中学受験本番、プレッシャーで「腹痛」に……お試し校「不合格」の親子を救った人物とは?

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 各地で中学受験の本番を迎え、いよいよ、来週末からは東京・神奈川での「最終決戦」が繰り広げられる。本命校受験を前にした親子は、まさに“落ち着かない日々”を過ごしていることだろう。特に「うちの子は本番に弱いのではないか」と我が子のメンタルを心配している親の気苦労は計り知れない。

「普段の“振り返りテスト”はできるのに、模試だとできなくなる」
「家で過去問をやれば点数が取れるのに、試験会場に行くとダメだ」
「今までの模試で良かった試しがない」

など、「受験本番でも同じことが起こるのでは?」という不安に苛まれ、頭に浮かぶ文字は「不合格」の3文字……。こうなると、悪い予感しかしなくなり、ますます心配になって、負のスパイラルに突入しやすいのだ。

「腹痛に見舞われるのでは」という不安で腹痛に

 確かに「本番に弱い子」というのは存在する。茜ちゃん(仮名)も、母の幸子さん(仮名)が太鼓判を押すほどの「本番に弱い」タイプであった。

 小学校4年生から通っている中学受験塾の成績は悪くはない。茜ちゃんはコツコツ型で、塾の復習テストも毎回、好成績である。それなのに、模擬試験会場やほかの校舎でテストを受けると信じられないほどのミスを連発するそうだ。

「誰に似たのか、茜は本当にプレッシャーに弱くて……。模試になるとおなかが痛くなるんですよ……」と幸子さん。

 なんでも、初めての模試の会場が、マンモス大学と呼ばれている校舎だったらしく、茜ちゃんはその雰囲気に気後れしてしまい、さらに会場が広すぎたせいでトイレの位置がわからず、粗相をしてしまったそうだ。

 粗相と言っても他人には気づかれないレベルだったというが、このことが年頃の少女にはトラウマになってしまう。以降、茜ちゃんは模試を受けるたびに、「腹痛に見舞われるのではないか?」という恐怖と戦ってきた。しかも、そのプレッシャーによって、本当におなかが痛くなるようになったとのこと。

 当然、幸子さんは、模試前の食事に消化の良いものを出したり、小児科でもらった整腸剤を飲ませるなどの対策を取ってきたが、効果はない。さらに神経内科に通わせるも、症状は消えなかったという。

 1月受験では、ついに電車の中でも腹痛を起こし、ようやく受験会場に辿り着いたものの、結果は残念ながら不合格。「本番のためのお試し」受験であったにもかかわらず、その「お試し」さえも落としてしまった親子は、失意のどん底に落ちた。

 そんな時に、幸子さんは近所に住んでいる奈美さん(仮名)という大学生に偶然、再会したそうだ。

 奈美さんは、茜ちゃんにとって「永遠の班長さん」であり、憧れの人。茜ちゃんが小学校に入学したばかりの頃、通学班の班長だった人物で、まだ幼かった茜ちゃんの面倒をみてくれていた「優しいお姉さん」なのだという。

 「お久しぶりです、茜ちゃんママ。茜ちゃんはお元気ですか?」と声を掛けられた幸子さんは、奈美さんに向かって「誰にも言えなかった秘密」を打ち明けてしまったそうだ。

「自分でもどうしてあの時、そんなことを言ったのか、わからないんですが……奈美ちゃんに『茜、お試し受験に失敗してしまって。実はね、前から過敏性腸症候群になってるみたいで、試験になると決まっておなかが痛くなるの。これじゃあ、本命校も受かるわけないわよね』と弱音を吐いたんです」

 すると幸子さんは、奈美さんから意外な提案を受けることになった。

「奈美ちゃんは『私、茜ちゃんの気持ち、わかります。私もそうでしたもん』と共感してくれました。しかもそれだけじゃなくって『そうだ! 試験日は月曜ですよね。その前の土日、ちょっと、茜ちゃんをお借りしてもいいですか?』と……」

 そして、奈美さんは次の土曜日、試験が始まる時刻に合わせて茜ちゃんとともに家を出発し、本命中の本命である2月1日受験校の会場に出かけたそうだ。さらに翌日の日曜日も、同じ時刻に茜ちゃんを連れて、その学校を訪れたという。

 そしてその翌日、2月1日の本番日も奈美さんが同じ受験会場まで付き添ってくれたという。

「2月1日の朝、奈美ちゃんは校門の前で、茜にこう言ってくれました。『茜ちゃん、2度あることは3度あるって知ってる? 昨日も一昨日も、全然、おなかは痛くならなかった! だから、今日も絶対、大丈夫! うまくいくから安心して!』って。そしたら、茜ったら『奈美ネエ、2度あることは3度って悪い意味じゃね? それを言うなら、3度目の正直じゃないの?』って口答えしたんですよ。私は、笑顔でやりとりする2人の様子を見ながら、なんだか『今日の茜は大丈夫!』と思えて、泣きそうになりました」

 茜ちゃんがいよいよ校舎に吸い込まれていく直前、奈美さんは茜ちゃんを呼び止めて、「合格のお守りあげる! もし、心配になったら、これ舐めるんだよ! これは合格を呼ぶ魔法の薬ね」と言って、その手に4粒の綺麗な色のキャンディを握らせたそうだ。そして、その日の夜、茜ちゃんは自宅に奈美さんを招き、一緒にネットで合格発表を見たという。

 結果は合格。飛び上がる茜ちゃん。号泣する幸子さん。そして、部屋には奈美さんの祝福の言葉が響いたという。
 
「おめでとう! ようこそ、S大付属に! これで、茜ちゃんは再び、私の直の後輩だね」

 そう、奈美さんはこの学校の卒業生で、彼女いわく「自分の母校に入りたいという可愛い子を助けるのは先輩としての当然の務め」とのこと。受験直前、うちの子は本番に弱いと追い詰められている人に、少しでも参考になれば幸いだ。

中学受験否定派の「勉強漬けでかわいそう」の声に反論――サッカーをやめた息子の母は語る

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 今年も中学受験の本番の日々が始まった。これは何を意味するかと言えば、終わるや否や、次年度がスタートするということだ。つまり、我が子に中学受験を経験させようかと悩んでいる、春から小学4年生になる子の親にとっては、「決断の時」を迎えるということになる。というのも、中学受験は、小学3年生の2月スタートが一般的なのだ。

 塾にもよるが、国語・算数・理科・社会の4科目受験を想定した4年生(新4年生含む)は、塾での拘束時間が週2日で計6時間くらい、5年生は週3日で計9時間くらい。これにプラスして隔週末に模試やら、組み分けテストなどが入ってくる。

 6年生は最終学年なので、土日も含めて週4日ほど、計12時間程度の拘束時間になることもある。もちろん、テストは頻繁に行われ、むしろそれが普通だ。これに加えて、長期休み中は「講習」でスケジュールが埋まっていく。

