エレベーターやビル用空調設備の最大手、三菱電機ビルテクノサービス(以下ビルテクノ)が、子会社の社員からパワハラ訴訟を起こされている。原告となった男性2名は、仕事現場が同社による偽装請負にもなっている事実も重ねて告発し、約1,370万円の損害賠償を求めている。
2名はビルテクノの完全子会社、菱サ・ビルウェアの契約社員として東京・杉並区の大型スポーツ施設である上井草スポーツセンターのメンテナンスを任されているが、親会社から派遣されたセンターの所長男性・N氏から、長く直接の指揮を受け、常軌を逸するパワハラに悩まされてきたとしている。
「規定された業務とは無関係なのに、サッカーグラウンドにある15メートルもの高さのネットの部品を調整するよう命じられたこともありました。危ないからと断っても、延々と『やれ!』と怒鳴られ続け、渋々ポールを昇ったんですが、強風にさらされ、命の危険を感じる作業だったんです」
こう話すのは、2011年から勤務する原告の40代男性A氏で、同じく13年から勤務する50代男性B氏と共に同センターのガスや電気温水器、券売機などの点検を任されてきた。
センターは杉並区からビルテクノら3社が運営を請け負う形となっているが、そのうち設備管理を菱サが下請け。民法では、現場の指揮監督は菱サが行うことになるはずだが、実際にはビルテクノ所属のN氏(当時50代)が単独で指揮を執り、A氏らは「待遇や環境を無視した無責任な労働やパワハラがあった」としている。
「N所長はシャワー室の天井を清掃させたり、危険な高所作業もよく強制してきたんです。それも『やってもらえるかな?』という相談ではなく、机をバンバン叩きながら『やれよ!』と命令するんです。本来、専門業者が担当するものなので断ると『なんでやらないんだ!』と延々と怒鳴られました」(同)
こうしたN所長の無茶な命令やパワハラは、勤務の開始時間である朝から、就業後にまで及んだという。
「おおよそ朝、昼、夜と所長は3度顔を出すんですが、朝はいきなり『アレはどうなってるの?』って言われ、よくわからないので聞き返すと『考えてもわからないのか!』と怒鳴る。実際にはトイレのドアがうまく閉まらないとか、些細なことなんですが、これも私たちの担当外。修理業者を呼ぶべきなのに、直せ直せと言うんです。所長は勤務9時間うち休憩1時間の昼食時にもやってきて『電話や訪問に備えろ』と、休みを許さなかった。定時の17時30分で帰ろうとしても、また顔を出しては2時間、3時間と怒鳴るんです。だから残業がまるまるパワハラの時間になっていました。定時で帰れたことは、ほとんどなかったと思います」(同)
A氏はこれを「所長が、自分の残業代を目当てでやっていたのではないか?」と察し、会社に何度も苦情を申し立てている。
「何回、申し立てたかわからないくらい電話もメールもして、所長の上司であるビルテクノの課長にも伝えましたが、何も変わりませんでした。事態を見かねた菱サの上司がビルテクノ側に掛け合ってくれたこともありましたが、所長は『俺はそんなことやってない』って言い張っていたんです」(同)
残業代目当ての無理な“仕事作り”だったのか、B氏によると、N氏は電気やガス、水道の使用量が前年と比較して量が多いと「原因を調べろ」と命令。さらに、A氏の私物であるポットを勝手に使用し、空焚きして壊したのに「お湯をちゃんと沸かせるようにしておくのが仕事だ!」と怒っていたという。こうした理不尽なパワハラが約6年間も続いたことで、A・B両氏はストレスによる体調不良を引き起こし、ともに通院。A氏は不眠症や高血圧、難聴などを引き起こし、B氏は精神科で鬱病と診断されたという。
昨年、2人がビルテクノ側に病院代の支払いなどを求めたところ、ようやくN氏が現場から異動になったというのだが、偽装請負やパワハラについては一貫して認めてもらえなかったという。
「ビルテクノの担当者は、偽装請負に関しても『おたくの会社とうちの会社がウィンウィンだから』なんて開き直る始末でした。その後、『一部の病院代は支払うが、その後の通院費や過去5年を遡った被害に関してはゼロ』という和解条件を出されたのですが、謝罪については文書では絶対に渡さないとも言っていて、まるでパワハラの延長線上のように高圧的だったんです。私たちは補償を求める以上にこの問題をちゃんと認識してほしかったので、あえて法廷で戦うことに決めました」(同)
偽装請負は、企業が仕事を下請けに発注した場合などで、実際の現場の指揮を下請け側が執っていない状態のことを指す。この問題は、企業が下請け労働者に、待遇や環境の規定を無視した無責任な労働をさせることにつながるため、その立場を利用したパワハラを伴うケースも少なくない。
過去、キヤノンやパナソニックなどの大企業で偽装請負が大きな問題となったことがある。近年、改正労働者派遣法が可決するなどして、より厳しく問題が問われてはいるが、一方で労働者がいざそれを指摘しても、企業がそれを認めずに抵抗することも多く、その証明はハードルが高い作業でもある。
訴状によると、被告はビルテクノと当のN氏になっており、求めた損害賠償は契約外の作業などを基本給に基づいて割り出したものに、慰謝料を加算したものとなっている。
「一連の行為は、労働契約を無視して契約外の業務を強要した上、休憩時間を与えずに労働させ、さらにパワーハラスメントにより、原告らを取り巻く労働環境を劣悪にし、原告らの人格権および働く権利を侵害するもの」(訴状より)
提訴の直前、ビルテクノに取材をすると「当人からの申し立てを受け、協議を行っています。内容については回答を差し控えさせていただきます」とのことで、菱サも「外部の方にお答えすることは特にありません」との回答だった。
訴訟ではどこまでA氏、B氏の訴えが認められるかわからないが、ビルテクノは以前、エレベーター事故の原因の一端が、人員削減による担当者の過酷勤務にあったと批判されたことがあり、“人の使い方”を問われた会社でもある。
同社は来年中にAI(人工知能)を使ったエレベーター管理をスタートすることを発表しているが、生身の人間への管理に問題があった可能性はないだろうか。裁判の行方が注目される。
(文=片岡亮/NEWSIDER Tokyo)