コロナ禍で借金まみれに……母から「中学受験断念」を告げられた小6娘のその後

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 現在放送中のNHK連続ドラマ小説『舞い上がれ!』の中で、中学受験に関するシーンがあったのをご記憶の方もおられるだろう。

 主人公・岩倉舞(浅田芭路)の父親・浩太(高橋克典)が経営する工場の経営悪化に伴い、勉強が得意な舞の兄・悠人(海老塚幸穏)に私立中学受験は難しいと告げる……という展開だった。

 「いま工場はしんどうてな……。公立の学校で頑張るのはどうや?」と父親に言われた悠人が、「なんで今さらそんなこと言うねん! そんなアカンわ! 僕には計画があんねん! いい中学行って、そこで勉強頑張って、東大に入るんや!」と激怒するシーンに胸を痛めた視聴者も多かったのではないだろうか。
 
 結果的に経営は持ち直し、悠人は東大に進学したので万々歳だったが、このドラマにあるように、中学受験は金がかかる。中学受験、そしてその先に待ち受ける私立中高一貫校の学費は超高額。3年間の中学受験塾代+中高一貫校6年間の学費を合わせた場合、だいたい850万円にもなるのだ。

 たとえ、子どもが中学受験に前向きであったとしても、そもそも“必須”ではない受験だけに、最初から「ない袖は振れないので、公立中学に行って、高校受験で頑張って!」と親が言い渡すケースもあるだろう。

 一方、参入するにしても、その前に、我が家の経済状況と実際にかかっていくであろう学費のシミュレーションを行うことは「イロハ」の「イ」である。

 しかし、人生はシミュレーション通りに進むとは限らない。悠人のように、せっかく頑張って猛勉強をしていたのに、親の経済状況によって、突然強制ストップがかかることもなくはないのだ。

 特に今はコロナ禍。現実世界でも同様に、中学受験を断念せねばならなくなったご家庭は、決して少なくはないのが実態だと思う。

中卒の夫が娘に「学をつけさせたい」

 さとみさん(仮名)は夫と共にレストランを経営している。夫は名店と呼ばれる店での修業期間を経て、独立開業。腕の良さが評判を呼び、経営も順調。新居も購入し、高級な車も手に入れ、経済的には何の問題もなかったそうだ。

 そんな中、一人娘のひかりさん(仮名)が小学校に入学し、夫婦で子どもの教育をどうするか、真剣に話し合ったという。

「夫は若い時分に料理人の修業を始めたので、学歴としては中卒。夫自身、そのことにまったくこだわりはなく、私はむしろ夫の頑張りを尊敬していました。しかし、夫はひかりのことになると、『学をつけさせたい』と言うんです。それで、ひかりは低学年から、中学受験塾に入ることになりました」

 ひかりさんはとても優秀な子で、塾でも最上位クラスに在籍。新6年生になっても、その位置をキープし続けていたという。

「夫も私もすごく喜んでいました。そのクラスにいればトップ校も射程圏内と、塾の先生から言われていたからです」

 ところが、この新型コロナウイルスの感染拡大で事態は急変する。

「ひかりが6年生になるや否や、いきなりお店は休業に追い込まれて、途方に暮れました。テナント料、従業員の給与、開業時のローン返済に、住宅ローンも重くのしかかってきたのです。さまざまな手は尽くしましたが、八方塞りの状況に追い込まれ、本当に苦しかったですね」

 そんな中、さとみさん夫婦は、ひかりさんに非情な通告をせざるを得なかったという。

「『ごめん、中学受験はさせてあげられない』と言った時のひかりの悲しそうな顔は忘れられません。ここまで頑張ってきたのに、しかも、親の強い勧めで始めたことなのに、結果も見ずして、途中棄権になるのですから……ひかりの気持ちを思ったら、胸が張り裂けそうでした」

 ひかりさんは両親に、「わかった。私は大丈夫だから、パパママ、頑張って」とだけ返し、子ども部屋のドアを閉めたそうだ。翌朝、ひかりさんの泣き腫らした目を見たさとみさんは、「娘の顔を正視することはできなかった」と涙を見せた。

「情けないことに、見る見るうちに、貯金も減っていきました。あの頃は、『これから、どうなるんだろう?』という不安しかなかったですね。私はアルバイトに出たんですが、それでは雀の涙にもならず。借金まみれの今、塾代はどうにかなったとしても、その後の学費を考えたら、受験は撤退せざるを得なかったんです……」

 結果、お店を再開し、軌道に乗せる日までは耐え忍ぼうということで、車を売り、賃貸に引っ越し、ひかりさんは退塾。「毎日、糊口を凌ぐように暮らしていた」と、さとみさんはその頃の暮らしぶりを教えてくれた。
 
 しかし、捨てる神あれば拾う神ありだろうか。晩夏のある日、さとみさんは街中で、ひかりさんが通っていた大手塾の元講師に偶然再会したのだそうだ。

「その先生は、ひかりも大好きな先生だったんですが、ご家庭の事情らしく講師は辞められて、今は近くの街で小さな塾をやっているとのことでした。我が家の窮状をお話しましたら、ひかりの実力であれば、今から対策して、公立中高一貫校を十分狙えるし、学費免除の私立中学もあるから、ぜひ受験しなさいとアドバイスしてくださったんです。しかも、なんと格安の授業料で勉強をみてくださることになったんです」

 結果、ひかりさんは特待生の学費免除を実施している私立中学と公立中高一貫校に合格。ひかりさんの希望で公立中高一貫校に入学した。

「あの時の私はパニック状態でしたから、公立中高一貫校という選択肢があることも、ましてや学費を免除してくれる私立中学があるってことも頭から消えていて……。あの日、先生に再会していなければ、ひかりの心の傷は今もふさがってなかったと思います」

 その後、レストランは営業を再開。さとみさん一家の経済状況が好転してきたのは、今年に入ってからだそうだ。

「おかげさまでお店を応援してくださるお客様がたくさんいらして、お店がにぎわうようになってきました。借金返済の目途もつき、生活も落ち着いて、どうにかひかりの今後の教育費も出せそうです。早いもので、ひかりも来年は中学3年生。受験をあきらめなくて、本当によかったと思っています」

 大人だけではなく、子どもたちをも翻弄したコロナ禍。幸い、ひかりさんは現在、学校が楽しくてたまらないという。久しぶりに来場者を迎えて実施された学園祭では実行委員として大活躍していたそうだ。

勉強嫌いなのに中学受験、志望校には偏差値10足りず……やる気のない娘を変えた「母の戦略」

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験は、各ご家庭の任意で行うものなので、やってもやらなくても自由である。よって、中学受験参入の有無は、第三者が口を出す問題ではないと思うのだが、ちまたでは「遊びたい盛りの小学生に長時間勉強させている」という類いのネガティブなイメージが広がっているため、中学受験を批判する人は少なくない。
 
 では、実際、中学受験生の勉強量はどれくらいなのだろう。栄光ゼミナール・2019年中学入試アンケート調査よると、小学6年生は夏休み以降、平均で平日3~5時間。2.3%と少数派ながらも9時間以上と回答した子もいる。もちろん学習時間が増えれば増えるほど、成績が上がるということはないものの、難問揃いの難関校を目指す子どもたちの学習時間は「少なくない」のは事実だろう。
 
 こういったデータを見ると、「かわいそう」という声が聞こえてきそうだが、子どもたちの中には、知的好奇心を満たしてくれる塾の授業を心から楽しみ、勉強が苦にならないタイプも存在する。また、学習時間の長短にかかわらず「中学受験はとても楽しかった」と証言する経験者は多い。こういった子どもにとって、中学受験は有意義な体験であるのは確かだ。