 こうした実情を受け、中学受験否定派の人たちからはこういう声が飛んでくる。

「小さな子どもを勉強漬けにしてかわいそう!」
「教育虐待だ!」

 筆者は中学受験の取材を20年近く続けているが、この「かわいそう」だという意見を数多く耳にしてきた。ところが、意外なことに「かわいそう」だと声高に言う人に限って「イメージ先行」。つまり、中学受験に経験がないケースが少なくないのである。ごくたまにニュースになる中学受験絡みの虐待事件などが大きく報じられることもあり、そのイメージが強く印象に残って、実態がつかみにくいのかもしれない。

 幸喜君(仮名)は、小さい頃からとても活発な男の子で、運動神経も抜群。地元にある小学生対象のサッカーチームでは常にエース級の活躍ぶりであった。当然、幸喜君はジュニアユース入りを狙っていたのだが、お姉さんが中学受験を経験しているということもあり、小学校3年生から寺子屋のような地元の受験塾に通っていた。大手塾と違い、小規模塾の方が「融通が利く」ということで選んだそうだ。

 ところが、ジュニアユースのセレクションは甘くない。6年夏のことだ。幸喜君のライバルであった歩君(仮名)のみがセレクションを突破し、幸喜君は落ちた。人生初の挫折。彼は一生懸命、考えたそうだ。

「歩は受かって、自分は落ちた。プロから見たら、自分には実力がまだ備わっていないということだ。では、どうすれば実力を磨くことができるのか? 僕はサッカーがやりたい!」

 スポーツ推薦を実施している高校はあるが、中学では稀だ。しかも、幸喜君の学区にある公立中学のサッカー部は、幸喜君が求めるレベルには程遠いものだったという。そこで彼の出した結論はこうだった。サッカー名門と呼ばれるX学園のサッカー部に行くこと。そしてプロになる――!

 このX学園は、難関校。幸喜君は本気で勉強に立ち向かわないと無理だと言い、母・美紀さん(仮名)に自ら転塾を希望して、有名中学受験専門塾の門を叩いた。そして、今までの遅れを取り戻すかのように必死で勉強したという。

「当然、周りからはいろいろ言われました。『(セレクションを落ちたくらいで)サッカーをやめさせられて、夜遅くまで勉強させられてかわいそうに!』って。これには困惑しましたね。サッカーをやっていた時の方が、よほどきつい生活をしていたんですが、世間には『スポーツはいくらやってもいいが、勉強はかわいそう』っていう価値観があるんですね……」とは美紀さんの弁だ。

 当時、美紀さんは幸喜君に、「急にサッカーやめちゃったから、ストレス溜まるでしょ? 無理しなくていいんだよ」と聞いたことがあったそうだ。

「そしたら、幸喜がこう言ったんですよ。『お母さん、勉強も楽しいよ』って。『サッカーで得点を上げた時もワクワクしたけど、問題が解けた時もすっごくうれしい! それに、僕はサッカーをやめたんじゃなくて、続けるために(受験勉強を)やってるんだ』ってね」

 そして、美紀さんに、その日習ったばかりの「星の話」や「戦国時代の話」「速さの公式について」などを楽しそうに話して聞かせたという。

「ウチの場合はですが、受験勉強であらゆる基礎知識を吸収できたことが、すごく良かったと思っています。歴史も化学も、もちろん算数も、私よりも知識豊富になったんじゃないでしょうか? 私が勝てるとしたら、ギリギリ国語の語彙力だけだったかもしれません(笑)。それに、『本番で自分の力を最大限に出すため準備をする』って経験はとても素晴らしいもの。スポーツであっても、勉強であっても同じだと思います。受験勉強中心の生活も、サッカー中心の生活もそれぞれ大変でしたが、幸喜が夢中になっていたので、やらせて良かったです」

 幸喜君のその後をお伝えしておこう。幸喜君はX学園のサッカー部で活躍したが、途中、ケガが原因でプロはあきらめざるを得なかったという。今、彼はアスリートをサポートする整形外科医になるべく医大に通っている。

中学受験のお試し校に不合格! 「私の費やした時間、お金……」母がぶつけた“言ってはいけない言葉”

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 いよいよ中学受験も地方を中心に本番間近である。この時期あたりからは、親も子も「いける、いける!」とばかりに上昇気流に乗っていきたいところだが、親の意に反してエンジンがかからない子どもは多い。

 というのも、親と子では人生の経験値が違うので、時間の流れるスピードが違う。そのため、親にとっては本番ギリギリだとしても、子どもにはまだまだ余裕がある時期と言える。こうなると、親は焦りのあまり、最悪の行動に出てしまいやすくなる。つまり「言ってはいけない言葉」を受験生本人にぶつけてしまうのである。

猛烈に焦った母は息子に「自業自得!」

 シングルマザーの真奈美さん(仮名)も「やらかして」しまった母親の1人である。一人息子の浩平君(仮名)は、おっとりタイプの平和主義者なので、公立中学の内申制度には合わないという判断を下し、真奈美さん主導で中学受験に踏み切った。

 ところが、真奈美さんは、浩平君とは真逆とも言える「やるならば全力投球!」主義者であったため、浩平君の競争心のなさには正直、イライラしまくっていたのだそうだ。

 真奈美さんが当時を振り返って、1月受験の顛末を語ってくれた。

「1月受験は、我が家にとっては“お試し”でした。それでも、もし2月受験でうまくいかなかったら、入学するかもしれないという学校でしたから、失敗は許されなかったんです。ところが、結果は不合格。偏差値も十分に足りている学校のはずなのに、まさかの知らせに頭を殴られたかのようなショックを受けました」

 さすがに息子もショックを受けただろう……と思いきや、浩平君の態度に危機感は見られず、相変わらず勉強に臨む姿勢は見えなかったという。

 このままでは2月受験本番も全て落としてしまうような気がしたという真奈美さんは、猛烈に焦りだす。そして、浩平君に向かって、こう叫んでしまったのだそうだ。

「身を入れて勉強してこなかったから、落ちるのは当たり前! このままじゃ、もうどこも受からないね! こういうのを自業自得って言うんだよ! もう、そこらの公立に行くしかないね!」

 今まで、どんなに悪い成績を取ったとしても、能天気にしか見えなかった浩平君。そんな彼がそのまま自室のドアを閉め、出てこなくなったそうだ。

「さすがに『しまった! 言いすぎた』と思いました。浩平の奮起を促したかったというのは言い訳で、私が費やした時間、私が支払ったお金、私の見栄……そんなくだらないことで頭が一杯になってしまい、よりによって浩平にそのいら立ちをぶつけてしまった。肝心な浩平の気持ちなんか、まったく考えていなかったんです」

 中学受験は長い時間をかけて本番に挑むことが普通なので、まだ幼い小学生に多くの犠牲を強いる面もある。たとえ、勉強に身が入らない、あるいは本気度が見られないという子であったとしても、本心では誰しもが合格したいし、不合格の烙印を押されれば、自分自身を全否定されるような衝撃を覚えるものなのだ。

