中学受験で「特進選抜コース」合格も、3カ月で落ちこぼれたワケ……「入学前にスマホデビューがいけなかった」

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 今年度の中学受験も、大きな混乱はなく、無事に終了した。今頃、新中学1年生は家族も含め、残り少ない小学校生活を謳歌していることだろう。

 中学受験は非常に過酷な世界なので、長期間タイムスケジュールに縛られ、自由時間はドンドンと削られていく。小学6年生の学習時間は、平日だと塾を含め6時間、休日ともなると12時間ということも、格段驚くことではない。さらに週単位で発表される偏差値という数字に一喜一憂。このように大変なプレッシャーの中で頑張るのが中学受験生とその家族なのだ。
 
 受験終了直後は、その長きにわたる張りつめた生活から、突然解放されるので、逆に戸惑うほどだろう。

 専業主婦の亜美さん(仮名)のケースはこうだった。亜美さんの一人息子である和樹君(仮名)の結果は3戦2勝。惜しくも第1志望校は逃したものの、第2志望校の「特進選抜コース」という難関大学を目指すコースに合格。和樹君いわく「余裕!」だったそうだ。

「やっと塾生活から解放されたので、和樹ものびのびと友達と外で遊ぶのかな? と思ったら、とんでもない。ずっと家の中でゲーム三昧です。でも、あれだけ過酷なことをやらせたので、入学までの2カ月くらい、好きなだけ遊ばせてあげたいっていう変な親心が出ちゃったんですよね……」

 そのうちに、和樹君は入学祝いとして携帯電話をゲット。念願のスマホデビューを果たしたという。

「これが、いけなかったですね。私はまったくのアナログ派で、何が何だかわからず、自分がスマホで困った時にも和樹に聞くくらい疎いんですが、気がついたら、和樹は指の先にスマホがくっついているのかと思うほど、四六時中、スマホを触るようになっていました。勉強ですか? 1秒もしていませんでしたね……」

 そうこうしていると、中学生活が始まり、アッという間に梅雨を迎え、中間テストが行われたそうだ。

「驚きました。6年一貫教育は、高2で高校課程が終了し、高3では大学受験の勉強に専念できるシステムだとは知っていましたし、そこに魅力を感じたことも確かです。でも、それって、毎日の授業がフルスピードで行われているってことの裏返し。そのことに気がつかなかったんです」

 亜美さんは夏休み前の保護者面談で、担任の先生からこう言われたそうだ。

「正直、和樹君の成績が今のような状態ならば、進級時に『特進選抜コース』から、別のコースへ移動ということになります。夏休み明けにテストがありますから、それに向かって頑張ってください」

 亜美さんにとっては衝撃の一言だったらしい。

「信じられませんでした。上位での合格に間違いはないはずなのに、入学後たった3カ月で“落ちこぼれ”認定ですから。でも、それ以上にショックだったのは、和樹にいくら勉強を促しても、動かないことでした」

 「もう、『勉強! 勉強!』ってうんざりなんだよ! いい加減にしてくれ!」という和樹君の態度に、亜美さんはため息をつくしかなかったそうだ。

 中高一貫校は成績に厳しい面があるので、ついてこられない生徒への指導も手厚く、放課後や早朝に補習を組んでくれる学校は多い。たとえ、生徒自身が楽しみにしている部活の活動日があったとしても、たいていは補習優先になりやすい。そのことも、和樹君のストレスになっていたのかもしれない。

 結局、和樹君は中2で「特進選抜コース」から「進学コース」に移動となり、現在は新高3直前。亜美さんいわく、和樹君は併設高校には進めたものの、成績が低迷し、浮上できなくなった“深海魚”となり、大学受験が心配される状況という。

「今さらですが、中学受験終了後の親の対応がいけなかったように思います。和樹にとっては、中学受験で第2志望の『特進選抜コース』に受かったことは『目的達成』で、これで一生、勉強から解放されると思ったんでしょう。それなのに、入ってみると、級友たちは入学前から英語学習を進めていたりして、アッという間に差がついてしまいました」

 実は和樹君のようなケースはとても多い。中学受験合格がゴールになってしまい、いわゆる「燃え尽き症候群」になってしまうと、勉強するという自主性が失われてしまうのだ。
 
 新中1生は、現在、自由を謳歌している季節だろう。もちろん、謳歌したほうがいいとは思う。しかし、勉強するための中高一貫校であるという意識も、頭の片隅に置いておくべきだ。

 筆者は、1日の勉強時間12時間の生活から、いきなりゼロにすることには反対の立場である。せっかく身に着けた学習習慣。失うのは簡単であるが、再び身に着けるのは、至難の技だからだ。

中学受験ブームに流され、3年間で400万円課金! 「なのに入学先は偏差値48校」「公立でよかった」母の言えない本音

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験界では、早くも新年度が始まった。最近では、新小学4年生が塾通いをスタートさせる「適齢期」といわれている。

 つまり、受験熱が高い地域であれば、小3にもなると、校内で中学受験関連の話題が普通に出てくるということだ。

「〇〇ちゃんはA塾に決めたんだって」
「B塾は定員が一杯でもう入れないらしいよ」
「私はC塾に行こうと思うから、一緒に行こうよ!」

 このように、塾に関する会話が子ども同士でなされることは、特段珍しいことではない。

 ある日、由美子さん(仮名)は、当時小3の娘・美沙ちゃんから、こう言われたそうだ。

「真子(仮名)ちゃんがD塾に行くことにしたんだって。『一緒に行こうよ!』って誘ってくれるから、私も行きたい!」

 D塾といえば、誰もが知る中学受験専門塾。普通に考えると、真子ちゃんは中学受験をして私立中高一貫校に進学するということになる。

 由美子さん夫婦は首都圏出身ながらも、夫婦ともに公立中高育ち。大学こそ私立であったが、そもそも経験がないので、中学受験を選択することがいいのか悪いのかすらも、考えたことがなかったそうだ。

 美紗ちゃんの小学校では例年、学年の約3分の1ほどの児童が中学受験をするという。由美子さんにはそれが多いのか少ないのかもわからなかったもののが、ママ友の話では、公立中学では、高校受験のための内申点を取るのが大変で、しかも、肝心のその中学校の評判が芳しくない。

