好評だった『刑事ゆがみ』主人公のキャラ崩壊とミステリー構築の失敗で残念な最終回に

 14日、ドラマ『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)も最終回を迎えました。視聴率は6.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と最後まで低調でしたが、評判は悪くないようです。

 さて、この作品については第1話から「面白いから見たほうがいいよ」と言い続けてきましたが、基本的に、その感じは最後まで変わっていません。最終回も、演出はカッコよいですし、弓神(浅野忠信)と羽生くん(神木隆之介)が魅力的なキャラとして画面を駆け回っていました。ただ、ちょっとなー。ちょっとなー。という感想は否めないところで。振り返りましょうか。あんまり気が進まないんですが。

前回までのレビューはこちらから

 前回のレビューでも少し触れましたが、『刑事ゆがみ』は明確に2つのパートに分かれています。1つは、単話完結で主に女性脚本家が健筆を振るった1~4話と6~8話。これらの回では、事件関係者の心理的掘り下げと弓神&羽生のチャーミングなコンビネーションが前面に押し出されていて、すごく楽しめたし、個性的な刑事ドラマに仕上がっていました。題して、『刑事ゆがみと、その仲間たちの日常』。このシリーズだけで1年でも2年でもやってほしいくらい好きな作品です。

 もう1つは、5話と9話、そして今回の最終話で語られた『刑事ゆがみとロイコ事件』。ドラマオリジナルキャラである天才美少女ハッカー・ヒズミ(山本美月)の存在を軸に、7年前に発生した夫婦殺人事件と、その事件にそっくりな内容の小説『ロイコ』をめぐるミステリーです。原作にも同様の設定は登場しますが、ヒズミの存在そのものを含めて事件の設計は完全にオリジナル。脚本は同作のチーフ演出家である西谷弘さんの盟友・池上純哉さんでした。

 願わくば、『日常』編で丁寧に造り上げられた弓神&羽生のキャラクターが、大仕掛けである『ロイコ』編のミステリーに完全にハマって「これを見ないなんで人生損してる! 大傑作!!」とか書きたかったんですが、この仕掛けがよくなかった。よくなかったです。

 

■弓神の側から「ロイコ事件」を振り返る

 

 7年前に起きたロイコ事件の被害者は、フリーライターの河合武(渋川清彦)と、その妻・伊代(酒井美紀)。2人は『ロイコ』という小説になぞらえた形で殺害されました。容疑者として浮上したのは『ロイコ』の作者・横島(オダギリジョー)。世間を騒がして小説をベストセラーにするために夫妻を殺害したとされていましたが、事件の1週間後に焼身自殺。事件は闇に葬られました。

 ここからは、ドラマの仕掛けを時系列通りに並べ直して振り返ります。

 事件の第一発見者は弓神でした。夫妻の娘・和美(=ヒズミ)と面識のあった弓神は、和美から「ママが殺される」というメールを受け、自宅に急行します。

 すると、夫妻が血を流して死んでおり、12歳の和美の手には金属バットが握られていました。和美が父親を撲殺したことを察した弓神は、その罪を横島になすりつけて和美の将来を守ることにします。

 実は横島の小説は、すべて殺された武がゴーストとして書いていたものでした。なぜ有名人でもないし文章も書けない横島にゴーストが用意されていたのかわかりませんが、そういうことのようです。横島にも不満があったのでしょう。当てつけなのかなんなのか、武の妻・伊代をレイプしました。その結果、生まれたのが和美だったのです。

 レイプされた伊代は、なぜかそのとき被害届を出しませんでした。そのまま和美を産み、夫婦で育てます。しかし、夫の武は日に日に和美が「自分に似ていない」ことから伊代を疑いだし、「誰の子だ!」と迫ると、伊代はこれまで隠してきた横島によるレイプを白状。夫は通報しますが、伊代はここでも被害届を出しません。いわく「娘の父親を犯罪者にしたくない」から。まあこれはわからんでもないですが、レイプされた直後に通報しなかった理由は語られません。夫が横島のゴーストで生計を立ててたからかな。それだとちょっと、伊代さんにも同情しにくいかな。

 そのレイプ事件から13年後に発生したのが、少女・和美による父親殺し事件でした。ちなみに旧強姦罪の時効は10年ですので、この時点で横島が伊代さんへのレイプで罪に問われることはありません。

 しかし、和美による殺人を隠ぺいすることを決めた弓神は、横島を脅し、犯人に仕立て上げます。「罪をかぶって、作品通り再現したカルト小説家として名を残すか、強姦魔として世間にバラされるか」を選べと迫るのです。

 横島は現場にいたわけでもないし、アリバイがありそうなもんですが、なぜか捜査線上に浮上しました。そして、弓神がでっち上げた「ベストセラーにするため」という動機だけで容疑者とされてしまいます。弓神以外、まったく誰も捜査しなかったのでしょうか。

 レイプの時効が成立しているのに、今さら殺人の罪をかぶることにした横島の気持ちもよくわかりませんが、弓神の工作についてはさらに不可思議です。

 偶然、管内で焼身自殺を図ったハタチそこそこの青年に、ちょっと焼いた横島の免許証を持たせて「ハイこれが横島です自殺しました、ロイコ事件は終わりです」との報告書を上げ、それが通ってしまいます。殺人事件の重要参考人が焼死体で見つかったというのに、司法解剖もしてない。身長、体重、歯型、血液型、その他もろもろ遺体の身元特定を何もせず、免許の物的証拠だけで断定してしまう。なんと杜撰なのでしょう。警察不信になってしまいます。

 こうして弓神という刑事は、父親を殺した少女を守るために、ひとりのレイプ犯を“私刑”に処したのです。横島を社会的に殺したのです。

 ここまで、弓神のやっていることは明らかに倫理に反しているし、職権の私的な濫用です。警察権力を振りかざして横島という人間を殺したのです。到底、共感できるものではありません。

 また、武がヒステリーを起こして伊代を殺し、和美が武を撲殺したという単純で突発的な事件の、どこがどう小説『ロイコ』になぞらえられていたのか。「現場にカタツムリの絵が残されていた」以外、どんな共通点があったのか。ドラマは、それを語ることを放棄しました。最終回まできて、「ロイコ事件」の「小説『ロイコ』と事件との関係」を投げ捨ててしまったのです。最初から、この仕掛けそのものが成立していなかったということです。

 

■そして7年後

 

 氷川と苗字を変えた和美に“ヒズミ”というニックネームを与え、生活の面倒を見続けてきた弓神は、横島の不穏な動きを察すると、ヒズミに「南の島に行こう」と提案しました。どうやら警察も辞めるつもりのようでした。

 12歳で父親を殺し、そのショックで記憶喪失と失語症を患った少女は確かに不憫です。しかし、最終話でも語られた通り12歳の児童が殺人罪に問われることはありません。

 そんなヒズミの「記憶を戻してはいけない」というのが弓神の考え方でした。記憶を失ったまま、言葉を失ったまま、南の島で自分が一生面倒を見ればいい……弓神のその考えも理解不能です。ヒズミに必要なのは適切な治療とカウンセリングでしょう。弓神が事件に関わりさえしなければ、心の回復を経て違う人生を歩んでいたかもしれない。少女の父親殺しの、その罪ともいえない罪をもっとも強く断罪したのも、また弓神だったということです。「俺が一生、面倒を見ればいい」という判断は、和美という少女から自由な人生を奪う行為でもあると思うのです。ここも設計として失敗していると感じさせる部分です。

 そういう刑事で、そういうドラマを作ろうとしたわけではないことは、重々承知しています。いろいろ考えてドラマチックなシーンを頭に描いて、整合性を取ってみたら弓神がひどい人物になっちゃっただけだとは思うんです。

 でも、だったら、ちゃんと作れないなら無理にミステリーを構築しようとしなければいいのに、と思うんです。せっかく好印象なドラマだったのに、仕掛けの至らなさでキャラクターの魅力まで台無しになってる。

 先に書いた『日常』編でも、こうした事件の粗は見られましたが、脚本が徹底的に人物に寄り添っていたので、見応えのあるドラマになっていました。しかし『ロイコ』編では、弓神の心情よりもミステリーの仕掛けに心血が注がれ、その結果、弓神のキャラクターが崩壊していた。さらに、弓神のキャラクターを崩壊させてまで組み上げたミステリーも破綻しているという、なんとも残念な最終回になりました。

 あと、いくら金属バットだからって、12歳の少女が一撃必殺で大人の頭蓋骨を割って殺すのは無理だと思うよ。日馬富士でも、たぶん一撃じゃ無理だと思う。以上です。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

父親がシャブ逮捕の浅野忠信『刑事ゆがみ』最終回直前で“マズイ雰囲気”に……?