 浩平君は丸1日たって部屋から出てきたそうだが、真奈美さんに「もう、受験はしない。受けてもどうせ受からない」とだけ言ったそうだ。

「私が最悪のタイミングで、最悪の言葉を口にしてしまった。浩平を本当に傷付けてしまったんだなって思いました……。もう、ダメだなぁと、一時は不戦敗を覚悟しました」

 その後、真奈美さんは、浩平君に対し、「ママは本当にひどい言葉を言ったと思う。ごめん、浩平。でも、本心じゃない。本当の浩平は一度や二度の失敗でダメになる子じゃないとママは思っている。でも、もう受験はしないというのなら仕方ない。それが、浩平の出した結論ならば、ママは尊重するよ。浩平の人生なんだから、浩平が決めなさい」と謝罪したという。

 ところがその時、自宅の電話が鳴ったそうだ。電話の声は、不合格だった1月受験校の先生からだった。

「繰り上げ合格をお知らせします」

 真奈美さんは受話器に向かって、泣きながら「(浩平の頑張りを認めてくださって)ありがとうございます」とお礼を言い、電話を切った後、親子で抱き合って、泣いたという。

 それからだ。浩平君にスイッチが入る。「ママ、僕、わかったから」とだけ浩平君は言ったそうだ。

 これで勢いづいた浩平君は、もちろん、2月1日からの入試は快進撃。本命校はもちろん、チャレンジ校まで、受験校全てに合格した。

「もちろん、結果オーライなだけです。あのまま不戦敗も十分あり得ました。浩平のようにおとなしく、感情を露わにしない子でも、何も感じていないわけじゃない。それどころか、プライドを保つためにわざとポーカーフェイスって面もあったんだと思います。それなのに、私は子どもで、自分のいら立ちを我が子にぶつけるような始末で……。中学受験って親の成熟度を測るリトマス試験紙みたいな面がありますよね」

 「浩平君は何がわかったと言ったと思うか?」という筆者の質問に、真奈美さんは微笑みながら、こう答えた。

「さあ、わかりません。ママの方が子どもだってことがわかったのか……、それとも、勉強の仕方か、あるいは、人生の教訓なのかもしれません」

 浩平君は現在中2、反抗期真っ盛り。最近では、真奈美さんのことを「ママ」でも「お母さん」でも「おふくろ」でもなく、「真奈美さん」と呼んでいるという。先日、そんな彼が、真奈美さんに対して、こんな言葉をかけてくれたそうだ。

「真奈美さん、あの時、俺に『自分の人生は自分で決めろ』って言ってくれてありがとう。なんかうれしかったわ」

 12歳、何も考えていないように見えたとしても、彼らは成長している。中学受験は、親の至らなさをあらわにするものである一方、それさえも乗り越えていく子どもの成長を、確認できるものなのかもしれない。

中学受験のお試し校に不合格! 「私の費やした時間、お金……」母がぶつけた“言ってはいけない言葉”

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 いよいよ中学受験も地方を中心に本番間近である。この時期あたりからは、親も子も「いける、いける!」とばかりに上昇気流に乗っていきたいところだが、親の意に反してエンジンがかからない子どもは多い。

 というのも、親と子では人生の経験値が違うので、時間の流れるスピードが違う。そのため、親にとっては本番ギリギリだとしても、子どもにはまだまだ余裕がある時期と言える。こうなると、親は焦りのあまり、最悪の行動に出てしまいやすくなる。つまり「言ってはいけない言葉」を受験生本人にぶつけてしまうのである。

猛烈に焦った母は息子に「自業自得!」

 シングルマザーの真奈美さん(仮名)も「やらかして」しまった母親の1人である。一人息子の浩平君(仮名)は、おっとりタイプの平和主義者なので、公立中学の内申制度には合わないという判断を下し、真奈美さん主導で中学受験に踏み切った。

 ところが、真奈美さんは、浩平君とは真逆とも言える「やるならば全力投球!」主義者であったため、浩平君の競争心のなさには正直、イライラしまくっていたのだそうだ。

 真奈美さんが当時を振り返って、1月受験の顛末を語ってくれた。

「1月受験は、我が家にとっては“お試し”でした。それでも、もし2月受験でうまくいかなかったら、入学するかもしれないという学校でしたから、失敗は許されなかったんです。ところが、結果は不合格。偏差値も十分に足りている学校のはずなのに、まさかの知らせに頭を殴られたかのようなショックを受けました」

 さすがに息子もショックを受けただろう……と思いきや、浩平君の態度に危機感は見られず、相変わらず勉強に臨む姿勢は見えなかったという。

 このままでは2月受験本番も全て落としてしまうような気がしたという真奈美さんは、猛烈に焦りだす。そして、浩平君に向かって、こう叫んでしまったのだそうだ。

「身を入れて勉強してこなかったから、落ちるのは当たり前! このままじゃ、もうどこも受からないね! こういうのを自業自得って言うんだよ! もう、そこらの公立に行くしかないね!」

 今まで、どんなに悪い成績を取ったとしても、能天気にしか見えなかった浩平君。そんな彼がそのまま自室のドアを閉め、出てこなくなったそうだ。

「さすがに『しまった! 言いすぎた』と思いました。浩平の奮起を促したかったというのは言い訳で、私が費やした時間、私が支払ったお金、私の見栄……そんなくだらないことで頭が一杯になってしまい、よりによって浩平にそのいら立ちをぶつけてしまった。肝心な浩平の気持ちなんか、まったく考えていなかったんです」

 中学受験は長い時間をかけて本番に挑むことが普通なので、まだ幼い小学生に多くの犠牲を強いる面もある。たとえ、勉強に身が入らない、あるいは本気度が見られないという子であったとしても、本心では誰しもが合格したいし、不合格の烙印を押されれば、自分自身を全否定されるような衝撃を覚えるものなのだ。

 浩平君は丸1日たって部屋から出てきたそうだが、真奈美さんに「もう、受験はしない。受けてもどうせ受からない」とだけ言ったそうだ。

「私が最悪のタイミングで、最悪の言葉を口にしてしまった。浩平を本当に傷付けてしまったんだなって思いました……。もう、ダメだなぁと、一時は不戦敗を覚悟しました」

 その後、真奈美さんは、浩平君に対し、「ママは本当にひどい言葉を言ったと思う。ごめん、浩平。でも、本心じゃない。本当の浩平は一度や二度の失敗でダメになる子じゃないとママは思っている。でも、もう受験はしないというのなら仕方ない。それが、浩平の出した結論ならば、ママは尊重するよ。浩平の人生なんだから、浩平が決めなさい」と謝罪したという。

