「息子には英語に振り回されほしくない」私立中の英語教育に期待した父子の“理想と現実”

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 現在の私立中高一貫校では、ネイティブスピーカーの教員から日常的に英語指導を受けられることや、海外研修、留学プログラム、さらには海外大学進学への積極的な取り組みなどはもはや「当たり前」になっている。「国際的に活躍できる人材の育成」がグローバル化していく日本には必須という認識のもと、各校が英語を筆頭とする外国語学習に力を入れているからだ。

 その中でも「インターナショナルクラス」というような名称で運営されているコースを持つ学校では週9〜10時間の英語授業が実施されているが、一般的な「中学生になって初めて本格的に英語を勉強する」コースであっても週7~8時間の英語授業が展開されていることは、むしろ普通だ(公立中学は週4時間)。

 会社員である信也さん(仮名)は大卒後、国内企業に入社し主に営業畑を歩いていた。それなりに出世も順調で、会社員生活には概ね満足していた信也さんであるが、ある日、突然、会社が外資の傘下になったことで「英語」に振り回されるようになったという。

「自分は英文科卒でもないですし、ましてや留学経験もない。どうにか“読み書き”には対応できるんですが、聞く・話すはいまだに本当に苦労しています。息子には、こんな思いはさせたくないと思い、当時6年生だった息子の志望校として、英語教育に強いという中高一貫校に照準を合わせました」

 そして、信也さんは息子の翔くん(仮名)を英語教育に熱心なある中高一貫校に入学させた。その学校は、ターム(学期)留学や長期留学にも積極的な学校で、副担任にはネイティブスピーカーが就き、英語の授業以外でもさかんに英語が使われる学校生活という触れ込みに心が動いたという。

「最初は翔も『英話の授業が楽しい』と妻に報告していたみたいですが、すぐについていけなくなったのは誤算でしたね……」と信也さん。

 その学校はグレード別授業を展開しているのだが、一番上のクラスは当然のことながら帰国子女や幼い頃から英語に慣れ親しんでいる子どもたちで構成されており、中学入学までほとんど英語に触れたことがない翔くんはスタンダードクラスに所属。そこでイチから丁寧に指導されていたという。

 ところが、そのスタンダードクラスもフタを開けてみたら英検5級(中学初級程度)取得者が多く、4級取得者(中学中級程度)もチラホラといるようなレベルの高さだったそうだ。

「私立って成績下位層に合わせて授業展開するわけじゃないんですね? どっちか言えば、上位者をさらに伸ばそうとしているというか……。そのせいか、学ぶスピードもすごく速いみたいなんですよ。英語の授業ですぐについて行けなくなり、おまけに英会話の授業でも、クラスメイトの皆はネイティブの先生の言っていることが理解できているのに、自分はまったく解らないことが、増えていったようで、その空間に耐えられなくなったみたいなんですよね。もちろん、息子には奮起をしてほしくていろいろと発破をかけてもいたんですが、言えば言うほど、英語嫌いに拍車がかかったみたいで、本当に弱りました」

 中3までに英検3級レベルを必須としている中高一貫校は多いのだが、翔くんの学校は元々、英語に興味がある子が入学してくる傾向があるので、中学卒業時点で英検2級(高校卒業程度)レベルも珍しくないとは、その学校の先生の弁だ。

 翔くんに併設高校進学条件が付けられたのは中3の春だったという。「秋までに英検3級を取得しなければ高校への進学を認めない」ということだが、翔くんは奮起するどころか、ますます英語から逃げるようになり、それどころか、その頃には、どの教科も低迷しており、学習意欲は皆無という状態。

「もちろん、学校は補習を組んでくれたり、追試をしてくれたりもしていましたし、英語補習塾にも無理やり入れましたが、本人にやる気がない以上、どうしようもないんですよね……」

 結局、翔くんは英検3級を取得することができず、進学条件を満たすことができなかったのであるが、担任の先生のご尽力で、レポート提出などの裏技を駆使しながら、どうにか併設高校進学が認められたという。父親である信也さんは語る。

「学校の温情で高校には入れてもらいましたが、だからと言って成績が上がるわけもなく、高1になった今も英語は最下位に近い成績です。もう英検会場にも行きませんね……。はじめのうちは“親の心、子知らず”だなぁと思っていたんですが、考えてみたら、この学校を受けろって言ったのは私ですし、今、思えば、“親の思いは余計なお世話”だったってことですかね……。結局、勉強は英語であろうと何であろうと、自分で興味を持ってやろうと思わない限りはどうにもならないってことですよね……」

 信也さんは翔くんが自分から「これをやりたい」と言うまでは、何も言わずに見守ることにしたそうだ。

 中学受験は、子どもが幼い分、親の誘導によることが大きい受験になってしまうので、翔くんのような、親の“良かれ”が思い通りにならないというケースも珍しくない。信也さんの反省の弁を聞いているうちに、子育てというものは本当に難しいものだなあと改めて感じるところである。

「たまたま合わないだけ」……中学受験、不登校・引きこもりが「リセット」できる学校選びと“親がすべきこと”

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 2019(令和元)年12月に文科省が出した統計数字によると、小・中学校における不登校児童生徒数は6年連続で増加。13(平成25年)度と18(平成30)年の数字を比べると、小学生は“276人にひとり”から“114人にひとり”へ、中学生は“37人にひとり”から“27人にひとり”と、かなりの変動があったことがわかる。

 真凛さん(仮名)も不登校児のひとりであった。真凛さんいわく、イジメられたわけでも、仲間外れにあったわけでもないということであるが、小学5年生のある朝、突然、学校に行けなくなってしまったのだそうだ。

「体が鉛のように重くて、起き上がることができませんでした。それが次の日も次の日も続いて⋯⋯。どうにか起き上がることに成功して、小学校までたどりついても、今度は教室の中に入ることができなくて、そのまま帰宅することも多くなっていって。気付いたら立派な不登校児になっていたんです」

 当然、真凛さんの母親である千夏さん(仮名)は心配して、さまざまな医者のもとへ足を運んだというが、結論としては「身体的には問題なし」。

「原因がよくわからず、もしかすると私よりも母の方が辛かったかもしれないですね⋯⋯。あの頃は、午後になると体調が良くなるので、外に遊びに出かけたいんですが、同級生に会っても気まずいし⋯⋯。それで、ほとんど引きこもりのような状態になっていました」

