言い方が悪いから、家事をしてもらえない」と言います。

雨宮 言い方が悪いからやる気なくなるって、甘え腐ってるというか……。

平山 性犯罪をめぐっても「防御しなかった女性が悪い」というふうに、過剰なまでに全部が自分の責任であるという“主体”にならされる女性と、責任主体にならず「露出の多い格好で歩いていた女性が現れたからやってしまった」というふうに、あくまで男性を“受け身”に置く説明が幅を利かせている。だから、男性の受け身性のようなものは、すごく理解してもらいやすい傾向にあります。そうすると、アメフト部の選手も「上から言われてやらされたんだよね」という共感がすっと降りてくる。だけど、女性の場合そのようなことは許されず、あくまでもその女性の意思とか判断というのが原因に求められます。

雨宮 その通りですね。被害を受けた女子高生のほうは、完全に受け身です。

平山 男性は自分から能動的にやらなければいけないといった規範があるように言われていますが、一般的に男性の行動は、いつも受け身で理解をしてもらえるんです。
(後編へつづく)

(姫野桂)

「障害者について知らないからこそ、怖いと思っていた」社会が変わるために必要なこととは?

 小1~高3までの障害のある子が通う学童保育のような放課後デイサービス「あいだっく」を運営する上田宏樹さんと、障害があるため企業での就労に不安を感じる人たちが雇用契約を結ばずに働ける就労継続支援B型事業所「アプローズ」代表の光枝茉莉子さん。両氏の対談から、障害を持っているがゆえに、放課後の過ごし方においても働き方においても選択肢が非常に限られてしまうという現実が見えてきた。

(前編はこちら:障害者の「選択肢」を増やす――放課後デイサービスと就労継続支援B型事業所がもたらすもの)

■就学と就職の間にある断絶は、本当に溝が深い

 後編は、「いまは、本人の意志と周りの支援があれば民間就職につながる道も確保されるようになりつつある」と話す光枝さんのお話からスタートする。

光枝茉莉子さん(以下、光枝) アプローズでは、障害者によるフラワーアレンジメントサービスを行っていて、主にネット販売用の商品を制作しています。ただ、障害者スタッフがずっと働き続けるための場所を提供しているわけではありません。ウチに来たのをきっかけに就職したいと考えるようになった方、働く自信を持てた方は積極的に動いてほしい。今年で5年目を迎えましたが、これまでに20名以上の方が企業に就職されました。

上田宏樹さん(以下、上田) 就職は、どういうところへ?

光枝 本当にいろいろです。事務職の方もいれば、経験を生かしてお花関連の会社に就職された方もいます。職場によって、お給料の額は大きく変わります。アプローズはB型事業所なので月に数万円にしかならないのですが、就職すれば少なくとも最低賃金以上は支払われます。就職の前後で彼らの能力に大きな変化があったわけではなくて、環境が変わってしっかり働きさえすればお給料がアップするということなんです。だから私たちは、ずっと事業所に囲い込むのではなく、社会に出る背中を後押しするスタイルを目指しています。

上田 僕たちも、就労支援を考えたことがあるんです。就学中はいろんなものに守られていますけど、卒業してからのほうが人生は長いですよね。高校卒業後の“行き場”を考えてあげたいし、それを望まれる親御さんの声もたくさん届いています。

光枝 就学と就職の間にある断絶は、本当に溝が深いですよね。

上田 残念ながら、僕らは就労支援にすぐには取り組めないんですよ。卒業する子どもたちの数は年々増えていくので、中途半端な状態で始めても、就労支援を待つ子どもの数がどんどん増えていくだけなので。でもいずれ、意外な形で彼らの“仕事”を作れればと思っています。自分で収入を得るってことももちろん大事なんですけど、それ以上に、卒業後の“居場所”が必要です。どこにも行けない子がいる。ずっと家にいるしかない。すると親御さんの人生にも影響してしまう……障害があるというだけで、こんなに選択肢のない人生を余儀なくされるってヘンですよね。そこに風穴をあけていきたいです。

 2018年4月、障害者雇用促進法が改正されたことによって、企業の法定雇用率(常用雇用者数に対する障害者の割合)が引き上げられた。光枝さんはこれを、追い風と見ている。

光枝 障害者の雇用に積極的な企業は増えていますし、特に精神障害の方の採用は、これから増加するでしょう。精神障害をお持ちの方の中には、かつて就労経験があって、そのときにスキルを身につけられているケースも多々あります。そうした人たちが職場で困るのは、能力に関することではなく、多くが対人関係やコミュニケーションスキルの問題です。だから、企業側に障害者への理解を浸透させる役割の方が1人でもいて、彼らの日々の不満や不安に耳を傾けてもらえたら、安定して働ける方は多いと思います。なかには、視覚からの情報がインプットされにくい方もいるので、そういう場合は口頭で順を追って説明してあげるとか。一人ひとりの特性を見極めてフォローしてくれる人が企業側には必要です。

