癒やし効果があるといわれるものには、いろいろな種類がある。音楽や朗読など耳に心地よいもの、アロマテラピーや風や川のせせらぎなど自然に包まれることなど、挙げればキリがない。中でも、ペットとして飼われている犬や猫の存在は、動物好きな人にとって、何よりの癒やし効果を生むだろうということは想像に難くない。
しかし、犬や猫などの動物に何の関心もない人、嫌いな人に対して、動物は何の効果ももたらさないのだろうか? 長年、東京都世田谷区内の老人ホームなどに動物を連れて訪問し続けているボランティアグループ「アマノ・アニマルセラピーサークル」の代表、天野喜美子氏にお話を伺った。
■飼い犬を連れてお見舞いに行ったのがスタート
——天野さんは、いつ頃からアニマルセラピーの活動をされているのでしょうか? 始めたきっかけは、どういうことでしたか?
天野喜美子氏(以下、天野) アニマルセラピーを始めて、もう20年以上の月日がたちました。最初は、「アニマルセラピー」という言葉も知らないくらいで、単にうちで飼っていた犬と猫をお見舞いに連れて行ったのが始まりです。
あるとき、知り合いのおばあさんが、入院していた病院からリハビリ施設に移ったと聞いたので、お見舞いに行きました。ちょうどそのとき、同じ施設にいる人と、ささいなことでケンカを始めた場面に遭遇して。施設の職員さんに様子を聞くと、入所している人の多くがイライラしていて、険悪な雰囲気になることがよくあるということでした。それで、何かできないかと思い、「うちのペットを連れてきて良いですか?」とたずねたら、「ぜひ来てほしい」というお話をいただいたので、次にお見舞いに行くとき、わが家で飼っていた犬と猫を連れて行きました。そうしたら、なんとなくその場の空気が和やかになり「また連れてきてほしい」と頼まれて。それでまた伺うことにしました。だから最初は、私ひとりでのスタートでした。
——その後は、どういう活動をされてきたのですか? どんな動物を連れて行かれたのでしょうか?
天野 それからも私ひとりでうちの犬と猫を連れて定期的に訪問していたのですが、ひとりでは間が持てない。そこでお仲間をつくろうと思いました。獣医師で動物病院を経営していた夫亡き後の寂しさもあり、生き甲斐としてアニマルセラピーをライフワークにしようと思っていたので、うちの動物病院に来ていた患者さんや病院のスタッフ、知り合いを誘ったり、近くにある駒沢公園に行って、犬を連れた人にも声をかけました。その頃、私がノーフォークテリアを飼っていたので、同じ犬種を連れた人を誘い、メンバーが少しずつ増えていきました。
その後は、メンバーの1人が始めたブログを見て参加する人や、世田谷区の区報に載せた告知の効果で人数が増えました。現在、活動としては、20年以上、毎月1回必ず伺っている介護老人保健施設「ホスピア三軒茶屋」のほか、2カ所の有料老人ホームと、年1回、重症心身障害者施設にも訪問しています。
訪問のときに連れて行くのは、今は犬だけです。以前は猫も連れて行ったことがありましたが、猫はどんなに人になれている子でも、知らない場所に連れて行くと隠れてしまったりするので難しいですね。
——現在、メンバーの方は何人くらいいらっしゃるのでしょうか? また、参加する犬には、特別な訓練を施していますか?
天野 今、サークルのメンバーは27名。いつでも全員が参加するわけではありませんけれど。登録している犬は22頭です。すべてメンバーの飼い犬です。犬たちにはセラピーのための特別な訓練はまったくしていません。ただ、人が好きで性格的に落ち着いた子、嚙んだり、吠えたりしないこと、膝に乗せてもおとなしくしているような子に参加してもらっています。
特別な訓練をしなくても、犬たちはよく理解しています。訪問したとき、高齢者の方に犬を紹介する際には、必ず「セラピードッグの○○ちゃんです」と言います。そうすると、犬なりに自覚するんです。私がアメリカで作ってきたセラピードッグのユニフォームを犬たちに必ず着せるのですが、それで犬自身もセラピードッグとしてのお仕事モードに入るのか、キリッとしますね。
また、初めての訪問でも、ほかの犬がやっているのを見て、しっかりマネをします。だから最初でもちゃんとやり遂げることができますね。今まで20年以上の間、人を嚙んだり、何か事故を起こしたりというトラブルは、一度も起きていません。
■動物がいるだけで、高齢者は自然な笑顔に
——メンバーの方たちは、どんな気持ちで参加されているのでしょうか?
天野 長く参加してくれている人、最近参加するようになった人、みんなそれぞれいろんな思いでいるのでしょうが、きっとやりがいを感じてくれているんだと思っています。自分の飼っている犬が、「セラピーに行くよ」と言うと、本当に喜んで行くからです。だから、飼い主であるメンバーも生きがいを持って参加してくれていると思います。
——これまで訪問されて、高齢者の方たちはどんな反応が多いですか?
天野 エピソードは本当にいろいろありますが、だいたい動物好きな方は、以前ご自分が飼っていた犬や猫の話をされることが多いです。今まで動物と触れ合った経験のない方、生まれて初めて犬を触るような方は「こんなに温かいんですね」と感動されたりします。ごはんを食べたことを忘れる方が、犬の名前を覚えているということもあります。
それから、これは7~8年前のことですが、ある特別養護老人ホームに伺ったとき、「犬は嫌い」とはっきり拒否する方がいました。それが、何度も伺ううちに、だんだん大丈夫になって触れることができるようになりました。また、それまで自分が育った田舎では犬畜生でしかなかったから、ずっとそう思っていたという方からは、初めて犬を抱いて「こんなに気持ち良いとは思わなかった」と言われたりしました。
また以前、教師をされていたという、絶対に笑顔を見せない、施設のスタッフにも厳しく気難しい性格の方がいました。その方も犬たちと何度も会ううちに、だんだん笑顔が見られるようになったと言って、スタッフさんも驚いていました。本当に動物の持つ力はすごいと思いますね。
——今後はどのように活動をしていきたいと考えておられますか?
天野 今まで20年以上、ずっと無報酬のボランティアで、和気あいあいの楽しいグループとして活動をしてきました。せっかく長く続いているので、私がいなくなっても、このまま続けてほしいと思っています。そのためには、単なるサークルではなく、NPO法人にしたい。そうして、ずっとアニマルセラピーを続けていってもらいたいと思います。
同サークルが月1度訪れている介護老人保健施設「ホスピア三軒茶屋」の職員は、「わんちゃんが来ると、どの高齢者の方も自然な笑顔になります。天野さんたちがお帰りになった後も、みなさん穏やかに過ごされています」と話す。毎月楽しみにしている入所者も多く、セラピー効果を実感しているそうだ。
(村田泰子)