 不登校になって1年ほどたったある日、ある中学校のパンフレットがテーブルの上に置かれているのを目にしたそうだ。

「今思うと、母の作戦だったと思います(笑)。それはJ女学院のパンフレットだったんですが、何気なく見ていたら、母が悪戯っぽく笑って、こう言ったんです。『遊びに行っちゃおうか?』って」

 特にすることもなかった真凛さんは、それを承諾。自宅から1時間ほどのJ女学院に足を運んだのは、行事の日ではなく、ありふれた普通の日の放課後だったそうだ。案内役の先生に連れられて、いろんな部活を見学したという。

「テニス部に行った時には、部長さんから『打ってみる?』って言われて、何球か打たせてもらいましたし、ハンドベル部では楽器を持たせてもらったり⋯⋯」

 今まで知らなかった環境に刺激を受けたという真凛さん。

「ネイティブの先生がいらして、生徒たちとすごく楽しそうにゲームをしているのを見て、こんな世界があるんだなあ⋯⋯って、憧れました」

 真凛さんが言うには「自分はHSP気質(ハイリ―・センシティブ・パーソン=とても繊細)」とのこと。相手の顔色を気にしすぎる傾向があるため、直接、自分が怒られているわけでもないのに、誰かが怒られているのを見るだけで、とても辛くなったりするそうだ。

 小学校のクラスではヤンチャな子が幅を利かせていて、真凛さん曰く「ワチャワチャ」していた空間に思えていたという。

「でも、J女は何て言うか、先生も生徒もすごくやさしくて⋯⋯。自由なんだけど、全体的に穏やかで、あったかい空気が流れていたんですよね。ここ、好きだなあ⋯⋯って思いました」

 帰り際に案内役の先生から笑顔で「春にまたお会いしましょうね」って言われて、思わず「ハイ!」って返事をしていたという真凛さん。しかし、その時は6年生の晩夏。受験勉強的には時間がなくて、大変、不利な状況ではあるのだが、そこから真凛さんは、個別塾に通って、J女学院の過去問だけをやり込む作戦を取ったという。

 そして、見事、合格。

「複数回入試のJ女学院で、3回試験を受けて3回目でどうにか合格しました。奇跡です(笑)。もしJ女学院に合格できなかったら、私は中学生になってもずっと引きこもりのまんまだなって思っていたので、本当によかったです」と真凛さん。

 真凛さんの母である千夏さん(仮名)にも話を聞いた。

「不登校になって半年が過ぎたくらいですかね。真凛がふと『私、中学生になれるかな?』って言ったんですよ。ああ、真凛は中学生になったら『リセット』したいんだなって思いました」

 そこで、いろいろな進路のパターンを模索し始めたという。その中で、J女学院に出会った千夏さんは「ここは娘に合う!」と直感。学校に事情を話し、“ひとり学校見学”を了承してもらったのだそうだ。そして、上記のような経緯をたどって、J女学院に入学。皆勤賞まではいかないものの、問題なく進級を重ね、現在、真凛さんは高3。大学進学に向かって頑張っている最中だ。

 最後に母、千夏さんの言葉を紹介しておこう。

「もちろん、真凛が小学校に行けなくなって心配はしていたんですが、その時も私と夫はこう考えていました。『たまたま、今置かれた環境に真凛が合わないだけ。ならば、合う環境を探せばいい。焦らず、探そう』って」

 もしかすると日本の教育は「周りに合わせる」ことを強いすぎている傾向があるのかもしれない。千夏さんの話を聞いて、私はますます、親の役割は「花が咲きやすい場所に子どもを置くこと」なんだなあと実感している。

中学受験「“公立”中高一貫しばり」の落とし穴⋯⋯親にも言えない子どもの本音とは

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 公立の中高一貫教育が人気となっている。それは「学費を抑えつつ質の高い学習環境を与えたい」という家庭が増えているからと言われているが、率直に言って激戦。もちろん学校によって違うが、その倍率は3倍から7~8倍となっているのが実情だ。

 公立中高一貫校の場合、「受験」ではなく「受検」と書き、「適性検査型」と呼ばれる教科横断型の問題が出題される。どちらかと言えば「学力」をみる「試験」というよりも、思考力や表現力に重きを置いた選抜方法をとっている。この適性検査以外に作文や面接、小学校からの報告書、グループワークなどを組み合わせて総合的に合格・不合格を判定しているのだ。

 つまり、以前は私立受験向けの勉強をしている子と公立受検を目指す子では受験(検)の形式が異なるために、ふたつは“別物”という感覚があり、公立受検は学校の授業を真面目に取り組んでさえいれば、塾要らずで突破している子が少なくなかった。

 しかし、近年では大学入試改革の影響で、思考力・表現力を量る問題が私立中高一貫校でも頻出されており、事実、「適性検査型入試」を導入している学校も多数、存在している。そのため、難関私立志願者が公立を併願するケースも多く、私立、公立という壁が徐々になくなってきており、より早くから私立・公立両方に対応できる受験対策をするご家庭が主流になりつつあるのだ。

 陽菜さん(仮名)は現在、大学2年生。中学受験当時、陽菜さんの公立小学校では受験組は少数派で2割くらい。陽菜さんも6年生になるまでは中学受験をする気はなかったという。ところが、6年生の1学期でクラスは学級崩壊に陥り、授業が成立しないような状態になってしまったそうだ。

「私は特に勉強ができる方ではなかったんですが、それでも、こんな状態のクラスは嫌だなと思っていました。学区内の公立中学に行けば、中学受験で外に出る人以外は、このメンバー。そう思ったら、やっぱり私も出たいなって⋯⋯」

 クラスメイトの美優さん(仮名)が、もともと公立中高一貫校専門の塾に通っていることを知っていたので、陽菜さんは親に頼んで、自分もその塾に通わせてもらうようにしたという。

「塾は楽しかったですね。勉強することを邪魔する子はいませんでしたし、人間関係に余計な気を遣うこともなかったので気楽でした」

 やがて、6年生の冬を迎え、陽菜さんはある公立中高一貫校を受検するのだが、結果は惜しくも不合格。陽菜さんの中学受検はそこで終わった。

「親に、その公立中高一貫校しか受けさせてもらえなかったので、不合格となった瞬間で地元公立中学進学が決まりました。ガッカリしたんですが、美優も不合格だったと聞いて、ちょっと安心したんです」

 ところが、ほどなくして、陽菜さんは美優さんから「併願していた私立M女子学園に進学する」旨を伝えられる。

「不合格よりも、そのことの方がショックでしたね。中学受験組で地元公立中に進学する人間は私だけになってしまったので、行きにくいということもありますし、美優のことが羨ましくて仕方なかったです」