 障害者の就労は、障害者の努力のみによってなされるものではない。企業が受け入れ体制を整え、社会全体も変化していくことが必要なのだと、上田さんと光枝さんは語る。障害者は社会の一員なのに社会とつながりにくい、そんな状況を現在進行形で変えている両氏だが、冒頭で紹介した通り、そもそもは障害者について特に考えることなくこれまでの人生の大半を生きてきた。そのお2人の意識の変化は劇的なものではなく、ちょっとした気づきの積み重ねによってもたらされたもののように見える。最後に、社会が、そして個人が変わるためのヒントとなる、上田さんの言葉を紹介しよう。

上田 僕自身、放課後デイサービスをやっているうちに、ずいぶん変わったと思います。以前は、障害者について何も知らなくて、知らないからこそ、怖いと思っていたところもあった。でも、いまはウチに通ってくれている子みんなが、かわいいと思います。彼らの現在についても将来についても、ずっと考えていきたい。放課後デイサービスや就労支援を通して、障害者がどんどん社会とつながっていって、健常者と触れ合う機会が増えれば相互理解が進むだろうし、そこからさらに好循環が生まれるのではないでしょうか。僕らが放課後デイサービスを始めて6年、社会は少なからず変化したと感じています。これから先は、さらに加速度的に変わっていくといいですよね。
(三浦ゆえ)

障害者の「選択肢」を増やす――放課後デイサービスと就労継続支援B型事業所がもたらすもの

「僕はこの事業を始めるまで、障害を持つ子どもと接したことがなくて」
「前職が東京都庁福祉保健局だったのですが、私もそこに就職するまで、障害がある方は身近にいませんでした」

 互いにそう話すのは、放課後デイサービス「あいだっく」を運営する上田宏樹さんと、就労継続支援B型事業所「アプローズ」で障害者によるフラワーアレンジメントサービスを行う光枝茉莉子さん。ともに障害がある子どもや大人を社会につなぐことが事業内容だ……が、ここまで読んですでに「わからない語句がいくつも出てきた」と思われる読者も少なくないだろう。

■障害がある子にも、絵が好きな子もいれば、そうでない子もいる

「放課後デイサービスとは、障害がある子のための“学童保育”のようなところです。学校が終わった子らが過ごす場で、現在は小学1年から高校3年までの約350人が通っています。国の事業としてスタートした2012年に参入したのですが、僕たちはそもそもデザイン会社なので、『子どもたちが自由に絵を描いて過ごせる場を』と考えてスタートしたんです。でも、ちっとも描いてくれなかった(笑)。これは困ったなと思いましたが、彼らを見て初めて、障害がある子にも、絵が好きな子もいれば、そうでない子もいるという当たり前のことに気づけたんです」(上田)

 そこで、サッカーができる、遊びながらパソコンを学べるなど、多様な内容を用意していった結果、好評を博し、あいだっくは18年5月時点で、東京、神奈川に計9カ所の事業所を展開するに至っている。

 一方、光枝さんが立ち上げた「アプローズ」は就労継続支援B型事業所にあたるが、これは障害があって企業で働くことが難しかったり不安だったりする人たちが、雇用契約を結ばずに働ける施設を指している。

「私は都の職員として働いているときに、障害者の就労支援事業、中でも主にB型事業所を担当していました。そこでの課題は、障害者の工賃アップ。でも行政側からの支援は、運営費や工賃アップを目的とした設備整備に対して補助金を出すなどといったものが中心でした。これでは根本的な課題解決にはならないと感じたので、職を辞して、自分で事業所を立ち上げました。障害者が作り、販売するフラワーアレンジメント商品の売り上げから、彼らに工賃を払うという事業モデルです」(光枝)

 アプローズのアレンジメントはインターネット上で販売しているほか、企業や病院からのオーダーを受けて制作されることもある。

「これまでには、首相公邸や議員会館に飾られるアレンジメントを制作したこともあります。働いている障害者のみなさんが自分たちで納品するのですが、納品先で『すごくきれい』『ありがとう』という言葉をかけてもらえると、とてもいい笑顔で事業所に帰ってくるんですよ」(同)

