先日、市販(スイッチOTC)化が見送られた緊急避妊薬レボノルゲストレル(商品名ノルレボ錠)。他の先進国ではすでにドラッグストアで販売されており、手に入れやすい状況にある。海外と比べて性に関する健康情報が乏しい日本だが、その現状について、日本家族計画協会理事長・北村邦夫先生に聞いた。
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■日本は、女性の性や生殖に関する健康・権利が、ないがしろにされている
――日本女性の避妊に関する知識は、他の先進国と比べると、遅れているのでしょうか?
北村 緊急避妊薬導入の話が初めて僕のところにあったのが、2000年2月。そして、日本で承認されたのが、11年2月23日。11年もかかってしまいました。こんなに時間がかかってしまったのは、開発企業や審査機関の問題があることは否めませんが、日本の女性たちのリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)が、社会では非常にないがしろにされているのではないかと危惧されます。低用量ピルに関してもそうでした。アメリカで承認されたのが1960年ですが、日本で承認されたのが99年で、国連加盟国中最後の承認国となりました。アメリカと比べると40年も遅れをとっています。女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツが軽視されている国、これが日本の状況かもしれません。
そのような状況の中、フランス・パリとイギリス・ロンドンを訪れる機会がありました。これらの国では緊急避妊薬が市販化されています。そこで、パリの街のドラッグストアに行って「緊急避妊薬をください」と言うと、薬剤師が棚から出して売ってくれました。これと同じように、ロンドンのドラッグストアに行ったところ「男性には売れません。妊娠を継続するか中断するかは、女性にのみ権利があるんです」と言うのです。僕自身の名刺を見せて「私はこういう者で、日本に緊急避妊薬を導入したくて調査研究を進めているところなんです」と言ってもダメでした。
そこで、同行していた女性に頼んで、一緒に再度ドラッグストアを訪れると売ってくれました。その際、プライバシー配慮のために2人とも個室に連れて行かれ、これがどんな薬でどんな問題点があるかなど15分ほどかけて説明されました。この経験は僕にとって大きな勉強になりました。スイッチOTC化は時代の流れとしては重要ですが、僕がロンドンで経験したように、周囲に声の聞こえないカウンセリングルームを構え、そこできちんと指導がなされるような準備が、とても重要なのではないかと思います。
――現在、日本の婦人科でノルレボ錠を処方してもらうと1回分1万5,000円ほどかかるため、かなり高額に感じます。北村先生が行かれたロンドンやパリの薬局では、費用はどれくらいでしたか?
北村 1,500~2,000円くらいだったと思います。日本では、なぜこんなに高いかというと、ノルレボ錠開発の期間が長すぎたからです。その間、開発していた製薬企業は莫大なお金を使っているので、それを回収しなければなりません。医療機関も問屋から1回分1万円ほどで仕入れています。さらに、うちのクリニックでは、1万5,000円の中にピル1シート分を含んでいます。だから、産婦人科がもうけているわけではありません。ピルだって途上国などでは1シート200~300円ほどで手に入りますが、日本は2,000~3,000円します。これも、アメリカに遅れること40年も時間がたってしまったことが影響しているとはいえないでしょうか。
――日本家族計画協会では、緊急避妊に関する電話相談を行っていますよね。
北村 はい。でも、男性から「緊急避妊のできる医療機関を教えてください」と言われた場合、僕たちはパートナーの女性が電話をかけてくるように促します。この薬を飲むか飲まないかは女性の意思です。電話をかけてきた男性はコンドームを使わなかったり、使っていても破れたりしたのかもしれない。だから、大騒ぎをして電話をかけることで自分の責任を回避しようとしているのかもしれませんが、妊娠を継続するかしないかは女性の考え方ひとつなんです。
僕がサイゾーウーマンの読者の方に伝えたいのは、緊急避妊を考える前に、男性に支配されない避妊法を女性として準備しておこうということです。妊娠経験がなく、どうしても妊娠するわけにはいかない人はピルを、妊娠経験があるけどしばらく妊娠を希望しない人は子宮内避妊具/子宮内避妊システムの使用をお勧めします。日本の8割を超える人がコンドームや膣外射精を避妊法として選択している。これが日本の現状なんです。妊娠は男性の体には絶対に起こりません。にもかかわらず、日本の女性たちは避妊を男性任せにしている現実があります。これを変えることが大事で、「コンドームによる避妊に失敗した場合はノルレボ錠を飲みましょう」というのでは、あまりにものんきすぎます。しかし、ピルを飲んでいても、時期によっては3日以上の飲み遅れや飲み忘れがあると緊急避妊を必要とする場合があります。こういうときのための緊急避妊です。
――妊娠は女性の体に起こるものだから、避妊も女性が主体となってするものだということですね。
北村 うちのクリニックに来ているピルのユーザーには、「自分がピルを飲んでいることを男性には言ってはダメ」と言っています。日本の男性は避妊目的でコンドームを使うことをためらいませんが、それは女性が妊娠したら自分に跳ね返ってくる責任を避ける目的で、自分を守るためです。少なくとも、彼女を守るためにコンドームを使っているとはいえません。だから、パートナーの女性がピルを飲んでいることを公言してしまうと、コンドームを使わなくなってしまう。女性がピルを飲んで男性がコンドームを使う二重防御ができて初めて、対等なセックスが可能になります。性感染症予防には定期的な検査、必要に応じた治療が必要ですが、コンドームを使うことは必須です。女性が男性に公言せずにピルを飲んで男性がコンドームをつければ、男性は一生懸命避妊のためにコンドームを使っているという状況になります。それは女性からしてみると性感染症予防につながります。こういう発想が日本には欠けています。避妊指導というのは、このようなことも含め、地道にきめ細かく行っていく必要があるんです。
(姫野ケイ)
北村邦夫(きたむら・くにお)
一般社団法人日本家族計画協会・理事長。産婦人科医。1951年2月23日生まれ。群馬県出身。自治医科大学一期生として卒業後、群馬県衛生環境部に在籍の傍ら、群馬大学医学部産科婦人科学教室で臨床を学ぶ。