 由美子さんは、ぼんやりと、「私立中学のほうがイジメもなくていいのかな?」くらいに思っていたという。

 その後も美沙ちゃんは、「ね~? いいでしょう? 真子ちゃんがせっかく誘ってくれたんだよ! ちゃんと勉強するから、お願い!」と、必死にお願いしてきたそうだ。聞けば、由美子さん一家は、美紗ちゃんが小3の初めにこの街へ転居。当初、クラスに馴染めなかった美紗ちゃんに優しくしてくれたのが、真子ちゃんだったという。

「真子ちゃんは、唯一ともいえる美紗の仲良し。『真子ちゃんを失いたくない』っていう美紗の気持ちもわかったのでD塾に通うことを許可したんですよね……」

 小4のうちは塾の授業も週2日、月謝も3万5,000円ほどだったので、「時間的にも金銭的にも、そこまで負担は感じなかった」という由美子さん。
 
「やがて5年生になり、塾の言うままオプション講座を取るようになると、その年だけで100万円近くかかってしまいました。でも、美紗の偏差値は45より上にはいきません。誘ってくれた真子ちゃんは、あれよあれよという間に最上位クラスなのに。もう、私は悔しくて、情けなくて、6年になると、美紗の成績を上げたい一心で、D塾の補習をしてくれる個別塾まで行かせました」

 真子ちゃんとは小学校も塾もクラスが離れてしまったせいか、自然と疎遠になってしまったという。

 由美子さんは何度も「受験をやめよう」と思ったそうだが、一度、参入してしまうと、撤退するのが難しいのが中学受験である。費やすお金も時間も膨大だけに、今さら、へたにはやめられないものなのだ。
 
 小学校→塾→補習塾という生活で、疲れ切っていることがわかっていても、「頑張れば、成績は上がる!」と、由美子さんは美紗ちゃんを鼓舞し続けたという。

 結局、美紗ちゃんが昨年挑戦した中学受験は4戦3勝。費用の面でいえば、小6の1年間だけで200万円を突破。3年間の総額で400万円は超えたという。

「幸い美紗は、進学した私立中学を気に入っています。私も、このコロナ禍で大変手厚い指導がなされていることに感謝はしているんです。でも、正直、入学から1年が過ぎようとしている今も、私の中の『残念』という悔しさは消えなくて……。『あんなにお金をかけて、偏差値48のここなら、公立でよかった』って、どうしても思っちゃうんです。美紗には絶対、言えないですけどね……」

 由美子さんは多分、「中学受験の底なし沼」に入り込んだ状態だったのではないかと、筆者は想像する。この状態に陥ると、目先の偏差値を上げることが目的になりやすいので、「何のために中学受験をするのか」という視点が消え失せてしまう。ここが、中学受験の怖い部分でもあるのだ。

 本来「中学受験」は、我が子に与えたい教育環境、我が子が伸びる学校などという視点を持って、我が家の“教育方針”をじっくりと考えた上でなされるもの。

 現在は「中学受験ブーム」であり、それはコロナ禍であっても続いているが、「みんながやっているからウチも……」というような理由で、周りの空気に流されて参入してしまうと、中学受験をする意味がわからなくなることが多い。

 中学受験を考えているご家庭には、そのメリット・デメリットを十分に吟味してから参入することをお勧めしたい。

中学受験、第1志望の大学付属に「不合格」特待合格狙いも「失敗」……それでも「やって良かった」と母が語るワケ

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 コロナ禍の中で実施された今年度の中学受験だが、幸い大きな混乱もなく、ほぼ全日程を終了しつつある。つまり今は受験終了直後であり、各家庭では結果をめぐって、悲喜こもごもであろう。

 第1志望校に合格すれば「我が世の春」状態であるものの、昨今の中学入試は第1志望校に合格する子は5人に1人といわれるほどに厳しい世界。つまり「合格切符」を手にしていても、なお「第2志望校以下に合格」という結果に満足できず、人知れず泣いている家庭もたくさんあるのだ。

 関西地方に住む愛華ちゃん(仮名)の中学受験の結果は、3戦2勝1敗であった。

 初日の受験校A中学は「特待合格は間違いないですから、ここで特待を取って、自信を持って第1志望校を受験しましょう!」との塾の強い勧めで受験した、いわゆる滑り止め校。

 ところが、結果は「単なる合格」だったため、愛華ちゃんにとっても母である成美さん(仮名)にとっても、素直には喜べない合格であったという。

 「まさかの“特待なし合格”なんですよ。ええ、普通の“合格”ってことです。信じられませんでした。“入学金授業料全額免除”が確実だったはずなのに、普通の合格ってあり得ます? 実は塾には『A中学は、校風が愛華には合わないから、本当に受けていいのか?』と何度も聞いていたのですが、押し切られる形になって……。でも結局、私たちがそれを受諾したのがいけないんです。だから、これは『親の選択ミス』なんだと思ったら、頭が真っ白になってしまって、不安しかありませんでした」と成美さん。

 愛華ちゃんは何とか気を取り直し、翌日は第1望校である大学附属B中学に向かった。模試でも合格確率8割を切ったことがないという、ある意味“太鼓判”を押された本命校B中学は、親子ともにお気に入りの学校。しかし、どういう運命の悪戯か、結果はまさかの不合格だった。

「この3年間、愛華は本当に真面目に頑張ってきたんです。それなのに……。B中学に入りたくて、頑張ってきた愛華の願いをどうして神様は叶えてくれないの? って思っただけで、涙が止まらなくなって。愛華のほうが数万倍つらいでしょうに、私は本当にダメな母親です……」

 しかし、その翌朝、成美さんは愛華ちゃんの「変化」を感じたという。

「3日目は第2志望校C中学の受験日でした。親子で言葉少なく、C中学に向かったのですが、愛華がC中学の校門の前で、こう言ったんです。『ママ、私の受験はまだ終わってない。昨日は昨日、今日は今日。今日成すべきことをするだけ! 最後の勝負、行ってくるね!』って。びっくりしました。愛華がその瞬間、私を追い越して、すごく大人になった気がしたんです。愛華の顔がまぶしくて、輝いているように見えたので、ああ、愛華は『大丈夫』だと思えて、そこでも、また涙があふれました……」

 C中学の結果は合格。しかも「特進コース」という大学進学実績に関しては期待大のコースでの合格となったそうだ。

 受験が終わった愛華ちゃんは最近、成美さんに、ある宣言をしたという。

「ママ、私はC中学で頑張って、大学付属のB中学に行くよりも、いい大学に入るからね!」

 成美さんいわく、これは娘からの思いやりであり、「母のB中落ちショックを緩和しよう作戦」の一環での発言らしい。「愛華は本当にやさしくて、自慢の娘です」と言いながら、成美さんは、今の心境を次のように明かしてくれた。

