吉岡里帆『時効警察』で取り戻した、「正統派に見えて実は邪道」という持ち味

 今クールの連続ドラマが次々と最終回を迎えているが、個人的に最も楽しく観ていたのが『時効警察はじめました』(テレビ朝日系)だ。

 本作は1話完結のミステリードラマで、物語は総武署時効管理課の捜査資料管理を担当する警察官・霧山修一朗(オダギリジョー)と交通課課長補佐の三日月しずか(麻生久美子)が、時効が成立した事件を趣味で捜査するというもの。

 2006年に第1作が、07年に続編となる『帰ってきた時効警察』が放送され、今回の『時効警察はじめました』は12年ぶりの続編となる。

 本作がミステリードラマとして異色なのは、謎を解いても犯人を逮捕しないことだ。霧山は趣味で事件を捜査しており、毎回、犯人に「誰にも言いませんよカード」を渡すのだが、基本的に最初に起きた(すでに時効を迎えている)事件以外では殺人が起こらない。

 だから、ミステリードラマには付き物のはずの、血なまぐさい愛憎劇がごっそり削られている。その結果、物語はふわふわとしたつかみどころのないものとなっており、その隙間を埋めるように俳優や演出家の悪ノリと、淡々とした空気が漂っている。

 その意味でコントバラエティに近く、クスクスと笑ってしまうくすぐりが延々と続く不思議な作品だが、深夜にダラダラと観るには実にちょうどいい作品だった。

 そして、もうひとつ、このドラマを楽しみにしていた理由がある。それは、新たにレギュラーに加わった吉岡里帆の存在だ。

 吉岡が演じるのは刑事課の新人刑事・彩雲真空(あやくも まそら)。熱血刑事で、霧山が趣味で捜査する時効事件に興味を持って一緒に捜査するのだが、霧山が犯人に真相を問い詰める瞬間になると、上司の十文字疾風(豊原功補)に呼び出されて立ち会えないというのがお約束になっている。いてもいなくてもいいマスコット的存在だが、微妙にズレたダサい格好とリアクションがかわいいため、ついつい目がいってしまう。こういう脇役を演じさせると、吉岡は最高のポテンシャルを発揮する。

 吉岡が大きく注目されたのは、NHK連続テレビ小説『あさが来た』で演じた、のぶちゃんこと田村宜だ。のぶちゃんはヒロインの白岡あさ(波瑠)の娘・千代(小芝風花)の友人で、後にあさの秘書見習いとなる。特に重要な役というわけではないのだが、着物にメガネというルックスが妙に印象に残り、画面の端っこに映っていても本編そっちのけで気になる存在となっていた。

 その後、吉岡は『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)や『メディカルチーム レディ・ダ・ビンチの診断』(フジテレビ系)などに出演し、“脇で目立つ女優”という謎のポジションを確立。そして、坂元裕二脚本の連続ドラマ『カルテット』(TBS系)で演じた有朱ちゃんこと来生有朱役で、吉岡の魅力は臨界点を迎える。

 有朱ちゃんは元地下アイドルで今はレストランでアルバイト店員として働いているのだが、なんともいえない壮絶なキャラクターの女性で、あだ名は淀君。過去にクラスを学級崩壊に追い込み、付き合う男を片っ端からダメにするという人の心を弄ぶ計算高い(しかし思慮が浅い)悪女だ。

 脇役だったが、アイドル的なかわいらしいルックスに隠された悪魔的な性格というギャップが視聴者を魅了し、吉岡のイメージは有朱ちゃんによって完成してしまったといえる。

 いまや吉岡は人気女優の仲間入りを果たし、映画、ドラマで主演に引っぱりだこだが、脇で必死に爪痕を残そうとしていた時に比べると、イマイチ精彩に欠ける。また、主演として正統派ヒロイン風の役をやろうとすると、どうしても有朱ちゃんのイメージが頭から離れず、“実は腹黒いのではないか”と、うがった見方をしてしまう。

「正統派に見えて実は邪道」というのが吉岡の持ち味だが、ど真ん中に置かれると、邪道な隠し味を殺してしまうのだ。

 しかし、『時効警察はじめました』の吉岡は水を得た魚のように生き生きとしている。これは、彼女が演じる彩雲が正ヒロインではなく三番手だったことも大きいが、何より『時効警察』の芯を外した作りが彼女の演技とうまくハマったからだろう。

 途中から彩雲の出番は明らかに増えており、“誰が一番、吉岡で遊べるか”という勝負の場にドラマが変質していったことが見ていてわかる。

 中でも映画『勝手にふるえてろ』でエキセントリックな女性の内面をコミカルに描いた大九明子が監督を務めた5・6話が素晴らしく、吉岡の魅力を最も引き出していた。

 その意味でも『時効警察はじめました』への出演は吉岡にとって幸運だったが、こういう作品はあくまで例外である。

 今後も吉岡は、アウェーである主演級の役柄に挑み続けるのか、それともこのまま名脇役として、おいしい立ち位置を確立するのか。個人的には後者のほうが幸せだと思うのだが、若手女優として人気が高いため、しばらくそれは許してもらえないのだろう。

 主演でありながら、彼女の邪道な演技が生きる役と出会えればいいのだが……。

吉岡里帆『時効警察』で取り戻した、「正統派に見えて実は邪道」という持ち味

 今クールの連続ドラマが次々と最終回を迎えているが、個人的に最も楽しく観ていたのが『時効警察はじめました』(テレビ朝日系)だ。

 本作は1話完結のミステリードラマで、物語は総武署時効管理課の捜査資料管理を担当する警察官・霧山修一朗(オダギリジョー)と交通課課長補佐の三日月しずか(麻生久美子)が、時効が成立した事件を趣味で捜査するというもの。

 2006年に第1作が、07年に続編となる『帰ってきた時効警察』が放送され、今回の『時効警察はじめました』は12年ぶりの続編となる。

 本作がミステリードラマとして異色なのは、謎を解いても犯人を逮捕しないことだ。霧山は趣味で事件を捜査しており、毎回、犯人に「誰にも言いませんよカード」を渡すのだが、基本的に最初に起きた(すでに時効を迎えている)事件以外では殺人が起こらない。

 だから、ミステリードラマには付き物のはずの、血なまぐさい愛憎劇がごっそり削られている。その結果、物語はふわふわとしたつかみどころのないものとなっており、その隙間を埋めるように俳優や演出家の悪ノリと、淡々とした空気が漂っている。