 陽菜さんが進学した公立中学では幸い、小学校のような学級崩壊にはならず、何やかんや言いながらも、それなりに楽しい学校生活であったという。真面目な陽菜さんは部活も頑張り、中堅の公立高校へと進学したが、本人いわく「内申で振り分けられただけ」だそうだ。

「美優のことを羨ましがるたびに、親から『M女子なんて偏差値が低い学校にお金をかけて通う必要はない!』と言われて、そんなもんか⋯⋯と思ってはいたんですが、こないだ美優が上智大学に学校推薦で入ったって聞いて⋯⋯。また、モヤモヤしちゃったんです。M女子は確かに偏差値的には振るわないかもしれないですけど、ミッション校のせいか、それこそ、ウチの高校からは行けないような大学からも推薦がたくさん来る学校なんだそうです。正直、それを知っていればなぁ⋯⋯って思いました」

 陽菜さんが進学した大学は、陽菜さんにとっては「滑り止め以下」の大学だそうで、本人的には納得がいかないそうだ。

「親からは浪人なんて絶対に許さないって言われていたので、合格した大学に入っただけって感じです。おまけにコロナなので、いまだに全くと言っていいくらいキャンパスライフなんて体験していません。それで、余計に『なんで、こんなふうになっちゃうのかな⋯⋯』って、誰にも、ぶつけようがないモヤモヤがあるんですよ」

 陽菜さんの自己分析によると、そのモヤモヤは「もし○○だったら」に原因があるという。

 もし、親がもっと早くから中学受検の勉強をさせておいてくれたら⋯⋯。もし、親が美優の親のように併願校を受けさせてくれて、進学を認めてくれたならば⋯⋯。もっと違った結果が生まれていたはずだ、という気持ちが消えないと訴える陽菜さん。

「親御さんの中には経済的な問題も絡んで、公立中高一貫校しか受けさせないという家庭もあるのは理解できます。でも、もし、中学受験を選ぶのであれば、少なくとも“合格体験”をさせてあげてほしいなって思いますし、子どもにはわからない、その先にある大学受験の実情は調べておいてほしいなぁって思うんですよ」

 陽菜さんの気分の落ち込みはコロナ禍も多分に影響していると思う。しかし、陽菜さんの経験に私たち親が学ぶとするならば、受験結果というものは、たとえ12歳という幼い年齢であっても、後に引きずる可能性があるということ。

「落ちたら、地元公立。以上」という進路決定は、公立中高一貫校を受検する親御さんにありがちであるが、結果に対して潔く割り切り、次の目標にまい進できる人間の方が少ないということは、考慮に入れておくべきだと思っている。

中学受験、偏差値ではなく校風重視で選んだのに、周りから「残念」と言われて⋯⋯

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 和歌子さん(仮名)というママから相談が舞い込んだのは、一昨年の梅雨の頃だった。一人娘の環奈さん(仮名)は中学受験で私立Y女子に入学したばかり。長く大変だった受験生活も終了し、和歌子さんもようやく一息つけると思っていた矢先、娘の異変に気が付いたという。

「環奈がどうも元気がなくて⋯⋯。『学校で何かあったのかな?』ってすごく心配したんですが、本人は『なんでもない』って言うばかりで。これがいわゆる反抗期ってものの始まりなんでしょうか?」

 このように、「なんとなく我が子の元気がない」と見て取れるのに、子ども本人が「なんでもない」という場合、主に2つのケースが考えられる。

 1つは「親に心配かけたくないという気持ちが働くケース」。思春期は親から独立したいと願う気持ちと、そうは言っても親の庇護下でなければ生きてはいけないという現実の狭間で悶々としているのが普通。「心配かけたくない=干渉されたくない」という気持ちも多分に働いて、何が原因で元気をなくしているのかを知らされるのは結局、親が一番最後(友だち、あるいは心を許せる先生の後)ということもよくある。

 そして、もう1つが「自分でも言語化できないモヤモヤを抱えているケース」だ。本人も原因がはっきり掴めず、何となくモヤモヤしているということも意外と多いのだ。

 後にわかったことだが、環奈さんのケースは下記のようなものだった。

 環奈さんが通うY女子はいわゆる中堅校に属するが、受験日・偏差値の兼ね合いでトップ校の受け皿として重宝がられている学校でもある。環奈さんを含むクラスメートの大半は「残念組」ではあるものの、和歌子さんはY女子の校風を高く買っていた。娘の入学をとても喜んでいたし、「娘も同じ気持ち」であろうと信じて疑っていなかった。

 そんなある日、環奈さんは地元公立中学に通っている元クラスメートの明菜さん(仮名)と、そのママに遭遇。そして、明菜ママが環奈さんに向かってこう言ったという。

「あら、環奈ちゃん、結局、Y女子に入ったの? あんなに頑張ってたのにね~」と。これに、明菜さんも続いた。

「環奈、ドンマイ! でも、その制服、似合ってるよ!」

 話はこれだけだ。中3になった環奈さんの説明によると、当時は以下のような心境だったそうだ。

「Y女子は校風が気に入っていたので、合格はすごく嬉しかったんです。決して、意気消沈していた入学ではなかったはずなんです。両親も喜んでくれていましたし⋯⋯」

 環奈さんの中学受験の志望順位としては、進学校であるM学園→中堅校のY女子。

「でも、気付いちゃったんですよ、自分の本心に⋯⋯。明菜母子にああ言われたことで、蓋をしていた自分の気持ちが表面に現れたんだと思うんです。『そっか、やっぱり、人から見たらY女子は残念で、“ドンマイ!”の学校なのか⋯⋯』って世評が目に見えちゃったって感じですかね⋯⋯。世間全体から、自分の学校も、自分も無価値だって言われたような錯覚を覚えました」

 もちろん、明菜さん母子に悪気があったわけではなく、単純に「残念だったね。でも、Y女子で頑張ってね」という気持ちで言ったのだと思うとは環奈さんの弁だ。

「当時は母には言えなかったですね⋯⋯。決して裕福ではない中、無理して私立に行かせてくれているのは知っていましたし、ましてや自分で望んだはずの学校を今になって無価値に思ってるなんて、打ち明けられませんでした」

 環奈さんの中1時代はこのことが影響して、いまひとつ学校に溶け込めない感じであったという。転機が訪れたのは中2の部活での対外試合だったそうだ。

「M学園との練習試合があったんです。そしたら、どういうわけか勝っちゃって⋯⋯。チームの皆で抱き合って泣いたんです。なんだろう? その時、『私はこの学校とこの仲間が好き!』って思えて、なんか吹っ切れちゃったっていうか⋯⋯」

