水谷豊が『相棒』の杉下右京になる、はるか前……トンチキ青春映画で演じた“汗臭い童貞”役の魅力とは?

エンタメ批評界の「ひとり隙間産業」佃野デボラが、見逃せない“味”なコンテンツ、略して「味コン」をプレゼンする不定期連載(※このコラムはネタバレを含みます)。

【今回の「味コン」!!】
『相棒』“右京さん”の五十余年前、18歳の水谷豊がボンクラ童貞野郎を演じた『新・高校生ブルース』

 今年3月、『相棒 season21』(テレビ朝日系)が好評のうちに幕を閉じた。2000年のシリーズ開始から23年もの間続くこの人気作品の効果で、水谷豊=「杉下右京」というイメージを抱く視聴者は多い。

 一方、筆者のような昭和のテレビっ子からすると『熱中時代・教師編』シリーズ(1978〜89年/日本テレビ系)の「北野先生」が強く印象に残る。また、各社から配信され、いまだに根強い人気を誇る『傷だらけの天使』(74~75年/日本テレビ系)で水谷が演じた、主人公・修(萩原健一)の舎弟「亨(アキラ)」を愛するファンも少なくないだろう。

 とりもなおさず、俳優・水谷豊にとって74年、78年、そして00年は、長年世間から愛される「当たり役」に出会った重要年ということになるが、その少し以前、ブレーク前夜の70年も彼にとって枢要な年であったという説を、筆者は唱えたい。

 『マグマ大使』第9話(66~67年/フジテレビ系)にて14歳でドラマデビューを果たし、『青春の海』(67年)で映画デビューを飾った水谷。そこから数年の間は、オーディションで勝ち取った初主演作『バンパイヤ』(68~69年/フジテレビ系)を除けば、鳴かず飛ばずの日々が続いた。今回は、そんな水谷が70年、18歳の時に出演して爪痕を残した……かもしれない映画『新・高校生ブルース』を紹介したい。

 本作は、主人公の椎名(内田喜郎)と、その幼なじみの京子(関根恵子/現・高橋惠子)を中心に、高校生の性と恋を描いたトンチキ青春映画である。水谷が演じる「おかちん」こと岡田は、「しい公」こと椎名、和島(菅野直行)とともに仲良し童貞トリオを組んでいる。街角でのナンパ作戦は失敗に終わり、女性への劣情と、優等生面して“やることやってる”キザなクラスメイト・館山(木下清)へのひがみをたぎらせる3人は、学園祭までに童貞を捨てるという約束を交わし、「フラレタリア同盟」を結成する。

「ナンパ! アタック! レッツゴー!」
「チッキショ〜! 館山の野郎うまいことやりやがって! ぶったまげたな」
「おおかた今ごろ、猛烈キッスのボインモミモミってとこだぜ?」
「俺たちはフラれっぱなしのプロレタリア、つまりフラレタリアというわけだ」
「そうだ! 俺たちは、モテる奴らからどんどん女を搾取されてる、フラレタリア階級だ!」

 汗臭い昭和ワードと、オリジナリティあふれるトンチキ語の洪水にクラクラさせられる、これはある種ドラッグ・ムービーと言っていいかもしれない。そして本作の「ボンクラ童貞高校生」の遺伝子は、のちの『グローイング・アップ 』(78年)、『アメリカン・パイ』(99年)、『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(07年)など、海外の人気作品にも受け継がれて…………ねえわ!

