ようやく登場した、酔いどれヒロイン・蒼井優! 原作ファンがやきもきする『宮本から君へ』第6話

 世間知らずで、青臭くて、そのくせ自分を曲げることが大嫌いな男。それが『宮本から君へ』(テレビ東京系)の主人公・宮本浩です。大学を卒業し、サラリーマンにはなったものの、まだまだ一人前の大人になったとは言えません。情熱は人一倍秘めているものの、空回りの連続です。そんな未熟な男・宮本の前に、宮本と同じか、それ以上の熱さを持った年上のヒロインが現われました。真ヒロイン・蒼井優が新加入した『宮本から君へ』第6話を振り返りましょう。

(前回までのレビューはこちらから)

 宮本浩(池松壮亮)は都内の小さな文具メーカーに勤める新人営業マンです。周囲から一目置かれる先輩営業マンの神保(松山ケンイチ)は1カ月後に退職することが決まっており、取引先の老舗文具問屋を宮本が引き継ぐことになりました。「会社の名前ではなく、自分の名前で呼んでもらえるようになれ」という神保の教えに従い、一人で営業回りするようになった宮本ですが、なかなか名前を呼んでもらうことはできずにいます。先輩営業マン・神保の大きさを感じてしまう宮本でした。

 恋人だと思っていた美沙子(華村あすか)にはあっさり棄てられ、温厚な上司・小田課長(星田英利)からは「クソ意地を張るのをやめないと、恋も仕事もできへん」と説教され、今の宮本には頼るものが何もない状態です。スマートで愛想のいい大手文具メーカーの営業マン・益戸(浅香航大)に対し、神保の猿まねで応じるしかありません。「毎度!」「宮本です!」「新しい名刺をつくったので、受け取ってください!」。かっこ悪くても、営業熱心な神保スタイルをひとつひとつ学んでいく宮本でした。

 宮本が「神保の猿まねに徹します」と営業先で宣言したことが、ライバル社の益戸は面白くありません。入社1年目の小僧から宣戦布告されたように感じたのです。そんなある日、問屋営業部の安達(高橋和也)から大手製薬会社にロゴ入りのクリアファイル1万セットを納品するという大口の仕事があることを知らされますが、これは益戸がいる業界最大手メーカーとの競合という形でした。どちらがより安く、よりいいサンプルを提案できるかの勝負です。宮本vs.益戸の企業代理戦争の勃発です。

 大手製薬会社への仲介を務める「ワカムラ文具」の営業部長・島貫(酒井敏也)へ宮本は神保と共にあいさつに向かいますが、戦争はすでに始まっていました。宮本たちが形式的なあいさつを済ませたタイミングを見計らって、益戸はわざと遅れて現われるのです。遅れたお詫びとして、益戸は島貫に商品券が入った封筒を差し出します。さらには一緒に昼食はどうかと島貫を誘うのでした。もちろん、商品券も昼食代も、すべて会社の経費扱いです。神保がいちばん嫌う営業スタイルを、益戸は仕掛けてきたのです。島貫の机の上には、宮本の名刺だけが残され、商品券はさっと消えていました。宮本は営業マンとしての自分の無力さを思い知らされます。

■日々刻々と変わっていく男と女の関係性

 新しい営業先で苦渋を味わう宮本ですが、これからの宮本の人生を大きく変える運命の出会いも待っていました。神保に誘われ、神保が新しく立ち上げるコンピュータ会社のメンバーたちと一緒に呑むことになったのです。居酒屋に集まった顔ぶれは、営業担当の神保、プログラマーの重松(板橋駿谷)、重松の会社の後輩女子・広瀬(安藤聖)と中野靖子(蒼井優)です。みんな酒好きで、お銚子を10本まとめて注文するという豪快な呑みっぷりです。ちなみ蒼井優と安藤聖はテレ東の人気番組『おはスタ』の“おはガール”出身です。すっかり大人になったおはガールたちとの宴会は大いに盛り上がるのでした。第1話のお通夜のようだった合コンとはまるで違います。会社の飲み会では、同期の田島(柄本時生)や小田課長に絡んでばかりいた宮本ですが、この夜は気持ちよく酔っぱらうのでした。

 終電はとっくに終わり、帰る方向が同じことから、宮本は靖子と2人で夜道を歩き始めます。靖子によると、いつも自信満々そうな神保も5年前は「仕事が面白くない」と愚痴ってばかりだったそうです。そんな神保に活を入れ、新会社を設立させる決心をさせたのが靖子だったのです。気取りがなく、気っ風のいい年上の女性・靖子に、宮本は美沙子にはない魅力を感じるのでした。

 いつもはクソ意地を張ってばかりいる宮本ですが、靖子の前では不思議なほど安堵感を覚えます。靖子にけしかけられ、ゴミ捨て場に放置されていた自転車を拾い、2人乗りで深夜の東京を駆け抜けていきます。「行け~! 宮本浩!」という靖子の号令のもと、警官すら振り切って全力で自転車を漕ぐ宮本。靖子と一緒なら、暗い夜道をどこまでも走っていけそうな気がする宮本でした。

 原作コミックを読んだファンは、この後の展開に驚いたものです。第1話に登場した美人OLの美沙子が『宮本から君へ』のヒロインだと思っていたら、美沙子は宮本を棄てて途中退場。神保たちの飲み会に参加していた目の細い、おばはんっぽい年上の女・靖子の出番がどんどん増えていき、宮本と濃厚なSEXを交わす関係になっていったからです。原作で初登場した際の靖子はおおよそ美人とは言いがたいキャラでしたが、宮本との付き合いが始まり、靖子はぐんぐんといい女に変わっていきます。運命の女性は意外なところに隠れていたのです。宮本も女性のルックスではなく、内面を重視するようになり、人間的な成長を遂げていくことになります。新井英樹の漫画と、人生は何が待っているのか分かりません。

 原作ファンが気になっているのは、ドラマ版『宮本から君へ』が単行本で全12巻ある原作のどこまでを映像化するのかという問題です。原作で大きな話題を呼んだ宮本と靖子とが2日間にわたって延々とSEXしまくるエロシーンは、テレビで描くことができるのか。また、靖子と宮本は、原作の後半戦でこれまたテレビでは表現不可能なとんでもない事件に巻き込まれます。クリアファイルの納品を巡る益戸との攻防は、原作の前半戦を大きく盛り上げる見どころですが、ドラマ版ではそこがクライマックスになるのか。それとも宮本の暴走パワーを愛する真利子哲也監督は、その先にまで挑戦するのか。原作ファンをやきもきさせる『宮本から君へ』第7話からの展開も見逃せません。
(文=長野辰次)

松ケン、蒼井優の投入は映画化への布石なのか!? リーマン地獄門編に突入『宮本から君へ』第5話

 世界卓球の中継延長のため、深夜2時すぎからのオンエアとなった池松壮亮主演ドラマ『宮本から君へ』(テレビ東京系)の第5話。ド深夜にもかかわらず、キャスティングがすごいことに。先輩営業マンの神保役として松山ケンイチが登場。劇場版『デスノート』の新旧Lの共演ですよ! 宮本のライバルとなる大手文具メーカーの営業マンに売り出し中の浅香航大、すっかり味のある俳優となった元「男闘呼組」の高橋和也、「チンポとポンチ」と楽しげに口ずさむ配送部のおっちゃんにボクシングアニメ『あしたのジョー』の主題歌を歌った尾藤イサオ……。次回からは蒼井優もレギュラー出演します。テレビ東京は『宮本から君へ』の映画化を狙っているのかなと思ってしまうほど、贅沢な配役です。いよいよ池松演じる宮本が営業マンとは何であるかを味わい尽くす、サラリーマン地獄門編に突入した第5話を振り返りましょう。

(前回までのレビューはこちらから)

