中学受験、余裕の「1月校」でまさかの不合格、「終わった」から挽回できる?

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 今年も首都圏では1月10日の埼玉入試を皮切りに、中学受験は入試本番を迎える。例年、入試解禁日は埼玉が1月10日から、千葉が1月20日から、東京・神奈川が2月1日からとなっているため、地方入試(地方にある寮完備の学校が首都圏で入試を実施すること)も含め、1月中に入試を行う学校を「1月校」と表現することが多い。

 この「1月校」であるが、「お試し受験」と呼ばれることもある。2月に本番を迎える東京・神奈川の受験生が「腕試し」的に受験するケースが多いためだ。仮に合格しても、実際には(その大半が)入学しない学校を受験するという意味なのであるが、これには、本番受験を経験するということと、早めに「合格を手にして、本命校の受験に繋げるという大きな目的があるのだ。

 神奈川在住の慎吾くん(仮名)も1月校入試を体験したひとりだ。しかし、結果はまさかの不合格。偏差値的には余裕でクリアできるとの塾の“お墨付き”を得ての受験だったのだが、これが受験本番の怖いところで、番狂わせが起きてしまったのだ。

 慎吾くんの自己分析によると、1月校のA校には模試会場以上に人が溢れていて、完全に雰囲気に呑まれたのだそうだ。

「なんか、周りの人たちがすごくできるように見えちゃって……。そういえば、僕はここの過去問を手にしたこともないって思ったら、頭の中が真っ白になりました……」

 慎吾くんには「あ~、終わったな(=不合格)」という確信があったそうだが、実際に自分の番号がない画面を目にした時は相当なショックを受けたという。

「自分には偏差値から見たら、A校なんて目をつむっても受かるっていうような慢心があったんですよね……。完全に受験を舐めてました」

 その後、慎吾くんは塾の勧めによって、急きょ、地方にある学校の東京入試を受験し、とりあえずの“合格切符”を手にしたそうだが、まったく喜びはなかったそうだ。

「そこは飛行機の距離なんで、現実的には入学することもない学校です。というか、どんな学校なのかもまったく知りませんでしたし……。ただ、周りの大人たちが、自分にA校落ちのショックを緩和させたい一心というのは理解していました(笑)」

 2月1日の本番受験まで、この間、約3週間。慎吾くんは1日の大半を塾の事務室の片隅で本命校の過去問を解いて過ごしていたそうだ。

「塾には自習室も完備されているんですが、自分には先生たちが目の前でワチャワチャしている環境が居心地良かったって言うか……、そこにいると不合格のことも忘れられて、なんか、安心できたんですよ」

 慎吾くんは、本番入試直前に塾の先生にかけられた言葉が今も印象に残っているという。

「すっごく信頼している先生にこう言われたんです。『慎吾、オマエ、この3週間ですごく成長したな。この小うるさい環境の中でも、集中して、よく頑張った。オマエほど、本命のB校の過去問をやりこんだヤツはいね~よ。明日は自信もって、ぶつかってこい!』って。自分でも、すごく不思議なんですが、3週間だけですけど、これ以上はできない! ってくらいやれたんで、これで落ちるなら仕方ないっていうくらいの清々しい気分でした」

 結果は見事、合格。慎吾くんはこう言っている。

「1月校に落ちたからこその本命校合格だったと思います。それまで、自分はいまひとつ、受験というものがわかってなかったというか……。『不合格』っていう“烙印”が本当に押されるんだってことで目が覚めた部分がありますね。絶対に本命校には受かってやる!って気持ちになりましたから」

 中学受験においては「お試し受験は合格できる学校を選ぶ」というのが鉄則ではある。第1志望校の本番受験前に合格切符という名の「自信」を手にし、弾みをつけての本命校受験にさせたいということが「お試し受験」のポイントのひとつになるからだ。

 よって、塾もセオリーに従って、合格が確実に取れる学校を勧めてきやすいが、合格より何より必要なことは、「場慣れ」である。

 やはり、受験本番の空気は模試とは全く違う。しかも中学受験は生まれてまだ12〜11年しか経っていない子たちの受験なので、この空気感を初めて経験するという子どもたちが大半。その空気に呑まれる子も決して少なくないのである。よって「まさか」が起きることも決して珍しい話ではない。

 しかし、ここが中学受験の面白いところであるが、「まさか」を体験した子ほど、短期間で驚くべき成長を遂げることも、また多い。

 慎吾くんは語る。

「中学受験って、自分の人生を“自分事(じぶんごと)”として捉えた最初の瞬間だった気がしますね。あの時、自分はどうしたいのか? どうしたらいいのか? ってことをストレートに考えていた気がします。中学受験、やって良かったと思います」

 慎吾くんはB中高を卒業した後、一昨年、MARCHのひとつに入学。自身の中学受験体験が忘れられず、大学入学後は塾の講師をしている。今は、卒業後の進路に中学受験塾を考えているそうだ。

中学受験ママを悩ませる「3学期は欠席させる?」問題、コロナ禍で変化?

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 首都圏の中学受験は1月前半から始まって2月の第1週まで続いていく。人によっては、この約1カ月は“受験本番”の連続になる。ここで「1月は小学校に通わせるか否か問題」の論争が繰り広げられるのが、この時期の風物詩でもあったのだが、近頃はご存知のとおりのコロナ禍。迷わず、学校を休ませて、受験本番に備えるというご家庭も多くなっている。

 2021年2月に、受験を経験した真理さん(仮名)も「1月は欠席させる」を選んだひとりだ。真理さんの娘である紗菜ちゃん(仮名)は学校が大好き。よって、真理さんも「受験直前まで学校に行かせる」派だったという。

「コロナ前までは、塾からも『受験直前は学校がストレス発散の役割をすることもあるので、通常どおりの生活を』とアナウンスされていました。私も『なるほど、そのとおりだ』と思っていたんです。ところが、6年生になった途端、世の中は一変してしまい、やはり受験前に考えを改めました」

 紗菜ちゃんの小学校では3学期の始業式の後に「百人一首大会」が開催されるのが恒例。表彰式付きという6年生にとっては“一大イベント”でもあるらしい。

 コロナ禍なので、その時点では行事をやるかどうかも未確定ではあったらしいが、それでも、大会に向けて12月あたりから、各クラスで練習はしていたという。そんなクリスマス前の時期のことだった。真理さんはPTA役員の用事を済ませたついでに、紗菜ちゃんのクラスを覗いてみたのだそうだ。