 お2人の事業はジャンルこそ違えど、共通している点が少なくない。そのひとつが、これまでになかった“選択肢”を提供していることだろう。

「この事業を始めるにあたって、僕も放課後デイサービスの前身のようなところをいくつか見学しました。だいたいは自治体や、親御さんたちによるNPOが運営していて、学校が終わってから家に帰るまでの間、障害を持つ子を“お預かり”しているといった感じで、子どもたちはマンションの一室でゲームで遊んだり、本を読んだりして過ごしている。でも、障害がない子たちには、放課後の過ごし方にもっといろんな選択肢がありますよね。友達と遊ぶとか、習い事や塾に通うとか。あいだっくでは絵とサッカーとパソコンができるだけなのでまだまだですが、障害がある子にとっても選択肢は多いほうがいい。子どもが何をやりたいかって、実は親御さんも知らないことが多いんですよ。親が『うちの子は音楽、ぜんぜんダメで』と言っていたのに、文化祭と称して音楽イベントを催したところ、その子がノリノリで楽しんでいた、ってこともありました。経験しないと、わからないですよね」(上田)

 上田さんによると、まさに“習い事”感覚で、曜日ごとに異なる事業所に通っている子どももいるのだという。

「ただ、サッカーは、始める前に悩みましたね。外でスポーツをさせたいという親御さんの声を聞いていながらも、事業所で友達とじゃれていてかすり傷ができただけでも役所に報告しなければならなかったりと、大変なんですよ。ましてスポーツなんて……と躊躇していました。でも、これも子どもにとっては機会損失ですよね。これから2020年のオリンピックに向けて、きっと日本国民全体がスポーツで盛り上がりを見せる。なのに彼らはスポーツをした経験が少ないから楽しめない……それはおかしい! と考えて、最終的にはサッカーができる事業所を作ろうと決断しました」(同)

「上田さんのお話を伺っていて、選択肢が少ないのは就労支援の現場も同じだと感じました。かつて、“措置”という名目で行政が障害者の通う福祉事業所を決めてしまい、本人たちはそこでの仕事を強いられるという時代がありました。その職場でやりたいことに出会えれば幸運ですが、そうでない場合は働く意欲も体力はあるのに、それを生かせる環境で仕事ができない――ということになります。お花屋さんで働くという選択肢も、彼らにはほとんどなかったんですよね。でも私たちがこうした就業の道を生み出したことで、障害のある方がご自身でネットでアプローズを見つけ、『ぜひ働きたい』と連絡を下さるケースも出てきました」(光枝)

 現在は本人の意志と周りの支援があれば民間就職につながる道も確保され始めていて、実際にアプローズを経て就職を果たしたケースがこれまでにいくつもある、と光枝さんは続ける。後編では引き続き、障害者が社会とつながり、働くためには何が必要かを伺う。

(後編へつづく)

男女がわかり合うにはどうすべき? 詩人・文月悠光と男の娘・谷琢磨が語る「セクハラ問題」

 史上最年少の18歳で中原中也賞を受賞し、当時は「JK詩人」として一世を風靡した詩人の文月悠光さん。就活経験もなく恋愛経験も未熟で、世間知らずだと自称する文月さんが綴ったエッセイ『臆病な詩人、街へ出る。』(立東舎)には、JK詩人と呼ばれたことへの戸惑いをはじめ、セクハラ体験や自身の恋愛体験などが赤裸々に明かされています。今回は、普段から女性の格好で日常生活を送り、「女性の格好をするようになって心が広くなった」と語る、ロックバンド「実験台モルモット」のボーカルでイラストレーターの谷琢磨さんとの対談を実現。2人のジェンダー観や、最近世間を騒がせているセクハラ問題について語ってもらいました。

 子育てはチームなので「手伝う」のではなく「当たり前」

――文月さんはこれまで、谷さんのようにセクシュアリティは男性でありながら、女性の格好をしている男性と、接したことはありますか?

文月悠光さん(以下、文月) セクシュアリティに違和感を持って女性の格好をしている方とは接したことがありますが、谷さんのように、女性の格好を楽しみたくて女装をしてらっしゃる方と接するのは初めてです。

谷琢磨さん(以下、谷) 気づけば7年くらい、女性の格好をしています。もともと女装をしたくて始めたわけではなく、お仕事でロリータブランドの服を着る機会があり、やってみたらまた女装のお仕事をいただけるようになったので、完全にビジネスから入りました(笑)。入り口は仕事でしたが、毎日自撮りをしてブログを更新するとなると、常にこの格好をしていなきゃならない。その結果、この格好でいることが当たり前になっちゃったんです。

文月 疲れませんか?

 それが疲れないんです。この自分でいるのが、すごく自然体になってしまって。

文月 自然なことなんですね。なんだか羨ましくなってきちゃいました(笑)。

――谷さんは1歳半の娘さんがいらっしゃるとのことですが、今、育児が大変な時期なのではないでしょうか?

