橋本愛の「ぎこちなさ」という武器 “翳のある美少女”からコメディエンヌへ

 橋本愛が主演を務めた『長閑(のどか) の庭』(NHK BSプレミアム)は、23歳の大学院生・朝比奈元子(橋本愛)と年上の老教授・榊郁夫(田中泯)のラブストーリーだ。

 元子はいつも黒い服を着ているのでシュバルツ(ドイツ語で「黒」の意味)さんと呼ばれている。人付き合いが苦手で恋愛にも奥手、それゆえ学業に深く没頭していたが、「君の日本語は美しい」と論文を評価してくれた教授に恋心を抱く。

 全4話と短いながらも、恋愛に苦悩する元子が成長していく姿が一気に描かれており、濃密な恋愛ドラマとして見応えがあった。

 登場人物はそれぞれ魅力的なのだが、何より元子を演じた橋本と富岡樹里を演じた中村ゆりかの配役の絶妙さに感心した。

 今期は『きのう何食べた?』(テレビ東京系)にも出演していた中村は、20代前半の女優の中では、突出して演技力が高い。樹里のような恋愛体質のヒロインから、『ぼくは麻理のなか』(フジテレビ系)の陰気な女子高生まで幅広く演じられるのだが、うまいがゆえ、便利に使われてしまうきらいがある。その意味で器用貧乏な女優なのだが、それが自由奔放に見えてすごく不器用な樹里とマッチしており、彼女から目が離せなかった。

 一方、元子を演じた橋本は、仕草がぎこちなく、台詞もあまり流暢には聞こえない。だが、ビジュアルの華やかさは圧倒的。大河ドラマ『いだてん』(NHK)では遊女の小春を演じ、派手な着物を着て街を颯爽と闊歩していたが、やっぱり話すと、妙な違和感があるなぁ、と気になってしまう。

 その意味で、中村のようにどんな役でも演じられるというタイプではない。しかし映画やドラマには、橋本にしか演じられないヒロインの系譜というものが間違いなく存在する。今回の元子も、橋本だからこそ説得力のある女性として成立している。

“美人なのに、生きるのが不器用な女性”を演じさせたら、彼女のぎこちない演技は見事にハマる。

 橋本は現在23歳。『長閑の庭』の元子と同じ年だが、まだ23歳なのかと思うのは、女優としてのキャリアがあまりにも濃密だったからだろう。2010年代前半の邦画界は、間違いなく橋本愛の時代だった。

 14歳の時に中島哲也監督の映画『告白』に出演した橋本は、クラス委員長の北村美月を好演。ショートボブの髪形と鋭い眼光が印象に残るビジュアルで注目を集める。

 その後、『Another アナザー』『桐島、部活やめるってよ』といった、さまざまな映画に出演。暗い青春映画に出演することが多く、内気な同級生がひそかに思いを寄せる、どこか翳のある神秘的な美少女を演じることが多かった。

『リング』シリーズで有名な黒髪の幽霊・貞子の役も『貞子3D』で演じており、『告白』から3年弱の間に 、橋本は青春映画に欠かせないダークなポップ・アイコンとして、2010年代前半を象徴する女優となった。

 これは好意的に捉えるならば、わずか数年でハマり役に出会うという幸運をつかんだといえる。しかし、ネガティブに考えると、早くもイメージが固まってしまったともいえる。

 おそらく今も、橋本を翳のある美少女のイメージで捉えている人は少なくないだろう。当時の橋本はいい意味でも悪い意味でも人形的なポップ・アイコンであり、このまま似たような役を演じ続けると、簡単に消費され、やがてすり切れてしまうのではないかというはかなさを抱えていた。

 転機となったのは宮藤官九郎・脚本のNHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』だろう。彼女が演じた足立ユイは、岩手県の田舎で暮らす女子高生で、寡黙ではかなさのある雰囲気は『告白』以降の路線を踏襲しているように見えた。だが、実は彼女は「アイドル」を目指しており、高校を卒業したら東京に行きたいと考える、芸能界に憧れる今どきの女の子だ。主人公の天野アキ(能年玲奈/現・のん )と共に一度は上京しようとしたユイだったが、両親が倒れたことで計画は頓挫。田舎でくすぶっているユイは、どんどんやさぐれていくのだが、そんなユイを、宮藤は愛嬌のある人間としてコミカルに描いた。

 ユイを演じたことで、橋本の芝居にはユーモアが生まれた。『あまちゃん』の後に出演したミステリードラマ『ハードナッツ!~数学girlの恋する事件簿~』(NHK BSプレミアム)で演じた大学生・難波くるみは、数学理論を駆使した推理力は天才的だが、行動がいちいち抜けているという女性。

『長閑の庭』にも通じる不器用なヒロインだが、その姿には愛嬌があり、本作でコメディエンヌとしての才能が一気に開花した。

 20歳以降の橋本は、人間味のある落ち着いた役を演じる機会が増えている。立っているだけで絵になるオブジェ的な存在感は相変わらずだが、動いた時に生まれる妙なぎこちなさが、元子のような女性を演じた時にはうまくハマッている。

 演技におけるぎこちなさや違和感は、決してマイナスではない。むしろ不器用にしか生きられない女性を演じる際には圧倒的な武器になるのだと、橋本の芝居は教えてくれる。 

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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映画版『コンフィデンスマンJP』が大ヒット! 長澤まさみはテレビより映画向き?

 長澤まさみが主演を務める映画『コンフィデンスマンJP -ロマンス編-』が好調である。全国の映画動員ランキングは2週続けて1位を獲得。早くも映画版第2作の製作が決定した。

 本作はコンフィデンスマンと呼ばれる信用詐欺師たちが主人公の物語だ。ハニートラップ以外は完璧な天才詐欺師のダー子(長澤)、お人好しのボクちゃん(東出昌大)、変装の名人のリチャード(小日向文世)、そして、ダー子に心酔する元悪徳詐欺師の五十嵐(小手伸也)。プロの詐欺師たちがお互いの利益のためにチームを組んでターゲットとなる権力者をだまして億単位の大金を奪い取る姿は実に痛快で、人気アニメ『ルパン三世』を現代的にアップデートしたかのような娯楽作品である。