「ちょうど、百人一首大会の練習時間だったのですが、それが、もう感染対策なんてないに等しくて……。紗菜の隣には、咳をしている子もいるんですよ。なんでも、その子は皆勤賞がかかっているとかで、よほどじゃない限りは休ませないって方針のご家庭のお子さんでした。その姿を目の当たりにして、もう、こんなところには怖くて、行かせられない! って震え上がりました」

 一般的に高校受験や大学受験はクラス全員が受験していくので、感染症予防対策にも全員が緊張感を持って取り組める環境が整いやすいものであるが、中学受験はあくまで「任意」。首都圏でも受験しない子のほうがむしろ大半である。ましてや小学生の集団だ。受験をやらない子に受験生への配慮を求めるほうが難しいだろう。

「そのうち、『学校関係者の中にコロナ陽性者が出たらしい』ってうわさを聞いてしまい、1月は学校に行かせない決断をしました。もはや、誰が感染してもおかしくない状況ならば、最大限の自衛策を取るべきだと思ったんです。ここまで長い時間をかけて受験生活を頑張ってきたんですから、『かかりました→受けられませんでした』という結果だけは避けたかったんです」と真理さん。

 自治体によるが、紗菜ちゃんの小学校は入試当日は“公休”扱いだったので、2月日程での受験だとしても、1月中の欠席カウントは2週間ほどになる。1年のうちの2週間程度の話と割り切るご家庭があっても不思議ではない。

「紗菜は学校と友だちが大好きということで、休むことを嫌がっていたのですが、最終的には納得していましたね。やはり、受験組の子が休んで勉強しているのを想像すると、心穏やかにいられる自信がなかったみたいです。結果論ですが、うちにとっては大正解でした」

 真理さんも紗菜ちゃんの援護射撃をするべく、パートタイムで従事している勤め先に1カ月間のお休みをもらったそうだ。

「この3年、親子で分刻みのスケジュールに追い立てられていたんですが、この直前期は塾もオンラインにしてもらったので、自宅で苦手分野を中心にゆったり過ごすことができて、親子のいい時間になったと思います。一番、ありがたかったのは過去問に取り組む時間が取れたことですね。やはり、遅れがちでしたので、心配だったのですが、受験直前に本番どおりの時間割りでやれて、合格最低点をクリアできたのは自信になったと思います」

 1月受験の埼玉入試を皮切りに、本命校の2月入試も合格を勝ち取った紗菜ちゃんの受験は、こうして2月1日をもって終了した。

 コロナのために延期になった「百人一首大会」は結局、3月の卒業式前に実施され、紗菜ちゃんは上位入賞者になったそうだ。

 紗菜ちゃんは卒業式の日に手紙を書いて、真理さんに渡してくれたという。

「大好きなパパとママへ。ずっと近くで紗菜のことを応援してくれて、ありがとう! パパとママと一緒に頑張った受験は楽しかったです。中学も楽しみです。これからもずっとずっとヨロシクね! 紗菜」

 真理さんは「この手紙も、紗菜と一緒に頑張った日々も宝物です」と教えてくれた。

「受験直前、学校を休ませるか否か問題」に正解はない。子どもの気持ちも汲みながら、各ご家庭でくだした判断が一番正しいと思う。ここまできたならば、外野の意見に左右されないことがもっとも大切。それぞれの判断に自信を持ってほしいと思っている。

 すべての中学受験生が、ベストな状況で受験にチャレンジできますように。

中学受験、最後の模試で「合格率20%以下」、親は志望校を変えさせるべき?

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 早いもので今年も師走。中学受験も本番直前で、大手塾の模試も最終回を迎える。こうなると次回の試験が入試本番となってしまうので、最終模試で思わしくない結果が戻ってくると自信がなくなり、リカバリー方法を見失いがちである。

 合格確率の低さを表す数字と共に「志望校の再考」を促すコメントが付いた場合、子どもも辛いのであるが、どちらかと言えば親の方がメンタルダウンになるケースは「あるある」だ。

 親だけがひとりで孤独に落ち込んでいるのならば、まだ救いはあるのだが、こういうタイプの親は往々にして、「不合格になる不安」をよりによって受験の当事者である我が子にぶつけてしまうので、性質(たち)が悪いのだ。

 毎年、親の不安が影響して、呪いにかかったかのように実力が発揮できない子が出るのでここからの親の仕事はただひとつ。「いかに良い気分で受験本番を迎えさせるか」だけである。

 陸也さん(仮名)は現在、難関校S学院の高校生だ。彼は小学6年生当時、有名中学受験塾の最上位クラスに所属していたそうだが、彼が言うには「常に崖っぷち」。クラス分けテストでは「毎回、クラス落ちを覚悟した」という。

 なんでも「ここぞ!」という時に限って、ケアレスミスを連発。絶対に落とせない問題に限って単純なミスが出る始末で、これには陸也さんはもちろん、塾の先生も頭を抱えていたそう。

「あれは確か12月の最終模試でしたね。結果が返ってきて、絶望しました。S学院の合格確率は20%以下。『志望校の再考を!』っていうコメントが付いていましたから」

 塾の先生が「本番に弱い」陸也さんにS学院ではなく、もうひとつ下のランクの学校を本命校にして受験のラインナップを組む作戦を提案するくらい「ヤバイ」結果だったそうだ。

「小4の時から、S学院1本で頑張ってきたので、この最終模試の結果には正直、絶望しました。模試のコメントにも、塾の先生にも『S学院は無理!』って断定されたようで、一気に自信がなくなっちゃって、完全にやる気を失っていました」

 ところが、陸也さんは予定通り、S学院を受験した。

「ウチは母親がすごかったと思いますね。普通なら、うろたえて、塾が言うように、合格を獲りにランクを下げる作戦を勧めると思うんですけど、母はそう言わなかったんですよ」

 塾での最終面談の際に母である友美さん(仮名)は塾の先生に「お話は理解しました。家でよく検討しますね」と言って塾を出たのち、陸也さんにこう言ったのだそう。

「陸也、ママ、お腹空いたから焼肉〇〇屋に行く。付き合う?」

 そして、カルビを焼きながら、陸也さんにこう言ったとか。

「陸也、肉、おいしいね。ママ、ハラミも食べちゃおっと♪」

「なんか不思議なんですけど、母がうまそうに肉を平らげているのを見て『やっぱS学院受けよう!』って思ったんですよね。受験については『陸也は大丈夫だから、心配してない』って一言、言っただけで、ひたすら肉を食ってました(笑)」