「正直、B中学に対する未練はあります。B中学は私の憧れの学校だったので。でも、そんなこと、本当に些細な問題だなとも思えるようになってきました。愛華はたった3日間で、ものすごく成長したような気がするから。こんなに強い子なんだ、こんなに芯のある子に育ってくれたんだって……。我が子ながら『すごいな』って思いました。これを目の前で見られて、実感できただけでも、中学受験、やって良かったです!」

 中学受験終了組の母に、当時の話を聞くと、たびたび成美さんと同じことを口にする。

 中学受験は「我が子が成長する瞬間をこの目で目撃することができるもの」なのだ。これは、親にとっては合否を越えた天からのギフトであると思っている。今年も、たくさんの家庭にこのギフトが届けられていることだろう。

 愛華ちゃんは現在、来月には届くであろうC中学の制服を心待ちにしているという。

“中学受験恐怖症”になった娘……1月校含め“5連敗”、母が後悔する「言ってはいけなかった」一言

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 各地で中学受験の本番を迎え、いよいよ来週は東京・神奈川決戦を迎える。今年はコロナ禍の影響により、親子の緊張と不安は、例年以上のものがあるだろう。

 気がかりなことといえば、「体調万全で受験できるか」と「合格できるのか」に尽きるのだが、やはり、ここは親こそが“大人としての余裕”を見せたいところである。

 最近、敦子さん(仮名)という女性から「我が家の経験を、受験生親子の方に役立ててほしい」という連絡が入り、話を聞いた。

 それは数年前のこと。受験本番中に、敦子さんの娘・菜々美ちゃん(仮名・当時小学6年生)が、「もう受験したくない」と言って、部屋に閉じこもってしまったのだそうだ。

 菜々美ちゃんは、お試しとして1月受験をしたものの、まさかの不合格。そのショックから立ち直れずに、2月1日を迎え、当日発表の同日午前校Aに不合格。押さえとしていた午後校Bにも不合格。スタート日に、早くも3連敗となってしまったそうだ。

 焦った敦子さんは、2日の第1志望校Cを断念し、ダブル出願しておいたという合格が望める他校Dへの受験に切り替えようと、菜々美ちゃんを説得したという。

 菜々美ちゃんも、これ以上の連敗は止めたいということで、2日はDを受験。しかし、当日発表でDも不合格だったことが判明した。

 敦子さんは、なんとか菜々美ちゃんをなだめ、3日に、今度はDより合格できる確率が高いと踏んだEを受験するように話をして、挑戦。しかし、ここもまたあり得ないことに、不合格になってしまったという。

 3日の夜、菜々美ちゃんは号泣しながら、叫んだという。

「もう受かり方がわからない!」

 そして、菜々美ちゃんは「もう受験はしない」と自室のドアにバリケードを築き、閉じこもってしまったそうだ。

 筆者が「C以外は、入学してもいいと思える“志望校”だったのか?」と質問すると、敦子さんはこう答えた。

「1日に受けたAとBは偏差値的にも適正校ではあり、一応、志望校といえる学校でした。でも、AもBも落としてしまった以上、チャレンジともいえるCを選択する余裕はなく、Dにしたんです。DもEも、正直偏差値で選んだので、過去問対策もしていませんでした」

 受験は恐ろしいことに、気流というものがあって、ちょうど上昇気流に乗れると、ミラクル合格をしてしまうほどの大番狂わせが発生するものなのだが、逆も真なりで、「落ち癖」がついてしまう場合もある。

 菜々美ちゃんは1月受験の不合格から立ち直れないまま、2月受験に突入して連敗、そして「受験恐怖症」に陥ってしまった例だと思われる。

 「私がいけなかったんです……。合格が当然だとされた1月校に不合格になってしまい、私がパニックになってしまって。それで、菜々美に『大丈夫なの?』って何回も確認しちゃったんです……」と敦子さん。

 「大丈夫なの?」という言葉の中には、「安全圏と思われた1月校を落としているのに、本番は大丈夫なの?」という意味だけではなく、「過去問の合格最低点を越えてないけど大丈夫なの?」、さらには「風邪を引いてない? 大丈夫?」というようないろいろな意味が含まれていたそうだ。

「菜々美はしっかり者で、私はいつも頼ってしまうところがありました。でも、あの子はいつも笑って『大丈夫だよ』って答えてくれていたんですが、考えてみれば、菜々美のほうが不安ですよね……。それなのに、母である私がうろたえて、あの子にストレートに自分の不安をぶつけていたんです。あの連敗は私のせいです……」

 結局、菜々美ちゃんの受験は3日で終了し、1月校も合わせると5連敗という結果で終了した。

 ところが、ほどなくして1日午前校のAから、繰り上げ合格の知らせが届いたそうだ。

「もう本当に、これで救われましたね。もし全て不合格だったら、菜々美はもちろん、私も立ち直れなかったと思います。私が現役のお母様たちに申し上げたいのは、併願校対策は『まさかのまさか』までを考慮しながら、組み立てておき、慌てて動いてはいけないということ。そして、どの口が言うのかといわれそうですが、お子さんにお母さんの不安をぶつけないってことです」

 中学受験は親子の受験なので、「まさか」が起こると親のほうがパニックになり、戦略を見失いがちだ。

 状況が厳しければ厳しいほど、親には冷静さが求められるのだが、言うは易しで、これもシミュレーションを繰り返しておかないと、「イザ」という時に泥沼にはまりかねないのである。

 しかし、一番大切なことは、敦子さんがアドバイスするように「親の不安」を子どもには極力見せないことであろう。

 子どもに、気分よく受験してもらい、上昇気流に乗せる。そのために、子どもの身になって、「自分が受験生だったら、どうしてほしいか?」ということを常に意識しながら、これからの本番に臨んでいただきたい。中学受験親子が、笑顔の春を迎えることを祈っている。

「最悪な学校です」中学受験直前、憧れの志望校がネットで酷評! 「本当に苦しかった」掲示板に踊らされた母語る

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 首都圏では1月10日の埼玉県の私立中学入試を皮切りに、いよいよ中学受験本番を迎える。

