『人形』が描く、「母親の男」に恋をしてしまった女の末路とは?

『M』/文藝春秋

■今回の官能小説
『人形』馳星周(『M』より、文藝春秋)

 相手を「好き」だと感じるピュアな心情。例えどんな相手であっても、その思いを受け止めてほしいと感じるはず。相手に触れたい。そして、大好きな相手に裸の自分を受け入れてもらいたい――恋をすると誰しもが、そんな思いを抱くはずだ。しかし時として、「好き」という感情は最も恐ろしい感情へと変化する。相手への思いが一方通行にしかならなかった時、「好き」という感情は歪みを生じ、自分でも制御が利かなくなってしまうのだ。

 今回ご紹介する馳星周の『M』(文藝春秋)は、愛や肉欲に翻弄され、背徳への道を転がり落ちてゆく男女が生々しく描かれている短篇集。中でも、就職活動中の女子大生の純粋な恋心を描いた「人形」は、心がひりつくほど痛々しく悲しい愛がつづられている。