深田恭子は、リアリティがない女優である。
これは演技がヘタという意味ではない。演技の虚構性がとてつもなく高いということだ。つまり、深田の演技には、ディズニーランドのキャラクターを見ているかのようなファンタジックな非現実感がある。
女優の演技をリアルとファンタジーの二分法で考えた時、深田の演技はファンタジーの成分がとても多い。彼女が所属するホリプロの女優はその傾向が強く、石原さとみや綾瀬はるかの演技も虚構性が強い。だからこそ彼女たちはコメディテイストのドラマで重宝されるのだが、それでも7対3ぐらいの割合で年相応の女性としてのリアリティを有している。しかし、深田の場合は9対1、あるいは99対1くらいの割合でファンタジー要素が強い。こういう女優はとても稀有な存在で、演技のうまいヘタでは測れない希少価値がある。
そんな深田には二種類のハマり役がある。ひとつは彼女の特性がうまく融合する虚構性100%の作品、現在放送中の『ルパンの娘』(フジテレビ系)がまさにそうだ。
本作は「Lの一族」と呼ばれる泥棒一家の一人娘・三雲華(深田)と警察一家の息子・桜庭和馬(瀬戸康史)の恋を描いたコメディドラマ。
チーフ演出は武内英樹、脚本は徳永友一。今年の初めに大ヒットした映画『翔んで埼玉』をヒットさせたコンビだが、本作の面白さは虚構性の高いストーリーを、完成度の高いビジュアルと演出で仕上げており、とにかく画面が豪華絢爛で貧乏くささがない。その最たる場面が、深田が赤いボディスーツを着て盗みに入る場面だ。映画『ヤッターマン』のドロンジョ様もそうだったが、少しセクシーな衣装でオブジェに徹した時、彼女のポテンシャルは最大限に発揮される。
ほかの出演者も、瀬戸、渡部篤郎、小沢真珠、麿赤兒、栗原類、加藤諒、藤岡弘、といったアクの強い演技を得意とする俳優たちが脇を固めている。彼らは深田と同様、虚構性の高い演技を得意とする俳優だが、これだけ人数をそろえると胃もたれするほどコッテリとした芝居の応酬となり、現実感がなくなる。
もうひとつ、『ルパンの娘』の特殊性は、ツッコミどころ満載でありながら劇中にツッコミ役がいないことだ。一応、深田演じる三雲は劇中で起こる不可解な展開に対して驚いたり、悩んだりするのだが、視聴者からするとツッコミどころが膨大なので「驚くのはそこじゃないだろう!」と言いたくなる。
この「ツッコミを入れたくなる」というのが本作最大の武器で、視聴者がツッコミを入れることで作品に参加できること、それこそが本作の楽しさなのだ。
一方、リアルな役柄を演じた時にも、深田の演技は際立つ。
彼女が女優として大きく注目されたのは1998年に放送された連続ドラマ『神様、もう少しだけ』(フジテレビ系)だ。放送当時はいわゆるコギャルブームで、小室哲哉がプロデュースする女性アーティストがミリオンセラーを連発していた。
深田演じる女子高生・叶野真生は、小室を思わせる人気音楽プロデューサー・石川啓吾(金城武)に憧れを抱いており、やがて2人は結ばれる。しかし、真生は啓吾のライブのチケットを買うために援助交際に手を出し、それが原因でHIVに感染してしまう。
音楽プロデューサーと女子高生の恋愛、しかもそこに難病モノの要素を加えた本作は実にあざとい。しかし、援交でHIVに感染したというシチュエーションが加わることで、とても現代的な生々しい話へと変貌する。深田もアイドルとは思えない迫真の演技を見せており、男女の濡れ場はもちろんのこと、下着姿も披露している。その意味でとてもリアルな話だったが、そうでありながら現代のシンデレラストーリーとして成立していたのは、やはり深田が中心にいたからではないかと思う。
つまりそのまま作ったらリアルで生々しくなる話が、深田を中心に置くことで、それがほどよく中和されていたのだ。
この作用がうまく表れたのが、最近では『ダメな私に恋してください』や『初めて恋した日に読む話』といったTBSの火曜22時枠で放送されたラブコメだろう。
深田が演じているのは、どちらも、仕事も恋もうまくいってない30代のさえない女性だ。そんな彼女の前に複数のイケメンが現れるラブコメ展開が人気の秘訣だが、ヒロインの置かれている状況はシリアスで、冷静に見るとかなりつらいのだが、どこかふわふわとした楽しい雰囲気がある。つまり、深田が中心にいることで、つらい現実を中和しているのだ。
深田は、虚構性の高い作品に出演すればオブジェとして作品の一部としてハマるし、逆に生々しいリアルな作品に出演すれば中和作用を起こし、喉越しよく楽しめる。リアリティがないことは、演技において欠点ではない。作品次第では、最強の武器となり得るのだ。
●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
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