 ところがその時、自宅の電話が鳴ったそうだ。電話の声は、不合格だった1月受験校の先生からだった。

「繰り上げ合格をお知らせします」

 真奈美さんは受話器に向かって、泣きながら「(浩平の頑張りを認めてくださって)ありがとうございます」とお礼を言い、電話を切った後、親子で抱き合って、泣いたという。

 それからだ。浩平君にスイッチが入る。「ママ、僕、わかったから」とだけ浩平君は言ったそうだ。

 これで勢いづいた浩平君は、もちろん、2月1日からの入試は快進撃。本命校はもちろん、チャレンジ校まで、受験校全てに合格した。

「もちろん、結果オーライなだけです。あのまま不戦敗も十分あり得ました。浩平のようにおとなしく、感情を露わにしない子でも、何も感じていないわけじゃない。それどころか、プライドを保つためにわざとポーカーフェイスって面もあったんだと思います。それなのに、私は子どもで、自分のいら立ちを我が子にぶつけるような始末で……。中学受験って親の成熟度を測るリトマス試験紙みたいな面がありますよね」

 「浩平君は何がわかったと言ったと思うか?」という筆者の質問に、真奈美さんは微笑みながら、こう答えた。

「さあ、わかりません。ママの方が子どもだってことがわかったのか……、それとも、勉強の仕方か、あるいは、人生の教訓なのかもしれません」

 浩平君は現在中2、反抗期真っ盛り。最近では、真奈美さんのことを「ママ」でも「お母さん」でも「おふくろ」でもなく、「真奈美さん」と呼んでいるという。先日、そんな彼が、真奈美さんに対して、こんな言葉をかけてくれたそうだ。

「真奈美さん、あの時、俺に『自分の人生は自分で決めろ』って言ってくれてありがとう。なんかうれしかったわ」

 12歳、何も考えていないように見えたとしても、彼らは成長している。中学受験は、親の至らなさをあらわにするものである一方、それさえも乗り越えていく子どもの成長を、確認できるものなのかもしれない。

中学受験「算数」の落とし穴――最終模試で息子の偏差値を暴落させた、父親の「スパルタ塾」

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験では多くの学校で「算数」が重要視されている。今では算数1科目だけの入試を行う学校もあるくらいだ。しかし、中学受験の算数はかなり難易度が高いので、一度つまずくと、子どもに「苦手意識」が定着してしまい、合格へ大きなブレーキとなってしまうことも多い。
 
 こうなると、本人だけではなく、親の焦りを呼び込みがちになる。勢い、講師の経験もない親が手っ取り早く得点を上げようとして、中学以降で習う公式を暗記させようとするなど、塾とはまったく違う解き方を子どもに強要することもよくある話なのだ。

“父能研”で方程式を強要、息子が大パニックに

 健君(仮名)が小6秋のこと。お父さんがいきなり「“父能研”をやる!」と(注:父能研=父親が家庭内で塾講師役を引き受けることを意味する業界スラング)宣言した。このお父さんは今まで、仕事が忙しいという理由で中学受験に興味を示さなかったそうだが、健君の模試の偏差値が60台から50台に下がったことで、突然「俺の出番だ!」と言い出したという。学生時代の得意科目が数学だったそうで、その日から、自宅での「スパルタ算数塾」が始まった。

 ところが、このお父さんに中学受験の経験がなかったことが災いし、「方程式で解く」ということにこだわったため、健君の頭は大混乱をきたすようになる。というのも、小学校でも塾でも方程式は使わないので、「今までの解き方とは違うことを言われている」ように、健君は感じたのであろう。

 お父さんは、健君が算数の問題を線分図で解こうとすると、横からこんなふうに口出しをしていたそうだ。

「何度言ったらわかるんだ? 入試はスピードだ! そんなまどろっこしいことをして、いくらあっても時間が足りないぞ!」

 そこで、健君はお父さんに言われた通り、懸命に「XやY」を書きながら、問題を解こうとしたらしいが、まったくもって正答にはたどり着けず、余計にお父さんの苛立ちを買ってしまったのだという。
 
 絶対に方程式で解いてはいけないということはないのだが、中学受験の算数の問題は、「今、わかっている条件から、何がわかるか? さらに、そこから、何が考えられるか?」というアプローチで解くものが多く、それは、数学の定理・公式を当てはめて考えるというアプローチとは異なるものなのだ。上位校になればなるほど、手を動かし、試行錯誤を繰り返させるような問題を作成している。逆に言えば、方程式という“裏技”が使えない問題も頻出しているのだ。
 
 一般的に、数学の「定理・公式を当てはめる」といった抽象的なものの考え方ができるようになるには、年齢を重ねないと難しい面もあると言われている。つまり、小学生にとって「数学」の方程式は、理解の範疇を超えるものなのである。むしろ、小学生に求められる「算数」の力とは、条件を視覚化し、試行錯誤しながら正解を導き出す“閃き”。そしてこれこそが「算数」の醍醐味でもあるわけだ。

 健君はもともと算数が得意科目であったらしいが、次第に、これまで間違えることがなかった計算問題でもケアレスミスを連発するようになったという。そしてついに最終模試で、今まで取ったことのない「42」という偏差値を叩き出し、ここでお父さんは初めて、窮状を塾に訴えたそうだ。

 塾長はお父さんに、直ちに「父能研」からの撤退をお願いし、算数と数学の思考法はまったく違うということを指摘した上で、こう言ったという。

「お父さん、受験は偏差値を上げて上位校に合格することも大切ですが、もっと重要なことがあります。それは健君に、得意の算数で、“試行錯誤しながら答えを発見する喜び”を味わわせてあげることです。どうですか? お父さんはこの2カ月、見守り役に徹しませんか?」

 それから、受験本番まで、健君は塾がない日も学習室に通い、「勘」を取り戻すべく、懸命に手を動かし続けたそうだ。

 塾長は、健君が教えてくれる「この問題は、こういうふうに考えてみた」という説明を、「健は大したもんだ! うんうん、このアプローチの仕方は面白い!」と大いに褒め、喜び、そして、その閃きを大切にさせるため、類題を提示したという。こうして健君は、徐々に調子を戻していったそうだ。

 一方、お父さんは健君と一緒にお風呂に入りながら、自分が間違っていたことを素直に詫びたという。

「健、悪かったな……。どうやらお父さんは間違っていたようだ。今、お前がやっている算数は、限られた道具しかない状態で、どうすれば正解に辿り着けるか? ってことを考えることに意味があると、塾長先生に教えられたよ。合格も大事だが、『問題にぶち当たったとき、自分で考えて工夫できる力』っていうのは、テストでいい点を取るだけじゃなくて、人生にとっても役立つ力だと思う。お前ならやれるって塾長先生も言ってるし、お父さんもそう思うよ」

 筆者が後日、塾長に話を聞いたところ、健君とお父さんの一件をこんなふうに振り返ってくれた。

「もともと、健は算数のセンスがある子だったので、自信さえ取り戻せば、残り2カ月でどうにかなると思っていました。小6の秋というのは、これまで蓄えた知識が、ジグゾーパズルのようにバラバラになりがちな時期なんです。夏の疲れもあって、たまたま成績が急降下しただけだったのでしょう。このお父さんも、一時的に迷走されましたが、息子に良かれと思って自ら勉強を見始めたとのこと。自分のやり方は間違いだったと気づき、受験勉強の意義を認め、さらに、息子に対して素直に謝ったってことですから、素晴らしいお方だと思いますよ」

