赤線地帯の女を描く『ある脱出』、娼婦の“性”への葛藤が心を掴んでしまう理由

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『娼婦小説集成』(中央公論新社)

■今回の官能小説
『ある脱出』(『娼婦小説集成』より/吉行淳之介、中央公論新社)

 皆さんは「赤線地帯」というものをご存じだろうか? 赤線は、1958年以前に公認で売春が行われていた地域の俗称である。有名なところでは、東京の吉原などがかつて赤線地帯であり、飲食店として風俗営業の許可を取得し、女たちは女給となり男性客を取っていた。

 飲食店の看板を掲げた店が立ち並ぶ遊郭に勤務し、男たちに刹那的な快楽を売る女たちの姿を小説として多く残したのが、吉行淳之介だ。赤線遊び好きとして有名だった吉行は、赤線に生きる女たちを生々しく描いた『驟雨』で第31 回芥川賞を受賞している。今回ご紹介する『娼婦小説集成』(中央公論新社)の『ある脱出』も、赤線地帯の女性の物語である。

亡父と妻の肉体関係を暴きたい――『砂の上の植物群』の色あせない真っ直ぐな性愛

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『砂の上の植物群』(新潮社)

■今回の官能小説
『砂の上の植物群』(吉行淳之介、新潮社)

 子どもの頃、なにげなく書店や図書館などで手にした本。その中に、官能的な表現が描かれていて、驚いた記憶はないだろうか? 筆者がこの本を手にしたのは、ちょうど中学生の頃。手当たり次第に本を読みあさっていた時に出会った吉行淳之介の『砂の上の植物群』(新潮社)この本には、当時の私が知らない男女の世界が書かれていた。ドキドキしながらページをめくっていた私は、いけない世界に踏み込んでしまった罪悪感を得る半面、幼いながらに大人の世界を垣間見てぞくぞくした覚えがある。

 本書は、私が産まれる前の1964年に発表された作品。主人公は、40歳前後のセールスマン・伊木一郎。彼は、最近完成された塔の上で不思議な少女と出会う。真っ赤な口紅を塗った女子高生、明子。彼女の姿は、一郎が以前働いていた定時制高校の教え子、朝子を連想させる。定時制高校に通い、居酒屋で働いていた朝子も、明子と同じように真っ赤な口紅をしていた。