人件費削減が「成功」なわけない……図書館ストライキから見た「官製ワーキングプア」を生み出す“悪夢の構造”

 昨年12月、にわかに注目を集めた東京都練馬区の図書館で非常勤司書たちによるストライキ。12月19日と26日に実施すると通告された時限ストは、練馬区側が譲歩の姿勢を見せたことで中止となった。

 近年、実施されることも呼びかけられることも少なくなり、労働者の権利のはずなのに反発する人すら多く出るストライキ。だが、この一件ではストを呼びかけた労働組合を批判する声は、まったくといっていいほどなかった。そこには、民間丸投げで生み出される「官製ワーキングプア」への怒りがあったのか。

 このストライキは、練馬区の図書館で働く非常勤職員司書である図書館専門員で構成する「練馬区立図書館専門員労働組合」が呼びかけたものだ。騒動の発端となったのは、練馬区による図書館の指定管理者制度、すなわち民営化の拡大だ。練馬区では現在、12ある図書館のうち9館で同制度を導入しているが、残りの区が直営する3館のうち2館も、民営化する方針を示したのだ。

 これに反発したのが、練馬区の図書館で働く図書館専門員たちだ。図書館専門員は、1988年から始まった練馬区独自の制度。区の直営図書館108人のうち57人を占める。非常勤で1年ごともの更新を繰り返す不安定な立場の図書館専門員だが、その蓄積したノウハウで、練馬区の図書館は運営されてきた。民間委託の拡大は、雇用の継続を不安にするだけでなく、蓄積された図書館運営のノウハウを捨ててしまうものであった。

 労使交渉は難航し、ついにストライキ通告に至ったが、それを受けて練馬区側は譲歩。指定管理者制度拡大の阻止はできなかったものの、図書館専門員全員の雇用継続と、直営が維持される区立光が丘図書館で図書館業務に従事することを練馬区側に認めさせることができた。

 一連の事態が注目を集めたのは、単に雇用の継続を求めるだけではなく、不安定な雇用関係にありながらも長く業務に従事してきた図書館専門員の声を多くの人が理解したからにほかならない。図書館は専門的な知識が必要な職場にもかかわらず、大勢の非常勤の職員によって維持されているもの。その努力をないがしろにするような練馬区の方針に怒りを共有した人が多かったということだろうか。

 

■人件費削減くらいしか利益の出ない図書館

 そして、この一件によって図書館の民間委託が生み出す「官製ワーキングプア」の実態をも浮き彫りになっている。

 2月12日に練馬区内で開催されたストライキの経過報告集会では、これまでの経緯と共に、全国の図書館民間委託に共通した根本的な問題も提起された。

 講演の中で、生々しくこの問題に触れたのは「NPOげんきな図書館」の理事長・渡辺百合子さん。以前は渋谷区などで図書館業務を受託していた「NPOげんきな図書館」は、2017年に図書館業務から撤退した。理由は様々あるが、やはり民間委託する際の値段の安さが大きい。

 講演の中では、実際にあった募集と、渡辺さんによる見積もりも示された。

 2012年12月に募集があった渋谷区の例では、図書館10館を一括業務委託。渋谷区の示した参考価格3億148万円である。

 渡辺さんの積算は、このようになる。

責任者クラス:35人×月給20万円(手当・社会保険・交通費込)×12ヶ月=8,400万円
その他スタッフ:80人×時間給1,100円(雇用保険、交通費込)×8時間×25日×12ヶ月=2億1,120万円

合計人件費:2億9,520万円
管理費:628万3,000円

 渡辺さんは「これまで人件費は最高でも91.3%だったが、積算では97.9%」と、とても見合わない数字だったと説明した。一般的な企業の経営では、人件費が50%を超えると赤信号である。90%超えとは信じがたい数字だ。しかも、これでも人員は最低限。責任者は開館時間に常駐している必要があるので、実際には、この人数では回らないという。

 区の示した参考価格では、この低賃金であっても受託業者に儲けが出ない状態。しかも、参考価格ということは、これよりも安い金額で落札されているのが実情だ。つまり、儲けを出すために、さらなる人件費の削減が行われていることは想像に難くない。

 もともと指定管理者制度というものは委託された業者が、その施設で利益をあげて成り立つもの。だが、プールなどの運動施設や博物館などと違い、図書館は無料が原則。「民間委託でコストは削減できる」という自治体もあるが、図書館の場合は人件費を削って、安くする以外に方法はないのである。

 同じく講演を行った、元・日本図書館協会事務局長の松岡要さんは、既に民間委託後、直営に戻した図書館が15館に上ることを指摘。日本図書館協会の調査では、2015年には1403館のうち283館あった民間委託を検討していた図書館が、2017年には1415館中135館に減少したことを示す。その上で「これは、自治体とかの問題ではなく、国政レベルの問題」として、図書館に限らずあらゆる公共サービスが非正規雇用によって維持されている問題を指摘した。

 昨今、あらゆる業界でアルバイトや契約社員など不安定な立場に置かれた非正規雇用に従事する人が、多大な業務上の責任を課せられていることが問題視されている。公共サービスすら安上がりであればよいと「官製ワーキングプア」を生み出している現状が、この安く使い捨てる雇用を再生産しているのか。

 図書館のストライキから始まった問題は、仕事への誇りを持てないまま使い捨てられるだけの、働く人たちに、今一度自分を振り返る機会を与えてくれたように見える。

(文=昼間たかし)

