中学受験の大手塾に憤慨! 算数の成績下落、「先生が無理」という娘の主張はわがままなのか?

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験は、難関校になればなるほど試験の難易度が高く 、出題範囲も非常に広い。それゆえ、受験生は専門塾に通うのが一般的だ。

 もちろん、子どもが喜んで塾に通っているのであれば、親としては 万々歳なのだが、子どもによっては塾通いが苦痛でしかないケースもある。「勉強が嫌い」「成績が上がらない」「友人関係がうまくいかない」など、その理由はさまざまで、意外と「塾の先生との相性が悪い」という事例も多い。

 現在、中学1年生の娘・桃花さん(仮名)を持つ詩織さん(仮名)も、この問題で苦労した経験者だ。

 桃花さんは小3から大手塾に入り、難関校T学園を目指して頑張っていたという。その甲斐あって、小5春のクラス替えでは、念願の最上位クラスに。桃花さんは、この結果をすごく喜び、「クラス落ちしないように、勉強、頑張る!」と、より一層、身を入れて勉強するようになったそうだ。

 ところが、クラスアップしたその月から、算数の成績だけが、ズルズルと下がっていったという。

「それまでは、算数も決して苦手ではなかったと思います。けれど、下のクラスにいた時よりも偏差値が下がっていくので、『最上位クラスの算数にはついていけないのかな?』と心配していました」

 そこで詩織さんは、桃花さんに「算数の成績が下がってるけど、何か 心当たりはある?」と聞いてみたそうだ。すると桃花さんが「算数のA先生が 無理!」と言うので驚いたという。

 桃花さんの言う「A先生が無理な理由」はこれだった。

・お気に入りの女の子の名前だけを呼び捨てにする
・上から目線で常に偉そう
・自分勝手で生徒の話を聞かない

「最上位クラスの講師は、下のクラスとは違う先生方でした。最上位クラスは優秀なやり手の先生で固められていると聞いていたので、期待感があっただけに、すごくショックでしたね。桃花は『A先生が教えるなら、もう算数の授業は受けない!』とまで言い出す始末で……。私としてはやっぱり、最上位クラスにいてほしいという欲目があったので、『出会う人すべてが『いい人』とは限らない、中には『苦手』と感じる人もいるよ。 それにA先生とは受験終了までのお付き合いなんだから、やり過ごせば? なんたって、最上位クラスを受け持っている優秀な先生なんでしょ?』と説得したんですが、桃花には『ママって、そんな人だったんだ……』と軽蔑されてしまって。どうしたものか……と悩んでいました」

 しかし、桃花さんによくよく授業の様子を聞いてみたところ、以下のような状態だということもわかってきたという。

・解説もなく、いきなり問題ばかり解かせる
・授業中の質問を受け付けずに一方的に講義する
・黒板の文字を写し終えていないのに、すごいスピードで消してしまうが、自分の流儀だと言ってあらためない

「桃花がA先生を毛嫌いしている理由が、『なんとなく生理的に無理』というだけなら、室長に抗議にはいかなかったと思うんです。でも、もし講義方法が桃花の言っている通りならば、桃花の成績は上がらない。『算数が入試のカギ 』といわれるT学園が、このままでは高嶺の花になってしまう! と焦りました」

 詩織さんは、室長にアポを取り、面談してもらうことに。ところが、面談結果は芳しいものではなかったという。

「最初、『こういうわけなので、算数だけ、下のクラスでいいので受講できないか?』と聞いたんです。でも、答えは『NO』でした。それで、思いきって『だったら4科とも、元のクラスにしてもらえないか?』と言ったんですが、『それだとT学園には届きませんよ。それでいいんですか?』と言われ、最後に『私は、A先生は人気のある良い先生だと思いますけどね』と。まるで、桃花のわがままだと言わんばかりの口ぶりだったので憤慨しました」

 詩織さんが桃花さんに転塾を勧めても、「仲良しの友達ができたから、今さら、出たくない」と首を縦に振らず。なにより「A先生の算数は受けない!」という桃花さんの決意は固く、算数のみ自主休講し、ウェブ講座で自宅学習をしていたという。

 しかし、時は5年生の秋。新単元が目白押しの大事な時期ゆえに、融通が利かない塾にも、頑なな娘の態度にも、詩織さんのイライラは募るばかりだったそうだ。

「夫は海外に単身赴任をしているので、なかなか相談とかもできなかったんです。でも、夏休みに一時帰国をした際、夫が桃花に言ったんです。『根性あるな!』って。『嫌なことは嫌! って言えるのは、すごくいいことだ。日本人にはそれが足らない! ってパパはいつも思っている』って。そして、『別にA先生でなくても、T学園に合格すればいいんだろ? パパと一緒に勉強しないか?』と提案したんです。桃花も最初は乗り気だったんですが、すぐに思惑は外れました。やはり“父親塾”はうまくいくはずもなく、あえなく決裂です(笑)」

 そうこうしているうちに、新6年生になる時期が間近に迫った。その頃、ようやく予約していたプロ家庭教師の枠が空いたため、算数をお任せすることができたそうだ。

「地獄に仏でしたね……。さすがプロだけあって、教え上手で、褒め上手で、乗せ上手。桃花に『自習だけで、こんなに理解できているのはすごい!』と言って、自信を付けてくださって、理解が及んでいない部分とT学園対策を並行してやってくださったんです。わずか1年の間に、桃花は『算数、大好き!』というくらい成績が伸びました。まあ、お金は余分にかかりましたが、結果オーライです」

 こうして、桃花さんは初志貫徹で、無事にT学園に合格。

「りんこさん、私、学んだんです。人間関係には相性があります。私たちの世代は、どんなに嫌でも、目上の相手に対しては、我慢しながら、折り合いをつけて付き合っていく のが正しいとされてきました。でも、どうしても嫌ならば、人でもなんでも、その我慢は必要とは言えません。もちろん、我慢を放棄した分、より一層の努力は必要でしょうが、嫌なことを跳ねのけるパワーを見せてくれた桃花のことは、ちょっと見直しました」

 そんな誇らし気な詩織さんだが、最近、彼女にも変化があったという。

「私、転職したんです。実は、長年、理不尽な上司に振り回されてメンタルをやられそうになっていたんですが、この年齢では転職は無理だと思って、ずっと我慢していました。でも、それって美談でもなんでもないなって思って、辞めました。それで一念発起して、資格を取得し、先日、無事希望の職場に採用されたんです!」

 「今、私が楽しい毎日が送れているのも、桃花の決断を見守った 経験があったからですよね」と笑う詩織さん。その表情はとても明るいものだった。

小6初夏から中学受験は遅すぎる? 娘が伝統私立校に“駆け込み”で合格できたワケ

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験は小学3年生の2月から準備を始めるのが一般的。しかし中には、6年生から参入するご家庭もある。この遅れて中学受験に参加することを、業界用語で「駆け込み受験」と呼ぶ。一般論ではあるが、駆け込み受験はハンデありきのスタートになりがちだ。

 中学受験は、難関校になればなるほど、入試で学習指導要領を逸脱した問題を出す。受験生は、そうした問題を解くための学力を付けなければならないわけだが、駆け込み受験組はその準備期間がほかの受験生より圧倒的に短い。ハンデ戦とわかった上で参入するには、当然それ相応の理由と覚悟が必要だ。

 しかし、「早いうちから中学受験の準備をしていれば、もっと楽ができたかもしれませんが、『どうしても合格したい!』という意志があれば、乗り越えられるものだとも思います」と語るのは、現在、中学3年生の心美さん(仮名)の母、美保さん(仮名)である。

 心美さんが中学受験を決意し、中学受験塾に入塾したのは6年生の初夏のことだった。

「うちは子どもが3人いまして、私立中学なんて贅沢なことはまったく考えていなかったんです。でも、『この道しかない!』と腹をくくって受験を決めました」

 心美さんはもともと、学校が大好きな元気いっぱいの少女だったそうだが、その学校生活は6年生で一変したという。クラス替えが行われ、新しい担任のもと新学期がスタートしたものの、すぐにコロナ禍が発生した。