 息子が稼いだカネで喰うシャブは旨ぇか!?

 というわけで、“パリピおじさん(記事参照)”こと所属事務所社長の父親が覚せい剤で逮捕されてしまった浅野忠信の主演ドラマ『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)は第9話。せめて放送が終わってからにしてよ……と、関係者全員が思っていることでしょう。逮捕報道後の浅野さんの気丈な振る舞いには、頭が下がる思いです。

 ともあれ、低視聴率ながら好評を集めている同作も、最終回直前まできました。今回は、ドラマで初となる「非1話完結」、次回へ続くとなりました。いよいよクライマックスです。さっそく振り返ってまいりましょう。ちなみに視聴率は6.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。もう数字は話題にしなくてもいいね。

前回までのレビューはこちらから

 今回の殺人事件の被害者は、元医師で資産家の独居老人・薮田先生(渡辺哲)。熱湯風呂に入れられ、身体中をズタズタに切りつけられた痛ましい姿で、二階堂ふみ(豪華ゲスト!)演じる家政婦の春菜に発見されます。現場には「積年の恨み ここに晴らす」とのメモが。

 近所の人の話では、薮田先生には晴男くん(鹿間康秀)という1人息子がいましたが、医大入試に立て続けに失敗したことで7年前に失踪。すでに失踪宣告が出され、“認定死亡”となっています。

 

■7年前といえば、覚えていますか「ロイコ事件」

 

 7年前といえば、第5話(記事参照)で語られた「ロイコ事件」のあったころです。当時、弓神(浅野)が担当したこの事件では、ある夫妻が『ロイコ』という小説になぞらえる形で惨殺され、その小説の作者・横島(オダギリジョー)が容疑者として浮上したものの、焼身自殺。事件は闇に葬られていました。

 その横島の、未完の遺作となった小説が『聖なる夜空にサンタが舞う』。弓神の上司である係長・菅能ちゃん(稲森いずみ)によれば、同著は「家を飛び出した息子が親に復讐する」というストーリー。殺害方法やメモ書きの内容まで薮田先生が殺された事件と一致しており、失踪したはずの晴男くんが容疑者として浮上します。さらに、真野恵里菜(=豪華ゲスト2!)演じる美人鑑識官がメモ書きを調べると、そこには晴男くんの指紋が。いよいよ晴男くんに疑いの目が向けられます。

 しかし、この事件の捜査に、どうにもやる気がなさそうなのが弓神です。羽生くんにサボりを注意され「マジで首切られますよ」とたしなめられると「それもいいかもなぁ」と上の空になってみたり、ロイコ事件の生き残りである夫妻の娘・ヒズミ(山本美月)に「2人で南の島でも行くか」と提案してみたり、もう警察の仕事も辞めちゃいたい感じ。どうしたんでしょう。

 弓神は、晴男くんより第一発見者の春奈が怪しいと言います。それを受けて、羽生くん(神木隆之介)が春奈を取り調べることに。しかし春奈は、先生の家から絵画やら1万円札やらをくすねていたことは認めましたが、殺害については否認します。「だって私、犯人を見ましたから」と。

 

■就職しちまったんですか、琥珀さん!

 

 映画『HiGH&LOW THE MOVIE』で大暴れしていた「琥珀さん」ことEXILE・AKIRA(=豪華ゲスト3!)は、どうやらタクシー運転手に就職したようです。メガネをかけて、真面目に働いています。正気に戻ったようでよかったです。で、この運転手とのシーンで、いよいよ弓神の怪しい行動に拍車がかかります。

 いつも春奈を先生宅まで乗せている運転手のドライブレコーダーにも、この犯人が映っているはずでした。しかし、映っているはずの部分だけ、弓神はスキを突いてドラレコから削除します。そこに映っていたのは、死んだはずの『ロイコ』作者・横島。そう、横島は生きていたのです。

 怪しい行動を重ねる弓神を羽生くんが尾行すると、なんと弓神は横島と密会していました。

 羽生くんは、上司の菅能ちゃんに「この事件とロイコ事件、関係あるんじゃ?」「横島は生きているんじゃ?」と迫ります。頑なにそれを否定する菅能ちゃんでしたが、横島の死亡報告書の作者が弓神であることを発見すると「ごめん、ありえるかも」と、関与の可能性を認めました。

 で、なんだかんだあって、横島に呼び出されたヒズミが意識不明の状態で病院に運び込まれ、その報せを受けた弓神が駆けつけると、ヒズミは声にならない声で(ロイコ事件を目撃したショックで失声症になってる)、弓神を指差し「ひとごろし……」。弓神は夜の町に姿を消すのでした。最終回へ続く。

 

■ちなみに、今回と次回の脚本はドラマオリジナルです

 

 ここまで、原作から舞台設定や人物配置を拝借しつつ、巧みにアレンジを加えながら時代性、当事者性を抱いた脚本を作ってきた『刑事ゆがみ』。結果、原作より強度が増した回も少なくありませんでしたが、今回と次回の最終回は、ほぼ完全にオリジナルとなります。

 第1話のレビュー(http://www.cyzo.com/2017/10/post_34885_entry.html)で、「いずれオリジナルで事件を構築するという、人物造形とはまるで違う脳みそを使わなければいけない段階も来ることでしょう。応援してますし、もしつまんなくなったら、それも正直に書かなきゃなーと思ってます」と書いたので正直に書きますが、第9話、けっこうマズイ雰囲気が漂ってきたかなーと思います。

 仕掛けの整合性を取ろうとするあまり、キャラクターの行動原理や捜査の技能レベルが乱れきってる。羽生くんがキレキレなのは「成長した」ってことでいいんですが、割を食ったのが菅能ちゃんで、真相に迫った羽生くんを否定し続ける場面なんて、稲森いずみがすごく無能な刑事に見えてしまっていた。弓神の突飛な行動の数々も、「次回に謎を残す」という役割はあっても、これまでの心理的な伏線がないので「意味がわからんよ……」以上の印象がない。今回、第5話とはつながっているけど、6~8話とは全然つながってない。さらにいえば、未完であるはずの『聖なる夜空にサンタが舞う』がハードカバーで出版されていたり、メモ書きに7年前の息子の指紋が残っていたりと、細部にも粗が目立ちました。それでも、各ショットの雰囲気と役者の芝居がいいので画面的に「もって」いるのが、逆にすごく優秀な作品でもあると思うんですけど。

 脚本的にいえば、そもそも初回から登場しているヒズミが「誰」なのか、そしてヒズミを生んだロイコ事件とは「何」なのかを解き明かすのがドラマ版の本筋であって、ロイコ事件を初出しした第5話と今回を担当した池上純哉さんが、実質的なメインライター(設計者)なのかもしれません。ただ、この作品の評価を高めてきたのって、おそらくは事件関係者個人(特に女性)への描き込みの深さとリアルさ、それと浅野&神木というバディのイチャコラ感だったと思うんですよね。そう考えると、倉光泰子さんをはじめとした女性脚本家たちが実力を発揮したことによって、本来の設計よりずっと魅力的な作品が出来上がってしまっていた、と理解したほうが正しいのかもしれません。

 いやいや、最終回を前に書く内容じゃないね。すみません。次回も楽しみです。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

ついに神木隆之介が「童貞」を認めた『刑事ゆがみ』小林隆が“老人”を演じるという恐怖

 泥臭い浪花節と本格推理が同居した井浦秀夫の原作コミックを、スタイリッシュに映像化して好評を集めつつ、視聴率はあんまりよくないドラマ『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)も第8話。今回の数字も6.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、この良作には似合わない感じでした。

