「娘の受験校」というトップシークレット漏洩! 中学受験界のママ友マウンティングとは?

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 先になんとも詮方ない話をさせていただく。「マウンティング」で成り立っているママ友界というのは実在する。もしそうしたものに巻き込まれたら、もう、これは誰が何と言おうが、「最初からそういうものだ」と思ってやり過ごさないと、やっていけなくなる世界である。

 その理由は、子どもを介しての付き合いであるということにほかならない。つまり互いが「〇〇ちゃんのママ」という存在同士でしかないのだ。従って、話題はお互いの子どものこと、またはそれに付随することが中心になりがち。図らずも、比較合戦に発展していく確率は高いのだ。どちらが上か下かの水面下の探り合いを“デフォルト”とするママ友界というのは、確かに存在しているのだ。

 ママ友界のマウンティング合戦は、哀しいことに中学受験界では拍車がかかるのが普通。なぜなら、偏差値、あるいは塾の所属クラス、あるいは塾の教室内の座席によって、その優劣がはっきりとわかる世界だからだ。

 筆者は常々「受験にママ友必要なし!」と訴えている。受験は本来、孤独なもの。ましてや受験する当事者でない母親が孤独を癒やしたいがばかりに、または情報ほしさに、子どもを介した付き合いでしかない人と悩みを共有するのは危険だからだ。

 ゆかりさん(仮名)は、娘の麻耶ちゃん(仮名)が小学校5年生の時に、今の住所に引っ越してきた。見知らぬ土地は孤独を感じさせるに十分で、とにかくママ友を作りたくて仕方なかったそうだ。麻耶ちゃんは、クラスメート・亜子ちゃん(仮名)の影響で中学受験を選択。ほどなくして、一緒に同じ中学受験塾に通うようになる。そんな縁でゆかりさんと亜子ちゃんママとの距離は急速に縮まっていったという。

 当初、2人の関係はとてもうまくいっていたそうだが、次第にゆかりさんは違和感を持つようになっていく。その始まりは、ゆかりさんが雨の日に亜子ちゃんの送り迎えを買って出たことのようだ。

 「雨の日は娘を車で送迎するから、最初は『ついでだから、どうぞ』って気持ちだった」とゆかりさん。

 その後、学年が上がると、塾の拘束時間が増えたということもあり、ゆかりさんは天候によらず、麻耶ちゃんを車で送迎するようになったそうだが、亜子ちゃんママはその時、あっさりと「ウチもお願いできないかしら?」と頼んできたという。

 しかし、車での送迎がルーティンになっても、亜子ちゃんママは「悪いわね~」とは言うものの、ガソリン代を負担するわけでもなく、至極、当然のような素振り。ゆかりさんは決していい気分ではなかったという。

 そんな中、亜子ちゃんママが微妙なマウンティングを仕掛けてくることに、ゆかりさんは「イラッ」とするようになっていったのだそうだ。例えば、次のようなマウンティングだ。

「いいわね~、麻耶ちゃんママは運転ができて……。私はペーパーだから、パパがウチのベンツを使わせてくれないのよ」(ちなみにゆかりさんは軽自動車)

「麻耶ちゃんママもパパも中学受験の経験はないの? うらましいわ、伸び伸び過ごしてきたのね。ウチなんか、主人の家は皆、K出身だから、プレッシャーが半端なくて……。え? もちろん、私もK出身だけどね、あ、でも、大したことないし(笑)」(ちなみに、ゆかりさんは地方の短期大学出身)

 中でも筆者が最も笑ったのは、こんなマウンティングだ。

「すごいわね~。麻耶ちゃんは5年生から入ったのに、塾でのクラスが『α2』なんて! 亜子なんて、とてもとても!」

 筆者はてっきり、亜子ちゃんは麻耶ちゃんより下位クラスなのかと思っていたのだが、なんと上のクラスである「α1」だったそうだ。

 小さな苛立ちを募らせていたゆかりさんの怒りが頂点に達したのは、麻耶ちゃんが6年生の晩秋、車の中での亜子ちゃんの発言だった。

「麻耶ちゃん、志望校、決めたの? どこ? 教えて! お願い! お願い!!」

 中学受験界において「受験校」はトップシークレット。できれば、公にはしたくないというのが普通である。麻耶ちゃんも当然、答えに窮していたため、ゆかりさんは「亜子ちゃんが先に教えて!」と助け舟を出したという。すると、亜子ちゃんは平然と、

「ダメなの。ママが亜子の情報は流しちゃダメ! って言うから、言っちゃいけないの」

と拒否したという。

 ほどなくして、ゆかりさんがトドメの一撃を食らう出来事が起こった。その頃開かれた学校の保護者会で、非受験組であるはずのクラスメートのママたちから、こう言われたそうだ。

「麻耶ちゃんは(最難関の)O学園を狙っているんですって? できる子は違うわね~?」

 O学園は志望校の1つではあったものの、麻耶ちゃんも含めて、他人には公言してこなかったというゆかりさん。不思議に思って「誰から聞いたの?」とママたちに尋ねてみると、最終的に、「犯人は亜子ちゃんママ!」と確信するに至ったという。

 それから、ゆかりさんは「先日、事故を起こしかけたので、申し訳ないけど、今後、送り迎えはできない」ということにし、徹底的に亜子ちゃん母子を避けることにしたのだそうだ。

 麻耶ちゃんと亜子ちゃんは、お互いを嫌っていないばかりか、それなりに仲のいいお友達付き合いをしていたにもかかわらず、それ以来、2人の仲も急速に冷え込んでいったという。

 現在、2人は無事に中学生になり、それぞれの志望校に通っているが、今では道で出会ったとしても、母子ともに、挨拶を交わすこともない仲になっているという。

 中学受験は本当にナーバスな世界。ママ友は百害あって、一利なしである。受験は母にとっても孤独なものであることは承知しているが、そういう時こそ「自分は自分、よそはよそ!」という呪文で、「人恋しい」という気持ちを遠ざけよ! と進言しておきたい。
(鳥居りんこ)

「娘の受験校」というトップシークレット漏洩! 中学受験界のママ友マウンティングとは?