 脚本は『リーガルハイ』(フジテレビ系)シリーズで知られる古沢良太。彼の脚本は二重三重に物語が入り組んだコメディテイストの物語が多く、見ている側をいつも翻弄する。

 そんな、虚々実々な本作の魅力を 体現するのが、長澤が演じる謎の女詐欺師・ダー子だ。彼女の役割はセクシーな峰不二子ではなく、ルパン三世。それもファミリー層受けを意識した現在の親しみやすいルパンではなく、初期テレビシリーズや漫画版で描かれていた謎の多いルパンだ。

 ダー子は劇中では過去が描かれず、毎回、詐欺のためにさまざまな女性を演じる。その姿は、作品ごとに違う人間を演じる女優そのものである。俳優にとって詐欺師を演じるというのは、最も難易度が高い仕事であると同時に、最もやりがいのある仕事なのではないかと思う。劇中で長澤はダー子の役のまま、詐欺で架空のキャラを演じるという二重の演技が要求されるのだが、そんなダー子をチャーミングで豪快な女性として見事に表現している。女優に“男前”という例えがふさわ しいかわからないが、こんなに豪快で男前の女詐欺師を演じられるのは長澤まさみだけだ。

 長澤まさみは現在32歳。1999年に開催された第5回東宝「シンデレラ」オーディションに応募し、史上最年少の12歳でグランプリを獲得した。同年公開の映画『クロスファイア』で女優デビュー。2004年に公開された映画、『セカチュウ』こと『世界の中心で、愛をさけぶ』が興行収入85億円の大ヒット作となり、10代の彼女は清純派女優として圧倒的な存在感を見せた。

 20代になるとドラマ『プロポーズ大作戦』や『ラスト・フレンズ』(共にフジテレビ系)などのドラマに出演。無垢な清純派から、明るさの中に暗い影と女としての色気を兼ね備えた大人の女優へと成長していく。

 そんな、20代に入った彼女の第2の代表作といえるのが映画版『モテキ』で演じた女性編集者・松尾みゆきだろう。『セカチュウ』で共演した森山未來と7年ぶりに恋人役で共演した本作で彼女が見せたのは、女の生々しさそのもの。監督は女優を魅力的に撮ることにかけて定評のある大根仁だが、長澤は大根に撮られることで、今までの優等生的なかわいさとは違う艶っぽさを見せて大化けした。

 その後は、NHK大河ドラマ『真田丸』などさまざまな話題作に出演。30代になった彼女は、誰もが認めるスター女優へと成長した。

 小さな作品に出演すると地味だが、大河ドラマや大作映画のような 大きな舞台に立つと豪快にホームランをかっ飛ばす4番バッターというのが、今の彼女の印象だろう。そのため、テレビドラマよりは映画の方に代表作が多くなってしまうのだが、それは彼女が生粋の映画女優だからである。

 銀幕のスターという言葉が死語になって久しいが、彼女の豪快な演技は、テレビのモニターよりも、映画館の大きなスクリーンで観たくなる。

『コンフィデンスマンJP』のダー子も映画では舞台を香港に移し、華やかな衣装を着る場面が増えると、ゴージャス感が倍増した。ドラマの時点で、スケールが大きな娯楽作品ではあったが、映画になって初 めて、そのポテンシャルが発揮されたように感じた。

『コンフィデンスマンJP』と並んでヒットしている映画『キングダム』にも長澤は出演中。本作は古代中国を舞台にした時代劇だが、長澤が演じるのは山の民と呼ばれる異民族を束ねる女将軍・楊端和。屈強な肉体を駆使した見事な殺陣を演じており、ダー子とは違った魅力を見せている。

 今年1月には木村拓哉主演の映画『マスカレード・ホテル』に出演。事件の捜査でホテルマンとして潜入捜査する刑事の教育係となったフロントクラークの山岸尚美を好演した。二大映画スターの共演ということもあってか、木村と長澤がスクリーンに登場すると実に華やかで、銀幕そのものという感じだった。今の女優で、木村拓哉と対峙しても一歩も引かずに輝きを維持できるのは、長澤だけではないかと思う。

『マスカレード・ホテル』『キングダム』『コンフィデンスマンJP』と、今年に入ってすでに3本のヒット映画に出演している長澤。今後も映画界の4番バッターとして、豪快な演技を披露し続けるはずだ。

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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『ソロモンの偽証』藤野涼子、腐女子役で証明した確かな演技力

 NHKのよるドラ枠(土曜夜11時30分~)で放送されている『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』は、ゲイの高校生・安藤純(金子大地)を主人公にした青春ドラマだ。

 ある日、純は本屋で同級生の三浦紗枝(藤野涼子)が、BL(ボーイズラブ)本を購入しているところを目撃してしまう。「みんなには黙っててくれる?」と懇願する三浦さん。一方、BL本を読んだ純は「ファンタジーだなぁ」とつぶやく。

 純は「BLって世界を簡単にしないための方法だと思う」と言う三浦さんに感銘を受け、少しずつ彼女に惹かれていく。異性を愛して普通の人生を送れるのではないかと思った純は、ゲイであることを隠して三浦さんと交際するようになる。しかし、いざ、セックスしようとした時に体が反応しない。三浦さんのことは好きだが、性的に興奮するのはやはり男なのだと知った純は、三浦さんと気まずい関係になる。

 物語は純の視点を通して、同性愛者に対する周囲の視点を切り取っていく。やがてゲイであることをクラスメイトに知られてしまった純は、人生に絶望し、飛び降り自殺を図る。幸い命は取り留めたものの入院生活を送ることになり、心を閉ざしてしまう。そんな純に対して、今でもあきらめずに接しようとする三浦さんの、恋愛とも友情ともいえる交友が実にけなげだ。

 本作は同性愛者の葛藤を題材にしたドラマで、LGBTムーブメントの中で生まれた作品のひとつだといえるだろう。だが、本作の切り口が独特なのは、同性愛者の恋愛や性愛をBLという形で消費している腐女子と、性に対する葛藤が一番強い時期の思春期の渦中にいるゲイの少年を主人公にしていることだ。

 原作は小説投稿サイト・カクヨムで連載後、単行本化された浅原ナオトの『彼女が好きなものはホモであってオレではない』(KADOKAWA)。単行本化の際に、自身も同性愛者だとカミングアウトした浅原は、LGBTという言葉とそれに付随する運動に苦手意識を持っていると語っており、むしろBLを読んだことによって同性愛者である自分に対して自己肯定感を持てたという。

 この考えはドラマ版にも大きく表れており、現実の同性愛者として不安を抱える純が、BLを三浦さんから教わることで徐々に救われていくという展開になっている。

 そんな三浦さんを演じるのが藤野涼子。主役の純を演じる金子大地が高校生の美少年というある種、BLからそのまま抜け出してきたようなルックスであるのに対し、三浦さんを演じる藤野は女子高生としても腐女子としてもリアルだ。