 前回、大手自動車メーカーの受付け嬢・甲田美沙子(華村あすか)と初SEXしたものの、あっさり棄てられた弱小文具メーカーの新入社員・宮本浩(池松壮亮)。美沙子の職場にまで押し掛けて自分が棄てられたことをしっかりと確認した宮本ですが、帰り道の足取りは重く、なかなか会社に戻ることができずにいました。個人的な所用で帰社が遅くなった宮本を、会社で待ってくれていたのは小田課長(星田英利)です。大雨と失恋で身も心もズブ濡れ状態の宮本を、小田課長は半ば強引に自宅アパートへと誘うのでした。ほっしゃんの笑顔は、落ち込んだ人間のハートに優しく染み込みます。朝ドラ女優がほっしゃんに惚れたのも、何となくわかるような気がします。

 仕事で一人前になるまでは美沙子を抱かないと同僚たちに宣言していた宮本ですが、美沙子に押し切られた形でSEXし、その挙げ句に美沙子は元彼のもとへと走っていきました。モテない人間は「美女と1回でもエッチできてよかったね!」と思うのですが、宮本は美沙子ともうSEXできないことを悔しがっているわけではありません。本気で好きになったはずの美沙子に棄てられたのに、意外と悲しくない自分がいることに気づいたのです。じゃあ、美沙子のことは本気で愛していなかったのかと、宮本はウジウジと自問自答中です。宮本は本当に面倒くさい性格です。

 その点、妻帯者であり、一児の父でもある小田課長は大人でした。部下である宮本の一本気な性格を理解しています。妻の友子さん(ぼくもとさきこ)に用意させた温かい手料理を宮本に食べさせた上で、いつになく厳しい言葉をぶつけます。

「自分しか愛せへん、究極のエゴイスト。それがお前や。お前がそのクソ意地とかクソこだわりを捨てへん限りは、人も愛せへん、仕事もできへん。この先、ずっと同じことの繰り返しや」

 交際相手と別れても自分のことしか考えられない宮本の偏屈さを、ズバリと指摘する小田課長でした。ほっしゃんは、アメとムチの使い方が抜群にうまいです。朝ドラ女優が惚れたのも、何となくわかる気がします。

 ところがまぁ、宮本も意地っぱりです。友子さんが止めるのを振り切って、わざわざ駐車場に置いてある小田課長の車の中で寝ようとするのでした。ついてないときは、とことんついてないもの。小田課長から渡された車のキーを溝の中に落としてしまいます。小田課長夫妻が眠っているアパートに戻ることを良しとせず、寒い駐車場で震えながら夜明けを待つ宮本でした。宮本の長い長い夜は、もうしばらく続きます。

 

■名刺への異常なこだわり。それこそがプロの道!

 

 正月を迎え、宮本は心機一転のために横浜の自宅を出て、ひとり暮らしを始めることにしました。長年暮らした自宅で過ごす最後の夜、ここで『宮本から君へ』の“生みの親”である漫画家・新井英樹が宮本の父親役で登場です。演技経験まったくなしの原作者を口説き落としたのは、青春暴走ロードムービー『ディストラクション・ベイビーズ』(16)で知られる真利子哲也監督です。27年前に誕生した漫画キャラクターの父親役を、原作者に演じさせるという真利子監督のこだわりが感じられます。芝居経験のあるなしや、演技がうまい下手は関係ありません。過剰なまでのこだわりを貫き、現代社会が見失ったものを見つけることがドラマ版『宮本から君へ』のメインテーマなのです。

 好々爺っぽい雰囲気の昭和の父を演じる新井英樹ですが、高校ラグビー部を舞台にした暑苦しい青春漫画『8月の光』(講談社)でデビューした後、文具メーカーに勤めた実体験をベースにした初長編作『宮本から君へ』(同)は若者向け雑誌で「嫌いなマンガ」第1位に選ばれました。さらに『ザ・ワールド・イズ・マイン』(小学館)では漫画史上かつてない大暴走ストーリーを展開させることになります。世間に迎合することなく、己の道を突き進む孤高の漫画家です。そんな暴走漫画家と難役を好んで演じる日本映画界の逸材が小さな呑み屋で肩を並べて日本酒を傾け合うシーンには、形容しがたいムードが溢れています。原作者から力水を授かり、池松演じる宮本の暴走劇はこれから本格化していきます。

 宮本がひとり暮らしを始めたのは、ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』(テレビ東京系)や人気グルメ漫画『孤独のグルメ』(扶桑社)ですっかり有名になった赤羽にある木造アパートでした。山田孝之が役者バカ人生を見つめ直したように、宮本も赤羽から人生を再起動させるのでした。会社でも新しい仕事が待っていました。先輩営業マンの神保(松山ケンイチ)が1カ月後に退職することになり、神保が担当していた老舗の問屋を引き継ぐことになったのです。神保はかなり仕事ができる男です。取り引き担当の安達(高橋和也)に名前を呼んでもらえるようになるまで、何度も何種類も名刺を渡し続けたという伝説の持ち主です。安達の名刺入れは、名前を覚えてもらうために工夫されたさまざまな神保の名刺が収まっていました。両者ともに名刺交換にただならぬこだわりを持っていることがうかがえます。

 問屋の休憩室にて、神保が宮本に営業スマイルのダメ出しをしていると、そこに現われたのは大手文具メーカーに勤務する益戸(浅香航大)でした。あいさつ代わりに、宮本へ接待ゴルフ先で購入したお土産のお菓子を差し出します。せっかくのご好意だからと手を伸ばす宮本に、神保は「宮本、考えろよ~」と笑顔で熟考を促すのでした。好きでもないのに接待目的でゴルフを始めた男が、会社の経費で購入したお菓子(梅ケーキ)を安易に口にしていいのかと。たかが梅ケーキ、されど梅ケーキです。休憩室にサァ~ッと緊張感が走ります。

 大手メーカーの名前を使って要領よく仕事をする営業マンを見習うのか、それとも一人ひとりと地道にコミュニケーションしながら信頼関係を築いて仕事を取る営業マンになるのか。梅ケーキを前にして、宮本は今後の人生の大きな選択を迫られるのでした。

 夭折した天才棋士の生涯を描いた『聖の青春』(16年)など、徹底した役づくりで知られる松山ケンイチですが、今回のような飄々とした、でも胸の奥に熱いものを秘めたリーマン役もいいじゃないですか。主演の池松を立てて一歩引いた芝居が、先輩俳優らしい風格さえ感じさせます。一方の益戸役の浅香航大は元ジャニーズですが、NHK朝ドラ『ひよっこ』の売れない漫画家役などでキャリアを積んできた若手実力派です。自分が何者であるかに悩んでいた宮本は、仕事のできる先輩やライバルの登場によって、自分の立ち位置を客観的に知ることになるわけです。ここからようやく『宮本から君へ』のメインストーリーが始まるのです。

 次回からは宮本にとって“運命の女”となる中野靖子(蒼井優)がついに登場。第6話にして、ようやくメインキャストが揃います。失恋の後、長い長い夜を過ごしていた宮本ですが、もうすぐ新しい夜明けが訪れそうです。
(文=長野辰次)

松ケン、蒼井優の投入は映画化への布石なのか!? リーマン地獄門編に突入『宮本から君へ』第5話

 世界卓球の中継延長のため、深夜2時すぎからのオンエアとなった池松壮亮主演ドラマ『宮本から君へ』(テレビ東京系)の第5話。ド深夜にもかかわらず、キャスティングがすごいことに。先輩営業マンの神保役として松山ケンイチが登場。劇場版『デスノート』の新旧Lの共演ですよ! 宮本のライバルとなる大手文具メーカーの営業マンに売り出し中の浅香航大、すっかり味のある俳優となった元「男闘呼組」の高橋和也、「チンポとポンチ」と楽しげに口ずさむ配送部のおっちゃんにボクシングアニメ『あしたのジョー』の主題歌を歌った尾藤イサオ……。次回からは蒼井優もレギュラー出演します。テレビ東京は『宮本から君へ』の映画化を狙っているのかなと思ってしまうほど、贅沢な配役です。いよいよ池松演じる宮本が営業マンとは何であるかを味わい尽くす、サラリーマン地獄門編に突入した第5話を振り返りましょう。