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 先になんとも詮方ない話をさせていただく。「マウンティング」で成り立っているママ友界というのは実在する。もしそうしたものに巻き込まれたら、もう、これは誰が何と言おうが、「最初からそういうものだ」と思ってやり過ごさないと、やっていけなくなる世界である。

 その理由は、子どもを介しての付き合いであるということにほかならない。つまり互いが「〇〇ちゃんのママ」という存在同士でしかないのだ。従って、話題はお互いの子どものこと、またはそれに付随することが中心になりがち。図らずも、比較合戦に発展していく確率は高いのだ。どちらが上か下かの水面下の探り合いを“デフォルト”とするママ友界というのは、確かに存在しているのだ。

 ママ友界のマウンティング合戦は、哀しいことに中学受験界では拍車がかかるのが普通。なぜなら、偏差値、あるいは塾の所属クラス、あるいは塾の教室内の座席によって、その優劣がはっきりとわかる世界だからだ。

 筆者は常々「受験にママ友必要なし!」と訴えている。受験は本来、孤独なもの。ましてや受験する当事者でない母親が孤独を癒やしたいがばかりに、または情報ほしさに、子どもを介した付き合いでしかない人と悩みを共有するのは危険だからだ。

 ゆかりさん(仮名)は、娘の麻耶ちゃん(仮名)が小学校5年生の時に、今の住所に引っ越してきた。見知らぬ土地は孤独を感じさせるに十分で、とにかくママ友を作りたくて仕方なかったそうだ。麻耶ちゃんは、クラスメート・亜子ちゃん(仮名)の影響で中学受験を選択。ほどなくして、一緒に同じ中学受験塾に通うようになる。そんな縁でゆかりさんと亜子ちゃんママとの距離は急速に縮まっていったという。

 当初、2人の関係はとてもうまくいっていたそうだが、次第にゆかりさんは違和感を持つようになっていく。その始まりは、ゆかりさんが雨の日に亜子ちゃんの送り迎えを買って出たことのようだ。

 「雨の日は娘を車で送迎するから、最初は『ついでだから、どうぞ』って気持ちだった」とゆかりさん。

 その後、学年が上がると、塾の拘束時間が増えたということもあり、ゆかりさんは天候によらず、麻耶ちゃんを車で送迎するようになったそうだが、亜子ちゃんママはその時、あっさりと「ウチもお願いできないかしら?」と頼んできたという。

 しかし、車での送迎がルーティンになっても、亜子ちゃんママは「悪いわね~」とは言うものの、ガソリン代を負担するわけでもなく、至極、当然のような素振り。ゆかりさんは決していい気分ではなかったという。

 そんな中、亜子ちゃんママが微妙なマウンティングを仕掛けてくることに、ゆかりさんは「イラッ」とするようになっていったのだそうだ。例えば、次のようなマウンティングだ。

「いいわね~、麻耶ちゃんママは運転ができて……。私はペーパーだから、パパがウチのベンツを使わせてくれないのよ」(ちなみにゆかりさんは軽自動車)

「麻耶ちゃんママもパパも中学受験の経験はないの? うらましいわ、伸び伸び過ごしてきたのね。ウチなんか、主人の家は皆、K出身だから、プレッシャーが半端なくて……。え? もちろん、私もK出身だけどね、あ、でも、大したことないし(笑)」(ちなみに、ゆかりさんは地方の短期大学出身)

 中でも筆者が最も笑ったのは、こんなマウンティングだ。

「すごいわね~。麻耶ちゃんは5年生から入ったのに、塾でのクラスが『α2』なんて! 亜子なんて、とてもとても!」

 筆者はてっきり、亜子ちゃんは麻耶ちゃんより下位クラスなのかと思っていたのだが、なんと上のクラスである「α1」だったそうだ。

 小さな苛立ちを募らせていたゆかりさんの怒りが頂点に達したのは、麻耶ちゃんが6年生の晩秋、車の中での亜子ちゃんの発言だった。

「麻耶ちゃん、志望校、決めたの? どこ? 教えて! お願い! お願い!!」

 中学受験界において「受験校」はトップシークレット。できれば、公にはしたくないというのが普通である。麻耶ちゃんも当然、答えに窮していたため、ゆかりさんは「亜子ちゃんが先に教えて!」と助け舟を出したという。すると、亜子ちゃんは平然と、

「ダメなの。ママが亜子の情報は流しちゃダメ! って言うから、言っちゃいけないの」

と拒否したという。

 ほどなくして、ゆかりさんがトドメの一撃を食らう出来事が起こった。その頃開かれた学校の保護者会で、非受験組であるはずのクラスメートのママたちから、こう言われたそうだ。

「麻耶ちゃんは(最難関の)O学園を狙っているんですって? できる子は違うわね~?」

 O学園は志望校の1つではあったものの、麻耶ちゃんも含めて、他人には公言してこなかったというゆかりさん。不思議に思って「誰から聞いたの?」とママたちに尋ねてみると、最終的に、「犯人は亜子ちゃんママ!」と確信するに至ったという。

 それから、ゆかりさんは「先日、事故を起こしかけたので、申し訳ないけど、今後、送り迎えはできない」ということにし、徹底的に亜子ちゃん母子を避けることにしたのだそうだ。

 麻耶ちゃんと亜子ちゃんは、お互いを嫌っていないばかりか、それなりに仲のいいお友達付き合いをしていたにもかかわらず、それ以来、2人の仲も急速に冷え込んでいったという。

 現在、2人は無事に中学生になり、それぞれの志望校に通っているが、今では道で出会ったとしても、母子ともに、挨拶を交わすこともない仲になっているという。

 中学受験は本当にナーバスな世界。ママ友は百害あって、一利なしである。受験は母にとっても孤独なものであることは承知しているが、そういう時こそ「自分は自分、よそはよそ!」という呪文で、「人恋しい」という気持ちを遠ざけよ! と進言しておきたい。
(鳥居りんこ)

「娘の受験校」というトップシークレット漏洩! 中学受験界のママ友マウンティングとは?