 健君はお父さんが理解して見守ってくれたことも功を奏し、当初から目標としていた偏差値60の第一志望校に入学し、現在、中3である。今年、彼は学園祭で仲間と共に、来年入試の算数の予想問題を発表し、教師たちを唸らせたと聞いている。

中学受験「算数」の落とし穴――最終模試で息子の偏差値を暴落させた、父親の「スパルタ塾」

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験では多くの学校で「算数」が重要視されている。今では算数1科目だけの入試を行う学校もあるくらいだ。しかし、中学受験の算数はかなり難易度が高いので、一度つまずくと、子どもに「苦手意識」が定着してしまい、合格へ大きなブレーキとなってしまうことも多い。
 
 こうなると、本人だけではなく、親の焦りを呼び込みがちになる。勢い、講師の経験もない親が手っ取り早く得点を上げようとして、中学以降で習う公式を暗記させようとするなど、塾とはまったく違う解き方を子どもに強要することもよくある話なのだ。

“父能研”で方程式を強要、息子が大パニックに

 健君(仮名)が小6秋のこと。お父さんがいきなり「“父能研”をやる!」と(注:父能研=父親が家庭内で塾講師役を引き受けることを意味する業界スラング)宣言した。このお父さんは今まで、仕事が忙しいという理由で中学受験に興味を示さなかったそうだが、健君の模試の偏差値が60台から50台に下がったことで、突然「俺の出番だ!」と言い出したという。学生時代の得意科目が数学だったそうで、その日から、自宅での「スパルタ算数塾」が始まった。

 ところが、このお父さんに中学受験の経験がなかったことが災いし、「方程式で解く」ということにこだわったため、健君の頭は大混乱をきたすようになる。というのも、小学校でも塾でも方程式は使わないので、「今までの解き方とは違うことを言われている」ように、健君は感じたのであろう。

 お父さんは、健君が算数の問題を線分図で解こうとすると、横からこんなふうに口出しをしていたそうだ。

「何度言ったらわかるんだ? 入試はスピードだ! そんなまどろっこしいことをして、いくらあっても時間が足りないぞ!」

 そこで、健君はお父さんに言われた通り、懸命に「XやY」を書きながら、問題を解こうとしたらしいが、まったくもって正答にはたどり着けず、余計にお父さんの苛立ちを買ってしまったのだという。
 
 絶対に方程式で解いてはいけないということはないのだが、中学受験の算数の問題は、「今、わかっている条件から、何がわかるか? さらに、そこから、何が考えられるか?」というアプローチで解くものが多く、それは、数学の定理・公式を当てはめて考えるというアプローチとは異なるものなのだ。上位校になればなるほど、手を動かし、試行錯誤を繰り返させるような問題を作成している。逆に言えば、方程式という“裏技”が使えない問題も頻出しているのだ。
 
 一般的に、数学の「定理・公式を当てはめる」といった抽象的なものの考え方ができるようになるには、年齢を重ねないと難しい面もあると言われている。つまり、小学生にとって「数学」の方程式は、理解の範疇を超えるものなのである。むしろ、小学生に求められる「算数」の力とは、条件を視覚化し、試行錯誤しながら正解を導き出す“閃き”。そしてこれこそが「算数」の醍醐味でもあるわけだ。

 健君はもともと算数が得意科目であったらしいが、次第に、これまで間違えることがなかった計算問題でもケアレスミスを連発するようになったという。そしてついに最終模試で、今まで取ったことのない「42」という偏差値を叩き出し、ここでお父さんは初めて、窮状を塾に訴えたそうだ。

 塾長はお父さんに、直ちに「父能研」からの撤退をお願いし、算数と数学の思考法はまったく違うということを指摘した上で、こう言ったという。

「お父さん、受験は偏差値を上げて上位校に合格することも大切ですが、もっと重要なことがあります。それは健君に、得意の算数で、“試行錯誤しながら答えを発見する喜び”を味わわせてあげることです。どうですか? お父さんはこの2カ月、見守り役に徹しませんか?」

 それから、受験本番まで、健君は塾がない日も学習室に通い、「勘」を取り戻すべく、懸命に手を動かし続けたそうだ。

 塾長は、健君が教えてくれる「この問題は、こういうふうに考えてみた」という説明を、「健は大したもんだ! うんうん、このアプローチの仕方は面白い!」と大いに褒め、喜び、そして、その閃きを大切にさせるため、類題を提示したという。こうして健君は、徐々に調子を戻していったそうだ。

 一方、お父さんは健君と一緒にお風呂に入りながら、自分が間違っていたことを素直に詫びたという。

「健、悪かったな……。どうやらお父さんは間違っていたようだ。今、お前がやっている算数は、限られた道具しかない状態で、どうすれば正解に辿り着けるか? ってことを考えることに意味があると、塾長先生に教えられたよ。合格も大事だが、『問題にぶち当たったとき、自分で考えて工夫できる力』っていうのは、テストでいい点を取るだけじゃなくて、人生にとっても役立つ力だと思う。お前ならやれるって塾長先生も言ってるし、お父さんもそう思うよ」

 筆者が後日、塾長に話を聞いたところ、健君とお父さんの一件をこんなふうに振り返ってくれた。

「もともと、健は算数のセンスがある子だったので、自信さえ取り戻せば、残り2カ月でどうにかなると思っていました。小6の秋というのは、これまで蓄えた知識が、ジグゾーパズルのようにバラバラになりがちな時期なんです。夏の疲れもあって、たまたま成績が急降下しただけだったのでしょう。このお父さんも、一時的に迷走されましたが、息子に良かれと思って自ら勉強を見始めたとのこと。自分のやり方は間違いだったと気づき、受験勉強の意義を認め、さらに、息子に対して素直に謝ったってことですから、素晴らしいお方だと思いますよ」

 健君はお父さんが理解して見守ってくれたことも功を奏し、当初から目標としていた偏差値60の第一志望校に入学し、現在、中3である。今年、彼は学園祭で仲間と共に、来年入試の算数の予想問題を発表し、教師たちを唸らせたと聞いている。

中学受験生の娘は「O女子」志望! 「女子校」でイジメ経験……トラウマを持つ母の葛藤

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 

 私立中高一貫校の受験校を選ぶ時のポイントの1つに「別学か共学か問題」がある。別学とはいわゆる「女子校」「男子校」を指すのだが、数は少ないものの「併学」という学校もある。これは、同じ学校敷地内で、女子と男子が別々に授業を受け、部活動や学校行事を一緒に行う学校のことである。

 中学受験は「自分の行きたい学校に行く」ということが基本なので、「別学か共学か問題」にしても、各家庭の好みで選べば良いだけの話である。しかし、親自身が女子校・男子校出身であれば共学校のことが、逆に共学校出身であれば別学校のことがイメージしにくい面もあり、これがなかなかに悩みの種になりやすい。