「緊急事態宣言で、しばらくの間、休校だったこともあり、クラスのまとまりはなかったと思います。その後、登校が再開されたのですが、心美のクラスメイトがどうやらコロナに感染したといううわさが流れて……。誰だって、なりたくてなる人はいないのに、その時の学校の対応は本当にひどいものでした。学年集会の席上、学年主任の先生が『この学年でコロナに感染した児童がいます』と発言したというんです」

 この発表を受け、子どもたち、そして親たちは“犯人捜し”をするかのように、その日の欠席者の把握に努めたらしく、結果的に欠席していた心美ちゃんのクラスメイトが“ターゲット”になったそうだ。

「その子が本当にコロナだったのかもわかりません。でも、結果として、その日以来、学校に来られなくなったんですね。どうも、子ども同士のLINEグループの中で、仲間外れのような扱いを受けてしまったようで……。心美には、それが理不尽にも恐怖にも感じる一件になったようで、まったく関係ない部外者ではあるのですが、心美まで学校に行くのを嫌がるようになったんです」

 コロナ禍でなくても、特定の子を仲間外しにするのは、小中学生の女の子同士の中ではよくある話かもしれない。しかし、心美ちゃんのように優しく、繊細な心を持つ子は、他人の痛みまで自分事のように受け止めてしまうことがある。

「心美は心ない発表をした学校の先生にも、意地悪をしたクラスメイトにも不信感しかなく、『この人たちと同じ空間にいたくない』と言いだしたんです。私も、コロナ禍を言い訳に、ロクに授業もしないばかりか、学級崩壊状態になっているクラスをどうにかしようという心意気もない学校には絶望していました。このまま地域の公立中学に入学しても、同じメンバーなのかと思うと、心美が完全な不登校に陥る可能性を否定できなかったんです」

 そんな中、美保さんは学生時代の友人から久しぶりに連絡をもらう。

「お互い、近況報告をしているうちに、彼女の娘が私立のS学院に通っていることがわかりました。その頃、メディアでは盛んに『コロナ禍における私立中高一貫校のオンライン授業』が報道されていまして、『公立とは全然違うんだぁ……』とうらやましく思っていたんです。S学院も生徒全員がタブレット端末で授業を受けており、1日たりとも授業がなかった日はないって聞かされました。『やっぱり、報道されている通りなんだ!』と感心しましたね」

 美保さんが、心美さんの学校であった出来事を打ち明けると、友人はこんなことを教えてくれたそうだ。

「S学院の担任の先生は、オンライン授業中、生徒全員の顔をパソコン画面に映し出し、一人ひとりが笑顔でいるかどうか、表情が暗い子はいないかを毎日確認してくれているそうなんです」

 美保さんの友人いわく、娘のオンライン授業の様子を少し離れたところで聞いていたところ、先生が懸命に生徒たちを元気づけようとしてくれているのが手に取るようにわかり、先生もつらいのに、本当にありがたくて、涙が出たとのこと。緊急事態宣言が明けて通常登校に戻った際、クラスはすでに一致団結しており、「この学校を選んで良かったなぁと心から思ったわ」とも言っていたそうだ。

 その友人の娘さんも小学校の時、いじめが原因で少しの間、不登校を経験。そこで、駆け込み受験をしてS学院に入学したという経緯があったといい、美保さんの心は一気に中学受験へ傾くことになる。

「友人に『小6からでも、頑張れば、まだ間に合う!』と励まされて、やっぱり、我が子には『学校、大好き!』『友達、大好き!』って環境にいてほしいって思ったんです。それで、心美にも中学受験を強く勧めました」

 それからほどなくして、心美さんはその友人の娘さんから、直接S学院のことを聞く機会を持ち、一気にS学院のファンになったという。

「S学院は難関校ではありませんが、校風の良さを誇る伝統校です。塾からも『小6の今からでは、相当厳しい!』と言われたんですが、心美は『絶対に頑張る!』と言いまして、その日から、猛勉強がスタートしました。塾の先生にも『そういうことなら、応援する』と言われ、系列の個別塾にも行くように。毎日、相当ハードでしたが、友人の娘さんにも、なんとS学院の先生にも応援メッセージをいただくことができて……最後は気合で合格をもぎ取ったようなものですね。合格を報告した際、塾の先生が本当に驚いておられましたから(笑)」

 心美さんは入学後、S学院が大切にしている「他者貢献」という精神のもと、ボランティアをする部活に入り、充実した毎日を過ごしているという。

 美保さんがニコニコしながら、心美さんの中学受験をこう振り返った。

「もう少し早めに受験に取り組んでいたら、もしかしたら、もっと偏差値の高い学校に行けたかもしれません。親って、欲深い生き物ですよね(笑)。でも、S学院に入って、毎日、楽しそうに通う心美を見ると、これが正解だったと思うんですよ。受験という目標がなかったら、心美は今も不登校だったかもしれませんから……。唯一の誤算は、心美の姿を見た下の子2人も『中学受験する!』と言っていることですかね。私、もっと働かないといけなくなりました(笑)」

 受験にはそれなりの準備期間が必要だが、心美さんのように、短期間でも気持ち次第で「大願成就」となるケースも過去、数多く見てきた。人生は「意志あるところに道は開ける」という言葉通りなのかもしれない――美保さんの話を聞いて、そんなことを思った。

中学受験で変わってしまった中1の孫――「Fラン大」「低偏差値」発言にショック!

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 「空前の中学受験ブーム」と呼ばれる昨今。子どもに大きなメリットがあるからこそ、多くの人が参入するのだろうが、その裏には当然ながら、デメリットもある。

 よく言われるのは、「受験勉強が大変なため、子どもの負担が大きい」ということ。非受験組のクラスメイトが自由に遊んでいる中、小学校では習わない難しい問題を解くため、長時間勉強しなければならないのは、子どもにとって酷だという意見もある。加えてその成果がなかなか出ず、メンタル面が不安定になりやすいというのもよく指摘されることだ。

 また、中学受験は、とにもかくにも数字で判断されがち。毎週のように突き付けられる模試の結果や偏差値、志望校のランキングに振り回される世界であることは否定できない。もしかしたら、中学受験の一番のデメリットは、子どもが「塾屋さんが作ったにすぎない数字」の上下で物事を判断してしまうようになることなのかもしれない。

 中学1年生になった紗良ちゃん(仮名、以下同)の祖母・有美子さん(68歳)は、ため息混じりに、こう話し始めた。

「この夏休み、久しぶりに息子一家が来てくれたんです。コロナ禍の中学受験だったため、帰省を控えていたそうで、紗良に会うのは3年ぶり。本当に大きくなりましたね。それはうれしかったんですが、どうにも気になることがあって……」

 息子一家が帰省したその日は、有美子さんの娘の子ども――紗良ちゃんにとっては従妹にあたる小6の女の子・愛菜ちゃんも家に遊びに来ていたそうだ。夏休みと年末には、有美子さんの家に親戚が集い、ワイワイ騒ぐのが恒例行事で、年も近いせいか、紗良ちゃんと愛菜ちゃんは昔からとても仲が良かったという。しかし――。

「年頃で反抗期の可能性もありますが、どうも紗良の態度が良くないんです。なんというか、愛菜を下に見るというか、バカにしているというか……」

 愛菜ちゃんは、大学までエスカレーターの私立小学校に通っている。中高、大学と高偏差値校ではないものの、ファンが多い伝統校。愛菜ちゃんの両親がその校風に惹かれ、進学先に選んだそうだ。一方、紗良ちゃんは公立小学校からの中学受験組。御三家クラスではないものの、大学進学実績を誇る人気進学校に通学している。

「紗良が何かにつけて、愛菜の学校を見下すんですよ。『あ~、Fラン大付属(偏差値の低い大学という意味で使用されるネットスラング)だからね』とか『低偏差値の友達ばっかでかわいそう』とか……。昔の紗良は、本当に思いやりのある優しい子だったのに、中学受験で変な価値観がついてしまったんですかね」と有美子さんは心配顔だ。

 有美子さんはその都度、「愛菜ちゃんの学校もいい学校」「紗良ちゃん、そういう言い方はどうかしら?」というふうに、やんわりと注意をしたらしいのだが、まったく響く様子がなかったそうだ。