 S学院は2回入試を行っている学校で、陸也さんの1回目は不合格。2回目の方が難易度は上がるので、ここでも塾はS学院ではない、より安全な進学校を勧めてきたという。

「それで、親に『やっぱり2回目のS学院を受けさせてください』ってお願いしたんです。そしたら、両親とも『いんじゃない? 受験は慣れだから!』って。いい加減っていうのか、テキトーって言うのか(笑)。でも、正直、テンパっていた僕には、その『いんじゃない?』でリラックスできたってのもありますね。開き直ったのもありますけど、なんか、落ち着いて受けられたんです。もし、あの時、一緒にオタオタされていたら、間違いなく、僕はS学院を受けてなかったと思いますから、親には感謝しています」

 友美さんにも、当時のことを聞いてみた。

「焼肉……食べましたね(笑)。まあ、最終模試でしたし、落ち込まなかったと言えば、噓になりますが……。でも、落ち込んでも成績が上がるわけでもないですから、気分転換したほうが絶対いいですよね。陸也が頑張っていることは私が一番よく知っていましたし、陸也のS学院に対する思いは本物でしたから、受験しないってことのほうが不自然。模試は模試であって、本番じゃないですし。受けたいって気持ちがあるってことはチャンスもあるってことです。ならば、気分よく受験すればいいだけだって思ったんです」

 もちろん、併願対策もしっかりと行い、最悪、この学校でも十分に楽しめるという学校を確保した上でのS学院チャレンジではあったのだが、S学院合格への秘訣は友美さんの作戦勝ちでもあると思う。

「実は夫も『ここぞ!』が苦手な性質(たち)なんです。ビビりっていうのか、本番に弱いっていうのか(笑)。陸也は見事に夫に似てしまい、だから、慣れもあって、私は自然と励まし方がうまくなっているのかもしれませんね。人事を尽くしたら、あとは開き直って天命を待つだけです!」

 陸也さんの座右の銘は友美さんがよく口にする「意志あるところに道は開ける」なのだそうだ。現在の陸也さんは「医者になる!」という意志を持って大学受験を迎えようとしている。

ブーム化する中学受験「授業料はなんとかなる」が落とし穴! 想定外の出費はン万円!?

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 ある塾の試算によると、2022年の首都圏中学受験者数は昨年よりも5%増えて5万5千人になるという。コロナ禍をもろともせず、受験者総数、受験率ともに、6年連続で右肩上がり。つまり今年度も人気校では激戦が予想されているのだ。このように、中学受験はもはや「ブーム化」しているともいえよう。

 都内近郊に住む友莉子さん(仮名)も、そんなブームに乗ってしまったひとりだ。友莉子さんの自宅周辺は田畑も残っている、どちらかと言えばのどかな地域。代々で住まわれている人たちと、友莉子さんのように宅地開発によって移り住んできた人たちが混在しているエリアだそうだ。

「ウチの近所は大豪邸というほどの家はなく、いたって普通の戸建てやマンションが立ち並んでおりまして、サラリーマンの共働きが多いって地域です。お母さんたちも普通に働いているので、そのせいもあって、子どもたちのプレスクールや習い事は豊富にあり、人気でした」

 友莉子さんもパートタイムでがんばるワーキングウーマン。仕事の日は、習い事をしている娘の恵茉さん(仮名)をピックアップして帰宅していたという。

「中学受験は最初は考えていませんでした。恵茉の下にも弟がいるので、世帯年収が900万円の我が家には、ちょっと私立中学は苦しいかなと思っていたんです」

 ところが、恵茉さんが3年生になると、気が付けば、周りはほとんどといってもいいくらいに中学受験専門塾に通っていることに気が付いたのだという。

「ママ友に聞いたら、低学年から入塾させないと、後からでは定員オーバーで入れないと言われたことと、恵茉が自分もお友だちと同じ塾に行ってみたいと言うので、入れたんです。でも、自分の中に、何て言うのか、中学受験へのステイタスみたいなものがあったとは思います。何だろう……、みんながやってるなら、ウチもやらなくちゃ……みたいな感じですかね……。周りに聞いたら、同じような年収でも受験しているようだったので、大丈夫かなって思いました」

 友莉子さんは自身のこれまでの人生を思い起こすに「流され派」だと自嘲する。

「何でもそうなんですよ。特にしたいこともなく、周りが大学に行くので、そんなもんかと推薦で行けた大学に進学。就職して、友人たちが結婚していくので、たまたま、その時付き合っていた人と結婚。そのうちに子どもが生まれて、そろそろマイホームなのかなってことで35年ローンで家を購入。中学受験も同じような流れで参入したって感じです」

 恵茉さんは特に問題もなく、志望校のひとつである私立中学に合格。現在は中学3年生になったという。

「学校自体は本当に素晴らしいと思います。環境も先生や生徒の質も、あらゆる面でいいと思うんですが、やっぱり良いものというのはお金がかかるってことなんですね……」と友莉子さん。

「授業料はなんとかなるんです。修学旅行は海外なんですが、これも入学した時から、学校で積み立てをしていく方式なので、これもなんとかなります。想定外なのは、学校が外部塾を呼んで放課後に受験指導などを行う校内塾の受講料とか、部活の費用とか、遠征にかかるお金とか、細かい話ですが指定靴下なんていうのもジワジワきます」

 学校指定のグッズやら、部活で必要となる小物やら……意外と想定外といえる出費は多いのだ。私立中学の家計が負担する経費は平均すると年100万円ほどになる。もちろん学校によっても、そのご家庭によっても開きはあるのだが、やはり「安いですね!」という話にはならないことは確かであろう。

 周りの子たちが「普通に」払っているものをまさか「お金がないので行けません、買えません」というのはあまりに哀しいという親心があるので、親たちはがんばって捻出していることも少なくはないとみる。

「もう部活のママ友ランチなんて長い間、行っていません。ランチで1回5千円はするんですよ。交通費だけでも、結構かかるのに、それで、その後、お茶をしましょうなんてことになったら、笑顔でいられません……。まあ、ママ友ランチなんて、一生、行かなくても何の問題もないでしょうが、困るのは子ども同士のプライベートな付き合いです。ディズニーランドに仲間同士で行くとか、誰ソレちゃんの誕生日会があるから、お招きに預かるので、それ相応のお祝いを持って行かねばならないなどのイベント系の付き合いが発生しちゃうんですよね……」