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 先になんとも詮方ない話をさせていただく。「マウンティング」で成り立っているママ友界というのは実在する。もしそうしたものに巻き込まれたら、もう、これは誰が何と言おうが、「最初からそういうものだ」と思ってやり過ごさないと、やっていけなくなる世界である。

 その理由は、子どもを介しての付き合いであるということにほかならない。つまり互いが「〇〇ちゃんのママ」という存在同士でしかないのだ。従って、話題はお互いの子どものこと、またはそれに付随することが中心になりがち。図らずも、比較合戦に発展していく確率は高いのだ。どちらが上か下かの水面下の探り合いを“デフォルト”とするママ友界というのは、確かに存在しているのだ。

 ママ友界のマウンティング合戦は、哀しいことに中学受験界では拍車がかかるのが普通。なぜなら、偏差値、あるいは塾の所属クラス、あるいは塾の教室内の座席によって、その優劣がはっきりとわかる世界だからだ。

 筆者は常々「受験にママ友必要なし!」と訴えている。受験は本来、孤独なもの。ましてや受験する当事者でない母親が孤独を癒やしたいがばかりに、または情報ほしさに、子どもを介した付き合いでしかない人と悩みを共有するのは危険だからだ。

 ゆかりさん(仮名)は、娘の麻耶ちゃん(仮名)が小学校5年生の時に、今の住所に引っ越してきた。見知らぬ土地は孤独を感じさせるに十分で、とにかくママ友を作りたくて仕方なかったそうだ。麻耶ちゃんは、クラスメート・亜子ちゃん(仮名)の影響で中学受験を選択。ほどなくして、一緒に同じ中学受験塾に通うようになる。そんな縁でゆかりさんと亜子ちゃんママとの距離は急速に縮まっていったという。

 当初、2人の関係はとてもうまくいっていたそうだが、次第にゆかりさんは違和感を持つようになっていく。その始まりは、ゆかりさんが雨の日に亜子ちゃんの送り迎えを買って出たことのようだ。

 「雨の日は娘を車で送迎するから、最初は『ついでだから、どうぞ』って気持ちだった」とゆかりさん。

 その後、学年が上がると、塾の拘束時間が増えたということもあり、ゆかりさんは天候によらず、麻耶ちゃんを車で送迎するようになったそうだが、亜子ちゃんママはその時、あっさりと「ウチもお願いできないかしら?」と頼んできたという。

 しかし、車での送迎がルーティンになっても、亜子ちゃんママは「悪いわね~」とは言うものの、ガソリン代を負担するわけでもなく、至極、当然のような素振り。ゆかりさんは決していい気分ではなかったという。

 そんな中、亜子ちゃんママが微妙なマウンティングを仕掛けてくることに、ゆかりさんは「イラッ」とするようになっていったのだそうだ。例えば、次のようなマウンティングだ。

「いいわね~、麻耶ちゃんママは運転ができて……。私はペーパーだから、パパがウチのベンツを使わせてくれないのよ」(ちなみにゆかりさんは軽自動車)

「麻耶ちゃんママもパパも中学受験の経験はないの? うらましいわ、伸び伸び過ごしてきたのね。ウチなんか、主人の家は皆、K出身だから、プレッシャーが半端なくて……。え? もちろん、私もK出身だけどね、あ、でも、大したことないし(笑)」(ちなみに、ゆかりさんは地方の短期大学出身)

 中でも筆者が最も笑ったのは、こんなマウンティングだ。

「すごいわね~。麻耶ちゃんは5年生から入ったのに、塾でのクラスが『α2』なんて! 亜子なんて、とてもとても!」

 筆者はてっきり、亜子ちゃんは麻耶ちゃんより下位クラスなのかと思っていたのだが、なんと上のクラスである「α1」だったそうだ。

 小さな苛立ちを募らせていたゆかりさんの怒りが頂点に達したのは、麻耶ちゃんが6年生の晩秋、車の中での亜子ちゃんの発言だった。

「麻耶ちゃん、志望校、決めたの? どこ? 教えて! お願い! お願い!!」

 中学受験界において「受験校」はトップシークレット。できれば、公にはしたくないというのが普通である。麻耶ちゃんも当然、答えに窮していたため、ゆかりさんは「亜子ちゃんが先に教えて!」と助け舟を出したという。すると、亜子ちゃんは平然と、

「ダメなの。ママが亜子の情報は流しちゃダメ! って言うから、言っちゃいけないの」

と拒否したという。

 ほどなくして、ゆかりさんがトドメの一撃を食らう出来事が起こった。その頃開かれた学校の保護者会で、非受験組であるはずのクラスメートのママたちから、こう言われたそうだ。

「麻耶ちゃんは(最難関の)O学園を狙っているんですって? できる子は違うわね~?」

 O学園は志望校の1つではあったものの、麻耶ちゃんも含めて、他人には公言してこなかったというゆかりさん。不思議に思って「誰から聞いたの?」とママたちに尋ねてみると、最終的に、「犯人は亜子ちゃんママ!」と確信するに至ったという。

 それから、ゆかりさんは「先日、事故を起こしかけたので、申し訳ないけど、今後、送り迎えはできない」ということにし、徹底的に亜子ちゃん母子を避けることにしたのだそうだ。

 麻耶ちゃんと亜子ちゃんは、お互いを嫌っていないばかりか、それなりに仲のいいお友達付き合いをしていたにもかかわらず、それ以来、2人の仲も急速に冷え込んでいったという。

 現在、2人は無事に中学生になり、それぞれの志望校に通っているが、今では道で出会ったとしても、母子ともに、挨拶を交わすこともない仲になっているという。

 中学受験は本当にナーバスな世界。ママ友は百害あって、一利なしである。受験は母にとっても孤独なものであることは承知しているが、そういう時こそ「自分は自分、よそはよそ!」という呪文で、「人恋しい」という気持ちを遠ざけよ! と進言しておきたい。
(鳥居りんこ)

中学受験界「大学付属校」人気の落とし穴――「こんなはずではなかった」親たちの強い後悔

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験界では数年前から「大学付属校」が大人気だ。その理由は2点。1つが2021年度入試から始まる「大学入試改革」、もう1つが国の「私大の入学定員管理厳格化措置」の影響だ。
※私大の入学定員管理厳格化……文部科学省が私大の入学定員の超過に対して、私学助成金の交付をその人数に応じてカットするという措置。東京・名古屋・大阪の三大都市圏に学生が集中するのを抑え、地方へ振り分ける狙いがある。安倍内閣の「地方創生」政策の一環と言われている。

 いまだにハッキリと決まっていない大学入試改革の全容、一方で早慶、MARCHをはじめとした主要私大の“合格者絞り込み”という現実――これらが今、中学受験生の親たちの危機感をダイレクトに煽っているのだ。