「もっと厳しく言えればいいんでしょうが、横にいたお嫁さんに遠慮があって、ストレートには言えないんですよ。それとなく息子に伝えたのですが、『(愛菜の学校の)レベルが低いのは事実じゃん?』と言う始末で、本をただせば、私の育て方が悪かったのか? とも思って、なんかモヤモヤしたんですよね……。幸い、その場に娘はいなかったので、無用な兄妹バトルにはならなかったのですが、愛菜が傷ついてないといいなと願っているところです」

 子育てに祖父母の口出しは無用なご時世。息子一家に忠言できず、心の中で悶々としている有美子さんの心情は理解できる。

「久しぶりに会った紗良の価値観が、すべて“数字”に支配されている……というと言いすぎかもしれませんが、いろんなことを偏差値に換算している気がするんです。近頃は、『顔面偏差値』って言葉があるんですか? 顔が可愛いほうが勝ちなんだそうです。もちろん、お金を持っているほうが勝ちだし、難関校に通っているほうが勝ちって考え方をしていて……そういった現実は確かにあるかもしれませんが、その基準で世の中や友達を判断したり、ましてや、見下すなんてことは、紗良を不幸にするような気がして、ハラハラしてしまいます」

 有美子さん自身の子育て環境は、中学受験がスタンダードな地域ではなかったそう。息子も娘も中学受験はせず、公立中学から私立高校、早慶上智クラスの大学へと進学した。

「うちの子どもたちは、勝手に自分で進学先を決めたようなものなので、お受験のことは、私には正直、よくわかりません。お嫁さんや娘が『お母さん、今はこうなのよ』というのを『そうなのね~』と聞いているだけで……。でも、うまく言えないですが、変わってしまった紗良を見ると、中学受験って本当にいいものなのかな? という気はしています」

 思春期は“承認欲求”が異様に高まるお年頃。紗良ちゃんの本当の気持ちは、有美子さんの話だけではわからない。身近な人にマウントを仕掛けて、自分をより高く見せなければ、逆に立っていられない感覚になる子もいる。

 特に中学受験組の中には「偏差値が高ければ勝ち組で、偏差値が低ければ負け組」と思っている子も実際、多く存在している。とりわけ、親が偏差値に振り回されてしまうご家庭の子は注意が必要だ。

 人生経験が少なく、社会全体を見渡す機会が限られる子どもたちには、親の価値観がそのままストレートに入ってきてしまうからだ。

 よく「子育ては横軸ではなく、縦軸で見よ」と言われる。他人との比較ではなく、その子自身の成長軸を比べなさいという意味であるが、中学受験でもこの言葉はとても大切。

 親自身が「受験を通して、子どもをどう成長させたいのか?」ということを真剣に考え、時々は「数字ばかりに踊らされていないか?」と振り返る――有美子さんの話は、その必要性をあらためて痛感させられた。

インター校からの中学受験は簡単ではない――英語コンプレックスを息子で解消しようとした母の告白

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 親は子どもの幸せを願い、そのためにあらゆる努力をするものだ。さまざまな進路を比較検討した結果、「この道をたどらせれば、きっと子どもの人生にプラスになるはず」と決断し、我が子を後押ししているという人は多いことだろう。

 これ自体は何の問題もない。強いて問題点を挙げるならば、子どもの特性を無視し、親が我が子に自らの“人生のリベンジ”を強要してしまうケース。その上に、“行き当たりバッタリ”感の強い教育が重なると、子への思いは届かなくなることが多い印象だ。

 現在大学2年生の息子を持つ渚さん(仮名)は、遠くを見てこうつぶやいた。

「何が悪かったんですかね。私はただ、息子の岳(仮名)の未来に良かれと思って選んだだけなのに……」

 岳君はプリスクール(未就学児を対象に、英語教育を行う施設)育ち。その流れでインターナショナルスクールに入学したそうだ。当時、「今後は世の中がますますグローバル社会になる」と言われており、それならば、息子には小さい頃から、英語力と国際感覚を身につけさせてあげたいという親心から、この進路を決めたそうだ。

「私は若い頃、海外に憧れてはいたんですが、金銭的に留学なんてできませんでした。じゃあ、独学で語学を学ぼうとなれば良かったものの、そういう覚悟もなく……一応、女子大の英文科を卒業しましたが、ほとんど英語は話せずじまいで、正直、コンプレックスがあります。夫も英語はからっきしなので、『岳だけは英語を!』って思ったんです」

 両親が日本人の場合、インターに通わせると、セミリンガル(ダブルリミテッド)になりやすいという話をよく聞く。これは、日本語と英語を使用する環境の中、どちらの言語ともに年相応のレベルに達していない状態ことを指す。将来的に論理的に物事を考えられなくなる可能性もあるだけに、重大な問題といえるだろう。

「もちろん、そのリスクは承知していたんですが、インターにいる日本人の先輩ママたちに聞くと『大丈夫』という答えばかりだったので、信用していました。でも、それが甘かったんです。やっぱり、家庭での支えが必要らしく、ふたを開けてみたら、家庭教師や塾を利用して、英語や日本語を含めた我が子の不得意分野を補習している人ばかりで……。思えば、ウチは何にもやっていなかったんですよね」

 プリスクールは、英語教育を行うと謳われていたものの、先生は日本人のほうが多い環境だったため、岳君は日本語を駆使。しかし、それなりに楽しく通っていたそうだ。岳君の学校生活に暗雲が垂れ込め始めたのはインター入学後、日本の一般的な小学校でいうところの4年生の頃だった。

「岳が『学校に行きたくない』って言い出したんです。それで原因を探ったら、帰国子女の子にずっといじめられていたことがわかりました。インターってやっぱり、自己主張が強い子の意見が通りやすい面があるんですが、岳はその子の言いなりになっていたらしく……。ほかの子や先生に助けを求めたくても、周りはほぼネイティブですから、岳の語学力ではうまく表現できなかったようで、黙ることでしか対応できなかったんだと思います」

 さらに、渚さんに追い打ちをかける事態が発生した。それは、中学受験塾の入塾テストに落ちたことで判明したそうだ。

 渚さんによると、インター校にいる日本人生徒の多くは、中学に進学する際、地元の公立中ではなく、中学受験をして私立中に行くか、そのままインター校に通うかの選択をすることが多いらしい。そこで渚さんは、小4時での中学受験塾デビューを見越し、試しに入塾テストを受けさせたのだという。しかし――。

「テスト結果を見て仰天しました。岳が完全にセミリンガルになっているということがわかったんです。インターは、算数や理科のレベルが低いとは言われていたので、それはある程度は覚悟していたのですが、国語も壊滅的な成績で頭を抱えました。日本語も英語もどっちも中途半端にしか理解できていないという事実に打ちのめされましたね」

 日本のインター校の多くは、学校教育法上の「一条校」には入らないので、扱いとしては各種学校か無認可校となる。中学受験を経て入学する中高一貫校は「一条校の卒業」を条件にしていることが多く、帰国生は話が別だが、インター校の生徒は、そもそも志望中学に受験資格があるのか否かを丁寧に見ていかねばならない。

 現在は、インター校でも受験資格ありを謳っている中学も複数出てきてはいるが、岳君が中学受験を受けた頃は、ほとんどない時代だったと記憶する。

 結局、渚さん親子は「一条校の卒業」という条件を満たすため、インター校を辞めて、日本の公立小学校に転校。岳君が小5の頃だったそうだ。

「本人もインター校にはもう通いたくないと言っていたので、それじゃあ、日本の学校に転校して、中学受験をしようという話になったんです。入塾テスト前後は家庭教師をつけて、必死に頑張らせました」

 ところが、日本の公立小にも、岳君はうまくなじめなかったそうだ。

「うまく説明できないんですが、インターと日本の学校教育は大きく違うんです。インターで良しとされることが、日本の小学校ではダメみたいな……。それが、明文化されておらず、先生から、いわゆる“空気読め”的な対応を取られたようで、公立小にはほとんど通えず。岳は中学受験塾にだけ通う状態になっていました」