 ともあれ、いつものように振り返ってみましょう。

前回までのレビューはこちらから

 さて、毎回アバンタイトルで「今回はこういうお話ですよ~」と丁寧に教えてくれるこのドラマ。第8話は「高齢化社会」「身寄りのない独居老人」「お年寄りを狙った詐欺事件」といったあたりがテーマです。新米刑事・羽生くん(神木隆之介)にはまだ早い話題のようですが、独身アラフォー美魔女係長・菅能ちゃん(稲森いずみ)は、リアルに頭を抱えるしかありません。そして菅能ちゃんと同い年の弓神(浅野忠信)は、相変わらず何を考えてるのかわからない。お気に入りの競走馬が引退したとかで、悲嘆に暮れています。

 

■神木隆之介、ついに童貞を認める

 

 そんな弓神と羽生くんは、2人でキャバクラに。羽生くんはかわいいので、嬢たちにチヤホヤされて浮かれ気分です。その席に「ハタチどえーす!」とか言いながらやってきたのが、猿渡(市川由衣)というアラサー美人でした。

 どうやら弓神と猿渡は旧知の仲。猿渡は人懐っこい笑顔を浮かべながら、「施設にいる息子を迎えにいくためにお金をためている」「昼間の仕事を探している」と、実にポジティブな様子。帰り際には、羽生が童貞であることを知ると「かわいいんだけど!」と大喜び。

 これまで、ずっと「童貞じゃねえし!」と言い続けてきた羽生くんでしたが、ふにゃふにゃになってしまい「キスもしたことない」と、ついに自白。ごほうびなのか、猿渡からホッペにちゅーをいただきました。羽生くん、顔が真っ赤です。楽しい楽しい夜でした。

 その猿渡が、死にました。

 高級マンションの敷地内で転落死。手には180万円の現金が握られています。状況から見て、猿渡は前夜、4階の部屋に盗みに入り、ベランダから逃亡しようとして転落した可能性が高いんだそうです。

 

■今回は弓神が捜査に私情を挟む

 

 実は猿渡という女性は、かつて弓神が逮捕した窃盗犯でした。「透明人間」という異名を取るほどの凄腕の泥棒で、あちこちから奪った金は5年で1,000万円。それは、16歳で家族を失った少女に残された、唯一の生きる術だったのだそうです。

 しかし、そんな猿渡も子どもを産んでからは改心して足を洗い、シングルマザーとして真面目に生きていました。しかし弓神が猿渡の泥棒時代の証拠をつかんでしまい、投獄されたことで母子は離れ離れになってしまったのです。

 弓神は息子とも交流があり、猿渡との関係も前述の通り。どうしても猿渡が再び盗みに手を染めたとは思えない弓神は「事故死、事件性なし」の報告書提出を拒否し、単独捜査を続けます。羽生くんに「目を覚ましてくださいよ」とたしなめられて、「目を覚ますのはおまえの方だろ、前科持ちじゃなかったら、もっとまともに捜査してるだろ」と声を荒らげる弓神の表情は、これまでには見られないものでした。いよいよ刑事・弓神が本格化してきたということです。

 このドラマでは、「客観的な捜査と刑事個人の私情」というテーマが繰り返し語られています。1~4話までは主に羽生くんがその板挟みになって苦悩し、前回は菅能ちゃんが親友の死に心を揺さぶられる様が描かれました。佳境に入った第8話で、いよいよ真打ち登場というわけです。ドラマがクライマックスに向かって動き出したというドライブ感を覚える、計算された設計です。

 

■加害者と被害者は、巧みに入れ替わる

 

 一方、盗みに入られたのは、このマンションの住人・沼田(小林隆)。銀行を定年退職した沼田は、身寄りこそないものの、高級マンションに暮らす、お金持ちのおじいちゃん。今回の件では180万円のお金も戻ったことから被害届を出さないと言います。見るからに善人ですが(何しろ小林隆だし)、金庫に2,000万円もの現金を入れているなど怪しい点も。

 ちなみにこの2,000万円は弓神が金庫を覗き込んで発覚したものですが、当然、ピッキングか何かして勝手に開けたのでしょう。もう弓神がそういうことを勝手にやってるという段取りすら映さない。視聴者を信用した、潔い省略です。

 ところで、アバンによれば今回は「独居老人が詐欺に遭う話」でした。泥棒に遭う話じゃなかったよなーと思っているところで、「近所で老人狙いの振り込め詐欺が頻発しています」という情報が放り込まれ、この猿渡の死と振り込め詐欺事件が複雑に絡まり合い、加害者と被害者を巧みに入れ替えながら事件の解決に至ります。例によって、面白いのでFODとかTVerでどうぞ。

 

■「犯人の掘り下げ」には、今回も力が入っています

 

 このドラマの最大の魅力は、なんといっても犯人が犯行に至った背景や犯行動機の掘り下げにあります。

 今回も、子どものために真面目に生きようとした元窃盗犯、そして、仕事のために真面目に生きてきただけだった元銀行員の悲しみが切々と、大真面目に語られました。

 ホントに、真面目に脚本作ってるなーと毎度思うんです。以前にもこのレビューで書きましたが、事件の謎と解決は今回もゆるい部分はあります。でも、「これを言うんだ」「今だから、この話なんだ」という強い意思、創作意識はびんびんに伝わってくる。『刑事ゆがみ』のスタッフは、実に気持ちのいい仕事をしていると思います。

 

■羽生くんの成長、もしくは“弓神化”について

 

 今回、もっとも印象的だったのは、羽生くんが取り調べで犯人に自白を迫る場面でした。

 羽生くんの取り調べシーンは、特にドラマ前半で繰り返し登場しています。先入観にとらわれ、目の前の人間を犯人と決め付け、まるで刑事ドラマのモノマネみたいに机をバンバン叩きながら言質を取ろうとし、ヒマがあれば「自白 誘引方法 心理戦」でググったりもしていました。幼稚であり、その幼稚さがチャームポイントでもあったのが羽生くんという刑事だったのです。

 今回、キャバクラで警察バッジを見せびらかすなどの幼稚さを残しながらも、捜査や取り調べでは弓神の影響を受けて明らかに成長している様を見せつけました。県警の指示に背いて弓神の違法捜査に協力することも、もう厭わなくなっています。回を重ねるにつれて“バディ”の関係性にも変化が表れている。残り2話、正直、楽しみでしょうがないといったところです。

 

■余談

 

 ところで、今回の“仕事人間”沼田の告白には、まったく共感できませんでした。定年退職した独居老人の苦悩は、よく練られたものだったとは思うんですが、やっぱり頭で考えたお話だな、という印象だったんです。第2話の喪女や前回のインスタ映え女のような、作家自身の当事者性が反映されている(ように見える)物語に比べると、迫ってくるものが少し弱かったかなと。

 そう思ったんですが、この文章を書きながら、もしかしたらあんまり素直に受け取りたくなかったのかもしれないと思い直したんです。何しろ私自身も独居老人まっしぐらですし、まだまだ“頼りない中年”くらいの役が似合うと思っていた小林隆が「お爺ちゃん」に配役されている。その分だけ、私にも年月が流れている。そういう現実、迫りくる老後が、直視できなかったのかもしれません。えーと、何この余談。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

ついに神木隆之介が「童貞」を認めた『刑事ゆがみ』小林隆が“老人”を演じるという恐怖

 泥臭い浪花節と本格推理が同居した井浦秀夫の原作コミックを、スタイリッシュに映像化して好評を集めつつ、視聴率はあんまりよくないドラマ『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)も第8話。今回の数字も6.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、この良作には似合わない感じでした。