 個人的な話になるが、腐女子も含めたオタク趣味を持った女性の知り合いが何人かいる。彼女たちは好きな対象の話になると早口になって周りが見えなくなったり、人との距離感の取り方がちょっとズレているのだが、それが妙な愛嬌につながっていて、一緒に話していると、とても楽しい。

 タレントの中川翔子や宇垣美里のしゃべり方や振る舞いがまさにそうなのだが、藤野が演じる三浦さんを見ていると、彼女たちが学生の時はこんな感じだったのだろうと思ってしまう。おでこ全開で少しふっくらとして見える藤野のビジュアルは、ファッションに関しては若干地味め。だが一方で、BLという趣味に対しては強いこだわりというかプライドのようなものを持っている。そのBLにかけるプライドと意思に、純は惹かれたのだと思う。

 藤野涼子は現在19歳。14歳のとき、映画『ソロモンの偽証』(2015)のオーディションで1万人の難関を突破し、見事ヒロインに選ばれる。その時に演じた役名・藤野涼子がそのまま芸名となった。

『ソロモン』は、校内で起きたイジメによる自殺の真相を究明するために中学生たちが学校内裁判を開くという物語で、藤野は裁判開催を牽引するリーダー格の女子生徒役だった。

 学校を題材にした映画やドラマは若手俳優の登竜門となることが多く、後に人気俳優が多数出ていたと、話題になることが多い。近年の映画では『告白』(10)と『桐島、部活やめるってよ』(12)がそういう作品だったのだが、藤野を筆頭に、富田望生、石井杏奈、清水尋也、森田想といった若手が出演していた『ソロモン』も今後、そういう作品として語り継がれるだろう。

 イジメが題材であることを差し引いても本作はすごくシリアスな作品で、中学生を演じた役者たちもリアルな演技が求められた。

 藤野は本作で高く評価された。その後は映画『クリーピー 偽りの隣人』やNHK連続テレビ小説『ひよっこ』に出演。出演作こそ多くないが、着々とキャリアを積み重ねてきた。

『腐女子』で藤野が演じる三浦さんは、実はいそうでいない女性で、人によっては彼女のほうがファンタジーに見えるかもしれない。10代の生々しさとBLに支えられた芯の強さが同時に求められる難しい役だが、『ソロモン』で主役を務めた藤野が演じたからこそ、説得力のあるキャラクターになったといえよう。

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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NHK朝ドラ『なつぞら』は生かしきれていない!? “ぽっちゃり若手女優”富田望生のポテンシャル

 NHK連続テレビ小説『なつぞら』が好調だ

 舞台は戦後。戦災孤児だった奥原なつ(広瀬すず)は、父親の戦友だった柴田剛男(藤木直人)に引き取られ、北海道の十勝で暮らすことになる。酪農の仕事を手伝いながら成長したなつは、農業高校の畜産科に進学する。

 なつのモデルは実在したアニメーターの奥山玲子だ。奥原は東映動画で宮崎駿や高畑勲といったアニメ界の巨匠と青春を過ごしていたため、今後、戦後アニメーションの黎明期をどう描くのか注目されている。

 同時に本作は朝ドラ100本目となる記念の作品で、松嶋菜々子や比嘉愛未といった、歴代朝ドラヒロインを演じた女優が多数出演。アニメファンと朝ドラファンのハートをがっつりとつかんでいるのが、人気の理由だろう。

 そんな盤石の布陣となっている『なつぞら』だが、筆者が楽しみにしているのは、出演している若手女優の誰が“見つかるか”だ。

 朝ドラに出演すると、俳優の知名度は一気に全国区となる。特に近年は、主演よりも脇役に注目が集まる。『あさが来た』の吉岡里帆、清原果耶、小芝風花、『まんぷく』の岸井ゆきの、小川紗良のように、朝ドラに出演したことで、広く知られることとなった女優は多い。

『なつぞら』で注目すべきは、なつのクラスメイトの“よっちゃん”こと居村良子を演じる富田望生(みう)だろう。その繊細な演技に、注目が集まっている。

 富田は現在19歳。ぽっちゃり体形の若手女優という希少価値もあってか、出演作が急増しており、今年は話題作『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(日本テレビ系)にも出演した。

 なつを演じる広瀬との共演は、映画『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』『SUNNY 強い気持ち・強い愛』に続いて3度目ということもあってか、息はばっちり。広瀬は、富田のことを天才だと語っている。

 福島県いわき市出身の富田はピアニストを目指していたが、小学6年生の時に東日本大震災に遭遇。母の仕事の関係で福島を離れた影響で、ピアノをやめてしまう。「何もしていない状況」を変えたいと思った富田は、ネットで見つけた映画『ソロモンの偽証』のオーディションを受ける。太っている役を演じるために15kg増量して役作りに挑み、シリアスな演技が評価された。

 以降、学園ドラマや青春映画における、ぽっちゃり女子の役を独占することとなる。

 こう書くと体形だけで役を得たかのように聞こえてしまうかもしれないが、もちろん、彼女の魅力はそれだけではない。一作一作、見較べると同じぽっちゃり女子でも、性格も環境も全然違う人間を見事に演じ分けている。

 残念ながら今の日本のテレビドラマにおいて、女芸人も含めたぽっちゃり女優は、陽気な3枚目か粗暴なキャラといった引き立て役に描かれがちだ。『なつぞら』も例外ではなく、なつがよっちゃんを牛役に見立ててクラスメイトの前で牛の出産場面を再現したシーンに対して、SNS上では批判が多かった。

 筆者も『なつぞら』を楽しみながらも、富田のポテンシャルをうまく生かしきれてないことには歯がゆく思っている。

 それはすでに『宇宙を駆けるよだか』が、富田の演技力を見事に生かし切っているのを見ているからだろう。

 本作は、Netflixで配信された異色の学園ドラマ。豊かな家に生まれ、容姿も美しく心も清らかな女子高生・小日向あゆみ(清原果耶)が、貧しい家に生まれ、太っている卑屈な同級生・海根然子(富田望生)がかけた呪いによって、外見と内面が入れ替わってしまう。海根の体になったあゆみは、恋人にも家族にも自分のことを理解してもらえず孤立し、クラスメイトからもバカにされる。