 つまり「国の方針ひとつ」で我が子の大学受験がどう転ぶかわからない、という現状がある。しかもその「方針」も迷走していると言えるだろう。ゆえに親たちは、早い段階での「大学合格切符」という「保険」をかけようと躍起になっているのだ。

 広樹君(仮名)の母・貴代さん(仮名)も、この現実に焦った1人だ。

「中学受験をして私立に入学したとして、確かに高校受験はありませんが、高2から大学受験に向けた勉強がスタートするというのは既定路線。であれば、6年一貫教育と言ったって、伸び伸びしていられる時期は少ない。それならば、最初から大学付属狙いの方が広樹のためになるのでは? と思ったんです」

 こうして、貴代さんは、広樹君の受験校を第5志望まで全て大学付属校で埋めたという。そして広樹君は、第5志望校であるN大学付属に合格を決めた。インフルエンザに罹患してしまったため、本来の実力が発揮できなかったそうだ。

 塾の先生はこの結果をとても悔しがり、「広樹はW大系列に入れる実力だから、N大付属には行かず、公立中に進み、高校受験でリベンジしてはどうか?」とアドバイスしたそうだ。

 しかし、貴代さんの強い勧めで、広樹君はN大学付属に入学。本人も最初はリベンジを固く誓っていたそうだが、現在高1の彼は、貴代さんからすると「見る影もない」ほど勉強しないという。

「広樹の学年が特にそうなのかもしれませんが、ほとんどの子が『無理はしない』思考なんですよ。つまり、無理してまで他大を受けないってことですね。浪人にでもなったら、目も当てられないですから……。広樹は『このまま、ぬるま湯に浸って、入れるところに入れればいい』と思っている節があるんです。でも、N大に入るのも、学内基準があるので、意外と難しいんですよね~。塾の先生の言うことを聞いておくべきでした……」

 たいていの大学付属校は、成績順に学部を選べるシステムなので、必ず志望が叶うという保証はない。そもそも、自分の行きたい学部が「その大学にはない」というケースも大いにある。子どもが、「入りたい学部」ではなく、「入れる学部」に自分を合わせるという現実もなきにしもあらずなのだ。

 「大学付属校に入れば安心」という親の「保険」がどこまで通用するかは、実際に子どもが高3になるまで、誰にもわからないというのが実情だろう。

 もう1人、太郎君(仮名)のケースをお伝えしよう。彼は中学受験でE学園とK大付属に合格した。彼の第1志望校はE学園であったが、「保険」を欲する親の犠牲となり、結果的にK大付属のF中学に入学したのだ。

 母である佐代子さん(仮名)は合格直後、筆者にこう言っていた。

「K大付属のF中よ! ほぼ全員がK大に入れるんだから、安心よね。K大なら、どの学部でもいい!」

 太郎君の現在を、先にお伝えしておこう。彼は19歳で、フリーターをしている。学歴的には中卒である。なんでもK大付属の独特のカラーに合わず、入学当初からの強烈な違和感を拭い去ることができなかったそうだ。

 F中はレポート課題が頻繁にあり、未提出者への指導が厳しいことに定評がある。進級基準に満たない者は中学生であっても、容赦なく「肩たたき」(内部進級・進学ができない)される。

 太郎君というより、佐代子さんが最後まで内部進学にこだわったということが災いして、結果的に他高校の受験に失敗。フリースクールに通ったものの、高校卒業資格は取れていない。

 太郎君が自嘲気味に笑いながら、筆者にこう漏らしたことがある。

「あの時、親がE学園に入れてくれたら、こうはなってなかったっす……」

 「大学までエスカレーター」という点だけに飛びつくのは危険だ。大学付属校はとても魅力的な学校であることは確かだが、こういう「落とし穴」があることも、事前に承知しておくべきだろう。

 学校選びは「保険」を第一にするのではなく、子どもの特性を見て「将来、花が咲きやすいであろう環境かどうか」を一番に考えることが重要なのだ。
(鳥居りんこ)

中学受験界「大学付属校」人気の落とし穴――「こんなはずではなかった」親たちの強い後悔

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験界では数年前から「大学付属校」が大人気だ。その理由は2点。1つが2021年度入試から始まる「大学入試改革」、もう1つが国の「私大の入学定員管理厳格化措置」の影響だ。
※私大の入学定員管理厳格化……文部科学省が私大の入学定員の超過に対して、私学助成金の交付をその人数に応じてカットするという措置。東京・名古屋・大阪の三大都市圏に学生が集中するのを抑え、地方へ振り分ける狙いがある。安倍内閣の「地方創生」政策の一環と言われている。

 いまだにハッキリと決まっていない大学入試改革の全容、一方で早慶、MARCHをはじめとした主要私大の“合格者絞り込み”という現実――これらが今、中学受験生の親たちの危機感をダイレクトに煽っているのだ。

 つまり「国の方針ひとつ」で我が子の大学受験がどう転ぶかわからない、という現状がある。しかもその「方針」も迷走していると言えるだろう。ゆえに親たちは、早い段階での「大学合格切符」という「保険」をかけようと躍起になっているのだ。

 広樹君(仮名)の母・貴代さん(仮名)も、この現実に焦った1人だ。

「中学受験をして私立に入学したとして、確かに高校受験はありませんが、高2から大学受験に向けた勉強がスタートするというのは既定路線。であれば、6年一貫教育と言ったって、伸び伸びしていられる時期は少ない。それならば、最初から大学付属狙いの方が広樹のためになるのでは? と思ったんです」

 こうして、貴代さんは、広樹君の受験校を第5志望まで全て大学付属校で埋めたという。そして広樹君は、第5志望校であるN大学付属に合格を決めた。インフルエンザに罹患してしまったため、本来の実力が発揮できなかったそうだ。

 塾の先生はこの結果をとても悔しがり、「広樹はW大系列に入れる実力だから、N大付属には行かず、公立中に進み、高校受験でリベンジしてはどうか?」とアドバイスしたそうだ。

 しかし、貴代さんの強い勧めで、広樹君はN大学付属に入学。本人も最初はリベンジを固く誓っていたそうだが、現在高1の彼は、貴代さんからすると「見る影もない」ほど勉強しないという。