 その意味でコントバラエティに近く、クスクスと笑ってしまうくすぐりが延々と続く不思議な作品だが、深夜にダラダラと観るには実にちょうどいい作品だった。

 そして、もうひとつ、このドラマを楽しみにしていた理由がある。それは、新たにレギュラーに加わった吉岡里帆の存在だ。

 吉岡が演じるのは刑事課の新人刑事・彩雲真空(あやくも まそら)。熱血刑事で、霧山が趣味で捜査する時効事件に興味を持って一緒に捜査するのだが、霧山が犯人に真相を問い詰める瞬間になると、上司の十文字疾風(豊原功補)に呼び出されて立ち会えないというのがお約束になっている。いてもいなくてもいいマスコット的存在だが、微妙にズレたダサい格好とリアクションがかわいいため、ついつい目がいってしまう。こういう脇役を演じさせると、吉岡は最高のポテンシャルを発揮する。

 吉岡が大きく注目されたのは、NHK連続テレビ小説『あさが来た』で演じた、のぶちゃんこと田村宜だ。のぶちゃんはヒロインの白岡あさ(波瑠)の娘・千代(小芝風花)の友人で、後にあさの秘書見習いとなる。特に重要な役というわけではないのだが、着物にメガネというルックスが妙に印象に残り、画面の端っこに映っていても本編そっちのけで気になる存在となっていた。

 その後、吉岡は『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)や『メディカルチーム レディ・ダ・ビンチの診断』(フジテレビ系)などに出演し、“脇で目立つ女優”という謎のポジションを確立。そして、坂元裕二脚本の連続ドラマ『カルテット』(TBS系)で演じた有朱ちゃんこと来生有朱役で、吉岡の魅力は臨界点を迎える。

 有朱ちゃんは元地下アイドルで今はレストランでアルバイト店員として働いているのだが、なんともいえない壮絶なキャラクターの女性で、あだ名は淀君。過去にクラスを学級崩壊に追い込み、付き合う男を片っ端からダメにするという人の心を弄ぶ計算高い(しかし思慮が浅い)悪女だ。

 脇役だったが、アイドル的なかわいらしいルックスに隠された悪魔的な性格というギャップが視聴者を魅了し、吉岡のイメージは有朱ちゃんによって完成してしまったといえる。

 いまや吉岡は人気女優の仲間入りを果たし、映画、ドラマで主演に引っぱりだこだが、脇で必死に爪痕を残そうとしていた時に比べると、イマイチ精彩に欠ける。また、主演として正統派ヒロイン風の役をやろうとすると、どうしても有朱ちゃんのイメージが頭から離れず、“実は腹黒いのではないか”と、うがった見方をしてしまう。

「正統派に見えて実は邪道」というのが吉岡の持ち味だが、ど真ん中に置かれると、邪道な隠し味を殺してしまうのだ。

 しかし、『時効警察はじめました』の吉岡は水を得た魚のように生き生きとしている。これは、彼女が演じる彩雲が正ヒロインではなく三番手だったことも大きいが、何より『時効警察』の芯を外した作りが彼女の演技とうまくハマったからだろう。

 途中から彩雲の出番は明らかに増えており、“誰が一番、吉岡で遊べるか”という勝負の場にドラマが変質していったことが見ていてわかる。

 中でも映画『勝手にふるえてろ』でエキセントリックな女性の内面をコミカルに描いた大九明子が監督を務めた5・6話が素晴らしく、吉岡の魅力を最も引き出していた。

 その意味でも『時効警察はじめました』への出演は吉岡にとって幸運だったが、こういう作品はあくまで例外である。

 今後も吉岡は、アウェーである主演級の役柄に挑み続けるのか、それともこのまま名脇役として、おいしい立ち位置を確立するのか。個人的には後者のほうが幸せだと思うのだが、若手女優として人気が高いため、しばらくそれは許してもらえないのだろう。

 主演でありながら、彼女の邪道な演技が生きる役と出会えればいいのだが……。

『G線上のあなたと私』波瑠がいくえみ綾作品にハマるワケ

 火曜夜10時から放送されている『G線上のあなたと私』(TBS系)は、いくえみ綾の同名漫画をドラマ化したものだ。

 27歳の元OL小暮也映子(波瑠)、19歳の大学生・加瀬理人(中川大志)、46歳のパート主婦・北河幸恵(松下由樹)。大人向けバイオリン教室で同じクラスとなった3人は、発表会で演奏するために一緒に練習をしていく中で、世代を超えた絆を深める。

 脚本は安達奈緒子。『リッチマン、プアーウーマン』や『失恋ショコラティエ』といったフジテレビ系の月9ドラマを主戦場としていた安達だったが、昨年、NHKで執筆した医療ドラマ『透明なゆりかご』以降、その作家性が高く評価されるようになっている。今年は本作のほかにも『きのう、何食べた?』(テレビ東京系)、『サギデカ』(NHK)の2作の連ドラを執筆し、どちらも高い評価を獲得した。本作も原作漫画の魅力をしっかり押さえながらも、エピソードや台詞を膨らませた、とても見応えのあるドラマとなっている。

 何より、メインの3人が魅力的だ。理人を演じる中川は、いくえみが描くかっこいい男、通称・いくえみ男子のたたずまいそのままで、幸恵を演じる松下は、原作以上に生々しく40代の主婦を演じている。何より、也映子を演じる波瑠が素晴らしい。

 婚約間近だった恋人に振られ、会社も辞めてしまった也映子は、ショッピングモールで聴いた「G線上のアリア」のバイオリン演奏に感動し、音楽教室に通い始める。劇中では失恋を忘れるために演奏に没頭する一方で、新しい仕事を探したり婚活をしたりするのだが、そのすべてが中途半端というさえない日々を送っている。

 だが、一方で年下の理人とは友達以上恋人未満の関係で、憎まれ口を叩き合いながらも、信頼関係が生まれつつある。実に見事なのは、2人が恋愛関係になりそうでなかなかならないところで毎週エンドクレジットが流れ、理人と也映子の関係が盛り上がるドキドキシーンを入れてくる展開。

 このあたり、原作以上にサービス過剰だが、その俗っぽさがドラマの良さにつながっている。2人がくっつくのかどうかを楽しむこともできる一方で、それぞれの世代の男女の悩みを丁寧に拾い上げながら、単純なカタルシスに持っていかない、どっちつかずのふわふわした感触がいくえみ作品の魅力で、この感触が成立するのは、中心に波瑠がいるからだろう。