 中学受験は残酷なことに「高偏差値=価値がある」との刷り込みを受けやすいものだ。

「校風で選んだ!」と言い切る心の隙間に、刷り込まれてきた世評が時として顔を覗かせてしまうこともある。「自分はこの道で大丈夫!」と言えるきっかけはさまざまだが、環奈さんのように何かひとつ自信が芽生えると、負の記憶を乗り越えて強くなっていくんだなという思いを持っている。

 環奈さんは現在、中学最終学年。キャプテンとして、チームメイトとともに秋の大会入賞を目標にしているところだそうだ。

中学受験、「大学付属校なら安心」は大間違い!? 進学校並みの厳しさに付属高校進学すら危ぶまれ⋯⋯

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 

 中学受験を選択した親子はさまざまなことを悩むものだが、その悩みの一つに「志望校選び」がある。例えば、私立中高一貫校か公立中高一貫校か、別学校(女子校・男子校)か共学校か⋯⋯。さらに、大学付属校か中高一貫進学校か、どちらが我が子に合っているかという悩みが出てくるのである。

 今は、文科省の旗振りのもと、大学入試改革の真っ最中。2021年1月から大学入学共通テストが始まったが、今後も大学受験に新制度が導入されることが予測され、受験生は翻弄されがち。その上、文科省による「私立大学の入学定員厳格化」の影響によって合格者が絞り込まれている。こうした理由から、ここ数年の中学受験は「大学付属校人気」が続いている。

 そんな状況のもと、美穂さん(仮名)は数年前に一人息子の亮平君(仮名)をある有名大学の付属中学に入学させた。美穂さんは、前述した理由に加えて、

「大学受験がない分、部活動など、興味のある分野をトコトン極めることができる」

 という点が大変気に入り、お尻をかなり叩いて、ようやく念願の大学付属校に亮平君を突っ込むことに成功したのだそうだ。

「思えば、合格発表の時が喜びのピークでしたね⋯⋯。これで亮平の将来は約束されたも同然! と思い、私は舞い上がりました。でも、甘くはないんですよね。それからが地獄の始まりというか⋯⋯」

 亮平君はおっとり型でやさしい性格。「俺が、俺が!」というタイプとは正反対らしいのだが、積極的でキラキラしているように見える付属校のクラスメイトたちに、次第に違和感を抱くようになったという。

「ウチの学年だけかもしれませんが、下(併設小学校)から上がって来られた生徒さんたちの勢いが激しかったようで、亮平は馴染めなかったみたいでした。そんな時に、中2の前半で体調を崩すことがあって、10日ほど学校を欠席したんです。ウチの学校は、教科書を授業でほとんど使わず、先生がくださるプリントが命なんですが、授業を受けてないので、後から見ても理解できない。友達からノートを借りても、意味不明だったようで、すっかり落ちこぼれてしまったんです」

 亮平君の学校はレポート課題を大量に出すことで有名で、しかもその評価は極めてシビア。テストだけでなく課題提出も進級基準に入る。

 週ごとに増えていく課題の山を見て見ぬ振りをしていた亮平君であったが、ついに、中2の冬に、美穂さんは学校からお呼び出しを受けることになった。

「このままでは、亮平君は併設大学進学どころか、併設高校への進学も認められません」

 未提出のレポートの山、そして、散々な点数の小テストの数々という“評価表”を前に、美穂さんはうなだれるしかなかったという。

「もちろん、大学が併設されているといっても希望学部に進学できる保証もないし、その大学に進学できない可能性だってあるってことは知っていました。でも、それは『よっぽど』のこと。亮平には関係ないって思っていたんです。ところが、大学どころか高校にも上がれないって言われて、驚きました⋯⋯」

 一般的には、大学付属にはのんびりしたイメージがあるかと思うが、それは正しいとは言えない。中学・高校の先生方としては、大学から「これだから“付属上がり”は!」などと言って、卒業生たちと厳しい大学受験をくぐり抜けてきた学生を「比較されたくない」という自負が働くのであろう。

 特に高偏差値の有名大学付属校の学習環境は甘くない。レポート提出を含め、文科省指導の1.5倍以上の勉強量を課している学校もあると言われている。大学への内部進学時に、例えば「英検2級以上取得」といった条件を課している学校も稀ではなく、意外とその進学は大変なのである。

「今さら地元公立中学に転校ということは考えられず、補習を受け、小テストの合格ラインを突破するということとレポートを全て提出するということで、どうにか亮平は併設高校への進学が認められました。でも、その間は部活動なんてやれる状況ではなく、『難関私学の落ちこぼれ専門の寺小屋』みたいな塾に毎日のように通わなくては、とても対処できませんでした。もちろん、私もレポートの手伝いを買って出て、やっとのことで併設高校の切符をもぎ取ったようなものです」

 こうして、併設高校に上がった亮平君であったが、彼は今、通信制の高校に通っている。高校は単位制になるため、進級基準は中学よりももっと厳しい。高1から高2に上がる段階で取得単位が足りず、転校ということになったのだそうだ。

「本当に何のための付属校だったんだろう? こんなに大変ということがわかっていたならば、普通に公立中学に進学して、都立高校に行かせた方が亮平のためだったんじゃないかと後悔しています」と美穂さん。

 美穂さんのように我が子が「おっとりとした性格」だから、大学付属校を選んだと話してくれる母がいるが、「大学付属校=のんびりしている=勉強しなくていい」というのはまったくの誤解であると思っている。

 亮平君のケースのように、学校に合うかどうかは、実際に入学してみないとわからないというのが正直なところではある。しかし大学付属校に行かせようと思っている親御さんは、実際にどのような課題を出していて、そのボリュームはどの程度のものなのかということも含め、進級・進学の本当のラインを掴んでおくことをオススメしておきたい。

中学受験の低年齢化が止まらない! 有名進学塾は小1段階ですでに定員オーバー、「落とし穴」にハマった親子も!?