 ともあれ、いつものように振り返ってみましょう。

前回までのレビューはこちらから

 さて、毎回アバンタイトルで「今回はこういうお話ですよ~」と丁寧に教えてくれるこのドラマ。第8話は「高齢化社会」「身寄りのない独居老人」「お年寄りを狙った詐欺事件」といったあたりがテーマです。新米刑事・羽生くん(神木隆之介)にはまだ早い話題のようですが、独身アラフォー美魔女係長・菅能ちゃん(稲森いずみ)は、リアルに頭を抱えるしかありません。そして菅能ちゃんと同い年の弓神(浅野忠信)は、相変わらず何を考えてるのかわからない。お気に入りの競走馬が引退したとかで、悲嘆に暮れています。

 

■神木隆之介、ついに童貞を認める

 

 そんな弓神と羽生くんは、2人でキャバクラに。羽生くんはかわいいので、嬢たちにチヤホヤされて浮かれ気分です。その席に「ハタチどえーす!」とか言いながらやってきたのが、猿渡(市川由衣)というアラサー美人でした。

 どうやら弓神と猿渡は旧知の仲。猿渡は人懐っこい笑顔を浮かべながら、「施設にいる息子を迎えにいくためにお金をためている」「昼間の仕事を探している」と、実にポジティブな様子。帰り際には、羽生が童貞であることを知ると「かわいいんだけど!」と大喜び。

 これまで、ずっと「童貞じゃねえし!」と言い続けてきた羽生くんでしたが、ふにゃふにゃになってしまい「キスもしたことない」と、ついに自白。ごほうびなのか、猿渡からホッペにちゅーをいただきました。羽生くん、顔が真っ赤です。楽しい楽しい夜でした。

 その猿渡が、死にました。

 高級マンションの敷地内で転落死。手には180万円の現金が握られています。状況から見て、猿渡は前夜、4階の部屋に盗みに入り、ベランダから逃亡しようとして転落した可能性が高いんだそうです。

 

■今回は弓神が捜査に私情を挟む

 

 実は猿渡という女性は、かつて弓神が逮捕した窃盗犯でした。「透明人間」という異名を取るほどの凄腕の泥棒で、あちこちから奪った金は5年で1,000万円。それは、16歳で家族を失った少女に残された、唯一の生きる術だったのだそうです。

 しかし、そんな猿渡も子どもを産んでからは改心して足を洗い、シングルマザーとして真面目に生きていました。しかし弓神が猿渡の泥棒時代の証拠をつかんでしまい、投獄されたことで母子は離れ離れになってしまったのです。

 弓神は息子とも交流があり、猿渡との関係も前述の通り。どうしても猿渡が再び盗みに手を染めたとは思えない弓神は「事故死、事件性なし」の報告書提出を拒否し、単独捜査を続けます。羽生くんに「目を覚ましてくださいよ」とたしなめられて、「目を覚ますのはおまえの方だろ、前科持ちじゃなかったら、もっとまともに捜査してるだろ」と声を荒らげる弓神の表情は、これまでには見られないものでした。いよいよ刑事・弓神が本格化してきたということです。

 このドラマでは、「客観的な捜査と刑事個人の私情」というテーマが繰り返し語られています。1~4話までは主に羽生くんがその板挟みになって苦悩し、前回は菅能ちゃんが親友の死に心を揺さぶられる様が描かれました。佳境に入った第8話で、いよいよ真打ち登場というわけです。ドラマがクライマックスに向かって動き出したというドライブ感を覚える、計算された設計です。

 

■加害者と被害者は、巧みに入れ替わる

 

 一方、盗みに入られたのは、このマンションの住人・沼田(小林隆)。銀行を定年退職した沼田は、身寄りこそないものの、高級マンションに暮らす、お金持ちのおじいちゃん。今回の件では180万円のお金も戻ったことから被害届を出さないと言います。見るからに善人ですが(何しろ小林隆だし)、金庫に2,000万円もの現金を入れているなど怪しい点も。

 ちなみにこの2,000万円は弓神が金庫を覗き込んで発覚したものですが、当然、ピッキングか何かして勝手に開けたのでしょう。もう弓神がそういうことを勝手にやってるという段取りすら映さない。視聴者を信用した、潔い省略です。

 ところで、アバンによれば今回は「独居老人が詐欺に遭う話」でした。泥棒に遭う話じゃなかったよなーと思っているところで、「近所で老人狙いの振り込め詐欺が頻発しています」という情報が放り込まれ、この猿渡の死と振り込め詐欺事件が複雑に絡まり合い、加害者と被害者を巧みに入れ替えながら事件の解決に至ります。例によって、面白いのでFODとかTVerでどうぞ。

 

■「犯人の掘り下げ」には、今回も力が入っています

 

 このドラマの最大の魅力は、なんといっても犯人が犯行に至った背景や犯行動機の掘り下げにあります。

 今回も、子どものために真面目に生きようとした元窃盗犯、そして、仕事のために真面目に生きてきただけだった元銀行員の悲しみが切々と、大真面目に語られました。

 ホントに、真面目に脚本作ってるなーと毎度思うんです。以前にもこのレビューで書きましたが、事件の謎と解決は今回もゆるい部分はあります。でも、「これを言うんだ」「今だから、この話なんだ」という強い意思、創作意識はびんびんに伝わってくる。『刑事ゆがみ』のスタッフは、実に気持ちのいい仕事をしていると思います。

 

■羽生くんの成長、もしくは“弓神化”について

 

 今回、もっとも印象的だったのは、羽生くんが取り調べで犯人に自白を迫る場面でした。

 羽生くんの取り調べシーンは、特にドラマ前半で繰り返し登場しています。先入観にとらわれ、目の前の人間を犯人と決め付け、まるで刑事ドラマのモノマネみたいに机をバンバン叩きながら言質を取ろうとし、ヒマがあれば「自白 誘引方法 心理戦」でググったりもしていました。幼稚であり、その幼稚さがチャームポイントでもあったのが羽生くんという刑事だったのです。

 今回、キャバクラで警察バッジを見せびらかすなどの幼稚さを残しながらも、捜査や取り調べでは弓神の影響を受けて明らかに成長している様を見せつけました。県警の指示に背いて弓神の違法捜査に協力することも、もう厭わなくなっています。回を重ねるにつれて“バディ”の関係性にも変化が表れている。残り2話、正直、楽しみでしょうがないといったところです。

 

■余談

 

 ところで、今回の“仕事人間”沼田の告白には、まったく共感できませんでした。定年退職した独居老人の苦悩は、よく練られたものだったとは思うんですが、やっぱり頭で考えたお話だな、という印象だったんです。第2話の喪女や前回のインスタ映え女のような、作家自身の当事者性が反映されている(ように見える)物語に比べると、迫ってくるものが少し弱かったかなと。

 そう思ったんですが、この文章を書きながら、もしかしたらあんまり素直に受け取りたくなかったのかもしれないと思い直したんです。何しろ私自身も独居老人まっしぐらですし、まだまだ“頼りない中年”くらいの役が似合うと思っていた小林隆が「お爺ちゃん」に配役されている。その分だけ、私にも年月が流れている。そういう現実、迫りくる老後が、直視できなかったのかもしれません。えーと、何この余談。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

女性心理の分厚い描写が映える『刑事ゆがみ』一方、デブでブスの風俗嬢は“笑いもの”にしていいのか問題

 視聴率は超低空飛行にもかかわらず、各方面から絶賛の声しか聞こえない『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)も第7話。今回は、前回より0.8ポイントダウンの5.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)でした。2話目からじりじり上げてきてたんですが、べっこり下がりましたね。裏のNHKで安室奈美恵の特番をやってたので、その影響かもしれません。このドラマはけっこう伏線を丁寧に張るので、録画向きですしね。と、まあ適当に擁護しつつ今回も振り返りましょう。

前回までのレビューはこちらから

 今回は、弓神(浅野忠信)と羽生くん(神木隆之介)の上司である係長・菅能ちゃん(稲森いずみ)の回でした。前回まで、捜査に私情を挟みまくる羽生くんに、捜査中は「事件関係者への恋心と同情」を持ってはいけないと説教していた菅能ちゃんでしたが、今回は大学時代の親友・絵里子さん(りょう)が亡くなってしまったので、その説教が盛大にブーメランしてしまいます。