 令和の倫理規範やコンプライアンスに照らし合わせると、完全にアウトな表現や台詞のオンパレードなので、万が一、本稿を読んで視聴する読者がおられ、気分が悪くなった場合は、ただちに視聴をおやめください。本稿ではひとつ、日本映画における比較歴史社会学の見地から論じさせていただくとして……。

 とにかくこの「フラレタリア同盟」の3人、高校生の分際で酒は飲むわタバコは吸うわ、キャバレーでぼったくられた末に、支払いが足りなくてボコられたり、ジャンケンで勝った者に、負けた2人がトルコ風呂(84年にソープランドに改称)をおごろうとしたりと、無茶苦茶だ。かといって彼らは、不良というわけでもない。性欲旺盛な、普通の男子高校生3人組なのである。「おかちん」の女性の好みについての、「フェイ・ダナウェイみたいな、どことなく白痴めいた女性」という説明もヒドい。

 「おかちん」と「しい公」は2人して、クラスのマドンナ・京子に惚れてしまうのだが、最終的におかちんは「あいつを幸せにしてやれるのは、しい公しかいない」と恋路を譲る。そして、夜の新宿で淫乱姐さんに拾われて「強チン」され、童貞を喪失するのだった。こうした「お人好しキャラ」においてこそ輝く魅力は、その後、水谷が発揮し続けた役者としての妙味につながっているような気が、しないでもない。加えて、「フラレタリア同盟」のほかの2人がいかにも“セリフセリフした台詞”を発するのに対して、水谷だけが割と自然な芝居をして、自分だけの「味」を持っており、弱冠18歳にして名優の片鱗を見せている。

水谷豊は『新・高校生ブルース』を最後に、あやうく俳優を引退するところだった

 ところが、本作を撮り終えるや水谷豊は、大学受験のために一度俳優を辞めてしまう。そして受験に失敗して家出、自分探しの旅へと赴くのだった。2年のブランクを経て俳優に返り咲き、『太陽にほえろ!』(72〜86年/日本テレビ系)第1話の犯人役で注目を浴びた後、出演作を重ねていく。そして74年に『傷だらけの天使』に出演。その後の活躍は多くの人の知るところだ。

 つまり『新・高校生ブルース』は、水谷の俳優人生の曲がり角に立てられた道標のような作品とは言えまいか。あそこで俳優を完全に引退してしまわずに、本当によかった。あやうく最後に演じた役が、汗臭い「フラレタリア同盟」の一員ということになってしまうところだった。あの時の「おかちん」があってこそ、現在の「右京さん」があるというものだ。

 さて、そんな水谷にとって重要作である本作の結末はというと……。それまで「トルコ風呂」「強姦未遂」「売春未遂」etc.の物騒なエピソードや、京子が海岸でヒラヒラ舞い踊って「しい公」の夢精を表現した爆笑イメージシーンなどを畳みかけた揚げ句、とんでもない肩透かしに終わる。

 やけのやんぱちになって、トルコ風呂で「筆おろし」を試みるしい公を京子は引き留め、誰もいない夜の学校へと彼をいざなう。そして服を脱ぎ、「どうしても我慢ができないのなら、私を抱いて」と告げる。

 「聞いたわ。フラレタリア同盟のこと」。全裸の関根恵子がまっすぐな眼差しでトンチキ・ワードを発する姿に、爆笑を抑えられない。そして、つい10分前のシーンでは「イライラしてどうしようもないんだ。女を見るとみんな裸に見えちゃって。カーッと強姦したくなり、思いとどまるのがやっとなんだ」と鼻の穴を膨らませていたしい公が、なぜか急に神妙な顔をして、大学生になるまではプラトニックな関係のままでいようと誓う。

 そして学園祭当日。京子が出場するテニスの試合を応援するしい公の、多幸感にあふれるモノローグで、物語は閉じる。

「(フラレタリア同盟の中で)俺だけついに童貞のままだけど、右や左に飛び交うボールを追っているうちに、すごく幸せだなって感じちゃって」

 いったい何をキメたんだ、しい公。どうしたんだ、その「賢者モード」は。さらにモノローグは、こう続く。

「というのは、空も晴れていたし、岡田も和島もサナエ(三笠すみれ)もみんないいヤツで、そのうえ京子のヤツがグッと冴えてるもんだから、俺はうれしくなって、もう少しで涙を流すところだった。きっと、ホットドッグにカラシをつけすぎたせいに違いない」