「広樹の学年が特にそうなのかもしれませんが、ほとんどの子が『無理はしない』思考なんですよ。つまり、無理してまで他大を受けないってことですね。浪人にでもなったら、目も当てられないですから……。広樹は『このまま、ぬるま湯に浸って、入れるところに入れればいい』と思っている節があるんです。でも、N大に入るのも、学内基準があるので、意外と難しいんですよね~。塾の先生の言うことを聞いておくべきでした……」

 たいていの大学付属校は、成績順に学部を選べるシステムなので、必ず志望が叶うという保証はない。そもそも、自分の行きたい学部が「その大学にはない」というケースも大いにある。子どもが、「入りたい学部」ではなく、「入れる学部」に自分を合わせるという現実もなきにしもあらずなのだ。

 「大学付属校に入れば安心」という親の「保険」がどこまで通用するかは、実際に子どもが高3になるまで、誰にもわからないというのが実情だろう。

 もう1人、太郎君(仮名)のケースをお伝えしよう。彼は中学受験でE学園とK大付属に合格した。彼の第1志望校はE学園であったが、「保険」を欲する親の犠牲となり、結果的にK大付属のF中学に入学したのだ。

 母である佐代子さん(仮名)は合格直後、筆者にこう言っていた。

「K大付属のF中よ! ほぼ全員がK大に入れるんだから、安心よね。K大なら、どの学部でもいい!」

 太郎君の現在を、先にお伝えしておこう。彼は19歳で、フリーターをしている。学歴的には中卒である。なんでもK大付属の独特のカラーに合わず、入学当初からの強烈な違和感を拭い去ることができなかったそうだ。

 F中はレポート課題が頻繁にあり、未提出者への指導が厳しいことに定評がある。進級基準に満たない者は中学生であっても、容赦なく「肩たたき」(内部進級・進学ができない)される。

 太郎君というより、佐代子さんが最後まで内部進学にこだわったということが災いして、結果的に他高校の受験に失敗。フリースクールに通ったものの、高校卒業資格は取れていない。

 太郎君が自嘲気味に笑いながら、筆者にこう漏らしたことがある。

「あの時、親がE学園に入れてくれたら、こうはなってなかったっす……」

 「大学までエスカレーター」という点だけに飛びつくのは危険だ。大学付属校はとても魅力的な学校であることは確かだが、こういう「落とし穴」があることも、事前に承知しておくべきだろう。

 学校選びは「保険」を第一にするのではなく、子どもの特性を見て「将来、花が咲きやすいであろう環境かどうか」を一番に考えることが重要なのだ。
(鳥居りんこ)

「女に教育はいらん!」舅から中学受験批判!! 母激怒のウラに「高卒で就職した」悔しい過去

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験で正直、めんどうだなぁと思うことの1つに「外野の声」がある。事情を知らない第三者が突然、訳知り顔で「反対意見」を述べることがあるのだ。

 それは「こんなに勉強させられてかわいそう」という言葉に代表される。「かわいそう」と言ってくる人が、我が子の人生に責任を取ってくれるならば、それはそれで納得するが、そんなことはあるわけがない。ただ、他人様の言葉ならば、微笑みながら華麗にスルーで問題ないが、困るのは祖父母である。

 拙書である『偏差値30からの中学受験 本当に聞きたかったQ&A ぶっちゃけどうなの?』(学研)の中に、次のような受験生母からの質問を載せた。

「Q 祖父母の理解が得られません。どう話したらいいですか?」

 私が導き出した答えはこうだった。

「A 無視しましょう!」

 本書は10年前の本なのだが、私の意見は今も変わらない。なぜなら、中学受験は、親が我が子のために「これがベスト」と信じてやらせるものだからだ。これは、親が信念を持って「この道!」と大きな決断を下したということである。仮に祖父母の反対でぐらつくのであれば、その程度の話、やめればいい。

 しかし、この本では、私はこのようにも書いた。もし祖父母に金銭的なサポートを受けているのであれば、「説得せよ」とつづったのだ。これは、実は祖父母のためにではない。中学受験をさせるべきか、させざるべきか――揺れる親の頭を整理するために、祖父母にプレゼンをしてみようということなのだ。「なぜ中学受験をさせるのか?」という強い思いをプレゼンで再確認できたならば、その経験が強力な援軍となって子どもを奮い立たせることにつながると思っている。

 佳乃さん(仮名)も、舅に子どもの中学受験を止められた1人だ。佳乃さん一家は、祖父母の援助を受ける必要はなかったそうだが、それでも、あの日のことは一生忘れないと語る。

 発端は娘である穂香ちゃん(当時5年生・仮名)を、お盆休みに田舎の義実家に預けたことだった。孫の滞在延長を望んだ姑に、穂香ちゃんは「夏期講習があるから無理!」と言って、東京へ帰ろうとしたそうだ。しかしその時、なぜか、突然、舅がキレたのだという。電話で佳乃さんを一方的に怒鳴りつけたという。

「こんな小さな時分から机にかじりつかせて、虐待か! だいたい女に教育はいらん!」 

 そして舅は、穂香ちゃんを帰そうとはしない。焦った佳乃さんは、夫に「舅を説得がてら、穂香を迎えに行くように」と言ったそうだが、夫は舅の性格をめんどうがって埒が明かなかったという。

 5年生ともなれば、難しい単元も出てくる時期。後期夏期講習を受講できないかもしれないという事実に、佳乃さんは焦り出す。もっとも、佳乃さんの怒りは「女に教育はいらない」という舅の時代錯誤的言動にあったらしい。その理由は、佳乃さんの過去にあった。

 佳乃さんは小学生時代、中学受験をしようと勉強に励んでいたが、両親が離婚。その余波で受験どころではなくなり、さらには諸事情で大学進学を諦め、高卒で就職したという経緯があったのだ。

「私は勉強したかったんです。今でも第1志望だったK学園の制服を見ると、胸がチクチクします。人間は勉強できるチャンスがあるならば、それを生かした方が将来の選択肢が増えます。だから、娘にだけは、私と同じ思いはさせたくなかった……。幸い、穂香は勉強ができる子で、塾も大好き。将来の夢は医者ってことで、理系に強いO学園を目指していたので、余計に義父の言葉は許せませんでした」

 佳乃さんは「こうなったら、自分が有無も言わせず舅から穂香ちゃんを取り戻す!」という決意で、穂香ちゃんに「今から、ママが迎えに行く!」と電話したという。すると、穂香ちゃんから意外な言葉が返ってきたそうだ。「ジージがわかってくれたから、今から帰るね」と。