 波瑠がいくえみ作品の映像化に挑むのは同枠で放送された『あなたのことはそれほど』以来で、当時は初恋の人と不倫をしても罪の意識をまったく感じていない主婦を演じ、物議を呼んだ。ドラマ版は最終的に異常な夫が暴走する不倫サスペンスに振り切ったせいで、繊細な内面描写がウリのいくえみ作品とは別モノとなってしまったが、波瑠主演で再びドラマ化されるということは、いくえみは好意的だったのだろう。

 それはおそらく波瑠の持つ冷静でさめた空気感が、自身の作風とシンクロしていると感じたからではないかと思う。

 波瑠は現在28歳。2004年に芸能界デビューしたが、当初は仕事がなく、エキストラのような脇役が続いた。07年頃からじわじわと仕事が増えていき、二番手三番手の、主人公の友達のクールな女の子などを演じることが増えていった。13年にいくえみの漫画を映画化した『潔く柔く』で演じたのも主人公の友達役で、主演というよりは脇で印象に残る演技を見せるショートカットのクールビューティというポジションだった。

 大きな転機となったのは、やはりNHK連続テレビ小説の『あさが来た』だろう。同作で波瑠が演じたのはヒロインのあさ。ちょっととぼけたところのある明るい天然の女の子で、それまで波瑠が演じてきた役とは真逆の王道ヒロインだった。

 驚いた時に「びっくりぽんや」と言うのが口癖の喜怒哀楽がはっきりした女性で、感情表現も驚くと目を見開いて文字通り“びっくりぽん”という表情をする。

 つまり同作に出演したことで、脇で面白いことをやる通好みの演技から、ど真ん中で作品を支える主演の演技を身につけたといえよう。

『G線上』でも、驚いた時に目を見開く“びっくりぽん”な表情は健在。いまや波瑠の十八番だが、大きく変わったのは表情の緩急くらいで、実は朝ドラ以降も波瑠の本質はそこまで大きく変わってはいない。

 確かに『あさが来た』以降、彼女を取り巻く状況は大きく変わり、主演が続いている。その多くはコメディテイストのお仕事モノだが、肝心の波瑠は昔からのさめた感じを今も保っている。それは、じめじめとした陰気さとは違うもので、必要以上に明るく振る舞わないという微妙なさじ加減のクールな微温感としか例えようのないものである。だからこそ、いくえみ作品のヒロインにハマったのだろう。

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

◆「女優の花道」過去記事はこちらから◆

『同期のサクラ』でまたロボット・ヒロインに……“朝ドラ女優”高畑充希はこれでいいのか?

 NHKの朝ドラに出演することは、若手女優にとって大きな登竜門だ。

 今クールのドラマを見ても、主演では『少年寅次郎』(NHK)の井上真央、『G線上のあなたと私』(TBS系)の波瑠、『同期のサクラ』(日本テレビ系)の高畑充希。

 脇役では『時効警察はじめました』(テレビ朝日系)の吉岡里帆や『俺の話は長い』(日本テレビ系)の清原果耶など、朝ドラ出演で注目を浴びた女優が目立った活躍を見せている。

 つまり朝ドラで全国的な知名度を獲得してから次のステップを踏むことが出世コースとなっているが、同時に朝ドラで成功した後、どんな役を演じるのかという進路の選択に苦労しているように見える。

 そんな中、朝ドラ出演によって演じる役が大きく変わったのが高畑だ。

 高畑は現在、水曜夜10時の『同期のサクラ』で主演を務めている。本作は、故郷の離島と本土の間に橋をかけたいという目標を持って大手建設会社に就職した北野サクラ(高畑)と同期の仲間たちの、2009年から現在(19年)までの10年間を描いた物語だ。

 脚本は遊川和彦。高畑とは『過保護のカホコ』(日本テレビ系)に続いての再タッグ。『過保護のカホコ』も『同期のサクラ』も、高畑が演じるのは空気を読まずに自分の思っていることを言って周囲を翻弄する、機械のようなしゃべり方をする極端に記号化されたロボットのような女性だ。これは遊川が最も得意とするヒロイン造形で、かつて大ヒットした『女王の教室』(同) も『家政婦のミタ』(同)も同じパターンで作られていた。

 しかしまさか、遊川作品のヒロインを高畑が演じ、ここまでハマるとは思わなかった。なぜなら、今まで高畑が演じてきた役はサクラのようなロボット・ヒロインとは真逆の、一見ふつうに見えるが、心の奥底にめんどくさい感情を隠し持った繊細な女性だったからだ。

 高畑は現在27歳。05年、中学生の時にホリプロが主催したミュージカル『山口百恵トリビュートミュージカル プレイバックpart2 ~屋上の天使』のオーディションで主演の座を獲得し、女優デビューを果たした。

 

 その後、07~12年までミュージカル『ピーターパン』の8代目ピーターパンを務め、『奇跡の人』など、さまざまな舞台で活動。

 テレビドラマで大きく注目されたのは、木皿泉が脚本を手掛けたSFテイストの学園ドラマ『Q10』(日本テレビ系)だろう。本作で高畑は、自分に自信がない真面目な優等生を演じた。

『Q10』を筆頭に、自分に自信のない女性の繊細な内面、男には若干めんどくさく見える鬱屈した内面を抱えた女性を演じさせると、高畑は突出した魅力を見せた。

 中でも坂元裕二脚本の『問題のあるレストラン』(フジテレビ系)や『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(同)では、一見社会に適応している社会人だが、その奥底に不安やいらだちを抱えた不安定な女性を見事に演じていた。

 当時の高畑は二番手、三番手の役が多く、社会に過剰適応した優等生的な内面を抱えた女性を演じさせたら右に出る者がいない名脇役というポジションだった。

 そんな高畑の立ち位置は、朝ドラの『とと姉ちゃん』で連続ドラマ初主演を務めたことで大きく変化する。彼女が演じたのは亡き父に代わって、2人の妹と母親を支えようとする“とと姉ちゃん”こと小橋常子。物語は王道の朝ドラで、出版社の編集長へと成長していく常子の姿を半年間かけて演じ、高く評価された。