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 前回、大手自動車メーカーの受付け嬢・甲田美沙子(華村あすか)と初SEXしたものの、あっさり棄てられた弱小文具メーカーの新入社員・宮本浩(池松壮亮)。美沙子の職場にまで押し掛けて自分が棄てられたことをしっかりと確認した宮本ですが、帰り道の足取りは重く、なかなか会社に戻ることができずにいました。個人的な所用で帰社が遅くなった宮本を、会社で待ってくれていたのは小田課長(星田英利)です。大雨と失恋で身も心もズブ濡れ状態の宮本を、小田課長は半ば強引に自宅アパートへと誘うのでした。ほっしゃんの笑顔は、落ち込んだ人間のハートに優しく染み込みます。朝ドラ女優がほっしゃんに惚れたのも、何となくわかるような気がします。

 仕事で一人前になるまでは美沙子を抱かないと同僚たちに宣言していた宮本ですが、美沙子に押し切られた形でSEXし、その挙げ句に美沙子は元彼のもとへと走っていきました。モテない人間は「美女と1回でもエッチできてよかったね!」と思うのですが、宮本は美沙子ともうSEXできないことを悔しがっているわけではありません。本気で好きになったはずの美沙子に棄てられたのに、意外と悲しくない自分がいることに気づいたのです。じゃあ、美沙子のことは本気で愛していなかったのかと、宮本はウジウジと自問自答中です。宮本は本当に面倒くさい性格です。

 その点、妻帯者であり、一児の父でもある小田課長は大人でした。部下である宮本の一本気な性格を理解しています。妻の友子さん(ぼくもとさきこ)に用意させた温かい手料理を宮本に食べさせた上で、いつになく厳しい言葉をぶつけます。

「自分しか愛せへん、究極のエゴイスト。それがお前や。お前がそのクソ意地とかクソこだわりを捨てへん限りは、人も愛せへん、仕事もできへん。この先、ずっと同じことの繰り返しや」

 交際相手と別れても自分のことしか考えられない宮本の偏屈さを、ズバリと指摘する小田課長でした。ほっしゃんは、アメとムチの使い方が抜群にうまいです。朝ドラ女優が惚れたのも、何となくわかる気がします。

 ところがまぁ、宮本も意地っぱりです。友子さんが止めるのを振り切って、わざわざ駐車場に置いてある小田課長の車の中で寝ようとするのでした。ついてないときは、とことんついてないもの。小田課長から渡された車のキーを溝の中に落としてしまいます。小田課長夫妻が眠っているアパートに戻ることを良しとせず、寒い駐車場で震えながら夜明けを待つ宮本でした。宮本の長い長い夜は、もうしばらく続きます。

 

■名刺への異常なこだわり。それこそがプロの道!

 

 正月を迎え、宮本は心機一転のために横浜の自宅を出て、ひとり暮らしを始めることにしました。長年暮らした自宅で過ごす最後の夜、ここで『宮本から君へ』の“生みの親”である漫画家・新井英樹が宮本の父親役で登場です。演技経験まったくなしの原作者を口説き落としたのは、青春暴走ロードムービー『ディストラクション・ベイビーズ』(16)で知られる真利子哲也監督です。27年前に誕生した漫画キャラクターの父親役を、原作者に演じさせるという真利子監督のこだわりが感じられます。芝居経験のあるなしや、演技がうまい下手は関係ありません。過剰なまでのこだわりを貫き、現代社会が見失ったものを見つけることがドラマ版『宮本から君へ』のメインテーマなのです。

 好々爺っぽい雰囲気の昭和の父を演じる新井英樹ですが、高校ラグビー部を舞台にした暑苦しい青春漫画『8月の光』(講談社)でデビューした後、文具メーカーに勤めた実体験をベースにした初長編作『宮本から君へ』(同)は若者向け雑誌で「嫌いなマンガ」第1位に選ばれました。さらに『ザ・ワールド・イズ・マイン』(小学館)では漫画史上かつてない大暴走ストーリーを展開させることになります。世間に迎合することなく、己の道を突き進む孤高の漫画家です。そんな暴走漫画家と難役を好んで演じる日本映画界の逸材が小さな呑み屋で肩を並べて日本酒を傾け合うシーンには、形容しがたいムードが溢れています。原作者から力水を授かり、池松演じる宮本の暴走劇はこれから本格化していきます。

 宮本がひとり暮らしを始めたのは、ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』(テレビ東京系)や人気グルメ漫画『孤独のグルメ』(扶桑社)ですっかり有名になった赤羽にある木造アパートでした。山田孝之が役者バカ人生を見つめ直したように、宮本も赤羽から人生を再起動させるのでした。会社でも新しい仕事が待っていました。先輩営業マンの神保(松山ケンイチ)が1カ月後に退職することになり、神保が担当していた老舗の問屋を引き継ぐことになったのです。神保はかなり仕事ができる男です。取り引き担当の安達(高橋和也)に名前を呼んでもらえるようになるまで、何度も何種類も名刺を渡し続けたという伝説の持ち主です。安達の名刺入れは、名前を覚えてもらうために工夫されたさまざまな神保の名刺が収まっていました。両者ともに名刺交換にただならぬこだわりを持っていることがうかがえます。

 問屋の休憩室にて、神保が宮本に営業スマイルのダメ出しをしていると、そこに現われたのは大手文具メーカーに勤務する益戸(浅香航大)でした。あいさつ代わりに、宮本へ接待ゴルフ先で購入したお土産のお菓子を差し出します。せっかくのご好意だからと手を伸ばす宮本に、神保は「宮本、考えろよ~」と笑顔で熟考を促すのでした。好きでもないのに接待目的でゴルフを始めた男が、会社の経費で購入したお菓子(梅ケーキ)を安易に口にしていいのかと。たかが梅ケーキ、されど梅ケーキです。休憩室にサァ~ッと緊張感が走ります。

 大手メーカーの名前を使って要領よく仕事をする営業マンを見習うのか、それとも一人ひとりと地道にコミュニケーションしながら信頼関係を築いて仕事を取る営業マンになるのか。梅ケーキを前にして、宮本は今後の人生の大きな選択を迫られるのでした。

 夭折した天才棋士の生涯を描いた『聖の青春』(16年)など、徹底した役づくりで知られる松山ケンイチですが、今回のような飄々とした、でも胸の奥に熱いものを秘めたリーマン役もいいじゃないですか。主演の池松を立てて一歩引いた芝居が、先輩俳優らしい風格さえ感じさせます。一方の益戸役の浅香航大は元ジャニーズですが、NHK朝ドラ『ひよっこ』の売れない漫画家役などでキャリアを積んできた若手実力派です。自分が何者であるかに悩んでいた宮本は、仕事のできる先輩やライバルの登場によって、自分の立ち位置を客観的に知ることになるわけです。ここからようやく『宮本から君へ』のメインストーリーが始まるのです。

 次回からは宮本にとって“運命の女”となる中野靖子(蒼井優)がついに登場。第6話にして、ようやくメインキャストが揃います。失恋の後、長い長い夜を過ごしていた宮本ですが、もうすぐ新しい夜明けが訪れそうです。
(文=長野辰次)

ラブホで人生哲学する俳優・池松壮亮の真骨頂! 理不尽さに満ちた世界『宮本から君へ』第4話

 若手演技派男優として、真っ先に名前が挙がるのが池松壮亮です。R指定映画『愛の渦』『海を感じる時』(ともに13年)では門脇麦、市川由衣を相手に過激な濡れ場を演じて話題を呼びました。演技面できっちりリードするので、共演女優たちからは信頼されています。官能系映画で汗を流す一方、時代の流れに迎合できずにいる現代の若者像をナイーブに描いた石井裕也監督の『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(17年)でも主演しています。ベッドで腰を振りながら、自分が生きている意味を模索し続ける俳優、それが池松壮亮です。社会人1年生の宮本浩が恋に仕事に全力で悩む『宮本から君へ』(テレビ東京系)はそんな彼にぴったりの深夜ドラマです。ヒロインとのベッドシーンが用意された第4話を振り返ってみましょう。

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 宮本浩(池松壮亮)は都内の小さな文具メーカーに勤める新人営業マンです。通勤電車で顔を合わせる大手自動車メーカーの受付嬢・甲田美沙子(華村あすか)と仲良くなり、職場近くのカフェで早朝デートするようになりました。初キスは済ませましたが、初SEXはまだ。友達以上恋人未満という微妙な距離感を、宮本は悶々としながらも楽しんでいるようです。