 聞けば、穂香ちゃんは自分でこう伝えたという。

「ジージは心臓が悪いじゃない? だから、穂香がお医者さんになって、ジージの病気を治してあげるね。そのためには、今はO学園に行くのが、最短距離なの!」

 そして、塾が楽しいこと、先生から習ったこと、世の中の仕組みがこうなるともっといいと思っていることなどを、話して聞かせたのだという。その利発さに感動した舅は、今度は急にこう言い出したんだそうだ。

「穂香ちゃんの教育費は、自分が援助する!」

 災い転じて何とやらの結果となった佳乃さんは、当時のことを思い出しながら、「穂香は無事にこの春、O学園の生徒になりました。今はまだ、舅からは金銭的援助は受けていませんが、この先、医大に入るときにはお願いしたいですね(笑)」と笑っていた。

 もし、第三者が我が子の中学受験、さらにはその先の道までを指図してきたと仮定してほしい。もし、そのことで親の心が揺れるならば、最後は我が子に聞けばいい。答えは我が子が持っている。人生は幼くとも、自分で決めて進むものだからだ。親はそのサポートを“揺れず”にやればいいと思っている。
(鳥居りんこ)

算数テストでカンニング発覚! 中学受験生の息子に怒り狂う母が、それでも「目をつむった」ワケ

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

テストで「姑息な」カンニング……それでも中学受験生の息子を「叱らなかった」母の意図
「筆算の形跡ない解答用紙」に怒り――中学受験生のカンニングに、母が目をつむったワケ

 中学受験は小学生が臨む受験である。それゆえ、親から見ると、まだ思考が幼いと感ずる部分があるのは致し方ないところである。その幼さが端的に表れるのが「勉強への姿勢」だ。

「なぜ、勉強が必要なのか」
「この勉強は自分にとって、将来、どのように役に立つのか」
「なぜ、中学受験をするのか」
「中高一貫校に行って、何をしたいのか」
「自分は本当に中学受験をやりたいのか」

 こうした根本的な問いに、幼いながらも自分で答えを出せる子でない限り、中学受験は苦しいものになりがちだ。「今と将来の自分に必要だから挑戦している」という自覚がある子と、親の言いなりで課題だけをこなす毎日になっている子とではモチベーションの差が大きい。それがダイレクトに“合否”につながるわけではないが、“人生”の差にはダイレクトにつながっていくように思う。これが親主導の中学受験の怖いところなのだ。

 もちろん、ほとんどの親は、中学受験を「親心」から「子に良かれ」と思って主導するのだが、そこに子ども自身の志が交わらねば、子育てはどこかの時点でつまずきを感じやすくなる。人生は自分の意思で切り拓くもの。親といえども子どもの意思を過剰にコントロールするならば、やがて子どもは自分の人生を他人に委ねることになるだろう。

 陽子さん(仮名)はある日、塾からの電話に血相を変えた。息子である小学6年生の周君(仮名)に、カンニングが発覚したという知らせだったからだ。塾に急行した陽子さんは算数の小テストの解答用紙を見せられて愕然とする。式も書いておらず、筆算をしていた形跡もない、そこには、正答の数字のみが羅列されていたのだ。

 室長から「周君はすでにそのテストを終えた隣のクラスから解答を入手し、その数字だけを記憶して書いたのではないか? と推測される」と教えてもらうと、陽子さんは「なんという姑息な……!」と怒りに震え、帰ったら息子をどう叱ろうかと頭を悩ませたという。しかし、室長は笑みを交えながらこう告げたそうだ。

「お母さん、カンニングをする子はたくさんいます。周君だけではないです。皆、点数が欲しいという誘惑にかられちゃうんですよ。でも、周君は全然マシですよ。ちょっと小賢しくなると、わざと何問かを間違えておいたり、あたかも計算したかのように小細工する子もいますから。それに比べて、周君は純粋です(笑)」

 そして、今度は真剣な眼差しで、陽子さんに意外な提案をした。

「周君はご存じの通り、6年の夏季講習前にクラス落ちしました。本人も相当、焦っているんです。お母さんは今回のことは目をつむって、何も言わず、周君の好物でも作ってあげてください。この件は僕から周君に直接伝えます」

 数日後、室長が周君を呼んでしたことは、「嫌いだった算数をいかに好きになったか」という自身の体験談を語ることだったという。

「周君、算数、好きか? 先生はなぁ、算数は昔、嫌いだったんだが、先生の先生に円周率の話をされて、すごく興味を持って、それで算数好きになったんだよ」

 そして、室長は紙を切りながら、直径2㎝、3㎝、4㎝の円を作って、周君に糸を使わせて円周を測らせたそうだ。「円周はどんな円でも直径×3.14」と。

「不思議だろ? でも、すごく美しいって思わないか? 勉強って覚えるだけじゃ、心に響かないんだよな。先生は『何でだろう?』って不思議に思うことが“勉強”だと思うんだよ」

 周君は、陽子さんに、室長から聞いたという円周率の話を笑顔で語り、実際に色んな円を自作して、実演してみせたそうだ。陽子さんはその姿を見て、猛烈に反省したという。

「私、間違っていました。周がカンニングしたのは、間違いなく私のプレッシャーです。『6年の最後のクラス替えで元のクラスに戻らなかったら、もう意味はないから、受験をやめなさい』なんてことを何度も言っていたんです。周がポーカーフェイスだったので、ちょっと気合を入れようとしただけだったんですが……」

 当時のことを思い出し、こみあげてくるものがあるのか、陽子さんはハンカチで顔を覆った。

「中学受験を周に経験させてあげようとしたのは、決して、いい点を取るとか、偏差値を上げるという目的ではなかったことを思い出しました。『勉強って楽しいね、知るってうれしいね』ってことを重視する環境に周を置いてあげたかっただけなのに、塾のクラス分けやテストの結果を前に、いつの間にか、有名進学校に入ることだけが目的になってしまっていたんです」

 その後、陽子さんはカンニングのことに関しては一切触れず、周君に「なぜ、中学受験をすることに決めたのか」という話をしながら、周君が今までの3年間で培ってきた知識の広がりを、具体的に褒めたそうだ。