 岳君はその後、進学校とされる中高一貫の男子校に入学する。

「その頃の岳の夢は『医者』だったので、医学部に強いとされる一貫校に入れたんですが、そこがまた結構、厳しい学校でして、岳には合わなかったんだと思います」

 一口に私立中高一貫校といっても校風はさまざま。「公立よりも自由」というイメージを持つ人もいるだろうが、実際には、提出物や遅刻に厳しく、生徒からすると「窮屈だ」と感じる学校も少なくないのだ。

「それでも、中学では生徒会に立候補して、『俺が校則を変える!』と大きなことをブチ上げていたんですが、先生の逆鱗に触れ、目を付けられるように。また部活の先輩・後輩の序列がまったく理解できなかったみたいで、そのこともあり、部活も辞めました。学校には行っていましたが、当然、成績も悪かったです。まあ、英語だけはプライドがあるのでしょうかね……そこそこマシな点数でしたが、だからと言って、高偏差値大学のレベルには到底及びませんでした」

 結局、岳君はその中高一貫校を卒業。渚さんいわく、「日本の三流よりも下の大学」(大学名を教えてもらえなかった)に入り、現在、2留中だそうだ。

「同級生たちは就活の準備で忙しいようなんですが、岳はどこ吹く風で……。家にいても、私や夫とはまったく口をきかないので、何を考えているかもわかりません。岳のために、良かれと思って選択してきたつもりですが、親の思う通りにはいかないものですね」

 両親がネイティブではない場合、インター校で英語のコミュニケーション能力を磨き、グローバルな活躍を目指すという道は相当ハードだが、筆者は、インター校を選択するのであれば、基本的には海外の大学への進学を念頭に置くことをおすすめしている。

 やはり、日本の難関大学に進むべく、インター校から高偏差値中高一貫校へ進学する道は簡単ではないし(英語入試にかけるならば別)、今は中学受験も少しずつ多様性が出てきたものの、いまだに多くの学校では、受験生に処理能力を問う選抜方法を取り入れているからだ。

 結局、子育てには「親の良かれ」が大きく影響する。親も人間なので、自分が得られなかったものを、子どもに得てほしいと願うのも無理からぬことだが、そこには長期的展望が必要だと思う。「定番」と呼ばれるルート(ここでいえば、公立小から公立中に進学すること)から外れる道を選んだ場合、親には相当な覚悟が必要なことは言うまでもない。子どもの進路に迷う親御さんに、このことだけはお伝えしておきたい。

中学受験における「神オヤジ」とは? 息子は日能研偏差値40台から55の私立中に合格!

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験が過熱する現在、「母子の受験」は完全に過去のものとなり、「親子の受験」が定番化している。つまり、母親だけでなく父親も我が子の中学受験に関わるようになり、どの中学受験相談会にも、父母が揃って来場するケースが多い。中には、母親ではなく、父親が受験を主導するというご家庭も稀ではない状況だ。

 

ところが、父親と子どもの関係は、母親と子どものそれ以上に難しい。拙書『わが子を合格させる父親道 やる気を引き出す「神オヤジ」と子どもをツブす「ダメおやじ」』(ダイヤモンド社)でもつづったが、中学受験界では、「神オヤジ」よりも「ダメおやじ」のほうが、圧倒的に出現率は高いのだ。

 

その理由は、優秀なビジネスマンほど、受験に仕事の手法を取り入れてしまい、妻子の気持ちを置き去りにしてしまうことが多いからだと、筆者は見ている。「私の子どもにあんな心ない言葉をかけて泣かせるなんて、一生、許さない!」と怒りに震える母の声もよく聞くところだ。

 

しかし、たまに「りんこさん、私、パパと結婚して本当によかったです。中学受験を経て、惚れ直しました!」と報告に来るママさんもいる。

 

その1人が智美さん(仮名)である。彼女は医療職に就くワーママで、会社員である夫・健司さん(仮名)と息子・裕也君(仮名)の3人家族。結婚当初から共働き世帯だったため、裕也君は保育園を卒園後、小学校からは学童を利用していたそうだが、小4になるタイミングで、中学受験塾に入塾させたという。

 

「『何がなんでも中学受験をさせる!』っていう気持ちはなく、長時間、安心して子どもを預かってもらえるところならば、正直、塾じゃなくても良かったんです。当時の夫は、仕事が忙しすぎて、それこそ土日もないような毎日。実家は遠方で、育児も家事も私だけのワンオペになりがちで、裕也に勉強を教えるなんていう体力も気力もありませんでした。成績?当然ボロボロで、日能研の偏差値で、良くて40台でしたね(笑)」

 

 そんな折り、世の中はコロナ禍を迎える。健司さんの会社は完全リモートになり、毎週のようにあった接待もすべてナシに。結婚以来、初めて夫が毎日24時間、家にいる生活になったという。

 

「私は仕事上、感染対策でピリピリしていた時期でした。夫はそんな私を気遣ってくれ、家の中のことをほとんどやってくれるようになったんです。これはうれしい誤算でした」

 

当時は塾の講義もオンラインに。健司さんが早めに夕飯を作り、塾の講義に間に合うよう、裕也君に食べさせてくれていたそうだ。そのおかげで、智美さんは安心して職務に励むことができたという。

 

◎中学受験、自己嫌悪に陥っていたワーママの“うれしい誤算”

 

「夫は、積極的に裕也の勉強を見ていたわけではなく、ただ、リビングで講義を受ける裕也の姿が見える位置で、聞くともなく講義を耳にしていただけだったと思います。でも、裕也にとっては見張りがいるようなものなので、とりあえずは講義にはちゃんと参加せざるを得ない状況が生まれた……というわけです(笑)」

 

そんなある日、健司さんは裕也君にこう問いかけたという。

 

「塾の講義って面白いな! 裕也は何の科目が好きだ? パパもちょっとやってみようかな?」

 

そして、裕也君のテキストをパラパラ見るようになり、計算問題の宿題で、どちらが早く解けるかという競争しだしたそうだ。

 

「中学受験の問題って、大人でも難しいんですね。その頃、裕也は5年生でしたが、計算だけはなぜか得意で、夫を打ち負かしたようです。それが、裕也にとっては快感だったみたいなんですよ(笑)。ほかにも、2人は『A先生が可愛い』とか『B先生のジョークがスベっていた』とか、そんな他愛もない話をして盛り上がるように。当時リビングからは、2人の笑い声がよく聞こえていました。私は、『パパと息子が仲良しなのはいいことだなぁ』なんて思いながら、寝落ちしていましたけど……」

 

6年生になると、コロナ禍もどうにか落ち着き、塾も対面授業に。しかし、そこでも智美さんにとってうれしい誤算があったという。引き続きリモートワーカーであった健司さんが、塾のお弁当作りと送り迎えを買って出てくれたからだ。

 

「本当に助かりましたね。コロナ前までは、どうしても都合が付かないことが多くて、裕也は1人でバスに乗って塾へ行っていましたし、お迎えも正直、やりくりが大変でした。自分が一杯いっぱいだったので、些細なことでも裕也を叱りつけたりして、それでまた自己嫌悪に陥るという悪循環で、『こんな家庭が中学受験をしていいんだろうか?』とまで悩んだほどです」

 

◎中学受験の「神オヤジ」が妻にかけた言葉――「難しくて、俺には無理!」

 

当時、健司さんがやっていたサポートは、お風呂掃除とお弁当&夕食作りに塾の送り迎え……計算の競争相手にはなるものの、勉強はまったく見ていなかったそうだ。

 

一度、智美さんは健司さんに「裕也の勉強をみてあげてよ』と頼んだことがあるというが、彼女は「その答えが秀逸だった」と振り返る。

 

「難しくて、俺には無理! 裕也に任せる。裕也はこんな難しい問題を解いてて、ホント、頑張ってるよな。俺が小学生の時には考えられない。偉いな、アイツ!」

 

 知美さんいわく「夫は多分、裕也の性格をわかって、あの時、裕也に聞こえるようにワザとああ言ったんだと思う」とのこと。なんでも裕也君はどちらかというと、おだてに弱いタイプで「あれも夫の作戦だったのかもしれません」。