 出社前から宮本と美沙子がイチャイチャしている光景を見かけた宮本の同僚・田島(柄本時生)は、「お前はええのう。おもろない生活から逃げ道ができて」とついつい嫌味のひとつも言いたくなります。営業マンとしてはまだ半人前であるのは宮本も一緒です。美沙子と過ごす時間を心の支えにしながらも、「美沙子=逃げ道」という田島の指摘が気になってしまいます。美沙子とエッチしたい。でも美沙子への欲望は純粋な愛情ではなく、仕事にやりがいを見出せない現実からの逃避なのかと宮本は思い悩むのでした。

 第1話に続き、昭和感漂う居酒屋「酔の助」での呑み会。職場の仲間たちと呑んでいても、やっぱり宮本の顔は浮かないままです。美沙子との交際がスタートしたのに、美沙子を抱くのは自分が営業マンとして一人前になってからと宮本は決めています。妙にストイックな宮本に対し、「何べんでもSEXすればいい。人間のすることに完全なんかない。気持ちは後から付いてくるよ」と上司の小田課長(星田英利)は優しく諭します。でも、意地っ張りな宮本はついつい反論してしまうのでした。「人間なら完全になれると信じたいです。やってみなくちゃ、分からないでしょ!?」と酒の席でシャウトするのでした。

 美沙子とのデートの日が訪れました。渋谷のバーで、2人っきりの時間を過ごす宮本と美沙子。この日の美沙子はいつになく積極的でした。「宮本さんは紳士なの? けだもの?」「私は淑女なの? それとも……」。何度も何度も思わせぶりな「今夜はOKだよ」サインを発する美沙子でした。でも、美沙子とのSEXをつまらない仕事の逃げ道にしたくない宮本は、美沙子の甘い誘いになかなか乗ってきません。ついに業を煮やした美沙子は「今夜は帰らないって、家族には言ってきたから」と男が断れない最後の決め台詞を吐くのでした。

 美沙子は分かりやすい女です。学生時代から付き合ってきた彼に振られて間もない美沙子は「私を捕まえて。私、宮本さんを逃げ道にするから」と堂々と言い放ちます。元彼のことを忘れるくらい強く激しく愛してほしいと、宮本のハートと股間に剛速球を投げ込みます。ここまで女に言わせたら、もう宮本も帰るわけにはいきません。「行くぞッ!」と取って付けたような男らしさでラブホに向かうのでした。

■未練がましい? 最初で最後となる美沙子のいる職場への訪問

 

 ラブホではバスローブ姿になった美沙子が、ベッドで待っていた宮本の横に座り、しなだれ掛かります。自身の男性器が勃起していることを確認した宮本は、美沙子のバスローブを剥ぎ取りました。美沙子の巧妙なマインドコントロールによって、宮本はあっさり「一人前になるまで美沙子は抱かない」という自分への誓いを破ってしまいます。宮本との初SEXを済ませ、満足したのか美沙子は大きな鼻息を立てながら、ぐっすりと眠っています。美沙子の寝顔を見つめながら「……けだもの」と呟く宮本でしたが、ようやく美沙子と身も心も繋がったという充足感も感じているのでした。

 美沙子と一線を越える仲になったも束の間、宮本は天国から地獄へと突き落とされます。宮本を地獄送りにしたのは、誰であろう美沙子に他なりません。毎朝、一緒に電車通勤していたのに、いきなり美沙子は姿を見せなくなったのです。考えられる理由はひとつです。日曜日に短大時代のサークルの集まりに参加すると話していた美沙子は、元彼も来るかもしれないけど……と宮本にお伺いを立てていました。美沙子と初SEXしたばかりの宮本は、「行けばいいよ」と男の寛容さを誇示したのですが、これが命取りでした。「私を捕まえて」と美沙子が言っていた言葉の重みを反芻する宮本ですが、今さらもう手遅れです。

 元彼はそんなにいい男なのでしょうか? 宮本とは比べものにならないくらの高給取りなのでしょうか? 宮本よりも抜群にSEXがうまいのでしょうか? 宮本は美沙子に棄てられたという現実を直視することができず、美沙子に電話をかけることすらできません。美沙子と音信不通になって数日後、駅で美沙子を宮本は見かけますが、美沙子は無言のまま目を合わせようとしません。美沙子の乗った電車を宮本はみっともなく追いかけるものの、無情にも扉が閉まった電車は遥か遠くへと去っていきます。

 翌日の朝方、美沙子からメッセージが届きました。元彼から「やり直したい」と言われたそうです。「自分勝手で本当にごめんなさい」と綴られたメッセージだけでは、どうにも宮本の心は落ち着きません。土砂降りの雨の中、美沙子の勤める大手自動車メーカーの本社を訪ねる宮本でした。もちろんアポなしです。エントランスで大きく深呼吸した宮本は、美沙子のいる受付けへと進んでいきます。「僕の名前は宮本浩です!」「用はありません!」「さようなら!」。短い3つのフレーズに、自分の思いの丈を存分に込めて叫ぶ宮本でした。この奇妙で愚直な宮本の行動を、受付嬢である美沙子は「はい」「ありがとうございました」と懸命に泣くのをこらえながら対応するのでした。

 最後にお辞儀しながら、宮本は美沙子に見送られます。このお辞儀は、真っすぐに生きることを何よりも尊んだ青春時代との別れの挨拶でもありました。宮本は元彼のもとに走った美沙子への怒りよりも、美沙子の逃げ道にすらなれなかった自分の器の小ささに対する不甲斐なさでいっぱいです。美沙子を大切に思うあまりSEXを控えていた宮本は、美沙子に押し切られてSEXしますが、その直後に棄てられてしまいました。何という不条理でしょう。この世界は理不尽さに溢れています。でも、そんな理不尽さのひとつひとつを、社会人1年生の宮本はこれからも噛み砕きながら前へ進んでいくしかありません。

 これにて『宮本から君へ』の序章は終了。次回からはカリスマ営業マンの神保(松山ケンイチ)が登場し、宮本にサラリーマン稼業の真髄を叩き込むことになります。原作者である漫画家・新井英樹も宮本の父親役で出演するようです。いよいよ本章が幕を開ける『宮本から君へ』第5話は要チェックです。
(文=長野辰次)

 

池松壮亮の役者バカぶりがさらに激しさを増す!! 美人OLと現実逃避の旅『宮本から君へ』第3話

 社会のルールを守ることは大人の常識ですが、ルールに縛られすぎていては生きていくことが面白くも何ともありません。退屈な社会のルールなら平然と破ってしまう男、それが宮本浩です。新井英樹原作コミックのTVドラマ化『宮本から君へ』(テレビ東京系)を観ていると、裸になった池松壮亮がサウナ風呂のロウリュのような熱風をテレビの中からこちらに向けて吹き込んできます。テレビを観ているだけなのに、視聴者の心は汗だくです。池松演じる宮本の熱さがますますヒートアップした『宮本から君へ』第3話を振り返りましょう。

(前回までのレビューはこちらから)

 都内の弱小文具メーカーに勤める宮本浩(池松壮亮)は仕事や生きることに価値を見出すことができずに悩んでいます。大手自動車メーカーの受付嬢である甲田美沙子(華村あすか)と朝の通勤電車で会話を交わすことだけが唯一の楽しみです。美沙子に会うために、毎日出社しているようなものでした。社会人になって初めての秋。24歳になった宮本は美沙子からマフラーをプレゼントされます。美沙子ともっと深い仲になりたいと願う一方、今のお友達づきあいも壊したくありません。恋に仕事に、宮本は宙ぶらりんな状態でした。

 11月の終わりの金曜日、いつになく美沙子が駅に姿を見せません。そろそろ電車に乗らないと会社に遅刻してしまうなというタイミングで、ようやく美沙子は現われました。でも、いつもとちょっと様子が違います。宮本の手を握って「どこか行きませんか、会社をサボって。海とか……」。美沙子がどこまで本気なのか、冗談を言っているだけなのか、宮本は女心を計りかねてしまいます。