 早朝に娘の往復ビンタで文字通り叩き起こされるので、寝不足です(笑)。昔は地毛のロングヘアだったのですが、娘に引っ張られて抜けてしまうので、バッサリと切り、最近はウィッグをつけています。

文月 けっこう子育てには参加されているのですか?

 そうですね。嫁とはある程度役割分担していて、一緒に育てている感じです。僕は仕事もあるので、仕事の合間にいったん帰って娘をお風呂に入れて、また仕事に出かけるということもあります。

文月 すごい! しっかり分担されているんですね。

――最近は、少し育児に参加しただけで「イクメン」と呼ぶ傾向が嫌だという女性もいますよね。

 そうなんですか。少しでもやったほうが、お母さんは助かると思いますけどね。でも、「手伝う」という意識でやるといけない気がします。手伝っているわけではなく、育てるのはお父さんもお母さんも同じなので、「当たり前」という感じでしょうか。

 でも、自発的にそういう考え方が生まれたというより、自分が育ってきた環境や、お世話になった事務所に教え込まれたことがバックボーンにあるのかもしれません。仕事でも家庭でもそうですが、チームでやっているのだから、「手伝う」という概念でやるのはよくないと言われてきました。「手伝う」という意識では、外部的になっちゃいますから。

――文月さんは著書の中で、コミュニケーションに関してコンプレックスがあると告白されていますよね。谷さんは、何かコンプレックスはありますか?

 ありまくりです! そもそも、コンプレックスの塊が、この女装姿に表れているというか。僕、足のサイズが23cmしかないんです。男性の格好をしていた頃は、自分に合うサイズの靴を探すのも大変でした。社会が求める男性像から自分がかけ離れていたので、それに対して当時はコンプレックスを抱えていました。

 でもあるとき、自分のダメな部分や嫌な部分も磨いていこうと思いました。自分の嫌な部分が前面に出ているのが、今の女装という形なのだと思います。結局、万人に好かれようと頑張るわけではなく、とてもニッチなところで、自分が嫌いな部分を好きになってくれる人がいるんです。そこを伸ばしていく選択肢を採りました。

文月 社会から押し付けられた男性像に乗れない男性たちは、実は多いと思います。それに対する違和感を大半の人は押し殺したり、女性への嫌悪感(ミソジニー)に転じて怒りを女性にぶつけたりする人もいると思うんです。でも、谷さんの場合、嫌われてもいいから少ない人に自分を理解してもらおうと自分を作り変えた。とても強い生き方だなと。

――文月さんは前作のエッセイ集『洗礼ダイアリー』(ポプラ社)で、セクハラを受けたことを綴っていて、今回の書籍でもまた、セクハラについて書かれています。昨年末から#MeToo運動が起こり、福田淳一前事務次官のセクハラ問題と、それにまつわる麻生太郎財務相の問題発言も話題です。なぜ最近こんなにセクハラ問題が起こっているのか、お二人はどう考えますか?

 やはり、セクハラを受けた側が、どんどん言えるようになってきているということですよね。

文月 でも、口を開けるようになってきたからこそ、難しさを感じます。本当はどういう立場であっても「これ、おかしいよね」と言えるのが健全だと思うんです。実際には、被害を受けた側が攻撃されることも多いですし、(告発に対する)受け入れ体制ができている人ばかりではないところに生身で飛び込んでいくのは危険すぎるのではないかと、心配になりますね。

 また、男性側からは#MeTooしにくい面もあり、非対称だなと思います。福田前次官に対して女性記者が告発することができたのは、「同じことを繰り返させてはならない」という使命感のようなものが強かったのだろうと思います。でも、勇気ある行動を取ったにもかかわらず、福田前次官はセクハラの存在自体認めようとしなかった。そこまで女性の心を踏みにじるのか、とあぜんとしてしまいました。二次被害も深刻ですが、今は過渡期なのだと思い、慎重に見守りたいです。

――谷さんは女装をしていて、セクハラや痴漢に遭うことはありませんか?

 痴漢には、ものすごく遭いますね。加害者の中には、男性だとわかっていてやっている人も多いと聞きます。女装仲間と話し合った結果、我々は少し珍しい生き物なので、性的な意味合いではなく、遊園地の着ぐるみを触る感覚で触っているのではないかという結論に至りました。

文月 えっ! それも、ある種の暴力に思えますが……。好奇心によるものですかね?

 好奇心はあるのだと思います。また、男性は女性に比べて、触られることに対してそこまで抵抗のない方が多いのだと思います。

文月 男性は、自分の体と性的な意味が、あまり結びついていないということですか?