 10代の女の子がさらされる容姿に対する目線は残酷で、ぽっちゃり=太っているということは、同級生から侮蔑の対象とされてしまう。そういう現実を本作は容赦なく描いているのだが、同時に、それを超える価値観も提示している。

 海根の体になったあゆみは、ただ一人、自分のことを信じてくれた同級生の男の子に支えられて変わっていく。それに伴い、不潔に伸びっぱなしだった髪の毛も清潔にまとめて、次第に笑顔が増えていくと、周囲の反応も変わっていく。逆に海根の内面が入り込んだあゆみは、次第に卑屈な内面が露呈し、孤立していく。

 見ていて驚くのは、海根がどんどんかわいく見えてくることで、最終的に、太っている女性を根拠もなく不細工だと思い込んでいた(自分の中にあった)偏見がガラガラと崩れていく。これは、内面の入れ替わりに伴う外見と表情の変化を、富田がしっかりと演じきったからだ。

 筆者はいつか、本作を超える富田の才能を生かした作品を見てみたい。できれば、それは朝ドラのヒロインであってほしい。

 せっかく新しい時代に突入したのだ。体形でキャラを決める偏見は平成で終わっていい。多様性が叫ばれる時代だからこそ、朝ドラヒロインにも、もっといろんな体形や性格の子がいてもいいのではないかと思う。

 

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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TBS『わたし、定時で帰ります。』シリアスな題材で光る、吉高由里子の“チャラさ”という才能

 TBSの火曜夜10時枠のドラマ『わたし、定時で帰ります。』が話題を呼んでいる。

 本作は、会社での働き方に深く切り込んだ作品だ。始まる前は、主演の吉高由里子が定時に帰り、居酒屋を飲み歩くようなお気楽な内容になるかと思われていたが、予想に反したシリアスな内容だったため、第1話放送終了後、SNSでは主人公の働き方に対する賛否両論が巻き起こった。自分の職場と重ねて見ている人が多いようで、他人事ではないと感じているようだ。

 WEB制作会社で働く東山結衣(吉高)は定時になると誰よりも早く退社し、残業ゼロをモットーとしている。前の会社で超過労働による事故を起こし、意識不明の重体となった結衣は、今の会社に入る際に無理することはやめようと思い、効率の良い仕事を心がけて恋人との時間も大切にしていた。

 そんな結衣の考えは、働き方改革が叫ばれる世の中とマッチしたものだ。しかし、誰もが彼女のように生きられるわけではない。一生懸命働こうとするあまり、自分のやり方を押し付けて孤立する三谷佳菜子(シシド・カフカ)や、産後に復帰してワーキングマザーとして仕事ができることを証明しようとするあまり、育児との狭間で疲弊していく賤ヶ岳八重(内田有紀)。職場で空回りする彼女たちに対して「無理しなくていいんだよ」と結衣が受け止めることで、彼女たちがラクになる姿が、第1~2話では描かれた。

『ゆとりですがなにか』や『獣になれない私たち』(ともに日本テレビ系)など、会社を舞台にした話題作が近年増えている。会社モノがいま面白いのは、労働問題や女性差別といった、社会が抱える諸問題が会社に集約されているからだ。中でも「働き方」をめぐる世代間の意見対立は深刻で、50代前後の上司世代と新入社員に挟まれて葛藤する30代の中堅社員に、そのしわ寄せがいっている。上は昭和のバブル世代。下は何を考えているかわからないさとり世代。30代はその狭間で苦しんでいる。

 そんな悩める30代女子の葛藤をシリアスに演じ高く評価されたのが『獣になれない私たち』の新垣結衣だったが、近い境遇の30代女子を演じても吉高のほうが安心して見ていられるのは、彼女のほうが何倍も“チャラい”からだろう。

 吉高は現在30歳。女優としての彼女が世間に広く知られるようになったのは、蜷川幸雄の映画『蛇にピアス』だ。芥川賞を受賞した金原ひとみの同名小説を映画化した本作で吉高が演じたのは、ルイという少女。ルイは、タトゥー、スプリット・タン、ピアッシングといった人体改造にハマるアマ(高良健吾)と出会ったことで未知の世界へと足を踏み入れる。

 本作で吉高は、茶髪で巻き髪のギャルを演じている。劇中ではヌードを披露し、激しい濡れ場も演じているため、今の吉高しか知らない人が見たらショックを受けるかもしれない。

 しかし、当時からしゃべり方が軽妙でふわっとしていて、殺伐としたシーンを演じてもどこかユーモラスなチャラさが漂う。これは彼女が持つ天賦の才能だろう。逆にどれだけチャラいキャラを演じていても、常に暗い影が見え隠れする。

 園子温の映画『紀子の食卓』は、そんな吉高の明るさの中にある暗さが引き出された初期の代表作だろう。チャラさと暗さをオセロの表裏のようにひっくり返し、明るさの中にある暗さと、暗さの中にある明るさを体現してきた。だからこそ、女優として高く評価されるようになったのだ。

 やがて、20歳を越えると前田弘二のコメディ映画『婚前特急』や沖田修一監督の『横道世之介』などに出演し、コミカルな部分を強く打ち出した明るい作品が増えていく。そして連続テレビ小説『花子とアン』(NHK)で主演を務めたことで、彼女は国民的女優の一人に仲間入りを果たした。

 現在の彼女のイメージは、陽気なお姉ちゃんという感じだ。ヘラヘラしたしゃべり方はいつも軽く酔っ払っているみたいで、一緒にお酒を飲んだらさぞかし楽しいことだろう。

 その意味で彼女の一番のハマり役は、サントリー「トリス・ハイボール」のCM かもしれない。「ドリフ大爆笑のテーマ」の替え歌に乗ってハイボールを飲む吉高は、陽気で明るく健康的。いつもヘラヘラしているチャラいイメージは、このCMで完成した。

 吉高のこうしたキャラクターは、近年のドラマや映画においては悪目立ちしており、女優としての幅を狭めているようで不満だった。しかし『わたし、定時で帰ります。』の結衣は、彼女のキャラクターがうまく生かされている。ドラマで描かれる問題がシリアスで重いからこそ、吉高のチャラさの中にある優しさが救いとなるのだ。

 それは、キツイ現実に対する中和剤のようなものだ。本作を見て、吉高の女優としてのポテンシャルの高さをあらためて理解したような気がする。つらいご時世だからこそ、職場に一人、吉高がいてくれたらと思う。