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 今、小1から中学受験を視野に入れて塾通いする子が増えている。それは主に次の3つの理由で中学受験が過熱化しているからだ。

 1つは、2020年度から始まった大学入学共通テストを中心とした「大学入試改革」。2つめが都市圏の私立大学に入学者が集中しないよう16年度から始まった「私立大学入学定員厳格化」。そして、追い打ちをかけたのが、3つめの「コロナ禍による私学優位のICT教育」である。

 これらことが、大学受験、そして公の学校教育現場に先行き不透明さを感じる保護者の不安を煽る結果となっている。ゆえに、我が子の大学受験を視野に入れている保護者の「不安感の回避先」として中高一貫校が選ばれやすく、したがって中学受験が過熱しているのだ。

 この波は低学年あるいは未就学児の親にも波及しており、それゆえ有名進学塾にはより低学年の親からの申し込みが殺到しているという現状がある。

 小学2年生の息子を持つ裕奈さん(仮名)も、その一人。

「ウチの息子はこの春から塾に通うようになりました。息子の小学校は公立ですが、9割が中学受験組です。私も主人も公立育ちなので、何も低学年から受験塾に入れる必要はないとは思っていたのです。スタンダードな入塾時である新4年生から入ればいいとのんびりしていたんですが、ふたを開けてみたら、小1の段階ですでに有名塾Sは定員オーバー。運良く、欠員が出たので、小2で入れてもらえたのです。もし新4年生まで待っていたら、絶対にアウトでしたね」

 裕奈さんの息子は今現在、週2回ある50分授業を楽しみにしているというものの、やはり、何事においてもそうだが、中学受験塾にも合う子と合わない子がいる。

 太郎君(仮名)という一人息子を持つ咲子さん(仮名)も、裕奈さんと同じように、中学受験熱が強い地域に暮らしている一人である。

「ウチも息子には中学受験をさせようと思っていたんです。ただ、年少さんから水泳にサッカー、習字とピアノもやっていたので、小1で中学受験塾に入れる気はなりませんでした。ところが、まだ小学校に入学する前の秋の時点で、有名塾Sの最寄駅校舎は定員に達してしまうといううわさを聞きつけたもので『大変だ!』と思って、慌てて駆け込みました」

 そんな太郎君は、現在、小学6年生。いよいよ最終学年になったが、咲子さんの表情は冴えなかった。

「太郎の成績がここ最近、まったく伸びなくて⋯⋯。小1で入塾したこともあってか、太郎はずっと成績上位で、それをキープしようと思ったらしく、4年生で自ら全ての習い事をやめ、受験塾1本に絞って、すごく頑張っていたんです。当時は、先生たちも『この調子でいけば超難関校Kも夢じゃない!』ってすごく褒めてくださっていたほど成績は良かったんですが、5年生になると成績がズルズルと下がるようになって⋯⋯。太郎は幼い時から、要領がいいとはいえない子なので、それで余計に可哀想になってしまいました」

 その頃から、太郎君は成績順の最上位クラスから、徐々に下位のクラスに“格下げ”になるようになったという。

「つらいのは、太郎が真面目に努力した結果がこれってことです。毎日、頑張っているのに、クラスは下がる一方で⋯⋯。最近では、仲が良かった最上位クラスのクラスメートたちにも、学校で相手にされなくなってしまったようで、余計に疎外感を持ってしまって、元気がないんですよね」

 大手進学塾の多くが成績順にクラス分けをしているので、子どもの世界であっても、微妙なヒエラルキーが生まれてしまう。最上位の子たちも決して太郎君を見下しているわけではないのだろうが、そこには見えない結界があるかのようだ。

「私は『そんな価値観の世界で生きるなんて意味があるのかな?』と疑問に思い、太郎に『嫌なら、塾をやめたって、受験をやめたっていいんだよ』と言うんですが、太郎が首を縦に振らないんですよね⋯⋯。『絶対に(最難関校である)Kに入る!』って。こんな成績で、入れるわけがないんですが⋯⋯。でも、私は私で、6年生のここまできているのに、本当に受験をやめさせていいのかな? って思いもあって、どっちつかずなんです」

 中学受験は知識を広げ、理解する喜びを得る機会としては素晴らしいものだと思うが、一歩間違うと、子ども自身が「成績こそ全て」という価値観に、がんじがらめになる危険性を孕んでいるものだ。

 ところが、最近、太郎君に動きがあったと咲子さんから連絡が入った。

「実はS塾を辞めました。太郎に円形脱毛症が見つかって、かかりつけ医に叱られたんです。その先生も中学受験では苦労したんだそう。そんな話をしてくださった後、太郎に向かって『塾はしがみつく存在ではなく、選ぶもの』って諭してくれました」

 そのかかりつけ医の言いつけを、幼い頃から不思議と守ってきたという太郎君。その先生が医学部に強いS学園出身と聞くや、太郎君はS学園のことを調べ出し、そこを本命校にしようと思い立ったそうだ。

「先生が『S塾はこの際、リセットして、自分のペースで見てもらえる家庭教師についたらどうだ?』とプロの家庭教師まで紹介してくれたんですよ。幸い、とてもいい先生で、今はまず、太郎の失った自信を取り戻してくれようとしています」

 太郎君の受験結果がどうなるのかは未知数ではあるが、必ずしも、低学年から有名塾に入っていれば有名校に合格するというものではないということを示す話でもある。やはり、塾の教育方針によっても合う合わないがあるということを親は知っておくべきだと思っている。

『ドラゴン桜』人気、リアル“東大合格者”の素顔! 中学受験を経た東大生の母が明かす「私のやったこと」とは?

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 2021年春のTBS系ドラマ『ドラゴン桜』が好発進を記録したという。

 低偏差値校の子どもたちを、阿部寛さん演じる元暴走族の弁護士が東大合格に導くというストーリーで、16年ぶりに復活した人気シリーズとのことだが、これは「東大合格」という言葉が、ある種の“インパクト”を持ち続けているという証拠かもしれない。

 筆者は取材の過程で、東大生、あるいは東大生を持つ母にインタビューすることも多い。最初の頃は「東大生やその母親って、すごい優越感に浸っているのかなぁ?」という先入観を持って取材していたものだが、実際、偉そうだったり、こちらを見下すような態度を取る人は皆無である。

 それどころか、東大生は「上には上がいる」……つまり「自分はたいした頭ではない」と本気で思っているようにも感じる。筆者のない頭で考えるに、彼らのほとんどは、いわゆるトップ高校出身であり、同級生は皆、揃って優秀で、そのまま東大に入ってみたら、やっぱり周りは皆、優秀という環境で過ごしてきた人たち。つまり親しく付き合うのは優秀な人間ばかり、その状況が普通のことなので、「自分だけが特に秀でているわけではないという結論に至るのかな?」と想像している。

