橋本愛が主演を務めた『長閑(のどか) の庭』(NHK BSプレミアム)は、23歳の大学院生・朝比奈元子(橋本愛)と年上の老教授・榊郁夫(田中泯)のラブストーリーだ。
元子はいつも黒い服を着ているのでシュバルツ(ドイツ語で「黒」の意味)さんと呼ばれている。人付き合いが苦手で恋愛にも奥手、それゆえ学業に深く没頭していたが、「君の日本語は美しい」と論文を評価してくれた教授に恋心を抱く。
全4話と短いながらも、恋愛に苦悩する元子が成長していく姿が一気に描かれており、濃密な恋愛ドラマとして見応えがあった。
登場人物はそれぞれ魅力的なのだが、何より元子を演じた橋本と富岡樹里を演じた中村ゆりかの配役の絶妙さに感心した。
今期は『きのう何食べた?』(テレビ東京系)にも出演していた中村は、20代前半の女優の中では、突出して演技力が高い。樹里のような恋愛体質のヒロインから、『ぼくは麻理のなか』(フジテレビ系)の陰気な女子高生まで幅広く演じられるのだが、うまいがゆえ、便利に使われてしまうきらいがある。その意味で器用貧乏な女優なのだが、それが自由奔放に見えてすごく不器用な樹里とマッチしており、彼女から目が離せなかった。
一方、元子を演じた橋本は、仕草がぎこちなく、台詞もあまり流暢には聞こえない。だが、ビジュアルの華やかさは圧倒的。大河ドラマ『いだてん』(NHK)では遊女の小春を演じ、派手な着物を着て街を颯爽と闊歩していたが、やっぱり話すと、妙な違和感があるなぁ、と気になってしまう。
その意味で、中村のようにどんな役でも演じられるというタイプではない。しかし映画やドラマには、橋本にしか演じられないヒロインの系譜というものが間違いなく存在する。今回の元子も、橋本だからこそ説得力のある女性として成立している。
“美人なのに、生きるのが不器用な女性”を演じさせたら、彼女のぎこちない演技は見事にハマる。
橋本は現在23歳。『長閑の庭』の元子と同じ年だが、まだ23歳なのかと思うのは、女優としてのキャリアがあまりにも濃密だったからだろう。2010年代前半の邦画界は、間違いなく橋本愛の時代だった。
14歳の時に中島哲也監督の映画『告白』に出演した橋本は、クラス委員長の北村美月を好演。ショートボブの髪形と鋭い眼光が印象に残るビジュアルで注目を集める。
その後、『Another アナザー』『桐島、部活やめるってよ』といった、さまざまな映画に出演。暗い青春映画に出演することが多く、内気な同級生がひそかに思いを寄せる、どこか翳のある神秘的な美少女を演じることが多かった。
『リング』シリーズで有名な黒髪の幽霊・貞子の役も『貞子3D』で演じており、『告白』から3年弱の間に 、橋本は青春映画に欠かせないダークなポップ・アイコンとして、2010年代前半を象徴する女優となった。
これは好意的に捉えるならば、わずか数年でハマり役に出会うという幸運をつかんだといえる。しかし、ネガティブに考えると、早くもイメージが固まってしまったともいえる。
おそらく今も、橋本を翳のある美少女のイメージで捉えている人は少なくないだろう。当時の橋本はいい意味でも悪い意味でも人形的なポップ・アイコンであり、このまま似たような役を演じ続けると、簡単に消費され、やがてすり切れてしまうのではないかというはかなさを抱えていた。
転機となったのは宮藤官九郎・脚本のNHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』だろう。彼女が演じた足立ユイは、岩手県の田舎で暮らす女子高生で、寡黙ではかなさのある雰囲気は『告白』以降の路線を踏襲しているように見えた。だが、実は彼女は「アイドル」を目指しており、高校を卒業したら東京に行きたいと考える、芸能界に憧れる今どきの女の子だ。主人公の天野アキ(能年玲奈/現・のん )と共に一度は上京しようとしたユイだったが、両親が倒れたことで計画は頓挫。田舎でくすぶっているユイは、どんどんやさぐれていくのだが、そんなユイを、宮藤は愛嬌のある人間としてコミカルに描いた。
ユイを演じたことで、橋本の芝居にはユーモアが生まれた。『あまちゃん』の後に出演したミステリードラマ『ハードナッツ!~数学girlの恋する事件簿~』(NHK BSプレミアム)で演じた大学生・難波くるみは、数学理論を駆使した推理力は天才的だが、行動がいちいち抜けているという女性。
『長閑の庭』にも通じる不器用なヒロインだが、その姿には愛嬌があり、本作でコメディエンヌとしての才能が一気に開花した。
20歳以降の橋本は、人間味のある落ち着いた役を演じる機会が増えている。立っているだけで絵になるオブジェ的な存在感は相変わらずだが、動いた時に生まれる妙なぎこちなさが、元子のような女性を演じた時にはうまくハマッている。
演技におけるぎこちなさや違和感は、決してマイナスではない。むしろ不器用にしか生きられない女性を演じる際には圧倒的な武器になるのだと、橋本の芝居は教えてくれる。
●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
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