 電車の発車メロディが流れ、意を決した宮本は美沙子と共に会社とは反対方向へ向かう電車に乗り換えるのでした。社会人1年生として仕事のルールを学ぶことに明け暮れていた毎日が、美沙子と会社をサボったことで刺激的でロマンティックな、非日常的な世界へと変貌していきます。

 原作コミックが連載されたのは1990年代前半。サラリーマンたちはバブルの世を謳歌していましたが、まだ当時はケータイ電話が一般には普及していませんでした。ある意味、その頃のサラリーマンは会社からも恋人からも首輪を繋がれていない時代でもあったわけです。時代設定は明確にされていないTVドラマ版『宮本から君へ』ですが、宮本も美沙子もケータイ電話は持っていないようです。会社に「急にお腹が痛くなりました」「身内に不幸があったので」などバレバレな嘘電話をすることなく、2人は外房あたりの海へと繰り出していきます。

 ガラガラの電車の中、美沙子と2人っきりという駆け落ち気分を宮本は味わい、見知らぬ駅で買った駅弁を半分っこします。美沙子から「あーん」してもらい、宮本はサイコーの浮かれ具合です。これが政治家や官僚なら「ハニートラップかな?」と疑わなくてはいけませんが、小さな文具メーカーの平社員である宮本は、浮かれたい放題に浮かれるのでした。まだ何者にもなれずにいる宮本は、その分だけとても自由な生き物です。

 駅弁で食欲を満たした後は、浜辺に出て海を眺める宮本と美沙子でした。平日の海には2人以外に誰も人影がありません。流木に腰掛けた宮本は、隣にいる美沙子の肩を抱き寄せようとしますが、誤って美沙子の頭を叩いてしまいます。「なんで叩くんですか!?」とちょっと怒った美沙子がサイコーにかわいく思えてきます。「肩を、肩を(抱くつもりがね)……」と言いよどむ宮本の言葉尻を美沙子は繋いで「肩を、ちょっと貸してくださいね」としなだれ掛かります。ついに宮本は惚れた女を手中に収める瞬間を迎えたのです。

 

■華村あすかのたどたどしさが男心をくすぐる!?

 

 美沙子が会社をサボって海を見たがったのには、明確な理由がありました。残念ながら、宮本とデートがしたかったわけではありません。昨晩、交際していた彼と別れ、思いっきり泣くために海を訪れたのでした。宮本はそれに付き合わされていたのです。美沙子からそのことを知らされた宮本は、座っていた流木からまるでワイヤーで引っ張られたかのように後方へビョ~ンと跳び退きます。後ろ跳び世界選手権があれば、確実にメダルを獲得したことでしょう。ここからの宮本は尋常ではない行動に移ります。いよいよ、アブノーマルパーソン・宮本の本領発揮です。

 おもむろにスーツを脱ぎ出した宮本は、パンツ一丁になります。「付き合っている人がいたこと、隠すつもりはなかったんです」と謝る美沙子を浜辺に残し、波が高い海へ狂ったように駆け出す宮本。どうやら失恋で気落ちしている美沙子の心のスキに付け込んで、エロい関係になろうとしていた自分自身が許せないようです。会社はズル休みしたくせに、自分の頭の中にある恋愛哲学には厳格な宮本でした。「甲田美沙子がフツーの奴に捨てられちゃダメだろ!」「泣くなら、ひとりで泣け!!」と波にさらわれながら、ズブ濡れになった宮本は叫び続けます。宮本の叫び声は波の音に掻き消され、半分も美沙子の耳には届きません。美沙子は宮本の言動に励まされたというより、むしろあっけにとられています。きっと美沙子は「男はみんなバカだ」と痛感したに違いありません。

 季節はずれの海で寒中水泳に励んだその夜、宮本は同期入社の田島(柄本時生)のアパートを訪ねました。会社をサボった宮本のために、田島は2人分のナポリタンを作ってやります。「人間ひとり、大した意味もっとらんて。つまらん意地を張っとったら後悔するぜ」と助言する田島に向かって、宮本は「でも人間に意味なし、なんて思ってないだろう?」と聞き返すのでした。「それ、本気で聞いとる?」と答えるときの田島、いや柄本時生の人生を半分達観したような表情がすごくいいんですよ。

 週明けの月曜、出社した宮本は無断欠席したことで岡崎部長(古舘寛治)から小言を言われますが、小田課長(星田英利)や田島がフォローしてくれたお陰で思いのほかあっさりと解放されました。こんなことで激怒していては、新入社員がいなくなってしまうからでしょうか。宮本が勤める文具メーカーは、良くも悪くも緊張感というものがありません。でも、美沙子と一緒にズル休みしたことで、2人の心の距離は確実に縮まりました。終業後も美沙子と待ち合わせて、アフターファイブを楽しむようになります。あの日以来、美沙子は髪型を変え、香水も変えました。「(彼と別れて)ひと月も経っていないのに、薄情でしょう?」と笑いながら宮本と夜の街をデートする美沙子。気が付けば、東京はもう初冬。夜風に震える美沙子のために、宮本は彼女からプレゼントされたマフラーを手渡します。宮本の体温をマフラーごしに感じる美沙子でした。

 美沙子が「東京でいちばん好きな場所」という神宮外苑のベンチに腰掛ける2人。短い沈黙の後、宮本は「甲田さん、本気で好きになるよ」と低い声で囁き、美沙子と唇を重ねます。友達の関係から初キスまでずいぶん回り道しましたが、会社を1日ズル休みした収穫がようやく実ったのです。

 宮本の憧れのヒロイン・甲田美沙子を演じる華村あすかは、本作がデビュー作となる山形出身19歳の新人女優です。まだお芝居はうまくありませんが、たどたどしい感じが逆に「守ってあげたい!」という男心をくすぐるタイプのようです。所属事務所はかつて石田ゆり子・ひかり姉妹らが活躍したボックスコーポレーション。先輩女優たちと同様に小悪魔的な魅力をこれから発揮していくことでしょう。それにしても、美沙子に振り回される宮本に徹底的になりきる池松壮亮の熱いこと熱いこと。番組エンディングに流れたメイキング映像を見ると、本当に波に呑まれて海難事故になるギリギリまで芝居を続けています。ハードな撮影続きで「何回か記憶が飛んだ」そうです。原作で描かれた宮本の熱さに真っ正面からぶつかっていく池松の役者バカぶりは、一体どこまでエスカレートしていくのか。宮本&池松のクレージーさにますます拍車が掛かる第4話も楽しみです。
(文=長野辰次)

“据え膳”を食べない独自美学に酔う池松壮亮! 自己チュー男のこだわり『宮本から君へ』第2話

 経済効率が最優先される現代社会において、いちばん真逆な方向へ突き進んでいるのが宮本浩という男です。大学を卒業して、小さな文具メーカーの営業マンとして働き始めた宮本ですが、彼のやることなすこと無駄だらけです。漫画家の新井英樹が漫画家デビュー以前に文具メーカーに勤めていた体験をベースにした同名コミックのドラマ化『宮本から君へ』(テレビ東京系)は、そんな無駄だらけの男・宮本の青春の日々が描かれます。深夜0時52分からのオンエアにもかかわらず、主演俳優・池松壮亮の宮本になりきった暑苦しい演技に感化された視聴者は少なくないようで、第1話の視聴率は「ドラマ25」枠の初回としては過去最高となる2.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)という好記録でした。第2話はどうでしょうか?