 今年はコロナ禍の影響も相まって、保護者の心労はピークに達しているが、この時期、特に問題となるのが「フェイクニュース」である。

 もちろん、この場合のフェイクニュースは、政治的な世論操作を目的とした類のものではなく、SNSやママ友発信も含む“中学受験での不確実な情報”という意味だ。

 例えば、受験関連の匿名掲示板や生徒たちが書き込む学校掲示板では、特定の学校に対する「ディスリスペクト(disrespect)=無礼を働く」……いわゆる“ディスり”というものが散見される。また、同じ受験ママ同士での会話の中でも、真実とは言えない情報が駆けめぐることも稀ではない。

 これらの情報は、言うならば「伝言ゲーム」の様相を呈していくので、尾ひれがつき、真実からはドンドンと遠ざかるのだ。

 さらに付け加えるならば、学校がネットで誹謗中傷をされることは、特に珍しいことでもなんでもない。よくあるのが、「先生が大量に辞めている」「残っているのはクズ教師ばかり」「指導力のない先生が多い」といった先生関連のもの、また「いじめがひどい」「学級崩壊した」「子どもが不登校になった」「生徒の家族が学校側に裁判を起こすらしい」といった生徒関連もので、しばしば炎上にも発展する。

 これは極論、「誹謗中傷されない学校はない」ということなのだが、実際にその学校を本命校としているご家庭にとっては、見過ごせない問題であろう。

 聖子さん(仮名)も心ないネット情報に踊らされた一人である。

 聖子さん親子の意中の学校はC学園であった。親子で小学3年生の時から、何度もC学園に足を運び、その雰囲気に魅せられ、「ここしかない!」と憧れを抱いていたそうだ。

 我が子が6年生の秋になるまで、「学校掲示板」なるものがあることを知らなかったほど、「ネット事情には疎かった」と語る聖子さん。

「うちの塾はオープンなせいか、6年後期になると、クラス編成も『A学園&B学院&D女子志望者で1クラス』といったくくりで分けられるので、友達同士、どこを志望しているのかも薄っすらわかるシステムではあったんです。それで、ある日、ママ友にこう言われちゃったんですよね。『もしかしてC学園志望なの?』って。それで『すごい評判悪いけど、大丈夫?』と心配されてしまい……」

 ママ友はその根拠として、あるネット掲示板を教えてくれ、聖子さんは帰宅後、食い入るようにそのページを見たという。

「ショックというか……。信じられないっていうか……。生徒さんと思しき人たちの『入らないほうがいいです』『入学して後悔しています』『最悪な学校です』という書き込みのオンパレードだったので、立ち上がれないほどの衝撃を受けました」

 時は小6、12月になろうかとしている時期に差し掛かっていたため、聖子さんはうろたえた。

「いまさら本命校を変えるといっても、ほかの学校のことは詳しくわからないですし、一番大きな問題は、C学園に特化して、過去問などもやり込んできたので、他校を受けるというには準備期間が足らなすぎる! ってことでした。思わず真っ青になりましたね」

 おまけに聖子さんには、「朝から晩まで、あらゆる受験関連のネット掲示板でC学園の情報を検索しまくる」という症状が出てしまったそうだ。

「あれはどういう精神状態だったんですかね。自分でも『見てもいいことは一つもない!』ってわかっているんですが、見ないと落ち着かないっていうのか……。でも、いいことなんて書いてないので、余計に不安になるだけで、本当に苦しかったです」

 年末、塾では最後の保護者面談が行われたという。そこで聖子さんは思い切って、塾長にC学園の評判の悪さについて相談したのだそうだ。

 塾長はその場で、C学園の誹謗中傷原因として考えられることを教えてくれ、さらに、さまざまな学校のネット情報を実際に見せてくれたそうだ

「塾長が『誹謗中傷されない学校はない』『C学園はいい学校』『親子の直感が一番正しい』と言ってくださったので、腹をくくれました」

 そして、聖子さんの子どもはC学園に無事に入学。私の「実際のC学園はどうですか?」との質問に聖子さんは笑顔でこう答えてくれた。

「もう最高です! うちの子には本当に合っているいい学校です!」

 聖子さんは今現在、C学園の保護者向けサークルであるコーラス部に入っているそうで、新型コロナ前の年には発表会もあったという。

「お母さん同士で、もしかしたら子どもよりも母の方がC学園を楽しんでいるかもね? って言い合っているんですよ(笑)」

 もし、今、意中の学校がありながらも、ネットの不確かな情報に振り回されている人がいるならば、その時間がもったいないので、私は「その真偽を確かめろ!」とアドバイスする。

 聖子さんのように塾の先生に相談するのもいいし、直接、その学校に行き、学校の先生や在校生に聞いてみることをお勧めしたい。

 私の長年の取材経験から言わせてもらえば「真実はネットよりも現場にある」のだ。

「中学受験をしなければ」富裕層の通う私立卒業も……「大学奨学金400万円」の借金を背負う女性の告白

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 読者の皆様もすでにお気づきだろうが、この国の教育費は高い。

 平成30年度の文科省の調査によると、教育費(授業料、入学金、修学旅行代、制服等の学校教育費+学習塾、学習参考書代などの学校外教育費+学習塾以外の習い事、留学費用などの学校外活動費)は幼稚園(3年保育)から高校まで、オール公立に行かせるとすると、合計で約543万円。中学から私立中高一貫校に行かせる場合は約972万円かかる計算になる。

 さらに、その先の大学まで見てみると、国公立大学(4年間・文系理系同額)自宅通学の場合で約500万円、国公立大学で自宅外通学の場合だと約950万円。

 私立大学に自宅通学する場合で文系・約720万円、理系・約820万円。私立大学に自宅外から通う場合は文系・約1200万円、理系・約1270万円という試算が出ている(医薬系は含まず)。

 このように日本の教育費は高額ではあるのだが、今年度からは高等教育無償化により、一定の収入以下の家庭では、大学・短大・専門学校の入学金や授業料が免除または減額される制度も始まっている。もちろん、以前より返済不要の給付型奨学金制度もある。しかし、一方で貸与型の奨学金制度を使っている大学生もまた、かなりの割合で存在しているのだ。

 千尋さん(24歳、仮名)も貸与型奨学金制度を利用した学生の一人である。彼女は中学受験を経て、私立中高一貫校に進み、大学は現役でMARCHの一つに進学。4年でその大学を卒業した優秀な女性である。

「私の母は異常にプライドが高いんです。例えば、車は外車がいいとか、子どもはブランド校に在学させるとか。ただ、ウチの父は平凡な平社員で、母も専業主婦ですから、お金持ちとはとても言えません。でも、母は私にバイオリンやバレエを習わせて、小学校受験も体験させました。私は習い事より友達と鬼ごっこをして遊んでいたかったのですが、幼稚園時代はほぼ毎日が習い事だったんです」