 ある東大生からは「東大に入るって偉業でもなんでもないですよ。実際、毎年3,000人もの人間が“東大生”として量産されているわけで……。芸術やスポーツの分野で一流になろうと思ったら、それは才能・努力・運とあらゆるチャンスに恵まれなければなりませんが、それに比べたら、東大に入るくらい簡単です」と、さわやかに教えられ、もう何も言えなかったことを覚えている。

 もちろん、母たちも同じだ。これまで多くの東大生の母たちを取材してきたが、子どもの努力を褒めることはあっても、「私のおかげ!」とでもいうような“母の偉業”的な話をする人は、実際少ないと思っている。

 いわく「自分は何もしておらず、子どもが勝手に勉強をやっていた」「自分がやったことといえば、お弁当作りくらい」……。

 このように、謙遜なんだか、事実なんだか、サッパリわからない答えをくれることが多い。

 「親として、こうこうこういうことをやったから、我が子が東大に合格できました!」といった話はないものかと地道に取材を続けているが、彼女たちにとっては「“気が付いたら”子どもが勝手に東大を目指していた」ので、「勝因と呼べるほどの策は持っていない」と、心底思っているようだ。

 それでもやはり、東大生の母には、いくつかの共通点を感じている。今回は、「その一つの例」といえる母の話をしてみよう。

 奈美さん(仮名)の息子は、日本で一番、東大進学率が高い中高一貫校の出身者。

 息子は現役で東大に入学。奈美さんの夫も、夫の父親も東大出身だ。ちなみに奈美さんの父親は他大出身の歯科医、弟も歯科医という家庭で、奈美さん自身は音大を卒業している。

 「親族からは、息子を東大に行かせろと言われたことも、歯科医にさせろと言われたことも一切ないです。気が付いたら、息子が勝手に東大を志望校にしていたという感覚が一番近い気がします」と奈美さん。

 実は、このように話す東大生の母は多い。

 奈美さんのような生い立ちや生活環境を聞くと、僻み心も手伝って、ある中高一貫校の校長先生が言った「やっぱり東大(に行くようなレベルの子)はDNA(による)」という説を信じたくなるが、奈美さんは、息子の勉強習慣に関して、次のような話をしてくれた。

「息子が幼い頃の話ですが、例えば、寝る時間は午後8時であると、双方で同意したとしますよね。すると私は8時5分くらい前に時計をチラッと見るんですね。彼も、釣られて時計を見て『ああ、もうすぐ寝る時間なのか』と確認する。そうすると、彼は今夜の読み聞かせ用の好みの絵本を自分で選んで持って来ます。それで、一緒に寝る準備に入りましたね」

 どうすれば母親が時計をチラ見しただけで、幼児がそのような行動をするのか奈美さんに聞いてみたのだが、「う~ん? 自然に?」としか答えてもらえなかった。

 そういう習慣があったおかげか、彼は思春期になると例え、ゲームで熱中していようが「あ! もう8時だ。今日の課題をしよう」と机に向かったという。

 要は自分の中に、明確な「今日の課題」があり、それを完遂するための大まかなタイムテーブルが組まれ、さらにそれを実行していくのが毎日のルーティンワークとなっていたらしい。

 それは、奈美さんにとっても同じことがいえるという。家族の大切な健康基準となる起床時間と就寝時間に従って、日々のタイムテーブルが組まれているそうなのだ。

「息子を育てる上で、気を使ったことをあえていうならば、時間管理ですかね? 時間だけは平等ですから、そのコントロールをするのは自分自身なんだよということは、伝えておこうと意識していました」

 もちろん、日常生活にはハプニングがつきもの。突発的事項が発生したときにフレキシブルに行動するのは「当たり前」だと、息子に教えていたそうだ。

 筆者の「東大生の母インタビュー」経験からすると、この「時間管理」を意識・無意識問わずに実行している人が多いなぁという印象を持つ。

 思い通りには行動してくれない幼子に対して、これを根気よく伝えていくのは、大変な忍耐がいるようにも思う。しかし、母としてそれを「当然のこと」と苦もなくやれる特性が備わっている人が、「東大生の母」には多いのかもしれない。

中学受験で要注意「こんな校長先生はダメだ」! 学校説明会のスピーチで「○○自慢」は、候補校から外すべき!?

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 どこの世界でもいえることではあるが、組織にとって、やはりトップは大事。その組織が生きるも死ぬもトップの力量次第ということは、皆さんも経験上、ご存じのはずだ。学校もまさにそうで、特に私学の場合、トップのリーダー力が、学校全体に大きく影響するという面は否めない。

 なぜならば、私学はそれぞれの確固たる教育理念の下、人を育てるという理想像を追求している組織だからだ。時代によって、理想像は変化して当然なので、トップには時流を読む力が必要になる。その航路を示した上で、学校全体を率いなければ、この少子化時代、ヘタをすると“お取り潰し”(=閉校)という危機を招きかねないのだ。

 筆者は中高一貫校を中心とした学校取材を数多くこなしているが、十人十色ならぬ十校十色ともいえるほど、一つとして同じ空気を持つ学校がないと実感している。さらに、同じ学校であったとしても、新校長就任などによって、その雰囲気がガラッと変わることは、特に珍しくも何ともない話である。

 この「学校トップ」とは、経営のことでいえば、理事長を指すことが多いが、生徒や保護者に直接関わるという面でいえば、校長先生がそれに当たるだろう。校長先生の話を受験生保護者が聞ける機会は、学校説明会だが、これだけでも大まかにわが子を任すに足る学校なのかは選別できる。

 昨年はコロナ禍の影響で、合同説明会や自校での説明会をオンラインで対応せざるを得なかった。そのため保護者は、学校の雰囲気をつかむのになかなか苦戦されたと思うが、もし今年実現されたら、ぜひ直接出かけてみて、校長以下、各先生方の話に真剣に耳を傾けてみてほしい。

 数年前の話だ。合同学校説明会に出向いた受験生の母・朱里さん(仮名)は、ある校長の話に驚いたという。

 その説明会では、学校トップ陣が入れ替わりで自校を紹介する“5分間スピーチ”というものが行われたそうだ。朱里さんは、自宅から近いという理由もあってX学園の話に期待していたという。ところがX学園の校長は、その5分の持ち時間のほとんど全てを「校長自身の自慢話」に費やした。どうやら、新任としてよその学校から移って来たばかりのため、自校のことを語れなかったという背景があるようだが、朱里さんはX学園への興味が失せてしまった。つまりその瞬間、受験校候補からX学園を外したというのだ。