 何しろ菅能ちゃんと絵里子さんは、お互い定年したら老後を一緒に過ごそうと誓い合っていたほどの仲。しかも、絵里子さんの死亡推定時刻は同窓会で久しぶりに再会した直後だったのですから、心穏やかに捜査できるはずがありません。

 状況としては、青酸カリを飲んでの服毒自殺に見えます。しかし、菅能ちゃんは絵里子さんが自殺するなんて、どうしても思えない。

 絵里子さんはデザイン会社で部下をたくさん抱えてブイブイ仕事をしていたはずだし、10歳下のイケメン実業家との結婚も決まっていると言いました。何より、同窓会の後、2人で飲んだときに再会の約束だってしている。そんな絵里子さんが自殺なんてするわけない! と、周りの刑事がドン引きするほど私情入れまくりで捜査に当たります。

 

■絵里子さん、つらすぎる……。

 

 しかし、実際には絵里子さんに結婚の予定はありませんでした。同窓会で見せられた婚約者とのツーショットインスタも、月に一度は必ず飲み会を開いていると語っていた部下との写真も、すべて「リア充代行サービス」を利用して撮ったものだったのです。

 現実の絵里子さんは、とっくに会社を辞めていました。線維筋痛症が悪化して休職、そのまま復職できなかったそうです。線維筋痛症って、最近レディー・ガガが患者であることを告白して話題になりましたが、むちゃくちゃつらいんだそうです。原因不明なので対症療法しかできないし、血管の中を割れたガラスが通過するような疼痛が続くし……と、ちょっと資料を読んでいるだけでも顔をゆがめたくなるような難病です。

 そんな難病に苦しみながら、せっせとインスタにリア充写真を載せ続けた絵里子さん。貯金を切り崩しながら、偽りの笑顔に囲まれて、現実を盛りまくっていた45歳の独身女性。なぜそこまで“リア充”を着飾るとこに固執するのか、まるで理解できませんし、理解できないからこそ、その苦痛も想像を超えたものなのでしょう。つらいよ、つらすぎるよ……。

 

■代行アイドル・優里ちゃんも、まあまあつらい

 

 そんな絵里子さんが特にお気に入りにして、たびたび指名していたのが、優里ちゃん(早見あかり)という女の子でした。代行業者のリピート率ナンバーワンで、とびきりのカワイコちゃんです。優里ちゃんは「うぜえうぜえ」と思いながら絵里子さんに話を合わせていました。

 優里ちゃん、過去にアイドル活動をしていたんだそうです。一般的には売れませんでしたが、代行サービスではトップアイドルです。こちらもいろいろ苦悩が描かれるわけですが、何しろガチモンのトップアイドルだった早見あかりが演じているだけに、説得力が違います。事件の顛末は、例によってFODとかで見てください。面白いよ。

 

■アラフォー女優2人の美しさたるや

 

『刑事ゆがみ』というドラマは、事件の謎解きについては緩い回も少なくないんですが、描きたいことがハッキリしているので毎回見応えがあります。それと、犯人像・被害者像についてしっかり作り込んでいるので、原作既読でも問題なく楽しめるのも特徴でしょう。

 ドラマ自体に語りたい人物がいて、原作の事件の配置をヒントにしながら、その人物を表現している。主題の軸足はあくまでドラマですよ、という主張を怠らないのも、高評価の要因だと思います。

 以前から、特に事件まわりの女性心理の描き方が個性的で秀逸ですねという話をしてきましたが、今回の絵里子さんの痛みは、特に重みを持って伝わってきました。線維筋痛症というパワーワードの強さよ。そして、りょうと稲森いずみ、2人のアラフォー女優の美しさよ。

 

■神木くんの“童貞イジリ”も健在ですが……

 

 今回も羽生くんの“童貞イジリ”は健在で、筆おろしのためにソープランドに赴くものの、壮絶なパネマジに遭って走って逃げ出したというくだりが、いかにもコミカルに描かれました。

 まあスルーしてもいいんですが、これね、あんまりよろしくないと思ったんです。

 片方で美しい女性の悲劇を切々と描いておきながら、美しくない女性(羽生くんいわく「ジャバ・ザ・ハット」)を笑いものにするというのは、いかがなものかしらと。あの風俗嬢にだって、菅能ちゃんや絵里子さんと同じように人生があるのに、そこは笑い飛ばしていいのかと。

 女性心理の表現に長けた作品だからこそ、「デブでブスの風俗嬢は、神木きゅんに走って逃げられても当然だろギャハハ!」という差別意識が、作品から浮いて見えたんですよねえ。まあ、ジャバ側の人間には、そう感じる向きもあったという些末な話です。はい。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

神木隆之介の“愛らしさ”が戻った『刑事ゆがみ』視聴率低迷が「実にもったいない!」

 16日に放送されたドラマ『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)第6話の視聴率は6.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)でした。第2話で5%台まで落ち込んだものの、各方面からの絶賛の声に後押しされるように、じりじりと数字を伸ばしています。とはいえ、やっぱり6%とか7%しか見ていないというのは、実にもったいない。もっともっと多くの人に見られるべき良作と思います。主題歌を担当するWANIMAが『紅白』初出場を決めたことも、追い風になるといいね。

 そんなわけで、今回も振り返りです。

前回までのレビューはこちらから

 今回の事件の被害者は、25歳にして300億円の資産を築いたホリエモンみたいな男・貝取勝平(新田真剣佑)。自らが運営するオープン直前のプラネタリウムで何者かに刺され、病院に運ばれています。貝取くんは、かつてのホリエモンみたいに企業買収を繰り返して会社を大きくしている人なので、たくさんの人の恨みを買っているようです。とはいえ、本人の意識ははっきりしているし、正面から刺されているので犯人の顔を見ているはずなのですが、「見てない」と言ったり「思い出した、星月亘(辻萬長)だ」と言ったり、なぜか証言が曖昧です。

 星月とは、現場となったプラネタリウムにも参画していた「スタームーン」という望遠鏡メーカーの創業者。会社の社長は息子に代替わりしていましたが、その息子は貝取の策略によって多額の借金を抱えて自殺。今は孫娘・光希ちゃん(新井美羽)と2人で暮らしています。

 ところで、前回のレビューでは「コレジャナイ感が漂ってきた」などとケチを付けているわけですが、今回はとりあえず「コレダ」でした。羽生くん(神木隆之介)の愛らしさが帰ってきました。

 同じ25歳で大金持ちの貝取に対して、嫉妬を隠さない羽生くん。孫娘に必要以上に肩入れして、捜査に支障をきたす羽生くん。『モンコレ』という『ポケモンGO』みたいなスマホアプリに夢中になっちゃう羽生くん。うーん、実に愛せる。かわゆい。

 そういう羽生くんの愛らしさと、企業買収とか『ポケモンGO』とかの今っぽい要素をモリモリ取り込もうという意欲。そして、その両方を事件解決のプロセスにガッツリ噛ませてくるので、事件に“他人事感”がない。他人事感がないので、泣けちゃう。そういう感じが『刑事ゆがみ』の特長だと思うんですが、今回もしっかり泣けちゃいました。さ、未見の方はFODとかで見ましょうね。面白いよ。

 

■ところでドラマの縦軸「ロイコ事件」が放置なんですが

 

 第4話まで1話完結で進んできた『刑事ゆがみ』でしたが、前回第5話では縦軸となる「ロイコ事件」について説明されました。

 7年前に、ある夫婦が『ロイコクロリディウム』という小説を模した方法で惨殺された事件。容疑者として浮上したのは、当の小説の作者である小説家・横島不二実でした。しかし横島は捜査の手が及ぶ前に焼身自殺してしまったというのが、「ロイコ事件」の顛末です。この事件の捜査に当たっていた弓神(浅野忠信)は、犯人が本当に横島だったのか、そして横島が本当に自殺したのか、疑問を持っています。

 被害者夫婦の娘・ヒズミ(山本美月)は事件のショックで失語症に。事件後、7年もたつわけですが、弓神はヒズミのハッカーとしての腕を見込んで捜査に協力させつつ、生活の面倒を見ています。