 

健司さんの作戦は、目に見える“結果”に表れた。5年生までの裕也君は、日能研の偏差値で40台だったらしいが、徐々に上がっていき、結局、偏差値55の学校に入学したという。

 

裕也君は健司さんと話しながら塾から帰る時間が、楽しみで仕方なかったそうだ。健司さんは決して、裕也君の成績のことも勉強の進捗状況ことも聞かず、「お弁当の好きなおかずベスト10」や「2人でハマっているゲームの攻略法」など、智美さんいわく「どうでもいいこと」で盛り上がっていたという。

 

「夫は私と裕也にとって『神オヤジ』です。受験直前、夫は私に、裕也にも聞こえるくらいの声で、『俺たちの子だから、何の心配もしてない。アイツは受かるよ』って言ったんです。きっと裕也もそれで自信を持てたと思いますよ。ウチの夫、最高じゃないですか?」

 

中学受験の体験談を聞くつもりが、うっかり、惚気られた次第だが、私の出会ってきた「神オヤジ」の妻たちは、高確率で「中学受験をきっかけに、夫に惚れ直した」と話す。そういうご家庭の中学受験物語は、ハッピーエンドが多いというのが筆者の印象だ。やはり、家庭平和は何よりも大事なのだろう。

中学受験生の親を悩ませる“学校選び”――「大学付属校」で恥ずかしがり屋の娘が伸びたワケ

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 現在は「史上空前の中学受験ブーム」と言われ、首都圏での中学受験熱はますます高まっている状況だ。この熱を受け、親子で受験しようと一歩を踏み出したご家庭も多いことだろう。

 ここで親が悩むのが学校選びである。東京だけでも中高一貫校は200校近くある。この中から、我が子に合った学校を選択していくのだが、選択肢がありすぎると「一体どうやって受験候補校を決めればいいのだろう?」と不安を抱く保護者もいるかもしれない。

 学校を選ぶ基準は、例えば「女子校・男子校/共学校」「進学校/大学付属校」「伝統校/ニューウェーブ校」が挙げられるだろう。中学受験シーズンになると、「伝統女子校が人気」「大学付属校ブーム」といった記事をよく目にするようになるが、その善しあしは、「我が子に合うかどうか」ということに尽きる。逆にいえば、我が子に合った学校を選ぶ自由があるという点こそ、中学受験の最大の魅力なのかもしれない。

「もちろん、学校選びは迷いました。娘にとっては一生の選択になるわけですから、受験候補校は念入りに見学して決めたんです」と語るのは、大学2年生になった由芽さん(仮名)の母、めぐみさん(仮名)である。

 小学生時代の由芽さんは、恥ずかしがり屋さんで、積極的に人前で発言することは皆無。しかしながら、誰にでも優しい穏やかな子だったそうだ。

「学区の公立中学は私の目から見ると厳格でして、由芽がこの中学で伸び伸びと過ごせるとは思えなかったんですよね」

 そう考えるに至った理由は、当時の校長先生の方針によるものだったらしい。その中学では公的検定試験や各種大会に積極的。合格者や入賞者を称賛する空気に満ちあふれていたという。それは良いとしても、めぐみさんが最も不安に思ったのは、球技大会などの行事にも校内検定なるものが存在するという話を聞いたからだ。

「由芽はどちらかといえば、人と争うのが苦手な子だったので、常に何かで優劣を競っているような学校には向かないなぁと思ったんです。それで中学受験を選択し、結果、大学付属校に進学しました」

 大学付属校に入学すると、エスカレーター式に系列の大学に進学することになるとイメージする人も多いだろうが、形態はさまざま。ほぼ全員が内部推薦を使い、系列大学に進学する学校、系列大学にはほとんど進学せず、大半の生徒が他大学受験をする実質“進学校”となっている学校、あるいは、系列大学への推薦の権利はキープした上で、他大学を受験することを後押ししている学校などもある。大学付属校といえども、それぞれの内部進学率は学校によって、あるいは学年によっても異なるのだ。

「由芽の学校は約半数が系列大学に進学します。外部受験も推奨されていますが、中学入学時は多分、由芽自身も、もちろん私たち親も、このまま系列大学に進むんだろうなと思っていました」

 ところが、由芽さんは現在、その学校の系列大学には通っていない。アメリカの大学で学んでいるそうだ。めぐみさんはこう証言した。

「大学付属校のメリットの一つに高大連携授業というものがあるんです。系列大学の教授が出張授業をしに来たり、逆に系列大学の講義に参加することもできました。早い段階から、大学生とも話ができるので、中高と学年が上がるごとに、世界がドンドンと開けていったのかな? って想像しています」

 大学付属校に通うメリットとしては、大学受験を気にしなくてもいいので、受験を意識する授業というより、探求を深めるような講義を受けられる点が挙げられる。さらに、校風が自由な学校が多いので、部活や趣味でも、自分の好きなことを究められるなどは、よく聞くところだ。

 由芽さんも軽音楽部に所属しながら、アニメ同好会にも顔を出し、茶道部も兼部。さらには、系列大学にも顔を出すようになり、めぐみさんいわく「いつの間にか積極性を身に着けていた」とのこと。

「この学校に入って、一番うれしかったのは、由芽が徐々に積極的な明るい子になっていったことなんです。それまでは、どちらかといえば、友達の意見に自分を合わせるような面があったんですが、相手の意見も聞きながら、自分の意見も堂々と述べられるようになっていて……。そばで見ていても、学校に行くのが楽しくて仕方ないって感じだったので、この学校にして本当に良かったと思いました」

 由芽さんは高校時代に大学の講義で経営学を学ぶ機会に恵まれ、将来の夢が決まったという。

「進路選択をしなければならない時に、由芽が言ったんです。『20代で起業を考えている。そのために大学では経営学を学びたい』って。そこまでは良かったんですが、なんと進路希望はアメリカの大学だったので、驚きました」

 実は、由芽さんが通った中高一貫校は、海外ターム留学制度も充実。由芽さんもその制度を使って、高校時代に3カ月間のアメリカ留学をしている。

「学校生活を謳歌していたので、受験勉強はせずにこのまますんなり系列大学へ行くんだろうなと思っていただけに、由芽の発言にびっくりしました。でも同時に頼もしくもありましたね。私の時代には考えられないことでしたから」

 由芽さんの学校は大学付属校ではあるものの、実績は少ないながら、海外大学進学を積極的に後押ししている学校だ。先生方も由芽さんの合格を応援するために、大学に提出するエッセイの添削に始まり、推薦状の作成など、実に細やかに面倒を見てくださったという。

 結果として、由芽さんは見事、志望校に合格。異国での大学生活を謳歌している最中だそうだ。

「これから由芽がどういう道に進むのかはわかりません。けれども、自分で自分の道を拓いていける子になったという実感はあります。この性格の変化は、やはり置かれた環境の影響が強かったのだと思います。伸び伸びとした大学付属校ならではの校風、穏やかな学友、生徒を決して否定しない先生方など、由芽にとって、本当に合っていた学校だったんだなと、この出会いに感謝しかないです」

 人は環境に左右される生き物。「置かれた場所で咲きなさい」というのは、ノートルダム清心学園理事長だった故・シスター渡辺和子氏の有名な言葉だが、筆者は中学受験を目指すご家庭に対し、「置かれた場所で咲くのは本人。しかし、我が子を花が咲きやすい場所に置くのは親」と思っている。

 由芽さんがどんな起業家になるのか、今から楽しみだ。

中学受験、大手塾を辞めたのは間違い? 家庭学習で合格した私立の「大学進学実績」に不安

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験の弊害に、「小学校生活が勉強一色になってしまう」ということがある。確かに、大手塾に通い中学受験を目指す場合、小学6年生は週に4日は通塾、週末は模試や振り返りテストなどに追われることになる。長期休み中ともなると、それこそ朝から晩まで勉強漬けという暮らしをしている子も少なくないのが現状だ。