 ただ問題なのは、もともと勉強が嫌いで、中学受験に参入したものの偏差値が伸びず、ますます勉強嫌いになるタイプの子たちである。このタイプの子を持つ親は「勉強が嫌いなのに、中学受験をさせるのはいいことなのか?」という悩みにぶち当たってしまう。

 晴恵さん(仮名)は、麻紀さん(仮名)という現在大学1年生の娘を持つ母親である。晴恵さんは公立中学から都立高校に進み、中堅大学を卒業しているが、麻紀さんには中学受験をさせ、私立中高一貫校に通わせた。

「個人的に、内申点が合否判定に関わる高校受験にすごい恨みを持っています(笑)。私は結構、真面目なほうで、勉強も嫌いじゃなかったんですが、中学3年生の時の担任と反りが合わず、そのせいか担任の教科は内申点がさっぱり。試験で満点を取っても、通知表は『4』で、結果的に志望した都立高校をあきらめざるを得なかったんです。それが、今でもすごく悔しくて……。それで、娘には内申点に左右されない世界に行ってもらいたかったんです。そんなこともあり、私主導で麻紀を中学受験塾に入れました」

 ところが、晴恵さんの目には、麻紀さんは大がつくほどの勉強嫌いに映ったという。自発的な学習はおろか、塾の宿題もやらず、揚げ句の果てには、塾に通うのもサボりだすという始末だったからだ。

 当然、晴恵さんは「この子には中学受験は向かない」と思い、「塾を辞めて、公立中学に行き、高校受験をしよう」と説得したそうだが、それを麻紀さんは断固拒否。勉強は嫌いだが、中学受験はしたいそうで、晴恵さんいわく「とんでもない高嶺の花」であるA学園に入りたいと言い続けていたとのこと。

「麻紀も、勉強はしないといけないとは思っていたようなんですが、簡単には成績は上がりませんし、そうなると、よりいっそうやる気はなくなるしで……」

 「そんなんでA学園に入れるわけないでしょう?」「わかってる!」「わかってるなら、勉強しなさい!」――そんな母娘バトルが何度も繰り返されたという。

「麻紀は心の奥底で、『私の性格的にコツコツ勉強するのは無理だから、公立中学から高校受験をするのは厳しい』と考えていたと思うんです。でも、当時は子どもですから、単純にA学園の制服への憧れが強かったんでしょう。小6になっても、A学園しか受けないって言い張っていたんですが、偏差値でいうと、麻紀の模試の結果より10は上なので、私もどうしたものかと悩みました……」

 そこで晴恵さんが打ち立てた戦略は「間引き」。要は勉強時間を大幅に短縮して、麻紀さんの希望を聞きながら、彼女のキャパに合うだけの勉強量を一緒に考えていったという。

「麻紀が決めた動画鑑賞やゲームの時間は確保した上で、塾の宿題の基礎問題だけは完璧にやろうということを親子で話し合いました。もちろん、麻紀が自分で決めたことを守れないならば、中学受験は即撤退という条件。中学受験で勉強が嫌いになるのだったら、その先の大学受験なんてあり得ないですからね」

 通常、小6の夏休み明けると、塾側は本番に向けて「本気モード」になり、子どもたちも受験を「自分ごと」として捉えるようになる。麻紀さんも晩秋あたりから、目の色が変わりだし、自分で決めた日々の課題だけは自発的に終わらせるようになったという。

「これだけでもすごい進歩で、麻紀の成長だと感じました。受験はやっぱり、真面目に努力した子が報われる制度だと思うので、その目標に向かって、麻紀なりに頑張れたことはうれしかったですね。もちろん、『もっとやってほしい』とは思いましたし、欲をいえばキリがなかったですけどね」

 結果的に、麻紀さんの偏差値は微動だにせず、A学園は玉砕、晴恵さんが熟考した併願校のB学園に入学したそうだが、これが「大当たり」だったという。

「B学園は、A学園より偏差値は10くらい下なんですが、ここは『その子の得意分野を伸ばす』という校風。先生方が、できないことより、できることのほうを褒めてくださるんですよね。麻紀は数学の成績は特に悪くて、本人いわく『壊滅状態』だったんですが、先生は『麻紀さんは英語が得意で素晴らしいわね』と褒めてくださり、数学が赤点でも、叱責されることはなかったそうなんです。当然『勉強しろ!』と強要もされませんから、居心地良く6年間を過ごせました」

 麻紀さんは、その後、B学園が持つ豊富な学校推薦枠を利用して上智大学に入学した。

「今思えば、麻紀はそこまで勉強嫌いではなかったんですよね。ただ、中学受験塾のあまりに長い拘束時間や、たくさんの課題に、アップアップしていただけだったんでしょう。それでも本人なりに頑張っていたのに、親を喜ばせるような点数が取れないので、だんだんと勉強が重荷になっていたのかもしれません。麻紀と話し合いをして、勉強時間も勉強量も本人の希望に沿うようにしてからは、塾も休まずに行きましたし、受験を『自分の問題』として捉えることができました。本人なりにものすごく頑張ったと思います」

 中学受験は、たいてい小4からの3年間塾通いを行い、本番を迎える子が多い。そんな長丁場の受験生活では、「やる気がない」「勉強が嫌いになった」「成績が上がらない」といった問題が勃発しやすい。

 しかし、それでも子どもが「受験をやめない」と言う場合は、子どものペースを大切にしたほうが、良い目が出る場合が多い。晴恵さんが実行したように、子ども主導で立てた学習スケジュールをこなしながら、実力適正校に導いていくという方法もあるのだ。

 中学受験で勉強が嫌いになってしまうのは、とてももったいないこと。その子の未来にとっての弊害が大きいので、「我が子は勉強が嫌いなのか?」と感じたら、その原因をしっかり把握すべきだと思う。本人にとって、「勉強量」「問題のレベル」、はたまた「受験をする時期」が合っていないのか――これらを今一度吟味するために、子どもの本音をちゃんと聞く時間を持つことをおすすめしたい。

小学校の先生に「邪魔者扱い」された息子が、中学受験で最難関私立へ! 母が「ギフテッド支援」に思うこと

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 先頃、文部科学省は、並外れた知能や芸術的才能、特定の学問分野の能力などを持つ、いわゆる「ギフテッド」と呼ばれる子どもへの支援に乗り出すことを発表した。

 海外に目を向けると、ギフテッドの子どもに特別な教育プログラムを用意し、その特異な才能を応援している国もあるのだが、わが国も、来年度からようやく支援策づくりに着手することとなる。

 現在高校1年生の長男・碧斗君(仮名)の母・和歌子さん(仮名)は、このニュースを聞いて、ため息交じりにこう話す。

「文科省もようやく腰を上げたかぁ……って感じですよ。ホント、日本の公教育って遅れすぎです。できない子を平均まで引き上げるのは当然ですけど、できる子を平均に引き下げるようなことをして、誰が得するのかって、ずっと疑問に思っていました」

 碧斗君は、2歳になる前には漢字やアルファベットの読み書きができ、その頃から愛読書は図鑑。幼稚園の頃に始めた公文式では常に全国トップレベルの順位、各種検定試験もどんどんとクリアしていくなど、“地頭の良い子”として近所でも評判だったそうだ。