 その後、高畑は主演の仕事が増えるのだが、主演を演じるようになると、求められる役割はめんどくさい内面を抱えた鬱屈した女性から、わかりやすい記号的なキャラクターへと変化し、『過保護のカホコ』や『忘却のサチコ』(テレビ東京系)など、感情を表に出さない(もしくは極端に記号的な振る舞いをする)ロボット・ヒロイン路線が続いている。

 一方で、ドラマ『メゾン・ド・ポリス』(TBS系)の女刑事や地方在住のギャルを演じた映画『アズミ・ハルコは行方不明』など、人間的な役も演じてはいるのだが、やはり印象に残るのは『同期のサクラ』のようなロボット・ヒロイン路線で、後者が高畑のパブリック・イメージになりつつある現況を見ていると、果たしてこの方向性でいいのだろうかと思ってしまう。

 もちろんロボット・ヒロインといっても、高畑が演じているだけあって、もう少し複雑だ。サクラも、感情を表に出さない機械のように見えながら、時々、人間らしい感情がにじみ出る瞬間があり、そこで物語の感動が生まれる作りになっている。

 そんな、微妙な感情のゆらぎを見ていると、高畑自体は今も変わっておらず、求められる役割をクリアしながら、なんとか自分の持ち味を出そうと模索している渦中なのかもしれない。そんな高畑のけなげな姿には、やっぱり真面目な優等生だなぁと感心する。しかし一方で、昔からのファンとしては、もっとめんどくさい高畑が見たいと思ってしまうのだ。

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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多部未華子『これは経費で落ちません!』”不愛想”が生むユーモアと愛嬌

 10月1日、”多部ちゃん”こと多部未華子が結婚してしまった!

 芸能人が結婚するとTwitterは阿鼻叫喚の嵐となる。それ自体は大多数の人にとっては、お約束の大喜利ネタみたいなものだが、多部ちゃんの結婚に対しては激震というか、自分も含めてショックを受けている人の本気度がかなり高かったように感じた。

 うまくいえないが、彼女のファンは、他の人にはわからない彼女の魅力を自分だけが知っていると思い込んでいたのではないかと思う。

 それは恋愛感情とは違うもので、例えるならば、人に懐こうとしない小動物にこっそり餌をあげてかわいがるような気持ちだったのではないかと思う。 

 そんな多部ちゃんの魅力が最大限に発揮されていたのが先日まで放送されていた『これは経費で落ちません!』(NHK)だろう。

 彼女が演じたのは石鹸会社・天天コーポレーションの経理課で働く女子社員・森若沙名子。いつも的確な仕事をする森若は、不明瞭な領収書を社員が持ってくると「これは経費で落ちません」と毅然とした態度で突っぱねるため、一部の社員からは煙たく思われているが、それ以上に同僚からは信頼されている。

 普段の森若は無愛想でほかの女子社員と違って媚びた姿を見せないため、どこかとっつきにくく思われており、彼女自身も仕事とプライベートはきっぱりと分けている。

 そんな森若が営業部の社員・山田太陽(重岡大毅)から猛烈にアプローチされ、だんだん気持ちが揺らいでいく過程がコミカルかつ繊細に描かれているのが、ラブコメとしての本作の魅力のひとつ。

 もうひとつは、本作が会社を舞台にしたミステリードラマだということ。物語は毎回、領収書の不明瞭な経費が気になった森若が「ウサギを追うな」と思いながらも、ついつい経費の謎(ウサギ)が気になって、社員のことを調べ出してしまうこと。つまり本作の森若は、お金の流れを追うことで社内のトラブルを解決する”経理探偵”なのだが、普段はクールで無愛想な森若が、太陽のアプローチにはてんでダメで、ついには彼の告白を受け入れてデレデレになってしまうという緩急の面白さこそが本作の魅力だったと言えよう。

 同じ時間帯(金曜夜10時)に連続ドラマ『凪のお暇』(TBS系)が放送されていたため、話題性はそちらに持っていかれた感があるが、後半の追い上げにおいては『これ経』も負けてなかった。キャスティングも物語も『凪のお暇』に比べるとだいぶ地味だったが、その地味だが丁寧な作りが、じわじわと染み入り、熱狂的なファンを増やしていった感がある本作。それはまさに、多部未華子の魅力そのものだったと言えるだろう。

 多部は現在30歳。小学校5年の時にミュージカル『アニー』を見たことが、演技の仕事を志したきっかけだったという。

 転機となったのは2005年に出演した2本の映画『HINOKIO』と『青空のゆくえ』。この2作の演技が高く評価され、ブルーリボン新人賞を受賞した。

 そして09年にはNHK連続テレビ小説『つばさ』のオーディションで、1593人の中からヒロインに選ばれる。

『つばさ』もそうだったが、民放での連続ドラマ初主演となった『山田太郎ものがたり』(TBS系)以降、多部はコミカルな役を演じており、若い頃からコメディエンヌとして完成された演技をしていた。

 ただ、彼女の場合、無理して笑わせるというよりは、立っているだけで不思議な存在感を見せており、それが結果的にコメディにつながっていたという印象がある。 

 出世作となった映画『君に届け』(10)では(外見がホラー映画『リング』の貞子に似ているため)周囲から恐れられているが、実は純粋で真面目な性格の黒沼爽子を筆頭に、彼女が演じる役は、内面と現実のズレを題材にした作品が多い。

 映画『ピース オブ ケイク』(15)では、流されるままに男と付き合っては別れる日々を送っている20代の女性、梅宮志乃を演じた。少女の面影が今も残る多部が演じるには痛々しい女性で、見ていて苦しい気持ちになる場面もあったが、同時にどこかユーモラスな作品だった。

 そして、最後のダメ出しとして彼女の最大の武器となっているのが、育ちの良さを思わせる丁寧な言葉使いだ。

 NHKドラマの主演が多いのは、そのあたりが理由だろうが、『これ経』の森若さんは、このすべての要素がそろった、彼女にしか演じられない一生に一度あるかないかのハマり役である。

 本人は至ってシリアスで、まったく媚びが見えない。むしろ愛想が悪いのに、それが巧まざるユーモアと愛嬌につながってしまう。それこそが多部の魅力だ。

 そんな彼女の結婚は娘を嫁に出すような喪失感があるが、年齢を重ねるほど幅が演技の幅が広がっていく女優だと思うので今後も楽しみにしている。仮に『これ経』の続編が作られるなら、太陽くんと結婚した森若さんを演じてほしい。

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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若手俳優の登竜門『仮面ライダー』の注目株! 井桁弘恵の“微妙な違和感”