「女子特有のイジメは男子がストッパーになる」と信じていた母

 明奈さん(仮名)は女子校出身者であるが、自分の母校に良い印象を持っていなかったために、娘である由奈ちゃん(仮名)には共学校に行ってほしいと望んでいた。

「私、共学の公立中学から、女子だけの高校に入学したんですが、合わなかったんです。仲間外れっていうんですかね、軽いイジメの対象になっていて、すごくつらい青春時代を過ごしました。もちろん、暴力などはありませんでしたが、微妙にハブられているのが、空気でわかるんですよ。しかも、グループが固定化されるので、ほかに移ることも難しい……。でも、女の子は賢くて、先生の前では絶対にそういう素振りを見せない。ですから、先生に言っても無駄だったんです……」

 大学生になった明奈さんが、共学の高校出身の子に話を聞いてみると、「『そういうことはなかった』ってことがわかって、すごくショックでした。私は中学の頃は、楽しく学校に通えていたので、そのとき私は、『やっぱり男子がいるということが、女子特有のイジメのストッパーになるんだな』って思いました。だから、娘にだけは、そういう思いをさせたくなかったんです」。

 ところが、由奈ちゃんが志望した学校は女子校。明奈さんがいくら共学校を勧めても、「私はO女子に行く!」と言って聞かなかったそうだ。小5の時、近所の憧れのお姉さんが通っているO女子の学園祭に行って以来、その魅力に惹きつけられたという。制服の可愛さ、図書館の木漏れ日、大好きな英語を思いきりできる環境、そして何よりも部活の素晴らしさに目を輝かせたそうだ。

 明奈さんはO女子の先生にも生徒にも、繰り返し「イジメ問題」を尋ねたというが、そのたびに、いつも明るく否定する声が返ってきたという。

 O女子は「学校生活では、友人同士のトラブルが必ず起こる」という前提で、入学直後から3日に一度の席替え(高3でも2週間に一度という頻度)を実施している。これは「女子は『秘密の共有』で結び付くことが多く、それに縛られて、小さな集団で固まる傾向がある」「そのことがトラブルにつながる」という考えによる取り組みであり、実際にこの席替えを繰り返すことで、子どもたちは30人のクラスメイトみんなと自然な形で友達になれる環境がつくられているという。O女子は、「焦って友達をつくり、小さな集団にまとまるな」「さまざまな子と交流せよ!」という方針を貫いている女子校として有名なのである。

 このように、女子校や男子校は、長年の経験から、「女子の生態」「男子の生態」を知り尽くしているケースが多い。それをうまく活用している別学校は、進学面でも十分な成果を上げている。由奈ちゃんは初心を貫いて、無事にO女子に入学。「毎日、楽しくて仕方ない!」という話を明奈さんにしているらしい。

「結局、『共学校より女子校の方が、イジメが多い』というのは、私の偏見でしかなかったんですよね……。女子校、共学校ってくくりではなく、その学校特有の文化が醸し出す空気が我が子に合うかどうかが大事なんだなってことが、よくわかりました」

 逆に、「共学校がまったくイメージできなかった」という聖子さん(仮名)はこう語る。

「うちの息子が共学校に行きたいと言い出したときは、『え!』と思いました(笑)。というのも、私自身が小学校から大学まで女子校だったものですから、共学校がよくわからなくて。主人もずっと男子校だったので、同じく共学のことはまったくわからない(笑)。うちの子は、ただでさえ体が小さい上に、おとなしいので、『女の子に負かされちゃうじゃないか?』って心配でした……」

 聖子さんの息子、拓海君(仮名)は「近いから!」という理由で、自ら志望した共学校Y学園に入学したが、高校生になった今、聖子さんの目にも「まさに『青春を楽しんでいるなぁ』という感じ」が見て取れるそうだ。

「自宅が学校と近いせいもあり、男女問わず、よく家に部活仲間やクラスメイトが来てくれるのですが、そういう姿を見ても、本当に男女仲が良いんだなぁって思って、素直に羨ましくなります。何て言うのか、男女の垣根がないって感じで、対等な友達同士なんですよ。この子たち、きっと一生ずっと友達なんだなぁと思うと、私には10代の頃、男友達とこうやって遊ぶという経験がまったくなかったので、逆に新鮮で(笑)。もちろん私にだって、女子校時代のいい思い出がいっぱいありますし、共学・別学に優劣はありませんが、息子がした決断は正しかったんだって、すごく満足しています」

 結局、男子校・女子校・共学校、それぞれに良さがある。中学受験の最大のメリットは「自分で行きたい学校を選ぶ」という主体性だ。この問題に限っては、子どもの意志を尊重するということに尽きると思っている。
(鳥居りんこ)

中学受験の過酷さは「ブラック企業」並み? 小6秋の「偏差値暴落」に焦った母とパンクした娘

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験塾ではこの時期「受験本番まであと〇日」というカウントダウンの数字が張り出されることが普通だ。世のクリスマスムードとは真逆に、ドンドンと暗い気持ちになっていく親子が増える季節、親が子どもを追い詰めてしまうという事態が、少なからず発生してしまうようだ。

美奈子さん(仮名)とエリカちゃん(仮名)親子も、真っ暗な気持ちになっていた。秋の公開模試が史上最低の結果となって戻ってきたからだ。美奈子さんはその成績表を見て言葉を失ったという。

「今まで、目にしたこともないような偏差値でしたし、志望校別合格確率の欄は第5志望に至るまで、全て『受験校再考』を促す記述で埋められていました」

 そこで、焦った美奈子さんは我を忘れて、エリカちゃんを罵倒しまくったらしい。

「どうするつもり、こんな成績で?」
「ここ! こないだもミスった! 何やってるのよ、頭悪すぎ!」

 黙ってうなだれているエリカちゃんに向かって、美奈子さんはこう命令したという。

「とにかく今日からは、ママが決めた課題をやってからじゃないと寝ちゃダメ!」

 中学受験界は時に過酷で、ブラック企業で働いているような状況に陥ることがなきにしもあらず。小学校で普通に授業を受けた後、休憩もなく塾に行き、そこで午後9時くらいまで講義に参加、自宅に戻ってからも復習が待っている。さらに、土日はテストと、こうしたスケジュールが、中学受験では「一般的」なのだ。

 エリカちゃんの場合、これらに美奈子さんが課した「受験対策プリント」が加わったため、眠るのが深夜1時を過ぎることが多くなっていたそうだ。当然、エリカちゃんは小学校で居眠りばかりしているので、担任の先生が心配して、美奈子さんに連絡をくれたそうだ。

 しかし美奈子さんは、この先生が「受験反対主義」なのだと思い込み、その心配の声を封じてしまったという。

「でしたら、エリカは明日から、学校へは行かせません!」

 美奈子さんは当時のことを思い返して、その切迫した心境を教えてくれた。

「とにかく、『時間がない!』って焦っていました。学校に行くくらいなら、過去問をやらせた方が良いと思ったんです……」

 そこで、エリカちゃんの生活は、「自宅学習→塾→自宅学習」というものになったそうだが、そんな生活が続いた1カ月後、事件が起きた。エリカちゃんがテスト用紙を塾の水洗トイレに流して、詰まらせたのだ。