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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話題の配信ドラマ『夫のちんぽが入らない』主演・石橋菜津美に漂う“暗い色気”

 

 FODとNetflixにて全話配信されているドラマ『夫のちんぽが入らない』(以下『おとちん』)が素晴らしかった。

 原作は2017年に扶桑社から発売された、こだま(参照記事)による同名の小説。タイトルの通り、夫の性器を挿入することができないという困難を抱えた女性・久美子(石橋菜津美)を主人公としたドラマだが、ショッキングかつキャッチーなタイトルとは裏腹に、物語はとても地味で、じめじめとした湿気が感じられる、リアルでいじらしい作品だ。

 久美子は田舎から上京し、大学入学のために入居したアパートで、夫となる青年・渡辺研一(中村蒼)と知り合う。2人は恋人となり、数年後に結婚。教師となった久美子は仕事も結婚も一見順調に見えたが、夫の性器を挿入できないという性生活の困難は、やがて2人の日常を蝕んでいく。ある日、夫が風俗に通っていることを知った久美子は、出会い系サイトで知り合った男と性交渉を重ねていく……。

 監督は『百万円と苦虫女』等の映画で知られるタナダユキ。人間の心情を丁寧に拾い上げるタナダの作風と原作の相性はばっちりで、男女の機微が淡々と描かれている。

 何より素晴らしいのは主演の石橋だろう。本作の湿った世界観は彼女によるところが大きい。

 久美子はいつも、ぼそぼそとしゃべる。社会人になると少しは垢抜けていくが、大学時代は化粧っ気もなく、まるで小学生のよう。かわいくてスタイルもいいのに華がなくて地味だが、妙な色気があるという、不思議な存在感を漂わせている。

 本作には男女の濡れ場が多数登場するが、石橋はちゃんとヌードを披露している。男女の悲しいすれ違いを描く上でテーマと密着した重要なシーンだが、こういう場面で裸体をさらけ出せるのはクローズドな配信ドラマならではだろう。

「脱げば偉い」と言うわけではないが、本作の物哀しいセックスは、時に痛々しく見える華奢な裸体をさらけ出すことなしには成立しないものである。

 石橋は現在26歳。2008年にテレビ東京のオーディション番組『イツザイ』で選ばれ、映画『天国はまだ遠く』のスピンオフドラマ『わたしが死んでも世界は動く』(auケータイドラマ)で女優デビューを果たす。その後は『メイちゃんの執事』(フジテレビ系)や『Q10』(日本テレビ系)といったドラマに出演。主演級の役はほとんどなく、女優としての活動は地味だったが、18年に吉岡里帆と共演した資生堂「エリクシール ルフレ」のCM以降、注目されるようになる。

 そして、今年NHKで新設された、よるドラ枠のドラマ『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』(以下『ゾンみつ』)で主演を務めた。

『ゾンみつ』はタイトルの通り、とある地方都市でゾンビが大発生した姿を描いたパニックホラーで、NHKの深夜ドラマでゾンビドラマが作られるという意外な組み合わせが反響を呼んだ。内容も斬新で、ゾンビが発生したことでコンビニに閉じ込められた地方在住の女性たちの鬱屈した感情に焦点が当てられている。

 石橋が演じたのはタウン誌のライター・小池みずほ。親友と不倫している夫から離婚を迫られているという、しょっぱい役だ。『おとちん』の久美子同様、地方在住の生真面目すぎてパッとしない女という、石橋にしか演じられない、いじらしい存在だった。

 それにしても、『ゾンみつ』と『おとちん』を見た後で彼女の経歴を振り返ると、あの作品にもこの作品にも出ていたのか! と驚かされる。

 中でも驚いたのは、月9で放送されていた『大切なことはすべて君が教えてくれた』(フジテレビ系)に出演していたことだ。

 本作は三浦春馬が演じる結婚間近の男性教師を主人公とした学園ドラマなのだが、いま見ると生徒役が実に豪華である。

 ヒロインを演じた武井咲はもちろんのこと、ショートカットで颯爽と登場した剛力彩芽が注目されるきっかけとなった作品として有名だが、菅田将暉、石橋杏奈、広瀬アリス、中島健人、能年玲奈(現・のん)、伊藤沙莉、岡山天音など、後にブレークした俳優が生徒役に多数存在する。

 石橋は(現時点における)最後発の『大切』組ブレーク女優だが、あらためて思うのは、人気が爆発するタイミングは誰にもわからないということだ。

 生徒役ではその他大勢の中に埋もれていた女優が、社会人役を演じられる年齢になると急に魅力を開花させるということも多い。これはルックスや演技力といった個人の問題ではなく、ハマり役といつ出会えるか? というタイミングの問題で、あきらめずに続けることがいかに大事かということがよくわかる。

 ちなみにこの時、石橋が演じたのは、クラスメイトの恋人と家でセックスしていたことが問題になる真面目な女子生徒役。この頃から、性の問題で思い悩む役を演じていたようだ。

 いつも自信なさげで華やかさに欠けるが、暗い色気の見え隠れする地方在住の真面目な女性を演じさせたら、今の石橋は最強である。26歳にしてつかんだ当たり役だといえよう。

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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話題の配信ドラマ『夫のちんぽが入らない』主演・石橋菜津美に漂う“暗い色気”

 

 FODとNetflixにて全話配信されているドラマ『夫のちんぽが入らない』(以下『おとちん』)が素晴らしかった。

 原作は2017年に扶桑社から発売された、こだま(参照記事)による同名の小説。タイトルの通り、夫の性器を挿入することができないという困難を抱えた女性・久美子(石橋菜津美)を主人公としたドラマだが、ショッキングかつキャッチーなタイトルとは裏腹に、物語はとても地味で、じめじめとした湿気が感じられる、リアルでいじらしい作品だ。

 久美子は田舎から上京し、大学入学のために入居したアパートで、夫となる青年・渡辺研一(中村蒼)と知り合う。2人は恋人となり、数年後に結婚。教師となった久美子は仕事も結婚も一見順調に見えたが、夫の性器を挿入できないという性生活の困難は、やがて2人の日常を蝕んでいく。ある日、夫が風俗に通っていることを知った久美子は、出会い系サイトで知り合った男と性交渉を重ねていく……。