 中学受験界は、「ママ友情報」という口コミ情報が幅を利かせる世界でもある。そのせいかは判断つかないが、朱里さんをガッカリさせたX学園は、人気度としては低迷している。

 このように学校説明会で、トップが“本人の自慢話”をするケースは意外と多い。もし、ここで、保護者に受験校候補選びのアドバイスをするのならば、「トップが自分の自慢話をするのはNGだが、生徒の自慢話をするのはOK」ということに尽きる。

 学校の主役は「生徒」。次代を担う子どもたちを預かるという責任を熟知しているトップの口からは「生徒のため」という熱い思いしか出てこないものなのだ。

 逆に朱里さんは、同じ説明会の席上で、まったく受験校候補に挙がっていなかった学校が気になったという。

 その学校であるC学園の校長の説明は、こんな感じだったらしい。

「本校の自慢は生徒。本当にウチの子たちは可愛くて! 全員が自慢の子たちです。ぜひ本校にいらして、直接、確認してみてください。いつでも歓迎します」

 後日、朱里さんとお子さんはC学園を訪問し、同校の大ファンになったという。以降、C学園を目指して、親子で受験に取り組んだそうだ。そして、入試当日。保護者控室の体育館で、その校長先生は次のような話をされたと聞いた。

「今、試験を開始しましたが、皆さんにこれだけは申し上げたい。結果はどうあれ、中学受験をした経験は決して無駄にはなりません。小学6年生が受験に臨むというのは、本当に本当に大変なことです。でも、間違いないことは、お子さんはこの経験を通して大きく成長しているという事実。あなたが一生懸命、育ててきたからこそ、こんなに素晴らしい子になっている。どうか試験が終わって、お子さんを迎えたならば、この試練に正々堂々と立ち向かったお子さんを褒めて、抱きしめてあげてください。私からのお願いです」

 朱里さんは、子どもと自分の頑張りを認めてくれた校長の言葉に涙。ふと気付くと、周りの保護者たちも目頭を押さえていたそうだ。ついでに見渡すと、控室に待機していた先生方も同時に目を潤ませており、朱里さんは校長先生の人望の厚さを感じたという。

 朱里さんのお子さんは見事にC学園の激戦を突破。お子さんの話によると、やはり校長先生は生徒から大人気だそうだ。校長室はいつも、校長先生と話したいという生徒で混雑しているそうだ。

 受験校をどうやって選べばいいかわからないという保護者には、やはり「トップを見る」ことをオススメしたい。

中学受験、“卒母”のアドバイスに要注意!? 「K女子なんて、一生後悔するわよ!」娘の熱望校を全否定され……

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験の渦中にいる母親は、とてもナーバスだ。よほど冷静な人は別だが、毎週のように出る試験結果の“数字”に一喜一憂。期待が膨らみすぎたり、逆に不安になったりで、感情の起伏が激しくなるのは、むしろ普通のことだ。
 
 こうした状況下によるストレスをどうにか解消したいと願い、中学受験生の子どもを持つママ友とのランチで、「情報収集」兼「憂さ晴らし」をしようと試みる母は多いのだが、たいていの場合、憂いが増す結果になる。

 なぜならば、そこは偏差値という数字によって序列が生まれてしまう世界。同じ中学受験組の場合、ママ友の関係は微妙になりやすいのだ。たとえるならば、お隣り同士で互いに「年収」を比較し合うような状態かもしれない。

 それでは、非中学受験組の母に愚痴を聞いてもらえるかといえば、こちらもうまくはいかないだろう。これも、たとえるならば、未婚の女友達に、子育てがどんなに大変かを訴えても、反応が弱いということに似ている。

 つまり同じ境遇であれば、比較して落ち込み、違う境遇であれば共感してもらえないと落ち込むわけだ。

 それゆえ、母たちは別の作戦を取ることがある。「卒母」と呼ばれる、すでに中学受験を経験している母にすがってみるのだ。これは、母たちが、それほどまでに孤独で、かつ有意義な情報を欲しているということだが、ここにも注意点が必要になる。

 由佳さん(仮名)には一人娘がいる。娘の「友達と一緒に塾に行きたい」という願いで、小学4年生から、何となく受験に参戦。由佳さんは地方都市で生まれ育ったため、自身は公立中に通い、周囲にも中学受験経験者はいなかったそうだ。

 それゆえ、都内の受験事情がわからず、受験情報を求めて、同学年のママ友を頼ったという。

「初めは、中学受験組のコミュニティに入れてもらえたみたいでうれしかったんです。愚痴を言い合えて、学校説明会にも一緒に行けるようなママ友ができて、すごく楽しかったですね。でも、学年が上がるにつれ、だんだん子どもの成績の差が如実に出るようになると、微妙な空気が漂って……。これじゃダメだな、でも、中学受験のことはよくわらないから、情報はほしいなって思って、先輩ママを頼ることにしたんです」

 同じマンションには真理さん(仮名)という、娘をT学園に入れた卒母がいたそうだ。そこである日、由佳さんは思いきって真理さんに話しかけてみたという。

 真理さんは、「うちの子の受験の時はこうだったよ」など、いろいろと親切に助言をくれ、「さすが経験者! 頼りになる!」と由佳さんは大喜び。そのうちに、自宅同士を頻繁に行き交うような間柄になったというが、その関係も徐々に怪しくなっていく。

「6年生になる頃でしたか、娘に熱望校ができました。K女子なんですが、校風もいいし、制服も可愛らしくて、親子で気に入っていたんです。ところが、それを真理さんに教えたら、『K女子だけはやめなさい! いい評判なんて聞いたことないわよ!』って、何度も言ってくるんです」

 由佳さんは、初めのうちは聞き流していたそうだが、真理さんの露骨な「K女子サゲ、T学園アゲ」がだんだん気になるようになったという。なぜならば、真理さんのK女子サゲに根拠はなく、ウワサレベルの話をしているように感じたからだそうだ。

 もちろん、真理さん自身に悪気があるわけではない。「わが子が通っている中学校が一番良い!」と信じているからこそ、「由佳さんの娘にもぜひ入学してほしい」と思っているということは、想像に難くない。ゆえに、他校のネガティブな話題を強調していたのだろう。

「K女子もT学園も偏差値的には同じくらいですし、どちらもいい学校だとは思うのですが、真理さんの『K女子なんかに入ったら、一生後悔するわよ!』という言葉が頭を離れずに、すごく揺れましたね。親切で言ってくれるだけに、余計にたちが悪いのかもしれないです(笑)」