 ……と、なんか知らんがフツーの青春映画みたいにまとめちゃって、ハツラツとスマッシュを打つ京子のスローモーションで「完」ときたもんだ。無茶苦茶な暴れ太鼓を狂ったようにドンガラガッシャーンと打ちまくった揚げ句、最後シンバルを「シャンッ!」とやって一礼、みたいな終わり方がジワジワくる。

 『新・高校生ブルース』と題しているが、この作品のどこに「ブルース」があるのかも、当然わからずじまいだ。内容が記憶に残らないので、年1ぐらいの頻度で見返しても、その都度新鮮に楽しめる。実際、筆者がそうだった。最後まで見終えて、満足するか後悔するかはさておき、水谷豊ファンなら押さえておきたい一作といえよう。

『夕暮れに、手をつなぐ』脚本家・北川悦吏子の過去作『ロンバケ』を伝説の「企画書」とともに味わう

エンタメ批評界の「ひとり隙間産業」佃野デボラが、見逃せない“味”なコンテンツ、略して「味コン」をプレゼンする不定期連載。

【今回の「味コン」!!】
「夢ノート」のような「原案」も発掘。脚本家・北川悦吏子による27年前の大ヒットドラマ『ロングバケーション』

 “恋愛の神様”こと北川悦吏子大先生が脚本を担当したドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS系)が3月21日をもって放送終了し、「夕暮れロス」が止まらない。無論、「止まらない」の主語は筆者ではなく、北川大先生なのだが。

 大先生といえば、常にTwitterで《褒めて! 讃えて!》を叫んでおり、脚本家界きっての「欲しがり屋さん」として広く知られる。Twitterの検索窓に「from:halu1224 褒めて」と入れてみると、大先生の「称賛欲しがりツイート」がザクザク出てくるので、気になった方はぜひ検索してみていただきたい。

「夕暮れロス」からの「ロンバケ、すごかったな〜!」。数珠つなぎの自画自賛

《しばらく、夕暮れロスだった。》
《夕暮れーのない、火曜日が来る。淋しい。》
《#夕暮れ思い出 こんなハッシュタグないよね。関係者がこれでつぶやかないかなって。》

 最終回から1週間以上がたち、『夕暮れに、手をつなぐ』への称賛コメントの潮も引いた今日この頃。大先生の「ロス」は相当なもののようで、ホーム画面を見てみると、こうした、ファンやスタッフに目くばせするようなツイートが並んでいる。そんな状況下、1996年の大ヒットドラマ『ロングバケーション』(フジテレビ系)が、「Tver」その他各社から順次配信中であることは、大先生を大いに慰めているに違いない。

 『夕暮れに、手をつなぐ』が終盤に差しかかるあたりから、『ロンバケ』がらみの「褒めて!」ツイートがにわかに増えだした大先生。96年当時の思い出を語り始めたり、キングコング・西野亮廣が『ロンバケ』の瀬名役・木村拓哉について語ったvoicyを引用したりと、「過去の栄光も褒めて!」という切なる思いが行間からあふれ出している。

 このように、「『ロンバケ』への賛辞ちょうだいキャンペーン」真っ盛りの大先生だが、26日夜には、

《こんなもの、見つけた(ハート型エクスクラメーションマーク)ロンバケの裏側》

と、ご機嫌でツイートし、YouTubeにアップされた当時のメイキング番組『ロンバケの裏側』(※正式な番組タイトルは『ドラマの裏側 VOL.7 一行の台詞から…』)へのリンクを貼っていた。しかし、何を思ったか翌朝にはこのツイートを削除。そしてなぜか翌々日の28日夜に、

《私、若くて野暮くて、一生懸命で、いい気^_^。若気の至り。27年前かあ。あなたの27年後は病気でけっこう大変だけど、でもそんなに悪くもないよ、いいこともあるよって、教えてあげたい^_^。てか、まだ書いてんの?って言いそう、27年前の私。》