 思わぬ出費に困っているという友莉子さん。恵茉さんはというと……。

「我が家にとってはバカにならない、痛すぎる出費ですから、恵茉も恐る恐る切り出すって感じです。恵茉には我が家の家計事情は伝えていないのですが、絶対、わかりますよね。そのたびに、親としては切ない気持ちでした。過去形で語っているのはコロナになって、今は友だち同士の遊び自体がなくなっているんです。コロナは辛いことでしたが、これは唯一、助かったことですね(苦笑)」

 友莉子さんはこれから中学受験に参入しようかどうしようかと迷うママたちにアドバイスとして、こう言っていた。

「周りの人の家計を外から何となくうかがって『ウチと同じくらいかな?』なんて勝手に思い込んじゃダメですね。もしかしたら、実家が裕福、ローンがない、副業がおありになるなどで、外から想像するよりも実際は余裕があるご家庭もあると思います。入ってしまうと考えられなくなってしまうので、その前に冷静にコスパを考えないと苦しくなるかも……。環境を買うってお金がかかるってことだと痛感しています」

 友莉子さんはパートの日数を増やして収入を上げようとがんばっているが、恵茉さんの弟は中学受験に興味がなく、そのまま公立中学に行ってくれたので、ホッとしているという。

中学受験、心配症の母親が塾でブッ倒れ……この季節の“あるある話”に塾の対応は?

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 2月の東京・神奈川の中学受験本番まで残り100日を切った。ということは1月受験である他県の中学受験生も含め、すべての中学受験家庭に焦りが見える時期が到来したということになる。この晩秋から初冬にかけては、そのプレッシャーで押しつぶされそうになるお母さんが続出する季節でもあるので、注意が必要だ。

 啓代さん(仮名)は自ら「心配性なんです、私」と訴えるほどに繊細な人である。一昨年の今頃の話。小6の息子である大輔くん(仮名)を塾にお迎えに行った啓代さんは、校舎内に大きく貼られた掲示を見て、言いようもない不安感に襲われたのだそうだ。掲示板には、墨文字でこう書かれてあったという。

「受験本番まで、あと87日!」

 その直前、啓代さんがお迎えの母親同士の会話を聞くともなしに聞いていると、過去問の話をしているご様子。

「そうね……。お兄ちゃんの時は過去10年分をやりこんだから……」

「そうなのね、やっぱり10年? うちはまだ、3年分くらいしかできてないな……」

 啓代さん自身には中学受験の経験はなく、大輔くんは一人っ子。何もかもが手探りなのであるが、人見知りな性格も加わり、ママ友と呼べる人もいない“孤独の戦い”だったそうだ。

 啓代さんは「え、もう3年分? 3年分は終わったってこと? ウチはまだ1年分だけ……。え、待って。10年分やらないといけないって、どのくらいかかるの? もう、絶対、間に合わないじゃない!?」という焦りを感じた時に、目に飛び込んできた文字が「あと87日」。大輔くんは国語・算数・理科・社会という4科目で受験するので、1科目50分だとして、過去問1年分で200分。10年分で33時間超。それを第3志望校までやるとしたら……?

 塾も学校もあるのに、どうやって時間を作るのかを考えただけで、啓代さんは顔面蒼白。それからの記憶がおぼろげだと言う啓代さんであるが、それもそのはず、なんと啓代さんはそこで貧血のような症状を起こして、倒れてしまったというのだ。そして、気が付いた時には、事務室内のソファーに寝かされていたという顛末。

「もう、本当に恥ずかしかったです。手当てしてくださった先生にも申し訳ないですし、何より、大輔に心配をかけてしまって……」

 ちょうど、その日はテスト結果が返ってきた日だったそうで、その結果を知っていただけに啓代さんの頭の中は「もうダメだ。あれもできてない、これもできてない!」という思いでいっぱいになり、一気に血の気が引いたような状態に陥ったという。

 また、間が悪いというのか、最後のクラス分けで下位クラスにいた子が大輔くんよりも上のクラスにジャンプアップしたことを耳にしていたというタイミングであったため、啓代さんはますます焦るようになり、「あの子に負けるようじゃ、もう受かるわけがない」という思いに苛まれて、勝手に苦しんでいたらしいのだ。

 しかし、人間、塞翁が馬ということがあるのかもしれない。

「でもね、あの時、倒れてよかったです。その後、室長と面談することになって、塾の先生に初めて思いを打ち明けられたんです。受験が心配で心配で、たまらないって……」

 多くの塾の先生たちにとっては、この時期に不安定になる母親のことは想定内。「あ、例の症状ですね!? 今年もその季節になりましたか!」くらいの感覚で、大抵は「お任せください」である。

 大輔くんの塾の室長は啓代さんにこう言ったという。

「大輔は大丈夫ですよ、お母さん。確かに夏明けからは成績が今までのような上り調子ではないですが、彼はそれでも腐らずに淡々と勉強を続けています。こういう子は大丈夫なんです」

 啓代さんは、その言葉を聞いて、ちょっと安心したそうだが、室長は彼女にこう言い渡したそうだ。

「問題はお母さん、あなたのほうです。母親の不安はダイレクトに子どもに伝わってしまう。いくら心配だからといって、迎えに来ただけで倒れるのは大輔の足を引っ張るだけです。どうです? 大輔は毎日塾で預かりますから、過去問も塾がない曜日に空き教室でやらせましょう。お迎えも極力、お控えください。今までも、駅までは職員が引率していますから、ご安心を。お母さん、あなたの仕事は笑顔でいることです」

 啓代さんには痛烈な言葉となったのではあるが、きっと根が素直な人なのだろう。

「承知しました。私は私の仕事を頑張ります」と先生に誓ったという。

 もともと、大輔くんは塾が大好きという子どもだったためか、この作戦は功を奏し、彼は見事に第一志望校に合格したという。

 塾の先生たちと「母と中学受験」の話をしていると「お母さんの不安を子どもに伝染させないようにするのも我々の仕事のひとつ」と言われることが多い。

 心配は母なればこそではあるが、受験時は特に「肝っ玉母ちゃん」でいる方が子どもにとっては心強い受験になるように感じている。

中学受験を毛嫌いする担任に「勉強漬け」と言われ……『二月の勝者』は将来が心配!?