いわく、日本の歴史は母よりも詳しくて驚いていること
いわく、四文字熟語や慣用句の知識が豊富なこと
いわく、星の名前がいくつも言えること
いわく、計算問題を解くスピードが格段に増していること

 それらを一つずつ口に出して周君に伝えていると、「自分でも驚くくらい、周の知識が広がっていることにあらためて気付かされた」と陽子さんはいう。周君は「当たり前だろう? 塾に行ってるんだから!」と素気なく答えたらしいが、「まんざらでもない」という態度を陽子さんは感じ取ったそうだ。

「中学受験生はまだ子どもですから、余計に親の言い方が大事なんですね。私はクラス落ちの苛立ちをこともあろうに周にぶつけただけでした。周の方が数千倍悔しかっただろうに、私はやる気を失わせる言動しかしていませんでした。室長に救われたのは、実は私の方だったかもしれません……」

 周君は秋のクラス替えで元のクラスに返り咲き、見事に第1志望校に入学した。今現在は科学部に在籍しており、昨年の文化祭では「葉脈しおり作り」班の班長として活躍していた。 周君いわく「科学って不思議で、すごく美しい」のだそうだ。
(鳥居りんこ)

中学受験、「突然かつ非情」な偏差値暴落――「どうせ私はバカだから」娘の言葉に涙した母

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 受験には普通、“定員”がある。つまりそれは、見知らぬ誰かとの“競争”を意味する。その“誰か”よりも高得点を獲得し、合格ラインよりも上に行かなければ勝利に至らないシステム。ゆえに、仲の良い友達同士だからといって、1点差で明暗が分かれてしまうことは多々あるものなのだ。

 小学6年生の9月あたりになると、「やってもやっても成績が上がらない」ということが起こってくる。勉強していないわけではなく、むしろ今まで以上に頑張っているのに、成績が下がっていく現象が発生するのだ。

 由梨ちゃん(仮名)もその一人であった。6年生の夏休みは、どこにも遊びに行かずに、それこそ朝から晩まで塾に缶詰め。必死に毎日のスケジュールをこなしてきた。

「こんなに頑張ったのだから、絶対に成績は上がっているはず!」

 由梨ちゃんも、母である舞子さん(仮名)もそう信じて疑わなかった。2人は夏休み明けの模試を楽しみにしていたのだ。

 そして9月の模試結果が出た。由梨ちゃんは「どうして……?」と言ったきり呆然とした。そこには、今まで目にしたこともないような低い偏差値が記されており、志望校合格予想欄は「再考」を促すコメントであふれていたからだ。

 そんな由梨ちゃんは、さらなるダメージを受ける。仲良しのメグミちゃん(仮名)が、由梨ちゃんの志望校に対して「合格確率80%」という結果を出したと、知ってしまったのだ。

「メグは夏休みに田舎に遊びにも行ってたし、志望校別クラスの『〇〇特訓』も取っていなかったのに、どうして……?」

 その後、由梨ちゃんは自室にバリケードを作り、舞子さんを部屋の中に入れようとしなくなったそうだ。当然、舞子さんはなだめようと試みる。しかし、由梨ちゃんはドアを開けようとする舞子さんに向かって、いろんなものを投げつけてきたそうだ。

「もう、私のことはほっといて!」
「どうせ、私はバカなんだから!」
「やってもやっても、バカだから、できないんだよ!」
「もう、こんなんじゃ、どこにも受かるわけないじゃん!」
「バカは死んだ方がいいんだよ!」

 ドアの奥から、愛娘の悲痛な叫びが聞こえてきたらしい。今までの由梨ちゃんの努力を知っているだけに、舞子さんのダメージも大きく、ドアの外側に座り込んで、泣いてしまったという。

「由梨にとって小学生最後の夏休みだったのに、結果として遊ぶこともさせず、ただただ叱咤激励してきた自分は母親失格ではないか? この道は間違っているのではないか?」そう思うと、舞子さんの目からは涙があふれ続けたそうだ。

 その時、同じく中学受験を経験している中3生の由梨ちゃんの兄・慎吾君(仮名)が帰宅し、自室に籠ってオイオイと泣いている妹と、そのドアの外でヨヨと泣き崩れている母親を目にする。

 事情を一瞬で察した慎吾君は、舞子さんに向かって「今は由梨をほっといてやれよ」と言い、由梨ちゃんの好物のドリアを作るように進言したという。

 そして、数時間後の真夜中、ベランダから由梨ちゃんの部屋の窓をノックして、

「由梨! 由梨! ジャコビニ流星群が見える!!」

と声を上げた。すると由梨ちゃんが窓を開け、ベランダに出てきたので、慎吾君は自分の双眼鏡を手渡したという。

「お兄ちゃん、見えないよ! 流星群、どこ?」

 慎吾君は「おかしいな、さっき、見えた気がしたんだけどな……。じゃ、もう見えないな、中に入ろう」と言いながら、背中越しに由梨ちゃんに、こう伝えたという。

「由梨、俺も小6の9月はどん底だった。心配すんな。でも、一度、底を見たら、もう上がるしかないから」

 そして、階下にいる舞子さんに向かって、「母さん、由梨がドリア食べるって!」と叫んだそうだ。最初は「言ってないし!」などと漏らした由梨ちゃんだが、慎吾君に笑いながら「腹減ってないの? じゃ、俺が食べちゃうよ」と言われると、気持ちが変わったらしく、「おなかすいた!」と、リビングまで降りて来たという。舞子さんは、由梨ちゃんが部屋から出てきたことがうれしく、思わず「お母さんもドリア、一緒に食べようっと」と乗っかると、同時に夫と慎吾君も「俺も食べる」と便乗。家族揃って、深夜の“ヘビー飯”になったという。

 舞子さんが当時のことを述懐して、こう言った。

「あの時は、慎吾に助けられました。やっぱり、受験を経験した子にしかできないアドバイスがあるんだなって……。私は親なのに、泣くだけで。もっとドーンと構えていないといけないですよね」

 6年秋はスランプに陥る子が多い。それは、全員が一斉に真剣モードに突入してくるので、1問のミスが偏差値を大きく下げてしまうからだ。しかし、本番は冬。コツコツと勉強を続けている子には、やがてスランプも遠ざかる。子どもがネガティブな思考に陥ったとき、親は「自分が何とかしなければ」と背負いがちだが、「誰に子どもを励ましてもらうべきか」を考えることも大切なのかもしれない。