 久しぶりに『仮面ライダー』にハマっている。

 日曜朝9時から放送されている『仮面ライダーゼロワン』(テレビ朝日系)。物語の舞台は、人口知能搭載人型ロボ・ヒューマギアが普及した近未来だ。売れっ子お笑い芸人を目指していた飛電或人(ひでん・あると/高橋文哉)は、ある日、ヒューマギアの開発と派遣を担う、飛電インテリジェンスの社長に任命される。

 時を同じくして、各地ではヒューマギアが暴走して人間を襲う事件が発生する。或人は飛電伝インテリジェンスの新社長のみが使える飛電ゼロワンドライバーを使って仮面ライダーに変身し、ヒューマギアを暴走させるサイバーテロリスト・滅亡迅雷.netと戦うことになる。

 本作は、「人工知能(AI)の進化が人類の仕事を奪う」という、近年話題になっているシンギュラリティ(技術的特異点)をモチーフにしたSFドラマに仕上がっている。面白いのは、人工知能が搭載されたロボであるヒューマギアではなく、彼らをハッキングする滅亡迅雷.netを悪役としていること。

 普段は優しく、人類のために尽くすヒューマギアが暴走の果てにライダーに破壊されてしまう悲哀が、物語を盛り上げている。

『仮面ライダー』は日本を代表する国民的コンテンツで、1971~87年にかけて放送された昭和ライダーと、2000年の『仮面ライダークウガ』以降に放送された平成ライダーがある。1年にわたって放送されるため、ストーリーも複雑で見応えがあり、若手俳優の登竜門にもなっている。

 2010年以降では、菅田将暉、桐山漣を世に送り出した『仮面ライダーW』、福士蒼汰、吉沢亮、清水富美加(千眼美子)を輩出した『仮面ライダーフォーゼ』、竹内涼真、内田理央、馬場ふみかの出世作となった『仮面ライダードライブ』など、後にブレイクする俳優が多数出演。その意味でも、NHK朝ドラと並ぶ、最も注目すべき“ドラマ枠”と言っても過言ではないだろう。しかし、アクションをベースにしたヒーローモノで、日曜の朝に起きて毎週観なければいけないという敷居の高さもあってか 、近年の『仮面ライダー』は1話も見ずに挫折していた。

 特に前クールの『仮面ライダージオウ』は、平成最後のライダーということもあり、過去のライダーが時空を超えて共演するというマーベル映画における『アベンジャーズ』のような作品で、最初からついていけなかった。

 しかし、この『仮面ライダーゼロワン』は独立した世界観で新規参入しやすく、純粋なドラマとして今のところ楽しめている。

 何より楽しいのは、若手俳優の活躍だ。主人公の飛電或人を演じる高橋文哉。或人と一緒に戦う仮面ライダーバルカンこと不破諌(ふわ・いさむ)を演じる岡田龍太郎。或人のサポートをする女性ヒューマギアのイズを演じる鶴嶋乃愛が今のところ好評だが、筆者が最も注目しているのが、刃唯阿(やいば・ゆあ)を演じる井桁弘恵(いげた・ひろえ)だ。

 井桁は映画『イソップの思うツボ』やゼクシィイのCMに出演している22歳の若手女優。本作で演じる刃唯阿は、人工知能特務機関『A.I.M.S』の技術顧問であると同時に、仮面ライダーバルキリーに変身する女戦士だ。

 まだ始まったばかりなので、彼女がどういうキャラクターなのかという細かい設定は不明だ が、ライダーに変身するぐらいだから、男勝りの科学者兼上官という感じだろう。

 唯阿は「~だからな」「~だ」「~するんだろ」といった語尾でしゃべるクールなキャラクターだ。アニメや漫画ならともかく、実写作品でこういった口調の女性キャラクターを女優が演じると、どうしても存在感が浮き上がってしまい、前出の3人と比べても、微妙な違和感が常に漂っている。

 ヒューマギアのイズを演じる鶴嶋に違和感がないのは、感情の起伏がない記号的なキャラクターを演じているからだ。ほほえみながら丁寧な口調でしゃべれば、こういうキャラクターは実写でも成立するのだが、井桁演じる唯阿は複雑な内面を抱えた女性で、なおかつ口調が特殊なので演じるのがとても難しい。

 仮に米倉涼子や天海祐希のようなベテラン女優が演じていたら、強い女上司という印象がわかりやすく際立ったのだろうが、22歳の井桁は線の細い新垣結衣タイプの女優で、時々、少女のようなかわいい表情が漏れ出してしまい、クールにも徹しきれていない。

 ただ、この不安定さは、必ずしも欠点とは言えず、劇中では彼女の複雑さを強調する面白い効果を生んでいる。だから彼女を見ているとドキドキして、次は何をするのかと、目で追ってしまう。

 長丁場の『仮面ライダー』には役者の成長を見守る楽しさがあり、序盤はぎこちなかった俳優が、みるみる変わっていくこと自体が見どころのひとつだったりする。

 自分のキャパを超えた難しい役を与えられた井桁が、今後どのように刃唯阿を演じるのか? 1年間じっくりと見守りたい。

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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『ルパンの娘』で光る、深田恭子の虚構性

 深田恭子は、リアリティがない女優である。

 これは演技がヘタという意味ではない。演技の虚構性がとてつもなく高いということだ。つまり、深田の演技には、ディズニーランドのキャラクターを見ているかのようなファンタジックな非現実感がある。

 女優の演技をリアルとファンタジーの二分法で考えた時、深田の演技はファンタジーの成分がとても多い。彼女が所属するホリプロの女優はその傾向が強く、石原さとみや綾瀬はるかの演技も虚構性が強い。だからこそ彼女たちはコメディテイストのドラマで重宝されるのだが、それでも7対3ぐらいの割合で年相応の女性としてのリアリティを有している。しかし、深田の場合は9対1、あるいは99対1くらいの割合でファンタジー要素が強い。こういう女優はとても稀有な存在で、演技のうまいヘタでは測れない希少価値がある。