 監督は『百万円と苦虫女』等の映画で知られるタナダユキ。人間の心情を丁寧に拾い上げるタナダの作風と原作の相性はばっちりで、男女の機微が淡々と描かれている。

 何より素晴らしいのは主演の石橋だろう。本作の湿った世界観は彼女によるところが大きい。

 久美子はいつも、ぼそぼそとしゃべる。社会人になると少しは垢抜けていくが、大学時代は化粧っ気もなく、まるで小学生のよう。かわいくてスタイルもいいのに華がなくて地味だが、妙な色気があるという、不思議な存在感を漂わせている。

 本作には男女の濡れ場が多数登場するが、石橋はちゃんとヌードを披露している。男女の悲しいすれ違いを描く上でテーマと密着した重要なシーンだが、こういう場面で裸体をさらけ出せるのはクローズドな配信ドラマならではだろう。

「脱げば偉い」と言うわけではないが、本作の物哀しいセックスは、時に痛々しく見える華奢な裸体をさらけ出すことなしには成立しないものである。

 石橋は現在26歳。2008年にテレビ東京のオーディション番組『イツザイ』で選ばれ、映画『天国はまだ遠く』のスピンオフドラマ『わたしが死んでも世界は動く』(auケータイドラマ)で女優デビューを果たす。その後は『メイちゃんの執事』(フジテレビ系)や『Q10』(日本テレビ系)といったドラマに出演。主演級の役はほとんどなく、女優としての活動は地味だったが、18年に吉岡里帆と共演した資生堂「エリクシール ルフレ」のCM以降、注目されるようになる。

 そして、今年NHKで新設された、よるドラ枠のドラマ『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』(以下『ゾンみつ』)で主演を務めた。

『ゾンみつ』はタイトルの通り、とある地方都市でゾンビが大発生した姿を描いたパニックホラーで、NHKの深夜ドラマでゾンビドラマが作られるという意外な組み合わせが反響を呼んだ。内容も斬新で、ゾンビが発生したことでコンビニに閉じ込められた地方在住の女性たちの鬱屈した感情に焦点が当てられている。

 石橋が演じたのはタウン誌のライター・小池みずほ。親友と不倫している夫から離婚を迫られているという、しょっぱい役だ。『おとちん』の久美子同様、地方在住の生真面目すぎてパッとしない女という、石橋にしか演じられない、いじらしい存在だった。

 それにしても、『ゾンみつ』と『おとちん』を見た後で彼女の経歴を振り返ると、あの作品にもこの作品にも出ていたのか! と驚かされる。

 中でも驚いたのは、月9で放送されていた『大切なことはすべて君が教えてくれた』(フジテレビ系)に出演していたことだ。

 本作は三浦春馬が演じる結婚間近の男性教師を主人公とした学園ドラマなのだが、いま見ると生徒役が実に豪華である。

 ヒロインを演じた武井咲はもちろんのこと、ショートカットで颯爽と登場した剛力彩芽が注目されるきっかけとなった作品として有名だが、菅田将暉、石橋杏奈、広瀬アリス、中島健人、能年玲奈(現・のん)、伊藤沙莉、岡山天音など、後にブレークした俳優が生徒役に多数存在する。

 石橋は(現時点における)最後発の『大切』組ブレーク女優だが、あらためて思うのは、人気が爆発するタイミングは誰にもわからないということだ。

 生徒役ではその他大勢の中に埋もれていた女優が、社会人役を演じられる年齢になると急に魅力を開花させるということも多い。これはルックスや演技力といった個人の問題ではなく、ハマり役といつ出会えるか? というタイミングの問題で、あきらめずに続けることがいかに大事かということがよくわかる。

 ちなみにこの時、石橋が演じたのは、クラスメイトの恋人と家でセックスしていたことが問題になる真面目な女子生徒役。この頃から、性の問題で思い悩む役を演じていたようだ。

 いつも自信なさげで華やかさに欠けるが、暗い色気の見え隠れする地方在住の真面目な女性を演じさせたら、今の石橋は最強である。26歳にしてつかんだ当たり役だといえよう。

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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『SPEC』史上“破格のヤバい女”を熱演! 美人なのに華がない木村文乃が、堤幸彦の手で大化け?

 Paravi(パラビ)で配信されている『SICK’S~内閣情報調査室特務事項専従係事件簿~』は、SPECホルダーと呼ばれる超能力者との戦いを描いたSFテイストのドラマである。

 舞台は、トクムと呼ばれる組織。係長の野々村光次郎(竜雷太)と元公安の刑事・高座宏世(松田翔太)、そして空気を操るSPECを持った御厨静流(みくりや・しずる/木村文乃)の3人は、人智を超えた壮絶な戦いに巻き込まれていく。

 監督の堤幸彦とプロデューサーの植田博樹は、過去に『ケイゾク』『SPEC』(共にTBS系)というドラマを手がけている。『SICK’S』はこの2作に連なる物語となっており、SPECサーガ完結篇と銘打たれている。

『SIC’KS』は恕(序)・覇(破)・廐(急)の3部作となっており、3月22日から「覇乃抄」がスタート。物語は複雑怪奇で、いまだ謎に包まれている。

 同時に堤ならではの、くだらないギャグや小ネタも健在だ。

「覇乃抄」には、いまや警視総監となった『ケイゾク』の主人公・柴田純が登場する。しかし、柴田を演じた中谷美紀は出演しておらず、顔だけをうまく隠して、お嬢様風のセンスの悪い服装で紅茶を飲んでいる姿が描かれる。

 ファンからすると中谷に再登場してほしい気持ちもないわけではないのだが、こういう見せ方のほうが、堤らしいなぁと、思わずニヤニヤしてしまう。

『ケイゾク』の中谷、『SPEC』の戸田恵梨香、あるいは『TRICK』(テレビ朝日系)の仲間由紀恵など、堤のドラマに出演したことで、新しい魅力を開花させられた女優は多い。  

 堤の演出は独特で、シリアスで翳のある芝居と、コミカルな振る舞いを、俳優に同時に求め る。一般的な芝居なら、それは一人の人間の感情の流れとしてつながらないのではないか? と思われるような振る舞いを平然と要求するのだが、シリアスとコミカルの間を俳優たちが力業で埋めることで、独自のキャラクターが生まれるのだ。

 そんな堤ドラマの新しいヒロインとして『SICK’S』に挑んでいるのが、木村文乃である。

 彼女が演じる御厨は過去の堤作品のヒロインの中でも、破格のヤバイ女だ。物語冒頭、御厨はSPECを暴走させ、すさまじいエネルギーで東京を焼き尽くす。そして、止めに入る自衛隊も皆殺しにする。