 塾に急行した美奈子さんに、室長は静かにこう言ったという。

「お母さん、これは明らかにキャパオーバーから来たものです。エリカちゃんを叱ってはいけません。お母さん、受験はまずは本人がやる気にならないとダメなんです。誰かにやらされているうちは決して伸びません」

 ただただ呆然としていたという美奈子さんに、室長はこう続けたそうだ。

「どうです? あなたは応援団長に回って、エリカちゃんのことは我々に任せてもらえませんか?」

 その後、室長はエリカちゃんを別室に呼び出して、微笑みながら「学校には行きたい? 行きたいなら、行っていいんだよ」と声をかけてくれたそうだ。当時のことを、エリカちゃんが次のように振り返る。

「室長は、『もちろん、社会科見学にも行っていいし、学校のクリスマス会も楽しんでおいで』と言ってくれたんですよね。あと、『実力は十分身に付いているんだから、受験は大丈夫』『この室長先生が太鼓判を押しているだから(笑)!』とも」

 そのときエリカちゃんは「叱られる」とばかり思っていたため、室長の言葉に「びっくりした」という。

「あの時、トイレを詰まらせるというとんでもないことをしたにもかかわらず、室長先生はそのことには一言も触れませんでした。それどころか、私を励ましてくれたんです……。それで、私に『どうしたいのか?』ということを丁寧に聞いてくれました」

 エリカちゃんはT学園に行きたいこと、その学校の吹奏楽部に入りたいこと、小学校にも行って友達と会いたいこと、クリスマス会にも出たいこと、そしてお母さんを悲しませたくないことなどをポツリポツリと話したそうだ。
「『自分の思ってることを、言っていいのかな?』って、不思議な感覚だったことを覚えています。なんというか、生まれて初めて、誰かに『エリカは、本当はどうしたいの?』って聞いてもらえた気がしました」

 それから室長は「エリカスペシャル・T学園への道」と称して、T学園用のオリジナルプリントを作って、エリカちゃんに渡してくれたそうだ。美奈子さんはそれを見て、完全に目が覚めたという。

「実は、エリカがそれほどT学園に強い思いを持っていたことを知らなかったんです。私は、S学園に入ってほしくて、躍起になっていて、エリカもきっとそうだろうって。でも、それは私の勝手な思い込みで、エリカの希望じゃなかった……」

 そして、受験本番。エリカちゃんは、見事にT学園の合格切符を得た。時が流れるのは早いもので、あれから10年の歳月が流れ、先日、エリカちゃんから、筆者の元に連絡が入った。

「私、春から、塾に就職します! ええ、あの中学受験塾です。今度は私が、私のような子を救ってあげたくて!」

 美奈子さんも、もちろん、あの時の室長もこの報告をとても喜んでいると聞いている。
(鳥居りんこ)

中学受験に向く子、5つのタイプーー「授業中いつも叱られていた小学生」が最難関に合格したワケ

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 筆者は「教育アドバイザー」という肩書を持っているため、多くの中学受験生の保護者の悩みに接している。その悩みの中には「うちの子は中学受験に不向きなのではないか?」というものが少なくない。実際、中学受験に向いている子と向いていない子がいるのだろうか? 筆者の答えはこうだ。

「向き・不向きはある」 

 まず、向いている子のタイプをいくつか列挙してみよう

1.負けず嫌い
 中学受験には定員がある。その定員は成績上位順に埋まっていく。入試回の合格最低点を1点でもクリアすれば合格であるし、1点でも下回れば、不合格という極めてシンプルなものだ。つまり、どんなに優秀であろうが、自分以上に得点した人間が合格定員を埋めてしまえば、合格切符は得られない。

同じ塾の同じクラス、同じ志望校であっても、全員、仲良く合格というほど甘くはないのである。これは、何を意味するのかと言えば、中学受験は圧倒的に「負けず嫌いな子」に有利。同じ志を持つ友人を良い意味でライバル視し、その友人に「点数では負けたくない!」あるいは「自分も頑張る!」と思える子に向いている世界なのだ。

2.自分を持っている
 中学受験は小学生が受ける受験だが、上位校を志望校にしている子どもたちにインタビューすると、政治・経済・環境等の社会問題に、大人顔負けの考えを持ち、何より、自分自身の生き方にビジョンがあることに、いつも驚かされる。

 「この勉強は将来の自分にとって、こういう恵みを与える」ということを堂々と語ってくれる子が多い。このように、中学受験を受ける子全員が将来のビジョンまで語れる必要はないが、少なくとも、「中学受験をすること」は、自分自身で決断すべきだと思っている。「この学校に入りたい!」という“意志”ほど、強いものはないからだ。

3.知的好奇心が止まらない
 幼い頃から、何かを考えることが好きな子は受験にも向いている。例えば、パズルや折り紙や料理が趣味だったり、百科事典を飽きもせず眺めている等、調べることや、考える事、手を動かすことが楽しくて仕方ない子は自然と知識を蓄え、脳をフル回転させて、自分なりの“解”を閃かせているように思う。知的好奇心をくすぐられることを喜びとしている子は勉強が苦ではないのだ。

4.集中力がある
 3と同様幼い頃から、親が「ご飯だよ」と呼んでも、聞こえないほど何かに熱中している子は受験勉強にも強い。特に受験本番は「集中力」の勝負でもあるので、余計なことに気を散らさず、問題と格闘できる子の方が有利になる。

5.語彙力がある
 入試では、上位校になればなるほど、東大生でも四苦八苦するような難問が出題される。つまり、どの科目であっても、小学生ながら出題者の意図を正確に読み取る技術が必要になるのだが、これには語彙力がないと太刀打ちできない。向いている子の多くは読書好きで、家庭に本がたくさん置いてある。さらに言えば、幼い頃より、保護者が「オノマトペ」(ゆらゆら、ザーザー、サラサラなどのような擬音語や擬態語、擬声語などを意味する語)を含めた問いかけをしている。

 以上、代表的な事柄を挙げた。このような特性を持つ子は、もちろん本人が望むならばという大前提はあるが、中学受験はとても楽しい経験になると思う。

 ここで、一例を挙げてみよう。現在中学1年生の悟君(仮名)は、小学校ではいわゆる“浮きこぼれ”であったという。本人いわく、小学生時代は2と5に当てはまる子であったらしい。

 しかし、彼は「自分は何をやっても、授業中に叱られていた」と小学校5~6年当時を語ってくれた。要するに「暗算で解いてはダメ」「習っていない漢字を使ってはダメ」「問題ができたからといって、勝手に次に進んではダメ」という担任の先生の「ダメダメ攻撃」にあっていたのだそうだ。

「おとなしくしていれば、先生は文句を言わないので、自分は仕方なく、時間潰しで本を読んでいました。先生から『ガリ勉』って言われていたんですが、その意味を知らないクラスの子が『勉=便』と勘違いしたみたいで、一時『うんこ!』って呼ばれていたことも。もちろん、嫌でしたけど、『こんなところにはいられない』って思って、受験勉強にかなり身が入りましたね(笑)」