「スポーツ分野に秀でた子は、みんなに称えられるじゃないですか? それは、勉強でも同じであるべきだと思うんです。でも、碧斗の小学校の先生方は違いました。碧斗が知識をひけらかしているように映ったのかもしれませんが、必要とされる以上に勉強ができる子は、まるで邪魔者のような扱いを受けたんです……」

 碧斗君は小学3年生の時に、先生から「解っているからって先走りして答えず、皆が解き終わるまで黙ってなさい」と言われたのがショックだったようで、以来、授業中は「黙して語らず」を貫いていたという。しかし、一瞬で問題を理解してしまう碧斗君にとって、授業は退屈以外の何物でもなく、仕方なく読書をしていたところ、先生に激怒されるという経験をしたそうだ。

 授業中に発言すると「クラスメートの邪魔だ」と叱られ、おとなしく本を読んでいると「態度がなっていない」と叱られた……というわけだ。

 碧斗君が中学受験をしたのは、こうした“浮きこぼれ”防止のためだったと和歌子さんは語る。

「小4になる前、碧斗が言ったんですよ。『このままだと、もう毎日が耐えられないから、中学受験塾に行かせてくれ』って。我が家には中学受験をして私立に行かせるほどの経済力はないので、高校受験で公立トップ校を狙うつもりだったんですが、碧斗がそこまで追い詰められているのかと思ったら……夫婦で『なんとしてでも息子の望む環境を手に入れよう』と腹をくくり、私もパートから正社員になりました」

 それからすぐ、難関校に大量の合格者を輩出している塾に通い出した碧斗君は、「水を得た魚」のようだったという。

 碧斗君は、最寄り駅の教室の最上位クラスに入ったそう。同じクラスの生徒は8名だけで、机を車座のように並べて座り、仲間たちと互いにデスカッションしながら問題を解いていくシステムが採用されていたという。それが碧斗君にはたまらない刺激になった。

「碧斗がある日、本当にうれしそうに『ママ、聞いてよ!』と言ってきたんです。塾で不動の1位であるE君が、『この問題はこう解いたらいい』と提案したそうなんですが、碧斗が『別の解法がある!』と解説したところ、皆が拍手してくれた……と。E君も『碧斗、スゲー!』と驚いていたようで、先生も『これは気がつかなかった! 碧斗にやられたな!』と褒めてくれたそうです。ああ、やっと碧斗に居場所ができたんだなって、すごくホッとしたことを覚えています」

 碧斗君にとって小学校は、和歌子さんいわく「暗黒時代」。1日の大半を過ごす小学校で、碧斗君は「息を殺すかのように、じっとしていなければならない状態に陥っていたのではないか」と振り返る。

「傍目には、碧斗は授業中、寝ているように見えたでしょうね。でも、そうするしかなかっただけで、本当にかわいそうでした。塾に行く、そして中学受験をするという目標がなかったら、碧斗はどうなっていたかわかりません……」

 現在、碧斗君は最難関と呼ばれる私立中高一貫校の高校1年生。和歌子さんが、最近の碧斗君の様子を教えてくれた。

「夏休みの話なんですが、秋の学園祭でダンスをすることになり、クラスメートと一緒に学校近くの公園で練習していたそうです。そしたら、その土地が微妙に傾斜していたそうで、練習をほったらかしにして、全員で傾斜角度の計算をしだしたと。コーチ役の女子校の生徒さんにあきれられたって言ってました(笑)。『それじゃ、絶対、女の子にはモテないわね』って言ったら、碧斗が『だな』って、変な笑顔を返してきたので、私も笑っちゃいましたよ。女の子にはモテないかもしれませんが、この学校に入ってから、碧斗は本当に楽しそうなんです」

 現在の碧斗君が、居心地の良い環境で友人たちと切磋琢磨できる日々を過ごしているのは喜ばしい限りである。
 
 しかし、和歌子さんが言ったとおり、社会には、勉強ができる子や頑張る子を「異端児」あるいは「ガリ勉」と蔑む風潮があるのも事実だろう。

 何の分野でもそうだが、日常の頑張り、もっといえば「自分自身」を認めてもらえないことは本当に悲しいこと。特に「ギフテッド」と呼ばれる特異な才能がある子は、往々にして、同年代の子どもとの発達レベルに差がありすぎるので、同調圧力の強い場では対人関係がうまくいかなくなるケースが多いのだ。

 幸いなことに、冒頭で述べたように、文科省は来年度中にも「ギフテッド」の子に向けた効果的な指導法や支援策づくりをまとめるという。碧斗君をはじめ、教室で“浮きこぼれ”てしまい、悲しい思いをする子がいなくなるような柔軟な施策ができることを願っている。

中学受験生の娘が、髪を抜いて食べていた――「産後1カ月で職場復帰」スーパーウーマンの母が猛省するワケ

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験生の親の悩みは多々あるものだが、その中でもダントツ上位に入るのが「子どものやる気が見られない」である。つまり「勉強しない」ということだ。

 勉強に、まるでRPGの攻略をするがごとくの手応えを感じ、夢中になっていく子もいるにはいるが、実態としては、塾の勉強が苦行になってしまう子のほうが多いだろう。

 「そんなに勉強が苦痛なら、中学受験をやめて高校受験にシフトしよう」と親子で納得できれば一番いいのかもしれないけれど、話はそんなに単純ではない。子ども自身が「勉強は嫌だ」「でも受験はやめたくない」という、相反する気持ちの狭間にいる場合もあるし、親のほうが「受験をあきらめきれない」場合もある。

 子どもが勉強をしないと、現在進行形でお悩みの親御さんもいると思うが、ことアグレッシブに生きてきたことが“成功体験”になっている人は注意が必要かもしれない。

 小学6年生の琴音ちゃんというひとり娘を持つ恵理さん(仮名)も、そんな親の一人だった。彼女はバイヤーとして活躍中の女性。体力には自信があり、海外出張も徹夜仕事も朝飯前。産前もギリギリまで仕事をし、産後も1カ月で復帰したというスーパーウーマンである。

「私は昔から『人生は気合と根性』と思って生きてきました。一度決めたら、何としてでも達成するという意思は固いと思います。学生時代の勉強も、大人になってからの仕事も、それこそスケジュールを分刻みでめいっぱい詰め込んで、どんどんこなしていくのが好きなタイプなんです」

 そんな恵理さんは、子育ても当然のようにタイムスケジュール化してきたという。

「琴音のことはすべて、私主導で決めてきました。夫に相談したとしても、彼も忙しいですから、『恵理に任せる。そのほうが確実』ってなるんで、結局、私が『この習い事やろう』『この塾に通おう』と仕切り、日々のタイムスケジュールを作っていました。琴音も特に嫌そうな素振りもなく、淡々とこなしているって感じでしたね」

 恵理さん夫婦は共に中学受験経験者。琴音ちゃんの中学受験は既定路線だったそうだ。

「私たちは親族に中学受験をしなかったという人間がいない家系なので、逆に公立から高校受験という道がまったくわからないということもあり、ごく自然に私が決めた受験塾に琴音を通わせるようになりました」

 そういうわけで、琴音ちゃんは小1から、ある中学受験専門塾に通うようになったのだが、小5くらいから心配な行動が目立つようになってきたそうだ。

「毛量が多い子なので、初めはわからなかったんですが、気づくと、琴音が自分の髪をむしって抜いているんですよ。多分、無意識なんでしょうね……勉強しながら、抜いた髪を食べているのを目撃してしまい、ものすごくショックでした」