 千尋さんはため息をつきながら話を続けた。

「でも、私は小学校受験に失敗して……。いまだに、その時の私を睨みつけるような母の眼は忘れられません。母はリベンジに燃えて、今度は小学1年生から中学受験塾に行かされました。母の言い分ですと、今度こそC学園に入らないといけないっていうことで……子どもだった私は母には逆らえず、渋々、勉強していた感じです」

 ところが、そこで子育てに無関心な父の浮気が発覚。もともと冷めていたという夫婦仲はより一層険悪となり、千尋さんは理由がわからぬまま、受験塾をいきなり、辞めさせられたのだそうだ。

「5年生の冬だったと思います。母が九州の実家に帰るのなんのという大騒ぎになり、いきなり、『今日から、もう塾には通わなくていい!』って言われて……でも、塾が嫌いだったので、これ幸いと辞めました」

 結局、母親は実家には帰らず、両親は家庭内別居となったそうだ。しかし、どういうわけか6年生の夏休みになると、再び、母からの「受験命令」が下ったという。

「わけがわかりません。『やっぱり、あなたはC学園に行くのよ!』といきなり言い始めたんです。多分、母はC学園に通っている我が子がほしかったんだと思います。私は私で、学校の友達はみんな受験組だったので疎外感が半端なくて。もし今からでも、人気のあるC学園に行けるのであればうれしいな……くらいの感覚で、塾に復帰しました」

 千尋さんは、小学校受験のリベンジを果たし見事、合格。そして、C学園での楽しい生活が始まったという。

 雲行きが再び怪しくなったのは千尋さんが中学2年生になったあたりだったそうだ。

 父親がリストラとなり、勤めていた会社を早期退職。再就職がうまくいかず、収入が激減してしまったという。C学園は学費が高いことで有名な学校だけに、「学費が工面できなくなった」と父から伝えられ、公立に転校するように促されたそうだ。

「その時は本当に泣きましたね。親の都合で私立に行けと言われたり、行くなと言われたりで、『勝手すぎる!』って思いました」

 結局、C学園の学費は母方の祖母が工面してくれ、なんとかそのまま通学することができたという。

「ご承知のようにC学園は富裕層が行く学校で、入学時もウチは相当、背伸びをして学費を払っていました。ただ、当時の私は子どもだったので、その辺の事情まではわからなかったんです。父の収入は激減したままなので、生活するだけでやっと。それで、年金暮らしの祖母に大学の費用までをも負担してもらうことはできず、私は貸与型奨学金で大学に通いました」

 その額、400万円。就職で一人暮らしを始めた千尋さんにとっては、とても大きな借金だという。加えて、このコロナ禍の影響により収入は減るばかりで、貯金をする余裕はまったくないそうだ。

「もちろん、C学園は楽しかったですし、卒業させてもらったことは感謝もしています。ただ、父のリストラは致し方ないにしても、もしかして、あの高額の習い事や、中学受験塾やC学園の入学金などを使わずに、親が大学進学のためにプールしておいてくれていたら、こんな借金を背負う必要もなかったのかなぁ? って。親に対しては疑問に思うこともあります」

 千尋さんは、「私が小学校受験や中学受験をしようかと迷っている親御さんに伝えることがあるとしたら……」として、こんなアドバイスをしてくれた。

「『お金がないなら無理はしない』ってことでしょうか。私立小学校も、私立中高一貫校も、どうしても行かなければならないものではありません。正直、お金の余裕がない家庭は、最初から寄り付かないほうが子どものためだと思います。教育方針は経済的に『身の丈に合った』ものにすべきだと、今になって痛感しています」

 冒頭で説明したが、家計における教育費の占める割合はかなり大きい。子ども一人を育て上げるのに、どのくらいの教育費が必要で、自分の家計の場合、どこまで出せるのかをシミュレーションしておくことはかなり重要なことだ。

 もし、我が子の大学進学を念頭に置くのであれば、その費用から逆算して貯蓄なりを進める。それが問題なく負担できそうだという確信のもと、余力があったら私立中高一貫校、さらには、その準備として中学受験塾という選択をする。子どものために、リスクの少ない教育計画を練るのも、親の役目といえるだろう。

「中学受験をしなければ」富裕層の通う私立卒業も……「大学奨学金400万円」の借金を背負う女性の告白

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 読者の皆様もすでにお気づきだろうが、この国の教育費は高い。

 平成30年度の文科省の調査によると、教育費(授業料、入学金、修学旅行代、制服等の学校教育費+学習塾、学習参考書代などの学校外教育費+学習塾以外の習い事、留学費用などの学校外活動費)は幼稚園(3年保育)から高校まで、オール公立に行かせるとすると、合計で約543万円。中学から私立中高一貫校に行かせる場合は約972万円かかる計算になる。

 さらに、その先の大学まで見てみると、国公立大学(4年間・文系理系同額)自宅通学の場合で約500万円、国公立大学で自宅外通学の場合だと約950万円。

 私立大学に自宅通学する場合で文系・約720万円、理系・約820万円。私立大学に自宅外から通う場合は文系・約1200万円、理系・約1270万円という試算が出ている(医薬系は含まず)。

 このように日本の教育費は高額ではあるのだが、今年度からは高等教育無償化により、一定の収入以下の家庭では、大学・短大・専門学校の入学金や授業料が免除または減額される制度も始まっている。もちろん、以前より返済不要の給付型奨学金制度もある。しかし、一方で貸与型の奨学金制度を使っている大学生もまた、かなりの割合で存在しているのだ。

 千尋さん(24歳、仮名)も貸与型奨学金制度を利用した学生の一人である。彼女は中学受験を経て、私立中高一貫校に進み、大学は現役でMARCHの一つに進学。4年でその大学を卒業した優秀な女性である。

「私の母は異常にプライドが高いんです。例えば、車は外車がいいとか、子どもはブランド校に在学させるとか。ただ、ウチの父は平凡な平社員で、母も専業主婦ですから、お金持ちとはとても言えません。でも、母は私にバイオリンやバレエを習わせて、小学校受験も体験させました。私は習い事より友達と鬼ごっこをして遊んでいたかったのですが、幼稚園時代はほぼ毎日が習い事だったんです」