 そのように、せっかく時間をかけて説明した「ロイコ事件」を、ドラマは今回、ほとんど放置しました。前回の最後に自殺したはずの横島らしき男(オダギリジョー)が思わせぶりに登場しましたが、これも放置。ヒズミも普通にハッカーとして役に立ちましたが、前回示唆されたロイコ事件のトラウマについては、特に進展していません。この放置の仕方が、今回もっとも感心した部分でした。

■別の事件によって「ロイコ」を語るという離れ業

 

 今後、『刑事ゆがみ』が「ロイコ事件」の解決を中心に進行していくことは間違いないでしょう。ドラマのオリジナルキャラであるヒズミの謎、ヒズミと弓神の過去などを明かしながら、最終回に向かっていくことになります。前回、「ロイコ事件」について語り始めてしまったわけですから、もう1話だって無駄にしたくないはずです。

 そこで『刑事ゆがみ』が採用したのは、ヒズミと弓神の関係性を、今回の事件で父親を亡くしている光希ちゃんと羽生くんに、そのまま投影するという方法でした。

 上司である係長・菅能ちゃん(稲森いずみ)が、羽生くんに言います。刑事が捜査中に持っちゃいけないものは「事件関係者への恋心と同情」だと。つまり、「私情」だと。

 羽生くんは、いつも口では「法治国家ですから、法がすべてです」などと言っていますが、私情に振り回されて心をグラグラに揺さぶられながら捜査に苦労するのがチャームポイントとなっております。今回も光希ちゃんに、とことん同情してしまったため、とっても苦しそうでした。

 一方の弓神はいつも冷静でドライに見えますが、結局、事件の解決だけでなく被害者へのフォローも万全で、ドラマ的においしいところは全部持っていってしまいます。

 事件が終わった後、菅能ちゃんは羽生くんに、こうも言いました。

「もうあたしたちにできることはない、刑事としてはね」

 刑事としては──。

 つまり、人としては、まだできることがある。羽生くんは事件後、児童相談所にいる光希ちゃんの元を訪ねることにします。自分が関わった事件で、親を亡くした子と個人的なつながりを持とうとすること。これはきっと、7年前の「ロイコ事件」で、弓神がヒズミにしたことと同じなのです。

 羽生くんの立場を通して、羽生くんの心の動きを追わせることで、7年前の「ロイコ事件」で弓神が何を思い、どう行動したのかを語っている。そのプロセスで羽生くんの心理が描けているからこそ、つかみどころのなかった弓神という人物の輪郭が浮かび上がってくる。弓神とヒズミの関係性も見えてくる。「別の事件で縦軸を語る」という『刑事ゆがみ』第6話における意図的なシナリオは、まさしく連続ドラマならではの醍醐味だったと思います。最初から見ててよかった。

 さらに、刑事の生き方として、図らずも羽生くんが弓神と同じ道を歩もうとしていることが示されて、普段は反発し合っている2人の“バディ”としての関係にも深みが増しました。今後、さらに面白くなりそうな気配です。あーあ、もっとみんな、見ればいいのに。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

6.4%停滞の『刑事ゆがみ』に漂い出した“コレジャナイ”感……「本格」路線化の功罪とは

 9日に放送されたドラマ『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)の視聴率は6.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。各方面から絶賛の声が聞こえてきていますが、数字的には、だいたいここらへんで推移する感じでしょうか。このレビューでも初回から「面白い面白い」と書いてきました。今回も面白いっちゃ面白いんですが、ちょっと感触が違いました。

「連ドラはニコパチが重要」と、よくいわれます。2話、5話、8話で展開が訪れ、それが充実したものであれば良作ですよ、という話です。『刑事ゆがみ』も、今回が第5話。これまで完全な1話完結でつづられてきましたが、今回は、初回から登場している謎のハッカー少女・ヒズミ(山本美月)の過去が明かされ始めます。ちなみにこのヒズミ、原作コミックには登場しないドラマオリジナルキャラなので、この人物の処理がドラマの出来そのものを左右しそうです。

 では、まずはお話から軽く振り返りましょう。

前回までのレビューはこちらから

 7年前、弓神(浅野忠信)は「ロイコ事件」という殺人事件の捜査に関わっていました。ロイコ(=ロイコクロリディウム)というのは、カタツムリに寄生して宿主を支配し、思いのままに操ってしまうという寄生虫だそうです。

 かつて、そのロイコをモチーフにした小説があって、その小説に書かれていた通りの殺人事件が起きました。事件では夫婦が殺され、現場には被害者の血で描かれたカタツムリのイラストが残されていた。このイラストが、小説の表紙に描かれているものと同じだったのです。弓神らの捜査によると、事件の犯人は小説の作者らしい。どうやら、実際に事件を起こすことで話題を呼び、小説をたくさん売るのが目的だったようです。しかし、容疑が固まる前に作者は焼身自殺。真相は闇の中。

 その事件では、12歳になる夫婦の娘が生き残りました。しかし、現場を目撃してしまったために、少女はショックで記憶障害と失声症を患ってしまったそうです。

 弓神は今でも、焼身自殺をした作者が本当に犯人だったかどうか、疑っています。そして、なんらかの理由で、生き残った失語症の少女の面倒を見ています。その娘こそが、ヒズミなのでした。

 というのが、次回以降に続くオリジナルの部分。

 もうひとつ今回起こったのが、市議会議員の娘がさらわれた誘拐事件。この現場にもロイコのイラストがあったことから弓神たちも捜査に加わるわけですが、こっちはまあ、結論としては母親による狂言誘拐でした。夫に不倫されて悔しかったとか、そういう理由だそうです。そういう理由であることが、実に熱っぽく、迫力の演出でもって語られました。

 これまでこのレビューでは事件の真犯人を書いてきませんでしたが、今回は大した伏線がないので謎解きの快感は薄いですし、逆に犯人が母親であることがわかっていても、クライマックスに訪れる浅野忠信と板谷由夏の演技合戦は必見ですので、ぜひFODでご覧ください。

 

■スケール感が増した反面、“バディ”羽生の存在感が消えた

 

 今回、前回までと比べて、だいぶスケール感のある事件が語られました。情報量も格段に多いし、テレビのワイドショーまで巻き込んだ、いわゆる“劇場型”犯罪。本格的な刑事ドラマっぽさをビシビシ感じます。犯人からの脅迫電話を開口部の大きなリビングで受けたり、ヘンテコな変装をした刑事が「どっちにしろ刑事に見えねえ」と言われたり、小児誘拐映画の金字塔である黒澤明『天国と地獄』(1963)へのオマージュも抜かりありません。

 その反面、弓神の“バディ”である新人刑事・羽生くん(神木隆之介)の存在感が非常に希薄なものとなりました。

 私は、第2話(http://www.cyzo.com/2017/10/post_34983.html)、第3話(http://www.cyzo.com/2017/10/post_141162.html)のレビューにも書いた通り、このドラマは神木隆之介を愛でるために見ていると言っても過言ではないくらい羽生くんのキャラ付けが重要な要素だと思っていて、だからこそ今回は、とりわけ「感触が違う」と感じたのです。

 これまで、どの事件も羽生くんは「単に所轄で起こったから」以上のモチベーションで捜査に当たってきました。事件発生の段階で羽生くんの心が揺さぶられていたからこそ、右往左往しながら捜査を通して成長していく彼に共感を抱いてきたのです。

 今回は、「ロイコ事件」にしろ「狂言誘拐」にしろ、羽生くんに全然関係がない。「羽生くんこそ主人公」という見方をしてきた私からすると、すごく出来はいいけど、主人公のいない話だなぁ、という印象だったのです。無論、これまで通りゲスト犯人(今回は板谷由夏)に対しても主人公並みの掘り下げが行われていることは変わりないのですが、これまではゲストへの掘り下げに加えて羽生くんの成長があったので、分厚い作品として感じられてきたということです。

 

■初めてとなる男性脚本家の起用

 