 これは「抜毛症」と呼ばれるもので、毛を抜きたいという気持ちを抑えられず、自分で髪の毛やまつ毛を抜いてしまうという、思春期の子どもたちに多い症状。主な原因はストレスといわれており、実は中学受験生でこれを発症してしまう子も少なくはないのが実態だ。琴音ちゃんのように、同時に、抜いた毛を口に入れる「食毛症」を併発することもあるという。

 恵理さんは沈痛な表情を浮かべ、こう言った。

「慌てて、心療内科に連れて行ったんです。ドクターに『まずはストレスの除去だね』と言われ、さすがにこれまでの子育てを見直しました。今までは私自身の成功体験から、『これをやっときゃ間違いないんだから!』っていう感じで、子育てのすべてを決定してきたんですが、琴音の姿を見て、間違いないどころか、間違いだらけだったんでは? と反省しましたね……。それで、琴音に『どうしたい? 受験、やめる?』って聞いたんです」

 ところが、琴音ちゃんの返事は「NO」。受験はやめないという意思を示したそうだ。

「琴音は、よくいえば素直でやさしい。悪くいえば、闘争心ゼロって性格なんですが、琴音の行っている塾は、結構スパルタで、『努力と根性』が売りみたいな部分があるんですよね。私はその姿勢に惹かれたものの、琴音にとっては酷な環境でした。人と競ってナンボっていう場所で過剰に適応しようとしたことが、抜毛症につながったのだと思います。本当にかわいそうなことをしました」

 そこで、恵理さんは転塾を決意。もうすぐ小6というタイミングだったので大手塾をあきらめ、琴音ちゃんのペースに合った個別塾と、地元で定評のある寺小屋的な塾の2つに絞り、どちらに通うかの判断は本人に任せたという。

「琴音には、『受験はしたいならしていい。公立中学に行くのもありだし、受験校も自分で決めていい。とにかく、これからは琴音のペースを大切にしよう』って話をしました」

 結局、琴音ちゃんは自分で個別塾を選んだのだが、これが吉と出た。

 琴音ちゃんは担当の講師の先生とウマが合ったらしく、先生の出身校の女子校に入学するという目標を持ち、残り4カ月と迫った受験本番を意識しながら、猛勉強中だそうだ。

 恵理さんが「私は猛省中です」と言いながら、今の心境を語ってくれた。

「以前の塾も決して悪い塾ではありません。受験はある意味、競争なので、厳しい叱咤激励が必要な場面もあるとは思うんです。でも、琴音には合わなかった。今の塾は室長の『褒めて伸ばす』という指導方針があるせいか、担当の先生も本当に丁寧に琴音の話を聞いてくれて、それを決して否定しないみたいなんです。私はそんな先生たちの話を聞いて、『私は琴音の話に、真剣に耳を傾けたことがあっただろうか?』『はなから聞こうとしていなかった』と自問自答しています」

 恵理さんは、「琴音を抜毛症に追い込んだのは、受験でもなく、塾でもなく、私だったと思っている」と言う。

「もう、今は何よりも、琴音の健康が一番。琴音が生きやすい環境に身を置いてくれるようにサポートするのみだと決意しているところです」

 現在、琴音ちゃんは突然やる気スイッチが入ったかのように、生き生きと塾に通うようになっているそうだ。そして、喜ばしいことに、今は髪を抜いたり食べたりすることも格段に少なくなっているという。

「中学受験の失敗」が、わが家には必要だった――小学校受験不合格のリベンジを果たした娘が、学校を辞めたワケ

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験のメリットの一つに、「豊富にある学校の中から、わが子に合った教育環境を選べること」がある。特に私立中高一貫校では、各校ごとに教育方針が明確に謳われているので、受験生家庭は学校を選びやすいといえるだろう。

 子ども自ら受験校を決めることもあれば、親が子どもに勧めることもあるが、後者の場合、そこには、“わが子のため”という親心があるはずだ。

 例えば、「学歴は子どもの武器になる」というお考えの親御さんは、大学合格実績で目を見張る数字を叩き出す学校を勧めるかもしれないし、中高時代は受験を意識せずに、伸び伸びと部活動などに没頭してほしいと願う親御さんは、大学付属校のほうをプッシュするかもしれない。ただ、そんな親の“良かれと思って”の助言が、すべて正解かというと、そうではないのだ。

 麻那さん(仮名・高校3年生)という一人娘を、会社員をしながら育てるシングルマザーの恵美子さん(仮名)。彼女自身は都内公立中学校から都立高校へ進み、都内の有名S大学に進学した経歴の持ち主だが、もし女の子が生まれたら、「絶対に小学校からS大学付属に入れよう!」と考えていたという。

「私は生まれも育ちも東京23区内なので、都会コンプレックスのようなものはないはずなんですが、でも正直、大学に入って仰天しちゃったんです。S大学は幼稚園から大学院までを擁する総合学園で、同級生には幼稚園や小学校から持ち上がってきた子もかなりの割合でいました。そういう子は、裕福な家の子が多く、なんというか文化が違うっていうか、世界が違うっていうか……みんな本当にきらめいて見えました」

 恵美子さんは付属校出身者が多数在籍するサークルで活動していたために、自然と付属校出身者である友人が増えていったという。

「例えば、高級ブランドのバッグを軽やかに持っていてカッコいい! と思ったこともありましたが、それ以上に、みんな人柄が素晴らしいんですよ。何事にも寛容だし、ギスギスしてないっていうか、人間の幅にゆとりがあるような……加えて、知的で落ち着きのある素敵な人が多かったんです。しかもみんな小さい頃からの仲なので、結束が強いのにも憧れました。私は大学から入ったため、どんなに頑張っても彼らのような人脈を得ることはできず、文化や教養も身に着けられない。なので娘には、早いうちからそういった環境に身を置かせてあげようと思いました」

 そこで、恵美子さんは娘の麻那さんをS大付属小学校に入れるべく“お受験”をさせたのだが、結果は不合格。仕方なく、照準を中学受験に切り替え、6年後、見事リベンジを果たしたという。

「最初は麻耶も学校が楽しそうでした。でも、中学1年生の後半あたりからですかね……登校を渋るようになってきて、徐々に欠席する日が増えていったんです。理由があるなら、それを解決するように動けばいいだけだと思うんですが、麻耶は、『朝になると体が動かなくなる』『なぜそうなるか自分でもわからない』と言うばかりで、途方に暮れてしまいました」
 
 学校の先生方は麻耶さんをすごく心配してくれたそうで、本人だけでなく、クラスメイトや部活仲間などにも話を聞き、学校を休みがちになった原因を究明しようとしたらしい。しかし、いじめもない、友人関係のトラブルもない、勉強の遅れもない、病気でもないという結果で、恵美子さんは余計に混乱してしまったという。

 結局、麻耶さんは出席日数がネックとなり、併設高校への進学は認められなかった。

 そんな中3の学年が終わろうとする冬のある日、麻耶さんが突然、通信制のC高校のホームページを恵美子さんに見せながら、こう宣言したという。

「ママ、麻耶はここに行こうかと思う。S中はママが言うように、すごくいい学校。友達もみんな優しくて、いい子ばかり。でも、麻耶には合わないってことがわかったの。今度は麻耶が決めてもいい?」

 恵美子さんは、麻耶さんのその言葉に衝撃を受けたそうだ。

「私、何をやっていたんだろう……って思いました。S小受験をさせたのも、S中へのリベンジを決めたのも、すべて私。何でなんでしょうね、『私が麻耶のために選んだんだから、絶対、麻耶も喜ぶはず! この環境に入りさえすれば、麻耶の人生はすごく楽しくなるに違いない!』って思い込んでいたんです。でも、麻耶と私とは別の人間だという、そんな当たり前のことすら、私には見えなくなっていたんです。私は最低の母親だって思いました」