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験関係者の間では今、日本テレビ系列で放映中の連続ドラマ『二月の勝者-絶対合格の教室-』が話題。塾の先生たちも注目しているようで「当たらずとも遠からず」「いやいや、なかなかにリアル」などという感想を多く耳にしている。

 その原作マンガ(高瀬志帆作)の中に「なんで『勉強ができる』って特技は、(中略)褒めてもらえないんだろうね?」という台詞がある。つい最近、筆者が受けたお悩み相談はこの台詞を思い出すものであった。

 勇人くん(仮名)は6年生。活発な男の子で好奇心旺盛。幼い頃から利発で、3歳頃には平仮名もアルファベットもマスター。記憶力もよく、それこそ「一を聞いて十を知るタイプ」らしく、親も期待を寄せての中学受験組である。

 勇人くんの小学校では受験組は少数派で、多くの子たちは地元公立中に進学するそうだ。しかし、特に受験組・非受験組に軋轢はなく、みんな、普通に仲良し。事実、勇人くんは5年生までは塾も学校も大好きで、受験組、非受験組関係なくクラスメートとも仲良くしていたという。

 ところが、6年生になり、担任の先生が代わった途端、雲行きが怪しくなってきたのだそうだ。明らかに中学受験組と非中学受験組との間に見えない溝が広がっているとか……。勇人くんの母である希美さん(仮名)はこう話す。

「とにかく担任が最悪なんです。中学受験に恨みがあるとしか思えないんですよ」

 中学受験塾Sの最上位クラスにいる勇人くんにとっては、今の学校の授業は苦痛の時間。わかりきっていることを延々と演習させられることも、同じ漢字を30回も書かせられることも、うんざりする原因になっているという。

 希美さんが問題視する点は、出された課題を正答しても、勝手に次の単元に進むことも許されず、そもそも先に正答を発言することはご法度だということ。これは「有能アピール」に当たるらしく、担任から忌み嫌われる行為なのだそう。

「担任は何かにつけて『塾に行っているからって偉いわけじゃありません』とか『わかっていない子の立場に立って待っててあげなさい』とか言うそうです。わけがわかりません。勇人も『いや、一度も偉そうにしたことはないし、わかってない子をバカにしたこともないんだけど……。考えられるとしたら、あまりに退屈な時間なのでボーっとしているように見えるってことくらい?』と言うくらい先生への対応に苦慮しているようなんです」

 4年生と5年生の担任の先生は「勇人! オマエが黒板に立って、みんなにわかりやすく講義してやれ! 勇人なら、わからない子にどうアプローチする?」と言われることも多く、理解している子にはさらに上のレベルの問題をドンドン出してくれていたのだそうだ。

「受験勉強が本格化してきた4年から、そういう担任の先生に当たったので、勇人も私もそれが普通だと思っていたんです。ところが、今の担任は、中学受験組が授業中に手を上げても一切、無視だそうです。おかげで、すごく雰囲気がいいクラスだったのに、微妙にシラけているんですよね。最終学年になって、こんな“ハズレ先生”に当たるとは思ってもみませんでした……」

 希美さんの怒りは担任の先生との直接対決で沸点に達する。

「こないだPTAの役員会で学校に行った時に担任の先生にお会いしたんです。そしたら、先生がわざわざ私に近付いてきて、こうおっしゃったんです。『S塾に行かれているそうですが、小学生が勉強漬けとはいかがなものかと思いますね。将来が心配です』と。確かに勇人は勉強していないとは言いませんが、本人にはどうしても行きたい学校があり、そこを目指して頑張っているんですよ。学校で授業妨害をしているわけでもないのに、なんで、こんなことを面と向かって言われないといけないのか……。応援してくれなくていいから、せめて邪魔しないでほしいです」

 中学受験組を目の敵にしているとしか思えない先生は少なくはなっているが、少数派ながら存在し続けていることも事実。たいてい、過去に中学受験組の子どもが生意気な態度を取ったとか、行事に非協力的であったとか、受験直前の1月に長期で欠席したというような「負の記憶」を抱えているように感じる。

 そんな憤慨するできごとがあったばかりの希美さんだが、ちょうど、その日に勇人くんが発した疑問には考えさせられたという。

「Bくんって足が速い子がいるでしょ? Bくんが、こないだサッカーでスカウトっていうの? そういう対象者に選ばれたんだって。Bくんは教室でもボールの練習を欠かさないし、サッカーに賭ける情熱はホントすごい。で、担任の先生は皆の前でBくんのことをめちゃくちゃ褒めたんだよ。それはいいんだけど、同じように一生懸命やっていることなのに、サッカーなら良くて、勉強はなんでダメなのかな?」

 時に大人は子どもに対して運動を頑張ることは正しくて、勉強を頑張ることはかわいそうなことだと否定する。サッカー少年に「サッカー漬けでかわいそう」とは聞かないが、中学受験生は「勉強漬けでかわいそう」などという言い方で、その批判をまともに受けることが多い。

 勇人くんが指摘するように、何かに頑張るのはスポーツでも勉強でもすごいこと。自分自身のレベルを上げていきたいという目標を持てるのは幸せな生き方だ。変な先入観を持つのは、きっといつも大人のほうなのだ。

中学受験は本当に課金ゲーム!? 受験塾を盲信した母子、リアル『二月の勝者』の結末は

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 いよいよ10月16日から日本テレビ系列で連続ドラマ『二月の勝者-絶対合格の教室-』が始まる。これは中学受験の実態をリアルに描いて大ヒットしている漫画が原作。「中学受験は課金ゲーム」「親はスポンサー、子どもは金脈」という塾講師である主人公の歯に衣着せぬ言葉に驚いた人もいることだろう。

 「塾は営利企業」と言い切る主人公。こういう側面は確かにあるだろう。難関中学にどれだけの受験生を合格させることができたかという“数字”にその塾の存亡がかかっているといっても過言ではないからだ。それゆえ、塾によっては受験生親子を執拗なまでに煽る教室も出てくる。

 聡さん(仮名)は息子の潤くん(仮名)に中学受験をさせる気は全くなかったのだそうだ。ところが、潤くん自身が「学校の授業はつまらない! 塾に行きたい!」と言い出したので、近くの塾に行かせてみたら、そこが中学受験塾だったということでスタート。潤くんが小学5年生の春のことだったらしい。

「もちろん最初は真ん中よりも下のクラスの所属でした。ところが、潤は負けず嫌いな子で、4年生から通っている子たちをライバル視しまして、あれよあれよという間に最上位クラスに上がっていったんです」

 さぞや息子を誇らしく感じているのかな? と思いきや、聡さんの本音は別にあった。

「うちは代々、地域密着で商売をしているので、何も私立に行く必要はないんです。いえ、むしろ地元で人脈を作ってもらったほうが助かるので、地元公立中、地元高校のほうがいいんですよ」