 加えて、子どもたちは常に偏差値という数字で、今現在の自分の立ち位置を突き付けられる。毎週のように出てくる数字のアップダウンに一喜一憂しているご家庭は多いものだ。

 かつて中学受験生の母だった啓子さん(仮名)は、もともと「中学受験賛成派」ではあったものの、このシステムには「反対派」。現在、高校1年生の一人息子・大樹くん(仮名)には、もっと伸び伸びと小学校生活を楽しんでほしいと望んでいた。

「はっきりいって、今の公立教育には期待できません。それゆえ、早い段階から私立中高一貫校に行かせたいと思っていました。でも、塾に長時間拘束されて、一度しかない子ども時代を過ごすのは違うという思いもあったんです」

 大樹くんは、5年生の年末までは中学受験専門塾に通っていたそうだ。その後、その大手塾を退塾し、家庭学習だけで中学受験に臨んだという。

「退塾の理由は、親子ともども塾の方針についていけなくなってしまったからです。塾からは当然のように、通常クラスのオプションとして、さまざまな講座を勧められ、5年生の年末年始にも冬期講習の案内が届きました。私も息子も『そこまでする必要ない』という考えだったので断ったところ、室長に『このままだと成績は伸びませんよ』って言われてしまい……。でも、子どもが楽しみにしている行事が満載の年末年始まで、塾に缶詰にならないと合格できないなんて、そんな中学受験を受けるべきなのだろうかと、疑問を抱くようになったんです」

 そこで啓子さんは、大樹くんを「新タイプ入試」という方法で受験させることにしたそうだ。

 「新タイプ入試」とは、今はやりの受験で、「思考力・判断力・表現力」のポテンシャルを合否基準にする選抜方法を指す。自分なりの考え方を発表することに重きを置いており、小学校で学んできた基礎的な教科試験や作文、面接などを組み合わせて行われることが多い。学校によって、さまざまな入試形態があるが、従来型の知識の深さを問う入試ほどには塾漬けにならずに済むというメリットがある。

「『新タイプ入試』の存在を聞いた時、『これだ!』って思いましたね。この選抜方法であれば、塾に長時間拘束されずとも、上質な教育をしている私立中学に行かせられるので、迷わず退塾させました」

 そして、大樹君はプレゼン型入試を実施している学校を受験し、合格。現在、その学校の高1である。ところが、啓子さんはここに来て、その選択に自信がなくなってきたと打ち明ける。

「大樹の学校は、いい学校だとは思います。ただ、偏差値はお世辞にも良いとはいえません。当然ながら、大学合格実績も芳しくはないです。学校側は入学前の説明会で『プレゼン型入試の子たちは伸びる力があるので、うちに任せてくれたらMARCH以上の大学に合格させます』と大見栄を切っていたんですけどね。学校の思惑とは裏腹に、今年の実績も良いとはいえませんでした……」

 啓子さんによると、成績上位の子たちは中学受験で一般入試を突破して入学した子たち。しかも、高偏差値校を不合格になった子が多いのだそうだ。

「特進組は、中学受験で基礎学力をしっかり付けてきた子たちで占められていて、『大学受験はリベンジしたい』という強い思いを持っているんです。実際、良い大学に行くのは特進組の子だけ。考えてみれば、大樹は勉強らしい勉強もせず、今の学校に入ったも同然で、高校受験もない。大学受験も“何とかなる”くらいな感じで、勉強する素振りはなく、当然、普通クラスに在籍しています」

 さらに最近、啓子さんは中学受験塾時代のママ友たちから他校の様子を聞き、落ち込んだという。

「大手塾で入試まで頑張り、4科受験をした子たちは、それぞれが高偏差値の学校に入学。もちろん、どこも目を見張るくらいの大学合格実績のある学校です。先生方が大学入試に熱心なのはさることながら、生徒も受験勉強に慣れているからなのでしょう。それに、親子ともに、中学受験の延長線上に大学受験を見据えている感じをヒシヒシと感じて、急に自分の選択に自信がなくなっちゃったんです。やっぱり、大学受験は、今も詰め込み型教育を受けてきた子たちが優位なんですね」

 啓子さんはそう感じているようだが、大学受験が、従来型の学力試験を経て中高一貫校に入学した子に有利ということはない。当然ながら、中学受験の選抜方法よりも、その後の各人の努力の差によるところが大きい。

 しかし、啓子さんの言いたいこともわからなくはない。今現在の日本の大学受験は「塾歴社会」とも呼ばれている。高学歴を手に入れようとするならば、中学受験塾に通って高偏差値の中高一貫校に入り、そのまま大学受験専門塾に通うというのが、ある意味、スタンダードな方法だからだ。難関大学進学は、この小学生からの「塾漬け生活」に耐えられた(あるいは楽しめた)者だけが手にできる栄冠という見方も、できなくはないのが現実だ。

「私たち親子は中学受験のつらさから逃げただけなのかもしれません。“たられば”ですけど、あの時、塾を辞めずに受験にまい進していたら、また違った結果になったのかなぁと思って、最近、よく眠れないんです」

 大樹くんの大学受験がどうなるのかは現時点では何ともいえない。啓子さんの選択が本当の意味で良かったのか悪かったのか、その判定を下すにはまだ早すぎるだろう。

 しかし、啓子さんの話を聞きながら、子育てとは、つくづく難しいものだとため息をついてしまったのも事実である。

 良かれと思いながら子育てに励んでも、親も人間。時として“過去の選択”に悩み、自信をなくしてしまうこともある。個人的には、その気持ちも子育ての一環。その時、一生懸命に子どものためを考えて下した決断ならば、それが一番良かったのではないかと思う。しかし、進学後に、“たられば”にとらわれてしまう親がいるのも、中学受験の一側面であることは頭に入れておくべきなのかもしれない。

中学受験を小6で撤退――「公立中学の内申点」に不信感を抱く母が、3年間でわかったこと

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験を志望する理由はご家庭によってさまざまだろうが、その中に高校受験の選考で参考にされる「内申点」への不信感が含まれる場合がある。

 高校受験では多くの場合、「内申書(調査書)」が合否判定の資料として使用されるのだが、ここに記載される成績のことを内申点と呼ぶ。学期ごとの学業成績を、5段階の評定×9教科=45点満点を“素点”として数値化するのだが、テストの点以外にも、課題提出や授業態度などが加味される(なお、都道府県によって、実技教科の得点が重視されるなど計算方法は微妙に違う)。

 この内申書には、内申点だけではなく、生徒の学校生活のまとめも記載され、出欠記録、部活・委員会活動での活躍の度合い、ボランティア活動の有無なども反映される。

 高校受験の合否判定は、内申書と当日の学力試験の結果で総合的に判断される(受験する高校によってこの比率は異なる)だけに、内申点を含む内申書は非常に重要なものといえる。

 ただし、この内申書は中学校の先生が作成するものなので、「個人的主観で評価される面が大きい」という声があるのも事実。それゆえ「結局は先生の好き嫌いで評定が決まってしまう」と話す人も多い評価制度なのだ。保護者の中には、「提出物をちゃんと出して、先生に気に入られる振る舞いをすれば、評定は上がるが、それができなければ、お先真っ暗」と捉える人もいるだろう。

 中学受験組の中には、この高校受験のための内申点への不安から、私立中高一貫校進学を選択しようと考えるご家庭もあるのが実情だ。

 現在、高校1年生の拓海くん(仮名)の母・ひかりさん(仮名)も、かつてその1人だった。ひかりさんが住んでいるのは、小学校の1クラスのうち、約半分が中学受験組という地域。「公立中学の内申制度を避けるため」という理由で、中学受験に参戦する家庭が多かったという。

「拓海が小学校に入った頃から、学区の公立中学に入った子のお母さんたちから『内申を取るのが大変!』という話をたくさん聞いていました。『提出物を出せない子は無理』とか『行事でリーダーになる子が有利』とか『“授業をちゃんと聞いてる”アピールをできる子が可愛がられる』とか『先生の贔屓がひどい』とか……そういう話を聞いているうちに、だんだん公立中学が怖くなっちゃったんです」