 無事に今年、最難関と呼ばれる中高一貫校に入った悟君は、笑顔で学校生活について教えてくれた。

「もう学校はパラダイスですよ。何より、話の合う仲間ばかりですし、学校が『勉強したい奴はトコトンやればいい、別に勉強じゃなくてもいい、やりたいことをやりたいだけやれ!』っていうような校風なんで、本当に楽です」

 悟君のように、中学受験に向いている子もいるし、一方で当然ながら、向かない子もいるのは事実。中学受験を受ける「12歳」という年齢は、成長度合いに個人差がありすぎる年ごろだ。もちろん、興味のベクトルも、その子、その子によって違う。

 それなのに、同じ学年だというだけで、同じ枠にはめられて、凄まじいスピードで学習せざるを得ないのが中学受験の一面でもある。その中で、否応なく序列が付き、評価されるので、小学生の時代に早くも自信や興味をくじかれてしまう子もたくさんいるのだ。

 精神的にも、体力的にも成長が追い付いていない子にとって、中学受験は、逆に不利益になりかねないということを、親は知っておかねばならない。物事にはタイミングがあり、それには個人差があるということだ。もちろん、成長が早いから偉いとか勝ち組であるということにはならない。

 「12歳の中学受験か? 15歳の高校受験か?」は悩ましい問題ではあるが、親は我が子をよく見て、中学受験に参入する前に「我が子の向き・不向き」を見極めてほしいと思っている。
(鳥居りんこ)

中学受験の「志望校選び」を邪魔する危険も? 親が「文化祭見学」で見誤ってはいけないこと

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 いよいよ、秋本番。中高一貫校では文化祭シーズンである。中学受験を考えている親子のほとんどが、この文化祭に足を運んでおり、一方、学校側も、予約制のところを含めると、ほぼ全てが中学受験生の見学を歓迎している。中学受験の世界を知らない人にとっては、「文化祭で何がわかるの?」と思うかもしれないが、学校を隅々まで見て回れるので、学校選びの生きた参考資料としては、これ以上ないほどの好機なのだ。

この時の印象で志望校を決める受験生もたくさんいるのだが、中には、親が文化祭での見るべき点を誤り、志望校の選択を狭めるケースがある。今回は中学受験生の親側から見た「文化祭での注意点」について語ってみよう。

まず文化祭は「祭り」ということを忘れないようにしたい。「祭り=ハレの日」なのだ。普段の状態とは違う「高揚とした気分」の日であることが特徴になる。つまり、文化祭は、生徒のための「お祭り」という要素があるので、オープンスクールのように、受験生側が“おもてなし”される日ではないのだ。そこを読み間違えると、例えば、こういうことが起こるのだ。

保護者が「文化祭見学」で意識すべきポイント

 舞子さん(仮名)は本命視していた男子校であるK学園の学園祭に出向いたところ、生徒たちが受験生、つまり息子には目もくれず、他校の女生徒への接客を重視していたので、ガッカリしたという。そして、それを理由に、K学園を志望校から外したそうだ。

 男子校生徒にとっては、年に何回もない、同年代の女子と堂々と触れ合える貴重な1日なので、そりゃあ、小学生へのおもてなしの優先順位は落ちてしまうだろうとは思う。しかし「息子が軽視された」と感じて不快に思う母親もいるのだなぁと感じた。

 ここで舞子さんが見るべきポイントは、我が子へのおもてなしの度数ではなく、生徒たちの青春指数だったのではないだろうか。文化祭で、中学受験生の親は、生徒たちの笑顔を見てほしい。生徒たちはその祭りをどれくらい真剣に楽しんでいるか? 仲間と協力し合っているか? 教師の介入度はどんなものか? 彼らは充実した生き生きとした顔をしているか? これらを生の生徒たちを見ながら感じることが、受験生親の仕事だと思う。

 また、各教室を回っている内に、トラブル勃発という場面にも遭遇するだろう。ステージ発表の時間が押している、あるいは映像の音が出ない、展示品が壊れた、売り物に不備があった、人があふれすぎた長蛇の列など、プロではない中高生の手腕で運営されていることなので、トラブルが起こらないことはないのだ。もし、その光景を目にできたなら、彼らがその問題をどう解決しようとしているのかを見た方がいい。どのくらい冷静に振る舞い、知恵を出し合い、機転を利かせて、難局を克服しようとしているか? 彼らのポテンシャルが見られる絶好の機会になるからだ。「焼きそば焼くのに、どんだけかかるのよ! 時間かかりすぎ!」と怒っている場合ではないのだ。

 さて、筆者が文化祭に行くときには、普段「日陰」の存在とも言われる目立たない部活のブースを必ず覗くことにしている。そこにいる生徒たちに展示品の説明を受け、苦労した点を聞き、彼らが感じる学校のアレコレまでをも教えてもらっているのだ。一見、目立たないと思える活動をしている生徒たちが、プライド持って、そして充実した学園生活を送っていると感じたならば、その学校は多分、“間違いない”。

 敬子さん(仮名)も、筆者と同じことを実感した経験があるそうだ。彼女は、引っ込み思案で消極的な息子・聡君(仮名)に合う学校を探す中、T学園文化祭に足を運んだ。

 聡君は、生物部ブースで行われていた「蚕の解剖」を楽しみにしていたそうだが、聡君の番になった時に、肝心の蚕がなくなってしまった。普通ならば、そこで閉店ガラガラだが、その時、高校生たちは、非常にガッカリしている様子の聡君以下、小学生数人を連れて、広大な学園敷地内での“虫取りツアー”を敢行したのだ。

 迅速に顧問の先生の許可を取り、用具を集め、探検隊を結成してくれたことに、敬子さんは感激したという。その時、生物部の部長は、小学生の母たちに向かって、こう告げたという。

「森の中で、藪やらもあるのでヒールでは危険です。お母さんたちはどうぞカフェテリアででも自由にくつろいでいてください。僕らが責任を持って、“隊員”たちをお預かりします」

 そして1時間後、聡“隊員”と敬子さんは無事に再会したそうだ。虫嫌いの敬子さんいわく、そこには「気持ち悪い虫」をたくさん採って満面の笑みを浮かべる聡君がいたそうだ。
聡君は当然のようにT学園に入学し、あこがれの生物部に入部した。

 敬子さんに聞いたところ、現在中2の聡君は相変わらず、学園内で「気持ち悪い虫」を採り続けているという。「生物部は、いわゆる花形の部活ではないかもしれませんが、文化祭で見た部員たちの姿が輝いていましたね。意中の学校に出会えてうれしいです」とのこと。また、これを書くにあたり、聡君から「学校生活は『楽しくて仕方ない』」という感想をいただいた。将来は生物学者になるのだそうだ。

 文化祭には、将来の夢を決定付けるこういう出会いもあるということをご紹介した。
(鳥居りんこ)