 聡さんによると、家業を潤くんに継いでもらいたいのは山々。しかし、それよりも家業的には今現在のほうが大事なのだそうだ。小学校PTAの要職を積極的に引き受けているのは、地元人脈を強固にする必要があるから。もし潤くんが地元中学に通うようになったならば、当然、PTA役員も引き受ける気持ちがあったという。

「潤の塾は難関校Kに合格者を多数入れていることがウリみたいなんですが、そんなことはまったく知りませんでした。知っていたら、入れなかったです。とにかく『Kに入らずば人間ではない!』みたいな説教を先生が大真面目にするらしいんですよ。『君たちはKに入るだけの実力を備えたエリートである!』みたいなね。まあ、塾生を鼓舞するのが先生の仕事でしょうが、問題は潤がその影響をモロに受けちゃったってことです。小学生が土日もなく勉強している姿は異常です。しかも、僕から見たら、人としては最低な価値基準を持つように思えてしまい、受験には大反対でした」

 聡さんによれば、潤くんの下位クラスの子をバカにする発言が目立つようになってきたことが気になり、また、少しでも成績が下がっただけで機嫌が悪くなるなどという態度が目に余るようになって、父親としては非常に問題だと思うようになったという。

 ところが、母親であるさやかさん(仮名)は違う考え方を持っていた。潤くんが自分からK中学に行きたいという以上、サポートするのが親であるという主張である。

 それゆえ、塾の言うままにオプション講座をすべて取り、もちろん勉強合宿なるものにも参加し、弱点補強にとプロ家庭教師まで頼むようになり、それこそ“課金ゲーム”さながらにお金をつぎ込んでいったという。

 妻と息子は、何かをしないとK中学には入れない、それどころか最上位クラスもキープできないという熱病に冒されたかのような勢いだったと聡さんは回想する。

「もちろん、妻とは喧嘩の日々でした。『潤が勉強するのを邪魔するの?』、そして、最後は『潤があなたみたいな高卒止まりになってもいいの?』です。自分は高卒ですが、人並み以上には稼いでいるので、問題ないと思うんですけどね……」

 結局、潤くんはK中学に不合格。併願校に入学し、現在、高校生である。

「そりゃ本人も妻も不本意だったでしょうが、僕は逆に良かったと思っています。金をかけました、受かりました、有頂天になりましたっていうのは絶対に良くないと思いますから。大学は本人が行きたければ、行けばいいと思いますが、予備校とかに頼らずに自力で行ってほしいですね。(中高の)授業料は払いますが、僕は予備校代を出すつもりはありません」

 聡さんの試算によると、潤くんの塾代関係の諸経費は小6の1年間だけで300万円になっているそうだ。

「我が家には潤の下にも、まだ小さいですが、弟妹がふたりいるんですよ。この子たちも私立に行くとなったら、一体、いくら課金することになるのかと、恐怖しかないですね……」

「合格のために必要なのは、父親の経済力、そして母親の狂気」と言ったのは『二月の勝者』の主人公、黒木先生だが、聡さんの話を聞きながら、改めて、確かにそういう面はあるよなぁという感想を持ってしまった。

中学受験のせいで離婚危機! 「程度の低い大学出」の妻に任せたのが間違いだった!?

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験は夫婦の今後を占うリトマス試験紙――これは中学受験の取材歴20年の私の実感だ。

 夫婦道(めおとみち)は山あり谷ありで、歩きやすい道ばかりではないのであるが、夫婦関係は「夫婦の歴史的一大事」の時に2人の心がひとつになっていたか否かによって大きく変わっていく。「夫婦の歴史的一大事」というのは、2人でともに乗り越えるべき人生の難所、峠のことだ。

 例えば、妻の妊娠出産。これはまさに一大事だ。そして、「中学受験」もある意味、子ども本人だけでなく夫婦にとっても人生の「一大事」に当たる。「たかが中学受験」なのであるが、当事者にとっては「されど中学受験」という、子どもの「将来」を賭けた「勝負」になる。つまり、本来ならば、家族が一致団結して、全員で同じ目標に向かうことが望ましい類のものである。

 ところが、夫婦もいろいろなので、受験に一枚岩とならないケースもまた多い。

 留美子さん(仮名)と茂さん(仮名)には、一人息子の豊くん(仮名)がいる。留美子さんは中学から、ある女子校に入学し、附属高校を経て、そのまま併設大学に進学したエスカレーター組である。一方で茂さんは地方出身のため、地元公立高校から東京の国立大学に入り、その大学院を卒業している。

 豊くんの教育方針については、夫婦で改まっての話し合いをしたことはなかったそうだ。茂さんは「子育ては母親に任すのが一番」という信条だったらしく、家のことは何一つしない人(留美子さん談)という。

 そんな中、豊くんが小学校でいじめに遭うという事件が起きた。豊くんはとてもおっとりしていて優しい性格のせいか、強いタイプの女の子グループから嫌がらせをされることが頻繁に起こったのだという。

「当時、小学5年生でした。『学校に行きたくない』と泣くので、理由を聞いたら、まさかの女の子たちからのいじめだということがわかり、びっくりしました。主人は『女にやられるなんて情けない(怒)!』の一言で、相談にもなりませんでしたが、どこから聞いてきたのか、豊が『僕は(女の子がいない)男子校に行きたい!』って言い出したんです。それで、慌てて中学受験塾に入ったというわけです」

 結果、遅いスタートである5年生の夏からというハンデを克服し、豊くんは見事、難関と呼ばれる私立B中学に入学。楽しい生活を送れるはずだったという。

 ところが、難関中学は授業進度も早く、中1の冬には早くも成績下位という深海層に潜るようになっていき、中2の1学期末の面談で「併設高校へ進学できるかは微妙」とのお呼び出しを母子そろって受ける始末。

「もともとギリギリの合格ではあったんです。スタートが遅かったせいもあり、塾に家庭教師にとお金もかかって大変でした。でも、私はとにかく豊を女子がいない環境で、できれば偏差値の高い学校に入れようと、その方が変ないじめはないだろうとの一心で豊にかかりきりになっていたんですよね……。B中学にさえ入れば、バラ色の未来が待っていると思っていたのですが……」