 千尋さんはため息をつきながら話を続けた。

「でも、私は小学校受験に失敗して……。いまだに、その時の私を睨みつけるような母の眼は忘れられません。母はリベンジに燃えて、今度は小学1年生から中学受験塾に行かされました。母の言い分ですと、今度こそC学園に入らないといけないっていうことで……子どもだった私は母には逆らえず、渋々、勉強していた感じです」

 ところが、そこで子育てに無関心な父の浮気が発覚。もともと冷めていたという夫婦仲はより一層険悪となり、千尋さんは理由がわからぬまま、受験塾をいきなり、辞めさせられたのだそうだ。

「5年生の冬だったと思います。母が九州の実家に帰るのなんのという大騒ぎになり、いきなり、『今日から、もう塾には通わなくていい!』って言われて……でも、塾が嫌いだったので、これ幸いと辞めました」

 結局、母親は実家には帰らず、両親は家庭内別居となったそうだ。しかし、どういうわけか6年生の夏休みになると、再び、母からの「受験命令」が下ったという。

「わけがわかりません。『やっぱり、あなたはC学園に行くのよ!』といきなり言い始めたんです。多分、母はC学園に通っている我が子がほしかったんだと思います。私は私で、学校の友達はみんな受験組だったので疎外感が半端なくて。もし今からでも、人気のあるC学園に行けるのであればうれしいな……くらいの感覚で、塾に復帰しました」

 千尋さんは、小学校受験のリベンジを果たし見事、合格。そして、C学園での楽しい生活が始まったという。

 雲行きが再び怪しくなったのは千尋さんが中学2年生になったあたりだったそうだ。

 父親がリストラとなり、勤めていた会社を早期退職。再就職がうまくいかず、収入が激減してしまったという。C学園は学費が高いことで有名な学校だけに、「学費が工面できなくなった」と父から伝えられ、公立に転校するように促されたそうだ。

「その時は本当に泣きましたね。親の都合で私立に行けと言われたり、行くなと言われたりで、『勝手すぎる!』って思いました」

 結局、C学園の学費は母方の祖母が工面してくれ、なんとかそのまま通学することができたという。

「ご承知のようにC学園は富裕層が行く学校で、入学時もウチは相当、背伸びをして学費を払っていました。ただ、当時の私は子どもだったので、その辺の事情まではわからなかったんです。父の収入は激減したままなので、生活するだけでやっと。それで、年金暮らしの祖母に大学の費用までをも負担してもらうことはできず、私は貸与型奨学金で大学に通いました」

 その額、400万円。就職で一人暮らしを始めた千尋さんにとっては、とても大きな借金だという。加えて、このコロナ禍の影響により収入は減るばかりで、貯金をする余裕はまったくないそうだ。

「もちろん、C学園は楽しかったですし、卒業させてもらったことは感謝もしています。ただ、父のリストラは致し方ないにしても、もしかして、あの高額の習い事や、中学受験塾やC学園の入学金などを使わずに、親が大学進学のためにプールしておいてくれていたら、こんな借金を背負う必要もなかったのかなぁ? って。親に対しては疑問に思うこともあります」

 千尋さんは、「私が小学校受験や中学受験をしようかと迷っている親御さんに伝えることがあるとしたら……」として、こんなアドバイスをしてくれた。

「『お金がないなら無理はしない』ってことでしょうか。私立小学校も、私立中高一貫校も、どうしても行かなければならないものではありません。正直、お金の余裕がない家庭は、最初から寄り付かないほうが子どものためだと思います。教育方針は経済的に『身の丈に合った』ものにすべきだと、今になって痛感しています」

 冒頭で説明したが、家計における教育費の占める割合はかなり大きい。子ども一人を育て上げるのに、どのくらいの教育費が必要で、自分の家計の場合、どこまで出せるのかをシミュレーションしておくことはかなり重要なことだ。

 もし、我が子の大学進学を念頭に置くのであれば、その費用から逆算して貯蓄なりを進める。それが問題なく負担できそうだという確信のもと、余力があったら私立中高一貫校、さらには、その準備として中学受験塾という選択をする。子どものために、リスクの少ない教育計画を練るのも、親の役目といえるだろう。

中学受験本番の2月1日、2校連続で“不合格”! 「楽勝」とヘラヘラしていた息子の涙……母は“合否”を超えて!!

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 年末となり、小学6年生にとっては受験本番直前という時期に突入した。

 この時期は最後の模試が終了することもあり、親の焦りは頂点に達する。「もう残すは本当に本番の試験だけなのだ」ということを実感するせいだ。ところが、親の焦りに反し、子どもの側はいまひとつピンと来ていない場合がある。

 親が「もう時間がないのに、この期に及んでも志望校に対する必死さが見えない!」「このままでは受からない!」と焦るのは、これまでの人生経験により、入試までの時間を逆算することができるがゆえである。ところが、ほとんどの子どもにとって、入学試験というもの自体が初めての体験。いくら模試慣れをしているとはいえ、合否が出る本番の経験がないので、“一発勝負”であることが想像しづらいのだ。

 恵理子さん(仮名)も、そんな焦る母親の一人であった。一人息子の壮樹君(仮名)は、恵理子さんから見ると、お調子者のマイペースという性格だという。

「私のほうがどちらかといえば、戦闘本能に満ちあふれているタイプなものですから、壮樹を見ているとイライラしちゃうんですよ。いつも『努力をせずとも、どうにかなる』と世の中、舐めてかかっているように思えてしまって……。それで、最終模試の結果を見て『このままだと第1志望のC中学どころか、第2志望のF中学にも受からない! 本当に入る気があるの?』って怒ってしまったんです。でも、壮樹の返事は『そうカリカリするなって! 受かるし!』なんですよ。『だったら、やれよ!』って話になっちゃって、私は本気度が見られない壮樹に『このままじゃダメだ……』って、焦りまくっていました」

 恵理子さんは、そんなふうに、昨年の12月のことを振り返る。

「それからアッと言う間に年が明けて、1月校受験になりました。これは『お試し受験』で、2月からの本番の空気に慣れるためだけの、いわば練習だったわけですが、壮樹の塾では、ほぼ全員がその学校を受けたために、受験会場は知り合いだらけ。緊張感の欠片もなかったんです……」