 大手自動車メーカーに勤める甲田美沙子(華村あすか)たちとの合コンに臨んだ宮本浩(池松壮亮)でしたが、テーブルに置かれたフルーツポンチの鉢の中に“宮本”と名前の書かれたコンドーム(開封前)が落ちたところで第1話は終わりました。いまどきの婚活パーティーだったら「宮本さんったら、準備よすぎ!」と爆笑ネタになるのでしょうが、大学を出たばかりの宮本はギャグに転嫁させることができません。毎朝、美沙子と通勤電車の中で会話するのを楽しみにしていた宮本ですが、フルーツポンチ事件の後は気まずくて、出社時間をずらしていました。職場でも同僚たちから「宮本」ではなく「ポンチ!」と呼ばれるようになり、散々な毎日です。

 美沙子のことで頭がいっぱいな宮本は、仕事でも大ポカをやってしまいます。京橋のお得意先である文具店に2カ月間顔を出していなかったことが部長の岡崎(古舘寛治)にバレてしまったのです。京橋の文具店へ詫びにいく宮本でしたが、店長(綾田俊樹)は説教を滔々と垂れるものの、目すら合わせてくれません。ここで何と宮本は「人と話すときは相手の目を見て話してはどうですか?」と説教返しをするのでした。自分の職務怠慢ぶりを棚に上げて、お得意先の態度を平気であげつらう宮本。シリーズ後半から爆発することになるクレージー営業マンの片鱗さを早くも感じさせます。

 当然ながらこの一件も岡崎部長の耳に入り、今度は小田課長(星田英利)に付き添われて再び謝罪に行くことになります。多分、小田課長も別にこの会社が好きで入ったわけじゃないはずです。でも、人生経験が豊富な分、小田課長は世間知らずの新人・宮本に対してもすっごく寛容なのです。一緒に詫びに行くのにイヤな顔ひとつせず、「営業マンはみんな、俺のために命を投げ出してくれる」と自慢げに語る店長を懸命にヨイショしまくります。部下思いの小田課長の熱心さにほだされ、宮本もぎこちないながらに店長の太鼓持ちに徹するのでした。合コンの席と違って、宮本はホッとします。見習うべき先輩がここにいました。ちっぽけな会社に勤める小田課長が、とても頼もしく思えるエピソードでした。

 謝罪の帰り道、煙草をふかしながら小田課長は、愛想笑いもできない愚直すぎる宮本を「わかってて、損するのは利口やないなぁ」と関西弁でやんわりと諭すのでした。仕事はつまんなくても、こういう情の深い上司や先輩がいたら、ついつい職場って居着いてしまうものですよね。チュパチャップス時代からずいぶん時間は掛かったけど、ほっしゃんって脇役俳優としていい味出すようになったなぁと、しみじみさせるシーンです。ところが、後輩の尻拭いで無駄な時間を費やしたほっしゃん、いや小田課長に対して、「(損な性格の自分たちを)かっこいいと思っているんですよー」と笑顔で返す宮本は、途方もない大バカ者です。

■いまいちな女の子が、無性に愛おしく思えた瞬間

 

 前回の合コンでは、駅のホームで面識のない美沙子に声を掛けた宮本のことを「すごいと思う」とうっとりした表情で語っていた暗くて地味な女の子・裕奈(三浦透子)に、宮本は夜の渋谷駅でばったり遭遇します。同居しているお姉さんの彼氏が遊びに来る日なので、大して好きでもない映画を観て時間を潰していたそうです。どちらからともなく、夜の街へと流れていく2人。バーで慣れないカクテルを口にした裕奈は、いつになく上機嫌です。美人偏差値の高い美沙子は口説き落とすのに手間ひまが掛かりそうですが、宮本に気があることが痛いほどわかる裕奈は、鼻毛を抜くよりも簡単に落ちそうです。あくまでも理想の女性への一点勝負か、それともハードルの低い女の子で手を打つのか。夜のバーで宮本は自問自答し、気持ちよく酔っぱらうことができません。

 バーを出たときは、すでに終電間際でした。急いで駅に向かえば終電に間に合うのに、裕奈は帰ろうとしません。酔いに任せて宮本と手をつなぎ、「私、今まででいちばん楽しい日です」とはしゃいでいます。宮本はとうとう裕奈を連れて、ラブホテルへと入ってしまいます。薄っぺらなバスローブに着替え、同じベッドに入る2人ですが、悶々とした時間だけがジリジリと流れていきます。眠れずにいる裕奈は宮本が頼んでもいないのに、小学校時代の思い出話を始めます。学級会で裕奈は何度か議題になったという、まったくエロさを感じさせない話題でした。クラスでイジメに遭っていた裕奈は、担任の教師から「彼女もみんなと同じ人間なのよ」と言われ、クラスメイトたちは泣きながら謝罪したそうです。

 無駄に熱い男・宮本はベッドの中で呟きます。「それって、何か悔しいよね。そんなところで謝るのなら、最初っからいじめるなよって」と返す宮本に、裕奈は「優しすぎますよ、宮本さん」と微笑むのでした。エロさをまるで感じさせない女の子・裕奈が無性に愛おしく思えた瞬間でした。思わず、宮本は裕奈のことを抱き寄せてしまいます。

 この後、宮本はてっきり裕奈と朝までエッチしたんだろうなぁと思っていたら、出社した宮本の言動を見る限りではエッチはしていないそうです。据え膳に手を出さずにラブホから会社に出社した自分のことを「立派! よく耐えた!!」と自画自賛する宮本でした。処女を奪ってほしかっただろう裕奈の心情はまったく無視され、「自分が惚れた女以外とはエッチしない」という中学の頃からの独自の哲学を貫いた宮本がニヤニヤしながら鼻血を流す姿がカメラに映し出されます。宮本は優しそうに見えて、超弩級な自己チュー野郎です。

 ラブホで裕奈と朝までハグしあい、京橋の文具店への謝罪も済ませ、いつになく充実感で満たされる宮本でした。客観的に見れば、恋も仕事も何ひとつ成果を上げていないのですが、本人はそのことに気づいていません。でも、こういうポジティブ思考の人間って、往々にして幸運を呼び込んでしまうものです。今度は大物です。夜の街で、美沙子とばったり遭遇するのでした。

 合コン以来となる久々の再会でしたが、夜の雑踏の中でも美沙子は3D映像のように宮本の目にグ~ンと飛び込んでくるのでした。しかも、同期入社の田島(柄本時生)から「ポンチ!」と宮本が呼ばれていることから、美沙子は「ポンチじゃ、かわいそう」と笑ってフォローしてくれるではありませんか。フルーツポンチ事件のことは水に流してくれるそうです。しかも、「電車の中で学校時代のことを話す宮本さんはすごく生き生きした表情をしていて、そういう宮本さんをいつも見ていたい」とまで語っています。美女が気まぐれに発する思わせぶりな台詞に、どれだけ数多くの男たちが舞い上がった挙げ句に轟沈したことでしょう。

 田島が気を利かせて去ったその夜、宮本にはまだツキが残っていました。駅での別れ際、美沙子は通行人に押され、宮本の胸の中へと倒れ込んできたのです。宮本の鼻先に、美沙子のうなじ部分がありました。このときの宮本には美沙子が愛用している香水プアゾンが、彼女のフェロモン臭に感じられたに違いありません。もう迷うことなく、美沙子にロックオンです。

 次回の宮本は美沙子に誘われて会社をサボり、海へと繰り出します。回り道ばかりしている宮本は、ついに「エッチするのは惚れた女だけ」という中学以来の大願成就を果たすのでしょうか? 無駄だらけの宮本ですが、どうやらそんな無駄な部分にこそ、その人の人間性が色濃くにじみ出るようです。経済効率に反して、損をして得をする男・宮本の独自哲学がさらに炸裂する第3話も見逃せません。
(文=長野辰次)

世界一うざい男・宮本はもう1人の自分なのか!? 恋も仕事も失敗だらけ『宮本から君へ』第1話

 常にクールでスマートでいることが求められる現代社会において、そこからいちばん遠い遠い存在が宮本浩という男です。新井英樹の同名コミックを原作にしたドラマ24『宮本から君へ』(テレビ東京系)の主人公・宮本浩は、とにかく暑苦しくて、面倒くさいことこの上ありません。中小企業に就職した社会人1年目の宮本は、恋に仕事に100%全力でぶつかり、そのたびに七転八倒します。そんな超うざいキャラクター・宮本役に、若手演技派の筆頭格である池松壮亮。脚本・演出が暴力青春映画『ディストラクション・ベイビーズ』(16)で注目を集めた新鋭・真利子哲也監督というタッグで、1クールにわたってオンエアされることに。モヤモヤモヤ~とした寝苦しい3カ月間になりそうですね。