 豊くんには何としても奮起してもらい、併設高校へ進学させようと留美子さんは家庭教師を依頼することにしたという。

 ところが、中学受験費用を自身の貯金から捻出してしまった留美子さんには、払えるものがなく、仕方なく夫の茂さんにお願いしたところ、答えはNO。

「主人はこう言ったんです。『馬鹿に払う金はない! 今の学費ももったいない。公立に転校させろ! 俺は前から、私立中学に入ってくれとは一言も言っていない』と。豊の中学受験の頑張りを見ていたら、せっかく受かったB中学を退学しろなんてことは言えないはずです。さらに、許せないことを言いました。『程度の低い女子大出のオマエに教育を任せていたから、豊がダメな人間になってしまった』と……。主人は豊がB中学に合格した時は自分が入学したかのように有頂天だったんですよ。主人の中では、豊がうまくいっている時は自分の手柄、うまくいかないのはすべて私のせいなんです」

 そんな中、留美子さんの家庭に大激震が走る。茂さんの浮気が判明したのだ。

「それまでも、休みの日に出勤するというような、おかしいなって思うことは多かったんです。もしかして、誰かと私を比べているのかな? って思ったことも……。でも、豊のいじめから始まって、中学受験、さらにはコロナ禍でB中学の勉強についていけないなど、落ち着かない日々の連続でしたし、正直、主人とは話すこと自体を避けていた感じです。でも、まさか、大変な思いをしていた家族を長年、裏切っていたなんて思いもしませんでした」

 茂さんはいわゆるダブル不倫。お相手は同業のキャリアウーマンだったそうだが、相手のご家族にもバレて修羅場に。留美子さんが言うには「おそらく(相手夫婦は)別れたと思いますが、もうどうでもいいです」。

 留美子さんは今現在、豊くんとともに実家に身を寄せている。幸いにも実家が裕福だったこともあり、祖父母は茂さん抜きの娘と孫の帰還を喜んでくれているらしい。

「主人は、豊を公立でたくましく育てたかったようなんですが、主人いわく『オマエが聞く耳を持たなかった』と。自分だけが家庭内で『蚊帳の外』で寂しかったので『仕方なく不倫した』そうです。呆れちゃいますよね、家庭内のことは何一つやらなかったくせに、この言い分ですよ。主人は『戻ってきてほしい』と言っていますが、もう無理です。近々、調停が始まると思います」

 実は「中学受験」がトリガーとなって、もともと不安定だった夫婦関係が崩れるケースは意外と多い。留美子さんのケースを見ても「夫婦道」は険しいのであるが、特に中学受験に参戦しようと考えているご家庭は、夫婦の教育方針の一致は不可欠であるということは申し添えておきたい。

 なぜならば家族間の緊張が高い家で育つ子どもは精神的不安定に追い込まれやすいからだ。「中学受験をすると不仲になる夫婦が多い」という実感を持つ私から見ると、親の不仲は子の成長への悪影響でしかない。

 まだ幼い子どもというものは実に健気な生き物で、両親の不仲を「自分のせいだ」と思い込みやすいので、なんとか家庭内のバランスを図ろうと子どもなりに頑張ることが多い。

 子どもは誰しも、親の庇護がないと生きてはいけない。それゆえ、おちつかない家庭で育つ子ほど、両親の愛情を受けるために、実は声を潜めながらも親に気を遣っているということを私たちはもっと認識しなければならないと思っている。

模試・自宅受験で息子のカンニング発覚……コロナ禍の中学受験、「撤退する or しない」親子の苦悩

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 新学期を迎えても、新型コロナウイルスの猛威は変わらず。受験生活は、ただでさえ緊張と不安がつきものなのだが、先の見えないコロナ禍では例年以上にストレスを抱えるご家庭は多い。

 9月現在、大手中学受験塾の動向はさまざまであるが、中には緊急事態宣言時下での対面授業を停止し、全面的にZoomを活用した「双方向Web授業」に切り替えた塾もある。

 正吾くん(6年生・仮名)が通っている塾では対面授業と双方向オンライン授業を各自の希望により選択可能となっているのだが、正吾くんは今現在、双方向オンライン授業を選択し、自宅での学習を続けている。母である京子さん(仮名)の強い希望なのだそうだ。

「本当は対面で授業を受けたほうがいいとは思うんです。でも、ご近所でも『地元中学で陽性者が出現』『基幹病院でクラスター発生』というような情報が耳に入るようになり、感染が身近に迫ってきたという実感があって、ウチには基礎疾患持ちの年寄りもいるので、怖くて塾に行かせられないんですよ」

 京子さんの悩みは夏休み明けの模試で余計に大きくなったという。

「そういうわけで、先日の模試は自宅で受験させました(自宅受験=各自、自宅で時間を測って受験し答案を郵送する。コロナ禍で多くの模試が自宅受験に対応するようになった)。ところが、やはり自宅だと甘えが出るのか、休憩時間が長くなって時間通りには進まなかったんです。模試会場の緊張感には遠く及ばず、これでは、何のための模試かと思ってしまいました……」

 しかも、魔が差したというのか、さらに、正吾くんのカンニングまでもが発覚したそうだ。

「正吾は国語が苦手なんですが、わからなかった漢字やことわざなどをスマホで調べて、そのまま写しちゃったんです。私が傍にいると気が散るというので、正吾の部屋から出たのが裏目に出ました。もう、情けないやら、なんやらで、正吾の前で号泣しました……」

 正吾くんの話によると、少しでも偏差値を良くしたくて、ついついカンニングをしてしまったとのこと。

 中学受験はしたいけれども、正直、オンライン授業はつまらなく、友だちとも会えない塾には魅力を感じない。志望校にしている学校には4年生の時に文化祭に行っただけで、その後はどの学校にも行っていないので、正直、「中学」と言われてもピンと来ないという。京子さんはこう悩みを打ち明ける。

「塾からは『受験生のフォローは家庭でやりましょう』と言われているのですが、何のための塾なんだ? って思いもあって、不信感すら感じます。去年も、塾のオンライン対応が整うまでに時間がかかり、本来なら、あるべき講習も受けられませんでした。自宅学習と言われても、正吾のような遊び優先タイプには難しく、なんで、こんな時に受験になっちゃったのかな……って泣きたくなります」

 中学受験はよほど精神的に自立している子でない限り、「ひとりだけで頑張る」のは無理がある。たいていの受験生には、楽しい中学生活を思い描くことと、仲間と切磋琢磨しながらともに頑張っているという実感が必須なのであるが、このコロナ禍では正吾くんのようなケースはとても多いと言えよう。