 みんながそうとは限りませんが、触られることに関しては性的な意味合いを感じていない男性も多いと思います。だから、結局セクハラ問題も、訴えられる側に男性が多いのはそういう面があるからかと。逆のパターンで女性が男性に対してセクハラをしているというのもあるのではないでしょうか?

文月 たくさんあると思います。

 だけど、男性が告発する案件が少ないのは、それを不快と感じている男性が少ないのかもしれないですよね。

文月 あと、不快だと感じていても、言い出せない土壌があるのかもしれません。同世代の男性から、女性にセクハラを受けたという話を個人的に聞いたことがありました。でも、それを#MeTooできるような空気ではないですよね。

――「童貞はいじってもいい」という雰囲気もそうですよね。

文月 社会の権力構造上は、男性のほうが優位なのに、男性の身体に対して世間の扱いが雑な部分があるのかなと。そういうことを男性はどうのみ込んでいるのだろうという点は気になっています。何も感じていない、疑問に思っていない人が大半なのでしょうか。

 性別という意味合いで分けると、男性って何も行動しないと何も起きないんですよね。女性は男性から良くも悪くもアプローチを受けたり、女性がメイクやファッションで自分を美しく見せることで惹きつけられたりする男性もいます。でも、男性は基本すっぴんだし、女性ほど髪形やファッションのバリエーションがない。行動を起こさないと何も起こらないというのが、自分が男性の格好をしていたときの感想です。積極的な人間ではなかったので、ナンパもできないし、女性に声をかけることもなかったです。

 誤解を受けるかもしれませんが、女性からはセクハラと捉えられても、男性にとっては女性へのコミュニケーションだと思ってやっていて、もしかすると本人は悪気のないパターンもあるでしょうね。

文月 それは非常に多いと思います。

 だから、行動を起こさないと何も起きないという悩みを抱えている男性もたくさんいます。女性の格好をするようになってから、自分は「男性」というものに縛られていたことに気づきました。

――男性と女性がわかり合うには、どうすればいいのでしょう?

 これは多分、わかり合えないから、人類は繁栄しているんですよね。お互いが理解し合える立ち位置だと、興味を持てなくなるというか。

文月 でも、「わからない」って大事だと思います。「わかるでしょ?」と思った途端に、甘えが生じる部分がありそうです。体の仕組みが違う以上、根本的なところを理解してもらうのは難しい。その了解がある上で、じゃあどうやって自分の生きづらさや要望を伝えていくか、というところが重要だと思います。

 そうですね。男性と女性の生活スタイルに差がある以上は、お互いわかり合えないですよね。異性に対する理解は深まらないと思うので、女性がすっぴんで街を歩いて何も起こらない日常を味わったり、男性もスカートをはいて痴漢に遭遇して嫌な思いをしたり、それぞれが男性・女性の生活を体験する日を1日設けたほうがいいと思う(笑)。

 女性は身だしなみからして、男性よりも時間とお金を使っているし、それが気持ちの面で自分に与えている影響はとても大きいです。逆に、男性は寝坊をしたとしても、布団から出て、着替えるだけで外に出られるという日常が、女性にはわからないでしょうし。

文月 そうして互いの立場を体験して、気持ちの部分も含めて理解できれば、異性に対してモヤモヤすることは減る気がしますね。
(姫野桂)

文月悠光(ふづき・ゆみ)
詩人。1991年北海道生まれ。16歳で現代詩手帖賞を受賞。高校3年の時に発表した第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)で、中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を最年少で受賞。詩集に『屋根よりも深々と』(同)、『わたしたちの猫』(ナナロク社)。最近では、エッセイ集『洗礼ダイアリー』(ポプラ社)、『臆病な詩人、街へ出る。』(立東舎)が若い世代を中心に話題に。NHK全国学校音楽コンクール課題曲の作詞、詩の朗読、書評の執筆、詩作の講座を開くなど、幅広く活動中。

谷琢磨(たに・たくま)
切ナ色歌謡ロックバンド「実験台モルモット」コエ担当。女装モデル、タレント、絵描きとして活動。『バイキング』(フジテレビ系)女装コンテスト優勝。『お願い!ランキング』(テレビ朝日系)ゲスト出演。