と、『ロンバケ』から27年の後も(大先生が思う)脚本家の“第一線”で活躍している自分にうっとりしながら、文言を変えてツイートし、再び『ロンバケの裏側』のリンクを貼り直している。

 一応“業界人”である大先生が、公式によるものではない、違法アップロード動画へのリンクを貼るのはいかがなものかとも思うが、「こまけえこたぁ気にしない」、その“剛気”こそが、北川大先生の真価というものだ。ところで、この『ロンバケの裏側』、実は大先生の“ファン”の間ではちょっとした“お宝映像”として知られているのだ。

 件の『ロンバケの裏側』には、「地雷を踏む」という言い回しの“発明者”は自分であると鼻高々に語る、若かりし大先生のインタビューをはじめ、制作の裏話が収められているのだが、見逃してはならないのが、『ロングバケーション』が実現に至る数年前から温めていたという、大先生自らワープロで作成した「企画書」が大写しになる場面だ。そこには、以下のように記されている。

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『Best Freinds』(仮)
〜ひとりじゃないってば〜

『男と女だから、いい友達になれるってことだってあるんだ』
◇一途な女と、遊び人男の、ハートフルストーリー◇

相沢南は、正攻法な女の子。
好きな男の人にはいつも、一途。
会計事務所をやっている恋人の、涼とは、もう一年半のつきあい。そろそろ、プロポーズされるかな…という期待に胸を膨らませている。

ある日、南は、涼に、会社から愛のファックスを送る。
(※南は、住宅会社、xxホームに勤めるOL。時には、システムキッチンの窓を飾ったり、モデルハウスの受付なども、やったりする。)

「今日、〇〇(場所)で×時に待ってるからね。涼ちゃんへ。あなたのミナミより。P.S I LOVE YOU」なんて書いて、涼の事務所にファックスする。

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(※原則すべて原文ママ)

 これが、かの、社会現象にもなったトレンディドラマ『ロングバケーション』の企画書であると、にわかには信じがたい。まるで中学生が書いた漫画のアイデア、あるいは「夢ノート」のような内容ではないか。さらに、タイトルの綴りは間違っているわ、「『正攻法な女の子』ってどういう日本語よ?」と頭を抱えるわ、近年作にも通ずる「仕事描写のグダグダさ」がこの時点で見て取れるわで、“北川大先生マニア”にとっては、たまらない内容だ。

 ましてや、ヒロインの名前が「南」であること以外、舞台設定も人物造形もあらすじも、何ひとつ『ロンバケ』と重ならない。これはつまり、「完成品」の『ロンバケ』に至るまでに、同作を担当した亀山千広プロデューサーの「テコ入れ」によって相当な“ブラッシュアップ”がなされたと考えられる。

 さらに驚くことに、遡って12日夜の投稿で大先生は、「南(山口智子)が花嫁衣装のまま爆走して、息を切らして瀬名(木村拓哉)の部屋に駆け込んでくる」という第1話冒頭シーンについて、うれしげにこう語っている。

《あの出だしは、やはり賛否両論ありました。作り手の中でね。もうちょっと普通なOLさんの話とかにしたらどうでしょう?と言われた記憶が。視聴者も見やすいですよ、と。覚えてるってことは、胸に刺さったんですよね。その言葉。それもそうだろうなあ、と。でも、あれがやりたかったんだと思います。》

 あれれ? 話が食い違いやしませんか大先生。「企画書」を読む限り、最初にこのドラマを《普通なOLさんの話》に設定していたのは大先生ですよね……? 27年の歳月を経ると、ここまで記憶に“補正”がかかるものなのでしょうか?