 もうひとつ、このドラマの魅力として感じていたのが、女性犯罪者に対する描き込みの個性です。『刑事ゆがみ』はこれまで、すべての脚本を女性脚本家が手掛けてきました。

 第2話では「作家の当事者性が投影された作品」に見えると書きましたし、第4話(http://www.cyzo.com/2017/11/post_141861.html)では「彼女たちを、決して“被害者”や“弱者”として一面的に扱うことをしない」「『私たちは同情されるために登場したわけではない』という、悲劇を抱えた女性キャラクターたちの強い主張が感じられます」と書いています。

 しかし、今回の犯人である母親も、夫の不倫相手である秘書の女性も、わりと一面的に自分勝手で、欲望に忠実で、「女って怖いな」みたいなステレオタイプに見えました。結果、すべてを自白した時に犯人の女は「許しを乞う側」になり、夫は「妻を許す側」になっている。こうした結末のニュアンスは、これまでの『刑事ゆがみ』には見られなかった、おそらくは注意深く取り除かれてきた視点ではなかったかと思うんです。

 第5話で脚本を担当したのは池上純哉さん。男性です。1時間弱の中に、この華やかな誘拐劇と次回以降への伏線を手際よく詰め込んだ手腕は経験豊富なベテラン脚本家ならではだと思いますし、そもそも作品に対して「作り手が男だから」「女だから」みたいな物言いを付けるのもフェアじゃないんですが、「なんか今回、女性心理の描き込みが浅いなー」と思いながら見ていて、最後のクレジットで池上さんの名前が出てきて少し腑に落ちたので、正直にそれは記しておきます。

 具体的なことを言うと、第4話で私は「彼女たちが守るべきものをドラマの中でしっかりと定め、それを彼女たちが能動的に守ろうとしたがために、事件が起こる」とも書いているんですが、今回の母親にとって「守るべきもの」ってなんだったんだろうという話なんです。家族だ、夫婦生活だ、子どものためだ、みたいな話になっていましたが、その考え方が自分勝手すぎやしないかと。

 先に「狂言誘拐」と書きましたが、今回の事件、母親の狂言ではあっても、娘への誘拐は実際に行われている。娘が電話口で「パパー! パパー!」と悲痛な叫び声を上げているシーンもある。

 弓神に自白を迫られた母親は「そんなことするわけない、そんなことしたら、娘との関係が……」とか言って否認するんですが、関係とかそういう問題じゃないだろと。後に解放されるとしても、娘の中に「誘拐された」という体験は傷となって残るだろと。絶望的な恐怖を伴って残るだろと。そこに想像力が及ばないなら、「あなたは何を守ろうとしてたの?」と思ってしまうんです。無事に帰ってきて元気だったからいいようなものの。

 というか、うーん、女性心理の描き方とか、そういうことでもないかな。なんというか、ヒズミは犯罪被害によるPTSDによって記憶障害と失語症になっているわけで、ひとつのドラマの中で、犯罪被害に遭った小児に対して「こっちは深刻なPTSD被害」「こっちは大丈夫」というダブルスタンダードが発生していることが気持ち悪かったのかもしれません。

 と、いろいろ書いてきましたが、あのー、面白いのでみんな見たほうがいいです、という感じは変わらないです。はい。また次回。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

女性脚本家ならではの“女系ハードボイルド”が光る『刑事ゆがみ』もっとみんな、見ればいいのに!

 各方面から「面白いのに! 面白いのに!」との声が相次いでいる低視聴率ドラマ『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)。今日は祝日なので視聴率は出ませんが、2日に放送された第4話も、きっと振るわないことでしょう。面白いのに!

 というわけで、今回も振り返りです。

前回までのレビューはこちらから

 今回も謎解きに見どころがあるので、スジは書かないでおきます。FODで見てください。“女系ハードボイルド”とでも呼ぶべき、強くて悲しい女殺人者のお話です。高梨臨に泣かされます。3話までは回を重ねるごとに下がっているようにも感じられた事件そのもののテンションも、今回は取り戻しました。

 今回の脚本クレジットは、メーンの倉光泰子さんと藤井清美さんの連名。藤井さんといえば、このドラマのライバルともいえる『相棒』(テレビ朝日系)シリーズにも参加しているベテラン脚本家です。フジテレビが、これまで『ラヴソング』『突然ですが、明日結婚します』で辛酸を舐めさせた、連ドラデビュー2年目の倉光さんを本気で育てようとしているのがよくわかる布陣です。『めちゃイケ』も『みなおか』も終わるし、ここ20年くらい何も考えずに過去の遺産を食いつぶしてきたように見えるフジが、ようやく変わろうとしているのかもしれません。

■緻密で品がある、優しい人物描写

 ここまで、『刑事ゆがみ』の脚本はすべて女性の脚本家の手によるものです。これ、刑事ドラマでは比較的珍しいことだと思うんです。今後はどうなるかわかりませんが、おそらく女性だけで作っていく方針なのではないかと思います。なぜなら、それこそが成功しているように思えるからです。

 まず特徴的なのが、女性を描く目線です。

 第2話のアラフォー喪女・水野美紀にしても、今回の高梨臨にしても、彼女たちの「個人の意思」というものを明確に提示しています。悲しい環境の中にあり、女性の中でもマイノリティである彼女たちを、決して“被害者”や“弱者”として一面的に扱うことをしない。彼女たちが守るべきものをドラマの中でしっかりと定め、それを彼女たちが能動的に守ろうとしたがために、事件が起こる。「私たちは同情されるために登場したわけではない」という、悲劇を抱えた女性キャラクターたちの強い主張が感じられます。一方で、今回でいえば飯豊まりえが演じた軽薄な口軽OLのように、いかにもステレオタイプな女性像も登場させる。この対比によって、より描きたいキャラの造形が明確になる。

 これは明らかに原作にはなかった視点ですし、倉光さんが『ラヴソング』(最終話レビュー)でやろうとして完遂できなかった、『明日婚』(最終話レビュー)では手を付けることもできなかった作業だと思います。作り手がキャラクターを愛し、キャラクターに寄り添っていることがよくわかるので、ウソツキだったり人殺しだったりする彼女たちに共感を抱くことができる。

 もうひとつ、女性脚本家ならではだなぁと思うのが、男の性欲についての描き方です。

 童貞なのに風俗に興味津々な羽生くん(神木隆之介)や、妙な美学を持っていた第2話の下着泥棒(斎藤工)など、男たちが性欲を丸出しにするシーンでも「ここまでならイヤな感じがしないな」という抑制が効いているように見えるのです。男の側からすると、風俗に行っても下着を盗んでも、なんだかドラマから許されている感じがする。こうした感覚的な「嫌味のなさ」のラインは、なかなか頭で考えて設定できるものではないと思いますし、ドラマの品の良さを担保している部分ではないでしょうか。一方で、今回でいえば姜暢雄が演じた建築士のように、一線を越えた醜い性欲に対しては、容赦なく糾弾する。これによって、おっぱいパブを覗きこんでいる神木さんが、よりかわいらしく見えています。

 まずもって刑事ドラマの面白さは事件のバリエーションと設計によって測られるものだとは思いますが、謎解きがそれなりに緻密に組まれた上に、前述したようなキャラ付けの心地よさがある。エンドクレジットのオチまで、しっかり計算して楽しませてくれる。そんなの、面白くなるに決まってるのにね。もっとみんな、見ればいいのに。

■躍動する“バディ”は、神の子どもたち

 前回のレビュー(記事参照)で、このドラマの主人公は羽生くんだという話をしました。羽生くんはそもそも第1話で「刑事なんだから法に照らして犯人を挙げるのだけが仕事です」と主張しながら登場しましたが、ここまでの事件の捜査に対して「刑事なんだから」以上の動機を持って臨んでいます。前回は、お世話になった上司に対する疑念を晴らすため、今回は自らの失点を取り戻すため。先輩の弓神(浅野忠信)に反発しながら、時には頼りながら、事件を解決していくことになります。

 この2人が、実に楽しそうなんです。弓神と羽生の捜査上の関係が、そのまま浅野さんと神木さんの芝居上の関係に見えてくる。神木さんが真剣に食ってかかって、浅野さんがどーんと構えて受け止める。脚本家がドラマ世界の創造主だとすれば、2人はそこで思いっきり遊び回っている神の子どもたちのよう。特に、これまでにない振り幅を持った羽生という人物を与えられた神木さんは、役者として本当に楽しいんじゃないかなと想像します。

 そういう現場の雰囲気の良さまで伝わってくるくらい、うーん、このドラマ面白いのにね。みんな見ればいいのに!