 壮樹君は1月校に見事合格。上々の滑り出しであった。

「これが本当にまずかったと思います。壮樹は『楽勝!』と言ってヘラヘラしていて、何もせずともC中学には余裕で合格すると豪語していました」

 そして、2月1日午前、C中学受験は即日発表で不合格。さらに同日午後、F中学受験も即日発表で不合格という結果が出たそうだ。

「私はショックはショックだったんですが、ある意味、当然だなって……って思いました。だって、全員が長い間、必死に頑張って、今までの頑張りを解答用紙にぶつけるわけじゃないですか? 絶対、思いが強い子のほうに勝利の女神は微笑むんですよ。壮樹からはどう見ても、必死さが伝わってこなかったんです」

 2月1日の夜、壮樹君は2校同時に不合格という事実を突きつけられ、しばらくパソコンの前から動けなくなってしまったそうだ。恵理子さんは呆然としている壮樹君に、お風呂へ入るように促したという。

「お風呂から、壮樹の号泣している声が聞こえてきて、そっか、壮樹だって悔しくないわけないよね……と思いました。ポーカーフェイスですが、壮樹は壮樹なりに頑張っていたことは確かでしたから、泣き声を聞いているのは、正直、つらかったです」

 その後、1時間くらいたった後だったそうだが、壮樹君は恵理子さんにこんな宣言をしたという。

「母さん、ごめんな。俺、本番、舐めてたわ。こんなに毎日ずっと応援してくれてたのに、ごめん。でも俺、絶対に最後まで頑張るから!」

 「目の色が変わったなって思いました。スイッチが入ったっていうか……」と恵理子さんは振り返った。

 しかし壮樹君は、その後も連敗が続き、抑え校のみの合格を得て、2月4日、いよいよ大本命C中学最後の入試が開催される日を迎えたそうだ。

「その日は、塾長が校門前に応援に来てくれていて、壮樹と話をしていました。後で、塾長に壮樹が何を言ったのかを聞いたら、『先生、僕は今までどっかで受験から逃げてたんだと思うけど、今は違います。今日は絶対に逃げませんから、見ててください』と言ったんだそうです」

 塾長は恵理子さんに、「お母さん、壮樹は受かります。彼はこの数日で本当に成長した。いいものを見させてもらいました」と激励してくれたという。

「私は、もうその瞬間で、合否なんかどうでもよくなってしまって。受かっても、受からなくても、この受験は壮樹を大きくしてくれた。それで充分だと思いました。りんこさん、私あの時、校舎に吸い込まれていく壮樹の背中が、本当に大きく見えたんですよ!」

 実のところ、男子の中には、受験本番が始まり、しかも不合格となって初めて「これって、模試じゃなくて本番なんだ?」と実感する子が多い。たいていの場合、この“実感”が本気に火を点けるのだ。

 中学受験するしないにかかわらず、子どもたちの成長はめまぐるしいものだが、こと受験においては、その渦中の短期間であっても、子どもがものすごい勢いで大人への階段を駆け上がる姿を目にすることが多い。

 壮樹君は初回入試よりも、かなり難易度が上がっているC中学の第2回入試で見事に合格。今現在、C中学の剣道部で汗を流している日々だという。

中学受験生の娘を援護射撃したい! 第1志望校の「全ての説明会と学校行事」に通った母の努力は報われたのか?

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 現在、各中高一貫校では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に十分に配慮した形で、生の学校説明会を実施している。ある学校の11月下旬の学校説明会では800人限定という人数制限ではあったが、アッという間に予約が満杯になったと聞いている。実際にライブで聞く説明会はリモートでは得られないものがあるのだろうなと思っている。

 今年はコロナ禍での受験になるので、例年とは違うことがたくさん出てくることが予想されている。そのため保護者は志望校の最新情報を常にチェックしておく必要があることは言うまでもない。

 当たり前ではあるが、学校説明会は(合同説明会を除くと)、その学校で開催されることが普通だ。先述したように多くの学校は予約制。予約を取った上で、学校が指定したその日時に行く必要があるのだが、保護者の中には、これを面倒がる人がいる。

 しかし、筆者に言わせれば、学校開催の説明会に行かないというのは結婚相手を釣書と写真だけで決めてしまうようなもので、大変、危険である。つまり偏差値とウェブ情報だけで志望校を決めるのと同じことに思えてしまうからだ。やはり、どんな学校なのかを実際に確かめていくことを強くお勧めしておきたい。これには有形無形のメリットがあるのだが、今回は実際に起こった“よくある”有形のメリットについてお話しよう。

 洋子さん(仮名)と藍ちゃん(仮名)母娘はV女学園をとても気に入り、小5の段階で、早くも第1志望校にしていたという。一方で、洋子さん自身は他校も含めて、偏差値の上下は考えず、通学できる範囲内の学校説明会には足繁く通っていたそうだ。

「偏差値とか大学合格実績という先入観を捨てて、娘に合う学校をと、いろいろな学校を見て回ったのですが、『やはりV女しかない!』って気持ちは募る一方でした。ただ、娘の成績は思うようには上がらず、模試の判定は、V女にはいま一歩届かないという数字が続いていたんです。そこで、どうしたら娘を援護射撃できるのかを考えて、とにかく、V女が公開している全ての学校行事に娘を連れて行きましたし、学校説明会には私が全部参加して、そこで配られるアンケートには必ず名前を書いて、熱い思いをつづってきたのです」

 V女学園はいわゆる中堅校に属しているのであるが、上位校の併願に選ばれることの多い歴史と伝統がある人気校。決して簡単に入れるような学校ではない。

 実際、近年では上位校で不合格になっている子たちの受け皿にもなっているので、藍ちゃんのように第1志望の子が不利になることもないとはいえないのだ。

 そうこうしているうちに、いよいよ、藍ちゃんの入試本番が始まった。V女学園の入試のチャンスは3回。ところが、藍ちゃんは健闘虚しく、3回とも不合格になってしまったという。

 「V女に恋焦がれている娘を落として、こともあろうにV女を小バカにしていた花音ちゃん(仮名)が合格して、進学することを決めたって知った時には、本当に悲しかったです。花音ちゃんママが『一度も行ったことがない学校に行く羽目になって……』と言っているのを、偶然耳にしちゃって。『それなら、ウチにその権利を譲ってよ! ウチはV女命でやってきたのに!』って涙が止まらなかったです」 と洋子さんは当時の悔しさを振り返ってくれた。

 しかし、その日から数日が過ぎた頃、洋子さんの携帯が鳴ったという。それは、V女学園からの繰り上げ合格の連絡だった。

 V女学園は昔から、第1志望である子をとても大切にしている。学校の教育方針を理解してくれている家庭の息女に来てもらいたいという願いがあるのだ。

 もちろん、定員ありきの選抜試験。成績上位の子たちから合格を出すシステムに違いはないが、何十人もいる補欠合格者から繰り上げ合格を出すのであれば、学校を愛してくれているご家庭を優先しているという。