 そこに「時間を巻き戻す」SPECホルダーの少女・ニノマエイト(黒島結菜)が登場して彼女と対峙する姿を見せた後、物語は過去に遡り本編が始まるのだが、この序盤だけでも御厨が破格の存在で、世界を滅ぼしかねない怪物だとよくわかる。

 普段の御厨は眼帯をしており、右目の部分は髪で隠している。手にはリストカットの痕があり、どうやらその傷痕の数だけ、なんらかの悲劇があったのではないかと想像させる。強力すぎる力は彼女の体を蝕んでいるため、半分死人のようになりながら、SPECホルダーの事件を追って捜査する。目的のためなら手段を選ばず、違法捜査は当たり前。敵だと思ったら、容赦なく拳銃でプラスチック弾を撃ち込む。

『ケイゾク』や『SPEC』の頃はテレビシリーズという制約があったため、デタラメな主人公を登場させても、最低線の人間らしさは死守していたのだが、サブスクリプションメディアという閉じた場所に舞台を移したからこそ、どこまでも暴走してやるという勢いが『SICK’S』と御厨にはある。

 こんな危ない役を演じているのが木村文乃だというのは、彼女を知っている人ほど意外に感じるかもしれない。

 木村は現在31歳。2006年に公開された映画『アダン』のヒロイン役をオーディションで勝ち取り、女優としてデビューした。その後、NHK大河ドラマ『功名が辻』を筆頭に数々の映画・ドラマに出演するが、体調不良によって22歳の時に芸能活動を一時休止。

 この間は引退も考えながらさまざまなアルバイトを経験していたというが、23歳の時に、現在の事務所であるトライストーン・エンタテイメントに所属して活動を再開する。

 その後はNHK連続テレビ小説『梅ちゃん先生』や、初の主演ドラマとなった『マザー・ゲーム~彼女たちの階級~』(TBS系)に出演。今では映画・ドラマに欠かせない女優となっている。

 木村の演技は、無色透明で薄味。安定感はあるが、美人なのに華がない。彼女のような女優は脇に徹することで周囲の俳優を光らせるので絶対に欠かせない存在だが、女優としては見せ場の少ない損な役回りだなぁと、ずっと思っていた。

 そんな中『SICK’S』で演じる御厨は、かつてない濃いキャラクターとなっている。

 堤演出は映画『イニシエーション・ラブ』とドラマ『神の舌を持つ男』(TBS系)で体験積み。後者ではコミカルな芝居を見せており、おそらくそこで堤は木村の演技に手応えを感じ、今作での起用を考えたのだろう。

 黒装束に眼帯という派手なビジュアル。感情の波も激しく、ごちゃごちゃとした要素の多い謎の女だが、そんな御厨が成立するのは木村の演技が無色透明だからだ。

 暴走する御厨を演じることで、木村は今後、どんな女優へと覚醒するのか? 本編とは違う、もうひとつのドラマがそこにはある。

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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ブレーク寸前だった若手女優がユーチューバーに! 人気急上昇中のinliving.「被写体としての魔力」

 inliving.(いんりびんぐ)というショートボブの美女をご存じだろうか?

 彼女は昨年5月から活動しているユーチューバーだ。動画では一人暮らしをする彼女が料理をしたり、買ったものを紹介する姿が淡々と記録されている。

 こう書くと、ほかのユーチューバーと何が違うのか? と思われるかもしれないが、この“淡々”が尋常ではないのだ。

 ユーチューバーの番組には、ひとつの型がある。10分の動画ならば、自己紹介した後、画面にはデカデカと派手なテロップを出して「○○をやってみた」と紹介し、会話の行間を編集で切り詰めて、内容を簡潔に見せる。そうやって、テレビのバラエティ番組の見せ方を極限まで圧縮したような映像をコンスタントに量産していくのだ。

 時間は短く内容はシンプル、無駄は省略してキャッチーに。ファストフードのような「うまい、やすい、はやい」刺激的な映像である。

 一方、inliving.の動画は、同じことをやっていても、ゆったりとした雰囲気が漂っている。最初の挨拶こそ、両手を広げて「こんばんわーinliving.です」などとユーチューバーのように(小さな声で)言うが、その後はウェアラブルカメラで撮影した映像を淡々と見せていく。テロップも端っこにおしゃれな文字で小さく出ているだけ。声を張り上げることもなく、淡々と進行していく。

 その淡々とした感じが新鮮で、彼女の周囲だけ別の時間が流れているかのよう。まるで良質な短編映画を見ているようだ。

 実は彼女、昨年までは“りりか”という名で女優として活動していた。現在24歳。2015年から芸能事務所に所属し、モデル・女優として活躍した。広末涼子や能年玲奈(のん)のようなショートカットの美少女で、華奢な体が中性的な色気を発しており、透明感のあるビジュアルと憂いのある表情が印象的だった。

 メジャー作品への出演こそなかったが、『退屈な日々にさようならを』(16年/今泉力哉)や『花に嵐』(17年/岩切一空監督)といったインディペンデント系の映画や、インスタグラムで配信された縦長映像のWEBドラマ『それでも告白するみどりちゃん』、深夜ドラマなどに多数出演。CMにも出ていた。

 女優としてはブレーク寸前という感じだったのだが、昨年末に事務所を退社し、芸能界を引退した。

 女優としてのりりかは透明感があり、とてもさわやかで魅力的だった。同時に、目を離すとふわっと消えてしまいそうなはかなさがあり、どんなに笑顔で笑っていても拭い去ることのできない翳のようなものも見え隠れした。

 そんな女優時代の彼女の魅力が余すところなく発揮されていたのが、映画『花に嵐』だろう。物語は岩切監督自身が演じる大学生の“ぼく”が、大学の映画サークルで借りたカメラで自分の映像日記を撮影していたところ、りりか演じる謎の少女と知り合う。彼女は“ぼく”に、未完で終わっている「ある学生映画」の続きを撮ってほしいと頼む。“ぼく”は彼女に翻弄される形で次々と無茶な撮影を要求されるのだが、その姿がフェイクドキュメンタリーテイストで展開され、どこまでがフィクションでどこからが現実かわからない虚実入り混じった展開となっていく。

 りりかが演じる少女は、いわばミューズ(芸術の女神)なのだが、被写体としての彼女はとても魅力的で、岩切監督でなくても、彼女と一緒なら「何か新しい作品が撮れるのではないか?」と期待させる魔力がある。だからこそ、数々のクリエイターに愛され、短期間で彼女はカルト的な人気を博したのだ。