 原作コミックは1990~94年に青年漫画誌「モーニング」(講談社)で連載され、バブル景気で浮かれまくっていた世相に、冷や水を差しまくるような異質な内容でした。小さな文具メーカーの営業部に配属された宮本(池松壮亮)の真っすぐすぎて、超かっこ悪い、痛~い青春の日々が描かれます。

 さて、テレビ版第1話のオープニング、駅のホームで電車を待つ若いOLの姿が映し出されます。宮本にとって憧れの女性となる甲田美沙子(華村あすか)の登場です。入社1年目で仕事が楽しくない宮本は、朝の通勤時に見かける美沙子だけが毎日の楽しみでした。電車の中で同僚たちとの会話を盗み聞きし、美沙子は大手自動車メーカーの受付嬢であることが判明。超美人な美沙子は、ちっぽけな文具メーカーに勤める宮本にとっては高嶺の花。さりげなく声を掛けたいけど、きっかけがつかめません。自分の持てる欲望と情熱をどう形にすればいいのか分からない宮本浩、22歳の新人営業マンでした。

 宮本のうざったさがむっちりみっちりと描かれたのが、職場の同僚たちと繰り出した居酒屋シーンでした。小田課長(星田英利)の面倒見のよさに甘え、愚痴をこぼしまくる宮本。「学校に行ってるうちはよかった。学校を出たら、夢も自信もなくなったなぁ~」と上司に向かってタメ口で愚痴るダメダメな宮本でした。「学校出たらから失う自信を、何か持ってたん?」と関西弁でやんわりと宮本に釘を刺す小田課長ですが、酔っぱらった宮本には馬の耳に念仏でした。「自宅通いのボンボンは生活を考えんでええなぁ」と同期入社の田島(柄本時生)にディスられ、店の中でつかみ合いのケンカに。「何か俺、デカいことやりたいんです~!」と居酒屋で叫ぶ宮本は自己チューな大バカ野郎です。

 翌朝、二日酔い状態で出社する宮本。同僚たちに向かって「デカいことやりたいんです」と叫んだ手前、田島が手渡すスポーツ飲料を飲んでまったりすることは宮本自身が許せません。ホームに立つ可憐な一輪の花・美沙子を見つけるや、ツカツカと歩み寄り、「僕の、僕の名前は宮本浩ですッ!!」とホーム中に響くようなハイトーンボイスで自己紹介するのでした。

 何かデカいこと=通勤電車で見かける美女に声を掛けること、というエピソードにほんの少しでも共感した人は、この先も『宮本から君へ』を見続けるでしょうし、まるで響かなかった人は、さっさとチャンネルを変えるか、SNSの世界に没頭することでしょう。

 まずはバットを振ってみなくちゃ、ボールは前には転がりません。ひどくかっこ悪いスイングでしたが、宮本の振ったバットにボールが当たり、運よくポテンヒットになりました。美沙子と毎朝、電車の中で世間話をする仲になったのです。出社前に超ラブリーなOLとお話ができるという、モテない男にとっては至高の喜びを手に入れた宮本でした。女神・美沙子はさらなる福音を宮本に与えます。「総務部の女の子が宮本さんに会ってみたいって」と合コンすることを持ち掛けてきたのです。俄然、やる気まんまんになる宮本、そして同僚の田島でした。

■美人OLが合コンに連れてきた女友達がつらかった!

 

 通勤中に出会う美人OLと仲良くなり、合コンにまでありつけるという美味しい展開。原作コミックが連載されたバブル時代のイケイケ感を彷彿させるじゃないですか。原作者の新井英樹自身も漫画家になる前は文具メーカーに勤めていたそうですが、バブル時代に流行したトレンディードラマのようなおしゃれな方向には、このドラマはこの先、間違っても転がりません。宮本たちは営業部の新人3人でこの合コンに臨みますが、そこで待っていたのは「女性幹事マックスの法則」でした。

 美人受付け嬢の美沙子がどんなかわいい友達を選抜して連れてくるのか? 浮かれ気分で渋谷の雑居ビル地下にある微妙な雰囲気のパブの扉を開けた宮本たちですが、美沙子が連れてきた女の子たちも微妙なランクでした。ひとりは乗りがよくて合コン向きですが、総務部の裕奈(三浦透子)は全身から暗いオーラを漂わせ、ねっとりとした視線を宮本に注ぐのでした。このメンバーの中では、どうしようもなく美沙子のルックスが際立ちます。無意識なのかもしれませんが、自分がいちばんかわいいことを美沙子はアピールしているようで、男性陣は一抹の侘しさを覚えるのでした。

 楽しいはずの合コンなのに、そこは男の度量の大きさが試される修練の場でした。懸命に場を盛り上げようとする田島。できれば美沙子と2人っきりになりたい宮本ですが、「宮本さんに会ってみたい」と言い出した裕奈のフォローもしなくてはいけません。口数が少ない裕奈は彼女なりに気を遣って、宮本たちのグラスにピッチャーからビールを注ぎ足そうとしますのが、その度にグラスを倒してしまい、「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣きながら謝るばかりです。いましたよね、クラスに1人はマジメなんだけど、すっごい不器用な子が。要領よく人生を生きることができない裕奈は、社会人になってもつらい思いをしているのではないでしょうか。宮本や田島たちは、まるで鏡を見せられているようなブルーな気分です。宮本たちももっと要領がよければ、大きな会社に入社していたでしょうから。男の欲望としては美沙子に向かいながらも、心の中では裕奈にシンパシーを感じてしまう宮本でした。

 盛り下がり気味の合コンの雰囲気を変えようと、パブの店長がサービスで大きな鉢に入ったフルーツポンチを運んできました。ここでもやっぱり裕奈がやらかしてしまいます。宮本に上着を渡そうとする裕奈でしたが、宮本の上着のポケットに入っていた小さな包みを誤ってフルーツポンチの鉢の中に落としてしまいます。小さな包みは、「宮本」とサインペンで名前が書かれたコンドームでした。コンドームの包みだけが甘く濡れた、とってもしょっぱい合コンはこうして終わりを告げたのです。

 合コンの後もしばらくは美沙子や裕奈に振り回されることになる宮本ですが、やがて先輩営業マンの神保(松山ケンイチ)と一緒に得意先回りをするようになり、仕事の厳しさと面白さを同時に学ぶようになっていきます。さらには、年上の女性・靖子(蒼井優)との出逢いも待っています。原作コミックでは、宮本と靖子との濃厚なSEXシーンが激しい筆使いで描かれ、思わず読者が引いてしまったほどです。ベッドの上でもやっぱり宮本はクドくて、暑苦しい男なのです。R18映画『愛の渦』(14)でリアルなSEXシーンを見せつけた池松壮亮と、最近は『オーバー・フェンス』(16)や『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)で濡れ場に挑んでいる蒼井優ですが、テレビ版『宮本から君へ』ではどこまで描いてみせるのか興味津々です。

 いかがだったでしょうか、『宮本から君へ』第1話。見終わった視聴者は「だせえよ、宮本」「コンドームをネタに渾身のギャグで切り返せよ」と宮本に向かって叫びたくなったんじゃないでしょうか。そうです、社会人1年生の宮本は実はかつての視聴者自身なのです。仕事や恋愛に失敗した恥ずかしい体験の数々を、テレビの中の宮本はこれからも生々しく再現してみせるのです。あのとき彼女にもっと違う言葉を掛けていれば、あの職場でもう少し要領よく立ち回っていたら……。忘れかけていた記憶のドロドロした部分を宮本は呼び起こすのです。やっぱり、宮本は超うざい奴です。これから、ひどく寝苦しい3カ月間になりそうです。
(文=長野辰次)

世界一うざい男・宮本はもう1人の自分なのか!? 恋も仕事も失敗だらけ『宮本から君へ』第1話

 常にクールでスマートでいることが求められる現代社会において、そこからいちばん遠い遠い存在が宮本浩という男です。新井英樹の同名コミックを原作にしたドラマ24『宮本から君へ』(テレビ東京系)の主人公・宮本浩は、とにかく暑苦しくて、面倒くさいことこの上ありません。中小企業に就職した社会人1年目の宮本は、恋に仕事に100%全力でぶつかり、そのたびに七転八倒します。そんな超うざいキャラクター・宮本役に、若手演技派の筆頭格である池松壮亮。脚本・演出が暴力青春映画『ディストラクション・ベイビーズ』(16)で注目を集めた新鋭・真利子哲也監督というタッグで、1クールにわたってオンエアされることに。モヤモヤモヤ~とした寝苦しい3カ月間になりそうですね。