男女がわかり合うにはどうすべき? 詩人・文月悠光と男の娘・谷琢磨が語る「セクハラ問題」

 史上最年少の18歳で中原中也賞を受賞し、当時は「JK詩人」として一世を風靡した詩人の文月悠光さん。就活経験もなく恋愛経験も未熟で、世間知らずだと自称する文月さんが綴ったエッセイ『臆病な詩人、街へ出る。』(立東舎)には、JK詩人と呼ばれたことへの戸惑いをはじめ、セクハラ体験や自身の恋愛体験などが赤裸々に明かされています。今回は、普段から女性の格好で日常生活を送り、「女性の格好をするようになって心が広くなった」と語る、ロックバンド「実験台モルモット」のボーカルでイラストレーターの谷琢磨さんとの対談を実現。2人のジェンダー観や、最近世間を騒がせているセクハラ問題について語ってもらいました。

 子育てはチームなので「手伝う」のではなく「当たり前」

――文月さんはこれまで、谷さんのようにセクシュアリティは男性でありながら、女性の格好をしている男性と、接したことはありますか?

文月悠光さん(以下、文月) セクシュアリティに違和感を持って女性の格好をしている方とは接したことがありますが、谷さんのように、女性の格好を楽しみたくて女装をしてらっしゃる方と接するのは初めてです。

谷琢磨さん(以下、谷) 気づけば7年くらい、女性の格好をしています。もともと女装をしたくて始めたわけではなく、お仕事でロリータブランドの服を着る機会があり、やってみたらまた女装のお仕事をいただけるようになったので、完全にビジネスから入りました(笑)。入り口は仕事でしたが、毎日自撮りをしてブログを更新するとなると、常にこの格好をしていなきゃならない。その結果、この格好でいることが当たり前になっちゃったんです。

文月 疲れませんか?

 それが疲れないんです。この自分でいるのが、すごく自然体になってしまって。

文月 自然なことなんですね。なんだか羨ましくなってきちゃいました(笑)。

――谷さんは1歳半の娘さんがいらっしゃるとのことですが、今、育児が大変な時期なのではないでしょうか?

 早朝に娘の往復ビンタで文字通り叩き起こされるので、寝不足です(笑)。昔は地毛のロングヘアだったのですが、娘に引っ張られて抜けてしまうので、バッサリと切り、最近はウィッグをつけています。

文月 けっこう子育てには参加されているのですか?

 そうですね。嫁とはある程度役割分担していて、一緒に育てている感じです。僕は仕事もあるので、仕事の合間にいったん帰って娘をお風呂に入れて、また仕事に出かけるということもあります。

文月 すごい! しっかり分担されているんですね。

――最近は、少し育児に参加しただけで「イクメン」と呼ぶ傾向が嫌だという女性もいますよね。

 そうなんですか。少しでもやったほうが、お母さんは助かると思いますけどね。でも、「手伝う」という意識でやるといけない気がします。手伝っているわけではなく、育てるのはお父さんもお母さんも同じなので、「当たり前」という感じでしょうか。

 でも、自発的にそういう考え方が生まれたというより、自分が育ってきた環境や、お世話になった事務所に教え込まれたことがバックボーンにあるのかもしれません。仕事でも家庭でもそうですが、チームでやっているのだから、「手伝う」という概念でやるのはよくないと言われてきました。「手伝う」という意識では、外部的になっちゃいますから。

――文月さんは著書の中で、コミュニケーションに関してコンプレックスがあると告白されていますよね。谷さんは、何かコンプレックスはありますか?

 ありまくりです! そもそも、コンプレックスの塊が、この女装姿に表れているというか。僕、足のサイズが23cmしかないんです。男性の格好をしていた頃は、自分に合うサイズの靴を探すのも大変でした。社会が求める男性像から自分がかけ離れていたので、それに対して当時はコンプレックスを抱えていました。

 でもあるとき、自分のダメな部分や嫌な部分も磨いていこうと思いました。自分の嫌な部分が前面に出ているのが、今の女装という形なのだと思います。結局、万人に好かれようと頑張るわけではなく、とてもニッチなところで、自分が嫌いな部分を好きになってくれる人がいるんです。そこを伸ばしていく選択肢を採りました。

文月 社会から押し付けられた男性像に乗れない男性たちは、実は多いと思います。それに対する違和感を大半の人は押し殺したり、女性への嫌悪感(ミソジニー)に転じて怒りを女性にぶつけたりする人もいると思うんです。でも、谷さんの場合、嫌われてもいいから少ない人に自分を理解してもらおうと自分を作り変えた。とても強い生き方だなと。

――文月さんは前作のエッセイ集『洗礼ダイアリー』(ポプラ社)で、セクハラを受けたことを綴っていて、今回の書籍でもまた、セクハラについて書かれています。昨年末から#MeToo運動が起こり、福田淳一前事務次官のセクハラ問題と、それにまつわる麻生太郎財務相の問題発言も話題です。なぜ最近こんなにセクハラ問題が起こっているのか、お二人はどう考えますか?