 麻耶さんは現在、自らが行きたいと望んだC高校の最終学年を迎えたが、この学校とは水が合ったようで、入学後は週5日登校コースに、ほぼ休まずに通っているという。

「この前、麻耶が言ったんですよ。『ママ、C高に行かせてくれてありがとう。C高はめちゃ楽しいよ』って。それで、『S中はどこが合わなかったの?』と聞いたら、麻耶自身もうまく言えないようでした。要するに『居心地が悪い』ってことなのでしょう。きっと私の話を通して想像していたS中と現実のS中との間に、大きな乖離があったんだと思います。麻耶のために良かれと思ったことなんですが、親のエゴが出すぎた結果、麻耶にはつらい思いをさせました」

 最後に恵美子さんは笑顔でこの話を締めくくった。

「母一人、子一人のせいか、麻耶は小さい頃から、私に忖度するようなところがあったんですが、C高に行くと自ら決めたことで、自信が芽生えたみたいです。それが麻耶にとってターニングポイントになり、将来の進路も自分で決めることができました。わが家の経験は、『中学受験の失敗談』かもしれませんが、でも、今はこれも必要なことだったような気もします」

 麻耶さんの夢はパティシエになって、自分のお店を持つこと。卒業後は製菓学校に通うことになっているそうだ。

中学受験「算数1科目入試」の戦略に失敗――「倍率10倍超え」入試に賭けた母が今思うこと

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 首都圏の中学入試は長い間、国算理社の4科目、あるいは国算の2科目というスタイルが主流だったが、最近ではさまざまなタイプの入試が出現している。その中の1つに「算数1科目入試」というものがある。

 20年ほど前に、一部の有名男子校が実施したのを皮切りに徐々に増え、近年では人気女子校も参入。今では、算数1科目入試を実施している首都圏の中高一貫校は30校弱ほどに及ぶ(※)。
(※)算数、国語、英語から1科目選ぶ受験形式を採る学校も含む。

 東京・神奈川の受験生は2月1日が受験解禁日。この日から、午前午後と連日の連戦が始まるのだが、この算数1科目入試は多くの学校で、1日の午後に行われている。午後受験は2科目受験が多いので、それに比べれば、負担が少ないということ、また、「できるだけ早めに合格がほしい」という受験生心理も相まって、算数1科目入試は大人気になっているのだ。

 希美さん(現在中学1年生・仮名)も算数1科目入試に挑戦した1人だ。

 希美さんの中学受験への参入は通常よりも少し遅く、小学5年生の秋からだったという。希美さんの母である靖子さん(仮名)はこう振り返る。

「中学受験に参入したきっかけは、希美がお友達から、お姉さんのTikTok動画を見せてもらったこと。私には詳しくわかりませんが、そこには、私立D学園の高校2年生だというそのお姉さんが、部活の仲間たちと楽しそうに踊る姿が映されていたそうなんです」

 このお姉さんは中学受験でD学園に入学。ダンス部に所属し、部員内でダンス動画をTikTokに上げているらしいのだが、小学生の希美さんには、その姿はあまりに眩しく、「D学園を、まるで夢の世界のように感じたみたいです」という。

 それから希美さんは、自分がD学園で過ごす将来を夢見るようになり、「中学受験がしたい!」と言い出したそうだ。

「聞けば、そのお姉さんは小6から塾に行き出して、D学園に合格したとのこと。5年生の秋ではありましたが、希美も大丈夫な気がしていました」

 その後、希美さんは地元塾に入り、それなりに勉強に励んでいたそうだ。

「D学園は人気校ですが、超難関校というほどではありません。頑張れば、希美でも行けるのではないか? と思っていたのですが、やはり、4科目をこなすには時間がなさすぎて、偏差値は思うようには伸びませんでした」

 中学受験の過酷さは、多くの人が知るところだと思う。中学受験の勉強は学校の学習にプラスαで行わなければならないので、人によっては体力的に厳しい場合があるし、何より、みんなが同じように勉強をしていくので、「うなぎ登り」のように突出して成績が上がっていくことのほうが稀であり、モチベーションの維持が難しい。おまけに希美さんは、小5秋からの参入でただでさえ時間がない中、4科目受験とあって、相当大変だったはずだ。靖子さんいわく「やることがあまりに多すぎて、どれもこれも中途半端」だったという。

「超難関ではないものの、D学園は最近、難易度が上がってきたので、小6秋の時点で、塾から『ほかの学校も考えるべき』と助言はあったのですが、希美は『D学園しか受けない!』と頑なで……。でも、幸いなことにD学園には4科目受験のほかに、算数1科目入試というものがあることがわかり、我が家はこれに賭けることにしたんです」

 靖子さんが語るには、希美さんは算数が得意。算数に限っては、地元の塾で「優秀」と言われていたので、自信があったそうだ。そこで迷わず、算数1科目入試に照準を定め、ほかの3科目よりも算数の勉強に時間を割くような日々を過ごしたという。

 そして受験本番を迎え、希美さんは算数1科目入試も含め、D学園の4回入試すべてに出願。

 2月1日午後のD学園の算数1科目入試の倍率は10倍を超えていたものの、同じ日の午前中に行われた4科目入試よりも手応えがあり、希美さんは合格を確信して2月1日の夜のネット発表を待ったという。

「ところが、2月1日に一気に不合格を2個ももらうことになってしまい……。希美は放心状態で、翌日のD学園の3回目入試も不合格。結局、その後の4回目入試もダメでした」

 算数1科目入試は、「算数だけに集中できる」ので受験生人気が高いのだが、ここに思わぬ落とし穴が隠れている。算数のみで受験可能ということは、裏返せば、算数が得意な子だけがこぞって参戦しているわけだ。しかも、算数1科目入試の募集定員は、もともと極端に少ないのが一般的である。にもかかわらず、志願者数はとんでもなく多く、倍率10倍越えなんて当たり前。例年、25倍を超えてしまう人気校も存在する。

 算数1科目入試は、「算数大好き」「算数が大得意」という難関校狙いの受験生にとって、午後入試の「受け皿」になっている側面がある。そういったつわものたちが、まるで「道場破り」のような気持ちで挑戦する入試といえるかもしれない。

 そもそも、なぜ算数1科目受験が増えているのかといえば、「算数が得意な子は、入学後の試験において、ほかの教科でも高成績」という実感を持つ学校が多いから。大学の合格実績を気にする中高一貫校は、極論でいえば、算数ができる子こそ待ち望んでいるのだ。

 当然、出題レベルは高いので、志願者のレベルも高くなる。決して「お気軽簡単な入試」ではないので、リスクは相当高い入試と言わざるを得ない……それが、算数1科目入試の実態だと思う。

 中学受験は親の戦略に左右される面もあるので、リスクがある受験には用意周到に保険をかけておくのが得策である。

 靖子さんは、希美さんの受験を振り返って、悲しげな表情でつぶやいた。

「“D学園命”だった娘の受験。すべての入試で不合格という結果を受け、『では、どうすればよかったのだろう?』って、今でも悩んでしまいます。悩んだって、どうにもならないんですけどね……」

 結局、希美さんは、2月3日に慌てて出願したK学園に合格して入学したが、今も通学途中に見かけるD学園の制服を正視できないという。第1希望には受からなかったけれど、1日も早く、K学園で熱中できることを見つけてほしいと願わずにはいられない。