 由梨ちゃんは、それから、おまじないのように、慎吾君から言われた「今が底」という言葉を口にして、また淡々と頑張り出したという。すると夏の成果が晩秋から出始め、当初、考えていた志望校よりもさらに上の「雲の上校」の受験を可能にしたのだ。

 結果、由梨ちゃんは現在、昨年9月の時点では受験も考えられなかった高偏差値校に通っている。時々は兄が忘れていったお弁当を持って。そう、由梨ちゃんは兄・慎吾君と同じ学び舎に通っているのだ。
(鳥居りんこ)

父が息子を「刺殺」という最悪の結末も――中学受験で「子どもの人生を乗っ取る」親の愚かさ

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 日本人は儒教の影響もあり、昔から「家」や「家族」というものを重要視する傾向にあると言われている。そのため、家族は連帯責任という有形無形の圧力をかけられてしまいがちだ。

 その良い例が、有名芸能人の子どもの不祥事である。芸能人自身が起こした不祥事ではなく、しかも成人している子どもの罪なのに、世間という名の不特定多数に向けて、謝罪しなければ許されない状況に追い込まれていく現状がある。こういう謝罪会見を、私たちはもう何度目にしたことだろう。有名芸能人ばかりではない。警察官に重傷を負わせて、拳銃を奪った犯人の親が責任を取って、自らの職を辞したのは記憶に新しい。

 これらの出来事は欧米をはじめとした「個人主義」が当たり前とされている国々では驚きをもって受け止められているという。「子どもの人生と親の人生はまったく別物」という社会的コンセンサスがある国々では、成人年齢を遥かに超えている人間に対しても、親が延々と責任を取らなければならないという社会的圧力は、奇異に感じるものなのだろう。

 そういう風潮があるせいで、私たちはともすると「子どもの人生」と「親の人生」を混同しがちになるという危険性を孕んでいるのではないだろうか。成人している子であっても、親の責任を問うてくる世の中である。ましてや、未成年である子を育てている親は、余程注意深く、自身の言動を顧みていなければ、子どもの人生を乗っ取ってしまう可能性が大なのだ。

 中学受験ではその「可能性」が高まるということを親は肝に銘じておかなければならない。先日も「自分の母校に子どもを行かせたい」という理由で始めた中学受験で、結果、息子を刺し殺してしまった父親の裁判が始まったと、ニュースが報じられた。この父親は、息子に勉強させようと日常的に暴力を振るっていたそうだが、彼もまた自分の人生と子どもの人生を混同し、支配しようとしていたように見える。

 子どもの未来を応援するための中学受験で、最悪の結果になってしまったケースがこれであるが、殺人まではいかないにしても、中学受験において、子どもの心を壊してしまう例は枚挙にいとまがない。たとえ親が学校の先生といった専門家でも、我が子の勉強の面倒はみられないという話もよく耳にする。なぜなら、我が子ゆえに冷静にはなれず、「キレ」てしまうからだそうだ。両親どちらであっても、言葉も含め暴力は言語道断。子どもに取り返しがつかないダメージを与えてしまうので、絶対にやめていただきたい。

 以前、小学校5年生の克己君(仮名)の母親・リエさん(仮名)から、「夫が息子の勉強をみるにあたって、殴る蹴るの暴力を振るっている。どうすればいいだろうか?」という相談が筆者の元に入った。 聞けば、夫の茂さん(仮名)は高学歴であり、一流企業で働いているものの、仕事的にはうまくいっていない状況だという。

「夫はまるで、仕事でうまくいかないというストレスを息子にぶつけているかのようです。息子がため息をついただけでもビンタをしていますし、教えたところを間違えようものなら、もう……」

 リエさんは、「夫にとっては、私も克己も“所有物”でしかない」と感じていたそうだ。解決策として、筆者はまず離婚か別居を勧めたが、経済力がないという理由で二の足を踏んでいるということだった。であれば、とりあえずの手段として、父能研(父親が受験指導するという意味のスラッグ)を止めて、指導力が高い個別塾に、克己君を“緊急避難”させるように伝えた。塾に行っている時間を引き延ばすことで、父親との物理的接触を減らそうとしたのだ。

 そして同時に、塾の老練な先生に、茂さんを指導してもらうようにした。茂さんのようなタイプは、今の中学受験の実態並びに傾向と対策を論理的に筋道立てて教えられると、意外にもプロの言いなりになる場合がある。

 茂さんは見事にそれにハマってくれたのだ。その塾の先生は「茂さんの気持ちは解る」と共感した上で「古来より、優れた子にするためには、他人を師と仰ぐ方が効果的」という話をし、「お子さんを私に預けなさい」「預けたからには口出し無用」と説得したようだ。

 一方で、筆者はリエさんに、もっと強くなることと精神的・経済的自立を助言した。そんなこんなで3カ月ほどがたった頃、これはたまたまなのだが、茂さんに辞令が下りて海外赴任をすることになったのだ。リエさんは頑なに同行を拒否。こうして、晴れて、リエさんは克己君と弟の3人暮らしになった。

 リエさんは今まで、茂さんからの暴力を結果的に止められなかった非を心から克己君に詫びたそうだ。そして、「克己、ママはこれから強くなって、どんなことがあっても克己を守る。約束する。でも、克己の人生は自分のものなのだから、自分の好きなように生きなさい」とも伝え、受験をやめるように提案したという。

 しかし、克己君の答えはこうだった。

「このままやめたら、アイツ(茂さん)に殴られ損だろう?」

 克己君はそれから、なぜかスイッチが入ったが如く勉強に取り組みだし、結果、見事にS学園の特待生として合格した。将来の夢は、克己君を救ってくれた塾の先生のようになることだそうだ。

 リエさんは、もともと持っていた資格を生かして、再就職。さらにステップアップするために勉強中である。現在も海外にいる茂さんとは将来的には離婚するという意志を固めている。

 中学受験は親主導の受験ではあるが、やるのは子どもだ。自分の人生の1ページをどう描くのかは子ども自身が決めていくということは、中学受験も変わらない。親の役割は「安心安全な環境」での「見守り」だけだ。これが途切れた時に、中学受験は「家庭崩壊」を簡単に招いてしまうものであることだけは、お伝えしておきたい。
(鳥居りんこ)