 原作コミックは1990~94年に青年漫画誌「モーニング」(講談社)で連載され、バブル景気で浮かれまくっていた世相に、冷や水を差しまくるような異質な内容でした。小さな文具メーカーの営業部に配属された宮本(池松壮亮)の真っすぐすぎて、超かっこ悪い、痛~い青春の日々が描かれます。

 さて、テレビ版第1話のオープニング、駅のホームで電車を待つ若いOLの姿が映し出されます。宮本にとって憧れの女性となる甲田美沙子(華村あすか)の登場です。入社1年目で仕事が楽しくない宮本は、朝の通勤時に見かける美沙子だけが毎日の楽しみでした。電車の中で同僚たちとの会話を盗み聞きし、美沙子は大手自動車メーカーの受付嬢であることが判明。超美人な美沙子は、ちっぽけな文具メーカーに勤める宮本にとっては高嶺の花。さりげなく声を掛けたいけど、きっかけがつかめません。自分の持てる欲望と情熱をどう形にすればいいのか分からない宮本浩、22歳の新人営業マンでした。

 宮本のうざったさがむっちりみっちりと描かれたのが、職場の同僚たちと繰り出した居酒屋シーンでした。小田課長(星田英利)の面倒見のよさに甘え、愚痴をこぼしまくる宮本。「学校に行ってるうちはよかった。学校を出たら、夢も自信もなくなったなぁ~」と上司に向かってタメ口で愚痴るダメダメな宮本でした。「学校出たらから失う自信を、何か持ってたん?」と関西弁でやんわりと宮本に釘を刺す小田課長ですが、酔っぱらった宮本には馬の耳に念仏でした。「自宅通いのボンボンは生活を考えんでええなぁ」と同期入社の田島(柄本時生)にディスられ、店の中でつかみ合いのケンカに。「何か俺、デカいことやりたいんです~!」と居酒屋で叫ぶ宮本は自己チューな大バカ野郎です。

 翌朝、二日酔い状態で出社する宮本。同僚たちに向かって「デカいことやりたいんです」と叫んだ手前、田島が手渡すスポーツ飲料を飲んでまったりすることは宮本自身が許せません。ホームに立つ可憐な一輪の花・美沙子を見つけるや、ツカツカと歩み寄り、「僕の、僕の名前は宮本浩ですッ!!」とホーム中に響くようなハイトーンボイスで自己紹介するのでした。

 何かデカいこと=通勤電車で見かける美女に声を掛けること、というエピソードにほんの少しでも共感した人は、この先も『宮本から君へ』を見続けるでしょうし、まるで響かなかった人は、さっさとチャンネルを変えるか、SNSの世界に没頭することでしょう。

 まずはバットを振ってみなくちゃ、ボールは前には転がりません。ひどくかっこ悪いスイングでしたが、宮本の振ったバットにボールが当たり、運よくポテンヒットになりました。美沙子と毎朝、電車の中で世間話をする仲になったのです。出社前に超ラブリーなOLとお話ができるという、モテない男にとっては至高の喜びを手に入れた宮本でした。女神・美沙子はさらなる福音を宮本に与えます。「総務部の女の子が宮本さんに会ってみたいって」と合コンすることを持ち掛けてきたのです。俄然、やる気まんまんになる宮本、そして同僚の田島でした。

■美人OLが合コンに連れてきた女友達がつらかった!

 

 通勤中に出会う美人OLと仲良くなり、合コンにまでありつけるという美味しい展開。原作コミックが連載されたバブル時代のイケイケ感を彷彿させるじゃないですか。原作者の新井英樹自身も漫画家になる前は文具メーカーに勤めていたそうですが、バブル時代に流行したトレンディードラマのようなおしゃれな方向には、このドラマはこの先、間違っても転がりません。宮本たちは営業部の新人3人でこの合コンに臨みますが、そこで待っていたのは「女性幹事マックスの法則」でした。

 美人受付け嬢の美沙子がどんなかわいい友達を選抜して連れてくるのか? 浮かれ気分で渋谷の雑居ビル地下にある微妙な雰囲気のパブの扉を開けた宮本たちですが、美沙子が連れてきた女の子たちも微妙なランクでした。ひとりは乗りがよくて合コン向きですが、総務部の裕奈(三浦透子)は全身から暗いオーラを漂わせ、ねっとりとした視線を宮本に注ぐのでした。このメンバーの中では、どうしようもなく美沙子のルックスが際立ちます。無意識なのかもしれませんが、自分がいちばんかわいいことを美沙子はアピールしているようで、男性陣は一抹の侘しさを覚えるのでした。

 楽しいはずの合コンなのに、そこは男の度量の大きさが試される修練の場でした。懸命に場を盛り上げようとする田島。できれば美沙子と2人っきりになりたい宮本ですが、「宮本さんに会ってみたい」と言い出した裕奈のフォローもしなくてはいけません。口数が少ない裕奈は彼女なりに気を遣って、宮本たちのグラスにピッチャーからビールを注ぎ足そうとしますのが、その度にグラスを倒してしまい、「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣きながら謝るばかりです。いましたよね、クラスに1人はマジメなんだけど、すっごい不器用な子が。要領よく人生を生きることができない裕奈は、社会人になってもつらい思いをしているのではないでしょうか。宮本や田島たちは、まるで鏡を見せられているようなブルーな気分です。宮本たちももっと要領がよければ、大きな会社に入社していたでしょうから。男の欲望としては美沙子に向かいながらも、心の中では裕奈にシンパシーを感じてしまう宮本でした。

 盛り下がり気味の合コンの雰囲気を変えようと、パブの店長がサービスで大きな鉢に入ったフルーツポンチを運んできました。ここでもやっぱり裕奈がやらかしてしまいます。宮本に上着を渡そうとする裕奈でしたが、宮本の上着のポケットに入っていた小さな包みを誤ってフルーツポンチの鉢の中に落としてしまいます。小さな包みは、「宮本」とサインペンで名前が書かれたコンドームでした。コンドームの包みだけが甘く濡れた、とってもしょっぱい合コンはこうして終わりを告げたのです。

 合コンの後もしばらくは美沙子や裕奈に振り回されることになる宮本ですが、やがて先輩営業マンの神保(松山ケンイチ)と一緒に得意先回りをするようになり、仕事の厳しさと面白さを同時に学ぶようになっていきます。さらには、年上の女性・靖子(蒼井優)との出逢いも待っています。原作コミックでは、宮本と靖子との濃厚なSEXシーンが激しい筆使いで描かれ、思わず読者が引いてしまったほどです。ベッドの上でもやっぱり宮本はクドくて、暑苦しい男なのです。R18映画『愛の渦』(14)でリアルなSEXシーンを見せつけた池松壮亮と、最近は『オーバー・フェンス』(16)や『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)で濡れ場に挑んでいる蒼井優ですが、テレビ版『宮本から君へ』ではどこまで描いてみせるのか興味津々です。

 いかがだったでしょうか、『宮本から君へ』第1話。見終わった視聴者は「だせえよ、宮本」「コンドームをネタに渾身のギャグで切り返せよ」と宮本に向かって叫びたくなったんじゃないでしょうか。そうです、社会人1年生の宮本は実はかつての視聴者自身なのです。仕事や恋愛に失敗した恥ずかしい体験の数々を、テレビの中の宮本はこれからも生々しく再現してみせるのです。あのとき彼女にもっと違う言葉を掛けていれば、あの職場でもう少し要領よく立ち回っていたら……。忘れかけていた記憶のドロドロした部分を宮本は呼び起こすのです。やっぱり、宮本は超うざい奴です。これから、ひどく寝苦しい3カ月間になりそうです。
(文=長野辰次)