 実はりりかは、芸能活動をする以前から知る人ぞ知る存在で、画像投稿ブログのTumblrに写真を多数投稿していた。その写真もinliving.と同様、どこかのアパートで暮らす彼女の日常生活を撮影したものだったのだが、どの写真も妙な生活感があって色っぽく、まるで恋人が撮影したプライベート写真を、盗み見しているようだった。

 これらの写真はセルフポートレートではなく、何人かのカメラマンの撮影したものだったが、思うに、りりかの魅力は自撮りではなく他者が撮影した時にこそ発揮される。つまり、カメラマンや映画監督といったクリエイターの目線を通した時に、クリエイターのイメージを媒介して彼女の輪郭が浮かび上がるのだ。

 inliving.も、りりかとカメラマン・末永光の共同プロジェクトである。りりかと末永は以前に「♯きょうのねぐせ展」という個展を行っている。細かい説明はないが、おそらくこのinliving.も、動画を入り口にした新しい表現なのだろう。

 彼女のHPには動画だけでなく、洋服や好きな本が紹介されているのだが、一つひとつの記事がコラムとして読み応えがある。彼女の好きなものを通して一つの世界観を提示しており、inliving.自体が2人の作品なのだとよくわかる。

 HPには2019年6月28日というカレンダーがあり、「あと3か月です。」という表示がある。その日に何が起きるのか? 今からドキドキしている。

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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サイボーグ演技で話題沸騰! 白石聖が放つ”神聖オーラ”

 土曜夜11時40分からフジテレビ系の「オトナの土ドラ」枠で放送されている『絶対正義』は、奇妙なドラマだ。

 物語は、過剰な正義感を抱えた高規範子(山口紗弥加)が、高校時代の同級生と再会したことから始まる。行きすぎた正義感で同級生を翻弄する範子は本当に正しいのか? という切り口でストーリーは進んでおり、山口の怪演もあってか、怖さと滑稽さが同居する一筋縄ではいかない作品となっている。

 チーフ演出は『コード・ブルー』(フジテレビ系)シリーズや『リッチマン、プアウーマン』(同)などで知られる西浦正記。印象深いセリフをテロップで見せたり、画面のフレームを自在に変えるトリッキーな映像の応酬となっているが、範子のいびつな正義感をうまく可視化する演出となっている。

 特に印象的だったのが第1話。登場人物の学生時代を描いた前日譚だが、高校生の範子を演じた白石聖(しらいし せい)の演技が素晴らしく、独立した学園ドラマとして面白かった。

 山口が演じる大人の範子は、東海テレビならではの、 こってりとした味付けの昼ドラテイスト。対して、人形のような表情で突き放すように話す白石の演技は、範子の持つ神聖さを際立たせている。

 抑制された表情の中にすごみを感じさせる芝居は、なかなかできるものではない。名前が“聖”だからというわけではないが、聖女的存在を演じさせると、神々しいオーラがにじみ出る女優である。

 白石は現在20歳。2016年に『AKBラブナイト 恋工場』(テレビ朝日系) で女優デビューし、その後は『痛快TV スカッとジャパン』(フジテレビ系)などに出演。昨年末に放送された深夜ドラマ『PRINCE OF LEGEND』(日本テレビ系)への出演で、大きく注目されるようになった。

 EXILE TRIBEを率いるLDHの代表・HIROがエグゼクティブプロデューサーを務める『プリレジェ』は、複数のイケメンがヒロインをめぐって争うドラマだ。『HiGH&LOW』プロジェクトで究極の不良アクションバトルものを作り上げたTEAM HI-AX制作ということで大きく注目された。

 キャッチコピーは「王子様が大渋滞」。セレブが集う聖ブリリアント学園を舞台に、セレブ王子、ヤンキー王子、ダンス王子といったさまざまな個性を持った王子たちが登場し、「伝説の王子」を目指して争いを繰り広げる。

 白石が演じる成瀬果音は本作のヒロインで、父親の借金を返すためにバイトに明け暮れている。王子たちから想いを寄せられるプリンセス的な存在だが、自分をめぐって王子たちが争いを繰り広げる姿をさめた目で見ていて、どんな王子が口説いてもまったくなびかない。

 実際、王子たちが果音を求める理由はそれぞれバラバラで、その何人かはほかの王子に対するライバル意識から彼女を自分のものにしようとする。そんな王子たちの勝手な思惑に対して「男の妄想、押し付けるのをやめてもらえますか?」と果音が全否定することで、王子たちの滑稽さがより際立つのが、本作の面白さである。

『ハイロー』もそうだったが、LDHのプロジェクトには妙な批評性がある。どちらの作品も、作りはとても商業的で豪華な予算をかけて俳優たちを魅力的に見せることに特化した作品なのだが、例えば『ハイロー』なら少年漫画的なヤンキーバトルもの、『プリレジェ』ならイケメンドラマに対するツッコミ目線のようなものがある。

 特に『プリレジェ』は、『花より男子』(TBS系)あたりのイケメンドラマが作ってきた、普通の女の子が複数のイケメンから求愛されるという構造を、肝心のヒロインが全否定しているところが面白い。

 そもそもイケメンドラマは、かっこいいイケメン俳優たちを見せるために作られている。ヒロインはあくまで引き立て役であり、視聴者がイケメン俳優を鑑賞するための装置でしかない。だから、余計な個性やラブロマンスを描くと視聴者の反発を招きやすいため、扱いがとても難しい。

 そんな中、白石演じる果音は、少し怒ったトーンで王子からの寵愛を全否定するので、かわいさよりも凛とした強さのほうが際立っているため、ファンからの反発も少ない。

 この、男(王子)に媚びない芯の強さこそが、白石が見せる最大の魅力だろう。

白石は現在、BSスカパー!で放送されている青春ドラマ『I”s』のヒロイン・葦月伊織も演じている。原作が「週刊 少年ジャンプ」(集英社)で連載されていた桂正和の同名漫画のため、少年漫画に登場する中高生が憧れを抱くヒロイン役だが、やはり白石が演じると、肉感的な色っぽさよりも、神聖なオーラのほうが際立つ。

 3月には『プリレジェ』の劇場映画も公開される。今後、彼女に対する注目が、より高まっていくことは間違いないだろう。

『絶対正義』にも、範子の娘・律子の成長した姿として再登場する予定だ。白石の怪演が再び味わえると思うと、今から楽しみである。

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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