中学受験生の母が激怒! 「パパがコロナ」なのに夏期講習を休ませない……塾友の家庭は「非常識」

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 受験の天王山と呼ばれる夏。中学受験生の多くが受験塾の夏期講習に参加していることだろう。しかし、今年の夏は、子どもへの新型コロナウイルス感染が急増している最中だ。塾に行って勉強はしてもらいたいが、感染は防ぎたいと願っている保護者は多いと思う。

 小学6年生の葵ちゃん(仮名)は、6年の1学期に塾のクラスアップに成功し、夏期講習は、念願だった最上位クラスでの受講権利をゲット。

 ハイレベルの子たちと机を並べ、難しい問題に挑戦する毎日は、つらいことも多いだろうが、難問が「解けた!」と思う瞬間の手応えは、何ともいえない快感を生むらしい。葵ちゃんもそのタイプで、夏期講習にはりきって通っているという。

 ところが、今、葵ちゃんの母である優子さん(ともに仮名)は、とてもモヤモヤした気持ちを抱えているそうだ。なぜならば、夏期講習が始まってほどなく、葵ちゃんから、こんなことを聞かされたからである。

「葵の塾友達に香奈ちゃん(仮名)って子がいるんですが、香奈ちゃんのパパがコロナにかかって自宅療養中だっていうんですよ。そんな状況なのに、ママから『塾に行け』と命じられたらしく普通に受講しているそうで……。香奈ちゃん自身は熱が出ていないからって理由らしいのですが、本人から『もし、うつしたらごめんね』って言われたって聞いて、正直、いい気分にはなれません……」

 もちろん、各塾では、子どもたち、講師を含め、検温をはじめ、換気などの感染対策は執拗なくらいやっているのだが、家族が感染しているという情報は、申告されなければわからない。

「幸いにも、葵も香奈ちゃんも今現在はコロナにはなっていませんが、何というか、そういう非常識な考えを持つご家庭と一緒に受験しないといけないんだなってことが残念なんです」

 実は、コロナに限らず、感染症などにかかって体調不良であるにもかかわらず、ごく軽症ならば夏期講習に行かせるという保護者も、一部にはいるのが実態だろう。これには、いくつかの理由が考えられる。

 学校が夏休みの間に開かれる夏期講習は、受験勉強の時間が大量に確保できるという点がメリット。「塾での集中的な受験対策で実力向上を狙いたい」「できるだけ休まずに受講させたい」というのが親の本音だ。

 また、夏期講習代もバカにならない。大手塾であれば6年生の夏ともなると、おおよそ20万円ほどになり、これは、経済的によほど余裕があるご家庭以外は「高い!」と感じる金額だろう。

 それゆえ、“天王山”登頂を目指しているご家庭であればあるほど、この支出への費用対効果を追ってしまいがち。すなわち、ほかの受験生に後れを取るまいと焦って「休ませるわけにはいかない!」という発想になりやすいのだ。
 
 優子さんは憤懣やるかたない様子で、胸中を明かす。

「そういう気持ちもわからなくはないです。でも、もし、我が家が同じ状況であれば、うちの塾はオンライン受講も可能ですから、迷わず、オンラインに変更するよう、塾にお願いすると思います。香奈ちゃんのお宅がなぜ、対面授業にこだわるのか意味がわかりません。自分のことしか考えていないようなお宅と志望校が一緒っていうことに、モヤモヤが止まらないんです……」

 香奈ちゃんの母親は、オンラインだと講義終了後に質問をしにくいこと、また、やはり臨場感に欠けるので、今ひとつ授業に身が入らないことを危惧して、対面授業にこだわっているかな? と想像するが、ここ最近のコロナの流行を見ると、優子さんの憂慮は理解できる。

「葵に『非常識な家庭の子とは距離を置くように!』と言うのも、おとなげないなと思い、りんこさんに愚痴を吐いてしまってすみません。ただ救いなのは、香奈ちゃんが葵に自己申告してくれるような正直な子だということと、葵自身が『誰から感染するかなんてわからないんだから、お互い様だよ! ドンマイ!』って、香奈ちゃんを慰めたってことです。このまま、何もないことを祈りますが、これが受験直前だったら、正気でいられるか、わかりません」

 コロナに限らず、感染症による受験生の体調不良は、どの親も直面する可能性が高いが、現実的には、感染リスクをできるだけ下げるという対策法しかなく、なんとも悩ましい問題だ。

 先述した通り、中学受験生にとっての夏期講習は重要ではある。親の金銭的負担も甚大だ。しかも、ここにコロナのリスク(加えて熱中症)が襲うとなると、保護者の不安は募るばかりだろう。体調ももちろん心配だが、受験生の場合は、感染などで予定が狂うと、その後への影響が大きすぎるということもある。

 しかし、いつ誰が罹患してもおかしくない状況下の今、身近に感染者が出た場合は、何が一番大切なのかの優先順位をつけるしかない。やはり、健康あっての受験。そして、お互いに感染を広めないことも大切だろう。

 感染している可能性が高い場合は、割り切って自宅学習に切り替えて、ゆっくりと苦手分野の攻略にあてる――その選択は、天王山において、意外と良い目が出るのではないかと個人的には考えている。

過酷な中学受験はさせたくない! 教育ママに育てられた母が、娘と挑んだ「新タイプ入試」の結末

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 駅の周辺で、中学受験生と思しき小学生を見かけたことがある人は多いのではないだろうか。特にここ最近の首都圏では、中学受験が過熱しており、2022年の私立・国立中学校の受験者総数は5万1100人、受験率は17.30%と、いずれも過去最多・最高を記録(首都圏模試センター調べ)。このように中学受験は、とりわけ珍しくもない受験となっている。

 ただ、中学受験と聞くと「ねじり鉢巻き姿で盆も正月もなく、ひたすら勉強させられている小学生」の姿が思い浮かび、どこか敬遠してしまう人もいるだろう。しかし時代は変わり、今はひたすら勉強をすることが求められる知識重視の受験とは一線を画す「ニューウェイブ受験」が広がりつつあるのだ。

 これは「新タイプ入試」と呼ばれるもので、「自分なりの提案や意見をその場でいかに考え、表現できるか」を問う、思考力・判断力・表現力重視の入試を指す。

 新タイプ入試には、実にさまざまな形態があり、例えば、論述型、自己アピール型、思考力型、アクティブラーニング型、問題解決型、あるいはレゴブロックを使うなどのものづくり型、ワークショップ型、プログラミング型、ビブリオバトル型、プレゼンテーション型など、枚挙にいとまがない。

 なぜこのような入試が広がったかといえば、大学入試が欧米型の総合型選抜入試に変わってきていることが理由の一つ。これは、自分の力を社会でどう生かすのか、そのために何を学ぶのかを意識し、それを自分の言葉で語る力を重んじるという選抜方法で、中学入試でもその力を問うようになっているのだ。

 もう一つは、少子化が進む中、中学受験生の裾野を広げたいという各校の思惑があるからといわれている。新タイプ入試が広まったことで、結果的に、「小学生のうちから勉強漬けにさせるのは嫌だ」という層が、新たに中学受験へ参入するようになっているのである。