 さて、北川大先生の「輝かしい過去の栄光」である、最高視聴率36.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録したこの『ロングバケーション』。96年制作ゆえの「時代感」と「古臭さ」はあるものの、『半分、青い。』(2018年/NHK総合)、『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(2021年/日本テレビ系)、『夕暮れに、手をつなぐ』といった近年の「依代三部作」に比べれば、大先生による登場人物への自己投影は控えめで、大分見やすい作りとなっている。おそらく亀山Pの「舵取り」と「導き」が相当に効いているのだろう。

 とはいえ、「サバサバ」と「ガサツ」を履き違えたヒロイン・南の人物造形、南が粗暴な言動を繰り出して相手の反応を見る「試し行為」、大先生と家族(ここでは実兄)の思い出を作劇に組み込んだ、有名な「スーパーボール」のシーンなど、のちの「北川作品あるある」に通ずる“メソッド”の萌芽が感じられて趣深い。

 あれから27年。すっかり“大御所”となった北川大先生の近年作には、プロデューサーによる「制御」が効いていないのではないかと感じられるものが多い。大先生とドラマプロデューサーの「パワーバランスの変化」に想いを馳せながら、在りし日の『ロンバケ』を見てみるのもいいだろう。ドラマのスタート地点である、《Best Freinds(仮)》の「企画書」の文面を反芻しながら鑑賞するのも一興だ。

※《》内はすべて原文ママ。

近藤真彦と中森明菜、元カップルがそれぞれ再始動! いま振り返る2人の“いわくつき”共演映画

 エンタメ批評界の「ひとり隙間産業」佃野デボラが、誰も見向きもしないけれど、見捨てられない“味”なコンテンツ、略して「味コン」をプレゼンする不定期連載(※このコラムはネタバレを含みます。そして、「別にネタバレしてもいいっすよね?」という作品しか紹介しません)。

【今回の「味コン」!!】
マッチ&明菜のダブル主演、史上最高のトンデモアイドル映画『愛・旅立ち』に見る「昭和のおおらかさ」

 昨年、不倫騒動の末にジャニーズ事務所を退所して以来、鳴りを潜めていた“マッチ”こと近藤真彦が、去る10月5日に放送された『1周回って知らない話 3時間SP!』(日本テレビ系)で久しぶりにテレビに出演した。

「デビュー以来ずっとマッチの大ファン」と語る高嶋ちさ子の姉・未知子さんのためにサプライズ登場したのだが、ノルマ感たっぷりの「善人しぐさ」をキメて、最後には12月に行われる自らのディナーショーの告知をしっかりやって帰っていく、マッチの商魂たくましさに感嘆した。さすが、たいした貢献もしていないのに長年「ジャニーズ事務所の長男坊」と呼ばれてニコニコしていた強心臓の持ち主である。

 そして奇遇にも、かつてマッチと恋仲にあった中森明菜も今年になって動きを見せている。8月にTwitterの公式アカウントを立ち上げ、新たな個人事務所を設立したことを報告したのだ。しかし、46万超のフォロワーを擁しながら(22年11月10日現在)、最初の1ツイートを限りに更新されていない。事務所公式サイトもトップページが作られただけで、何の情報も発信されないままだ。

この“儚さ”こそが明菜の魅力ともいえるのだが、“再始動宣言”以降まったく動かない彼女の活動状況に「おい大丈夫か?」「また何か揉めてるのか?」と、余計なお世話ながらつい心配になってしまう。

 そんな元恋人同士の“再始動”を祝して……かどうかはわからないが、マッチと明菜がダブル主演を務めた映画『愛・旅立ち』(1985年)が、11月15日と26日、CS東映チャンネルにて放送される。記念すべき連載第1回目では、「アイドル映画のトンデモ大賞」といって間違いない、この“味映画”を紹介させていただきたい。

「いのちいっぱい恋をします。」

 明菜の「消え入りそうな小声」でモノマネ再生してみたい、儚さたっぷりのキャッチコピーが躍る本作。先天性の心臓の病気から余命いくばくもないユキ(中森明菜)が、運命の相手・誠(近藤真彦)と出会い、愛と命を燃やす物語……と、あらすじだけ見れば、ありがちなアイドル映画に過ぎない。