 そこでひかりさんは、小学4年生から拓海くんを大手進学塾に通わせたそうだが、「期待するようには成績が伸びてはいかなかった」そうだ。

「当時の拓海は勉強嫌いというか、ただただ幼いというか。塾には喜んで行くんですが、塾の宿題すらもやっていないという状態でした。課題の提出が苦手なんて、まさに公立中学で内申点を取りづらいタイプで、だからこそ中学受験をさせようと思ったわけですが……(苦笑)。『夜まで友達と一緒にいられるのが楽しい』というだけで、塾に通っていたようなものです」

 成績としては、塾の真ん中あたりのクラスで、そこから下がりもしなければ上がりもしないという状況だったという。その拓海君に変化が訪れたのは小6の春だった。

「拓海が『受験をやめる!』って言い出したんですよ。ずっと少年野球をやっていたんですが、『野球魂に火がついた』とか言って、『野球に専念したい』と。レギュラーは6年生から選ばれることが多いらしく、『中学受験をしたい!』より『少年野球チームのレギュラーになりたい!』という気持ちが勝ったとのことでした」

 ひかりさんは、拓海くんに野球で活躍できるほどの運動神経があるとは思えなかったそうだが、「このまま受験しても、私が希望するような名の通った私立中学に行ける可能性は低い」と冷静に判断したという。

 塾にも意外とあっさり退塾を認めてもらい、野球に専念できる環境を得た拓海くん。しかし、大きな大会に出場したものの、チームはあっという間に敗退。ひかりさんいわく「結局、拓海は遊んでいるだけの小学生」になり、そのまま卒業。公立中学に進学したという。

「最初はすごく心配しました。『提出物は出せるのかな?』とか『先生に逆らって内申点が取れなかったらどうしよう?』とか……。でも、それが意外にも杞憂だったんです」

 拓海くんは公立中学でも野球部に入り、野球を継続。3年間レギュラーには定着できなかったものの、腐ることなく裏方仕事に徹していたという。拓海くんのそうした姿勢は、顧問の先生から担任の先生に伝えられていたらしく、中学3年時の三者面談で褒められたそうだ。

「『先生たち、俺のこと、意外とよく見ててくれるんだな』って、拓海はまんざらでもなさそうでしたね。良い先生が多かったというのもあって、私は『もし内申点が取れないのであれば、それは先生ではなくて、やっぱり(そう評価される)生徒が悪い』って思うようになりました(笑)」

 ひかりさんは中学受験への参入を決めた当時を振り返って、「近所の公立中学のことをよく知りもせず、イメージやうわさ話だけで、『先生個人の主観だけで内申点をつけている』と決めつけていたのは反省しています」と述べる。

「でも、中学受験塾に通わせていたのは後悔していません。やっぱり、そのおかげで相当、基礎学力が付いたなと思うんです。それに、ここだけの話ですが、中学受験で賢い子たちがみんな抜けてくれたおかげで、中1の中間テストは、あの拓海でも上位の成績が出たんですよ。それに気を良くして、拓海は新たに行き出した高校受験塾で頑張るようになって、おかげさまでこの春、県立高校の上位校に入学することができました。きっと勉強って、親が無理やりやらせるものではないんですよね」

 受験には適齢期があるというのは、よく聞く話だ。「馬を水辺に連れて行けても水を飲ますことはできない」ということわざがあるが、これは子育てにこそ当てはまるのかもしれない。

 やはり親は、無理に我が子を受験に向かわせるのではなく、まずは、子ども自身が「こうしたい」と希望を伝えてくれるのを待ち、それを聞くことができたら、黙って寄り添う。中学受験する/しないにかかわらず、これが子育てでは一番、大切なことなのかもしれない。

中学受験で第1志望に合格も、GW明けから「不登校」に――犯人探しに奔走した母の答え

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 ゴールデンウィーク(GW)明けは、“不登校”が増える季節。進級・進学などによる新しい環境で、頑張りすぎて疲れ切ってしまうという子どもは少なくない。特に、中学受験を経験した子どもの環境は“劇変”するだけに、親は我が子の様子をより注意深く観察しておく必要がある。

 2年前のGW明けから娘が不登校に陥ったという百合子さん(仮名)は、遠くを見つめながら話し出した。

「美咲(仮名)が志望校に合格し、真新しい制服に袖を通して、一緒に校門をくぐった入学式は、もう遠い昔のことのようです……」

 美咲さんは中堅校と呼ばれているA学園の中学3年生。中1の頃から不登校気味といえる状態にある。

「我が家の中学受験は、決して親主導の受験ではなく、美咲が『やってみたい』と言い出したことでした。もちろん、『やるからには!』と私も3年間できる限りのことはしたつもりです。第1志望校のA学園に合格した時は本当にうれしかったですね。美咲と主人と手を取り合って『努力は裏切らない!』と喜び合ったんですが……」

 美咲さんに異変が起こったのは、入学直後のGW明けだった。

「朝、美咲をどんなに起こしても起きてこないんですよ。我が家からA学園まではバスと電車で1時間ほどかかるんですが、バスに乗り遅れると、私が駅まで送るはめになるので、今度は私が仕事に遅刻してしまう。もう、必死で起こしていましたね。どうにかこうにか着替えさせて、バスに乗せるんですが、途中で『気持ち悪くなった』とかで帰ってくることが増えていきました」

 そうこうしているうちに、美咲さんは朝が来るたびに腹痛を起こし、登校できるような状態ではなくなったそうだ。

「不思議なんですよね。制服を着ると、途端におなかが痛くなるみたいで。最初は『遅刻してもいいから、行きなさい!』と登校を強制していましたが、徐々に、『これはもう行けるような状態じゃないな』と、私のほうが次第に観念したような感じでしたね」

 もちろん百合子さんは担任の先生、学校カウンセラー、各科のドクターと、考えられるあらゆる専門家に頼ったそうだ。

「内科的には異常なしと言われ、学校からも特に対人関係で問題となるようなことはないと言われ……。メンタルクリニックのドクターからは『様子を見ましょう』とだけ。美咲に聞いても、本人にも理由がわからないみたいで、本当に途方に暮れました」

 このような場合、親は子どもの将来を案じ、どうにか「王道」と呼ばれるレールに戻そうと躍起になることが多い。百合子さんも最初はそうだったという。

「せっかく第1志望校のA学園に入れたんですよ。私だったら、勉強はともかく、青春を目一杯エンジョイするのになって、歯がゆい気持ちでした。正直、学費もバカにはなりませんし、『この子はどうして、不登校になってしまったんだろう』って、“犯人探し”ばかりをやっていましたね」

 筆者は、主に中高一貫校の親御さんから「子どもが親の思うように動いてくれない」という相談に多く接している。不登校もその一つだが、個人的にはこう思う。

「動けないのは、子ども自身が自分の人生について考えているモヤモヤした時期だから」

 「いじめ」はまた別問題として、本人にも理由がわからない場合は「自我を育む期間中」のように感じることが多い。

 中学受験は、たとえ子どもが「やりたい」と言い出しても、親が将来を見据えて敷いたレールに、我が子を乗せる行為。ハッキリいえば、そのことに子どもの意思は関係ない(もちろん、驚異的にIQが高く、自ら将来を見据えて難関私立を目指す子もいるので例外はある)。

 子どもは中学入学後、本格的な思春期に突入していくが、繊細な子ほど、一度立ち止まって、水面下で深く静かに、自分自身の道を模索しているように思うのだ。

 無論、親の焦りは相当だ。日本では新卒採用制度がいまだ根強く、それを逃すと、セカンドチャンスはほぼないに等しい。我が子に中学受験を体験させようとする親は、子どもの将来を案じている傾向があるだけに、その分“ドロップアウト”を過剰なまでに恐れるのだ。

 しかし、結論をいうのであれば、こういう時こそ「急がば回れ」が有効のような気がしてならない。本人も何を悩んでいるのかすらわからない、けれど体がその環境に拒否反応を起こす場合、解決には時間がかかり、しかも、その答えは子どもが自分自身で獲得するしかないからだ。