 そんな深田には二種類のハマり役がある。ひとつは彼女の特性がうまく融合する虚構性100%の作品、現在放送中の『ルパンの娘』(フジテレビ系)がまさにそうだ。

 本作は「Lの一族」と呼ばれる泥棒一家の一人娘・三雲華(深田)と警察一家の息子・桜庭和馬(瀬戸康史)の恋を描いたコメディドラマ。

 チーフ演出は武内英樹、脚本は徳永友一。今年の初めに大ヒットした映画『翔んで埼玉』をヒットさせたコンビだが、本作の面白さは虚構性の高いストーリーを、完成度の高いビジュアルと演出で仕上げており、とにかく画面が豪華絢爛で貧乏くささがない。その最たる場面が、深田が赤いボディスーツを着て盗みに入る場面だ。映画『ヤッターマン』のドロンジョ様もそうだったが、少しセクシーな衣装でオブジェに徹した時、彼女のポテンシャルは最大限に発揮される。

 ほかの出演者も、瀬戸、渡部篤郎、小沢真珠、麿赤兒、栗原類、加藤諒、藤岡弘、といったアクの強い演技を得意とする俳優たちが脇を固めている。彼らは深田と同様、虚構性の高い演技を得意とする俳優だが、これだけ人数をそろえると胃もたれするほどコッテリとした芝居の応酬となり、現実感がなくなる。

 もうひとつ、『ルパンの娘』の特殊性は、ツッコミどころ満載でありながら劇中にツッコミ役がいないことだ。一応、深田演じる三雲は劇中で起こる不可解な展開に対して驚いたり、悩んだりするのだが、視聴者からするとツッコミどころが膨大なので「驚くのはそこじゃないだろう!」と言いたくなる。

 この「ツッコミを入れたくなる」というのが本作最大の武器で、視聴者がツッコミを入れることで作品に参加できること、それこそが本作の楽しさなのだ。

 一方、リアルな役柄を演じた時にも、深田の演技は際立つ。

 彼女が女優として大きく注目されたのは1998年に放送された連続ドラマ『神様、もう少しだけ』(フジテレビ系)だ。放送当時はいわゆるコギャルブームで、小室哲哉がプロデュースする女性アーティストがミリオンセラーを連発していた。

 深田演じる女子高生・叶野真生は、小室を思わせる人気音楽プロデューサー・石川啓吾(金城武)に憧れを抱いており、やがて2人は結ばれる。しかし、真生は啓吾のライブのチケットを買うために援助交際に手を出し、それが原因でHIVに感染してしまう。

 音楽プロデューサーと女子高生の恋愛、しかもそこに難病モノの要素を加えた本作は実にあざとい。しかし、援交でHIVに感染したというシチュエーションが加わることで、とても現代的な生々しい話へと変貌する。深田もアイドルとは思えない迫真の演技を見せており、男女の濡れ場はもちろんのこと、下着姿も披露している。その意味でとてもリアルな話だったが、そうでありながら現代のシンデレラストーリーとして成立していたのは、やはり深田が中心にいたからではないかと思う。

 つまりそのまま作ったらリアルで生々しくなる話が、深田を中心に置くことで、それがほどよく中和されていたのだ。

 この作用がうまく表れたのが、最近では『ダメな私に恋してください』や『初めて恋した日に読む話』といったTBSの火曜22時枠で放送されたラブコメだろう。

 深田が演じているのは、どちらも、仕事も恋もうまくいってない30代のさえない女性だ。そんな彼女の前に複数のイケメンが現れるラブコメ展開が人気の秘訣だが、ヒロインの置かれている状況はシリアスで、冷静に見るとかなりつらいのだが、どこかふわふわとした楽しい雰囲気がある。つまり、深田が中心にいることで、つらい現実を中和しているのだ。

 深田は、虚構性の高い作品に出演すればオブジェとして作品の一部としてハマるし、逆に生々しいリアルな作品に出演すれば中和作用を起こし、喉越しよく楽しめる。リアリティがないことは、演技において欠点ではない。作品次第では、最強の武器となり得るのだ。

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

◆「女優の花道」過去記事はこちらから◆

NHK『だから私は推しました』遅咲き女優・桜井ユキから漂う“破滅のにおい”

 NHKで土曜夜11時30分から放送されている『だから私は推しました』が不穏である。

 主人公の遠藤愛(桜井ユキ)はキラキラOL。インスタ映えする楽しい日々を過ごしていたが、海外赴任を機に恋人から「俺、お前の“いいね”の道具じゃないから」と別れを告げられる。傷心の中、落としたスマホを拾ってくれた男と会うためにたまたまライブハウスを訪れた愛は、地下アイドル・サニーサイドアップのハナ(白石聖)の姿に衝撃を受けて、彼女の“推し”となっていく。

「推し」とは応援しているアイドルのことで、「私の推しはハナ」といった使い方をする。この「推し」という言葉を、愛は「もうひとりの自分」だと解釈する。

 第1話は、愛が薄暗い部屋で、誰かに自分のことを話している場面が回想形式で挟み込まれるのだが、やがて、愛が誰かを階段から押して、ケガをさせたことがわかる。

 つまり、“推し”と“押し”を重ねたダブルミーニングなのだが、キラキラ女子だった愛がハナのために何らかの犯罪行為に手を染めてしまうというバッドエンドを予感させることで次回への関心を引く、見事なストーリーテリングである。

 脚本を担当したのは森下佳子。民放地上波では『JIN-仁-』や『義母と娘のブルース』(ともにTBS系)、NHKでは連続テレビ小説『ごちそうさん』、大河ドラマ『おんな城主 直虎』を手掛けたヒットメーカーだ。

 本作が放送されている「よるドラ」枠は今年リニューアルされた新設枠で、新鋭の脚本家が、斬新な題材を扱うことで注目されているドラマ枠。

 本作の「地下アイドル」という題材も、この枠ならではのものだろう。すでにキャリアを確立した森下が脚本を担当することで、この枠ならではの攻めの姿勢が消えてしまうのではないかと当初は懸念していたが、演出とストーリーが見事に融合しており、「よるドラ」の先鋭性が森下にプラスの方向で作用し、かつてない問題作に仕上がっている。

 地下アイドルのディテールも、元・地下アイドルの姫乃たまがアイドル考証に入っていることもあって、むせ返るようなリアリティとなっており、暗い映像も地下アイドルの現場が持つ同好の士が寄り添っている狭くて濃い文化空間から漂う、居心地のよさと悪さを同時に体現している。

 サニーサイドアップの設定も作り込まれており、MVや動画をネット上で公開することでリアルなアイドル人気が盛り上がりを見せており、話題に事欠かないが、何より目が離せないのが、主人公を演じる桜井ユキから漂う破滅のにおいである。