 結局、由佳さんの娘は現在、K女子で充実のスクールライフを満喫中。受験から3年たつらしいが、由佳さんと真理さんは、表面上、今も会えば立ち話をする仲ではあるそうだ。

「あの頃は、正直、真理さんがうっとおしくて、お付き合いをやめたかったんですが、同じマンションなので、スパッと断ち切ることもできず、余計な心労が増えただけの気がします。要は、私自身が大人になりきれてなくて、誰かに依存し、不安解消をしようとして招いた結果。つまり、自業自得ですね……」

 母にとって、中学受験は「心配の連続」である。同じ境遇の者同士、慰め合ったり、また、経験者のアドバイスが欲しくなったりするものではある。しかし、だからこそ、そういう気持ちになったならば、この言葉を思い出してほしい。

「信じるな 疑うな 確かめよ」

 これは、ヨガの考え方で、かみくだくと「物事は簡単に信じてもダメ、頭から疑ってもダメ、自分の目で確かめて判断することが大事だから、自分が『体験』したことだけを大切にせよ」という意味。
 
 たいていの不安は「確かな情報」が解決する。もし、何かの迷いが生じた場合、それが学校のことであれば、直接その学校に。勉強方法のことであれば、受験のプロである塾に相談に行くのが肝要であるのは言うまでもない。

中学受験塾に洗脳されていた私……「T学園に入りたいのは、僕じゃなくてママ」息子の涙に目が覚めて

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 わが子を中学受験に参入させる親の動機の一つに、中等教育以降の「上質な教育環境への期待」というものがある。

 中学受験生の親には、「最難関校でなければならない」とか「偏差値60以上ないといかせない」とか、偏差値ばかりに気を取られる者もいるが、彼らだって、最初からそうだったわけではないのだ。

 しかし、中学受験塾に通っているうちに、まるで洗脳されたがごとく、「偏差値至上主義」に変わってしまう。ここに、中学受験の恐ろしさが隠されていることも、また事実なのである。

 菜々美さん(仮名)も、そんな親の一人といえるかもしれない。

 菜々美さん自身は地方出身者ということもあり、中学受験は未経験。しかし、県立トップの公立高校を経て、関西の最難関私大を卒業した。やがて、一人息子の義則君(仮名)が誕生したものの、その後、夫の不倫が原因で離婚。以降、シングルマザーとしての道を歩んでいる。

「中学受験塾へ行かせるきっかけは、私の配置転換でした。残業が欠かせない職場になったので、義則の預け先として中学受験塾を選んだだけで、そこまで深く考えてのことではなかったんです。ただ、地元小学校が荒れていたので、できれば中学は義則が落ち着いて過ごせる環境を選びたいという気持ちはありました」

 ところが、たまたま選んだのは、スパルタ系で有名な塾。しかも、難関校に行かせることに熱意を持った室長が君臨している教室だったという。

「面談でも、初めは『自宅から近くて、雰囲気もいいB学園』を希望していたんです。でも担任の先生が『何を言ってるんですか! 義則には力がある! 絶対にT学園に行くべきです!』って強く推してくるので、『そんなにいい中学に行けるんや?』って思って、舞い上がってしまったんですね……」

 5年生に上がると、講義のスピードも上がり、塾の宿題も相当な量が出されたという。

「義則はテニスをやっていたんですが、塾から『テニスと受験、どっちが将来に大事だ? お前はT学園に行きたいんじゃないのか?』って迫られて、結局、5年の秋にテニスもやめてしまいました。その頃からですね、義則に謎の湿疹が出るようになったのは。かきむしるので、血だらけになっていることもありました。それにチックの症状も出るようになってしまって」

 5年生の頃の義則君は、T学園も十分合格圏内という偏差値をキープしていたのだが、それから徐々に成績が下がっていくようになったそうだ。

「あの頃の私は、塾に洗脳されていたとしか思えません。もう『義則を絶対にT学園に入れなければならない!』ってことしか考えてなかったんです」

 そんな6年初夏のある日、菜々美さんに塾からこんな電話があったという。

「義則君が『T学園特訓講座』に来ていません」

 義則君は、塾のある駅で降りずに、そのまま電車に乗って、他県にある終点まで行っていたということが判明。夜遅く、自宅に戻って来た義則君に、菜々美さんは怒りをぶつけてしまったそうだ。

「アンタ、どういうつもり? 特訓講座は高いねんで? みんながT学園目指して、頑張ってるのに、こんなことして入れるわけないやろ! もう、受験なんてやめてしまえ!」

 義則君はその時、泣きながら菜々美さんに言ったという。「T学園に入りたいのは、僕じゃなくママやろ?」と。

「ショックでした。その通りだったんです。思えば、義則の口から『T学園に行きたい』なんて言葉は出たこともない。私が『T学園に行きたいんやろ?』って言って、頷かせていたんです」

 菜々美さんは当時、「私は母親失格」と言って、筆者に相談してくれた。

 よくよく聞けば、別れた夫は、「T学園より偏差値や大学合格実績で見劣りする」という中高一貫校の出身。菜々美さんには、一人息子に、元夫よりもいい学歴をつけて、見返してやりたいという心理が働いていたようだ。

 これは「中学受験あるある」なのだが、子どもが受験を頑張る理由に「親を喜ばせたい」というものがある。お母さんやお父さんの喜ぶ顔が見たくて、自分の気持ちを殺してでも、親の意思を優先してしまうことは珍しいことではないのだ。

 義則君に話を戻そう。彼は今、T学園の高校生である。あれから、義則君は中学受験から撤退。かかりつけ医に「勉強よりも健康!」と言われたことも大きかったそうだが、結果的に中学受験を見送り、公立中学に入学した。

 しかし、もともとポテンシャルが高かったこともあり、自分の将来についてゆっくり考えたところ、「やはりT学園」という結論を自ら下したのだそうだ。そこで、高校入試でT学園に合格。今では、チック症状も収まり、肌の調子もいいという。

 当時のことを振り返って、菜々美さんは言う。

「やはり、人生って自分で決めないといけないんですね。思えば、私のつまらない意地で、義則にはかわいそうなことをしました。でも、こないだ義則が『あれがあったから、今がある』と言ってくれたんです。少し、救われた気がします」

 断言するが、中学受験参入は、親の意思である。もちろん「子に良かれ」と思ってのことであるが、何事もバランス。もし、偏差値至上主義に陥ってしまったならば、その「良かれ」の本当の意味を考えることが、親の仕事だといえよう。