 やはり、セクハラを受けた側が、どんどん言えるようになってきているということですよね。

文月 でも、口を開けるようになってきたからこそ、難しさを感じます。本当はどういう立場であっても「これ、おかしいよね」と言えるのが健全だと思うんです。実際には、被害を受けた側が攻撃されることも多いですし、(告発に対する)受け入れ体制ができている人ばかりではないところに生身で飛び込んでいくのは危険すぎるのではないかと、心配になりますね。

 また、男性側からは#MeTooしにくい面もあり、非対称だなと思います。福田前次官に対して女性記者が告発することができたのは、「同じことを繰り返させてはならない」という使命感のようなものが強かったのだろうと思います。でも、勇気ある行動を取ったにもかかわらず、福田前次官はセクハラの存在自体認めようとしなかった。そこまで女性の心を踏みにじるのか、とあぜんとしてしまいました。二次被害も深刻ですが、今は過渡期なのだと思い、慎重に見守りたいです。

――谷さんは女装をしていて、セクハラや痴漢に遭うことはありませんか?

 痴漢には、ものすごく遭いますね。加害者の中には、男性だとわかっていてやっている人も多いと聞きます。女装仲間と話し合った結果、我々は少し珍しい生き物なので、性的な意味合いではなく、遊園地の着ぐるみを触る感覚で触っているのではないかという結論に至りました。

文月 えっ! それも、ある種の暴力に思えますが……。好奇心によるものですかね?

 好奇心はあるのだと思います。また、男性は女性に比べて、触られることに対してそこまで抵抗のない方が多いのだと思います。

文月 男性は、自分の体と性的な意味が、あまり結びついていないということですか?

 みんながそうとは限りませんが、触られることに関しては性的な意味合いを感じていない男性も多いと思います。だから、結局セクハラ問題も、訴えられる側に男性が多いのはそういう面があるからかと。逆のパターンで女性が男性に対してセクハラをしているというのもあるのではないでしょうか?

文月 たくさんあると思います。

 だけど、男性が告発する案件が少ないのは、それを不快と感じている男性が少ないのかもしれないですよね。

文月 あと、不快だと感じていても、言い出せない土壌があるのかもしれません。同世代の男性から、女性にセクハラを受けたという話を個人的に聞いたことがありました。でも、それを#MeTooできるような空気ではないですよね。

――「童貞はいじってもいい」という雰囲気もそうですよね。

文月 社会の権力構造上は、男性のほうが優位なのに、男性の身体に対して世間の扱いが雑な部分があるのかなと。そういうことを男性はどうのみ込んでいるのだろうという点は気になっています。何も感じていない、疑問に思っていない人が大半なのでしょうか。

 性別という意味合いで分けると、男性って何も行動しないと何も起きないんですよね。女性は男性から良くも悪くもアプローチを受けたり、女性がメイクやファッションで自分を美しく見せることで惹きつけられたりする男性もいます。でも、男性は基本すっぴんだし、女性ほど髪形やファッションのバリエーションがない。行動を起こさないと何も起こらないというのが、自分が男性の格好をしていたときの感想です。積極的な人間ではなかったので、ナンパもできないし、女性に声をかけることもなかったです。

 誤解を受けるかもしれませんが、女性からはセクハラと捉えられても、男性にとっては女性へのコミュニケーションだと思ってやっていて、もしかすると本人は悪気のないパターンもあるでしょうね。

文月 それは非常に多いと思います。

 だから、行動を起こさないと何も起きないという悩みを抱えている男性もたくさんいます。女性の格好をするようになってから、自分は「男性」というものに縛られていたことに気づきました。

――男性と女性がわかり合うには、どうすればいいのでしょう?

 これは多分、わかり合えないから、人類は繁栄しているんですよね。お互いが理解し合える立ち位置だと、興味を持てなくなるというか。

文月 でも、「わからない」って大事だと思います。「わかるでしょ?」と思った途端に、甘えが生じる部分がありそうです。体の仕組みが違う以上、根本的なところを理解してもらうのは難しい。その了解がある上で、じゃあどうやって自分の生きづらさや要望を伝えていくか、というところが重要だと思います。

 そうですね。男性と女性の生活スタイルに差がある以上は、お互いわかり合えないですよね。異性に対する理解は深まらないと思うので、女性がすっぴんで街を歩いて何も起こらない日常を味わったり、男性もスカートをはいて痴漢に遭遇して嫌な思いをしたり、それぞれが男性・女性の生活を体験する日を1日設けたほうがいいと思う(笑)。