 桜井は24歳デビューの遅咲き。2016年からは、安藤サクラ、門脇麦といった実力派女優が所属するユマニテに所属している。

 デビュー当初は目立たない役が多かったが、みるみる頭角を現し、2015年に『新宿スワン』『リアル鬼ごっこ』といった園子温監督の映画に立て続けに出演したことで、一気に露出が増えていく。テレビドラマの出演もじわじわと増えていき、16年に坂元裕二脚本の『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)以降は『モンテ・クリスト伯 -華麗なる復讐-』『絶対正義』、といったフジテレビ系のドラマに多数出演している。

 切れ長の目に、大きな口。サバサバしているが、一方で気だるい雰囲気を感じさせる桜井の風貌は、いかにも大人のできる女という感じ。20代後半で大人びた女性という立ち位置にうまくハマり、バイプレイヤーとしておいしい立ち位置を獲得できたのは、遅咲きゆえの幸運だったといえるだろう。

 そんな彼女の映画初主演作となったのが『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY -リミットオブスリーピングビューティ-』。監督は岡崎京子の漫画『チワワちゃん』を映画化した二宮健。桜井が演じるオリアアキは女優を目指しながら、サーカス団・オーロラでマジシャンの助手として働く29歳の女性。

 サーカスで催眠術にかかる演技を繰り返したことで、オリアは現実と妄想の区別がつかなくなっており、虚実入り混じった彼女の内面世界が延々と描写される。

 パズル的な映像が続くMVのようなおしゃれな作品なのだが、破滅に向かっていく桜井の危険な魅力が全開となっている。恋人役を演じた高橋一生とのラブシーンではヌードも披露し、文字通りすべてをさらけ出した演技を見せている。

 面白いのは、どんな暗いシーンを演じても、日本人特有の湿っぽさが桜井にはないこと。だから、心と体が破綻して悲劇的な結末を迎えても、カラッとしたカッコ良さがある。こういう女優は洋画や海外ドラマではよく見かけるが、日本では珍しいのではないかと思う。

 ドラマ初主演作となる『だから私は推しました』の遠藤愛も同様で、物語は明らかに破滅に向かっているのだが、ひどい状況になればなるほど愛のタフさが際立っていく。そんな愛が、真逆に見えるか弱い地下アイドルのハナに入れ込んでしまうことが本作の面白さだろう。今の桜井にしか演じられない、ハードボイルドな女である。

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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NHK『だから私は推しました』遅咲き女優・桜井ユキから漂う“破滅のにおい”

 NHKで土曜夜11時30分から放送されている『だから私は推しました』が不穏である。

 主人公の遠藤愛(桜井ユキ)はキラキラOL。インスタ映えする楽しい日々を過ごしていたが、海外赴任を機に恋人から「俺、お前の“いいね”の道具じゃないから」と別れを告げられる。傷心の中、落としたスマホを拾ってくれた男と会うためにたまたまライブハウスを訪れた愛は、地下アイドル・サニーサイドアップのハナ(白石聖)の姿に衝撃を受けて、彼女の“推し”となっていく。

「推し」とは応援しているアイドルのことで、「私の推しはハナ」といった使い方をする。この「推し」という言葉を、愛は「もうひとりの自分」だと解釈する。

 第1話は、愛が薄暗い部屋で、誰かに自分のことを話している場面が回想形式で挟み込まれるのだが、やがて、愛が誰かを階段から押して、ケガをさせたことがわかる。

 つまり、“推し”と“押し”を重ねたダブルミーニングなのだが、キラキラ女子だった愛がハナのために何らかの犯罪行為に手を染めてしまうというバッドエンドを予感させることで次回への関心を引く、見事なストーリーテリングである。

 脚本を担当したのは森下佳子。民放地上波では『JIN-仁-』や『義母と娘のブルース』(ともにTBS系)、NHKでは連続テレビ小説『ごちそうさん』、大河ドラマ『おんな城主 直虎』を手掛けたヒットメーカーだ。

 本作が放送されている「よるドラ」枠は今年リニューアルされた新設枠で、新鋭の脚本家が、斬新な題材を扱うことで注目されているドラマ枠。

 本作の「地下アイドル」という題材も、この枠ならではのものだろう。すでにキャリアを確立した森下が脚本を担当することで、この枠ならではの攻めの姿勢が消えてしまうのではないかと当初は懸念していたが、演出とストーリーが見事に融合しており、「よるドラ」の先鋭性が森下にプラスの方向で作用し、かつてない問題作に仕上がっている。

 地下アイドルのディテールも、元・地下アイドルの姫乃たまがアイドル考証に入っていることもあって、むせ返るようなリアリティとなっており、暗い映像も地下アイドルの現場が持つ同好の士が寄り添っている狭くて濃い文化空間から漂う、居心地のよさと悪さを同時に体現している。

 サニーサイドアップの設定も作り込まれており、MVや動画をネット上で公開することでリアルなアイドル人気が盛り上がりを見せており、話題に事欠かないが、何より目が離せないのが、主人公を演じる桜井ユキから漂う破滅のにおいである。

 桜井は24歳デビューの遅咲き。2016年からは、安藤サクラ、門脇麦といった実力派女優が所属するユマニテに所属している。

 デビュー当初は目立たない役が多かったが、みるみる頭角を現し、2015年に『新宿スワン』『リアル鬼ごっこ』といった園子温監督の映画に立て続けに出演したことで、一気に露出が増えていく。テレビドラマの出演もじわじわと増えていき、16年に坂元裕二脚本の『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)以降は『モンテ・クリスト伯 -華麗なる復讐-』『絶対正義』、といったフジテレビ系のドラマに多数出演している。

 切れ長の目に、大きな口。サバサバしているが、一方で気だるい雰囲気を感じさせる桜井の風貌は、いかにも大人のできる女という感じ。20代後半で大人びた女性という立ち位置にうまくハマり、バイプレイヤーとしておいしい立ち位置を獲得できたのは、遅咲きゆえの幸運だったといえるだろう。

 そんな彼女の映画初主演作となったのが『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY -リミットオブスリーピングビューティ-』。監督は岡崎京子の漫画『チワワちゃん』を映画化した二宮健。桜井が演じるオリアアキは女優を目指しながら、サーカス団・オーロラでマジシャンの助手として働く29歳の女性。