 年子の姉妹を育てる主婦・留美さん(仮名)は、今年、長女の絵美里さん(仮名)を、新タイプ入試である私立中高一貫校に入学させた。

「私自身も中学受験経験者なんです。でも、実は中学受験にはいい思い出がまったくなくて、今でも思い出すたびに、つらい気持ちになります」

 留美さんの母親はいわゆる“教育ママ”で、中学受験も母親の一方的な命令で始まったという。

「私はあまり勉強が得意なタイプではないんです。でも、母は長時間勉強すれば、誰でもが御三家クラスの学校に行けると信じ込んでいたようなふしがありまして、塾から帰って来てからも、その日出された宿題が終わらなければ寝かせてもらえないという日々でした。基礎問題を間違えようものなら、定規で叩かれるということも頻繁にありましたね」

 そんな過去がありながらも、なぜ留美さんは、娘の絵美里さんを中学受験させたのだろうか。

「結局、私は御三家ではないものの、母が満足できるラインの学校に運良く受かりました。そこでの6年間はとても楽しく、この学校に入れてよかったと、心から思っています。ただ、中高一貫校の教育には素晴らしいものがあるとは思う一方で、中学受験のための拘束生活には、どうにも反対なんです。娘には私のような思いはしてほしくない、でも、一貫校の教育は受けさせたいという相反する気持ちがありました。そんな時です、新タイプ入試という制度があるというのを知ったのは!」

 留美さんが見つけたのは「自己アピール型入試」と呼ばれている選抜方法である。これは習い事やスポーツ、趣味など、自分が打ち込んできたことを、受験生自身がプレゼンテーションする試験で、たいていは、これにプラスして、教科の基礎的な試験や作文などを組み合わせて合否が出る仕組みだ。その学科試験も「小学校の授業を真面目に受けていれば問題ない」というレベルが多いので、留美さんが経験したような過剰な勉強は必要ないといわれている。

「これなら、絵美里が好きで続けている習い事も辞めずに済みますし、なにより、私自身が母のような教育ママという名を借りた虐待ママにならずに済む! と思ったんです。もし普通に中学受験塾に絵美里を通わせていたら、私も母と同じことをしてしまうのでは? という恐怖がありましたから……」

 絵美里さんは幼い頃から生き物が好きで、自宅でもさまざまな小動物を飼い、そのお世話を積極的にしているそう。入試では「動物との愛ある日常」をプレゼンし、見事、合格を勝ち得たという。

「絵美里の動物好きは、学校でも周知されていて、先生とペット談義に花を咲かせることもあるそうです。もちろん部活は、生物部に入ったのですが、本当に毎日、楽しくて仕方ないみたい。親としては、そこが一番うれしいですね」

 絵美里さんの年子の妹さんも、充実した学校生活を送るお姉さんの姿を見て、「自分も同じ学校に入る!」と、小学校の授業も真面目に取り組むようになったそうだ。

 このように、今はいろいろなタイプの入試がある。もちろん、学校には校風があるので、そこが我が子のタイプに合うことが絶対条件ではあるが、もし、あまりに過酷な受験勉強に疑問を持っているのであれば、こういう入試方法を実施しているかどうかを、受験校選びの参考にしてもよいということをお伝えしておきたい。

PTA役員の子は「公立中高一貫校で優遇される」……中学受験の都市伝説を信じた母の回顧

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 多くの学校にはPTAという組織があり、任意とはいえ、自動加入という色合いが濃い。

 PTAは学校ごとに多少の違いはあるだろうが、一般的には、子どもたちの安全性を守り、学校行事のお手伝いをし、保護者同士の親睦を図り、保護者と学校との情報共有という役割を担っている。それはそれで、大変、結構なものなのだが、問題は、保護者に「PTA役員・委員」という名称の「お仕事」が振りかかってくることだろう。

 多くの組織は「子どもが在学中に役員、委員を少なくとも1回はやる」というルールがあるため、毎年、PTAに翻弄される保護者の悲痛な声が後を絶たない。そこで、多くの親たち(特に母親)は、「どのタイミングで引き受けるのか?」を真剣に悩むのだ。

 小学校であれば、低学年、中学年、高学年と、我が子がどの学年の時に引き受ければ、己のダメージが一番少ないかを考える。自分が想定する以外の学年では、できるだけ選出を避けたいと、うまい「言い訳」作りに苦慮する人も出てくる。

 しかし、その一方で、「己のダメージどころか、我が子のメリットにつながるのでは?」と考えて、高学年の時に本部役員や委員長といったPTAの中でも特に忙しい役職に就任する人もいる。なぜなら、公立中高一貫校の「中学受検」というものがあるからだ(私立中高一貫校の場合は「中学受験」だが、公立の場合は「中学受検」と書く)。

 現在、中学3年生の大成君(仮名)の母・桃子さん(仮名)も、その一人であった。

「もともと、うちの地域は都内のように中学受験が盛んとまではいえず、多い年でも、児童の1割程度しか受験しないという土地柄だったんです。ところが数年前から、通学可能圏内に公立中高一貫校が次々と開校したことで雰囲気が変わり、中学受検熱が高まるように。今では、小学4年生になった段階で、多くの子たちが塾通いをするようになりました」

 桃子さんもそのブームに乗って、一人息子の大成君を小4から公立中高一貫校対策をする受検塾に通わせるようにしたという。

「我が家はお金持ちではないですから、中学から私立なんて、夢のまた夢。そりゃあ、行かせられたら、息子の将来のためには一番いいのかもしれませんが、無い袖は振れませんから、中学受験なんて考えてもいなかったんです。でも、公立なのに中高一貫で、しかも卒業生は次々と有名大学に入っているといううわさを聞いたら、やっぱり『こっちに乗るしかない!』って思いました」

 中学受検参入前の桃子さんは、大成君が小4の時に委員に立候補しようと算段を整えていたそうだ。しかし、当時、知人である小6の子を持つお母さんが、本部役員をしていることを知ったという。

「彼女のお子さんも公立一貫狙いだったので、思わず聞いたんです。『本部役員と受検生活のサポートは大変じゃないですか?』って。そしたら、彼女が『これもサポートの一環なの』って言うんですよ。うわさには聞いていたけど、『本部役員のお子さんは、公立一貫校の受検で優遇される』っていうのは、本当なんだなと思いました」

 これは、中学受験――特に公立中高一貫校受検の“都市伝説”から生まれたうわさだと思われる。公立中高一貫校の選抜は「適性検査(=教科別の学力試験。教科横断型の問題であることが特徴)」「作文」「面接」そして「報告書」の4つで総合的に判断されることが多い。

 この「報告書」は、小学校の先生が作成する資料で、児童の教科の評定、特別活動や行動、出欠などを記録したもの。小5~6の2年間が対象になることが多いが、学校によっては小4からの3年間が対象となるケースもある。そんな「報告書」の内容に、親の学校貢献度が影響するという“都市伝説”が、お母さんたちの間でまことしやかにささやかれているのである。

 はっきり言って、「報告書」に「親の学校貢献度」を記入する欄などあるはずもない。しかし、お母さんは、「先生が子どもの評価をつける時に、親の顔がよぎるかも? 『そういえば、この子の親はPTAの本部役員をしていて学校に協力的な人。きちんとした家庭であることは間違いない』と思って、無意識に報告書を良く書いてくれるのではないか?」という淡い期待をしてしまうのだろう。

 桃子さんは、先の先輩ママの子が見事合格したため、自分が息子にできる援護射撃は「これしかない!」と思い込み、大成君が小5の時に広報委員長に立候補し、小6では本部役員に就任したそうだ。

「広報委員長はそれほどではなかったんですが、やはり本部役員の仕事は大変で、朝一番に学校へ行って、帰りは外が暗くなってからということもありました。本当は家で子どもを見張っていないといけないのに、留守番をさせて自分は学校に行かなくてはならない時もあって……。案の定、大成は与えた課題を半分もやらないという始末で、これじゃ本末転倒だと思ったことも、たくさんありました」