 女性は身だしなみからして、男性よりも時間とお金を使っているし、それが気持ちの面で自分に与えている影響はとても大きいです。逆に、男性は寝坊をしたとしても、布団から出て、着替えるだけで外に出られるという日常が、女性にはわからないでしょうし。

文月 そうして互いの立場を体験して、気持ちの部分も含めて理解できれば、異性に対してモヤモヤすることは減る気がしますね。
(姫野桂)

文月悠光(ふづき・ゆみ)
詩人。1991年北海道生まれ。16歳で現代詩手帖賞を受賞。高校3年の時に発表した第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)で、中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を最年少で受賞。詩集に『屋根よりも深々と』(同)、『わたしたちの猫』(ナナロク社)。最近では、エッセイ集『洗礼ダイアリー』(ポプラ社)、『臆病な詩人、街へ出る。』(立東舎)が若い世代を中心に話題に。NHK全国学校音楽コンクール課題曲の作詞、詩の朗読、書評の執筆、詩作の講座を開くなど、幅広く活動中。

谷琢磨(たに・たくま)
切ナ色歌謡ロックバンド「実験台モルモット」コエ担当。女装モデル、タレント、絵描きとして活動。『バイキング』(フジテレビ系)女装コンテスト優勝。『お願い!ランキング』(テレビ朝日系)ゲスト出演。

「いい汗かいたぜ!」と労い合う、最高のセックスに必要な「貴様と俺」の男女関係

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『エロ戦記』/スタンダードマガジン

(前編はコチラ)

――前編では、最低チンポの定義について、また菊池さんのチンポ運がいい意外な理由も判明しましたが、後編では、最高のセックスをするためにはどうしたらいいか、お聞かせください。

アルテイシア(以下、アル) コンドームを着けたがらないという最低チンポに対して、「諭す」という話をしましたが、私は最高のセックスをするためには、女がちゃんと男に教えるべきだと思うんです。そしてやはり「授業は楽しく!」というのも大切だと。

菊池 堅苦しい指摘は男性を萎えさせちゃいますからね。

アル 包茎チンポを洗わない男性に対しても、断れずにフェラチオしちゃう女性が多いですけど、「シャワー浴びようよ!」って言えば済むことなんです。手マンが痛い男性や潮吹きに固執する男性に対しても、前戯やピロートークのイチャイチャ中にさりげなく「こうしてほしいな」とリクエストすれば、本人のやる気を引き出せますよ。

菊池 やる気スイッチを押せばいいんですね。なんでもかんでも男性主体で任せちゃうんじゃなく、女性が能動的になることも大切! でも、コンドームをつけないとか、チンポが臭いとか、手マンがヘタという最低チンポは、「楽しい授業で諭す」こともできそうですが、アルテイシアさんは著書で、セックスでイクことを重要視されていると書かれてますよね? 「女をイカセられない」チンポを諭すのは、難しいような気も……。

アル いや! そこは、男性にイカされるのを待っちゃダメだと思うんですよ。そもそも、男性にイカされるってことはないと思った方がいい(笑)。

菊池 あぁ、確かに著書でも「もっと声出した方がいいかなとかエロい表情作ろうとか三段腹になっているのを気にするとか、雑念がオーガズムを妨げている」と書かれてらっしゃいましたね。それらの雑念を捨て、穴に意識を集中させることでイケた、と。

アル 本当に集中している時って、喘ぎ声なんて大して出ないものですからね。

菊池 あのぅ~、今さら言いづらいんですけど、私はセックスでイカなくてもいいんですよ。チンポがマンコに擦れているだけで充分気持ちいいから、イカなくていいんです。今までのセックスでも、イッたことあるのって、せいぜい2回くらいですよ(笑)。

アル ええっ? 私、2013年に入って一番ビックリしたんですけど(笑)。

菊池 オーガズムに固執していない私にとっては、「イッた?」「何回イケた?」ってしつこく聞いてくる男性が最低チンポなんです。

アル そうやって聞くのは、菊池さんが本当にイッてないからですね。女がイクと、男性も中の感覚でわかるみたいですよ。私は、やっぱりイカないと残尿感があるなぁ。それに、女性が本当にイッた方が、男性も悦ぶと思うんですよね。終わった後も、2人で「いい汗かいたぜ!」と言い合うような、「貴様と俺」のような関係が心地良いですし。

菊池 「貴様と俺」感は、私はセックス後のビール飲んでいる時に感じますね。「2012年ヤリマン活動を総括」の回にも書いたんですけど、ノンアルコールでセックスして、その後飲み屋で乾杯ってコースが好きなので。男性と同志のような関係性を築くというのも、最高のセックスに必要かもしれませんね。