 しかしこの作品がワン&オンリーたるゆえんは、そこに「超能力」「大霊界」「宇宙」「耳なし芳一」という、製作陣のおじさんたちが思いつく限りのトンデモ題材を乱暴に投げ入れた「闇鍋映画」であるところだ。
 
 この映画が誕生した経緯をまとめると次の通り。企画が立ち上がった当初は『太陽を盗んだ男』(79)などで知られる長谷川和彦氏が監督・脚本を担当し、明菜の単独主演で話が進んでいたという。しかし、映画初出演にして初主演という重責に耐えかねた明菜が「1人じゃ不安」「マッチとダブル主演にしてほしい」と、小声ながら頑として動かずに要望を貫き、マッチ・明菜のダブル主演と相成った。

 さらに、当時の双方の所属事務所であるジャニーズ事務所と研音の意向により長谷川氏が降板。代わりに、マッチ主演の『ハイティーン・ブギ』(82)でメガホンを握った舛田利雄氏が監督に、『仁義なき戦い』シリーズなどで知られる笠原和夫氏が脚本に抜てきされた。

 しかし、監督の舛田氏が当時感化されていた丹波哲郎の“大霊界”的世界観や、宇宙、超常現象、耳なし芳一など、「俺ちゃん、こんなのやりたい」という要素をすべてぶち込んだ結果、脚本の笠原氏が「こんなもん、まとめきれるかーッ!」と匙を投げ、最終的に舛田氏が監督・脚本を兼任して完成に至ったのだ。

 そんないわくつきの“問題作”である『愛・旅立ち』だが、こうした製作経緯の「ガチャガチャっぷり」が如実に映像に出ており、どのシーンを見ても「いや、会議室でおっさんたちが盛り上がったか知らんけど」という感想を禁じ得ない。

 そのうえ、おそらく舛田監督の肝煎りで実現した丹波の出演により、彼のフィールドワークである“大霊界”方面の横槍や注文が多分に入ったことは想像に難くない。丹波演じるホームレスの奈良が、誠の窮地を救ったことから行動を共にし、自らの臨死体験や「霊との交信」について語るシーンは、完全に「丹波哲郎のミニ大霊界コーナー」と化している。

 明菜のわがまま、各事務所の意向、監督の趣味、監督の仲良しおじさんの横槍、そして、主演女優から直々に指名された割に、突き抜けた「棒」であるマッチの演技(人呼んで「マッチ棒」)。「トンチキ映画」ができ上がるための要因が幾重にも重なり、映画史に燦然と輝く「香ばしい作品」に仕上がっているのだ。

 では、ストーリーを具体的に見て行こう。親友を交通事故で亡くし、自らは九死に一生を得た(そして奇跡的に無傷だった)誠と、余命わずかと知らされ、孤独な入院生活を送るユキ。2人が正式に出会うのは、全編127分中、折り返し地点を過ぎてからなのだが、出会うより先に2人は“魂の対話”を重ね、互いの存在を感じ合っている(なんのこっちゃ)。ユキが心臓発作を起こすと彼女の魂が火の玉に乗り、誠の臨死体験のフラッシュバックに“アクセス”する、といった具合だ。

 前半で描かれるユキの闘病生活。これがまた破天荒を極めている。身寄りがないうえに不治の病を抱えるユキの淋しさに同情した看護師たちが、彼女に子犬をプレゼントする。病室に犬。訓練されたファシリティドッグでもないのに、衛生上、社会通念上あり得ないが、こんな序盤でいちいち立ち止まっていてはツッコミ持久力がもたない。これが『相席食堂』(朝日放送)なら、千鳥の「ちょっと待てぃ!」ボタンの連打で、VTRが一切進まないことだろう。