2019年はどうなる? 個人情報も売り渡し……練馬区の図書館ストライキで問題になった民間委託の知られざる弊害

 昨年、練馬区の図書館ストライキ騒動で注目を集めた図書館の民間委託の問題。存外に経費がかかることや、職員の低賃金など、さまざまな問題が噴出した。

 とりわけ危惧されているのは利用者の貸し出し履歴などの個人情報が漏れる危険性だ。

 従来、図書館関係者らは、利用者のプライバシーには強く注意を払ってきた。かつてアニメ映画『耳をすませば』が上映された時には、天沢が雫の気を引くために図書(貸出)カードを利用しているシーンに抗議も行っている。それも過剰なことかと思いきや、現実にそうしたストーカー行為をする者もいたようで、現在では貸出カードは、ほぼ廃止されている。

 日本図書館協会が「図書館の自由に関する宣言」を定めて捜査機関への個人情報の提供に慎重さを求めているのも、よく知られるところだ。

 ところが、昨年11月。北海道の苫小牧市立中央図書館が、警察の照会を受けて特定人物の図書の貸し出しや予約状況についての履歴情報を提供していたことが明らかになった。報道によれば、図書館を所轄する市の教育委員会は警察からの要請を受け図書館に指示。そのまま提供したとされている。

 これも民間委託の弊害だと、事情を知る図書館関係者は語る。

「苫小牧市立中央図書館は TRC(株式会社図書館流通センター)に委託されています。TRCなんで、当然図書館の原則は知っているでしょうが、業務委託という関係性から、教育委員会の判断に現場から異を唱える声が上がらないわけです。これも、図書館の民間委託が引き起こした事件といえます」

 とりわけ住民生活に密接な地方自治体の機関が、個人情報を流出させまくっている昨今。もっと、取りかえしのつかない事態も起きるんじゃなかろうか?
(文=昼間たかし)

民間委託のほうがカネがかかるという真実……図書館は無料の貸本屋じゃないよ

 12月中旬、練馬区の図書館で図書館司書らがストライキに突入する構えを見せ、注目を集めた。

 各種メディアが飛びついたこの騒動。発端となったのは、練馬区教育委員会が進めている図書館の民間委託である。

 練馬区では、すでに全12館ある図書館のうち9館を民間に委託。さらに、練馬・石神井の2館も民間委託する方針を示していた。それに対して、当該館の図書館司書らが反発した形だ。

 練馬区では、すでに民間委託している図書館は利用住民らの満足度も高いとしている。近年、指定管理者制度を適用し、図書館の民間委託は全国でも盛んに行われている。都内でも、そうした図書館は増加傾向で、中には入館者に「いらっしゃいませ!」と居酒屋みたいに声をかけてくるところもあるが、総じて展示コーナーなどが大型書店並みに充実していて、パッと見はきれいになっている。

 しかし、見てくれはよくても、図書館の民間委託がうまくいっている事例は全国にひとつもない。ある図書館関係者は語る。

「指定管理者制度を導入した上で、従来の公立図書館と同様の事業を行おうとすれば、経費は従来の1.5倍は必要になります。その分はどうなるかといえば、職員の賃金を抑えることで捻出するわけです。行政が、奴隷労働を生み出しているというわけです」

 もちろん、指定管理者制度を導入して、うまくいっている公共施設も中にはある。体育館なり公民館なり、使用料を稼げる施設の場合が、そうだ。しかし、あくまで無料が当たり前の図書館では、それは不可能。

「民間にやらせれば、見てくれはよくなって、合理化とか改革をやっているという“見せかけ”を演出できる。ただ、それだけのことです」(同)

 図書館は無料の貸本屋じゃないということは、いまだ理解されていない。その問題が改めて注目されたというわけか。
(文=昼間たかし)

全国屈指でも蔵書数は1万2,000冊程度……電子書籍図書館がショボくて、青空文庫ばかりの理由とは?

 全国屈指の蔵書数を誇る図書館が、神奈川県綾瀬市に誕生した。

 ただし、電子書籍に限ってである。綾瀬市は、市内に鉄道駅がないという自治体。これまで図書館はあっても交通アクセスが不便なために利用率は低い。そこで、来館しなくても利用できる電子書籍の貸し出し導入を決めた。

 気になるその蔵書数は、1万2,000冊!!

 ……聞いて驚くが、とてつもなく少ない。おまけに、そのうち1万1,000冊は「青空文庫」に公開されているものの中から、図書館が選んだものだ。

 図書館側では「利用者の利便性を重視した結果」としている。とはいえ、青空文庫はサイトにアクセスすれば、誰でもすぐに読むことができるもの。対して、綾瀬市立図書館の場合には、利用者登録が必要になる。

 今後、蔵書数は青空文庫のもの以外も増やして2万冊前後になる予定とはいうが、現状サイトにアクセスしても、選書意図がまったくわからないラインナップになっている(https://ayase.libraryreserve.com/10/50/ja/Default.htm)。

 それでも、蔵書数は全国屈指。それが、現在の日本における電子書籍図書館の現状なのである。すでに海外では電子書籍の貸し出しを実施している図書館も当たり前だが、日本は、まだまだ発展途上。別に綾瀬市だけでなく、電子書籍の貸し出しを行っている多くの図書館が、青空文庫の貸し出しを実施しているのだ。

 こんなに普及が進まない背景には、電子書籍の維持費の高さがある。

「電子書籍の貸し出しを実施すると、本そのものの購入費のほかに、サーバーの維持費などがかかってきます。ですから、紙の本よりも購入できる冊数は少なくなるのです」(都内の図書館司書)

 さらに、現状では電子書籍のフォーマットが統一されていない。それもまた、提供される電子書籍が限られる理由となる。

「問題は山積みですが、将来的には来館しなくても本を借りることができるメリットが生きてくるはず。まあ、長い目で見まもったほうがよいですね」(同)

 青空文庫ばかりになっているのは、あくまで「実験段階」だから。今後の進捗を見守ることにしたほうがいいのかも。
(文=是枝了以)