 サーカスで催眠術にかかる演技を繰り返したことで、オリアは現実と妄想の区別がつかなくなっており、虚実入り混じった彼女の内面世界が延々と描写される。

 パズル的な映像が続くMVのようなおしゃれな作品なのだが、破滅に向かっていく桜井の危険な魅力が全開となっている。恋人役を演じた高橋一生とのラブシーンではヌードも披露し、文字通りすべてをさらけ出した演技を見せている。

 面白いのは、どんな暗いシーンを演じても、日本人特有の湿っぽさが桜井にはないこと。だから、心と体が破綻して悲劇的な結末を迎えても、カラッとしたカッコ良さがある。こういう女優は洋画や海外ドラマではよく見かけるが、日本では珍しいのではないかと思う。

 ドラマ初主演作となる『だから私は推しました』の遠藤愛も同様で、物語は明らかに破滅に向かっているのだが、ひどい状況になればなるほど愛のタフさが際立っていく。そんな愛が、真逆に見えるか弱い地下アイドルのハナに入れ込んでしまうことが本作の面白さだろう。今の桜井にしか演じられない、ハードボイルドな女である。

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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杏は“正統派ヒロイン”だけじゃない! 復帰ドラマ『偽装不倫』で見せた演技の幅

 2016年から出産と子育てのために女優業を休止していた杏が、テレビドラマに戻ってきた。

 復帰作は日本テレビ系で水曜午後10時から放送されている『偽装不倫』。32歳の派遣社員・濱鐘子(杏)が主人公のラブコメディだ。

 福岡旅行へ向かう飛行機で、鐘子は25歳のカメラマン・伴野丈(宮沢氷魚)と知り合う。帰国子女の伴野が年上女性との不倫に憧れていると思った鐘子は、つい既婚者だとウソをついてしまう。

「この旅行の間だけでいいから、僕と不倫しましょう」

 伴野にそう言われた鐘子は、期間限定の“偽装不倫”を楽しむ。そして、甘い一夜を過ごした後、ウソをついたまま伴野と別れた。しかし、ホテルに姉から無断で拝借した指輪を忘れてしまったため、東京で伴野と再会することになってしまう。

 原作は人気漫画家・東村アキコがLINEマンガで連載中のWEB漫画。ドラマ化もされた『海月姫』や『東京タラレバ娘』(ともに講談社)などで知られる東村の漫画は、コメディとシリアスを激しく横断する激しいテンションが特徴で、社会で働く女性の苦悩に寄り添った作品を多数手がけている。

 この『偽装不倫』も、30代独身女性と帰国子女の年下イケメンのロマンスという韓流ドラマのような甘い要素(漫画版の伴野は韓国人という設定)が盛りだくさんだが、主人公の鐘子が派遣社員で婚活に疲れているという設定は重く、ロマンスで覆い隠されているキツイ現実が時々漏れ出す。

 例えば第2話。指輪を返してもらうために伴野と再会した鐘子は、「ダメだ。好きだ」「私、この人が好きだ」と思う。そして3年間の婚活で、好きでもなんでもない人と会うために費やした時間を振り返り、「まったくなんのときめきもない相手にサラダを取り分ける時の、あの頭がグラグラする感じ、私はあれが嫌で婚活をやめた」「私、恋できるんだ」というモノローグが入る。

 婚活で知らない男と食事する気まずい場面の記憶を不安げに語る杏のモノローグは、実に痛々しい。ラブコメ的なドキドキよりも、鐘子が抱えているモヤモヤ(例えば、婚活で感じた好きでもない男性と会い続ける不毛な時間によって疲弊していく感情)が見え隠れする瞬間にこそ、本作の魅力が一番表れている。

 このあたり、鐘子を演じる杏は、よくつかんでいる。ラブコメのヒロインとして明るく振る舞いながらも、心の奥底に何か重いモノを抱えているという二面性を、絶妙なバランスで演じている。

 表情に含みはあるが、それが悪目立ちせず、思わせぶりになりすぎないという巧みなさじ加減で演じており、それがそのまま、一見日常に溶け込んでいるが漠然とした不安を抱えている鐘子のキャラクターと、うまく合致している。

 ブランクをまったく感じさせない、見事な立ち振る舞いである。

 現在33歳の杏は、ハリウッドでも活躍する俳優・渡辺謙の娘としても有名な二世女優だ。もともと女優ではなく、ファッションモデルとして活躍していた。15歳の時に「non-no」(集英社)の専属モデルとなり、2005年からは海外のプレタポルテ(高級既成服)コレクションでも活躍。ルイ・ヴィトンなどのファッションショーに多数出演した。

 そして、07年に黒澤明の映画をリブートしたSPドラマ『天国と地獄』(テレビ朝日系)で女優デビュー。その後、『泣かないと決めた日』や『名前をなくした女神』(ともにフジテレビ系)など数々のドラマに出演する。そして13年のNHK連続テレビ小説『ごちそうさん』のヒロイン・め以子を演じたことで、その人気は全国区のものとなる。本作で夫役を演じた東出昌大と14年に結婚し、現在は三児の母だ。

『ごちそうさん』以降は、明るく快活なお嬢さんキャラというイメージが定着し、池井戸潤の小説をドラマ化した『花咲舞がは黙ってない』(日本テレビ系)のような負けん気の強い正統派ヒロインばかりを演じている印象があるが、実は、役によって印象を大きく変化させていく女優だ。

 例えば、『泣かないと決めた日』で演じた帰国子女のお嬢様・立花万里香は一見、清楚な美人だったが、物語が進むにつれて病んだ面を暴走させていく狂った役柄だった。

 人気アニメをリブートした『妖怪人間ベム』(日本テレビ系)では、怪物に変身する浮世離れしたベラを演じ、アニメのイメージも踏まえた上で、杏ならではのベラを見せてくれた。

 古沢良太が脚本を担当した『デート~恋とはどんなものかしら~』(フジテレビ系)で演じた藪下依子は頭の切れる国家公務員で、人の心の機微が理解できない機械のような女性だったが、ニートの青年と交際することで少しずつ変わっていく。そんな依子をコミカルに演じた杏は、コメディエンヌとしての才能を証明した。

 今回の『偽装不倫』の鐘子は、派遣社員で婚活に疲弊している32歳の女性。実際の杏は三児の母だが、見事に30代独身女性の不安を体現している。

 今後は母親役を演じる機会も増えていくことだろう。作品ごとに印象を変える杏の演技の幅は、どんどん広がっていくはずだ。

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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