「その時、先生が私にこう言ってくださったんです。『何度も何度も本校にお越しくださっていたこと、承知しておりましたよ。感謝しております。この度、本校に藍さんをお迎えすることができ、私共は本当にうれしく思っています。心からおめでとうございます』って。私は、もう号泣してしまって……。いやだ、思い出したら、また涙が……」

 洋子さんと藍ちゃんは、何年もV女学園を熱望していただけに、先生の中にはすでに顔見知りの人も複数いたといい、その入学式は「まるで実家に帰って来たみたい」な感覚だったそうだ。

 藍ちゃんは現在、中学3年生。学校が楽しくて仕方ないそうで、V女学園が大切にしているボランティア活動にも励んでいる日々だという。志望校には必ず足を運んで、どのような学校なのかをその目でちゃんと確かめる。そして学校側にその思いを伝える……それもまた中学受験では重要なことといえると思う。

難関私立中に合格したのに、“中堅大学”に進学……4浪の息子は「中学受験の燃え尽き症候群」だった

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 長年中学受験の取材をしている筆者のところには、頻繁に中学受験関連のお悩み相談が入るが、その送り主は受験前の保護者ばかりではない。上は、現在30歳過ぎの元中学受験生の母親からというのも珍しくはないのが実情だ。

 アラサー年齢の子を持つ母たちの悩みの多くは「子が自立しない」ということである。もちろん、一人ひとり事情や背景が違うので、明確な解決策など、あろうはずもない。

 しかし、母たちと話をしていくうちに、ある共通点のようなものを見つけた。それは「燃え尽き症候群」。
 
 中学受験は小学生が経験するものなのだが、この勉強量ははっきり言って、大人でも音を上げるのではないかといえるほど大量で、しかも難しい。たいていの場合、6年生の1年間は土日もないことが普通だ。

 親の中には「この道で本当にいいの?」と疑いながらも、途中リタイヤという道も選べず、子どもの横にキッチリと張り付いて、こう言い聞かせる人がいる。

「(有名)中学に入れば、遊べるから! つらいのは今だけよ!」

 幸か不幸か、子どもはこれを信じて、頑張り抜き、無事に目標とする難関校に入学するのである。

 親も子も“やれやれ”といった具合だろう。「これで一生、遊んで暮らせる」くらいの感覚になりやすいのだが、そこに落とし穴が隠されていることには、当事者ほど気が付きにくいものなのかもしれない。

 みゆきさん(仮名)は10年前の難関X中学での入学式のことを今も思い出すという。一人息子の海斗君(仮名)は、3年間の塾生活を頑張り抜き、無事に第1志望校のX中学に合格。母子は誇らしく、入学式に臨んだそうだ。

「思い返せば、入学式の日に嫌な予感はあったんです。校長先生が祝辞として、確か『君たちは我がX学園の誇り高き同志です。今日から頑張って勉強し、6年後、必ずや東大をはじめとする難関大学に入り、自分の夢をかなえてください』とおっしゃったからです。海斗は、これで最初の一撃を受けたと思います」

 当たり前のようではあるが、中学受験は選抜試験をパスした者が合格を得る。つまり、その学校で学ぶに困らない学力を持つ者たちが、4月から肩を並べるということだ。授業は、試験を突破できるだけの学力ラインから、上へ上へと知識を積み重ねていくイメージで進行し、生徒たちは6年間を駆け抜けることになる。

「中高一貫校は先取り授業をしているので、高2までの5年間で高校課程を終えてしまいます。入るまで、深くは考えていなかったんですが、それって、一度つまずくと、付いていけないってことなんですよね……」とみゆきさん。

 海斗君は中1の梅雨あたりに体調を崩して、数日間、学校を休んだそうだが、学校に復帰すると、もう授業に付いていけなかったのだという。

 当然、海斗君は補習の常連になり、部活動にも思うようには参加できなくなった。そんな状態で、中2の秋になると、今度は担任の先生から「このままでは高校には上がれない」と肩叩きをされるようになる。

 焦ったみゆきさんは、海斗君に無理やり家庭教師をつけて、どうにか進級基準を満たそうとしたそうだ。

 この頃、海斗君は頻繁に「ママの嘘つき! 中学に入ったら、勉強しなくていいって言ったくせに!」とみゆきさんに怒っていたらしいが、「学校を変える?」と聞くと、「絶対に嫌だ!」と首を横に振るばかりだったという。

「このあたりが難関校の哀しさですよね。あのX学園の生徒だという看板だけが、海斗の拠り所ですから……。どうにか高校に上がったものの、さらにスピードを上げる授業進度に付いていけるわけもなく、海斗は完全にやる気を失っていました」

 X学園は、東大をはじめとする難関大学に合格者を出している全国でもトップクラスの学校なので、みゆきさんいわく「同級生の大多数が、自分のプライドを満たせるような大学に入学」するという。

 高3になった海斗君は、願書を出した大学にどこも合格せず、浪人へ。そして、4浪めだった今年、志望校の偏差値を大幅に下げた、ある中堅大学に合格し、進学する運びとなっていた。しかし、コロナ禍で大学がクローズ状態となった影響もあり、大学が再開され始めた今でも、大学にはまったく行かずに、引きこもっているような状態だという。

 海斗君のケースは、中学受験の合格で燃え尽きてしまって、その後、勉強に身が入らないという典型である。

 みゆきさんは「学校が悪かったのか、親が悪かったのか、子どもが悪かったのか」と悩んでいるが、決して、少なくない悩みだということをお伝えしておきたい。

「子どもが中学受験合格後に燃え尽きないようにすべきこと」に答えがあるとしたら、筆者はこう思う。中学受験は結婚と似ている。ゴールではなくスタート。「結婚さえできたら、人生、万々歳」という考えが幻想であることは、結婚生活を経験した人ならばおわかりかと思うが、中学受験もそれと同じだ。

 もちろん中学受験は過酷なので、親にはどうしても、「偏差値・知名度の高い有名大学に入ってほしい」という気持ちがあるのは仕方がないことかもしれない。しかし、それよりも前に覚えておかなければならないことがある。

「糸は張りつめすぎると、やがて切れてしまう」

 未来は、無理なく楽しい毎日を送った、その先につながっていると思うのだ。