「生活に制限がある中、一番、辛くて残念に思っているのは正吾。親が焦ってどうする!?」と自分に言い聞かせる毎日だという京子さん。

「正直、当初目指していたような満足いく受験にはならないと思いますが、今さら撤退も考えられないので、『みんな同じ条件なのだから、我が家は我が家なりの道を行くしかない』と腹を括ったところ」と苦しい胸の内を明かしてくれた。

 一方で、こんな話もある。明日香さん(仮名・6年生)は夏期講習を行かずして、中学受験から撤退を決めたという。母である美奈子さん(仮名)がその理由を説明してくれた。

「やっぱり、コロナです。とにかく、この1年半、振り回されっぱなしで、塾もオンラインになったり、対面になったりで落ち着かず、腰を据えて何かをやるにはタイミングが悪すぎます。私にとっても、学校説明会がオンライン開催という現状では、思うように学校研究もできませんでしたし、これから先、受験までの間に事態が好転するとも思えません。とにかく今は時期が悪くて、明日香ががんばる時ではないんだなって思えてきたんです。それで、明日香に言いました。『今まで身に着けた知識は受験をやる・やらないにかかわらず、明日香のものだから、ここは自信を持って高校受験に切り替えよう!』って」

 明日香さんが嫌がるかな? と心配した美奈子さんであったが、それは杞憂だったという。

「あまり勉強が好きじゃなかったのかもしれませんが(笑)、明日香は意外とアッサリ『いいよ~!』って。今は受験のために一時、中断していたテニス教室に復帰して、楽しそうにやっていますし、自分から『やっぱり英語は必要!』と言い出して、個別英語塾に通うようになったんですよ。中学入学までに英語検定にチャレンジするそうです。人生、何をやるにも、時代的背景にはあらがえないので、明日香には、この選択で良かったと思っています」

 この未知のウイルスとの共存は私たちの暮らしや、未来への選択にさまざまな影響を及ぼしている。中学受験で言えば、続ける選択をする人、撤退を決断した人など、こちらも人それぞれだ。ただ、中学受験の場合、どの道を選ぼうとも親が懸命に「我が子にとって良かれ!」という祈りを込めての選択である。

 それぞれのご家庭に「決めたならば、それが一番良いこと」というエールを筆者は送りたい。

「中学受験ゼロの田舎」で東京の中高一貫校を目指したスパルタ父! 子どもへの影響は……

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 2021年はコロナ禍の入試となったが、中学受験率が上昇。その理由として、充実のオンライン授業を実施できていた私立中学と、対応が鈍かった公立中学を比較し、学力格差を心配した家庭が多かったということが挙げられている。

 しかし、これは首都圏および関西圏を中心とした話になる。文科省が発表した学校基本調査によると、全国でみた場合の中学受験率は8.3%(令和元年調査)。地方であれば、中学受験は極めて珍しいという地域の方が多い。たとえ受験率が全国一の東京であっても4人に1人。さらに、東京は地域差が激しい。住んでいる地域によってはクラスのほとんどが受験するという小学校、逆に中学受験は少数派という地域もある。

 このように中学受験率は、都道府県によっても、住んでいる地域によっても大きな差があるものなのだ。

 一人息子の母・すみれさん(仮名)は地方在住。自宅から一番近い駅は無人駅で、中学受験をする人は皆無という地域に住んでいる。夫は歯科医であるが、代々というわけではなく、夫の出身はその地方の県庁所在地。たまたまご縁があって「何もないこの街」(すみれさん談)で開業したそうだ。

「夫自身は県庁所在地にある公立高校から東京の大学に行ったのですが、息子が生まれた時から『海斗(仮名)には中学受験をさせる!』と言っていました。なんでも、大学の仲間の中でも私立中高一貫校出身の人は『人生が違う』って言い張るんですよ」

 夫と同じ高校出身で歯科衛生士として夫を手伝っているすみれさんには、夫が語る「中学受験」とその先にある「私立中高一貫校」はよく理解できない存在だったという。

「そもそも、ここには中学受験塾なんてないですし(笑)。でも、夫には『受験は視野を広げるもの。視野は幼い時から広げるべし!』という鉄の意志があって、海斗には有無を言わせず、“パパ塾”を開いていました」

 パパ塾は結構、スパルタだったため、すみれさんは、時として勉強を嫌がる息子を不憫に思うこともあったという。

「海斗は田舎の子どもなので、私立中学だの、中学受験だの言っても、わからないんですよ。だって、周りには田んぼしかないし(笑)。クラスメイトは遊びまわっているのに、何で自分だけ勉強させられるのか意味がわからなかったと思います。当然、夫とは、相当、揉めました」

 そんな中、家族で志望校を偵察がてら上京したのだそうだ。

「正直、びっくりしました。ある学校に見学に行ったんですが、何て言うのか、そこの雰囲気が自由で……。制服もないし、髪型も自由。全部、生徒さんの裁量に任せているんだなってことがわかるし、いろんな子がいて、それぞれを認め合っているって空気が伝わってきたんです。何より、生徒さんたちがアカデミックなんだけど、すっごく楽しそうなんですよね。夫が言っている『視野を広げたら、人生が変わる』って意味が少しわかったような気がしました。そこからですね、私も中学受験に向かって腹を括りました」

 もちろん、海斗くんにとっても、それは衝撃的な経験だったようで、帰宅後からは受験勉強に猛烈に燃えるようになったという。

 そして、努力の甲斐あって、海斗くんは無事に合格。寮生活を謳歌し、海外語学研修も体験した高3生になっている。大学受験に向かってギアを上げている海斗くんだが、将来的には、日本と海外の架け橋になるような仕事をしたいそうだ。すみれさんは言う。

「もちろん、こんな田舎から都会の学校に一人息子を出した家なんかありませんから、ご近所からは変わり者扱いでしたよ。でも、海斗を12歳で巣立たせたことに後悔はありません。海外語学研修に参加したことで、息子はまた一段と成長したと思います。ここにいたら、海外なんて、夢のまた夢でしたでしょうから……。それにね、たまにしか会えないせいか、海斗は私に、とっても優しいです(笑)。私たち家族にとっては、この距離感が丁度いいのかもしれません」

 中学受験をするもしないもご家庭の自由。その家庭それぞれの選択は尊重されるべきであろう。筆者が思うのは、中学受験は「一家団結」のものであると、うまくいくケースが多いなということ。

 我が子の将来を俯瞰で見て、親がどの方向に舵を切るかによっても、その運命は大きく変わるのだなあと、すみれさんの話を聞いていた。