 それにしても、ネタバレしたくなくて文句も特にないドラマに対しては、あんまり書くことがないですな。ドラマレビューって。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

必死に立ち回る神木隆之介を愛でたい! イジリ倒したい!『刑事ゆがみ』の楽しみ方

 26日に放送されたドラマ『刑事ゆがみ』(フジテレビ系) 第3話の視聴率は6.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、 前回より0.2ポイントだけ回復。低空飛行が続きますが、 今回も内容的には悪くないです。全然悪くない。 事件の謎解きで得られるカタルシス的にはちょっと微妙ですが、 全体としては面白かったです。はい。

前回までのレビューはこちらから

 というわけで、悪くない謎解きなので、 今回も詳細は書かないでおきます。例によって、 興味があればFODで無料で見られますし。

 前回のレビュー(記事参照) では、神木隆之介演じる新米刑事・ 羽生くんのキャラクター造形についてお話ししました。 主人公の弓神(浅野忠信)は、ある意味で“型破り” という型通りに、典型的な“型破り刑事”として描かれています。 一方、バディである羽生くんの設定は、捜査能力・捜査哲学・ 職業倫理に関しては弓神と対照的でありながら、 弓神以上に多くの個人的な情報が与えられています。 これによって、 視聴者は羽生くんに感情移入しやすくなっているし、 羽生くんこそ愛すべきキャラとして立ち上がっているという話でし た。

 

■主人公は弓神ではなく、羽生くんでした。

 

 今回まで見てきて、 ドラマが羽生くんの内面描写や背景設定の構築に手間を惜しまなか った理由がわかってきました。この『刑事ゆがみ』 というドラマは、 実は羽生くんを主人公に設定しているのではないか、 ということです。

 今回の第3話までの事件の発生と解決において、 心を揺さぶられたのは、いつも羽生くんでした。 1話では偶然出会った初恋の相手、2話では偶然出会った同じ“ 女教師フェチ”という趣味を持つ下着泥棒、 そして第3話では交番勤務時代にお世話になった上司。 いずれの事件でも、 そのキーパーソンは羽生くんの心の機微に触れてきます。 逆にいえば、弓神はどの事件に対しても冷静で、 判断力を失うことがありません。

 つまり、 視聴者が羽生くんにがっつり感情移入できるようなキャラクター描 写を施した上で、その羽生くんの心情を揺さぶる事件を起こす、 というパターンを敷いているように見えるんです。 原作では金魚のフンでしかなかった羽生という人物を主人公に仕立 て上げているわけですから、 これはなかなか大きな原作改変ですし、 今のところ実に成功していると感じます。

 成功の理由は、 やはり神木隆之介という俳優さんの力によるところでしょう。 これは、制作側の中に「 神木さんにこういうシチュエーションを与えればいい顔をする」「 こんな試練を与えればこう跳ね返してくる」 という絶対的な信頼感があるからこその作劇です。しかも、 手練れの浅野忠信を向こうに回して、という配置ですから「 あの神木きゅんも立派になったなぁ」 と感慨にふけってしまいます。

 スタッフの神木さんに対する信頼と、 神木さんの信頼に応える芝居。この2つの相乗効果により、 羽生くんに感情移入した視聴者は羽生くんと一緒に泣いたり怒った りしながら楽しめますし、仮に彼本人に感情移入できなくとも、 弓神がわかりやすいキャラなので、 弓神の側から必死に立ち回る羽生くんをイジっている( 愛でている)ような感覚を味わうことができる構図になっている。 わりと全年齢的に見やすい作品だと思うんですよ。 視聴率の話はとりあえず横に置いとくとして。

■「容疑者はウソをつく」を引き受けている脚本

 

 もうひとつ、 このドラマがよく頑張っているなぁと思うところがあります。

 刑事ドラマにおいて、 容疑者がウソをつくことは珍しいことではありません。むしろ、 罪状を否認してくれなければ話が進まないともいえるので、 おおむね、どんなドラマのどんな容疑者もウソをついています。

 容疑者がウソをつく生き物である限り、 視聴者はその言葉のすべてを疑ってかかることになります。 だからドラマは、彼らが「ウソをついていない」ときには「 ウソをついていませんよ」と明確に主張する必要が出てきます。

 例えば取り調べにおいて、刑事が母親のエピソードを聞かせる。 容疑者は涙ながらに罪を自白する。よくあるパターンです。

 このドラマでも、 羽生くんが頑張って取り調べをするシーンが頻繁に出てきます。 あえて古典的に、『太陽にほえろ!』みたいに、 机を叩いたり恫喝したりする羽生くんが演出されますが、 決して自白を引き出すことができません。 なぜなら羽生くんの取り調べは、常に的外れで、 真相ではないからです。

『刑事ゆがみ』は、 こうしたシーンで容疑者に必要以上に否認させません。 容疑者はウソをつく生き物であり、 その言葉は常に視聴者に疑われるということを引き受けているので す。

 では、どうしているか。言葉ではなく、行動によって「 明確な否認」を描いています。行動はウソをつかないからです。

 例えば第2話。斎藤工演じる下着泥棒は、泥棒に入った家で、 寝ていた女性に暴行を働いたという容疑がかけられていました。

「俺は下着にしか興味がないからレイプはしない」

 結果的に、真相はそういうことなのですが、 これを言葉で言われても説得力は皆無です。しかし、彼が「 女性が在宅中で、寝ているときにしか盗みに入らなかった」 という過去の行動が示されることで、「 今回も寝ている女性をレイプしなかった」 という主張が補強されることになるのです。

 今回も、取り調べのシーンがありました。容疑者は、 恩義のある警官を殴り倒した罪に問われています。 粗暴で短気な容疑者の自宅の冷蔵庫には、「 辛い時こそ拳をひらけ」と書かれた紙が丁重に貼られていました。 それは、警官がかつて、容疑者のために書いたものでした。

 取り調べで容疑者は「向こうが先に襲ってきた」 と正当防衛を主張しますが、 やはり言葉だけでは説得力がありません。しかし、 この取り調べの際に彼が、 固く握った拳を震えながら開くシーンを繰り返し描くことで、「 彼から襲ったのではない(彼は警官の教えを守っている)」 という真相が、説得力を持って浮かび上がるのです。

 こうした、 プロットからシナリオを立ち上げる際の具体的なエピソードの作り 込みが、実に丁寧に行われているのも、『刑事ゆがみ』 の特徴だと思います。複数の脚本家を使っていますが、 かなり強いディレクションというか、 統率が入っているという印象です。 クオリティコントロールが行き届いているし、 時間をかけて脚本を練っていることがよくわかります。要するに、 マジメに頑張って作っているドラマだということです。 マジメに頑張って作っているドラマに対しては、 やっぱりマジメに頑張って応援したいと思うのです。

 今後も、羽生の心を揺らす事件を起こして、 弓神が真相を解明する。その捜査の過程において、 弓神が羽生に気付きを与え、羽生が成長していく。 そういうパターンを守りながら回を重ねて行けば、 大きく崩れることはないと思います。

 

■ところで、低視聴率について

 

 それにしても、先日「面白いのに数字低いねー」 と隣のデスクの人と話していたのですが、「もしかして、『 浅野忠信って誰?』って状態なんじゃないの?」と言われて、 目からウロコでした。確かに、センセーショナルだった『 鮫肌男と桃尻女』から、もう20年近く。 当時のサブカルキッズもおじさんおばさんですし、 言葉は悪いけど、最近の浅野さんが「ドラマに降りてきた」 みたいな感覚で楽しんで見てる人って、 あんまりいないのかもしれません。

 まあ、浅野さん本人は楽しそうですし、私も楽しいので、 別にいいですけど。
(文=どらまっ子AKIちゃん)