 ユキは怪談『耳なし芳一』がバイブルという、19歳にしては渋すぎる趣味の持ち主だ。同じ病室になった老婆・しげ(北林谷栄)は、「それはどんな話なのか」とユキに訊ねる。『耳なし芳一』を知らないお年寄りというのも珍しいが、オタクが推しについて語るとき特有の、立て板に水のごとき口調であらすじを説くユキの姿が熱い。そしてユキによる『耳なし芳一』の解説を聞きながら、しげは絶命する(なんで!?)。

 ユキの「芳一フリーク」が嵩じて、ついに彼女の目の前に芳一が現れるシーンは、前半の大きなカタルシスといえる。芳一の姿はユキにしか見えない。どことなくHey! Say! JUMPの八乙女光に似た子役が口に綿を含み、目にカラコンを入れ、ゾンビ風メイクを施され、耳を隠しているはずなのにときどき出ちゃったりして、体当たりで芳一を演じている。この芳一に、非常に中毒性があり、年に一度ぐらいはこの映画を見直してもいいか、という気分になる。そして、実際なぜか年一ぐらいの頻度で『愛・旅立ち』はどこかしらで放送されている。

 芳一と、彼の霊力で元気を取り戻したユキは病院を抜け出し、原宿へ。芳一が霊視を用いてユキの逆ナンを手伝ったり、空を飛んだり、動物園で虎に怯えて縮小したりする、84年(撮影時)の「最新特撮技術」を駆使したシーンにも、頬が緩む。また、ユキと誠に訪れる「臨死体験」の中、現れては消えていく「人生に関わった人々」の走馬灯が、自動車教習所の教習映像のようでジワる。

 後半に入りユキが誠と出会い、恋に落ちると同時に芳一が消えることから、芳一は孤独なユキの深層心理が作り出したイマジナリーフレンドと見て間違いないだろう。芳一の耳がなくなったり出たりして造形が雑なのは、繊細に見えて、意外なところで大雑把そうなユキの鷹揚さの現れ、ということにしておこう。

 運命の出会いを経て、愛を深めていく誠とユキだったが、ツーリングに出かけた先でユキが発作を起こし、やがて心肺停止になってしまう。医師による死亡確認が行われたのにもかかわらず、誠はユキの遺体を連れ出し、大学病院の敷地内にある「動物実験治療室」に飛び込む。鶏やヤギや猫が見守る中、なぜか上半身裸になって心臓マッサージをし、単にキスを楽しんでいるようにしか見えない“チュッチュ人工呼吸”を施して蘇生を試みる。

 本作のクライマックスといえるこのシーンの、「殺すんなら俺を殺せー!!」という誠の叫び声は、当時テレビCMにも使用された。これを見て「いったいどんなドラマティックな展開が」と、胸を弾ませ映画館に走った当時のマッチファンは、このトンチキ展開に何を思っただろうか。「黒柳さーん!!」と何ら変わらないトーンの誠の「棒叫び」に自然界が反応したのか、なぜか大地震が起こり、時空がねじれたんだかなんだか知らないが、ユキは生き返る。

 ……と、ここまでさんざんネタバレしておいてなんですが、ここから先の結末は、見てのお楽しみ。ただ、大きな肩透かしと膝カックンが待っていることだけは保証する。そして、こんなに酔狂な作品に大真面目に取り組んでいた明菜と、八乙女似の子役の奮闘は称えておきたい。この秋、かかるトンチキ映画が許容された、昭和という大らかな時代に思いを馳せてみるのもいいかもしれない。

【作品情報】
『愛・旅立ち』(1985年公開)
2022年11月15日(火)21:30~24:00
2022年11月26日(土)22:00~24:30
CS東映チャンネルにて放送

監督:舛田利雄 脚本:笠原和夫、舛田利雄
配給:東宝
出演:近藤真彦、中森明菜、丹波哲郎、勝野洋、萩尾みどり、レオナルド熊、北林谷栄、吉行和子、コロッケほか
東映チャンネル・番組紹介(https://www.toeich.jp/program/1TT000004080/202211)