 百合子さんも、不登校の根源=犯人探しに奔走し、どうにかして登校させる方法を見つけ出すことに尽力していたが、途中で方針転換をしたという。

「りんこさんに相談して思い直したんです。本人にも学校に行けない理由がわからないのに、別の人間である私にわかるわけないよなって。だったら、本人が答えを見つけて、再び歩み出せるようになるまでは、何も言わず見守ろうと決意しました」

 以降、百合子さん夫婦は何事もないかのように、ごく普通に仕事に行き、3人で食卓を囲み、夜は決まった時間に寝るというルーティンを続けた。その間、ほとんど教室には入れなかったという美咲さんだが、今年に入ってうれしい変化があったという。

「美咲が『留学してみたい』と言い出したんです。ここ最近は、午後から体調が良くなることもあって、教室には入れないものの、ネイティブの先生がいる部屋へは不思議と入ることができるようになっていました。そこに通学しているような感じだったんですが、ネイティブの先生から、『留学試験を受けてみたら』と言われたそうなんです。それで、美咲も『留学を目指したい』とやる気を見せるようになり、本当にうれしく思っています。中学に入って、初めて自分から『こうしたい』と言ってくれたので」

 私立中高一貫校のメリットの一つに、たいていの学校で海外の学校への扉が開いている点が挙げられる。長期だけではなく、1学期間のターム留学制度が整っている学校も多い。A学園も国際教育に熱心な学校なので、美咲さんの決断を応援し、「試験をクリアできるように」と全力でサポートしてくれている最中だそうだ。

「りんこさんは、『犯人探しには意味がない』と言ってくれましたが、私は大いに反省しました。美咲に『自分で受験するって言ったんじゃない!』と言いながら、実は、私が無自覚に自分の希望を押しつけすぎたのかなって……。美咲にとって“親のための受験”になってしまい、第1志望の合格後に燃え尽きたのかもしれません。この留学試験に受かるのかはわかりませんし、受かっても、本当にうまくいくかはわかりません。でも親としては、見守るだけだと腹をくくっています」

 美咲さんは、今現在、9月から始まるターム留学を目指して人が変わったように勉強しているとのことだ。

中学受験で最難関私立合格! 即「鉄緑会」入りの生徒もいる中、落ちこぼれた息子

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験の過酷さを物語る現象として挙げられる1つに、長時間に及ぶ学習の常態化があるだろう。

 受験を控えた小学6年生は、平日でも3~5時間程度、休日は8~10時間程度を目安に勉強するのがスタンダード。中には1日12時間以上という子も決して珍しくはない。

 この受験戦争に勝ち抜き、見事、難関私立中学に入学できたとしても、「学習時間は受験生時代とそう大差はない」と答える中学生もまた多い。彼らは中学入学と同時に、難関大学合格に向けた塾に通うようになるからだ。

 もちろん、学ぶことに楽しみを見いだし、同じ志を持った仲間たちと切磋琢磨できる塾生活を満喫している子たちも大勢いるが、中には「中学受験が終わったら、勉強は上がり!」とばかりに、“伸びきったゴム”状態になってしまう子もいるのが現実だ。

 かつて“中学受験生の母”だったあかねさん(仮名)は、深くため息をついた。

「こんなはずじゃなかったんです。中学受験が終わった時は、我が世の春といった感じで、はっきり言えば、『私の人生とうちの子の人生は、勝ったも同然!』って気持ちでした。それなのに……」

 あかねさんには拓也くん(仮名)という一人息子がいる。彼は現在、最難関校と呼ばれる中高一貫校の中学3年生だ。

「中学受験は本当に順調でした。拓也は塾の最上位クラスから一度も外れることはありませんでしたし、塾のことは嫌がるどころか、むしろ楽しみにしていたほどです。もちろん最難関といわれるS中学に入るのは、たやすいことではありませんから、私も本腰を入れてサポートしていました」

 あかねさんは、拓也くんの衣食住の面倒はもちろん、塾のプリント整理、学習スケジュールの管理、果ては一緒に過去問を解くなど、徹底的にサポート。いわく「中学受験生母の鑑」とも呼ぶべき活躍ぶりだったそうだ。

「拓也もそうですが、私も24時間365日、S中学のことだけを考えて暮らしていたようなものです。合格した時は、多分、拓也以上に私が喜んでいました。これで拓也の難関大合格も保証され、幸せな人生が約束されたと思ったんです」

 ところが、S中学入学後、早くも暗雲が垂れ込めるようになったという。

 S中学は、小学生時代、トップ中のトップだった子たちが集う学校。その優秀な子たちに向けた授業が行われるだけに、その進度はすさまじく速い。当然、小テストも頻繁にあり、提出すべきプリントも山のように出るそうだ。

「1年1学期の終わりにあった保護者面談で、担任の先生に『拓也くんはこのままではまずい』と言われて、びっくりしました。ほんの数カ月しかたっていないのに、そんなに差がつくのかと呆然としましたね。もちろん、入学直後から気を緩めず、即『鉄緑会』(※)などの塾に入り、難関大学を目指す同級生がたくさんいることは知っていたものの、拓也が『大学受験は高校に入ったら考える』と言うので、『それもそうか』と思い、賛成したんです。今まで、勉強漬けでしたから、少しは羽を伸ばしてもいいだろうと黙認していました」
※中高6年一貫校の生徒を対象とした、東京大学および難関医学部受験指導専門塾

 結局、拓也くんは中1の夏休み、学校での補習と宿題に“追いまくられた”そうだが、2学期に入っても、成績は一向に上向かなかったという。

「担任の先生がおっしゃるには、拓也には『自学自習の習慣がない』と……。ノルマを果たすだけの学習を積み重ねてきたので、中学に入った段階で、何をどうすればいいのかがわからなくなってしまい、その現実と向き合いたくないばかりに、ひたすら逃げまくっているというんですね。私には、衝撃の一言でした。なぜなら、勉強スケジュールは私がすべて決めて管理していたから。拓也は私が差し出すプリントを次から次へと解いていくという勉強しかしていなかったってことです……」

 難関中高一貫校はどこもそうなのだが、勉強についていけなくなった生徒に対しては、非常にシビア。厳しい進級・進学基準を設けており、そこには「ついていけない生徒は、別の環境に行くべき」というスタンスが垣間見える。

「さすがに私にはS中学の難しい課題を拓也と一緒に解く力はなかったので、仕方なく、S中学生御用達という“落ちこぼれ”の子が通う補習塾に入れたんですが、その塾から、頻繁に電話がかかってくるようになりました。拓也が塾に来ないっていうんです」

 あかねさんは、行かないのであれば補習塾代もバカにならないので辞めればいいし、何ならS中学自体も辞めて、よその中学に転校しようと提案したそう。しかし、すべて拓也くんによって却下されていると話す。

「勉強はしたくないんですが、プライドだけは高いので、塾も学校も辞めたくはないんですよ。それで、ズルズルここまで来たんですが、本当にいよいよ、どうしようもないところまで追い詰められています」

 通常、難関校では中2の秋あたりから、成績不振者に対して、やんわりと「このままでは、併設高校へは上げられない」というお達しが入る。そして中3の秋にははっきりと「最後通告」がなされることが多い。

 拓也くんの場合、そのタイムリミットが半年後に近づいているというわけだ。

「拓也が改心して、劇的に赤点を回避する成績を取らない限りは放校処分決定です。高校受験対策もしていませんし、当然ですが、内申も出ませんから、公立高校受験には特に不利な状況で……。レベルを大幅に下げて私立高校を目指すという作戦もあるんですが、それも拓也が納得しない限りはどうしようもありません」

 難関中学に合格した子の親が、「中1の1学期の成績を見て、想像以上に悪くてびっくり」というケースは散見される。よく「志望校合格はゴールではない」というが、中学受験で燃え尽きたかのように、勉強に対する意欲をなくしている場合も少なくない。

 それにしても、中学受験戦争のまさに“戦場”の中にあって、親が子どもに「自主的に勉強をさせる」という難しさは、どのご家庭も痛感されているのではないだろうか。

 中学生くらいから本格的に始まる思春期は、親も我が子に対する扱いに戸惑いを隠しきれない。今、あかねさんは「一体、何が悪かったのだろうか?」と自問しながら、眠れない日々を過ごしているという。