羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。
<今回の有名人>
「どこかしらひっかかれば、そこから派生して全部できると思うんです」AKB48・峯岸みなみ
『伯山カレンの反省だ!!』(テレビ朝日系、2月29日)
アイドルが人気グループから脱退し、オトナの女性として芸能活動を続けるというのは、なかなか難しいことではないだろうか。一度グループから出てしまったら、グループの御威光は通用しない。歌でも演技でもバラエティーでも、すでに活躍している人がいるわけだから、新参者が入り込むことはそう簡単ではないだろう。
こんな時、女性芸能人は「結婚をしてしまえばいい」と思うかもしれない。しかし、「昭和や平成中期ならともかく、今の時代、それはダメだと思うよ」……2月29日放送の『伯山カレンの反省だ!!』(テレビ朝日系)に出演したAKB48・峯岸みなみを見て、頼まれてもいないのに、こんなことを言いたい気持ちになった。
峯岸はAKB48の1期生。在籍期間は14年と長期に及ぶが、来月2日に卒業を迎える予定だ。番組は、峯岸の自宅を番組MCの講談師・神田伯山が訪問する形で進行する。峯岸は最近YouTubeを始めが、その理由を「テレビに疲れた」と説明する。「YouTubeですごいバズろうというのではなく、こういう“自分が出せる場所”であったらいいな」と語り、数字にこだわっていないと語る。この会話はリビングでなされていたのだが、私は、峯岸の後ろにある本棚の蔵書が気になった。
峯岸はなかなかの読書家なのかもしれない。直木賞作家・桜木紫乃氏の『ホテルローヤル』(集英社)、芥川賞作家・今村夏子氏の『むらさきのスカートの女』(朝日新聞出版)という文芸作品に交じって、樹木希林さんの『一切なりゆき 樹木希林のことば』(文藝春秋)、デヴィ夫人の『選ばれる女におなりなさい デヴィ夫人の婚活論』(講談社)が見える。
AKBを卒業すると恋愛は解禁になるが、伯山に「どんな人を狙ってるの?」とたずねられた峯岸は「好きとかじゃなくて、こういう方とお付き合いとか結婚できたら、『峯岸っていいオンナなのかな』とか『まともなオンナなんだな』って思われそうな」お相手とし、「スポーツ選手とか」と答えた。スポーツ選手と一言でいっても、ピンからキリまでいるが、世間に「峯岸っていいオンナなのかな」と思われそうなお相手がいいという発言から考えると、人気も実力もある高収入なスポーツ選手を希望しているのだろう。峯岸がデヴィ夫人の婚活本を読んでいたのは、インドネシア建国の父であるスカルノ大統領というハイステイタスの男性と結婚した“実績”のある人の意見を参考したいと思ったからなのかもしれない。
長い間、恋愛(結婚)と仕事というのは、水と油のように対極の存在と考えられてきた。例えば現在の皇后陛下、雅子さまは、男女雇用機会均等法1期生だが、当時は好景気で給料も右肩上がり、雇用も保証されていたので、男性は自分一人の収入で十分妻子を養うことができた。そのため、仕事に熱中する女性より、身の回りの世話を焼いてくれる家庭的な女性と結婚したいと願う男性は多かったのだ(この頃のドラマは、主人公のキャリアウーマンが、彼氏をぶりっ子に奪われ、結婚してしまうというパターンが目立っていた)。
しかし、今やそんな収入のある男性はごく一部となっているし、男性の意識も変わっている。少し古いデータだが、厚労省が15~39歳の独身者3,133人を対象に行った「若者の意識調査」の結果が、2013年9月24日の「日本経済新聞」に掲載されている。女性に「専業主婦になりたいか」と質問したところ、「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」が計34.2%だったのに対し、男性に「妻に専業主婦でいてほしいか?」と質問したら「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」は計19.3%にとどまっている。つまり、現代は、妻に働いてほしい男性のほうが主流派と言える。となると、きちんと仕事をすることは婚活対策としても得策なわけだ。
話を峯岸に戻そう。結婚にも「重要」と考えられる仕事に関し、将来の展望を聞かれた峯岸は、「ずっと日の目を浴びられたらいいな」というが、具体的にコレというものは見つかっていない様子。「何が求められているのかが、わからないので」としつつ、「どこかしらに引っかかれば、そこから派生して全部できると思う」と結んでいた。
芸能界は結果が全てなので、彼女の方針が正しいかは、今後の活躍が証明してくれるだろうが、「どこかしらに引っかかれば、そこから派生して全部できると思う」とは、どういう意味なのだろうか。例えばバラエティーなどで頭角を現し、そこから歌や演技もというふうに、活動範囲を広げていきたい……そういった意味なのかもしれないが、そもそも、芸能人は「全部できる」必要があるのだろうか?
引退した安室奈美恵さんが、「FRaU」(講談社)のインタビューで「できない」ことについて語っていたことがある。「自分より歌のうまい人も踊れる人もいる、だからこそ、歌って踊ることにこだわっている」という趣旨の話だったが、できないことを克服するよりも、できることを組み合わせて、その分野で抜きんでるほうが得策ということだろう。
その理論に照らし合わせて考えた場合、峯岸の戦法は少し雑に感じる。「どこかしらに引っかかれば」ではなく、自分が引っかかる場所を明確にした上で、アプローチする必要があるのではないだろうか。そうやって仕事を続けていくことが、彼女の望む「結婚」にもつながっていくような気がするのだ。
この「自分の強みをはっきりさせること」は、婚活にも大きく関わってくるのではないか。峯岸も参考にしているかもしれないデヴィ夫人が、1978年に発表した『デヴィ・スカルノ自伝』(文藝春秋)によると、夫人は、母親と弟を養うために、外国人専門の高級クラブで働きだしたという。その理由は、戦後まもない時代でドルが強く、ギャラが良かったから、また当時、水商売の女性は、世間的に低く見られていたものの、外国人相手なら、将来日本人と結婚するときに職歴がバレないと思ったからだそうだ。
当初は日本人男性との結婚を夢見ていたが、自分をレディーとして扱ってくれる外国人男性のほうが性に合うことに気づいた夫人。交際相手の外国人から生きた英語と外国式のマナーを学び、商社マンなどの人脈を広げていく。そのうちの一人が、スカルノ大統領との出会いを橋渡ししてくれて現在に至る。夫人のケースは、日本とインドネシア間の戦後補償や開発援助など、いろいろな利害がからんでいたために、一般人の結婚と同列に語ることはできないだろう。しかし、もし夫人が、英語ができなかったら、またもし商社マンがスカルノ大統領を紹介してくれなかったら、このロマンスは結実しなかっただろう。つまり、夫人はクラブで働いたこと(仕事)をきっかけに、自分に合う男性を知り、外国人男性にふさわしいスキルを高めて、チャンスをくれる人と知り合い、理想通りのハイステイタスな男性と結婚したわけだ。やはり、強みをはっきりさせることは、仕事に、そして婚活に影響を与えると言えるだろう。
峯岸と言えば、少し前、「週刊新潮」(新潮社)に「仮想通貨トレーダーや若手起業家などの飲み会にしょっちゅう来ていて、若くて羽振りがいいメンツだとすぐに顔を出す」「峯岸は“呼べば来る女”として有名」という失礼な書かれ方をされていた。峯岸は仕事も恋愛もやみくもに数打ちゃ当たる方式にするのではなく、自分の強みをもう一度研究することから始めるのもいいのかもしれない。