大事な仕事を抱えていても、大切な試験を控えていても、“あれ”は問答無用でやってくる。Web漫画として2017年から連載がスタートした小山健の『ツキイチ! 生理ちゃん』が、二階堂ふみ、伊藤沙莉ら若手実力派女優が共演した映画『生理ちゃん』として実写化された。現代社会において、今なおタブー視されがちな“生理”をテーマにした作品として注目される。
青子(二階堂ふみ)は出版社で働くワーキングガールだ。作家への原稿依頼から、ゲラの校正などテキパキとこなし、多忙ながら充実した毎日を過ごしている。ところが、“あれ”は唐突に現われた。月に一度の“生理ちゃん”である。青子の行く手を阻む生理ちゃん。「今は忙しいから」と無視して青子は走り抜けようとするが、生理ちゃんは青子をむんずと捕まえ、下腹部へ強烈なボディブローをお見舞いする。悶絶する青子。それでも青子は苦しみに耐えながら、任された仕事を片付けるしかない。
悲劇はそれだけでは済まなかった。翌朝目覚めると、より巨大化した生理ちゃんが青子の上にのしかかっている。会社に行きたくない……。そんな気持ちを振り切り、青子はいつもより時間を要するメイクを施して会社へ向かうが、背中には無表情な生理ちゃんがへばりついている。どうやら、生理ちゃんの姿は、他の男性たちには見えないらしい。今月もまた1週間にわたって生理ちゃんと付き合わないといけないかと思うと、どんよりとしてしまう青子だった。
まるでホラー映画『イット・フォローズ』(14)のような始まりだ。『イット・フォローズ』は“それ”と呼ばれる正体不明のクリーチャーに付きまとわれる人々の恐怖を描いた不条理ホラーだった。セックスを媒介にして“それ”は生きている限り、ずっと付きまとい続けてくる。不気味な“それ”に比べれば、ゆるキャラふうのキャラクターとなっている生理ちゃんだが、女性にとってはやはり憂鬱な対象でしかない。
職場でだるそうにしていた青子は、上司(藤原光博)からグダグダと小言を言われ続けるはめに。お手洗いで女性の先輩から「あなたも生理? お互いにがんばりましょう」と励まされる。女同士には、お互いの生理ちゃんが見えるらしい。でも、その先輩の連れている生理ちゃんはとても小さくて、かわいらしい。生理ちゃんの大きさは、かなり個人差があることがうかがえる。
男はどうしても生理ちゃんの存在には鈍感だ。クリスマスシーズンに、苦労して予約したおしゃれなレストランや眺めのいいホテルで、彼女の表情が冴えないでいるとその理由を察することができずに逆ギレしてしまいかねない。女と男の間には、大きな大きな溝がある。生理ちゃんは、そんな恋人たちの成り行きをただ黙って見つめているだけである。
男性が本作に興味を持っても、映画館にまで足を運ぶのはハードルが高いかもしれない。そんな方には、まずWebサイト「オモコロ」で無料公開されている原作コミックを一読してみることをお勧めする。いろんな職種・世代の女性たちと生理ちゃんとの葛藤のドラマが、一話につき16ページの短編漫画としてまとめられており、とても読みやすい。擬人化された生理ちゃんと女性たちとのやりとりから、男性が初めて知ることも多いはずだ。原作者の小山健は1984年奈良県生まれ、『生理ちゃん』で手塚治虫文化賞短編賞を今年受賞している。原作者が男性なことに驚くが、男性だからこそ生理を客観視して、キャラクター化することができたのだろう。
珠玉の原作コミックの中でもホロリとさせるのは、日本製の使い捨てナプキンを開発したスタッフたちの実録エピソード。インド映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』(18)の主人公は自分の奥さんのために廉価で清潔なナプキンを作ろうとして周囲から白眼視されたが、高度成長期の日本も同様だったらしい。男性社会の中で生理はタブー視され、ナプキンを商品化するのは苦労の連続だった。男たちの生理に対する無理解や偏見が、女性の社会進出を妨げ続け、逆にナプキンの開発・改良があったことが、女性の社会進出を促したことが分かる。
映画『生理ちゃん』では、青子と同じ出版社で清掃スタッフとして働くフリーター・りほ(伊藤沙莉)がもう一人の主人公として登場する。りほはこれまで男性と交際した経験がなく、「自分には生理は必要ないから」と生理ちゃんが訪れるのを拒否するようになる。自分が女であることを嫌い、呪うりほだった。毎月やってくる鬱陶しい生理ちゃんだが、でも来なくなるとそれもまた怖い。はたして、りほは自分でかけた呪いを解き、幸せをつかむことができるのだろうか。
同年生まれの若手実力派・二階堂ふみと伊藤沙莉が共演しているのだから、2人が絡むシーンをもっと見たかったなど、映画のできに関しては言いたい部分がいろいろとある。でも、イロモノ映画としか思われないこの企画に対して、出演OKした二階堂、伊藤の役者魂を評価したい。二階堂も伊藤も作品のためなら、ヌードになることも辞さない芯の強い女優だ。本作がきっかけで、“生理ちゃん”への理解が少しでも広まることを女優たちは願っているんだと思う。
(文=長野辰次)

『生理ちゃん』
原作/小山健 脚本/赤松新 監督/品田俊介
出演/二階堂ふみ、伊藤沙莉、松風理咲、須藤蓮、狩野見恭兵、豊嶋花、信太昌之、藤原光博(リットン調査団)、中野公美子、鈴木晋介、広岡由里子、笠松伴助、小柳津林太郎、八木橋聡美、安藤美優、竹村仁志、田宮緑子、飯田愛美、岡田義徳
配給/吉本興業 11月8日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
(c)吉本興業(c)小山健/KADOKAWA
https://seirichan.official-movie.com
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