 しかし、それでも「本部役員が中学受検に有利に働く」と信じ込んでいたという桃子さん。周りを見渡せば、PTA役員をしている家庭の子は、中学受検(受験)をするケースが多く、さらに、その中で、報告書が必要な中学を受けた子(小学校からの報告書が必要な場合な私立中学もある)の大多数が、第1志望校合格を勝ち取っていたのだそうだ。

 ところが結果、大成君は不合格。桃子さんの陰の努力は実らなかった。

「冷静に考えてみれば、親が役員になったら合格が保証されるなんてこと、あるわけないですよね。選抜試験には違いないんですから、やはり、内申点と学力試験の点数が基本。報告書を充実させたいのなら、大成に英語検定を取らせるとか、絵や作文で賞を取るように頑張らせるといったサポートをするほうが、はるかに効果的だったと思うんですけど、当時は『私が本部役員を頑張る道しかない!』っていう、妙な思い込みがありました」

 報告書に花を添えられるような検定資格やコンクールなどの受賞歴は、「あったほうが有利」とはいわれているものの、桃子さんが語るように、やはり公立中高一貫校の合格の決め手は、合格水準を満たす内申(小5~6の成績と学校での学習態度による)と当日の点数。これが全てと言っても過言ではない。それゆえ、中学受検の“都市伝説”を信じてしまう母がいる一方、「PTA役員の旨味は皆無」と言い切り、「ただでさえ忙しい最終学年では、母親は仕事をセーブし、子どもをサポートすべし!」と語る先輩母も多い。

 現在、大成君は地元公立中学の3年生。受験学年を迎えている。ただ、大成君自身が中学受検の経験から学んだことは多かったといい、中学に入ると、人が変わったように各種検定・試験を積極的に受けるようになり、すでに英検準2級を取得済。内申も学区トップ校を狙える位置にいるそうだ。

「大成はもともとマイペースな子なので、逆にあの時、不合格で良かったかもしれません。もし、合格だったとしたら、私は自分の手柄だと勘違いしたかもしれませんし……(笑)」

 現在、大成君の中学でもPTA本部役員をしているという桃子さん。「内申には無関係だけど、自分が楽しいから引き受けた」という。家庭とのバランスを取りながら、上手に任務をこなしているとのことだった。

「母親が専業主婦」は中学受験に有利!? 息子が塾で“クラス落ち”、仕事を辞めた母の思い

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 最近はジェンダーレスの時代だと言われているものの、こと「子育て」をめぐる日常のアレコレは、残念ながら、いまだに「母親の仕事」となることが多いものだ。

 中学受験もその例外ではない。塾の送り迎え、塾のお弁当作り、プリントの整理、家庭学習計画の立案、その進捗管理などなど、主に母親が中学受験のアシスタントプロデューサー的な役割を務めているのが現実だろう。

 その負担ゆえに、中学受験を考えている、あるいは実際に足を踏み入れている母の中には「仕事との両立」に悩む人が後を絶たない。

 中学1年生の哲也君(仮名)の母・美保さん(仮名)もその一人であった。

 専業主婦だった美保さんは、一人息子である哲也君の小学校入学のタイミングで、コールセンターのパート従業員として社会復帰を果たしたという。午前9時~午後4時の週3のパートは、やりがいもあり、楽しかったそうだ。

「パートでしたけど、社会とつながっているという実感がうれしかったですね。それに、哲也が4年生になった時、同級生の影響で『中学受験の塾に通いたい!』と言い出したんですが、即答で『OK!』って返事ができたことも、素直にうれしかった。私の稼ぎで我が家の家計に余裕ができたから言えたことなので、そこはちょっと誇らしかったです」

 しかし、一昨年、美保さんは悩みに悩んで、仕事を辞めた。

「人手不足というのもあり、哲也が5年生になる頃には、週3のパートが週5まで増えていました。そうなると、やっぱり私も疲れが溜まってきて、中学受験のために親がやったほうがいいことも杜撰になっている気がしていたんですよね……」

 美保さんのママ友たちは専業主婦の人が多かったという。彼女の目には「上位クラスにいる子の母親は専業主婦」と映っていたそうだ。

「当時は、自分に余裕がなくて、『哲也の成績が上がらないのは私のせい?』ってくらい追い詰められていたように思います」

 さらに、コロナ禍が美保さんに追い打ちをかけたそうだ。

「小学校が休校になってしまい、哲也を残して出社するはめになりました。ウチの会社はまだ在宅でのテレワークにはなっていなかったんです。当然、見張りがいない哲也は自主的に受験勉強をするわけもなく、成績が下降し、ついにクラス落ち。一方で、ライバルだと思っていた専業主婦のママ友の子はクラスアップに成功。やっぱり母親が専業主婦というのは、中学受験に有利なのは当たっていると焦りました」

 そんな中、美保さんは日頃の仕事ぶりが認められたらしく、職場でSV(スーパーバイザー)という役職への昇進の打診があったそうだ。

 雇用形態は、パートから契約社員に。待遇面では、賞与はないものの、役職手当として時給が200円プラスと提示され、さらに、将来的には正社員への登用もあるという話だったという。

「コールセンターの仕事は好きでしたし、同僚との関係も良かったので、職場環境に不満はなかったんです。哲也が受験生でなく、さらに休校になっていなかったら、有難く受けたかもしれません……」

 悩んだ揚げ句、美保さんはその話を辞退したどころか、退職の道を選んだそうだ。

「今じゃないなって思ったんです。SVになるのも、仕事を続けるのも。SVになるなら、時短勤務はできなくなるので、哲也のそばにいる時間は、ますますなくなってしまう。これで哲也の未来の可能性が狭まってしまうことだけは避けたいと思いました」

 そして、美保さんは、最終学年となる6年生の1年間、哲也君のサポートをすることに全力を尽くしたという。

「哲也はもともと甘えん坊のせいか、やはり母親が家にいるということが単純にうれしかったみたいです。私も疲労度が全然違ったのか、気持ちに余裕ができたみたいで、矢継ぎ早に口うるさく言うことが少なくなりました。哲也にはそれが本当に良かったようで、机に座って集中している時間が増えた気がします。成績も、6年の晩夏までは悲惨だったんですが、冬の気配を感じたあたりから、これぞⅤ字回復ってくらい伸びていきました」

 その甲斐あってか、哲也君は今年、見事に第1志望校である難関校に進学。部活や行事も含め、コロナ禍以前と同じような学園生活を謳歌しているという。そして最近、美保さんは元の職場に復帰したという。

「仕事は一時撤退みたいになりましたが、あの時、私には家庭と仕事のバランスを取ることが難しかった。せっかくの昇進を蹴り、仕事まで辞めたことをもったいないと思われるかもしれませんが、自分の意思で決断できてよかったです」

 仕事と家庭をバランス良く両立するのは、すべての働く人々、特にワーキングマザーにとっては悩ましい問題である。とりわけ、「親子の受験」と呼ばれる中学受験では、仕事と子どもへのフォローの調整で、苦労する母は多い。しかし、各人がその時々に「ベストではないが、これがベター!」と信じた行動をすることが、一番の正しい道だと思うのだ。

「もしかしたら、哲也が高校生くらいになって、本当に手がかからないようになったら、SVにも正社員登用にもチャレンジするかもしれません。でも今は、パートとして、自分なりのペースで働ければ十分です」

 そう微笑む美保さんは、とても輝いて見えた。